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いてててて

いてててて…。
土曜日の朝、出かける時、雨が降っていました。
もうすぐ止むかなと言う感じの空。

レインブーツはあるけど、やっぱり蒸れるんです。
だから止みそうなら、普通の靴で行こうと判断しました。
それで駅に向かって歩いていて、道の端。
排水溝の上にかぶせてある、金属の網があるでしょう。

あれの上に乗ったんです。
すると、ツツツツツーと滑った。
こんなことは初めて。

いつも歩いている道で、確かにあの網の上はあんまり歩かなかったけど。
あ、転ぶ。
そう思った時、足を踏ん張りました。
ガシッ。

ジュリエットに求愛するロミオがひざまづくように、ひざまずいた。
そこで何とか止まった。
膝は着きましたけど。

横を歩いている人が「大丈夫ですか?」と言ってくれました。
恥ずかしい。
「大丈夫です!」と答えました。

その後、ボソッと「いてててて」って、つい、つぶやいてしまいましたけど。
後で友人に「良かったね。何にも言わない人だって多いよ」と言われました。
いや、話しかけない方が良いだろうなって状態の人もいるから。

それでしばらくしたら、膝が痛い。
見ると、膝に網の形で赤いあざとか、血がにじんでる。
踏ん張った股関節もちょっと痛む。

以前、これで2週間ぐらい、歩くのに支障が出たことがあります。
怖い。
その日の夕方は、整体の予約を入れていたので先生に痛い~と言って治療してもらいました。
日本語がちょっと通じないところもあるんですが、一生懸命訴えました。

昨日も出かけようとしたんですが、やっぱりちょっと痛い。
これではあの坂、階段を登れまい…と、断念しました。
もう2度と、あの網の上は歩かない!
レインブーツ以外では雨の日に、あの網の上には乗らない!

歳行ってたら転んだんでしょうね。
それで、もっとひどいことになるんでしょうね。
みなさん、気を付けましょう…。


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改めてみると 「雲霧仁左衛門」

「雲霧仁左衛門」を見直しました。
やはり、90年代最高の時代劇、いや、ドラマといっていいんじゃないでしょうか。
人間の弱さ、同時に強さも描いている。
雲霧も火盗も人間の弱いところを突いてくるし、そんな自分たちに罪深さも感じている。

またそういう部分、弱い部分もを、実は大事にもしている。
それは人として忘れてはいけない感情だから。
鉄の掟で結ばれた盗賊側も、普段は押し殺している人間らしさが、時にどうしようもなくあふれてくる。
主人公以外の登場人物、それぞれの人間模様がしっかり、描かれているから、素晴らしい。

愛する女性の為、雲霧に魂を売ってしまう火盗の与力。
同じく、愛する女性との夢を見てしまった松屋に入り込んだ雲霧の配下。
それを始末しなければならない、熊五郎。
「へーい」と無機質な返事に、こもった心情が伝わってくる。

按摩を装って標的の屋敷に入り込む、配下の冨の市。
強欲な主人に幼い妾の子が育つまで生きていたいと打ち明けられ、検校にするから私の健康をずっと診てほしいと言われる。
標的の人間らしさに触れ、検校として平穏な毎日を妻と生きていける誘惑に心が揺れる。

捕えられ、自らは拷問に遭っても舌を出して見せるが、妻の拷問される姿には耐えられない。
だからだ、だから、仁左衛門の配下は連れ合いを持たなかったのか、と思う。
仁左衛門の采配で、所帯を持った2人だったのに。

お頭とその配下の女性との2つの関係の描き方もすばらしい。
雲霧とお千代。
火盗の頭の式部と密偵のお京。
この間の、決して表に出ない思いがある。

お盗め(おつとめ)の為なら、どんな女にも化けて、騙すお千代。
その雲霧への思い。
描きようによってはとんでもない悪女。
なのに、そこにいるのはお頭へのけなげで一途な女にしか見えない。

密偵・お京。
彼女が雲霧に囚われた時、「殿様があたしのような女の為に来るわけがない!」と笑う。
盗賊からは「イヌ」と呼ばれ蔑まれるべき存在。
使う火盗改としては、使い捨てる存在。

だが雲霧は答える。
「いや、来る!」
そのキッパリとした答え。

雲霧だから言える。
使っている女性が自分に向ける思いを、知っている。
そして、式部という男を知っている。

式部が来ることを信じている、信じられる。
同じ、お頭として。
使う女性への誠実さがある雲霧だから、言える。

そして描かれる一人一人との絆。
雲霧一味の小頭・吉五郎は、お侍だったらしい。
その言葉は、最後に証明されてしまう。
吉五郎は火盗を前に、切腹して果てる。

最後のお盗め。
仁左衛門が盗賊になった理由と、目指していた目的が明らかになる。
これは私怨だ。
一党には関係がない。

累が及ばないよう、一党を解き放つ。
武士としての無念がわかる小頭だけは、ついていくつもりだった。
その吉五郎がいない今、熊五郎はお頭から離れない。
盗賊とはいえ、そこにはお頭との深い信頼関係がある。

宿敵・式部もまた、最後に仁左衛門に理解を示す。
火盗にも仁左衛門を突付くな、というお達しが来る。
確かに仁左衛門は盗賊だ。
盗賊に正義などない。

しかし、善良だった仁左衛門一族を陥れ、ヌクヌクと法をかいくぐって肥え太る輩は巨悪だ。
そちらは、安泰なのだ。
この輩に一矢報いる為に、仁左衛門は盗賊になった。
悪を憎み、どうにかしたいと思う気持ちは同じだったのだ。

ここに至って、式部にとって仁左衛門は許されない敵ではなくなってしまった。
だから式部は、最後に仁左衛門を追わない。
被害届けが出ないのだから追えないのではであるが、式部の性格で本当に悪であれば追わないはずはない。

最後の最後に、式部の前に姿を現す仁左衛門。
キセルを見て、自分と同じキセルだと気づく式部。
あのキセルは式部にとって、戦利品ではない。
能力の限りを使って戦った2人は、いつしかお互いを理解しあったのだ。

これは式部が誰よりも認める好敵手。
同じお頭としての矜持を持つ者との、大切な記念の品なのだろう。
だが理解しあったとしても、犠牲になった部下たちを思えば、再び会えば友人にはなれるわけはない。
キセルが象徴する、奇妙な2人のお頭の関係。

過去に決別するように、仁左衛門は式部、そしてかつての部下の前に姿を現しては消えていく。
最後は、あの大仕事まで一緒だった熊五郎。
仁左衛門が引き金も託した男。
吉五郎亡き後、最大の信頼を置く男。

それが人ごみで、お頭を見つけて追いかけてくる。
「人違いでは?」と、答えるお頭。
死線を越えた熊五郎が、愛しくないわけがない。

しかし仁左衛門は、振り返らない。
一瞬にして理解し、見送り、その意図を正確にくみとって熊五郎は微笑む。
別れて行く人々。

それぞれの心の揺れと人間模様が見事に描かれる、雲霧仁左衛門。
ドラマを山崎努さんはもちろん、石橋蓮司さん、本田博太郎さん、池上季実子さん、中村敦夫さんが完璧な演技で支える。
目まで、背中までがセリフを言う。

物語の冒頭でみかんを手にする、仁左衛門。
熊五郎を背に、去っていくご隠居風の男の手にも、みかんがある。
全てが収まる、最高のラストシーンでこの物語は終わる。
やっぱり最高でした。


あぁあ、悲しいね~ぇ、悲しいね

昭和から平成になる時。
昭和を代表するような人たちが、次々お亡くなりになった時がありました。
石原裕次郎さん、美空ひばりさん、手塚治虫さん。

一つの時代が終わるんだな。
時代が変わるんだ。
寂しい気持ちでしたが、そうも思いました。

今年もずいぶん、訃報を聞くような気がします。
平成最後の年というのを、意識しているからなのか。
自分が昔から見ていた人たちが、年齢的にそういうお歳になっているからなのか。

樹木希林さんがお亡くなりになりました。
75歳。
私が最初に樹木さんを意識した時に、おばあちゃん役をやっていたからでしょう。
もっと年上のような気がしていました。

最初に意識した時は、おもしろいおばあちゃんでした。
でも、女優さんとしては凄みと怖さをにじませる演技を見せてくれました。
この人は本当はすごく怖い人なんじゃないか。
そう思わせる演技を見せてくれていました。

樹木さんって、魅力的な女性だったと思います。
どなたかがおっしゃっていたんですが、葉巻の似合う女性は日本にはそうそうはいない。
自分が見た中で、葉巻が似合っていたのは、樹木希林さんだ。

岸田森さんが、樹木さんについて、お話していたことがありました。
「僕がね、わかっていなかったんです」。
「女性というもの、結婚というものを」。
樹木希林さん、長い間、ありがとうございました。


「お狩り場焼きだよ見ればわかるだろう、おいしいよ」 翔べ!必殺うらごろし 第7話

第7話、「赤い雪を降らせる恨みの泣き声」

またまた、突然の「翔べ!必殺うらごろし」。
何故なら、市原悦子さん、お元気でいてほしいなという思いです。
中村敦夫さんも、まだまだお元気でいてほしい。


仁助とおせきは幼い娘のおゆきと3人で、窯ヶ窪で暮らしていた。
ある日、雪が降ってくるが、それは雪で、手のひらに落ちるとまるで血のような跡を残した。
若は山篭りの用意をしていたが、先生はそれを見て、山篭りを中止、里に向かう。

赤い雪が降ると、口のきけないおゆきは激しく泣く。
雪は窯ヶ窪だけに降り、村人は祟りだと噂し、おゆきが泣くのを見て怯える。
仁助は、祟りなどではないと言って、口止めする。

ここは元窯場であったが、現在はお狩り場で、仁助はその番をしている。
おねむが札を売り歩いていると、正十が札など売れないと言う。
陶芸の名匠・陶夢斎が来ており、その陶芸を買い求める人ばかりなのだから。

元は陶夢斎は農民相手のしがない焼き物師だったが、現在は藩邸内にとどめ置かれ、ひたすら陶芸をしているらしい。
その陶芸品はひとつ、2百両でも売られる。
大名たちにとって、良い陶器は、茶会には欠かせないものだ。

藩邸に陶器を買い求めに来た大名の使いたちは、陶夢斎の仕事を見たいと言う。
だが、陶夢斎は仕事場は一切見せないらしい。
正十はおねむと陶夢斎の名を使って侍たちを騙し、まんまとお札を売りつけた。

おゆきの様子に不安を持った仁助とおせきは、町に下りてきた。
二助は口留めはしたが、本当は祟りではないかと思った。
自分が番人をしているお狩り場には、一体何があるのか。

二助は、藩の家老・脇田に相談した。
しかし、脇田は取り合わなかった。
仁助を追い返した脇田は用人の竹井と、話をしていた。
「誰にも見られていないのだから…」。

通りかかった先生には、おゆきに何かがとりついているのが見えた。
先生が霊視すると赤い炎の中、大勢の人が斬られていた。
だがおせきは先生を嘘つき呼ばわりし、おゆきを連れて出て言ってしまう。
おばさんは、おせきが怯えきってしまっていると言う。

「生きている人間はやりにくい」と、先生は言う。
「嘘をつく、隠す。死んだ人間のように恨みが一筋じゃない」。
「そりゃ生きてる方は、ややこしいもん」。

先生を嘘つきと言ったおせきだが、実はかなり恐怖を感じていた。
仁助にここを出て行こうと言うが、仁助はきかない。
窯ヶ窪に、先生とおばさんがやってきた。
おゆきが家の中からそっと2人をのぞきこむ。

先生は、おせきに、おゆきはおせきの実の子ではなく、川に流された捨て子だと指摘した。
確かにそうだ。
しかしおせきは、そんなことにつけこむのかと怒った。
先生はおゆきは拾われる前に、地獄を見ていると言う。

おせきはそんなことで今の3人の幸せを壊されてたまるか、とさらに怒る。
5年前、窯場で何があった?
先生の問いにおせきは、「修験者なら自分で探れ」と言って、おゆきを連れて家に入ってしまった。

町では赤い雪の噂をしていた村人が、捕えられていた。
責められた村人は、赤い雪を見たのは自分たちと旅の修験者だと先生とおばさんのことを話してしまう。
旅の修験者が怪しい、と脇田は考えた。

隠密ではないのか?
脇田は、修験者と女を捕え、隠密なら舌を切って追い出せと命令した。
紅い雪の噂した村人は殺され、脇田は仁助に、以後、お狩り場に入った者は斬罪とすると言い渡す。

この騒ぎを知った陶夢斎は、いい加減なところで引き上げないからだと、おろおろした。
陶夢斎は実は、一色式部という偽者だった。
脇田は本物の陶夢斎に関わる人間も探し出し、殺すよう指示する。

おゆきの家の前には、おゆきが泥で作った皿が並べられていた。
それを見ていた先生とおばさんの元に、正十がやってくる。
正十によると、窯ヶ窪は今はお狩り場だが、元は陶夢斎の窯があったところだったようだ。

何か掘れば金になるものが出るかもしれない。
陶夢斎のものは、何といっても百両単位で大名に売りつけられそうなのだから。
金儲けになると思って、正十は窯ヶ窪にやってきたのだった。

だが、どうして陶夢斎の窯場がお狩り場になったのだろう。
なぜ、立ち入り禁止になったのだろう。
陶夢斎の一家は、どこに行ったのだろう。

もしかして、殺されてここに埋まっているのではないか?
しかし、金づるになる陶夢斎を殺したりするものだろうか。
正十が先生に言われて土を掘り返し、先生が「見えるぞ」と言った時だった。

銃声が響き、先生と正十は銃撃される。
先生と正十は、隠密と疑われていた。
刑場に連れて来られた先生は、磔にされている死体を見た。
自分を縛る仁助に、何故彼らは殺されたのか、赤い雪を見たからか?と尋ねる。

子供が赤い雪を見ておびえて泣くのなど、当たり前だ。
大した意味はない。
脇田にそう言われたと、仁助は言う。

それを聞いた先生は、二助が赤い雪を見たことを脇田に話したのなら、二助もおゆきも殺される。
親子揃って逃げろと言う。
「どういうことだ!」

先生は言った。
「おゆきは陶夢斎一家の生き残りだ」。
不安になった仁助は、家に走る。

その頃、おばさんはおせきに、真相は先生が来ればわかるから、と説得に当たっていた。
おばさんがいるのを見た仁助はおばさんを追い出す。
その後で、おせきに、おゆきを拾ったのは川だったと言ったな?と問う。

「いつの晩だ?」
おせきは、5年前の初雪が降った晩だと答えた。
5年前。
陶夢斎が、窯をここから引き払った晩だ。

おせきは、「やはりおゆきのことを聞かれたのか」と言う。
仁助は「あの女の連れの修験者に聞かれただ」と話した。
もう間違いはない。

「泥いじりが好きなはずだわな。茶碗作りの孫だものな」。
「赤い雪見て吠えるはずだ。おのれ一家の恨みがこもってるものな」。
だけど、どうして陶夢斎一家は殺されたのだろう。
金を生む、大事な陶芸家のはずだ。

「知らね。だが、突付かない方が無事だ」。
そして仁助は「おゆきを捨てよう」と、言った。
親子の縁を切るのが、自分たち夫婦とおゆきの無事の為だ。

だが、おせきは激しく拒絶した。
おゆきは自分の子だ。
仁助だっておゆきを拾った時、あんなに喜んでいたではないか。
立ち尽くした仁助は「逃げるべ!3人で逃げるべ!」と叫んだ。

刑場にいた脇田と森は斬った陶夢斎の娘が、まもなく臨月だったことを思い出した。
殺される前に、子供を生んでいたのかもしれない。
2人が話し合っていた時、先生が縛られていた綱をはじくように切った。
先生は正十を逃がすと、一緒に走り出した。

銃撃され、正十は悲鳴をあげた。
2人は崖下に落下した。
おそらく生きてはいまい。

脇田は後で遺体を捜すと言って、引き上げた。
しかし、木のつるに捕まって、正十も先生もぶらさがっていた。
若は、おばさんにおゆきのことは放置しておけばよかったと言う。

だが、おばさんは言う。
いつまでたっても口のきけないおゆきが、まともな生活を送れていたとは思わない。
おゆきが喋れるよう、普通の子供の様に過ごせるよう、呪いを解いてやりたい。
若が「おせっかいだなあ」と言う。

するとおばさんは、「人は1人ぼっちでは生きていけないんだよ」と言った。
「みんな、おせっかいし合って生きてるんだ」。
そして若に、一緒におゆきたちを捜して欲しい。
先生のことも探して欲しいと言うが、若は動かない。

仁助一家が危ない。
若を説得していたおばさんだが、それでも若は動かない。
業を煮やしたおばさんは、1人で出て行く。

おゆきが陶夢斎一家の生き残りと確信した脇田は「絶対にしくじるな」と言って、竹井以下、忍びの家来を仁助一家の元へ行かせる。
仁助たちはお狩り場を抜け出して、逃げていた。
険しい山を抜けたところで、脇田の追っ手が迫る。

まず仁助が足を撃たれた。
森の中に逃げ込もうと仁助は言うが、忍びは血の匂いをたどって追ってくる。
渋っていた若だが、今度は逆におばさんを急かして仁助夫婦を探して走る。

仁助はおせきとおゆきに、川に逃げろと叫んだ。
だがおせきは、忍びに捕えられた。
おせきは、おゆきに向かって「川に逃げろ」と叫んだ。

そこでおせきが、斬られる。
おせきが斬られたのを見て、走ってきた仁助も斬られた。
忍びが、おゆきを捕えて引っ張ってくる。

2人が斬られるのを、おゆきはしっかり見ていた。
森がおゆきを見つめ、おゆきの目の前に短刀をかざす。
仁助とおせきがもがきながら、こちらに這ってこようとしている。

おゆきの目を見つめた森だが、一瞬、目を細めるとおゆきに向かって刃を向けた。
森は、仁助夫婦にトドメを刺した。
後始末が大変だが、翌日は狩りなのでその時に始末しようと言って引き上げて行く。
人を殺したという意識は、微塵もなかった。

「ひでえことしやがる…」。
3人の遺体を、正十が見つけた。
先生が、呆然と立ち尽くす。
若とおばさんがやってくる。

「遅かったか…」。
おばさんがおゆきの遺体に駆け寄る。
「おゆきちゃん…、しっかりおし!」

おばさんの叫びに、おゆきが目を開ける。
宙を見つめたおゆきは、声にならないうめき声をあげると空を指差した。
赤い雪が降った。

先生たちの前に、赤い雪が降り、無念の表情で死んでいる仁助とおせきの前に降り積もった。
おゆきももう、おばさんの呼びかけに答えなかった。
先生は赤い雪に呼びかける。
教えてくれ…と。

5年前の夜のことが、先生の頭の中に浮かんでくる。
脇田が森と竹井を連れて、陶夢斎の家、あの窯ヶ窪にいた。
陶夢斎の作ったものを全て買い取る、名誉と思えと脇田が言い渡した。
だが陶夢斎は、自分の作るものは民百姓の為に役立てたいとつっぱねた。

「あくまでも逆らうのなら、しかたがない」。
「一族全て、陣屋に移ってもらおう」。
「永久にな」。

脇田のその言葉を合図に、殺戮が始まった。
斬られながらも陶夢斎の息子は奥の座敷に這っていき、子供を産んだばかりの妻に「逃げろ」と言った。
妻は子供をかかえて、河原に走った。
雪が降っていた。

妻は子供を駕籠に乗せると、川に流して逃がした。
追いついた追っ手は、妻を斬り捨てた。
そして、窯ヶ窪は閉鎖され、お狩り場として立ち入り禁止になったのだ。

仁助は、その番をさせられていた。
何の罪もないのに、殺された大勢の人々。
先生はその声を聞いた。

翌朝、狩りが始まった。
草むらから、鳥が飛び上がる。
それを見て、獲物が見つかった合図がされる。
だがそれは正十が捕まえてきた鳥を、放り投げているのだった。

脇田の周りから式部と森、竹井をのぞいて人が散る。
陣屋の背後に、煙が上がっていた。
「何の匂いだ?」と式部が気づき、脇田が森に見てまいれと命ずる。

陣屋に張られた幕の背後、少し離れたところでおばさんが火を焚いていた。
火であぶった鳥を串に刺し、おばさんは煙を避けながら、うまそうに焼いた鳥を食べている。
煙が上がり、焼いている鶏肉から脂がしたたる。

竹井が飛んで来て、「こんなところで何をしている」ととがめた。
「見ればわかるだろう、お狩場焼きだよ」。
おばさんは焼けている鶏肉をひとつ、差し出すと「うまいよ。どうだい?おあがりよ」と言う。

うまそうな匂いと煙が漂い、竹井は唾を飲み込む。
黙って、おばさんが差し出す鶏肉を受け取って口にする。
かぶりつき、その旨さに竹井はおばさんの前に座って食べ始める。
鳥が吊るされているのを見て、竹井は肉を頬ばりながら「これはおまえが全部ここでとったのか」と聞く。

「そうだよ」。
うつむいていたおばさんが、目を見開いて森を見る。
次の瞬間、食べている竹井におばさんがのしかかって刺す。
竹井がおばさんと転がり、あおむけになり、信じられないといった目をおばさんに向ける。

おばさんの匕首は、しっかり森に刺さっている。
竹井の肉を持つ手が、震える。
おばさんが竹井に刺さった匕首に、全体重をかけて押す。
竹井の手が肉の串を落とし、手が空に向かって開く。
「こうやってね!」

竹井は小さく叫んで、動かなくなった。
おばさんは憎悪の目を森に向けながら、匕首を抜いて拭く。
「簡単だよ!」

異変に気づいた森が、陣屋の裏に向かおうとすると、若が走ってくる。
忍びの頭領らしく、鋭い目つきで構えて斬りかかった森だが、若は剣をかわす。
森を殴り、蹴り飛ばす。

陣屋の幕が、若に蹴り上げられ、殴られる森の影を映し出す。
森はほうほうの体で逃げ出してきたが、若が追いかけてきて殴り飛ばす。
幕から顔をのぞかせて死んでいる森を見て、脇田は「森!」と叫ぶ。

竹井の名を呼ぶが、竹井も少し離れたところで死んでいる。
脇田を少し離れた高台で、先生が見ている。
先生が手で印を結び、その指を馬に向けると、脇田が乗ろうとしていた馬が暴れて逃げ出す。

若が式部を捕まえて、殴り飛ばしていた。
怯えた式部は両手を合わせ、「タスケテエ」と哀願する。
だが若は式部を殴り倒すと、その上にジャンプした。
式部の顔が、地面にめり込む。

逃げた馬を追って脇田が走る。
山道のトンネルの中、馬のいななきが聞こえ、馬が戻ってくる。
その背には先生が旗を構えている。
走ってくる先生と馬を見て、脇田は刀を抜く。

先生が脇田に向けて、旗を投げる。
刀を振り上げた脇田だが、旗の柄が刺さる。
先生が脇田の横を走っていく。
脇田が倒れると、先生は馬を止めた。

地蔵のある道端に、おねむが横になっている。
やってくる正十におばさんは「儲かったかい」と聞く。
茶碗を掘って金儲けをたくらんでいた正十だが、売れた茶碗は16文にしかならなかった。

おばさんに金を配分すると、先生たちは山道を歩いていく。
一瞬、おねむを見た正十だが、先生たちの後をついて走っていく。
全ては終わってしまった。
おねむは地蔵の前で、あくびをしていた。




窯ヶ窪、嫌な場所ですね。
人を殺して隠蔽し、窯を閉鎖して、お狩り場にした。
その上に仁助を住まわせていた。

知らないとはいえ、そんなところに住んでたなんて。
とんでもない事故物件です。
申告してください。
訴えますよ。

赤い雪は、スタッフが相当苦労して作ったと思います。
照明当ててたり、フィルム加工しているそうです。
その赤い雪が、陶夢斎一家の殺害シーンの血と炎に重なる。
CGがあるわけじゃなし、赤い雪には相当苦労したでしょう。

それで、この赤い雪。
ナレーションでは日本における赤い雪の記録は、奈良時代と江戸時代にあると言います。
ほんと!?

死者からのメッセージだろうか。
幼子のポルターガイストだろうかとナレーションが言いますが、ほんとですかー!
赤い雪…、後が大変そう。
屋根も道路も真っ赤…。

仁助は、山谷初男さん。
おせきは、「助け人走る」の文十郎の妹、茶店の看板娘の佐野アツ子さん。
捨て子だった素性を隠し、おゆきとの生活を守ろうとしてる母親。

無残な最期。
今では作られない、子供をまともに刺す展開。
いや、あんなにじっといたいけな目で見ている幼い子を、良くまあ刺せるもんです。
今井健二さんだったかな、悪役でも子供を手に掛ける悪党は演じても嫌な気分だとおっしゃってました。

おばさんが竹井を誘い込んで刺す場面だけ見ると、「こわー」。
本当に、通り魔のようですから。
ですが、経緯を知っていると「やった!」って感じになります。

そのおばさんの殺し。
焼いている鳥、すごくうまそーう!なんです!
竹井が誘われて食べるのも無理はないと思わせるほど、うまそう!

煙といい、したたる脂といい、煙を仰いで避けながらほおばっている市原さんの表情といい。
味が想像できる。
あれじゃあ、貰っちゃう。

こっちも、チキン食べたくなってしまった。
竹井役は、石倉英彦さんという俳優さん。
この方、おばさん・市原悦子さんに「うまいよ」と言われて、喉仏が上下してるんです。

唾飲み込んでるんですね。
「うまそう…」。
「食べたい…」。

脇役に至るまで、演技が細かいじゃないですか!
刺された時の、自分が何を見ているのか、何が起きているのかわかってない目もうまい。
何て言っても相手は、おばさんですから。

自分は武士ですから。
殺されるはずない相手に、ぐっさりやられてるんですから。
目の前で起きていることが、理解できないでしょう。

若に地面に埋め込まれる式部は、梅津栄さん。
後に必殺にオカマさん役でレギュラー出演しますが、ここでもどこか、なよってます。
若に哀願する「タスケテエ」、ちょっと笑っちゃう。

先生は超人的なところ、見せてます。
カッコイイです。
馬を怯えさせる術を使うところも、見せてくれますし。

今回はずいぶん、人が殺されました。
結果、誰も助からなくて、子供まで殺されちゃって、…悲しい話でした。
おゆきちゃんぐらい、助かってほしかった。
良い陶芸家になれそうだった。

あんなに人を殺す原因が、陶器、茶碗です。
それが何百両になろうとも、何かあれば壊れる陶器です。
2つとない貴重なものにしても、お金があれば代用品が買えます。
でも命には、替えがありません。

捨て子であるおゆき。
自分たちを危うくする危険のある子供。
一瞬、おゆきを捨てようと言ってしまう仁助。

だがおせきはもう、おゆきの真の母親。
そんなことはできない。
瞬間、捨てようと言ってしまった仁助だが、やはりそんなことはできない。

3人の親子の絆。
それを無残に切り裂く刃。
脇田も竹井も仁助たちを殺しておいて、「後始末が大変だ」という感想しか持ちません。

やりきれない話です。
さすが?オカルト必殺。
生存者存命率、低い。
市原悦子さんの「怖い日本むかしばなし」、「必殺うらごろし」。

殺しのシーンですが、竹井がおばさんが吊るしてる鳥を見て「お前がとったのか」って聞きます。
その時の吊るされてる鳥さん、くちばし開けてます。
パクパクしてます。

笑っちゃいます。
竹井の死体を見つけた脇田ですが、その時、ちゃんと焼き鳥は撤収されてます。
何で刺されたのか、わからないだろうな。
やりきれない話の、ほのぼのポイントでした。


お見舞い申し上げます

ひどい災害が続いています。
被害に遭われた皆様に、お見舞い申し上げます。
1日も早く、平穏な生活に戻れますよう、お祈りいたしております。


つらい仕事でした 「新・必殺からくり人」第5話(2/2)

旅籠では、小駒がお咲を風呂に入れてやっていた。
「あつぅい」。
「熱い?」
そっと、小駒の後ろの窓が開く。

黒づくめの男たちが3人。
目配せして、入り込もうと廊下に回る。
その時、男の一人、乙吉の足の指の付け根に刃物が刺さった。
血がにじんでくる。

思わず、乙吉は刃物をつかんだ。
刃物は、戸の向こうから突き出されていた。
すっと刃物が、引っ込んでいく。
乙吉は思わず、手を離した。

戸が開き、蘭兵衛が姿を現す。
刺された乙吉は地面に転がる。
男たちは蘭兵衛に刃物を向け、後ずさりしていく。

「生き証人のお咲坊を消そうってわけか」。
「盗人稼業もなかなか骨が折れるなあ」。
男たちがドスを手に、かかってくる。
だが蘭兵衛には、まったく歯が立たない。

「覚えてろ!」
男たちが逃げていく。
騒ぎに気付いた小駒が「蘭兵衛さん」と窓から顔をのぞかせた。

「後を頼むぞ」。
男たちは茶問屋・壺屋へ逃げ込んだ。
蘭兵衛が後を追って来て、確認した。

店の奥、座敷では春之助が三味線を弾いている。
「旦那さま」。
「申し訳ございません。仕損じました」。
「そう」。

春之助が、スッと立ち上がる。
そして岩蔵の頬を、パッと打った。
だがその手の勢いは、途中で失われる。

春之助は、岩蔵のドスを手に取る。
岩蔵は身動き一つしない。
ドスを見た乙吉が、すがるような目で春之助を見た。

春之助が、ケガをしている乙吉の手を取る。
取られた乙吉の、手が震えている。
春之助は、一気にドスを乙吉に突き刺す。
「死んだおとっつぁんが良く言ってたっけな」。

「盗人は、臆病でなきゃ勤まんねえって」。
「度胸の良い盗人は、覚悟の上じゃ死ねねえって」。
乙吉が絶命すると岩蔵が「散りますか」と聞いた。
「ああ、みんなに金を分けてくれ。いつものようにここを出よう」。

お艶が呼ばれたお座敷で、三味線を弾いている。
乱痴気騒ぎの座敷だが、お艶の目には何も入っていないようだ。
酒を持ってきた旦那にも、身じろぎもしない。
おもしろくない旦那は、悪態をついて下がる。

お艶は、春之助の目を思い出していた。
歌っているお艶の目が、悲壮な色を帯びてくる。
蘭兵衛が、ブラ平に報告している。

間違えない。
標的は、春之助だ。
「蘭兵衛さん、あそこの旦那はうちの座長の…」。
「だからあんたに頼むんだ。壷屋・春之助の正体を見極めてくれ」。

ブラ平が立つ。
小判が一面に貼りつけられた赤い腰巻を、男たちが身に巻き付けて行く。
番頭の岩蔵を除く男たち4人が、女装をしている。

岩蔵が、小判が入った手ぬぐいを渡す。
春之助が鏡に向かって、紅を塗っている。
天井裏に潜んだブラ平がそっと板を外して、のぞく。

ブラ平がお艶たちのところに、帰って来た。
「春之助は女ですよ」。
お艶が仰天する。

「奴は男ですが、絵の中じゃ女なんです」。
「一家皆殺しの盗みをやっちゃ、女に化けて取り締まりの網を潜り抜ける」。
「ご覧なさい」。

ブラ平が、広重の「府中」の絵を見る。
絵には、川人足に担がれた籠の女の顔がある。
こちらを少し、振り向いているその顔。
「これはどう見たって、追われる女の顔ですよ」。

春之助の美しい女姿。
お艶は、三味線を教えていた春之助の姿を思い出す。
愕然とする。
しかし立ち上がって言う。

「ブラ平。ついとくれ」。
「へい」。
「俺も行こう」と蘭兵衛が立ち上がる。
塩八が「あっしも」と言うが、蘭兵衛は「おめえは小駒ちゃんとお咲ちゃんを頼む」と言った。

闇の中、3人が歩く。
お艶、ブラ平、その背後を蘭兵衛。
壷屋の裏木戸が開く。
女が姿を現し、表を歩くお艶を見て、また中に入る。

路地の向こうには、お艶が三味線を持って歩く姿がある。
お艶とブラ平がいなくなると、再び女が出て来る。
誰もいないのを確かめて、外に小走りに出る。

壺屋からは、4人出てきた。
表通りに出る寸前だった。
ぎゃあっ。
先頭にいた男が声を上げ、笠が宙に舞った。

蘭兵衛が走って来る。
ドスを振り上げて応戦しようとした1人が、アッサリ斬られる。
返す刃で、残りのドスを振り上げた1人を斬る。

ブラ平が走って来る。
蘭兵衛は逃げる。
壺屋では岩蔵が「お頭、さあ、まいりましょう」と声をかけた。

岩蔵が戸を開ける。
春之助が出ようと外を見て、「お師匠さん…」と言う。
驚いた春之助が、戸の影に隠れる。

お艶が、蘭兵衛と立っている。
岩蔵が戸を閉めようとする。
お艶がバチを投げる。
バチは戸の根元に突き刺さり、戸は閉められなくなった。

ブラ平が、ろうそくを手に立っている。
お艶の手が伸びて、ゆっくりとバチを抜く。
「春之助さん。命をもらいにまいりましたよ」。
春之助が真っ青になる。

女装した手下が突然、ドスを手に突進してきた。
お艶が軽々と避ける。
蘭兵衛が手下の正面から、仕込み杖を刺す。
男が倒れる。

ブラ平が、油を口に含む。
春之助が、岩蔵の背後に隠れる。
岩蔵が手を伸ばし、春之助をかばう。
「見逃してやってくれ」。

「若旦那だけは見逃してやってくれ。俺は先代からこの子の命を預かってるんだ」。
「命だけは助けてやってくれ」。
春之助が逃げていく。

ブラ平が炎を吹いた。
ぎゃあああと、岩蔵が悲鳴を上げた。
「うわあああああ」。
岩蔵の絶叫が響く。

蘭兵衛が黒子の衣装をめくり、顔をのぞかせた。
座敷には、春之助が座っている。
ブラ平が店から出て行く。
フッと、ろうそくの灯を消す。

春之助の三味線が響く。
廊下でお艶も三味線を弾く。
お艶のシルエットが、障子に映る。
三味線の音が響く。

お艶が姿を現す。
春之助はこちらに背を向けて、三味線を弾いていた。
やがて、三味はやんだ。

春之助がバチをひらめかせた。
キッとお艶を睨む。
立ち上がり、走って来る。
くるくると、舞うように体を回転させる。

相手を惑わすためのその舞いは、お艶には通じなかった。
お艶のバチが、春之助の首元に刺さった。
春之助の目が、虚ろになる。

お艶が手ぬぐいで、バチを押さえる。
バチを抜く。
春之助は今度は、逆向きに回転していく。
そして倒れる。

お艶が近づく。
手ぬぐいで、春之助の顔を覆う。
部屋の隅には鏡台と化粧道具があった。

翌朝。
お艶は、川人足の担ぐ輿に乗って川を渡る。
すでに渡って、お艶を待っている小駒が手を振る。
ブラ平と塩八、蘭兵衛もいる。

『広重さん』。
『府中の仕事も終わりました』。
『今際の際の、春之助の三味線。今も耳元に聞こえます』。

『それは男と女。人と生まれた哀しみを超え、天を恨む音とも聞こえました』。
『つらい仕事でした』。
『お艶。他、一同』。

広重の東海道五十三次「府中」。
人足に担がれた籠に乗った女。
こちらをちらりと振り返る女の顔が、少しだけ見えている。
それは逃げる女の顔…。


「人の一生は旅に似ていると言いますが、本当にそうでございますね」。
緒形拳さんの安藤広重の声で始まる、「新・必殺からくり人」。
やっぱり良い声、良いナレーション。

なぜ、突然「新・必殺からくり人」なんだ!
突然、しかも5話から。
自分でもよくわかりません。
たまたま見たからです。

「新・必殺からくり人」、あの名作「新・必殺仕置人」の後番組だから大変だったと思うんです。
闇の世界の住民の生き様と死に様を描いた集大成みたいなラストでしたから。
この後、同じようなことをするわけにもいかない。

そこで、東海道五十三次殺し旅。
発想がすばらしい。
実在の人物と、実在の絵画を使っている。

永谷園のお茶漬けに入っていた、東海道五十三次の絵。
私なんか単純なんでこのシチュエーション、すっと入って行けたわけです。
それで見直すと、「新・必殺からくり人」おもしろいんです。
人と動物の絆が胸を打つ話があったり。

「暗闇仕留人」の糸井貢は、高野長英門下の秀才でした。
この蘭兵衛は、その師匠の高野長英なんです!
貢は、仕留人としては相手は十分、殺す理由はある。
だが、もしかしたら別の側面もあるかもしれない。

誰かの愛する人、誰かの必要とする人、そう言う人を自分は一面だけ見て殺しているのではないか。
自分たちがやったことで、世の中変わったか?
不幸になる人を増やしただけじゃないのか?
すごい、答えが出ないことを悩んだわけです。

だけどその師匠の高野長英さんは、あっさり逃亡するために裏の稼業の人間となりました。
そして、またまたあっさりと裏の仕事をこなしていくのでした。
貢さーん、悩むことなかったのよー。
割り切れなかった貢さんは、やっぱりこういう仕事には向いてませんでしたね。


さて、この5話のすごいのは、何と言ってもピーターさん。
「必殺からくり人血風編」でからくり人側を演じていました。
その時も男っぽさと、女性と見まごうばかりの妖艶さを生かしていました。

しかしこの春之助はその上を行く。
ピーター七変化が見られる話。
それも、女に化けて逃げる盗賊だから。

この存在に説得力を持たせるのは、ピーターさんという存在。
春之助はこの人にしかできません。
冒頭の5分で、春之助と言う男がどういう男か、完璧にわかります。
この構成、見事です。

子供に三味線を弾いて聞かせる。
これは和ませるために弾いているのではない。
聞いている子供が、どれほど怖いかわかっていて弾いている。
この子、もう一生、三味線聴けませんよ。

そしてためらいもなく、指差す。
殺せ、と。
その美しい指先で。
美しく、残忍な悪魔・春之助。

超絶に美しい者が持つ、傲慢さを確かに持っている春之助。
春之助は小駒には、これっぽっちの興味も持っていない。
一方の小駒は、どうしようもなく春之助に惹かれて行く。
蘭兵衛とは、似ても似つかないのに。

一方、蘭兵衛はトラウマを抱えて心を閉ざしたお咲も懐くほどの健全さ。
この頃の近藤正臣さんの良い男ぶりったら、ないですね。
蘭兵衛が健全であればあるほど、春之助の悪は際立つ。
この2人の交流は、陰惨な話の中、とても微笑ましい。

お咲ちゃんですけど、頭おかしくはなかったですね。
怯えていただけ。
もうお咲を追うものはいなくなったし、あの旅籠で、幸せになれた。
そう考えたいです。

もう一つ、ほほえましいというか笑えるのは、広重の描いた女に会いに来たという塩八と太夫のシーン。
太夫はアキ竹地さん。
広重が描いていったのが本当なら、この鬼太郎太夫との時間がすごく楽しかったんだと思いますよー。

さて、小駒はまるで吸い寄せられるように春之助に会いに行き、そして恐怖して帰って来る。
春之助は小駒を震え上がらせて、返した。
そんなことしなくても良かったかもしれない。

ではなぜ、そんなことをしたか。
二度と自分に会いに来ないように。
春之助が小駒をお艶の娘だとわかっていたから、返したのか。
お艶へのせめてもの、礼儀だったのか。

もしくは、あまりに子供過ぎて春之助の相手にならなかったせいか。
小駒もどこかでそれを感じていたから、
あんたなんか嫌いよと言ってしまうぐらい子供ですから。

春之助が殺した女性が、見えるよう。
魅入られて、誘われるままに心中話に乗り、そして殺された。
おそらく、この女性は春之助の魔性を解放するために必要なきっかけだったにすぎないでしょう。

愛してもいなかったはず。
ただ、人を殺したかったのではないか。
ここで魔性を解き放った春之助は、外道の盗賊の頭となる。

若旦那だけは助けてくれ、という岩蔵。
大林丈史さんが演じています。
あんなに人を殺しておいて、何が若旦那だけは助けてくれ、なのだと思ってしまう。

聞きようによっては、若旦那に尽くすけなげな番頭。
この子の面倒を頼まれたって岩蔵は言ってますけど、春之助見ると邪推してしまいます。
岩蔵は、春之助に惚れていたのではないか。
春之助は、岩蔵を惚れさせていたのではないか。

発見された壺屋、春之助たちは、どう思われたでしょう。
女装しているし、腰巻に小判は貼り付けられているし。
これが盗賊一味で、仲間割れ…ということで片が付くのでしょうか。

最後の、お艶との三味線の二重奏。
師匠とこんな再会と別れになる、お艶にはまさに恨みと哀しみの三味の音となる。
殺陣も美しい。

お艶の知っている6歳の春之助はただ、愛らしく、才能のある子供だったのかもしれません。
だとすると、春之助は、どういう人間なんでしょうね。
芸の道に生きたかったのに、盗賊の頭の子供と生まれて、それがかなわなくて道を誤ったのか。

自分では抗えない悪の欲望を心の底では、嫌悪し、哀しんでいたのか。
美貌の悪であることを、楽しんでいたのか。
お艶の最後の言葉からは、そんなどうしようもない魔性の人間として生まれてきたことを恨んでいたように思えます。

誰かが殺さなければ、いけなかった男。
いろんなものを感じとる才能があった広重は、春之助の妖気を十分に感じたはず。
迷わず殺してくれと、言いたくなったでしょう。

お艶さんだから、対抗できたようなもの。
生半可な女優だったら、霞んでしまったかも。
それほど、この春之助は危険に魅力的。

春之助の美しさ、怖さ。
狡猾さ、残酷さ、冷酷さ。
悪党ぶり。
男ですけど、春之助は「必殺」シリーズを代表する魔性の女と言えましょう。


安部川渡しのこの女。迷わず殺ってください 「新・必殺からくり人」第5話(1/2)

「新・必殺からくり人」、第5話「東海道五十三次殺し旅 府中」。


大きな庄屋の屋敷だった。
闇をつんざいて悲鳴が響く。
壁、障子、いたるところに飛び散る血。
廊下にも血が落ちている。

次々と殺されていく人。
奥座敷には、小さな女の子がいた。
6歳になるお咲。

押し入って来たのは、頬かむりの男。
ちらりとのぞいた顔は、凄絶なまでの美青年だった。
男の名は、春之助。

怯え切った子供は、布団を頭までかぶる。
それを見た春之助は、フッと笑った。
傍らにある三味線を手に取る。

頬かむりを取り、三味線を弾き始める。
累々と横たわる死体に構わず、手下たちは千両箱を運び出している。
歌声が響く。
かなりの歌唱力だった。

子供がそっと、布団から顔を出す。
「お頭」。
「済んだのかい」。
三味線の音が止まる。

「へい。引上げやす」。
「乙」。
「へい」。

お頭と呼ばれた春之助は、すっと美しい手から人差し指を突き立てた。
すうっとその手が、移動し、子供の布団を指さす。
ふとんを握りしめている子供の手は、小刻みに震えている。

じいっとそれを凝視する春之助の顔には、何の感情もない。
指は布団を指さしたままだ。
「へい」と手下が返事をし、子供に近づく。

春之助は立ち去る。
乙吉と呼ばれた男が、お咲を布団から引きずり出す。
お咲の首に手がかかる。

「おじちゃん殺さないで、いやあっ」。
お咲が絶叫する。
「殺さないで!」

関所に、お艶一行が差し掛かる。
旅人の取り調べが厳しい。
噂では庄屋一家に盗賊が押し入り、皆殺しにしたせいだという。

役人が、小駒に目を留める。
「お前も芸人か」。
「はい。駒を使います」。

「やってみろ」。
「お断りします」。
「何」。
「あたし、大道芸人じゃございません」。

お艶のところに逃げ込んだ小駒に、お艶が静かに首を横に振る。
仕方なく、小駒は駒の準備をする。
塩八が口上を述べ始める。

「はいっ」。
小駒の声とともに、駒が飛び、役人の刀の柄に止まる。
「おおっと、そのまま、動いちゃいけないよ」。

小駒が言う。
「動くと駒が飛び上がり、目に突き刺さります~」。
お艶、塩八がフッと笑う。

ブラ平が旅籠で、お艶と落ち合った。
ここ、駿府でもお上の目が光って、芸人にはやりづらい土地になっているが、それは表向き。
江戸で有名な泣き節お艶なら、ぜひ聞いてみたいとお座敷がかかっている。

蘭兵衛がやってくる。
安藤広重の絵に描かれた女を探したが、うまくいかないのだ。
自分はこういう仕事は向かないとぼやく。

お艶は「川人足は、当たってみたんですか」と言う。
「あ、なるほどなあ。そういう手があったなあ」。
蘭兵衛の言葉にお艶があきれて「幸せな人ですねえ、あなたも」と言う。

安部川の川渡し人足には、塩八が当たった。
江戸で有名な安藤広重の絵に描かれた、この女に会いたい。
塩八はそう言った。

その絵に描かれた女は、川人足の担ぐ輿に乗ってこちらを少し、振り向いていた。
絵を見て人足たちは「立花屋のおもん」。
「いやいや、おもんじゃねえ、おもんはもっと丸顔じゃねえか」。
それぞれに女の名前を言っていく。

妖艶な美女が、歩いていく。
女は、茶問屋の壷屋に入って行く。
「おかえりなさいませ」。

番頭の岩蔵が挨拶をする。
女は、あの盗賊の頭・春之助だった。
番頭もまた、あの夜の盗賊の一人だった。

春之助は、途中で取り調べにあったが、女ということで見逃してもらったのだと言った。
役人なんて、ちょろいものだ。
「乙吉のことですが」。

「知ってるよ。娘が1人だけ生き残った。その娘の始末を私は乙吉に頼んだんだけどね」。
蔵では乙吉と呼ばれた男が、吊るされ、折檻されていた。
春之助がろうそくを片手に、近づく。

「いいかい、乙吉。あの子は私の顔を知っている」。
「3日のうち。3日のうちに必ず見つけ出して、始末をつけるんだよ」。
「わかったかい」。
春之助がそう言うと、乙吉は解放された。

お艶が座敷に呼ばれ、喉を披露している。
それを聞いた春之助が、仲居に「誰だい、あの三味線は」と尋ねた。
「今朝方、駿府についた江戸の芸人だそうです」。
「江戸の?」

春之助が、あの芸人を呼ぶように言う。
「番頭さん、一足差に帰ってもらえないか。私はあの人と話がしてみたい」。
「泣き節のお艶さん」。

お金を握らされたブラ平は、お艶にもう一つ、座敷に行ってほしいと頼む。
だがお艶は3つも座敷を回ったと言って、断った。
小駒も眠いと言った。

お艶が帰って行く。
その時、廊下に三味線が聞こえて来る。
耳にしたお艶が足を止める。

お艶の指が、三味線の弦をなぞるように動く。
自然と、歌が出た。
三味線が止んだ。

「お師匠さん、7年ぶりでございます」。
戸が開き、春之助が頭を下げた。
「春之助です。ご無沙汰して申し訳ございませんでした」。
「ご無沙汰はお互い様だけど、まああんた、何でこんなところに」。

「ここは私の生まれ故郷でございます」。
「もともと、6つの頃から江戸育ちですが。父の家が江戸にもございましたので」。
「お父さんは」と、お艶が尋ねる。
「はい、一昨年こちらで亡くなりました」。

「そう、気風の良い男だったのに」。
廊下に立っている小駒の目が、春之助をとらえる。
目を伏せ、しかし今度はもう一度、しっかり春之助を見る。
「小駒、お前、ブラ平と一緒に帰っていいよ。眠いんだろ」。

「ううん、眠くないもの。いじわるね、おっかさん」。
お艶は小駒に、春之助のことを紹介した。
春之助は、6つの時からお艶のところに稽古に通っていた。

空恐ろしいほど、覚えが早かった。
おまけに人形のように愛くるしかったから、ずいぶんみんなに騒がれた。
お艶もこの子は、江戸の浄瑠璃のために生まれてきた子だと熱心に仕込んだ。

「あれはいくつの年だった?」
お艶の言葉に春之助が「18でございました」と答える。
「そう」。

だが18の時に、春之助は神隠しのように姿を消した。
「春ちゃん、いえ春之助さん、あれはいったい、どういうことだったの」。
「今日こそ、わけを聞かせてもらいますよ」。

「それより、どうしてこんな駿府くんだりまで」。
春之助の問いにお艶が「だってもう、江戸はあたしたちのいるところじゃないもの」と言った。
「あの御改革が…」。

小駒が「ダメよ、話がずれてる」と割って入った。
「どうしてあなた、三味線をやめたんですか?」
春之助が流し目をする。
「…女を殺したんでございますよ」。

「えええ?」
「殺した?」
「18の年に心中の真似事をしましてね、女だけが死んじまったんです」。
春之助の妖艶な目が、ふと、笑ったようにも見えた。

旅籠で、塩八が広重の東海道五十三次の「府中」の絵を見て言った。
「この女はほんとに何なんですかね」。
「今度ばかりは、広重先生の早とちりってことはねえんですか」。
お艶が絵を、火鉢の火にかざす。

すると、川人足に担がれた籠に乗った女が赤く浮かび上がった。
『お艶さん。安部川渡しのこの女。迷わず殺ってください』。
『ただし女の正体には、様々な風評があります』。
『落とし穴には、十分ご注意を。昔から、人は見かけによらぬものと言いますから』。

その時、本を読んでいた蘭兵衛の目が、鋭く光った。
横のふすまに走り、戸を開ける。
中に潜んでいた者の腕をつかみ、引きずり出した。
すかさず、お艶がバチを振り上げる。

畳に転がされたのは、お咲だった。
ハッとしたお艶が、バチを引っ込める。
「何だい、この子は!」
あわてて声を上げた。

「おうい、ねえさん、ねえさん」と塩八が旅籠の者を呼びに行く。
蘭兵衛が子供に「痛くしちゃったな」と、肩に手を置いた。
だが子供は怯え切って、口もきかない。
塩八が、宿の仲居を呼んできた。

「こんなところに隠れてて、お咲ちゃん、さあ、行きましょ」。
「すみません」と、お艶たちに仲居が頭を下げた。
「どうして押し入れの中に隠れていたの」と、お艶が聞く。

「この子ちょっと、かわいいそうな子なんですよ」。
「ここの女将さんの遠縁なんですけど、盗人に襲われましてね、家中皆殺しにされましてね」。
仲居の口から語られたのは、怖ろしい話だった。

「だからここで引き取ってからも、何かあったというと、すぐ暗いところに隠れちゃうんですよ」。
「でもここが」と、仲居は自分の頭を指さす。
「おかしくなってますからね、人様の話は何にもわかんないんですよ」。

仲居は「お騒がせしてすみませんでした」と言って、お咲を連れて行った。
「人様の話は分からない?」
お艶は疑問を持った。
蘭兵衛に、「今の話、本当かどうか確かめてくれませんか」と言う。

お咲を肩車した蘭兵衛が、町に出る。
面をかぶった飴売りが太鼓をたたいてやって来る。
お咲は怖いと叫んだ。

「こわい、こわいよ」。
「どうした。大丈夫だ」。
蘭兵衛は飴屋に「一本くれ」と言って飴を買った。

「大丈夫だよ、お咲坊」。
面をかぶった飴売りは去っていく。
「うまいか」。
「うん」。

お咲を肩車して通りがかった蘭兵衛を見て、店の中で帳面をつけている手が止まった。
ぎゅっと、向かい側の手を握る。
それは岩蔵と春之助だった。

春之助が手下を呼び、後をつけさせる。
蘭兵衛とお咲は、川のほとりにやってきた。
後をつけていく手下。
川に笹船が流れて来る。

「お咲坊、そんなに人前に出るのが怖いか」。
「それで押し入れの中に入っていたんだな。よほど怖い目に遭ったんだなあ」。
ちらりと蘭兵衛が、横を見る。

「そうか、お咲坊、何も覚えていなかったんだな」。
お咲がうなづく。
蘭兵衛が、、石を手に取り投げる。

投げた石は、木の前にいた手下に当たりそうになった。
驚いた手下は逃げていく。
手下が逃げるのを見た蘭兵衛が「さあ、行こうか」とお咲に声をかける。

「ふう」。
小駒が空を見てため息をつく。
「何だい、ため息なんかついたりして」。
洗濯をしている塩八が言う。

「ひどいねえまったく、あんないい男生まれて初めて見たって、それじゃあたしの立つ瀬がないでしょ」。
「だって本当だもん。本当にいい男なんだもん」。
「あのね、小駒ちゃん、あたしの目をじーっと見てごらん」。

「本当にいい男って言うのは、あたしのような男を言うんだよ」。
塩八を見ている小駒の目が、とろんとし始めた。
だが次の瞬間、「ばかばかしい!」と言って立ち上げる。
「ああー、まだ修行が足んねえな」と、塩八がぼやいて洗濯に戻る。

小駒は、茶問屋・壺屋に行く。
「ごめんくださあい」。
出てきたのは番頭の岩蔵だった。
小駒がガッカリする。

当方は小売りはいたしませんと言われて、小駒は出て行く。
帰りかけて小駒はやっぱり、戻ってきて「あの、旦那様はいます?」と聞いた。
「旦那?」
「春之助さん!江戸の小駒が来たと言ってちょうだい」。

小駒は、座敷に通された。
奥で春之助が茶をたてている。
小駒がその姿を見て、うっとりする。

「どうぞ」。
小駒の前に、茶碗が置かれた。
「ありがとうございます。あのお、これ、どうやって飲むんですか」。
「お好きなように」。

「そう」。
小駒は両手で茶碗をつかんで飲む。
うっ、苦いという顔をして、茶碗を置く。
その間、春之助は全くの無関心だった。

イライラした小駒が突然、「私、あんたなんか嫌いよ」と言う。
「でもね昨夜の話で、ちょっと気になることがあったから聞きに来ただけよ」。
「ほう、一体何でございます」。
「心中したって言ったわね。あれは、嘘ね」。

「噓?」
「それはいったい、どうしてでございますか」。
「だって本当に心中したのなら、江戸じゅうの噂になるはずだわ」。
「おっかさん、何も知らないって言ってたもの。嘘に決まってます」。

「もみ消したのでございます。死んだ父が大金を使いましてね」。
「それでなきゃあ、私なんかとうの昔に島送り。女一人を殺してるんでございますからね」。
「それより、私がなぜ心中をしたのか、聞きたくはありませんか」。

「聞きたいわ」。
「新内のため」。
「新内のため?」

「昔、お師匠さんに言われましてね。お前はまだ子供だから、本当の芸はわからない」。
春之助の美しい顔は、相変わらず無表情だった。
「浄瑠璃のお手本、男と女の命がけの気持ちをまるでわかっちゃいない」。

「少しばかり器用に歌えるからと言って、うぬぼれちゃいけないよって」。
そこまで言うと、春之助は小駒をちらりと見る。
「それで女を殺してみたんです」。

「殺してみた…」。
「この世に別れを告げる時、男と女はどういう気持ちになるのか」。
「何をするのか。そのわけを知りたいと思いまして」。

その言葉には、何の感情もこもっていなかった。
女を一人、殺したと言いながら、そこには何の情もないようだった。
春之助が、小駒を見る。
小駒が凍り付く。

まるで蛇に睨まれたカエルのように、身動きができない。
「旦那さま」。
岩蔵の声がする。
「ちょっと失礼」。

春之助が廊下に出る。
その途端、まるで呪縛が解けたように小駒が動く。
横向きに腰を抜かしたように、小駒が膝を崩した。

岩蔵が春之助に囁く。
「娘の居所がわかりました」。
「どこなんだ」。

「安倍川町の旅籠です」。
「早い方が良い」。
「今夜中に娘を片付けるんだ」。
岩蔵も、乙吉もうなづく。

塩八が走る。
お艶に去年、広重先生が来た時、3日3晩その女の絵姿を描き続けたらしいと報告に来たのだ。
標的が見つかったかもしれない。

お艶は、蘭兵衛に塩八と一緒に確認しに行ってほしいというが蘭兵衛は断る。
今夜はこのお咲坊と一緒だと言うと、蘭兵衛はお手玉を手にお咲と外に行ってしまう。
仕方なく、その女には塩八だけが会いに行くことになった。
その女と言うのは、花街で太夫をしているらしい。

お艶とブラ平が旅籠を出て行く時、小駒が走ってやってくる。
「小駒」。
「おっかさん」。
小駒は、息を切らしている。

「春之助さんって怖い人…」。
そう言って小駒は、ふらふらと階段を上がって行く。
お艶は首をかしげながらも、出て行く。

塩八は江戸から、広重の描いた絵の女を見に来た酔狂な旦那に扮していた。
絵に描かれたという、太夫がやって来た。
しかしその太夫は重量級の巨大な体をしていた。

「あんた、本当に安藤先生ごひいきの?」
唖然とした塩八が聞いた。
「やんだねえ、江戸の人はいつもこれだから」。
太夫は豪快に笑うと、塩八を組み伏せた。