伊藤潤二の猫日記 よん&むー。
ホラーマンガ家・伊藤潤二さんの飼い猫との日々を描いた愛猫マンガ。
タッチがホラーなので、落差に笑わずにいられない。

第3話では、猫じゃらしを使って遊ぶ光景が、まるで何かを攻撃しているかのように描かれてます。
ホラーマンガの本領発揮は第5話「よんはやっぱり変な顔」。
締め切り間際の徹夜で、頭がもうろうとしたJ。
顔を洗おうとして廊下に出て、「はっ!」とする。

廊下には椅子の足より大きな、なめくじがいたのであった!
ヌメー。
そのヌメヌメ、ヌラヌラした質感。
長く尾を引く影と、触覚。

「ひょ~っ!」と悲鳴上げたJ。
しかし、それはよく見ると、長く伸びた「よん」の寝姿であった。
『な…、なんだ、「よん」か…。でっかいナメクジに見えた…』。
『俺も相当、疲れてるな…』。

ピクリと耳がJの方を向き、フワーっと大きくあくびをした「よん」。
(すごい、こういう顔になる、猫のあくびは)。
むにゃむにゃと手をなめだし、ペロペロペロと大股を開いて肢をなめる。
(ちゃんとお尻の穴まで描写…まっ)。

「いい気な奴。人が徹夜してるってのに」と言ってJは廊下を歩いていく。
すると、スタスタスタスタと、よんが歩いて来る。
その目がギラリと輝く。
「!?」

次の瞬間、Jの横をシュルシュルシュルシュルと通って行ったのは!
背中に「ドクロ」の模様をつけた、異形の蛇。
ツチノコであった!

「出た!ツチノコだ!」
「A子、ツチノコだ!」
「早く捕まえろ!」

「何言ってるの、あれは『よん』だよ」。
眠い目をこすりながら廊下を見たA子は言った。
「な…、なんだと。はっ。またしても幻覚」。
「にゃあああ」と、よんが鳴いた。

顔を洗うJを横で見ているのは、むー。
ブクニャンという声に、「よかった。むーは、やっぱり『むー』だ」。
「お前はおっとりしてて可愛いね」と、抱き上げる。

ゴロゴロ言っていた「むー」だが、突然、カッと目を見開くと、ガブッ。
Jの指に思い切り、噛みついた。
「まあ、『むー』は猫らしい可愛さがあるから許す…。本気で噛むが」。

「問題はやはり、『よん』だ。あれは本当に猫なのか?」
そっとテレビのある部屋をのぞく。
すると、背中に3つの丸い模様があるおっさんが、座っている。
「だ…、誰だ!?あのおっさん」。

「あっ…」。
次の瞬間、おっさんは「よん」になった。
Jは、疲れているのだ。

必要なのは、癒しだ。
すると、背後で声がする。
「ニャー」。
「よん…」。

突然、よんがJの膝に飛び乗った。
クルン、と腹を見せる。
「な…、なんだ。どういう風の吹き回しだ…」。
Jの額に、汗がにじんでくる。

ブルン、ブルン、ブルン。
よんの顔と、ブルン、ブルン、ブルン、という音。
Jのよんを凝視する目にも、それは響いて来る。
(ほとんど、ホラー)。

『奇妙な時間が流れた』。
『そう…、それは例えるなら、「そういうムード」だった』。
ブルン、ブルン、ブルン。

音を立てている「よん」に、Jは小指を差し出す。
「よん」が口を開ける。
(うわあ、本当に猫の口元ってこんな感じ)。

舌がのぞく。
Jの指が接近する。
チュボッ。
音を立て、よんがJの小指を口にした。

チュッチュッ、チュッチュッ。
よんがJの指をかかえ、赤ん坊のように吸っている。
『それは初めてのチュッチュだった…。今までA子にしかしなかったチュッチュ…』。
『よんのザラつく舌が私の疲れた小指を熱く包み込み…』。

『まるで鼓動のように静かに…、そして熱く!』
『しかし…、それはあるいは幻なのかもしれなかった…』。
(…、なんだこれ…笑)。

よんちゃんの鼻。
その周りのヒゲと、ヒゲが生えている皮膚というか、毛の部分の描写、見事です。
舌といい、毛といい、リアルです。

体温があります。
息までかかって来そうなリアルさ。
猫に指をなめられた時の感触が、蘇ってきます。

うれしいはず。
待ちに待った瞬間のはずのJは、目を閉じ、あきらめたような表情。
まるで、女性に逃げられたような、傷心のようなシーンなのが、おかしい…。

いやいや、伊藤潤二さんの発想ってすごい。
描写もすごいですが、発想もぶっ飛んでます。
よんは確かに白い猫だけど、ナメクジに見える?

ツチノコになる?
おじさんに見えることが、あるのだろうか。
確かに、おじさんっぽい時もありますけど…。

そういえば、映像化された作品もありますね。
中でも、よくこんな発想するな、と思うような作品が映像化されているそうです。
どんな作品になっているのか、その映像が気になりだしました。

私がマンガを読み始めた頃、ホラーマンガと言ったら楳図かずおさんでした。
当時はホラーとは言わずに、「恐怖コミックス」「怪奇コミックス」と書いてあった気がします。
近所の友達がマンガたくさん持ってたんですが、楳図かずおさんのマンガもいっぱい持ってた。

良く借りたものですが、机の上に置いてるのも怖かった。
顔の半分に、グロテスクなもう一つの顔ができていたり。
夜ごとに庭にあるお墓から、ゾンビのようになった娘がやってきたり。

借りておいて、家にあって怖くないの?とか失礼なこと聞いてました。
何で怖いの?って言われましたが。
大人になって、本人を見た時は別の驚きがありました。
その後、メルヘンチックな家を作ってそれにも驚きました。

「まことちゃん」というギャグマンガがヒットした頃には、「怖いマンガも描いているのですね」なんて言われたそうです。
私たちが楳図さんのマンガに怖がりながらも魅了されたように、伊藤潤二さんも人を惹きつけているのでしょう。
その非凡な画力、表現力はこの愛猫マンガにも十分、生かされているのです…。
また描いてほしいものです。


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2017.06.21 / Top↑
ちょっと前ですが、Eテレで、伊藤潤二というマンガ家の特集をやっていました。
ホラーを描いていて、ひとつの絵が完成されるまでを追っていましたが、その緻密さ。
こだわりと出来栄えのすばらしさに、思わず見入ってしまいました。
虫が嫌いな私には、自分で描いていて、おぞましくならないのかなあと言うぐらいの緻密さでした。

その伊藤さんが描いた、猫マンガ。
「伊藤潤二の猫日記 よん&むー」。
表紙があの緻密なタッチの猫。
しかし、ホラー風味!

猫の顔が怖い。
特に怖いのが、向かって左側の猫。
よんちゃんと言うそうです。

猫だけじゃない。
主人公のJくん、伊藤潤二先生の顔も怖い。
婚約者、のちの奥さんになるA子さんも、常に白目をむいている。

でも表紙をめくった後のカラーページの、2匹の猫はかわいい。
伊藤先生の愛情が感じられます。
日記は、JくんとA子さんが新築の家にやってくる。
そしてA子さんが実家から「よん」という猫を連れて来ると言ったところから、始まります。

第1話「むー登場」。
Jは新居を購入した。
貼りたての白い壁紙。

ピカピカの床。
かぐわしい新築の香り。
そしてこの新居には、Jの婚約者A子がいる。

しかしまもなく、宅配便が届く。
キャットタワーだった。
「キャッ…、キャットタワー?なんでそんなもの、買ったんだ?」
「何言ってんの?千葉の実家から『よん』を連れて来るって話したじゃん」。

Jは、「よん」という猫を思い出します。
A子の実家に行った時、そういえばそこにいた。
『よん…。そうだ、あれは数か月前、A子の実家へ初めて行った時のこと』。

『そこに、「よん」はいた」。
Jを見る、よん。
その目の周りは黒く縁どられ、陰影が禍々しい。

『それは誰が言ったか…』。
「呪い顔の猫…』。
(いや、あなたが言ったんでしょ)。

『あの呪い顔の猫が…』。
『この家に来るだと?!』
『認めん、認めん…』
「認めんぞ~!」

叫んだJは、次のコマでは、キコキコキコとドライバーを回し、キャットタワーを作っているのであった。
さらにA子は、よんが一人だけじゃ寂しいと思うと言って、もう1匹飼うと言う。
新居の壁を、テカテカした爪とぎ防止シートで覆って行ったJは思う。

『な、何…。もう1匹猫を飼うだと…?!』
『1匹ならまだしも、2匹も飼うというのか…』。
『認めん…、認めん…』。
「認めんぞ~!」

叫んだJは、次のページではA子を乗せて、初めて行く場所へのドライブに神経を使っていたのでした。
そして家に来た「むー」ちゃん。
ホラーマンガ家の母親とA子が、「かわいい」「かわいい」とあやす。
ゴロゴロゴロと喉を鳴らす「むー」。

Jの目が大きく見開かれ、目が充血し、血管が浮き上がっていく。
その血管が、中心に向かって行く。
中心には、猫のマークが!

「か…、貸せっ!」
叫び、突然、猫を2人から奪うJ。
パックリと口を開き、むき出しになった歯が糸を引いている。
狂気に満ちて目で猫を見ると、「お…、お前」。

「食べちゃうぞ~っ!」
そして「チューッ!」と叫び、猫の顔を口で吸い始める。
部屋の真ん中で猫を抱えて、回転しながら「食べちゃうぞ~っ!」と叫ぶJ。
誰も止められない。

そしてついに「やってくる…」。
「もうすぐ、やって来る」。
「あいつが我が家に…」。

「数時間後には我が家へやって来る…」。
「あの呪い顔の猫『よん』が…」。
ということで、第2話は「よん襲来」。

A子が帰宅。
部屋で、キャリーケースを開ける。
Jくんは廊下からこっそり、それを見ている。

暗い部屋。
ギイイイイと音がする。
キャリーケースの闇の中、目が光っている。

「ヌー」。
首が伸び、出てきたのは、ホラー顔の猫「よん」。
(これ、猫飼ってる人にはわかるんじゃないですか。猫が首を伸ばしたところ)。

その背中の模様を見て、Jは「あっ!!」と叫ぶ。
「よんの背中に…、ドクロの模様がっ」。
「の…、呪われている…」。
「やはり呪いの猫だ」。

「呪いの猫がやって来た」。
「我が家に呪がやって来た!」
(いや、ただの模様)。

頭を抱え、ムンクの悲鳴のポーズで走り出すJ。
その背後には、大きなよんの呪いの顔。
しかしその夜、A子が泣きながらやってくる。

「よんが…、よんが…」。
J「よ…、よんがどうしたのだ?」
「呪っているのか?」
(そんなわけないと思います!)

「よんが全然、ご飯を食べなくて元気がなくなっちゃったから、今夜は私の部屋で看病するね」。
(ああっ、かわいそう)。
A子が部屋に行くと、キャットタワーの箱の中、よんちゃんが寝ている。
元気がない。

「よんちゃん…」。
「よんちゃん…」。
A子が泣いている。
(ああ…、わかる)。

伊藤先生の絵は、元気のない「よん」を的確に描写してます。
よんが、好きなんですね。
突然、見知らぬ家に連れて来られて、よんは極度のストレスを感じ、まいってしまった。
でもA子の看病で、よんは元気を取り戻します。

3日ほどすると、「よん」は「むー」とも仲良しになります。
後姿のA子にJが「何をしているのだい?」と、声をかけます。
すると白目のA子が振り向き、「チュッチュだよ」。
「おっぱいの代わりだよ、これでもまだ1歳だからね」。

見ると、よんが、A子の指をチュポ、チュポと吸っています。
『その頃、私は気づいていた…』。
『よんは呪い顔なのではなく…』。
『単に変な顔の猫なのだと…』。

『変な顔だが、それはそれで可愛いのだと…』。
(でも写真の猫「よん」は、かわいい。「変な顔」というのは、伊藤先生の愛情表現でしょう)。
はあ、はあ、はあ。

Jの目が血走って来る。
息遣いが荒くなる。
「か…、貸せっ!」

Jは叫ぶと、A子からよんを奪い取る。
血走った目。
陰影が付いた顔で、Jは叫ぶ。
「チュッチュしろ!」

「さあ、俺にもチュッチュしろ!」
そう言って、指をよんに差し出す。
だが…。

よんは、ズルッと腕から逃げる。
白目をむいたA子が笑う。
「フフフ…」。
「チュッチュは私にしか、しないんだよ…」。

「グググググ」。
歯ぎしりし、目を剥きだしたJくん。
よんを扉の向こうから、未練たっぷりに見る。
『変な家に連れてこられたにゃー」と、よんは思う…。


ホラータッチの絵。
描写!
展開は、ホラー。

だが中身は、猫日記!
それも愛情たっぷりの猫日記。
爆笑です。
私はうっかり、電車の中でこれを見て、危ない人になってしまいました。

最初の「Jくん」「なんだい、A子」からして、ホラー。
「Jくんは犬派?猫派?」に、「フフフ、そうだな、どちらかと言えば、ハムスター派かな」。
(どっちも言ってないじゃないですか)。

「私は犬も好きだけど、やっぱり猫派だな」。
「ランラン」と歌いながら、でも顔はホラーのA子。
「…」と沈黙しながら、Jは思う。

「…俺は本当は犬派さ。なぜなら犬は人間の友…。犬はけなげで涙を誘うからな…」。
それを言うのに、なぜ、黒目が上に張り付くほど上目遣いになって、充血しているのか。
セリフがなければ、これが愛猫マンガだとは誰も思わない…。
す、すばらしい…。

こんな、私ごときの文章、表現力では伝えきれない。
猫好きも、そうでない方にもおススメ。
ぜひ、ご一読を!


よん&むー

2017.06.20 / Top↑
さて、永井先生は「デビルマン」で人類を滅亡させたことがずっと、心に引っかかっていたそうです。
それで世界が再び復興する話を描かなければいけない、と思った。
こうして描かれたのが、「バイオレンスジャック」。

無秩序な世界で力による戦いが起き、やがて秩序ができていく。
描きながら、これは人類の歴史だな、と思ったそうです。
考えたら「デビルマン」は戦争だな、と思った。
明は何にもそんな気はないのに戦いに巻き込まれ、最前線に立ってしまう。

「バイオレンスジャック」は結局、「デビルマン」世界とつながった。
この「バイオレンスジャック」の最後に永井先生は、「ジャックは何者だろう」と考えた。
「誰なんだろう」。
「ジャックが誰だったら、納得できるだろう」。

そして本当に最後に、「デビルマンだ!」と「気付い」た。
自分でも、興奮したそうです。
「バイオレンスジャック」には、暴力のシーンがたくさん出て来る。

永井先生自身は一番やってはいけないことは、人を力で抑え込むことだと思っているそうです。
正義の基準はわからないけど、自分の中の悪の基準はハッキリしている。
人を絶対的に、支配すること。

これは一番やってはいけないことだと、永井先生は思っている。
また、自分が一番やられたくないことだとも、思っている。
だから「バイオレンスジャック」では、自分が思う悪を徹底して描いた。
スティーブンキングがすごい怖がりで、自分が怖いと思ったことを描いているのと似ています。

編集さんには「何で登場人物をここまで虐げるんですか?」って、言われたそうですけど。
人間と言うのは暴力的な側面や、衝動を持っているが、それを他人に向けてはならない。
そうでなければ相手に痛い思いをさせ、相手も自分も傷つく。
こういうことを子供の時に学べれば、被害者も加害者も減っていくのではと思っているそうです。

でも永井先生は暴力のシーンは描いていて、すごく疲れる。
ギャグマンガは疲れないし、善の存在を描いている時は疲れない。
「デビルマン」や「手天童子」を描いていると、体が痛くなるそうです。

「手天童子」に至っては、悪夢を見た。
スタッフもみんな、同じような悪夢を見たそうです。
クリエイターですから、そういう気持ちが周りに伝染するのかもしれませんね。

そういえば面白い話も書いてあって、永井先生が前世がわかるという人と会った時のこと。
この時、この方が永井先生のことを宗教家だったと告げたんですね。
何度か転生しているけど、転生するたびに宗教家だったと。

中世オーストリアで、神父だったこともあると告げた。
でもこのことは、あんまり知らなくて良いと言う。
その時、永井先生の頭にポーンと、大きな木が浮かんだ。

するとその方が「あなたは神父なのに、自殺した」と言う。
だから「あの木で自殺したんだな」と思った。
「どうして自殺したんですか」と聞くと、「つらい時代でしたから」。

それで、もしかしたら自分は魔女狩りをしていたんじゃないかと思った。
「デビルマン」のシーンが、頭に浮かんだ。
牧村夫妻を殺した人たちは、宗教家のような恰好をしていた。。

意図して描いたわけじゃなかった。
でもこれは…、自分の経験を描いたのか…?と思ったそうです。
おもしろい話ですね。

話は「キューティーハニー」に、及びます。
あれは男の子向けに描いたが、女の子に人気が出た。
この理由は何だろう?

やっぱり、女の子の変身願望を満たしたんじゃないか。
それから「女の子はおとなしくしてなさい」と言う、当時まだあった風潮に反発したんじゃないか。
永井先生はこんな風に、分析しています。

80年代に、マドンナが出てきた。
それまではセクシーと言うと、プレイボーイのグラビアみたいに男性からの一方的な視点だった。
でもマドンナのセクシーさは、女性が主導する女性が魅力的であろうとするものだった。
永井先生としたら、キューティーハニーで考えていたものが、ついに出たと言う感じでしょうか。

ずいぶん怒られたけど、ヌードは永井先生としては絵的に綺麗であれば良いと思っていた。
だから「デビルマン」のシレーヌは怪物でも美しさがあり、美を見いだせるようにしたかった。
人間とは全く違う形でも。

シレーヌ、私はすごい好きなデザインです。
美しいけど、とても怖く危険な存在。
すばらしいデザインです。

永井先生は自分のエロティシズムは、健全なエロティシズムだと思っています。
エロティシズムが発散されない社会は、まずいと思う。
ヌードやエロティシズムを過度に取り締まっている社会は、犯罪が少ないか?
否、陰惨な犯罪が多いと思うと永井先生は考えています。

永井豪の豪は、実は業なんじゃないかってインタビュアーに指摘されています。
自分の作品では、まず破滅がある。
そこから再生されると、自らの作品を分析しています。
おもしろい分析だと思います。


2017.06.09 / Top↑
「世界の終わりと始まりに」に、永井先生のインタビューが出ています。
漫画家さん、いや、作家さんって何かに取り憑かれたみたいにして作品を描くようです。
永井豪さんもまたそうですが、この方は特にこれが顕著のようです。

作品も悪が跋扈するものが多いせいか、本人や周りの精神状態にすごい影響を及ぼしたようです。
永井先生だけじゃなく、アシスタントも全員、鬼の夢を見たり。
同じものを作っていると、感応するんでしょうか。

さてあの、「デビルマン」のラストシーン。
あれはページが足りなくて、ああいう終わり方になったそうです。
そうしたら、作者の意図とは違う解釈をする人が出て来た。

だから、あのラストで良かったんだなと思ったとか。
作者が結論を出さない終わり方もありなんだな、と思ったそうです。
ページ足りてたら、何を描いていたんでしょうね?

インタビュアーは、「サタンとデビルマンには友情以上のものがあるように思います」と、言いました。
永井先生も読者から「デビルマンはサタンとデビルマンの恋愛ものだったんじゃないか」と言われたそうです。
だからインタビュアーにも「その通りです」と、答えてしまった。

「恋愛が人類を滅亡させちゃうんだから、迷惑な話ですよね」。
美樹ちゃんを死なせる時は描いていて、「ああ、困ったな、死んじゃうよ」って思った。
結局、美樹ちゃんはサタンとデビルマンの愛の犠牲者だったと永井先生は考えています。

永井先生は基本的にその時、面白いと思ったように話を転がしていくとか。
だから描いている時の気分が違ったら、「デビルマン」はギャグマンガになった可能性もあるそうです。
自分でもどう進むかわからないから、編集さんは相当困った。

当時は、どう進むのかと聞く編集さんに、読んでみたらわかりますと答えていたそうです。
そう言うしかなかった。
予定と違う方向と言えば、飛鳥了は、最初は地下室で殺す予定だった。

でも殺しちゃうと、どうも話がうまく進まない。
だから生かしておいたら、最後はああいうことになった。
不思議と辻褄があった。
こういう時、何かに描かされているような気分になりますね。

「デビルマン」は不動明の高校生活、日常から話が始まる。
それはいきなり突飛な世界を描いても共感されないというのが、あったから。
それ以外の理由として、永井先生は子ども~学生の時、何が嫌だったかと言うと朝礼が嫌だった。
みんな並ばされて立たされて、先生が訓示を述べる。

あれが嫌で、何か起きないかなって思っていた。
UFOでも何でもいいから、この状態を壊してくれないかなって。
この思いが、明の日常にデーモンが入って来る展開になった。

自分も嫌いでした、朝礼の長い訓示。
社会人になっても、朝礼でやたら訓示が長い人とは相性が良くなかった。
毎回、1時間も話す人がいましたけど、相性、良くなかったですね。
永井先生が朝礼の訓示が嫌いという話を聞いて、やっぱりこの方はサラリーマンには向いてなかったなと思いました。

営業とか、絶対に向いてない。
漫画家とか、自由業に向いている人なんだなと思いました。
そうやって考えると自分も、そういう傾向あるんだろうか…。
いや、あんなに毎回長い訓示は、誰だって好きじゃないはずだ!

「デビルマン」でデビルマンが戦う理由は、実はエゴだと永井先生は言います。
でもそのエゴの中で見つけた戦う理由が、美樹だった。
美樹を愛している。
彼女を守るため、自分は戦う。

だから美樹を失った時、明は戦う理由を失った。
戦う理由があるとしたらひとつ、復讐だけだった。
それもまた、エゴ。

サタンはサタンで、神のエゴに反抗して戦っていた。
しかしやはり、最後に人類を滅ぼそうとした自分もエゴであったと気付く。
その時は、デーモンにしてまで守りたい、愛する明を失っていた。
サタンは、激しく後悔し、涙する。

永井先生は、「デビルマン」のマンガって、みんな悩んでいるんですと言う。
「自分って、これでいいのか?」
「これで正しいんだろうか?」
連載時は戦争から立ち直り、高度成長期に入り、豊かになって余裕が出てきた時代。

だから、そういう疑問がみんなにあった。
自分にもあった。
こんな自分と時代に関係して、登場人物がみんな悩んでいるそうです。
名作と言われるものは製作者の心情の表れであることはもちろんですが、やはりその時代の空気をまとっているものなのだと改めて思います。


2017.06.06 / Top↑
美内すずえさんというと、「ガラスの仮面」が何と言っても有名ですが、この方、ホラー描くとすごく怖い。
「13月の悲劇」などの外国を舞台にしたものも良いですが、私が思い出すのはこの3話。
「白い影法師」「黒百合の系図」「妖鬼姫伝」。

友達は熱を出して学校を休んだ時、お母様がマンガを買ってきてくれたそうです。
そのマンガが「白い影法師」。
2度目に熱を出して休んだ時は「黒百合の系図」。
「なぜだかわからん…」と言っていました。

「白い影法師」と「黒百合の系図」では、クライマックスで姿を現した亡霊や怨霊の顔がすごい。
私は「黒百合の系図」のページをめくって、バーン!と顔が出ていた時は本気でギョッとしました。
何度か読み返しましたが、最初の時は見るたび、ギョッとしてましたよ。


高校生の安希子は、ある日突然、母親を亡くす。
誰もいない陸橋から落下したのだが、母親に自殺する理由はない。
しかし数日前には、妙なことがあった。

庭に黒百合の花が咲いた。
珍しいので、安希子は母親を読んだ。
それを見た母親は真っ青になった。

ぼんやりと考え事を下かと思うと、安希子に「安希子を残して行きたくない」と泣いた。
母親の死には、何か理由がある。
安希子は母親の遺品を整理すると、そこには「魔霊退散」と書かれたお札があった。

母親の旧姓は、「飛竜」。
そして故郷は、鬼姫谷。
母親は故郷から出て来て、父と結婚したが、二度と故郷に戻ることはなかった。

安希子は母親の故郷に向かう。
母親の実家は山奥にあった。
そこで、親戚の秋月家を訪ねた。

夜、田舎の村は静まり返っている。
安希子が寝ている秋月の家も、静まり返っていた。
その時、誰かが廊下を歩いて来る。
安希子の体が、動かない。

やってきた誰かは、安希子を見て言った。
「お前で最後…!」
そう言って、片頬をあげて、クッと笑った。

近所の子供に、道なき道を近道と案内されながら母親の実家にたどり着く。
家に入ろうとすると、村中の者が妙な表情を浮かべている。
そこは化け物屋敷だと言うのだ。
真っ暗な中、家に入った安希子が見たものは床に突き立てられた日本刀だった。

安希子の母の飛竜家は、戦国時代にここを収めていた松永家の家老職だった。
ある時、松永家は戦で絶体絶命の危機に陥った。
当主の勝久は、鬼神の像の前で祈願した。

「この戦に勝たせてくれたら、今度の子供はそなたにやろう」。
奇跡的に、松永家は勝利を収めた。
そして奥方が生んだ女の子の頭には、小さな角があった。

鬼神だ。
鬼の子供だ。
姫は千也姫と名付けられた。
千也は類い稀なる美貌と、類稀なる残虐さと狂気を持つ姫だった。

「父上の真似じゃ、お手打ちごっこじゃ!」
そう言って笑いながら、庭に並べた犬の首を切り落として行く。
見ている子供も、家来も震えた。

成長しても、千也姫の気質は変わらない。
内掛けが気に入らないと言っては、侍女の腕を切りつける。
今度やったら、切り落とすと叫ぶ。

ついに勝久は、刀を持って姫を斬ろうとする。
松永は勝久殿を止めようとするが、殿が振り下ろした刀は石に当たった。
石に当たった刀は跳ね返り、勝久の胸を貫いた。
「なぜ、止めた、わしは鬼を退治しようとしたのだ」と言って、勝久は絶命する。

それを見て千也姫は、クッと片頬をあげて笑った。
自ら甲冑を着て、戦に出るようになった千也姫は連戦連勝。
瞬く間に周囲の国を落とし、領土を広げた。
その戦いぶりは、目を覆うような残虐なものだったと言う。

しかしある年、この地方には天変地異が続けて襲った。
稲は実らず、困り果てた国は、いけにえを捧げることにした。
選ばれたのは、フキという村娘だった。

顔に面をつけられ、生贄になるフキは叫んだ。
「呪われよ、飛竜。「お前の一族が絶えるまで、未来永劫、呪われよ」。
これをきっかけに、あれほど強かった鬼姫が床に臥せるようになり、亡くなる。

では、飛竜家に祟っているのは、この村娘なのか。
その通りに、飛竜の家の者は次々、非業の死を遂げて行った。
安希子の母は叔父の家に身を寄せていたが、ある夜、叔父は日本刀を振り回して襲ってきた。
そこで母親はかろうじて逃げ、東京に来て働き、父と知り合って家庭を持ったのだった。

母親を守っていたのは、安希子が見つけたお札だったのだろう。
だがついに、その呪いが来たのだ。
東京に戻った安希子にも、次々に魔の手が伸びてきた。

庭に黒百合が咲いたのだ。
それを見た父親は、愕然とする。
通学で電車に乗ろうとした安希子は、髪の毛を引っ張られた。

後ろを見ると、面をかぶった和服の女性が立っている。
安希子は電車の閉まったドアに、首をはさまれた。
そのまま、首を電車のドアに挟まれ、ホームを引きずられたまま移動していく。

騒然とした乗客たちが知らせて、すんでのところで安希子は解放された。
あのまま電車が走ったら、どうなったか。
居合わせた乗客も、戦慄していた。

家でも危険なことは、起きた。
安希子が湯を沸かしていた時、ガスの火が消えた。
ガスだけが部屋に充満し、安希子は倒れていた。
知り合ったルポライターの源太郎が安希子を訪ねて来て、発見し、安希子は助かった。

安希子は夢を見る。
骸骨が甲冑を着て、戦場を走っている。
人々の声がする。

次に、面をかぶった女性が括られている。
女性は「呪われよ飛竜!」と叫ぶ。
安希子は、そこで目が覚めた。

自宅で倒れた安希子が退院した時に、友人がふざけて写真を撮った。
現像した写真を見た友人たちは、恐怖におののく。
そこには安希子の背後からしっかり、のしかかる女性の姿が映っていた。
源太郎は安希子に、鬼姫の呪いなどに負けないでくれと言う。

飛竜家に祟っているのは、フキではないのか。
いや、あれほどの鬼姫が村娘の呪いで倒れるわけがない。
フキと巧みに入れ替えられ、面をつけたまま生贄にされたのは千也姫だったのだ。

さらに安希子は、父親が捨てていた黒百合を発見する。
今度は私の番…!
『お前で最後…!』と鬼姫が、片頬をあげた笑みを浮かべているのがわかる。

その時、安希子が感じたものは恐怖ではなかった。
何の罪もない自分の母親。
松永家の子孫たち。

安希子が感じたのは、怒りだった。
ここで怯えながら死を待つより、戦おう。
安希子は決意し、再び、母の故郷に向かう。

フキと入れ替わった千也姫はバラバラにされ、それぞれの体の部位は塚に埋められていた。
だが、首塚がない。
千也姫が鬼である証拠は、頭の角だ。
その角がある首塚を見つけて、除霊すれば良いと僧侶は言う。

このためには、首塚を見つけなければならない。
安希子にのしかかる鬼姫の写真を見た僧侶は、この顔は亡霊などではないと言う。
悪鬼、妖魔、いやもう、妖怪の類いだと。

安希子は、秋月家の志郎の家に泊まっていた。
志郎の母親と祖母は、歓迎の笑顔とは裏腹に安希子を何とか帰さなくてはと考えていた。
しかし、母親はそれとは別に「首塚など探されてはなるものか」と、つぶやく。

「えっ?」
祖母が怪訝な顔をする。
母親は、どす黒い笑みを浮かべていた。

安希子が、志郎の母親が出した山菜料理を食べていた時だった。
山菜を見た志郎は、自分も食べると言って手を伸ばした。
母親は志郎の手を、はねのけた。

「いけません、志郎さん!」
唖然とする安希子だが、すぐに腹痛に襲われた。
それは毒であり、大量に摂取すると死ぬ危険もあるものだった。

なぜ、母親はそんなことをしたのか。
知らないはずがない。
だが志郎の問いに、母親は答えない。

安希子は離れで床に臥せっていた。
煙が充満してくる。
志郎の母親により、屋敷に火がつけられたのだ。

逃げなくては。
だが体が動かない。
ふと上を見上げた安希子が見たものは…。

部屋の空間に浮かび上がった、鬼姫の顔。
その顔は悪意に満ちていた。
片頬をあげて、クッと笑う。

安希子の、飛竜家の最後の一人を滅ぼす邪悪な喜びに満ちた笑み。
悪鬼、妖魔、妖怪。
「鬼姫…!」

その時、源太郎は首塚を発見していた。
バラバラにされた体が埋められている塚の数々。
その中心にあるお堂。

ここが首塚だろう。
堂を調べると、頭蓋骨が見つかった。
僧侶が清めた水を!と言う。
鬼姫の角がはえた頭蓋骨に、聖水がかけられた。

僧侶が経文を唱えていく。
ビシリ!
鬼姫の頭蓋骨に、ヒビが入った。

安希子の前に浮かんで笑っていた鬼姫の顔が、ビクリとする。
ぎゃああああと叫び、黒い霧となってしぼんでいく。
途端に、安希子の体が、動くようになった。

安希子は必死の思いで、逃げ出す。
屋敷が燃え落ちる寸前に、安希子は助けられた。
志郎の母親は、ここ数日の記憶を失っていた。

安希子は、鬼姫に操られていたのではないかと考えた。
さらに秋月の家が、飛竜の家の財産を横領していた疑いが出てきた。
秋月の祖母と母親が安希子を追い出したかったのは、この発覚を恐れてのことだった。

志郎は安希子に何と詫びて良いのか、わからない。
だがもう、そんなことは安希子にはどうでも良かった。
今はもう、誰を恨む気にもならない。

安希子は東京に帰った。
傍らには源太郎がいる。
飛竜の家の、非業の死を遂げた人々。

「東京に戻ります」。
「明日を、生きるために」。
母親のために、自分はひたむきに人生を生きて行こうと安希子は決心していた。


これは、最後に現れる鬼姫の顔が見事です。
まさに悪鬼、妖魔、妖怪。
美内先生の画力。

子どもの頃の記憶にある、田舎の風景もうまい。
雨戸がピタリと閉められている化け物屋敷と化した、安希子の母親の実家。
古びた屋敷の奥に、日本刀が刺さっている。
怖いですよ~。

そして、田舎の静かな夜。
静かと言っても、虫の声、カエルの声はにぎやかなんですよね。
夜中にふと、目が覚める。

するとにぎやかだった外の声が、まったくしない。
静まり返っている。
なぜ、虫もカエルも鳴かないのか。
一体なぜ。

そう思うと、何かがやってくる。
廊下をすっ、すっと歩いて来る。
「お前で最後」。
子どもの頃の、ふと目を覚ました夜中の怖さを思い出すシーン。

少女マンガだけど、母親がいきなり亡くなったり、結構ハードな展開。
犬のお手打ちシーンなど、残虐なシーンもあり。
でも笑えるシーンも、ちゃんとある。
近道と言って、人がつま先立ちでやっと通れる高い山の細い道を渡る安希子が「近道反対!」と叫ぶシーン。

しかし、あんな状態で正常な状態を保つ安希子は強い。
ちゃんと普通に生活してますもん。
自分ならあの写真だけでまいると思います。

安希子は怯えるより、こちらも怒りを持って立ち向かおうとする。
武将の血筋なのかなあ。
それとも、飛竜の先祖たちが力を貸しているのか。

最後に安希子はもう、恨みからは解放されている。
飛竜の、母親の思いを胸に生きていこうと決心して終わる。
安希子に協力するのは、男っぽい源太郎。
ちょっと安希子に気がありそうな、秋月史郎は「ガラスの仮面」の真澄さまに似ている。

黒百合の花が、印象的。
本当に黒百合の花言葉に、呪いってあるんですね。
どちらかというと、恋の呪縛みたいな意味合いみたいですけど。

そして戦国と黒百合というと、佐々成政という武将。
富山の戦国武将・佐々成政には、早百合という側室がいた。
寵愛を受けている早百合姫に対する嫉妬から、他の側室たちは留守を守る家来と小百合の密通のうわさを流した。

側室たちの陰謀により、初めは信じなかった佐々成政もついに早百合を不義の罪で手討ちにした。
庭の木に早百合をつるし、アンコウのように体を切り裂く残虐なやり方だった。
さらに早百合の一族も、全員殺してしまった。

早百合は最期に「私の怨念で立山に黒百合の花が咲いた時、佐々家は滅亡するであろう」と叫んだ。
御子孫の話では、本当に家では百合の花を生けることはなかったそうですね。
この伝説、「黒百合の系図」のもとになったと思われます。
ただ、佐々成政は富山の領主だったので、のちの加賀・前田家によってだいぶ話が作られたとも言われているんですね。

「黒百合の系図」、さすがに絵は昔の少女マンガっぽいですが、お話はおもしろい。
ホラーだけど、人間ドラマがしっかりしている。
美内先生の描くマンガは、恋愛も絡みますが、骨太の人間ドラマといった感じの話が多い。
だから後まで、記憶に残るマンガになっているのだと思います。


2017.06.01 / Top↑