こたつねこカフェ

癖のある俳優さん、悪役さんが大好きです。時代劇、ドラマ、映画、俳優さんのことを好きに書いています。
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可の字、庄兵衛、烈堂さま

北大路版「子連れ狼」では、柳生烈堂さまは夏八木勲さん。
萬屋版では名作「可の字無残」の、可の字。
「喰代柳生」の、出淵庄兵衛。
どちらも非常に印象的な話の、印象的な役でした。

可の字、出淵庄兵衛ともに、優秀な影の者として生きていながら、時折出る、隠し切れない感情。
人間らしさ。
拝一刀との出会いと別れが、見るものに忘れられない思いを残す。
夏八木さんの名演技です。

それが北大地版ではついに、烈堂です。
出淵庄兵衛の、お父上です。
父親への思いゆえに、一刀に向かい、一刀に破れる。
ついにその、父上を演じます。

いや~、感慨深いものがありました。
その貫禄、風格、圧迫感は、夏八木さんのキャリアのすばらしさを感じさせます。
夏八木さんの烈堂が強く、悪であればあるほど、一刀と大五郎に思いが入ります。
烈堂さまを演じる夏八木さんは、まだまだお元気。

そう思った時、とても寂しくなりました。
本当にいい俳優さんだった。
これからまたさらに、渋い味を出したご老人役を演じてほしかった。
でも夏八木さんの姿は、見た人に強烈な印象を残す。

俳優さんは映像の中で、生き続けるんだ。
だから、その役に俳優さんは命を吹き込んで演じるんだ。
夏八木さんの烈堂を見て、しみじみ思いました。
すばらしい演技を、ありがとうございました。


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「繋いでいく」 子連れ狼 親子の旅の最終回

何度目か、北大路さん主演の「子連れ狼」の再放送の最終回がありました。
この時代劇は、見始めるとはまる人が多いんですね。
親子がどうなるのか、無事、生きていくのか復讐を果たすのか、気になってしょうがない。

前回見た時はラスト、曲の最中に無残に途中で切られ、次の番組が始まって余韻台無しだったはずです。
今回はどうか。
そう思って見たら、やっぱり切ってました。

テレビ朝日さ~ん、頼みますよ。
壮大な復讐劇の、親子の旅のラストなんですから。
たたずむ大五郎に「あんなこともあった」「こんなこともあった」「だが、この親子の旅も終わった」と、思いをはせながら、終わりたいんですよ。

前も書いたと思いますが、萬屋版とはラストがちょっと違うんですよね。
北大路版には、最初から乳母車マシンガンもありません。
荒唐無稽だということかな。
それから、萬屋版では幼児である大五郎には投機雷という武器が与えられているのですが、北大路版にはない。

子供である大五郎が裏柳生たちとの決戦で己を守り、戦力となるには無力な子供でも最大限に殺傷能力が持てる武器を持たなければならない。
それが、投機雷だった。
この投機雷をたくさん用意するために、一刀は一殺5百両という刺客料で殺しを請け負っていたわけです。
大五郎、投機雷で結構、柳生を撃退している。

北大路版には、それがない。
だから、北大路版は一刀の刺客料は何に使ったのかなあという疑問がなくもない。
でも何だかんだ言って最後は人を助けている印象の北大路版だから、これでも良いかなと思います。

烈堂が必死になって取り戻そうとした柳生封廻状も、北大路版ではあんまり意味が強調されていなかった。
柳生ってあれだけのことをするから、やっぱりあちこちから恨まれているんです。
北大路版にはこの、柳生の敵、しぶしぶ柳生の配下となってしまった黒鍬者とか、阿部怪異とかがいない。

天下を握ろうとする野望陰謀が書かれた封廻状が、誰でもいい、柳生に反感を持つ者の手に渡れば柳生は失脚間違いなしなんですね。
そのまずい封廻状をよりによって、拝一刀が持ってしまっている。
この危機感たるや、すごいものがある。
しかし一方の一刀も、封廻状の謎が解けないでいる。

月の光に照らされた夜光文字が浮かび上がるが、なぜ、柳生が夜光文字を使わなければならないのかわからない。
そして封廻状の本当の秘密は、蚕が好む、桑の汁で書かれたところにあることが最後に判明する。
蚕がこの汁で書かれた部分を食べると、文字が浮かび上がるのだった。
北大路版の封廻状には、こういう存在感が薄い。

一刀と烈堂に絞って、ドラマが描かれているからでしょう。
阿部怪異なんか、出ないですもん。
これ、本田博太郎さんがやったら楽しかったと思うんですけどね。
改めて見てそんなことを思いましたが、それでも「子連れ狼」に燃えることは間違いない。


以下、「子連れ狼」の最終回のラストが全部ネタバレとなります。
萬屋版も、北大路版もネタバレです。
未見の方は、気をつけてください。



さてさて、決戦で裏柳生は全滅。
だが、一刀も傷は負っている。
傷を負った一刀と、烈堂の対決。

これまで危ういことがあっても、経験も積んでサバイバルしてきた一刀。
もともと強かった一刀は鍛えられ、もはや敵は烈堂のみなのです。
烈堂以外に、一刀の敵はいない。
武芸の頂点に立つ2人。

両者の力は、全くの互角。
だからこそ、烈堂は一刀は倒しておかなければならないと思う。
自分はこれから老いていく。
烈堂にしたら、その前に、この男だけは倒しておかねばならない!と思うでしょう。

互角の戦いが、繰り広げられる。
斬った柳生の血と、己の傷の血で、一刀の白装束が赤く染まっている。
「香りを着て」がないので、この白装束も北大路版の一刀は着ていない。
そして、ついに一刀の胴太貫が折れる。

この胴太貫が折れる理由が、北大路版にはない。
闘いの過程で、胴太貫はただ、折れる。
何で折れたんだろう。
疲労していたのかな?

ここはやっぱり、裏柳生の工作が描写されているとわかりやすかった。
萬屋版では、裏柳生のあらかじめの計略で、一刀の刀、馬をも斬り捨てるという胴太貫には「砥ぎ」の名目でひびが入れられている。
1人斬るごとに、刀には衝撃が走る。
そのためだけに、胴太貫を折るという目的のために、裏柳生は一刀に斬りかかり、次々斬られて行く。

我らを卑怯と思うだろうと言いながら、死んでいく柳生。
冥府魔道を行っていた一刀は、こういう計略は当たり前。
見抜けなかった自分が甘かったのだと、一刀は言う。
一刀と柳生は誰よりもわかりあえる敵同士、しかしわかりあえても敵同士。

烈堂登場で、刀が折られた一刀の頭上に、烈堂の刃が閃く。
次の瞬間、一刀は柳生の奥義である素手で真剣をはさんで受ける「真剣白刃取り」に出る。
頭上で白刃を取り、まるで拝むような姿で一刀が刀を止める。

烈堂もまた、これで動くことができなくなる。
もし、ここで一刀が反撃に出たら…。
萬屋版では、烈堂に絶望の表情が浮かぶ。

だが、一刀は動かない。
一刀はこのままの姿で、絶命していた。
終わった…。

烈堂だけではない。
見ていた誰もが、一刀の死で終わったと思った。
北大路版では、本人たちと大五郎以外は見ている人はいませんでしたね。
一刀が絶命しているとわかった時、見ていた大五郎が刃を持ち、烈堂に向かって突進して来る。

振り払えるはずの烈堂は、大きく両手を広げ包み込むように大五郎を抱きしめ、貫かれる。
誰もが、あっ!と息を呑む。
ぎゅうっと大五郎を抱きしめた烈堂は、「我が、孫よ」と言う。
大五郎が烈堂を見て、そしてここで全てが暗くなり、「子連れ狼」は終わりとなる。

実際には、烈堂と大五郎は血のつながりはないらしい。
敵ながら、天晴れな男よ。
そして天晴れな子狼よ。
敵同士だが、烈堂が認めたのはおぬしら、親子のみ。

だとしたら、大五郎こそが、我が孫である。
裏柳生も全滅し、息子も娘も全て狼に食い殺された。
自分が果てるなら、大五郎に我が命を与え、この子供の中で一刀とともに生きていたい。
そんな思いから出た、最期の烈堂の言葉だったのでしょう。

さて、北大路版でも次々襲い掛かってくる裏柳生に、一刀も背中や腕を斬られます。
爆薬もあちこちで炸裂し、一刀を倒すためなら味方も何もありゃしないです。
北大路版の烈堂は一刀の戦いを見物して、相手を散々痛めつけてから出番です。

烈堂、まずは槍を使う。
しかし、槍では一刀を斬れない。
だが一刀の胴太貫は烈堂の刀を受けた時、折れる。

そして一刀は腹に、烈堂の刃を受ける。
貰ったあー!という感じで、烈堂は一刀に向かって刃を振り下ろす。
一刀が白刃を、両手ではさんで阻止する。
だが烈堂の刃は、じわ、じわと一刀に向かって降りていく。

一刀の頭に、烈堂の刃が触れる。
耐えている一刀の足元に、負った傷から血が流れてくる。
その時、大五郎が「ちゃーん!」と叫び、烈堂の足にしがみつく。
烈堂は邪魔な大五郎を振り払おうとするが、大五郎は烈堂の太ももに噛み付く。

烈堂の気が一瞬、それた。
この一瞬の気。
互角の相手との殺し合いには致命的な、一瞬だった。

一刀は烈堂の刃に力を加え、刃を折る。
そして折れた刃をつかむと、烈堂に向かって投げた。
刃は烈堂の喉元に刺さり、貫く。
烈堂が声もなく、倒れる。

2人の戦いは終わった。
北大路版の烈堂と一刀の間には、ただ憎しみがあるのみでした。
そして「ちゃん」と駆け寄る大五郎に一刀が言う。

「まもなく父の体は、物言わぬ屍となろう…」。
「父のまなこ、閉じらるるとも、その口、開かぬとも恐るるな」。
「次の世でも我らは親子。我らは永遠の父と子なるぞ」。

この後、一刀は萬屋版で決戦前に語られた名セリフを語るんですが、これが結構長い。
致命傷じゃないのかと思わないでもないけど、見ている時は胸が詰まる。
自分がどんなにこの子を愛しているか刻み込もうとし、別れを哀しませず、強く生きていけるようにしている。
死に行く親狼が、最後に子狼に希望と力を与えようとしている、そのシーンに胸を打たれる。

そして感じたのが、拝一刀は。自分が一緒に冥府魔道を歩ませてしまった子供を解放してやろうとしているということ。
大五郎を、刺客道の闇から解放して、光の道を行かせてやろうと思っている。
まるで、それが自分の最後の務めだと言わんばかりに。

北大路版は「我が孫よ」がない代わりに、そんな思いを抱かせるシーンを最後に終わります。
今回の再放送を見て、北大路版には、大五郎に命を「繋いでいく」のはもちろんですが、大五郎を「光の中に戻してやる」親心も感じたのでした。
甘いかな。


さて、「子連れ狼」を見てからずっと、なが~い間、大五郎はその後、どうなったのかと気になってたんですね。
あの子なら、絶対強く生き抜いて行っただろうなと思いはしました。
一刀に恩がある人も少なからずいましたから、どこかに引き取られてるんじゃないかとか。

そうしたら大五郎は一刀の遺体のそばから離れず、ついに倒れてしまっていたんですね。
すると、そこに通りかかった薩摩示現流の東郷重位が大五郎を助けるらしいんです。
そしてその東郷の刀もまた、胴太貫だったと。

父の刀の鞘に東郷の刀が納まったのを見て、大五郎は東郷の中にも父が生きていると感じたのか。
東郷も、拝一刀に大五郎を託されたと思ったのか。
2人は武者修行の旅に出る。

だが老中による薩摩藩廃絶の陰謀が2人を巻き込んでいく…、という展開らしいんですね~!
結局、東郷は老中・松平伊豆守と相打ちとなり、薩摩藩を救うらしいです。
大五郎は幕府により、捕縛される。

一刀とともに冥府魔道を歩み、東郷とも冥府魔道を歩んだ大五郎に、幕府が恐怖を感じる気持ちはわかる。
でも大五郎はまだ5歳だぞ。
しかし幕府は、大五郎を幽閉。
これは大五郎を覚醒させ、大五郎自身が選んだ戦いがついに始まった…というところで終わってるらしいんですよ。

生まれた時から闘いの中に身を置いてきた大五郎には、安らぎが来る日があるのか。
「子連れ狼」というのは、興味が尽きませんね。
ほんとに、名作なんですね。


妖怪・ろくろ首

妖怪・ろくろ首というのが怖かった。
あの、首が伸びるデザインが嫌だった。
どういう状態かが、想像つくのも怖かった。

首が伸びるというのも怖い。
飛んで来るのなんか、本当に怖かった。
あのデザインには、人間が根源的に感じる恐怖があると思います。

「子連れ狼」の主人公、拝一刀は、元・公儀介錯人。
葵の御紋の入った羽織を着て、大名の首を斬る役目でした。
庶民の犯罪者の首を斬る役目が、首斬り役人。

「必殺仕業人」で牢屋見回り役人に身を落とした主水が、老役人がぼやいているのを聞く。
今回、首斬り役がいない、と。
罪人を斬る時に用いられる刀っていうのは、大名や旗本が刀の切れ味を実際に確かめるための「試し斬り」だったりするんですね。
そこで主水は今度、試し斬りをしたがっている相手がターゲットの家だと知って、首斬り役を申し出るわけです。

首斬り役人で有名なのが、山田浅右衛門。
「山田浅右衛門」というのは、山田家で首斬り役人となった者が名乗る名前らしいので、だからいつの時代にも出て来てもおかしくないらしい。
山田浅右衛門はいろんな時代に存在したので、首を斬った相手もいろいろ。
試し斬りをした刀も、たくさん。

土方歳三の刀「葵康継(あおい やすつぐ)」は、六代目浅右衛門が試し斬りをしたとか。
七代目浅右衛門は、吉田松陰、橋本左内を斬首している。
映画「獄に咲く花」は吉田松陰の話なので、見たらチェックしてみたいと思います。

ドラマ「子連れ狼」に登場するのは、三代目朝右衛門・吉継。
当たり前だけど、刀っていうのは本当に良く切れるもので、本当に人を斬るためのものなんですよね。
たまに日本刀に関する事件が起きると、これが実感できます。

怖い。
昔の武士は本当に怖いものを身につけていたな、と思ってしまう。
それで浅右衛門は身分としては首斬り役人を「武士」とするわけにはいかなくて、「浪人」だったらしいですが、報酬はかなり良かったらしい。

やっぱり、誰もが嫌がる仕事だし、将軍家を初めとして大名・旗本の刀の試し斬りだから、「こころざし」とは言え、かなりの謝礼が出たとか。
他にも裕福な理由で何か怖ろしい話は聞きましたが、浅右衛門の身分は「浪人」だけど、生活はかなり裕福な生活だったようです。

「仕業人」の主水は「かみさんに着物の一枚も買ってやりたい」と言って、2分受け取ってました。
「新・仕置人」でも、狂ってしまう首斬り役人・左母次郎が出てきました。
話の中で左母次郎の無体と、それに巻き込まれた女性の地獄、そして左母次郎の仕置きが描かれました。

左母次郎は夏の昼下がり、供の者に道端で笑い声が聞こえると言い出す。
しかし、辺りには誰もいない。
地蔵がぽつん、と立っているだけ。

やがて、供の者が左母次郎の目の色に恐怖を感じて逃げ出す。
クライマックスの仕置きでは、左母次郎は主水に向かって「聞こえぬか…、あいつらが笑っておる…。俺が来るのを待っておる」と言います。
左母次郎の耳には、泣き声、笑い声が聞こえている。

恨めしそうな、忍び泣き。
嘲笑うかのような、笑い声。
でも主水は「それはおめえの体から流れていく血の音だぜ!」と言う。

そして半ば笑顔の左母次郎を、まるで斬首の刑のように一気に斬る。
でも斬った後で、いや~な顔をする。
左母次郎は、大木実さん。
もう、迫真の演技で、恐怖させてくれます。

「必殺仕事人 激突!」では、浅右衛門を滝田栄さんが演じていて、これがすごく良かった。
表で仕置きできない悪党を、処刑人が裏で仕置きするという設定が効いていた。
相手の膝をバン!と打って跪かせ斬るところなんか、首斬り役人ならではの仕置きと言う感じがしました。

でも山田家はこの報酬でいくつものお寺に寄付をしたり、供養塔を建てたりしていたようです。
他にも困っている人に対して、ボランティア活動したり。
山田家ではそれからしょっちゅう宴会が行われていて、特に処刑のあった日の夜は必ず大宴会を催したそうです。
亡霊に取り付かれないようにやっている…などと、言われていたらしい。

こういうことを知ると、左母次郎じゃなくて、精神力の強い浅右衛門でも精神の安定を保つのは大変ではあったんでしょう。
さて明治14年、斬首は廃止となり、死刑は絞首刑になった為、山田一族はお役御免となりました。
最初に妖怪・ろくろ首というのが怖かったと言いましたが、胴体から首が離れるというのは、人間が根源的に感じる恐怖なのだと思います。

恐怖感があるので、犯罪抑止力にもなる、見せしめにもなる。
だから西洋でもギロチン、さらし首があったんでしょう。
首を斬るのには技がいるからギロチンが開発されたと言いますが、処刑人の精神がやられるという、開発にはやっぱりそんな理由もあったんじゃないかな。

…書いていても、ちょっと怖い話でした。
暗い雨の日にする話じゃなかったですね。
すみません。


生きる道を教える術 「乳房あらため」

「子連れ狼」第2部の「乳房あらため」。

一刀が刺客依頼をされたのは、ある藩の奥方・お浪の方。
お浪の方は現・藩主のご生母。
権力を握ったお浪の方は残虐で、奢侈を極めた。

お浪の方はこのままでは藩の財政を食いつぶし、藩の上から下まで怨嗟の声が渦巻いている。
人心は藩から離れていくばかりだった。
だがお浪の方も恨まれているのは承知で、駕籠を3つ用意し、その中のどれに奥方が乗っているのかわからなくしてしまう。

お浪の方を襲った武士たちの遺体を、武芸指南役の箕輪蔵人は同じ藩の武士、せめて山寺に葬ることを提案するがお浪の方は、崖から落としておけと言う。
そうすれば、カラスや野犬が後始末してくれるだろうと。
お浪の方の駕籠と思って襲われ、犠牲になった腰元も放置、別の腰元を平然と後に据える。
怯えて逃げ出した他の駕籠に乗っている女中を怒ったお浪の方は、自ら刺し殺す。

藩の改革派から刺客依頼をされた一刀は、道中の襲撃を勧められる。
だが、一刀は箱根の関所で襲うのが、一番良いと言う。
関所では乳房あらためが声高に、中の女の特長を読み上げる。
駕籠を間違えることはまず、ないからだ。

箱根の関所には、女の乗った駕籠を改める女性役人となったお新がいた。
お新は隠し事をしている女性を見事に嗅ぎわけ、駕籠の戸を開けると手を差し出して賄賂を要求。
従わなかった女性を裸にして調べ、危な絵などを見つける。

そして、記録に残るとお家の恥になると言って倍額の賄賂をせしめる。
子供を失ったことにより、百姓仕事と貧乏を嫌い、お新は女あらため役になった。
そうやって金を貯めてはいるが、お新の、子供を失った空しさが消えるわけではない。

一刀は行列を崖の上から見ていると、箕輪蔵人がやってくる。
刺客依頼をした改革派の中に、蔵人と通じている裏切り者がいたのだ。
裏切り者を切った一刀に、蔵人は一刀との勝負を所望。
だが、一刀はそれは刺客依頼を果たした時と言った。

すると蔵人と用人たちは、一刀に襲い掛かる。
一刀は、崖から転落してしまう。
蔵人は一刀が転落したと思い、追わなかったが、一刀はかろうじて崖に留まっていた。

大五郎の「ちゃーん!どこだー!」の呼びかけに一刀は、綱を下ろせと言う。
箱車から縄を持って来た大五郎は木に結びつけ、引き上げようとするが、木は細く、このままでは大五郎まで転落する。
大五郎の一刀を呼ぶ声が、こだまする。
一刀は大五郎までが危ないと見て、綱から手を離せと言った。

だが、大五郎は離さない。
「どうした、坊や」。
通りかかった百姓の弥六が2人を見つけ、あわてて縄を引き上げて助けた。
「この子は良く離さないで、しがみついていたものだ。よっぽど、親思いなんだな」。

弥六の子も、あの崖から落ちて死んだのだった。
「おれはまだ3つの弥吉を、山芋掘りを教える為に連れて行っただ。この辺じゃ、山芋掘りが一番、銭になるでな。土地もろくすっぽ持たねえ貧乏百姓のおらは、そうやって生きる術を子供に教えてやるしかなかっただ」。

だが女房のお新は、弥吉を殺したのは弥六だと言って、家を飛び出してしまった。
おっして役人に取り入って乳房あらため役になり、今は関所役人の住む住居に住んでいる。
「貧乏暮らしはもう、こりごりだと言ってな」。

今のお新は、女あらため役として女たちから賄賂を受け取り、あくどく稼いでいると言う。
「お新はあくどい女じゃねえ…」。
弥六は「弥吉にあんな風に死なれて、その哀しみがあんまり大きすぎて、それで貧乏を芯から憎むようになっちまっただ」と言った。

その頃、お新はうつろな目で、関所の役人の住居で酒を飲んでいた。
弥六は一刀に語る。
「だがいくら貧乏が憎いからと言って、おらにはこの暮らしを変えることはできねえ。仮に次の子供が生まれても、また、山芋掘って生きる道を教えるしかねえだ」。

囲炉裏の火を前に、一刀は黙って弥六の話を聞いていた。
「なあ、ご浪人さま。おら、間違っているだろうか」。
「間違ってはおらん。父親が我が子に生きる道を教える術はそれしかない」。
傍らで、大五郎がすやすやと眠っていた。

酒を勧められたお新は、言われるままにうなだれ、ただ飲んでいた。
このまま関所に勤めていれば、稼いでいつか、貧乏など忘れてしまう。
そう言った時、蔵人が現れた。

驚いて刀を構える役人だが、蔵人は明日のお浪の方のことを語る。
お浪の方は「お髪長。御年、四十路あまり」だが、そこを「お髪長。御年、二十歳前」と読んでほしいと蔵人は言う。
なぜなら、お浪の方は狙われている。
どの駕籠に乗っているのか、わからなくしておきたい。

だが関所は政治には関わらない。
だいたい、関所では手形と本人が一致するか、あらためるためにあるのだ。
そう言うと蔵人は、お浪の方は関所でも狙われていると言う。
関所の中でそんな事を考える奴がいるものかと、役人は笑うが、蔵人は実際に一刀が狙っていたと言って、賂を渡す。

お浪の方の駕籠を開けても、本当のことを言わない。
「御年、四十路すぎ」を「御年、二十歳前」と言う。
金を手にした役人は、お新に「わかったな」と念を押す。

その朝、お新が弥六のいる家に戻る。
弥吉の墓に手を合わせているお新に弥六は、弥吉と同じぐらいの年の子が泊まっていると教える。
寝顔を見ていると、まるで弥吉が帰ってきたみたいだと。

それを聞いたお新は、急いで家の中に入る。
弥吉の布団に寝ている大五郎を見て、お新が「まあ…、かわいいねえ…」と微笑む。
微笑んでいるお新に弥六は、弥吉が死んで、自分たちはメチャクチャになってしまった。
だからもう1人、子供を作ろうという。

途端に、お新の表情が硬くなる。
「新しく子供を?このあばら屋の、惨めな暮らしの中でかい?」
「あばら屋でも、惨めとは限らねえ。おめえだって、弥吉が生きていた頃は貧乏なんか平気だって言ってたじゃねえか
「言ったよ!だけどね、その貧乏が弥吉を殺したんだ!」

危ない崖けっぷちで山芋を掘らなければ、成り立たない暮らし。
それが3歳の弥吉を殺した。
「そんな暮らしは、ちっとも変わってやしないじゃないか!」

「おらだって子供はもう、怖ろしいと思っただ。だがな、あのご浪人さんの話を聞いて、元気がわいただ。あの旦那はな、どんな危ないところにでも、子供を連れていかっしゃるそうだ。父親が子供に生きる術を教えるには、それしかない!そう言ってなさるだ」。
「そんな無茶な!」
もどってきた一刀にお新は、「それじゃご浪人さん、あなたは斬り合いの中へでもこの坊やを?」

「連れて行く」。
「「3つの子に人殺しを見せるんですか?!」
「何事に出会っても、目をそむけぬよう、しつけてある。修羅場を怖ろしくても、避けて通ることはならん」。

一刀はそう言って、大五郎を抱き上げる。
「それを教えるのが父の役目だ」。
お新は叫ぶ。
「それは男の考え方です」。

「女は、母親はそうはいきません!母親なら、危ない崖で山芋を掘らせたくありません!そんなことさせなくても生きていける暮らしを望みます!」
だが弥六の家は、代々、山芋を掘って暮らす百姓なのだ。
一刀は大五郎を連れて、去っていく。
お新は言う。

金を貯めて、江戸へ行く。
そして、弥吉には立派な墓を建てる。
米の飯も禄に食べられずに3歳で死んだ、それが弥吉への供養だ!
お新はそう叫ぶと、家をまた飛び出した。

一刀は、お浪の方を狙う改革派の最後の1人と会っていた。
男は大五郎の手に、カタツムリを乗せて笑う。
一刀がふと、鋭い目で表を見る。
関所でお浪の方を襲うには、一刀を関所に潜入させなければならない。

そこで一刀を強盗犯の浪人に仕立て、大五郎はその被害家族の子供にする。
大五郎を強盗犯の一刀が連れ歩いているというお手配書を作り、関所に配らせた。
一刀が大五郎と関所に行けば、このお手配書を見た関所では一刀を捕えるであろう。
そうすれば一刀は関所の中で、お浪の方が来るのを待って討つ。

改革派の中に裏切り者がいた為、すべての計画はお浪の方側にもれていると一刀は教える。
だが、幸い、一刀は崖から落ちて死んでいることになっている。
なので計画はこの通り、進める。

そう言った時、表にお浪の方の警護の侍が2人やってくる。
男は一刀が刀を抜こうとしたのを抑える。
「拝殿が健在なのを知られてはいけない」。
「死ぬ気か」。

元々、お浪の方を殺す依頼をし、仲間が全て死んだ今は、男はどうあっても死ぬつもりであった。
「刺客依頼の件、くれぐれも…」。
「藩を救ってくだされ!」と言うと、男は斬りこむ。
蔵人の配下は、男を斬った。

2人の配下は寺の中に入って辺りを見るが、誰もいない。
一刀と大五郎は、寺の影から男が斬られるのをじっと見ていた。
大五郎の手には、男からもらったカタツムリが乗っていた。

一刀が、箱根の関所にやってくる。
手配書が回っていた為、一刀は捕り方に囲まれた。
捕縛される際、一刀は子供の命がないと大五郎に刀を向けた。

お新が「待ってください!子供は!子供の命だけは!」と走ってくる。
大五郎が箱車を降り、お新が抱きしめる。
一刀は捕縛された。

お新が、一刀が捕縛されたのを見て、罵倒する。
「ほんとの子供じゃなかったんだね!だからこんな危ないことに、巻き込めたんだね?!」
「斬り合いの中へ連れて行くとか、何事にも目をそむけないようにしつけるとか!父親の務めだとか!ふん!えらそうなことばかり言って!他人の子だからできたんじゃないか!」

連れて行かれる一刀に向かって、お新が「この、人でなし!」と叫ぶ。
そしてお新は、大五郎を預からせてくれと願い出る。
お新は関所の中の、自分の住居に大五郎を連れて行く。

「あたしにも、坊やみたいな子供があったんだよ」。
大五郎とお新は、弥吉の遊んでいた独楽で遊び始める。
やがて、お浪の方の一行が近づく。
大五郎が牢の方に、箱車の竹筒を持って走っていく。

牢番は大五郎が一刀を、竹筒で突付きに来たのかと思った。
「ようし、思う存分、突付け!」
牢番たちが笑う。

お新が走ってくる。
「いけません、坊や、そんなこと!」
その途端、大五郎が牢に突っ込んだ竹筒の先から、刃が飛び出した。
刃は一刀を締め上げていた縄を切った。

一刀が槍を手に、牢番2人を斬り、鍵を奪って牢を破る。
「ちゃーん!」
大五郎が駆け寄るのを見たお新が「ちゃん?!坊や、ちゃんってこの人…。ではなぜ、人質など装って…」。
「もしや、この関所内で吉田藩御公室さまのお命を?!」

一刀はお新を見て、「そうか、女あらため役のその方にも、買収の手が届いていたか」と言う。
全てを察したお新は一刀に「やめてください、坊やのためにも、そのような怖ろしいこと!」と叫んだ。
「我ら親子、ゆえあって冥府魔道に生きる者」。
そう言うと一刀は大五郎を連れて、牢を出て行く。

お浪の方の一行は、関所に到着した。
大五郎が箱車を押して、一行の中に入ってくる。
関所の役人が大五郎を追って、ちょっとした騒ぎになる。

お新がふと、目をそらすと、一刀が関所の外れに潜むのが見える。
大五郎は縁の下に逃げ込む。
「もうよい!ほっておけ」。

「お新、よいな?しかとあらため!」
お新は「お許しを」と言って、駕籠を開ける。
腰元を見て、「お髪長、御年二十歳前にございます」と言う。

縁の下の大五郎と、お新の目が合う。
お新が目をそらす。
「お許しを」。
そう言うと、お新が次の駕籠の戸を開ける。

一刀が、離れたところで凝視している。
蔵人も息を詰めて、お新を見ている。
2つ目の駕籠の中は、お浪の方だった。

「お髪長」。
お新の言葉が、一瞬止まる。
外を見つめたまま、お新が言う。

「御年…」。
お新が大五郎を見る。
「…四十路あまりにございます!」

一刀の持つ槍から、鋭い刃が飛び出る。
次の瞬間、一刀の槍が宙を飛び、お浪の方に突き刺さる。
「うう!」と言って、お浪の方が倒れる。

蔵人が一刀の前に出る。
一刀の手にもう、槍はない。
「素手なりと、容赦せぬ!参る!」

蔵人が刀を抜く。
大五郎がじっと見つめる。
蔵人が刀を振り上げ、近づいていく。
一刀の動きが止まる。

見守る大五郎の手が、胸の前で祈るように合わさる。
すると、一刀の手も同じように祈るように合わさっていく。
一刀に、蔵人の刀が迫っていく。

蔵人の刀が、振り下ろされた。
だがそれよりも一瞬早く、合わさっていたはずの一刀の指は蔵人の両目に刺さっていた。
蔵人の足の上を、一刀の足が踏みつけて抑えていた。

一刀は蔵人の刀をもつ手を、抑えていた。
刀を奪い、蔵人を刺す。
「見事…!」
そう言って、蔵人は倒れる。

「鉄砲隊!」の声で関所の鉄砲隊が発砲するが、一刀は箱車の陰に隠れて逃れた。
「弾を込める前に、1人残らずなぎ倒す!」
一刀の声が響き、槍と刀を手にした一刀が鉄砲隊の前に現れる。
鉄砲隊が下がっていく。

「命が惜しくが、鉄砲を置け!」
鉄砲隊が次々、鉄砲を置く。
「拙者の腰のものを、返していただきたい」。

胴太貫が返される。
お新が見ている。
「大五郎」。
その声で、大五郎が出てくる。

大五郎が箱車に載ると、一刀は出て行く。
お新が見送る。
首を伸ばして、見送る。

藁を編んでいる弥六のもとに、お新が帰って来る。
「お新」。
お新は大五郎が遊んでいた独楽を、仏壇の前に置く。

「お新、帰ったのか。帰ってきてくれたのか」。
「あんた」。
「お新!」

夜、弥六はわらじを編みながら、お新に言う。
「関所の騒ぎは聞いた。あの晩泊めたのは、大変な親子だったんだなあ」。
お新の手が止まる。

「今ごろ、どこを歩いてるんだろうねえ。あの親子」。
お新に暖かい微笑が浮かぶ。
「かわいい坊や…」。

大五郎が箱車の中で、眠っている。
一刀が箱車を押す。
刺客依頼を果たし、親子は去っていく。



蔵人は、小池朝雄さん。
「堺筒」では鉄砲鍛冶ですが、今回も一刀に斬られる。
箱車にはいろ~んなものが備えてあるのも、わかった。
今回は縄が出てきました。

お浪の方は、上月左知子さん。
「お末無情」といい、「暗闇仕留人」といい、上品で美しくて、残虐で怖い女性を演じてます。
これがたおやかそうで、怖くて良い。

お新は、水野久美さん。
あくどそうに見えて、弥六は「悪い女じゃないんだ」と言う。
その通り、真っ先に大五郎をかばいに刃の前に走ってくる。
大五郎が一刀を突付きに行こうとしたと思えば、「いけません、そんなことしちゃ!」と走ってくる。

このお新、最初と最後の表情が、まるで違う。
稼いでいても無表情で、ちっとも幸せそうに見えないお新。
まったく笑わないお新。

そのお新が、大五郎になくなった子供の面影を見る。
無愛想からの最初の笑いが、大五郎を見ての微笑だからか。
慈愛に満ち溢れた微笑は、とても優しく美しい。

自分の生き方に自信をなくしていた弥六は、一刀に子供を失った話をする。
すると、一刀は「間違ってはおらん」と答えて、おそらくその後に、第1部の1話でも言った「この子をどこにでも連れて行った。これからも連れて行く」を話したのでしょう。
一刀はそうやって、大五郎に生きていく道を教えている。
立場は違うが、それは百姓の弥六と同じだ。

しかし、お新はそれは父親の考えで、母親は違うと叫ぶ。
子供を危ない目にあわせたくない。
だから、危ない目にあわせるような生活は捨てた。
どっちも否定できない。

だが、2人の絆に、お新の心は少し揺らいでいた。
その一刀親子が偽物と知って、お新は「自分の子じゃないからできたんだ!」と怒る。
そして大五郎は、一刀を釈放する為に危険な役目を終える。

弥六の言った真実を前に、お新は驚愕する。
お新が止めても、一刀は行く。
大五郎はその後に続く。
さらに修羅場になるであろう関所に、大五郎はやってくる。

親子の絆を前に、お新は賄賂を渡されて言うべき言葉が出てこない。
一刀の目を見ていると、お新があそこで動揺した時点で、一刀はお浪の方の駕籠を見破っている気がしないでもないですが。
お新と大五郎の目が、合う。
この緊迫感。

自分は山に息子を連れて行き、崖から落ちて死なせて仕舞った夫を責め続けた。
だが夫は、言った。
生きる場所に子供を連れて行くのは、この親子と同じだと。

お新は、そんなことは嘘だと言った。
だが、目の前で繰り広げられている親子の決死の行動は、立場や危険の度合いこそ違え、夫や息子も同じだ。
危険を承知で互いを信じている親子に、お新は逆らうことができない。
でも斬られちゃった牢番は、ちょっとかわいそうだと思う。

2人の絆を見たお新は、真実を読み上げる。
「お髪長、御年、四十路あまり」と。
…これ、本当は「三十路」だったら頭来ちゃいますね、話ずれますけど。

さて、この辺りまで来ると、一刀が凄まじくなっている。
サバイバル能力、刺客の腕が磨かれてきて、第1部の敵や刺客では、もう、とても倒せる気がしない。
だまし討ち、目潰し、毒。
全てを越えてきちゃってるし。

だからこの時ぐらいになると、朝右衛門も「起きて半畳、寝て二畳、天下とっても弐合半」の刺野左近さんも、鐘付き息子も一刀の相手にならなくなっているのでは。
「北斗の拳」は、これより後の時代の作品だけど、「北斗の拳」で言えば、まさに「強敵(とも)たちとの戦いが俺を変えた!」状態。
蔵人を倒した凄まじさを見て、「弾を込める間に1人残らずなぎ倒す」と言われたら、そりゃあ鉄砲も捨てたくなるというもの。
危ないので、狭い関所で箱車の連発銃は使いません!

「親子が歩くこの道は、冥府魔道の刺客道。
それゆえに2人を結ぶその絆は切れども切れず、死ねども滅びず。
六道四生、順逆の境、宿命を越えた縁(えにし)であった」。

親子とは、そういうものか。
最後のナレーションの通りの2人の絆を見たお新は、家に帰ってきた。
血の修羅場を見た後なのに、お新は最後に笑顔だ。

貧乏暮らしに戻ったのに、お新はとても幸せそうだった。
お金を巻き上げていた時よりも、ずっとずっと幸せそうだった。
水野さんの冷たい美貌と演技が、人を惹きつける。

最終的に、みんなが幸せになるように収まる平成版。
いつ誰が無残に死ぬか。
殺伐さと緊張感がすごい、萬屋版。
この話はそんな緊張感の中にも親子の絆と、夫婦と女性の再生を描いて、ホッとするラストになっています。

弥六とお新、夫婦揃っての、つましい暮らしがまた始まった。
藁を編みながら、弥六が「あの晩、泊めた親子は大変な親子だったんだな」と関所の騒ぎを聞いて言う。
「かわいい子だったねえ…」。

大五郎を思い出したお新が、笑う。
また子供を作る。
そして弥六は子供を山に連れて行き、お新はその帰りを待つのだろう。


草の哀しみ 「可の字無残」

第1部「可の字(べくのじ)無残」。


越中と富山の国境であった。
次々、一刀と箱車に向かって襲い掛かってくる黒装束の一団があった。
一刀は箱車を持ち、斜面を駆け下りる。
まる1日、公儀隠密・一刀の敵に回った黒鍬衆の襲撃は昼夜を問わずに行われた。

箱車の中で眠っている大五郎の顔に上に、刀が突き出されて見える。
霧の山の中、またしても黒装束の集団がやってくる。
さすがの一刀も飲まず食わずで弱り、箱車に寄りかかって進んでいく。

しかし、上を見上げればまた、崖上には黒装束の集団がある。
疲れきった一刀は、それでも大五郎の目を見つめ、頭を箱車の中に押し沈める。
黒鍬衆が、斜面を駆け下りてくる。
一刀が構える。

黒鍬衆が次々、斬られていく。
斬られた1人が箱車に覆いかぶさると、大五郎がその死体をどける。
ついに一刀の手から刀が落ちると、一刀はすばやく箱車に備えていた槍を取り出す。
そうやって全て倒した一刀は、地面にひざをつく。

大五郎が「ちゃん」と言って、走ってくる。
一刀は落とした刀を拾い、再び箱車を押す。
大五郎も降りて、一緒に押す。

この2日、親子は一滴の水も口にしていなかった。
途中、井戸があった。
「ちゃん!」と大五郎が指差し、近づいていく。

水を汲み、大五郎が飲もうとした時、一刀が桶を払う。
こぼれた水は地面に浸透し、這っていたアリが死んでいく。
一刀が見上げると、3人の男が崖の上に立っていた。

「渇きを覚え、なおも毒と見破った一刀!だがこのままでは澄まさない」と首領が言う。
追おうとした2人の黒鍬を止めた首領は、次の手は打ってあると言った。
富山藩に入った時が、子連れ狼終焉の地だ。

山の中の一軒の百姓の家の庭に、子供が水をまいている。
一刀は近づくと、その子・太吉に、その水を飲ませてくれるように頼む。
太吉は、柄杓を差し出した。

一刀は桶の水を汲み、まず自分が口に含んでみる。
水を吐き出すと注意深く、もう一口含み、安全だと見ると大五郎に柄杓を渡す。
大五郎が飲むと、次に一刀が飲む。

すると、中からこの家の女房のよねという女性が出てくる。
「住まぬが、粥を馳走してくれぬか」。
一刀の申し出に戸惑いながらも女房は「はい」と返事をして、家の中に2人を入れた。

「いただきます」。
そう言って大五郎が食べ、「頂戴いたす」と続いて一刀が食べる。
「えい!」という声が響き、先ほどの太吉が麻の垣根をふわりと上半身の体勢を崩さす、足のバネだけで身軽に飛んだ。
右に飛ぶと、今度はそのままバネをはずませるように左へ飛び返す。

一刀がその様子を見て、かすかに眉をひそめる。
よねは「あったらものなもの飛ばして、何の役に立つだか…。鍬や鋤の使い方教えた方がよっぽど役に立つだ」と笑った
「生まれながらの百姓は百姓の仕事してればいいのに、うちの人ったらもう」。
よねが言うには、夫の吾作は、城下に野菜を売りに行っているとのことだった。

ふと、部屋の隅に視線が行った一刀が、驚いて立ち上げる。
そこには、刺客依頼の牛頭馬頭の絵があった。
「これは」。

よねは、太吉が拾ってきたものだと言う。
一刀が太吉に案内されて、拾った場所に行くと道中陣があった。
それによるち、場所は杉林の間道ということだった。

その夜、城下町では捕り物の呼子が鳴り響いていた。
黒装束の盗賊・可の字が役人が追って来るのを見ると、「この俺がてめえら木っ端役人の手に負えると思うかい」と笑った。
可の字はすばやく次の屋根に飛び、姿を消した。
そして隠れ家になっている家に忍び込むと黒装束を脱ぎ、床下に隠していた甕に金を入れる。

「しめて、5百両」。
「やっと貯まった」と、可の字はため息をつく。
翌朝、役人が走る町を、笠を目深にかぶった1人の雲水坊主が去っていく。
この雲水が、昨夜の盗賊・可の字であった。

一刀が林の間道を行くと、道中陣があった。
すると突然、矢が飛んで来た
一刀は大五郎を降ろすと、可の字が弓を飛ばしてくる。

それを避けた一刀の足が、獣を捕える罠の虎バサミに捕えられる。
一刀が痛みに、顔をゆがめる。
「さあ、どうする。この矢には毒が塗ってある」と可の字が言う。

「これからが本当のお手並み拝見だ。断っておくが、手加減はしねえぜ」。
一刀は大五郎の背を押して、自分から離れさせる。
「頼むにたりねえ刺客なんぞ、この場で死んでもらう」。

そう言って可の字が襲い掛かった。
だが、可の字の錫杖は一刀にはじかれて地面に刺さった。
すばやく刀を抜こうとした可の字だが、一刀の胴太貫が可の字の首、すれすれで止まっていた。
「刺客引き受け料、5百両」。

刀を押し付けられて静止した可の字の背後で、鋭い音がした。
もうひとつ、可の字の前に刃が突き出される。
大五郎が箱車に仕込んでいる槍の刃を出して、構えていた。
可の字は笑って「承知」と言う。

山寺で「5百両、お改めを」。
可の字は一刀に、依頼料5百両を出した。
自分は盗賊・可の字であり、その名前の「可の字」とは、手紙で上に描いて、下に読む「可」という意味だと説明した。

盗賊は人のものを盗む最低の職業だが、せめて気持ちだけは上に返りたい。
自分は、そういう気持ちでこの名前をつけたと言う。
その気持ちとは、ただひとつ。
親の仇を討ちたい。

自分たちは代々、栗から峠の百姓であり、平和に暮らしていた。
可の字親子は、両親と自分の3人で野良仕事に精を出していた。
作業の合間に風通しのよい峠の端っこで、昼飯を食べるのが楽しみだった。
この峠道には、領内見回りの為の前田公のお駕籠が通る。

駕籠には、お辞儀役と言う4人の警護が付く。
藩中第一の使い手で、阿尾根親子に明海兄弟の4人だった。
語呂合わせでこの4人は、青鬼、赤鬼と呼ばれている。
異名どおりの凄まじい腕だ。

忘れもしない15年前、可の字が12の年だった。
駕籠が、数人の武士に襲われた。
青鬼、赤鬼は次々斬って捨てた。

そしてまずいことに、追い詰められた武士たちが逃げた先には、可の字たちがいた。
両親は、この男たちの道案内と間違えられた。
可の字の両親は青鬼、赤鬼に斬られた。
悲鳴をあげて、可の字は崖から転落した。

その後、可の字だけは助かった。
駕籠を襲撃した者との関わりがないことがわかって、難を逃れたのだ。
襲撃したのは前田公の本家、加賀藩の連中だった。

そのとばっちりで、可の字の両親は殺された。
「罪もねえ百姓を斬り殺していて、間違いだったで済まされる。いや、済まされねえ!」
可の字の目が燃え上がった。
「一寸の虫にも五分の魂。この恨みはらさずにおくものか!」

その時、可の字は復讐を誓った。
警護は15年前と同じ、青鬼赤鬼だ。
峠で受けた恨みは、峠で晴らす。

「どうか、お引き受けくださいまし。この通り、お願いいたしやす」と可の字は言った。
だが一刀は「うまく仕組んだな可の字」と答えた。
「何を」。
「お前がまこと、百姓なら、大名を指して『前田公』とは言わぬはず。その方、実は幕臣、おそらく『草』であろう」。

そう言われた瞬間、可の字は梁まで飛び上がった。
大五郎が目を見張りながら見る。
一刀は5百両を持ち帰る。
「その金、どうする気だ!」

梁の上から、可の字が叫ぶ。
「刺客引き受け5百両、確かに」。
「待て!、俺を『草』と見破りながら引き受けるというのか」。
一刀は答えずに、去っていく。

「草」とは、公儀・里入り忍のこと。
雑草のように、領内に住み着く。
田畑を耕し、女を娶って子まで為す。

その任務は、一子相伝。
親が死ねば子に引継ぎ、さらに孫へと受け継がれる。
可の字は、里入り忍だったのだ。
百姓・吾作は、草の者・可の字であった。

よねと太吉が待つ家に、可の字が帰ってきた。
太吉が、父を見て喜んで走って来る。
今日で太吉は5歳になるので、今夜は誕生祝いだ。

その為の仕入れもしっかりしてきたと言って、可の字は、よねと太吉を大八車に乗せ、走っていく。
3人が笑顔になる。
太吉は縁側に座った可の字に、麻の垣根が飛び越せるになったのを見せる。
そろそろ百姓仕事を教えてくれと言うよねに、可の字はまだ早いと言う。

麻の垣根を飛ばせたり、山鳥を追いかけさせたり。
可の字はおかしな父親だと、よねは笑った。
その時、太吉の祖父と村人が数人、やってきた。
吾作、つまり可の字の作る野菜は優秀で、本当に良いところに娘のよねを嫁がせたと言って、祖父は笑った。

その夜、太吉の誕生祝をしている時だった。
山の中で可の字の家を見た黒鍬の2人が、フクロウを模して口笛を吹く。
その途端、可の字が落ち着かなくなる。

可の字の様子に「なんだ、フクロウでねえか」と義父が言う。
だが可の字は魚を持ってくると言って、立ち上がる。
義父は、魚はもう良いと言うが、可の字は仕掛けに魚がかかっているだろうから取りに行く、太吉に食わせてやりたいと言うと、外に出た。
山の斜面を降りていく可の字とともに、黒鍬の2人が行く。

戸を開けて可の字を見たよねと義父は、「なんだべ、あの2人」と言った。
「刀を差してるように見えたが」。
「おら、つけてみるだ」。
「よし、おらもいくだ」。

可の字は、山寺で黒鍬の首領と配下の2人に、一刀が刺客依頼を引き受けたことを話した。
首領が一刀と青鬼、赤鬼について、「斬れると思うか」と聞く。
「相手は富山藩随一の使い手が4人。まずは至難の業かと」。

そんな依頼を引き受けさせたとは、可の字はさすがだ。
依頼の金まで、盗賊を装って用意したのだ。
うまく行ったとほくそえむ首領に、可の字は「それが…、見破られました」と言った。
「なにい!」

「一刀は私を里入り忍と承知の上で、引き受けたのでございます」。
「ばかな!たくらみと承知で引き受けるバカが、どこにいる!」
「しかし依頼の5百両受け取りました。金を取りながら、約束を破る人物とは思えません」。

「やらせて損はありません。なにとぞ!」
「やらせろというのか。やらせよう」。
首領の言葉に可の字の顔が、輝く。

「ありがとうございます」。
「なぜ、お前が礼を言う」。
可の字がハッとする。
「それは、せっかくここまで運んだ仕事ゆえ」。

「それだけではあるまい。お前が一刀に青鬼赤鬼を斬らせて、親の恨みを晴らしたいのであろう」。
可の字は何も言えない。
「可。お前は親の仇4人と一刀と、そのいずれを葬りたいのだ」。

可の字は黙っていた。
「なぜ答えん!拝一刀を葬るは、公儀里入り忍としての任務。親の仇を討ちたいのは、百姓・吾作としての私情!迷うこともあるまい!この仕事を青鬼赤鬼の手を借りて拝一刀を斬らせる為に仕組んだこと。あくまでも、一刀を倒すことが目的だ。肝に銘じておけ!」
その時、外に気配を感じて、配下の2人が出て行く。

中をうかがっていた義父が、配下に斬られる。
よねが悲鳴をあげ、腰を抜かしそうになる。
配下がよねを斬ろうとした時、「待ってくれ!」と叫んだ可の字がその前に飛び出す。

「お願いでございます!女房には決して、他言させません!おらのせがれ・太吉も必ず役に立つよう仕上げます。なにとぞ、よねの命だけは!なにとぞ!」
可の字は、頭を地面にこすりつけて頼む。
「おまえさん!」
可の字に免じて、黒鍬衆は引き上げた。

翌日、牛頭馬頭があった場所で、太吉が泣いている。
通りがかった一刀が「坊主、何を泣いているのか」と尋ねる。
だが太吉は、泣き続ける。

大五郎が近づく。
「どうしたの?」
「おじいちゃんが、殺されたんだよ」。

可の字とよねは、太吉の祖父の墓に手を合わせていた。
よねが可の字に「逃げて。おらと太吉と3人で」と頼む。
「逃げげきれるもんじゃねえ。抜け忍は地の果てまでも追いかけられる」。

「百姓を続けるんだ。誰にも正体を悟られずに、今までどおり。親子3人、生きながらえる道はそれしかねえ」。
「太吉にも、おまえさんの後を継がせるだか」。
「草の子は草。それが太吉の運命なんだ」。
「嫌だ。太吉はおらの子だ。そんな怖ろしい者にはさせられねえだ。なあ、おまえさん、そうだろう、そうだろう!」と、よねが叫ぶ。

だが可の字は答えず、走っていく。
よねが泣き崩れる。
2人の様子を、一刀が見ていた。

可の字は1人、山寺に行く。
首領が来て、「埋葬はすんだか」と聞いた。
可の字の顔を見て、「何だ、そのしおれた顔は。お前はまだ、草としての根性がすわっておらぬな」と言った。
「何をおっしゃいます!」

「そうか、では今ひとつ、仕事を与える。青鬼赤鬼に会って、一刀の襲撃を知らせて来い」。
「ええっ!」
一刀を確実に仕留める為、そして可の字の根性に活を入れるためだと、首領は言う。

だが命令どおりにする為、可の字がそこを離れると、「もとより、女房に泣きつかれて抜け忍になる例は多い」と言う。
黒鍬衆は、よねを生かしておくつもりはなかった。
よねが家に戻ると、目の前に縄が吊ってあるのが目に入った。
すかさず、配下がよねの左右を抑える。

「あ!」
「あきらめろ。お前は父親の死を悲しんで、首を吊ったことになるのだ」。
「嫌だ離してくれ!」
「せがれ太吉は、立派な草に育ててやる。安心して成仏しろ」。

よねは抵抗したが、縄に首が通された。
その時、縄が斬られた。
よねが落ちる。
一刀が現れる。

思わず、3人が刀を構える。
「斬れるのか、わしを。斬れぬとあきらめたればこそ、富山藩の青鬼赤鬼との勝負を仕組んだのだろう」。
「その勝負、まっこと引き受けるか」。
「金をもらった以上、違約はせん」。

「ようし、刺客の手並み、しかと見届けるぞ!」
そう言うと、3人は去っていく。
よねが肩で息をしている。

庭で大五郎が見ている前で、太吉が麻の垣根を飛ぶ。
「太吉、そんなもの、飛ぶんでねえ。飛ぶんでねえぞ!」
よねはそう言うと、太吉を抱きしめる。
一刀が、それを見つめる。

やがて、前田公の行列と駕籠が通りかかった。
すると、1人の伝令が走ってくる。
峠の上の道で、可の字が待っている。

青鬼、赤鬼がやってくる。
「駕籠を襲うものがあるとか。偽りではあるまいな」
可の字は平伏していた。

「はい、刺客を雇うところを聞いてしまいました。たしか、子連れ狼とか」。
「元公儀介錯人、拝一刀か!して、依頼者は」。
「雲水の姿をしておりました。顔も名前も…ただ、お駕籠を襲う場所だけは、はっきりと。『栗から峠』とか」。
「良くぞ知らせてくれた。取っておけ!」

そう言うと、可の字に向かって、小判が投げられる。
小判を手にしながら、可の字にあの日の悲劇が蘇る。
次々両親を斬り、倒れた両親をなおも刺す4人が。

可の字の目が燃える。
小判を叩き付け、震える手で懐の匕首を握り締める。
しかし可の字は抑えて、小判を手に戻る。

栗から峠の上では、黒鍬衆の3人が見ていた。
可の字がやってくる。
「前田公の駕籠、間もなく通りかかります」。

青鬼と赤鬼は、急遽、鉄砲隊を取り寄せた。
首領は「一刀の勝ち目はますます薄くなった」と笑う。
可の字がふと、崖の端に詰まれた大岩や丸太を見て、「あれは」と聞く。

「崖崩しだ」。
綱を切れば、大岩と丸太が落ち、一刀を潰す仕掛けを作っておいた。
「青鬼赤鬼、鉄砲隊、その上崖崩しとは」と可の字がつぶやく。

いかなる手段を用いても、一刀を殺す。
それが烈堂の命令だと、首領は言う。
「来ました!」と言う声が響く。

青鬼と赤鬼も、声を掛け合う。
「栗から峠でござる」。
「ぬかるな」。
「はっ」。

道の向こうから、箱車を引いた一刀がやってくる。
「子連れ狼!」
「お駕籠を守れ!」
「鉄砲隊前へ!」

合図で、鉄砲隊が前に出る。
「狙え!」
銃を構える。

大五郎が、一刀を振り返って見る。
そして、頭を伏せる。
「撃て!」の声がかかる。

だが火を噴いたのは、一刀の箱車の機関銃だった。
「可!箱車に砕発銃があることを、一行に教えなかったのか!」と首領が叫ぶ。
可の字が、唇を噛み、息を詰めて見守る。

やがて、大五郎が顔を上げた。
「刺客。子連れ狼。前田公に害意はござらん。お辞儀役、4人の方々との立会いが所望」。
一刀の言葉に、「ようし」と4人がやってくる。

4人が斬りかかってくる。
再び、大五郎が伏せる。
走ってきた1人に向かって、一刀は胴太貫を投げた。
胴太貫は、その1人に刺さった。

「初太刀を投げる、とは!」
そう叫んで、その1人は倒れた。
一刀は箱車を押し、3人の陣を崩す。
仕込んである槍を手にして、1人を斬る。

可の字が息を詰め、見つめている。
2人が斬りかかってくる。
年かさの1人が、一刀に斬りかかる。
一刀がその刃を受け止め、その1人が勢いにのけぞる。

正面にいた1人の刀が、一刀の槍の刃を下段で受け止める。
一刀が止められた刃をくるりと返し、相手の刀の上にすばやく這わせていく。
下から上にその刀をはじくと、槍を一旦引く。
次の瞬間、一刀の槍が1人を刺した。

最後の1人が、一刀に向かって刀を構える。
一刀も、槍を構える。
2人が、にじり寄っていく。

一刀が槍を、横に払う。
刃は最後の1人の胴を切り裂いた。
最後の1人が倒れる。

一刀が槍を横にいただき、あげる。
槍を降ろし、一刀が投げて刺さった刀を拾う。
4人、全員が斬られた…。
可の字が思わず、万感の思いを込めて目を閉じる。

「崖崩しを!」という声がする。
「一刀はちょうど、真下でござる!」
「ようし!やれい!」

だが次の瞬間、いきなり可の字は崖崩しの縄を切ろうとした2人を斬った。
「可!」
叫んだ首領が、可の字の背後から斬る。
可の字が振り向き、匕首で首領を刺す。

そして、斬った配下から刀を奪う。
首領が上から下に、可の字を斬る。
可の字も振り上げた刀で、首領を斬る。

再び、首領が可の字を斬る。
可の字も斬る。
2人とも倒れる。

「おのれ!里入り忍の使命を忘れて…」と首領が言う。
「拝一刀は我が依頼を…、見事遂げてくれたのだ…」。
倒れた可の字を、首領が刺す。
可の字も刺し返す。

「その一刀を…、亡き者には…、でき、ぬ…」。
「裏切り者!まことの黒鍬物の性根のほどを見せてやる!」
首領が這っていく。
縄を切ろうとした刀を、可の字が刀で押し留める。

可の字は、首領に押し付けた刀を手で押さえ、ようやくの思いで、立ち上がろうとした。
立った力で刀を動かし、首領の首筋を斬る。
「ぐわあああ」。
首領が絶命した際に、刀が引かれ、崖崩しの縄が切れる。

縄がちりちりと、切れていく。
可の字が、切れて離れていく縄を引き止める。
必死の思いで縄を引止め、近くの斜面に刺されている木につかまる。

「ご無礼を」。
崖下では、一刀が駕籠に一礼して去っていくところだった。
可の字が顔をゆがめながら、ずり落ちていく足を斜面の岩につけて踏ん張り、必死に縄をつかむ。
気が遠くなりそうになる。

一刀が、崖下の道を歩いていく。
崖崩しの落ちる道から、一刀親子が去った。
それを確認した可の字が、微笑む。

可の字が、絶命する。
すると縄から、手が外れる。
仕掛けが外れ、大岩が落ちていく。

ガラガラと落ちて来る岩に、一刀は背後を振り返る。
そして崖の上を見る。
大五郎も見る。

栗から峠に植えつけられた、『草』。
公儀黒鍬里入り忍の系譜は、ここに絶えた。
太吉とよねも、栗から峠の方を見上げていた。
少年・太吉に残された前途は、平和な百姓として生きる道のみであった。



黒鍬衆って、一刀に鎖を5人でかけて、ジリジリ周りを回ったり、黒装束が飛んできたり、印象としてはこれぞ子連れ狼の刺客の忍者!って感じなんですよね。
冒頭から、黒装束のいかにも忍び!と言った風体の黒鍬衆が次々襲ってきます。
このしつこい攻撃に、一刀もくたくたと言った風です。

どうも2昼夜に渡って襲われ、水も飲めなかったし、眠れなかったらしい。
「冬への門出」みたいですね。
大五郎を見つめ、疲れきった表情ながら、頭を箱車に伏せさせます。

疲れた一刀は珍しく、刀を落とします。
しかしかろうじて、槍を取り出し、全員を斬る。
箱車に伏せた遺体を、大五郎が邪険に突き飛ばしてどける。
大五郎は箱車の中で、仮眠を取ってるから、まだ元気。

水が飲みたくても、そこに「飲んでください」とばかりにある井戸は怪しい。
一度、毒で苦しんだ一刀は、もうその手には引っかかりません。
こうして一刀は、どんどん相手の手の内も学んで、始末に終えなくなっていくのですね。

しかし、子供が庭に撒いている水なら、大丈夫だろうと。
それでも一刀はいきなりがぶ飲みせず、まずは口に含んで最初は吐き出すほど、用心している。
もう一度含んで、大丈夫と見ると、今度は大五郎に先に飲ませる親心が泣かせます。

いやー、こんな形相の浪人がいきなり、庭に立っていたら、怖いですね。
それで「粥を」と言われても、なかなか「OK!」とは言わないですね。
私なら、言えない。
家にあげないですね。

しかし、大五郎がいると、どうかな。
大五郎は人の警戒心を、解きますね。
太吉がとても5歳には見えないんですが、ここでは5歳だということになっています。

この太吉が麻の垣根を飛ぶ姿がまた、いかにも忍者。
ひょいと体勢を崩さず飛んでいて、あれはトランポリンかなんかで飛んでるんでしょうか。
すごいバネ。
しかも、左右に連続。

そして雲水姿の可の字さえも、一刀を襲ってくる。
飲まず食わずで一息ついた後、いきなりの襲撃、虎バサミの罠。
普通の剣豪じゃ、とても耐え切れない。
刺客を試すにしては、ハードすぎる。

しかし一刀は可の字を見事、撃退。
打ち首寸前の可の字。
そこに「シャキーン!」と音がして、大五郎が槍を構えている。

大五郎が父親を助けようとしている!
段々人を斬ることを覚えてきている。
門前の小僧、習わぬ経を読むというが、末恐ろしいが頼もしい。

さらに一刀は元・公儀介錯人らしく、「公」の一言で、可の字の正体を見抜く。
この時、梁まで飛び上がる可の字を、大五郎も見つめちゃう。
だが、一刀は罠かもしれないこの依頼を引き受ける。

それは、可の字の燃え上がる恨みの目のせいでしょう。
この目に嘘はなかった。
それに、この話は本当だった。

こちらが生涯をかけた恨みを持っていると言うのに、青鬼、赤鬼は可の字のことなどわからない。
成長したからあの子供が可の字だとわからないにしても、おそらく、歯牙にもかけていないし、後悔などまったくしていないと思われる。
小判を一枚、投げて寄越す傲慢さがそれを語っている。
可の字の、青鬼赤鬼を見つめる目が、恨みに燃えている。

間違えたの一言で、済まされる可の字の両親の命。
百姓の命が、とても軽い。
少なくとも青鬼、赤鬼にとっては、とても軽い。
それが許せない。

黒鍬衆は黒鍬衆で、可の字の義父をアッサリ斬った。
太吉も必ず仕込んで役に立たせるとまで言って、命乞いをしたよねも殺すつもりだった。
人の命を、なんとも思っていない。
その点では、青鬼・赤鬼と黒鍬衆は何も変わらない。

恨みを晴らしてほしい気持ち。
このまま、よねと太吉と平穏に暮らしたい気持ち。
仇を本当は見事に討ってほしい。
里入り忍としての使命と、この気持ちの狭間で可の字は苦悩する。

だけど可の字は、一刀の襲撃を知らせに行かなければならない。
一刀が不利になることは、言いたくない。
可の字が肝心なこと、箱車に機関銃が装備してあることを教えていなかったのは、わざとだろうか。
あの「やった!」と言えそうな表情見ると、確信犯に思える。

ところで、可の字の父親は「草」だったんでしょうか。
草の場合、あんなにもアッサリ斬り殺されなければならないんでしょうか。
それとも可の字の代で、草になったんでしょうか。

青鬼赤鬼との対決で一刀、得意の?初太刀投げ。
「初太刀を投げるとは」と、やっぱり驚愕して倒れる1人。
固唾を呑んで見守る可の字。

一刀が仇をとってくれたのを見た、可の字の感極まった表情。
思わず、閉じる目。
長きに渡って抱いてきた恨みが、今、晴れた…。
すると、可の字は突然、「裏切った」。

黒鍬にしては裏切りだが、一刀に対して、人としては誠意で応えている。
本来、どんな手段を取っても倒すはずだった相手。
だが相手は、罠の危険を承知で約束を守ってくれた。
その恩に報いるためには、命を賭けて守る。

首領と凄まじい斬り合い、刺し合いになりながら、可の字は首領にトドメを刺し、縄を引き止める。
気が遠くなりそうなところを、奮い立たせる。
その必死の表情。
一刀親子が道を外れたと見ると、微笑んで事切れる可の字。

泣かせる世界。
自分たちが離れた瞬間に、居た場所に落ちてきた岩。
それを見つめる一刀には、崖の上の出来事がわかっていたと思う。

わからない一刀ではない。
崖の上には、こちらを見下ろしているはずの黒鍬衆も誰もいないのだから。
そういえば、あんなにいた黒鍬衆も3人になっちゃった。

太吉とよねが、峠の方を見上げている。
ひょっとして、岩が崩れる音はすごかったのかな。
よねは察したでしょう、可の字の最期を。

そして残された太吉には、百姓としての平穏な暮らしが訪れる…。
全て、可の字が、誰にも見えないところで命を賭けた結果。
泣かせる世界ですね。

可の字は、夏八木勲さん。
後の烈堂さまですね。
とってもワイルドです。
さすがです。

「可の字無残」というタイトルどおり、確かに可の字は、無残な殺され方はしました。
でも人として恩義に報いた可の字の最期は、決して無残ではなかったと思えます。
一刀を、大五郎を、よねと太吉を救った可の字の人生は、無残なんかではなかったと思います。