第4話、「生きてる娘が死んだ自分を見た!」
なぜか急にすごく見たくなって「うらごろし」。
もうすぐ夏だから?!


夜中に目を覚ました若と正十は先生がいないのに気がつき、探し始める。
先生は木の葉の水をすくい、上ってくる太陽を見ている。
油問屋・百舌屋の娘、うめは病にかかっており、今日も女中のたつが付き添って医者に行っていた。

だいぶ良くなっているとのたつの報告に、後妻であるくには喜ぶが、うめはそれを浮かない表情で聞いていた。
くにはうめに転地治療を勧めるが、うめは首を縦に振らない。
早く良くなって、百舌屋の身代を継いでくれないと困るとくには言う。
たつが自分の故郷に行くことを勧め、榛名山の麓にむかったうめだが、途中発作を起こしてしまう。

通りがかった先生たちが気づき、正十は胸を患っているのに気づき飛びのいてしまう。
だが、若は伝染るのを気にする正十が止めるのも無視し、うめを背負ってたつの家まで連れて行く。
先生は、おばさんがどうしたの?と指摘するほど、うめを凝視していた。

若はたつの家に到着し、泊まっていってくれと言うたつに仲間が待っているからと去っていく。
うめは言われた通りの薬を服用して寝ていたが、世中、水音と壁を流れる血を見る。
恐ろしさにうめが起き上がると、真っ赤に染まった障子の影からもう1人の自分がフラフラと現れる。

「あなたは何の為に現れるの?私に死を告げに?それなら知っています」。
もう1人のうめは、悲しそうな顔をしてじっとこちらを見ている。
「どうせ、間もなく私は死んでしまうのです。それを告げたいなら、もう来ないで。お願い、そんな怖ろしい姿を見せないで」。

先生は宿場町に足を止めると、旗を地面に突き刺し、災いが起こると言う。
正十は金になると喜ぶが、おばさんはたしなめる。
気になったおばさんは、先生の売り込みに町に声をかけて回る。

百舌屋の前に来たおばさんに、使用人がお嬢さんの病…と言いかけたが、くには療養に出しているのだからと取り合わない。
先生は百舌屋にやはり、何かあると言う。
病とは違う、災いが。

先生とおばさんと正十がいるところに、おねむがやってくる。
正十はおねむの札を百舌屋に売りつけることを考える。
そして、正平と名乗って油職人として、百舌屋に入り込む。

札を売り込みに来た正十だが、くにと一緒にいた医師の宗丹は、目の前で迷信だと札を破り捨てた。
売れたかと聞きに来たおねむを水茶屋に連れ込んだ正十は、そこで、くにと宗丹が逢引をしているのを目撃する。
不審に思った正十は、宗丹がくにに渡した薬を表から木の枝を使って、くすねてくる。
その夜、うめは父親が庭で苦しそうに倒れたことを思い出す。

正十は先生の下へ走り、くすねてきた薬を見せる。
しかし、先生は夜の中、走っていく。
うめがフラフラとさまよっていた。

その頃、百舌屋ではうめが金を数えながら、番頭の紋兵エに、主人が自分につらく当たったことを思い出して話していた。
来月には紋兵エにも暖簾わけをしてやると、くには言った。
そこにうめが行方不明になったと言って、たつが駆け込んでくる。
うめは、おとっつぁんと言っていたと聞き、くにの顔色が変わる。

うめは父親の墓にいた。
おとっつぁんと泣きながら、うめは父の墓を掘り返し始める。
先生がそれを見ていた。

くには、うめは自分が毒を飲まされていることを知っていたとうろたえていた。
しかも、父親が毒殺されたことも知っていたのではないか。
1年かけて病人にしたのに、今、おうめに訴え出られたら何もかも水の泡だとくには叫ぶ。

父の骨にすがって泣くうめを見た先生は、うめの手を取り、霊視を始める。
もうじき太陽が昇る。
うめの心は開かれるだろう。
あなたは何を見た?と先生は放心状態のうめに問う。

雪の中、うめが苦しみもだえ、叫んでいた。
「私に死を告げに?そどうせ、間もなく私は死んでしまうのです」。
気絶して横たわるうめ。
先生は駆けつけたおばさんと若に、影の病だ、と言った。

これにかかった者はまもなく、死ぬ。
うめも父親と同じく、微量の毒を盛られ続け、死ぬのだ。
この子は毒と知って飲んでいる。

だが、うめはほっといてくれと言う。
死のうが生きようが勝手でしょう、と言ううめの言葉を聞いたおばさんは言う。
「勝手!そんな言い方がありますか」。
「死に掛けている人は助けたい。近しい人が死ねば悲しい!それが人間同士じゃないの?」

だが、うめは、「私の為に、誰も悲しまない」と言った。
「私が死ねば、喜ぶ人ばかり。だから私、早く死にたいんです」。
それを聞いた先生は、うめに言う。
「それは嘘だ。あんたは本当は死を恐れているんだ。その怖れが影の病だ。本当は生きたいんだ」。

うめは紙に包んだお金を渡し、これで私が死んだ後の後生でも祈ってくださいと言った。
それを聞いた若は怒った。
「さっきから聞いてりゃ、死ぬ、死ぬって!俺の弟はな、6つの時、労咳で死んだ!死にたくないって泣いても、助ける術もなかったんだ。そのつらさ、悲しさがてめえにわかるか!」

先生が必死に、激昂する若を羽交い絞めにして止める。
「それをてめえは助かるんじゃねえか!先生も助けたいって言ってるじゃねえか!それを何だ。思い上がるな!命の大切さを身にしみろ!」
若、お前が殴ったら相手が壊れちまうと先生は言うが、若は頭に来たと言う。

うめは、だって早く死にたい、おとっつぁんやおっかさんに会いたいと叫んで泣く。
「かわいそうに1人で耐えて来たんだね。つらかったろうよ。でも死んじゃいけない。あの世のご両親だって、こんな若いあんたが行ったら悲しむよ」。
おばさんはそう言って、うめを抱きしめる。
若はそれを見つめている。

「でも、私本当に治るんですか?」
先生は「毒は抜ける。影の病もあんたに生き残ろうとする気力がある限り治せる。金貰った以上は責任持って治す」と言った。
だけど、うめは怖い。

仮にも親だから、くにを訴えるのも怖い。
若は、うめに家出を勧める。
何もかも捨ててしまえ。

先生はうめが渡されている薬をなめてみたが、たちまち悶絶してしまう。
いつも草や木ばかり口にしているので、利いてしまうのだろうとおばさんは言う。
だが、うめが姿を消した。
うめは、百舌屋に戻ってしまったのだ。

くには、うめが戻ったと聞いて笑いを浮かべた。
早いところ、かたをつけてしまった方が良さそうだ。
宗丹は、薬を大量に飲ませるんだなと言った。

うめにくには優しそうに微笑み、良く帰ってきてくれたと言った。
女中のたつを下がらせ、宗丹がうめを診る。
うめの額に手を当てた宗丹は、熱があるので、今日は薬を多めに飲んだ方がいいと言うが、うめは拒絶する。
この薬でおとっつぁんも…、と言う、うめを押さえつけ、宗丹は薬を飲ませようとする。

宗丹を跳ね飛ばしたうめだが、諦めたように立ち上がり、「薬をください」と言った。
「さあ」と宗丹が薬を渡す。
うめは一気に飲み干した。

薬を飲んだうめの手が、湯飲みを落とす。
うめが動かなくなる。
宗丹と、くにが部屋を出て行く。

百舌屋に正十が探りを入れに来る。
もがいたうめが戸を倒して、縁側に倒れこむ。
助け起こそうとした正十だが、見つかりそうになり、部屋の奥に隠れる。

かけてきたくにと宗丹を見て、縁側のうめは笑った。
ふらふらしながら、くにと宗丹の元へ歩いてくる。
怯えた2人だが、うめは目の前で倒れた。

紋兵エと使用人の岩吉が、うめを墓に連れてきた。
うめは生きたい、殺さないでと叫ぶ。
紋兵エは五体バラバラにして、方々の墓に埋めろ、そうすればばれないと命令していた。

正十がうめが殺されたことを知らせに来た。
どこにいると聞かれて、墓場だと叫ぶ。
先生たちが急ぐ。
墓場の土の上、枯葉の上には鮮血が点々と続いていた。

正十が埋まっていたうめを見つける。
何で、何でうちになんて戻ったんだよ…、と若が嘆く。
「ひどい、ひどすぎる」とおばさんが崩れ落ちる。

「これだったんだ。あの子の、影の病はこれだったんだ。あの子は殺される自分を見ていた」。
「死ぬ覚悟だったあの子の心は、この殺される瞬間の悲しみや恨みを先に映し出していたんだな…」。
先生がつぶやく。

傍らには真っ赤な椿が咲いている。
正十も、悲しそうに見ている。
おばさん、若が何かを決意する。

百舌屋では仕事が終わり、紋兵エが火の後始末を確認していた。
誰もいなくなった部屋に、道具の立てる音が響く。
「誰だ!誰かいるのかい!」
道具が音を立てている。

見に来た紋兵エに向けて、おばさんが突然むしろを放り投げて立ち上がる。
うろたえた紋兵エの背後から、おばさんが匕首を突き立てる。
悲鳴をあげた紋兵エ。
「声が大きいよ!」

おばさんは紋兵エを刺したまま、言う。
「静かに地獄へ行きな」。
匕首を抜くと、紋兵エが崩れ落ちる。
おばさんが見下ろして笑みを浮かべる。

先生は若に、墓で若と正十に奴らが戻ってくると言った。
影の病に怯えたあの子に怯え、殺人者はまたここに戻ってくる、と。
先生には見えたのだ。
その言葉を合図に、先生と若、正十が散る。

あの子が死んだのをはっきり見ないと安心できない、と、くにが言いながら宗丹を連れてくる。
生霊とか死霊とか、そんなものがあってたまるか!と吐き捨てる宗丹。
死んで土の下だ、と言う宗丹と怯えるくにだが、その時、先生の声が響く。

「影だ!お前たちの罪の影だ!」
「お前たちの罪を赦そうとしたあの子を!せっかく生きようとしたあの子を!」
宗丹が誰だと叫ぶ。
旗が揚がり、飛んできて2人の前に刺さった。

悲鳴をあげて、くにが逃げる。
宗丹を振り上げ、人形のように振り回して先生は投げた。
地面に激突した宗丹は、口から血を流して絶命した。
腰を抜かしたくにに、先生は旗を突き刺した。

岩吉は若に捕まっていた。
若は岩吉を殴り飛ばし、倒れた岩吉に向けて大きな石を振り下ろした。
怯えながら、岩吉は絶命した。

翌日、正十は先生の後を歩きながら、わからないなあと言っていた。
影の病があるとして、どうしてもそれは避けられなかったのか、と。
「避けてやれなかった」と、先生は言う。

あの子の言うとおり、後生しか弔ってやれなかった。
自分は未熟だと言う先生に、正十は大声で先生は未熟だ!と言い、先生はうるさい!と答える。
「でも仇をとってやったじゃない」と、おねむが言う。

「それはそうだ、」と正十が言う。
落ち込んでいる風の若に、おばさんが「行こう、若」と声をかける。
若は立ち上がり、歩き出す。



これは、ドッペルゲンガー現象を扱った回なんですね。
ドッペルゲンガー。
ナレーションは、「ゲーテ、モーパッサン、芥川龍之介、泉鏡花が体験者だという」と言ってます。

はい、いつかも書きましたが、有名な話らしいですね。
「江戸時代の随筆には、影の病として書かれている。未来がなぜ、見えるのか」。
「この怖ろしい疑問にいまだ科学は答えを出していない」と続きます。

解説にもあるように、冒頭、うめが鳩を蹴散らしているのが、彼女の鬱屈とした内面を表していると思います。
うめという少女が、もう1人の自分の怖ろしい姿を目撃する。
壁という壁から血が流れてきて、もう1人の自分の背景も真っ赤。
これ、未来の自分だったという…、怖い。

それで、若の過去が少し出てきます。
弟が労咳で死んでいること、生きたがったのに為すすべもなかったこと。
だから若は正十が伝染ると避けたのに、放置しておけなかったこと。

おばさんの言葉も、今の方がずっと心に響く。
「死に掛けている人は助けたい。近しい人が死ねば悲しい!それが人間同士じゃないの?」
殺し屋の口から出る言葉としては変なのかもしれませんが、外道ではない殺し屋だから言える言葉でもあります。
人間じゃなくても、そうですよね。

だが、うめは、「私の為に、誰も悲しまない」と言う。
「私が死ねば、喜ぶ人ばかり。だから私、早く死にたいんです」。
遺品整理業をやっている人が、「そんな風に考えている人っていますけど、本人が思っている以上に泣く人はいるんですよ」って言ってました。
赤の他人、近所の住人でも、話も聞いてやれなかったと悔やむ人はいる、と。

うめは「早く死にたい、おとっつぁんやおっかさんに会いたい」と言う。
でも先生の、「それは嘘だ。あんたは本当は死を恐れているんだ」っていうのも事実だと思うんです。
うめはただ、現実がつらいんですね。
優しい両親がいた時に戻りたい。

本人は本人で、すごくつらくて、もう目の前の死しか考えられないのかもしれません。
ですが、愛する者を見送るしかなかった若の怒りもわかります。
解説にありますが、毒と知って飲んでいるうめの、これは自殺なんですね。

察したおばさんが、「かわいそうに1人で耐えて来たんだね。つらかったろうよ。でも死んじゃいけない。あの世のご両親だって、こんな若いあんたが行ったら悲しむよ」とあの声で言うから泣ける。
それがあの結末ですから。

うらごろしは死者の声を聞いて仇を討つというのが基本ですけど、あんまりひどい。
何もあんな殺し方しなくたってー!
だからか、先生の殺しがすごい。

もう、人形ですよ。
ぶんぶん振り回して投げて、ここ、笑うところでしたか?ってぐらい。
まあ、笑いも必要でしょうか。
くにだって女性だけど容赦しない。

おばさんの殺しは凄みを増してきました。
まるで子供を叱るように、「声が大きいよ!」
言い聞かせるように、「静かに地獄へ行きな」。
若は石を振り下ろすというリアルさ。

笑いといえば、正十のパートは笑えます。
何ですか、潜入する時の偽名「正平」って。
もう、正十と正八と正平が混ざってしまった。
ついにおねむ相手に思いを遂げた正十の、おねむのリアクションにショックを受ける様もおかしい…。

自然のものばかり食している先生が、毒を口にして動けなくなるのも、何か納得でおかしい。
体に悪いものには、敏感なんですね~。
それに対して、おばさんも若も正十もあんまり心配してないのも、納得でおかしい。

ラスト、悔いる先生。
茶化す正十。
ぼけーっとしているようで、的確なことを言ってくれるおねむ。

本当は誰よりも生きてほしかったうめを思って座り込む若。
若に声をかけて、前進をうながすおばさん。
言われていることですが、孤独で心の傷を持った人が集まって、まるで家族みたいな、うらごろし一行です。


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2017.06.18 / Top↑
第5話、「母を呼んで寺の鐘は泣いた」

松葉屋という女郎屋で働くおそでは、夜中、「かあちゃん」と呼ぶ声で目が覚めた。
娘のおちよの呼ぶ声だとわかったおそでは、おちよの名を呼んで探したがおちよの姿はどこにもなかった。
折鶴を見ているうち、不吉な思いにとらわれたおそでは川岸に出る。
川を挟んだおそでの向こうには、大八車に鐘が乗せられて移動していた。

女郎屋の動きがにわかにあわただしくなった。
「どこへ行きやがった、あのアマ!」
おそでは女郎屋を抜け出してしまったのだ。

鐘が運ばれる後ろを、おばさんが歩いていた。
そのおばさんの前で、おそでが転ぶ。
「どうした?足くじいたか?」

札を売り歩いていたおねむが座り込んでいる寺の境内に、たくさんの人がやってくる。
寺に鐘が収められたのだ。
鐘はさっそく、美しい音を響かせた。
が、誰も鐘をたたいてはいない。

独りでに鐘が鳴っている。
おそでの足を手当てしてやっているおばさんと、おそでの元にもその音は響いた。
途端におそでが、「おちよが、おちよが呼んでいる」と這いずり出した。

寺では人々がうろたえていた。
「綺麗な鐘の音」とおねむは、はっきりと口にしていた。
道を歩いていた先生は、鐘の音を聞いて振り返り、怪訝そうな顔をする。
見物していた正十も驚き、鐘が鳴っている、金になる!と言って、おねむの横を走っていく。

やがて鐘は鳴り終わり、和尚は村人に帰って悪い噂を流さないように釘を刺した。
しかし正十はこれはタタリだ、悪いタタリは元から絶たなきゃダメ!と説得する。
そこに先生がやってくる。
先生が鐘に手をかざした途端に鐘は鋭い音で鳴り始めた。

「タタリじゃ、タタリじゃ」と叫びながらおねむも走ってくる。
正十は「ほらっ、巫女さんもタタリだって言ってる!」と叫ぶ。
先生は走って去ってしまったが、正十は先生もタタリだと言ってると伝え、おねむは札を売り込み始めた。

茶店で休んでいた若の元に、おそでを連れたおばさんが現れた。
今夜のねぐらを探した若とおばさんは、眠り込んでいるおそでを見て、どこからか逃げてきたのだろうと言った。
先生はおそでに草を煎じたものを飲ませてやれと言い、峠で聞いた鐘は一人で鳴っていたのだと教えた。
娘を探しているというおそでに、おばさんはご飯を振る舞う。

翌朝、鐘は寺から撤去された。
3両出したら悪霊を払うと言っていた正十はあわてた。
その頃、おそではおちよが呼んでいると言って、外に飛び出した。
先生は鐘の後をついて行く。
当てもなく歩き出したおそでの後を、おばさんも心配してついていく。

宿場町に着いたおそでは、人目を避ける。
おそでが逃げてきたことを察したおばさんは、人を呼んでくると言っておそでを置いていく。
鐘は鐘匠の梵匠屋に返された。
商売にしようと必死な正十は、タタリを訴えるが鐘匠は聞き入れなかった。

鐘匠は鋳物問屋の河内屋喜兵エに怪異を訴える。
そこに金をくれと言って、息子の卯之助がやってきた。
おばさんがおそでの身の上を聞くと、おそでは主人の借金の為に身売りしたという。
もう2年になるが、娘のおちよは14歳、12の時からこの宿場町で1人で暮らしていたらしい。

ずっと会えなかったが、ここ半年ぐらい、おそでに食べ物の差し入れや洗濯物をとりに行くようになっていたという。
それも河内屋の使い走りをさせてもらうようになってからだ。
おそでに届け物をした際、おそでは離れたところでこちらを見ていた河内屋の若旦那・卯之助を見たことがある。

とってもいい人で、今度河内屋で働けるようになったから、自分へのお金の心配はしなくていいとおちよは言っていた。
どうやら卯之助は、おちよを迎えに来ていたようだった。
「ひょっとして、娘さん、若旦那を好きだったんじゃ」。

おばさんはそう言って、必ずおちよは探してやると言ったが、次の瞬間、地回りがやってきて、おそでを見つけ、連れて行ってしまった。
やってきた若におばさんは、おそでが心配なので女郎屋に行ってくれと頼む。
頼まれた若は困惑していた。

店の裏に置かれた鐘に手をかざし、先生は霊視していた。
寺からずっとつけてきたという先生を見て、鐘匠も喜兵エも胡散臭そうに先生を見る。
先生は鐘には何かがとりついていると言ったが、鐘匠は清姫の例を出して、鐘には昔から不思議なことがあると言った。
念の為、仕事場を見たいと言う先生を、鐘の配合には店それぞれの秘密があると言って先生を追い払った。

店に戻されたおそでは、出てきた卯之助を見て、「おちよはどこにいるんです」と問い詰めた。
だが卯之助は「知らないよ」と言う。
でもおちよは確かに卯之助の店で働くことになっていた。
卯之助は「女郎の娘のことなんか、知るわけないだろう!」と冷たくあしらって去っていく。

若が店に潜入した時、おそでは折檻を受けていた。
そこに鐘の音が鳴り響く。
やはり、鐘は勝手に鳴っていた。
倒れているおそでが、立ち上がる。
鐘はたくさんの布団で覆われ、音が響かないようにされた。

眠そうに札を売り歩くおねむに、卯之助が振り向いた。
卯之助は全部買うと言うが、おねむは札は一枚もないと言う。
何か食べさせてやると卯之助はおねむを連れて行こうとするが、そこに正十が走ってくる。
正十は卯之助にたかり、おねむは勝手にうどんを食べに店に入ってしまう。

おねむを引っ掛けそこなった卯之助を、今度はおばさんが誘う。
「若い子相手にするより、おもしろいよ。ついておいで」と言われ、卯之助は興味半分でついていく。
だが卯之助はおばさんが入った廃墟を前に、引き返そうとする。
おばさんは無理やり卯之助を引き込み、卯之助は居心地悪そうにしていたが部屋の隅にある着物に目を留める。

着物を見た卯之助に、おちよが逃げようとしている光景が蘇る。
必死に逃げるおちよを卯之助が組み伏せていた。
卯之助の顔を見て、「何を思い出したんだい?」とおばさんが言う。
やっぱり帰ると逃げ出そうとした卯之助に、「おちよさんのことだろう」と鋭い声でおばさんが言った。

「弄んだね!」
「おばさん、誰なんだ」。
「年端もいかない小娘をのぼせあがらせておいて、どうしたんだい!」
「知るもんか!」

「殺したんじゃないだろうね!」
「どいてくれ!」
卯之助はおばさんを振り切って外に逃げた。

鐘匠は喜兵エに、また鐘が鳴ったと報告した。
もう、気味が悪くてしかたがないので、潰してしまおうと鐘匠は言い、喜兵エはおそでの方も悪い噂が広まらないうちに片付けてしまわないと言った。
女郎屋にいる若は繕いものをしている女郎に、危なっかしい手つきだなあと言って代わりに縫い物をしてやっていた。
「お客さん、上手ねえ」と女郎が感心する。

おそではまた、ふらふらと裏口から雪の舞う外に出て、おちよの名を呼んでいた。
まるで応えるように鐘が鳴る。
放置されている鐘の元へたどり着いたおそでは、鐘を抱きしめて「おちよ!」と言った。

若がおばさんに、おそでが再び逃げ出したことを知らせに来た。
鐘にしがみついているおそでに、喜兵エの使用人の久六が近づく。
背後からおそでは襲われて、絶命した。

朝日が昇る。
先生の目に炎と、絶叫するおちよが映る。
つるされているおそでも、見える。

先生はおそでを探して走る。
おばさんと若に会うと、2人もおそでを探していると言う。
鐘にとりついているのが、おちよだと先生は言った。
おそらく、鐘を作る時に炉の中に放り込まれたんだろう。

炉の中…とおばさんは絶句する。
鐘が勝手に鳴るのは、おちよがおそでを呼んでいるのだろう。
かわいそうに…とおばさんが言った時、おねむが正十が探していたと告げに来る。
女の人が殺されていたのだとおねむは言った。

それを聞いたおばさんは、走る。
枯れ葉に隠されて、おそでが口から血を流して死んでいた。
「おそでさん」とおばさんは手を取って泣いた。
若は息を詰めて見ている。

おばさんが鐘のところに行くと、老人が鐘に手を合わせて拝んでいた。
老人が立ち去る時、おばさんが声をかける。
なぜ拝んでいたのかと聞くと、老人は今日限りで暇をもらったので、自分はもう鐘匠の人間ではないと言った。
「あそこで、お女郎さんが殺されたんでしょう」。

おばさんの指摘に、老人が驚く。
「教えて、お願いよ。私、あのお女郎さんの知り合いなの。かわいそうな人だからお弔いしてあげたいのよ。わかってくれるでしょう」。
おばさんの説得の声に老人はうつむく。
「おらぁ地獄を見ただ…」。

「やっぱり…。そのお女郎さんに、おちよさんって娘さんがいたでしょう」。
「怖ろしい話だ」。
「どういうこと、それ」。

河内屋がいつだったか、店を訪ねてきた。
卯之助は、おちよに手をつけた。
息子の方は完全に遊びで、許婚とまもなく祝言をあげることになっていた。
だが、卯之助からおちよは離れないので、喜兵エは鐘匠におちよの始末を頼んだのだ。

「そうかい、それでおちよさんは炉の中に入れられたんだね」。
おばさんはつぶやく。
「人間のすることじゃないよ」。
「こんな怖ろしいところには、いられたもんじゃねえ」。

老人は荷物を抱きしめて、言った。
30年も長い間いたばっかりに…、老人はおばさんに頭を下げて出て行く。
「ありがとう、おじいさん。達者でね」。

陽の光の中、先生は川岸で手を上げて太陽をあおぎ見ている。
炎が見える、おちよが「誰か助けて」と絶叫している。
おそでが血の中で、「この恨みを晴らしてください」と目を見開いたまま、絶命している。
先生が走り出す。

不安になった卯之助が鐘匠の前で、膝を抱えている。
鐘匠は「いくら疑ったって、鐘の中に小娘を溶かし込んでいるなんて、誰も気がつきゃしませんよ」と言っていた。
「それもそうだな」と思いなおした卯之助は、「でも早いとこ、あの鐘溶かしてしまおうじゃないの」と言った。
「おかしくなりそうだよ~」。

しょうがない息子だと笑った喜兵エ。
鐘匠は久六を呼び、今日は休みで職人もいないから久六が火を起こすように言った。
久六が火を入れに行き、卯之助が見に来る。
階段を、久六が上がっていくのと入れ違いに、おばさんの赤い足袋が降りてくるのが見える。

「おばさん」。
おばさんはにこにこしながら、「火を入れといたよ」と笑う。
「何だって?」
「ほら、ごらん」。

おばさんは顔の横にある、炉の覗き口の蓋を開ける。
丸い小さな穴から、赤い炎が見える。
「あんまり暑いんで汗びっしょりだわ…」。

おばさんに近寄った卯之助は「余計なことしないで…」と言いかけた。
その瞬間、卯之助が目をぱちくりさせ、下を見る。
卯之助に、おばさんの匕首が刺さっていた。

卯之助をおばさんは壁まで匕首を刺したまま、追い詰めていく。
「言われなくったって」。
おばさんは匕首の刃を横にして、えぐる。
卯之助が、断末魔うを上げる。
「出て行きますよ!」

匕首を抜くと、おばさんは「炉に入れられたんじゃ…」。
卯之助が壁を背にして、ぐったりする。
「かなわないよ!」。
おばさんはそう言うと、小屋を出て行く。

階段の上では久六が若に殴られていた。
若は久六を追い詰め、てっぺんまで担ぎ上げて階段を登る。
炎が上がっている。
「や、やめてくれ」と叫ぶ久六を若は炎の中に放り込む。
久六が絶叫する。

異変をかぎつけて、喜兵エと鐘匠が部屋から出てくる。
鐘のあったところに行くと、炉から炎が上がっている。
塀の向こうに、旗が上がっている。
旗は先生が掲げて、走っている。

先生はジャンプすると塀を飛び越え、旗を投げる。
旗は大きく飛んで、喜兵エに刺さった。
立ったまま、旗に貫かれた喜兵エが叫ぶ。

先生は喜兵エから旗を抜くと、旗を槍のようにして鐘匠を投げ飛ばした。
倒れた鐘匠の前に、先生は旗を振り回す。
鐘匠はひざまずいた格好で、先生に刺された。

先生は悲しそうに、空を見上げる。
青空の下、旗は光をあびて翻っていた。
旗がなくなり、光だけが煌めく。

おねむの手を引っ張った正十が、おばさんたちを追ってくる。
正十はおばさんと若に、金を渡す。
鐘匠に鐘の話、世間にあまり知られない方がいいんじゃないのと言ったら、くれたのだと言う。
おばさんはありがとうと言って、正十からお金を「預かっておくよ」と取り上げる。
道端に座り込んでしまったおねむに付き合って、正十も寝転がる。



ナレーションが言います。
「当時、ソ連が魂の呼び寄せ現象について実験をしている。
数匹の子うさぎを潜水艦の中に入れ、親うさぎを沿岸の研究室に置いた。
頭に電極をつけて、潜水艦の中の子うさぎを一匹ずつ殺していくとあきらかに母うさぎの脳波に反応があった」。
伝達があったのだ、と。

それよりもそれを聞いて、子うさぎ…、かわいそう。
やだー!
そんなことしているから、潜水艦火事になるのよ!と言いたくなりました。
いろいろとあるにしても、そんなことを調べる為に引き離して殺しちゃうなんて、あまりにかわいそうだ、と。

今回は炉で焼き殺された娘が、鐘になって母親を呼ぶ壮絶な話。
前回と言い、うらごろしは殺し方、残酷ですねー。
目を開けて、顔を出して枯れ葉に埋もれているおそでもかわいそうで、だけど怖い。

母親を呼ぶ音が、おねむも言うほど、とても綺麗。
人を呼んでいる音なのかもしれません。

何かを作る時、人を柱にする怖ろしい話はいくつか聞いたことがありますが、これは生理的に怖い。
おそでも殺していたし、実行犯はおそらく、久六。
若に炉に投げられて、因果応報でしょうか。

おばさんとの会話で、老人が怯えて真相を話すと、却って事の真相の恐ろしさを感じる。
怯えて退職もするだろうな、と…。
そんなこと人にして怖くないで平然と暮らしてるなんて、幽霊より怖い。

正十の「悪いタタリは元から絶たなきゃダメ!」は、当時のCMのパロディじゃなかったかな。
「嫌な臭いは元から絶たなきゃダメ!」とかいう。
おねむの「タタリじゃ、タタリじゃ」は、当時のヒット映画「八つ墓村」でしょう。
鐘を運んでいるシーンで、「獄門島」を連想してしまいましたけど。

それから、女郎屋に行かなきゃならない若の困惑。
女郎を買ったものの、縫い物してるのがおかしい。
しかも外見の男らしさとは真逆に、いや、だからこそ頑張ったのか、お女郎さんより縫い物がうまい。

登場からお金をせびって、すごいバカ息子ぽいのが卯之助。
おねむに目を留める、おねむ、怠惰だけど、とっても綺麗だから。
それでこういうバカ息子にたかるのが本領、という感じの正十。

このバカ息子・卯之助を誘うおばさんが、すごく色っぽいんです!
「若い子相手にするより、おもしろいよ」と言われると、「…何かわかんないけど、このおばさん、すごいんじゃないか(何が)」って思わせるんですよ。
市原さんの声がネットリとしてる。

それでやっぱり、おばさんの殺しがパワーアップしてすごい。
おばさんの赤い足袋が降りてくるのが、死神に見える。
明るく、「火を入れといたよ♪」。

これ、語尾に「♪」つきます。
そんな調子です。
「ほら、ごらん」。
「あんまり暑いんで汗びっしょりだわ」もまた、妙に色っぽい。
完全におばさんを侮った卯之助は邪険に「余計なことしないで…」と言いかけて刺される。

もう、何が起きてるか例によってわからない。
それで「言われなくったって」と言って、おばさんが卯之助を引っ張って行く。
「出て行きますよ!」で、ぐりぐりえぐる。
外見と全く違う、プロの殺し屋ぶりに戦慄ですよ。

決めの言葉は「炉に入れられたんじゃ、かなわないよ!」。
これが殺し屋の言葉じゃないんですね。
部屋散らかされて、「こんなに散らかされたんじゃ、かなわないよ!」って言ってる調子です。
日常会話みたいな感じでやられるから、ほんとに怖い。

仕置きが終わった先生の、悲しそうな顔。
空を見上げると、光を浴びて旗が翻ってる。
旗がなくなると、太陽の光が煌めいている。
これが日常で、悲しくて、綺麗です。

うらごろしは旅の一行の話なのですが、流れる川、舞い散る雪。
上ってくる太陽。
こんな自然の風景がとても綺麗でした。


2016.11.05 / Top↑
第3話、「突然肌に母の顔が浮かび出た」。

針の行商に行くというおばさんに、先生は売れないよと言った。
何か妙なことが起きそうだ、とも言った。
探している子供に会えるのかとおばさんは言ったが、そうではないらしい。

空腹のあまり、正十と若は畑で野菜を盗んで食っていた。
「芋泥棒!」という声がして、百姓に若い侍が追われていた。
「ただ、休んでいただけだ」と侍は言う。

正十と若が飛び出してきた。
早速、正十は百姓に「捕まえてやるからいくら出す」と聞いたが、その途端、正十の懐から盗んだ芋が落ちる。
かわって今度は正十が追われた。

芋泥棒と間違えられて追われた若い侍は、真之助といった。
「頼りない歩き方…」。
真之助がフラフラ歩いているのを、おばさんが見る。

疲労のあまり、倒れた真之助は子供の頃を思い出す。
「そなたは私を殺す目をしている」。
そんなことを言っては、幼い息子の真之助を遠ざけていた母親。

その病を治してくれると言って、旅の修験者・弁覚とその一行・千手坊と自光坊は真之介の家に入り込んだ。
結果、美しかった妻は弁覚に陵辱され、連れ出された。
弁覚を追ってきた父は斬られてしまった。

うなされている真之助の胸に、母の顔が光とともに浮かび上がる。
やがて、真之助は目覚めた。
おばさんが介抱してくれていたのだ。
「母親を探しているのか」とおばさんは聞き、「親と子は会えるほうがいい」とおばさんは言った。

真之助は母親を探し、父親の仇を追っているのだ。
身の上を知ったおばさんは、真之助に食事を食べさせた。
何年かけても会えるかはわからないし、返り討ちに遭うかもしれない。
真之助は、例え生涯をかけても母親と玄覚を探し出すと言う。

返り討ちにされた、その時は死んでいくだけだと言う。
同じく息子を探しているおばさんは仇を探してやりたいと言うが、正十は「金にならない、真之助の探す者を探せない先生は修業不足だ」と茶化す。
おばさんは正十をたしなめるが、先生は正十の言う通りだと言う。
先生は真之助の母の心の叫びを聞こうとしたが、途中で切れてしまうのだと言う。

息子が母親を思う気持ちより、母親が真之助を思う気持ちのほうが弱いのかもしれない。
それを聞いたおばさんは、「そんな母親なんか、日本中に1人もいやしないよ!」と怒る。
「1人もいやしないよ…」。
先生はおばさんを見つめる。

真之助は翌朝、外で剣術の練習をしている。
若が真之助の刀に向けて、棒切れを投げる。
棒切れをはじいた真之助に若は笑って「やるじゃねえか」と言う。

若は「敵討ちと言うが、本当は母親に甘えたいだけではないのか」と言った。
「男と逃げた母親が、いつまでも亭主やガキのことを思っているはずはない」と乱暴なことも言う。
「母はそんな人じゃない!」
若の言葉にカッとなり真之助は、刀を抜く。

だが、すぐに刀を収めてしまった。
「ケンカはせん。女相手に」。
「何だとぉ?!おいら、女じゃねえや!」
真之助の言葉に、若はカッとなる。

「お前も地獄を見て来た、かわいそうな女だ」。
真之助の言葉に若は、激高する。
「うるせえ!」

若は棒切れを手に、真之助に殴りかかる。
「お前の母はお前を裏切ったのか!だから母を慕う俺が憎いのか!」
真之助の言葉に「お袋がなんだってんだ!」と若が叫ぶ。

若は真之助を追い掛け回す。
棒が真之助の背中に当たる。
だが「これで気が済んだか?」と静かに言う真之助を見て、若は「…男だな、お前」と呆然とする。

その頃、おねむは御札を売り歩いては「いらない」と言われていた。
若がおねむを見つけて、「どこに行ってたんだ」と聞くと、「あたしはずーっと食べて寝て、のんびりしてた」と答える。
「この世の中を極楽のように思ってやがる。うらやましいよ!」
寝転がったおねむの赤い帯に、顔が影になって見えない母の姿が映るのを真之助は見る。

「母上、ここにおられたのか」。
お堂で寝ているおねむの手を真之助は取る。
それを見た先生とおばさんは、おねむを起こす。
「良く見ろ、これはお前の母ではない」。

先生は真之助の前に手をかざし、しっかりと母の面影を浮かべろと言った。
白い闇の中、母親の笑顔が浮かんでくる。
先生は目を開けと言って、そのまま母親の顔を思い浮かべるように言う。
そして眠いと言うおねむの肌をあらわにし、背中を見るように言った。

おねむの肌に真之助の母の顔が、ぼんやりと浮かぶ。
想念が人の肌に映る、肌絵、フィルモグラフィーという現象。
それを基に先生は母親の似顔絵を描き、若と正十に渡した。
これで母親が見つかるかもしれない。

正十と若は、博打に行く。
嘘のように当たった正十と若の前に、弁覚が現れた。
弁覚ににらまれて、気持ちが動揺した正十は勝負を切り上げ、若と飲みに行くことにした。
若と正十が去った後、賭場では弁覚たちが暴れ、全員斬り殺して掛け金を奪って逃げた。

御札を売り歩いていたおねむは料理屋の前で、志乃という女に呼び止められる。
おねむから御札を買い求めようとした志乃だが、弁覚が現れ、余計な金を使うなと札をおねむに放り返す。
料理屋に入った弁覚は志乃を借りると言って、2階に連れて行く。
「気味の悪い男だよ」と料理屋の女将は、弁覚を見送る。

志乃はいつか必ず弁覚の寝首をかき、夫の仇を討つと言うが、弁覚は志乃をとりこにしている自信に溢れている。
弁覚は「そろそろ息子が敵討ちに現れる頃だが、外道に落ちた母親も一緒に討つだろう」と言う。
「安心しろ、その時は返り討ちにしてやる」。

正十と若は、料理屋で酌婦としてやってきた志乃を見て、似顔絵の女性、すなわち真之助の母と気づく。
「会ってやんなよ」と2人は志乃に言うが、志乃は「母親はもうないものを思ってくれ」と言う。
今の自分は母親として名乗れない。

「やっぱり弁覚と一緒なんだろう、離れられないのか」と若は言い、「親の心子知らずと言うが、広い世間には逆もあるんだ」と皮肉を言って去っていこうとする。
その時、志乃は去って行こうとしていた正十を呼びとめ、真之助に渡してくれと言って、小判を渡す。
料理屋を出た正十は「おい、あの人泣いてたぞ」と若に言う。

先生は真之助に仇討ちの訓練をしていた。
相手は妖術を使う、目の光に誤魔化されるなと言って、先生は真之助を鍛える。
そこに正十と若が、志乃が見つかったと飛び込んでくる。

小判を前に、志乃の「もはや母は亡き者と心得よ」という言葉を聞く真之助。
しかし、真之助は母に会うと言う。
「見たくもないものを見るかもしれない」と先生は忠告し、若も同意する。
「だが、目をそらすわけにはいかない」と真之助は出て行こうとする。

おばさんは「そうだよ」とつぶやく。
正十は小判を「これ」と指差すが、真之助は「預かっておいてくれ」と言う。
「お前、帰って来いよ」と正十が言う。
「帰ってこねえとこれ、使っちゃうぞ」。

真之助は振り向き、おばさんは微笑んで見送る。
外に出た真之助を若も追ってくる。
「気をつけて」。
真之助も若を見て、微笑み「ありがとう」と答える。

表でずっと座っている若に正十は、「何考えてる」と聞く。
「別に」と答える若に正十は「真之助に惚れた?」と聞くが、若は答えない。
真之助は志乃に会いに走る。

おばさんは先生に「どうしても気になる」、と言った。
幼い頃、真之助は母に「自分を殺す目をしている」と言われていたのだ。
先生は「それぞれの人の命、何があっても不思議ではない」と言った。
不安そうにおばさんは先生を見る。

真之助は志乃のいる料理屋へ走った。
だが料理屋では、志乃は勝手にやめたと怒っていた。
どこに行ったかわからないと言う。

その頃、志乃はどこに行ったらいいか途方にくれながら、夜道を歩いていた。
男から逃げ、息子から逃げ、志乃はもうどこへ行っていいかわからない。
道をはずれ、懐剣を手にした志乃の耳に、「母上」と叫ぶ真之助の声が聞こえる。

鐘の音がした。
振り向いた志乃の前に真之助がいた。
真之助が駆け寄ろうとした時、「命を捨てに来たのか」と弁覚が現れる。
父が斬られた時の光景が蘇る。

「討てるかな」。
弁覚の眼力に負けそうになる真之助だが、先生との練習が生きた。
真之助は弁覚を追い詰める。
弁覚を討とうとした瞬間、母親が真之助の名を叫ぶ。

一瞬、気を取られた真之助。
真剣勝負にあってはならない一瞬の隙を、弁覚は見逃さなかった。
弁覚の刃が真之助を斬り、真之助が倒れる。

「鬼!」と弁覚に懐剣を向ける志乃。
だが、弁覚は懐剣を取り、志乃を連れて行ってしまう。
真之助は最期の力を振り絞って、刀を投げた。
しかし、刀は弁覚の前にいた志乃に当たってしまう。

母親が倒れる。
もがきながら母の元へ手を伸ばした真之助に、戻ってきた弁覚がトドメをさした。
2人の手は、ついに結ばれることがなかった。

時間が経った。
おばさんの赤い足袋が2人の手の前に現れる。
「子を思わない母親なんて、日本中に1人もいやしないよ」。
おばさんはつぶやいて、2人の手を取り、しっかりと握らせてやる。

2人をじっと見詰めるおばさん。
縁側に座っている先生のところに正十が飛んで来る。
先生は目を閉じている。

弁覚一行が朝もやの中、道を歩いているのが見える。
若が走って後を追う。
おばさんは既にその先の道端で、焚き火をしている。
うつむいているおばさんは焚き火の中から芋を取り出し、焼き加減を確かめる。

太陽が昇り、先生を照らす。
先生が目を開ける。
志乃の、真之助を呼ぶ声がする。
真之助の「誰か、この恨みを晴らしてください」という声が響く。

太陽が昇った。
先生が気合を入れて、叫ぶ。
夜明けの道、先生が走る。
正十が後を追う。

弁覚一行は、小川を越えた。
越えたところで千手坊が、草鞋を結びなおす。
その先におばさんがいた。

「お坊さん、お坊さん」とおばさんの声に千手坊が顔をあげる。
「芋、よく焼けてるよ」。
おばさんが陽気に、串にさした芋をかざす。
「おっ、芋か」。

おばさんが笑顔で芋を差し出し、千手坊が笑いながら近寄る。
「こりゃあ、うまそうだな」。
千手坊はおばさんから芋を受け取り、頬張る。

「物知りのお坊さん、いろは数え歌を教えとくれ。いろはの『い』の字は何てえの?」
千手坊は芋を頬張りながら、「犬も歩けば棒に当たる、だ」と答える。
「違うよぉ、お坊さん」とおばさんは笑って言う。
「いろはの『い』の字は」。

おばさんが上着を脱ぐ。
目に留まらないようなすばやい動きで、おばさんは匕首を懐から抜く。
千手坊の背中に、すごい速さでおばさんが飛びつく。
おばさんは千手坊が振り向いた時、既に背中に匕首を刺していた。

「命いただきます、の」。
動かない千手坊を見上げて、おばさんが笑い声を含んだ声で言う。
「『い~』ですよぅ」。

おばさんが匕首を抜く。
無言のまま、千手坊は倒れた。
倒れた千手坊には目もくれず、おばさんは真剣に匕首の血をぬぐう。

やがて、追いついてこない千手坊を弁覚と自光坊が探しに戻ってくる。
千手坊の紐が水辺に落ちているのを拾っているのを、竹やぶからおばさんが見ている。
2人は千手坊を探すが、焚き火の跡があるだけで、千手坊の姿は見えない。

その時、走ってくる若と先生に、弁覚と自光坊が気がつく。
自光坊は若を、弁覚は先生を迎え撃つ。
若は自光坊を投げ飛ばし、殴り倒す。

うつぶせに倒れた自光坊の上に、若がジャンプして乗る。
骨が折れる音がして、自光坊がえびぞる。
弁覚は先生と向き合った。

先生は旗を手に、弁覚は槍を手にしている。
お互い、構えて走ってくる。
先生と弁覚が交差した。

次の瞬間、先生は指から血を流しながら、弁覚の槍を手にしていた。
先生の背後にいる弁覚には、先生の旗の柄が刺さっている。
竹やぶで見ていたおばさんが、息を呑んで、そして立ち去る。
見守っていた正十も、先生の勝利を確認して去る。

弁覚が断末魔をあげる。
先生は振り返り、弁覚の最期を見る。
そして、弁覚の槍を地面に叩きつけるように刺して捨てた。

おねむが志乃と真之助の墓を作ってやっている。
花を供え、墓を見つめる。
「仇はとったし、金は分けたし…」と正十が言う。
「先生どっち行くんだろう」と若が言う。

先生は道の険しい方へ進む。
おばさんは振り返りながら、先生についていく。
「また~…」と言いながら、正十もついていく。



今回の軸は、離れ離れになった母親と息子。
真之助に「あなたは?」と尋ねられて、おばさん、「私はただのおばさん」と答える。
このうらごろしメンバーには、名前がない。
DVDボックスの解説にもありましたが、だから第三者が呼ぶのにちょっと困る。

ちょっと笑っちゃうんですが、でもこれで良いんですね。
彼らは、どこにも属してない。
定住していない。
だから表の稼業を持たない。

若を見て思ったんですけど、どこかで心がひどく傷ついているんですね。
最初はつっかかるというか、そこが若の心の傷を思わせました。

だけど、何か揉め事が起きて、それを越えるとものすごく認める。
信頼する。
逆にそういうのがないと、心を開かない。

若は正十に「惚れた?」って聞かれましたけど、そうじゃない。
真之助には、友情を感じてたんだと思いました。
「帰って来いよ」と言う正十。
彼なりの「死ぬなよ」の伝え方。

この前回の話でも思ったんですが、若は女性が嫌いですね。
女性の弱さが嫌い。
母親に関して、何かあったのかなあと思います。

志乃は弓恵子さん。
憎みつつ、妖術を使う邪悪な男のトリコになっている。
同時に母親としての情も捨てきれない。
業の深い女性を演じます。

何で息子が自分を殺すと言っていたのかはわかりません。
予感が的中してしまうのが悲しい。
この不安が、弁覚から離れられない理由だったのかもしれません。

弁覚は藤岡重慶さん。
妖術使いのやり方を知っているから、真之助を鍛えます。
そのかいあって、弁覚に勝てそうだったのに。

ラストの先生との祈祷師対決の殺陣も、見応えあります。
剣豪ならぬ、術使い同士の対決。
向き合って走ってきて、あっという間に先生が弁覚の槍を手にしている。
おばさんも先生も、すごく動きが速いんですよね。

さて、おばさん。
子供を捜す母親の立場から、真之助に肩入れする。
そして、最後の殺し。

コ、コワ~イ…!
焚き火焚いてる肩の辺りから、無言の怒りと悲しみ、殺意がにじみでている…。
そして、まさしく通り魔。

あんなニコニコして、誰が疑うものか。
芋差し出されたら、近寄って行っちゃいますよ。
一気に殺人者の顔になり、上着を脱いで匕首を出し、相手に近寄って刺す。
すばやい。

のんびりしたおばさんの、欠片もない。
相手は「?」「??」ですよ。
声も立てずに倒れる。

それでいつまで経っても来ない仲間を探しに来ると、焚き火の跡だけがあって、探す仲間はいないんです。
仲間どころか、誰もいない。
空恐ろしい。

おばさんがずるずると、千手坊を引きずって竹やぶに持って行ったんだろうと想像すると、とっても怖い。
殺し屋の本領を発揮してきました。
「命いただきますの」で、楽しそうで、声に笑いが含まれてる。

「『い~』ですよ~」なんて口調は、もう、「まんが日本昔ばなし」の妖怪みたい。
これ、もうどんなに文章にしても伝えられない。
頭の中で、市原悦子さんの声と調子を再現しながら想像してもらうしかありません。

志乃と真之助の仇を討ち、先生たちはまた旅に出る。
人と関わるのも、旅の中の一時だけ。
このグループの寄る辺なさは、名前を持たないこと、定住していないところから漂ってくるんでしょうか。

2016.09.19 / Top↑
時代劇専門チャンネルの必殺アワー、ぐずぐずしているうちに「必殺仕舞人」になってしまいました。
自分のばか~。

異色といわれる「うらごろし」ですが、「翔べ!必殺うらごろし」の最終回。
最後まで本名がわからなかった、おばさん。
いや、結局、誰もわからなかったんですけど。

おばさんの墓にかかっている、おばさんがいつもかぶっていた笠が揺れている。
背景は何もない荒野。
「坊やがいる町がいつも見えるように」山の上に作った墓。

風が吹く。
寒々とした何もないところに、おばさんの笠が風に揺れる。
走って去っていく正八に、おねむがつぶやく。
「また一人ぼっちか」。
まがりなりにも、家族として機能していた一行がなくなって、マイペースなおねむでさえ寂しい。

正八はどこかへ走っていき、若は流れていく船の中で、あるいていくおねむからおばさんの死を知らされ、悲しみに目を閉じて寝転がる。
おねむはまた、札を売りながら歩く。
先生は修業の、道なき道を行く。

一行がバラバラになって行く様子と、交互に入るおばさんの墓の映像。
あまりに寂しい光景。
故郷へ帰れと言われた若は、帰ったのか。
正八は裏の世界と手を切ったのか。

おばさんという母親がいなくなった「うらごろし」一行の、擬似家族はあっさりと解散していく。
レギュラーの殺し屋が、今までの人生を精算するかのように死んでいくのは、これが最後だったかも。
順之助や銀平がいるといえばいるけど、あれは業を背負って死んで行ったというより、都合で退場させられた扱いのよう。

以後の必殺仕事人シリーズでは、作品世界を表現していたようなレギュラーの殺し屋が、業を背負ったように死に方をすることはなくなりました。
「必殺」に必ずあったハードさ、虚無感がここにもありました。
やっぱり、「うらごろし」は確かに、ひとつの区切りであったのだなと思います。


2011.01.23 / Top↑
第2話、「突如奥方と芸者の人格が入れ替わった」。

有り金を2倍にすると宣言して正十と若は博打に行ったが、正十は早くも身ぐるみはがれて帰って来た。
若は、というと、正十いわく、頭に血が上っているからダメだろうと言う。
一文無しになって絶望する正十だが、その時、柳橋の芸者の染香が2人の浪人から逃げてやってきた。

正十は突き飛ばされるだけだったが、先生が割って入る。
1人をグルグルと回転させて投げ飛ばし、1人は先生が手をかざすと動きが止まってしまった。
先生の気合とともに、1人の浪人は投げ飛ばされる。
染香は感謝し、先生一行を座敷でもてなす。

酒を勧められた先生だが、先生は酒はもちろん、料理にも手をつけない。
正十は水を、という先生に酒を入れて飲ませた。
途端に先生は座敷をふらふらと歩き出し、気絶してしまった。

責任を感じた染香は先生を一晩、看病する。
翌朝、目覚めた先生の前で、染香に異変が起きた。
突如、自分は「上州漆が原の代官・山地半十郎の妻、琴路である」と名乗り、座敷の者に無礼者と叫んで出て行こうとした。

同じ頃、山地の屋敷では半十郎が江戸にいた頃から友人である、松浪軍内が屋敷に来ていた。
2人の前で琴路が同じく突然三味線を弾くそぶりをし、「嫌ですよ、旦那」と笑って「あたしは柳橋の芸者。染香じゃありませんか」と言い始めた。

琴路を名乗った染香に「無礼者」と打ちのめされた楼の主は、この妙な病を先生に治してほしいと、正十に頼む。
金を貰って楼を出た正十だが、おばさんに見つかり、金も「預かっておくよ」と取られてしまう。
先生はこの憑依は何か言いたいことがある人間の魂が原因だと言う。
そして、染香には何も問題はなく、琴路に原因があると見て、上州へ向かう。

漆が原では百姓たちが重い年貢に耐えかね、代官所に訴えていたが、訴えに行った百姓は次々行方不明になっていた。
だが軍内は、ここでは扱えないこともあるから江戸に向かったんだろうと言って取り合わない。
そこに先生がやってきて、奥方に妙な病がとりついているのではないか、自分なら治せるかもしれないと言うが、軍内は先生も追い返す。

若は「真正面からぶつかってもダメだ、先生は人が良すぎる」と言う。
正八も「浮世の苦労が足りない」と言い、おばさんまで「修業不足だね」と言う。
「こういう時はね、ここ働かせんの」と若は正十を連れて行く。

家族が行方不明になった百姓たちはどうするか相談し、札を売り歩くおねむに遭遇。
尋ね人に御札はきかないと言う百姓だが、おねむは良く当たる先生がいると言う。
だが結局、若い百姓が1人で行動すると言って、代官所に向かった。

百姓といるおねむに、おばさんが声をかけた。
おねむは、一行と合流した。
そこに若が帰って来た。

若が聞いてきたことを報告するに、ここの代官の半十郎は驚くほど評判が悪かった。
年貢の取立てはめちゃくちゃ、だが元は江戸の貧乏な御家人であった。
代官の娘の琴路に見初められて、婿に入ったらしい。

そして、そのまますんなりと代官に収まった。
軍内は江戸で道場を営んでいたが、食うや食わずの暮らしだった。
遊び仲間の半十郎と、そのまま一緒に漆が原に来たらしい。

おねむは先生に尋ね人を探して欲しいという人がいると百姓の話をするが、若は「後で」と言って先生を連れて半十郎の屋敷へ向かう。
屋敷では、半十郎が軍内と相談していた。

江戸からここに来て5年、長かった。
やっと、江戸に戻れる算段がついた。
琴路は何も気づいておらず、江戸に戻ったら、お飾りとしておいて置けばいい。
だが、あの、やってきた旅の行者が気になる。

その時、軍内が床下の若に気づき、刀を畳みに突き刺す。
若は逃走し、屋敷の警備は手薄になる。
先生はその隙に、琴路を連れ去った。
若が捕えられたかと思ったが、捕えられたのは若ではなく、代官所に訴え出ていた百姓の1人だった。

気づいた琴路は先生たちを前に驚いたが、おばさんは琴路が染香に取り付いたからだと言う。
自分でも意識していない超常現象を信じない琴路だったが、先生にピタリと生年月日を当てられる。
琴路と染香の生年月日は、全く同じだった。

驚きながらも帰ると言う琴路の前に、漆が原の百姓2人が目に入る。
いつもいつもお情けをかけていただいて、とひれ伏す百姓を目にした琴路の様子がおかしくなる。
同じ頃、「また来た!」と染香の様子もおかしくなった。

先生は琴路を外に連れて行き、崖から上る太陽を見せる。
朝日を浴びた琴路を見た先生は、殺されている大勢の百姓を見る。
「先生!」
「何が見えたんだい!」

その頃、捕えられた若い男の百姓は地下牢で、琴路をどこに連れて行ったのか、仲間は何人かと責められていた。
彼の目の前には、訴えに出て行ったまま行方が知れなくなった父親の骸があった。
それを見た途端、彼もまた殺されてしまった。

先生たちに残った2人百姓が語る。
漆が原では、昔から漆が取れた。
琴路の父親が代官であった頃から6割は取った百姓のものであったが、半十郎が代官になってからは毎年悪くなり、今では3割しかもらえない。

それではとても、暮らしてはいけない。
百姓の代表として3人が訴えに向かったが、行方不明になっているのだと言う。
琴路は誰にも言わないことを条件に、若に半十郎が百姓からくすねた年貢を溜め込み、賄賂として使って昇進し、江戸に戻ろうとしていることを話した。

若は「ひでえ話」だと琴路に言うが、琴路は「夫はかわいそうな人なのです」と答える。
「かわいそう?冗談じゃねえよ。百姓の方がよっぽどかわいそうじゃねえか」と若は怒鳴る。
帰ろうとする琴路に「まさか代官のところに戻るのか」と、若は言う。

たった今、半十郎が悪事を働いていると話したばかりなのに。
「まだ旦那が好きなのか?やめろよ!そんな野郎、きっとあんたのことなんか…」。
若は琴路を止めようとした。
だが琴路は言った。

「離して!おなごの気持ちは男のそなたにはわかりません!」
その一言に若は傷つき、黙ってしまう。
琴路は屋敷へ戻って行った。
若は、琴路が出て行くのを止められなかった。

正十は先生は大変なものを霊視した、と言った。
「さっき見た死骸は…」正十が言ったところで、おばさんが「ばかだね!何を言うんだい!」と、とがめた。
思わず口を抑えた正十だが、訴えに行った者が殺されたことを察した百姓2人は、うつむいていた。

おねむが琴路が出て行ったと、教えに来た。
何故返したと先生たちに問われた若は、「終わったよ。何もかも。俺は話を聞いた。悪い代官がいて、百姓を殺したどこにでもある話さ」と言う。
先生は「あの奥方は、これからもっと苦しむぞ」と聞いた。

だが、若は「そんなこと俺の知ったことかよ!」と吐き捨てた。
何かを察したおばさんは「何かあったんだね?何があったんだ、若、お言い」と言った。
若は立ち上がって「女なんかみんなバカだ。バカヤロウだよ!」と言って走っていく。
正十は「見た?あいつ泣いてた」と、先生たちに言った。

半十郎は江戸入りに際し、便宜を図ってくれたと江戸から来た永井監物という男に賄賂を渡していた。
戻った琴路に「どこに行っていたのか」と聞く半十郎に、琴路は一つだけ約束してくれと言う。
地下牢で殺された百姓の家族の生活が立ち行くよう、ちゃんとしてやってくれと言う琴路。

一つ屋根の下にいて、気づかないはずはない。
自分は気づいていた。
なのにずっと知らない振りをしていた。
それが琴路には、苦しくて苦しくてしかたがなかったのだ。

返答を迫る琴路に半十郎は、「すまん」と謝った。
そして、今までずっと黙っていてくれたことに礼を言った。
だが自分を見込んでくれた琴路の為にも、このまま田舎の代官で終わるわけにはいかなかった。

もう2度と、このようなことはしない。
約束する。
夫の言葉を聞いた琴路は涙し、もう何もおっしゃらないでくださいと泣いた。

客として来ている永井は、これから江戸でも世話になる人物。
すぐに着替えて接待をしてくれと言われた琴路だが、地下牢で新しい遺体を見てしまう。
永井と飲んでいた半十郎が、地下牢に呼ばれる。

そこには染香になった琴路が、花を摘んでは遺体に投げていた。
振り向いた琴路は半十郎に「おや、旦那。旦那はひどい方ですねえ」と声をかける。
「あたしたち芸者も二枚舌を使いますが、そりゃ商売。心底惚れた人は別。裏切ったりはしませんのさ」。

軍内に刀を渡された半十郎は、後ろを向いた琴路を斬り捨てた。
そこに永井がやってきて、斬られている琴路を見て、これは何者かと聞いた。
乱心したので斬ったと言う半十郎だが、永井は地下牢に転がっている遺体も乱心者かと聞かれる。

咎めを受けると思った半十郎だったが、永井は後に何も残らぬようにすることだと言う。
半十郎は昨日を持って、大番組に編入されている。
仮にこの代官所が火事にあっても、何もお咎めはあるまい。
永井の言葉に、半十郎と軍内はうなづく。

正八が代官所が燃えていることを知らせに来た。
炎を見つめる若。
そして正十、先生。

くやしい…。
苦しい…。
助けてください、助けて。
炎の中から先生に死者の声が届く。

半十郎と軍内は馬で、永井は籠に乗って江戸へ向かった。
上から先生がそれを追う。
若とおばさんは、やってくる半十郎達を見て、先生を残して左右に散った。

正十と若が仕掛けておいた大石を崩し、馬を驚かせた。
驚いた永井が、駕籠の外に飛び出す。
正十が軍内の乗っていた馬に飛び乗り、従者を振り切って軍内を馬から落とす。
落ちた軍内は若に捕まった。

若に殴られ、とっさに軍内は刀を抜く。
しかし若は軍内の刀をかわし、連続でパンチする。
勢いで軍内は脇に退いた。

若は大きな石を持ち上げ、軍内の頭の上に振り下ろした。
半十郎は、馬で逃げた。
それを見た先生は全速力で旗を槍のように構え、追いかける。

後ろを振り向き、振り向き、永井は横道に逃げ込んできた。
その先には、おばさんが座り込んでいた。
「おい、このみちはどこに行く!」
永井は傲慢に尋ねる。

「一本道だよぅ」。
火を起こしながら、ちらりと永井を見たおばさんが答える。
「どこへ通じていると聞いているのだ!」

永井はのしのしと歩きながら、おばさんの前を通る。
道の向こうを見ながら、おばさんが答える。
「この道をずうっと行くと」。

永井が、おばさんの前を通り過ぎた。
おばさんが匕首を手にする。
永井の背中に思い切りぶつかるかのように、おばさんは永井を刺す。
陽を浴びたすすきが光り、穂を揺らして散る。

刺された永井は宙を見つめ、おばさんに押されて前進する。
永井の背中を押しながら、おばさんは言う。
道端のすすきが、2人が進むにつれ散っていく。

「地獄へ行くのさ!」
永井が倒れ、おばさんが起き上がる。
匕首を手に取り、おばさんが荒い息を吐く。

半十郎は、馬を走らせて逃げる。
その道の先に、旗を持った先生が立っている。
「どけーっ!」

空高く跳躍した先生は、空中で旗を投げる。
旗の柄は槍のように、半十郎に刺さる。
馬がいななき、馬の背に乗ったまま、半十郎は旗に貫かれて前のめりになる。

おばさんを先頭に若、正十が道端にいるおねむのところに歩いてくる。
「終わった?」
おねむの前においてある荷物をとると、おばさんは「一緒に来るかい?」と来た。
「ううん、あたし、もうちょっと休んでる」。

「ちょっと、先生!そっち行ったらまた山だよ!」
正十は「しょーがねえなあ」と言いながら、先生たちの後を追いかける。
「おねむ、またな」と言うと、おねむは大きなあくびをした。



琴路は、小山明子さん。
染香は、左時枝さん。
人格が入れ替わるところなんか、今までとガラリと違う演技、表情、言葉遣い。
小山さんが奥方でも芸者でも、左さんが芸者でも奥方でもピッタリなんですね、これが。

後半、全く出ない染香。
琴路は殺されてしまったので、染香がどうなったのか心配ですが、元通りになったんでしょう。
憑依した理由は染香が全く同じ生年月日だったから、ですね。

そんなバカな、ありえないという解釈はここではなしで、もう、当たり前のようにこれで話が進んでいきます。
これを受け入れないと、ドラマは見られません!
だからこれでいいんですね。

おばさんは4年間、行商をしていたんでしょうが、今回、行商はやめて、先生の祈祷の呼び込みをしてます。
若が琴路を心配して、半十郎のことについて怒る。
なのに、「男のそなたにはわかりません!」と女心で答えられ、すごく傷つきます。

傷ついたんだけど、そんなこと人に言えやしません。
こうやって若の心の傷は、増えていたんでしょう。
本当に傷ついたことって、なかなか人に言えないんですね。
だけど、おばさんには何となく、若が傷ついたことがわかる。

女心に精通しているというか、裏街道を歩いてきて、人の悲しみを見て来た正十も若の涙を見逃さない。
「あいつ、泣いてたよ」。
だから正八、じゃなかった、正十って憎めないんですね。
すごく俗っぽいところがあっても、それも含めてとっても人間らしい。

逆なのは、おねむ。
おばさんとの会話で、おばさんが「あんたまだ若いのに、どうしてそんな暮らししてるの?」と聞きます。
おねむが言います、「あたい、あくせくすんの嫌いなの」と。
「いくら大きい家作っても、いくらお金貯めてもたいしたことないでしょ」。

等身大というか、欲がないというか。
達観してます。
「それより毎日歩きたいところ歩いて、寝たい時に寝た方がよっぽど幸せ」。
「でも時には着たきりじゃなくて、綺麗な着物も着たいでしょ」と若い女性に向けた「らしい」ことを言うおばさん。

「そりゃ着たいけど、一度きたらどんどん止まらなくなっちゃうでしょ、そんな風なら着ないほうがよっぽどいい」。
言うだけ言うとおねむは、「おいしかった。ねむくなってきた」と横になる。
起きて半畳、寝て2畳、天下とっても二合半って言いますけど、それを実践してるおねむ。

先生はお酒を飲まされて、目を白黒させて倒れます。
飲む前に、いや、飲んでる時にわからなかったのか。
浪人を手を使わずに倒したり、屋敷に忍び込む時に見張りを気絶させたり、先生の術の不思議さとすごさが出ている反面、こういう弱いところがある。

おばさんの殺しのシーン、陽に光るすすきがとても綺麗です。
刺した時にそのすすきが揺れて、わずかに穂を散らす。
おばさんに押されて、道端のすすきが散っていく。

昼間の光りの中で行われる、白昼堂々の殺しならではの演出。
のどかな風景。
そんな日常にある、おばさんの殺し。

「地獄へ行くのさ!」
この一言がまた、どすが利いている、迫力。
だいぶ殺し屋の感覚を取り戻してきたようでした。


2010.12.18 / Top↑