こたつねこカフェ

癖のある俳優さん、悪役さんが大好きです。時代劇、ドラマ、映画、俳優さんのことを好きに書いています。
2017年07月 ≪  12345678910111213141516171819202122232425262728293031 ≫ 2017年09月

「…ぃ(はい)」。

風邪が長引いてます。
16日の水曜日から会社には行きましたが、喉がどんどん腫れてきました。
17日の木曜日には、超ハスキーボイスに。
かすれた声で電話取ってました。

自分で聞いてて、聞き苦しい。
熱も微熱が引きませんでしたしね。
18日の夕方には、声が出なくなり、19日の土曜日には親戚からかかって来た電話に声が出てませんでした。
「あれ?もしもーし!」

『はい』。
「もしもーし、もしもし?」
『はい』。
「…ぃ(はい)」。

その代わり、19日からは熱の方は引きました。
だから喉の痛みに、処方薬より効くと言われるペラックT錠を買いに走りました。
声出ないので、メモ渡して。
これ、眠くならないので良いです。

休みの日に出かけたり、動いてばかりいたのも悪かったんでしょうね。
ちゃんと休めって。
免疫力、落ちてたんでしょう。
鼻がぐずぐず言い始めた時は、フルコースか!って思いましたが、ここは何とかとどまってます。

風邪ってそういうことでもありますよね。
休まないと良くならない。
だからと言って、デリバリー取り始めるっていうのが極端ですが。

もう、何にもしないようにしようって。
そう言いながら、猫の世話はしなきゃいけませんが。
猫も我慢してるんだろうなあ。

まだ平熱ではないんでしょうが、下がって行く熱なのでつらくないという感じです。
しかし声は相変わらず出ない。
宅急便屋さんにも、お返事がちゃんとできませんでした。
もう、お菓子もお茶もバッチリ食べて飲んでますけど。

しかし、昨日の雨にはビックリしましたよ~。
あちこちで花火大会だったみたいで、残念です。
私も東京湾華火大会が強風で中止になって、どこの店にも入れなかったことがありました。
去年の9月が2日しか晴れませんでしたが、10月11月はほとんど雨が降らなかったように記憶してます。

もう月末だから休めなくなりますが、そのうちまた数日、休みを取れたら取りたいです。
「年だよ、年!」って言われました。
だろーなー。
みなさまもお体には気を付けて。

追伸:ペラックT錠は、効きました。
昨日のお昼から飲み始めましたが、寝る前はまだ喉が痛かったです。
でも朝、起きたら痛みは引いていました。
咳はまだたまに出ますが、後はこのハスキーボイス、というよりかすれ声を治すだけです。


スポンサーサイト

永遠の中村主水

最強の殺し屋は、恐妻家。
このコピーを見て、中村主水を思った人は多いのではないでしょうか。
つくづく、うまいキャラクターだと思います。

「仕置人」で登場した、中村主水。
だいたいが「仕置人」のキャラクターは強烈なんです。
しかし、中村主水は強烈なキャラクターたちに囲まれてこそ、活きる。

自分より強烈なキャラクターは存在してはいけない。
そんなものがいたら、自分はかすんでしまう。
なんてことはあり得ません。
中村主水は、そんな柔なキャラクターではないのです。

まず、鉄。
この男、とにかく、何物にも縛られない。
法律や常識も、鉄にはあまり関係がない。

自分の正義や基準があり、感情に従って生きている。
一歩間違えれば野獣。
だがそこは、元僧侶という異色の経歴の男。

鉄には知性があり、正義感や倫理観もちゃんと強いものを持っているんです。
錠は字が読めなくて、鉄に読んでもらってましたから。
その基本があって、それを崩しているから鉄はすごいんですね。

鉄は僧侶と言う、人よりもずっと制約が多い世界の人間だったんです。
だからそれを破る快感も、行き過ぎてはいけないこともわかっている。
とはいえ、仕置に快楽を感じる危ないところはどうしても、エスカレートしていきますが。

ただ、彼は最後に「俺は外道にだけはなりたくねえよ」という、ただそれだけの理由で死ぬことになる。
そこまで、彼は彼なりの踏み外してはいけないものをきちんと持っていたわけです。
これこそが、鉄の魅力。

そしてこの男が、中村主水が裏の仕事に足を踏み入れた時の最初の仲間にいた。
いわば戦友のように付き合っていたと言うことが、主水にとってもとても大きかったと思います。
本当なら鉄は、主水と関わる時、同心と犯罪者としてしか関わりようがなかったはずです。
実際に佐渡の金山で、役人と囚人として付き合ったことが始まりのような描写がありました。

本来なら取り締まる側と、取り締まられる側でしかないはずの付き合い。
それが、一蓮托生の仲間になる。
全くの関わりのないはずの立場を超えるには、強い絆と感情が必要です。

心の底には同じものがあったと思います。
彼らは、全く違う立場でありながら、主水と同じ気持ちを持っているんです。
いや、一番、譲れない部分で同じものを持っている。
だから彼らは、主水にとってもう一人の自分であったと思うのです。

特に、鉄。
貢。
剣之介を見ていると、そんな気になります。

彼らは、主水が道を踏み外した時、ああなったであろうもう一人の自分であったような気がします。
だから主水は、彼らと仲間になれる。
彼らもまた、主水と同じ気持ちを共有しながら、主水がこちら側に来られないことを熟知している。

こいつが同心であることが、俺たちの仕事には必要だ。
鉄はそう言いましたが、それは確かです。
しかし、それだけではないものがあったと思うのです。

こいつだけは、無事に見逃されるように。
踏み外さないようにしてやろう。
便宜上都合がいい、それ以上にそんな気持ちがあったように思えます。
だから彼らは、主水を巻き添えに破滅することを望まない。

市松は最後の最後までギリギリの選択だったように思いますが、やはり、こいつも仲間だと叫んだりはしていない。
殺し屋としてのプライド以外に、何かがあったように思えるのです。
そして主水もまた、彼らが闇の中で息絶えていく時、もう一人の自分が死んでいく思いにとらわれていたはずです。

何もかもなくした喪失感。
人生の一番楽しい時間と仲間を失う。
理解者を失う。

後に待っているのは、味気ない日常。
喪失感と哀しみを心の中心に持ち、埋まらない穴を抱えて、主水はしかしつまらない日常に戻って行く。
袖の下を受け取り、ニヤニヤする日常に。

この傷が、主水と言うキャラクターをより一層、深くするんでしょうね。
哀愁を漂わせる。
「新・仕置人」のラストがなぜ、必殺ファンの心に残るのか。
それは、ここのところを実に的確に表現しているからなのでしょう。

あれだけの修羅場を生き抜き、仲間を失った主水が見せる小役人ぶり。
主水があの笑顔からは想像もできない経験をし、闇を抱えているのを私たちだけが知っているから。
だからあのラストが、心に残る。

必殺シリーズの中村主水を見続けた時、このキャラクターをどうしようもなく好きになるのはこのためではないでしょうか。
俳優としての藤田さんは、主水がこんなに愛されるなんて予想もしていなかったかもしれません。
中村主水は藤田さんや当初の製作者の思いを超えて、このシリーズを見る者に愛され続ける。
時がたてばたつほど、そう思います。



もっと深い青色 「戦艦大和」

市川崑監督のテレビドラマ「戦艦大和」を見ました。
1990年製作のドラマですが、すごいキャストです。
映画並み。

これを見た時のことを覚えてますが、友達10人近くと花火を見た日だったと思います。
ビールとおつまみを並べて、見ていました。
ワイワイ言いながら見ていたんです。

少年兵、日系二世、学徒出陣、海兵出身者。
それぞれが事情を持ち、同じ艦に乗っている。
反発し、和解し、そして。

主人公の吉岡少尉を、中井貴一さんが演じます。
実に清廉。
年齢が行くにつれ、毒や渋さが加わって、これがまたおもしろいんですから良い俳優さんですね。
吉岡少尉と殴り合いになる保木本中尉に、今井雅之さん。

片平電測兵曹に、所ジョージさん。
吉岡と、ご飯を食べながら語ります。
「奥さん、何カ月になる」。
「8ヶ月です」。

「じゃあ出産は6月だな。初めて父親になるんだな」。
「ええ」。
「そうか」。

…。
「こうやって打ち解けて語り合うのも、これが最後だな」。
「…」。
「…」。

「…。少尉殿。私はですね、私は」。
「特攻と言われても、死ぬなんて思ってませんよ。女房と生まれる子供のところに、帰ってやらねばなりませんからね」。
「…」。

おばあちゃんが唯一の身内という少年兵・森田。
支給された品、お菓子に至るまでおばあちゃんに郵送した。
こういう登場人物たちが次々、あっさりと死んでいく。

見ている私たちは、シーンとしてしまいました。
伊東四朗さんとかが死んだときは、「ダメー!」
「あなたはそういうキャラクターじゃないでしょ!」と言う人も。

む、むごい。
フィリピン、レイテが陥落。
硫黄島も陥落。

沖縄も時間の問題だった。
もう、大和の出番がない。
連合艦隊の象徴である戦艦大和を出撃させなければ、軍のメンツが立たない。

戦闘前夜。
吉岡は臼見と話した。
その時、臼見は言ったのだ。

「日本は負ける」と。
「日本は進歩を軽んじすぎたのだ。進歩のない者は、決して勝たない」。
「敗れて目覚める。それ以外にどうして日本が救われるか」。

また、参謀長も吉岡に甲板で会った時に語った。
「人誰しもが、その立場でなしえる限りのことをするしかない」。
「今まで目指してきたそれとは、全く矛盾することに対決させられているに違いない」。

「最後に、自分たちの生まれてきた意味づけをしている」。
「そして真剣に戦った者が、次の戦いを断じて拒む」。
「もし誰かが書き残してくれるなら、俺はそう言い残すだろう」。

そして、敵機来襲。
総員配置に着け!の声。
ここからは白黒になります。

死を覚悟している伊藤聖一長官は、仲代達矢さん。
独身だと語って、吉岡少尉が意外に思うのが森下参謀長で、石坂浩二さん。
吉岡少尉の先輩、臼見大尉は川野太郎さん。
それぞれ、この出撃がただ「死んで来い」であることを知っている。

新たに編隊109機以上!
おおお、アメリカの圧倒的なこと。
大和が横倒しになって行く。
画面がカラーに戻る。

静まり返る指令室。
もう誰も指令室に返事する者がいない。
「作戦は中止だ…」。

呆然とする部下たち。
もう、沖縄までは行けない。
「私は艦に残る。みなは生き残ってくれ」。
長官がうっすらと、笑う。

森下参謀長が手を差し出そうとして、止める。
白い手袋を外す。
長官も外す。
交わす握手。

長官は、指令室を出て行く。
指令室の扉が閉まる。
参謀長は見送った後、この作戦の無謀さに怒りをあらわにする。

それでも参謀長は「機密書類を処分する。作戦室に行くぞ」と言う。
「浸水していて危険です」。
「参謀長の任務だ!」

有賀大佐・大和艦長に向かって「よりよい終わりであることを祈ろう」と言う。
「明日のために」。
そして出て行く。

艦長は最後の命令を下す。
「総員、速やかに艦を去れ」。
この間も容赦なく降り注ぐ爆弾の雨。
機銃掃射が加わる。

「俺の体を縛り付けろ」。
「艦長!」
「お供させてください」。

そう言う吉岡や乾少尉を、艦長は殴り飛ばす。
「若い者は生きろっ!出ていけ!」
そして副艦長に「さあ、早く縛ってくれ!」と言った。

艦長の体は舵に縛られた。
乾少尉が、「これ、ビスケットです」と渡す。
滑稽なようだけど、これが彼に今できる最大のこと。

「では」。
敬礼して、出て行く。
甲板に出る。

少年兵・森田が日章旗を捕ろうとする。
乾がそれを手伝う。
2人とも海に落下する。
青い海。

青く染まる日章旗。
2人の姿はもう見えない。
残酷な美しい青。
大和は、濛々たる煙と共に沈んでいく…。

戦後。
日系二世の中原の墓に、吉岡が母親と一緒に来ている。
冷たい母親だと思うでしょうと言うが、日系一世の母親たちだって大変だったのだ。

生き残った吉岡は、銀行に勤めているという。
戦後は当たり前だけど、戦争経験者が普通にお勤め先にいたんですね。
墓から見る海は、美しかった。

中原の母親が言う。
「戦争が終わって、私は日本の国も生まれ変わる思うちょります」。
吉岡が黙る。

中原の母親が言う。
「日本は、あの子が夢に見たような良い国になるんでしょうね」。
「久しぶりに見る日本の海は、澄んで綺麗ですなあ」。

海を見下ろす。
吉岡は言う。
「沖縄の海は…、もっと深い青色でした」。

最初から無理とわかっていて出撃させる、この無意味な出撃にも人は意味を見出す。
意味がない、そんなことは絶対にない。
吉岡は漂っていた時、救出されたのだと言う。

日系二世の中原は、近藤真彦さんでした。
森光子さん演じる母親が言う。
「日本は、あの子が夢に見たような良い国になるんでしょうね」。
吉岡は答えない。

「日本は進歩を軽んじすぎたのだ。進歩のない者は、決して勝たない」。
「敗れて目覚める。それ以外にどうして日本が救われるか」。
「人誰しもが、その立場でなしえる限りのことをするしかない」。
「最後に、自分たちの生まれてきた意味づけをしている」。

演技派の俳優さんたちの、この重みある言葉。
ワイワイしていた私たちが、シーンとなるようなドラマ。
本当は映画にするつもりで、撮影していたみたいですね。

だから「戦争映画」という認識に、なってしまいます。
機会があったら、見てほしいドラマです。
映画の予定だったにしても、これがテレビで見られた時代だったんだなと思います。


やってしまいましたなあ

どうも体調がいまいちだと思ってました。
11日はお昼をちょっと食べそこなったとはいえ、気分が悪くなるし。
12日も夕方ぐったりしていたし。
13日はお盆のための買い物をして、帰宅したら喉がおかしい。

これは熱が出るパターンだなと思って、早めにハチミツレモン飲んでましたが、やはりだめ。
夜には食欲がなく、やたら眠い。
これは体が「休んでくれ」と言ってるわけだから…、と9時に就寝。

しかし翌日、熱が出て下がらない。
そして今日もやっぱり、この状態で満員電車には乗れないと判断。
どうして私は、連休の最終日に具合が悪くなるのだろう。

これで何度目だ。
やってしまいましたなあ。
昨夜、やっと食欲がわいて、ウナギ食べました。

そして、今日の昼にやっとお茶の味がしました。
ひどい天気だけど、猛暑の中、寝込んでたらきつかったな。
来週は夏が戻って来るそうだから、その前に体を建て直して良かったのかも。

何か気分がすぐれなかったのは、体が休みたかったんだろうな。
足裏マッサージに行って、「おおっ、これは良い足!」
「内臓悪くない、丈夫な足ですよっ!」とか言われて良い気になってたのか。
いや、バキバキやられて悲鳴上げたんですが。

いろんなことを考えて、今日は終戦記念日。
日本映画専門チャンネルでは市川崑監督の「野火」を放送。
これは具合が悪い時は見るのやめなさいよ、と言う忠告に従って見てはいません。
良くなったら見るつもりです。


幽霊はいるのかいないのか 「夢の島クルーズ」

「幻想ミッドナイト」、第1話「夢の島クルーズ」。


正幸は東京湾をクルーズするヨットの上にいた。
牛島という男のヨットだ。
「どう?最高だろう?」

牛島はそう聞いたが、正幸は小声で「…ざけんなよ」とつぶやいていた。
船室には美奈子がいた。
やってきた正幸は美奈子に「お前、昔とずいぶん男の趣味変わったんだな」と言った。

「そうかもね」。
「懐かしいとか言って、店に顔を出すようになったと思ったら」。
「これに引きずり込むのが、狙いだったのか」。

「ほんとに懐かしかったのよ」と美奈子は言う。
正幸は美奈子に「幸せか?」と聞いてみた。
「そうねえ…、最高に」。
美奈子は笑った。

夕暮れだった。
「榎吉くん、何がほしい?」
牛島が聞いた。

「君がほしいもんだよ。つまり、人生においてだよ」。
「あー、人生においてですか。そうだなあ」。
ヨットは進んでいく。

水面にロボットのおもちゃが浮いていた。
こんな沖に…。
それを見た正幸は「子供、かな」と言った。

「子供?あなた結婚してたっけ」と美奈子が聞いた。
「いや、同棲中、かな」。
牛島が言う。
「珍しいなあ、籍も入れてないのに子供がほしいなんて」。

「子供でもできれば結婚しようって、気にもなるじゃないですか。踏ん切りつくって言うか」。
だが美奈子は「どうしてそんな嘘つくの。子供ほしいなんて思ったことないじゃない」と言った。
「嘘じゃねえよ」。

牛島は「僕は子供なんかほしいとは思わないなあ」と言う。
「自分の人生、精一杯楽しみたい主義だからな」。
そして「結婚にしても子供にしても金がかかるぞ。幸せな人生には金が必要なんだ」と言う。

「君、女友達いるだろう」。
「場当たりですが」と正幸は答える。
「それに君はかなりモテる。君の言うことだったら信じたいって女、かなりいるだろう?」
「君がその気になれば絶対成功するって!」

「あなただってお金欲しいでしょう?」
美奈子も言う。
「マルチ商法やると友達なくすんですよ」。
正幸は乗らない。

「そういう奴何人も見てる」。
「そりゃ相手騙すからだよ!」
牛島の声は、全く悪びれていない。

さすがに正幸は言った。
「騙してるじゃん」。
「いや、違う。僕らが扱ってる商品は偽もんじゃないんだ。ほんとに効き目があるんだ」。

牛島は言う。
「相手に感謝するためにこの商品を扱ってるんだ。そう信じてやれば友達なくすなんてこと絶対にないよ」。
「そうよお」と美奈子も言う。

「榎吉くんだったら、この商品、いろんな人に紹介することができるだろう」。
正幸はうんざりし始めていた。
「そうやって今まで何人丸め込んだんですか」。

「ヨットに誘い出して語るふりして、やばいこと考えましたよね」。
「海の上なんて逃げ場ないし」。
「残念だけど、僕は遠慮しときます。詐欺の片棒なんてごめんだよ」。
「そりゃ誤解だよ」。

牛島が否定した時だった。
ドスン、
ガシャン。

異音が響いて、ヨットが止まった。
「どうしたんだろうな」。
「ガス欠ですか」。

正幸の言葉に牛島がムッとした。
「ガソリンはたっぷり入ってるよ!つまんないミスするわけないだろう」。
牛島は懐中電灯で、ヨットの下を照らしてみた。

水面はもう、暗い。
海に手を入れてみた。
「何だこれ?」

牛島は何かをつかんでいた。
「靴?」
子供が履く、布製のズック靴だった。

「ああ」。
「へえ」。
「舵んところにひっかかってたんだ」。

「これ、子供の靴ですね」と正幸が言った。
「子供の靴なんてこんなとこ、どうやって入って来たんだろう」。
「これ、ひっかかってたんすか?」

「良いから捨ててくれ」。
牛島が顔をそむけた。
靴のかかとには、マジックで「かずひろ」と書いてあった。

「これ、かずひろのだ」。
正幸が言った。
「この靴、かずひろくんのですよ」。

「捨ててくれないか!」
牛島が鋭い声を出した。
「どうしたんすか」。
「気持ち悪いだろう」。

正幸が靴を、ぽーんと海に投げた。
ポチャンと、音がした。
「かずひろくん、靴片っぽなくして、どっかで泣いてないですかねえ」。

正幸の言葉に牛島が「君の冗談は、ぜんっぜん、おもしろくないな」と不快そうな声を出した。
相変わらず、ヨットのエンジンはかからない。
冷えてきた。
美奈子はドレスの上に、赤い上着を羽織った。

牛島と美奈子は「どうしたの?なんで動かないのよ?」と言い始めた。
「おかしいなあ。どうして」。
「ちょっと待ってよ、考えるから」。

正幸が「無線は」と聞いた。
「無線はついてない」。
「ないんですか」と思わず、正幸が声をあげる。

「このぐらいの船にはついてないんだよ。必要ないから」。
「今、必要じゃないですか」・。
「ないものはないんだよ!」

「ねえ、どうなっちゃうの?」
美奈子が不安そうな声を出し始めた。
牛島が「何かキールに引っかかってる。それしか考えられない」と言った。

「何が」と正幸が尋ねる。
「わかんないよ!」
「どうする気ですか」。

「…潜るしかないよ」。
「潜る?」
「潜ってキールに引っかかってるの、はずすしかないだろう」。

「危なくないの」。
美奈子が心細そうに言う。
「船の上に牛島さんいなかったら、私が怖いわよ!流されちゃったらどうするの!」
「ねえ、どっか流されちゃうかもしれないじゃない!」

そう言うと、美奈子は正幸を見た。
牛島も見た。
「榎吉くん」。

「え?冗談、…冗談でしょう」。
正幸は、「俺はヨットのことなんか何にもわかんないんですから。困りますよそんなこと言われたって」と言った。
すると牛島は「良い!」と怒鳴った。
「自分で潜るから!」

真っ暗な水面にむかって、強いライトが当てられた。
牛島が水面に降りた。
ゴーグルをつけ、潜った。

それを見下ろしていた美奈子は正幸に「あなたって嫌な人」と言った。
「ええ?俺が潜りゃ良いってのかよ?」
「違うわよ。同棲なんてしてないくせに。何が子供ほしい、よ」。

「あの人、前の奥さんと子供がいたのよ」。
「ふうん、子供嫌いだって言ってたじゃない」。
「死なせたの」。

「どうして」。
「知らないわよ!」
美奈子はいら立った。

牛島は潜っていた。
何かが、引っかかっている。
たぐり寄せる。

水の向こうから、手が伸びた。
牛島の足がつかまれた。
顔が現れた。

まん丸で、皮膚がはがれている。
パニックを起こした牛島が、ゴボゴボと空気をはく。
水面に上がろうとするが、足を捕まれている。

もがく。
必死の思いで、牛島は浮上する。
牛島が溺れかけているのを見た美奈子は、「早くあげて!」と叫ぶ。

「あああ、ああああ」。
牛島は、悲鳴を上げ続ける。
船室に転がり込んだ。

正気を戻すため、正幸が牛島の頬を張った。
「牛島さん」。
ウイスキーを飲ませた。

「どうしたんです」。
「何があったんです」。
「何が」。

「何?ねえ、何がいたの!」
美奈子も叫ぶ。
「小さくて…」。

牛島がガチガチと震えながら、言った。
「ぶよぶよしてて」。
「子供がしがみついてきた」。

「キーツに子供がしがみついていて、俺引きずり込もうとした」。
「ここつかんで、引きずりこもうとした」。
泣き叫ぶように牛島が言った。

「やめてよ!」
美奈子も泣き叫ぶように言った。
「そんなこと言うの!」
「そんなこと言うの、やめてよー!」

美奈子はもう、泣いていた。
「悪い冗談だよ」と正幸がなだめる。
「嘘よ!」

牛島はうわごとのように言い続けた。
「破けた皮膚…。顔や手は風船みたいに膨らんで」。
正幸はため息をつくように「じゃあ、あれだ。靴は片っぽしか履いてなかったんだ」と言った。

「いや」と牛島は否定した。
「両方履いてた?」と正幸が聞く。
「いや」。

「ええ?」
「素足」。
「靴なんて、履いてなかった」。

そこまで聞くと正幸はついに吐き捨てるように「バカバカしい!」と言った。
「そんなことあって、たまるかよ!」
牛島が目をむいた。

「じゃお前、潜ってみろよ!」
「潜ってみろ!」
興奮した牛島に美奈子が「ねえ、大丈夫?」と聞いた。


夜は更けていく。
正幸が時計を見て「もう一時だ」と言った。
「ようし」。
正幸が立ち上がる。

美奈子が「どうするのよ」と聞く。
正幸が、着ていたパーカーを脱ぎだした。
大きなビニール袋に、脱いだ服を入れ始めた。

それを見た牛島は「お前、潜ってくれんのか!」とうれしそうな声を出した。
「そうか!何か見間違えたんだ。大丈夫!お前なら大丈夫!」
「何、都合の良いこと言ってんですか」。
正幸の声は冷たかった。

美奈子が聞く。
「何してんの」。
正幸は持ち物も全部、ビニール袋に入れていた。

「泳いで行く」。
「泳ぐ?」
「岸まで200mぐらいだから簡単ですよ」。

驚愕した牛島は「足引っ張られるぞ!」と叫んだ。
「今、自分で錯覚だったって言ったでしょう」。
正幸はもう、ウンザリしていた。

「そんなもの、いませんよ。そんなもの、…いてたまるか!」
もう正幸は、不快さを隠そうともしなかった。
「溺れるぞ」と牛島が脅した。

「溺れて死ぬぞ!」
「勝手に言っててください」。
正幸はビニール袋を体に結わいつけた。

「待って」と美奈子がすがる。
「ああ、最高だ!」
正幸は皮肉たっぷりに言った。

「おかげで最高の気分ですよ!だけどこれでお別れだ」。
「あんたらはあんたらだけで、最高の生活、楽しんでくださいよ」。
正幸は、そう吐き捨てた。

「見捨てるの!」
美奈子が鋭い声で聞いた。
「岸に着いたら、湾岸サービスに電話しておいてやるぞ」。

「死んじまうぞ!」
牛島が叫ぶ。
「おい!死んじまうぞ!」

さっさと甲板に出た正幸は、綺麗な弧を描いて飛びこむ。
のぞき込む美奈子を振り返り、「じゃあな!」と言った。
そして振り向きもせず、泳ぎ始める。

先には、灯りがずらりと灯っている。
正幸の姿が、遠ざかって行く。
真っ暗な海を、正幸は泳ぎ続ける。

ふと、正幸は昼間、拾った靴を思い出した。
かずひろ。
黒のマジックで、かかとに書いてあった文字。

正幸の足が、水中で上下する。
『俺を引きずり込もうと』。
牛島の声を思い出す。

海の中、何がか近づいてくる。
手が伸びた。
正幸は、足を捕まれた。

水中に引きずり込まれそうになる。
バシャバシャと正幸は、抵抗する。
自分の足をつかんでいる手をつかむ。

正幸がつかんだのは、海藻だった。
「ちっ」。
思わず、正幸が舌打ちをする。

つかんでいた海藻を、海に向かって投げる。
そして再び泳ぎだす。
やがて、テトラポットに手が届いた。

正幸は水からあがる。
水が全身から、滴り落ちる。
ピチャン、ピチャンと音がする。

正幸はテトラポットの上に上がった。
息を切らしている。
大きく息をして、ホッとする。

海の方を見ると、沖にはヨットがいる。
「あー、やった」と思わず声が出る。
上に登ろうとした正幸の視線が、止まった。

かがみこむ。
手を伸ばす。
靴だ。

正幸の手には、布製のズック靴があった。
かずひろ。
かかとには、黒いマジックで「かずひろ」と書いてあった。

「だからか」。
「だから両足とも裸足だったんだ」。
正幸は独り言を言った。
「こんなとこに引っかかってたんじゃ、いっくら探しても見つかんねえよなあ」。

正幸は大きく息を吐いた。
「ほらあっ!」
そう言うと、靴を海に向かって投げる。

ズック靴は大きく、綺麗に弧を描いて海に落ちた。
「返したぞお!」
正幸は、海に向かって声をあげた。
そして、背を向けて去る。

夜の海。
浮いているズック靴。
ちゃぽん。

音がした。
水中から、紫色に変色したボロボロの腕が出た。
靴をつかんで沈む。
あとは音も立てない海が、静まり返っていた。



前にも書いたんですが、土曜の夜24時から放送していた「幻想ミッドナイト」。
第1回は「リング」の原作者の鈴木光司さんの作品「夢の島クルーズ」。
再放送もないし、DVDも発売されていないし、二度と見ることはできないんだろうなと思ってました。

そうしたら、DVDが発売されていたんですね。
再見しました。
企画から総合プロデューサーを勤めた、飯田譲二さんは「後に残るような作品にしたかった」そうです。

こうして見ると、良い作品があります。
97年の土曜の深夜放送。
もう、今から20年も前の放送だったんですね。

正幸は、高橋克典さん。
ドラマ版「リング」を飯田さんが手がけ、高橋さんが出演した縁でもう一度出演してもらったそうです。
実際に夜の東京湾を泳いだ、ハードな撮影だったとか。

美奈子は、本田美奈子さん。
牛島は、矢島健一さん。
みなさん、若いです。

詳しい描写はないんですが、前にも書いた通り、想像をさせるうまい演出です。
牛島の妻の美奈子と正幸は、過去に付き合っていた感じです。
正幸は美奈子にこだわりがあるわけではないけど、ヨットに誘われたから来てみた。
いや、美奈子の顔をつぶさないように来たのかもしれません。

そして牛島に子供がいたという話。
お金儲けのためなら、人を騙しても平気なほど荒んだ牛島。
これも詳しい描写はされていませんが、子供の靴を見つけた時の牛島の不快そうな様子。
最初の妻との破たんといい、何かがあったんだなとわかります。

それがマルチ商法の片棒を担がされる目的で、ウンザリした。
品行方正な女性ではなかったにしろ、美奈子がそんな片棒を担いでいることにもウンザリした。
正幸も品行方正とは言えないけれど、悪党ではない。

でもこの牛島の商売は、いずれ破たんすると思いますね。
ヨットに無線がない。
海に出るヨットなのに、連絡するための装置をつけていない。

必要ないと言いながら、必要でないわけではない。
肝心なところで、セーフネットがない。
そういう人がやっている商売ですから。

飯田譲二さんはこの原作の、「幽霊はいるのかいないのか」という描き方にひかれたそうです。
「そういうことは人の意識に作用されるんじゃないか」ということを的確に描いている。
恐怖を感じていればそれはいることになるし、何も感じない者にはいない。

牛島には、幽霊が感じられる。
それはおそらく、牛島の過去によるもの。
だが正幸には何もない。
そのため、正幸にとっては幽霊はいない。

だが途中、夜の海を泳いでいる時に正幸は不安になる。
その時、幽霊は実体になって正幸の前に現れる。
しかし、気力で「それ」をつかんだ正幸の前には、やっぱり幽霊はいなくなる。

山岸涼子の「海底より」もそんな感じですね。
生きる気力がなくなっている主人公は、海の中に引きずり込まれそうになる。
だけど気を強く持っている青年が「負けるもんか」と思った瞬間に、「それ」は消える。

「そんなものいるわけないでしょ」と言い放った正幸の前に、片方のズック靴が現れる。
正幸はそれを恐怖を持って、見つめない。
子供への思いやりで、正幸は靴を返してやる。

最後に靴が浮いたままにならず、何かがつかんで海に帰って行く。
これはうまい、怖いラスト。
うまくまとめたと思います。


逆効果です

日曜日の午後、3時過ぎでしょうか。
ピンポン、とインターホンが鳴りました。
見ると、作業着を着た男の人が立ってます。

「はい」と返事をすると、リフォーム会社だと名乗りました。
この前も2回、同じ人が来てリフォーム工事の話をしていきました。
でもこの人は、とても礼儀正しい人でした。

それで今日、来た人は、ご挨拶とお話があるので出て来てほしいと言う。
でもね、この辺りというか、そう言われて出て行く人ってあんまりいないんじゃないでしょうか。
自分もリフォーム業者と言われて、今は考えておりませんので申し訳ありませんがと答えました。
すると、ご指摘したいことがあるので出て来てほしいと言う。

実際、お客さんが来ていたので、今、人が来ていますのでと答えました。
そうしたら、そこで待ってますのでと言って、一方的にインターホンから遠ざかる。
人の話、遮って。

この時点でもう、私はこの業者さん、いや、この人はダメです。
上から見ていたら、待ってなんていなくて別の家に行っていたみたいですけど。
そういう態度の会社に、リフォームなんて大きなこと頼むわけないと思いますよ。
こういうことを100回やったら、そのうちの1回ぐらいは家の中から怖い人が応対に出たりするんじゃないですかね。

一時期、工事の者ですが、ご挨拶に伺いましたというのが何回か来たことがあります。
どこかで工事をやるのかと思って出て行くと、セールスなんですよ。
確かに噓は言っていないけど、不信感マックス。
逆効果です。

訪問セールスって、大変だと思います。
仕事でやってるんだし、会社で行けと言われているんだろうし。
だからあんまりにひどい対応したくないと思ってますが、こういうことがあると嫌いになりますねえ…。


最強の殺し屋は恐妻家

通勤電車の中で見ている広告に、「最強の殺し屋は恐妻家だった」というものを見つけました。
伊坂幸太郎の殺し屋シリーズ「AX」(アックス) 。
この広告で私が思い出すのは、もちろんというか、例によって「中村主水」です。

つくづく、中村主水って言うのは良くできたキャラクターです。
緒形拳さんが梅安のことを、「裏の顔と表の顔が明確に分かれているキャラクターは演じてておもしろい」って言いました。
さらに緒形さんは、自分が「必殺」で演じた殺し屋は武士じゃないけど、中村さんは武士だからねと言ってました。
だから同じ殺し屋で、表と裏の顔があっても違うって言っていたような気がします。

中村主水って、本当に良くできているキャラクター。
あの落差、実に魅力的。
俳優だったら、演じてみたいキャラクター。
作家だったら、描いてみたいキャラクターなんでしょうねえ。