テレビ埼玉で再放送中の「必殺商売人」が昨日、最終回を迎えました。
また、途中とばして最終回書く~!と我ながら呆れてます。
すみません。
「商売人」の最終回、「新・仕置人」の最終回とは違いますが、やはり自分たちのやってきたことの精算なのか、仲間の崩壊が描かれます。


ついにりつが産気づいた夜、勘定奉行が尼僧姿の女に殺害される。
主水は医者を呼びに行こうとするが、勘定奉行が殺されたと知らされ、奉行所へ向かうことになる。
奉行所は面子にかけて、犯人を探し出そうとしていた。
新次とおせいが帰って来た家に、主水が役目を装ってやってくる。
2人が裏の仕事をしていないことを確認した主水は、帰って行く。

正八が事件を探るが、犯人はわからない。
犯人が尼僧姿ということで、秀英尼までが牢に入れられる。
「何だって尼さんが!」
秀英尼と逢引をしていたということにした正八が、秀英尼の身の潔白を証明する。
その際、主水から牢番に便宜を図ってもらうのにお金が必要だった。

正八は床下に溜め込んだ仕置料を埋めていた。
感心する主水に「いつまでも殺し屋の手先じゃいけない」と言う。
いつか所帯を持つ為にと言う正八に主水が「おめえ、あの『御報謝』に本気でほれたな」と言うと、正八は「いいじゃねえか!」と怒鳴る。
秀英尼の無実は証明された。

北町奉行の堀田は同心・根来を連れて、江戸の殺し屋の元締めの1人、蛭子屋卯兵エと会う。
「我々は下手人を探している」と根来は言った。
そして、犯人は40前後、比丘尼姿の女だと。
堀田は、3日以内に犯人を差し出さなければ江戸の殺し屋を根絶やしにすると申し渡す。

その夜、おせいを何者かが襲った。
応戦するおせい。
数人の敵に間一髪、新次が助けた。
新次はおせいに一応、身を隠すように言い、正八の灯台に向かわせる。

同じ夜、主水が家に戻ると、せんが祈祷していた。
りつが苦しんでいるのだった。
せんは、主水も早く一緒に祈祷しろと言い、一緒に祈っていた時、ついに子供が生まれる。

外に出た主水に、塀の上から正八が話しかけた。
しかし、主水はせんの呼び声で家に戻る。
りつの心臓が弱っていると医者は言う。

おせいを襲った男たちをつけて、新次は車坂の東兵エという元締めに行き当たった。
その時、数人の男たちが出て来て、話があると新次を元締め・東兵エのところに連れて行く。
新次が、おせいを何故消されなければならないのかと東兵エに聞くと、東兵エはおせいの仕事で江戸中の殺し屋が生きるか死ぬかの瀬戸際に立っている。
この責任は誰かが取らなければいけない、と答える。

「おせいはやっちゃいねえ。あの仕事はおせいの仕事じゃねえんだ」。
叫んだ新次の正座した足の間に、白刃が差し込まれる。
だが新次は、仲間内の掟は守り通してきた。
自分は仲間を裏切ったことはないと主張する。
新次の主張に元締め・東兵エは、再調査を約束した。

報告を受けた主水は「殺し屋の組織なんぞ、信用しない、仲間を売るのは朝飯前だ」と言う。
新次に子供が生まれたことを聞かれた主水は、子供はまあまあだがりつが弱ってしまっていると答えた。
「足を洗いたくなったか?」と言う新次に主水は「何?」と聞き返す。

新次は「ガキができちゃあ、この稼業は勤まらねえからな。八丁堀、何なら抜けてもいいぜ。俺たちのことは心配いらねえ」と言った。
だが主水は「余計なお世話だ。俺のことはほっといてくれ」と答える。

元締めたちの会合で、卯兵エがおせいを殺し札にかけることを提案した。
東兵エは卯兵エに、奉行殺しは本当におせいの仕業なのか?
卯兵エの話は本当なのか?
自分は同じ稼業の元締めである卯兵エを信用して、おせいを襲ったのだと言った。

そこで卯兵エは元締めたちの顔を見ないよう、最後列にいた同心・根来に証拠の品を渡してくれるよう促した。
根来は血のついた比丘尼の衣装を差し出す。
これは夕べ、おせいの家から押収したものだ。
おせいの仕業に間違いはない。

根来が出した証拠で、殺し札が始まった。
殺し札とは、黒と白の石が配られ、おせいと思った元締めは黒の石を箱に入れるというものだった。
公開された石は、白が2つ、黒が4つだった。
おせいの仕置が決定された。

江戸中の殺し屋が集まってくるのを、新次と正八が見ていた。
新次は東兵エに再び掛け合いに行くと言って、出かけた。
灯台に戻った正八は、2人の男に襲われる。
男たちは、おせいを殺せば3百両もらえると言った。

居場所を聞かれた正八は、知らないと言い張る。
その時、「おせいは私です」という声とともに、おせいが現れる。
殺気立つ2人に、おせいは「今度の殺し札はどうしても納得行かない」と元締めに伝えるよう言ったが、2人は襲い掛かってきた。

男たちを倒したおせい。
それを見ていた秀英尼が、ここは危ないと寺に来るように言う。
秀英尼のところにおせいは匿われる。
だが一体何故、秀英尼が匿ってくれるのか。

もしや、自分たちの正体に気づいているのではないかと聞くおせいに、秀英尼は言う。
「あなたがたが殺し屋ということは、気がついていました」。
殺気を向けるおせいに、正八は「嘘だ、この人は何も知らないよ」と叫ぶ。

だが、秀英尼は意外なことを言う。
「死んだ私の父親も、殺し屋でした」。
そう言うと秀英尼は安心して過ごすよう、話す。

同じ頃、老中からお叱りを受けた奉行の堀田は、根来に明日中に下手人を差し出さない場合は、蛭子屋卯兵エを獄門にすると伝えるよう言い渡す。
そのことを伝える為、根来は卯兵エと会った。

しかし、卯兵エは余裕で、「今夜中におせいは必ず、死体になる」と言った。
そうでなければ自分が危ないと言うが、卯兵エは自信を持っていた。
そんな卯兵エに根来は、「奉行殺しなどという大仕事をするのはお前以外にいない」と言った。

「何か証拠でも?」と言う卯兵エに、根来は「証拠はそこにいるおりんだ」と言った。
勘定奉行の死体の傷口を見た根来は、これは死んだ殺し屋おらんが生み出した「秘伝・糸返し」の手口だと見破った。
これを仕込まれたのは、おりんだけだ。

卯兵エは「さすが根来様。今度の口止め料はいかほどにいたしましょうかな?」と笑う。
根来も、そしておりんも笑いを浮かべる。
おせいを罠にはめたのは元締めの1人、蛭子屋卯兵エであり、勘定奉行殺しはその配下の女・おりんだったのだ。
3人の会話を床下に潜んで聞いていた新次は、主水たちに報告する。

だが3人は、おせいが巻き込まれたとは言え、主水も新次も、静かに戦いを避けようとしているようだった。
自分の顔が利く船問屋に向かい、上州から木曽路を通って上方へ向かえと主水は言う。
それなら追っ手がかかる心配はない。
3人分の手形は今夜中に主水が用意する。

しかし、正八は「俺、やだよ。逃げるなんて真っ平だ」と言った。
「元締めの蛭子屋にこんな目に遭わされて黙ってられるか。笑われちゃうよ、筋が通らねえよ!」と叫ぶ。
自分ひとりでもやってやると言う正八に主水は、「今、蛭子屋に乗り込んで生きて帰れるか」と言う。
「奉行所の目が光ってるぞ」。
主水の言葉に、「奉行所?」とおせいは驚く。

いざとなれば蛭子屋をはじめとする、江戸中の元締めたちを総ぐるみでしょっ引く。
「それが奉行の腹のうちだ」と言う主水に、新次もその通りだと言う。
「新さん!」
納得しない正八が叫ぶ。

だが、新次は「卯兵エのところにも行ってみたが、全く手が出ない。今度ばかりは上方へ逃げるのが利口だ」と言う。
「ばかばかしくやってらんねえや。腑抜けの集まりか、ここは!」
そう言って立ち去る正八を主水は「あの薄らバカ」と言って、追いかけて行った。
残ったおせいと新次。

正八はふて腐れて、秀英尼が預かっている子供たちのところに戻った。
主水は、子供たちと並んで寝る正八の肩を叩いた。
並んで眠っている子供たちを見て主水は「子供ってのは、かわいいもんだ」とつぶやく。

おせいは新次に「また長い旅が始まるんだね…。江戸じゃあ新さんと、とうとう所帯が持てなかった。私ってよくよく根無し草に生まれついてんだねえ」と言った。
その言葉を聞いた新次は立ち上がる。
「行くの?」
「荷物を取ってくる」。

おせいは新次に「この櫛、使っちゃあいけないよ」と、新次の武器の櫛のことを話した。
「そいつはお前に預けとこう」と、新次は言った。
去っていこうとする新次とおせいの手が、つながれる。

後ろを向いているおせい。
その手を新次はもう片方の手でも握り締めると、そっと放した。
おせいの肩が落ちる。
物陰で櫛を目の前にかざす新次。

新次はそのまま、卯兵エのところに向かった。
卯兵エとおりん、配下3人が乗った船を水中から追いかける。
水中から近づいた新次は、卯兵エと配下を水中に投げ出した。

ふいをつかれて、慌てる卯兵エたち。
用心深く船に戻り、水面を見渡す。
その時、おりんの背後から新次が近づいた。

新次に気がついて逃れようとするおりんを捕え、新次はその首筋に櫛を突き刺す。
おりんは恐怖に目を見開き、絶命する。
刀を抜いてやってきた配下の刀を奪い、新次は刀を手にしてかかってきた卯兵エを斬った。
もう一度、悲鳴をあげた卯兵エの背中を斬る。

次々、卯兵エの配下の者達がやってくる。
新次は水の中へ逃げる。
1人、2人、3人と倒す。
新次が水面に浮くと、4人目がやってくるのが見える。

4人目も倒し、5人目と斬り合っている時、新次は背後から6人目に斬りつけられた。
刀を落とし、新次は逃れようとする。
2人が追ってくる。

川岸で、根来が矢を構えて新次を狙っている。
根来が放った矢は、新次の首に命中した。

おせいは1人、新次の櫛を見つめていた。
矢が刺さった新次が、水面に浮いてくる。
川岸から主水がそれを見た。

新次を仕留めた根来が戻ってくる。
主水が根来を見つめている。
根来は、盛大に笑い出した。
笑いが止まらない。

「根来さん」。
主水の声に笑っていた根来は振り向き、「おう、中村。何でこんなところでうろうろしている」と聞いた。
「うちはお産で、てんやわんやの大騒ぎ。こういう時、男ってのはからっきし値打ちがないですな」。
「そうか、生まれたのか。そりゃめでたい。一杯飲みに行こう」と根来は言った。

「こりゃ、ありがたい」と言った主水は、全て思い通りに行ったとばかりに上機嫌な根来を刺す。
突然刺され、「な、何でぇ…」と、もがく根来。

「根来さん、あんたは深入りしすぎたようだ。知りすぎた者は殺される」。
「ま、まさか…」。
根来は主水の襟をつかんで、驚きの表情を浮かべた。
「殺し屋の掟を教えてやろう」。

根来を斬り裂く主水。
まだ息がある根来の首根っこをつかみ、引きずっていく。
恐怖と苦しさに、根来は声も出ず、息を漏らす。
そのまま、主水は根来にトドメをさす。

根来を始末し、河原に主水が立っていると、おせいが「新さんは?」と、かけつけて来た。
「ねえ、新さんは?!」
不吉な予感に自分を抑えられないおせいに、主水は言う。
「1人でいっちまったよ」。

足が萎えていくおせい。
主水は言う。
「師匠、お前も無粋な女だな。あの色男はやっと1人になれたんだ。冥土までついてくこたあ、ねえじゃねえか。1人にしておいてやんなよ」。

家に戻った主水に「こんな時にどこへ行っていたのです!」と、せんが言う。
主水が見たものは、奥の座敷に寝かされた、生まれてすぐになくなった我が子だった。
せんが泣き崩れる。

りつは眠っているようだった。
白い布をかけられて横たわっている、物言わぬ赤ん坊。
主水はおごそかに、しっかりと手を合わせる。

翌朝、正八は、まるで江戸の水に別れを告げるように川で水浴びをしていた。
主水はせんに奉行所を休むことを告げに行くと言って、「忌」が下がっている家を出た。

旅立つおせいに、主水は影から「手形だ」と言って、手形を渡す。
自分の言う道筋で逃げれば大丈夫、そこから先は追っては来られない。
そう言って去ろうとする主水に、おせいは「中村さん、赤ちゃん…。お元気ですか」と聞く。

「うん。丸々太ってやがってね。女の子なんだ」。
「そう…。おめでとうございます」。
おせいが笑顔になり、頭を下げる。
「うん、じゃあ、達者でな」と、主水は手を挙げ、おせいと正反対の方へ歩いていく。

主水の笑顔は、殺し屋とは決別し、普通の親に戻っていく顔に見えた。
それを見たおせいはお辞儀をし、油断なく左右に目を配りながら去っていく。
根津神社の境内から、新次と距離を持ちながらも暮らした町を振り返る。

そして、おせいを送った主水は、葬列の先頭にいた。
まるで、自分が奪ってきた命と引き換えるように、なくなってしまった赤ん坊。
うつむくせん。
その隣にいる、主水。



寅の会が崩壊して、どのぐらいの時間が経っているんでしょうか。
こういう商売は、なくならないのでしょうか。
江戸には元締めたちが、何人も存在していました。

奉行殺しは、プロの仕事と確信した奉行所。
おそらく、奉行所も殺し屋の元締めと思っていながら、目に余るところがなければ、あえて証拠を探し出してあげることまでしていなかったのでしょうか。
だが、こうなると話は違う。

犯人を引き渡さねば、江戸の元締めたちを獄門に送ると奉行は言う。
いや、これはいい機会でもあるのかも。
誰よりもこの危険を知っている主水は、正八に江戸を離れた方がいいんじゃないかと話す。

「仕置屋稼業」で、主水が市松に言った言葉。
「ダメだ。おめえは組織の怖さを知らねえ」。
奉行所の本気が今、商売人たちに向けられている。

権力を持った巨大な組織の怖さ。
後のシリーズでは、ほとんど無能みたいに描かれている奉行所ですが、組織力と権力を持っているので、本気になるとやっぱり、相当怖いんです。

蛭子屋卯兵エに、はめられたおせいたち。
寅の会と辰蔵の抗争を越えた正八には、このまま引き下がるのは腑抜けのすることにしか思えないのでしょう。
だが、「仕置人」の時のようには誰も動かない、動けない。

しかし、新次は単身、蛭子屋へ向かった。
おせいに追っ手がかからないとは、思えなかったのか。
それでも、子供が生まれた主水は巻き込めないと思ったのでしょうか。

おりんと卯兵エを仕留めた新次だが、次々と配下がやってくる。
後から後から来る。
これが元締めの力なんでしょう。

しかし、トドメを刺したのは、根来。
おそらく、後々は殺し合いになるであろう卯兵エたちは新次が始末してくれた。
何もかも自分の思い通りになった。
でも、やっぱり最後、上機嫌の根来を刺し貫くのは主水。

本物の殺し屋に、なめた真似するんじゃねえ…、小ざかしい立ち回りしやがって、殺し屋に関わったことを後悔しろよ。
殺し屋にはな、仲間ってもんがいるんだぜ。
そんな言葉が感じられる、主水の凄まじい怒りが込められた仕置き。

1人で待っていたが、新次の帰りの遅さ、不安に耐え切れなくなってやってきたおせいに新次が「死んだ」ということを、粋な言葉で告げる主水。
「後追いせず、強く生きていけ」ということも。
離れそうで、それでも誰よりも強い絆で結ばれた2人の関係を知る主水ゆえの言葉。

やはり江戸を離れることになったであろう正八は、朝、川の中に入っていく。
川の中で座り込む。

秀英尼までが、こんな世界に関わっていた。
これが殺し屋の業なのか。
自分も必ず、それに絡め取られるのか。

鉄をなくし、己代松とおていを見送ったが、また新次を失い、おせいも去った。
昨夜、すねた正八に聞き分けのない子供に接するようだった、主水の仕草。
今度は主水を置いて、自分が旅立つ。

やっぱり、一人ぼっちになった…。
吹っ切るように、正八は水しぶきを上げる。

おせいが暗い気持ちで旅立たないよう、自分は足を洗って生きていけると思わせるように主水は子供のことを話します。
赤ん坊は、「丸々太った女の子」だったと。
「女の子」と言った主水の気持ち。

男の子であってほしくはなかったからかもしれない、そう思いました。
自分とは違う女の子なら、その子供の中に殺し屋の血を見ないで過ごせるだろう…と。
平和な、汚れない赤ん坊の姿が想像できる、主水の笑顔に、おせいも笑顔で別れを告げられます。

1人でもいい、まともに生きていける。
なくした子供、政吉。
そして一緒になれなかった新次。
ついに叶えられなかった、自分の子を持つということを叶えた主水。

…旅立つおせいに対して、そういうことにしておく主水の、優しさ。
根津の神社の境内で、おせいは町を振り返る。
もう、新次もいない、ここには二度と戻らないでしょう。

おせいを送った主水は、子供の葬列の先頭を歩く。
正面を見ることもない、うつむくこともないその目は、何かを悟ってしまったようにも見える。

「仕置人」から始まった主水が関わった裏稼業物語。
常に殺し屋たちの生き様、死に様を描き、そして生き残った殺し屋が、抱えて生きていくものを見せて終わる。

「新・仕置人」の、祭りのような時を越えた後日談から始まった感じの、「商売人」。
この最終回は、「仕置人」から始まった物語の、1つの結末、1つの区切りを見せて終わった気がします。
そう感じるのは、まさに「新・仕置人」の第1回の言葉が「商売人」のラストに繋がっているようだから。

「俺の手にかかって死んでった連中のことも。俺はみんな、忘れてた」。
「この稼業に一旦、手を染めたら、幸せなんてものはつかめっこねえ」。

主水は最初の仲間・鉄に言った言葉を今、もう一度心の中でつぶやいたのではないか。
そう思わせるような場面で、「必殺商売人」は終わります。
バラバラになる主水、おせい、正八、そして「完」という文字の上に「夢ん中」が流れて行きました。


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2010.06.19 / Top↑
第11話、「女体が舞台の弁天小僧」。

何ですか、このところ、「必殺」づいてますね、自分。
しかも、順番逆になってる。
すみません。


ある夜、捕り物があり、おせいの家に夜更けて主水が御用の筋で訪ねて行く。
一瞬顔を見合わせる。
主水は無言で戸締りだけはしておいた方がいい、と言い残して出て行く。

「いいわ、出といで」と言う声でひらり、と天井から男が降りてくる。
「姉さん、しばらく」とその男は行った。
「あんたに、姉さん、なんて言われる筋合いないわ」とおせいは言い、「何をしでかしたの?」と聞いた。

矢之介はケロリとして「ちょっとしたユスリ」と言った。
その男・矢之介は、以前、おせいの踊りの弟弟子だったが、突然師匠の元を飛び出した。
矢之介が言うには、どんなに下手でも家元の家に生まれていれば身分は保障されるが、自分は魚屋の息子。
魚屋の息子は頑張っても、所詮、名取にはなれない。
だから飛び出したのだと言う。

さて、時の将軍は好色で、大奥の妻妾は27名。
成長したご息女たちの輿入れに対し、幕府は頭を悩ませたが、町の商人たちはそれに対して暗躍していた。
息女たちの輿入れに際し、采配を振るうのはご老女・藤尾さま。
その藤尾の信任が厚いのは、服部源蔵。

源蔵にせっせと、呉服商の京屋の主人・庄兵エは賄賂を送る。
大奥御用達の呉服商として、ここは藤尾の機嫌を取り結び、何とかしたい。
翌日、女装した矢之介が京屋で反物を万引きした。
見抜かれた矢之介は啖呵を切って反物を出し、番屋に知らせろと言った。

弁天小僧を気取りやがって…と番頭は怒ったが、それを見た庄兵エは矢之介を放してやれと言う。
女と見まごう美貌と大胆さに、居合わせたおせいの知り合いの芸者たちが嬌声を上げる。
しかし矢之介は、主水がしょっ引いて行った。

主水に伝馬町に送るのは勘弁してやってくれ、とおせいがやってきて言うが、主水は町のならずものを現在、一掃しているところなので譲れないと言う。
「お互い、表の稼業に口出しするのはやめようや」と主水。

だが、矢之介と子分の半吉は京屋からの申し出で、釈放されてしまった。
立場をなくした主水だが、家に戻ると京屋からせんとりつに反物が届いていた。
主水は返しなさい!と怒るが、羽二重の中に小判が入っていたのを見て、思いとどまる。

翌日、主水はおせいから矢之介を釈放してくれたお礼を言われたが、おせいはちゃんと京屋から話があったことを知っていた。
奉行所に大枚はたいてまで、何故、京屋は矢之介を釈放させたのか…?
主水は正八に探らせることにする。

宿下がりの藤尾が寺で参拝する際、寺の坊主は「今日はちと、めずらしいものを…」と戸を開けた。
いつもの通り、骨董品や、皿や花瓶などを見せるのかと思った藤尾だが、そこには役者さながらに着飾った矢之介がおり、踊りを舞って見せた。
美女と見間違うばかりの矢之介に見惚れる、藤尾。
藤尾の目を見て、服部は「脈あり」と京屋に教える。

宿下がりは5日間、その間に藤尾を矢之介に近づけ、スキャンダルをつかむ。
藤尾は元は旗本に嫁入りし、それがダメになっての大奥入りをした女性。
美貌の青年に心が動かないはずがない、と服部は言う。

床下に潜んでその話を聞いていた正八に、服部の刃が迫る。
京屋と話を進めながら、服部は床下の正八の位置を探り、刀を突き刺した。
目の前に刃が突き刺され、正八は仰天した。
悲鳴をあげながら床下から出た正八は、そのまま根津に戻った。

途中、秀英尼に報謝を求められ、小銭を寄付した正八を見て、秀英尼は悲鳴をあげた。
子供たちも逃げた。
何のことかわからない正八だが、頭から顔に血が伝わって落ちていた。
血の感触に気づいた正八が、血をぬぐって再び悲鳴をあげる。

主水は「こりゃひでえや。おめえ、ハゲになるぞ」と言った。
2分でハゲにされたらたまらないと言う正八に、主水は傷の具合からして伊賀者だろうと言った。
御老女様の近くには、常に伊賀者がついている。

正八は秀英尼にみっともないところを見せたと嘆くが、主水は「しかしおめえも悪運が強ええなあ。おでこで良かったんだ。首根っこでもかすめてみろ。一巻の終わり。今頃は棺桶の中だぞ」と言う。
それには構わず、正八は美貌が台無しだと言い、「もう今日商売やめ、誰にも会いたくない、もう、主水さん帰って!」と寝込んでしまった。

矢之介は半吉と飲みながら、「ツキが回ってきたんだ」と浮かれていた。
支払いを気にする飲み屋の女たちの前に「2両や3両の金でガタガタ言うな」と小判を放り出す。
店の女たちに担ぎ上げられる矢之介を、おせいが見ていた。

帰り道、おせいは京屋とは手を切れと忠告した。
いい金づるをつかんだと思っているだろうが、今にきっと苦い水を飲まされる。
しかし、矢之介は京屋の考えていることぐらい、わかっていると言った。
自分は姉さんが思うほど、バカじゃない。
いや、姉さんより世の中の裏を知ってるつもりだ。

京屋は、ある女に自分を近づけようとしている。
それがどんな女か、自分には大方、見当がついている。
女は矢之介と遊び、その裏で京屋が大儲けする。
話の筋書きはそんなところだろう。

「そこまで知っていて…!」
「使われてるんだ。利用されてるのさ」と矢之介は言った。
「その代わり、俺だって奴らを手がかりにして世の中の階段を一気に駆けのぼってみせる」。

おせいを振り返って、「姉さん、勝負ってもんはこんなもんだぜ」と言う。
「そんなこと、できるわけないよ!」
もし、そんなことになったら矢之介は殺されてしまう…とおせいは言う。
しかし、矢之介は「姉さん、妬いてるんだろ?」と言い、その言葉に、おせいはつい、矢之介を引っぱたいてしまった。

翌日、藤尾は京屋が浮世を忘れる為に利用するという別宅に招かれた。
そこに音楽が聞こえてくる。
「あれも浮世を忘れる為です」。
入った部屋には、観音像が回るからくり人形が置いてあった。
全てオランダ屋敷そのままにしているという部屋で、京屋は藤尾に異国の酒を振舞う。

京屋相手に藤尾は杯を進め、酔い、いつしか京屋は矢之介に代わっていた。
妖艶に微笑む矢之介。
藤尾が目覚めた時、京屋が目の前にいた。
「御老女さま、少し度が過ぎたようでございますな…」。

襦袢姿で、南蛮から取り寄せたというベッドから立ち上がった藤尾に、服部が生き証人と京屋は言った。
「上様の3人の姫君の婚礼の支度一切、京屋にご用命くださいますよう、お取次ぎ願います」。
もし断れば、あの矢之介が御老女さまとのことを江戸中に触れ回るかもしれない。

そう言われた藤尾は振り向くと、不敵に承知した、と告げた。
だが代わりにあの矢之介という男を殺してもらう。
そうでなければ、一生怯えて暮らさねばならない…と藤尾は言った。

帰宅した矢之介は、脅迫の為、藤尾のかんざしを持ち帰っていた。
ぬかりない矢之介に半吉は感嘆する。
その時、京屋の使いが来て、全て首尾よく終わったことに感謝したいと呼び出した。

夜道を行く途中、呼び出した番頭が消えた。
怯えた半吉の額を鎖分胴が襲う。
額を打たれてしゃがみこんだ半吉に矢之介が駆け寄ったが、服部が矢之介を刺し貫いた。
「御老女さまをその手に抱いて、もはやこの世に思い残すこともあるまい。成仏しろよ」。

おせいは妙な気配に「何だろ?」と顔を上げた。
包丁を研いでいた新次は「風だろう」と言ったが、おせいは人の泣いている声のように聞こえたと言う。
「気のせいさ」と言われてもおせいは「嫌な晩だねえ」と塞ぎこんでいた。
おせいが昔、矢之介と踊っていた時、矢之介の中に自分と同じ血が流れている、と感じたのだと言った時、瀕死の半吉が飛び込んできた。

新次の「どうした。誰にやられた?」という問いに、半吉は矢之介の居場所を教えた。
おせいが急ぐと、河原に主水と数人の役人が集まっていた。
橋の上のおせいを見た主水はうなづいて、むしろをまくった。

むしろの中には、矢之介の目を見開いた死体があった。
おせいは目をそむけた。
がっくりとひざを落とし、目に涙をためて運ばれていく矢之介を見送る。

正八の灯台でおせいが仕事の依頼をしていた。
今度の仕事は相手の側に伊賀者がいる。
しかも宿下がりは5日だけ。
明日しかない。

「1日あればたっぷりだ」と新次が言う。
おせいが仕事料の小判を見つめる。
正八が藤尾が猿若の市村座に藤尾も、京屋も、服部も揃っていることを調べてきた。
アベックを装い、正八は3人が伊勢半という芝居茶屋に全員揃うことを、おせいにも知らせる。

3人が揃っているところに、正八が南町の役人が京屋を訪ねてきたことを告げに来る。
服部も京屋についていった為、藤尾が1人になる。
「誰じゃ?」
となりの部屋のふすま越しに、誰かが立てた茶を置く手が見える。

「何者じゃ?」
おせいが頭を下げる。
「お恨みもうします」。
顔を上げたおせいが、藤尾をまっすぐに見る。

おせいはすばやく茶釜の上のひしゃくを取り、ハッと息を呑んだ藤尾を押さえ、背後からひしゃくの柄をつきつける。
「殺された矢之介は、私のたった一人の弟弟子でした」。
そう言うと一気にひしゃくの柄に仕込んだ刃で藤尾を刺す。

正八が主水のところに京屋と服部を連れてくる。
主水は先日のお礼に、自分は市村座ではちょっとした顔であり、音羽屋に紹介したいと案内し始めた。
奈落に案内され、「せっかくだが…」と言う京屋に主水は、「京屋さん、ここまで来たら、あんたを帰すわけにはいかねえんだ」と言う。
その言葉に服部が前に出る。

京屋を土に埋めてあった帯をたぐり、新次が引き寄せる。
刀を抜き、主水と刀を交えた服部が主水に突き飛ばされ、鎖分胴を投げる。
主水の刀に分胴が巻きつく。
引き寄せられていく主水が、自ら刀を投げる。
刀は服部の横の壁に突き刺さった。

服部は主水をつかみ、座らせた主水の上から刃を突き刺す。
新次は京屋を壁に這わせ、背後から首筋を櫛で刺す。
京屋の目が見開かれ、崩れ落ちる。

主水と服部の体が反転する。
服部は自分の刀で、主水に刺されていた。
新次は急いで階段を駆け上がり、主水は壁に刺さった自分の刀を抜く。

主水が表に出ると、先ほど正八が座っていた場所には小さな子供がいた。
その子供の隣に主水は座る。
子供は団子を主水に差し出すと、主水は微笑んで受け取る。
一口、口にして、主水は限りなく優しい笑みを子供に浮かべる。



「御用」のたくさんの提灯。
お役目でおせいを訪ねる主水。
顔を合わせたおせいと主水に、無言の、仕置人同士の呼吸を感じます。

これは矢之介役のピーターがはまり役です。
あんまり見事なんで、思わず見入ってしまいました。
若さと野心と美貌だけは持っている、小悪党。
「必殺」では「からくり人 血風編」でからくり人を演じましたが、この時の元締めがまた、草笛光子さん。

あの時も、草笛さんはいいお姉さんみたいな感じで、若い、ちょっと無茶もするし、すれたこともするピーターに慕われてました。
「新・必殺からくり人」では押し込み強盗を働き、幼い子供まで殺して女装して逃げる凶賊の頭も演じてました。

依頼人の安藤広重の絵をあぶると、籠に乗った美女が赤くなる。
つまり、これが標的。
広重いわく、「この女を見つけたら、問答無用で殺してください」。

お店皆殺しの中、怯えて布団に隠れる幼い子供。
その子供にゆっくり微笑むピーター。
美貌の微笑に子供が戸惑う。
子供にピーターが布団をかけてやる。
次の瞬間、ピーターの刃が布団を貫く。

一味は女装している。
どこから見ても、旅の女にしか見えないピーターたちに、からくり人たちが迫る。
右腕と見られる男が追い詰められ、「先代から頼まれてるんだ。坊ちゃんだけは見逃してくれ」とからくり人に頼む。
ピーターは、その隙にちゃんと逃げ道を確保しようとしてる。

美しく、狡猾で残酷。
この役も上手かった。
今回の矢之介も惚れ惚れするような弁天小僧ぶり。

踊りは才能があったみたいですけど、飛び出したのには、きっと、おせいには言わない何かがあったんだろうなー…と思わせました。
おせいにも自分の方が裏を知ってる、って言ってたけど、美貌で才能もある若い男だっただけに、裏を見てしまったというか。
壁にぶち当たったというか。

「世の中の階段を一気に駆けのぼってみせる」って言葉に、小悪党になってしまった哀しさを感じました。
こういった矢之介にどこか、おせいは自分を投影している。
女で仕置人になるぐらいだから、おせいの身にも何度も理不尽なことがあったんでしょうね。

そしてピーター、踊りを披露していますが、やっぱりうまい。
こういうところ、ほんと、きちんと演じてますねえ。

藤尾役は弓恵子さん。
この方も妖艶な女優さんですよねー。
必殺シリーズでは何度も見ました。

緒形拳さんと豊川悦司さんのドラマ、「エ・アロール」にもちらっとご出演。
救急車で運ばれていくだんなさんを見送る入居者の奥さん…、だったかな。
2時間サスペンスでも、ちょっとだけご出演。

あれー、弓恵子さんだーって。
妖艶さは健在。
あんな方がいたら、みんな惑わされちゃいますよー、って。

「エ・アロール」には緒形拳さん、津川雅彦さん、草笛光子さん、弓恵子さんがいて、「おおっ、必殺同窓会!」とか全然違うところで1人、盛り上がってました。
しかもね、半兵衛さんは元締めおせいさんにふられて、おせいさんは津川さんと一緒になっちゃうんですよー。

弓さんは緒形さんや津川さんに励まされ、いや~、ずいぶんと時が経ったんだなーと。
草笛さんの凛としたところも、ご健在。
いや、みんな良い俳優さん、女優さんだなと再確認したんですけど。

それで、これ、途中まで藤尾はそんなに悪くなかった。
矢之介に手は出しちゃったけど。
一度旗本のところに嫁入りしたけど、ダメになって戻ってきて、大奥で暮らして…って服部が言ってたように、権力は持っていたけど、それなりに結構大変な毎日だったんだと思う。
権力を持っていたゆえに、罠にはめられる。

だけど、その後、矢之介が脅迫のネタになるから、殺してくれというのは…。
あまりに保身、あまりに自分勝手。
権力者とそれに群がる利権の為、あっさりと人を殺す。

どこか矢之介に同じ理不尽さが降りかかっていたのを感じていたおせいが、結果、最後に殺されてしまった矢之介の為、仕置を依頼する。
この辺り、草笛さんとピーターの、良い師弟関係が感じられるせいか、すんなり受け入れられる。

仕置の時、髪をおせいが結いなおして髪型変えてるのもいい。
アベックを装っておせいを道端に引き込み、情報を伝える正八とのシーンが何ともなまめかしい。
道を行く町娘が目をそらして走り去るぐらいのも納得というか、うまいやり方というか、なまめかしさというか。

今回、珍しく、正八の潜入が見破られる。
さすが、伊賀者。
でも何だかんだで生還する正八は、悪運強いというより、やわい外見に比べてしぶといというべきか。

主水に愚痴るところが、アドリブ?って楽しさ。
そして主水と服部の対決。
これは伊賀者らしい武器を使ってましたが、主水の方が上だった。
まあ、「仕置人」で主水は、大奥が舞台の回「ぬの地 ぬす人 ぬれば色」で、大奥の伊賀者数人と対決してましたけどね。

最後、仕置が終わった主水が子供相手に見せる笑顔の限りなく優しいこと!
本当に微笑ましいシーン。
DVDの解説にもありましたが、死闘を終えて見せる笑顔であるということを考えると、あの何ともいえないほど、優しい笑顔にいろんな意味があると思えてしまいます。


2010.06.04 / Top↑
第15話、「証人に迫る脅しの証言無用」。


新しく砂糖問屋が作られることになり、薬種問屋は砂糖を扱うことができなくなることになりそうだった。
薬より砂糖の方が売り上げが良い。
会合では、薬種問屋たちが困り果てていた。

全員でお上に反対しようということになったが、それではお上に逆らうことになる。
そこで和泉屋が自分にこの件を一任してくれ、と言う。
そもそもこの件を言い出したのは、誰なのだ。
おそらくその人間が砂糖の莫大な利権を手にすることになる。

それは向島のご隠居と言われる人物だった。
正体は不明だが、事件屋稼業らしい。
商いでもめごとがあると、ご隠居に頼む。
すると、綺麗に片付けてくれるという人物だ。

会合が終わり、みなが引きあげると、和泉屋は隣の部屋に声をかけた。
隣の座敷には、狆を抱いた初老の男がいた。
和泉屋が一応の同意を取り付けたと報告すると、その男は自分の名前は出して欲しくはなかったが、しかたがないでしょうと言った。
この初老の男が、向島のご隠居と呼ばれる事件屋稼業の男だった。

和泉屋は砂糖問屋の総代は自分にしてくれ、と隠居と約束をしていた。
だがその帰り道、和泉屋は隠居の側についている男・東吉に刺し殺されてしまった。
それを見ていたのが、薬種問屋の倉田屋治兵衛だった。

あやうく、自分に疑いがかけられそうになった冶兵衛は、東吉が向島のご隠居の側近とは知らず、「浅草で小さな紅屋を営んでいる東吉が殺したのを見た」と証言した。
東吉は捕えられ、竹刀で殴られる拷問を受けたが口を割らない。
それを見た主水は「なかなか性根の座った男ですなあ」と感心して、上司に怒られる。

ご隠居は、東吉が捕えられたのを知った。
同じく隠居に仕えている常吉や文七が「倉田屋を殺しましょう」と言うが、事を荒立てると余計に東吉が危ないと止める。
年を取った自分にとって東吉は息子のようなものだ。
息子を失うに忍びない、東吉は必ず救い出すと隠居は言う。

再び、奉行所に呼び出された倉田屋は、途中、常吉たちに呼び止められた。
人気のない場所まで行くと、隠居がいた。
殺されると思った倉田屋が怯えると、「誰にとっても子供はかわいいでしょう。人間には見間違いというものがあります」と言い、倉田屋の娘が琴の稽古に出かけたことを口にする。

東吉を見たのは、間違いだった。
そう言わなければ、娘が危ない。
隠居の意図を知った倉田屋は、青くなる。

倉田屋の娘、おたみは目が悪いのだった。
琴の稽古に行ったおたみはおせいと言葉を交わしたが、おせいはその直後、乱暴そうな男3人がおたみの行った後をつけているような気がした。
気にはなったが、踊りの稽古に弟子たちが来て、おせいはそのままおたみを見送った。

寂しい、河原が近い道に差し掛かると、3人の男たちは丁稚の小僧を殴り倒し、おたみの口を塞いで連れ去った。
その頃、奉行所に呼ばれた倉田屋は自分が東吉を見たのは、人違いだったと申し出た。
怒る与力だったが、主水はその様子を密かに聞いていた。

正八は住んでいる灯台を出て、足力の商売に出かけようとしていた。
気合を入れて正八が戸を開けた途端、4人の男たちがなだれ込んできて、正八を突き飛ばした。
正八は着物をはがれた正八は男たちに、「それだけは勘弁して!」と土下座した。

男たちは「どうだ、いい隠れ家だろう」と言い、正八を「出て行け!」と外に出そうとした。
だが正八は抵抗した為、家の中に再び放り込まれた。
その目の前に、おたみがいた。

上半身裸の正八はおたみの目を気にしたが、おたみは全く違う方向を見ていた。
「あんた、目…」と言う正八に、おたみはうなづいた。
見られなくて良かったとホッとした正八は「ばかたれ!かわいそうじゃねえか、こんな子を…」と叫んだが、目の前に匕首が突きつけられて黙った。

結局、正八は灯台のてっぺん、3階の火をともす台を抱かせられる格好で縛り付けられた。
「ちくしょう、俺にこんな恥かしい思いさせやがって、ただじゃおかねえ」と正八は言い、おたみに「お嬢さん、安心しておくんなせい。あっしが必ず守って差し上げます」と言うが、見張りの文七に殴られる。

家に戻った倉田屋は、妻からおたみが誘拐されたことを知らされる。
奉行所には知らせないと言う倉田屋に、妻は何かあったのかと詰め寄った。
その様子をおせいが探っていた。

蕎麦屋でさりげなく、障子をはさんで主水と隣の席になったおせいは、倉田屋の娘が誘拐されたことを教える。
それで主水には、倉田屋が東吉について、証言を翻した理由がわかった。
誘拐した奴を捕まえてやるか、と言う主水に、おせいは「それだけはお断りします」と言った。
おたみは目が不自由だ。
そのおたみに何かあったら、おせいは主水を許さないと言った。

「許さねえだと?」と言う主水に、おせいは自分が一言、声をかけて引き止めておけばこんなことにはならなかった、と後悔の言葉を口にする。
だから、おせいは何とか助けたいと言う。

主水は蕎麦をすすりながら、「一文にもならないことは、やめりゃいいんだ」と言った。
おせいは「ところで正八さん、見かけませんでした?」と聞くが、主水は蕎麦湯のおかわりを頼みながら、「あの野郎の手、借りようってのかい?あの野郎はただじゃ、働きませんよ」と言った。

日が落ち、灯台に灯りをつける頃になった。
縛られている正八の代わりに、文七が火をともすと言うが、正八は今からつけたんじゃ油が持たないからダメだ、第一自分が火傷すると反対した。

文七は正八は灯りをつける時刻を遅らせ、誰かに不審に思わせる魂胆だろうと取り合わない。
だが正八はこの火は自分にしか入れられないと言い張り、文七は正八をぶん殴りながら縄をほどいた。

「ひっぱたくの、何とかなんねえのか!」と正八が文句を言うのを聞いた、おたみが「もう、夜なんですか」と聞いた。
「そうだよ。お腹空いたろう」。
「おめえたちに食わす飯はねえんだ」と文七は言い、さっさと火をつけるよう正八を叩いた。
そして、おたみを見て「よく見りゃ、別嬪じゃねえか」と言い、にじり寄って行った。
文七に向かって、正八は「本当に大声出すぞ」と騒ぎ、おたみを守ってまた叩かれた。

灯台に火がともった。
その時、おせいが灯台にやってきた。
窓から見ていた男たちが家の中に潜み、正八の首に匕首が突きつけられる。
家に入ってきたおせいに正八が「来ちゃだめ」と言うと、おせいが「どうして」と聞く。

正八は「ちょっと…。野暮!」と叫ぶ。
「悪かったね」と笑って引き上げるおせいに、正八は「師匠!」と呼びかける。
文七が正八を叩く。
「このことは…、誰にも言わないでね」。
正八の言葉におせいは「はいはい」と言って、外に出た。

しかし、おせいは妙な気配を確かに感じていた。
おせいは花街で、仕事を終えた新次を探す。
正八の様子がおかしいことを告げ、「女だろ」と笑う新次に、とにかく様子を見てきてくれと頼む。

灯台で火が燃え、暑さに苛立った文七は正八を蹴飛ばし、下に下りて行った。
「お嬢さん、だいじょぶか?」
正八の問いに隅っこにもたれて座ったおたみは、「はい」と答えた。

「名前なんての?」
「おたみ」。
「おたみちゃんか。必ずこっから助け出してやっからな」。
「正八さんって、優しいのね」。
おたみの言葉に正八は笑って、「はは、みんなそう言う」と言った。

おたみはやっと笑った。
正八は「ねえ、俺の言う通りに今からするんだぞ」と言った。
おたみの頭の上に鎖がある、正八はそれを避けておたみにちょっと立ち上がってもらう。

「気をつけろ、ゆっくりやれよ。そうそう、うまいぞお。それでな、そのまま体を左に向けてゆっくり少しずつ、下がってみな。気をつけろよ」。
「こう?」
「ああ、そうだ、ゆっくりいけよ」。
正八は、おたみを誘導する。
おたみがつまづくが、「だいじょぶか?それ上手く越えてな、こっち周ってくるんだ。よしよし、気をつけろよ」と言う。

その頃、常吉が酒を買って戻ってきた。
暑くてしょうがねえ、と文七が文句を言い、常吉に感謝した。
新次が灯台の前に立つ。
何でもないだろう、と帰ろうとした新次の目に、障子に映ったおたみのシルエットが入ってくる。

手探りで立ち上がろうとしたおたみに気づいた常吉が飛んできて、おたみを引き摺り下ろす。
障子に映った男のシルエットが正八のものではない、と新次は気づいた。
中ではおたみを突き飛ばした常吉に正八が「やめろ!」と怒っていた。

「妙なまねするんじゃない」と常吉は、正八の腕を匕首で斬りつけた。
「もうやめて、やめてください」と、おたみが正八をかばう。
裏に回った新次は、男の手が灯台の小さな窓を開け、そしてまた閉めるのを見ていた。

その頃、主水はせんとりつに食事中、腹帯を忘れたことを責められていた。
怒るせんとりつ、その時、大きな銅鑼の音が響いて、3人は驚き、思わず茶碗を落とす。
外には秀英尼が恵まれない子供の為に報謝を、と立っていた。
断りに行く主水に、秀英尼は根津の新次に言われて来たのだと言う。

正八がトラブルに巻き込まれたことを知った主水は、おせいの家で「あのバカヤロウが、だからいつまで経ったって、使いっ走りしかできねえんだ」と怒った。
新次は「だが仲間には違いねえ。ほっとけねえだろう」と言った。
「あの野郎だってしたい放題生きてきたんだ。今、お陀仏になっちまっても大して未練はねえだろう」。
だがおせいは、「おたみさんは、そうはいきませんよ」と言う。

主水によると、明日には東吉の件は片がつく。
倉田屋が見間違いと言い張れば、東吉は無罪放免だ。
「本当にそう思ってんのか」。
新次に聞かれて、主水は目を伏せた。

「どっちにしても高灯台の2人は、消されちゃうんだよ」。
「見殺しにするつもりかい?」
主水は答えない。
新次とおせいの目が、主水を射抜く。

答えず、背を向けた主水に新次は「わかった。おめえさんの手は借りねえよ。どうしてもただ働きはしたくねえ。危ねえ橋は渡りたくねえってんだな」と言う。
主水は障子を閉め、障子の向こうから「そういうことだ」と言った。
新次とおせいが目配せする。

翌朝、奉行所に呼ばれた倉田屋は、東吉は自分の人違いだったと言い張った。
与力に、かばいだてすれば同罪と脅されても言い張った。
結果、東吉は放免となった。
東吉は倉田屋にお礼を言いたいと言ったが、倉田屋は一足先に帰っていた。

東吉が隠居のところに戻るのを、新次がつけていた。
倉田屋は隠居の屋敷にいた。
隠居は倉田屋が人違いと言い張ってくれたことを感謝し、砂糖の株をやる、そしてもう一軒、砂糖の店を持つがいいと言った。
それには構わず、おたみを心配する倉田屋を、東吉が案内して行った。

座敷の縁側から、離れのような場所が見えた。
その戸からは、蒸気が洩れているように見えた。
自慢の氷室だ、と隠居は言った。

中には富士の湖から切り出した氷があるのだと言う。
「おたみは?」と聞く倉田屋に隠居は、「倉田屋さん、死んでもらいましょうか」と言った。
倉田屋は氷室に閉じ込められた。

中は氷で一杯で、冷気が立ち込めていた。
やがて倉田屋は凍死した。
後で表に放り出しておくようにと隠居は言った。
灯台の2人はそれからだ。

その様子を見ていた新次は「霞の惣五郎」と、つぶやいた。
5年前まで上方にいた大泥棒で、どこに姿を消したのかと新次が思っていた男だ。
そのことを主水に言うと、主水も向島のご隠居の存在は知っていた。

「やってもらえるでしょうね」。
頼み人は誰だと言う主水に、仕事の依頼はおせいがとってくると言う。
新次が言うには、高灯台には男が5~6人いるはずだ。
おたみと正八は3階に押し込められている。

1階に飛び込んでも3階には手が回らない。
だから一瞬にして連中を片付けないと、おたみと正八は助からない。
早くしないと日が沈むと、おせいは焦る。

その頃、倉田屋の遺体が見つかり、女房が呆然とその前に座り込んでいた。
役人は心臓発作を起こしたんだろうと言い、店まで遺体を運んだ。
「女将さん、ちょっと…」と、おせいが倉田屋の女房を呼び止める。
役人が倉田屋を心臓発作で片付けたことを知った隠居は、娘を正八と相対死にに見せかけて殺すよう、東吉に命じた。

縛られた正八の脚の上に、頭を乗せておたみは眠っていた。
そのおたみの顔を見つめた正八は、おたみの顔にうつむいていく。
気配を感じたおたみは目を開け、「どうしたの?」と聞く。
「うん?ちょっと口がくっついたの」と正八は言い、おたみは「そう?」と答えた。
「そう」と言った正八に下から「しゃべんじゃねえや!」と文七が声を飛ばす。

正八は「すいませぇん」と答えた。
だがおたみに「誰も助けに来ない。朝までここにいたら、暑くて蒸し焼きになっちまう」と言い、「2人で逃げよう」と言う。
「怖い」と言うおたみに「だいじょぶだって、心配するなって、俺が助けてやっから。やってみよう」と正八は言い、おたみはうなづく。
「ようし」と言って、正八は手を縛られている縄を燃える灯台の火で焼こうとする。

正八の「あちちち」と言う声を聞いたおたみは、「正八さん、やめて」と言うが、正八は「大丈夫だって」と言って焼き続ける。
灯台に東吉と4人の男が向かってくる。
「腰の痛み、乳の張りに足力屋~」と正八は歌う。
既に灯台の外には、主水がいた。

その主水の前に小判が投げられる。
おせいがかざした小判を新次も取る。
倉田屋の女房から貰ってきた小判だ。

黒装束の新次は、灯台をよじ登っていく。
「だいじょぶ!」と縄を焼く正八は、熱さに耐える。
壁をよじ登る新次が思わず、足を踏み外す。

見張りがその音に気づき、窓を開けて外を見る。
真横にいる新次は身を潜めながら、櫛を取り出す。
だが男は新次に気づかず、正八に向かって静かにしろと怒鳴った。
主水も灯台の正面に回る。

正八の縄が解けた。
おたみの手を取り、「大丈夫か?行くぞ」と言う。
うなづくおたみ。

障子を開けた正八の前に、黒装束の新次がいた。
思わず、障子を閉める正八。
「あれ…、見たことあるな」と言った正八に新次が「俺だ」と言った。
その声に正八は「新さあん。遅かったね、何してんの!」と安心した声を出した。

新次は手で大きく丸を描き、障子の外に張ってある金網を「焼け」と言った。
「どいて」と言って正八が金網に火をつける。
主水は灯台の戸の外で刀を抜かずに腰から取り出すと、柄を額に押し付け、目を閉じて待つ。
灯台の中には1階に文七と常吉、2階に男が2人いる。

正八が火をつけた金網が焼け落ち、開いた穴から新次が入ってくる。
主水が上を見上げる。
新次が障子を破り、そこから顔をのぞかせて外にいる主水に合図をする。
破れた隙間から新次の顔を、主水が確認し、持っていた刀を抜きかけ、刃をのぞかせる。

新次が縄を伝わって下に下りる。
同時に主水が戸を破る。
戸を背にしていた男が、前へ倒れる。

あっという間に主水は刀を抜き、正面にいる常吉を横に刀を払って斬り、文七も破った扉越しに突き刺す。
上では新次が2人の真ん中に下りてきていた。
抵抗する間もなく、1人は背中越しに櫛で首筋を刺され、蹴り飛ばされたもう1人も後ろから首を刺される。
下りてきた新次と主水が顔を見合わせ、新次が破った戸を元通りに立てる。

戸を破って入ってきた東吉と4人の正面に、常吉と文七がいた。
突っ立っている2人の横を、4人の男が通り過ぎていく。
妙な様子の2人に「おい、どうしたんだ」と東吉が声をかけ、肩を触ると2人は崩れ落ちた。
その背後から主水と新次が現れる。

3階ではおたみが「怖い」と正八にしがみついていた。
「大丈夫だよ、俺が見てるから。子分来たんだからもう大丈夫、大丈夫だって」。
下では、主水が4人を斬り捨てた。

外に逃げ出した東吉は、新次に匕首を振り回す。
新次は東吉を灯台の壁に追い詰めると、櫛で刺す。
壁づたいに崩れ落ちていく東吉。

おせいは向島の隠居の氷室の前にいた。
氷室から蒸気が凍って、おせいの前に霞ができる。
狆を追いかけてきた隠居に、「お久しぶりですこと、霞の惣五郎さん」とおせいが声をかける。

「誰だ!」と言って惣五郎が、半開きの氷室の戸を開ける。
後ろからおせいが惣五郎を突き飛ばし、惣五郎が氷室の中に倒れる。
おせいの懐剣を持った手を、惣五郎が受け止める。

手を押さえつけられたおせいが、懐剣を落とす。
逆に惣五郎がおせいを刺そうと、匕首を振り上げる。
その手を抑えたおせいは、氷室の中にできているつららを折る。

上から小さい氷が落ちてくる。
おせいが持ったつららは、惣五郎の首を貫く。
惣五郎が叫び声をあげる。

急いでおせいは外に出る。
氷が降り注ぎ、惣五郎が埋まっていく。
驚愕の表情をして惣五郎は氷の中で、息絶えた。

正八は主水に来るのが遅いと文句を言っていた。
「生きているから御託も言えるんだ」と言う主水に、正八は「死んだほうがましだ。こんなとこ見られて」とすねた。
しかし、主水が次に口にした言葉は、おたみの父が殺されたことだった。
言葉が出ない正八に、主水はおたみのことを「送ってけ」と言った。

座っているおたみのところに行った正八は「大丈夫だぞ」と言い、「おうち帰ろう」と手を取った。
正八は「よし、おんぶしてってやろう!」と、おたみを背負って外に出た。
主水は無言だった。
眉間を押さえて座っていた主水は、やがて立ち上がる。

倉田屋には、葬儀の客が続々と来ていた。
葬儀の灯りのついた家の近くで、「ついたよ」と言っておたみを下ろした正八に、おたみは微笑んで「ありがとう」と言う。
「そいじゃな」と言う正八におたみは「寄ってって」と、手を取った。
「お礼に…、私のこと聞いてほしいの」。

倉田屋の前には、「忌」の文字が見える。
正八は家の前に行き、戻ってきて「今日はやめとくわ」と言った。
「どうして」。
「今夜は遅いしさ、今度昼間ゆっくり聞きに来るから」。

おたみは正八の腕を握ると、「きっと来てくれるわね」と聞いた。
「行くよ」と正八はうなづいた。
おたみは指切りをしようと、手を出した。

正八と指切りしたおたみは、うれしそうだった。
「そいじゃ、これ持って」と正八はおたみに杖を持たせると、「転ぶなよ」と言った。
おたみを店の方に向かせて、「こっちまっすぐだ」と言うと、おたみは「ありがとう」と微笑んで歩いて行った。

後ろでおたみを見送った正八は、深くため息をついてうつむいた。
「…つまんねえなあ」と言葉を吐き出し、勢いよく足を蹴り上げる。
履いていた下駄を正八は、宙に向かって履き捨てる。



倉田屋役は、梅津栄さん。
「必殺」シリーズには悪役でも登場していますね。
ここでは娘をひたすら心配する父親。

向島のご隠居こと、霞の惣五郎は永井智雄さん。
貫禄ある悪党で、「暗闇仕留人」では12話「大物にて候」で、無法を働く甥っ子と姪っ子をかわいがる、これまた大物の悪党を演じています。

表の職業で、甥っ子を殺人の罪で捕えた主水を追い詰めてましたが、主水の腕を見くびっていた。
5人の腕の立つ用心棒を次々切り捨てた主水に、最後は自分が逃げるはめに。
貫禄あるんですよね、この方。

狆を「ぼん」と呼び、かわいがってます。
この狆がかわいいんですよ。
撫でたい。
悪党のご主人がおせいに呼び寄せられているのに構わず、って当たり前なんですけど、歩いてる。
でもこの狆が惣五郎を呼び寄せるのに、ちゃんと機能してるんですねー。

惣五郎を仕留めるのは、おせい。
仕留め方が機転が利いてる!
この、つららを使っての仕置は、草笛光子さんの提案だそうです。

ポキッとつららを折ってそれを道具にして、後は証拠が残らない。
こういうの、やってみたい、と。
女性として、腕力では敵わないけど、おせいはプロの殺し屋。
危ういようでいて、やっぱり凄腕なんだなあ~と思いました。

おせいさんが「仕事屋稼業」のおせいさんと同一人物ってことは、確かおせいさんの夫は元盗賊のはず。
いや、義賊っぽいんですけど。
その関係で、霞の惣五郎のことは知っていたっぽいですねえ。
そして、新次が正八に対して、既に信頼を寄せている。

新次とおせいさんが正八とおたみを救出したい一方、結構冷静なことを言うのは主水。
正ちゃんとは「仕置人」の時からの付き合いなのに、冷たい~という感じなんですが、主水も何とかしようと思っていたはずなんですよね。
鉄たちとの別れを経て、達観した部分はあるんでしょうけど…。

「仕置人」でだって口では冷たいことを言いながら、最後は鉄たちの為に正体をさらそうとしていたぐらいですから。
しかも、死ぬのを覚悟で上司がいるところに殴りこみまでかけた。
ただ、新次とおせいはそんなことを知らない。
主水は絶対、そんなことを口にしない。

だから新次とおせいには主水がすごく冷酷に、保身を図る人間に見えることでしょう。
ほんとは誰よりも、仲間に対する思いは強いと思うんですけどね。
最後、おたみの父親が殺されたことにかなり心を痛めているし。
1人、眉間を押さえて座っている姿は、いろいろと自分の無力さを噛み締めているように見えるんですね。

そして正八!
「新・仕置人」同様、正八がいることで世界が広がる「商売人」。
もう、正ちゃん見る為に見ても損はないぐらい、正ちゃんの魅力が一杯です。
軽くて、お調子者で、でも被害者に感情移入してかばうところは、仕置屋稼業」の「一筆啓上無法が見えた」の市松に匹敵。

あんまり頼りにならないように見えて、実は正ちゃんって、いてくれると非常に心強い。
もう、めちゃくちゃ優しいしね。
正八を知ってると必ず、何とかしてくれるんじゃないか、と思える。
少なくとも、最後は仕置きに持ち込んでくれるでしょう。

そんな正八に、おたみちゃんも心を許していきます。
正八の足の上で眠っちゃったり。
ちゃっかり、こんな時でもちょっかいかけるのが正ちゃんらしい。

「どうしたの」。
「ちょっと口がくっついたの」って。
緊迫した状況の中、正八とおたみの様子がとっても和む。

クライマックスは同時に2階と1階を制圧しなきゃいけなくて、かなり緊迫していて迫力。
突入に集中する主水の様子。
「怖い」としがみつくおたみを一生懸命安心させる正八。
「子分来たから」って、主水たちを「子分」って言ってるところが、おかしい。

そして、最後まで正八は優しい。
この優しさが非常に心和む。
だから最後はとても切ない。

送ってくれた正八を、心から信頼したおたみが家に招きいれようとするが、裏稼業の人間である正八が行けるはずもない。
ましてや葬儀の最中。
本当に、ほんのつかの間の、本来なら触れ合うことのない人間同士の触れ合いだったということを正八はわかっている。
そして、おたみが受けるであろう衝撃もわかっている。
衝撃を受けたおたみの側に、正八はいてやれない。

再会の約束をした、うれしそうなおたみ。
全てを承知している正八は、それでもおたみには二度と会えない。
正八の切なさが最後の「…つまんねえなぁ」に凝縮されて、この回は終わります。


2010.06.03 / Top↑
第9話、「非行の黒い館は蟻地獄」。


「親バカは微笑ましいけれど、バカ親は迷惑」という友人の言葉を思い出した一編。
やっぱり、裏稼業の人間に子供、というと、こんな話もできる。
今度の「必殺仕事人2010」で東山紀之さん演じる渡辺小五郎に子供ができる、ということなので、それはどんな展開になるのかと思っても見ていました。

主水はある夜、「ふうてん横丁」でお加代という少女に声をかけられ、金を取られる。
「ふうてん横丁」は根津の芸者たちも入るな、と言い渡されているような場所。
1分という金を渡し、宿を探してくると言われて待っていたが少女は帰って来ない。

少女は金を大蔵屋の利兵エの息子・幸太郎に会っていた。
幸太郎は利兵エから小判を貰って来ては、この界隈で遊んでいた。
戻ってこない少女に騙されたと悟った主水。

同じ同心の神谷仙之助が見回りに来ているのに出くわす。
神谷はこの辺りをうろついている少年少女に、アヘンが売られていると言う噂を聞いて見回っていたというのだ。
その通り、おせいの知り合いの少女・お袖は女形の秀之丞にそそのかされ、お加代や幸太郎が待つ場所に連れて行かれると無理やり、アヘンを吸わされて死んでしまった。

お袖を行き倒れに装って始末したのは、虎河豚の権次だった。
だが神谷はあれはアヘンのせいだ、と見抜く。
アヘン追求に意欲を燃やす神谷だが、主水は面倒なことになったなあとつぶやく。

正八は足力屋の商売で、幸太郎の治療に行った。
母親にぞんざいな態度をし、何か甘いものが食いたいから羊羹でも買って来いと突き飛ばす幸太郎に、正八は「坊ちゃん、母親と言うものはもう少し大事にした方が」と言う。

「うるせえ」と言う幸太郎を乱暴にもんだ正八は追い出され、その際に幸太郎は父親は奉行所に顔が利く、正八をこの辺りで商売できないようにしてやると言う。
その通り、大蔵屋から奉行所にたくさんの道具の寄進がされていた。

神谷はお袖の調べから、東座の秀之丞に会うと言っていたことを突き止める。
アヘンの件で、神谷は秀之丞を捕えた。
瓦版は次は「たの次の役者ではないか」などと大々的に書きたてた為、世間は大騒ぎになる。

焦った幸太郎は秀之丞が自分のことを話したらどうしよう、と悩んでいた。
権次とお加代は父親が奉行所に顔が利くんだから、泣きつけと言う。
勘当される…と躊躇した幸太郎だが、しかたなく父親に打ち明ける。

「友達に誘われて…つい」と小さくなる幸太郎を殴りつける利兵エ。
出来心だから許してやってくれと言う母親。
このままでは大蔵屋の看板にも傷がつく。
利兵エは、秀之丞を釈放させなければと考える。

主水は神谷のことを正八に「まるで融通の利かない男で、何であんなにムキになるんだろう。律儀というか、生真面目というか、俺とはまるで生き方が違う人間だ」と言う。
神谷の熱心な捜査に主水は、「あんまり突っ走りすぎて、蹴つまづかなきゃいいけどなあ…」とつぶやく。
秀之丞を白状させようとしていた神谷だが、証拠不十分で秀之丞は釈放と決まった。

釈放された秀之丞にファンの女性は群がり、瓦版屋は殺到した。
気落ちしている神谷を、主水は蕎麦に誘った。
そして今度の一件は大蔵屋から圧力がかかった、と教える。

何であんなにムキになるんですか?と聞く主水に、あんたはアヘンの恐ろしさを知らんのですよ、と神谷は言う。
若い連中の間で流行っているが、放置しておけばどうなるか。
「まあ、あんたも子供ができるそうですが、いずれ子供を持てばわかるでしょう」。
神谷の言葉に複雑な気持ちになる主水。

大蔵屋に行った神谷は、自分はどんなことがあっても手を引かない、「必ず秀之丞のしっぽをつかまえて仲間の名前を吐かせてやる。おめえの倅にも首を洗って待っているよう、ようく因果を含めておくことだな」と言った。
神谷が帰った後、利兵エは「下っ端役人が」と吐き捨て、おろおろする幸太郎に「心配しなさんな。どんなことがあってもお前を町方の手に渡すようなことはしないから」と言う。

利兵エは秀之丞なんか信用できない、拷問にでもかけられれば口を割るに決まっている、と、秀之丞の口を封じることを考える。
「秀之丞を?」と言う幸太郎に、「何もお前が手を下すわけじゃないんだから」と権次にやらせるつもりで利兵エは言う。
ついでに神谷も、二度と動けないようにしてやる、と。

お袖の死に疑惑を抱くおせいは、正八に小遣いをやって秀之丞を呼んできてくれるよう、頼んでいた。
正八とおせいが金額のことでもめている間、神谷が秀之丞の後をつけて「伊呂波」という宿に入って行った。
いつものように部屋に入った秀之丞は、無防備に後ろから権次に殴り殺された。

「さあ、逃げよう」と潜んでいたお加代が飛び出してくるが、幸太郎は「おめえもなんだよ!」とお加代を押さえつける。
悲鳴を聞きつけた神谷は2階に上がり、逃げていく権次と幸太郎を見た。
死んでいるお加代を確認した神谷の顔色が変わる。
「か、加代!」

ふうてん横丁に溜まっていた人間が集まってきた。
アヘンを吸っていた人間がいる、と言う神谷に、ふうてん横丁の人間はそんなもの何も知らないと言う。
番屋では幸太郎を見た人間はおらず、神谷が飛び込んできたのを見た人間しかいなかった。

神谷が殺したのではないか?
そんな疑惑が持ち上がってくる。
そこに大蔵屋が倅を人殺し呼ばわりされたのでは黙っていられない、神谷のやり方は強引だと訴えてきた。
「きさまっ!」と神谷は憤慨するが、状況は神谷に不利になるばかりだった。

結局、2人を殺したのは神谷ということになってしまった。
だが、ひょっとして、アヘンでお袖も殺されたのではないか、とおせいは気にする。
主水は神谷を伝馬町に送るよう、言われる。
神谷の死罪が決まったのだ。

「とんだことになりましたな」と主水は牢の中の神谷に声をかける。
神谷は、自分は無実だが、信じてもらえるかと言う。
主水は「信じていないわけじゃないが」と言うと、神谷は言った。
「やったのは私じゃありません。実の娘を殺せるわけないでしょう」。
「実の娘?」

牢の中の神谷を見た主水に、神谷は「1年前に家出した私の娘、加代です」と言った。
主水に声をかけて金を騙し取った加代の姿が思い出される。
うなづく主水は、「じゃあ、あの子が」と言った。

「親不孝な娘でした。私の意見などには耳も貸さず、ろくでもない男たちと遊び呆け、揚句の果てにアヘンに手を出しました。父1人、娘1人の暮らしだったので厳しくしつけたつもりでしたが、それがかえっていけなかったんでしょう。
結局、娘は家を飛び出てしまいました。それから私は必死になって娘の行方を捜しまわりましたが、まさか…あんな姿で巡りあうとは」。

「神谷さん。あんた、それ、何でもっと早く言わなかったんだ。それさえ言ってりゃ、あんたの無実が証明できたはずじゃないか!」
「親として娘の恥じをさらすわけにいきません。それに…今さらそんなことを言ってみても誰も相手にしなかったでしょう。まして大蔵屋が一枚噛んでいる以上」。

神谷は言う。
「中村さん、私はもう命は惜しくはありません。ただ、ただ、一つだけ無念なことは、町方としての意地を通すことができなかったことです」。
「意地を?」

「何としても、大蔵屋の息子を獄門に送りたかった。それを果たせずに死んでいくことが無念でなりません」。
沈黙した主水。
じっと神谷を見つめる。

処刑の時。
両脇を押さえられた神谷の前に、首斬り役人が刀をかざす。
目隠しもしていない神谷が目を閉じる。
見つめる主水。

「中村さん、お願いがあるんですが」。
夜道を歩く主水に、神谷の声が蘇る。
八丁堀の組屋敷に加代が昔、大切にしていた人形があるので、それを自分と一緒に墓に埋めて欲しいと神谷は主水に頼んだ。
主水が暗い神谷の屋敷に入ると、人形が飾ってあった。

主水が人形を手に取ると、人形から小判や小銭が落ちた。
それを拾い集めると、主水は正八の灯台に向かう。
しかしおせいは、仕事はきっちりやるが、自分たちにお役人の敵を討てというのか、と言う。

何か不服があるのかと言う主水に、役人の敵討ちをするつもりはないと言う。
ある娘の為に、この仕事を引き受ける、とおせいは言った。
お袖も幸太郎にやられたのだろう。

誰の為だろうが仕事の相手は同じだ、「師匠やってくれるな」と主水が言うと、おせいはうなづいた。
仕事の相手は大蔵屋、息子の幸太郎、権次に間違いない。

正八は女形に化け、権次に会いに来た。
市川座の正之助と名乗り、出てきた権次に「あたしもあれ、やりたいのよね」と話を持ちかけた。
今はやばいと引っ込む権次に正八は、「お金ならあるのよ」と小判を見せると。権次は「来な」と言って正八を連れて行った。

権次は夜鳴き蕎麦の屋台に正八を連れて行った。
「どうしてお蕎麦なんて食べるの?」と言う正八を座らせようとした権次を「あたし、右の方が好きなの」と権次を暗い、道の端の席に追いやった。

「お望みならいくらでも用意するからよ」と言う権次の背後、すだれに隠れた暗闇に新次が潜んでいる。
正八は権次に、「あら、ちょっと顔見せて…」と言って、「わあ、好き!」と迫った。
身をそらし、すだれに近づいた権次の首筋を、新次の櫛が捕える。

首筋を刺された権次は絶命し、新次は密かに闇に消える。
それを確認した正八の前に、蕎麦が2つ出される。
「さあ、できたわよ、いただかなくっちゃ。どうしたの、食べないの?病気?」と言って1人、答えない権次を前に食べ始めた。

その頃、大蔵屋は幸太郎を連れて、お座敷遊びをしていた。
芸者に囲まれて、幸太郎はご機嫌だった。
もうくだらない遊びはやめて、お座敷遊びを覚えなさいという利兵エに「うん、こっちの方がおもしろいよ」と幸太郎は答える。
酒を勧められ、幸太郎は酔ったようだった。

酔い覚ましに外に出た幸太郎をおせいが見ている。
物陰にいるおせいは、人が通ると顔を隠す。
大蔵屋と幸太郎がやってくる。

出てきたおせいは大蔵屋に挨拶し、だらしなくおせいに抱きついた幸太郎を「あら、あたしが送りましょうか?」と言った。
「そんなお手数かけさせてよろしいんですか」と言いながら先を歩く大蔵屋。
その後を幸太郎を支えながら、おせいは歩く。
「いい息子さんになられて」と言うおせい。

息子に今度、端唄のひとつも教えてやってくださいよと言う大蔵屋は先に角を曲がり、おせいは酔っ払った幸太郎と川のほとりで立ち止まった。
ゆらゆらと揺れ、輝く水面がおせいと幸太郎を照らす。

うつむいている幸太郎を、おせいは脇から刺し貫く。
酔っ払っている幸太郎が身を起こす。
おせいが、幸太郎を突き飛ばす。

幸太郎がいないことに気づいた大蔵屋が、「幸太郎?お師匠さん?」と呼んでいる。
その時、幸太郎がフラフラとやってきた。
「幸太郎」と安心した大蔵屋だが幸太郎は大蔵屋に寄りかかる。
「しっかりしなさい」と言った大蔵屋だが、幸太郎はそのまま、倒れる。

幸太郎が死んでいるのに気づいた大蔵屋は幸太郎の名を呼びながら「誰か!誰か!」と悲鳴をあげた。
腰を抜かしている大蔵屋の前に、主水が現れた。
「中村様!」
大蔵屋が「幸太郎が」と言った途端、主水は刀を振りかざす。

横に払い、大蔵屋の足に斬りつける。
「ひえっ」と言って大蔵屋はひざまづく。
「あっ、あっ」と声が出ず、大蔵屋は川の方へ這っていく。

川を前に座り込んだ大蔵屋の前で、主水は刀を川に、水しぶきを上げる。
頭を川の前に伏せた大蔵屋の目の前に、刀をかざす。
大蔵屋の首に刀を当て、大蔵屋を上に向かせると主水は言う。

「大蔵屋。神谷さんの恨みを俺が晴らしてやる」。
刀をかざされる神谷。
神谷は毅然としている。

身を縮ませた大蔵屋の上に、主水は刀を振り上げる。
大きな水音がした。
川面がゆがみ、映っていた主水の姿も歪む。

おせいが物陰からじっと見つめている。
水の輝きと揺れが、おせいを照らしている。
大きな水音が収まる。
おせいが立ち去り、主水も無言で立ち去る。



この話は1978年当時、芸能界の麻薬汚染が話題になった時の話だそうです。

大蔵屋は藤岡重慶さん。
この方も濃い悪役を演じてくれた、名優さんですよねー。
どすの利いた役から、今回みたいなちょっと品の良い悪党まで、悪役の幅が広い!

そして、権次役は必殺の各シリーズで一回は出番があるんじゃないか?というぐらいの悪役さん、江幡高志さんです。
「仕置人」では天神の小六の側近役なんかやっていましたが、その後は、も~、よく仕置きされてくれて。
大好き。
素顔はゴキブリも殺せないほどの、気の優しい方だそうです。
大河ドラマ「新選組!」では、日野時代の土方さんと一緒に薬売って歩いてる役でした。

いい味出してましたね~。
今度は殴られる役でしたけど、殴られている間、女のことを思っていたと語る。
それで、殴っている奴に対して「ざまあみろ!」と言う。
江幡さん、もっと見たいーと思いました。

この2人がはめる、真面目な同心は滝田祐介さん。
きりっとしていて、いかにも自分にも娘にも厳しいだろうな、という同心。
主水は「生き方が違う」と言いつつ、どこか心配している様子。

何度も真面目な捜査を打ち切られた主水が、神谷を蕎麦に誘う。
かつて、お役目に真面目に燃えていた、そして挫折した主水ならではの気遣いが見えます。
主水は別の道を見つけられましたけど、神谷は見つけられない。

そこでまた神谷に「あなたも子供を持てばわかる」と言われ、裏稼業の人間としても、表稼業の人間としても複雑な主水。
神谷が譲れなかった理由を主水が知るのは、最後の最後。
自分と同じ挫折を味わい、ついに殺されてしまった神谷、主水にわかるその無念。

いいかげんな同僚である主水に人形の件を託す神谷。
それは最後に会話するのが主水だから、という理由だけではなく、どこかに、ギリギリになった時、この人には大切なことを頼めると思わせるものが主水にはあるんでしょうね。
人間味を感じるんじゃないでしょうか。

でも、このお加代という娘、どうしようもないまでの深みにはまってましたね。
一時の遊びではすまない、一生ダメにするところまで…。
きっと真面目な父親に反発していたんでしょうけど、秀之丞を殺害した時なんか思い出すと、悪にはまっていたな、と。

今回、解説にもありますが、親の気持ちというのがテーマでもありましたね。
大蔵屋もバカ親だけど、幸太郎がかわいい。
神谷は毅然として対処するけど、娘への愛は深い。
そして、親となる主水は、神谷の親としての気持ちを思わずにいられない。
で、全然それをわからないのが幸太郎とお加代の2人の子供。

いつもは調べを念入りにする主水だけど、神谷への信頼も、親としての気持ちもあったのか、あっさり仕事決めるし。
そんな個人的な思いにとらわれたような主水に何となく反発を感じたおせいは、仕事に際して一言言わずにはいられない。
「あんたの為じゃないからね」って。

仕事は正八のサポートが何とも楽しい。
白塗りの正ちゃん、どこかかわいい。
席を向こうに追いやったり、迫ったり、新次をちゃんとサポートする。
さすが、「仕置人」。

しかし、権次が死んだ後、1人で食べて、1人で立ち去ったんでしょうかねえ。
「どうしたの、食べないの、病気なの」っておかしい。
そういえば、潜入捜査してくれと言われたおせいと金額でもめてるのがおかしい。
「足力屋の方が実入りがいい!」
「わかった、わかった」って。

それから、正八の、幸太郎への「母親は大事にするもんだ」という言葉。
継母が嫌いだったと「仕置人」で言っていましたからね、やっぱり何かいろいろと、ドラマには描かれないけれど、正八の生い立ちというものを考えてしまいます。
描かれない部分まで思わせるってことは、やっぱりいいドラマ、いい登場人物なんですよね。

幸太郎を仕置きして、主水の仕置きを見ているおせい。
主水の仕置きが凄まじい。
大蔵屋の足を斬りつけ、立てないようにする。
昼行灯として、怒られている主水しか知らない大蔵屋はもう仰天。

這っていく大蔵屋の前で、川の水で刀を洗う。
大蔵屋の首に刃を向けて、上を向かせる。
「神谷さんの恨み」と、はっきり教えてやる。
はっきり、これは処刑だと教えてやる。

まさに神谷がされた処刑の姿勢にして、主水は大蔵屋を仕置きする。
この時、神谷の姿の映像が入ってくるのがうまい。
毅然とした神谷の姿が。

大蔵屋を斬ったのは、川面が乱れることでわかる。
そして、大きな水音。
おせいが黙って見ているけど、あの後、新次に「中村主水ってのは怖ろしい奴だね」とでも言いそうな顔をしてます。

結局、「親不孝」の果ての結果となった今回の仕置きで、これから親になる主水は何を思ったのか…。
父親として、役人として、恨みを晴らした主水の姿でエンディングです。
これも見る方に余韻を残すと思います。


2010.05.27 / Top↑
恨みをはたすと生まれけむ 復讐せんとや生まれけむ
をんるの道は遠けれど恨みの川に棹差して 因果の渦に身をゆだね
その名は朱菊 恨みの子


第8話、「夢売ります 手折れ花」。
藤村志保さんの演じる菊の悲しい美しさ、おせいの女仕置人としての腕、主水の強さが楽しめる一編。


江戸で大評判の絵草子、美しい女性・菊の復讐談。
元・絵草子屋の正八も夢中。
しかし、正八はある夜、岡っ引きのまむしの六助と呼ばれる男が、北岡菊という美しい女性に斬り殺されるのを目撃する。
無実の罪を着せられた父母の恨みを晴らす菊の話は、実話だったのだ。
叔父に育てられて20年、菊は父母の復讐の為、生きてきた。

20年前、菊の父母を陥れたのは、父と同じ北町奉行所の同心・谷口弥三郎。
父の徹之進は弥三郎と豪商・大和屋儀兵衛の不正を暴こうとして殺された。
それに当時、大和屋の女中だったおしのが悪事に加わっている。

絵草子を恐れた彼らは、六助を使って絵草子の版元と著者を調べていたところだった。
菊に惚れこんだ正八は主水に調べてもらったところによると、菊の叔父は足立竜人といって、寺で住職をしている。
元・絵草子屋だった正八は、闇のご禁制の絵草子のつてで、この叔父が作者であり、版元であることを突き止める。
そして、菊もそこに密かに住んでいた。

しかし、弥三郎たちの追求は迫ってくる。
お菊を守ってやってくれと仲間に訴える正八だが、新次は菊よりも先に、足立竜人が危ないと言う。
それを聞いた正八は寺に走る。
叔父は自分が突き止められたことから絵草子の最後の巻を菊に託すと、菊を逃がす。

これで最後だ。
菊の復讐はこれで終わるのだ。
絵草子には、菊が親の仇を討つ場面が描かれていた。
一時、避難した菊は寺に戻ってくるが、そこには竜人の死体があった。

自分を育ててくれた叔父さえも、弥三郎に斬殺された。
追っ手も迫ってきた。
叔父も殺された。
もはや、これまで。

弥三郎たちがいる屋敷へ乗り込もうとする菊。
「ダメだよ!俺、あんたに死んで欲しくないんだ」と止める正八。
しかし菊は毅然として、「誰にも邪魔はさせません」と正八さえも斬る構えを見せる。

そして正八に「殺されはしません。私が殺すのです。長い間、そのことだけを思い、その為に私は生きてきました。それしか私にはないのです。私が死んだら父上と母上のお墓に…」と正八を振り切り、屋敷へ向かう。
仇をとろうとする菊を、正八は止められなかった。
銃声と共に菊の花が散り、血に染まる。

弥三郎、儀兵衛、おしののいる屋敷に乗り込んだ菊は待ち受けていた弥三郎の銃の前に倒れた。
そして、弥三郎が不届き者を斬ったということで終わってしまった。
卒塔婆を立て、正八は菊を弔ってやる。

「みすみす俺が殺しちゃったようなもんだ」と言う正八におせいは、「誰も止められなかったよ。長い間、燃えたぎらせてきた恨みだもの」と慰めた。
「この話もとうとう未完のまま、おしめえってことか」と言う主水だが、正八は「冗談じゃねえよ、さっそく仕事の段取りにかかってもらうぜ」と言う。
「仕事?」
「そうだよ、やるんだ!金のことだったら心配いらねえぞ。お菊さんがちゃんと仕事料残しておいてくれた!」と言う。

「お菊が?仕事料を?!」
「最後の巻の下書きだよ!」
みんな読みたがっている、結末を知りたがっている。
絶対売れる!と正八は言う。

だが、問題は挿絵だ。
おせいは春洋という、かねてからおせいの絵姿を描きたいという下心一杯の絵師を知っているが、ずっと袖にしていた。
しかし正八に懇願され、モデルになることを承知する。
主水が最近はこの手の本に対して取締りが厳しいと言うことから、地にもぐっての闇文庫だ。
「ようし、こうなったら最後まで台本どおりやってやろうじゃねえか」。

元・絵草子屋の技術を生かし、正八は絵草子を刷る。
おせいをモデルに匕首を手にした菊の姿を描いて挿絵を入れ、正八は最終巻を完成させた。
街角で密かに絵草子を売る正八に江戸の庶民は待っていたと飛びつき、絵草子は飛ぶように売れた。
弥三郎たちは庶民たちから絵草子を取り上げ、回収にかかる。

回収した絵草子は燃やされていた。
「景気よく燃えてくれますな」。
「これでやっと、あの頃のことも灰になって消えてくれるわ」。
そう言って屋敷内に入った3人。

庭から火のついた絵草子が、障子に投げつけられる。
絵草子は音をたてて、廊下に落ちる。
「なにものだ!」
廊下に出て庭を見る3人に、おせいの声が聞こえてくる。

「恨みをはたすと生まれけむ 復讐せんとや生まれけむ。
をんるの道は遠けれど恨みの川に棹差して 因果の渦に身をゆだね
その名は朱菊 恨みの子…」。

庭におせいがいる。
菊と同じ扮装をしたおせいの姿に、同心・谷口弥三郎が「お菊!」と声をあげる。
おしのが悲鳴をあげる。
大和屋儀兵衛が「ああ」とうろたえて、部屋に逃げ込む。

弥三郎が銃を発射し、おせいの刺していた傘の柄が折れる。
傘が舞う。
銃声がもう一つ、二つ。
同時におせいがすばやく、縁側に走りあがる。

用心棒たちが、廊下を走ってくる。
その先にうつむき加減の主水の横顔。
主水が振り向く。
燃える菊の絵草子。

剣を抜いた主水が、横になぎ払い、1人。
縦に振り下ろし、2人。
すれ違いざま、3人。
刀を合わせる合間もなく、倒れる用心棒。
一瞬、ひるみ、襲い掛かってくる4人目を横に払った刀で斬り、やってきた5人目を抜いた刀で斬り払う。
トドメに背後からもう一撃。

逃げるおしのの首を、飛んできた新次の帯が捕える。
喉をかきむしるおしのが引き寄せられると、おせいが匕首で刺す。

弥三郎が銃を発射する。
おせいがふすまを閉めて姿を消し、弥三郎を惑わす。
新次の櫛が飛んできて、弥三郎の銃の撃鉄を抑える。

匕首を手に切りつけようとする儀兵衛を、おせいが横から斬る。
反転した儀兵衛の首筋を斬り、さらにおせいに背を向けたところを上から刺し貫く。

儀兵衛から匕首を抜き、弥三郎に向き合ったおせいは言う。
「北岡菊。仇敵を倒すまでは不死身!」
おののいた弥三郎が櫛を払い、銃を構える。

「誰だ、貴様たちは!」
おせいは答えず「谷口弥三郎。お前を殺す」と言った。
「バカな」と言いながら撃鉄を起こす弥三郎。
後ろに下がっていく弥三郎の手を、障子を破った新次の手がつかむ。

銃を発射できないまま、弥三郎はおせいの方へ投げ出される。
絵草子の絵のまま、おせいは弥三郎を上から斬る。
悲鳴をあげた弥三郎を、再び下から斬る。

お菊の絵が燃えていく。
すっかり燃えて、灰になった絵草子が風に舞う。
それを見たおせいが出て行く。

仕置きが終わったおせいは汚れを洗い流すかのように手を洗い、新次に明日、髪を結いなおしてくれるよう頼む。
新次は帰って行く。

主水が家に戻ると、せんとりつがお菊の復讐談の最終巻を読んでいた。
「天下泰平の世なれど悪徳不正の数々、留まるところを知らず、然れどもここに1人正義の士あり。北町奉行所与力・北岡徹之進なり…」。

美しい菊の復讐話にうっとりするせん。
菊はまるで、自分の若い頃のよう…。
それを聞いた主水は思わず笑い、せんに鋭く「さっさと召し上がって早くお休みなさい!」と冷えた夕飯を食べさせられる。
「この欝し世に忽然と現れ出でたる修羅の女ありき。舞い降りたる天女か、地獄の死者か、類稀なる美形な、お菊という…」。
黙って冷えた夕餉を前に、それを聞いている主水。




「木枯し紋次郎」4話の「女人講の闇を裂く」では、紋次郎に密かな恋心を抱いたと思われる藤村さんです。
ここでは凛として美しいです。

NHKの朝のドラマで、元・芸者さんの役をしていましたが、藤村さんを本物の踊りの名取りと言っても通る…というぐらい、お年を召しても背筋が伸びて美しいです。
今でも凛としてお綺麗です。

菊の復讐は、これは解説にもあり、私は後で実感したのですが、梶芽衣子さんの「修羅雪姫」ですね。
ただ、やっぱり菊の復讐は無理だった…。
菊を止められなかった正八が、昔取った杵柄で、絵草子を作っちゃう。
「新・仕置人」で正八が絵草子屋を営んでいた設定を知っていると、余計楽しいです。

懐かしいですね、正八が一生懸命、絵草子を刷る姿。
自分の為にがまんしてモデルをしてくれたおせいの姿に、「師匠、綺麗、綺麗、きれーい!」って。
かわいい。
結局、正八の為に動いてくれるのはこのかわいらしさのせい、と思うほど。

仕置きシーンは、情緒たっぷりに始まります。
投げつけられ、音を立てて落ちる絵草子。
燃える絵草子に廊下に出た3人に、おせいの声が重なる。

銃声と共におせいが走り、殺しのテーマの音楽が始まる。
このテーマは音楽だけ聞くとピンと来ないかも知れないですが、迫力ある仕置きシーンの始まりと共に流れると、すごくいい。

おせいが走りこんだ部屋に向かって、走ってくる用心棒たち。
主水登場。

横顔から正面を向くと、走ってくる用心棒たちをすれ違いざま、あっという間に次々斬り伏せる主水。
強い。
ものすごく強い!
鬼神のよう。
無敵。

おしのをやるのかと思わせて、サポートに徹する新次。
恐怖にかられた儀兵衛も、おせいが見事に斬る。
おせいさんも強い。
戦闘能力、相当高い。

「江戸プロフェッショナル」というタイトルどおり、菊さんも復讐に頑張ったけれど、やっぱりおせいはプロなんだなと実感。
弥三郎の目をふすまで惑わせ、銃弾をかわす。
いや、そこらの男じゃ、勝てません。

銃を向ける弥三郎の撃鉄を、櫛で止めるって新次の技もすごい。
追い詰められた弥三郎が誰だと叫ぶと、返すおせいの言葉がいい。
「北岡菊、仇敵を倒すまでは不死身!」

かっこいいですよー。
恨みは死にませんよー。
それで弥三郎も、菊を名乗ったおせいに殺させる。

新次の殺しがなかったり、主水の殺しがなかったり、殺しの順番はその時によって違う。
でもすごい満足度高い。
1人1人、それから順番などの「お約束」の楽しさもありますけど、そうではなくても十分楽しめる。

「商売人」って大人っぽくて、しっとりしているのに、仕置きがものすごくスピーディーで、躍動的。
まさに「江戸プロフェッショナル」。

エンディングは尺の関係で「夢ん中」のイントロが流れるらしいんですが、これが物語の終わりを告げるのが時に楽しく、時に切ない。
地味な印象の「商売人」ですが、みなさん、なかなかカッコイイ。
「新・仕置人」とは、また違った良さがあります。
この違った味を作れる当時のスタッフさん、俳優さんたちを、本当にすごいと思うばかりです。


2010.05.26 / Top↑