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自分の子供には、おやすみのキスをしていた男 「アイヒマンショー」
2019/04/14(Sun)
「私は怪物など信じない」。
ナチスドイツにおいて、ユダヤ人の最終解決策の責任者、アドルフ・アイヒマン。
アルゼンチンで逮捕されたアイヒマンは、イスラエルで裁判を受ける。

ユダヤ人によるニュルンベルク裁判と言われるこの裁判で、アイヒマンを映し続けるテレビクルーたち。
あの時、何が起きたのか。
全世界に知らせましょう。
テレビです、テレビの力です。

そこで監督のフルヴィッツが語る。
「私は怪物など信じない」。
「私が信じるのは、怪物のような行いには代償が伴うということだ」。
「何があの平凡な男を変えたのか」。

「何百万何千人もの子供たちを死に追いやったあの人間は、毎晩自分の子供にお休みのキスをする男だった」。
「我々みんなと同じ人間だ」。
そこで「我々とは違う」とロンはキッパリと断言する。

「私はアイヒマンではない、フルヴィッツさん」。
しかしフルヴィッツは言う。
「条件さえそろえば、どんな人間もファシストになる危険がある」。
だがロンは言う。

「私は違う」。
フルヴィッツはなおも、言う。
「誰もが、なりうるんだ」。
「私は違う」。

今一つ、世間の関心が薄い。
ロシアのガガーリンが、宇宙飛行をしている。
ナチの生き残りを見た視聴者の関心はそちらに向き、それで終わってしまうだろう。
収容所の生き残りを蔑視する風潮もある。

では。
生き残りに語ってもらうしかない。
そうやって振り向かせるしかない。
生き残った人たちの、証言が始まる。

私たち5人は地下室から連れ出されました。
大勢がトラックに乗せられていて、中から叫び声が聞こえました。
エンジンが動き出して、ガスが流れこむと叫び声が、やみます。

検事が聞く。
「そして次の日、あなた自身が森の中へ作業に行って、そこで何が行われたかをその目で目撃したんですね?」
証言者は答える。
そこには25人いて、穴を掘っていました。

検事が聞く。
「墓穴を掘っているとそこへ、トラックが、トラックのうちの1台が来たんですね?」
トラックが到着しても、すぐには近づく許可が出ません。
トラックが止まった状態のまま、しばらく待たされるんです、2,3分ですが。

トラックから、煙が出て来るのを待つんです。
それから5、6人の人間がドアを開けてそして遺体を運び出し穴のそばに置きました。溝のそばです。
検事は聞く。
「全員死んでいましたか?」

証言者が答える。
全員が死んでいました。
生存者はいませんでした。

「そして3代目のトラックに、何人かの知り合いの遺体があったんですね?」
何度か、そこで働いた後のことでした。
私の街の人たち、全員が運ばれてきたんです。
そしてその人たちの中に…。

私の…。
私の妻と2人の子供が。
私の妻と2人の子供が。

「トラックから運んでいる最中に見つけたんですね?」
私は妻と2人の子のそばに横たわって、殺してくれと願いました。
この辺りで、聞いている人たちが顔を手で覆い始める。

監督もクルーたちも外に出て、大きく息を吐く。
食堂では、誰も話さない。
沈黙が続いた。

「こんな話って」。
食欲がない。
「食べないと」。

「家族もみんな、殺してやるぞ」。
裁判を放送しているプロデューサーにも、脅迫が来る。
今までにも、そういうことはあった。

だがナチスの残党の脅迫には、身を凍らせるようなものがあった。
家にも脅迫状が来た。
妻は、「(あなたの)家がわかってるんじゃないの」と言う。

2人の子供を見たミルトンは、君が嫌ならやめても良いと言う。
しかし妻は「こんな奴らに負けるの」と言ってくれた。
だが事務所に、手りゅう弾を持った男が侵入してきた。

間一髪、抑えられたが、もう少しで建物にいる全員が死ぬところだった。
男は叫ぶ。
「仲間はまだ、たくさんいるぞ」。

「でたらめを垂れ流すな!」
「ユダヤの裁判が!」
「ハイル、ヒットラー!」

裁判は続く。
撮影もまた、続く。
虐殺部隊からの生存者が語る。

何人かの若い人が、脱出を試みました。
その場で射殺されました。
私たちは、追いたてられました。

私たちは、裸でした。
服は、はぎ取られ持ち去られました。
裁判官が、耐えられないという表情を浮かべる。

父は裸になるのを嫌がって、下着をつけたままでいました。
私たちは追い立てられて、墓穴の方へ行かされました。
私は子供を抱えていました。

カメラマンのヤコブが、脱落する。
外に出たい。
息ができない。
彼はユダヤ人だった。

アイヒマンが、ちらりと証言する女性を見る。
無表情だった。
父親は下着をつけていたと言った、さきほどの女性は語る。

父は殴られました。
彼らは、父の下着を脱がそうとしました。
父は。

下着を脱ごうとしませんでした。
ひどい光景でした。
私は自分の目が信じられませんでした。

フルヴィッツが言う。
「(カメラ)、アイヒマンに寄れ」。
「アイヒマンだ」。

女性が証言を続ける。
1人ずつ順番に撃たれました。
みんな墓穴の方を向いていました。
その人が、私から子供を取り上げました。

フルヴィッツは、アイヒマンを見る。
何で座って見ていられるんだ?
反応しろ。
「目のクローズアップだ」とカメラに命じる。

証言は続く。
子供が泣き叫ぶと、子供は撃たれました。
それから、私に狙いをつけました。

そして私の髪の毛をつかみ、後ろを向かせました。
私は目を閉じて、天を仰ぎました。
彼は拳銃を、私に向けました。

そして見ろと言って、墓穴の方を向かせ、発砲しました。
私は倒れました。
私は動こうとして、感じたんです。

生きてる。
立ち上がれるって。
銃声が聞こえました。

私は銃弾が、この苦しみを終わらせてくれることを祈りました。
でも私は息苦しくなって、墓穴から出ようと遺体の山を登り始めました。
すると感じたんです。
遺体の手が、私の足をぎゅっとつかんで引っ張っている。

フルヴィッツは、言う。
「アイヒマン」。
「何で毎日、聞いていられるんだ」。

私は最後の力を振り絞って、穴の上へたどり着いたんです。
すごい数の遺体で、死体の山しか見えませんでした。
気分が悪くなる人が、続出する。
外に出て行った、カメラマンのヤコブが語り始める。

私が入った収容所は…、強制労働で戦闘機を製造していた。
メッサーシュミットをね。
わずかな食糧で、本当に働けると思ってたんだ、わからんがね。

みんな、骨と皮だけみたいな体に、あざだらけだった。
ほんのちょっとミスをしても、殴られたからね。
自分の体を洗う時、これが自分の体かどうか、はっきりとわからないんだ。
さわっても。

肋骨は、ピアノの鍵盤みたいだった。
「この仕事は無理じゃないかな」と、ミルトンが言う。
しかし、ヤコブは「重要な仕事だ、やりたい」と言った。

初めて感じてるんだ、しゃべっていいんだって。
こんなことは今まで、なかったんだ。
「申し訳なかった」と、ミルトンたちが謝る。

アウシュビッツの生存者がまた、証言台に立つ。
縦縞の服を手渡される。
「あなたはこれを、アウシュビッツで着ていましたか」。
この証人は倒れた。

アウシュビッツに入った時、14歳の少年だった証人が来る。
労働部隊の隊長が、気の毒がって言いました。
子供たち、外はとても寒いだろう。
良かったら、ガス室に入って温まってと言いました。

フルヴィッツの息子が、それを見ている。
母親が息子に「大丈夫?」と聞く。
「大丈夫」と息子は答える。

「…全部、本当のことなんだね」。
息子はアイヒマンを見る。
「全然動かない」と言う。
証言は続く。

アウシュビッツでは、遺体の灰を道路にまいた。
そうすると、道路が滑らず歩きやすくなるからです。
収容所の中が、歩きやすくなるからですか?
はい、そうです。

アイヒマンの表情は、全く動かない。
ついに、映像を流す決意がされる。
だが、ミルトンは言う。

アイヒマンは、自分がむごたらしい殺戮行為に耐えられることを証明するために、一斉射撃にも立ち会っている。
映像ぐらいで、顔色を変えるか。
フルヴィッツは、自分の行為がどういう結果をもたらしたか知らせたいと言う。
この男に人間の心は、残っているか。

裁判所が暗くなる。
フィルムがセットされる。
アイヒマンが身を乗り出す。

列車が走る。
収容所へ続く道。
そういうテロップが出る。

子供たちが映る。
アイヒマンが見つめる。
「笑った…」。
アイヒマンは笑ったのだ。

クルーが呆然とする。
「違う」と、フルヴィッツは言う。
映し出される映像。


クルーが1人、「席を外します」と言って出て行く。
堪えられない。
(コレハミンナ、ニンゲンダ)。

「他にも外に出たいものがいたら、出て良いぞ」。
アイヒマンの目が、ぴくぴくする。
1人、また1人、クルーが外に出て行く。

しかしアイヒマンは、無表情を崩さない。
フルヴィッツが言う。
「何で座ってるんだ」。

目を背けもせず、たじろぎもしない。
お前は何者だ。
お前は何者なんだ!
フルヴィッツが叫ぶ。

「私に責任はない」。
「では誰に責任が?」
ため息。

フルヴィッツが、この仕事を下りたいと言い出した。
今日という今日は今日だけは、アイヒマンの人間性が出ると思った。
しかし…。
アイヒマンの心は、感じられない。

ミルトンが止める。
これは残る番組だ。
家にいて、何が起きたのか知ることができるんだ。

くじけかけたフルヴィッツに、滞在しているホテルの女主人が語り出した。
誰も今まで、聞いてくれなかった。
少し話しても、嘘だろうと言われた。

それが今は、みんな聞いてくれている。
市場で若い女の子が、このことを聞いてきた。
女主人の腕には、アルファベットと数字の入れ墨がされていた。
収容所にいたのか…。

ありがとう。
あなたのおかげよ。
あなたのおかげ。
ありがとう。

いよいよ、アイヒマン本人への尋問が始まる。
彼は自分の罪を認めるか。
「質問の答えになっていません」と指摘されても、アイヒマンは答えない。
ルドルフヘスのことを聞かれた。

犯罪者だと思いましたか?
はいと答えたら、アイヒマンは自分の罪を認めたことになる。
だがアイヒマンはヘスを哀れだと言っただけで、答えない。

ユダヤ人5万人の死の行進についても、自分はその時ベルリンにいたので知らないと言う。
世界中の人間が、アイヒマンをテレビで見ている。
バスの中で聞いている。
酒場でも見ている。

「命令は下していない」。
「提案しただけだ」。
「あなたが提案したのですね」。
アイヒマンが、目をしばたいた。

「確かに、それは認めます」。
アイヒマンが落ちた。
罪を認めたのだ。
クルーたちは、歓声を上げる。

アイヒマンには、死刑が宣告された。
宣告にも、彼はちょっと、片方の唇を上げただけだった。
1962年、アイヒマンは処刑され、遺灰は海に流された。



実録映像が出てきます。
この映画を紹介した番組でも、この映像が出て来るので注意してくださいと言いました。
きついです。
これはきつい。

途中、息が吐けなくなってしまいました。
アイヒマンは無表情。
時折、ちょっと口を曲げる。
ちえっ、忌々しいと言わんばかりに。

連続殺人犯を扱った映画「チャイルド44」でも「幽霊がこんなことするか?」という会話があります。
幽霊が少年の皮をはぎ、肉をそぎ、内臓を取り出すのか。
いいや、そんなことは人間しかやらない。
人間がやるのだ、と。

肉食獣は、生きるために狩りをする。
だけど、これは生きるための糧を得る狩りではない。
こんなことは、人間しかやらない…。
怪物となった人間しか。

だがフルヴィッツは、アイヒマンを普通の人間として見せたいと思う。
アイヒマンを普通の人間と信じ、誰もに起こりうることとして知らせたい。
怪物ではないと主張する。
彼は、平凡な男だ。

その平凡な男がどうして、怪物のような所業を行うに至ったか。
知りたい。
そして、人間である瞬間を撮りたい。
罪を認めさせたい。

生き残った人々が、重い口を開く。
真に傷ついたことは、語れない。
しかし、こんな言葉さえ甘いと感じるほど、ひどい話。
自分の腕から子供が引きはがされ、目の前で…。

想像もしたくない。
自分以外に大切なものを持っている人なら、この気持ちがわかるはず。
だが、アイヒマンにはわからないように見える。
彼にとって、あの証言者たちは自分と同じ人間には見えていないのか。

フルヴィッツと違い、プロデューサーのミルトンにとっては、彼は自分と違う怪物だった。
だが、本当にそうだろうか。
アイヒマンの裁判を撮影しながら、彼らは葛藤し始める。

やがて、全く表情の変わらないアイヒマンを前に、フルヴィッツの自信は揺らぎ始める。
ミルトンは、彼は人間性が欠如しているんだと慰める。
アイヒマンの人間であるところを撮りたいフルヴィッツは、この仕事を降りようと思い始める。

それを思いとどめさせたのは、宿屋の女主人の言葉だった。
最初はフルヴィッツと女主人の間には、明確に距離があった。
彼女もまた、収容所の生き残りだった。
今では考えられないことだが、当時は収容所のことを語れない雰囲気が蔓延していたことがわかる。

とても言っても信じてもらえなかった。
それほど、ひどいことだった。
でも、今は人々に事実を知ってもらいたい。

ついにアイヒマンが、罪を認める時が来た。
それは人間の証明だったのか。
映画は、誰でもこうなりえるという危険を訴えて終わる。
アイヒマンは、たくさんの人を殺した夜に、自分の子供にはおやすみのキスをしていた。

そういえば、どこかの学校で収容所の囚人役と、看守役に生徒を分けて実験したことがあったような。
あまりに危険になって来たので、中止になった。
そして、この手の実験は禁じられてしまった。
これを題材にした映画もありました。

人間て、やっぱり怖い。
同時に素晴らしいと思うことも、あるんですが。
これは休日か、明日は休みという日に見た方が良い映画。
とにかく、エネルギーを消耗します。

見た後、犬を散歩させているご近所さんと挨拶をかわしましたと言う人がいました。
ワンちゃんを撫でながら、良かったね、良かったと心の中で言ってしまったと。
愛する者をなすすべもなく、奪われるなんて。
そんなことはあってはならない。

どれほど、どれほどひどいことか。
しかし、戦争だけではなく、今もそういう事実はこの地上のどこかで行われているであろうことが、怖ろしい。
この時代に生きていることの、幸せ。
今のこの国にいて、この映画を見ていられることは、とても幸せなことなのだと思いながら。


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永遠に、永遠に片思いだ
2019/03/31(Sun)
3月は別れの月でもあります。
部署の引っ越し準備を終え、金曜日の夜は慰労会になりました。
その時、萩原健一が亡くなってしまったね…と同世代の人が言いました。

課長さん「若い時のショーケン。20~30代の時のショーケン」。
「あんなカッコいい男は、いなかった!」
「ほんとに、ほんとに、カッコ良かった!」
私もそこにいた同世代も「そう!」

俳優じゃなかったら、迷惑をかけるだけの奴。
でもそのぐらいの方が、俳優としてはおもしろい。
ジャック・ニコルスンやデニス・ホッパーのことをそんな風に評した人がいました。
これを日本の俳優に当てはめるなら、ショーケンでしょう。

「本物の不良だからね」。
「すごい美青年じゃないんだけど、すごいモテるっていうのがわかる男」。
「カッコ悪いところがカッコ良くなってしまう、不思議さ」。
「私はこれからは三國連太郎みたいになって行くと思っていたから、早いよ」。

「悪さしても、あの目ですまなさそうな顔されたら怒り続ける自信がなくなるようね」。
「水に濡れた犬を助けてしまうような、そんな風情がある」。
「しかし、本物の不良でもある」。
「今の時代なら完全アウト。怖くて使えないだろうし、めんどくさくて使えないというのもわかる」。

「そういうのをコントロールできる、年上の出来た監督や先輩俳優がいなくなったというのも大きい」。
「本人がそうなるかというと、永遠の不良少年だからね…」。
「2000年以降は見なくなったけど、でももう、自分としては残したものだけで充分だった」。
「しかしもうひとつ、でっかい打ち上げ花火、上げさせたいって気もしてた」。

話が尽きない。
今までありがとう、ショーケン。
楽しかったというか、ドキドキ、ワクワクさせてもらった。
寂しいね。

「ずーっと、ずーっと、片思いで、同窓会で会って楽しく話しても、ついに相手にされなかった」。
「そんな憧れの相手が、いなくなってしまったって感じ」。
「ああ、永遠に片思いになってしまったって」。
「うん。永遠に、永遠に、片思いだ」。

昭和の終わりも寂しいニュースが続きました。
でも、平成の終わりは自分の年齢もあって、余計寂しい。
そんな話をした帰り道。

夜空に白く浮き上がる、満開になりかけた桜を見た時、唐突に来ました。
何とも言えない、喪失感と寂寥感。
寂しいなあ。

もう、どこにも行かないでほしい。
どこにも行きたくないし。
一体、誰に、何のことを言っているのかわからない。
けど、そうとしか言えない言葉が浮かんでは消えた、平成最後の桜が満開に近い夜。


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言葉が出ない
2019/03/28(Thu)
萩原健一さん、死去。
内田裕也氏の訃報を聞いたばかり。
昭和が終わる時は、美空ひばり、石原裕次郎と続きました。

あの時は、ひとつの時代が終わる。
時代が変わると思いました。
ショーケンは、自分が子供の頃からスターだった人。
信じられない。

時代が終わるって、いろんな別れがある。
今年の春は、個人的にも変化が多い。
ショーケン、元号変わるの見て欲しかったな。

ジュリー、元気でいてください。
何だかんだ言われながら、元気でいてください。
ショーケン、ヤなジジイ!って言われて長生き…、して欲しかった。
欲しかったな…。


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え!?
2019/03/28(Thu)
え!?
え!?
嘘でしょ?


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博打と同じだ。流れを変えりゃいい 第6話「ぶっつけ勝負」
2019/03/17(Sun)
またしても突然、「仕事屋稼業」。
緒形拳さんと林隆三さんを見たくなったんです。
「仕事屋」は、第4話、第5話も非常におもしろいんです。
どれも、レベル高いんですが、これは政吉の最後の姿が、あまりに印象に残ります。

「あんたは、そば屋だ!」
「あんたは、飛脚屋!」
第25話、半兵衛とおせいに対し、指を指しながら叫ぶ政吉。

「いざという時には、逃げ場がある」。
「殺し屋を表稼業にしているのは、私だけです」。
「もう、たくさんなんです」。

第6話のラストを見ていると、この話の最後の政吉の孤独がかなり心に響きます。
政吉の寂しさ、寄る辺なさが胸に迫ります。
第6話、「ぶっつけ勝負」。


「ちょっと聞いてんの。あんた」。
お春は不機嫌だった。
半兵衛は応えず、そばの準備のための手を動かしている。

「聞いてんの!」
お春が怒鳴る。
「聞いてるよ!バカやろう。俺の耳は飾りじゃねえんだよ」。
ついに半兵衛が反応する。

「だったら男らしく、返事ぐらいしたらどうなのよ。昨日は700文、その前は850文、その前は900文」。
お春が言っているのは、この5日間でなくなった売上金だった。
「猫にでもさらわれたんだろう」。
「あら、よくわかってんじゃないそうなのよ。前掛け下げてね、鼻の真ん中にほくろがある猫が盗んだのよ!」

それは半兵衛のことだった。
たまらず、半兵衛が言い返す。
「盗んだあ?バカや楼。人聞きの悪いこと言うな!いいか、『盗んだ』ってのはな、人様の金を『盗んだ』って言うんだ。てめえの金、てめえで」。
そこまで言うと、半兵衛はハッとして口を閉ざした。

お春がそれ見たことかという表情をする。
「あらあ、あんただったの?やっぱりそうお。返して頂戴!」
「ああ、開店前は忙しいや」と半兵衛がごまかす。
「博打ね、また。いつやったの!」

「…夕べだ、夕べ!」
半兵衛が開き直る。
「夕べってあんた、宵の口に松の湯行って…、そうか、どうも長い湯だと思ったら、あんた、お湯に行く振りして!」

「ああ、いいじゃねえか、もう。勝負は時の運だ」。
「何言ってんのよ、あんた4貫文、全部やられちゃったの?」
「ちょいと預けてあるんだ。へへへ」。

「何が預けてあるよ、あのね、4貫文って言ったら、掛けそばにして何倍だと思ってんの?250杯よ、にひゃくごじゅう!何が預けてあるよ!」
半兵衛は前掛けを外し、出て行こうとする。
「あんた、前掛け外してどこ行くのよ!」
「ちょっと湯、行ってくるわ」。

「冗談じゃないわよ!ドラ猫め!」
お春は、そばを投げた。
投げたそばは、入ってきた利助に当たった。
「ああ」と半兵衛が申し訳なさそうに利助に駆け寄ると、利助が小声で「仕事ですよ」と囁く。

その頃、政吉は博打場だった。
ついてる政吉は横にいた女に煙草をもらい、引き上げるところだった。
最後の勝負にも勝った政吉は、金を持って引き上げる。

横にいた女が、政吉のわらじをそろえる。
「飲みに行くか?」と政樹阿智が誘う。
「お兄さん」。
やってきた女たちに政吉は「はい、はい」と金を渡す。

女と連れ立って出て行こうとした時、利助が来た。
「あ、何だよお前」。
「政吉さん、仕事」。

おせいは2人を料亭に呼び出していたのだ。
「草津?草津ってあの、湯治場fで名高い温泉の草津ですか」。
「そこへ、人を迎えに行ってもらいたいんです」。

連れ戻すのは、室町の呉服問屋の越後屋の跡取りで今年21になる若者。
草津の温泉宿で、客引きをしていたのを見た人がいる。
だが越後屋と言えば、江戸でも指折りの商人だ。

その1人息子の惣太郎が、半年前に鳥追いの女と一緒に駆け落ちした。
一度は勘当したが、半年たった今、親のほうが何もかも許すから帰って来てくれと言うのだ。
まあ、暮らしも楽じゃないだろうし、迎えに行ったら拝まれるんじゃないのかとおせいは微笑む。

半兵衛と政吉には慰労も兼ねて、草津のお湯につかりに行くつもりでのんびりとひとつ、というわけだった。
越後屋としては世間体もあるので、せがれの惣太郎は上方へ修行に行ってることになっている。
なので内密の仕事ではあるのだ。

「よろしくお願いしましたよ」。
路銀だけ利助が渡す。
仕事料を渡せば、何に使うかわかったもんじゃないというか、わかりきっているからであった。

…というわけで、草津に鳥追いと駆け落ちした若旦那を連れ戻しに行く半兵衛と政吉。
草津まであと少しの、沓掛まで来た時、2人で行く仕事じゃないのではないかと言い出した。
どちらかが惣太郎を迎えに行けば良い。

半兵衛と政吉は、どちらが迎えに行くか、小銭の裏表で勝負。
結果、政吉が惣太郎を連れ戻しに行くことになった。
半兵衛は沓掛で待つということで、早速、地元の茶店で聞いた軍鶏の賭けをやっている竹やぶへ向かう。

途中、半兵衛は、土地のヤクザらしき男たちに軍鶏をやっているところを聞いた。
軍鶏をやっていると聞いたヤクザ者たちは、血相を変えて走り出した。
「待って」と、半兵衛がついていく。

後をついていった半兵衛だが、軍鶏の胴元をやっている若い男が散々に殴られることになった。
殴ったのは、追分一家の勘七だった。
若い男は殴られながら、沓掛の甚造に許可をもらったと言った。
軍鶏を教えてくれた半兵衛に、勘七は自分の追分一家の賭場で遊んでいくように勧めた。

一方、政吉は言われた宿屋に行ってみたが、惣太郎はすでにいなかった。
半兵衛は勘七の賭場で遊んでいた。
そこに、沓掛の甚造という草津を取り仕切るヤクザの親分がやってきた。

勘七はケンカかと思ったが、銭儲けの話を持ってきたという。
博打をやっていた半兵衛は、勘七に江戸に室町というところがあるかと聞かれた。
あると言った半兵衛は、そこに越後屋と言う呉服屋がないか聞かれた。
そしてそこに、惣太郎という息子がいないか。

あると聞いて、甚造はどうだという顔をした。
甚造が連れてきていたのは、あの軍鶏をやっていた男だった。
そしてこの青年こそが、惣太郎だった。

追分一家の親分の吉五郎は、草津と言う稼げる土地がほしい。
だが甚造は、渡したくない。
そのために惣太郎を勘七に渡して、越後屋から惣太郎の身代金をもらえと提案する。

越後屋から金を引き出すための惣太郎という餌を渡すのだから、草津はあきらめろ。
甚造は惣太郎を、取引に使ったのだ。
それを聞いていた半兵衛は、土蔵に押し込められていた惣太郎を救助した。

惣太郎の案内で、ある女郎屋にたどり着く。
そこにいた女郎は、惣太郎を見て驚いた。
半兵衛は、江戸から迎えに来たと告げた。

親父の許しが出て、晴れて江戸に帰れる。
半兵衛がそう、伝える。
するとちょうど、政吉が階段を降りてくる。

半兵衛を見た政吉は「稼ぎはどうでしたか」と聞いた。
「本命」。
半兵衛が連れている青年を見た政吉は「惣太郎か!」と言った。

だがその女郎屋は、甚造が経営している女郎屋だったのだ。
たちまち沓掛の甚造一家が、辺りを取り囲む。
半兵衛と政吉は、女郎たちを盾に立てこもった。

追分一家は押入ろうとするが、甚造はこの女郎屋と女郎には元手が掛かってると言って止める。
女郎たちは女郎たちで、良い息抜きだとのんびりする。
甚造がゆでだこみたいになっていると言っては、大笑いしていた。

2階にいた惣太郎は、おしんに向かって抱きついた。
だがおしんは、「江戸から迎えが来た時、あんたは江戸の人になったのよ」と言う。
「もう苦労はかけない」と惣太郎は言うが、おしんは「女郎が越後屋の女将にはなれない」と言う。
「うらめしい」。

おしんの目には涙がたまっていた。
「迎えを出した越後屋さんも、迎えに来た下の人たちもみんな恨めしい」。
「どうせ許してくれるなら、せめてひと月前に、こんな姿になる前に許してほしかった」。
おしんは「私、一体何のために体を売ったの?」と泣いた。

それを聞いた惣太郎は、江戸へは帰らないと言い出す。
半兵衛と政吉に、「オヤジには惣太郎は見つからなかったと言ってくれ」と言う。
そういえば、一緒に駆け落ちした鳥追いはどうしたのだろう?
半兵衛と政吉も不思議に思った。

するとおしんが、その人は病で死んだと言った。
「死んだのか、かわいそうに」と半兵衛が言った時、追分の吉五郎がやってきたと女郎たちが騒いだ。
吉五郎は、甚造なんかとは比べ物にならない力を持っている親分らしい。
みんな殺されると、女郎たちが騒ぐ。

吉五郎が女郎屋に火をかけようとしたとき、役人たちが止めに来る。
昼日中から火をつけて騒ぎを起こされたのでは、困る。
ならば夜だと言って、吉五郎たちは引き上げていった。

「おい」。
半兵衛と政吉は2人、飲んでいた。
政吉は言う。
「何事も博打と同じだ。流れを変えりゃいい…」。

裏口から顔をのぞかせた政吉は、外にいる甚造に取引を持ちかけた。
この勝負はどうしても、こちらには分が悪い。
何といっても、政吉たちにはどんなに節約してももう2、3日の米しかない。

自分たちは惣太郎のオヤジから、惣太郎を連れ戻してくれとただで頼まれただけだ。
それで、命まで危うくされてたまるものか。
吉五郎だって下手を踏んだら、この機会に吉五郎は沓掛の縄張りを乗っ取られるのではないか。

だから取引をしたい。
夜にこの女郎屋の前に船を回してくれたら、半兵衛と2人、必ず惣太郎を連れて行って甚造に渡してやる。
甚造が疑わしい顔をしたので、政吉はそれなら吉五郎に話しを持ちかけると言った。
すると甚造はあわてて、船を寄越すことにした。

しかし肝心の惣太郎が、半兵衛と政吉に連れて行かれることを拒否している。
惣太郎は、おしんの部屋にいた。
おしんはかたくなに、惣太郎と一緒に行くことを拒否した。
ならばここで一緒に死ぬと惣太郎は言う。

夜になり、甚造の船がやってきた。
だが勘七も見張りがいなくなったこと、妙な船が裏に来たことに気づいた。
半兵衛と政吉は暴れる惣太郎をかつぎ、船に乗ろうとする。

1人残ったおしん。
涙ぐみながら、惣太郎の声を聞いている。
だが追分一家に気づかれ、半兵衛と政吉は「勝ち目なし!」と惣太郎を連れて、また引っ込むしかなかった。
引っ込む前に政吉は勘七に「一本松に行ってみな、おもしれえもんが見られるぜ」と言った。

「行ってみな」。
意味ありげな政吉の言葉どおり、吉五郎たちが一本松に行く。
そこで、惣太郎を待っている甚造を見た。
吉五郎は、あわてて言い訳をする甚造を殺した。

翌朝、ついに吉五郎たちは女郎屋の周りに油を巻き始めた。
薪も詰まれた。
「油だよ!」
「この家を燃やすつもりなんだよ」と、女郎たちも怯えだした。

そこにまた、役人が飛んでくる。
本日、この宿を公方さまのお鷹さまが通過する。
お鷹さまは明朝まで、この沓掛の宿にご滞在なさる。

万一のことがあれば、吉五郎だけではすまない。
この沓掛、草津全体がお仕置きになるのだ。
それを聞いた吉五郎は、火を消した。

「御鷹様お宿」と書かれた本陣に、公方さまのお鷹一行が向かう。
人々が土下座をする。
その中、おしんが突然、女郎屋の扉から飛び出した。

続いて行こうとした惣太郎を半兵衛と政吉が必死に抑える。
「お願いでございます!」
「申し上げたいことがございます!」

「あっ」と声を上げて、役人たちが飛んでくる。
「乱心者でございます」と言って、役人たちがおしんを抑える。
吉五郎たちがやってきて、おしんを裏に連れて行く。

お鷹一行は何もなかったように、通っていく。
目もくれない。
吉五郎は「てめえ、何を訴えようとした」と、おしんに聞く。

「決まってるじゃないか。お前たちの悪行を訴えてご成敗してもらうんだよ!」
「何を」。
「斬りたきゃ、斬りやがれ!」

すると吉五郎は、おしんを刺した。
裏口の窓からすべてを見ていた惣太郎は半狂乱になって、おしんの名を叫んだ。
これまで半兵衛と政吉に好意的だった女郎たちも、これに怒った。

「おしんさんが殺されたよ」。
「みんな、あんたたちのせいだ」。
「何の関わりもないあたしたちを巻き添えにして、とうとう仏さままで作って!」
「こいつら男じゃないよ。はなっから死ぬのが怖くて、あたしたちの腰巻の中にもぐりこんできた痩せ犬なんだよ!」

半兵衛と政吉が黙る。
しかし、「やめろうお!」と言う声が響いた。
惣太郎だった。

「お前たちなんかに、おしんの気持ちがわかってたまるかあ!」
「おしんは、おしんは俺の女だったんだよ」。
「ちくしょう、お前たちが来るのが遅すぎたんだい!」

ひと月前に、惣太郎は金を作ろうとして、甚造のいかさま博打にひっかかった。
そして、おしんが身売りにあった。
「そうなんだよ。元はといえば俺がばかだったんだよ…」。

惣太郎は泣いた。
「それでも俺は、何とか借金返してmおしんと一緒になりたくてがんばった。だから客引きもした」。
「だがとても、そんなことでは追いつくくはずもなかった。だから危ない橋も渡った」。
「1人で江戸に帰りたがらなかったわけだ」と半兵衛が言う。

政吉が優しい声で言う。
「それならそうと、はなっから言やぁよかったんだ。何も女が死んだなんて」。
だが惣太郎は「ばかやろう!」と言った。

「それも、おしんの気持ちだったんだ。あいつは、俺が俺があいつと一緒に、地獄まで落ちていくのがたまらなかったんだ!」
「だからお前たちが来たのをいいことに、別れる気持ちになったんだよぉ」。
「そうなんだよ、あいつはそういう心根の優しい女だったんだ!」

「ちっきしょう…」と、惣太郎は前を向いた。
「俺はおしんの後を追うんだ!おしんの後を追って、死ぬんだあ!」
そう言うと惣太郎は、包丁を振り回して外に出ようとする。

半兵衛と政吉が抑える。
「おうい」。
「お前1人を見殺しにしないよ」。
「こうなったら一蓮托生。俺たちもやるぜ」。

吉五郎も、お鷹一行がいる今夜は動かない。
半兵衛と政吉は、勝負に出ることにした。
「いちかばちか、朝が勝負だ」。
政吉が覚悟を決める。

朝、お鷹一行が去っていく。
一行が行ってしまうと、女郎屋の戸が開いた。
「逃げたあ!」
「逃げたよ!」

女郎たちが騒ぐ。
そして、外に出て来る。
吉五郎たちと女郎たちが、入り乱れて混乱した。

女郎たちの真ん中に、女郎の着物を羽織った半兵衛と政吉がいる。
半兵衛は油屋に惣太郎を放り込むと、油屋の中にいた見張りを倒した。
その拍子に、油の樽が横になり、床に油がこぼれる。
油は黒い影を作って、床に広がっていく。

「確かに裏に逃げたんだな」。
吉五郎がやってきた。。
油断した吉五郎を、半兵衛は油屋の中に引きずり込んだ。

女郎の着物を羽織った男が、女たちと離れたところでひらりと身を翻して横飛びした。
それを見つけたのは、追分一家の用心棒の浪人だった。
やってくる用心棒。
「おしんの仇だ」と、惣太郎が飛び出した。

だが用心棒に押さえつけられる。
抵抗する惣太郎。
政吉が、女郎屋から持ち出した長脇差を手に走ってくる。
用心棒を刺し貫く。

政吉を斬ろうと刀を構えた用心棒を、政吉は今度は正面から刺す。
「野郎!」
叫んでやってきた勘七も刺した。

惣太郎が、用心棒の刀を取ろうとする。
吉五郎のところに行くつもりなのだ。
政吉が止める。

「おしんの仇をとるんだ!」
政吉は「ばかやろう」と言って、惣太郎を殴り飛ばす。
そして辺りを見回す。

半兵衛は油屋の中、吉五郎ともみあいになっていた。
油で、半兵衛も吉五郎も滑った。
半兵衛がつるつると、床を滑っていく。
吉五郎も立ち上がろうとして、つるりと滑る。

滑っていく半兵衛の目に、先ほど倒した男が入る。
男はドスを持ったまま、倒れていた。
半兵衛は壁まで滑っていくと、壁を蹴った。

滑りながら、戻ってくる。
滑りながら、男の手にあったドスを握った。
ドスを手に取り、滑っていく半兵衛は吉五郎を刺した。

吉五郎が倒れる。
荒い息を吐いている半兵衛のもとに、政吉がやってきた。
すべて、終わった。

「ご苦労様でした」。
料亭で、おせいが2人をねぎらっていた。
おせいは言う。

「一緒に駆け落ちした女の人は、惣太郎さんに尽くした挙句、かわいそうに。病気で亡くなったそうですね」。
「惣太郎さんに一生嫁はもらわないからそのつもりでってと言われて、越後屋さんはまた新しい悩みができたとこぼしてましたよ」。
そう言いながら、おせいは微笑んでいた。
きっと、越後屋も困ったと言いながら、安心したのだろう。

半兵衛は「丸く収まればいいじゃないですか」とだけ、言った。
利助が「そうでしょう。こういう気持ちの良い仕事は、めったにありませんからね。2人ともたっぷり骨休みしてきたんでしょ?」と言った。
半兵衛も政吉も、何も言わなかった。

「おかみさん」と、半兵衛がおせいに酒を注ぐ。
「利助さん」と言うので利助が盃を出すが、「ま、自分でやってください」と引っ込めた。
それを見た、おせいが微笑んだ。

「ああ、白菜が、んまい季節になりましたね」。
鍋をつつく半兵衛と政吉を、微笑みながら見ているおせい。
宴が終わり、半兵衛と政吉は歩いていく。
2人とも、無言だった。

「じゃあまた」。
いつのまにか、坊主そばの前まで来ていた。
半兵衛がのれんをしまい、中に入る。
今日は店をやらず、お春と2人過ごすのだろう。

政吉が1人、歩いていく。
だが2、3歩いて、止まる。
何か考えているように政吉が止まる。

そしてくるりと踵を返すと、今来た道を戻っていく。
政吉の、大きな鳥の描かれた半纏が揺れている。
背中が揺れている。
政吉は1人、歩いていく。



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やらないのかと思ってました
2019/03/10(Sun)
ぼんやりしてたら、今日は「必殺仕事人2019」の放送日でした。
もう、やらないのかと思ってました。
時代劇、あるとうれしい。

野際陽子さんも、もう、いらっしゃらない。
オープニングナレーションの市原悦子さんも、いらっしゃらない。
寂しいです。
今、家事終わらせて、テレビの前…。


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亭主だったんじゃねえのか? 第3話「一筆啓上紐が見えた」
2019/03/03(Sun)
突然の「仕置屋稼業」第3話、「一筆啓上紐が見えた」。
理由は単純に、最近の中尾彬さんのマルチな活躍ぶりを見て。



髪結いの客を褒めちぎるおこう。
一息ついていると、島送りになる囚人がやってくると店の少女が駆け込んでくる。
頭にかごを乗せられ、引き立てられていく中に確かに一人、女性がいた。

「姉ちゃん!」と少女が走り寄ってくる。
「体に気をつけて」と言う少女に「あんたもね」と応える囚人。
少女はおちさといって、この囚人・おさとの妹だった。
頭からかごが外れ、おさとの顔があらわになる。

おさとは辺りを落ち着かなく見渡す。
目が、何かを探している。
「まだあんな男のことを!」とおちさが叫ぶ。

「おさと!」と叫びながら、一人の男が走ってくる。
その男を見たおこうが、思わず、腰を浮かす。
「加吉…」。
「加吉」。

おこうがつぶやきながら、表に出る。
「勘弁してくれ、やっと目が覚めた」。
「もう金輪際、博打はやらねえ!」
「所帯を持つんだ」。

役人に突き飛ばされながら、加吉はおさとにすがりつく。
「加吉さん!」
役人におさとは引き立てられていく。
おこうは心の中で「加吉!」と言いながら、その修羅場を見ていた。

その日、主水におこうから仕置が持ち込まれた。
10両。
よっぽどの恨みだなと主水が言う。

相手は加吉だ。
頼み人は島送りになったおさとだと、おこうは言った。
先ほどの囚人のことだ。
主水は調べをしてからと言う。

おさとは料亭の客とねんごろになり、子供ができたことをネタに金を要求した。
さらに子供は始末したことで、3年の島送りになった。
これは全て、加吉の博打の金のためだった。

捨三が加吉の身辺を調べるが、加吉はまじめに働いていた。
稼いだ金は全部、所帯を持つためにおちさに預けていた。
心を入れ替えたんじゃないかという主水に、おこうは今にきっと怖ろしいことが起きると言い切った。
やがて、島から帰ったと言う富蔵がおちさを訪ねてきた。

島でおさとを見たが、おさとは今、病気で苦しんでいる。
しきりに帰りたい、加吉という人と所帯を持つんだとうわごとを言っていたらしい。
だが島から返すには役人に渡す裏金が必要だ。
30両という大金だ。

とても用意できない。
加吉はおちさに、預けていた金を出してくれと言った。
再び、博打に手を出して金を作ろうとしているのだ。
「兄さん、ダメ!」

それを聞いたおちさは、おこうの店にいた。
「やめときなはれ!」
おこうはおちさが振り向くほど厳しく、止めた。
姉が所帯を持つために必要だとうつむいたおちさにおこうは謝り、髪を切った。

金を持って加吉は同心・奥村に会いに行った。
奥村は島には知り合いの役人がいるからと、金を受け取った。
その帰り道、加吉と富蔵は大笑いしていた。
路地で奥村は加吉と富蔵に小判を分けていた。

「あんたにあっちゃかなわないや。骨までしゃぶる気だ」。
「おめえたちとつるんでることが知れてみろ。間違えなく、俺は死罪だ」と奥村は言った。
それを見ていた主水は、調べがなってないと捨三をぶっ飛ばした。

町に出た加吉は、市松に目をつけた。
一緒に飲もうと言って市松を誘った加吉だが、途中で市松は「何か勘違いしてねえか」と立ち止まった。
「ここまで来て、じらすこたぁねえだろ」。
加吉は市松の手を取った。

市松は加吉をぶっ飛ばして帰ってくる。
捨三が物陰から、市松に声をかける。
「あのやろう、俺を陰間と間違えやがった」。

「ははぁん」と納得した捨三を市松は殴りそうになる。
市松に加吉が目をつけたなら、話は簡単だ。
調べてくれと言う捨三に市松は、2度と口も利きたくないと言って去って行った。

加吉はおちさにさらに、金が必要だと言って奥村のところに連れて行った。
「料理が遅せえな」。
奥村がそう言うと、加吉は姿を消した。

「姉を帰してほしければ俺の言うことを聞くんだ!」
「兄さん!」
「兄さん!」

おちさは加吉に助けを求めた。
加吉は部屋の外で、それを平然と聞いていた。
帰り道、橋の上から身を投げようとしたおちさを加吉が止めた。

「おさとが帰えれるんだよ!」
「兄さん…」。
その時、数人の男が「加吉」と声をかけてきた。

「なかなか上玉じゃねえか」。
「それじゃ、親分」。
「待って、兄さん!」

「話がついてるんだ」。
「話って、何?」
「実はな、お前博打の借金にな」。

「その通り、百両のな」。
「百両!」
「おめえもバカだな、加吉のやり口はいつもこうなんだ。女に貢がせるだけ貢がせて後は岡場所行きよ」。
おさとの顔が信じられないという表情になっていく。

「だましたのね、兄さん!」
加吉は平然と「おさともそのうち、帰えってくるよ」と言った。
「人でなし、人でなしぃいいい!」

「兄さーん!」
夜道に、おちさの絶叫が響いた。
水しぶきが上がった。
おちさが橋から身を投げた。

「死なせるんじゃねえぞ!」
大慌てのやくざたちを尻目に加吉は去って行く。
それを知ったおこうの目が、怒りに燃えている。

仕置屋は窯場で話を聞いていた。
重苦しい空気だった。
捨三の報告に誰もが、口を利かなかった。

「その娘は死んだのか」と、印玄が聞いた。
「死ねればずっと楽だったんでしょうが…、行き先は岡場所か宿場女郎でしょう」と捨三は言った。
仕置料が置かれる。

「殺しがいのある野郎だな」。
印玄がそう言うと、小判を取る。
「思い切り、ギュウギュウやってもらいてえんだよ」と捨三が言う。

だが、加吉が南町に捕らえられてしまった。
おちさの勤め先の主人が、訴えたのだ。
加吉がおちさを騙して、おちさが店から前借りした一生分の給金を取ったと店の主人は言った。

取り調べは村野だと聞いて、主水は顔をしかめた。
村野が担当したなら、加吉は逃れようがない。
「何とかならねえのか」と印玄が聞く。

市松が「逃がすんだな加吉を」と言った。
「おめえは昼行灯と、折り紙がついてんだ。今更へまをやったからってどうってことねえだろ」。
しかし主水はそんなことをすれば「南町を首だぞ!」と拒否した。
「そうなりゃ仕置されるのは俺だ!この稼業がご破算になっても良いってのか」。

主水は悩む。
だが、悩むことはなかったのだ。
その夜、加吉が小伝馬町に送られることになる。

連れて行くのは奥村と主水だった。
途中、富蔵が一行を邪魔した。
奥村と富蔵と、加吉は組んでいるのだ。

夜道を主水たちの一行が行く。
その後を印玄、市松がつけていく。
道の脇に、ずらりと竹が束ねてあるところに差し掛かった。
竹が一斉に崩れてきた。

富蔵がやっているのだ。
印玄と市松が見ている。
加吉が逃げ出した。
「逃がすな」と奥村が叫ぶ。

主水の下っぴきの亀吉が、うろたえる。
「逃がすな!」
追っ手がかかる。
主水が密かに市松と印玄の方を向き、合図する。

捕り方を見ている奥村に主水が「奥村さん、どうもご苦労さん」と声をかけた。
「思い通りですな」。
「何」。

奥村が主水を見る。
「あたしの方も思い通りになりまして」。
「何がいいてえんだ」。

「実は今夜、3人男が死ぬんだ」。
主水は奥村を指さした。
「1人目はあんた」。

奥村が刀を抜いた。
だが主水は、自分の抜きかけた刀でそれを阻止した。
奥村は主水を押さえつけながら、道の端に寄っていく。

主水はするりと奥村を交わし、奥村と背中合わせになる。
小刀を抜く。
背後の奥村を、一気に突き刺す。
小刀を抜き、奥村の袖でぬぐう。

富蔵は屋根の上を、走って逃げていた。
その行く手に、印玄が現れる。
「行きな」。
印玄は富蔵を捕らえ、突き飛ばした。

「とめて、やめて、とめて、やめて」。
富蔵は絶叫しながら、屋根の上を下に向け、滑っていく。
「とめてやめてとめてやめて」
「ああーっ!」

富蔵が落ちていく。
ぐきり。
骨が砕ける音が響く。

落ちた富蔵を見て、亀吉が驚く。
上を見上げるが、何も見えない。
「亀吉!」

主水が叫ぶ。
「ぐずぐずするんじゃねえ、早く追わねえか!」
「へ、へい」。
主水に促され、亀吉は再び加吉を追う。

夜釣りをしている人たちが、、捕り方が走る道の下にいる。
加吉は、その中にいた。
夜釣りを見物しているような顔をした加吉は、捕り方が去るのを見て、手ぬぐいを川に浸した。
体を拭いている加吉に背後から、市松が忍び寄る。

竹串を構える。
ふと、加吉が振り向く。
市松はとっさに竹串を隠し、微笑んだ。

加吉は市松に気がついた。
いつか、自分を袖にして去って行った青年だと認識した。
加吉が市松に近づき、悩ましい手つきで市松の肩を撫でた。

市松の手が、再び竹串を構える。
加吉の背後から、首筋を刺す。
絶命した加吉が、川に落ちる。

「誰か落ちたぞ」。
騒ぎが持ち上がる。
もう市松は消えていた。

水音に気づいた亀吉が、「今日は良く人が落ちる日だな、おい」と言う。
「亀吉!」
主水が「今落ちた野郎とな。さっき、屋根から落ちた野郎を奉行所に運ぶんだ」と指示する。
「へ?」

「役人殺しの下手人だ」。
「じゃ、お手柄になるんで?ひゃああ、珍しい!」
「早く行け!」
「へいっ」。

翌日、主水はおこうと待ち合わせの場所、おさすり地蔵で会っていた。
おこうが言う。
「加吉が溺れ死んだそうだすな」。

「それにしてもおこう。俺はどうしてもひとつ、引っかかることがあるんだ」。
「またなんですの?」
「おさとは島送り。とても10両の金は払えねえ」。

「そんなこと、わては知らんことだす。それとわてと、どんな関わりがありますのん」。
「おこう」。
主水はおこうを見る。

「加吉ってのはおめえの…、何なのさ」。
「おめえの…、亭主だったんじゃねえのか?」
おこうは応えなかった。

遠い目をして、どこかを見つめていた。
それを見た主水がふっと、目をそらす。
「まっ、そりゃあどうでもいいことだ」。
ニッと笑うと「なあ、おこう?」と話しかける。

おこうが主水を見る。
ハッとしたように我に返る。
そしておこうも、にやっと笑う。

「じゃっ、行くぜ!」
主水は手を上げると、出て行く。
「大事なこと忘れてた!」

おこうは走ってくると、主水に向かって手を広げた。
「ちゃっかりしやがって」。
主水は、おこうの手を叩く。
そして小判を1枚、2枚と置く。

「そや中村はん。このたびはお手柄でしたな」。
「さぞかし母上や奥方様、お喜びでっしゃろ」。
「何を言ってやがる、俺だってな、毎日まじめに勤めてるんだ。わずかな褒美金だってもらわなきゃ、割に合わねえ」。
はははは、と主水は笑う。

だが奉行所で主水を待っていたのは、今度の失態による向こう半年間の減俸と言う村野の言葉だった。
「あっ…」
思わず主水は目を閉じる。



髪結いのお客に対して、どう考えてもあり得ない誉め方をするおこう。
しかしお客さんが良い気持ちになっているんだから、うまいんでしょう。
店の少女たちに、褒める加減が大事だと言う。
加吉を見た時の、このちゃっかりしたおこうの表情の変化がすごい。

第1話で主水は、仕置人だったことをネタにコンタクトを取ってきたおこうに「おめえ、島帰りだな」と言っている。
言われたおこうは多少、うろたえる。
そこから1回、市松の話を挟んでいるので、録画することができない当時はその伏線は、忘れられていたかもしれません。
しかし、覚えていたら、これはその話なのだとわかる。

女性の島送りの囚人の前に現れる加吉を見て、おこうの顔色がさらに変わる。
ここでもう、おこうの過去に加吉が関わっていることがうかがえる。
おこうの島送りは、この男が原因でしょう。

市松の過去を見せたのが、第2話。
第3話はおこうかと思ったけど、意外にもおこうの個人的な話・過去は一切描写されない。
想像に任せるのみ。

しかし、話はおこうの過去がまるでそれをおちさによって再現していくかのように展開していく。
おちさは髪を売り、岡村に手ごめにされ、売られていく。
それでもなお、おちさは加吉に「兄さん」と叫び続ける。

姉が島送りになった時に、おちさは確かに加吉に対して怒っていた。
しかし、おちさはまじめになった加吉を完璧に信用し、その通りに動く。
これはおちさが加吉の裏を見抜くことができないほど、子供だったからだろうか。
もしかしたら、おちさは加吉を好きになっていたのかもしれない。

自分を愛する人の思いを裏切って、肥え太って行く男・加吉。
おちさの悲鳴にも、加吉は何も感じない。
捨三たちに冷酷と思われている市松より、加吉の方がずっと、ずっと冷酷。

その市松に、加吉は色目を使う。
岡村にもちょっと色目を使って、拒否されている。
加吉はもしかすると、本当は女性なんか好きじゃないのかもしれない。

女性はあくまで、飯のタネ。
金を搾り取る道具。
いや、全ての人間は加吉にとって、彼の快楽のために使う道具に過ぎないのかもしれない。

救いのない話の中、おちさの奉公先の優しさに救いが感じられる。
おそらく、おちさはまじめに働いていたんだと思う。
だから主人は、一生分の給金を前借りさせてやった。
なのにおちさが売られたから、憤って加吉を訴えたのだと思う。

おちさの報告を聞く仕置屋が暗くなったのも、当たり前。
死ねればまだしも、助かったおちさはこれから女郎になるのだ。
百両の借金が返せる頃には、おちさの人生は終わっている。
「殺しがいのある野郎」という印玄の言葉は、加吉への怒りを表している。

市松だって、加吉にはいろんな意味でかなり怒っていた。
でも加吉と再会した時の市松の微笑みは、誰もがとろけるような笑みだった。
後の話で市松は一味の悪女を一瞬でたぶらかしているが、こんな笑顔見せられちゃそれはそうなる。
黒装束が市松の美しさを引き立てている。

加吉は、中尾彬さん。
女性に泣きつき、冷酷に売り、市松にねっとりした視線を送る。
様々な表情を見せてくれます。

富蔵は江幡高志さん。
印玄に突き飛ばされての「とめてやめて」が、おかしい。
加吉が番屋から出た時に、重々しい主水のテーマが流れます。
夜道を行く主水たち。

昼間の喧噪とは打って変わった、静まりかえった道。
ここは昼間の世界とは別の世界。
闇が支配する世界。

そんな言葉が思い浮かぶ夜の街。
途中、飲み屋でケンカが持ち上がる。
表に出てもみ合う男たち。

しかし主水たちの一行を見ると、男たちは静かになり、道を空ける。
奉行所というものがどういうものか。
同心がどんな存在なのか。
身分は低い三十俵二人扶持であっても、江戸の世界を支配する一つの大きな力であること。

そしてもう一つ。
本当の闇の世界が、後ろからつけてくる。
市松と印玄。

主水はどちらにもいる。
闇に照らされて浮かび上がる主水の顔は、その象徴。
必ず、加吉を逃がす騒ぎが起きると確信している。
その通りに、騒ぎは起きた。

主水は、加吉とグルになった汚い同心・奥村に向かって、こう告げる。
「今夜3人の男が死ぬ」。
そして岡村を指さす。
「1人目があんた!」

まるでおもしろい話をしているような口調で。
そこが主水の凄み。
主水を侮っている奥村は、主水に抵抗一つできない。

全てが終わり、おこうと語る主水。
結局、おこうの過去は明らかにされない。
作品が終了した時にわかるが、最後まで、本当に最期まで、おこうは自分については何も語らなかった。

あれだけ立て板に水のように話すおこうは、自分については何も語らなかった。
明るく、あっぴろげに見えて、彼女は誰にも心を開いていない。
おこうの過去は、謎のまま。

主水は気づいているが、おそらく今回の依頼人も、おこう自身。
加吉のことを亭主だったんじゃないかと言われた時の、おこう。
何を見ているのか。
その胸の中には、何が去来しているのか。

何も語らない、しかしすべてを語っているような遠くを見る目。
憎いような、愛しいような。
次に主水に笑いかける笑顔には、凄みがある。
それ以上、問いかけない主水も大人。

この時流れる音楽も、情緒があって良い。
次の瞬間にはもう、いつものちゃっかりしたおこうに戻っている。
おこうがどんな人生を送って、ここまで来たのか。
想像を膨らまして、主水がコケて終わる。


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