年末、年末と全然関係ないけど、「必殺シリーズ」で、以前から不思議に思っていたことのひとつ。
「必殺仕業人」の第12話「あんたこの役者をどう思う」。
依頼人のお染に、仕業人のことを教えたのは誰?と気になる話。


捨三は洗濯仕事をしていて、ふと気配に気づく。
すると、1人の若い女性が立っている。
営業用の笑みを浮かべた捨三に、その女性は「ここは洗濯屋さんでしょ?」と聞く。
女郎の腰巻から、野郎のふんどしまで、何でもござれ。

そう答えた捨三に女性はいきなり、「人を5人殺してください」と言う。
「あなた、殺しを請け負う仕業人の捨三さんでしょ?」
さすがに表情がこわばった捨三だが「あんたの寝言に付き合っている暇はねえんだよ」と叱り飛ばし、小屋の中に入る。
そっと表を見ると、女性の姿はどこにもなかった。

いつものように、売れない芸を披露している剣之助とお歌。
まるでやる気のない剣之助に、お歌が気分を害する。
今日はダメだ、近くで薬売りがこの道、40年の芸を見せている。

剣之助はそう言って、独楽などをまわしている。
だが1人だけ、剣之助とお歌の方を見ている女性がいた。
客と見たお歌が、にっこり笑って月琴を弾き始める。

女性は駆け寄ってくると、「仕業人の赤井剣之助さんでしょう?人を5人殺してください」と言った。
うろたえながらもお歌は否定し、さらに剣之助の刀を抜き、「これだって竹光なんですよ」と笑ってみせる。
だが女性の目をじっと見ていた剣之助は「今日は店じまいだ!」と言うなり、立ち去る。
お歌は女性をにらみ、「変なこと言いふらさないでよ!」と言って、剣之助の後を追いかける。

やいとや又右衛門が、女性の着物のすそをめくっていく。
手を押さえようとした女性に、「恥ずかしがらないで」と言う。
足三里のつぼを押さえて、ここに灸をすえると、旅の疲れが吹っ飛ぶと言った。

女性はあの女性だった。
「人を殺してほしいんです。5人殺してほしいんです。仕業人のやいとや又右衛門さんでしょ?」
一瞬、目つきが鋭くなった又右衛門だが「私も医者のはしくれ。人様の命を助けても命を頂戴するなんてこと」と否定した。

その夜、「こんな夜はうちへけえりたくねえなあ」と楊枝をくわえて歩く主水に「八丁堀の中村主水さんでしょ」と声がかかる。
主水の足が止まる。
「牢屋見回り同心の、中村主水さんでしょ」。

「はい、私が中村主水だったらどうだっていうんですか?」
「男を5人殺してください」。
「お前、変なこと言うとしょっぴくぞ」。
主水が近寄った時、女性の姿は闇の中に消えてしまった。

翌日、4人は集まり、昨日、妙な女性がそれぞれのところに現れたと話す。
「あの女は、俺たちの名前まで知ってるぜ」。
「一体、誰から俺たちのこと、聞きやがったのかな」。
「とにかく、中に入って相談しようぜ」。

自分たちのことを知っている者は早いところ見つけて、消さなければならない。
又右衛門が「女はあたしの専門だ。あたしが引導渡しますよ」と外に行こうとする。
捨三が戸を開けた時、表にあの女性が立っていた。

4人がギョッとしたのは、ほんの一瞬だった。
女性は中に引きずり込まれ、悲鳴を上げる。
又右衛門が女性の目の前に、針をかざす。
だが剣之助は殺す前に、この女性に自分たちの名前を教えた者の名を吐かせなければならないと言う。

すると女性はお染と名乗り、武州埼玉から来た庄屋の娘だと言った。
去年の秋、借り入れも終わり、年貢も整った時だった。
里に犬村猿十郎一座という、旅役者がやってきた。

白波五人男の演目が、評判になった。
その中の1人、弁天小僧役の菊三という男と恋仲となった。
よくある話だと、又右衛門が口を挟む。

女に子供ができる。
途端に、男が去っていく。
殺してください、そんなことだろうと又右衛門が半ばあきれた口調で言う。
だが、これはそんな話ではなかった。

ある夜、密かに菊三がやってきて、お染と逢引をしていた時だった。
突如、お染の家に賊が押入る。
家族を次々刃にかけ、お染と菊三がいる部屋にもやってきた。
怯えきったお染の前で、菊三は「どうかお助けを」と命乞いをした。

その時、お染は気づいた。
刃物を持った男たちの指に、うっすらと残っている白い白粉の痕跡が残っていることに。
自分の肩にかかっている菊三の指に、同じような白粉の痕跡があることに。
かすかに漂う、賊と菊三の同じ香りに。

お染の父親と母親は、年貢だけは持っていかないでくれと懇願した。
だがそれは無駄だった。
5人は家のものを皆殺しにし、すべてを持ち去った。

「舞台の白波五人男は、本物の盗賊だったわけだ」。
ふざけた話だと、主水たちは言った。
田畑、屋敷を始末し、年貢に当てたお染は菊三の後を追った。
菊三と再会したお染は、仇を討とうとした。

だが猿十郎たちに押さえつけられたお染は、川に投げ込まれた。
川に投げ込まれたのは、刃物で刺したのがわかればそれがきっかけになって、自分たちに疑いがかかるかもしれないとの用心からだった。
「それにしても、よく助かったね」と又右衛門が言う。

気がついたら、お染は「ある方」に助けられ、介抱されていたのだ。
「そのある方という奴から、俺たちのことを聞いたのか」。
「そいつは一体、誰なんだ」。
主水の問いにお染は、「それは言えません。その人と約束しました」と言って、口をつぐむ。

「死んでもらう」と仕業人たちに言われたお染だが「お願いです。あの男たち5人を殺してください。父や母や姉や兄や、妹や弟の仇とってください」と言った。
「お願いします。それからでしたら、私は死んでもかまいません。そうしないと私、私、あの世に行ってから誰にも会えません」。

そう言うとお染は号泣した。
4人は、黙って聞いていた。
誰も何も言わない。
やがて剣之助が「俺は女に泣かれると弱いんだ。どうだ、この娘、信用できそうじゃねえか」と口を開く。

又右衛門が「殺されてもいいってのは、いんですけどね。この人、金持ってるのかね」と淡々とした口調で言う。
「はい。ここに12両あります。これを全部差し上げます」。
お染がすかさず、金を出す。

「俺、乗ったぜ!12両だよ。1人3両じゃねえかよ!」と捨三が叫ぶ。
「旅費に1両かかったとしても、2両は残るな。俺はやるぜ」と剣之助も言う。
話は決まった。

しかし、犬村一座は今どこにいるのか。
探し出すのは、おおごとだ。
すると剣之助は「蛇の道は蛇だ」と言った。

剣之助は大道芸の仲間から、犬村猿十郎一座のことを聞いた。
主水は奉行所で、出張の話をまとめてきた。
仕業人たちは猿之助一座を追って、安房への旅に出る。

うるさいせんとりつを前に、出張の準備に余念がない主水。
行き先の方角を気にして、暗剣殺!と拝む又右衛門。
翌日、剣之助が突然消えて、お歌は又右衛門の家に走る。
又右衛門の留守も、確認した。

さすがに主水の家には行けないのか。
「とうとう行っちまったんだな。こんな日がいつかは来ると思ってたけど」。
絶望したお歌だが、芸人仲間に剣之助が犬村一座のことを聞いていたのを思い出し、「きっとそうだ…」と微笑む。

主水、又右衛門、そして剣之助の3人は渡世人姿で旅をする。
ある親分から主水は紹介状も、もらってきていた。
途中、3人は渡世人から仁義を切られる。

すると剣之助が返事をする。
「俺っちは急ぎ旅だ!仁義は受けられねえ!失礼さんにござんす!」
感心する主水に剣之助は、「芸人のはしくれ」と言う。

道中、博打で負けてすっからかんになった渡世人が3人を見つけて「兄弟!兄弟!」と声をかけてくる。
「ワラジ銭の方…」。
この時も剣之助が、うまくやる。

「俺っち同じく、オケラにござんす!失礼さんにござんす!」
「あっそう…」。
がっくりした渡世人は、「あ~あ」と座り込む。

3人は猿十郎一座が興行する村にたどり着く。
5人はまた、お染の時と同じ手口で、庄屋の娘をたらしこみ、押し込みを計画していた。
急がなければならない。
そして、肝心の菊三に逃げられてはならない。

だから殺る時は、5人まとめてだ。
だがその夜、猿十郎一味は庄屋の家に押し込んで、皆殺しにしてしまった。
菊三は、今度は庄屋の娘も殺した。

間に合わなかった。
奴らは、どこかで黒装束から旅役者姿に着替える。
そう思った3人は、後をつける。

水車小屋に入った一味を仕留めようとした3人だが、旅の男たちが夜露がしのげると言って、入っていってしまった。
するとたちまち、男たちは殺されてしまった。
中に入るが、もう猿十郎たちの姿はなかった。

その頃、人質として捨三の元にいるお染は、捨三の手伝いをしていた。
お染の姿が見えないと、捨三はあわてて探した。
だがお染はかいがいしく働き、捨三は良かったら、このままここにいないかとまで言うようになっていた。

翌日、猿十郎一座は白波五人男の興行中だった。
背後に臨時の素人の出演者として、主水、又右衛門、剣之助の姿があった。
拍手喝さいの中、捕り方に扮した剣之助が密かに指を動かす。

パラリ、と、ほんの一筋、菊三の髪がきちんと結われた髷から落ちる。
菊三は少しだけ、奇妙に思った。
だがすぐに、気を取り直して芝居に戻る。

舞台に背を向けた又右衛門が、やいとを吹く。
やいとの針が、紅く染まる。
男が又右衛門が傘を渡さないので、「傘!傘、傘!」と小声で又右衛門をうながす。
傘を渡した又右衛門が、男に針を刺す。

舞台袖から、主水が別の1人に刀を突き刺す。
捕り方役の又右衛門が、今度は座長に向き合った瞬間、針を打ち込む。
座長は目を見開いたまま、正面を向く。

額には細い、小さな針が刺さっている。
男は見得を切ろうとして、本当に痙攣を起こす。
その見事な見得に、拍手が起こる。

もう1人に、主水が舞台袖から刺す。
菊三と立ち回った剣之助が、ほんの一筋、落ちている髪をするりと菊三を振り向かせ、髪を首にかける。
くるりと菊三をまわして、舞台の方に向かせると、髪が首に一回転して巻きつく。
剣之助はそれを、キュッと締めていく。

菊三の目が、恐怖と苦痛に見開かれる。
だが誰も気づかない。
舞台が終わり、幕が閉じた。
幕に主水が突き刺した刀が破った、細い穴が開いている。

5人が倒れている。
仕業人たちは、どこにもいない。
黒子たちが、呆然としている。

渡世人の姿に戻った3人が、言う。
思わぬ大仕事になった。
しかも、自分たちのことを知っている人間がいる。
覚悟はできているが、何と言っても今は無事に江戸に帰れる。

だが江戸に帰った仕業人を、お染は待ってはいなかった。
お染からの手紙が、置いてあった。
「仕業人のみなさん、ありがとうございます。
染は何とか、自分の力で生きていけそうです」。

そこには、捨三への言葉も書いてあった。
「捨三さん。短い間ですが、本当に親切にしていただいて、御礼の言葉もありません」。
そして、お染が消えた理由もわかった。

「お渡しした12両は私の体を売ったお金ですから、いつまでもここにいるわけにはまいりません。
「あなた方のことは、決して忘れません」。
「でもあなた方のことを教えてくれた人の名を言わなかったように、あなた方のことも決して他人様にはしゃべりません。ご安心ください。染」

手紙はそこで、終わっていた。
全員、黙っていた。
捨三は、目を閉じ、脱力していた。

仕事が終わった捨三は、洗濯の仕事に戻った。
又右衛門は、せっせと本業のやいとに励んでいた。
白波五人男の口上を覚えた剣之助は、お歌の元にやってきて、さっそくそれを披露した。

だがお歌は、あきれているだけだった。
「ダメか」と剣之助が言う。
主水は、再び牢屋見回りの仕事に戻った。
いつものように、牢屋に舞い戻ってきた銀次をたたきにかけながら、それぞれにいつもの日常が帰ってきていた。



最初に登場するお染が、ミステリアスで不気味。
それぞれに接触し、5人殺してほしいんですと衝撃的な言葉でコンタクトを取ってくる。
とぼけ、そして怒る捨三。

うろたえながらも否定し、笑ってごまかそうとするお歌。
だがこの時の剣之助は、じっとお染に目を据え、動かない。
何も答えず、「今日は仕舞だ」とだけ言って立ち去る。
お染に殺気を感じたというか、危険を感じたという雰囲気がうまい。

この女、本気だ。
だからこそ、危ない。
殺しの依頼をされた又右衛門の、一瞬の殺気。
すぐにそれをかき消し、やいとに戻る表情も見事。

ご機嫌なのか、ヤケなのか、歌いながら帰りたくもない家に帰る途中の主水の前にも、お染は現れる。
お染は完璧に、4人の名前も職業も知っている。
一体、誰に聞いたのか。

自分たちのことを知っている者を消すのに、女は自分の専門だと言う又右衛門。
たらしこむのも、遊ぶのも、殺すのも専門ということか。
深い一言だ。
お染の話をバカにしたようだった又右衛門だけど、それは悲惨なものだった。

シーンとしてしまう仕業人たち。
泣き出したお染を前に、「女が泣くのは嫌だ」とこの場を早く終わらせたくなる剣之助がかわいい。
剣之助のかつての許婚はお未央の方という、美しくもすさまじい悪女だった。
あんな女性見ているというのに、剣之助は女性に優しいんだな。

さて、旅役者を追っていく仕事は当然、仕業人たちも旅に出る。
それが渡世人姿というのは、紋次郎の中村敦夫さんを渡世人姿にするためのサービスか、遊びか。
ちゃんとどこかの親分から、主水が添え状もらってるところもえらい。

主水が仲間にいるって、ほんと~に強い。
昼行灯で通っている牢屋見回りの主水だけど、その切れ者ぶりはわかる人にはわかると思う。
親分たちは案外、主水のこういうところをわかっている気がする。

途中、仁義を切られた時の剣之助の対応。
何者も寄せ付けない、しかしどこか人に頼られ、放置できない紋次郎の口調とは違うけど、そこが剣之助の個性。
対応に困る様子の又右衛門をよそに、うまくやり過ごすのが楽しい。
「仁義は受けられねえ!」ってあるんだ。

2度目に、賭場ですっからかんになった渡世人に声をかけられた時は、もっと楽しい。
「俺っち、同じくオケラにござんす!」
「あっ、そう…」と、座り込んでしまう相手もおかしい。

そしてやっと見つけた標的。
しかし残念なことに、間に合わなかった。
今度は娘も殺しているのは、お染の時の教訓からか。
それとも、菊三でもお染にはためらう何かがあったのか。

この怒りは、舞台での仕置きになる。
誰にも気づかれず、大勢の人が注目する中、仕置きを遂行する仕業人たち。
鮮やかで、プロフェッショナルとしか言いようがない。

剣之助が最初の頃、ジタバタして失敗しそうになったなんて嘘のよう。
ハラリ、と、ほんとに一筋。
一筋だけの髪で、絞め殺す見事な技を見せる。
又右衛門の針に刺された座長が、針のせいでぶるぶる震えて、それが見得になっているのもうまい。

お染に仕業人のことを教えた人物は、誰だかわからない。
しかし、かなりポイントを抑えて教えている。
こんなこと教えられる人間は、彼らに助けられた人間か、同業者か。

川で死に掛けて、流れてきたお染を助けられるような人物って誰だろう。
やっぱり、旅の途中なのか。
これまで描かれた来た被害者で、彼ら全員の素性を知っていて生き残った人って誰だろう。

1話で剣之助が主水を訪ねてきたのは、市松から聞いたとはっきり言っていた。
それは市松の、最大の信頼だと思ったんですが。
お染を助けて、仕業人のことを話すって言うと、市松が一番「それらしい」。

それとも描かれていない被害者や依頼人で、誰かいるのか。
最後まで教えてくれた人のことを言わないお染は、仕業人たちのことも決して言わないだろう。
何も言わないところが、切なくもすがすがしいから、これはこれでいいんですね。
追求するのは、余計なお世話というものなんですね。

お染に惚れかかっていた捨三は、ガックリ。
最初から最後まで、登場人物のキャラクターが最大限にいきている。
すがすがしく暗くないラストでも、どこか切なく、仕業人らしさが失われていないのもいいと思います。


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2013.12.30 / Top↑
根強いファンがいる「仕業人」のオープニング。
またすぐ、消されちゃうかなあ…。
毎回、「必殺」のセンスには驚かされました。
宇崎竜堂さんのサングラスに、仕業人の面々が映るとは。

藤田まことさん、凄みがありますよね。
色男の又右衛門、でも目がちっとも笑っていない。
冷たい殺し屋の目。

そして、すごいのが中村敦夫さんだと思います。
この虚無的な目。
うつろで、人生に何も期待してない男の目。

絶望…というのは、こんな目のことをいうのかと。
よくまあ、あんなポジティブな人に、こんな目ができるものです。
紋次郎の目とも、違うと思う。




そして映るは無惨絵。
ナレーションともに見事に、やるせない、理不尽な残酷さがまかり通る「仕業人」世界を表現していると思います。

今の仕事人と全然厳しさが違うよ、と言われましたが、無理ですよ!
こんなのはもう、作れないと思います。
時代も違うし、今の規制の多いドラマ世界では無理でしょう。
だって「仕業人」ってすごいんですもん。

犬の為に身売りする少女、何だかアヤシイ母と息子。
そうとは知らず、探していた自分の息子を殺してしまう父親。
吹き溜まりのような地域では、子供が死体から何かはぎ取っていく、タバコをふかしている…。
妻を仇と旅しているうち、目が見えなくなって乞食同様に落ちていく父と娘、妻を斬るには目が必要、つまり娘の目前で妻を斬らねばならない…。

凄まじすぎ。
苦情殺到ではないかと。
仕事人が現在に引き継がれてるわけですから、見るからにはこれはこれで楽しみたい。


2011.06.04 / Top↑
テレビ埼玉で放送されていた「必殺仕業人」が、本日、最終回「あんたこの結果をどう思う」。
いきなり最終回書くな!って感じですけど、これは結構ヘヴィーなので、体力気力がある時にポチポチと続きは書いて行きたいと思います。


最終回、仕業人を追うのは、奥州柴山藩の武士・土屋小十郎。
婿入りした土屋家の舅が殺されたことから、犯人を突き止めようとする。
土屋の探索に協力したのは、舅と付き合いがあり、江戸の顔役として裏事情にも通じている江戸屋という男。

江戸屋が報告する。
「あれは殺しを生業とする連中の仕業です。あっしたちも後が怖いんでね、これ以上、闇の世界を突っつくと、あんたも私も命取りになりますぜ」。

そう、こちらはずっと主水たちの側から物語を見ているから、その切なさもつらさも知っている。
だけど、客観的な第三の目から見たら、そうじゃない。
解説にもありますが、やっぱり彼らは正体不明の怖い裏稼業の人間。

赤井剣之介が又右衛門に治療してもらいながら、これは肩こりじゃなくて、殺した人間の恨みが肩に乗っているんだと言う。
すると又右衛門は、「くだらないねえ~」。
「殺す方も殺された方も、いずれ地獄で顔を合わせるんだ。その時、頭下げて『すんませんでした』って言えばそれで済むんじゃないですか?」。
何という利己主義、割り切り方。

その時、又右衛門の身元を突き止めた柴山藩の者たちが、やってくる。
だが彼らは又右衛門ではなく、治療に居合わせた剣之介を拉致。
とんでもない利己主義に思えた又右衛門だが、拷問を受けた剣之介を助けようとお歌と共に救出に尽力する。
そして捨て身で剣之介の救出に向かうが、剣之介とお歌は追っ手により惨殺されてしまう。

ドブ川で斬り捨てられた瀕死の剣之介が、お歌に向かって伸ばす手。
同じく、瀕死のお歌も剣之介に向かって手を伸ばす。
だが2人は手を伸ばしあったまま、息絶えた。

目を閉じたお歌。
実を見開いている剣之介。
もう、剣之介と引き裂かれることもなく、剣之介がしている怖ろしい仕事を見ることもない、どこか安らかなお歌の顔。
結局は最後は捨てた剣を振るって、殺された剣之介。
2人の体の上に容赦なく流れていく、川の水。

一部始終を見ていた、又右衛門。
裏の仕事をする人間なら、いつかこんな最期が来ると思っていた、その最期を迎えた2人。
主水は捨三から、このことを知らされる。

「死んだ?!死んだのか!剣之介もお歌も!」
ドライな関係ながら、剣之介は主水にも流れる武士の意地や哀切を無言のうちに共有していた。
主水はひとつ違えば、自分もこうなっていたという姿を剣之介の中に見ていた。
それだけにショックを受けた主水は、離れを貸していた女教師に覗きをしていたと勘違いされ、激怒される。

それを知ったせんとりつは、これまた激怒。
主水に対して、厳しい言葉をたたきつける。
しかし、主水の耳には何も入らない。
主水の頭には、一つの言葉しか浮かばない。
死んだ…、死んだのか、2人とも!

次は又右衛門、そして仕業人組織の壊滅…と狙っていた小十郎だが、突如として探索の中止が藩から申し渡される。
舅が殺されたのは悪事を重ね、恨みをかった上でのことと判明。
これ以上の探索は、藩にとって致命的なスキャンダルとなりかねない。
父親の不正や、ハレンチな行いまで知った娘は自害。
小十郎は国へ返されることになり、何もかも失った。

もはや捕らえていても、無意味な又右衛門を逃がして小十郎は、仕業人の頭目に決闘を申し込む。
この時の又右衛門の捨てセリフもすごい。
「いいだろう、大人しく帰ってやる。だがこのままで済むかどうかは、表へ出てからの話だ」。
解説にもあったとおり、ほとんど悪役の捨てセリフ。
人当たりの良いプレイボーイの又右衛門の、まさに殺し屋としての、もう一つの顔。

捨てセリフは残したが、でも又右衛門は、殺された剣之介とお歌の仇を討とうとは思わない。
それは侍のやることで、殺し屋のやることじゃないから。
いくら仲間を殺されたからといって、殺し屋が果し合いなど受けるものか…と笑う又右衛門。

しかし、殺された剣之介も侍の魂を最後まで捨てられなかったことを知る主水は、承諾すると返事。
侍ってのは訳がわからないねえ、と又右衛門。
又右衛門が抜けて上方へ行こうとすることに主水、「掟破りじゃねえのか?」。
「じゃあ、決闘なんかするのも掟破りじゃないのか」との反論に「お互い様か」と主水。

そこで話は収まったかに見えたが、主水は又右衛門の身元が割れ、その為に剣之介とお歌が犠牲になったきっかけのおみくじを渡す。
それは又右衛門が、うかつにも落として行ったものだった。
無言のうちの主水の、「全部、おめえのせいだぜ」という言葉が伝わってくる。
だから旅支度の又右衛門は翌朝、主水の果し合いを見に行く。
果し合いの前、相手が名乗る。

主水は、全員の立場をわかっている。
小十郎が悪いのではない、彼は舅を殺されたから探索した。
そして、悪いのは舅だった。

だが、舅を殺され、妻が自害し、自らも立場をなくして国に戻るこの男が果し合いをしなければこれから先、武士として生きていけない気持ちもわかる。
上級武士らしい武士だった剣之介が、愛するお歌の為に大道芸人にまで堕ちながら、ついに最後は侍として傷つき衰弱した体で多勢と戦い、お歌を守って斬り捨てられたことも。

剣之介も小十郎も、そして主水も、それぞれ脱藩浪人、藩の武士、牢屋見廻り同心と立場は違えど、武士だった。
それを知っている主水は、だから、ただ、小十郎に「中村主水だ」と名乗る。
これは武士であるのに裏稼業に浸かった剣之介という男に、自分の末路を見た主水の、仕業人への決別。
そして殺し屋としての落とし前じゃなく、武士として相手の気持ちに応える為。

主水に斬られ、小十郎は「これで…、いい」と言って倒れる。
思いのたけを自分にぶつけてきた若い武士を斬った主水は、もう武士でもない、仕業人でもない。
表にも裏にも、自分の心の居場所をなくした主水は虚無感と共に哀しい鬼になった。
それは主水が、「仕置屋稼業」で強い剣の腕を持つ者の、死ねない業苦を教えた「一筆啓上業苦が見えた」の玄覚になった瞬間だった。

主水は捨三を見ても、もう声をかけない。
又右衛門にも無言。
鬼を感じた又右衛門は、「怖ろしい男だ」と言って去っていく。

声をあげられない者の恨みを感じ、怒りを金でやる仕事と言い聞かせて復帰した仕事屋稼業。
最後に市松という非人間的な若い殺し屋との間に絆を作ったこと、そして印玄の友情とおこうの願いから細々と持っていた裏稼業への希望。
それが全て崩れたのを知り、朝もやの中、脱いだ同心羽織を拾って去り行く主水。

明るく、さわやかな「仕留人」の音楽。
そう、きっとこの音楽が表しているような、夜に起きたことは何事もなかったような、朝がやってくる。
そして、主水が見て来たこと、思ったことは全て埋もれて、後には、せんとりつの小言、牢屋見廻りという奉行所でも最低の地位、そして囚人たちとの慣れ合いの日々が残るのみ…。


2010.03.16 / Top↑
主水は剣之介に一緒についてってやればよかったじゃねえかと言い、剣之介もそう思った。
だが、次郎左エ門どうしても案内には及ばないと言った。
これ以上、剣之介に世話をかけたくなかったのだ。

主水は「そうか、むげについてっておめえまで、金ねだってるように思われてもつまらねえしな」と言う。
お歌は「だけど生駒屋って奴をどうしてあの人、許す気になったのかしら…。侍だったらひと思いにバッサリ…」と言ったが主水は「そんなことしてみろ、奥方までやらなきゃならねえことになるぞ」と言った。

「何でですよ」と言うお歌に、「清三郎だけ斬って妻を助けるってわけにいかねえんだ。それじゃあんまり身勝手すぎる」と言う剣之介。
「だからこそ、あの人もつらいだろうが、清三郎を許そうとしているんだな」。

主水は「女仇き(めがたき)、か」と言うと、ふっと蝋燭の火を吹き消す。
「俺なんざ、そうなりゃ喜んで他の女に…、いやそうでもねえかな」。
暗闇に主水の言葉が響く。

おさよに手を引かれて、次郎左エ門は夜道を歩いていた。
おさよが後ろから歩いてくる、頬かむりをした男を気にする。
男が小走りに近づいてきたと思うと、突然、背後から次郎左エ門を刺した。

「貴様ら、人違いをするなっ!」。
思わず刀を抜いて男を斬った次郎左エ門は「おさよ」と叫び、おさよは「お父様」と駆け寄った。
次郎左エ門はおさよを抱きしめ、必死の思いで立ち上がる。
何人もの足音が近づいてくる。
政五郎の子分たちが、走ってくる。

迎え撃とうとした次郎左エ門は、また刺された。
見えないながらも次郎左エ門は刀を構えるが、また刺される。
「お父様、お父様!」と駆け寄ろうとするおさよを、通りかかった又右衛門が道の端に抱きかかえてかばう。

道の真ん中に出た次郎左エ門を、草壁の刀が切り裂いた。
おさよは又右衛門の袖を懸命にくぐり、父親が斬られるのを見ていた。
又右衛門の目が怒りに燃える。
騒ぎを聞きつけてやってきた町の人が、「ひ、人殺し!」と叫んだ。

政五郎の子分たちは負傷した1名を抱えて、あわてて逃げ去った。
「お父様!」とおさよが一直線に走って行く。
「お父様」と次郎左エ門を揺り起こすおさよ、又右衛門は「しっかりしなせい!」と声をかける。
次郎左エ門は、「どなたか存じませんが、この子を、この子を…、言問橋付近に住んでいる赤井…、赤井剣之介…」と言うと小判の包みを取り出した。
次郎左エ門の手から包みが落ち、5両が落ちる。

父親にすがって泣くおさよ。
捨三の仕事場に行った又右衛門は5両を配った。

指輪を磨く剣之介。
指輪をした手を一直線に払うと、灯っていた蝋燭の芯だけがポトリ、と落ちる。

又右衛門は鏡を前に針を打つポーズを取っていた。
一度部屋を出た又右衛門だが、急に戻ってくると机の上においていた火鉢に手をかざし、鉄瓶の水を丁寧にかけて再び出て行く。
お歌を道において、剣之介が走っていく。

その頃、政五郎は清三郎が引っ掛けた女性と、料理屋の布団の中にいた。
おぞましそうな女性を置いて、政五郎は満足そうに出て行く。
清三郎は扇子をパタパタさせながら、イライラして「長いねえ」と待っていた。
「そんなに妬くこたあ、ねえだろう」と草壁が笑う。

清三郎は、「だってさ、これからあたしが行って慰めてやらなきゃならないのよ」と言う。
草壁は、「その上で駆け落ちの相談か?今度は島原へ売り飛ばしたらどうだ」と言った。
清三郎が「やれやれ、あたしがくわえ込んであんたが踏み込む。その弱みにつけ込んで親分さんがいたぶって、か」と言って、草壁と笑いあった。
「でも長いねえ」と言って、清三郎はまた座敷の方を覗き込む。

主水の手が、手水の手ぬぐいを取る。
手ぬぐいを主水は手水場の水に浸すと、それを静かに絞る。
主水は手ぬぐいを持って、そっと廊下に上がる。

引き上げてきた政五郎が清三郎たちがいる部屋に入ろうとした時、主水の手ぬぐいが政五郎の顔を覆った。
政五郎はそのまま廊下に引き戻され、壁を背にして主水に刺された。
「ぐおっ」と声を上げた政五郎を主水は横の部屋の障子を足であけて、放り込む。

草壁と酒を酌み交わしていた清三郎は、座敷の方を見ながら首を伸ばしていたが、急にニヤけると「親分ったら…!何もよろけるほど」と笑って「おしのさんを慰めて来ようっと」と手を合わせると、いそいそと立ち上がった。
「親分?」と廊下を歩く清三郎の影が、又右衛門がいる座敷から見える。
又右衛門の灸を吹く炎が周囲を紅く染め、廊下を行く清三郎の影が影絵のように障子に映る。

「親分?」ときょろきょろしていた清三郎が、又右衛門のいる部屋の灯りに気づく。
障子を開けて中を薄笑いをしながら覗いた清三郎の額に、又右衛門の紅く燃えた針が打ち込まれる。
清三郎は扇を持ったまま、痙攣し始め、障子がガタガタと鳴った。
又右衛門が針を抜くと、清三郎はそのまま倒れた。

料理屋の前では雪がちらつく中、お歌が剣之介を待っていた。
1人、衝立を背にして飲んでいる草壁の背後の戸がそっと開く。
衝立が突然、草壁に向かって倒れると、剣之介が走る。

草壁は刀を抜いたが、剣之介は既に草壁の髷の束を切っていた。
乱れた髪で草壁が斬りかかって来たが、剣之介は草壁の刀を持った手を押し留めると刀を深く畳みに刺した。
草壁の刀を封じた剣之介は、自分の上にのしかかっている草壁に髪を巻きつけると投げ飛ばし、そのまま頭越しに締め付けた。
草壁は絶命した。
剣之介は料理屋を出てくると、待っていたお歌と手を取り合って逃げる。

翌日、月琴を弾いているお歌と座っている剣之介の前におさよが走ってくる。
そしていつかお歌がおさよたちにしたように、お金を入れる。
お歌が顔を上げ、かすかに微笑み、おさよがニッコリする。
剣之介が丁寧に頭を下げる。

剣之介とお歌が目でおさよを追うと、旅支度をしたおはまがいた。
おはまの元へ駆け寄るおさよ。
おさよを大事そうに迎えると、おはまは剣之介とお歌を見て、それからおさよと2人、歩いていった。



今回、主水のところには新しい間借り人として、祈祷師の幻覚が登場しました。
この辺は笑えるのですが、あとは本当にシリアスな展開。
この7話ぐらいまで、本当に仕業人は重い話ばかりです。

さすらっているうちに目を病み、ついに見えなくなってしまった武士と武士を支える幼い娘。
武士は仇の顔を知らない。
幼い娘が武士の目ということは、娘の目の前で母親も斬らねばならない…ということ。
なんて残酷な話。
さすが仕業人。

武士道と娘への、さらに妻への愛情の間で悩み、そして許しの境地に達する盲目の武士、村井国夫さんが名演です。
武士としての矜持をしっかり持った村井さんの次郎左エ門、すごく良いです。

おさよはあまり余計な口を利かず、しかしとても礼儀正しい。
底辺の生活をしていても、きちんと躾をされた武家娘だなあと思いました。
次郎左エ門がどんなきちんとした武士か、おさよを見てもわかります。
人の情けにすがっていかなければならない身の上になっても、背筋が伸びている2人。

最初は渋々ながら、でも元・武士ゆえに剣之介は次郎左エ門に対する深い理解を示す。
そしてそれは主水も同じ。
何故、清三郎を斬ってしまわないのか、と言うお歌の疑問への2人の会話は、武士の世界を知っている2人だからこその言葉。

そんな親子が苦難の末にやっと再会し、妻を引き取る為、何があっても手放さなかった備前長船の名刀を手放す次郎左エ門。
それは武士を捨てること、武士のこだわりを捨てること。
なのに、そこへ起きる悲劇。

崇高な次郎左エ門親子に対して、清三郎と政五郎の下種なこと。
下種の勘ぐりの末、次郎左エ門を殺すんですから、そりゃあ、もう。
仕業人の悪党は、ほんと~に腹の立つこと。

武士道に関わる話だから、ほとんど出番がないはずの又右衛門の関わらせ方も上手い。
おさよは幼くても武家娘らしく、又右衛門の袖にかばわれながらも、父親の最期をしっかり見届ける。
子供には優しい又右衛門は、子供の目の前で父親を殺した相手に激怒。
武士の魂を踏みにじった政五郎たちに、剣之介も、切ない武士の精神を理解している主水も怒り。

でも今回はラストに、おはまとおさよが旅立つシーンがあったので、救われました。
ほとんど喋らなかったおさよがお歌にお金を返し、お歌が微笑み、おさよが初めてニッコリする。

この母親とこの娘は、どうなるんだろう?
でも過酷な運命を生き抜いたんだから、これからもきっと2人は強く生きていける。
そう思えたラストでした。

そして、今回の悪役、「聖天の政五郎」って、「仕置人」見た人にはピンと来たかもしれませんが、4話に出てきた黒沢年男さんが演じた道理も何もない男の名前ですよね。
セルフパロディというか、オマージュというか、スタッフの遊び心が感じられます。
 
2009.08.21 / Top↑
あの侍は私を斬り捨てようとしている…、と怯える清三郎は、そのまま政五郎一家に駆け込む。
いきり立つ子分たちに草壁は、「仮にも相手は侍だ、お前たちの手には負えないだろう」と言い、「そいつは俺が始末してやる」と笑った。
政五郎はそろそろ今、清三郎がひっかけた女を自分に回してくれと言う。
政五郎一家が橋の上に来るが、次郎左エ門親子はもういなかった。

次郎左エ門はまた蔦屋に来て、「生駒清三郎が来ているはずだ、ここになじみの女がいるはずだ」と言っていた。
玄関先の騒ぎは奥の、おはまが寝ている座敷にも聞こえてきた。
「頼む、会わせてくれ」と言う声、「お父様」というおさよの声に、女郎たちに介抱されていたおはまが起き上がる。

「おさよ!」
おはまは叫びながら、玄関に走り出てきた。
おさよはおはまを見ると、「お母様!」と抱きついた。
「本当におはまか?!」と言う次郎左エ門の宙をさまよう手を、おはまは「あなた!」と握り締めた。

しかし次郎左エ門は、その途端、刀を抜いた。
「あ、危ない」と地回りも女郎も次郎左エ門を止める。
「お父様!」と次郎左エ門を止めるおさよの声に、次郎左エ門の振り上げた刀が止まる。

女将がやってきて、「なんだい、このざまは!早く放り出しておくれよ!」と怒鳴る。
しかし女郎たちが「せっかく親子が会えたんじゃないか、人でなし」と女将を責め、大騒ぎして女将を追い出して「お侍さん、どうぞ」と次郎左エ門を上がらせてしまった。
その様子を捨三が見ていた。

夕暮れの中、おさよに手を引かれた次郎左エ門が剣之介の住む言問橋に戻ってくる。
お歌がおさよに走り寄る。
「知り合いのものに聞いたが、奥方に会ったそうだな」と言う剣之介に次郎左エ門は、「おさよ、おばさんの手伝いをしておいで」とおさよに言った。
おさよは素直に「はい」と言って、お歌とその場から立ち去った。

次郎左エ門は、「既にあなたの知り合いと言う方から聞かれたたと思うが、今日、家内と会った。しかも吉原で…。あのような所で会おうとは思わなかった。しかしこれも我ら夫婦の宿命だったのかもしれない」と言うと、「聞いてくれるか。今ならどんな恥でも話せる、そんな気がする」と言うと話し始めた。

以前、次郎左エ門はある藩の侍だった。
江戸勤務となり、主君の参勤交代と共に江戸から帰った。
だが、妻のおはまは、たまたま京都に来ていた清三郎と恋仲になり、幼いおさよを置いて失踪していた。
次郎左エ門は家事不行き届きで、長い暇を出された。
その屈辱と不名誉を晴らす為には、女仇討ち(めがたきうち)に出るしかない。

しかし、足手まといになってはと置いてきた、幼いおさよは旅に出る次郎左エ門を追ってきた。
次郎左エ門は、おさよを背負って街道を歩いた。
この子に、この旅の意味がわかるのだろうか…。
そう悩んでいた次郎左エ門の目に、やがて異変が起きる。
目を洗っても洗っても、次第にぼやけていく視界。

それからの旅は、暗闇だった。
頼るのはおさよの目だけ。
次郎左エ門はおさよに手を引かれて、旅をするようになる。
次郎左エ門は、清三郎の顔を全く知らない。
おさよに確かめてもらうしかなかった。
だが清三郎は既に京都にはおらず、九州四国の旅回りに出ていた。

次第に次郎左エ門とおさよの着る物が、ボロボロになっていく。
雪の降りしきる空の下、凍える手をこすり合わせ、おさよの手を取って暖める次郎左エ門。
杖を突く次郎左エ門、手を引くおさよ。
清三郎の先回りをすべく、やっとたどり着いた江戸。
そして生駒屋の所在を確かめに行ったのが、あの吉原の蔦屋だった。

女郎屋の布団部屋にいる次郎左エ門とおはま、そしておさよ。
おさよを抱きしめるおはま。
「生駒屋はどこに…あの清三郎は」と言う次郎左エ門に、女郎が叫ぶ。
「おはまちゃんはね、生駒屋に騙されて捨てられてこの吉原に売られたんだ。そうだろう?やれ襲名披露の金が要るだの何だの、それがあいつの手口なんですよ!」

しかしおはまは「あなた、ご成敗をお願いします」と言うと、頭を下げた。
女郎は「何を言ってるんだい。そりゃあね、あんただって良くないかもしれない。でも一番悪いのはあいつじゃないか」と言った。
だが、おはまは「わたくしは愚か者でした…。でもこのようになっても生きてきたのは、せめて、一目だけでもおさよに会い、あなたのご成敗を…。もう、思い残すことは」と言った。
女郎はもう見ていられないと、後ろを向く。

おはまは刀を奪い、自ら命を絶とうとするのが女郎が止め、次郎左エ門が手探りながらおはまを叩いて止める。
「お前を成敗することはたやすい。しかしな、おさよがいる。おさよにはな、おはま。母親が必要なのだ。男親ではどうにもならん。…まして、このような私では」
そう言う次郎左エ門におはまは、「あなた…」と言って泣いた。
女郎は、涙をこらえて後ろを向く。
そこへ「いい加減に出てっておくれよ、お侍さん」と女将が入ってくる。

剣之介は「するとあんた、生駒屋をどうしようと」と、聞いた。
すると次郎左エ門は「今さら生駒屋を斬ったところで何の得るところがあるだろうか。帰参が叶うわけではない。全ては悪夢」と言った。

「ただ生駒屋清三郎から一言、私とおはま、そしておさよに、すまなかったという言葉さえ聞くことができれば、それで、それでよしとしなければならんではないか!」と言うと、「この近くに刀を引き取ってくれるところはないだろうか」と聞いた。
剣之介が「どうする?」と聞くと次郎左エ門は、「一刻も早く金に替え、お浜を引き取ってやりたいのだ」と言った。

次郎左エ門は、刀剣屋に刀を持ち込んだ。
備前長船には、50両という値がついた。
「それは光忠のものだ、もう少し」と言う次郎左エ門に、主人は「さようでございますな。では52両」と値を上げた。
「頼む、もう少し」と言う次郎左エ門に、主人は更に「わかりました。55両」と言うと、金を即金で払い、代わりの刀を渡す。
政五郎一家の子分が、それを見ていた。

主水は剣之介、お歌に会っていた。
お歌は「そんな金は生駒屋から取り上げてやりゃあいい!」と言ったが、剣之介は「そういうことは明後日、吉原の蔦屋の女将のツテで、生駒屋と次郎左エ門が会ってからの話だ。それよりもまず、自分の手でご家内を引き取ってやろうってのが、あの人の真心じゃねえのか」と言う。
「そりゃそうだけどさ…でも大丈夫かしら。もし大金を持ち歩いて…」と、お歌は親子を心配していた。
2009.08.20 / Top↑