最終回、「解散大始末」。


利吉が目明しが見張るしのの茶店にやってきて、すぐに棟梁のところにみんな集まるよう伝える。
集まった助け人たちに清兵衛は、今度の仕事は命をかけてもらうことになると言う。
無理やり奥女中にされた娘・おちさを、大奥から助けてほしいというのだ。
依頼人はおちさが大奥に上がる前からついていた、女中のおみねだった。

奥女中・おちさは行儀見習いということで大奥に入ったが、将軍のお手つきとなりお中臈となった。
おちさの方と呼ばれる中臈になれば、もう一生奉公。
親の死に目にも、宿下がりはできない。

そのおちさを、大奥から脱出させる。
幕府全体を敵に回す可能性のある危険な任務に、平内は躊躇する。
女ばかり3千人、その中で泣いている女性を助ける男冥利に尽きる任務だと利吉はさりげなく説得する。
清兵衛は大奥の見取り図を取り出し、城内の説明をするが、とにかく奥にたどり着くまでが大変だ。

この相談中、奉行所が清兵衛の家に踏み込むが、文十郎も平内も龍も、利吉さえも姿が見えない。
しかたなく同心も目明しも引き下がって行くが、清兵衛は目明しに「今度集まっているのを見たらしょっぴく」と言われる。
その夜、おちさは「名誉なこと」と言われながら、将軍のやってくる座敷に通される。
女として最高の出世と言われながら、おちさの顔は悲しそうだった。

お吉がお座敷の客で、大奥に出入りできる商人がいると言って来た。
小間物を扱う伊刈屋で、もちろん、七つ口までしか入れないのだが、龍と利吉が伊刈屋の使用人となっておちさの顔を見て確認することにする。
見張りは伊賀・甲賀者で、手強い。
しかも多勢に無勢なので、斬りあいとなったら勝ち目はない。

龍が伊刈屋のつづらの中におちさを入れて帰って来る予定だが、無理はできない。
最小限の場合は、おちさの顔だけを確認して、戻って来るだけだ。
七つ口に行くだけで、何度も龍と利吉は呼び止められ、その度に荷物を改められた。
さすがに鋭い目つきの見張りたちだった。

奥女中たちを前に、小間物や絵草子を広げている時に、おちさが龍に「清兵衛殿の…?いつ」と囁いた。
おちさの顔を確認した龍だが、つづらを開けようとした時、利吉が咳払いをする。
外には見張りがいて、結局、龍と利吉はおちさの顔を確認するだけで帰ってきた。
やはり、ちょっとやそっとのことでは連れ出せない。

お吉がお座敷に出た時、伊刈屋の旦那に「大奥に入れるのは伊刈屋の旦那ぐらいなものだろう」と話したところ、もう1人の商人も自分も入れると言った。
それは可採の権左衛門と言って、可採舟の元締めだった。
可採舟、要するに大奥の御不浄を扱う舟。
つまり、御不浄から侵入を狙う、というわけだ。

今度は文十郎と平内が、舟に乗って大奥に入る。
さっそく見張りの伊賀者が舟を止めさせ、鑑札を確認した。
その時、おちさとおみのが追われているのが目に入る。
おちさは連れ戻され、それを見た見張りは文十郎と平内、本日は大奥に入ることを禁じた。

何と、将軍がなくなったのだ。
だから清兵衛のもとに、おちさとおみのは解放されるという手紙が届く。
これでおちかを助ける仕事はなくなった…、だが文十郎はそんな平内に憤る。
なぜ、文十郎はそんなにも、おちかを助けることにこだわるのか。

そう言う平内に、平内こそ今度の仕事には最初から乗り気ではなかったと、文十郎は責める。
平内は「幕府全体を敵に回すのが怖いのではない、それだけの意味があるのか」と言った。
だが清兵衛は、「相手が将軍家だから引き受けた」と言う。
驚く平内。

一方、自由の身になるかと思われたおちさだったが、お手つきの中臈たちは典医に子供を身ごもっていないことを確認された後、剃髪して、将軍の菩提を弔って過ごすことと知らされる。
それがお手つき中臈となった女たちに課せられた、一生なのだ。
事情を知らされ清兵衛は、とにかくもう一度、おちかとおみのに会うと言った。

おちさはおみのに、例え望まなかったとはいえ、将軍の位牌を守って一生を送るべきなのかと相談していた。
頭ではわかっているが、でもやはり悲しみは消えない。
その時、廊下から「上様、おなり~」という声が響く。

おちさとおみのが廊下に出ると、「上様、上様をお待ちしております」と言って、さまよう中臈がいた。
尼僧がやってきて奥に連れて行こうとするが、中臈は声を張り上げて笑い出す。
彼女は先々代の将軍のお手つき中臈だったが、狂ってしまっていたのだ。

衝撃を受けたおちかに対して、他の中臈たちは、こんな境遇になったのはおちかのせいだと責める。
将軍を疲れさせ、死に追いやったのはおちかだと。
その為に自分たちは、このような身の上に追いやられた。
中臈たちの敵意と嘲笑に、おちかは泣き崩れる。

おみのはおちかがひどく参っていることを知らせる為に、おちかを大奥に送った叔父の土屋主水正に会った。
土屋はおちかのおかげで、小普請組から若年寄にまで出世したのだった。
2人が話している床下には、清兵衛が潜んでいる。
だが土屋は、おちかのこれからの身の上などにはまったく興味がない。

夕立の中、帰ろうとするおみのを、文十郎が呼び止める。
おちさとおみのを前に自由の身になって良かったと言って去ろうとする文十郎だが、おちさは自分たちのことを語り始める。
こうして表に出られるのは、これからは年に一度。
自分が住んでいる桜田屋敷は、まるで地獄だと。

おちさは実家が没落したので、土屋が引き取り、大奥に行儀作法見習いとして出した。
実家にいる時から、おみのはおちかについてきていた。
だが土屋は既におちさを中臈として差し出す旨を、伝えていたのだ。
おちさは最初から土屋の出世の道具として、利用されたのだ。

それを聞いた文十郎は、助け人が集まる芝居小屋の奈落におちさとおみのを連れてきてしまった。
博打に興じていた平内は呼び出されて奈落にいる2人を見て驚くが、清兵衛はこれでいいんだと言う。
頼まれたとおりのことを、したのだ。
おちさは、従兄弟が堺にいるが、そこに行けば、誰にも知られずに暮らしていけると言った。

その時、清兵衛は天井の気配に気づき、ノミを投げる。
すると数日前、清兵衛の所に踏み込んできた目明しが階段から落ちて来る。
捕り方が大勢踏み込んでくる中、清兵衛は助け人とおちさ、おみのを逃す。
龍と清兵衛が、捕り方を迎え撃つ。

夜の町、文十郎と平内が手を引き、おちさとおみのが走っていく。
だが行く手はすぐに、捕り方たちに遮られた。
文十郎は刀を抜き、捕り方たちと斬り合いになる。
平内も刀を手に向かっていく。

狭い路地に入り込んだ助け人たちの前に土屋が現れ、おちさにもどるように言うが、おちさはもどらないと叫ぶ。
もう自分は、叔父上の出世の人形にはならない!
おちさの言葉に激怒した土屋は自ら刀を抜き、「斬れ!」と命じる。

文十郎が刀を手に、伊賀者、甲賀者と斬りあう。
平内も刀を手に、斬りあった。
やがて追っ手は大八車を文十郎たちの周りに突っ込ませ、逃げられないように周りを囲む。
しかし文十郎と平内は囲みを破り、追っ手を次々に斬り伏せて脱出を図る。

背後から、正面から使い手が斬りかかってくる。
土屋がおちさの手を取り、引き寄せようとする。
おちさが土屋を振り切ると、土屋は「おのれ!」と刀を抜いておちさに向かって振り下ろす。

「お嬢様、危ない!」
おみのが飛び出し、おちさの代わりに斬られる。
「あっ!」と声をあげて、平内が駆け寄る。

土屋の刀を平内が受け止め、大八車に背中をつける。
斬りあっていた文十郎が気づき、兜割りを投げる。
兜割りは土屋の背中に刺さった。
土屋がよろよろと倒れる。

平内が怒りの表情でキセルから針を抜き、土屋に突き刺す。
龍と清兵衛も芝居小屋で斬り合い、脱出する。
平内がぐったりしたおみのを担ぎ、文十郎がおちさの手を取る。
清兵衛と龍、利吉が合流する。

龍が追っ手を蹴飛ばし、刀を振り回す。
夜が明けて行く。
船着場に向かって、龍が走る。
背後には数十人の追ってが迫る。

龍が刀を振り回し、走る。
清兵衛と利吉が舟で待っている。
文十郎がおちさの手を引き、平内がおみのを担いで舟に乗る。
「龍!早く来い!」

川のほとりに、龍がたどり着く。
背後に見える橋を、追っ手が走って来る。
「棟梁、この舟、もういっぱいですぜ」と龍が言う。
「何とかなる!早く乗るんだ!」

「棟梁、ここは俺にまかせて!さあ、早く!」
「龍!」と文十郎も平内も叫ぶ。
龍は舟を川に押しやると、捕り方と斬りあった。
1人斬り、背後から龍も斬られる。

2人、3人と斬るが、龍の額からも血が流れる。
伊賀者と龍が向き合う。
「棟梁!」
船の上の棟梁たちを見て、龍が叫ぶ。

「龍!」
棟梁たちの舟が、龍のいる橋の下をくぐる。
龍は1人の伊賀者をかかえ、そのまま落下した。

川の流れに沈んだ龍と伊賀者は、浮かんでこなかった。
棟梁が操る舟は、どんどん離れていく。
文十郎も平内も、利吉も黙って龍が消えた川面を見つめていた。

逃れた荒れ寺で、瀕死のおみのがおちかのことを助け人に頼んでいた。
清兵衛は確かに引き受けたと言う。
「これで…」。
「おみの!おみの!」

安心したおみのは、息を引き取る。
おちさが泣き叫ぶ。
棟梁がおみのの顔に、布をかけてやる。

「さあ」。
おみのを立たせ、利吉に託す。
「それじゃあ」と利吉が立ち上がる。

振り返る利吉の視線に、しのが目を伏せる。
「しの。何してるんだよ。利吉と行くんだよ」。
「兄さん」。
文十郎は利吉を見て、「利吉。よろしく頼む」と微笑む。

「文十郎さん…」。
しのが利吉の隣で、兄を見る。
文十郎は微笑みながら、うなづき、「元気でな」と言う。

清兵衛が「さあ、早く。夜が明ける」と言う。
おちさを連れて、2人が出て行く。
息を呑んで3人を見送ったお吉が、文十郎を見る。
文十郎が目を伏せる。

お吉は何か言いたそうだったが、清兵衛にお辞儀をして、足早に立ち去る。
「さて、と」と、次に平内が言う。
「じゃ、棟梁」と言う。

そして、「文さん」と文十郎に声をかける。
平内が文十郎と向き合い、2人が見詰め合う。
やがて平内が出て行く。

「棟梁」。
文十郎が清兵衛に呼びかけ、そして出て行く。
1人残った清兵衛は自分が彫った仏像を、おみのの枕元に置くと手を合わせる。

川をおちさと、利吉としのが下っていく。
おちさの顔は明るく、利吉としのは仲良く並んでいた。
街道を笠をかぶった、僧侶の姿の平内が歩いていく。

白装束の棟梁が、歩いていく。
お吉は道端で座り込んでいた。
夕暮れが迫っていた。
ふと、顔を上げたお吉の目に、夕陽を背にして歩いてくる文十郎の姿が目に入る。

文十郎が近づいてくる。
お吉の前まで来ると、立ち止まる。
ハッとして立ち上がったお吉が、文十郎に駆け寄る。
夕焼けの中、2人は微笑みながら、寄り添いながら歩いていく。



はあ~、終わってしまった!
しかし見せ場がたっぷりの、充実した最終回だった。
寂しいので、書きそびれていた最終回。
愛着のある登場人物との別れがいつも切なく、哀しい。

今回は、大奥からの脱出。
おみのは、市毛良江さんです。
女として最高の名誉だの、出世だの言われても、それを目指している人には幸せだが、大奥に幸せを求めていなかったおちさには牢獄。

将軍が死んで解放されるかと思えば、今度は菩提を弔って一生を送らなくてはならない。
さらにいらついた同僚の中臈たちには八つ当たりされ、これからはもっと地獄。
自分の将来の姿のような、狂った先々代の中臈を見て、おちさは再び脱出を願う。

そして、それに幕府から追われる身となるほど意味があるのかと思ってしまう平内。
だが「相手が将軍家だから引き受けた」と、清兵衛は言う。
魔性の茶碗の時と同じ。
相手が武士だから、身分のある武士だから、町人の意地を見せたい。

しかも今度の相手は、その頂点の将軍が意のままにした女性。
その女性を大奥から掻っ攫う。
これほど、町人の、意のままにされるだけの立場の人間の意地があろうか。

大奥潜入に時間を割くかと思ったら、おちさとおみのを連れての斬り抜けがメイン。
何十人を相手に立ち回り、武士を捨てた平内さんまでが刀を手に大立ち回り。
平内さん、さすが元・武士、強い。
文十郎も強い。

伊賀者、甲賀者、捕り方を何十人も相手に斬りまくる。
清兵衛も立ち回る。
まるで芝居小屋で流れるような、三味線の音をバックに斬り合いが展開される。
それが、土屋がおみのを斬ったのを境に、いつもの助け人のテーマに変わる。

何十人相手の、大立ち回りがさらに続く。
龍もプロレス技、刀を振り回し、大暴れ。
そして龍は、自分を犠牲にして助け人たちを逃す。

最初にあれだけ、助け人たちとぶつかった龍が。
個人主義で、ビジネスライクに見えた龍の変化。
見せた深い情。
龍の最初の登場からは、思いもよらないラスト。

「ここは俺が!」と1人、追っ手を引きつけて龍は戦う。
龍が斬られ、出血していくのがとても切ない。
「棟梁!」と叫んでいたけど、龍にとって棟梁は父親のような存在になっていたのかもしれない。

ここのところ、以前にもっと描写があれば、もっと泣けたかもしれません。
でも棟梁がいない間も一緒に仕事をしていた文十郎や平内への思いも、大きかったのだと思います。
助け人の間には、擬似家族のような情があった。

散々、反発した龍が最後に身を捨てて皆を逃す。
ここで必要以上に助け人たちが叫んだりしないところが、かえって絆の深さ、喪失感を感じるのかも。
龍が沈んだ川面を見つめる文十郎、平内、そして利吉の表情がそれを物語っています。

荒れ寺にしのも、お吉も来ていた。
助け人解散。
みんな、散り散りになるのだと。

利吉が出て行く時、しのが「これでお別れ…」と目を伏せる。
兄と2人、どこかで暮らす覚悟だったしの。
だけどやっぱり、哀しい…。

その途端、文十郎が優しく「行くんだよ」と言う。
あれほど、しのに言い寄る男たちを追い払い、利吉にはしのは関係のない女だと言っていた文十郎の言葉。
助け人として、時には棟梁の代理として立派に仕切ってきた利吉への文十郎の最大の信頼。
男として、兄として、利吉を認め、しのを託す。

川を下っていく船の上で、寄り添った2人はとても幸せそうだった。
利吉なら、しのを幸せにできる。
哀しい過去を持つ利吉なら、必ず文十郎の期待以上に、しのと幸せな生活を築いて行ったに違いない。

そして、1人去って行く平内さん。
「文さん」という言葉と、文十郎と交わす視線で、死線を越えてきた男同士の友情がひしひしと伝わってくる。
今回の仕事で、多少のケンカはしても、2人はかけがえのない戦友。
とっても良いコンビだった。

誰とも、おそらく、もう2度と会えない…。
この寂しさ。
でも誰も、誰一人として「さよなら」とは言って出て行かない。

だけど平内さんはどこかで、たくましく生きて行ったと思う。
本当に僧侶になったかどうかは、わからないけど。
案外、陽気な坊さんになったかもしれない。

巡礼姿の棟梁は、今まで手にかけた人々の、為吉の菩提を弔って生きていくのでしょう。
そして、1人、ぽつんとススキの野原の中、座っているお吉。
利吉としのが去った後、自分には文十郎は何も言わなかった。
ただ、目をそらした。

だから、お吉は1人、行くしかなかった。
でもあれは、1人で行く平内さんに対する文さんの気遣いだったと思う。
1人で追っ手を引きつけて、川の流れの中に消えて行った龍を思えば、すんなりと幸せになるわけにもいかない。

だけど、平内さんは文さんの気遣いをわかっていたのではないかと思う。
きっとお吉と文さんは、一緒になるだろうと確信していたと思う。
平内さんだけじゃない、利吉もしのも、棟梁もわかっていたと思う。

文十郎に一途だったお吉の心には、ポッカリ埋まらない穴が開いていたと思う。
1人、何にも楽しいことはない。
するとさりげなく、お吉のいるはずの道をやってくる文十郎。
会えたからいいけど、会えなかったら大変だ。

無言のうちに立ち止まる文十郎。
駆け寄るお吉。
夕焼けの中、2人が寄り添って歩く。

平内さんの旅姿から、山崎努さんの助け人のエンディングのナレーションが流れる。
「助け人の存在を証明する記録は、何も現存していない」。
「ただ、江戸の庶民たちは彼らを義賊という名で、あるいは世直しという名で密かに語り続けた」。
「伝えられる闇の助け人の総数26人」。

ナレーションはお吉の姿の時に、終わる。
それが助け人たちの物語が、終わったことを告げる。
流れるテーマ曲。

お吉がせがんでも、今ひとつ、所帯を持つ気持ちを感じさせなかった文十郎。
その文十郎がお吉と微笑みながら、歩いていく。
解説には「そこにはお吉が待ち望んでいた幸せがあったのだろう」と書いてありました。
その通りだったと、私も思います。

助け人の清兵衛さん、文十郎さん、平内さんがもういらっしゃらないことを思うと、このラストはとても寂しい。
でも「助け人走る」は、味のある良いドラマだった。
すばらしい「必殺」の作品だと、登場人物もストーリーも大好きだと改めて思うのでした。


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2012.11.08 / Top↑
最終回直前にふさわしい、緊迫感とどんでん返し連発の回。
第35話、「危機大依頼」。

文十郎と平内は「ざくろの猪助」という男と、その用心棒で示現流の使い手の男を狙った。
平内が猪助を刺し、文十郎が奇声を上げて襲い掛かってくる用心棒を兜割りで刺した。
だが、一瞬、油断があった。

倒れるはずの用心棒は、文十郎に斬りかかってきた。
文十郎は手傷を負いながら、用心棒にトドメを刺した。
「大丈夫だよ」という文十郎を平内は、「ついてねえなあ」と言いながら支えて、その場を去った。

7日間、江戸は雨の降り続けだった。
雨の中、利吉が留守を守る清兵衛の家に、女性が訪ねてきた。
お願いしようかどうしようか…。
ずっと迷って雨の中、立っていたと言う女性は、利吉の顔を見て決心したという。

「お願いです。あの男を殺してください」。
「ちょっと待ってください、人殺しなんて…」。
戸惑う利吉に女性は、筋が通っていれば助け人は人も殺してくれると聞いたと言う。

日本橋の呉服商の女房の「おきぬ」だと、女性は名乗った。
利吉はおきぬを追い出したが、気になって戸を開けて外を見たところ、おきぬが雨の中、しょんぼりと帰って行くのが見えた。
そして、そんな利吉を見て、おきぬの後を追っていく男がいた。

文十郎は熱を出し、しのに介抱されていた。
兄を介抱しながら、しのは血だらけで帰って来た兄を見てもうダメだと思った。
「もう助け人はやめてくれ、兄を食べさせるぐらい、自分が稼ぐから」と、しのは言った。
文十郎の家で、雨漏りがする。

その頃、平内は女郎のところに入り浸っていた。
もう5日も居続けたと言われて、平内はふと、文十郎は大丈夫かと思った。
その時、女郎部屋もが雨漏りする。

利吉が1人、家で本を読んでいると激しく戸を叩く音がする。
先ほどのおきぬが追われているので、助けてくれと叫ぶ。
驚きながらも利吉は、おきぬを家に入れた。

おきぬは笠をかぶった中間に追われている、と言ったので、利吉は表を見る。
確かに、表を男がうろうろしている。
「行っちまいましたよ」。
「また帰って来るかもしれません。しばらくここにおいてください。あの軍平に見つかったら…、あの男はどこにでも踏み込んでくるんです」。

おきぬに「利吉さん」と呼ばれて、利吉は「どうして私の名前を?」と驚いた。
すると、おきぬは清兵衛が留守のときは、利吉に言うように聞いてきたと言った。
だが、利吉は何度言われても、助け人は人殺しなんてことはしないと言う。
ではせめて、身の上話だけでも聞いてくれと言われ、利吉はおきぬを座敷に連れて行った。

おきぬは子供はなかったが、亭主と仲むつまじく暮らしていた。
身寄りのないおきぬにとって、優しい亭主は心の支えだった。
去年の今頃までは。

今日のような雨の日、おきぬは旗本の正木三五郎の家に、代金がもう3月になっても支払ってもらっていないので集金に行った。
亭主が行っても一向に払ってくれなかったので、いっそのこと女性が行ったほうが良いのではないかということだった。
おきぬが代金を受け取り、領収書を書いていた時だった。
三五郎はおきぬに襲い掛かってきた。

しばらくして、おきぬは目が覚めた。
「ざくろの花の赤さが、目に飛び込んできた」。
そう、おきぬは言った。

屋敷にはさきほど、おきぬをつけていた男・中間の軍平がいて、三五郎はそのうち、軍平におきぬをまわすとまで言った。
さらに三五郎は、おきぬが受け取るはずの代金はこの次、店に行った時だと言い、軍平におきぬを店まで送らせた。
その時から三五郎はおきぬを脅迫し始め、その度におきぬは手文庫から何両か渡した。
使いに来るのは、いつも軍平だった。

もう用立てられないとおきぬが言うと、軍平はおきぬの体を要求してきた。
勝手口でもみ合う2人を見たじいやの市造が止めに入ると、軍平は市造を殴り飛ばした。
おきぬは、店に来た時から面倒を見てくれている市造に相談した。
すると、市造が、助け人の話をしたらしい。

その時、表の戸が叩かれた。
緊張が走ったが、戸を叩いたのは、お吉だった。
文十郎は治療中だし、平内は岡場所だし、つまらないので利吉と飲もうと思ってきたのだと言う。

「お客さん?」と目を留めたお吉に、利吉は「みんなを集めてきてくれないか」と言った。
「今度は文さんは、いいからね」。
「わかってるよ」と言うとお吉は威勢良く、飛び出して行った。
利吉がお吉を送り出すと、表に軍平の姿があった。

「では、引き受けてくださるんですね」。
「そういうわけじゃないですが、友達がいますので」。
その時、また表の戸が叩かれた。

「日本橋の相模屋から参りました。おかみさんはお見えでございましょうか」。
それはおきぬが話した、じいやの市造だった。
嫁入りの時に持って来た着物をあちこち、質屋に入れて10両集めた来たと言う。
「女将さんがおかわいそうでなりません。私からもお願いします」と、市造も言う。

しのは買い物に行ってくると言って、文十郎を置いて外に出ようとした。
その時、障子に人影が映ったので、「どなたですか」としのは聞いたが、八丁堀の羽織を見て押し黙る。
文十郎は1人、家に残った。

雨の中、平内が岡場所から出てくる。
同じく雨の中、お吉が龍にかさを差し掛けながら歩く。
町行く男が、「よっ、ご両人!」と冷やかす。

「どうしたの、もっとちょっとこっちよらないとぬれちゃうよ」とお吉がぬれる龍を気遣うと、龍は傘から飛び出した。
「俺はね、傘なんていらねえよ」と龍は下駄を脱いで雨の中、走っていく。
それを見たお吉は笑い出した。

利吉の下に、文十郎以外の助け人が集まった。
「お吉さん、遅いね。お前、どこで別れたの?」
利吉が聞いた時、お吉の「開けてください」と声がした。
お吉には、刃が突きつけられていた。

利吉が戸を開けると、お吉に続いて正木三五郎や軍平、三五郎の中間の勘中が飛び込んできた。
「何だ、おめえたちゃ!」
「相模屋のおきぬを渡してもらおう」。

そう言っておきぬを渡すよう、三五郎が命令した時だった。
利吉が突然、軍平に飛びかかり、平内と龍が3人を押さえつけた。
すると、「動くな!」と市造が匕首をおきぬの首を背後から締め付けた。

「市造、おまえ!」
「女将さん、申し訳ねえが裏切らせてもらいますぜ」。
市造は金目当てで、三五郎たちに寝返っていたのだった。

三五郎は笑い、軍平と勘中に平内と龍を縛るように言う。
大雨の中、店の表を見張っていた同心と岡っ引きが通っていく。
「騒いで同心たちに踏み込まれても良いのか」と三五郎は言う。

おきぬを残して、全員が店の奥に連れて行かれた。
だが、平内は密かに縄を切る努力をしていた。
軍平と勘中が、お吉に目をつけてちょっかいをかけ始めた。
怒ったお吉は2人に唾を吐きかけ、殴り倒される。

起き上がろうとしたお吉の目に、龍と平内の様子が目に入った。
龍が平内を見ると、平内はお吉に首を横に振った。
それを見たお吉は急に甘い声を出して、「痛い、縄がどんどん食い込んで痛い」と訴える。

「観念した」と言ってお吉は、軍平と勘中を誘い出す。
その様子を見た市造が「見張りは引き受けた」と言うので、2人はお吉を連れ出した。
するとその時、利吉が平内の縄が解けたのを見て暴れ始めた。
見張りの市造目を自分に引きつける為だった。

市造は利吉を殴る。
利吉が殴られている時、三五郎がやってきた。
三五郎はこれから助け人たちを痛めつけるが、平内から先にやらせてもらおうか、と言って、平内を殴りつけた。
その時、平内が立ち上がり、三五郎ともみ合いになる。

勘中を押さえつけようとした市造が、匕首を構える。
悲鳴が上がる。
刺されたのは、勘中だった。
おきぬがかみそりを手にする。

「この縄、ほどいてくれ」と利吉がおきぬに言う。
「ありがてえ。この縄、切ってくれ」。
おきぬが、平内たちのもみ合いを見ている。

三五郎が平内に押さえつけられ、龍が市造と軍平を押さえつける。
「女将さん、これでお前さんの不幸もおしまいってわけだ。引導渡す前に、そのかみそりで恨みを晴らしちゃあ…」。
そう言って平内が三五郎を、おきぬの前に差し出した時だった。

お吉が息を呑む。
「みんな、静かに押し」。
おきぬのかみそりは、利吉の喉元にあった。

「清兵衛一家の助け人さんたち、ちょっとでも動いてごらん。この利吉の喉から血が噴出すよ」。
おきぬの豹変振りに、全員が凍る。
「ほおう。じゃあ、この野郎の首でもへし折ろうか」と龍が軍平を強く押さえつける。

だが、おきぬは動じない。
「どうぞ。じゃあ、やりっこしようか」。
そう言うと利吉に押し当てていたかみそりに力が入り、利吉の喉から血が滲み出る。

「龍!やめて!」とお吉が悲鳴をあげる。
「離すんだよ」。
おきぬが凄む。
再び、平内と龍が抑えられた。

平内が、「おめえいってえ、何者なんだ」と言う。
おきぬが嘲笑う。
「まだわかんないの。頭の回りが悪いんだね。お前がこの前殺した、ざくろの猪助の女房、おきぬだよ!」
そう言うとおきぬは、「三五郎さん、その坊主が腰に刺しているキセル、とっておくれよ。亭主の首筋をグッサリやった、物騒なものなんだ」と言って平内のキセルをとりあげさせた。

「平内さん、龍さん、利吉さんにお吉さん。仲良く冥土へ行ってもらうよ」。
おきぬはそう言うと、「もう1人、中山文十郎とかっての、いたっけね。ふふふ…、今頃は三途の川を渡っているところだろうね」と言った。
「ちくしょう」と言うお吉に、「動くんじゃないよ」と脅す。

土砂降りの雨の中、男がやってきて、文十郎の家の障子を開けた。
男は、青い傘をさしていた。
熱を出して寝込んでいる文十郎が、少しうなされている。

侵入者の刀が抜かれ、そっと近づいてくる。
刀を抜いて振りかざした男は、「兄の仇!」と叫んだ。
振り下ろした瞬間、文十郎が身をかわして兜割りで受け止めた。

兜割りを手に、文十郎が部屋の隅に転がる。
「チェストー!」と叫んだ男は、部屋の隅に転がった文十郎を刺そうとした。
その直後、人を刺した手応えがあり、部屋は静まり返る。

おきぬが平内のキセルでタバコを吸う。
「親分の仇だ。応えねえのか!」
平内が軍平に殴られているのを、お吉が「やめて、やめて」と叫ぶ。

おきぬは、「うるさいねえ、この女。やかましく言うと、ブスリ、だよ。軍平、親分の仇だ。もっともっと痛めつけて、冥土へ送ってやんな」と煙を吐きながら言う。
「へへへ…、へい!」
三五郎は龍を痛めつけていた。

平内は頭をかきながら、「この5日間、良い目を見ていたからそのお返しかも知れねな。あー、いてえ。人生はあざなえる縄の如し、良いこともあらあ、悪いこともあらあ。晴れた後には雨も振る。しかし良く降りやがるなあ。ねえ?」と言った。
「ふざけるな、この野郎!」と軍平が殴る。
「痛あ…」。

おきぬが言う。
「だからあたしが言ったじゃないか。こいつら、一筋縄じゃ行かないって」。
三五郎が言った。
「姐さんの知恵はいつもながら見事だ」。

「でもさ、最後まであたしが相模屋の女房だと思ってたんだからね。こいつらも甘いもんさ」。
利吉が歯軋りする。
「ちくしょう、手の込んだ芝居しやがって。『ざくろの花の赤さだけが、わたくしの目にボンヤリと映っていた』、ぬけぬけと芝居しやがって」。

「その芝居にひっかかったのが、お前さんじゃないか」とおきぬが嘲笑う。
「闇の稼業の助け人が、人情をかけたのが命取り。あたしたちゃね、『ざくろ』組だよ。せっかく謎かけてやってんのに、お前の頭じゃ、解けないわね」。
おきぬは平内の側に寄って来た。

「平内さん、ね、ね、ね、ね、あんたさ、さっきあたしが下からチラッと見て、ちらちらっとやったら、すぐまいっちゃったわね。ねえ、地獄に行っても女の亡者にゃ気をつけてねえ」。
平内は「へっ、地獄へ行ったたって、てめえみてえな女はいねえだろうよ」と言う。
「うるさいよ!」と、おきぬが平内をひっぱたく。
「こいつは親分の仇だ、最後まで傷め抜いてから殺してやるからね!」

軍平が笑って、「へへへ、この!」と平内を殴る。
次におきぬは、龍の前にやってきた。
「ちょいとお前さん、良い男だね。ざくろ組入んないか?」

「姐さん」と三五郎が言う。
するとおきぬが、「お前、ヤキモチ妬いてんの?」と笑う。
「お前さんにはさっき、二代目猪助の名前と、あたしの体をやったじゃないか」。

「でも姐さん、こいつはさっき勘中を!」
「心配するこたあないよ。こんなの組に入れて、首の骨を折られちゃたまんないからね」。
おきぬは三五郎に、「こいつは勘中の仇だ!十分、かわいがってやんな」と龍を痛めつけるよう命じる。
「助け人さんたち。裏の稼業をするんだったらね、二段構え、三段構えに網を張っておくもんだよ」とおきぬは言った。

その頃、買い物を終えたしのが、土砂降りの中、戻ってきた。
「ただいま。兄さん、いいカツオがあったから、買ってきたわよ」。
しのがそう言って、て家にあがる。

だが、返事がない。
「兄さん?」
しのは、奥の座敷のふすまを開けて、悲鳴をあげた。

龍が、天井を向いてきょろきょろしている。
平内が「いててて…」と言う。
三五郎が「これだけ痛めつければ、十分だ。姐さん、そろそろ引導渡そうじゃねえか」と言う。

「棟梁が帰って来ると面倒になる」という三五郎たちだが、おきぬは、棟梁はそうそう帰ってこないことも調べていた。
「さあ、どいつから片付けようかねえ」。
おきぬの声に、既に縄を解かれていた平内は「ちょいと待ってくれ。殺るんなら、俺を一番最初にやってくれ。仲間が殺されるのを見るのは、かなわねえや」と言った。

「うるせえや!」と軍平が言う。
「人情が厚い助け人さんたちだねえ。その人情が命取りになったってことにまだ気がつかないのかい」。
すると、お吉が「おだまり!何だい、賢こぶりやがって!お前みたいな奴が女の中にいるなんて、あたしゃくやしいよ」と怒った。
そして、「殺せーっ!殺せ、殺せ!」と叫んだ。

だが、おきぬは笑って、「お前さんは殺さないよ。みんなで慰んだ後に、宿場女郎に叩き売るんだ。そうなんだろう、軍平?」と言う。
軍平は笑いながら、「姐さん、ありがとうございやす」と言った。
お吉の顔が真っ青になる。

笑う軍平の背後の龍の動きに目を留めたおきぬは、「軍平!油断するんじゃないよ。この男、まだあたしたち狙ってんだから」と鋭い声を発した。
そして、「じゃあ、まずこの若いのから行くか。三五郎、連れておいで」と龍を連れてこさせた。
「助け人の龍。お前が冥土の一番乗りだね」と、龍の髪をつかんでのけぞらせる。

三五郎の刀が、龍の首に押し付けられた。
龍が目を閉じる。
その時、表の戸が激しく叩かれた。

「お待ち!」とおきぬが言い、「軍平!」と軍平を応対に出させた。
「どちらさんですか、こちら今日、店を休んでおりますんで」。
すると、隙間から青い傘が見える。

「先生だ。姐さん。先生が帰ってきましたぜ」と、軍平が振り返る。
「上手く行ったようだね」と言うと、おきぬはお吉に向かって、「お前の恋しい文十郎さんは、もうあの世へ行っちまったよ」と笑った。
「ちきしょう…!」と、お吉が唇を噛み締める。

軍平が戸を開けると、青い傘が中に入ってくる。
「先生、こっちもね、なかなか首尾よく行ってまっせ」と軍平が笑った。
傘がふらつく。
「先生、大丈夫ですか」と、軍平が助け起こした時だった。

「あっ」。
傘から、兜割りが突き出される。
「誰だ…、てめえ」。

軍平が逃げる間もなく、刺される。
三五郎が斬りかかるのをかわし、血のついた兜割りを持った文十郎が姿を表す。
「文さん!」

龍が立ち上がり、お吉に押し付けていたおきぬの匕首をはじきとばす。
そして後ろの廊下に下がり、刀を振り下ろした三五郎をよける。
平内も縄を解かれていた為、立ち上がり、市造を押さえつける。

文十郎は傷が痛むのか、胸を押さえている。
市造を引きずった平内がおきぬの前に来ると、「ざくろ組のおきぬさん。上手の手から水が洩れたね」と言う。
文十郎が、痛みに前かがみになる。
平内は、キセルを持っていた。

「おめえさんが二段構えか、三段構えか知らないが、キセルも2本あるんだ」。
「野郎」と言う市造を、がっちり押さえつける。
店先では、龍が三五郎を戸を背に追い詰めていた。
三五郎の振り回した刀が、龍の縄を切った。

自由になった龍は三五郎を戸を背に、殴り、そして蹴る。
腹を押さえて立ち止まった三五郎を、持ち上げる。
三五郎の頭が、鴨居に当たる。
そして「あっ」と言う三五郎をかかえあげると、脳天から地面に叩きつけた。

おきぬと市造は逃げ出そうと走った。
だがおきぬの背後にいた市造の動きが、止まる
「市造!」とおきぬが早く、と、うながした時だった。

市造の背後に、紫煙が立ち昇っていた。
平内の姿が現れ、市造が倒れる。
紫煙を上げながら、平内はキセルの先を吐き捨てるように飛ばし、針を出す。

目を見開いたおきぬが、しりもちをつきながら後ずさりする。
「おきぬさん。俺は女を殺すのは、嫌なんだけどね」。
平内の声は、優しかった。

逃げるおきぬを背後から捕まえ、平内は針をおきぬの首に刺す。
平内がおきぬを離すと、おきぬは口からわずかに血を流しながら倒れた。
「別嬪だが…、まあ、いいや」と平内がつぶやく。
「地獄へ行って、閻魔様でもたぶらかすんだな」。

雨が上がった通りを、しのがかけていく。
「開けてください!」
しのが清兵衛の店の戸を叩くと、戸が開く。

龍が見える。
「兄さんは?」
龍が、しのを奥に入れる。
文十郎は、店の入り口のたたきで、胸を押さえて前かがみになっていた。

「兄さん、兄さん、しっかりして」。
しのが駆け寄る。
「俺は大丈夫でい」と文十郎が言う。

縛られている利吉が、転がり出てくる。
「利吉さん!」
「おしのちゃん、俺の縄を解いてくれ」。

縄を解かれながら、利吉は言った。
「俺たちゃ、甘かった。甘かったよ」。
座り込んでいる文十郎の横に、お吉が来る。

「文さん…」。
「お吉」。
お吉が泣き出し、文十郎にしがみつく。
「あいた!」と、胸を押さえている文十郎が言う。

平内と龍が、店の中を見回す。
土間に、青い傘が転がっている。
そして、軍平と三五郎も転がっている。



清兵衛の店で行われる密室劇。
降りしきる雨。
「仕置人」の「夜がキバむく一つ宿」を、ちょっと思わせました。

雨の為、ひどい降りの為、見張りの同心たちも引き上げていく。
BGMがどこか、不吉さ、不安さを感じさせている。
画面からは湿度と汗が伝わってくる。
梅雨のじめじめが感じられる。

ドラマの中で、何度も戸が叩かれる。
訪問者が現れる。
そして、その度に状況が変わる。

最初は平内たちがピンチに、次に逆転、次には市造の裏切りでまたピンチに、しかし平内たちがまた逆転。
しかし、肝心の依頼人が黒幕だった為に、またまた逆転。
今度こそ、大ピンチ。

文十郎が冒頭、傷を負って寝込むのも、襲われた結果どうなったかもわからない。
それが最後、手負いの文十郎の逆襲という展開に生きてくる。
文十郎の逆襲によって、一気に逆転。

戸を叩く音と、雨と音楽がともに、効果的な演出になっています。
しのが叩いた戸が物語の最後。
全てが終わったラストでは、雨が止んでいる。
この小道具というか、情景の使い方も見事。

文十郎の冒頭の殺しで、まさかの油断により手傷を負う。
だから今回、動きこそ少ないものの、文十郎が作ったきっかけによる、大逆転というかなり良い場面があります。
平内さんは、痛めつけられながらも、どこか飄々としている。

「殺るんなら、俺を一番最初にやってくれ」の言葉は、平内さんの優しさ。
「仲間が殺されるのを見るのは、かなわねえや」では、為吉を思い出しました。
あそこにいた助け人は、口には出さなかったけれど、全員思い出していたかも。

「俺は女を殺すのは、嫌なんだけどね」と言った平内の声は、とても優しかった。
だから怖い。
「生活大破滅」で緑魔子さん演じた悪女を、ためらいなくグッサリやったようにやってるんですが。
「悲痛大解散」以後の平内さんは、どこか達観したような、哀しそうな仕置きをします。

龍はお吉と相合傘になり、結局、傘から飛び出していく場面で、お吉が思わず笑い出す純情さが良かった。
だけど殺されそうになっても、形勢が不利でも、目の鋭さは残っている。
まるで、捕えられても噛み付く気力を失わない野生動物のよう。

ここで改めてわかったのですが、助け人たちは全員、情に厚い。
擬似家族のようだということ。
それが、弱点でもあること。

解説によると、放映当時の朝日放送の宣伝資料には「おきぬの正体を明かさないでください」と、注意書きがされていたとか。
それほど、衝撃のどんでん返しだったんですね。
「ざくろ」というのが、ヒントだった。

解説どおり、書かれている通り、これを成立させたのは、南野(以後訂正:南田)さんの演技力と個性。
「仕留人」では、1人で武家を守って子供の成長を見守っている気丈でけなげな女性を演じる南田さんの個性ですね。
利吉にかみそりを突きつけるまで、助け人も視聴者も、おきぬが黒幕とは気づかない。

哀しい女性が、一転して大胆不敵な悪女に変貌。
ふてぶてしい表情、声の調子。
この変身ぶり、お見事!

南田さんの悪女、お見事です!
ほんと、「必殺史上に残る」すばらしい悪女を見せていただきました。
素敵な女優さんでしたね。
この姿はいつまでも色褪せません。

手下の軍平はいかにも残酷で、小者。
調子に乗っているのがわかる、腹立たしさ。
堺左千夫さんが、この小悪党を実に上手く演じています。

そして、三五郎役の宮口二郎さん。
あのー、この方、「仮面ライダー」のショッカーの日本支部の司令官、ゾル大佐じゃないでしょうか。
どうも、どこかで見た感じがしたんですよね。
すごく懐かしいような、良く知っている人を見たような感覚がありました。

スタントマンなしで、アクションができる俳優さんだったそうですね。
それで、奥様が弓恵子さん!
まー、カッコイイご夫婦。

残念なことに宮口さんは、55歳でなくなられました。
平内さんも、文十郎さんも、宮口二郎さんも既に他界されています。
…そう考えると、この見事なドラマの出演者の方がいらっしゃらないのがものすごく寂しくなります。
でも、みなさん、こうして、良い作品でこんな輝いている姿が残ってる。

良かった。
みなさん、いい俳優さん、いい女優さんだと、改めて認識しました。
良い作品が残っていて、素敵な姿が今も見られて、本当に良かったと思いました。
展開といい、演出といい、俳優さん女優さんといい、見事なラスト前の回です。


2012.08.18 / Top↑
第34話、「必死大逃走」。


ある夜、芸者が買い占められてしまって、お吉が呼ばれた。
自前芸者はお吉しかいないのだ。
お吉が呼ばれたのは、座敷は塩問屋・讃岐屋と差配役の諸口剛造の座敷だった。
諸口は養子だったが、先代の後を継いで差配役になった。

だが諸口は、先代をたたえる讃岐屋の態度が気に入らない。
持って来た菓子折りを持ち上げ、軽さに顔をゆがめる。
外に出た讃岐屋も、想像以上に難しい方だと言って、ため息をついた。

座敷に呼ばれたお吉は、諸口から菓子をやると言われ、先ほど讃岐屋に貰った菓子折りを与えられる。
廊下を帰って行く諸口は、待っていた塩問屋・坂出重助の座敷に引き入れられた。
坂出屋は、日本橋に塩問屋を出したいと言う。

だが、一地域に問屋はそれぞれ、ひとつ。
坂出屋は番頭の三平に、芸者を大勢呼ばせ、諸口をもてなし、諸口は上機嫌になる。
廊下に出た坂出屋は、用心棒の陣内に「手はずどおり、ことを運べ」と告げる。
間もなく、讃岐屋は御禁制の品を扱っていたと捕えられ、処刑された。

諸口の家には、商人からの付届けが山のように届いた。
妻のみねは、父親の代にはこのようなことはなかったと心配する。
だが諸口は妻が自分を養子だから見下していると言い、仕事に口出しは無用と突っぱねる。

諸口が町を歩くと、讃岐屋の後釜を狙って、次々、商人たちが声をかけてくる。
そんな中、坂出屋が今夜も諸口を座敷に呼んだ。
同じ頃、助け人のところにお吉が、讃岐屋の番頭の佐助をつれてきた。

讃岐屋の主人は、法を犯すような真似はしない。
主人にこの恨みきっと晴らすと約束した佐助は、黒幕は諸口と坂出屋と見当をつけて依頼をしてきたのだ。
利助はこの話には、嘘がないか確認し、助け人が動き出す。

坂出屋の番頭の三平は、諸口の接待に呼ばれていることから、仲間から「良いご身分だな」と嫌味を言われる。
だが三平は仕事に励みながら、「いつでも代わってやるぜ」と言うのだった。
その夜も三平は諸口の座敷に呼ばれ、腹に絵を描いて踊り、諸口の歓心を買う。
しかしその座敷に佐助が飛び込んできて、讃岐屋をはめたのは坂出屋と諸口だと言った。

諸口が刀を手にするが、坂出屋が止める。
その頃、矢場では坂出屋の用心棒の陣内が、矢にいちゃもんをつけてきた男を的にして追い払う。
このすぐ後に三平と諸口が、その矢場に遊びに来る。

諸口が遊んでいる影で、坂出屋は陣内に佐助の始末を頼む。
するとまたしても、矢場に佐助がやってきて、讃岐屋がはめられたことを訴える。
陣内に追い出された佐助の後を案じて、平内と利吉が後を追ってくる。
その夜、諸口は坂出屋に妾と妾宅の世話までしてもらった。

1人になって酒を飲む三平は、使用人たちはただ酒を飲んでいるいい仕事だと嫌味を言われたことを愚痴る。
三平は、「酒は自分の金で飲むのが一番うまい」と言う。
そこに通りかかったお吉も同意する。

「自分の金で飲む酒が一番おいしいよね。仕事の内容は違っても、人様のご機嫌を取ることは同じだもんね」。
三平はみんな、自分のことをバカ話したり、裸踊りをするしかない能無しだと思っていると愚痴る。
その言葉を、お吉は否定する。

三平のやっていることは、お店の為になっている。
そこでお吉は、讃岐屋を死罪に追い込んだのは坂出屋という噂があると教える。
しかし、三平は、それは頭がおかしくなった佐助が言っていることだと取りあわない。
だがもしその話が本当なら、坂出屋には勤めていられないと言った。

佐助はそれほど、讃岐屋で良い仕事をしていたんでしょうと三平は言う。
そして、うらやましい。
私は今の店では、そんな気になれないと言った。

その翌朝後、佐助は讃岐屋で、首吊り死体で見つかった。
龍が、矢場と坂出屋が繋がっていることを突き止めてきた。
間違いない、坂出屋の仕業だろう。

連日の接待に疲れた三平はたまの休みを取り、子供と魚釣りにでかけた。
しのの茶屋に立ち寄った三平を、諸口と一緒にいたお吉が気づき、挨拶をする。
諸口は三平を見ると、残酷な笑みを浮かべ、芸者たち綺麗どころに好かれてうらやましい、と絡む。

そして、三平がいないので寂しくてつまらない、あの座敷でやっている踊りをやってくれと言った。
あの腹踊りは座敷でやるもの、こんな白昼の大道、しかも妻や子供の目の前で「あんなはしたないものは、勘弁してください」と三平は言う。
お吉も「そうですよ」と口ぞえしてくれたが、諸口は、「人に見せられないはしたないものを見せていたのか!」と迫った。
「今が一番店にとって大切な時」と言う坂出屋の頼みもあって、三平はついに腹を出して踊り始める。

往来の人間が笑い、いたたまれなくなった三平の妻は子供の健太に見えないようにして連れ帰る。
そこに至って三平はついに、坂出屋に配置換えか、退職を願い出た。
坂出屋はもうすぐ日本橋に進出するので、その際は三平にも相応の役職を用意していると約束する。
何と言っても、三平の手柄でもあるのだから。

そう言われて、三平は家に戻った。
だが、三平が「恥をかかせたな。すまん」と家に入ると、妻は「いいえ、私の方こそごめんなさい。あなたの立場もわからないで、逃げ出したりして…」と微笑む。
三平は出世の話をする。

坂出屋が用意した別宅に諸口が行くと、そこには諸口の妻がいた。
それを見た坂出屋が、息を飲む。
諸口はここは坂出屋の別宅だと言うが、みねは妾から一部始終を聞いたと言う。
坂出屋はごまかそうとするが、みねは坂出屋と付き合うようになってから、諸口の品行は一層悪くなったと言う。

みねは引き下がらず、諸口に父の墓前で何か言えるのかと穏やかながら厳しく責めた。
「夫に向かって!」と諸口は逆上、みねを刀で叩きのめした上、斬り殺してしまった。
我に帰った諸口は「ダメだ…、俺はもう、ダメだ」と呆然とした。

坂出屋もこれには、真っ青になる。
しかし、坂出屋には、ある考えが浮かんだ。
「ここでお待ちくださいまし」と言うと、坂出屋は出て行く。

三平に坂出屋が呼んでいるという、呼び出しが来る。
坂出屋の別宅に三平が行くと、諸口の妻のみねが死んでいる。
驚く三平に坂出屋は、諸口は妻の不義密通を見て、妻の密通相手もろとも斬ったのだ、と言う。

そして、その密通相手は…、「お前だ」と坂出屋は三平に言った。
何故だ、何故自分が…!
三平はそう叫ぶと、逃げ出した。

別宅を飛び出した三平は、悲鳴をあげて逃げる。
そして、表を見張っていた龍と平内に保護された。
三平は、「あなた方は私の命の恩人です」と言って、全ての事情を話す。

だが、妻と子供が危ない。
文十郎と平内が、三平の妻と子供を廃屋に匿う為、迎えに行く。
廃屋の前に、龍が待っていた。
三平を見た健太と妻は走り出す。

その時、矢場で遊んでいた坂出屋の用心棒・陣内たちが矢を射って来た。
中の1つが、子供に当たる。
文十郎たちは急いで、廃屋に入り、立てこもった。

「1人、2人、3人…、しめて10人か」。
「どうなるんです」と三平が言うが、文十郎と平内にもわからない。
近づいてくるならともかく、手の打ちようがない。
夜になるともっと、まずいことになる。

しかも、健太が熱を出してきた。
龍は、早く子供を医者に診せないといけないと言う。
「助けてください」と、懇願する三平。

三平は「出て行きます。このまま健太をここで死なせるわけにいかない」と言うが、文十郎は止める。
もはや、ここにいる全員を生かして帰すつもりはないだろう。
文十郎は、ボヤ騒ぎを起こすことを考えた。
煙をたくさん出して、「火事だ」と、大騒ぎをする。

すると百姓たちが騒ぎ出し、相手は襲ってはこられないだろう。
文十郎は、三平一家に戸板の裏の隅に隠れているように言った。
何があっても、出て来てはいけない。

廃屋から煙が上がる。
それを見た百姓が「火事だ」と走って仲間を呼びに行く。
百姓たちは、火を消しに集まってきた。

文十郎も、平内も、龍も構えて待つ。
集まってきた百姓を追い払い、用心棒たちが乱入してくる。
すると、縄目を作っていた龍が、縄に飛びつき、宙を飛んで来る。

龍が1人を飛ばし、1人を倒し、斬りかかって来た1人を倒して胸の上に大石を落とす。
平内もキセルの針で、1人、2人、3人と倒していく。
飛び込んできた1人を、文十郎は兜割りで刺す。

陣内が飛び込んできて、陣内の長い刀と、文十郎の兜割りが合わさる。
刀と兜割りが離れた一瞬、文十郎は足を陣内が横に振るった刀でかすめられる。
だが次の瞬間、斬りかかって来た陣内は兜割りで刺された。

隅では、三平親子が怯えている。
文十郎は、三平親子に「早く医者へ!」と言い、「は、はい!」と三平はお辞儀をして妻と子を伴って走っていく。
「どうだい文さん?」と言って平内と龍がやってきた。
文十郎は「俺は大丈夫だ。後の奴らを頼むぜ」と言って、2人を送り出す。

坂出屋と諸口は、三平を上手く始末したかと、報告を待っていた。
闇に紛れて、龍と平内が諸口の家の門をくぐる。
諸口が、ふと、気配に顔を上げる。
つられて坂出屋が、部屋の隅を見た。

そこには紫煙が立ち昇っていた。
諸口が刀を手にし、「何者だ!」と斬りかかる。
龍は諸口を投げ飛ばし、庭に放り出す。
諸口は刀を振り回すが、龍は諸口のの刀を弾き飛ばした。

刀が庭の植え込みに、刃を上にして刺さる。
そして龍は諸口を捉えると、空中高く放り投げた。
諸口は頭から落ちていく。
刀がその下に待っていた…。

恐怖に駆られた坂出屋は部屋の奥に逃げ込もうとするが、平内が捕えた。
平内がキセルの先を取り、針を見せる。
追い詰められた坂出屋の額に、平内は針を叩き込む。
龍、そして平内は急いで屋敷の縁側から庭に下り、走ってその場を立ち去る。



菅貫太郎さんが差配役人・諸口剛造。
三平親子のプライベートを目撃した時、底意地が悪そうに光る目。
先代と妻に対する卑屈さ。

妻のみねに、狂気を爆発させる目。
斬り捨てた後、「俺はもう終わりだ…」と絶望する目。
狂気にも、無体にも、卑屈さが見える。

さすが、菅貫太郎さん。
何から何まで、完璧!
みねを殺してしまって、坂出屋もびっくり。

その前にやったことは、家族で遊びに来ている下請けのサラリーマンに、夕べの接待の席でやったことをやれ、って言ってるようなもんでしょう。
これはひどいわ。
常識がない以前に、人としてどうかと思うわ。

お吉も「声かけなきゃ良かった…」と思ったはず。
何とかとりなして、それでもダメでつらそうなお吉。
こんなの相手にしているんだから、お吉も大変。
「自分の金で飲む酒が一番おいしいよね。仕事の内容は違っても、人様のご機嫌を取ることは同じだもんね」と言った、調子よく相手に合わせて遊んでいるように見える芸者・お吉の本音が効いて来る。

坂出屋は、城所英夫さん。
「必殺仕掛人」の、放送禁止回とも言われている「地獄へ送れ狂った血」の殿様です。
こっちも異常性格の殿様でしたね。

三平役は、嵐堪忍さん。
後の鶴田忍さんです。
鶴田さんは「必殺」には悪役でも出ますが、何と言っても「仕業人」で「牢屋は天国、がんばりまーす」と微罪を重ねては主水が牢番をしている牢に戻ってくる銀次ですね。
暗い話が続く中で、一服の清涼剤だったり、たまには主水に協力したり。

ここでは、使用人のつらさ、接待を受け持つつらさを見せてくれます。
現代にも通じる叫びが聞こえてくるようです。
いやー、こんなお店に明日はない!と言ってやりたかったら、やっぱりなかった。
それと、佐助さん、助け人が動いてるんだから、大人しくしてくれないと。

逃亡から篭城、そして反撃と展開もテンポ良い。
物語の途中、坂出屋の用心棒・陣内が矢場で矢を命中させる、矢の名人という描写があります。
この用心棒は「世情大不安」の犬塚さんが追っていた仇役の木村元さん。
やっぱり、「必殺」では良く見ました。

殺陣は廃屋での文十郎たちの用心棒との斬り合いと、そして文さん抜きだけど坂出屋と諸口の仕置きシーンと2つ。
龍が弾き飛ばした刀に、頭からグッサリ刺さるのはちょっとビックリ。
上手い展開ですが、これはすごいです。
見せ場が一杯で、時間が短く感じる回です。


2012.07.24 / Top↑
第33話、「忠誠大心外」。


しのの茶屋に、思いつめたような様子の女性がいる。
気にするしのに文十郎は、余計な係わり合いは持たないよう、自分たちは人様の世話を焼ける身分じゃないと釘を刺した。
だがその途端、その女性は倒れる。
しのが医者を呼んだが、やがて医者は笑顔で帰って行く。

女性に、子供ができていることがわかったのだ。
来年の春には出産となる。
文十郎も喜び、しばらく休んでいるように言うと、夫に知らせてくると言ってやる。
しかし女性は泣き崩れ、自分にはもう夫もいなければ帰る家もないのだと言った。

女性の名は日田つやといい、夫は須坂藩の勘定吟味役の日田平之助。
平之助は突然、つやに離縁状を突きつけ、とりあえずの当座の資金を渡すと姿を消した。
そして、すぐに藩の者が追って来た。

家老の坂田の話によると、平之助は苦しい藩財政の中、蓄え、商人からも借金した千両の金を横領して脱藩したという。
確かに、つやに渡した金にも、藩公金の封印がしてあった。
住み慣れた役宅も追われたつやは、町をさまよい歩いていたのだった。
話を聞いた文十郎は平之助をひどい夫だと怒ったが、つやは夫はそんなことはしない、これは何か訳があると信じていた。

その頃、平内は女性に反物を買ってやろうとしたが、藍染の反物は平内の予想外に高く、藍染の手ぬぐいで誤魔化そうとした平内は振られる。
平内は龍に愚痴を言うが、阿波の藍染は藍玉の作り方も染めも特殊で、他では真似ができないのだと龍は言う。
自分は阿波にいたことがあるのでわかるが、百姓は米を作らず、畑で藍を作っている。
阿波は藍で持っていると、龍は言った。

そこに文十郎が来て、平内たちと背中合わせに座る。
「久しぶりだな」と言う平内に、後で集まってくれと文十郎は言う。
しのは利吉につやを紹介したが、利吉は公金を横領するようなら夫はもう江戸にはいないだろうし、そんな夫のことは忘れて故郷に戻った方がいいと忠告した。
だが、つやは平之助を信じて、探してくれるよう、5両を差し出した。

利吉から話を聞いた平内は、日ごろ真面目な男が魔が刺して公金横領することなど、よくある話と言う。
しかし、利吉はひたすらつやが夫を信じていることを話した。
龍は、1万石ぐらいの藩では、千両に血眼になるのは無理はないと言った。
侍の金は良くわからないと平内も言うが、利吉は文十郎としのはつやの人柄を信用しているし、自分も信用していると言う。

そして、平之助探しを依頼した。
同じ頃、お吉のお座敷では阿波の藍商人・藍屋徳兵衛が景気良く芸者たちに金をまいていた。
徳兵衛は、阿波の藍大臣と呼ばれている。

お吉も必死になって、小判を拾う。
小判をまきながら「つまらんなあ。銭で動く女は…」と、徳兵衛は言う。
その時、徳兵衛をあの家老の坂田が訪ねてきた。

坂田は日田平之助に公金を横領されたことを話し、借金の返済を延ばしてくれるように頼んだ。
作り話ではないかと言って徳兵衛はが鼻で笑ったのでい、坂田の側近の佐々木は刀に手をかけた。
しかし、徳兵衛は阿波徳島25万石・蜂須賀藩がバックにいると言って強気だ。

だが徳兵衛は、横領して脱藩したのは勘定吟味役の日田と聞いて考え込んだ。
日田には、つやという美しい妻がいるはずだ。
徳兵衛も一度見たことがあるが、あの美しさは忘れるものではない。

つやと2人だけで会わせてくれれば、借金の返済のことは考えても良い。
「魚心あれば水心」と、徳兵衛は言う。
事情によっては、返済を待たないでもない。
坂田は「よくわかった」と返事した。

座敷が引けたお吉は、文十郎に徳兵衛が座敷で撒いた小判を見せていた。
途中から客が来て、その客が須坂藩の江戸家老の坂田と知った文十郎は、何の用だったかお吉に聞いてみる。
お吉は、おおかた、借金返済を待ってくれといったところじゃないかと言う。
「武士が商人に頭を下げて金借りる、悪いご時世だってなあ」。

その頃、旅姿の清兵衛の姿が茶店にあった。
清兵衛は木彫りの仏を作っていた。
「ご精が出ますなあ」と声をかけられた清兵衛は、お辞儀をする。
仏を完成させると清兵衛は寺に行き、仏を寄進した。

「お見事なできばえでございますなあ」と僧侶は、感嘆した。
さらに清兵衛は懐から金を出し、無縁仏の供養を申し出た。
僧侶は「あなた様はこれからいずこへおいでなさるおつもりかな」と尋ねた。
清兵衛は「風の吹くまま、雲の流れるままに身をゆだねておりますので」と答えた。

利吉とつやが平之助を捜し歩いている時、佐々木がつやを見つけてやってきた。
佐々木は、家老が平之助のことで話があるからと探していたことを告げ、つやを連れて行こうとした。
利吉は警戒するが、つやは「大丈夫です、必ず夜には戻ります」と言って、佐々木についていった。
つやに会った坂田は言った。

役宅を追い出したことを恨んでいるだろうが、自分の本意ではない。
一応、形だけでもケジメはつけなければいけなかった。
世間の風当たりも強いだろうが、やがてほとぼりも冷めよう。
そうすれば好きな時に戻っても良いからと坂田が言うと、つやは「ありがとうございます」と頭を下げた。

そこで坂田は、藍屋徳兵衛に平之助が横領した千両の返済を迫られて困っている。
一度会って、つやからも口添えをしてもらいたい。
佐々木も、つやは平之助の罪を償わなければならないだろうと言う。
つやは黙って、承知した。

その夜、徳兵衛の座敷につやが呼ばれた。
途中、坂田と佐々木は用事ができたと退席していったので、徳兵衛とつやは2人きりになった。
つやは徳兵衛に、夫のしたことに合点が行かないと言う。

徳兵衛の座敷からの帰り道、坂田は佐々木に「自分たちも遊んでいこう」と誘う。
「千両の金は使い出がある。おかげでこの年になって初めて世の中が楽しくなったわ」と坂田は笑った。
その頃、つやは徳兵衛に襲い掛かられ、寝所に連れ込まれた。

お吉と料亭の庭にいた文十郎は、女性の悲鳴を聞きつけ、声がする部屋に駆けつけた。
障子を開けると、襦袢姿のつやが泣いており、横には徳兵衛が悠々とタバコを吸っていた。
現れた文十郎を見て徳兵衛は「ばかもん、何してんだ!あっち行け!」と怒る。
お吉は「てやんでい、こんちくしょう!」と叫んだ。

文十郎が座敷に飛び込み、徳兵衛を殴りつけた。
つやが座敷から走り出て行き、お吉が着物を持って後を追う。
橋の上で、つやは川に飛び込もうとしていた。
文十郎がつやを止め、「夫のことの真相を知るまでは死ねないんじゃなかったのか」としかりつける。

川のほとりで落ち着いたつやは、お吉に着物をかけてもらいながら、「文十郎様のおっしゃるとおりです」と言った。
「夫の真実をこの手でつかむまでは、決して死ねないわたくしだったのです」。
お吉も「そうですともさ。お腹の赤ちゃんだっているんですよ。それをお忘れになっちゃいけませんよ」と優しく言った。

うなづくつやを見た文十郎は、お吉に「よう、帰ろうか。夜風は体に毒だ」とうながした。
笑いあう文十郎とお吉につやは、「わたくし、自分の家に戻ります」と言う。
驚く2人に「もう大丈夫です。あの家で、良い報せを待っています」と笑った。

翌日、街道に1人の男がいた。
その男は、数人の後ろから来た編み笠をかぶった侍に後ろから背中をばっさりと斬りつけられた。
さらに肩を斬られ、「蜂須賀だな!」と叫んだ。
編み笠の侍は「貴様、生かして江戸には帰さん!」と叫ぶ。

たった1人で応戦していた侍は、川に飛び込んで逃れた。
岸に泳ぎ着き、瀕死の体ではずれの一軒家にたどり着く。
そこには清兵衛がいた。

物音に身構えながら「どなた」と清兵衛が尋ねると、侍は刀を構えながら「声を立てるな。水をくれ」と言って倒れる。
清兵衛は倒れた侍を、手当てしてやった。
「すまぬ…。名は何と言う」と侍は、床に伏しながら聞く。

「江戸者とお見受けするが、何ゆえこんなところで」。
その問いに清兵衛は答えず、「かゆでも作りましょう」と立ち上がる。
侍は「私は須坂藩士、日高平之助と言う」と名乗った。

阿波蜂須賀の手の者に追われている。
だがこの傷では、もう逃れられまい。
そう言って平之助は、清兵衛に「頼みがある」と言う。

包みを取り出した平之助は、「これを須坂藩江戸屋敷に届けてほしい」と言った。
だが、清兵衛は「お断りします」と即答した。
「正直に言おう。この中で書付がある」と平之助は言った。

平之助が持っていた包みには、平之助が命がけで調べた、阿波の藍の製造方法が書き込まれていた。
「何にも聞いてはおりません」と清兵衛はただ、横を向いている。
「待ってくれ。これが国元に届き、わが須坂の民百姓が藍作りに励めば、飢えて死ぬ子供がいなくなるのだ」。

そう言って平之助は、頭をさげる。
「私はこの仕事に命をかけている。頼む…、この通りだ」。
その時、清兵衛が外に気配を感じ、灯りを消す。
表には、蜂須賀の手の者が迫っていた。

平之助は刀を手に、出て行こうとする。
「そんな体で。斬り死になさるおつもりですかい」。
平之助は包みを振り返って「これさえ江戸表に届けば、私の死は犬死とは笑わせずにすむ」と言った。
「頼まれてくれ」。

頭を下げた平之助は「妻に伝えてほしい。平之助は藩の為、国の為死んで行った、と。頼む」と言う。
清兵衛は平之助を呼び止める。
そして「裏に船があります。あっしも江戸までお供いたしましょう」と笑った。

お座敷では、またしても徳兵衛が小判をまいていた。
だが、お吉は拾わずにいる。
徳兵衛は「どうした、お前、金はほしくないのか」と言った。
「欲しいに決まってるでしょう。でもね、あんたの金なんて拾うものか。女を手篭めにするなんて最低」とお吉は言う。

徳兵衛が「いつまでも手厳しく責めるもんじゃありません」と言ったが、お吉は「顔見るたんびに言ってやる!」と返す。
「こいつ!」と、お吉を抑えようとした番頭にお吉は平手をくらわせた。
すると徳兵衛は「そうは言っても、据え膳を食わない男は少ないだろう」と言った。

「据え膳?」
「ご家老があつらえてくれた馳走だったからな。あの奥様は」。
お吉は助け人たちに、つやをひどい目にあわせたのはあの家老だったと知らせた。

平内も家老は妾を3人も囲い、湯水のように金を使っていると言った。
側近の佐々木も似た真似をしている。
ということは、平之助は濡れ衣を着せられたのか。
はたまた、何かの理由があって、自分から濡れ衣を着たのか。

翌日、平之助は清兵衛に付き添われ、江戸屋敷に到着した。
「かたじけない!この恩は一生…」。
「さ、早くお行きなせえ。ご家老さまが首を長くして、お待ちでしょう」。
「何の礼もできぬが…」と平之助は、路銀のあまりを受け取ってくれと差し出した。

驚く清兵衛平之助はに「案ずるな。横領したものではない。ご家老様から頂戴したものだ」と笑った。
「頂戴いたします」と清兵衛は受け取った。
「うん。必ず、屋敷へ訪ねてきてくれよ!」
「はい」。

「十分、ご養生なさいませよ」。
清兵衛に笑いかけ、平之助は屋敷の戸を叩いて、「ただいま、帰参した!」と声をかけた。
つやは夫の影善を据えながら、夫を待っていた。
そこに清兵衛が訪ねてきた。

「日田平之助さまの奥様でいらっしゃいますか」。
「はい」。
「やっぱり、この家においでになりましたか…、いえね、ご主人さま、たった今、江戸へお戻りになりました」。
「えっ!まことでございますか!」

「はい、ようございましたなあ、奥様」。
「あっしは信じておりました。奥様はきっと、ご主人様を信じてお待ちになっていらっしゃるだろうと。世の中にはそういう夫婦が一組ぐらいあってもいいはずだ、と。そう思っておりました」。
「夫は藩の為に、阿波の国までまいったのでございますね」。
「はい、公金横領も、脱藩騒ぎも、みんな、ご家老様とご相談の上のお芝居だったんでございます。敵を欺くにはまず、味方から」。

つやは微笑んだ。
「…では、離縁状も?」
「はい。男の命がけの仕事。もしもの時、災いが奥様に降りかかることを案じて、お書きになったのでございましょう。それも、奥様をお信じになっていたればこそ、お書きになれたんでございましょうね」。

つやは涙を隠しながら、「会いたい…、一目」と言った。
その様子を見た清兵衛は「こりゃ、どうも。長居をいたしまして」と腰を上げた。
つやは立ち上がったが、清兵衛は平之助を連れてきますと言った。

鐘が鳴る。
1人、座敷に座っているつや。
「あなた…、やっぱりつやが信じていたあなたでした。うれしい…、つやはうれしゅうございます」。

道を行く清兵衛は、不吉な鴉の群れに目を留める。
白装束に着替えたつやは、懐剣を膝に「ごめんなさい、あなた。生きてお会いできるつやではないのです」と言った。
懐剣を抜き、つやは一気に喉を突いた。

須坂藩の江戸屋敷では家老が「よくぞやった。平之助!大義であったぞ!」と言い、傷を気遣った。
だが、平之助は一日でも早く、民百姓が藍作りに励む姿が見たいと言った。
「下がってよい。養生せいよ」。
「はい」。

そう言って下がろうとした平之助を、佐々木の後ろにいた側近の石坂が刺した。
「何をするか!」
続けざまに刺された平之助は、「何故だ。何故なのだ」と叫び、絶命した。

佐々木は「迷わずに成仏しろ。貴様の仕事は我々の役にたててやるぞ」と言う。
絶命している平之助に歩み寄った、坂田も言う。
「平之助。民百姓の為、咲く藍の花は美しかろう。だが、わしはそのような遠い先の日を待つよりも目の前の千両の楽しみを…、選んだのじゃぞ」。

平之助を訪ねてきた清兵衛は、屋敷のものに、逃げられないと知った平之助は家老の前で腹を斬ったと言われた。
「えっ、何ですって!」
信じられない表情の清兵衛の前で、屋敷の戸はあっさり閉まった。

そして徳兵衛には坂田が、平之助が持って来た藍作りの書が突きつけた。
「お前の負けだな」と坂田は言った。
藍玉の作り方から、染めの技術まで、阿波の藍の秘密はここにある。

「見事に盗まれましたな」と、徳兵衛はため息をついた。
やがて、須坂藩の千曲川のほとりに、藍の花が咲くだろう。
財政は潤うことだろう。
「隆盛を誇る阿波の藍を蹴飛ばしてくれる。貴様のお大尽遊びもこれまで…」と佐々木は笑ったが、しょげる徳兵衛の助かる手はあると言う。

「須坂藩は、藍作りを諦めてやっても良いのだぞ」。
そう、徳兵衛がこの書を千両で買い戻す、というのなら。
「安い買い物だろう」。

徳兵衛はわかりましたと言うと、千両の証文をすぐに坂田に渡した。
佐々木が証文をやぶると、坂田は「あと千両出してもらおう」と言った。
「話が違う」と言う徳兵衛に、「女1人世話させたことを忘れるな」と坂田は言った。

「つやの操に、千両払っても不服はあるまい!」
言われた徳兵衛は、ガックリと頭をたれた。
「そういうからくりだったのかい」。
床下に潜んでいた清兵衛が、つぶやく。

その時、清兵衛は床下にいるもう1人の何者かに遭遇する。
黒装束のその男は、利吉だった。
だが利吉は清兵衛とは気づかなかった。

塀を登り、外に待っている文十郎と平内に利吉は「やばい!逃げろ!」と言う。
逃げる3人を清兵衛は追いかけ、「待てっ!」と叫ぶ。
文十郎が兜割りを手に清兵衛に斬りつけるが、清兵衛は文十郎の手を取ると地面に転がる。
そして「俺だよ」と言う。

手ぬぐいを取った清兵衛を見た3人は、「あれっ!」と驚いた。
「棟梁!」と利吉が駆け寄り、文十郎と平内も清兵衛の手を取る。
助け人たちと再会した清兵衛は、全員が無事でいてくれたことを喜んだ。

しのが微笑み、お吉はみんな待っていたと言う。
平内が「いや、待ちかねていたんだ。なあ?」と龍に言う。
龍もが微笑みながら、うなづく。
「よく戻ってくれました」と文十郎が言う。

そして早速、清兵衛は平之助から受け取った小判を並べた。
すると利吉が、つやから預かった小判を出す。
「やっていただけますな」。
全員の顔がひきしまる。

龍が須坂藩の江戸屋敷の門の前に行き、下駄を脱ぐ。
おもむろに戸を叩くと、見張りが出てくる。
それを気絶させて走り出てきた侍を次々、気絶させる。

石坂が出て来て、驚いて龍を見る。
龍は宙を飛ぶと、下駄を投げる。
下駄を避けた石坂だが、龍に投げ飛ばされ、頭から落下した。

動かなくなった石坂を龍は持ち上げ、振り回す。
振り回された石坂は、木に激突した。
血を流して、石坂が放り投げられる。

坂田は屋敷内で、千両を並べて、酒を飲んでいた。
佐々木が、満足そうに小判を並べていく。
すると坂田の杯に、何かが投げられ、落ちていく。

藍玉だった。
杯の中、藍の色がゆっくりと広がっていく。
「何だ、こりゃ?」

辺りを2人が見回しながら、佐々木が「これは藍玉とこころえまするが」と言う。
「藍玉?」
障子の外の気配に「何者だ!」と、佐々木が近寄る。

突然、障子が開いて、平内が現れ、佐々木を廊下に引きずり込む。
紫煙が立ち昇る。
佐々木の前に、針をかざす。

「ひえええ」と、佐々木が怯える。
平内は佐々木の額を、一撃した。
小判が、飛び散る。

後退しながら、坂田は刀を手に取った。
だが、背後から文十郎の手が伸び、刀を抜く手を抑える。
そのまま、坂田を羽交い絞めにして、文十郎は「ご家老」と呼びかける。
「藍の色は…、血の色だよ」。

文十郎が手を離すと、坂田は斬りかかってきた。
坂田の刀は宙を斬り、文十郎が坂田を正面から兜割りで刺す。
兜割りを抜くと、坂田はうめいて倒れる。
並べた小判に、血が流れる。

血は流れて、小判を押し流す。
文十郎はそれを見つめる。
平内もそれを見ている。
文十郎と平内、そして龍は連れ添って、拍子木の鳴る夜の町を帰って行く。



江戸を離れていた棟梁、おかえりなさいの回。
為吉の骨を故郷に返してから、慰霊の旅の棟梁は仏像を彫っては、寺に寄進していたらしい。
そこへ文十郎たちが探している平之助を逃げ込ませるという、上手い接点。

最初は関わりになりたくない…とそっけなかった清兵衛だけど、生来の性格が出て、命をかけた平之助の様子に協力をする。
いつでも江戸に戻れるように、船は用意していた。
結局は困っている人、必死な人を前に手を差し伸べずにはいられないのは文十郎も同じ。

つやを気にするしのに関わるなと言っておいたけど、結局、関わっている。
最初に徳兵衛の投げる小判に群がったものの、つやに乱暴したのを知って小判に知らん振りするお吉もいい。
いいカップル。

阿波の藍の話…、というと、後には「新・必殺仕置人」の「阿呆無用」があります。
こちらでも当たり前ですが、阿波の藍は門外不出の秘密になっている。
それを外にもらしたという罪で、依頼人の父親が捕えられる。

それだけ阿波の藍は、話の軸になる重要なものなんですね。
しかしそれだけ厳しく守られている秘密を平之助はどうやって探ったのかは時間の関係上か、描かれてません。
解説にもありますが、秘密をつかむのがすごく早い。

この誠実な真面目すぎる夫婦を踏みにじる、むごい家老たち。
つやさん、お腹に子供がいるのに自害してしまった。
最後に、この夫婦、一目会えなかったし。

つや役は、松本留美さん。
「子連れ狼」でも、拝一刀の妻・あぐり役でした。
綺麗で気丈な武家の妻役が、ピッタリ。

そして利吉より、やはり潜入は清兵衛が上。
殺気がこもっていたかどうかは別にして、文十郎をかわす清兵衛は、頭目らしい身の軽さ。
再会を喜ぶ助け人たち。
龍も和やかになっている。

徳兵衛は千両をフイにされた上、もう千両取られたお吉いわく「スケベじじい」だからか、仕置きの対象にはならない。
結局、おバカさんだったということなんでしょうか。
後でつやさんも、坂田も死んでたら、怖いだろうなあ。

石坂役で、今も悪役で活躍している内田勝正さんが、ちらっとご出演。
この時はまだ、メインで悪を働いていません。
投げられた下駄が落ちてくる、それをかわす、そこへ龍に踏み込まれる映像も美しい。

平内さんが藍玉を投げて、それで杯が青く染まっていくのも美しい場面。
文十郎が坂田を仕置きする寸前に、殺しのテーマが止まる。
「あれ?」と思うと、文十郎、「藍の色は血の色だよ」。

「藍の色」は、「愛の色」にも置き換えられる。
そして小判が血に染まる。
この小判は、日田夫婦の愛を血に染めた小判。
決まりすぎなぐらい。

仕置きが済んで、夜の町を行く3人。
3人が角を曲がると、今まで歩いていた道に火の用心の拍子木打ちが歩いてくる。
これは日常。
3人はまた、日常に戻っていくんだ、と思うラストでした。


2012.07.21 / Top↑
第32話、「偽善大往生」。


ある夜、佐久間町の一帯で大火事が起きた。
浪人・外村半四郎は燃え盛る炎の中、刀を取りに戻った。
間一髪、女房の八重とともに脱出した半四郎は焼け出され、河原に落ち着いた。

だが、取りに戻った刀は竹光で燃え尽きていた。
「仮にもあなたは武士でございます」と八重は泣いた。
備州屋の善右衛門は、困った人を見捨てておけないと言って、お救い小屋を作ることにした。

火事の翌日、お吉が町を歩いていると、平内が飯屋で小さな女の子と向かい合って飯を食べている。
食べ終わるとその子供が代金を払った。
それを見たお吉は、いくら金がないからと言ってこんな子どもにたかるなんてと怒る。

お吉は、子供の手を引いて出て行く。
だが平内は、これには深いわけがあると言う。
子供はおみよと言って、佐久間町の火事で焼け死んだ父親の恨みを晴らしてくれと依頼してきたのだ。
父親は患っていて動けないところに、火の手が回ったらしい。

それなら本来は誰も恨めないのだが、おみよは火をつけた人間を見ているのだと言う。
お吉は父親が死んだので、おみよは変に思い詰めてしまっているのではないかと疑うが、平内は行きがかり上、放火犯を探すことになった。
平内が賭場の帰り、煙にまかれたおみよを寺に運び込んだら、その寺の坊さんがおみよの叔父だったのだ。

だから平内は叔父に頼まれ、おみよと一緒に放火犯を捜して歩くこととなった。
なので、さきほど、おみよが払った金は叔父から出ているので、平内がたかっているわけではなかった。
事情を聞いてお吉は安心するが、おみよは確かに父親の薬を貰って帰る途中、放火犯を見たと言う。

その頃、備州屋はお救い小屋を作り、寺に、火事でなくなった人の法要に向かっていた。
備州屋は「仏の善右衛門」だと、町中の人が言う。
だが火をつけたのは、備州屋の使っているヤクザ者の紋次だった。
備州屋の番頭・格助が、備州屋に「全て備州屋の仕業だ」と書いた脅迫状が届いたと話す。

さらにそこには「大川に舟を用意して、千両を置いて立ち去れ」とあった。
夜になり、備州屋は言われた通り、金を置いて舟に載せ、その舟を見張る。
だが誰も現れなかった。

備州屋は利吉を訊ね、根も葉もないことで脅されていると言って、助けを求めた。
利吉は「相手が刃向かってきた場合、殺すことになっても良いか」と聞くと、備州屋は承知した。
しかし、その日、焼け出された浪人の半四郎が料亭に向かう。
そこでは、紋次がふて腐れていた。

紋次は、「千両取りそこなったので、もう一度、半四郎に脅迫状を書いてほしい」と言う。
この一件は紋次が半四郎に百両分けるからということで、協力させて仕組んだことだったのだ。
紋次は自分が火をつけたくせに、「仏の善右衛門」などと言われている備州屋が許せないのだと言った。

しかしお上に訴え出ても備州屋は奉行所に手を回して、罪を逃れてしまうかもしれない。
だから紋次が一銭でも多く、備州屋から巻き上げ、それを焼け出された人々に配る。
その言葉を聞いた半四郎は、ならば自分だけが百両も貰って良いのかと戸惑う。
「自分は世の中の為に成ることをしているのだな」と紋次に確認を取り、半四郎は再び脅迫状を書く。

文十郎は利吉に連れられ、備州屋を見張っていた。
すると、火事の晩に見たあの、半四郎がやってくる。
文十郎は半四郎の後をつけていく。

だが途中で半四郎に紋次が近づき、「つけている」と文十郎の存在を教える。
その後、紋次は文十郎に「助け人さん」と声をかけ、自分も一緒に行動するように言われたと話す。
紋次が話している隙に、文十郎は半四郎を見失ってしまった。

お救い小屋に、半四郎が戻ってきた。
八重は半四郎を迎えるが、町人のおかみさんたちは半四郎は仕官もしていないのに、毎日どこに行っているのだろうと噂した。
今時、あの程度の浪人に、仕官の口などないだろう。

あの刀も竹光。
しかもその竹光は、あの火事で燃えてしまったんだと。
おかみさんたちがそう言って笑ったのを、家から出た八重が聞いてしまう。
屈辱に八重は、立ち尽くす。

その夜、文十郎は紋次について、取り引き場所に向かった。
文十郎は一体、千両も出すような何の弱みがあるのだと聞くが、紋次は「知らない」とだけ言う。
草むらに潜んでいた文十郎と紋次だが、やがて数人の男たちがやってくる。
文十郎がその男たちと対決している間に、半四郎が紋次の手引きで金を奪い、舟に載せて運び去る。

紋次が文十郎を呼んだ時は、半四郎は千両を積んで川に漕ぎ出していた。
舟を追いかけた紋次だが、途中で川にはまり、溺れそうになる。
結局、金は奪われてしまった。

翌日、備州屋は文十郎を呼んだ。
文十郎は昨夜、金を奪われた詫びを言うが、備州屋は金は良いが、今度は紋次を調べてほしいと言った。
正直に言うが、自分には商いが第一。

仏の善右衛門などと言うのは世間が言ってくれるもので面映いが、商いの世界は汚いもの。
その中で生き抜くためには、時には法スレスレのことも行わなければいけない。
だから紋次を雇っているのだが、その紋次が疑わしい。
助け人を雇ったのも、紋次の息のかからぬ相手に紋次を見てほしいからだ。

だが文十郎は、その件は頼みに入っていなかったので、紋次を注意して見ていなかったと言う。
文十郎は脅迫の件は、身に覚えがないのかと聞いたが、備州屋はそれに関してはまったく覚えがないと言った。
もし、依頼に嘘があった場合、どういうことになるかは「ご存知でしょう」と言う文十郎に備州屋は「わたくし、嘘は大嫌いでございます」と微笑んだ。

半四郎は百両を手に、高須藩邸に向かい、用人の貝塚に会った。
貝塚は百両あれば何とかなると言って、仕官を約束した。
頭を下げながら半四郎は屋敷を出ると、表には八重が待っていた。
仕官が決まったと聞いた八重は、大喜びした。

「本当に夢のようでございます。私はあなたを信じておりました。あなたの才を。それがやっと認められたのですね」。
半四郎がうなぎを食べるのを見ながら、八重は涙ぐんだ。
八重は自分の分は、頼んでいなかった。

それより刀を何とかしなければと言い、内職に精を出すと八重は言うが、刀も貝塚が用意してくれる約束だった。
しかし八重は、今やっている回り灯篭の紙張りの内職だけは仕上げると言う。
「私は小さな回り灯篭が大好きです。夢のようにクルクル、クルクル回って…」。

同じ頃、紋次が川の中から何かを引き上げようとしていた。
文十郎が来て、「おうい、何かいるのかい」と声をかける。
「ひょっとしたら、小判…」と一度言葉を切って「鮫かな?」と聞く。

紋次が川から上がって来る。
文十郎が笠をとりながら、「うまいことやったな」と笑う。
「おう、備州屋に言うつもりかい!」
紋次は文十郎に襲い掛かってきたが、文十郎は紋次を抑える。

すると紋次は「俺はな、世の中の為になることをやっているんだよ」と、もがく。
「世の中の?」
「そうだ。あの千両は火事で焼け出された人に、分けてやるものなんだよ!」
「何だと?」

「聞いて驚くなよ。この間の佐久間町の火事、あれは備州屋の付け火なんだぜ!」
「てめえ、いい加減なことを」。
「この目ん玉ではっきり見たんだよ。番頭の格助が付け火してるところをな!その証拠に千両出してるじゃねえかい」。
「嘘じゃねえだろうな」。

「嘘だと思ったら、格助に聞いてみな。もっとも本当のことは、口が裂けたって言わねえだろうがね」。
2人が話しているのを、格助が木の影で聞いていた。
「火をつけて、どんな得があるんだ?」

「さあね。それより、一口のらねえか?やりようによっちゃあ、まだ二千や三千はふんだくれるぜ」。
「悪かねえが、俺が加わって、相棒の浪人の方で気を悪くしねえか?」
紋次は平四郎は百両で、手紙を書いてもらっただけだと言った。

「二人で山分けしてもいいんだぜ」。
「それより世の為、人の為ってのは、ありゃあ一体どうなっちまったんでい?」
紋次は笑って「細かいことは言いっこなしだよ。俺も腹ぶちまけたんだ。裏切りっこなしだぜ!」と言う。

「行きなよ、早く」。
そう言う文十郎に、自分が持っていた刃物を目の前に突き出された紋次はあわてて逃げていく。
格助は、木の影で全てを聞いていた。

その頃、平内はおみよを連れて、町中を火付けをした人間を探して歩いていた。
橋の上で平内とおみよは、雨に降られた。
あわてて船宿の軒先で雨宿りをしていると、利吉が通りかかった。
平内が呼び止めると利吉は、文十郎が平内を探していると言った。

しのがおみよを寝かしつけ、文十郎が昼間、紋次から聞いた話を平内にする。
とりあえず、明日、おみよに絵を見せて、放火犯を確認する。
もしこれが備州屋の仕業なら、助け人はとんでもないことに手を貸したことになる。
利吉は反省していると言う。

その夜、紋次は備州屋の奥の座敷に呼ばれる。
備州屋は千両奪った人間がわかった、と言った。
お救い小屋にいる半四郎と言う浪人だと言われ、紋次が「そんな奴ほっといちゃいけませんぜ」と言って立ち上がる。

だが備州屋は、半四郎には仲間がいると言う。
それも何と、備州屋の身内、いや自分の体の一部とも言える人間だと。
こともあろうか、その人間は「ここにいる格助が火をつけた」などと言っている。

そこまで話を聞いた紋次は震え上がった。
「なあ、紋次。そんな奴は放ってはおけんな?」
備州屋の言葉に紋次は「勘弁してください!」と謝った。
「許せん!」

紋次は格助に、何とかとりなしてくれとすがった。
「わしのやり口は、お前が一番良く知っているはずだ。死んでもらうより他に、しかたがないな」。
すると紋次は、文十郎の口車に乗せられただけなんだと言う。
「死にたくねえ、死にたくねえ~」。

泣き崩れた紋次は、「悪いのは助け人だと言ったな?」と聞かれた。
「そうなんですよ、旦那!」
紋次は備州屋に駆け寄る。

「そいつも俺にやらせてくだせえ!そいつと浪人さえバラしゃ、火付けのことは金輪際、旦那がやらせたなんて誰だって夢にも思いやしねえ。旦那、おねげえだ。やらせてくだせえ!」
「ようし、今度だけ待ってやる」。

「ありがとうごぜえやす。ありがとうごぜえやす!」
頭を下げる紋次を、格助が冷たい目で見下ろしている。
格助は備州屋と目を合わせると、二人はほくそえんだ。

翌日、備州屋の前で、おみよを連れた文十郎と平内が待っていた。
格助が出て行くのを見て、おみよが「違う」と手を横に振る。
賭場に向かった紋次は、一度に3人も叩きのめした男がいると教えられて、その男、龍に目をつけた。
博打の負けを今夜中に返してもらいたいと言われた龍に、紋次は話を持ちかける。

夜道を文十郎が1人、歩いている。
「誰だよ」。
気配に立ち止まった文十郎が待ち構えていた数人を叩く。
すると、龍が振り向く。

龍を見た文十郎に、「命貰う」と龍が言う。
「行くぜ」。
「ああ、いいよ」。

鉄心を振り下ろした文十郎が龍から標的を外し、手を痺れさせて、鉄心を落とす。
龍が文十郎を捕え、担ぎ上げる。
「適当にやれよ」。
小声で文十郎が言った途端、龍が文十郎を投げる。

「やったな!」
紋次たちが出てくると、「ああ、首の骨が折れてる」と龍が答え、「これで借金は返したぜ」と言って、文十郎を川に捨てに行く。
その影で、利吉が全てを見ている。

紋次は手下に、龍を見届けに行かせた。
龍が川のほとりに到着すると、利吉が酔っ払いを装ってやってきた。
利吉の独り言に、文十郎が「おい、放り込めってことなんだよ」と龍に言う。
文十郎に言われて、龍が文十郎を放り込む。

それを見た手下が、去っていく。
龍が川から離れ、利吉が手下の後をつけていく。
離れたところで文十郎は川から上がると、焚き火に当たっていた。

そこに利吉が戻ってきて、紋次は備州屋へ行き、そこで番頭の格助に会っていたと言った。
紋次が備州屋へ寝返ったのを知って、文十郎は利吉に数日、備州屋にもぐりこむように頼む。
佐久間町を火事にして、一体何の得が備州屋にあるのか。
それがわからない。

翌日、備州屋の前に半四郎が来ていた。
格助は紋次と出かけながら、千両は浪人を殺してから引き上げようと相談していた。
あわてて陰に隠れた半四郎は。それを聞いていた。

愕然とした半四郎は、川のほとりを探り、縄のついた千両箱を引き上げた。
中を開け、百両だけ懐に収めると、再び、千両箱を川に沈める。
その百両を持って、高須藩に急ぐ。

夜、備州屋は格助を相手に地図を広げ、立ち退きを渋っていた長屋がやっとなくなったと喜んでいた。
「長屋の貧乏人どもが立ち退きを渋った為に、苦労いたしましたなあ」。
格助の言葉に「その苦労がまた、楽しいのだ。商いとはおもしろいものだ」と備州屋が笑う。
各地にいろんな商いの店を出している備州屋は、今度は佐久間町には呉服屋を出そうと計画していたのだ。

紋次の方の仕事も、今夜には終わるだろう。
備州屋は、紋次も折りを見て消すように格助に言う。
ここしばらくはまじめに働くが、その後はわからない。

それを聞いた利吉が帰ってきて助け人たちに話すと、文十郎は店を一軒建てる為に、何百という家を焼き払ったのかと驚いた。
江戸中に、備州屋の店があるのだ。
おそらくその一軒、一軒、同じようなあくどいことをして手に入れた店だろう。
ただひとつ気になるのは、今夜中に、何かがひとつ終わると言っていたことだ。

お救い小屋に戻った半四郎は、八重にすぐにここを出る支度をしろと言った。
「でも、どちらへ?」と八重が聞く。
「長屋を借りてある」。
「長屋?」

八重はうれしそうに聞くと、「じゃあ、これだけ張ってしまいます」と紙を取り上げた。
「そんなものどうでもよい。身、ひとつでよいのだ」。
半四郎に言われて八重は微笑むと、傍らにあった回り灯篭を取り上げた。

「回り灯篭など、どうして持つのだ」。
「新しいお部屋に吊るしたいのです」。
半四郎は困ったような顔をしたが、「さ」と言うと八重の手を引いて出て行く。
2人が出て行くと、人々の中に潜んでいた紋次がむっくりと起き上がる。

回り灯篭を持った八重と手を取り、表を走る平四郎の前に、紋次が現れた。
「あなた?」と八重が立ち止まる。
「今時分、どちらへお出かけで?」と紋次が尋ねる。

半四郎が横に向かって走ると、紋次はその後を追おうとした。
「あなた様は?」と置き去りにされた八重が紋次に聞く。
紋次は八重に向き直ると、いきなり八重を刺した。

「八重!」
八重が倒れる。
「どうして?どうしてこんなことに?」
そう言うと、八重は倒れた。

「おのれ、何のかかわりもない妻を!」
戻ってきた半四郎が刀を抜き、斬りかかってくるが紋次は笑って「そんな刀で、俺が斬れるのかい」と言った。
そして半四郎の竹光をアッサリと折る。
半四郎を蹴飛ばすと、一気に刺す。

「先生、本当はあなたに刀を買ってさしあげるつもりだったんですがねえ」。
そう言うと、何度も平四郎を刺し、逃げていく。
「八重」と平四郎は八重のところに這っていく。
だが八重の手前で、力尽きる。

鼻歌を歌いながら、紋次が戻って来る。
備州屋の前にいたおみよが居眠りしている平内を起こし、「あの人」と指をさす。
「あの人がおみよちゃんのおとっちゃんを、焼き殺したんだな」。
おみよが、こっくりとうなづく。

千両箱を引き上げた格助と紋次だが、百両がなくなっていることに気づく。
半四郎の仕業だと忌々しく思いながらも、2人は千両箱を運び出していた。
河原に平内が潜んでいる。

平内が針を抜きながら、川の中を歩く。
格助の後ろにいる紋次の肩を叩く。
「お手伝いしましょうか」。

紋次が振り向く。
その顔が歪む。
平内が針を刺す。

小判が落ちていく。
その音に格助が振り向く。
紋次が立っている。
そして倒れる。

倒れた紋次の背後に平内がいるのを見て、格助はあわてて逃げていく。
だがその先には龍がいた。
龍は格助を担ぎ上げる。
「助けて」と言った瞬間、龍が格助を投げ出し、首の骨が折れる。

お救い小屋に備州屋が現れる。
避難している人々が、頭を下げる。
事前に子供を泣かさないようにと言われたのだが、1人の子供が泣き出す。
備州屋の顔が一瞬、怖ろしくなる。

だがすぐに「かわいそうに」と笑うと、子供を連れた女性は外に出る。
備州屋は横になっている老女に近づくと、明日、医者を呼んであげるからと言う。
「ありがとうございます」。
備州屋の背後のすだれに、笠をかぶった影が浮かび上がる。

「元気を出してください」。
備州屋が歩いていくと、影も移動する。
「お大事に」。
「食べ物などは足りていますか?」

備州屋がお救い小屋の人間に、声をかけて周る。
「おかげさまで十分に」。
「よろしゅうございました」。
「また必ず、いいことがありますから」。

文十郎がお救い小屋のムシロの横を、移動していく。
「お怪我なさいましたか」。
「梁が落ちてきまして」。
「お大事にどうぞ」。

入り口に座った備州屋は財布から包んだ金を出すと、世話役に「これで、皆さんに元気のつくものを差し上げてください」と渡す。
世話役が頭を下げ、小屋の人々が頭を下げる。
備州屋が満足そうに笑う。

背後のムシロに、文十郎がいる。
備州屋の笑顔が、凍りついた。
文十郎が、ムシロから兜割りを抜く。

「では、まいりましょうか」と世話役が言うが、備州屋は動かない。
「もし、旦那さん」。
文十郎が去っていく。
「もし、旦那さん」。

備州屋が小判を撒き散らして、倒れる。
小屋が大騒ぎになる。
文十郎が道を歩いて去っていく。



備州屋と、それに使われている紋次が備州屋を裏切り、さらにまた助け人も裏切るので物語が二転三転。
なかなかおもしろい。
その分、平四郎夫婦の描写や、平内とおみよの描写がアッサリしてます。

仕官に奔走する気の弱そうな夫。
燃えた竹光や長屋のおかみさんの噂話に屈辱を感じ、「あなたは武士」と言う誇り高い妻。
誇り高いけど、それだけに、浪人の身の上では生きにくい。

「回り灯篭が好き」と言う言葉は、どこかはかなくて、後の悲劇を予感させるに十分。
うなぎを自分は食べずに、夫にだけ食べさせるけなげさもある。
お救い小屋にいてまで紙張りの内職に精を出す、できた妻でもある。
でもそれだけ期待が大きくて、弱そうな夫にはちょっと負担でもありそう。

仕官が決まって、長屋を借りたと言われると、うれしそうにしながらも残りの内職は仕上げてしまおうとする律儀さ。
逆に言えば、融通の利かなさも感じられる。
だけど、殺されるような悪い妻じゃない。
回り灯篭を「新しいお部屋に吊るしたいのです」とうれしそうに言った時から、殺される予感がすごかった。

夫が紋次に手を貸して、その金で仕官がかなったなどとは夢にも思わない妻は礼儀正しく、紋次に質問。
その途端、刺されてほんとに、「どうして?どうしてこんなことに?」としか言いようがない。
目を見開いて絶命している八重さんが、たたりそうです。

竹光を折られて殺される夫、伸ばした手が妻に届かず絶命の哀しさ。
「必殺」ではよくある光景です…。
何だか当てにならない高須藩といい、もっと描写ができる夫婦だったと思います。
でも備州屋だけで盛りだくさんになる内容ですから、しかたないですね。

紋次の卑怯さ、卑屈さもすごく良いです。
平四郎と紋次、嵐芳夫さんと嵐圭史さんの兄弟なんだそうです。
ぜーんぜん、雰囲気違います、すごいです。

おみよに雇われて、放火犯を探す平内。
子供とのコンビぶりも、もっと描写できたら楽しかった気がするのですが、それじゃ1時間じゃ収まらないからこんなものでしょうか。
お吉が久々に出てきたんですが、平内とちょっと一緒のシーンがあっただけでした。

その分、描写に力が入っているのが、備州屋。
備州屋は、名優・加東大介さん。
表向きの顔がまた、実直で信用おけそうだから怖い。
お救い小屋で声をかけて歩く姿などは、本当に立派。

人の目を真正面から見て、非道を隠して嘘をつける。
だから文十郎も利吉も、最初は疑わなかった。
そして、ただキセルを吸っているだけなのに、紋次を問い詰めるシーンはものすごく怖い。
迫力あります。

一番すごかったのは、赤ん坊が泣いたのを見て一瞬、見せる顔。
あの顔を一瞬でも見たら、もうこの人は怖くて信頼できない。
もう、この人の側には寄らない。
そんな顔します。

こんな人が言葉は優しく、物腰は柔らかく、お救い小屋の中を回るのが怖い。
もし、この人の正体を見抜いても、誰も信用してくれなさそうなのも怖い。
隣にいて目配せする格助も、なかなか目力ある。

最後の殺しは、紋次が文十郎で紋次を怖がらせ、備州屋が平内さんの方が良くなかったかな?
備州屋は、心臓発作か卒中で収まったのでは。
とはいえ、備州屋に文さんは大嘘つかれていたわけだから、これでも良かったかな。

同心も同席している中、隣の通路から備州屋の動きにあわせて移動し、帰る間際の備州屋を一突き。
備州屋側からチラッと、文さんが見える。
刺される音。
備州屋が財布を持ったまま、動かない。

倒れる寸前に、文十郎は去って行っている。
大勢の人のいる中での、一瞬の殺し。
白昼堂々やる、闇の仕事人の仕事。
文十郎と龍の殺し合い芝居のやり取りもあって、ほんとに盛りだくさんの回です。


2012.07.17 / Top↑