こたつねこカフェ

癖のある俳優さん、悪役さんが大好きです。時代劇、ドラマ、映画、俳優さんのことを好きに書いています。
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中村様。ありがとう…。 「新・必殺仕置人」第6話

「必殺仕事人2018」が放送されましたね。
熱があったので、見てないんですけど。
これから録画を見ようと思います


第6話、「偽善無用」。

鳴海屋の手代・佐吉は、評判の働き者。
奉行所から奉公人の鑑として表彰される直前まで、働いていた。
「あんまりでございます!」

佐吉の表彰に異を唱えるのは、おちかという、鉄の長屋で暮らす偏屈ばあさんだった。
「佐吉のような悪党が評定をいただくなんて、持ってのほか!」
「理不尽でございます」。

聞いていた同心たちが「おちか、言葉が過ぎるぞ」と注意した。
だがおちかは「合点がいきません。佐吉は盗人の片割れなんでございます」と言い張る。
「どうかもう一度、もう一度、お取り調べを」。

「ああ、わかった、わかった。その話ならもう、何十遍となく、聞かされた」。
「佐吉を獄門に送るまではあたしは、何遍だって申し上げます」。
「確かな証拠もなしに無実の者を盗人呼ばわりするとは、不届きだぞ」。

そこに主水が通りかかった。
おちかは主水を見ると「中村様、お願いでございます中村様」と声を張り上げた。
「中村、ご指名だぞ。行ってやれよ」。

同僚たちに促されて主水は「わかりました」と仕方なく、おちかの所に向かった。
「何が忠義者だい。世間の目はごまかしても、あたしの目はごまかせやしないんだから」。
「おちか。何遍、足を運んだって同じことなんだ。いい加減諦めたらどうなんだ」。

「あいつの化けの皮を剥ぐまでは、死んでもあきらめませんよ」。
追い出されたおちかは、ついに主水に向かって「中村様、中村様。私はもう金輪際、お上なんかあてにしませんよ!」と言い放った。
「どんな手立てを使っても、きっと佐吉に天罰を下して見せますよ!」

主水が家に帰ると、せんが大層、怒っていた。
犬がお隣の新しい履物をボロボロにしたと、怒鳴った。
「飼い主に似て、ぐうたら!」

りつもだいたい、主水の稼ぎで犬なんか飼えるのかと言う。
そして、犬を追い出すか、婿殿が出て行くかと迫った。
主水は平謝りするしかなかった。

長屋に戻ったおちかは、道で鞠遊びしている子供を怒鳴りつける。
「こら!こんなとこで遊ぶんじゃないよ!」
道を進むと、横から鉢植えが落ちた。

「おふみさん、あんた、こんなとこに鉢植えを置くんじゃないよ!ケガしたらどうするんだよ!」
怒鳴りながら、おちかは前に進む。
「片付けておいてよ、早く!」

そして今度は、道にいっぱいになっている木くずを踏んだ。
「あっ、あああ」。
「ちょっと、おはまさんおはまさん」。

木材を前に置いた家の者を呼び、「こんなとこ散らかしちゃ困るんだよ」と木くずを蹴った。
今度は出会い頭にぶつかりそうになり、「どこ目をつけてんだよ!」と相手に怒鳴った。
そして今度は、鉄のあんまの看板に頭をぶつけた。

「あいたた、てっつぁん、何度言ったらわかるんだよ!看板吊るすなら、もっと高いところにあげとくれよ!」
怒鳴るおちかに鉄は「うるせえ、くそばばあ!ケガしたくなかったら人の軒先ウロウロすんな!」と怒鳴り返した。
「何だい、へぼあんま!開けなよ!」

おちかは鉄の家の戸に手をかけるが、開かない。
揉めていると、おちかの娘のおたよが走ってきた。
「みっともないじゃないの」。

鉄は、女といちゃついていた。
女が誘うが、鉄は用事があると言って珍しく、女を置いて出て行った。
寅の会だったのだ。
「これより、挙句を頂戴いたしまして、本日の興行を終わりたいと存じます」。

虎が短冊に句を書く。
「ご披露いたします」。
「日本橋~、鳴海のたなに佐吉かな」。
「虎、万筆」。

「今回の頼み料は1両です」。

それを聞いた仕置人たちは「1両じゃどうしようもない」と言った。
鉄が口を開けた。
途端に仕置人たち、全員が鉄を見る。

鉄は声を出せなくなった。
「ございませんか」。
もう一度、声を出そうとして鉄は押し黙る。

「ございませんね」。
鉄の顔を、隣にいる仕置人がのぞきこむ。
この件は、差し戻しとなった。
鉄が頭を抱える。

正八の地下室。
鉄が「俺なんか1両どころか、1部でも良いんだ、仕事ができりゃあな」とぼやく。
「ここまでセリフが出かかったが、お前らまた一両じゃグズグズグズグズ文句言うんだろ!」
「1両じゃね」と、おていが言う。

「ほれ、見ろ!」
主水も「5人で分けたら一人頭1部にもなりゃしねえ」と言った。
「そら見ろ、ぜいたく過ぎるんだ」。

主水は「虎もケチな仕事引き受けたな」と言った。
そして「とにかくだ、こんなとこでおめえ、豆バリバリ食って屁ぶっこいてても1文にもなりゃしねえ」と言った。
「奉行所戻るぜ」。

己代松は「で、獲物はどこの誰だ」と聞いた。
「鳴海屋の佐吉だ」。
「佐吉?」

「おうおう、佐吉って言やぁ、おちかばあさんの娘と恋仲の男か」。
「ああ、その佐吉だ」。
正八は「いいじゃねえか、誰が誰と恋仲だろうと関係ねえよ」と言って「さあ、店やんなきゃ」と戻って行った。

鉄は「女は16,7に限るな」と言うと、おていが「あたしだって別に、好きでお嫁に行かないんじゃないけどさ」と言う。
金儲けでもしなくっちゃ、と、おていも出て行った。
己代松だけは「鉄ちゃん、その佐吉って男だがな」と話しかけて来る。

不機嫌に寝転がった鉄は、己代松の問いに手をうるさそうに振る、
「もういいよ、いいよ!」
だが己代松は引き下がらない。

「なあ、念仏。たった1両で佐吉の命をやろうってのは一体、何者なんだろうな」。
「うるせえっ!」
鉄は起き上がった。

「その佐吉って男は」。
「しつっこいんだよ!早く帰って鍋でもたたいてろ!」
鉄は奥の長椅子に、移動した。

己代松はまだ、「何もんだろうな」と言っている。
鉄は奥で寝転がって、豆を食べていた。
うるさそうに、豆を投げる。

「どいつもこいつも銭、銭!そんなに銭がほしけりゃ盗人でも何でもやりやがれ!」
腹立たしそうに横を向くと、裾をめくる。
赤い襦袢を見せて、鉄は不貞腐れて横になっていた。

かんのん長屋。
おかみさんたちが井戸端で話をしている。
そこに、おちかがやってきた。

放置されている釜を見て、「まだ使えるよ」と取り上げた。
「どいておくれよ!」
おかみさんたちを押しのけ、拾った釜に水を入れる。
だが、底からは盛大に水が漏れた。

おかみさんたちが、クスクスと笑う。
「何がおかしいんだよ!」
そして、井戸端に置いてある大根をつまみあげた。
「あーあ、こんな泥だらけの大根。もしこんなかに泥が入ったらどうするの!大事な飲み水なんだよ!衛生観念がないんだから」。

そう言うと、釜を己代松のところに持って来た。
「早いとこやってね、ここで待ってるから」。
己代松が釜の底を叩き始める。

それを見ていたおちかは「感心だねえ、若いのにこんな根気の要る仕事良くやってるよ。感心だね」と珍しく人を誉めた。
「おっかさん」。
娘の声がして、おちかは笑顔になる。

だが次に、おちかの前には佐吉が現れた。
「佐吉…」。
佐吉は、おちかに頭を下げる。

「この近くまで参りましたので」。
「よくもまあ、おめおめと。お前の顔なんか見たくもないよ!」
「おっかさん!」

「盗っ人猛々しいとはお前のことだ」。
おちかは憎しみを隠さなかった。
「奉行所からご褒美をいただきましたので、これ、些少ですが」。

佐吉は紫の包みを差し出した。
「バカにしないでおくれ!」
おちかは、それをはねのけた。

地面に紫の包みが、落ちる。
「あたしたちはね、盗人に施しを受けるほど落ちぶれちゃいないんだよ!」
そして娘のおたよに、「こんな男に関わるんじゃないよ」と言って連れていく。

集まった長屋のおかみさんたちは、佐吉が拾うのを手伝った。
「ひどいばあさんだよ」。
「山城屋の頃からケチでケチで。そこ行くと佐吉さん、良くまけてくれたね、助かったよ」。

「あの嫌われ者の女将さんじゃ、山城さんがつぶれるの当たり前だよ」。
「それを佐吉さんのせいにするなんて、ひどいねえ」。
そう言って、みんな、おちかの悪口を言うのだった。

鳴海屋の主が、佐吉を呼び出して言った。
奉行所から表彰されるほどの佐吉に、いつまでも雑用をさせておくわけにはいかない。
佐吉が帳場にいてくれれば、店の信用も上がる。

安心できる。
これからは蔵に出入りするのにいちいち、主人のところまで行かなくても良いように。
佐吉に蔵のカギを預けることにしたのだ。

その夜、おちかは鉄のところであんまをされていた。
「鉄さん。あたしは悔しいよ。佐吉のような、あんな悪党が大手を振って歩いていやがって。あんな奴は死んじまえばいいんだよ」。
鉄は将棋を指しながら「穏やかじゃないね」と言う。

「あいつはね、押し込みの手引きなんだよ」。
「押し込み?だって証拠がねえんだろう。ばあさんの見当はずれじゃねえのか」。
「外れてんのはお前さんだよ、さっきからツボが外れっぱなしじゃないか!」

将棋している鉄は、片手でおちかを揉んでいた。
「そこじゃないんだよもっと右だよ、右!」
「ちゃんとやっとくれよ、このヘボあんま!」

「このババア、口の減らねえババアだな!」
鉄はおちかの上に乗って、揉み出した。
「どうだ、楽になったろ!」

「いくらだい」。
「上下3百文」。
おちかは代金を置くと、出て行く。

それを数えた鉄は「おいおい、ちょっと待て、150しかねえじゃねえか」と言った。
「下は頼んだ覚えないよ!」
おちかは鉄を突き飛ばすと、出て行く。
鉄は悪態をつきながらもおちかが出て行くと、「押し込みの手引き、か」とつぶやいた。

巳代松が、竹鉄砲を作っている。
誰かが来て、巳代松はさっと隠す。
来たのは、正八だった。
「何だおめえか」。

「またそれ、いじってんの」。
「これならもう、ふっとびやしねえぞ」。
頑丈に作った、竹鉄砲を己代松は誇らしげに見せる。

「釘が飛んでくるんじゃないか」。
「これだけしっかりしてりゃ、釘なんか飛ばねえよ」。
巳代松は、正八に、佐吉を調べてくれと依頼した。
もちろん、小銭だが銭は出した。

翌日、佐吉が出かけていく。
正八は、おていに合図を送る。
おていは佐吉を追い抜く。

街角に潜む。
店を挟み、おていは佐吉と平行に歩く。
角で待ち伏せして、佐吉にぶつかる。

「まあ、失礼」と、おていは謝った。
正八とおていは、すぐ角のそば屋に入る。
おていはみごとに、佐吉の手紙をすった。

手数料を要求するおていに「バカだな、今度は仲間のためにやるんでしょ」と正八は言う。
「でん」。
佐吉の手紙を、2人は読む。

「おっかさん。今年は夏の藪入りを待たず、近々お暇がもらえそうです」。
「江戸の土産は用意できています。佐吉」。
「おっかさんへ」。
「別にこれ、どってことねえじゃねえか。お前、これ返してこい」と正八が言う。

「お蕎麦が来てからね」。
「早く、返して来い!」
んもう、と文句言いながら、おていは出て行く。
「おじさん、お蕎麦一つで良くなったあ」と正八が店の主人に声をかける。

佐吉が懐を探る。
手紙を出そうとして、手紙がないのに気づいた。
そこにおていがやってきて、すった手紙を地面に落とした。

おていは「あの、もし、何か落としましたけど」と声をかける。
「これはどうも」。
佐吉は手紙を拾った。

佐吉は、おちかの娘のおたよに会っていた。
おちかが町の角を曲がった。
そこで、すぐに引き返して見る。

娘と佐吉がいた。
夜、仕立物の内職をしながらおちかは言った。
「おたよ。お前まだあんな奴と関わり合ってるんだね」。

「一体どういうつもりなんだい」。
母親にきつく言われたおたよは「あたし、佐吉さん好きよ」と言う。
「一緒に暮らそうと思ってるわ」。

「おたよ、あいつがどんな男かまだわからないのかい!」
「先治山は良い人よ。世間の誰もがそう言ってるわ。おっかさんだけよ、悪く言うのは!」
「お前までそんなことを言うのかい。まさか、一年前のことを、忘れたわけじゃないだろうね!」

「おとっつぁんを殺し、山城屋の寝台を根こそぎ盗んだのは佐吉の仲間なんだよ、あいつが押し込みの手引きをしたんだよ!」
「おっかさんの思い過ごしよ!お調べだって、とっくについてるわ!」
おちかはおたよの頬を張った。

「そうかい、そんなに盗人の肩を持つなら、好きなようにおし」。
「あたし、家を出て行く」。
「勝手におし!その代わり二度とこの家の敷居はまたがせないからね!」

だがおたよが出て行くと、おちかは鳴海屋へ行った。
「佐吉はどこにいるんだい!」
おたよをたぶらかしたと言うおちかに鳴海屋の主人は、おたよに家を紹介したと言った。
佐吉とおたよ、2人を一緒にさせてやろうと言う。

「佐吉も一緒なんだね」。
おちかは、おたよの家を探し当てた。
戸の前で「おたよ。おたよ」と呼びかける。

「おっかさん」。
「おたよ。お願いだから戻ってきておくれ。あんな奴と一緒にいると、ひどい目に遭うよ。お前が不幸せになるだけだ」。
「おたよ」。

おたよは、戸を開けない。
返事もしない。
「おたよ!」
「おっかさん、帰ってちょうだい。帰って!」

娘に拒絶され、フラフラとおちかは夜道を戻っていく。
ふと、見ると通りがかった店に明かりがついている。
質屋だった。

主人が金勘定をしている。
おちかがじっと、のれんの向こうからそれを見ている。
「お前さん」。
奥から声がして、主人が席を外した。

翌朝。
主水が番屋で将棋をしている下っぴきに、声をかけた。
「すまねえが、かんのん長屋まで付き合ってくれねえか」。
だが誰も将棋から手を離さない。
「ちょっと大事なところなんで」。

「おい、出かけるぞ」。
別の同心が来て、声をかけると、みんな出て行く。
「へい」。
それを見た主水が、「人間、金次第か。嫌ですねぇ」とぼやく。

主水は、かんのん長屋に行く。
みんながすっと、主水を見ると逃げていく。
主水は、おちかの家を尋ねた。

「おちか」と声をかけると、おちかはいる。
「なんだ、いたのかい」。
「本船町長の質屋で、30両盗まれた。主の申し立てによると、下手人がおめえにそっくりだってんだがな」。
おちかは憮然と前を向いたまま、「似てるはずだよ。あたしがやったんだよ」と言った。

「やっぱりおめえか!…いやにおめえ、素直だな」。
「叩きだの石抱きだの、痛い思いするよりしゃべっちまった方が得だろう」。
「で、盗んだ銭どうした」。

「使っちまったよ全部!綺麗さっぱり全部ね」。
主水は仰天した。
「深川の料亭でね、太鼓持ち3人呼んで飲めや歌えの大騒ぎ。30両なんかあっという間さ」。
「さ、しょっぴいておくれ」。

そう言うと、おちかは両手を出した。
主水が縄をつけて行く。
野次馬が集まってくる。

家の中で鋳掛をしている巳代松が、それを見て驚く。
「お、おい、八丁堀!…いや、お役人様!おちかばあさん何か」。
「質屋から30両盗みやがったんだよ」。

「なんかの間違いでは」。
だがおちかは「松さん、こんなとこで引き留めないでおくれよ、みっともないじゃないか!」と言った。
「さあ!」と主水を促し、「どいたどいた」と言いながら、おちかは歩いていく。

みんなは見ていたが、やがて散っていく。
道に立ち尽くしていた巳代松だが、走る。
飯屋のところまで走る。

「バカ。何やってんだ」。
己代松の視線の先には、鉄がいた。
鉄が女装の男に、酌をされながら食べている。

「飲めないの知ってるじゃない」。
「良いじゃないの、たまには」。
「そう?」

鉄が女装の男に、酌をした。
松は鉄の着物をつかんで、振り向かせる。
「八丁堀がよ、おちかばあさん、しょっぴきやがった」。
「ふうん」。

「質屋で30両盗んだそうだ」。
「30両。やるもんだな、あのババアも」。
「おめえ、ほんとにおちかばあさん、やったと思ってんのか」。
鉄は首をかしげた。

「もしそうだったとしても、のっぴきならねえわけがあったにちげえねえよ」。
「さ、あたし、ボツボツ出かけなきゃ」。
鉄はそう言うと、立ち上がった。

「行ってらっしゃい気をつけてね」。
「ありがとう」。
鉄がいなくなると、女装の男は「おにいさんどう?」と巳代松に近づいた。

「気持ち悪いんだおめえ」。
己代松が男の頭をはたく。
「いったいわねえ。もういやっ」。

寅の会。
「今回、依頼のあった仕事は一件。ただしこの仕事は、前回差し戻しになった分の再入札です」。
「頼み料は30両です」。

それを聞いた鉄は、ニヤリと笑った。
「29両」と声がかかる。
28両。
27両。

25両2部。
25両。
23両。
鉄の笑いが止まった。

「20両!」
一言だった。
「他にございませんね」。
「この命、20両にて落札」。

20両を前に、仕置人たちは息をのんでいた。
主水。
仕置人たちの顔を見ながら、キセルをふかしている鉄。

正八。
おてい。
頷く巳代松。

「間違いねえ。頼み人はおちかばあさんだ」。
「あのババアのやりそうなことだぜ!」
鉄は楽しそうだった。

腕組みしたままのおていが「人様のお金盗んでまで恨み晴らそうってんだもん。本物だね、この話は」と言った。
己代松は、「俺は、はなっから佐吉って野郎が気に入らなかったんだ」と言った。
主水が「がたがた言っても、始まらねえわな。どうもあのばあさんに、すまねえことしちまったなあ」と首をかしげた。

「おめえは最初からおちかばあさん、気に入らなかったんだ」と言う己代松。
「いやいや、そうじゃねえ」。
2人のやり取りに鉄が、「「何をゴチャゴチャ言ってんだ!そんなことより、仕事の段取り!」と言った。

「相手は佐吉1人なんだもん、簡単なもんじゃん。」
そう言う正八に鉄は、「へっへ、ところがそうはいかねえんだ。今度の依頼には、佐吉一味とある」と言う。
「一味?」

主水がいぶかしげな顔をする。
「ねえ、佐吉1人やりゃすむんじゃないの」。
正八の問いに鉄が「ババア、しっかりしてる。仕事料張り込んだだけ、殺しの相手、増やしてきやがった」と言った。

そして、ニヤリと笑った。
「そうか」と、主水が納得した。
「佐吉には仲間がいやがったか。佐吉はどっかで、その仲間と連絡取り合ってるはずだ」。
「いつどこで連絡を取るか、見張っていれば簡単だ」。

「おてい。あのよ」と正八が切り出した。
「佐吉がおっかさんに出した手紙、あれ、仲間呼び寄せる符牒じゃねえのかな」。
「なんて書いてあった」。

おていは思い出した。
「今年は、藪入りを待たずに…」。
「江戸の土産は用意できてる」。

「それはどうもくせえな。江戸の土産ってのは鳴海屋のことじゃねえのか」と主水が言う。
「段取りはできてるってことは」。
「正八、おめえ、宛先覚えてるか」。
「うん、八王子、八木宿の、でん」。

「そんな女がいるかどうか、ひとっ飛び確かめてくれよ」。
「良いよ。八王子ならひとっ飛び」。
正八は走る。

主水が家の帰ると、せんとりつはご機嫌だった。
待遇が良い。
「今日は何かあったんですか」。

「あなた、お手柄を立てたんですってね」。
おちかのことだ。
せんが「私と同じぐらいの年だそうですね」と言う。

それを聞いた主水が、せんに要らない着物を出してくれと言う。
「この寒さですからなあ、牢屋の中はつらいと思うんですよ」。
「婿殿!そのような優しい心遣い、わたくしには一度も」と、せんが膨れた。

「私は母上を年寄りだとは思ってはおりませんよ。そのように若くてお美しい」。
りつが噴出した。
「何がおかしい」。

「まあ…」。
せんの機嫌が一層、良くなった。
「冷えますからな。後片付けは私たちでやりますから」。
せんはご機嫌で去って行った。

主水は、「早ええとこ、寝ちまおう」とつぶやく。
しかし、りつが「あなた、わたくし、母上には内緒で山芋を用意してありますのよ。精を出してくださいね」と言う。
主水は顔をしかめた。

八王子に到着した正八が見たのは、家から出てくる3人の男だった。
行く先々で、正八は見張る。
佐吉が鳴海屋がら出てくる。

主水が人足に「次の船はいつ出る」と聞いた。
「明日の昼頃です」。
すると、仕事は今夜だ。

正八が戻った。
おていがすれちがいざま、主水に手紙を手渡す。
佐吉の家に、あの3人がいる。
おたよがお茶を出すと、佐吉は故郷の人だと紹介した。

「すまないが、酒を買ってきてくれないか」。
「はい」。
おたよが徳利を手にすると、客の荷物が落ちた。

杖かと思ったら、その先に鎖分銅がついている。
おたよは不思議そうに、それを見る。
笠をどかすと、同じようなものが現れた。

おたよは出て行ったふりをして、そっと戻ってきた。
庭に回る。
「おめえが所帯を構えるとは思わなかったな」という声が聞こえる。

「しょうがなかったんだ」。
佐吉の声は打って変わった、怖い声だった。
「女が家飛び出して来ちまったんで、否応なく」。
「情が移ったんじゃねえだろうな」。

「冗談じゃねえや」。
「あの女は世間の目をくらますための隠れ蓑よ」。
おたよの顔色が変わる。

「もう用はねえだろう。足手まといになるから、始末しちまいな」。
「ああ」。
「岡場所に売り飛ばしちまえ!」
おたよは走り出した。

牢の中。
おちかが怒鳴っている。
「ちょっと!お茶おくれよ!こんなしょっぱいもんばっかり食わせて!」
「食べられやしないじゃないか!お茶おくれよ!」

「おちか!いい加減にしろよ」と主水がやってくる。
「茶なんか出すわけねえだろう。うるさくて仕事にならねえ」。
そして声を潜めて、「どうだ、寒くねえか」と聞いた。

「ここは結構なとこだよ。三度三度、飯は食わせてくれるしね。だけどね。あたしもあとわずかの命なんだ。尾頭付きでも出してもらいたいね」。
おちかは、椀をすすりながら言う。
カビが生えちまうと、辺りを見回しながら言う。

「お天道様でも拝ませてもらいたいね。カビが生えたまま死ぬの嫌だからね」。
主水が「3日経ったらお天道様、拝ませてやるぜ」と言った。
「ふうん、お仕置きはいつに決まったんだい」。

「おめえは1年の遠島だ」。
「遠島?」
おちかは、不思議な顔をした。
主水を見る。

その時、同心に連れられたおたよが来る。
「その娘がどうかしましたか」。
「この娘が今し方、自訴してきたんだ」。

おたよは地面に座ると「私です。30両盗んだのは私です」と言った。
「おっかさんじゃありません。どうか、私をお仕置きしてください」。
「嘘だよ!」

おたよが叫んだ。
「その子は嘘ついてるんだよ!」
おちかは格子から、顔を出して、叫ぶ。

「おっかさん!」
駆け寄るおたよ。
「気安く呼ばないでおくれよ、あたしはお前なんか知るもんか!」

そして主水を見ると必死の目つきをして言う。
「中村さま、この娘と私とは親でも子でもありませんよね。赤の他人ですよね?ね?ね?」
今にもすがりつきそうな目つきで、主水に懇願するような口調でおちかは聞く。

「中村さん!どういうことなんですか」。
おちかがごくりと、息をのむ。
「あたしもおちかに娘がいるなんてのは、聞いたことないですな。こりゃ、なんかの間違いじゃないですかな」。
主水がとぼけた口調で答える。

「かな、じゃ困りますよ中村さん、あなたの尻ぬぐいは嫌ですからね」。
「責任持ってくれますね?」
同僚の問いに主水が「わかったわかった」と返事をする。

「はい。じゃお願いしますよ」。
そう言うと、「おっかさあん」叫ぶおたよを連れて出て行った。
主水が去ろうとする。

「中村様」。
おちかが、静かな声で主水に呼びかける。
「ん?」

主水が振り向く。
「ありがとう…」。
おちかが真っ直ぐに主水を見て、言う。

「何のことだ?」
主水は背を向ける
「私は知りませんよ」。

夜。
火の用心が街を行く。
鳴海屋。
佐吉がそっと庭に出る。

蔵の前を辺りをうかがいながら、やってくる。
木戸に走る。
辺りを伺いながら、木戸を開けた。
路地を見渡す。

すっと用心深く、中に入る。
3人が黒装束に身を固め、入ってくる。
正八が屋根の上から道にいる鉄に、合図する。

鉄が木戸から、中に入る。
佐吉が3人に、鍵を渡す。
3人が蔵に入る。

鉄が指を鳴らす。
佐吉が蔵の戸とを閉め、帰って来る。
突然、佐吉の目の前に鉄が現れる。

佐吉は驚くが、鉄が手のひらで佐吉の顔を覆う。
そのまま、鉄は佐吉をグイグイと押していく。
もがく佐吉。

鉄が佐吉を、柱に背に押しつける。
手を振り上げる。
佐吉の胸に鉄の手が、めり込む。

ボキボキ。
あばらが折れる。
鉄が正八を見る。
手を振る。

正八が呼子を取り出し、ピーと拭いた。
その音で、蔵の中の3人は慌てた。
すぐに蔵を出る。

倒れている佐吉に気付き「7佐吉、佐吉」と揺り起こす。
だが佐吉は、息をしていない。
3人は路地に出る。
路地の向こうから現れたのは主水だった。

同心を見て、2人が襲いかかる。
あっさり、最初の1人に二太刀。
次に襲いかかってきた2人目にも、
黙って主水は去って行く。

逃げた1人は船を使った。
それを巳代松が、見ている。
船をつないでいた縄を踏みつける。
引き寄せる。

船が戻ってくる。
己代松は縄を、体に巻く。
船が戻ってくる。

気がついた盗賊が、分銅を振り回す。
三間半。
三間。

二間半。
己代松が心の中で、距離を数える。
「えいっ!」
盗賊が投げた分銅が提灯に辺り、明かりが消える。

二間!
竹鉄砲が火を噴く。
「うわあああ」。
盗賊が倒れる。

巳代松が反動で、背後の壁に押しつけられる。
銃身は吹っ飛んでいた。
横を見ると、釘が刺さっている。
釘を抜き、「ちいっ。だめだこりゃ!」と己代松は吐き捨てた。

長屋。
巳代松が仕事に行く。
「仕立物、いたします」の看板が出ている。

部屋の中に、おたよがいる。
仕立物をしている。
それを見た巳代松が、去って行く。

雪のうっすら積もる中。
島へ行く船が出る。
囚人たちが一列になって、歩いている。

主水を見たおちかが、列を外れてくる。
「おう」と呼び止める役人に、主水が「良いんだ」と言う。
「中村様」。

「佐吉は死んだぞ」。
「ほんとですか」。
おちかの顔色が変わる。

「うん。心の臓の発作だそうだ」。
それを聞いたおちかは「天罰ですよ…」と言った。
「島の暮らしは、辛れえから、体に気を付けてな」。

「たいていのことじゃ、あたしはくたばりませんよ」。
おちかはわずかに、微笑んだように見えた。
「中村様。娘のこと、よろしくお願いします」。

おちかは深々と頭を下げる。
「うん」と主水は言う。
「丸尾さん。済みました」と役人に声をかける。

おちかが船に乗る。
その前にもう一度、主水に頭を下げる。
咳払いしながら、主水はそれを見送る。



鉄が落札に失敗するところが、楽しい。
異様に安い値で落札する鉄とはいえ、1両で落札するのは周りが許さなかった。
さすがの鉄も周りの圧力に押され、声が出ない。

何事にも縛られないはずの鉄だから、そんな自分も嫌だったんでしょうね。
仕置人たちに当たり散らしてる。
己代松だけがこだわっていて、それを追い払う鉄は本当にイライラしてる。

しまいには着物の裾を上げて、襦袢見せて寝ちゃってる。
でもあれは、あそこで声を出せなかった自分にイラついてたんだと思います。
そんなに金がほしいなら、盗人でもやれ!…というわけで、今回の標的は盗人です。

鉄の描写では、女装の男とご飯を食べているのも笑えます。
ちゃんと、口調が女っぽくなってる。
「良いじゃない、たまには」。
「ありがとう」の言い方も、とっても女っぽい。

正八は佐吉に怪しいところはないと報告を書き、手数料を多めに請求している。
おていの食べなかったそばまで、計上している。
ちゃっかりしているけど、仕置の下調べとなるとフットワーク軽く、八王子まで走る。

おちかは、清川虹子さん。
奉行所でも長屋でも、うるさがられている。
鉄ともケンカしてる。
それでもちゃんと治療してもらって、話してる。

元は大店の山城屋の女将さんで、その頃からケチで口うるさかったようです。
自分のところで手代だった佐吉を、押し込みの引き込み役と見抜いている。
何か目撃してたんでしょうか。
それとも、胡散臭いと思う何かがあったんでしょうか。

みんなが佐吉を信頼している中、なぜおちかだけが佐吉の正体に気付いたのか。
気になります。
結局、間違っていなかったわけですから。

嫌なばあさんと思われているけど、この人、己代松は気に入っている。
若いのに根気のいる仕事を良くやってると言う。
だから見る目はあるんだと思います。

主水のことも、ダメ同心とは思っていない。
己代松は、おちかに対して思い入れがある。
鉄は、おちかに対して冷静。

それでも盗みまでして作った仕置料に込められた恨みを、ちゃんと感じてくれてる。
ニヤリと笑い、そして真顔になって落札。
これが鉄の、おちかへの誠意。

おちかが盗んだ金を前にした、仕置人たちの顔。
文字通り、人生を掛けた金を前に、息をのむしかない。
込められた思いを、晴らしてやるしかない。

後は何と言っても、主水とおちかの会話でしょう。
牢のおちかを、うるさがっていながらも気に掛ける。
そして、おたよが自訴して来た時の主水。

おたよがすがりつくような目で、懇願する口調で主水に同意を求める。
「ね、ね」と。
それに対して主水が、「おちかに娘はいない」と言ってやる。

この時からおちかの態度が変わる。
「ありが、とう」と力を込めた言葉。
今回の言葉で印象的なのは、「ありがとう」。

おちかの「ありがとう」は、重い。
鉄の「ありがとう」は、気持ちが軽くなり、笑ってしまえる。
同じ文字でも、こんなにも違う。

実は、おちかの遠島にも主水が尽力したんじゃないでしょうか。
おちかも首が飛ぶと思っている。
そこに遠島という言葉。
おちかも、すごく意外そう。

描写はされていないんですが、おそらく、主水が質屋に話を付けたんですね。
こう見えても主水は、いろんなお店の事情を知っているから。
あの質屋が主水の申し出に「はい」としか言えないことを、突きつけたのでは。
そしておちかに対して、そんなに罪を重くしないように言わせたのでは。

最後にもおちかは主水を見つけて、やってくる。
「佐吉は死んだぞ」。
その時のおちか。

仕置人は、引き受けたら本当にやってくれる…。
思い残すことはないという、晴れ晴れとした表情。
主水の有能さと人情を知ったおちかは、娘のことをよろしく頼むと頭を下げる。

私も、主水がいるから大丈夫だと思いますよ。
きっと、おたよは大丈夫。
己代松と長屋の人に見守られ、おちかを待つに違いない。

お約束の人情劇でも、とても気持ちが苦く、切なく、そして心地良い。
この6話も、大好きなエピソードです。
佐吉の豹変ぶりも、素晴らしい。
清川虹子さんの演技も素晴らしい。

藤田さんの主水も良いけど、鉄の表情もまた、良い。
仕置が成立しなくて、不貞腐れる鉄。
前回落札できなかった仕置が、もう一度来て、おちかばあさんだと確信した時のニヤリ笑い。
次の瞬間、目つきが変わる。

この時、鉄は何を考えたのか。
自分が落札する。
そう決心した。
決心をさせたものは、何か。

おちかへ、優しい言葉、労りの言葉と態度は何一つなかった鉄。
だけど、おちかの仕置を遂行してやることが何よりのおちかが望んだことだから。
落札してみんなの前に金を並べた鉄は、実に楽しそう。
それは前回逃した仕置をやっと落札できた喜びも、もちろん入っている。

鉄らしさ。
山崎努さんが作り上げた鉄。
俳優としての力量。
他の人では出せない味。


ラストシーン、主水に頭を下げて船に乗って行くおちか。
見つめる主水は、咳をひとつ、する。
何でしょうねえ、それだけの仕草なのに、哀愁がある。
切なそうにも、すまなさそうにも、哀しそうにも見える。

こうなる前に助けてやれなかった自分を、責めているようにも見える。
それこそが、中村主水。
俳優・藤田まことさんの力量。
藤田さんの主水が、愛される理由なのではないかと思いました。



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この村の600年の掟 「新・必殺仕置人」第4話

上野の森美術館で開催中の「怖い絵」展。
テレビ東京の「美の巨人立ち」ではその中の一枚、「レディ・ジェーン・グレイの処刑」を取り上げました。
ここで私は不謹慎にも、「新・仕置人」の4話「暴徒無用」を思い出しました。

嫌ですねー、「必殺」頭。
「新・仕置人」の4話「暴徒無用」。
これを見ると、ラストで本当の悪は、何百年も続く「掟」なのではないかと思うんです。
誰のための、何のための、掟か。

一体、誰を幸せにするための掟なのか。
そういうことはもう、関係なく、ただ「掟」だと言って従う。
本当の悪は、本当に怖いのはそこではないか。


第4話、「暴徒無用」。


宿場が並ぶ街。
おていがカモを見つけようとしている。
正八が2人連れに客引きを装って、近づく。
おていがそれに張り合うようにして、近づく。

戸惑った2人連れから正八があきらめたように、離れる。
おていもまた、離れる。
2人連れからおていがすった金は、物陰に隠れて正八が数えると13両もあった。
これを全部、おていに渡しちゃいけないとつぶやくと、おていがやってきた。

正八がはり飛ばされる。
「何だ、これ」。
「紙」。

鉄の前に、小判が並べられた。
先ほど、おていと正八がすった金だった。
「これで当分、遊べる」と鉄が言う。
「そうでしょうかね」。

「胴巻きの中に、妙なものが入ってんのよ」。
それは「介書」と書かれた紙だった。
中には「武州影沢村」という字があった。

続いて「重右衛門、和助」。
「虎殿」。
「虎ぁ?」
鉄が素っ頓狂な声を上げた。

「そう、虎」。
すっと、戸が開く。
死神がいる。

「金、返してもらおう」と死神は言った。
「頼み人の金、すってはいけない。返してもらおう」。
そう言って、死神が入って来る。
おていと正八が飛びのく。

死神が正八に向かって、手を伸ばす。
正八が隠していた1両を死神の手に乗せる。
1両、正八がこっそりくすねていたのだ。

だが死神は騙せなかった。
おていが正八をどつく。
死神は出て行く。

寅の会。
「それではこれより挙句を頂戴いたしまして、本日の興行を終りたいと存じます」。
「玉野山。山霞なる筧伊右衛門」。
「虎。万筆」。

「このたびの頼み料は、13両でございます」。
「青梅の奥の、そのまた奥でございます」。
それを聞いた仕置人たちは口々に「旅籠代も出やしない」と言った。

だが「12両」と声がかかった。
これで決まりかと思われた時、鉄の「6両」の声が響いた。
周りがギョッとし、非難の目で鉄を見る。
「ではこの命、6両にて落札」。

寅の会が終わり、引き揚げる時だった。
「念仏さん」。
女の仕置人が鉄を呼び止めた。
「あんた、一体どういうつもりなの」。

他の仕置人たちが、鉄を取り囲む。
「仕置には仕置料の相場ってものがある。そうだろう」。
鉄はグキ、グキと首をかしげた。
「俺は一カ月殺ししないと、世の中、霞がかかったみたいになっちまう」。

そう言うと鉄は、グキグキと首を鳴らす。
「死神見てるぞ」。
鉄は庭の方を指さす。
その方向を見た仕置人たちは、グッと言葉を飲み込んで散って行く。

「だったら念仏、11両で落とすことだってできたんじゃねえのか」。
主水が地下室で、鉄に言う。
「たまには虎だって、自分の懐から出して上乗せすりゃいいんだ」。

「場所は多摩の山奥。絵図にも載ってねえ。大菩薩のもっと奥じゃねえのかな」。
仕置の場所は、相当な山奥だと言うことだ。
「ああそりゃ人さん、サル七だな」と主水が言う。

巳代松が「何だそりゃ」と聞く。
「人間様が3人に、サルが7匹。人間よりサルの方がでけえ面してるって山奥だ」。
主水の言葉に巳代松が「おめえ、人の仕事に水差してうれしいか」と文句を言う。

「そうじゃねえよ。俺はけえるよ」。
鉄が主水に「降りるの?降りるんだな」と確認を取る。
「そうか、今度の仕事は久しぶりに俺一人か」。

うれしそうな鉄。
すると主水は「そうか、今年に入ってから奉行所休みを取ってなかったな」と言い始める。
「ああ、休むな休むな!仕事は大事だ!」

峠の茶屋で、正八は茶屋のオヤジに聞いていた。
「霞村から影沢通って、峠を抜けようと思ってるんだ」。
「霞村?およしなせえ、その道は」。
「何で?」

「わけは言えねえが、とにかくその道はよした方が良い!」
少し回り道だが、悪いことはいわないから本道を行けとオヤジは言う。
正八が「霞村には、伊右衛門という山持ちがいるんだろう?」と聞くとオヤジは「知らねえ!」と言った。
「食ったらさっさと行ってくれ!」

するとそこに、正八が江戸で見た2人連れが引き立てられていく。
オヤジが「見ただろう?」と言う。
ここではお役人の力も伊右衛門に、及ばない。
山の中では、伊右衛門の力が全てなのだ。

だが正八は、伊右衛門の手下たちに、江戸で発禁になったという絵草子を見せて取り入る。
絵草子に夢中になっている手下たちを、用心棒が呼びに来た。
江戸に来た2人がわざと、解放された。

逃がしたところで、伊右衛門が塀の上から銃でねらい撃ちをする。
和助と言う若い方が倒れた。
「和助!」

重右衛門が怒って、方向を変え、伊右衛門に向かって走って来る。
そこを伊右衛門が再び、ねらい撃ちをする。
「お見事」。

「銃に錆が浮いている。手入れが悪い」。
人を撃ったことなど、何とも思わず伊右衛門は銃の心配をしていた。
確かに、ここは伊右衛門の天下らしい。

その夜、おていが口笛で主水を呼び出した。
すぐに来てくれと言う。
頼み人が殺された。
重右衛門と和助のことだ。

グズグズしていたら、仕置は取り下げになってしまうからだ。
頼み人が伊右衛門に捕まったのは、天下の往来を伊右衛門が塞いでいるからだ。
そんなことができるのか、と主水は言うが、正八は山の中では伊右衛門が法だと言う。

頼み人が死んだら、仕置は取り下げだが鉄は、本当の頼み人は影沢村全員だと言う。
影沢村の連中と伊右衛門の間に、何があったのか。
それが知りたい。
鉄はそのためには主水の、南町奉行所の仕事がほしいと言う。

主水は「俺はいかねえぞ。この仕事は降りる」と断った。
だが主水は結局は甲府出張を装い、行くことにする。
せんは主水の甲府出張を、同僚が知らなかったと言って責めに来た。
だが主水はこれは、重大な極秘任務だと言った。

そうして主水は、仕置に出かけることに成功する。
正八が休んだ茶店にも、主水は自前のおにぎりを食べて寄らずに行く。
杉屋という旅籠には、一足早く鉄と己代松が来ていた。

鉄はあんま、己代松はその身の回りの世話をする男として来ている。
囲炉裏端で一緒になった主水に鉄は、「あんた、どこまで行くのかね」と聞いた。
「私は甲府だ」。
「あんた、お侍さんかね」。

「奉行所のお役人様だ。失礼なことをするんじゃねえぞ」。
「お役人様か。もましてもらえないかね」。
「あんまはいらん」。
「ま、ま、そう言わず」。

鉄は目が見えないふりをして、主水に近づいた。
そして耳元でささやく。
「この宿も伊右衛門の息がかかってる。気をつけろ」。

「明日はどうする?」
「水沢に宿をとる」。
すると鉄は今度は大声で「お役人さん、甲府にはどの道を行きなさるかね」と聞いた。
「影沢へ出て、塩山へ抜ける。それが一番の近道だ」。

「そうかね、近道があるかね」。
「奉行所のお役人様が一緒なら、山賊も出るめえからよ」と己代松が言う。
「ちげえねえや」。
鉄は笑った。

主水が風呂に入っていると、外で気配がする。
壁から槍が突き出てきた。
槍を抑えると主水は、外に出る。
誰もいない。

宿のオヤジが、湯加減を聞きに来た。
「湯加減は上々だ」。
「どうぞ、ごゆっくり」。

鉄と己代松が街道を歩いていると、バラバラと男たちがやってきた。
この道は通れないと男たちは言う。
主水が、やってくる。
すると男たちは態度を変え、がけ崩れがあって、通れないのだと言い訳をした。

「ならばなおさら、代官所に報告しなければ」と言って主水は通る。
慌てる男たちに用心棒は、影沢に入っても構わないと言った。
二度と、外に出さなければいいだけだ。

鉄、主水、己代松が山の上から見下ろす影沢村。
ここまで来たと、鉄と主水、己代松に笑みが浮かぶ。
道端に年寄りが、座っている。

「じいさん、影沢ってのはこの辺りかい?」
だが老人は答えない。
老人はそのまま、崩れ落ちるように倒れた。

死んでいる。
飢え死にだ。
主水は庄屋の宗兵エの家を訪ねた。

霞村から来たのか?と庄屋は聞いた。
途中、道を邪魔されたと言うと、「ようおいでなすったなあ…」と庄屋は感心した。
「泊めてあげたいのはやまやまだが、この村には米粒が一粒もない」。

「何?」
「米粒どころか稗も粟も、人の口に入るものは木の皮も草の根まで食い尽くした」。
「犬一匹おらん。犬も猫も食い尽くしたんじゃ」。
「去年は30年ぶりの飢饉じゃった」。

宗兵エは語り始めた。
「真夏に霜が降り、秋口にはもう、雪がちらついた」。
「山の田んぼには、一粒もコメが実らんかった」。

「村中の食い物は、冬が来るまでに底をついてしまった」。
「それでも下の村から稗や粟を買えれば、まだ良かった」。
「今じゃ、この影沢の村に食い物を売ってくれる者は、ひとりもおらん」。
「助けを求めに、山を下りた者も一人として帰っては来ん」。

「みんな、霞の伊右衛門のおかげじゃ」。
後ろに並んだ村人たちが、うなづく。
「ちょいとお尋ねしますがね」と鉄が言う。
「何だってまたその、伊右衛門とか言う旦那の恨みを買ったんです」。

「そのわけは女じゃ」。
「女?」
「この村のある女を、妾に差し出せと言って来た。それを断ったがために伊右衛門の怒りを買った」。
「たった一人の男のために、この影沢の村は死に絶えようとしている。怖ろしいことだ」。

夜、鉄と主水と巳代松は並んで寝ていた。
主水が、干飯を出した。
こんなこともあろうかと、用意してきたものだ。
むくりと鉄が起き上がる。

「どうした」。
「飯の匂いだ」。
鉄の鼻は、ヒクヒクと動いていた。
「どっかで飯炊いてる」。

「おうおうおう、寝ぼけんじゃねえよ」。
部屋の外に出る鉄に、己代松は言った。
だが暗い、誰もいない台所では確かに飯が炊かれていた。

飯が盛られ、膳が用意されていた。
女性はその膳を持って、外に出て行く。
神社の鳥居をくぐり、中に入る。

鉄は後をついていく。
女性が膳を差し出し、頭を下げる。
その女性の向かい側。
1人の美しい女が前に進み出て、手を合わせる。

そして膳に、手を付け始める。
鉄はそれを格子越しに見ている。
息をのむほど、美しい。
じっと見つめていた鉄が気配に振り向くと、宗兵エが鉄を見ていた。

「お前さん、目が見えるのか」。
鉄は、にやりと笑った。
「こりゃどういうわけだ。何であの女だけ、飯が食えるんだ」。
娘の、美しい横顔が見える。

宗兵エが主水に語る。
「わしらは平家の落人の末じゃ。今から600年の昔、わしらの祖先がこの山中に流れ着い落ちてこの村を作った」。
巻物がするすると解かれ、畳を張って行く。

その巻物には、延々と平家の名が続く。
「山の中では、30年から50年起きに必ず怖ろしい飢饉に襲われる」。
「その時村の命をつないできたのは、女たちじゃ」。
「影沢の女は美しい」。

「平家の血筋を引いて、都の女にも負けない美しい女が生まれる」。
「その女たちの中からとりわけ美しい女を一人だけ選んで、飢饉の時、村の命を救うため、高く売るんじゃ」。
「遠からず、都より人買いが来る。その人買いにあの女は売られていく」。

「この村はそうやって600年の間、生き延びてきたんじゃ」。
「この山の中ではそうするより他に、生きる道はなかった」。
「美しい影沢の女を売るより、他には…」。

外から蹄の音がする。
馬に女が乗せられていた。
「娘を奪われました」と、先ほど膳を運んだ女が飛び込んできた。

「伊右衛門の一味か!」
「はい」。
「おのれ、影沢の者が死に絶えようともこの恨み晴らすのじゃ」。

主水は黙って見ていた。
松明が焚かれれ、村人が集まってくる。
「良いか!娘は影沢の命じゃ。平家の血筋の誇りじゃ!取り戻せ!」

村人が伊右衛門のところに行こうとする。
だが主水が止める。
「待った、待った。待ちなされ!」

朝になった。
鉄が巳代松に手を引かれ、街道を行く。
「てめえら舞い戻りやがったな!」

行きに道行きを止めた伊右衛門の手下2人が、飛んでくる。
「影沢に泊まろうと思ったんですが、米っつぶひとつもねえってんで腹減っちゃって。なあ?」と己代松が言う。
鉄も言う。

「ったく世の中には、悪い奴がいるもんですねえ」。
「ひとりの女欲しさに村中を日干しにしようってんだから、ひどい話じゃありませんか」。
「私ら代官所に訴えてやろうと思うんですよ、その霞村の伊右衛門とか言う男をね」。

鉄の言葉に、男たちは笑い出した。
「ところが、そうはいかねえのよ」。
「俺たちは伊右衛門の手下だ」。

そう言うと、鉄たちを連れていこうとする。
「旦那、旦那、ご勘弁を」。
そう言いながら鉄は、男たちの骨を外した。

2人の男は足をひねられ、満足に立つこともできなくなった。
「山間の湯にでも浸かって、ゆっくり湯治しな!」
巳代松はそう言うと、鉄と一緒にかけて行った。

伊右衛門の屋敷の塀に、たどり着く。
頼み人を狙い撃ちした塀だ。
中に入ると巳代松は、顔に炭を塗り始めた。

火縄をぐるぐると、手に巻き付ける。
手袋をする。
屋敷の中では、伊右衛門の寝室の戸が開いた。
連れてこられた女が、美しい桃色の着物を着せられて座っていた。

伊右衛門が入って来る。
「美しい…影沢の女は美しい。わしはお前が欲しかった」。
「影沢でお前を一目見た時から、わしの目は狂った」。

「世の中のすべての女がうとましい。大勢いた屋敷中の女も追い払ってしまった」。
だからなのか、広い屋敷の中は殺風景でガランとしていた。
「お前さえいてくれれば、霞の伊右衛門は滅んでも良いのだ」。

伊右衛門は女の手を取り、連れていく。
「何と美しい」。
女は歌い始めた。
童女のような声だった。

「あーそーびーをせむとや、うーまーれーけーむ」。
女の目は何も見ていない。
目の前の伊右衛門も見ていない。

伊右衛門は、そっと、女の着物を下げていく。
美しい肌が、あらわになった。
それでも女は微動だにしない。
ハッと、伊右衛門が外に目をむける。

廊下を、巳代松が走る。
身をかがめ、辺りを見回して立ち上がる。
向こうに、用心棒の姿が見える。

火縄に手をやりながらどん!と廊下に上がり、足踏みをする。
用心棒がその音に気付き、こちらを見た。
巳代松は素早く、部屋に走った。

一方、伊右衛門は気配に戸を開けた。
そこには、鉄がいた。
「誰だ貴様は」。
「江戸から参りました、あんまでございます」。

「用はない失せろ」。
伊右衛門は鉄の頭を、乱暴に押した。
戸を閉める。

その戸がまた、開く。
「まあまあ、そうおっしゃらずに。せっかく江戸から、遠路はるばる参ったのでございますから」。
「たっぷりと心行くまで、もませていただきます」。
鉄が自分の手を撫でる。

巳代松は部屋から部屋へ、走っていた。
一つの部屋に潜むと、外に男の影が映った。
「四間…」。
用心棒が、近づいて来る。

「三間半」。
「三間」。
「まだまだ」。

「ようし」。
「二間半」。
「二間!」

飛び出した巳代松は、竹鉄砲をむける。
用心棒がギョッとする。
竹鉄砲が火を噴く。
用心棒が倒れた。

伊右衛門の部屋では、鉄が人差し指と中指を立てていた。
「失せろと言うに!」
去らない鉄に伊右衛門が腹を立てて、鉄を蹴ろうとした。
鉄はその足を持ち上げた。

伊右衛門を組み伏せる。
「うおっ」と伊右衛門が声を出す。
「ちょっと」。
「ちょっと、つかまらせていただきますよ」。

鉄に首の後ろを抑えられ、伊右衛門は身動きが取れなくなった。
「凝ってますなあ、だいぶ凝ってます」。
鉄が伊右衛門の背中に、手を這わせる。

手を振り上げる。
ちらと女を見る。
女は、歌い続けている。

グキリ。
鉄の手が、伊右衛門の胸にめり込む。
伊右衛門のあばらが折られた。

道では、主水が待っている。
鉄が女を背負って、走って来る。
巳代松が自分にも背負わせろと言うが、鉄は背負ったままだ。
女に顔は見られたと言うと、主水は「それはまずいなあ」と言う。

だが鉄は、この娘のことを「世間のことは何にも知っちゃいない」と言った。
鉄は女の手を嗅ぎながら、走って行く。
「てめえ、きたねえよお」と巳代松が後を追う。
主水は鉄と己代松より一足遅れて、帰ることにした。

「娘が帰ってきた。霞の伊右衛門は死んだそうじゃ」。
宗兵エは、喜んだ。
「そうですか。それは良かった」と主水は答えた。

宗兵エは言った。
「あなたがどういうお方か、消えた2人のお人がどういう方か、尋ねるのはよそう」。
「このことは、わし一人の胸にすべて収めて死んでいく。だからあなたも、この村で起きたことはすべて忘れてもらおう」。

「そうですな」。
主水は囲炉裏に火を入れながら、言った。
薄く、煙が上がる。

「庄屋さまー!」
村人たちが走ってきた。
「コメが来た。都からお客様が見えました」。

馬に米俵を持って、人買いが来た。
「これはこれは長旅をはるばる、ご苦労でござった」。
宗兵エが挨拶に出る。

「いやいや、影沢の方とは先祖以来600年の付き合い。今年はまた、どんな美しい方をお世話願えるかと、楽しみにしてまいりました」。
帰ろうとする主水を、宗兵エは呼び止める。
「お役人。今宵は売られていく娘のために別れの宴を開く。それでもう一晩、お泊まり願えんか」。
「はい」と主水は答えた。

夜の宴。
鎧が並べられている。
古いが、立派な鎧だ。

真ん中には舞台が作られ、あの娘が衣装を着て踊っている。
雅楽が、奏でられている。
夜の中、松明の灯りに照らされて娘の顔は、一層美しく映った。

宗兵エも村人も、みな、先祖伝来の衣装を着ている。
主水は娘を見つめる。
「宗兵エ殿」。
「はい」。

「私には、どうしても腑に落ちぬことが一つある」。
「何でございましょう」。
「どうして、娘を伊右衛門に売らなかったんですか。そうすれば騒ぎにはならなかったはずですが」。

「それは掟じゃ」。
宗兵エの声は、当たりの良い庄屋の声ではなかった。
「影沢の女は都に住む高貴な方々にのみ、お売りするのじゃ」。

「それがこの村の、600年の掟じゃ」。
娘は踊っている。
主水はただ、見つめている…。



おていと正八が、旅人の財布をすることから始まる話。
死神がちゃんと突き止めて、鉄のところにやって来る怖さ。
正八とおていの顔を死神は知っているし、正八も死神の顔を見ている。
そのはずだけど、後にはお互い、記憶していない。

まあ、取り上げるエピソードは週1回ですが、実際には何年も経過していると思います。
それでお互い、顔を凝視などしなくて、ほとんど見ていない。
一瞬で、緊張して、覚えていない…ということでしょうか。

しかしここで正八が頼み人を見ていることから、頼み人が殺されたことがわかる。
早くしないと、仕置はなかったことになってしまう。
一応、頼み人は影沢村全体だと鉄は寅の会への言い訳も用意して、影沢村へ急ぐ。
渋る主水に「仕事は大事だ!」と辞退させようとする口調もおかしい。

主水は第1話で保護したワンちゃんに「野良犬になってひもじい思いをしたほうがいいか」。
「それとも辛抱してめざしを食ってるか、どっちが得か、よーく考えてみよう」と話しかける。
これ、当時の「どっちが得か、よーく考えてみよう」って流行語ですね。

山奥の仕置に、鉄だけが破格の安さで手を挙げる。
そのため、他の仕置人たちと摩擦が起きる。
そこで鉄。
「1ヶ月仕置をしないと、世の中が霞がかかったようになる」。

すっかり、仕置が中毒な状態になっていると語る。
それは言い訳のような、本当のような。
仕置がしたいのは、本当だろうなあ…。

人よりサルの方が多いという山奥。
江戸の法は及ばない。
霞の伊右衛門は、遠藤太津朗さんです。
第1話から、良い悪役が続きますよ!

影沢村は、座ったまま餓死しているような状態だった。
今でいう、冷夏だったんでしょうね。
アイスやビールが売れない。

景気が冷え込むどころじゃなかった。
昔は冷夏なんて、本当に飢饉で人が飢え死にする状態になってしまう。
現代だって、93年の冷夏では米騒動が起きたんですから。
冬はと言うと12月でもコートがいらないぐらい、気温は上がってきてますね。

さて、この話、山奥に入る後半から異様な世界に入って行きます。
鉄がマイペースで、あんまの振りをして軽快だからあんまり感じないですが、異様な世界です。
伊右衛門が支配するのも異様ですが、伊右衛門が影沢村を攻撃する理由が「娘」!

1人の娘を見た時から、伊右衛門はすべての女性に魅力を感じなくなった。
大勢いたであろう、屋敷の女性には全部、暇を出して追い出した。
道理で、あの広い屋敷に人の気配、特に女性の気配がなかったはず。

どこか、荒んだものを感じさせる屋敷だった。
もう、滅びることが確定しているかのような。
そして、影沢村の一人の女性に執着した。

影沢村、全部を死に絶えさせてもいいほど。
自分が滅びてもいいほど。
その通りに、伊右衛門は破滅する。
たった一人の女のために、影沢村も伊右衛門も滅びる状態になった。

まさに魔性。
当の女性は「おほほほほ」でも何でもなく、ただの子供のよう。
そんなことも認識していない。
誰もそれをおかしいとは思っていない。

この村は、平家の落人の村。
だから世間とは隔絶して、600年生きてきた。
おそらく、血も濃いであろう。
その血は、美しい女性を作り出す。

さらに村の状況を支えたのは、美しい女性。
その女性には、自我がない。
まっさらな子供のような状態を保って、どんな人にも染まるようにして売る。

人買いはというと紳士的で、たくさんのコメを持っては来るが、人身売買。
でもそれは、貧しい村が娘を宿場女郎にするのとはわけが違う。
都の高貴な方にのみ、お売りするのだと言う。

その強烈なプライド。
自分たちを追い出した世界の拒絶。
うすら寒くなるような、状況。

村を犠牲にし、伊右衛門も滅ぼし、女性から自我も感情も奪う。
そうしてまで、人を不幸にして破滅させてまで守る理由は何か。
「掟じゃ」。

わかりやすい伊右衛門の悪とはまた違うが、これも立派な悪ではないかと思う。
伊右衛門は仕置できても、掟はできない。
掟を守って、人を滅ぼすこのシステムは罰しようがない。

これを異様だと思った人は、おそらく村にはいなくなる。
だからここにいる人たちは、600年間、時が止まった人ばかり。
平家が滅び、源氏が、北条が、戦国がこの村にはなかった。

隠れ里みたいな世界。
外がどうなろうと、彼らには関係ない。
だから主水が、鉄が、己代松が誰だろうと関係ない。
自分たちはここを、守れれば良いだけ。

これって、普通の人は、関わっちゃいけない世界じゃないでしょうか。
最後に見せた宗兵エの顔と口調は、庄屋のものではない。
まぎれもなく、巻物を取って置く平家の末裔の顔。
高貴なものの、プライドあふれる顔。

600年の間、時が止まった村。
そしてこれからもずっと、時が止まったままだろう。
最後に主水は、どんなことを思ったでしょうか。
欲望と活気渦巻く世界から来た主水には、この村はどう映ったでしょうか。


地獄の道連れ、誰にする? 「新・必殺仕置人」第3話

第3話、「現金無用」。
げんなま無用。
2話は、こちらで以前に書いております。
3話だって書いているじゃないかって、すみません。
書いたものが消えてしまって、しばらく立ち直れないので、また後で書きます。

旗本、沖田政勝の屋敷前で、中元が自害して果てた。
沖田政勝に、妻を奪われた恨みだった。
腹を切り、苦しむ中元を沖田は介錯と斬って捨てた。
駆けつけた妻は「お恨み申し上げます」と言って、自害して果てた。

沖田の屋敷に絵草紙屋として出入りしていた正八は、ことの顛末を見ていた。
今日はこの騒ぎで、絵草紙どころではないだろうと、用人の堀内新兵衛が正八を追い払った。
「許してください。私が至らないばかりに」。
沖田の後妻・お梶が、そう叫んで走ってきた。

寅の会に、沖田の仕置きがかけられた。
鉄と伊三郎、そして柔術家の玄達で競り合った。
収拾がつかなくなりそうになった時、寅が制止した。
結局、仕置は入れ札となり、伊三郎に決まってしまった。

仕事を持って帰らなかった鉄に、仕置人たちは不平を言う。
みんな、仕置料を頼りにしていたのだ。
主水もやってくるが、当てが外れたと言われる。

「5両でも10両でもいいじゃねえか、やりがいのある仕事なら!」
「世の中にゃ晴らせぬ恨みつらみで、がんじがらめになって泣いてる連中がたくさんいるんだ」。
主水はそう言うと、「もう、おめえに任しておくわけにゃいかねえな」と鉄に言った。
そのの言葉に、正八も同意する。

寅の会抜きでやればいいのではないか。
そうすれば、寅の会に上前もはねられない。
だが鉄は「八丁堀、おめえ寅の会のこと、よく知らねえからそんなこと言うんだ」と止める。

すると主水は「おめえもすっかりタガが緩んだな。いつからそんな腰抜けになったんだ」と言う。
「とにかく虎のことは甘く見るな」。
仕置人たちに向かって、鉄は「おめえたちもだ」と言った。
「でねえと、虎に必ず仕置きされることになるぞ」。

「仕置人が仕置きされるってか」と立ち上がる己代松に「そういう冗談じゃすまねえんだよ」。
そして、自分を見る主水に鉄は「恨みがましい目で見るな」と言った。
「しょうがねえじゃねえか」と言って、鉄は頭を抱えた。

しかし、鉄が落札できなかった沖田政勝は、仕置きの前に心臓発作でなくなった。
虎がふすま越しに頼み人に「あなた様よりご依頼の沖田政勝に突然、不幸があり、私どもの手で仕置きできませんでしたので、このお金はお返しいたします」言った。
向こうには、頼み人がいる。

死神が、部屋の向こうの頼み人に金を持っていく。
部屋には、沖田の後妻のお梶がいた。
死神が言う。
「死因に不審がありました場合、その落とし前としてお命頂戴いたします」。

不審に思った死神は、沖田の遺体を掘り返した。
沖田の死因は、背骨が折れたことによるものだった。
真夜中、不穏な気配に起き上がった鉄は家から出ようとするが、戸は既に押さえられて開かない。

気を落ち着かせる為に水を飲んでいると、背後の障子に死神の影が映った。
「おっ?!何だ、何の真似だ?」
死神は「お前は裏切った」と言った。
鉄は「何だ」と取り合わずに寝に入ったが、死神は「証拠がある」と言う。

「沖田の死因は背骨折り。コイツはお前の手口だ」。
「冗談じゃねえよ」。
だが死神は「お前は虎を裏切った。この落とし前は虎の元締めがつけてくださる」と無機質な声で告げた。
「ちょっと待ってくれよ!」

鉄は跳ね起きた。
「そりゃあ、お前、なんかの間違いだよ。この証は必ず立てるから5日待ってくれよ」。
答えない死神に鉄は「いや、3日でいい!」と言った。

翌日、奉行所にいる主水を、主水の犬のコロを使い、正八が呼び出した。
鉄のところに来る途中、正八から話は聞いたと言う主水。
「だったら、すぐすっ飛んで来い!俺の命に関わる問題なんだから!」と鉄は言う。
しかし主水は「おめえ、本当にやったんじゃねえのか」と言った。

「何、おめえまで俺のこと疑ってるのか」。
「いや、信用してるぜ。なあ、1人で仕事するような、そんなきたねえ男じゃねえよ」。
「だが、背骨折りとくりゃあおめえしかねえな!」

主水の言葉に鉄は「やっぱりおめえ、俺のこと疑ってんじゃねえか!」と叫んだ。
鉄は主水につかみかかった。
「それじゃおめえ、みんなに納得いくような言い訳してみやがれ」。

「だからそれができねえから、みんなにこうして集まってもらったんじゃねえか」。
「3日のうちに証を立てねえと、俺は虎に仕置されちまうんだ」。
「とにかく、虫が良すぎるよ」と巳代松が言う。

おていも「あたしもそう思うよ」と言った。
正八も「俺もなんだかよくわかんねえけど、そう思うよ」と言った。
みんな、当てにしていた寅の回の仕置料が入ってこなかったことに、まだこだわっていた。

「そうか」。
鉄が怒り出した。
「おめえら、それが仲間に言うセリフか!」
「ようし、わかった!」

「いい、わかった」。
「俺も地獄に堕ちるのは1人じゃ寂しい!みんな、道連れになってもらおうじゃねえか」と言い出した。
「地獄堕ちは、にぎやかな方がいいや」。

すると主水は「冗談じゃねえや。割り切れねえ気持ちのまま、おめえと一緒に死ねるかい!ええ?」
「だいたい、競りに外れっぱなしってのがおかしい」。
「おう、俺は俺のやり方で、ちゃんと調べさせてもらうぞ!」と言った。

己代松も「念には念を入れ、だ」と言う。
主水と巳代松の会話に、鉄はそう言うと頭を抱える。
「そうしろ、そうしろ」。
「ったく!」

「鉄。おめえ、なんか心当たりねえのか?」と聞く主水に、鉄は思い出す。
「俺もそのこと、ずっと考えてたんだ」。
「今度の競りで、最後まで張り合って外れた野郎が、俺の他n1人いる」。
「誰だそれは」。

「玄達といって、柔術家の表看板を下げている野郎だ」。
「俺が当たってみる」。
巳代松の言葉に、鉄が目をまん丸にした。
「それに沖田の屋敷も探りを入れる必要があるな」。

そちらは、絵草子で出入りをしている正八が請け負った。
沖田の屋敷には跡取り息子の政高がいて、おふみという下働きの少女といつも仲良く遊んでいた。
政高が転ぶと、おふみが飛んでくる。

泣きそうになった政高は、すんでのところで泣くのをこらえた。
若様を誉めるおふみ。
正八が行くと、おふみがお梶に取り次ぎに行った。

「お姉ちゃんと仲がいいね。お姉ちゃん、好きなの?」
「うん、大好き!」と政高は元気よく答えた。
「母上とどっちが好き」。

正八の問いに政高は「母上は大嫌いだ」と答えた。
「母上嫌いなの。う~ん、じゃ、おじちゃんと一緒だ!」
おふみが来て、お梶は誰にも会いたくないと言っていたと告げる。
正八は帰った振りをして、屋敷に忍び込んだ。

天井裏に潜んだ正八が見たのは、用人・堀内新兵衛とお梶の密会現場であった。
しかもお梶は、子供を身ごもっていた。
その父親は新兵衛だった。

一方、賭場に忍び込んだ己代松は、80両という大きな借金を玄達が全て返済しているのを知った。
親分は玄達は命拾いしたな、と笑った。
このことから主水は、お梶が新兵衛との間の子ができて、それがわかってしまう前に政勝を殺したと予測した。

だが、おていは門前で殺された中元夫婦の恨みも相当なものだと言う。
妻が沖田に奪われたうえ、夫が殺され、妻は後を追ったのだから。
己代松は、寅の会は頼み人が死んだら、頼み料は返さなくてはいけないことに目をつけた。

玄達が寅の会を通さずに、じかに頼み人と取り引きしたとしたら?
寅の会を通さないのだから、頼み両はそのまま、玄達に入る。
頼み人にしたら、安くも済むだろう。

主水は、問題は、玄達とお梶たちがどこでどう繋がっているかだと言う。
のんびりしている正八に鉄は「俺の首が飛ぶかどうか、あと2日しかねえんだぞ!」と怒った。
鉄が外を見ると、長屋の外ではやはり死神が見張っていた。

主水が帰ると、せんが寝込んでいた。
りつも傷だらけだった。
50両が5本も当たるという富くじを買いに行き、殺到する人のなかで転んだのだった。
「何もかも、あなたの甲斐性のないせいです!」

翌日、その主水が玄達を仕置人として捕まえてきたと奉行所で騒ぎになった。
「昼行灯が?」
「仕置人なんて本当にいたのか!」

態度が大きい玄達に対して主水は怒ったが、玄達は悠然としている。
「わしを知らんのか」。
「身元保証人でもいるのか」。
すると玄達は、旗本の沖田政勝の奥方・お梶が自分のことは知っていると言った。

「よく調べてみろ」。
その通り、玄達の身元を、お梶が保証したのだ。
上に叱り飛ばされ、畳に頭をこすりつけて詫びた主水。

だが、1人になると「これで玄達とお梶の線は繋がった」とつぶやいた。
開放された玄達の後を、鉄が尾行する。
玄達は沖田の屋敷に入った。

屋根裏に侵入した鉄は、お梶と新兵衛、玄達の3人の会話を聞く。
「全くマヌケな同心だ」。
新兵衛が嘲笑う。
「本物の仕置人を捕まえておきながら…」。

「その点、お梶は抜け目がない。セリで負けた念仏の鉄というやつの手口で、殿を殺して」。
お梶の声がする。
「もし、わたくしたちが玄達殿と知り合いでなければ300両の頼み料が80両になるなどということは」。
「ふふふふ」。

「ところでご用は」と玄達が聞く。
「玄達殿、今一人片づけてほしいのですが」。
「と、おっしゃいますと、誰です」。

「政高です」。
「若様を?」
「百両出します」。
「百両」。

「しかしあの子は沖田家の嫡子、沖田家は断絶に」。
「嫡子はおります」。
「わたくしのお腹の中に」。

「なるほど、新兵衛との間に…。わかりもうした」。
「ではこれを」。
玄達は赤い薬の包みを、懐から出した。
「食あたりと言うことにいたせば」。

それを廊下でおふみが聞いていた。
おふみは部屋に戻ると、政高の顔を見る。
鉄は飛んで帰った。

「沖田のせがれが殺される?」
主水も、正八もおていも、己代松も驚愕の目で鉄を見た。
「グズグズしちゃいられねえんだ」と鉄はウロウロと歩き、焦った。
「鉄!こうなったら、いちかばちだ。玄達の抜き差しならねえ証拠を、寅に突きつけるしかねえ!」

「玄達、はめるんだ!」
「はめるったって、どうやって…」。
表には死神がいる。

「鉄!ちょっと来い!」という主水の声で、仕置人は輪になった。
声を潜める仕置人たち。
玄達に仕置きを依頼して、寅の会を通さずに仕置きするところを死神に見せるのだ。
「まずはあたしの出番だね」。

おていに、「ヘマは許さねえぞ」と主水の声がかかった。
だが、誰かが玄達に仕置きされなければならない。
殺される役は誰がやる。
「そいつは俺がやる」と己代松が言った。

町中でまず、おていが日本橋の商人から財布をスリ取った。
主水は商人を呼び止め、財布をやられたことを教える。
集金したお金が30両。

青くなる商人に、主水は取り返してやるから奉行所に届けるなと言う。
次々、おていは商人の懐を狙ってスリをやる。
その後を主水がつける。
商人たちにすられたことを知らせ、奉行所には届け出るな、自分が何とかしてやると言い含めて歩く。

鉄のあんまに、正八がやってくる。
死神が見張っているので正八は客を装って、事の首尾を鉄に伝えに来たのだ。
鉄が長屋を出ると、死神もついてくる。

玄達が通る道で、鉄はおていが玄達から財布をスルのを待った。
その通りに、おていが玄達の財布をすった。
途端、玄達は「待て!」とおていの手をつかんだ。

「けえしてくれ、胴巻きだ」。
「胴巻き?ご冗談でしょ?」
とぼけるおていを玄達は物陰に連れて行った。
「裸にすりゃわかるんだ!」とおていの着物を脱がしにかかった。

その途端、おていの懐から大量の小判が落ちる。
小判の数に、玄達は驚いた。
「この金はどうした!言え!言うんだ!」とおていを押さえつけた。

「言いますよ。言うから離してくださいよ」。
「この江戸に仕置人っていう、人殺しをしてくれるって商売があるっていうんで、その為に貯めたお金なんですよ」。
「その話、誰から聞いた」。

玄達とおていの会話は、鉄をつけてきた死神も聞いていた。
「ただ噂に聞いただけなんですけどね。どうしても殺してもらいたい男がいるんですよ」。
「お金がこれで足りなきゃ、いくらでも」。

「何だったら、その仕置人とかに俺が話をつけてやってもいいぞ」。
「あんたが?」
「ああ」。
「その代わり、礼金は百両!」

その頃、正八は沖田の屋敷で、絵草子を政高に読んでやっていた。
お梶が、政高の食事に玄達から渡された薬を注ぐ。
それを、おふみがそっと見ている。

お梶が食事だと言って、政高を連れて行った。
廊下に出た正八を、おふみが呼び止めた。
「あのお」。

「何だ、どうした?」と立ち止まった正八を見た新兵衛が、「絵草子屋!」と呼ぶ。
「用が済んだら引き取ってもらおう」。
おふみは「この絵草子、お返しします」と言って、自分が持っていた絵草子を差し出した。
「あ、そうですか。それじゃあまた、新しいのを何か一つ」と言った正八に、おふみは丁寧に頭を下げた。

その思いつめたような様子に、正八が不安を感じる。
屋根裏から、正八がお梶と政高を見ている。
「今、食べたくありません」。

食事をしようとしない政高に、お梶は「さあ、いただくのです」と強要した。
「そのようなワガママは許しませんよ」。
政高は、しかたなく手をつけようとした。

その時、おふみが飛んできた。
「若様、飲んではいけません!」
政高が飲もうとしていた椀を、おふみは跳ね飛ばした。

新兵衛が「おふみ、貴様!来いっ!」と怒る。
おふみを引っ張って行く。
正八はそれを、屋根裏で聞いている。

「おふみー!おふみー!」と叫ぶ政高の声。
新兵衛が刀を抜く。
政高の叫び。

「静かになさい!」というお梶の声。
そして、静かになる。
天井裏にいた正八が顔をゆがめ、いたたまれず背中を向ける。

正八が鉄の家にいる。
預かってきた絵草子の中には、おふみの書いた書付と小判が2両、包んではさんであった。
煙管をくわえた鉄が、書付を読む。

「わたしにもしものことがあったときは どうかわたしのうらみをはらしてください」。
「このおかねはなくなったおくさまにいただいたものです」
「鉄つぁんよう」。

正八の声は震えていた。
「俺、この子の恨み、晴らしてやんないと気が済まねんだよ!」
「安いけど頼むから、競り落として」。
鉄はタバコをふかしながらも、小判を見つめ、しっかりとうなづいた。

その夜、おていは玄達に、飲み屋で飲んだくれている己代松を見せた。
「あれがそうなんですよ」。
玄達は己代松を路地裏に連れ込む。

そして、バタバタと暴れる己代松の骨を折った。
「ぎゃっ」という声をあげ、己代松は動かなくなった。
その一部始終を、死神が見ていた。

玄達が走り去ると、鉄が路地裏に飛び込んできた。
「松!」
「松!」
動かない己代松の胸を押すと、己代松は息を吹き返す。

「あばらが折れてら」。
「おめえに昔、右やられて今度は左だ。釣り合いが取れていいや」。
己代松が痛みをこらえながら言う。
そう言って痛みにうめく己代松の頭を、鉄はそっと抱き寄せる。

寅の会。
「本日、寅の会番外として、皆様にお集まりいただきました」と死神が言う。
「この寅の会の中に、掟を破る裏切りの事実があったからです」。

仕置人たちの間に、緊張が走る。
「この裁きは虎の元締め、自らの手で仕置きされます」。
仕置人たちが硬直する。

虎が立ち上がる。
玄達の目が泳ぐ。
下を向く。

座っている仕置人たちの前に、虎が進み出る。
虎の足が、玄達の前で止まった。
玄達がハッと、顔を上げる。

虎が棍棒を、玄達に向かって振り下ろす。
玄達は「うわっ!」と言うと、勢いで部屋の奥まですべった。
そして、障子を破って止まった。
虎は勢いに押された仕置人たちの前を通り、何もなかったように元の席に座る。

「なお、今回の件、頼み人については、私の身内の調べが甘く、不行き届きがありましたので、このように処分いたしました」と虎が言う。
死神が、仕置人たちの隣り合った部屋のふすまを開ける。
中には、いつも句を読みあげる喜平が、不自然な姿で硬直していた。
仕置人たちは背筋を寒くする。

「この件に関わり、番外の依頼がありました。頼み料は2両です」と死神が言い、虎が短冊に書く。
「頼み料は、2両です」。
「沖田の妻、梶」。
「堀内新兵衛」。

「2人で2両…」。
「見送りだね」。
その中、鉄は「1両!」と声をあげる。

仕置人たちが鉄を呆れた顔で見る。
「他にありませんね。なければ1両にて、念仏の鉄さんに落札いたします」。
鉄が頭を下げる。
うっすらと笑う。

地下室で、「あらかじめね、小銭に両替しておいた」と正八が言い、小銭が分けられる。
「早くしろ早く」。
「できてるよ」。
「3朱と20文」。

次々と、小銭を受け取って行く仕置人。
「この小銭は、小判よりずっと、値打ちがあるぜ」。
主水の言葉が、重い。

にっこりするおてい。
胸に包帯で板添木を結び付け、小銭を取る己代松。
鉄は主水に死神が目を光らせているので、今度の殺しは俺がやると言う。

己代松にもその体じゃ無理だと言った。
だが己代松は「冗談じゃねえよ、もう大丈夫だ、ほら」と言って、添え木を叩いてみせる。
鉄がわずかに笑みを浮かべて、顔をそらす。

夜の町、仕置きに向かう鉄はウキウキしている。
隣には、胸に手をやっている己代松がいる。
沖田家では、お梶と新兵衛が政高を早く殺す相談をしていた。

新兵衛がお梶を抱き寄せようとする。
お梶は、はばかりに立つ。
片袖を脱いだ鉄が、厠の外で指を鳴らす。

鉄は、厠の窓をそっと開けた。
中にいるお梶を、見下ろす。
身支度を整えたお梶が、立ち上がる。

鉄がお梶の背後の、戸の格子から手を伸ばす。
お梶の首根っこを、まるで猫の子をつかむように背後からつかむ。
首根っこをつかまれたお梶が、ヒュッと息をのむ。
鉄に背後から首筋を引っ張られ、お梶は首を回して背後を確認する。

お梶を見下ろし、睨む鉄と目が合う。
鉄に睨まれたお梶の目が、恐怖のあまり、見開く。
息が荒いのに、声も出ない。

お梶の前で鉄は人差し指と中指を伸ばし、手を鳴らして見せる。
ぐきり、ぐきり。
震え上がったお梶が呼吸を止め、目を細めた。
その瞬間、鉄の手が戸を突き破り、お梶のあばらを折った。

鉄が指を抜いた瞬間、お梶は目と口を開いた。
お梶は声もなく、扉の向こうで崩れ落ちる。
鉄はそれを見下ろして、確認すると格子を閉める。

寝床でお梶を待っていた新兵衛に、己代松が近寄る。
新兵衛が己代松に気づき、「誰だ!」と叫んだ。
火花が散る。

だが、新兵衛は肩を撃たれただけだった。
絶対に的を外さないはずの己代松。
それが、的を外したのだ。

「はっ!」
己代松が、自分の失敗に気付いた。
肩を押さえながら新兵衛は、刀を取る。
怒りの新兵衛は、己代松に向かって刀を振り下ろす。

最初の一撃は、避けた。
だが痛みに耐える己代松は、追い詰められる。
燃え尽きた鉄砲を手にした己代松が、とっさにそれで自分の頭をかばおうとする。

斬られる!
鋭い金属音が響く。
新兵衛の刀は、己代松の頭に届かなかった。

主水が障子の向こうで、新兵衛の刃を受け止めていた。
そのまま主水は刀を横に払う。
新兵衛は蚊帳の上に、倒れた。

「八丁堀…」。
胸を押さえたまましゃべる己代松を支え、主水は外に出る。
表に出ようとした鉄は、死神がいるに気付く。

「八丁堀、死神がいる」。
そう言って、主水を止めた。
「すまなかったなあ、俺の為に」。
鉄はニヤつくのを、止められない。

そんな鉄を見た主水は、「勘違いするなよ。別におめえの為だけにやったわけじゃねえや」と言った。
己代松も「そうだよう」と言う。
鉄は2人を下がらせると死神に愛想良く、戸を開けて外に出て行く。

翌日、主水はおていがすった金を、あちこちに返して回っていた。
「間違いねえな?」
「30両、確かにございます」。

「礼なんか言われる筋合いはねえけどな」。
お店の主人は、金がちゃんと戻って安心していた。
「間違いはねえな」。

「はい、確かに30両…、あ」。
主人は笑って頭を下げると1両包み「些少ではございますが」と言って主水に渡す。
「みっともねえから何度も同じこと言わすなよ」。

「これは、ご無礼致しました」。
主人はもう一度、笑って頭を下げた。
羽織の袖を翻し、主水はちょっと渋い顔をした。



この3話、大好きな話です。
お梶を演じるのは、美しい花には毒がある。
本阿弥周子さん。
良い役でも、悪役でも、見ていて目が楽しい素敵な女優さん。

おふみ役はこの主題歌「あかね雲」の歌手、当時13歳の川田ともこさん。
玄達は大好きな悪役、今井健二さん。
悪役も良いですね。
13話の江幡高志さんとか。

正八が「手負いのオオカミ」という凶暴さ。
恩人の医師もアッサリ、手にかけようと言う凶悪さ。
この時、寅の会の仕置は頼みんにが死んで取り下げのはず。
そこを鉄たちが助けてしまう。

あれ、医師は気づいていたと思うんです。
誰かが、助けてくれたと。
あんなに一致団結して自分たちのところに居座っていた盗賊たちが、逃亡を前に、仲間割れなんかするわけがない。
首領は鉗子で留められてるわけですし。

この回の殺しは、己代松もうまい。
鉄は見事。
これぞ暗殺者、仕置人。

主水の殺しは、一瞬で決める。
その凄まじさ。
正八が改めて主水の顔を見るほど。
って、後で13話の時に書けばいいのに、自分!

主水が、寅の会を軽視する。
すると鉄が、甘く見るなとくぎを刺す。
まさに玄達が寅の会を通さずに仕置して、手数料を払わなくて済む頼み人お梶が登場する。

最初の沖田の殺しを落札できず戻って来た鉄に、主水が言う。
「5両でも10両でもいいじゃねえか、やりがいのある仕事なら!」
そして旗本殺しについて、仕置人たちが旗本相手だったら安くは請け負えないと言っている。
全部、これ、最後につながるんですね。

仕置人たちの描写としては、すねる鉄がおかしい。
「だが、背骨折りとくりゃあおめえしかねえな!」
「やっぱりおめえ、俺のこと疑ってんじゃねえか!」

「とにかく、虫が良すぎるよ」。
「あたしもそう思うよ」。
「俺もなんだかよくわかんねえけど、そう思うよ」。

「ようし、わかった!」
「俺も地獄に堕ちるのは1人じゃ寂しい!みんな、道連れになってもらおうじゃねえか」。
「地獄堕ちは、にぎやかな方がいいや」。
この辺りの粋のピッタリ合ったところが、すごくおかしい。

前にも書きましたが、お梶たちの話をしている時、鉄の家でみんな、餅焼いてる。
それで主水が「奥方の腹がぷうーっと膨れてきたってんで」と言うと、網の上の餅が膨れてくる。
「おう、膨れてきた膨れてきた。それでやべえからと、旦那を殺したんだ」。
怖い話を平然と、おかしくしているところがさすが、裏稼業の人たち…。

死神がいるから客を装って来た正八を揉み治療しながら鉄ちゃん、「銭、ちゃんと払えよ」と言う。
「冗談じゃねえ、これ仕事のうちじゃないか」。
「お客さん、だいぶ凝ってますね!」

「俺、払えないよ」。
「払わなきゃ払わなくていいんだよ」。
頭、グキッといきそう。

「あー!払います!」。
「お客さん、いつもおおげさなんだから」。
もう、鉄ちゃんいるだけでこんなにおかしくなる。

正八が政高に絵草子読んでるんですが、それが「食うに困ったかぐや姫は、しかたなく吉原に身売りをすることになり」。
「おもしろいか?」
「うん!もっと続けて!」
「続けていいのかな?」

その後、お梶が「どの絵草子にするか、決まりましたか?」
「はい!かぐや姫にします!」。
「ありがとうございます」。
えー!

子供とのやり取りの中、さりげなく正八が「母上とどっちが好き」と言う。
大して意味があったわけじゃない。
でも政高は「母上は嫌いだ」と言う。
正八が「おじちゃんとおんなじだ!」と言う。

明るく見えても、仕置人。
普通の生い立ちで、普通の生活をしている青年が関わる世界じゃない。
この正八に、どんなことがあったのだろうと一瞬、思わせる。

さてかぐや姫の絵草子の後、話は悲壮な方向へ行く。
このようにいろんなことが散りばめられているから、仕置人は目が離せない。
おふみが殺されるのをわかっても、なすすべもない正八。

つたない文字で書かれた書付が、涙を誘う。
「わたしにもしものことがあったときは どうかわたしのうらみをはらしてください」。
「このおかねはなくなったおくさまにいただいたものです」。

正八の声が、は震えている。
「俺、この子の恨み、晴らしてやんないと気が済まねんだよ!」
「安いけど頼むから、競り落として」。

幼いおふみが必死に今まで奉公し、もらった小遣いを貯めた2両。
その頼み料に、名乗る仕置人はいない。
悪いと言ってるんじゃなくて、ものすごく危険なことをするんだから、それに見合う金額が欲しいと言うのはしかたがない。

でもこの中で「いちりょう!」とはっきり手を挙げる鉄は、たまらなくカッコ良い。
そして「この小銭は小判より値打ちがあるぜ」と言う主水も、たまらなくカッコ良い。
もちろん、己代松も見せ場あり。

死ぬ危険を冒してまで、鉄の為に玄達にやられる。
虫が良いと言っていた己代松の協力に、鉄でさえ初めは目を丸くしている。
「右やられて今度は左でちょうどいいや!」って言って痛みに耐える己代松も、たまらなくカッコ良い。

玄達が仕置きされるシーンで、虎を演じる藤村さんの現役時代のフィルムが入る。
虎の元締めの仕置きが、太い棍棒で打つんですが、それは迫力があって当たり前。
藤村さんをキャスティングするって、すごい考えたなあ。

死神がいるから主水はやらなくて良いと言う鉄もまた、主水を思っている。
己代松にやらなくて良いと言うのも、己代松を思っているから。
それを拒絶する己代松を見た鉄の、しみじみとした笑み。
この時から鉄は、主水と己代松のためには死ぬつもりでいたのだと思います。

だけど仕置の後には、ニヤニヤしちゃう。
すると主水「おめえの為だけにやったんじゃねえや」。
己代松「そうだよ」。
みんな素直じゃないねえ。

仕置きのシーンの鉄はもう、ホラー。
お梶じゃなくても、夜道で会ったら腰抜かしそう。
これは、凶悪な面相です。
肩袖脱いで見えている、赤の襦袢が不吉なほど鮮やか。

光と影の使い方、本当にうまい。
まるで子猫をつかむような、お梶の捕まえ方が鉄の圧倒的な力を感じさせます。
死神に言われていた「寅の会を騙したら…」が、現実にやってきたことに恐怖するお梶。

3話っておもしろいけど、考えたら子供は殺されるわ。
悪女とはいえ、お腹に子供がいるお梶は仕置されるわ。
今じゃ絶対、作らない話なんですね。

百発百中の己代松が、怪我のために仕損じる。
彼の技は、しくじると後がない。
やられる。

ここでカキーンという音。
姿を現す主水。
こんなにもカッコ良い主水。

小銭が小判より価値があると言った主水。
なのに小銭をせびるラストの主水。
この対比も、すごく良いんですね。
大好きなエピソードです。


八丁の、堀に中村主水かな 「新・必殺仕置人」第1話

のさばる悪を何とする
天の裁きは待ってはおれぬ
この世の正義もあてにはならぬ
闇に裁いて仕置する
南無阿弥陀仏


「新・必殺仕置人」第1話。
前にも書きましたが、再見してみました。
やっぱりすごく、良くできてるんですよね。

みんな、若い。
若くて、ギラギラしている。
でも山崎努さんは、藤田さん、中村嘉津(草冠)雄さんは、ギラギラの中に、落ち着いた渋さが出て来ている。
若さと渋さの間の、ちょうどいいバランスの時期の作品じゃないでしょうか。

鮮やかな青い羽織を着たものが10名ほど、その座敷には座っていた。
両側に3人ずつ。
正面に2人、羽織を着ていない男がいる。

向かって右側に、いやに貫録と迫力を感じさせる老人がいる。
その横にいる男と、その男の奥にこちらには横顔を見せて座っている男が一人。
坊主頭の男が、つるん、と頭を撫でている。

彼らと向かい側、こちらから見ると背中しか見えないが羽織を着た男が2人。
左側の男に向かって、羽織を着た男が近づく。
すると、左側の男が口を開いた。

「それでは挙句を頂戴いたしまして、本日の興行を終わりたいと存じます」。
右側に座っている、老人。
彼が元締め、寅だ。

寅が筆を執り、すらすらと句を書く。
出席者に緊張が走る。
皆が正面を向いている中、坊主頭の男は斜め上を見ている。

いかにも「早くしろ」と言わんばかりの顔。
念仏の鉄。
江戸から脱出したはずの仕置人、念仏の鉄だ。
句が読み上げられる。

「八丁の~」。
「堀に中村、主水かな」。
鉄が顔を上げた。
きょとんとした顔をしている。

「八丁の、堀に中村主水かな」。
鉄が眉をひそめる。
何か思案している。

寅は無表情だ。
建物の表には「月例俳諧興行虎拾番会」とある。
戸が、すっと締められる。
野次馬が中をのぞきこもうと、首を伸ばしている。

「虎、万筆」。
奥から横顔だけ見せていた男が、前に進み出て来る。
死神。
寅の用心棒の、得体のしれない男だ。

「150両」という声がかかる。
「140両」。
135、130。
125、120、110。

「80」という声がかかる。
「ございませんか」。
「ございませんね」。
「よろしゅうございますね」。

寅が言う。
「ではこの命、80両で落札」。
「八丁堀、中村主水…」。
鉄がつぶやく。

町奉行所の前に、正八と言う若い男がいる。
正八は表で、鋳掛をやっている男に近づいた。
鋳掛屋は、己代松。

「出てきたよ」と、正八が言う。
「あれか」。
「あれだ」。

「おはようございます」。
挨拶した同心が、中村主水だ。
ちょろちょろと歩く。


奉行所の中から、与力の筑波が現れる。
「これより、市中見回りに出かけます」。
主水が筑波にそう言う。

「例の庄兵衛衛の一軒でございますが」。
「何かわかったか」。
「それが」。

「気にするな。そうだ中村。おぬし、なかなか評判がいいぞ」。
誉められて主水は、うれしそうになった。
「わしも鼻が高い」。

「このうえは筑波様の期待に応えるためにも…」。
主水は、情熱をもやすのだった
そして、主水は市中見回りに出かけた。
おていというすりが、己代松と目配せしている。

「ご苦労様です」と町の者が声をかける。
「うん」。
主水が行くと、さきほどのおていがやってきた。
指をなめ、いそいそと歩くおていに、主水が目を留めた。

おていは正八とすれ違いざま、見事に財布をすった。
すると同時に、おていは足早にかけ去る。
「おい!」
主水が追って来る。

正八に「おめえ!財布やられたぞ!」と叫ぶ。
「ええっ!」
主水は正八の手を引きながら、おていを追って来る。

おていの姿は、絵草紙屋の前で消えた。
主水が入って来る。
女ものの、下駄がある。

主水は座敷に進むと、用心深くふすまに手をかけ、開けた。
押入れの奥には、階段があった。
地下室がある。
主水が降りて来る。

階段の下にはおていと、己代松がいる。
たくさん、下がっている浮世絵をかき分け、主水が進む。
浮世絵が動き、両手で絵をかきわけて男が現れた。

坊主頭の男。
念仏の鉄。
鉄は主水をいたずらっ子のような目で見た

「しばらくだったな、八丁堀」。
にやりと笑った。
主水は視線を落とした。

「まだ生きてたのか」。
「裏の家業は続けてんのか」。
「うん」。

「おめえには会わなかったことにするぜ」。
主水は踵を返すと、その先の視線には己代松とおていがいた。
「ああ、いいんだいいんだ。俺の仲間だ」。

「ちょっとわけがあってな、おめえをここまで連れて来てもらったんだ」。
主水が鉄を見る
そして、目を伏せる。
「仲間、か」。

唇をなめる。
指を顔の前で振ると主水は「俺は、仕事はしねえぞ」と言った。
「おいおい、そうすんなり出てってもらっちゃ困るんだよ」。
「上にも仲間がいるぞ」。

絵草紙屋の店番をしているのは、先ほどの正八だった。
客が帰り、ちらりと正八がこちらを見た。
階段の上から、主水がそれを見ている。
鉄が階段の下に座る。

「イイか。驚くなよ」。
頭を掻き、仰向けに横たわる。
「昨日な。おめえの命がよ。80両で売れたんだよ」。
「なんだっておい?!」

「寅って男がいる。素性も何にもわからねえが、こいつが頼み人を見つけると、裏稼業の人間が集まってセリにかける」。
「最近はそういう仕掛けになってんだ」。
へへへっと主水は笑った
「からかっちゃいけねえぞ」。

鉄は起き上がった
「冗談で、こんな真似ができるかい」。
鉄は頭を掻きながら起き上がる。
「来いよ!」

手招きをして、階段の下の地下室に主水を呼ぶ。
主水の耳元に口を寄せると、鉄はささやく
「おめえに知らせたと寅にわかりゃ、俺たちだってただじゃすまねえんだ」。

「昔馴染みに狙われてることを教えてやろうと、連中に頼んでおめえをここまで連れて来てもらったんだ」。
「俺を狙ってるのはどんな野郎だ」。
「わかんねえ」。

「競り落とした野郎の顔を見たはずだぞ」。
「面ぁ見たってどこの誰だかわからねえ」。
「第一、セリに出て来るのは一人だけっだ」。

「他のことまでわかりゃしねえ」。
おていが言った
「ま、逃げるんだね」。
「それしかないよ」。

己代松も言う。
「一人や二人、叩き殺したところでまたやってくる」。
「いったん、セリに落ちた上は頼み人が死ぬか、取り下げない限り、終わりにやならねえんだよ」。

主水は目を閉じた。
「心当たりねえのか?金摘んでまでおめえを殺してえと、死ぬほど憎んでる奴がいるはずだ」。
主水が探るような目をする。

しかし主水は首を振った。
「いやあ、まるで見当がつかねえな」。
その頃、料理屋の一室に、筑波が女といた。

筑波は言う。
「すべて手は打ってある。中村主水は間もなく死ぬ」。
「約束は果たしたことになる。うれしくはないのか」。
だが、そのお兼という美しい女は無表情だった。

鉄は、主水に言う。
「牢屋同心が定町周りとは、えれえ出世じゃねえか」。
「とんだ、怪我の功名でな」。
「あらあ、めっぽう風の強い晩だった」。

「俺はちょうどその日、泊まり番でな」。
伝馬町の老屋敷。
風の音で雨戸がうるさくて、主水は寝付けなかった。
それでもいつか、ことりと眠りに落ちたらしい。

眠っている主水のの背後で、置いてある刀が持ち上げられた。
誰かが刀を持って、引き込んでいく。
「誰だ」。

主水が気配で目を覚まし、振り向く。
囚人服の男が襲い掛かって来る。
「庄兵衛!」
2人は、もみ合いになる。

「うわああああ」。
庄兵衛は謝って、自分で自分を刺してしまった。
この男は矢切の庄兵衛といって、与力の筑波がお縄にした悪党だった。
島送りになるはずだった。

牢破りを未然に防いだということで、主水は筑波に目をかけられた。
「それで定町周りにご出世か。めでてえ話だ」。
鉄の口調は、皮肉に満ちていた。

主水は黙っていた。
「何考えてんだ」。
鉄は豆を食べていた。

主水が鉄の隣に座る。
「俺は昔な、赤井剣之介って男と組んで、仕事をしていた…」。
「どうしたんだ、その男は」。

主水は答えなかった。
「死んだのか」。
主水はすぐには答えられなかった。

「うん」。
そう言うと、子供のようにうなづいた。
主水は刀を持ち、顎を乗せていた。

脳裏をよぎる剣之介の、無残な最期。
「俺は剣之介のことを忘れていた」。
「剣之介だけじゃねえ」。

「野垂れ死にしてった昔の仲間を」。
「俺の手にかけて死んでった連中のことも」。
「俺はみんな忘れてた」。
主水の声が、悲壮さを増して行く。

「この稼業にいったん手を染めたら、幸せなんてものはつかめっこねえ」。
ぎゅっと、主水の手に力がこもる。
「来るなら来てみやがれ、たたっ殺してやる!」

主水が立ち上がった。
「ま、俺が生き延びられていたら、そのときゃまた仲間に入れてもらうぜ」。
鉄の肩をポンと叩いて、主水は出て行く。
「気をつけろよ」。

鉄は豆を食べ続ける。
足元には、たくさんの豆の皮があった。
その中からまだ、豆が入っているものを拾い、ふっ、ふっと息を吹きかける。
豆を拾い、鉄は食べる。

「ただいま帰りました」。
「おかえりなさいませ、婿殿」。
「あなた、これを見てくださいな」。

せんとりつの機嫌が良い。
「これはまた豪勢な、鯛の活造りですな」。
主水が万引きを捕まえた大店から届けられたのだ。

今度は、着物が欲しいとねだるせんとりつ。
だが主水は、そんなことはできないと言ってしまう。
途端に、せんとりつは機嫌を損ねてしまった。

わんわんわんと声がする。
主水は台所に降りると、戸を開けた。
犬が入って来る。

主水は鯛を手に、犬にやる。
「どうだあ、うまいか」。
奥に引き込もうとすると、犬の悲鳴が響いた。
犬はだらりと舌を出し、絶命していた。

主水は犬の喉に手をやると、鯛の皿を見る。
犬を抱いて、戸の外に出て行く。
キャンキャンキャンと子犬が鳴きながら走ってきた。

落ちている鯛の皿に近寄った子犬を主水は「食うな、食っちゃいかんぞお」と止めた。
そして、動かない母犬を撫でる。
クンクンと鳴いている子犬を抱く。
自分の身代わりだ…。


前半の鉄と主水の再会。
鉄のキャラクターは前のまま、しかし年月が経っていることが伺える。
主水にもいろんなことがあった。

「仕業人」で剣之介とお歌の仇を討って、去って行った主水。
主水は、剣之介の無残な最期に自分を重ねて見ていた。
このまま続けていたら、同じような、いや、もっと悲惨な最期が待っている。
それを、主水は思い知った。

主水が斬った相手は、剣之介とお歌の仇であり、自分たちを追及して来る男であった。
しかし、個人的に恨みがあったわけではない。
殺しの依頼があったわけではない。
だが、2人は殺し合わなければ収まらなかった。

それは殺し屋と、それを探って来るもの。
仲間の仇と、義理の親の仇同士であること。
そのほかに、武士の意地。
死に場所を求めている男を、斬ってやることでもあった。

この時、主水はこの稼業には割り切れないものが付きまとってしまうことも思い知った。
自分が居場所をつかんだと思った、この世界。
そんなものは、どこにもなかった。
絶望した主水は、自分を慕う捨三も顧みなかった。

そうして主水は、自分が捨てたはずの同心の日常に戻って行ったのだ。
牢見回りから、定町まわりに復帰して、すっかり主水は普通の同心になっていた。
そこに、闇の世界はとんでもない形で主水に手を伸ばしてきた。

忘れていた。
そうだ、自分に普通の幸せなんてありっこないんだ。
またしても、思い知らされた主水。

しかし、そんな主水の悲しみと諦めは、上役の陰謀が発覚すると吹き飛んでしまう。
主水は自分を見る筑波の目を手で遮り、嫌そうに目をそむける。
そして、宣言。
「私はこれから徹頭徹尾、手抜きで行きます!」

主水の、表の世界との決別宣言。
「仕事なんか、しやしません」。
…言ってみたいですねー。
「薄ボンヤリの、昼行灯で結構です」。

主水はお兼の下駄の鼻緒の側で、筑波の背中を撫でた。
ものすごい形相で振り返った筑波が、お兼の下駄を振り払う。
下駄が飛んでいく。

「あ、また放っちまったんですか。言ったでしょう、さっきも。大事にしてくださいよ」。
主水は再び、下駄を拾いに行った。
ここの軽快さが、主水の爆発の期待へつながる演出。

主水が下駄を揃えた時、振り向いた筑波が刀を抜いて斬りかかって来た。
筑波の刃から身を交わすと、主水が真横に刀を振る。
筑波を斬る。

その圧倒的な剣技。
中村主水だ。
裏稼業に完全に戻った、中村主水だ。
座り込んだ筑波を、真正面から真上から斬る。

筑波に騙され、愛する男を殺した男の妾にされ、大金を取られたお兼。
この恨み、誰も晴らせない。
そういう者のために、自分はあるのだ。
このために裏稼業は、自分を再び追ってきたのだ。

覚悟を決め、自分の運命を知った主水のすごみ。
庄兵衛の金に、沸き立つおてい、正八、己代松。
主水の顔に、怒りが広がって行く。

このために。
こんなもののために!
鉄だけが、そんな主水の表情に気付いている。

一つだけの残った金の入ったカメを、だから鉄も放り投げる。
「おうよ」。
そう言いながら、手に一枚小判を握っているところが、鉄。
鋭くそれを見つけて、抑えるところが主水。

冷静になった己代松が、そうかもしれねえや。俺みてえに生まれた時から運のない奴は、ほどほどが一番だ」と言う。
次回はこの己代松が、どうしてそんなことを言うのかがわかる話。
あれほどの大金を水に沈めた主水が、筑波の葬儀の香典をくすねる。

ここが中村主水。
だから中村主水。
そして寅の会で、頼み人が死亡したために主水の一件が取り下げられたのをしらっと聞いている鉄。
この2人、本当に良いコンビ。

濃密な展開がこの後の回も続きます。
2話の己代松の生い立ちも泣かせます。
自分が好きなのは、3話ですが。

己代松のピンチに、控えていた主水。
もう、カッコよすぎです。
主水にも己代松にも礼を言う鉄。

ニヤニヤする鉄に「そうだよぅ!」と言う己代松。
己代松は鉄のために、あばら折っててそれで仕事をしくじったんですけどね。
この辺り、何ていうか、ものすごいカッコいいアウトローを描いていると思います。
演出に加えて、俳優の個性がそれを支えている。

だから必殺って、根強くファンがいるんでしょうね。
表に死神がいるのを見た鉄が、主水が見つからないように気を遣う。
この後、ちゃっかり袖の下をくれない商人に「ちゃんと金は戻ってきてるな?」と何度も念を押してしまう。

気付いた旦那が、金を包んで主水に渡す。
渋い顔でみっともねえから、何度も言わすなと言いながら受け取る主水。
あんなにカッコいい主水が。
このギャップの自然さが、中村主水の魅力なんですよねえ。

さて、筑波の葬儀。
自分が斬った男に神妙な顔で、手を合わせる主水。
筑波の陰謀も、悪事も、主水しか知らない…。
…うーん、やっぱりこれ、見始めると止まらないおもしろさです。


「今度の仕事は煙詰めだ」 新・必殺仕置人 第5話

少し前になりますが、将棋にすごく注目が集まりましたね。
必殺には、将棋を扱ったお話がいくつかあります。
それも印象に残る話でした。

「新・必殺仕置人」第5話、「王手無用」。

正八の絵草子屋に、三番町の疋田兵庫という旗本がやってくる。
将棋の本を真剣に立ち読みしていたので、正八はいくつか将棋の本を紹介する。
すると疋田は本を持って、後で代金は取りに来るように命じた。

「困ります、うちは現金商売なんですよ」と言う正八だが、兵庫は自分を信用しないのかと言い、ついには旗本を愚弄するかと脅して、2朱の支払いをせずに戻ってしまった。
正八ともめている時、おていが兵庫にぶつかった。
見事、財布をすったおていに、自分は代金だけもらえればいいと飛びついた正八だったが、おていいわく、「大げさな財布」の割りには中身は代金にも満たなかった。

屋敷に戻った兵庫の元に、女の将棋士・初津が訪ねてきた。
「来たか!」と喜ぶ疋田は、同じ旗本の小出と横地、神尾も呼べと言う。
日も落ちて、疋田は女将棋士の初津と将棋を打っていたが、負けてしまう。
「詰みでございます」と言われ、「もう一番!」と言うが、「無駄でございます」と言われてしまう。

「大駒を落とせばまだしも、平手ではとても将棋にはなりませぬ。今夜はこれにて失礼します」と言う初津。
兵庫は「聞こえんのか!もう一番、させと申しておる!」と食い下がる。
自分の駒を片付け始めてしまった初津に兵庫は逆上し、初津を刺してしまった。
悲鳴をあげる初津を、旗本たちは次々刺す。

翌朝、河原に初津の死体があがった。
「相当やられている、これはかなりの恨みだな」と、主水は見た。
ふと見ると、初津は何か握っている。

手を開いてみると、将棋の駒をにぎりしめていた。
「将棋との駒と女か。こりゃまた妙な取り合わせだ」と主水は言った。
女の素性さえあがれば、後は居眠りしてても犯人はあがると見た主水だが、女の遺体を確認しに来て、「初津!」と駆け寄った男に、大きな態度で出てしまった。

だがそれは将軍にも将棋の指南をする伊藤宗看(棋士4段・伊藤果)だった。
主水は上司から怒られ、必ず下手人をあげるように言い渡された。
殺された初津は、正式な一門ではないが、宗看の弟子だったのだ。

寅の会。
三番町の疋田兵庫の仕置きが、かけられた。
他の3人も付け加えられた。

「旗本か…」。
「付け句が3人もあったんじゃねえ…」と仕置人たちが渋る中、鉄は「おもしろそうじゃありませんか。やりがいがある」と意欲を示した。
その結果、鉄が40両で落札してきた。

しかし主水は、奉行所の表の仕事で兵庫を追いかけている。
それを知っている鉄は、今度の仕事は主水を外す、と言った。
主水は、表の仕事で手柄を立てる必要がある。

だから、裏の仕事より表の仕事を優先するだろう。
主水が兵庫たちを捕縛してしまうと、仕事がフイになるからだ。
そのため、今度は主水を出し抜く、と鉄は言った。
主水が怒るぞ、と言う己代松に鉄は「あのやろうが2足の草鞋を履く以上、これからも起こることだ」と言った。

正八は絵草子の恨みもあって、兵庫はとんでもなく悪い奴だと報告した。
兵庫たちの一派はとにかく評判の悪い乱暴者で、岡場所でもしたい放題だった。
彼らの狼藉に女郎たちが逃げ惑う中、1人ずつ、順番にやっつける、と鉄は言った。

一方、岡っ引きの銀次の的確な捜査支持にも関わらず、主水の捜査は難航した。
主水の仕事の重要さは中村家にも伝わり、出世への道と勘違いしたせんとりつの主水への態度が変わった。
ますますプレッシャーを感じる主水だった。

岡場所で朝帰りする兵庫たちを見た己代松は、鍋を叩いて中にいる鉄に合図する。
朝湯の為、銭湯に寄り、湯船の中で大きな態度をしている神尾に鉄が近づく。
「だんな、夕べはだいぶお楽しみで?だいぶ凝ってますよ、この辺りが」。

神尾、ご機嫌で鉄に背中を触らせていた。
背中を指でたどった鉄の指に、グッと力が入る。
鉄は、湯船の中、背骨を外した。
湯船の中に、神尾が沈んでいく。

一方、主水は宗看の屋敷に行く。
初津の殺された当日の行動がつかめないため、宗看の弟子に質問した主水だが、これと言った情報は得られなかった。
そして主水は宗看の奥の座敷に、虎がいるのを見た。

主水は鉄の家に行く。
宗看の屋敷に虎がいたことで、鉄を問い詰めた。
寝っ転がって煙管をふかしていた鉄は、主水に喉を締め上げられる。

鉄は、虎がどんな暮らしをしているかは死神しか知らないと言う。
「それを探ろうとして、殺された奴はいるがな」。
喉を締め上げられた鉄は咳き込みながら、「なあ、八丁堀、おめえ早くこの一件から足抜け!奉行所の手柄なんかいつだって…」と言う。

「…俺、外しやがったな」。
「ああ、外した」と鉄が答える。
「なぜだ。なぜ外した」。
「それを話したら掟破りだ。おめえも俺も殺されるぜ」。

鉄がそう答えた途端、患者がやってきた。
主水はこっそり、鉄の家を出て行く。
鉄もこっそり、出て行く主水をうかがっていた。

湯屋で、神尾が背骨を折られて死んでいた。
そのことを兵庫たちに教えた小普請組の老人は、兵庫たちを叱咤した。
悪い行いが重なれば、いずれこういうことになると言ったはずだ。
目付けも動いているし、これ以上、かばえない。

身を慎み、当分の間、自宅にて謹慎しろと言い渡す。
叱られた兵庫たちは、今度は町の飯屋で酒を飲み、荒れていた。
周りの客も、店の娘も怖ろしそうに遠ざかっていた。

その中に、鉄と己代松がいた。
刀を抜いた兵庫に、中にいた者は逃げ惑う。
兵庫は「こら、坊主!」と鉄に目をつけて、刀を向けた。

危険を感じて、パッと壁際まで下がる鉄と己代松。
みなが怯えるのを見て、満足した兵庫は刀を収めてまた飲み始めた。
飯屋の裏に来た己代松は、2間の距離を測って目印をつけていた。

そこに兵庫の仲間の小出が、路地裏に用足しに来た。
上から、己代松が狙いをつける。
己代松は、屋根の上から小出を撃った。
発射音に驚いた飯屋の者たちと、兵庫と横地が出てくる。

路地裏では、小出が倒れている。
「小出!相手は誰だ!」と、兵庫は倒れている小出をゆする。
反応しない小出を見た兵庫は、「医者呼んだか?医者呼べ!」と叫ぶ。
怖ろしそうに立ち尽くす横地の背後に、今度は鉄が近づく。

野次馬の中、鉄は誰にも気づかれないよう、すばやく横地の背骨を外す。
声もなく、横地は目を剥いた。
「ちくしょう、小出もやられたぞ」と言った兵庫の背中に、横地が倒れ掛かる。
「横地!?」

横地も死んでいることを知った兵庫は恐怖に駆られ、「どけ!」と野次馬をかきわけて逃げ帰った。
走っていく兵庫を、死神が見ていた。
主水は初津が握っていた将棋の駒の持ち主を、調べていた。
その中に、疋田兵庫の名があった。

主水が調べている最中、捕り方たちが飛んでいく。
「何だ?」と外に出た主水は、旗本が2人殺されたと聞かされる。
現場に行った主水は、「えらい騒ぎですな。鉄砲でやられましたか」と言う。

すると、上司は「鉄砲じゃない!」と言う。
「は?」
「竹だ!」

「竹?」
「ああ、そうだ。竹鉄砲だ」。
「竹鉄砲…」。

正八の地下室では、「今夜は表歩けないよ、捕り方だらけだ」と正八が言っていた。
表では、捕り方たちが走り回っている。
町方は、きりきり舞いだと鉄は笑う。

己代松は、主水は手柄をほしがっていると言った。
いざとなったら、自分たちを売るかもしれない。
すると、鉄は言う。

「奴が売ったら俺が殺す」。
「それだけのことだ」。
解散して帰ろうとした時、誰かが階段を下りてくる。

思わず鉄と己代松が隠れる。
頭を隠していた鉄の背中を「おい」と言って、蹴飛ばしたのは主水だった。
「お、おうっ、しばらくだったな」。
「そんなに俺のツラ、見たくねえか」。

「え!」
「いや~、びっくりした~」。
「全然わかんなかった。ごめん」。

鉄はそう言って、壁際のイスに座った。
笑う鉄をよそに、次に主水は鉄の横にしゃがんでいた正八を「正八!」と言って引っ張り出した。
鉄と正八と鉄を並んで座らせると、主水は鉄の前に顔を突き出しながら、「おめえら、ずいぶん派手にやってくれたな」と言った。

「え?やってくれたって何を?」と鉄はとぼける。
正八と顔を見合わせる鉄。
今度は主水は階段の裏に隠れていた己代松を「松!」と言って、引っ張り出した。

主水は「残るのはただ1人、三番町の疋田兵庫か」と聞いた。
「追いかけていたのは同じ男とは、皮肉なもんだ」。
すると己代松は、「捕まえたらどうだ」と言った。

だが相手が旗本では、町方には手が出ないのだ。
上手く行ったとしても、初津は無礼討ちということになれば、大した罪にもならない。
将棋処の宗看もそれがわかっていた。
だから、寅のところに依頼したんだろう。

それを聞いた鉄がつぶやく。
「将棋どころ?」
主水は言う。

「伊藤宗看ってのは、ただもんじゃねえぞ。町のもんが言ってるだろう、あいつは鬼だ、鬼宗看だって」。
主水は、「ほい」と鉄の前に手を出す。
「分け前いくらだ」と聞く主水に、「…金は、…ない」と鉄がボソッと答える。

「ねえ?」
「ねえ」。
鉄がボソッと「前金、みんなで分けちまった」と言う。

「そうか、それじゃしょうがねえなあ」と手を引っ込めた主水だが、正八を引きずり出し、放り投げる。
「行って来い、てめえら!疋田の屋敷へ!屋敷の周りは町方のもんがうろうろしてるぞ」。
「町方?!」

正八も鉄も己代松も、一気に起き上がる。
「何だ、おめえら、何にも知らねえのか」。
当分の間、兵庫の屋敷は町方が守ることになった。
それを聞いた鉄は、頭を抱えてしまった。

翌日、主水たちが守る兵庫の屋敷に、本屋の掛け取りだと言って正八がやってきた。
屋敷に入る正八に、主水は足をかけ、正八は派手に転んだ。
主水の横で起き上がりながら、正八は「あのね、あれからみんな気にしてね」とささやく。

「やっぱり旦那外すのはまずいんじゃないかって」。
「分け前のことはさ、鉄つぁん、後で考えてるっていうからさ。頼むよぉ」。
それを聞いて主水は、「おい、通してやれ」と言い、下っ引きたちは正八に道を空けてやった。

詰め将棋をしている兵庫は正八をじろりと見ると、代金を廊下に放り投げた。
正八は「ありがとうございます」と、小銭を拾いながら言う。
そして、自分のところは、麻布の将棋どころにも本を納めていると話し出した。
宗看先生とも顔なじみにしてもらっている。

そう言って、正八は一枚の紙を取り出した。
「今度作った奇想天外の煙詰め」。
「ご存知ですか?盤の上の将棋の駒が一手進むごとに、煙のように消えていく奇想天外煙詰め」。

正八は兵庫に紙を見せると「どう?旦那さんだったらこんなの、すらすらと?」と聞いた。
だが兵庫はもう、正八の言葉を聞いていなかった。
煙詰めに夢中になった兵庫は、夜も将棋盤と向かい合い、他のことは何も気に留めずひたすら考え込んでいた。

おていは正八の家で、「ほんとに来るのお?」と言っていた。
「来るよ、絶対来るよ」。
鉄は「バカに自信があるな」と言った。

正八は「うん。あのね。将棋狂いってのはそういうもんなの。詰め将棋が解けないとさ、二晩でも三晩でも眠れないの」。
「解けるまで気が休まんないの。だから絶対来る」と答えた。
その時、誰かが来た。
兵庫だ!

しかし、店にいる正八の正面に現れたのは、死神だった。
思わず正八は顔を伏せ、後ろにいた鉄に応対させる。
死神は「今夜中にカタをつけてもらう。虎がそう言っている」と告げて戻った。

おていは「あたし、帰る。死神に殺されるの、嫌だもん」と言った。
「待て!」
その時、駆け足の音が響いた。
あわてておていと鉄が隠れると、戸が開いて、兵庫が顔を出した。

「この図に間違いがないか」。
聞いた兵庫は、正八が「間違いなんかございません」と答えると、「どうしても解けん」と紙を出した。
情けない顔をして、紙を正八の目の前に広げると、「答えを言え」と言う。

「答えを言え!」
「これは答えがないんです」。
「ない?ないはずはない!答えを言え!」
兵庫は、正八の胸倉をつかんだ。

「ないものはないんです」。
「ある!ある!」
「言え!言ってくれ。答えを教えてくれ、これ、このとおりだ」。

兵庫は泣きそうになりながら、頭を下げて哀願し始めた。
「宗看先生が近所までお稽古に来ているので、宗看先生が答えを教えてくださいます」。
その言葉に興奮した兵庫は、「どこだ!どこだ!案内せい!」と迫る。

正八は、兵庫を荒れ寺に連れて行った。
荒れ寺を前に兵庫は「おい、どこへ行く!」といぶかしんだ。
だが、寺の中で宗看が将棋盤を前にしているのを見る。
将棋を打つ音がする。

「疋田兵庫どのか」。
聞かれた兵庫は、「…はい」と言って座る。
「煙詰め!」

兵庫は、身を乗り出して息を呑み、盤を見つめる。
駒が、次々消えていく。
『この煙詰めは、宝暦5年、宗看の弟に看寿より完成されたが、幕府はそのあまりの精妙さに恐怖を抱き、看寿に閉門を言いつけたという。
人間の知恵の限界に挑んだ煙詰めは、その後2百年の長きにおいて、一人としてこれを作りうるものがいなかった』。

宗看と兵庫のいる、その影で鉄がバキバキと指を鳴らす。
障子に己代松の影が映り、己代松がそっと障子を開けて中を見る。
鉄の指が鳴る。

次々消えていく盤の上の駒。
最後の4駒。
3駒。
紙と見比べる兵庫。

最後の2つになった時、宗看が「このぎょくは、あなたの命だ」と言って立ち上がる。
夢から覚めたように兵庫は「何?」とボンヤリして言った。
宗看が出て行く。
その後姿に兵庫が、「先生、今一度!今一度だけ!」と声をかける。

宗看が去った後、兵庫は将棋盤の前に座り始める。
駒を並べた時、ハッと気配に気づく。
「何奴だ!」
2本の指を立てた鉄が迫っていく。

「何奴だ!」
兵庫は斬りかかるが、鉄は押さえつけ、障子の前に連れて行く。
主水の影が映る。
「疋田さん、あんたを守るのが私の役目だ。だがちょっとあんたは、やりすぎたみたいだな。…死んでもらうぜ」。

その言葉が終わると、障子から刀が突き出され、兵庫に刺さる。
鉄が手を離す。
主水が顔を出す。
障子が閉まる。

翌朝、屋敷の中では、兵庫の切腹している姿が発見された。
「さすが直参の旗本。立派な最期だ」という声がする。
「腹を切ったか」と主水の上司が言う。
主水が「もはや逃れぬものと覚悟したようで」と答える。

「女将棋さしを殺したのもこの男か」。
「はっ、確かな証拠がございます、間違いございません」。
「そうか、貴様も一つ手柄を落としたな」。

「ツイてない時は何やってもダメですね」。
「まだ旗本殺しが未解決だ!今度はそっちに全力を尽くせ!」と言って上司は出て行く。
「はい」と返事をした主水の後ろで、旗本たちが囁く。

「死んでよかったな」。
「俺も疋田さんが死んでくれて、ホッとしたよ」。
「そうでなくとも旗本の評判が悪かったからな」。
「これでよかったんだ…、これで」。

鉄と鍋を突付きながら、主水が聞く。
「あの初津ってのは、宗看の一体、何だったんだ」。
「旦那もにぶいね、たかが女弟子にあんな高い銭使うかよ」。
「そうか、それじゃおめえ、あれは宗看のこれだったのか」と主水が小指を立てる。

「だから寅に頼んだのよ、50両の大枚を使ってな」。
「なるほど」と納得した主水だが、「おい、後金はちゃんと出たんだろうな」と聞く。
「出た」と鉄が言う。
「一人頭10両だったな」と言う主水に鉄は、「お前5両だ」と言う。

「ええ!」
「今度の仕事は煙詰めだ」。
「1人ずつ順繰りに消してって、おまえさんがやったのは最後の詰めだけだ。5両でも多すぎるくれえだ」。
鉄は紙に包んだ5両を置く。

それを取りながら、主水は「こりゃねえだろ、おい」と抗議した。
しかし鉄は「これはねえだろって、おい、おめえ、障子の間から、おまえは刀突き出しただけじゃねえか!」
「あんなもんはバカでもできる!」と小声だが強い口調で言った。

後ろの客と従業員をチラッと気にした主水に、鉄は立ち上がると、「どうもごちそうさん、うまかったあ、今日のふぐ!」と言った。
さっさと下りていくと、「勘定頼むぜ」と言って出て行く。
残された主水は「ちくしょう」とつぶやき、鍋をつつく。

「なんだこりゃあ」。
主水は、菜っ葉をつまみあげる。
「あの野郎、菜っ葉だけ残してきやがった!
「…やっぱ、あんこうにするんだったな」と、ぼやく。


4話が軽快に見せながらも、平家の末裔、血筋を守る村、代々続く人身売買…というものすごく重い話。
今回は、仕置人たちのやりとりがとことんおもしろい「王手無用」。
この緩急のつけ方、当時のスタッフさん、見事です。

悪役も最高!
菅貫太郎さんって、ほんと、バカ殿とか、バカ旗本演じたら世界で一番。
誉め言葉ですよ、もう、最高。
目が狂ってるんです、目が!

何もそこまでしなくても、って程の斬り殺し方。
無役の旗本のうっぷんを、これで晴らしてるんじゃないのってぐらいの斬り殺し方。
居酒屋で旗本同士で話してる時、「先祖伝来の借金を抱えて、たったの5百石だ。お役目一つ頂戴するわけじゃない」って言ってます。

おていが冒頭で兵庫からすった財布も、中身なかった。
初津が来た時、酒持って来いって言うと、屋敷の小間使いのおじいさんに「伊勢屋はダメだ、あそこはもう3年も払ってないから貸してくれない」と言われる。
居酒屋で兵庫は、「武士の魂をどうしてくれるか~!」と言って、刀を抜いてる。

徳田新之助と違って、本当の貧乏旗本なんだ!
あんな風に優雅じゃない、これが本当の貧乏旗本の姿なんだ?!
それで、すごく荒れてるわけです。

すごい迷惑なんだけど、どこか憎めない。
何かコミカル。
「仕事屋稼業」では、菅貫太郎さんは2回出演。

1回目では、許婚と間もなく結婚するっていうジュディ・オングを連れ込み、引っぱたいて手篭めにする。
そこを奥方に見つかっても、俺悪くないも~ん、女が悪いんだも~んって感じの最低ぶりでした。
さらに世継ぎができたと言って子供を奪い取るわ、だんなさんを殺すわ…。

ほんとに本領発揮してました。
まだまだ素人っぽい仕事屋・政吉を馬に乗って追い、鞭をふるって、最後は半兵衛にやられる。
完璧!なバカ殿でした。

2回目は、悪女に道を狂わされて使い捨てにされる、博打打ち。
潜入した半兵衛に、かつての自分を見る。
同じように狂わされると思った半兵衛を嫉妬の余り殺すかに見えたが、逃げてくれと訴える。

自分のようになるな、と。
それでも自分はもう抜けられないと言い、最後は悪女の策謀によって用済みと殺される。
とても哀しく切ない悪党だった。

「仕業人」では、市原悦子さんにたかって生きているしょうがないヒモ。
でしたが、根っからの悪党にはバッサリやられる。
市原さんが悲鳴をあげて、そして主水に仕事を依頼する。

どこかいいとこがあったんだろうな、と思わせる調子のいい小悪党ぶりが哀しかった。
仕業人たちにも「どこか憎めない奴だった」と言われる。
今回は鉄を見て「何奴!」と怯えるところが、「仕置人」1話で鉄に仕置きされる奉行を思い出しました。

本当にうまい俳優さんです。
ああ、今、いらっしゃったら…。
つくづく、残念です。

さて、鉄と己代松、旗本2人を居酒屋の路地で殺した後、正八の地下室にいる。
それで、何してるかと言うと、絵草子を刷る道具使って、何か刷ってるんですね。
鉄の家にある衝立の文字みたいなの、作ってる。

それで、出来上がった紙を見せると、己代松が「ああ!」とその出来に声をあげる。
「どうだ正八、いいだろう!」と見せる鉄ちゃん。
でも正八は、「この商売甘く見ちゃいけないよ」と言って、破いちゃう。
ガッカリした2人。

鉄は「明日も仕事だ早く寝ましょう」と、何だか健全なこと言って解散。
…と思ったら主水が登場。
この時の鉄のとぼけっぷりが、ほんとにおかしい。

己代松が主水は自分たちを裏切るかもって言う。
まだ、イマイチ、主水に信用がないらしい。
鉄はさらっと、そしたら殺すだけって言う。
この辺りに、かえって妙な信頼関係を感じましたね。

そんな会話の後なのに、鉄ちゃん、怒りの主水から逃げ回る。
主水が、「松!」って呼ぶと一緒になって「松!」って呼んで怒ってる。
しかも、引っ張り出した己代松を主水の方に放り投げて。
調子いい。

ここで、怒ってる主水と対峙したくなくて、鉄は絵草子刷り始めるし、己代松は一緒になって手伝ってるし。
主水は主水で、正八に紙ぶつけて、正八が「あっ!もうヤ!」ってすねて壁際に引っ込んじゃう。
「分け前いくらだ」と聞く主水に、「…金は、…ない」って鉄が答えると、主水が正八を引きずり出し、放り投げる。

その時の体勢が座ってる己代松、己代松の膝に鉄、その鉄の背中に正八って…。
主水に「行って来い、てめえら!疋田の屋敷へ!屋敷の周りは町方のもんがうろうろしてるぞ」と言われて、「町方?!」って一気に跳ね起きる。
「行ってみろ、おっかねえぞ」って、主水もすねて、ふんぞり返ってる。
「行って来いよ、これからすぐ。銭もらっちまったんだろう、行って来いよ」。

困りきっちゃった鉄がキレてみんなに「行って来いよ!」。
「行って来いよばかやろう」って、正八に紙を投げつけちゃう。
正ちゃん、踏んだり蹴ったり。
さらに鼻をかんでいる己代松の頭をこずいて、「行って来いよ!」。

その後、正八が来て囁くけど、鉄も困っちゃったんでしょうね。
いや、主水って彼ら仕置人には仕置きを遂行する上で、ものすごく重要な存在です。
それを再確認。

兵庫の仕置きは、鉄との連携プレー。
これがまた、プロ同士、鮮やかな手口なんですね。
息もピッタリ、安定感。

だけど、最後は5両。
しかもその理由に、今度は主水がケチつけられないでお願い。
「仕置人」を思わせる、鉄と鍋をつつく主水。

ちゃっかりした鉄。
菜っ葉を前に後悔する主水。
…こんな、仲間とのやりとりする主水、「仕事人」の後の方ではなかなか見られませんよね。

やっぱり、鉄の存在は大きい。
鉄と主水の仲良しケンカも見応え、あり。
仕置きは主水が最後で、鉄と己代松が中盤という、ちょっと変則的な回。
それもまた、おもしろい、徹底した娯楽編と言える回では。

宗看先生は、本当の4段の伊藤果さんの出演。
詰将棋作家としても知られ、『詰め将棋の鬼』と呼ばれることもある方だそうです。
この煙詰めは、本当の話。

幕府はそのあまりの精妙さに恐怖を抱き、閉門を言いつけた…、って相当な戦略家と見られたんでしょうね。
その後2百年の長きにおいて、一人としてこれを作りうるものがいなかった。
ここもまた、すごい。

宗看先生は、主水の言うように、指し将棋、詰め将棋ともに優れ、「鬼宗看」と呼ばれたそうです。
御城将棋では、18勝6敗1持将棋と、圧倒的に強かったとか。
「象戯作物」(俗称:「将棋無双」)は、詰め将棋史上の傑作と言われているそうです。

残っている「中将棊作物」の中には2000手を超えると推定される図もあり、いまだ解かれていないものも多いとか。
江戸の将棋文化の、最大の謎の一つになっているんだそうです。
弟の看寿さんもすごかったらしいです。
「仕置人」世界もすごいけど、この事実もまた、すごい回です。