鉄 謎のファムファタール

「必殺」を代表するキャラクターの1人、念仏の鉄。
しかし鉄の過去話って、意外にもないんですね。
「仕置人」での、佐渡で兄弟分だった男との話はありますが。

ドラマの中で出た具体的な鉄の過去といえば、佐渡送りとなっていたこと。
佐渡で傷を負ったり、具合が悪くなった囚人たちを助けるため、独学で按摩の技を覚えたこと。
その佐渡で、主水と知り合ったこと。
立場は囚人と役人だったらしい。

なぜ僧侶だった鉄が佐渡に送られたかというと、檀家のお内儀と密通したから。
だがこれについて鉄は奉行所に捕らえられた時、「俺たちゃ、惚れあった仲だ」と猛抗議している。
さらには「密通のお咎め以外、相違ありません!」と言い放っている。

拷問されながらこれだけは、キッパリ言い切っている。
冷笑気味に「女は信用ならない」と言う鉄が、言い張っている。
よほどの仲だったらしい。
鉄のファムファタールと言って良い存在なのではないでしょうか。

しかし、これについての話はない。
すごいドラマがありそうだけど、ない。
肝心な話が謎だから、鉄の過去話がないというイメージになってるのかもしれない。
また、具体的にないから、良いのかもしれない。

鉄と惚れあった檀家のお内儀は、どうなったんでしょうね。
なかったように日常に戻っていったのか。
戻らざるを得なかったのか。
あるいは鉄よりももっと、手酷い破滅をしたのか。

「仕置人」では、鉄はかなりの教養を見せていた。
佐渡に送られたとはいえ、「仕置人」になるぐらいだから、家族はなかったように思います。
自分としては「暗闇仕留人」の大吉の過去が、鉄の過去に近いような気がしています。

大吉は幼くして孤児となって、親戚中をたらい回し。
食うには困らないということで、石屋に見習いで預けられた。
つらい毎日の中、僧侶にかわいがってもらい、やがてその寺で働くようになる。

だがそこの僧侶が借金のかたにもらってきた、若い女性と密通してしまう。
それを知った僧侶は激怒し、頭を下げていた大吉は、はずみで僧侶を死なせてしまう。
大吉は島送りになり、その後は裏稼業への道を歩む。
それでも外道仕事には背を向けて、生きてきた。

ちょっと違うところはあるけど、鉄はこんな感じの過去なのかなあと思いました。
鉄にかぶせたかった話を、大吉でやった。
そんな気もします。

大吉のファムファタールは魔性の悪女でしたが、鉄の相手の女性って、どんな人なんでしょうね。
想像ですけど、鉄は「仕置人」「新・仕置人」の劇中で、登場した女性を追い掛け回すことはあっても、そのために裏稼業をやめることはなかったと思います。
「新・仕置人」の「良縁無用」で、もし、あのお店の女性と一緒になっても、裏稼業はやめなかったと思う。

鉄が裏稼業をやめようとするなら、佐渡送りになった原因の女性、ただ1人だった。
そんな風に思います。
鉄のファムファタールは、永遠の謎。

スポンサーサイト

永遠の鉄

長い「必殺」シリーズの中に多く登場する殺し屋たち。
その中の、最も愛された一人に、山崎努さん演じる念仏の鉄が入るのではないでしょうか。
山崎さん自身も、10年ほど前ですが、インタビューの中で言っています。

今でも言われるのは、念仏の鉄という役だと。
鉄というのは、人の背中やあばらの骨を、素手で折る乱暴な殺し屋です、と。
それが今でもいろんな人に「見てました」とか「覚えています」とか「好きです」と言われるらしいんですね。

山崎さんは同じ役は、やらない方だそうです。
それが鉄は、2度やった。
ということは、山崎さんにとっても鉄は、相当に魅力的なキャラクターだったんでしょう。

「仕置人」の時、おきん役の野川由美子さんが疲れた撮影の帰り、「みんな、これ、もう一度やるって言ったら、やる~?」って聞いたとか。
するとみんな「やる」って言ったそうなので、本当に楽しい撮影だったし、良いスタッフさんだったし、魅力的なキャラクターだったんでしょう。
演ずる方にも、見ている方にも魅力的な男、鉄。
なぜ、この無頼の男がそんなにも愛されるのか。


人は、自分で自分の面倒を見なければならない。
自分で自分の面倒が見られて、自分のことを自分で決められる。
それが自立の始まり。

子供は自立できない。
だから親が引っ越す時には、嫌でもついていかなくてはいけない。
自分で自分のことを決められない。
決める力を持っていない。

自立すると今度は人は社会で生きて、社会の中で生活を送る。
そこから外れると、相当に厳しい生活が待っている。
社会の掟、規律から外れると、人は社会的に制裁を受ける。

つまり、社会的に抹殺される。
社会が人を、守ってくれる。
だから人は社会に属するということ、社会で生きることが重要になってくる。

そして社会で生活していると、自分の立場というものも重要になってくる。
地位とか名誉とかお金が、重要になってくる。
なぜなら地位とか名誉とかお金があれば、制約が少ないから。

人の言うことを聞かなければいけないことは、少ない。
好きなことが、できる。
豊かな生活が、送れる。
我慢することも、少なくなる。

自由が大きくなる。
権力者は、その頂点にいる。
しかし同時に、果たさなければならない責任も大きい。
完全な意味で、自由はない。


だけど、鉄はどうだ。
自由だ。
虎の会の死の掟はあるが、鉄はほとんど自由だ。
虎の会というものはあるが、誰の言うことも聞かなくて良い。

鉄はいつも、好きなことをしている。
物質的、金銭的に豊かな生活はしていないかもしれないけど、自分のやりたいことだけやっている。
我慢していない。
責任はほとんど、ない。

鉄にひとつ、守るべき規律があるとしたら、それは「外道にならないこと」。
人は社会の掟、規律から外れると、社会的に抹殺される。
だが権力が大き過ぎたり、狡猾過ぎたりすると、何の制裁も受けずに非道が通ったりする。

これを葬るのが、「必殺」の世界だった。
「仕置人」だ。
それで鉄はその、「仕置人」だ。

主水だって仕置人だ。
だけど、主水には社会的な生活を送る義務も責任もあった。
つまり、鉄というのはとことん、社会から外れている存在だった。

せんが主水の治療に来た鉄のことを、「無頼漢!」と罵る場面があります。
確かに鉄は、無頼漢。
せんのような立場の人間からは、考えられないような男。

さらにすごいのは、鉄の直前に山崎さんが演じていた土左衛門が、実にきちんとした武士であること。
土左衛門は非業の死を遂げた奥方について、その夫に最期の見事さを伝える。
実際はその奥方が命乞いをした末に、殺されていても。
この様子は、見ているこちらの背筋が伸びるほど。

その武士が翌週には、無頼漢。
山崎さんってすごい。
鉄を演じた山崎さんは、どこから見ても鉄にしか見えない。
でもおそらく、実生活ではすごく実直でまじめであるところがまた、すごく良い。


何で読んだのか、今、ちょっと思い出さないんですけど、元締・虎も鉄の自由さはわかっているというんですね。
自分も「新・仕置人」で虎が、「鉄さん、外道を頼む」と言ったシーンで思ったんです。
「鉄さん、虎の会を頼む」ではないんだな、と。

その文章にもありましたが、虎は鉄の力も、人望も、すべてを認めていてもなお、虎の会を頼むとは言わない。
虎は、鉄の自由さを知っているんだと。
掟に縛られているようでいて、本質的には自由である鉄を知っていると。

虎の会の掟は、もちろんある。
だが、鉄は他人の干渉をほとんど受けない。
鉄が自由なのは、強いから。

人が憧れてしまうのは、鉄の強さ。
強さによって自由に生きている、いけているところ。
そうそう、できる生き方ではない。

鉄は、力も強い。
精神力も強い。
生き抜く能力も強い。
だから鉄は自由で、無頼でいられる。

しかしその無頼の男は、外道ではなかった。
決して、外道にならない。
この一点において、鉄がとても忠実なこと。

最後にこの自由な無頼漢は、この唯一つの自分の中の決まりによって、死に至る。
自分が決めた、この一点において。
その厳しさは、実は普通に社会生活を送る者以上だった。

主水は、貢によって裏稼業の限界を知り、解けることのない課題を持った。
さらに剣之介に裏稼業の業と、自分の行く末を見た。
思い知った。
その主水を引きずり戻すほど、鉄は魅力的だった。

鉄は本当に深い魅力を持つ男です。
私も鉄が大好き。
鉄は永遠の仕置人。
自分にとって鉄は、永遠に生き続けるキャラクターなのです。


永遠のラスト

「新・仕置人」で一つの到達点に達した必殺シリーズ。
この後、しばらくの作品は仕置人の辿った道をなぞるだけではいけないと、試行錯誤しているように思えます。
「新・仕置人」の最終回は、それほどすごかった。

主水は上司・諸岡と対決。
この時、諸岡さまは主水を本当になめきっているんですね。
まず、主水が諸岡さまがどこにいるのか、わかって来ていることにピンと来ない。

頭を下げる主水をぞんざいに扱い、外に出てやっと、あれ?と気づく。
最初に主水が来た時の、諸岡さまの対応が違っていたら。
その後の主水を巡る展開は、もっと苦しいものになったのではないか。

辰蔵から諸岡さまは、聞いていたはずなんですよね。
鉄の一味に正体不明の3人目の殺し屋がいて、凄腕だということ。
あれは、ただの殺しではない。
一刀流の免許皆伝、剣豪のなせる技だということを。

その男が目の前にいる。
諸岡さまの最初の一撃は、はじかれている。
なのに諸岡さまは、そこに来てもまだ、主水がそんな腕の殺し屋だとはわかっていないように見えます。

徹底していたんでしょうね。
主水の昼行灯は。
第1話で「徹頭徹尾、手抜きで行きます!」宣言していましたが、本当にそうだったんだ。

あの、昼行灯宣言をして、主水は上司を斬った。
ここからまた、主水の仕置人人生が始まった。
そして最終回に、主水は再び上司を斬る。

剣之介は最後、滅多斬りとなったが、武士として剣を振るって死んだ。
「仕業人」の最後、主水は「仕業人」とは言わない。
武士である相手に対して、「中村主水だ」と名乗る。

これは、金をもらって恨みを晴らす「仕事」ではない。
私闘である。
個人的な果し合いである。

落とし前をつけに来たのだと。
あの名乗りは、そんな気持ちを表していたのかもしれない。
剣之介に自分を投影した主水は、殺しの世界から足を洗う。

「新・仕置人」の主水は、外道殺し屋の会を結成しようとする辰蔵のアジトに行く。
そして斬りまくる。
この間、主水は名乗らない。

人は最後に、大切な人のために動く。
最後に人は、お金や名誉のためには動かない。
人は人のために動く。

阪神や東日本の震災の時も思いました。
最後に、人は人のために動く。
正体はバレていない。
誰も主水のことは知らない。

なのに、主水は行く。
主水はただ、鉄のため、巳代松のために殴りこむ。
あれは主水の、仲間に対して辰蔵たちがしたことへの殴り込み。

そして今度こそ、すべてをなくす。
もう、自分を生かす場所もない。
自分の本当の姿をさらけ出せる仲間も、いない。

わかっていて主水は、せこい相手にせこい袖の下をせこくせしめて、もう誰も仲間のいない町を行く。
せしめた袖の下がいっぱいになったのを、主水はうれしそうに笑う。
この笑顔の下で主水はどれほどの無常感、虚無を抱えているのか。

それを抱えながら、退屈な日常に主水は戻っていく。
あれほど友人のために、壮絶な殺し合いをした主水が、それを微塵も感じさせない昼行灯に戻っていく。
だから、限りなく、「新・仕置人」の主水はカッコいい。
「新・仕置人」のラストは、胸に迫る。

ただ、死なせる。
斬りまくる。
それだけでは、あれほどのラストにはならない。


最終回前に死神の死、寅の会、仕置人世界の崩壊の序章を描いているだけに、最終回の世界の崩壊ぶりはすさまじい。
それに耐えて、日常に戻っていく昼行灯の主水の笑顔で、「仕置人」は幕を閉じる。
「仕置人」の鉄と主水の世界は、これで完結。
以降、鉄の話も巳代松の話も、全く出て来ないところが、大人の事情かもしれなくても、全く出て来ないところが!永遠のラストになっているのかも知れません。

あたし、あの色が憎い 「新・必殺仕置人」第32話「阿呆無用」

天保8年8月14日。
さあさ、えらやっちゃ、えらやっちゃ、よいよいよいよい。
踊る阿呆に見る阿呆 同じ阿呆なら踊らにゃそんそん。
阿波では、祭りの真っ最中だった。

昼から始まり、夜も祭りは盛り上がる。
おみつは、義理の父親の利助と一緒に、阿波踊りに参加していた。
利助は、おみつの母親と結婚した義理の父であるが、おみつは利助になついていた

おみつの母親は体が弱く、祭りには参加できなかった。
「来年はおかあちゃんと一緒に3人で踊れるといいね」。
おみつは利助にそう言った。

2人は祭りを仲良く歩いていく。
だが祭りの大群衆の中、おみつは利助を見失った。
影で伊兵エという藍染め商人の親玉が、藍の密売が役人に目をつけられたと話していた。

利助に、身代わりとして死んでもらえないか。
伊兵エの申し出に、仰天した利助は拒否する。
だが、水飲み百姓だった利助を、子持ちとはいえ、豪農であるおみつの母親と結婚させ、藍で食べていけるようにしたのは自分だ。
恩を返せ。

そう言って伊兵エは、利助を袋叩きにし始めた。
おみつが利助を見つけ、かけよる。
「おとっちゃん!」と叫んだおみつだが、背後から役人である伝蔵に十手で殴られ、気絶した。

翌朝、利助の遺体があがった。
おみつは必死に夕べ見た事を訴えたが、伝蔵は伊兵エには何も疑わしいことはなかったと言う。
利助は藍のご禁制を破った罪で、おみつもおみつの母親も財産没収の上、阿波より追放と決まった。

体が弱く、寝込んでいた母親は利助の遺体を見たショックに重なるショックで、家を追い出される際に「この恨みを」と言うと息絶えてしまった。
大きなおみつの家は、封鎖された。
家の前で立ち尽くしていたおみつは故郷の阿波を、石を投げられながら去るしかなかった。
道すがら、おみつは忍び泣く。

そして3年。
正八の歩く観音長屋に面するドロボウ市に、おみつがいた。
スリを働いたおていを見つけると、おみつは口止め料を要求した。
生意気なおみつをおていはひっぱたくが、おみつも負けずにやり返す。

正八が小競り合いに、割って入った。
「何なのよー、この小娘ー!」と言うと、おていは再び稼ぎに戻る。
「待ちなさいよ」と言ったおみつを正八が抑えると、おみつは正八に向かって、「ねえ、あんた。あたし買わない?」と持ちかけた。

まだかわいらしさが残る少女のおみつにそんなことを言われて、正八は頭を抱え込む。
その先に、座り込んでいる鉄がいる。
おみつは次に鉄に向かって、「ねえ、あんたあたし買わない?」と言う。

「このおじさんは、やめたほうがいいよ」。
正八は言うが、おみつは鉄に向かって「ねえ、買うの買わないの」と言う。
「ちょっと待て」と言うと、鉄はおみつを高いところに乗せて、顔を手で包み込むようにして見る。

その手が下に下りていき、最後に着物を少しめくると太ももを確かめる。
「ねえ、買うの買わないの!」
「よし、買おうじゃないか」と鉄が言う。

「だめーっ」と正八が言うのを鉄は「うるせえ、てめえは黙ってろ」と言って首を曲げてしまった。
「姉ちゃん、いくらだ」。
鉄の言葉におみつは「10両!」と言う。

「10両!…10両は、ねえなあ」。
「お金貸してやってもいいよ」。
正八がそう言うと鉄は「ばかやろう、てめえに金借りるぐらいなら、俺は水虫かいてたほうがましだ」と言って「待ってろよ」と飛び出していく。

通りで鋳掛けをしている己代松の、小銭が入った鍋が上に上がっていく。
釣りのように鍋を引っ掛けて、持ち上げたのは上にいる鉄だった。
気づいた己代松に鉄は「銭貸してくれ!」と言う。

「おめえか。また女か。降りて来いよ」。
言われて降りた鉄は、「まっちゃん、暑いのにせいが出るね!」とごまかす。
すると己代松は「座れ、座れよ」と言う。

「俺はいっぺんおめえに言いたかったんだけど、おめえはすぐに、銭金で女を買おうとするだろ」。
「うん」。
「そこが俺は、嫌れえなんだよ」。
「うん」。

己代松が鉄に説教をしていると、町の男たちが足を止めてそれを見に集まってくる。
気づいた鉄が「何見てんだ!」と怒るが、己代松は「まあ、いい、いろよ」と制す。
「女だって気持ちってもんがあらあな。そこんとこな、もっと大事にしてやらなきゃな、女だってかわいそうじゃねえか」。

見ている周りが同意する。
「しかし、おめえ、良いこと言うなあ。頭いいんだね、まっちゃんって」。
鉄が感心する。

みんなが笑う。
だがすかさず鉄は「半分でいいから、貸して」と、小銭の入っている鍋を取ろうとする。
「ばかやろう、商売の邪魔だ!あっち行け!」

怒った己代松に追い払われた鉄を、見ていた見物人が笑う。
腹を立てた鉄が出て行く際に、見物人をひっぱたいて行く。
鉄はそれでも足りなかったのか、戻ってきてもう一度はたく。

その頃、おみつは今度は袖の下をもらっている主水に「頂戴。分け前」と後をついてきて言った。
「いい加減なこと言うな。俺は役人だぞ。役人に向かって、変なこと言うとためにならんぞ」。
「今見たこと、大声で言うわよ」。
「うるせえな」。

正八が主水にあわてて、この娘はおていにもたかったと説明する。
自分と鉄には、おみつ自身を買ってくれと言ったのだと。
主水は何だかしらねえが、おめえ、話を聞いてやれと言って去っていく。
「逃げるの?!」と詰め寄ろうとするおみつを、正八は連れて行く。

川のほとりで、正八はおみつに10両ほしい理由を聞いた。
「仕置き料?!」
正八は声を上げる。

川では染物を仕上げに洗っている。
正八が染物を見て、「綺麗なもんだな」と言う。
「あたし、あの色が憎い」。

おみつの目が、険しくなる。
哀しみと怒りの目だった。
「憎いの?」と、正八が聞く。

閉ざされた、おみつの家。
石を投げられながら、追われた日。
おみつの目から、涙があふれ、頬を伝っていく。

「どうした?泣いてんの」。
「泣いてなんかいないよ」。
「誰だって泣きたいことの一つや二つ、あるよ。泣くのにかっこつけたって、しょうがねえだろう。思いっきり泣いてみな」。
おみつは泣き始めた。

アジトで鉄たちに正八は、おみつは伊兵エを仕置きにかけるために、10両がほしかったのだと説明した。
妹が生きていれば、あのぐらいの年だ。
「じめじめした話すんな、俺はそういう話、でえっ嫌れえなんだ!」と鉄が言う。

己代松も正八には、そんな顔は似合わないと言う。
おみつのために、みんなで仕置き料を立て替えないかと言う正八を鉄も己代松も、主水も、おていも拒絶する。
全員が出て行ってしまうと正八は「さみしい人たちだなあ」と言って、階段を上がろうとする。

すると、階段には鉄が座っていた。
「妹に似てんのか」。
「うん。よく似てるよ」。

正八は、鉄の下の階段の段に座った。
「まあ、人のためにそうやって何かやってやろうってのは、いいことだ。俺にも妹がいたら、おめえとおんなじこと、やったかもしれねえなあ」。
鉄は背後から正八の頭をなでた。
「しょうがねえ。俺、出してやろうか。その代わり、鉄つぁん。俺これ、10両出すから、10両きっかりでこれ、落として」。

寅の会が開かれた。
「浜松町に積もる恨みも3年越し 阿波屋伊兵エかな。寅、漫筆」と、吉蔵が句を読み上げる。
鉄は虎に自分に競り落とさせてくれと頼む。
死神が、鉄のほうを向く。

だが虎は、「決まりを曲げるわけにはいかない。せっかくだが、競ってもらいましょう」とだけ言った。
死神がにらむ中、鉄は席に戻る。
「10両!」
「8両2部!」

次々と競りの声が飛ぶ。
「7両2部!」
「7両」という声が響く。
「他にございませんか。ございませんね?」

札読みがそう言って落札する寸前、「5両!」と言う鉄の大きな声が響く。
誰も文句を言わない。
冷たい視線の中、虎が「阿波屋伊兵エの命、5両にて念仏の鉄さんに落札いたします」と言う。
鉄が頭を下げる。

その日、主水たちが藍の抜け似の疑いで、阿波屋伊兵エの店に手入れに入った。
だが伊兵エは奉行所に賂を贈っているため、どうにも成らない。
己代松にどういうことか聞かれた主水は、バカバカしくて屁も出ねえやと言って戻っていく。

その夜、料亭で伊兵エに金の無心をしに来た男がいた。
後姿の男は、自分が伊兵エの罪をかぶったおかげで、藍大尽として派手にやれるのではないかと言った。
それに対して伊兵エは、誰がお前の面倒を見ていると叱咤した。

振り向いた影は、利助だった。
やがて、2人は笑い出す。
廊下で正八が聞いていた。

利助が金を手にして帰っていく。
女が外で待っている。
利助が女と連れ立って歩いていくのを、おみつが見つける。
信じられないといった表情で、おみつがそれを見つめる。

「おとっちゃん!」と叫んで、おみつが利助に駆け寄った。
「おみつ。おみつじゃねえか!」
利助の横にいた女が、「何よお、この女」と言う。

「いいから向こうへ行ってろ!」
「ふん!」
女はむくれて、去っていく。

はずれの神社で、利助は語った。
伊兵エに利助は、身代わりになるように強制された。
自分だけならまだしも、おみつや母親を殺すと脅された利助には選択の余地はなかった。

「見てた。あの後、おとっちゃんが伊兵エにいじめられてるの…」。
しかし、誰かがあの時、後ろからお密を殴って気絶させた。
それは石神伝蔵という役人だと、利助は言った。
あがった遺体は、自分に年恰好がそっくりの男だとも教えた。

おみつの母親が死んだことも知っていたが、死んだことになっている自分は葬式にも出られなかった。
たった一人、誰も知らないところだが、利助はおみつの母親の葬式を出したのだ。
「勘弁してくれ」。
利助はそう言って泣いた。

おみつの胸に、楽しかったときの思い出が蘇った。
母親と父親の肩車で、水辺で遊んだ。
おみつも涙ぐむ。

「おみつ。おめえ、ずいぶん苦労したんだろうなあ」。
「おとっつぁん」。
おみつは、利助の胸で泣いた。

利助は根岸の甚平だなで聞けばすぐわかるところに、住んでいる。
おみつは木賃宿にいると言うと、利助は自分のところに来るように言う。
利助が去った後、正八が現れた。

「正八さん!」
「今の話聞いたよ。お前のとっつあんだってな」。
「どうして?」

正八は、利助を尾行していたら、おみつに会ったのだと言う。
「つけてた?何でつけたりなんかするのよ?!」
「うん、いろいろな。そいじゃあな」。

アジトで、正八は見てきたことを報告した。
「虎の俳句には、つけ句があるって言ったな」。
主水が言う。

だとすると、それはおそらく、利助だ。
では、おみつは自分の父親を仕置きにかけるのか。
「ま、そういうことだね」。
鉄がそう言った時、カタンと物音がした。

途端に己代松が、灯りを吹き消す。
正八の売り物の絵草子を、鉄が顔の前にかざして隠す。
「正八」。
主水の言葉で、うながされた正八が表を見に行く。

階段を上がると、そこには呆然とした表情のおみつがいた。
おみつが正八を見て、後ずさりしていく。
「おみつ!」

追いかける正八から、おみつは逃げていく。
「正八!」
己代松が声をかける。
「見てた…」。

「おい」と言って、己代松が正八をアジトに戻す。
主水が言う。
「やっぱり殺すより、しょうがねえだろう」。
立膝をしている鉄も「そうだ。殺すよりねえ」と言う。

「おみつ、殺すの…」。
正八が、絵草子を刷りながら聞く。
鉄が「俺たちの話聞かれた以上、生かしておくわけにはいかねえ」と言う。
「そうだろう」。

「仮にもだ。利助と親子の間柄ともなれば、俺たちのこたあ、必ず筒抜けになるぞ。だいたいてめえがおみつに後をつけられるようなことするから、こういうことになるんだ」。
そう言うと主水は、「正八!おめえが始末しろ」と言う。
「俺がおみつ、殺すの…?」

鉄が言う。
「そうだ、おめえがやるんだ」。
それを聞いた正八が、やたらに絵草子を刷る。

「冗談じゃねえよ俺。俺はやだ、やんねえよ!」
「ばかなこと言ってんじゃないよ!俺は、やんねえからね!」
正八が絵草子を刷る音が響く。
「やだやだやだやだやだ!」

翌日、呆然としたおみつが利助の長屋に向かっていた。
その後を正八がつけていく。
おみつが思いつめたように立ち止まる。
だがおみつは、利助の家の戸を開けた。

利助はおみつを見ると喜んで、ここはお前の家も同然だと言って家に上げた。
そして奥でうちわで扇いでいた女に、ちょっと髪結いに行って来いと言う。
女は「あんた、まさかあの娘…」。
「ばかなこと言うんじゃねえよ、おめえ。俺とあの子は親子だぜ」。

「親子ったって、血は繋がってないんだろう」。
「バカなこと言わねえで、行けよ!」
女はふてくされて、出て行った。

おみつは思いつめたように、言葉を発した。
「おとっちゃん、話があるの。伊兵エとグルなんて、本当?」
それを聞いた利助は驚き、「おめえ、出し抜けになんてこと言うんだよ。バカなこと言うんじゃねえよ」と言った。

おみつは真剣なまなざしで利助を見つめると、「あたしの目を見て!」と言う。
「なあ、おみつ。誰に吹き込まれたか知らねえけど、おめえ、おとっつぁんの言うことが信じられねえのか?」
「…わかんない!」
おみつは泣きそうだった。

「あたし、どうしていいかわかんない!」
庭に潜んだ正八が縁側の廊下に上がり、部屋の中の会話を聞いていた。
「おみつ。いってえ、誰がそんなありもしねえでたらめをおめえに…。え?いってえ誰がそんなこと言ったんだ」。
おみつは黙っていた。

「おい、おみつ。言ってくれ!」
利助の言葉が鋭くなる。
正八が、匕首を抜く。

その口調におみつが利助を見上げると、表の戸が開く音がした。
おみつがそちらを向いて、驚きのあまり声を上げそうになる。
「伊兵エさん、どうして」。

伊兵エは、番頭の源吉と一緒に入ってきた。
おみつが座ったまま、後ろへ下がっていく。
伊兵エはおみつの前に来ると、いきなりおみつの頬を張った。
その勢いに、おみつが横倒しになる。

隣の部屋におみつがはいずりながら、逃げていく。
「やっぱり、グルだったのね!」
伊兵エが「利助。このおみつな、今江戸で噂のある仕置人とやらに、このわしの殺しを頼んだ気配がある」と言った。
「仕置人?そんなの噂だけでしょ」と言う利助に伊兵エは「いや、ところがそうじゃない。だから当のおみつに当たれば、一番確かだと思ってな」と答えた。

責められる。
そう思ったおみつが、じりじりと下がっていく。
すると、利助がとんでもないことを言い出した。
「伊兵エさん、その前にひとつおもしろい趣向があるんですがねえ。あれを抱きてえんですよ」。

おみつが驚く。
伊兵エも「仮にもお前の娘だよ」と驚く。
利助は薄笑いを浮かべると、「何、娘ったって赤の他人でさ。しばらく会わねえうちに、めっきり女っぽくなりやがった」と舌なめずりをした。
「ふっ。そうか。そうかい、そうかい」。

伊兵エも、笑う。
「それでは私もひとつ、味見させてもらうか」。
今度は利助が、驚いた。
おみつが隣の部屋に放り込まれ、戸が閉まる。

正八がおみつを救おうとして飛び出そうと、縁側に面した戸を開ける。
背後から正八が抑えられる。
己代松が来ていた。

正八が構えた匕首を抑え、己代松が正八を庭に連れて行く。
首を振って、正八が抵抗する。
行かせてくれというように、匕首を持って入っていこうとする。

だが己代松は、正八を抑える。
己代松が首を横に振る。
ダメだ。

正八の顔が、ゆがむ。
今にも泣きそうにゆがむ。
己代松が戸を閉め、正八を連れて行く。

部屋ではおみつが、伊兵エに殴られていた。
猿轡を噛まされ、おみつは声にならない悲鳴を上げる。
おみつの脳裏に、阿波の渦潮が映る。
やがて、部屋は静かになった。

涙にぬれた目で横たわったおみつの着物を、伊兵エが足で蹴飛ばす。
開けられたふすまの前には、利助がつまらなさそうに座っている。
伊兵エがおみつの猿轡を解き、「さあ、おみつ、もう吐きなさい。仕置人に頼んだんだろう!」と言った。

おみつが起き上がる。
涙に濡れながらも燃える目で、伊兵エたちを見つめる。
歯を食いしばる。
おみつの口から、血が流れる。

じっと部屋の中をうかがっていた己代松が、視線を落とす。
背後ですがりつくようにしていた正八を振り返り、首を横に振る。
正八が声もなく、泣き崩れる。
中に入っていこうとする正八を抱え、己代松が去っていく。

アジトで正八が、膝を抱えている。
「おみつの奴、俺たちのこと一言も言わないで死んでったよ」。
己代松も、主水も、鉄も黙っていた。

主水が口を開いた。
「おみつの恨みだけは、晴らしてやりてえ」。
気配がして、主水が動く。
階段の上に向かって、「誰だ」と言う。

「あたしよ」と言って、おていが降りてくる。
伊兵エが今しがた、阿波に発った。
毎年祭りがあるので、帰ったらしい。

東海道を行くなら、今なら追いつく。
だが、船で行くのかもしれない。
どっちにしろ、伊兵エを追いかけなければならないが、鉄は「問題は虎だ」と言う。

「期限の次の寅の日まであと、5日しかねえ」。
「阿波まで5日か」。
「寅の会の掟を破りゃ、俺たち全部…」。
「これだ」と言って、鉄が首を斬る振りをする。

黙っていた己代松が「よし。俺が虎に話をつけてやる」と顔を上げた。
鉄が「ようし、わかった」と言った。
それを合図に、全員が立ち上がる。

主水は中村家に戻り、表で「くそばばあに、おたふく!出て来い!」とわめいた。
ふらふらと座り込むと、せんとりつが「婿殿!」「あなた!」と言って出てくる。
「てやんでえ。帰ってきたら、すぐ、出向かいに出て来い、ここへ!えらそうに言いやがって。え!いくら養子でも中村家の主人は俺さまだぞ!けっ」。
主水はそう言って、玄関前のたたきに座り込む。

せんとりつは主水が酒臭いことに気づき、近所の体裁があると責めた。
だが主水はひるまない。
「出て行きなさい」とせんが言った。

すかさず主水が「出て行きますよ。こんなお化け屋敷、誰が帰ってくるもんか」と言う。
「出ておいきなさい!」
せんの声が鋭く、高くなる。

門の戸が閉められた。
主水が門の外で、聞き耳を立てる。
りつが「母上、あんな種無しかぼちゃでもいなくなると、夜が寂しくなります」と言っていた。

せんの声がする。
「まあ、なんてはしたないこと!酔いがさめれば、帰ってくるに決まってます」。
「これで安心して、旅ができる」と主水が笑う。

その夜、酔っ払って利助が長屋に帰ってくる。
長屋のみんなが井戸の周りにいる中、そっと己代松が路地から出てくる。
竹鉄砲を着ていた半纏で巻き、前掛け姿になる。

家に入っていこうとした利助を「だんな」と呼び止めた。
「誰だい?」
「いいご機嫌ですね」。

簾越しに、己代松の笑顔が見える。
「え?」と言う。
そして、口元でフッと、鉄砲の導線を吹き消す。

己代松が、利助の前に立っている。
ズキュンという音がして、利助の背中に穴が開く。
煙が立ち上る。

利助が戸に向かって、寄りかかるようになる。
体が回転し、利助は部屋の中に倒れる。
己代松は「だんなあ、魚焦げてるよ、じゃまたね」と明るく声をかけて去る。
主水、鉄、正八は東海道を阿波へ急ぐ。

暗いお堂の中、やってきた己代松は虎を前に正座する。
背後には横を向いて、死神が座っている。
虎が「鉄の代理と言うのはお前か」と聞く。
「へえ」。

「用件を聞こう」。
「今度の仕置きは、次の虎の日まで果たすことはできねえ」。
「できなければ、掟どおり死んでもらうまで」。

「仕置きの相手が、四国の阿波に行っちまったんだ。こいつを行って、てけえってくるには、どうつっ走っても15日はかかる。これじゃあ虎の日まで、けえって来れねえ。そうだろう」。
「話はわかった。だが、お前さんの話を信用できるものは何もない。もし鉄が帰ってこなかったら、その時はどうする」。
虎の言葉に、己代松がとまどう。

「鉄がけえってこなかったら…、だと?」
だが己代松は、「その時あ、俺の命くれてやらあ」と言った。
虎がじっと、己代松を見る。

正八が主水に、東海道では伊兵エらしいものを見た者がいないと報告する。
やっぱり伊兵エは、船だったのだ。
主水と正八の耳に、阿波踊りのお囃子が聞こえてくる。

さあさ、えらやっちゃ、えらやっちゃ、よいよいよいよい。
踊る阿呆に見る阿呆 同じ阿呆なら踊らにゃそんそん。
女性たちが列を作って、踊っている。
「やっとついたね」と正八が主水に言う。

「ああ。正八、ぐずぐずしちゃいられねえ。すぐ探り入れてくれ!」
主水の言葉で、正八は動く。
踊る群衆の横を、主水は通っていく。

伊兵エは屋敷で、伝蔵に礼金を渡していた。
「江戸の町方に目ぇつけられまして」と伊兵エは言い、賂を渡して事なきを得たという意味で笑った。
伝蔵は、ここでは自分がいるからいいが、江戸のほうは気をつけるようにと言う。
阿波踊りの音が聞こえてくる。

今日は年に一度の祭り。
これから踊りに行きますからなと、伊兵エが笑う。
庭に潜んで聞いていた正八が、すっと姿を消す。

たくさんの、色とりどりのちょうちん。
お囃子。
太鼓。
女性たちの、ひらひらと踊る足元。

さあさ、えらやっちゃ、えらやっちゃ、よいよいよいよい。
踊る阿呆に見る阿呆 同じ阿呆なら踊らにゃそんそん。
群集が、阿波踊りを踊る。

その中に、両手に徳利を持った正八もいる。
正八は、踊りながら前に進む。
その先には、同じように黒っぽい着物を着て、踊っている鉄がいる。

頭には、鉢巻をしている。
楽しそうに顔をしかめ、頭を振るる。
群衆の中で、源吉が踊っている。
その前には、伊兵エがいる。

源吉の後ろに、徳利を持った正八がいた。
じっと確かめるように源吉を見ていると、源吉が体を回した。
見られないように正八も徳利を持ち上げながら、体を回す。
向き直った正八は、鉄に向かって源吉はこれだと、徳利を手にした指で差して合図する。

それを見た鉄は、ゆっくりと踊りながら下がって行く。
片方の袖を脱ぎ、肩をむき出しにする。
源吉のところまで下がっていき、源吉に向き合うと、源吉が楽しそうに笑った。
鉄も笑う。

ゆっくりと鉄が、源吉の横を通り過ぎ、背後に回る。
人差し指と中指を蟹のハサミのように立て、何度か伸縮させる。
指が映る背後には「あいだま連」と書かれた、ちょうちんが見える。

鉄の指がちょうちんの前から消えた時、源吉に向かって鉄が指を突き刺す。
グキリという音がして、源吉が目を見開く。
そのまま崩れ落ちる。

さあさ、えらやっちゃ、えらやっちゃ、よいよいよいよい。
踊る阿呆に見る阿呆 同じ阿呆なら踊らにゃそんそん。
お囃子が流れる。

踊りの群れの中、伝蔵が道端にいて、踊りを見ている。
そっと正八が伝蔵に近づいて耳打ちし、伝蔵が路地に入っていく。
路地では、主水が待っていた。
表を踊りの群集が、流れながら通り過ぎていく。

人一人がやっと入れるような路地の前で、正八が踊りながら路地をふさいでいる。
「何だ。俺に何か用か」。
伝蔵は横柄に訪ねた。
「おめえ、仕置人っていう稼業、知らねえか」と主水が聞く。

「仕置人?さあ、この阿波では知らんな」。
「ほお、それじゃあ阿波にはねえのかな」。
「なんだ、それは」。

主水の声が低くなる。
「…人殺しだ」。
「なにい!」

伝蔵が、刀に手をかける。
だが主水は抑えて、抜かせない。
刀を収めさせられた伝蔵は、今度は小刀を抜いた。

小刀を主水に向かって突き出したが、主水はそれも抑えた。
路地においてある樽るに向かって、小刀が突き出される。
水しぶきがあがり、小刀は水を切った。

表を、群集が踊っていく。
樽の中で主水が小刀を押さえ、伝蔵を刺す。
伝蔵の顔が、ゆがむ。

主水は、深く突き刺す。
伝蔵が息絶えると、主水は刀を抜き去る。
抜いた小刀を樽に放り込む。

小刀が樽の中に落ち、水しぶきがあがる。
伝蔵が樽の中にうつむき、樽から水が漏れていく。
主水が戻ると、正八が道を明け、自分も去っていく。

踊り狂う群衆の中に、鉄はいた。
さあさ、えらやっちゃ、えらやっちゃ、よいよいよいよい。
踊る阿呆に見る阿呆 同じ阿呆なら踊らにゃそんそん。

鉄は右手をぐっと握り締め、バキバキ、バキバキと鳴らす。
楽しそうに、伊兵エが踊っている。
その背後に、鉄が近づく。

鉄は伊兵エの肩に手をかけ、振り向かせる。
満面の笑みを浮かべた伊兵エが、鉄に向かって体を向ける。
踊りの女性が、2人の前を通り過ぎていく。

伊兵エが笑い、鉄が笑ってうなづく。
体を横にして伊兵エが膝を折り、鉄に笑いかけながら挨拶する。
鉄が笑う。

伊兵エに向かって、左手を伸ばす。
女性が踊りながら、前を通っていく。
鉄が右手を握り締め、伊兵エに向かって指を突き出す。

満面の笑みの、伊兵エの表情が止まる。
鉄の指が、伊兵エのあばら骨を折った。
伊兵エから鉄が指を抜くと、伊兵エの体がぐるりと回る。

張り付いた笑顔のまま、伊兵エが元の位置に戻る。
そしてそのまま、膝を折って群集から見えなくなる。
お囃子が聞こえる。
鉄が通り過ぎていく。

正八がしゃがみ、伊兵エに持っていた徳利を持たせる。
さあさ、えらやっちゃ、えらやっちゃ、よいよいよいよい。
踊る阿呆に見る阿呆 同じ阿呆なら踊らにゃそんそん。

群集が去っていく。
後には源吉が座っており、その向かいに徳利を持った伊兵エが座り込んでいた。
群集が去った後、伊兵エがガクリと首をうなだれる。
徳利が傾き、酒がこぼれた。

お堂の中。
死神が座っている。
己代松が柱にもたれて、座っている。

戸が開いた。
虎が入ってくる。
続いて鉄が入ってくる。
「松」。

己代松の背中に、鉄が声をかける。
その声で、己代松が振り向く。
鉄がかすかに笑う。
己代松がホッとした表情で、立ち上がる。

正八は、川を見ていた。
おみつと見た、染物を洗っている風景だった。
正八は、川に入っていく。

手には、小さな笹舟があった。
笹舟を浮かべ、流してやる。
小さな笹舟は、川を流れていく。
正八はそれを、いつまでもじっと見つめていた。



伊兵エは、川合伸旺さん。
ものすごい憎憎しげにおみつをひっぱたいて、見つめてました。
すばらしい悪役です。
怖ろしいほど節操がない利助は、小島三児さん。

鉄と正八が、おみつを巡ってやり取りするシーン、2人して首振っているところとか、芝居がアドリブっぽい。
すごい楽しそう。
鉄が正八の首曲げちゃうんですけど、ああいうのって台本にあるのかなと思ったぐらい。
おみつを買うか買わないか、鉄の確かめ方が怖い。

金を作りに行く鉄の手段が、己代松の売り上げをくすねることだった。
10両にはならないと思うけど、それでばくちでもやるつもりか。
見つかって鉄にお説教する己代松。
うん、うんと聞く鉄がおかしい。

周りに集まってくる町人たちも、なんかおかしい。
鉄が追い払おうとするが、己代松は聞かせる。
頭に来た鉄にハタかれる人、かわいそー。

こういう仲間との変な、心温まる日常描写が、「新・仕置人」の魅力ですね。
見ていて、みんな仲がいいな~という感じ。
結局は「殺し」という殺伐この上ない仕事をするもの同士だから、日常は精一杯楽しく過ごしているように見える。

おみつを演じるのは、小坂知子さん。
何度か、必殺シリーズでは見るかわいらしい女優さんです。
おていにやり返すとか、主水にもたかるとか、ずいぶんふてぶてしくなっている。

ふてぶてしくても、かわいいんですけどね。
かわいらしいのに言うことが言うことだから、正八が頭を抱えちゃう。
確かに態度がすごいけど、義理の父と母親をなくした経緯、あの故郷の追われ方。

あの状態で娘1人。
3年の月日が経っていた。
ふてぶてしくならなかったら、生きていなかったんだろうなと思います。

それまでがふてぶてしかったから、川でおみつが泣くシーンに、つらさがにじみ出ます。
ずいぶん突っ張ってきたんだなあと。
「あたし、あの色が憎い」。
そうだろうなと思います。

おみつがどこか、妹に似ていると言う正八。
確か、正八は天涯孤独。
一体どういう経緯でそうなったのかわからないけど、妹と似ているというのは本当っぽい。
命日というのは都合が良すぎて、仕置人たちにお金を出させる口実かもしれませんが。

情に流されるのは危険だから、仕置人たちは正八の申し出を拒絶。
そういう話はだいっ嫌いと言って出て行った鉄だが、正八を待って残っていた。
「俺にも妹がいたら、おめえとおんなじことしたかもしれねえ」と言う。

結局、表の商売のためのお金を正八が立て替えてやる。
きっかり10両で競り落としてやって、と言われて承知する鉄。
寅の会で一応、虎に頼んでみる。

虎に頼んでみた時の、掟に反するかもしれない鉄への死神の反応が怖い。
掟は曲げられず、しかし何としても競り落としたい鉄は思い切った5両の声で落札してくる。
この一連の鉄の行動からは、正八に対する理解と愛情がにじみ出てくる。

しかし、利助と伊兵エは影で繋がっていた。
おみつが妹に似ていたせいか、油断した正八はおみつに後をつけられる。
そこでおみつが鉄たちの正体を知ってしまい、怯える。
自分がたかった相手が、とんでもない人間だったと知ったら、それは怖い。

正八に殺せという主水が、怖い。
愛情をむけた鉄も、そうだ、おめえがやるんだと言う。
仲は良いけれど、楽しいけれど、やはり彼らは殺し屋だと思わせる怖さ、非情さ。

妹に似ていることはわかっていながら、いや、妹に似ているからか。
誰が殺しても、恨みになる。
また、殺さなければ自分たちも、正八の命も危ないからか。
そして拒絶はしながらも、おみつが口を割りそうと見た正八は匕首を抜く。

だが殺すために来ていたのが一転、おみつがピンチに陥って正八が助けに行こうとしてしまう。
それを止める手が。
ちゃんと、己代松が来ていた。

そりゃそうだ、正八にはできないだろう。
役人である主水は来られないだろうけど、鉄じゃなくて来ていたのが己代松というところが個性だなと思います。
役割分担できてるなあと思います。

情に流され、必死に助けようとする正八を止めるしかない己代松。
この2人の無言の制止、やり取りが良い。
無言の2人の心情が、表情だけでひしひし伝わってくる。

おみつの最期を見て、己代松もつらい。
ガックリと肩を落としている。
でも己代松は大人だから、プロだから、正八を抑えて帰る。

落ち込む正八に、殺せと最初に言った主水が「おみつの恨みだけは晴らしてやりたい」と言う。
要するにみんな、正八以外は大人でプロなんだ。
だから非情になるけど、みんな優しいんだ。

阿波まで出張仕事するのに、問題は寅の会の期限と主水の外出許可。
これをクリアするために、己代松が一足早く利助を仕置き。
すだれ越しに笑う己代松の笑顔に、凄みがある。
目が笑っていない、黒い笑い。

おみつをひどい目に遭わせた利助に対して、己代松も怒ってんですよ。
ああいうの、本当は正義感が人一倍強い仕置人たちは大嫌いだろうから。
「え?」の短いセリフに、怒りと軽蔑と殺意がこもっている。
その後、「だんな、魚焦げてるよ」と軽く言う口調と全然違う。

鉄と主水が出張している間、人質になる己代松。
虎に、鉄が帰ってこなかったらどうすると言われて、思ってもみない指摘に一瞬、うろたえる。
帰ってこない理由は、鉄の裏切り。
そしてもうひとつは、仕置きの失敗。

だけど己代松は、その時は俺の命をやると言い切る。
「走れメロス」的展開!
鉄たちへの信頼。
今回は、仕置人たちの戦友的ともいえる信頼関係を表すエピソードが一杯。

大群衆が踊りまくる中、仕置きを遂行する鉄、主水。
仕置人の醍醐味とも言えるシーンだと思います。
いろんなクライマックスシーンがありますが、通常の仕置きの中では、私はかなり好きなシーンです。

源吉を前にした鉄が、ニコニコ笑うんですが、これが己代松の笑いと同じ、怖い笑い。
これから殺そうという相手に向かって笑っているんだから、相当に怖い。
仕置人たちは、ことさら怖い顔はしていないんですが、みんな演技に凄みがあるんですね。
殺気が漂っている。

見ているこちらには不気味な笑いなんですが、源吉にはわからないから単純に笑う。
悪党以外の顔が見えるというか、悪党でも楽しい祭りというか。
サインはV!状態で準備運動をする鉄。
グキリ!と源吉の骨を折った後は、主水の仕置き。

正八がさりげなく、路地をふさいで誰も入ってこないようにサポートしているんですね。
祭りだから、主水は刀を持っていない。
でも強い。
主水が仕置きをした後は、もう一度鉄の仕置き。

この時の川合伸旺さんが、絶品!
阿波踊りが、すごく上手。
優雅な手つき。

ニコニコして踊ってるところに、鉄が忍び寄ってくる。
仕置きのテーマの音楽が流れ、バキバキ、バキバキと鉄が指を鳴らす。
踊りまくる大群衆。

鉄が肩をつかんで、後ろを向かせてもニコニコしている。
首をかしげて挨拶しちゃったりして、本当に楽しいんだ。
おみつをいたぶった悪党とは、思えない。
源吉といい、祭りとは人をこんなにも楽しくさせるんですねえ。

踊り狂う大群衆。
人が踊りながら、鉄と伊兵エの周りを行きかう。
その中での鉄の、大胆な仕置き。
誰も気づかない、気に留めない。

まあ、見ていないんですね。
それほどの熱狂ということ。
狂気にも近いそれが、仕置きを盛り上げる。
鉄の動きなんか、見てても何のことかわからないかもしれないけど。

仕置きされた瞬間の、川合さんの表情がまた、絶品なんですよ。
張り付いた笑顔。
いかにも、瞬間に殺されたという感じ。

川合さんといえば、「仕置人」の方でも「賭けた命の瓦版」でお座敷遊びで踊りながら鉄に殺されてましたね。
もしかして、これのセルフパロディ、オマージュなんだろうか。
こちらでも川合さんは、華麗な踊りを披露してました。

今回の仕置きシーンは、仕置人の醍醐味を堪能。
数ある仕置きシーンの中でも、私はかなり好きな部類に入ります。
仕置人を知らない人に何かワンシーン見てもらうとしたら、このシーンを選ぶかもしれない。

仕置きが終わって、おそらくとんぼ返りしたであろう鉄が己代松を迎えに来る。
やや、ぐったりしている己代松が、鉄に声をかけられ元気になる。
鉄がニッコリではなく、わずかに口をゆがめて笑う。
これだけで通じるんだな。

虎は、鉄はいい仲間を持っているんだなあと思ったでしょう。
裏切りが当たり前の世界を見てきているから、帰ってこなかったらと言ったんでしょう。
こういうところが、虎が鉄を信頼する原因なんでしょうね。
おていが活躍するかと思ったら、最初だけでほとんど出番がなかったな。

最初におみつが泣き崩れた川。
正八に対して、自分自身をさらけだした風景。
今度は正八は1人、見ている。
あの色が憎いと言った。おみつ。

幸薄かったおみつのために、正八は作った小さな笹舟を流す。
小さな笹舟が、別れを告げるように流れていく。
のどかな音楽が流れ、心に染みるラストシーン。

いろいろと見所が多い、好きな話です。
夏の空気が充満しています。
この話を見てからは、阿波踊りのニュースを見ると、この話を思い出します。
夏、この時期に見たい一編です。


「管理されない楽しさ」 山崎努さんインタビューで

テレビ埼玉で今、「新・必殺仕置人」を放送しています。
時代劇専門チャンネルではもうすぐ「必殺仕置人」が放送されます。
念仏の鉄の違いを見るのも楽しいかも。
さて、「新・必殺仕置人」DVD発売の時、「時代劇マガジン」に山崎努さんのインタビュー記事が載っていました。


山崎さん「(仕置人の頃は)京都映画の撮影所が一番盛んな頃で、現場にも勢いがありました。
最初に準備稿を読ませていただいて、何よりおもしろかったのは、アウトローの話だったことですね。
職もなくてドロップアウトしているようなキャラクターが、結果的には勧善懲悪、悪者をやっつけるという話になる、そこがおもしろかったんです。

連続ものの場合は、そこから先どうなるかという部分をどんどん作っていくわけですから、キャラクターを膨らませることができる余地があったんですね。
(念仏の鉄は)坊主の出で、それがドロップアウトして、巷の隅っこでインチキな骨接ぎだがやって、タカリや何かで生きている。そういう設定でした」。


だから、山崎さんは京都の新幹線の駅内に床屋さんがあったので、撮影の行き帰りに剃っていたそうです。
CMにもそんな状態で、出演した。
しかし、頭を剃っていると、何を着ても刑務所帰りみたいになって、着るものに困る。
当時、幼かった子供さんと、遊園地に行くのに苦労したそうです。

しかも最初は仕事はこれだけだったのでそれでも良かったけれど、途中からそうもいかなくなって髪を伸ばしたとそれか。
確かに「仕置人」の最初は本当に見事に坊主でしたね。
それがちょっと、髪が伸びてきている。

仕置人は、台本的なスケジュールはきつかったけれど、撮影は5日ぐらいのところ、8日かけてくれたので、結構楽だったそうです。
カメラの石原さんと、照明の中島さんの評判は東京にも届いていた。
すごい画を撮る、と。


「彼らが一番張り切っていた頃だから、撮影開始時間も早いけれど、楽しいものだった。
ロケもあちこち足を伸ばしたし、チームワークも良かったし、仲良かったし、好き勝手にやっていたので、みんな楽しかったんでしょう」。


野川由美子さんもインタビューで、同じようなことを言ってしましたね。
山崎さんは定番の時代劇のパターンをどう崩すか考えていたし、カメラマンも監督もそうだった。
製作は若い人にチャンスをあげようと思っていたので、約束事はなく、自由にやれた。

「若い監督も入りやすかったんではないか」と、山崎さん。
「でもやはり、この番組のベースは工藤監督が作ったのではないか」と言います。
工藤監督は時代劇にも造詣が深いが、現代劇を撮っているような感じだった。

時々、演出に詰まる、何かもうひとつ、アイデアがないかな、という時は、即興でやっていった。
決まりきった演出ではなく、それもまた、楽しかった。
当時は山崎さんも、2階から飛び降りたりしていた。


「やることがなくなると、この番組は屋根に登るんだ」。
屋根といえば、マキという人が出てましたけど、彼は火野正平のマネージャーだったんですよ。
坊主頭で小太りでね、あのまんま。

『おもろいなあ~』とか普段から言っていて、いつも現場に来ているから、あいつを出そうってなった。
フンドシさせてね。
本当にフレキシブルな現場だったんですよ。
みんな乗っていたから、ああいうこともできたんだと思います」。


アクションシーンも、ご自分でされていたとか。
一度、竹光を持った相手との立ち回りで、眉の上も切った。
その時は真夏だから化膿しないようにと、涼しいクーラーのきいた部屋で2日間休ませてくれた。


「仕置人と、新・仕置人ではメンバーもずいぶん、変わりましたね。
藤田まことさんと僕だけが残って。
藤田さんはもちろん、おもしろかったですけれど、中村嘉葎雄さんがまたおもしろかった。
共演するシーンも多くて、大体アドリブでシーンを作っちゃいました。

筋はあるんですけども、脚本家さんも忙しいから、行間をどう埋めていくかは現場の作業になる。
そうなると、アドリブが一番おもしろい。
現場で『このぐらいはやっちゃおう』っていうのが、新鮮でしたね。

嘉葎雄さんと僕、藤田さんももちろん、アドリブのきく人なんでおもしろかったですね。
嘉葎雄ちゃんはボケが上手いんですよ。
でもツッコミもできる。
僕も両方できたから、上手い具合にいったんじゃないかと思いますね」。

「新・仕置人で虎の元締めを演じた藤村富美男さんも、印象に残ってます。
俳優としては素人なんですが、なんと言ってもキャラが立っていた。
黙って座っているだけで存在感がある人でしたから」。

「人柄がとても良くて、謙虚な方で、仲良くなりましてバットもいただきました。
あの物干し竿を。
うちにありますが、重くてとても振れないですよ、あれ。
当時でも振れませんでした」。


はあ、虎の元締めは本当にすごかったんですね。
山崎さんは藤村さんに甲子園の阪神-巨人戦のOB関係者席に招待してもらったことがあるそうです。
嘉葎雄さんが隣にいて、藤村さんは3つぐらい先の席にいて、後はずらりと往年の名選手が並んでいる。
ところが山崎さんはちょっとビールを飲んで、野球に夢中になっていたら、全部すっ飛んで、相手チームの応援をしてしまったそうです…。


「今なら、そんなにおかしくないと思うんですが、鉄がピアスをしていたり、ブレスレットつけていたりするのは、全部自分のアイデア」。
山崎さんは連続物があまり好きではなく、それは一つのキャラクターをずっとやっていると飽きちゃう為だとか。
だから飽きないように、いろいろやっていたそう。

鉄の場合はどんな風にもできるから、持ったんだとか。
髪が「新・仕置人」で伸びてくるのは、やっぱりそういった役柄に関する理由があったようです。
それと、やっぱり他の役柄、後の役柄の為だと聞きました。


「でもやっているうちに、前の約束事を忘れてしまうこともありました。
石原さんが『おかしいやんか!』と。
その時はそんなことがおもしろいと思って狙っていたんでしょう」。


連続して見ているせいかもしれませんが、たまに「あれ?」と思うことがあって、こちらは辻褄あわせを考えたりしてますが、単にそういうこと…?
レントゲン撮影も話題になったけれど、それは石原さんのアイデア。


「あれがバカバカしくて、ナンセンスなおもしろさがあって。
ですから、基本的には陽気なんですよ、鉄は。
底抜けに明るいんです」。

「いろいろ虐げられて社会の重圧がどうのこうのとか、そういうことではないんです。
何となく思いつきで感覚的にやっちゃう。
そういう線を狙っていたんですね。
それがまあ、うまくいったんじゃないかと思うんです」。

「この作品は視聴率も良かったし、僕の役にも、自慢するわけではありませんが、熱烈なファンの方がいて、『念仏の鉄の会』というものもできてました」。
当時、鉄のファンクラブもあって、再放送もされていたのでずいぶん長く続きました。
今ならパソコンで作れるけれど、当時としては立派な機関誌を作って送ってくれました」。


「かんのん長屋」の仕置人たちの日常を見ている感じだけでも「新・仕置人」は、見ているのが楽しかったものです。
つまり、これは俳優さん同士の日常でもあったような。
「アドリブが一番おもしろい」って、それでいて「素」で遊んでいるんではないんですよね。
ちゃんと役柄を演じて、その役が遊んでいる。
良い俳優さん同士の息が合うと、こんなシーンが作れたんだと感心します。


「最後に鉄が死んだのは、僕も限界だなって思っていたし、やめさせてくれとは僕からは言いませんでしたけど、製作の方もそう思ったんじゃないでしょうか。
でもね、死ぬシーンはおもしろいですからね、撮影は楽しかったですよ。
原田(雄一監督)くんがまだ若い頃で、何回もどうやって死んだらおもしろいかって相談してました」。

「それでやっぱり、鉄だから女郎屋で死ぬのが一番良いだろうな、って。
そういう部分でも鉄っていうのは、みんなに愛してもらえたキャラクターでしたね」。
「ずいぶんやってますけど、『観ました』って言われるのは、この『鉄』と、『ザ・商社』『早春スケッチブック』。
この3つは今でも言われます」。


あ、こちらは「鉄が死んじゃった~」と涙だったのに、現場は楽しかったんですね~。
はい、映画「刑務所の中」でも同室の俳優さんたちが初めて山崎さんを見た時は、「仕置人だぁあ…」と感動したそうです。
鉄を見ていた人は感動しますね、やっぱり。


「あの頃、あの年齢で、鉄と出会えたっていうことは、良かったんでしょうね。
僕の日記みたいなもので、その時思ったり、感じたりしたことを、最低限守らなければならない条件はありましたけれど。
それ以外はその時の自分が感じていたこととか思っていたこととかを、許される範囲で役に叩き込めたという意味でもね」。

「当時の若者達は、鉄のアナーキーなところに惹かれたんじゃないかと思います。
あまりこういういい方は好きじゃないんですが、多少、時代とも関係はあったと思うんですね。
高度成長真っ盛りの頃で、金権主義で自己中心的な、自分さえお金を持っていれば、儲かればいいや、みたいなそういう時代だった」。

「ですから、アウトローの貧乏人が金持ちの悪をやっつけるというのが受け入れられて、ヒットしたのかもしれません。
朝日放送の山内プロデューサーが冒険好きな人だったというのもベースにあるんですけれども、本当にこのシリーズがあれだけ人気番組になったというのは、石原さん・中島さんの功績だと思います」。

「(このインタビューは2005年)何年か前に久しぶりに会った時に、まだ中島さんもご存命で、みんなそれぞれ年をとってもきちんと仕事していました。
だから何か言っておいてあげたいと思うんです。
彼らが一番元気だった頃の功績を、ちゃんと残しておいてあげたいんです」。

同じようなことを、本田博太郎さんも語っていました。
工藤さん、石原さん、中島さんのことを語れるのなら、自分はどこでも行く。
語る、と。

「『必殺』を作った頃と今(2005年)とでは、社会状況も変わっているかもしれませんが、若者達はきっと今でも、体制や日常に管理されているというモヤモヤがいっぱいあると思うんです。
でも鉄という男は全く管理されない」。

「管理されていないなりのつらさとか厳しさ、寂しさみたいなものはあるのかもしれませんが、でも管理されない楽しさもこの男にはあったと思うんです」。
「これからあらためてDVDなりでご覧になる人たちには、そういうところを感じていただき、またスタッフたちの功績を思っていただければ幸いです」。


そうか、私は鉄の自由奔放さに、惹かれるんだな。
それだけの厳しさ、つらさ、寂しさはある。
けれど、管理されない楽しさと、楽しいだけの強さが鉄にはある。

人は自分にないものを持っている者に、惹かれる。
自分ができないことをやってのける者に、惹かれる。
そうか、だから鉄は時代が変わっても、私には魅力的なんだなとわかった記事です。


プロフィール

ちゃーすけ

Author:ちゃーすけ
癖の強い俳優さんや悪役さん大好き。
俳優さん、ドラマ、映画、CMその他、懐かしいもの、気になるものについて、長々と語っております。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
ブロとも一覧

本も映画も文具も、いいものはいい!

LEVEL1 FX-BLOG
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード