こたつねこカフェ

癖のある俳優さん、悪役さんが大好きです。時代劇、ドラマ、映画、俳優さんのことを好きに書いています。
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犬神家の一族は、なぜ

犬神家の一族はなぜ、おもしろいのか。
これほど、犯人がわかって、トリックがわかっているのに何度見てもおもしろい謎解きミステリー、推理小説の映像化の映画ってないです。
この手の映画は、犯人がわかってトリックがわかっていたら、もう二度は見なくても良いや、と思うものが多い。
なのにどうして、市川崑監督が作った横溝正史の映画はそうではないのか。

この疑問、持っていた人も多いでしょう。
私も持っていました。
それに答えてくれたのが、またしても春日太一さんですが、春日さんの「市川崑と『犬神家の一族』」でした。

ヒッチコック監督が言っていた「ミステリーは映画にすると、つまらない」。
「だから自分の映画はミステリーではなく、サスペンスだ」。
「サスペンスのために、ミステリーがある」。

では市川監督は、謎解きが興味の全てになりがちな推理小説、ミステリーをどうやって映画として見せたのでしょう。
どうやって観客の気持ちを、惹き付けたのか。
そのために、いかにたくさんの工夫を凝らせ、計算していたのか。
知って、感動しました。

おもしろさの理由のひとつ、やはり、金田一耕助に石坂浩二さんを起用したことが大きかったんですね。
石坂さんは声変わりの時、声がうまく出ないことがあったらしい。
それでボイストレーニングに通った。
この時、声にもメジャーな声とマイナーな声があることを知った。

良いナレーションは邪魔にならない。
BGMと合っている。
それでいて、ちゃんと聞いて耳に入らなくてはならない。

音楽が長調なら、ナレーションの声は短調。
音楽が短調なら、ナレーションの声は長調。
こうすれば、ナレーションが邪魔にならず、心地よく聞いてもらえる。
短調、長調の声を使い分けて、石坂さんはナレーションを行っていた。

市川監督には、それがわかっていたんです。
横溝正史の小説は、登場人物が多い。
先代から続く、複雑な人間関係もある。
事件が起きる以上、見ている人にはそれを理解させなくてはいけない。

つまり、事件を解き明かす金田一はナレーション役でもある。
観客に無理なく、退屈させず、それを理解してもらわなければ、訳がわからない。
説明に、そんなに時間をかけるわけにもいかない。
だから名ナレーターの石坂さんに、金田一を演じさせたかった。

また、ビックリしたのは、石坂さんは相手の声に自分の声を合わせていたらしいんですね。
相手の声に応じて、自分の声を作る。
そして耳障りにならないように、見ているこちらに聞いてもらう。

古舘弁護士や警察署長は、ガラガラ声でまくしたてる。
弁護士は犬神家を語り、署長は事件を語る。
だから金田一は高めの抑えたトーンの声で話す。

また、坂口良子さんの旅館の従業員。
彼女とのコミカルなやり取りの中で観客は、犬神御殿を知り、珠代を知り、家系図を見、彼女が報告した毒について知り、金田一の性格も察する。
坂口さんの旅館の娘は、のんびりした声で話す。
だから彼女に対しては金田一は、低めに早い口調で話す。

…すごい。
本当に、本当に石坂さんはすごい俳優さんなんだ。
石坂さんは、そんなことまで計算して演技していた。

これぞインテリジェンス、これぞ知性。
石坂さんは知識も豊富ですが、知識だけではない、それを有効に使うことができて知性なんだと思いました。
本当に頭が良いって、こういうことなんだと思ってしまいました。

前に仲代さんが、「この映画では自分の中で一番低い声で話した」とおっしゃっていました。
本当にプロというものは、そういうことまでするんだ。
できるんだ。

コミカルな坂口良子さんについても、初めてその女優としての才能を知りました。
こういう方たちが集まって、演技しているんです。
それを理解している監督が管理する。
おもしろいものが、できないわけはない。

演技もですが、石坂浩二さんの知性が映画を成功に導き、後の横溝正史の映像化を導いた。
石坂浩二さんという知性を起用した市川監督のすごさ。
改めて石坂さんのすごさと、横溝正史映画のすごさ、市川崑監督のすごさを知りました。
「犬神家の一族」のおもしろさのひとつは、石坂浩二さんの起用だったのですね。


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鵺の鳴く夜は怖ろしい… 「悪霊島」

CATVで2006年版の「犬神家の一族」を見ました。
そして今度は「悪霊島」を見ました。
「犬神家の一族」は横溝正史作品の映画化で、これで角川映画は一気に乗りました。

横溝正史ブームも起きました。
「悪霊島」も横溝正史の晩年の作品で、こちらも映画としては当時のブームの最後のほうに映画となりました。
「犬神家」は、市川崑監督。
「悪霊島」は、篠田正浩監督です。

だから、タッチが違います。
主演の金田一耕介だって市川監督は石坂浩二さんで、篠田監督は鹿賀丈史さんなんですから、違って当たり前なんですが。
でも鹿賀さんの金田一耕助も、もう何作か見てみたかったなという気持ちになりました。

1980年、冬。
放送局に勤めている三津木五郎は、同僚のジェスチャーで呼ばれます。
「何?」
五郎が中に入ると、ジョン・レノンが射殺されたニュースが放送されてました。

ニュースのビートルズの映像を見て、五郎は思い出す。
ビートルズが日本に来た1960年代。
五郎は旅の真っ只中だった。
青春と言う旅の真っ只中だった。

そのたびの頂点で出会った、ひとつの事件。
あれで否応なく、五郎も変わらなくてはえなくなった。
五郎は思う。

「それにしてもあの事件は僕にとって、何だったのか。
そしてあの島は。
確かに血なまぐさい風が島を襲い、荒れ狂ったけど。
今思うに、あの島での10日の日々こそ、もう二度と足を踏み入れることが叶わぬ、魂の聖域だったのかもしれない」。

ここでビートルズの「レットイットビー」が、流れたはずなんです!
流れません。
やっぱりダメなのか~。
流れないのか~。


話としては、島で起きる連続殺人で「獄門島」。
平家の落人という、戦に負けて落ち延びた者がたどり着いた土地という点で「八つ墓村」を思い出します。
断崖絶壁の海へと男が落ちていく。
男は虫の息で引き上げられ、「あの島には怖ろしい悪霊が…。鵺の鳴く夜には気をつけろ」と言って息絶えます。

ヒッピースタイルで、旅行して歩いている、若き日の五郎が向こうからやってくる。
その頃の五郎は、電車はただ乗りに決めていた…、ということで、ある単線のローカル電車から五郎は降りて、線路を走る。
電車の中で知り合った、ぼさぼさ髪の着物スタイルの「おっさん」を誘って。

ところがこのおっさん、鈍い!
つかまるかと思ったところ、おっさんも五郎もちゃんと逃げられた。
このおっさんが、金田一探偵なのでした。
フェリーの乗り場では、引き上げられた男の死体が検分されている。

そこにいるのは、磯川警部。
この顔じゃ、全然わからんと言うほど、男の遺体の損傷は激しく、唯一の手がかりはスーツの「青木」のネームだけ。
つまりそこで磯川警部に発見されてしまった金田一は、一連の殺人事件を任されてしまうわけです。

磯川警部の担当している事件に、老婆殺害事件があった。
この老婆・浅井ハルはもぐりの産婆をしており、24年前、ある暗い秘密に関わり、つい脅迫などもしてお金を得たりしたのですが、身の危険を感じ始めた。
そこで磯川警部に手紙を書いたのですが、一足違いで殺害されてしまっていたのでした。

老婆のところで見つかったのは、刑部神社の「大吉」のおみくじだったが、そのことに詳しい母親を持つ部下によると、この神社はもうおみくじを作っていない。
おみくじは20年以上も前のものだ。
なぜ、そんなものを老婆は持っているのだろう。

すると、金田一も話し始める。
実は金田一が依頼を受けた仕事も、刑部島に関係があるのだが、5月に青木と言う人物が刑部島に渡ったきり、消息が知れなくなった。
青木と言えば、さきほどの死体ではないか!?

金田一にこの仕事を依頼したのは、実力者として村会議員も頭を下げに来るような人物の越智竜平。
刑部島は代々、この網もとの越智家と平家の落人の生き残りが村の宮司の娘をもらった刑部家の2つの家が君臨している。
越智竜平はアメリカに渡り、事業で成功した男。
この巴と越智竜平は、若い頃、恋人同士だったらしい。

2つの権力者の家というと、「悪魔の手毬歌」みたいでもあります。
さて、瀕死の青木がつぶやいた言葉が、録音されていた。
その言葉を聞かされる金田一。
「あいつは、腰のところで骨と骨がくっついた双子なんだ。あの島には悪霊が…、あの島にはおそろしい悪霊が…。いいか。鵺の鳴く夜は気をつけろ」。

金田一は、刑部島に渡る。
さてこの刑部島には、五郎も渡っていた。
島には美しい双子の姉妹・真帆片帆と、姉妹よりもさらに凄みを感じるほどの美貌の母親・巴御寮人がいました。
3人の写真を撮っているのが、あの五郎だった。

…と言った具合に、話は進行していきます。
そして起きる連続殺人事件!
「犬神家の一族」に始まる横溝正史ものの映画は、大物女優が犯人役を演じることで話題にもなりましたが、ここでは岩下志麻さんが出演しています…。
ということは、ええ。

横溝映画は、女優たちが美しく、時に悲しく、怖ろしいのですが、この岩下さんもそうですね。
岸本加世子さんが演じる真帆に向かって、手を伸ばし、ペタリと触るしぐさが、初見のときとても怖ろしかった。
美しく、神秘的な巴と、淫奔で狂乱のふぶきの目の色の演じ分けがすばらしい。
そして本当に美しい。

さすが、篠田監督。
岩下さんの独壇場です。
それに対して、金田一も他の出演者も、いまいち影が薄い。
真帆も五郎も女中さんも、もっと動かせたなあと思うと惜しい。

去っていく連絡船を崖の上から見ている真帆のカットなんか良いので、彼女と五郎をもっと絡ませても良かった気がします。
というか、私はもっと絡んでると思ったんですけどね。
金田一と五郎も、もっと絡むかと思いました。

逢引していたのが片帆じゃなくて、真帆と五郎の方がおもしろかったな、などと思います。
事件の夜、五郎と会っていたのは真帆とすりかわってやってきた片帆。
それで片帆が殺されてしまったとかね。

去っていく連絡船を見ている、白装束の真帆。
磯川警部が写真を、五郎に渡す。
こんな風だったら、五郎への巴一家への思いの深さが違ってきた。
五郎が撮影した、磯川警部が渡して五郎が見直す巴と片帆真帆とのスリーショットの写真がもっと胸に迫ってきたと思います。

「血なまぐさい風が吹き荒れた。僕も深い心の傷を負った。でも金田一さん。あの島での日々はやはり僕にとって、二度と戻ってこないめくるめく無限の旅でもあった」。
この言葉が、ジーンと響いてきたかもしれない。
惜しいなあ。

警察の車が港に到着し、走っていく。
車の前を、金田一耕助が横切る。
磯川警部と五郎が、思わず走り去る車の中から金田一を目で追う。

五郎が、車のガラスの向こうで「金田一さん」と叫ぶ。
彼の声は、金田一には聞こえない。
流れていく金田一耕助の後姿。
後姿がストップして終わり。

もっと五郎と金田一耕助が繋がっていたら、このシーンも切なさが増したと思います。
これで金田一の消息は、わからなくなるわけですし。
ついでながら、そんな一言もあると良かったかな。

要するに五郎が金田一耕助に思いを寄せるほど、2人は関わりあったかな?
心が痛むほど、巴たちと五郎は関わりあったかな?
巴以外の場面が薄いんです。
だから、あんまりラストが胸に迫ってこないんです。

「獄門島」の鐘を突く大原麗子さん。
遠ざかっていく船。
船から見て、遠ざかっていく獄門島。
これは、なかなか余韻があったんですけどね。

一つ一つは良い画面なだけに、すご~く惜しい。
もっとドラマが見たかった。
時間が足らないのかな。

そして、ここで流れるのも、「ビートルズ」のレットイットビーじゃなかった。
「レットイットビー」と横溝正史の、意外な適合に驚いたんですけどね。
残念。
洋楽を使うのって、難しいんですね。

全体的にものすごく盛り上がりそうだったのに、盛り上がらなかった。
でも、岩下さんの巴は見ごたえありますよ。
篠田監督の責任じゃなくて、原作が映画化に向かないのかもしれないし、今までの横溝映画を見てた私が違った方向に期待しすぎたのかもしれませんね。


♪星の~流れに~身を占って~♪ 「横溝正史シリーズII 黒猫亭事件」

「星の流れに」

作詞:清水みのる
作曲:利根一郎

星の流れに身を占って どこをねぐらの今日の宿
すさむ心でいるのじゃないが 泣けて涙も枯れはてた
こんな女に誰がした

煙草ふかして口笛ふいて あてもない夜のさすらいに
人は見返る我が身は細る 町の灯影のわびしさよ
こんな女に誰がした

飢えて今頃妹はどこに 一目逢いたいお母さん
ルージュ哀しや唇かめば 闇の夜風も泣いて吹く
こんな女に誰がした


「星の流れに」という哀しい曲で始まる、「黒猫亭事件」。
BSフジで放送されていた「横溝正史シリーズ」も、この「黒猫亭事件」で終わりのようです。
また放送してほしい。


昭和22年の東京。
ある夜、見回りの巡査はバー「黒猫亭」の裏庭で、土を掘り返している男を見た。
男は黒猫亭の敷地の持ち主である隣の寺・蓮華院の若い僧侶・日兆であった。
蓮華院では昨年、和尚が栄養失調で亡くなり、今は日兆しかいない。

その日兆が掘り返したところを見ると、人の足が出ていた。
巡査も日兆もおののき、すぐに警察が呼ばれる。
遺体は30歳前後の女性とわかったが、顔も肉体的な特長がわかる部分も切られて、身元がわからなくなっていた。
黒猫亭の経営者の糸島大伍と妻のお繁は、黒猫亭を売って今は神戸に引っ越してしまっていた。

お繁には、土建業でどんどん事業を拡張している風間組の風間俊六という愛人がいた。
一方、糸島にもダンサーの鮎子という愛人がおり、夫婦は冷え切っているということだった。
風間は事務所を追い出され、行き場に困っていた中学の後輩・金田一耕助を呼んだ。

だが、やってきた金田一に風間は1日遅かったと言う。
新聞には、遺体はお繁として出ていた。
お繁は風間に、自分は殺されると訴えていた。
自分が殺されるか、鮎子を殺すか、もう、どちらかしかないと。

だが引っ越すに2週間前、事件が起きたと思われる日から、黒猫亭の女給もお手伝いも、お繁を見ていなかった。
化粧品にかぶれたということで、部屋にこもっていたというのだ。
当初は犬が掘り返したところから足が出ていたので、掘り返していたと言っていた日兆だが、問い詰めると証言を翻した。

実は日兆はお繁に惚れており、常日頃から黒猫亭につらなるお繁の住居を覗き込んでいた。
しかし2週間前、お繁が人前に姿を見せなくなってから日兆がのぞいたところ、別の女がお繁の着物を着て廊下に出て来たと言うのだ。
遺体はお繁とされたが、金田一耕助は遺体の顔がないことにひっかかっていた。

糸島は大陸に渡り、そこで同じく日本から来ていたお繁と夫婦になった。
戦争が終わって、お繁とは別々の引き上げ船で引き上げてきた。
その船の中で糸島は、小野千代子という女性をひっかけていた。

風間のところで働く男が、糸島と同じ船に乗っていて、一部始終を見ていた。
東京に着くと糸島はその千代子を、赤線に売り飛ばしてしまったのだと見ていた男は言う。
男は糸島を「嫌な男だ」とはき捨てるように言った。

さらに遺体の側には、黒猫の死体が埋められていた。
黒猫は、黒猫亭の名前の由来になった、猫のクロだと言う。
しかし、その途端、背後で猫の泣き声がする。
黒猫がいた。

この猫は埋められていた猫の兄弟猫で、糸島が猫が死んでしまったからと兄弟猫を貰って行ったのだという。
犯行の行われた座敷には血の跡が残っていたが、そこから猫の血も発見される。
猫は、2匹いた…。
金田一耕助はそこにこだわる。


以下、ネタバレです。


顔がないということは、探偵小説においては被害者と加害者が入れ替わっていることが多いと言う金田一耕助。
しかし、この場合はお繁が犯人なのか、鮎子が犯人なのか。
ところが金田一耕助は、鮎子という女性が実在したのかに疑問を持つ。

お繁は和服を着こなし、日本髪の和風美人。
一方、鮎子はまるで外人のような容貌に、ドレスを着ている洋風美人。
この2人を金田一耕助は、同一人物だと見抜く。

金田一耕助は戦争前、お繁が18歳の時に起こした、姑毒殺未遂事件の新聞記事を手に入れる。
そこには18歳のお繁の写真が、あった。
金田一耕助は写真を手にダンスホールに行くと、支配人も同僚のダンサーも「鮎子さんでしょう」「若い頃から美人ねえ」と言う。
一方、黒猫亭を知る巡査に見せると、「これはお繁の若い頃だ」と言った。

本当はどこにもいないはずの鮎子が殺されていなくなったところで、誰も困らない。
またはお繁が殺されて鮎子が指名手配になったところで、元々いない女は捕まらない。
埋まっていた遺体は、千代子だろう。

お繁は千代子を言葉巧みに赤線から連れ出すと、殺してしまう。
そしてその日から、人前に姿を現さなかった。
千代子を殺したことを隠すために猫を殺し、血の跡を猫の血だといってごまかした。

お繁は、18歳の時の事件をねたに、大陸で自分につきまとう糸島が嫌でたまらなかった。
引き上げる時、糸島と手が切れると思ったのに、糸島はなおもお繁につきまとってきた。
すでにお繁には風間と言う、たった1人、おそらく生涯でただ1人、本気で愛した男がいた。
糸島への感情は、冷え切ったどころか、耐えられない嫌悪感にまで高まっていた。

そこでお繁は、自分に惚れている日兆を利用した。
日兆はお繁に誘惑され、夢中になり、やがて言われるまま、引越しの挨拶をしに行った糸島を殺した。
しかし寺を張り込んだ警察の目をかいくぐり、日兆は自殺してしまった。

自殺の理由は警察の手が迫ったことを察したというより、お繁の本意に気づいたからだろうと金田一耕助は言った。
日兆など、お繁にとってはもう用のない男だったから…。
そして金田一耕助は、寺の墓標がひとつ、落ち葉を敷いて立っていることに目を留めた。

落ち葉は、墓の上に積もるものだ。
つまり、これをどかしたことがあるということになる。
金田一の言う通り、墓標の下から糸島の遺体が出る。

寺を探っていると、そういえば、と張り込みの刑事が、夜、黒猫にミルクをやっている手を見たと言う。
てっきり、日兆と思っていたのだが、もしやお繁がまだ、寺の敷地内にいるのでは?
金田一が落とし穴のようにはまったことから、防空壕が発見され、金田一耕助も日和警部を先頭にした警察もそれをたどっていく。

すると、一軒の荒れた小屋にたどり着く。
2階に上っていく金田一の前に、「やっと来たね」と言って、ドレスを着てピストルを構えたお繁が立っていた。
「1人じゃ寂しいからね。あんたも一緒にいってもらうよ」と言うと、お繁は金田一にピストルの狙いを定める。

その時、「お繁!やめろ!」と風間が飛んで来る。
風間の姿を見たお繁は、力なくピストルを下げる。
お繁は逮捕された。

「戦争さえなければ、お繁は大陸には行かなかっただろうし、糸島には会わないですんだかもしれない」。
風間はそう言った。
「女はわからない。怖ろしい」と言う風間に金田一耕助は、お繁が風間だけは本気で愛していたのだと言う。
そしてその為に、糸島を殺す決意をしたのだろうと。

だが、風間にとってお繁は取替えのきかない女性ではなかった。
遊びと言っても良かったかもしれない。
風間は確かにお繁に優しかったが、その優しさがお繁を追い詰めたとも言えるのだと金田一耕助は言った。

お繁は冷たい鉄格子の中で、星の流れに…という、哀しい女性の運命を歌った曲を口ずさんでいた。
雨の激しい日、お繁は移送されていく。
ふとお繁が顔を上げた先に、風間がたたずむ。

お繁が、ハッとする。
風間がお繁を見つめる。
だが、お繁は警察官に促され、護送車に乗り込んでいった。
風間はお繁の去った後を見つめていたが、傘をさして雨の中、戻って行った。

事件のあった黒猫亭に、金田一耕助が旅支度をして来ていた。
黒猫をなで、抱き上げる。
そして、金田一耕助も去っていった。
後には黒猫だけが、事件のあった家の縁側に悠々と座り込んでいた。



黒猫亭事件は、私が読んだ本では、「本陣殺人事件」の後に収録されていた短編でした。
だからドラマでも、全部で2回。
2時間サスペンスにすると、ちょうど良いぐらいの長さかな?

マダム目当てに通う客が多い黒猫亭の、色っぽい和風美人のマダム・お繁。
太地喜和子のお繁=鮎子が適役過ぎる。
今これだけ妖艶な和風美女は、なかなかお目にかかれません。
着物が似合う和風美女はいるにはいますが、背徳的、悪徳の香りがちょっと足らない。

だけどこれが、バタ臭い鮎子も似合うんだな~。
アメリカ兵の腕にぶら下がって歩く、派手な服装と化粧の女性たち。
♪ほぉしのー、流れにー、身をうらなあって~♪のメロディが流れる。

これは、戦争が終わって町中に溢れた敗戦の民の悲しさを見た、清水みのる氏作詞の、「星の流れに」という曲。
敗戦で身を売るしか、生きて、いや、生きるどころかその日を食べていく方法がなくなった女性の、転落を歌った哀しい恨みの歌。
清水氏は、ある投書からこの曲を作ったそうです。

当初はブギだったこの曲は、軽く歌える歌ではないと、このメロディーに落ち着いた。
歌ったのは、菊池章子さん。
最初にこの曲を持ってこられたある有名歌手は、嫌な歌だと思った。
しかし、これは絶対ヒットするとも思った。

だから歌ったら、一生歌い続けなきゃならないだろうと思った。
それで、断った。
結果、菊池さんが歌ったわけですが、やっぱりヒットした。
元の題名は「こんな女に誰がした」だったそうです。

GHQから「反米感情をあおる」というクレームが来て、変更したとか。
宣伝、NHKでの放送自粛を乗り越え、菊池さんの歌声に、この歌詞に人々は涙した。
清水氏は投書の女性を心配して、「少しでも、印税を差し上げたい」とマスコミにも協力してもらい、何度もこの女性を探したそうです。
しかし女性は名乗り出ることもなく、どこの誰かもいまだにわかっていないようです。

どこで読んで、誰の話かは覚えてないんですが、この曲、まだ子供の、この記事の筆者が訳もわからず、ヒットして良く耳にするから覚えていて歌った。
♪こ~んな~、女に~、だぁれが~し~た~♪
そうしたら年の離れたお兄さんだったかな?が、ふと振り向いて「自分で勝手になったのよ」と怖い声で言った。
筆者はその様子を見て、2度とこの歌を歌わなかったと。

ううむ…。
いろいろと考えさせるエピソードと、そういうものがつきまとう哀しい歌「星の流れに」。
太地さんが演じることと、この曲を流すことで、お繁の身の上が詳しく描写しなくても予想がつく。
怖いけど、かわいそうな女性なんだなあ…と。

風間俊六は、近藤洋介さん。
「暗闇仕留人」の、「村雨の大吉」だ。
豪快なところ、人が良さそうなところが似ている。

女性が好きで、でも実はその優しさが1人の女性を犯罪者にするまでに追い詰めてしまったと、金田一に指摘されるまでわからない。
指摘された後は、お繁に対する哀れさに加えて、罪の意識で雨の中、護送されていくお繁をじっと見つめる。
お繁もそんな風間が好きだったんでしょう。
たぶん、2度と表には出てこないお繁と、風間の、外での最後の別れが哀しい。

風間の事務所に行った金田一が、うな丼を食べさせてもらうのに、「本物のうな丼ですか!」と言っている。
タバコまで貰って、金田一耕助、実にうれしそう。
金田一耕助の生活の苦しさと、風間さんの景気の良さ、豪快さが出てます。
和尚が栄養失調で死んでるのも、厳しい時代を感じさせます。

お繁は、金田一耕助には実に無情に道連れする宣言をしてピストルを発砲するんですが、風間さんを見た途端、大人しくなる。
ここでは金田一さんは、男性としては全然、報われない役どころ。
しかし、自分に銃を向けたお繁の気持ちを汲み取ってやるところなんかは、さすがです。

糸島は田口計さん。
ちょこっとしか、出番はありません。
日兆さんは、池田秀一さんです。

黒猫が犠牲になっているので、私としては最初は見るのをためらったんですが、実に良くできていました。
犠牲なった猫はかわいそうでしたが、象徴的に出てくる黒猫はかわいかった。
黒猫亭のインテリアも、なかなかオシャレ。

飲めないけど、レトロな雰囲気も素敵で、今あったら行きたいぐらいです。
でもこのレトロな雰囲気を、今だと「借り物」「作りました!」感なく再現するのは難しいと感じました。
とても自然に感じられる。
あの頃の空気も伝わってくる、ミステリーとしても見応えある一編です。

「犬神家の一族」とか「八つ墓村」みたいな、派手な事件じゃないんですけどね。
特に「横溝正史シリーズII」は、話題作は「I」でドラマ化してしまっているので、小品が多い印象です。
でも「黒猫亭事件」や「真珠郎」「不死蝶」なんかは、とても上手い作品になっていると思います。
派手な事件じゃないけど、その裏に犯罪に至るまでの人間の哀しさや、人生がしっかり反映されている。

猫が好きと言い、自分の中には猫の血が流れているのじゃないかしらと言っていたお繁。
なのに、クロを死なせたりしたから、いけないのじゃ。
猫のようなと言われながら、猫のようには生きられず、風間への愛情から人生を狂わせたお繁。
でも黒猫亭の跡地に残った黒猫は、新しい家主が来ても、たくましくしたたかに生きて行ったことでしょう。


いつか帰って来ます 「横溝正史シリーズII 不死蝶」

水曜日、BSフジで放送している「横溝正史シリーズII 不死蝶」が最終回でした。
全部で3回。
以後、ネタバレしてます。


金田一耕助は、友人の日和警部から、ある事件についての調査を頼まれた。
それは信州・射水の矢部杢衛という老人からの依頼で、23年前、鍾乳洞で「矢部家」次男・英二が惨殺された事件を調べてほしいというもの。
犯人は長男・慎一郎の恋人で、村では矢部家と並ぶ2大勢力の「玉造家」の娘・朋子ということだった。
敵対する2つの家の息子と娘は、駆け落ちするつもりだった。

それを知った次男の英二は、兄をたぶらかした女を殴る!と息巻いて、鍾乳洞に入ったが、2度と出てこなかった。
英二は鍾乳洞で遺体となって発見され、前後の状況から犯人は朋子と思われた。
その朋子は、「私はいきます。でも、いつか帰って来ます。蝶が死んでも、翌年、また、美しくよみがえるように」という手紙を残して消えてしまった。
杢衛は息子を奪った、敵対する家の娘を、今も激しく憎んでいた。

そして今、射水の村に、ブラジルのコーヒー王・ゴンザレス氏の養女・鮎川マリとその母・君江が滞在している。
マリは朋子の若い頃に生き写しで、母・君江は黒いベールをかぶり、顔を見せない。
杢衛は、君江は次男の仇・朋子ではないかと疑いを持っていたのだ。
だから金田一耕助に、朋子と君江が同一人物かどうかを調査してほしいというのだった。

金田一耕助が到着した矢部家には、当主の杢衛のほかに慎一郎と妻・峯子、峯子の娘・都がいた。
そしてその兄の矢部家の番頭役で、実際に家を切り盛りしている宮田文蔵。
英二の事件の時にはアリバイがあり、事件後は満州に渡り、最近引き揚げてきた古林徹三もいた。
矢部家の娘・峯子は23年前と同様に、玉造家の康雄と人目を偲ぶ恋人であった。

ある夜、鮎川マリは、村での親睦のためのパーティを開く。
矢部家の人々も招待されていた。
金田一耕助も矢部家の人々とともに、パーティに向かう。

マリがブラジルの曲を演奏した後に、君江が鍾乳洞に入っていくのが目撃される。
夢遊病の発作らしかった。
君江を探すため、パーティの参加者は鍾乳洞に入って行くが、そこで発見されたのは杢衛の死体だった。
死体は23年前の事件が起きた、底なし井戸の横、まさに英二と同じ場所で、同じように殺されていた…。


以下、本当に全部ネタバレになっています。
ご注意!


日和警部は、番頭役の宮田を疑う。
兄は、そして叔父はそんな人じゃないと、峯子も都も慎一郎に訴えるが、慎一郎は警察に対して動くこともなかった。
23年前の事件から、慎一郎は抜け殻のようだった。
峯子は慎一郎の心には今も朋子がいることを知っていたが、今度ばかりは嘆き、慎一郎を責める。

2人の様子に都は傷つき、康雄にここから連れ出してほしいと懇願する。
だが金田一耕助は23年前、英二殺しのあった夜の古林のアリバイが嘘であることを突き止めた。
しかし、その古林はまたしても、鍾乳洞で殺されてしまう。

さらに金田一耕助は、マリが君江を演じていたことを見抜いた。
マリは金田一耕助を、鍾乳洞に呼び出した。
約束の時間、鍾乳洞に入った金田一耕助と日和警部の耳に、悲鳴が響いた。
マリが背後から首を絞められ、殺されそうになって叫んだのだった。

犯人は逃げたが、今度は峯子の遺体が見つかる。
妹の峯子を殺したのは自分だと、そこにいた宮田が自白。
それだけではなく、全ての事件の犯人は自分だと宮田は言う。
宮田は峯子の供養を神田署長に頼むと、あの底なし井戸に身を投げて自殺してしまった。

峯子は兄の犯行を止めようとして、殺されたのだと思われた。
しかし金田一耕助はマリに、この事件と23年前の事件の真相を語り始めた。
23年前の事件の関係者は、全て死んでしまっているので、自分の推理に過ぎないと言いつつ。

事件が起きた23年前、朋子の中には既に慎一郎の娘・マリがいた。
金田一耕助によると、23年前、英二は確かに、兄と駆け落ちしようとしていた君江を鍾乳洞で見つけて殴りつけた。
しかしその近くでは、峯子と古林が逢引をしていた。
2人の関係が発覚するのを恐れた古林と峯子は、英二を殺した。

おそらく、実行犯は古林だったのだろう。
そして2人は、罪を朋子にかぶせようと工作したのだ。
警察が事件当夜の古林のアリバイをきちんと調べれば、それが嘘であること、峯子が共犯であることがわかったはずだった。

しかし、警察でも矢部家と対立する玉造家の娘が犯人だと決めてかかってしまっていたのだろう。
朋子はゴンザレスに救われ、君江となってブラジルに渡った。
ゴンザレスは朋子を愛したが、朋子の心は慎一郎にあった。

朋子の死後、ゴンザレスはマリを養女にした。
だが、マリは母親の無実を晴らす為、日本に、この村に戻ってきたのだった。
そしてマリは犯人をおびき寄せる為、黒いベールをかぶって朋子になって、度々姿を現した。

まんまと逃れた古林は満州へ渡ったが、帰ってきた時はすっかり落ちぶれていた。
古林は峯子に昔のことをねたに、たかって生きるしかなかった。
杢衛は鍾乳洞で、再び古林が峯子に迫っているところを目撃してしまったために殺された。

慎一郎とは心の通わない夫婦であったが、今の峯子はなんとしても、自分にたかり、脅迫する古林を殺さねばならなかった。
古林殺害は遂行されたが、宮田は妹の犯行を知ってしまった。
宮田はマリに手をかけようとした峯子を殺して、全ての罪を自分がやったと自白して自殺したのだった。

それは、都のことを考えてのことだった。
人殺しの母を持つより、人殺しの叔父を持った方がまだマシだろうと。
その頃、都は康雄に連れられ、東京へ駆け落ちしていた。

金田一耕助はマリに、都と康雄をブラジルに連れて行ってくれるよう頼む。
遠いブラジルの地なら、この忌まわしい事件も2人と距離ができるだろう。
マリは承知した。

そして、マリが自分の娘と知った慎一郎とマリは、ついに親子の対面を果たす。
愛した女性にそっくりな娘を、慎一郎は万感の思いで見つめ、抱きしめる。
金田一耕助も慎一郎もマリも、ふと表を見る。
表には、冬のさなかだと言うのに、蝶が飛んでいた。

「私は帰ってきます。蝶が死んでも、翌年には また蘇るように」。
全員が、蝶を見つめる。
金田一耕助もまた、蝶をじっと見つめ、頭をかいた。



鍾乳洞、つまり洞窟で起きる事件というと、「八つ墓村」とか「真珠郎」を思い出しますが、今回はセットはやや、お金かけてないな~という感じに見えます。
でもドラマは結構、楽しめました。
キャストが良いですね。

マリ=君江=朋子は竹下景子さんです。
おとなしめな女性のイメージの竹下さんですが、日本女性とは違って気性が激しく、積極的なマリを演じてます。
綺麗だし、似合ってます。

都を演じた当時のアイドル・栗田ひろみさんは、とーってもかわいい。
矢部杢衛の小沢栄太郎さんは、やっぱり貫禄ある。
峯子の岩崎加根子さんは、「悪魔が来たりて笛を吹く」で長門裕之さんの妻で、こちらもあんまりだんなさんとはうまくいってない妻だった。
なかなかの犯人ぶりです。

矢部康雄は、江木俊夫さん。
元フォーリーブスですね。
同じフォーリーブスでは、北公次さんが映画「悪魔の手毬唄」に出演。

北さんは恋人を殺されて哀しみ、怒りました。
妹が犠牲になって、さらに怒りに燃える。
そして最後の慟哭と、なかなか心に響く演技をしていました。
しかしこのドラマの江木さんはかわいらしいお顔と声、セリフまわしでしたが、あんまりお芝居に入り込んではなかったですね。

私としては、よく悪役で見る山本昌平さんの慎一郎と、浜田寅彦さんの地元の警察署長が楽しかった。
山本さんはめずらしく!最後まで心の傷が癒えておらず、妻にも世の中にも関心が持てない慎一郎を繊細に演じてました。
「新・仕舞人」で自分の前を横切った犬の飼い主が必死に謝るのを笑って、「あははは…」「殺せっ!」と命じる悪役を知っていると楽しめます。

悪徳商人を演じたらピカイチの、浜田寅彦さん。
いつ女性を騙して売り飛ばすのかと思ってしまう、早川保さん。
小悪党が痺れるほど似合う、江幡高志さん。

こういった俳優さんが気のいい田舎の警察官役で出ているのが、「横溝正史シリーズ」の楽しさ。
さらに常に影を持つ苦労人・宮田役は植木等さん。
お笑いができる人は、やっぱり逆にこういう役をやっても上手い。

慎一郎がマリと対面した、感動のシーンで「不死蝶」は終わり。
そう思ったら、冬枯れの庭にヒラヒラとチョウチョが飛んで来る。
ここにムーディな音楽が重なり、朋子の声が重なる。

蝶は、朋子の生まれ変わりか。
やっと晴れた自分の無実と、親子の対面を喜んでいるのか。
私はそう感じましたが、人によってはこの蝶に朋子の執念や亡霊を感じて、怖いと思うようです。
うーん、そう感じたのなら、このラストはかなり怖いでしょう。

そして次回のこの時間は、「黒猫亭殺人事件」2話とありました。
あれ?
この話は、全2回じゃなかったかな?
いつ1回目をやったの?

見逃した?と思ったら、2回続けて放送してしまうのでした。
キャストが太地喜和子さんと知って、「うわ、ピッタリ!」と喜んでしまいました。
あれを太地喜和子さんがやるとしたら…、見逃せません。
見逃してなくて、良かった~。


真珠郎はどこにいる 「横溝正史シリーズII 真珠郎」

BSフジで放送している「金田一耕助シリーズ」。
3回なんですけどね、今週で「シリーズII」の「真珠郎」が終わりです。
原作には金田一耕助は出ないんですが、ドラマ化の為、作者の了解を得て金田一耕助ものにしています。

以下、全部ネタバレしてます。
見ていない方は注意。
原作を知らない方も注意。


「真珠郎はどこにいる」。
「あのすばらしい美貌の尊厳を身にまとい、如法暗夜よりも真っ黒な謎の翼にうちまたがり、突如として現れた美少年。世にも恐ろしい血の戦慄を描き出した殺人鬼。あいつはいったい、どこへ消えてしまったのだろう」。
そう表現される絶世の美青年であり、殺人鬼の真珠郎。

話は大学の若い講師・椎名耕助が夕空に浮かぶ雲が、サロメに首を切られたヨカナンに見えたと言って、不吉な予感に怯えるところから始まります。
同じ大学の若い講師・乙骨三四郎は、ロバにしか見えないと笑い、椎名は気鬱の病だと言って旅に誘い出す。
2人は信州の山奥で、広大な屋敷に住んでいる鵜藤とその姪を訪ねていく。

そこに向かうバスの中で椎名は「血が流れる」と不吉な予言をする老婆と、そして東京の食糧事情の悪さから寺の住職である叔父を訪ねていく友人の金田一耕助に出会う。
バスの運転手によるとこの老婆は、毎年冬になると湖畔にやってきて、住み着くのだと言う。
訪問する屋敷の持ち主・鵜藤は昔、東京で生物学を教えていた。

たった一人の身内の姪の由美が寂しがっているので、東京から客が来ると歓迎してくれると言う。
バスを降りた2人の目に、塔の上にいる由美が見える。
由美はすばらしく美しい娘だった。

鵜藤の屋敷は横浜にあった遊郭を移築したという、広大だが使わない部屋がたくさんあるという屋敷だった。
数年前に爺やが引退してから、由美は体が弱っている叔父をの面倒を1人で見ていた。
だが金田一耕助は寺の和尚である叔父から、屋敷には誰か、もう1人いるという噂を聞いた。

椎名は出かける際、水筒を忘れて取りに戻った時、由美がひとつの部屋に食事を運んでいるのを見た。
中からは鎖の音がして、人がいると思われた。
誰か、いる…?

椎名の疑問に由美は、花魁たちが病に倒れ、商売ができなくなった時に入れられた部屋や、折檻部屋を見せる。
花魁に入れあげた男が、花魁に斬りつけて無理心中を仕掛けた部屋も見せた。
壁にはべったりと血がついていた。

この説明で椎名は納得したが、乙骨は納得しない。
蔵の中に誰もいないと思わせるためのアピールで、逆に誰かがいるのだと乙骨は言う。
その夜、椎名は庭から水音がして目を覚ます。
乙骨を起こすと、2人はそっと部屋の窓を見る。

窓の外には、湖のほとりに佇む青年が見えた。
湖のほとりには無数のホタルが飛び交い、その青年はホタルをつかまえ、口に含んだ。
すると青年の姿は怪しく燐光を放った。
その凄まじい美しさと異様さに、2人は息を呑み、身動きできなくなる。

「すごい美男子だ」。
「美しすぎて気味が悪いな」。
「あれはひょっとして、蔵の中にいる人間…」。
乙骨は、人前に出せない病人でも養っているのではないかと推理した。

翌朝、2人は鵜藤にその事を話すと鵜藤は驚愕のあまり、口が利けなくなった。
その日、金田一と叔父に会った椎名は、その美青年のことを話した。
すると叔父はそれがもう1人の住人に違いないと言い、鵜藤家にはあまり関わらず、都会に帰った方が良いと勧める。
金田一も職業的な勘で、何か怖ろしいことが起きそうな気がすると言った。

まもなく、予感は的中する。
椎名と乙骨が湖に出ている時、浅間山が噴火し、地震が起きる。
あわてて鵜藤の屋敷に戻ると、廊下では由美が倒れていた。
「真珠郎…、ああっ、真珠郎!」

その言葉に椎名は、夕べの美青年を思い浮かべる。
真珠郎が逆上したと由美は言って、鵜藤を探しに急ぐ。
由美は椎名と乙骨とともに、湖の洞窟に鵜藤を探しに入る。
だが洞窟は、そこにある島より先には、誰も行ったことがない。

暗い洞窟の中、同じボートに乗った由美と椎名の前に、島が見えてくる。
島に何か、白いものがかかっている。
それは乙骨のマフラーで、先に洞窟に入った乙骨は、頭から血を流して倒れていた。

次の瞬間、由美が悲鳴をあげる。
湖に首から上を突っ込んだ体勢で、島の上で鵜藤が倒れている。
暗い中、椎名が由美から灯りを受け取り、鵜藤を助け起こすと、鵜藤の首から上はなかった。
椎名も、由美も絶叫する。

どこかで笑い声がする。
椎名はボートと、その上にバスの中にいた不吉な予言をした老婆を見て、助けを求める。
しかし振り向いた老婆の顔は、あの夜の美青年だった。
由美が気を失う。

金田一耕助もまた、日和警部を連れて、鵜藤の屋敷に向かう。
湖畔に住み着く老婆に金田一は会うが、老婆は何も知らないようだった。
洞窟で椎名と合流した金田一耕助だが、鵜藤の遺体が流れて行ってしまう。
日和警部は遺体を追うが、島より先には誰も行ったことがないので危険だと由美が叫び、断念せざるを得なかった。

全員が屋敷に戻り、気絶していた乙骨も目を覚ます。
警察を呼びに走った椎名に由美はすがりつき、椎名も由美を抱きしめる。
だが屋敷に戻った椎名は、乙骨が由美に迫っているのを目撃した。

気まずそうに離れた由美を見送ると、乙骨はたった今、由美と結婚の約束をしたと話す。
「大学の講師などは貧乏で、美しい妻と金には縁がないが、俺はいつかきっとこの強引な性格でそれを手に入れてみせる」。
乙骨は常々そう言っていたが、今、それが本当になろうとしていた。

金田一や日和警部、椎名と乙骨を連れて、由美が屋敷を案内する。
屋敷に葉誰も気づかない隠し部屋があり、由美はここが真珠郎が20年近く閉じ込められていた部屋で、真珠郎は鎖を切って逃げたと話した。
由美が仕掛けを引っ張ると、部屋は怪しい光を放って開く。

鵜藤はこの中で、真珠郎を育てた。
真珠郎は昆虫の首をナイフで切り落とすと、鵜藤に誉められた。
よこしまな心はよこしまな顔に宿るというが、真珠郎は反対。
人をとろかすような絶世の美貌に、殺人鬼の心…。

なぜ、そんな青年を、鵜藤は育てたのか。
それは20数年前の出来事にあった。
20数年前、鵜藤は恩師の妻・愛子夫人に言い寄った。

拒絶されると鵜藤は、愛子夫人は自分のあざのある醜い顔のせいで拒絶したのだと思った。
愛子夫人は鵜藤が絶世の美少年でも拒絶したと言うが、鵜藤はその時、「アポロンのような顔にバチルスのような心を持った男を差し向け、いつかあなたを殺す」と誓って去って行った。
このことがきっかけで鵜藤は社会的に抹殺されてしまったが、鵜藤は反省をしていなかった。

金田一と日和警部は、屋敷にいた爺やを探して連れてきて、話を聞いた。
鵜藤はある夜、どこかから目隠しをした美しい女性を連れてきて、蔵に閉じ込めた。
それからまた、同じように目隠しをした美しい男を連れてきて、同じ蔵に閉じ込めた。
やがて2人に子供が生まれると、鵜藤は真珠郎と名付け、男女を屋敷から連れてきたのと同じ方法で返した。

鵜藤は、真珠郎だけを蔵の中で育てた。
真珠郎がナイフで生き物の首を切断すると、鵜藤は誉めた。
邪悪な心を持つように教育し続けた。
そうして血と教育で「人間バチルス」となった真珠郎を、自分を拒絶した恩師の妻・愛子夫人に差し向けるのが鵜藤の計画だったのだ。

だが金田一耕助は、脱走した真珠郎が愛子夫人の所に行くことに疑問を持つ。
やがて、乙骨は由美と結婚し、吉祥寺に居を構える。
吉祥寺を訪ねてくるように誘われても、椎名は由美のことを考えるとなかなか足が向かなかった。
しかし、そんなある夜、椎名はタクシーの中から、車に乗った真珠郎を目撃する。

東京に真珠郎がいる!
不安を感じた椎名は、吉祥寺の乙骨家を訪ねた。
幸せかと思った由美は相変わらず美しいが、どこかやつれ、幸せには見えなかった。
乙骨もまた、由美ではなく、自分の関心は由美の引き継ぐ莫大な財産にあったと言う。

椎名はその夜、乙骨家に泊まったが、夜半、絶叫で目を覚ます。
悲鳴を聞いて駆けつけた椎名だが、由美と乙骨の部屋には鍵がかかっていた。
椎名は必死に窓から中に入ろうとしたが、窓には頑丈な鉄柵があり、どうしても入ることができない。

そして、椎名は部屋の中に真珠郎がいるのを見た。
乙骨は気絶させられていたが、由美は刺されてしまう。
椎名は、真珠郎が由美を運び去るのを見た。

庭に回った椎名は、真珠郎の後を追うが、姿はなかった。
代わりにあったのは、由美の着物を着た首なし死体だった。
椎名は泣き崩れる。

警察で椎名は自分の目撃した一部始終を話し、絶望の淵にいた。
しかし、日和警部は首なし死体をなぜ、由美と思っているのかと意外なことを聞いた。
ふと、椎名は真珠郎ともみ合う由美の腕にあざがあったのを思い出す。
信州でも椎名は由美の腕を見ていたが、そんなあざがあることには気づかなかったのだが…。

その話を聞いた日和警部は顔色を変え、椎名を発見した遺体の側に連れて行く。
真珠郎に殺された由美の首なし遺体には、あざがあった。
遺体は由美に間違いないと思われた。
だが、なぜ首なし死体などにするのだろう?

日和警部の経験からすると、首なし遺体にしたり、顔を判別不能にするのは、身元を隠すためにする場合が多かった。
しかし、今度はそんな必要があるだろうか?
その時、金田一耕助が現れ、今の言葉は大変なヒントだと言った。


以下、全てのネタバレになっています。


信州で金田一耕助は椎名が真珠郎を目撃した柳の木、あれは爺やが屋敷に勤めているときにはなかったものと知った。
金田一耕助が地元の警察の協力を得て柳の下を掘ると、骨が現れた。
つまり、あの柳の木は墓標だった。

骨の状態からすると、死んだのは3~4年前。
金田一耕助はその骨が、真珠郎のものだと言う。
真珠郎は既に死んでいたのだ。
ならば鵜藤が真珠郎の目撃談を聞いて、あれほど驚愕した理由もわかる。

その時、大学で講師をしている椎名に乙骨から、助けてくれと言う電話がかかる。
「真珠郎を見た。今度は自分が殺される…!」と乙骨は言った。
椎名は金田一耕助に連絡をし、2人は椎名の下宿先で話をする。

今まで真珠郎が誰かに目撃されるたび、誰かが殺されている。
その時、乙骨から下宿に電話が来た。
助けを求める乙骨の悲鳴とともに電話は途切れ、その後、機械的な声で「椎名さんですか。お尋ねの乙骨はたった今、死にました。私の足元で血をどくどく流して横たわっています。私の名は、真珠郎」と言う声がして、電話は切れた。

金田一耕助と椎名は、乙骨の家に向かったが、その通りに乙骨は既に殺されていた。
だが今度は、乙骨は首なし死体にはなっていなかった。
代わりに顔や首が、鋭い剃刀で切り裂かれていた。
金田一耕助はそれを見て、謎は解けたと言った。

間もなく金田一耕助は、「もう2度と行きたくない」と言った椎名を連れて信州に向かう。
列車の中で、椎名は、乙骨が由美の財産を現金化して逃走することを考えていたと聞かされる。
「乙骨は真珠郎を恐れていたから」と言う椎名に、金田一は現金が残っていないこと、真珠郎が持ち去ったであろうことを聞いた。
そこに「抜け駆けは許さない」と言って、日和警部がやってきた。

信州についた椎名は、もし白骨が真珠郎なら一体、由美は誰の世話をし続けていたのだろうと訝る。
真珠郎を見たのは、椎名、乙骨、由美だが、その中で生き残っているのは椎名だけだ。
本当に真珠郎は存在しているのか。
日和警部の疑いの目に金田一耕助は、「もう1人いる」と言った。

椎名は都合、4回、真珠郎を見ている。
つまり椎名はいつも目撃者なのだ。
逆に言えば、真珠郎を目撃させる必要があった、要するに彼に真珠郎が犯人だと思わせる必要があったのだ。

椎名が由美を助けることができなかったのは、窓に嵌っていた頑丈な鉄柵の為だった。
それは最初から屋敷にあった柵ではなく、乙骨が後から作ってはめさせたものだった。
「まさか!」
「そのまさかと思われる男が、真珠郎を操っていたのですよ」。

乙骨は鵜藤、つまり由美の遺産を我が物にする為、真珠郎と共謀したのだ。
しかし、その乙骨が殺されてしまった。
その時、金田一の叔父が、声をかけた。

真珠郎の父親の話をしてくれる男を、寺に呼んでいるというのだ。
古畑三郎という男が真珠郎の父親で、美青年だった。
豪農の息子で、娘が1人いた。
この娘・稲子は22、3歳で、両親が亡くなった後に家を出てから、行方が知れない。

金田一が見せた真珠郎の写真を見た男は、稲子に良く似ていると言った。
そして、稲子の左腕には妙なあざがあったとも言った。
つまり由美と思われた首なし死体は、由美ではなく稲子だった。
稲子の遺体を由美と思わせる為に、由美が仕組んだこと。

犯人は、由美。
そこまで聞くと、椎名は走り出した。
由美への思いで一杯の椎名は、由美を逃すつもりだろう。
だが、誠実な椎名をそこまで深入りはさせてはならないと金田一耕助は言う。

椎名は、あの老婆が住んでいるという小屋に走った。
そこでトランクに隠してあった金を見て、こんな紙切れで愛する女性も、友人も失ってしまうなんてと椎名は嘆いた。
小屋を遠巻きに、金田一耕助と日和警部、警察が見ている。

金田一耕助によると、最初にバスの中で会った老婆も、由美が化けたものだったのだろう。
椎名に警告をし、血を見ると先入観を与えるためだった。
洞窟で鵜藤の死体を見つけた時にいた老婆は、真珠郎が化けた老婆…。
つまり、真珠郎を装った稲子が化けていた老婆だったのだ。

では小屋に住み着いている老婆は、一体、誰なのだろう。
金田一耕助は自分の推理でしかないが、真珠郎の本当の母親ではないかと言った。
目隠しをされていた真珠郎の母親は、真珠郎の居場所は知らないはずなのだが、何かにひきつけられるようにこの土地にやってきていたのではないか。
そしてもう、老婆は死んでいるだろうと金田一耕助は言う。

老婆が死んでいるので、由美は安心してあの小屋に住み着き、老婆に成りすましているのだ。
だから、由美は絶対にあの小屋に現れるはずだ。
そう言った時、まさに老婆に化けた由美が現れた。
逮捕に向かおうとする日和警部たちを、金田一耕助は押しとどめる。

これが椎名と由美の、最後の逢瀬になるのだろうから。
金の入ったトランクを前に、ガックリと膝を折る椎名の前に、老婆を装った由美が現れる。
「何もかも知ってしまったんですね…、でも私、いつかはこうなると思っていました」。

そう言うと、由美は顔を覆っていた粘土を取り、白髪のカツラを取る。
現れたのは、あの日と同じ、美しい由美。
「私は悪い女なんです。人殺しなんです!来ないでください!」
近寄ろうとした椎名に、由美が叫ぶ。

「由美さん、たった一言、あなたに聞いておきたいことがあるんです。僕はあなたを愛していた。あなたも僕を愛してくれていると信じていました。あれは嘘だったんですか。僕をただの狂言回しにするための、お芝居だったんですか?」
「そんな、私の愛がお芝居だなんて!私の気持ちはとても口では言えません。これを読んでください。あなたに読んでもらおうと思って、ずっと身につけていたんです」。
由美は椎名に手紙を渡す。

手紙には、椎名と巡りあってしまった悲しみが綴られていた。
椎名は由美を小屋の外に突き飛ばし、逃げるように言う。
警察が近づいていた。
由美は走り、湖のほとりに着いてボートに乗る。

金田一耕助と日和警部、椎名もまた、ボートを漕ぎ出す。
由美は洞窟に吸い込まれていく方へ、ボートをこいでいく。
「椎名さん、追わないで!私、今、毒を飲みました!」
椎名は必死に追おうとするが、金田一耕助が止める。

由美はこのボートに乗って、人知れず死んでいきたいと椎名に別れを告げる。
ボートには花が積んであった。
やがて由美は胸を押さえ、倒れる。
椎名が由美の名を叫ぶ。

「由美さんは恋の為に、君に全てを告白したんですか…?」
金田一耕助はそう言うと、由美の手紙を読む。
そこには、鵜藤の異常な性格が書かれていた。
真珠郎と呼ばれた不幸な青年は、蔵の中で鎖につながれたまま、ある日、病で死んでしまった。

鵜藤は真珠郎を埋めていた。
一生をかけた人間バチルスの計画は、頓挫してしまった。
そこで鵜藤は、由美を第二の真珠郎にすることに決めた。

だから由美は、鵜藤を憎んだ。
そんな時、由美は家を飛び出して女工をしていた稲子を見つけた。
稲子を真珠郎に仕立て、思うように操って鵜藤を殺すことを由美は考えた。

由美はその頃、乙骨と知り合ったのだろう。
そして由美は鵜藤を殺す為、乙骨は由美の受け継ぐ財産の為、2人は稲子を操る計画を練ったのだろう。
稲子を真珠郎という、凶器に仕立てるため…。

でも稲子はなぜ、操られたりしたのだろう?
金田一は推理する。
乙骨はおそらく、見せ掛けの愛情を稲子に餌として与えたのだろう。
日和警部が「けだものじゃ、けだものの仕業じゃ!」と吐き捨てるように言う。

乙骨は綿密に計画を立てた。
一番考えたのは、稲子の殺し方だろう。
そしてそれは椎名の見た雲、ヨカナンの首にヒントを得て、首なし死体を考え付いたのだろう。
しかも真珠郎には、小さい頃から生き物の首を取って楽しむという癖があった。

これは現代のサロメだと、金田一耕助は言う。
「椎名さん、あなたとさえ、めぐり合わなければ…」と由美は書いていた。
どうしても自分たちには、警察がその証言を全面的に信用するような善良な目撃者が必要だった。
その点、椎名は実に理想的な男だった。

だが、あまりに理想的な男で、由美は誠実で善良な椎名を本当に愛してしまった。
するとそれに気づいた乙骨は、椎名を殺そうとした。
しかし、由美は椎名を殺す気など、少しも起きなかった。
その為、乙骨は由美がやらないのなら、自分がやると言った。

しかも、由美の目の前で。
乙骨が椎名を殺すために家に呼び寄せようと下宿に電話した時、由美は乙骨の首を剃刀で切り裂いた。
「椎名さん。ああ、何と言う切なく苦しいことでしょう。あなたへの愛の証が殺人だとは。椎名さん、私が今度生まれ変わる時はあなたにふさわしい、心の優しい女になってきます。椎名さん、さようなら。さようなら」。

由美を乗せたボートは、洞窟に吸い込まれていく。
「由美さーん!」
椎名の声が湖にこだまする。
夕暮れが迫っていた。

金田一耕助は、乙骨の死体だけが今までと違うことから、真相にたどり着いた。
前と犯行の性格が違う。
つまり、犯人が変わっている。
そこまで行けば、老婆の謎も解けた。

真珠郎が2人いたとは…、と日和警部がため息をつく。
考えてみれば、由美というのは哀れな女性だ。
日和警部がそう言った時、既に金田一耕助は眠りについていた。



これは、首なし死体がいくつも出てくるので、子供の頃見ていたらめちゃくちゃ怖かったでしょうね。
「夜歩く」もそうなんですけど。
原作では美しい犯罪者の男女を連れてきたら、美しい犯罪者の子供ができる?
鵜藤は生物学を学んでいたから、そう思って実行したとあるけど、そうかな?と思ってしまう。

そんなことを考える現代は、お話が作りにくい時代なんですね。
すみません。
首なし死体は確かにものすごく猟奇的なんだけど、猟奇的なだけじゃなくて、首なし死体に実は合理的な理由がある。
つまり、首がなければ遺体が誰かわからないからなんですけど、現代ではこれも成立しない。

ほんと、この時代って、怖いお話が作りやすい時代なんですね。
いろーんな意味で、現代では作りえないお話。
さて、背筋が凍るほどの美青年の真珠郎は、誰なら演じられるだろう?
そうですねえ、「新・必殺からくり人」で凶賊の若き頭で、女に化けて逃げる役をやった頃のピーターはピッタリだったかも。

原作では金田一耕助じゃなくて、登場するのは由利麟太郎探偵。
そのせいか、金田一耕助と椎名さんが信州に向かうバスで偶然に関わる経緯にもちょっと無理が感じられもします。
でも全体としては、うまく金田一耕助を登場させて関わらせたと思います。

鵜藤叔父は、岡田英次さん。
顔半分にあざというのが、これまた「からくり人」の「津軽じょんがらに涙をどうぞ」を思い出します。
やっぱり、姪っ子に手を出してたか。
そうじゃないのかと心配してたんですが。

自分のよこしまな心が嫌われたのに、絶対違う!
限りなくよこしまな心を持つ美青年を作って、差し向けてやる!
そして、自分を嫌ったのが外見のためだと証明してやる!
さらにそれを証明して、破滅させてやるー!

あざを消して美しくなって、誘惑して復讐するという方に考えは向かなかったんですね…。
そして神が存在を許さなかったのか。
哀れ、真珠郎。

乙骨は中山仁さん。
自分の野心だけで、椎名にこれっぽっちも友情を感じてなかったなんて、ひどいわ。
ヨカナンの首の雲で、今回の計画を思いついたという。

しかし椎名がヨカナンの首と言った雲に、乙骨は「ロバにしか見えない」って返している。
でも私には、あの横顔を形にした夕暮れの雲はロバには見えない。
どっちにも見えるようにしたなら、雲の形は難しくなっちゃうんだろうな~。

椎名は原田大二郎さん。
乙骨への友情、抑えきれない嫉妬にも人の良さが感じられました。
由美への思いが、切なかったです。

そして良かったのは、金田一耕助の叔父役の加藤嘉さん!
「悪魔が来たりて笛を吹く」では玉虫子爵で、アクの強いところ見せてくれてるんですけどね。
こちらは飄々として笑いを誘う、人の良い和尚さんも似合うところが、さすがです。

由美役は、大谷直子さん。
隠し部屋を金田一耕助たちに公開する時に、ちょっと唇をゆがめている表情に「あれ?」と思いました。
清楚な由美に、ちょっと似つかわしくないほどの表情だった。

あのわずかな時間の表情に、犯罪に気づかない人たちへの嘲笑と鵜藤への憎悪がこもっていたんですね。
清楚で美しく、「殺すことが愛の証明だった」怖ろしく哀しい由美にピッタリ。
鵜藤の真珠郎教育が効いたのか、乙骨と一緒に稲子にやったことは、実はかなりひどいことなんですけどね。

原作では由美は鵜藤の教育どおりにそういうことをする怖ろしい自分と、椎名を愛する本来の心優しい女性である自分と、2つの自分の間で苦しんでいたはず。
割りと犯人の自殺を許してしまう金田一耕助だけど、そんな由美と椎名の最後の逢瀬を邪魔しない優しさはやっぱり好きです。
真珠郎登場の幻想的な画面と、「真珠郎はどこにいる」のセリフが、不気味で綺麗で良い雰囲気でした。