「炉に入れられたんじゃかなわないよ!」 翔べ!必殺うらごろし 第5話

第5話、「母を呼んで寺の鐘は泣いた」

松葉屋という女郎屋で働くおそでは、夜中、「かあちゃん」と呼ぶ声で目が覚めた。
娘のおちよの呼ぶ声だとわかったおそでは、おちよの名を呼んで探したがおちよの姿はどこにもなかった。
折鶴を見ているうち、不吉な思いにとらわれたおそでは川岸に出る。
川を挟んだおそでの向こうには、大八車に鐘が乗せられて移動していた。

女郎屋の動きがにわかにあわただしくなった。
「どこへ行きやがった、あのアマ!」
おそでは女郎屋を抜け出してしまったのだ。

鐘が運ばれる後ろを、おばさんが歩いていた。
そのおばさんの前で、おそでが転ぶ。
「どうした?足くじいたか?」

札を売り歩いていたおねむが座り込んでいる寺の境内に、たくさんの人がやってくる。
寺に鐘が収められたのだ。
鐘はさっそく、美しい音を響かせた。
が、誰も鐘をたたいてはいない。

独りでに鐘が鳴っている。
おそでの足を手当てしてやっているおばさんと、おそでの元にもその音は響いた。
途端におそでが、「おちよが、おちよが呼んでいる」と這いずり出した。

寺では人々がうろたえていた。
「綺麗な鐘の音」とおねむは、はっきりと口にしていた。
道を歩いていた先生は、鐘の音を聞いて振り返り、怪訝そうな顔をする。
見物していた正十も驚き、鐘が鳴っている、金になる!と言って、おねむの横を走っていく。

やがて鐘は鳴り終わり、和尚は村人に帰って悪い噂を流さないように釘を刺した。
しかし正十はこれはタタリだ、悪いタタリは元から絶たなきゃダメ!と説得する。
そこに先生がやってくる。
先生が鐘に手をかざした途端に鐘は鋭い音で鳴り始めた。

「タタリじゃ、タタリじゃ」と叫びながらおねむも走ってくる。
正十は「ほらっ、巫女さんもタタリだって言ってる!」と叫ぶ。
先生は走って去ってしまったが、正十は先生もタタリだと言ってると伝え、おねむは札を売り込み始めた。

茶店で休んでいた若の元に、おそでを連れたおばさんが現れた。
今夜のねぐらを探した若とおばさんは、眠り込んでいるおそでを見て、どこからか逃げてきたのだろうと言った。
先生はおそでに草を煎じたものを飲ませてやれと言い、峠で聞いた鐘は一人で鳴っていたのだと教えた。
娘を探しているというおそでに、おばさんはご飯を振る舞う。

翌朝、鐘は寺から撤去された。
3両出したら悪霊を払うと言っていた正十はあわてた。
その頃、おそではおちよが呼んでいると言って、外に飛び出した。
先生は鐘の後をついて行く。
当てもなく歩き出したおそでの後を、おばさんも心配してついていく。

宿場町に着いたおそでは、人目を避ける。
おそでが逃げてきたことを察したおばさんは、人を呼んでくると言っておそでを置いていく。
鐘は鐘匠の梵匠屋に返された。
商売にしようと必死な正十は、タタリを訴えるが鐘匠は聞き入れなかった。

鐘匠は鋳物問屋の河内屋喜兵エに怪異を訴える。
そこに金をくれと言って、息子の卯之助がやってきた。
おばさんがおそでの身の上を聞くと、おそでは主人の借金の為に身売りしたという。
もう2年になるが、娘のおちよは14歳、12の時からこの宿場町で1人で暮らしていたらしい。

ずっと会えなかったが、ここ半年ぐらい、おそでに食べ物の差し入れや洗濯物をとりに行くようになっていたという。
それも河内屋の使い走りをさせてもらうようになってからだ。
おそでに届け物をした際、おそでは離れたところでこちらを見ていた河内屋の若旦那・卯之助を見たことがある。

とってもいい人で、今度河内屋で働けるようになったから、自分へのお金の心配はしなくていいとおちよは言っていた。
どうやら卯之助は、おちよを迎えに来ていたようだった。
「ひょっとして、娘さん、若旦那を好きだったんじゃ」。

おばさんはそう言って、必ずおちよは探してやると言ったが、次の瞬間、地回りがやってきて、おそでを見つけ、連れて行ってしまった。
やってきた若におばさんは、おそでが心配なので女郎屋に行ってくれと頼む。
頼まれた若は困惑していた。

店の裏に置かれた鐘に手をかざし、先生は霊視していた。
寺からずっとつけてきたという先生を見て、鐘匠も喜兵エも胡散臭そうに先生を見る。
先生は鐘には何かがとりついていると言ったが、鐘匠は清姫の例を出して、鐘には昔から不思議なことがあると言った。
念の為、仕事場を見たいと言う先生を、鐘の配合には店それぞれの秘密があると言って先生を追い払った。

店に戻されたおそでは、出てきた卯之助を見て、「おちよはどこにいるんです」と問い詰めた。
だが卯之助は「知らないよ」と言う。
でもおちよは確かに卯之助の店で働くことになっていた。
卯之助は「女郎の娘のことなんか、知るわけないだろう!」と冷たくあしらって去っていく。

若が店に潜入した時、おそでは折檻を受けていた。
そこに鐘の音が鳴り響く。
やはり、鐘は勝手に鳴っていた。
倒れているおそでが、立ち上がる。
鐘はたくさんの布団で覆われ、音が響かないようにされた。

眠そうに札を売り歩くおねむに、卯之助が振り向いた。
卯之助は全部買うと言うが、おねむは札は一枚もないと言う。
何か食べさせてやると卯之助はおねむを連れて行こうとするが、そこに正十が走ってくる。
正十は卯之助にたかり、おねむは勝手にうどんを食べに店に入ってしまう。

おねむを引っ掛けそこなった卯之助を、今度はおばさんが誘う。
「若い子相手にするより、おもしろいよ。ついておいで」と言われ、卯之助は興味半分でついていく。
だが卯之助はおばさんが入った廃墟を前に、引き返そうとする。
おばさんは無理やり卯之助を引き込み、卯之助は居心地悪そうにしていたが部屋の隅にある着物に目を留める。

着物を見た卯之助に、おちよが逃げようとしている光景が蘇る。
必死に逃げるおちよを卯之助が組み伏せていた。
卯之助の顔を見て、「何を思い出したんだい?」とおばさんが言う。
やっぱり帰ると逃げ出そうとした卯之助に、「おちよさんのことだろう」と鋭い声でおばさんが言った。

「弄んだね!」
「おばさん、誰なんだ」。
「年端もいかない小娘をのぼせあがらせておいて、どうしたんだい!」
「知るもんか!」

「殺したんじゃないだろうね!」
「どいてくれ!」
卯之助はおばさんを振り切って外に逃げた。

鐘匠は喜兵エに、また鐘が鳴ったと報告した。
もう、気味が悪くてしかたがないので、潰してしまおうと鐘匠は言い、喜兵エはおそでの方も悪い噂が広まらないうちに片付けてしまわないと言った。
女郎屋にいる若は繕いものをしている女郎に、危なっかしい手つきだなあと言って代わりに縫い物をしてやっていた。
「お客さん、上手ねえ」と女郎が感心する。

おそではまた、ふらふらと裏口から雪の舞う外に出て、おちよの名を呼んでいた。
まるで応えるように鐘が鳴る。
放置されている鐘の元へたどり着いたおそでは、鐘を抱きしめて「おちよ!」と言った。

若がおばさんに、おそでが再び逃げ出したことを知らせに来た。
鐘にしがみついているおそでに、喜兵エの使用人の久六が近づく。
背後からおそでは襲われて、絶命した。

朝日が昇る。
先生の目に炎と、絶叫するおちよが映る。
つるされているおそでも、見える。

先生はおそでを探して走る。
おばさんと若に会うと、2人もおそでを探していると言う。
鐘にとりついているのが、おちよだと先生は言った。
おそらく、鐘を作る時に炉の中に放り込まれたんだろう。

炉の中…とおばさんは絶句する。
鐘が勝手に鳴るのは、おちよがおそでを呼んでいるのだろう。
かわいそうに…とおばさんが言った時、おねむが正十が探していたと告げに来る。
女の人が殺されていたのだとおねむは言った。

それを聞いたおばさんは、走る。
枯れ葉に隠されて、おそでが口から血を流して死んでいた。
「おそでさん」とおばさんは手を取って泣いた。
若は息を詰めて見ている。

おばさんが鐘のところに行くと、老人が鐘に手を合わせて拝んでいた。
老人が立ち去る時、おばさんが声をかける。
なぜ拝んでいたのかと聞くと、老人は今日限りで暇をもらったので、自分はもう鐘匠の人間ではないと言った。
「あそこで、お女郎さんが殺されたんでしょう」。

おばさんの指摘に、老人が驚く。
「教えて、お願いよ。私、あのお女郎さんの知り合いなの。かわいそうな人だからお弔いしてあげたいのよ。わかってくれるでしょう」。
おばさんの説得の声に老人はうつむく。
「おらぁ地獄を見ただ…」。

「やっぱり…。そのお女郎さんに、おちよさんって娘さんがいたでしょう」。
「怖ろしい話だ」。
「どういうこと、それ」。

河内屋がいつだったか、店を訪ねてきた。
卯之助は、おちよに手をつけた。
息子の方は完全に遊びで、許婚とまもなく祝言をあげることになっていた。
だが、卯之助からおちよは離れないので、喜兵エは鐘匠におちよの始末を頼んだのだ。

「そうかい、それでおちよさんは炉の中に入れられたんだね」。
おばさんはつぶやく。
「人間のすることじゃないよ」。
「こんな怖ろしいところには、いられたもんじゃねえ」。

老人は荷物を抱きしめて、言った。
30年も長い間いたばっかりに…、老人はおばさんに頭を下げて出て行く。
「ありがとう、おじいさん。達者でね」。

陽の光の中、先生は川岸で手を上げて太陽をあおぎ見ている。
炎が見える、おちよが「誰か助けて」と絶叫している。
おそでが血の中で、「この恨みを晴らしてください」と目を見開いたまま、絶命している。
先生が走り出す。

不安になった卯之助が鐘匠の前で、膝を抱えている。
鐘匠は「いくら疑ったって、鐘の中に小娘を溶かし込んでいるなんて、誰も気がつきゃしませんよ」と言っていた。
「それもそうだな」と思いなおした卯之助は、「でも早いとこ、あの鐘溶かしてしまおうじゃないの」と言った。
「おかしくなりそうだよ~」。

しょうがない息子だと笑った喜兵エ。
鐘匠は久六を呼び、今日は休みで職人もいないから久六が火を起こすように言った。
久六が火を入れに行き、卯之助が見に来る。
階段を、久六が上がっていくのと入れ違いに、おばさんの赤い足袋が降りてくるのが見える。

「おばさん」。
おばさんはにこにこしながら、「火を入れといたよ」と笑う。
「何だって?」
「ほら、ごらん」。

おばさんは顔の横にある、炉の覗き口の蓋を開ける。
丸い小さな穴から、赤い炎が見える。
「あんまり暑いんで汗びっしょりだわ…」。

おばさんに近寄った卯之助は「余計なことしないで…」と言いかけた。
その瞬間、卯之助が目をぱちくりさせ、下を見る。
卯之助に、おばさんの匕首が刺さっていた。

卯之助をおばさんは壁まで匕首を刺したまま、追い詰めていく。
「言われなくったって」。
おばさんは匕首の刃を横にして、えぐる。
卯之助が、断末魔うを上げる。
「出て行きますよ!」

匕首を抜くと、おばさんは「炉に入れられたんじゃ…」。
卯之助が壁を背にして、ぐったりする。
「かなわないよ!」。
おばさんはそう言うと、小屋を出て行く。

階段の上では久六が若に殴られていた。
若は久六を追い詰め、てっぺんまで担ぎ上げて階段を登る。
炎が上がっている。
「や、やめてくれ」と叫ぶ久六を若は炎の中に放り込む。
久六が絶叫する。

異変をかぎつけて、喜兵エと鐘匠が部屋から出てくる。
鐘のあったところに行くと、炉から炎が上がっている。
塀の向こうに、旗が上がっている。
旗は先生が掲げて、走っている。

先生はジャンプすると塀を飛び越え、旗を投げる。
旗は大きく飛んで、喜兵エに刺さった。
立ったまま、旗に貫かれた喜兵エが叫ぶ。

先生は喜兵エから旗を抜くと、旗を槍のようにして鐘匠を投げ飛ばした。
倒れた鐘匠の前に、先生は旗を振り回す。
鐘匠はひざまずいた格好で、先生に刺された。

先生は悲しそうに、空を見上げる。
青空の下、旗は光をあびて翻っていた。
旗がなくなり、光だけが煌めく。

おねむの手を引っ張った正十が、おばさんたちを追ってくる。
正十はおばさんと若に、金を渡す。
鐘匠に鐘の話、世間にあまり知られない方がいいんじゃないのと言ったら、くれたのだと言う。
おばさんはありがとうと言って、正十からお金を「預かっておくよ」と取り上げる。
道端に座り込んでしまったおねむに付き合って、正十も寝転がる。



ナレーションが言います。
「当時、ソ連が魂の呼び寄せ現象について実験をしている。
数匹の子うさぎを潜水艦の中に入れ、親うさぎを沿岸の研究室に置いた。
頭に電極をつけて、潜水艦の中の子うさぎを一匹ずつ殺していくとあきらかに母うさぎの脳波に反応があった」。
伝達があったのだ、と。

それよりもそれを聞いて、子うさぎ…、かわいそう。
やだー!
そんなことしているから、潜水艦火事になるのよ!と言いたくなりました。
いろいろとあるにしても、そんなことを調べる為に引き離して殺しちゃうなんて、あまりにかわいそうだ、と。

今回は炉で焼き殺された娘が、鐘になって母親を呼ぶ壮絶な話。
前回と言い、うらごろしは殺し方、残酷ですねー。
目を開けて、顔を出して枯れ葉に埋もれているおそでもかわいそうで、だけど怖い。

母親を呼ぶ音が、おねむも言うほど、とても綺麗。
人を呼んでいる音なのかもしれません。

何かを作る時、人を柱にする怖ろしい話はいくつか聞いたことがありますが、これは生理的に怖い。
おそでも殺していたし、実行犯はおそらく、久六。
若に炉に投げられて、因果応報でしょうか。

おばさんとの会話で、老人が怯えて真相を話すと、却って事の真相の恐ろしさを感じる。
怯えて退職もするだろうな、と…。
そんなこと人にして怖くないで平然と暮らしてるなんて、幽霊より怖い。

正十の「悪いタタリは元から絶たなきゃダメ!」は、当時のCMのパロディじゃなかったかな。
「嫌な臭いは元から絶たなきゃダメ!」とかいう。
おねむの「タタリじゃ、タタリじゃ」は、当時のヒット映画「八つ墓村」でしょう。
鐘を運んでいるシーンで、「獄門島」を連想してしまいましたけど。

それから、女郎屋に行かなきゃならない若の困惑。
女郎を買ったものの、縫い物してるのがおかしい。
しかも外見の男らしさとは真逆に、いや、だからこそ頑張ったのか、お女郎さんより縫い物がうまい。

登場からお金をせびって、すごいバカ息子ぽいのが卯之助。
おねむに目を留める、おねむ、怠惰だけど、とっても綺麗だから。
それでこういうバカ息子にたかるのが本領、という感じの正十。

このバカ息子・卯之助を誘うおばさんが、すごく色っぽいんです!
「若い子相手にするより、おもしろいよ」と言われると、「…何かわかんないけど、このおばさん、すごいんじゃないか(何が)」って思わせるんですよ。
市原さんの声がネットリとしてる。

それでやっぱり、おばさんの殺しがパワーアップしてすごい。
おばさんの赤い足袋が降りてくるのが、死神に見える。
明るく、「火を入れといたよ♪」。

これ、語尾に「♪」つきます。
そんな調子です。
「ほら、ごらん」。
「あんまり暑いんで汗びっしょりだわ」もまた、妙に色っぽい。
完全におばさんを侮った卯之助は邪険に「余計なことしないで…」と言いかけて刺される。

もう、何が起きてるか例によってわからない。
それで「言われなくったって」と言って、おばさんが卯之助を引っ張って行く。
「出て行きますよ!」で、ぐりぐりえぐる。
外見と全く違う、プロの殺し屋ぶりに戦慄ですよ。

決めの言葉は「炉に入れられたんじゃ、かなわないよ!」。
これが殺し屋の言葉じゃないんですね。
部屋散らかされて、「こんなに散らかされたんじゃ、かなわないよ!」って言ってる調子です。
日常会話みたいな感じでやられるから、ほんとに怖い。

仕置きが終わった先生の、悲しそうな顔。
空を見上げると、光を浴びて旗が翻ってる。
旗がなくなると、太陽の光が煌めいている。
これが日常で、悲しくて、綺麗です。

うらごろしは旅の一行の話なのですが、流れる川、舞い散る雪。
上ってくる太陽。
こんな自然の風景がとても綺麗でした。


スポンサーサイト

「いろはの『い』の字は何てぇの?」 翔べ!必殺うらごろし 第3話

第3話、「突然肌に母の顔が浮かび出た」。

針の行商に行くというおばさんに、先生は売れないよと言った。
何か妙なことが起きそうだ、とも言った。
探している子供に会えるのかとおばさんは言ったが、そうではないらしい。

空腹のあまり、正十と若は畑で野菜を盗んで食っていた。
「芋泥棒!」という声がして、百姓に若い侍が追われていた。
「ただ、休んでいただけだ」と侍は言う。

正十と若が飛び出してきた。
早速、正十は百姓に「捕まえてやるからいくら出す」と聞いたが、その途端、正十の懐から盗んだ芋が落ちる。
かわって今度は正十が追われた。

芋泥棒と間違えられて追われた若い侍は、真之助といった。
「頼りない歩き方…」。
真之助がフラフラ歩いているのを、おばさんが見る。

疲労のあまり、倒れた真之助は子供の頃を思い出す。
「そなたは私を殺す目をしている」。
そんなことを言っては、幼い息子の真之助を遠ざけていた母親。

その病を治してくれると言って、旅の修験者・弁覚とその一行・千手坊と自光坊は真之介の家に入り込んだ。
結果、美しかった妻は弁覚に陵辱され、連れ出された。
弁覚を追ってきた父は斬られてしまった。

うなされている真之助の胸に、母の顔が光とともに浮かび上がる。
やがて、真之助は目覚めた。
おばさんが介抱してくれていたのだ。
「母親を探しているのか」とおばさんは聞き、「親と子は会えるほうがいい」とおばさんは言った。

真之助は母親を探し、父親の仇を追っているのだ。
身の上を知ったおばさんは、真之助に食事を食べさせた。
何年かけても会えるかはわからないし、返り討ちに遭うかもしれない。
真之助は、例え生涯をかけても母親と玄覚を探し出すと言う。

返り討ちにされた、その時は死んでいくだけだと言う。
同じく息子を探しているおばさんは仇を探してやりたいと言うが、正十は「金にならない、真之助の探す者を探せない先生は修業不足だ」と茶化す。
おばさんは正十をたしなめるが、先生は正十の言う通りだと言う。
先生は真之助の母の心の叫びを聞こうとしたが、途中で切れてしまうのだと言う。

息子が母親を思う気持ちより、母親が真之助を思う気持ちのほうが弱いのかもしれない。
それを聞いたおばさんは、「そんな母親なんか、日本中に1人もいやしないよ!」と怒る。
「1人もいやしないよ…」。
先生はおばさんを見つめる。

真之助は翌朝、外で剣術の練習をしている。
若が真之助の刀に向けて、棒切れを投げる。
棒切れをはじいた真之助に若は笑って「やるじゃねえか」と言う。

若は「敵討ちと言うが、本当は母親に甘えたいだけではないのか」と言った。
「男と逃げた母親が、いつまでも亭主やガキのことを思っているはずはない」と乱暴なことも言う。
「母はそんな人じゃない!」
若の言葉にカッとなり真之助は、刀を抜く。

だが、すぐに刀を収めてしまった。
「ケンカはせん。女相手に」。
「何だとぉ?!おいら、女じゃねえや!」
真之助の言葉に、若はカッとなる。

「お前も地獄を見て来た、かわいそうな女だ」。
真之助の言葉に若は、激高する。
「うるせえ!」

若は棒切れを手に、真之助に殴りかかる。
「お前の母はお前を裏切ったのか!だから母を慕う俺が憎いのか!」
真之助の言葉に「お袋がなんだってんだ!」と若が叫ぶ。

若は真之助を追い掛け回す。
棒が真之助の背中に当たる。
だが「これで気が済んだか?」と静かに言う真之助を見て、若は「…男だな、お前」と呆然とする。

その頃、おねむは御札を売り歩いては「いらない」と言われていた。
若がおねむを見つけて、「どこに行ってたんだ」と聞くと、「あたしはずーっと食べて寝て、のんびりしてた」と答える。
「この世の中を極楽のように思ってやがる。うらやましいよ!」
寝転がったおねむの赤い帯に、顔が影になって見えない母の姿が映るのを真之助は見る。

「母上、ここにおられたのか」。
お堂で寝ているおねむの手を真之助は取る。
それを見た先生とおばさんは、おねむを起こす。
「良く見ろ、これはお前の母ではない」。

先生は真之助の前に手をかざし、しっかりと母の面影を浮かべろと言った。
白い闇の中、母親の笑顔が浮かんでくる。
先生は目を開けと言って、そのまま母親の顔を思い浮かべるように言う。
そして眠いと言うおねむの肌をあらわにし、背中を見るように言った。

おねむの肌に真之助の母の顔が、ぼんやりと浮かぶ。
想念が人の肌に映る、肌絵、フィルモグラフィーという現象。
それを基に先生は母親の似顔絵を描き、若と正十に渡した。
これで母親が見つかるかもしれない。

正十と若は、博打に行く。
嘘のように当たった正十と若の前に、弁覚が現れた。
弁覚ににらまれて、気持ちが動揺した正十は勝負を切り上げ、若と飲みに行くことにした。
若と正十が去った後、賭場では弁覚たちが暴れ、全員斬り殺して掛け金を奪って逃げた。

御札を売り歩いていたおねむは料理屋の前で、志乃という女に呼び止められる。
おねむから御札を買い求めようとした志乃だが、弁覚が現れ、余計な金を使うなと札をおねむに放り返す。
料理屋に入った弁覚は志乃を借りると言って、2階に連れて行く。
「気味の悪い男だよ」と料理屋の女将は、弁覚を見送る。

志乃はいつか必ず弁覚の寝首をかき、夫の仇を討つと言うが、弁覚は志乃をとりこにしている自信に溢れている。
弁覚は「そろそろ息子が敵討ちに現れる頃だが、外道に落ちた母親も一緒に討つだろう」と言う。
「安心しろ、その時は返り討ちにしてやる」。

正十と若は、料理屋で酌婦としてやってきた志乃を見て、似顔絵の女性、すなわち真之助の母と気づく。
「会ってやんなよ」と2人は志乃に言うが、志乃は「母親はもうないものを思ってくれ」と言う。
今の自分は母親として名乗れない。

「やっぱり弁覚と一緒なんだろう、離れられないのか」と若は言い、「親の心子知らずと言うが、広い世間には逆もあるんだ」と皮肉を言って去っていこうとする。
その時、志乃は去って行こうとしていた正十を呼びとめ、真之助に渡してくれと言って、小判を渡す。
料理屋を出た正十は「おい、あの人泣いてたぞ」と若に言う。

先生は真之助に仇討ちの訓練をしていた。
相手は妖術を使う、目の光に誤魔化されるなと言って、先生は真之助を鍛える。
そこに正十と若が、志乃が見つかったと飛び込んでくる。

小判を前に、志乃の「もはや母は亡き者と心得よ」という言葉を聞く真之助。
しかし、真之助は母に会うと言う。
「見たくもないものを見るかもしれない」と先生は忠告し、若も同意する。
「だが、目をそらすわけにはいかない」と真之助は出て行こうとする。

おばさんは「そうだよ」とつぶやく。
正十は小判を「これ」と指差すが、真之助は「預かっておいてくれ」と言う。
「お前、帰って来いよ」と正十が言う。
「帰ってこねえとこれ、使っちゃうぞ」。

真之助は振り向き、おばさんは微笑んで見送る。
外に出た真之助を若も追ってくる。
「気をつけて」。
真之助も若を見て、微笑み「ありがとう」と答える。

表でずっと座っている若に正十は、「何考えてる」と聞く。
「別に」と答える若に正十は「真之助に惚れた?」と聞くが、若は答えない。
真之助は志乃に会いに走る。

おばさんは先生に「どうしても気になる」、と言った。
幼い頃、真之助は母に「自分を殺す目をしている」と言われていたのだ。
先生は「それぞれの人の命、何があっても不思議ではない」と言った。
不安そうにおばさんは先生を見る。

真之助は志乃のいる料理屋へ走った。
だが料理屋では、志乃は勝手にやめたと怒っていた。
どこに行ったかわからないと言う。

その頃、志乃はどこに行ったらいいか途方にくれながら、夜道を歩いていた。
男から逃げ、息子から逃げ、志乃はもうどこへ行っていいかわからない。
道をはずれ、懐剣を手にした志乃の耳に、「母上」と叫ぶ真之助の声が聞こえる。

鐘の音がした。
振り向いた志乃の前に真之助がいた。
真之助が駆け寄ろうとした時、「命を捨てに来たのか」と弁覚が現れる。
父が斬られた時の光景が蘇る。

「討てるかな」。
弁覚の眼力に負けそうになる真之助だが、先生との練習が生きた。
真之助は弁覚を追い詰める。
弁覚を討とうとした瞬間、母親が真之助の名を叫ぶ。

一瞬、気を取られた真之助。
真剣勝負にあってはならない一瞬の隙を、弁覚は見逃さなかった。
弁覚の刃が真之助を斬り、真之助が倒れる。

「鬼!」と弁覚に懐剣を向ける志乃。
だが、弁覚は懐剣を取り、志乃を連れて行ってしまう。
真之助は最期の力を振り絞って、刀を投げた。
しかし、刀は弁覚の前にいた志乃に当たってしまう。

母親が倒れる。
もがきながら母の元へ手を伸ばした真之助に、戻ってきた弁覚がトドメをさした。
2人の手は、ついに結ばれることがなかった。

時間が経った。
おばさんの赤い足袋が2人の手の前に現れる。
「子を思わない母親なんて、日本中に1人もいやしないよ」。
おばさんはつぶやいて、2人の手を取り、しっかりと握らせてやる。

2人をじっと見詰めるおばさん。
縁側に座っている先生のところに正十が飛んで来る。
先生は目を閉じている。

弁覚一行が朝もやの中、道を歩いているのが見える。
若が走って後を追う。
おばさんは既にその先の道端で、焚き火をしている。
うつむいているおばさんは焚き火の中から芋を取り出し、焼き加減を確かめる。

太陽が昇り、先生を照らす。
先生が目を開ける。
志乃の、真之助を呼ぶ声がする。
真之助の「誰か、この恨みを晴らしてください」という声が響く。

太陽が昇った。
先生が気合を入れて、叫ぶ。
夜明けの道、先生が走る。
正十が後を追う。

弁覚一行は、小川を越えた。
越えたところで千手坊が、草鞋を結びなおす。
その先におばさんがいた。

「お坊さん、お坊さん」とおばさんの声に千手坊が顔をあげる。
「芋、よく焼けてるよ」。
おばさんが陽気に、串にさした芋をかざす。
「おっ、芋か」。

おばさんが笑顔で芋を差し出し、千手坊が笑いながら近寄る。
「こりゃあ、うまそうだな」。
千手坊はおばさんから芋を受け取り、頬張る。

「物知りのお坊さん、いろは数え歌を教えとくれ。いろはの『い』の字は何てえの?」
千手坊は芋を頬張りながら、「犬も歩けば棒に当たる、だ」と答える。
「違うよぉ、お坊さん」とおばさんは笑って言う。
「いろはの『い』の字は」。

おばさんが上着を脱ぐ。
目に留まらないようなすばやい動きで、おばさんは匕首を懐から抜く。
千手坊の背中に、すごい速さでおばさんが飛びつく。
おばさんは千手坊が振り向いた時、既に背中に匕首を刺していた。

「命いただきます、の」。
動かない千手坊を見上げて、おばさんが笑い声を含んだ声で言う。
「『い~』ですよぅ」。

おばさんが匕首を抜く。
無言のまま、千手坊は倒れた。
倒れた千手坊には目もくれず、おばさんは真剣に匕首の血をぬぐう。

やがて、追いついてこない千手坊を弁覚と自光坊が探しに戻ってくる。
千手坊の紐が水辺に落ちているのを拾っているのを、竹やぶからおばさんが見ている。
2人は千手坊を探すが、焚き火の跡があるだけで、千手坊の姿は見えない。

その時、走ってくる若と先生に、弁覚と自光坊が気がつく。
自光坊は若を、弁覚は先生を迎え撃つ。
若は自光坊を投げ飛ばし、殴り倒す。

うつぶせに倒れた自光坊の上に、若がジャンプして乗る。
骨が折れる音がして、自光坊がえびぞる。
弁覚は先生と向き合った。

先生は旗を手に、弁覚は槍を手にしている。
お互い、構えて走ってくる。
先生と弁覚が交差した。

次の瞬間、先生は指から血を流しながら、弁覚の槍を手にしていた。
先生の背後にいる弁覚には、先生の旗の柄が刺さっている。
竹やぶで見ていたおばさんが、息を呑んで、そして立ち去る。
見守っていた正十も、先生の勝利を確認して去る。

弁覚が断末魔をあげる。
先生は振り返り、弁覚の最期を見る。
そして、弁覚の槍を地面に叩きつけるように刺して捨てた。

おねむが志乃と真之助の墓を作ってやっている。
花を供え、墓を見つめる。
「仇はとったし、金は分けたし…」と正十が言う。
「先生どっち行くんだろう」と若が言う。

先生は道の険しい方へ進む。
おばさんは振り返りながら、先生についていく。
「また~…」と言いながら、正十もついていく。



今回の軸は、離れ離れになった母親と息子。
真之助に「あなたは?」と尋ねられて、おばさん、「私はただのおばさん」と答える。
このうらごろしメンバーには、名前がない。
DVDボックスの解説にもありましたが、だから第三者が呼ぶのにちょっと困る。

ちょっと笑っちゃうんですが、でもこれで良いんですね。
彼らは、どこにも属してない。
定住していない。
だから表の稼業を持たない。

若を見て思ったんですけど、どこかで心がひどく傷ついているんですね。
最初はつっかかるというか、そこが若の心の傷を思わせました。

だけど、何か揉め事が起きて、それを越えるとものすごく認める。
信頼する。
逆にそういうのがないと、心を開かない。

若は正十に「惚れた?」って聞かれましたけど、そうじゃない。
真之助には、友情を感じてたんだと思いました。
「帰って来いよ」と言う正十。
彼なりの「死ぬなよ」の伝え方。

この前回の話でも思ったんですが、若は女性が嫌いですね。
女性の弱さが嫌い。
母親に関して、何かあったのかなあと思います。

志乃は弓恵子さん。
憎みつつ、妖術を使う邪悪な男のトリコになっている。
同時に母親としての情も捨てきれない。
業の深い女性を演じます。

何で息子が自分を殺すと言っていたのかはわかりません。
予感が的中してしまうのが悲しい。
この不安が、弁覚から離れられない理由だったのかもしれません。

弁覚は藤岡重慶さん。
妖術使いのやり方を知っているから、真之助を鍛えます。
そのかいあって、弁覚に勝てそうだったのに。

ラストの先生との祈祷師対決の殺陣も、見応えあります。
剣豪ならぬ、術使い同士の対決。
向き合って走ってきて、あっという間に先生が弁覚の槍を手にしている。
おばさんも先生も、すごく動きが速いんですよね。

さて、おばさん。
子供を捜す母親の立場から、真之助に肩入れする。
そして、最後の殺し。

コ、コワ~イ…!
焚き火焚いてる肩の辺りから、無言の怒りと悲しみ、殺意がにじみでている…。
そして、まさしく通り魔。

あんなニコニコして、誰が疑うものか。
芋差し出されたら、近寄って行っちゃいますよ。
一気に殺人者の顔になり、上着を脱いで匕首を出し、相手に近寄って刺す。
すばやい。

のんびりしたおばさんの、欠片もない。
相手は「?」「??」ですよ。
声も立てずに倒れる。

それでいつまで経っても来ない仲間を探しに来ると、焚き火の跡だけがあって、探す仲間はいないんです。
仲間どころか、誰もいない。
空恐ろしい。

おばさんがずるずると、千手坊を引きずって竹やぶに持って行ったんだろうと想像すると、とっても怖い。
殺し屋の本領を発揮してきました。
「命いただきますの」で、楽しそうで、声に笑いが含まれてる。

「『い~』ですよ~」なんて口調は、もう、「まんが日本昔ばなし」の妖怪みたい。
これ、もうどんなに文章にしても伝えられない。
頭の中で、市原悦子さんの声と調子を再現しながら想像してもらうしかありません。

志乃と真之助の仇を討ち、先生たちはまた旅に出る。
人と関わるのも、旅の中の一時だけ。
このグループの寄る辺なさは、名前を持たないこと、定住していないところから漂ってくるんでしょうか。

最後まで本名不明 「翔べ!必殺うらごろし」

時代劇専門チャンネルの必殺アワー、ぐずぐずしているうちに「必殺仕舞人」になってしまいました。
自分のばか~。

異色といわれる「うらごろし」ですが、「翔べ!必殺うらごろし」の最終回。
最後まで本名がわからなかった、おばさん。
いや、結局、誰もわからなかったんですけど。

おばさんの墓にかかっている、おばさんがいつもかぶっていた笠が揺れている。
背景は何もない荒野。
「坊やがいる町がいつも見えるように」山の上に作った墓。

風が吹く。
寒々とした何もないところに、おばさんの笠が風に揺れる。
走って去っていく正八に、おねむがつぶやく。
「また一人ぼっちか」。
まがりなりにも、家族として機能していた一行がなくなって、マイペースなおねむでさえ寂しい。

正八はどこかへ走っていき、若は流れていく船の中で、あるいていくおねむからおばさんの死を知らされ、悲しみに目を閉じて寝転がる。
おねむはまた、札を売りながら歩く。
先生は修業の、道なき道を行く。

一行がバラバラになって行く様子と、交互に入るおばさんの墓の映像。
あまりに寂しい光景。
故郷へ帰れと言われた若は、帰ったのか。
正八は裏の世界と手を切ったのか。

おばさんという母親がいなくなった「うらごろし」一行の、擬似家族はあっさりと解散していく。
レギュラーの殺し屋が、今までの人生を精算するかのように死んでいくのは、これが最後だったかも。
順之助や銀平がいるといえばいるけど、あれは業を背負って死んで行ったというより、都合で退場させられた扱いのよう。

以後の必殺仕事人シリーズでは、作品世界を表現していたようなレギュラーの殺し屋が、業を背負ったように死に方をすることはなくなりました。
「必殺」に必ずあったハードさ、虚無感がここにもありました。
やっぱり、「うらごろし」は確かに、ひとつの区切りであったのだなと思います。


「一本道だよぅ」 翔べ!必殺うらごろし 第2話

第2話、「突如奥方と芸者の人格が入れ替わった」。

有り金を2倍にすると宣言して正十と若は博打に行ったが、正十は早くも身ぐるみはがれて帰って来た。
若は、というと、正十いわく、頭に血が上っているからダメだろうと言う。
一文無しになって絶望する正十だが、その時、柳橋の芸者の染香が2人の浪人から逃げてやってきた。

正十は突き飛ばされるだけだったが、先生が割って入る。
1人をグルグルと回転させて投げ飛ばし、1人は先生が手をかざすと動きが止まってしまった。
先生の気合とともに、1人の浪人は投げ飛ばされる。
染香は感謝し、先生一行を座敷でもてなす。

酒を勧められた先生だが、先生は酒はもちろん、料理にも手をつけない。
正十は水を、という先生に酒を入れて飲ませた。
途端に先生は座敷をふらふらと歩き出し、気絶してしまった。

責任を感じた染香は先生を一晩、看病する。
翌朝、目覚めた先生の前で、染香に異変が起きた。
突如、自分は「上州漆が原の代官・山地半十郎の妻、琴路である」と名乗り、座敷の者に無礼者と叫んで出て行こうとした。

同じ頃、山地の屋敷では半十郎が江戸にいた頃から友人である、松浪軍内が屋敷に来ていた。
2人の前で琴路が同じく突然三味線を弾くそぶりをし、「嫌ですよ、旦那」と笑って「あたしは柳橋の芸者。染香じゃありませんか」と言い始めた。

琴路を名乗った染香に「無礼者」と打ちのめされた楼の主は、この妙な病を先生に治してほしいと、正十に頼む。
金を貰って楼を出た正十だが、おばさんに見つかり、金も「預かっておくよ」と取られてしまう。
先生はこの憑依は何か言いたいことがある人間の魂が原因だと言う。
そして、染香には何も問題はなく、琴路に原因があると見て、上州へ向かう。

漆が原では百姓たちが重い年貢に耐えかね、代官所に訴えていたが、訴えに行った百姓は次々行方不明になっていた。
だが軍内は、ここでは扱えないこともあるから江戸に向かったんだろうと言って取り合わない。
そこに先生がやってきて、奥方に妙な病がとりついているのではないか、自分なら治せるかもしれないと言うが、軍内は先生も追い返す。

若は「真正面からぶつかってもダメだ、先生は人が良すぎる」と言う。
正八も「浮世の苦労が足りない」と言い、おばさんまで「修業不足だね」と言う。
「こういう時はね、ここ働かせんの」と若は正十を連れて行く。

家族が行方不明になった百姓たちはどうするか相談し、札を売り歩くおねむに遭遇。
尋ね人に御札はきかないと言う百姓だが、おねむは良く当たる先生がいると言う。
だが結局、若い百姓が1人で行動すると言って、代官所に向かった。

百姓といるおねむに、おばさんが声をかけた。
おねむは、一行と合流した。
そこに若が帰って来た。

若が聞いてきたことを報告するに、ここの代官の半十郎は驚くほど評判が悪かった。
年貢の取立てはめちゃくちゃ、だが元は江戸の貧乏な御家人であった。
代官の娘の琴路に見初められて、婿に入ったらしい。

そして、そのまますんなりと代官に収まった。
軍内は江戸で道場を営んでいたが、食うや食わずの暮らしだった。
遊び仲間の半十郎と、そのまま一緒に漆が原に来たらしい。

おねむは先生に尋ね人を探して欲しいという人がいると百姓の話をするが、若は「後で」と言って先生を連れて半十郎の屋敷へ向かう。
屋敷では、半十郎が軍内と相談していた。

江戸からここに来て5年、長かった。
やっと、江戸に戻れる算段がついた。
琴路は何も気づいておらず、江戸に戻ったら、お飾りとしておいて置けばいい。
だが、あの、やってきた旅の行者が気になる。

その時、軍内が床下の若に気づき、刀を畳みに突き刺す。
若は逃走し、屋敷の警備は手薄になる。
先生はその隙に、琴路を連れ去った。
若が捕えられたかと思ったが、捕えられたのは若ではなく、代官所に訴え出ていた百姓の1人だった。

気づいた琴路は先生たちを前に驚いたが、おばさんは琴路が染香に取り付いたからだと言う。
自分でも意識していない超常現象を信じない琴路だったが、先生にピタリと生年月日を当てられる。
琴路と染香の生年月日は、全く同じだった。

驚きながらも帰ると言う琴路の前に、漆が原の百姓2人が目に入る。
いつもいつもお情けをかけていただいて、とひれ伏す百姓を目にした琴路の様子がおかしくなる。
同じ頃、「また来た!」と染香の様子もおかしくなった。

先生は琴路を外に連れて行き、崖から上る太陽を見せる。
朝日を浴びた琴路を見た先生は、殺されている大勢の百姓を見る。
「先生!」
「何が見えたんだい!」

その頃、捕えられた若い男の百姓は地下牢で、琴路をどこに連れて行ったのか、仲間は何人かと責められていた。
彼の目の前には、訴えに出て行ったまま行方が知れなくなった父親の骸があった。
それを見た途端、彼もまた殺されてしまった。

先生たちに残った2人百姓が語る。
漆が原では、昔から漆が取れた。
琴路の父親が代官であった頃から6割は取った百姓のものであったが、半十郎が代官になってからは毎年悪くなり、今では3割しかもらえない。

それではとても、暮らしてはいけない。
百姓の代表として3人が訴えに向かったが、行方不明になっているのだと言う。
琴路は誰にも言わないことを条件に、若に半十郎が百姓からくすねた年貢を溜め込み、賄賂として使って昇進し、江戸に戻ろうとしていることを話した。

若は「ひでえ話」だと琴路に言うが、琴路は「夫はかわいそうな人なのです」と答える。
「かわいそう?冗談じゃねえよ。百姓の方がよっぽどかわいそうじゃねえか」と若は怒鳴る。
帰ろうとする琴路に「まさか代官のところに戻るのか」と、若は言う。

たった今、半十郎が悪事を働いていると話したばかりなのに。
「まだ旦那が好きなのか?やめろよ!そんな野郎、きっとあんたのことなんか…」。
若は琴路を止めようとした。
だが琴路は言った。

「離して!おなごの気持ちは男のそなたにはわかりません!」
その一言に若は傷つき、黙ってしまう。
琴路は屋敷へ戻って行った。
若は、琴路が出て行くのを止められなかった。

正十は先生は大変なものを霊視した、と言った。
「さっき見た死骸は…」正十が言ったところで、おばさんが「ばかだね!何を言うんだい!」と、とがめた。
思わず口を抑えた正十だが、訴えに行った者が殺されたことを察した百姓2人は、うつむいていた。

おねむが琴路が出て行ったと、教えに来た。
何故返したと先生たちに問われた若は、「終わったよ。何もかも。俺は話を聞いた。悪い代官がいて、百姓を殺したどこにでもある話さ」と言う。
先生は「あの奥方は、これからもっと苦しむぞ」と聞いた。

だが、若は「そんなこと俺の知ったことかよ!」と吐き捨てた。
何かを察したおばさんは「何かあったんだね?何があったんだ、若、お言い」と言った。
若は立ち上がって「女なんかみんなバカだ。バカヤロウだよ!」と言って走っていく。
正十は「見た?あいつ泣いてた」と、先生たちに言った。

半十郎は江戸入りに際し、便宜を図ってくれたと江戸から来た永井監物という男に賄賂を渡していた。
戻った琴路に「どこに行っていたのか」と聞く半十郎に、琴路は一つだけ約束してくれと言う。
地下牢で殺された百姓の家族の生活が立ち行くよう、ちゃんとしてやってくれと言う琴路。

一つ屋根の下にいて、気づかないはずはない。
自分は気づいていた。
なのにずっと知らない振りをしていた。
それが琴路には、苦しくて苦しくてしかたがなかったのだ。

返答を迫る琴路に半十郎は、「すまん」と謝った。
そして、今までずっと黙っていてくれたことに礼を言った。
だが自分を見込んでくれた琴路の為にも、このまま田舎の代官で終わるわけにはいかなかった。

もう2度と、このようなことはしない。
約束する。
夫の言葉を聞いた琴路は涙し、もう何もおっしゃらないでくださいと泣いた。

客として来ている永井は、これから江戸でも世話になる人物。
すぐに着替えて接待をしてくれと言われた琴路だが、地下牢で新しい遺体を見てしまう。
永井と飲んでいた半十郎が、地下牢に呼ばれる。

そこには染香になった琴路が、花を摘んでは遺体に投げていた。
振り向いた琴路は半十郎に「おや、旦那。旦那はひどい方ですねえ」と声をかける。
「あたしたち芸者も二枚舌を使いますが、そりゃ商売。心底惚れた人は別。裏切ったりはしませんのさ」。

軍内に刀を渡された半十郎は、後ろを向いた琴路を斬り捨てた。
そこに永井がやってきて、斬られている琴路を見て、これは何者かと聞いた。
乱心したので斬ったと言う半十郎だが、永井は地下牢に転がっている遺体も乱心者かと聞かれる。

咎めを受けると思った半十郎だったが、永井は後に何も残らぬようにすることだと言う。
半十郎は昨日を持って、大番組に編入されている。
仮にこの代官所が火事にあっても、何もお咎めはあるまい。
永井の言葉に、半十郎と軍内はうなづく。

正八が代官所が燃えていることを知らせに来た。
炎を見つめる若。
そして正十、先生。

くやしい…。
苦しい…。
助けてください、助けて。
炎の中から先生に死者の声が届く。

半十郎と軍内は馬で、永井は籠に乗って江戸へ向かった。
上から先生がそれを追う。
若とおばさんは、やってくる半十郎達を見て、先生を残して左右に散った。

正十と若が仕掛けておいた大石を崩し、馬を驚かせた。
驚いた永井が、駕籠の外に飛び出す。
正十が軍内の乗っていた馬に飛び乗り、従者を振り切って軍内を馬から落とす。
落ちた軍内は若に捕まった。

若に殴られ、とっさに軍内は刀を抜く。
しかし若は軍内の刀をかわし、連続でパンチする。
勢いで軍内は脇に退いた。

若は大きな石を持ち上げ、軍内の頭の上に振り下ろした。
半十郎は、馬で逃げた。
それを見た先生は全速力で旗を槍のように構え、追いかける。

後ろを振り向き、振り向き、永井は横道に逃げ込んできた。
その先には、おばさんが座り込んでいた。
「おい、このみちはどこに行く!」
永井は傲慢に尋ねる。

「一本道だよぅ」。
火を起こしながら、ちらりと永井を見たおばさんが答える。
「どこへ通じていると聞いているのだ!」

永井はのしのしと歩きながら、おばさんの前を通る。
道の向こうを見ながら、おばさんが答える。
「この道をずうっと行くと」。

永井が、おばさんの前を通り過ぎた。
おばさんが匕首を手にする。
永井の背中に思い切りぶつかるかのように、おばさんは永井を刺す。
陽を浴びたすすきが光り、穂を揺らして散る。

刺された永井は宙を見つめ、おばさんに押されて前進する。
永井の背中を押しながら、おばさんは言う。
道端のすすきが、2人が進むにつれ散っていく。

「地獄へ行くのさ!」
永井が倒れ、おばさんが起き上がる。
匕首を手に取り、おばさんが荒い息を吐く。

半十郎は、馬を走らせて逃げる。
その道の先に、旗を持った先生が立っている。
「どけーっ!」

空高く跳躍した先生は、空中で旗を投げる。
旗の柄は槍のように、半十郎に刺さる。
馬がいななき、馬の背に乗ったまま、半十郎は旗に貫かれて前のめりになる。

おばさんを先頭に若、正十が道端にいるおねむのところに歩いてくる。
「終わった?」
おねむの前においてある荷物をとると、おばさんは「一緒に来るかい?」と来た。
「ううん、あたし、もうちょっと休んでる」。

「ちょっと、先生!そっち行ったらまた山だよ!」
正十は「しょーがねえなあ」と言いながら、先生たちの後を追いかける。
「おねむ、またな」と言うと、おねむは大きなあくびをした。



琴路は、小山明子さん。
染香は、左時枝さん。
人格が入れ替わるところなんか、今までとガラリと違う演技、表情、言葉遣い。
小山さんが奥方でも芸者でも、左さんが芸者でも奥方でもピッタリなんですね、これが。

後半、全く出ない染香。
琴路は殺されてしまったので、染香がどうなったのか心配ですが、元通りになったんでしょう。
憑依した理由は染香が全く同じ生年月日だったから、ですね。

そんなバカな、ありえないという解釈はここではなしで、もう、当たり前のようにこれで話が進んでいきます。
これを受け入れないと、ドラマは見られません!
だからこれでいいんですね。

おばさんは4年間、行商をしていたんでしょうが、今回、行商はやめて、先生の祈祷の呼び込みをしてます。
若が琴路を心配して、半十郎のことについて怒る。
なのに、「男のそなたにはわかりません!」と女心で答えられ、すごく傷つきます。

傷ついたんだけど、そんなこと人に言えやしません。
こうやって若の心の傷は、増えていたんでしょう。
本当に傷ついたことって、なかなか人に言えないんですね。
だけど、おばさんには何となく、若が傷ついたことがわかる。

女心に精通しているというか、裏街道を歩いてきて、人の悲しみを見て来た正十も若の涙を見逃さない。
「あいつ、泣いてたよ」。
だから正八、じゃなかった、正十って憎めないんですね。
すごく俗っぽいところがあっても、それも含めてとっても人間らしい。

逆なのは、おねむ。
おばさんとの会話で、おばさんが「あんたまだ若いのに、どうしてそんな暮らししてるの?」と聞きます。
おねむが言います、「あたい、あくせくすんの嫌いなの」と。
「いくら大きい家作っても、いくらお金貯めてもたいしたことないでしょ」。

等身大というか、欲がないというか。
達観してます。
「それより毎日歩きたいところ歩いて、寝たい時に寝た方がよっぽど幸せ」。
「でも時には着たきりじゃなくて、綺麗な着物も着たいでしょ」と若い女性に向けた「らしい」ことを言うおばさん。

「そりゃ着たいけど、一度きたらどんどん止まらなくなっちゃうでしょ、そんな風なら着ないほうがよっぽどいい」。
言うだけ言うとおねむは、「おいしかった。ねむくなってきた」と横になる。
起きて半畳、寝て2畳、天下とっても二合半って言いますけど、それを実践してるおねむ。

先生はお酒を飲まされて、目を白黒させて倒れます。
飲む前に、いや、飲んでる時にわからなかったのか。
浪人を手を使わずに倒したり、屋敷に忍び込む時に見張りを気絶させたり、先生の術の不思議さとすごさが出ている反面、こういう弱いところがある。

おばさんの殺しのシーン、陽に光るすすきがとても綺麗です。
刺した時にそのすすきが揺れて、わずかに穂を散らす。
おばさんに押されて、道端のすすきが散っていく。

昼間の光りの中で行われる、白昼堂々の殺しならではの演出。
のどかな風景。
そんな日常にある、おばさんの殺し。

「地獄へ行くのさ!」
この一言がまた、どすが利いている、迫力。
だいぶ殺し屋の感覚を取り戻してきたようでした。


「ちょいと、落としたよ」 翔べ!必殺うらごろし 第1話

第1話、「仏像の眼から血の涙が出た」。


1人、はだしに近い足で荒地を行き、川を渡る、奇妙な凡字が大きく書かれた旗を持つ男。
その男が地蔵が並ぶ道に差し掛かったところ、行商人風のおばさんが地蔵の前に座っていた。
おばさんは男を見ると笑いかけ、「このお地蔵様、とってもいいお顔をしてらっしゃる」と言った。
祠を開けたおばさんは、仏様にお供えを、と手を差し出した。
そこへ血相を変えて、2人の村人が走ってくる。

「こらあ!誰だこの戸を開けたのは!」と怒鳴った男たちは、地蔵の納まっているお堂の戸を締め、おばさんを突き飛ばす。
行者風の男が、何を怒っていると言っても、この地蔵は村たちのものだから手を触れてはいけないと言うばかり。
男はすまないと言って、おばさんを助け起こし、2人は去っていった。

その後、男2人は「どんだ?」「暗くて見えねえ」「出してみろや」と会話し、お堂の戸を開け、奥から木でできている仏像を取り出した。
「出てるか?」
「ああ、出てる」。
「血の涙じゃ」。
仏像の目からは、真っ赤な血が流れていた。

行者の男の後をついてきたおばさんは、自分がどこで生まれたか何をしていたか、名前さえも思い出せないと言った。
綺麗さっぱり、何もかも忘れてしまっているのだ、と。
4年前、気がついたら道の真ん中に立っていたと言う。
「こんなもん、持って」。

おばさんが取り出したのは、匕首だった。
匕首を日にかざして見た男は、「これは今までに何人も人を殺している」と言った。
「それによく使い込まれている」。
「まさかぁ…」。
「来なさい」。

行者風の男を、おばさんは先生と呼んだ。
先生は懸命に呪文を唱えて、おばさんの過去を見ようとした。
川の中に入り、両手を広げた先生は、おばさんに「お前は大事なものをなくした」と言う。

「子供だ。お前には子供がいた」。
「それで?その子はどうなった?」
先生を追って、おばさんも浅瀬に入っていく。

「先生!」
しかし、その後は先生がどんなに力を込めてもわからなかった。
「すまん。俺はまだ修業が足りぬ」。
どんなことかわからないが、おばさんは4年前、子供のことで2度と思い出したくないつらい目にあった。
「それでおばさんは、それまでにあったことを全部、心の中から消してしまった」。

おばさんは子供がいたことだけは、ぼんやり思い出したが、その後はやっぱり思い出せなかった。
「思い出せない。でもこの手が覚えてる。あの子を抱いたもの。…一緒に歩いた、歩いた」。
「それでその子はどうした?死んだのか?」
「違う。いなくなった…。そうだ!私、あの子を探してるんだ!」

子供を捜さなければ!
「ありがとうございました。ありがとうございました、先生」。
おばさんは自分の目的を思い出すと、先生に深々と頭を下げた。

その頃、村は地蔵が血の涙を流したと大騒ぎになっていた。
最近、村には仙吉とお鶴の夫婦が住み着いた。
お鶴という女は素性が知れないのに、地蔵を懸命に拝んでいる。

あの地蔵は子供を泣く泣く間引いた為、祀ったものだ。
もしかして、あの夫婦がその子供の霊を呼び寄せて、仏に血の涙を流させているのではないか。
村人たちは、あの夫婦が原因だとわめきはじめた。

体の弱いお鶴を仙吉が労わっていた時、村人たちが村から出て行けと押しかけてきた。
どこから来たのか問い詰められても、2人は素性を明かさない。
あばら家を取り壊し、仙吉が袋叩きにあうのを、旅姿の青年が見ていた。

青年は村人を仙吉から引き剥がすと、次々殴り倒し、追い払った。
熱を出したお鶴を仙吉は介抱し、お鶴は捨て子だったことを助けてくれた青年に話した。
そしてお鶴が女郎だったということも。
仙吉が廓からお鶴を連れ出し、逃げてきたのだ。
だから追っ手の目を誤魔化すために、素性は誰にも言えず、隠すしかなかったのだ。

「兄さんはどう思います?」と声をかけられた青年は、ハッとする。
この世にどんなに異性がいても、ピッタリ合う相手はいない。
聞いていた青年は突然、「大人しく聞いてりゃ…いい加減にしろ」と怒って立ち去る。

その頃、三つ目の重蔵率いる香具師の一行に、正十と呼ばれる男が血の涙を流す仏像を探せと言われていた。
重蔵は見世物小屋で働く女性に食事もとらさせずに虐待し、女性は死んでしまった。
女性の遺体を置きに来た正十は、どこから売られてきたのか知らないけれど、あんな奴らにいたぶられるぐらいなら楽になってよかったな、とつぶやく。

人気のないその場所で、正十は白いものを見る。
それは巫女姿の若い女性だった。
「おいしそう…」とつぶやいた正十は、女性に飯を食わせてやった。

女性はどんどん、飯を腹に収める。
「どこ入んの、そんな」。
「お腹」。

正十は一緒にいてくれたら、ずっと面倒見ちゃうとその、おねむという女性に呼びかける。
「そんならいいけど、あたい何もしないよ。お掃除もしないし、洗濯もしない」。
眠るのが好き。
おねむは「眠ってるのが、いちばーん好き」と言う。

言うなりあくびをして眠りに入りそうになるおねむに、正十がそれでよくやっていけると呆れ、今日は何をして稼いだか聞いた。
「血の出る仏様に、御札を貼ってきた」。
おねむの言葉を聞いた正十の顔色が変わり、もう一度話を聞こうとしたが、おねむは既に眠ってしまっていた。

仙吉の小屋で、寝ていたお鶴が苦しみ出す。
すると、仏像はますます赤い血を両目から流す。
先生が仏像を見ている。
巡礼姿の女性が赤ん坊を抱いている。

先生は村人に、赤ん坊を抱いた巡礼がいて、ずいぶん前に巡礼は死んでいると告げた。
この仏像が流すのは、子供会いたさに流す血の涙だ。
それを聞いた村人たちは、怯えた。

女性がどうして死んだのか、子供がどうなったのか、村人は言わない。
「まさか殺したんじゃないだろうね」と、おばさんが口を開く。
「殺したのか」。
「ひとごろしぃ」とおばさんが叫ぶ。
「ち、違う!」

子供は水に流したのだと言う。
あの年は飢饉だった。
見ず知らずの巡礼の子供まで、面倒をみる余裕はなかった。

「その子、女の子じゃなかったかい?」
あの青年が、後ろに立っていた。
「そ、そうじゃ」。

「おめえさんたち、川に流す時にその子に、あさぎ色の守り袋を首につけてやんなかったかい?」
「つけてやっただ!」
「なぜ、知ってるんだ」。
「その子の身の上話を夕べ聞いたんだ。おめえさんたちが追い出そうとした、お鶴って女の子がその子だ」。

青年の話を聞いた村人たちは、ざわめいた。
先生はおばさんに、自分と別れた方がいいと言う。
大変なことが起きるから。
大勢の人の血が流れる…、俺と別れてここを出ろと言う先生に、どこまでも先生についていくと決めたとおばさんは言う。

自分についてきても、子供に会えるかわからないのに。
「いいえ、きっと会えます」。
「強情だなあ」。
「はい、私は強情」。

仏像が血を流す理由は、娘のお鶴を求めた巡礼の母親の涙であった。
仏像は娘のお鶴の元へ返された。
これでもう、血の涙は流さない。
理由を説明し、重蔵に仏像はもう血を流さないと報告した正十は、それよりあの行者を見世物にしようと言う。

だがもう正十に用はない、と重蔵は正十を追い出す。
用心棒の刀が、正十の飲んでいた徳利を真っ二つにする。
出て行く正十を重蔵は、良く喋る男で気に入らないと言って嘲笑した。

そして、再び娘と仏像を引き離せば血の涙を流すのではないかと相談した。
正十は道端で、熊野権現の札を売っている、おねむを見る。
眠っているおねむの横に、正十が苦笑しながら座った。

村人はお鶴たちを、村のもっといい場所に住まわせることにした。
そして、最初の刈り入れまで村で面倒を見る。
村人は、おばさんと先生を食事に招待した。

だが、先生は自然のものしか口にしないと言う。
試しに先生は、野草をせんじたものをおばさんに飲ませてみた。
おばさんは目を白黒させて、青年がいる小屋に水を求めて逃げ込んだ。
青年は先生が妙な術を知っている、自分にも教えろと言った。

「無理だ」。
「やってみなけりゃわかんねえだろ」。
「無理だ。女にはできん」。
それを聞いたおばさんがビックリして、青年を見る。
「女」。

おばさんの手を振り払いながら、青年と思われた女性・若は言う。
「女で悪かったな。これまで何だって男以上にやってきたんだぜ!」
返事をしない先生に苛立った若は、先生の荷物を蹴飛ばす。

それを見たおばさんが、「あんた、ちょっと良いから降りておいで」と言う。
「何だよ」。
ふて腐れている若を、おばさんは飛び上がって叩いた。

「お戻し元へ。男でも女でもいいよ。人にものを頼む時は、それなりに法ってものがあるんだよ」。
驚いている若に、おばさんは言う。
「何だい、それを。高いところから口を利いたかと思うと、今度は人のもの蹴飛ばしたりして!」

おばさんは無理やり若を座らせると、「私が母親だったら二つ三つぶん殴ってもすまないよ!元のところにおかけ!」と怒った。
青年はしぶしぶ、麻の袋を元の場所にかけ、「悪かったよ」と言った。
座敷に座っている若におばさんは声をかけた。

「一人旅かい」。
「ああ」。
おばさんは、若の前に座り、優しく言った。
「どこも行くあてがないの?じゃ一緒においで。後で私が先生に頼んであげる。どうせ旅するなら楽しい方がいいよ」。

おばさんをたしなめる先生に、おばさんは、あの先生の技も相当いい加減だから気にしないでいいと言った。
いい加減なことをいつしたと怒る先生に、夕べ、これから大変なことが起こる、血がたくさん流れると言ったのに、仏の血が止まったという。
だが、その頃、血の流れる仏像を持った仙吉とお鶴の夫婦は重蔵たちに襲われ、仙吉もお鶴もあっさりと刺し殺されてしまった。

重蔵たちは、仏像を奪って出て行く。
目を見開いて、恨みの形相で死んでいるお鶴。
遠くからお鶴と仙吉が運ばれていくのを見たおばさんは、「死んでも死に切れんだろうね」と言った。
見送る若の目に、涙が光っていた。

夜、あばら家で先生が若が泣いていたわけを聞いた。
話したくなければ話さなくていい、と言う先生に若は話し始めた。
あの2人があんなに惚れあっていたので、お鶴がうらやましくなってつい、ひどいことを言ってしまった。
優しい言葉でも、かけてやればよかった。

そう思ったら、涙が出てしまったと若は言う。
おばさんに男に優しくされたことはないのかい?と聞かれ、若は「あるもんか」と答えた。
ただ背が高いというだけで子供の時から、半鐘娘、竹馬娘、見世物女とからかわれ続け、男は尽くせば尽くすほど逃げてしまった。
「だからこうなりゃいっそのこと、負けるもんかと思って」。

若の身の上を聞いた先生は、すまなかったなと謝る。
しかし、若は「いいんだ」と言った。
それより、草の根を分けてもあの2人の恨みを晴らすと言う。

「誰だ」。
気配に叫んだ若の前に、おねむが現れた。
「正十さんが、大事な話があるから、ここで待っててくれって」。
「正十?」
それだけ言うと、おねむは眠ってしまった。

正十は村人にあの仏を取り返してやる、と持ちかけていた。
ちゃんと供養しないと孫子の代まで祟ると正十は言う。
頼む村人に「賽銭を出せ」と言って、正十は話をまとめてきた。

「あー、忙しい」。
先生たちのところに走ってきた正十は、お鶴たちを殺したのは江戸の香具師で、三つ目の重蔵だと教えた。
「ぜひとも、先生の念力を持ちまして、あの若い2人の恨みを晴らしてもらいたく、村人一同を代表して私がお願いにあがりました」。

こちらに背を向けている先生に、正十が呼びかけた時、おばさんが正十の顎を自分に向けた。
正十の顔をまじまじと見つめたおばさんは、「この人、江戸で殺しの斡旋業してた人だ」と言った。
「い?」
正十が固まる。

青年が正十を捕まえて、自分たちをただで使おうとしたと殴り飛ばし、その重蔵とか言う奴の話も嘘なんだろうと責めた。
「嘘じゃねえよ~」。
部屋の隅に転がった正十は、おばさんに近づいて言った。

「おばさんよう、どうして俺のこと知ってんの。気味わりいなあ」。
「私だって気味悪いよ…。突然、今、それだけ思い出したんだ。どうなってんだろう」。
先生は立ち上がる。

夜が明ける青い闇の中、先生は岩山を登っていく。
おばさんはずり落ちながら、後をついていく。
若も走ってついていく。

頂上で旗を突き刺して、上ってくる太陽に向かって先生は手を合わせる。
お鶴の苦しそうな声が聞こえてくる。
「助けてください。恨みを、恨みを晴らしてください」。
先生は立ち上がる。

歩いてきた重蔵たちが、岩山に差し掛かる。
だが先生は重蔵たちの手に仏像があるのを見て、「このままでは仏像に傷がつく」と躊躇する。
その重蔵たちの前に、おばさんが出て行く。
「おばさん!」
先生と若が見守る。

「ちょいと、落としたよ」。
おばさんが声をかけると、重蔵の手下の、最後を歩いていた1人が立ち止まる。
懐に手をやり、「何もおとさねえよ」と言う。
おばさんは、地面を見ている。

「こっちきてごらん」。
「おら、何を落としたって言うんだよ」。
おばさんは、何かを地面の上に見ているようだった。
「これから落とすんだよ」。

「だから何を!」
おばさんは、布を手にしている。
それはあの、匕首を包んでいる布だった。
「おまえさんの」。

おばさんが顔を上げた。
すばやく相手に近寄ったと同時に、相手に匕首が刺さる。
手下の目が驚愕に見開く。
「命だよ!」
おばさんはそう言うと、匕首を抜く。

それを合図にしたように、先生と若が動く。
2人は岩山を降りていく。
先生が走る。
旗を構える。

驚いた重蔵たちが逃げる。
先生がすごい勢いで、岩山を駆け下りる。
重蔵たち3人は振り向いて立ち止まり、手下が匕首を手に、先生を迎え撃とうとする。
その瞬間、先生はジャンプした。

用心棒と手下が上空の先生を目で追っている間、先生は空中で旗を投げた。
旗は飛んで行き、鋭い木が重蔵に刺さった。
立ったまま、悲鳴をあげて重蔵は旗に釘付けになる。

用心棒が刀を手に、先生に襲い掛かってくる。
先生は手刀で用心棒の刀の刃を折った。
そして用心棒を、空高く投げる。
悲鳴をあげながら用心棒は、頭から岩山に激突した。

若が走ってくる。
手下を蹴り飛ばし、匕首を手から振り落とす。
投げ飛ばし、若は手下の襟首をつかむと思い切り張り飛ばした。
手下の頭がくるりと、回転して息の根が止まる。

先生が重蔵から旗を抜く。
おばさんが小走りに走ってくる。
匕首を手にしたおばさんに、「おばさん。おばさん、ひょっとして4年前、殺し屋だったかもしれないよ」と言った。

若が、こちらを見ている。
「あたしが?」
正十が走ってくる。

村人から集めた賽銭を先生に差し出すが、先生は受け取らない。
すると、正十はおばさんに分け前を渡し、若にも渡す。
「俺は今んとこ、いらねえや。預かっておいて」と若が言うとおばさんは「あんたもお寄越し」と正十の分も取った。
「無駄遣いしそうな顔してる」。

だてにこの道で10年食ってるわけじゃないと正十は自分に任して、と言うが、先生は道なき道の方を歩いていく。
そっちに道はない、こっち!と言う正十だが、先生について、若もおばさんも歩いていく。
「なんだか扱いにくい玉、つかんじゃったみたい!」

そう言いながら、正十は3人の後をついていった。
おばさんが苦労しながら、先生の後をついて、山を登っていく。
道端ではおねむがあくびをしている。



「うらごろし」一行の出会いです。
いや~、縁は異なもの味なもの、の出会いですね。
おばさんが全くの記憶喪失で、先生に匕首を見せる。
この匕首はたくさん血を吸っていると先生が言う。
その辺りがなんとも言えず、不気味というか迫力。

その後、正十登場。
もう、正八にしか見えない。
ああ、これは正八だと思う。

江戸を出て、こんな風に暮らしてるのかと思います。
でも基本的に優しい正八十だから、きっとこんな残酷な香具師の下で働いてるって不本意なんだろうな~と。
彼が江戸を出た後の正八だとして、彼の空しい生活が垣間見えます。
主水たちといた時が懐かしいだろう、と。

そこにやっぱり、こういう縁なのか、先生たちとの出会い。
ここでまた、おばさんが「この人、江戸で殺しの斡旋業してた人だ」。
ビックリした正八、何で俺のこと知ってるの、気味わりいなあと言う。
ああ、やっぱり「新・仕置人」「商売人」の正八なのか、と感慨深い。

正八が名前を変えてるのか、と。
同時に、江戸の殺し屋組織の間では正八ってやっぱりちょっと知られてたのかなと思いました。
しかし、どこから見てもこの、普通のおばさんがそれをどうして知ってる?
匕首といい、この人やっぱり普通ではないみたい。

そしてやってくる、おばさんの手馴れた殺し。
うひゃ~、これは怖い。
これは防御不可能。
手下だって完全にうっとおしそうだし、だけどあっさり殺されちゃったし。

しかし、市原悦子さんって優しい声出すもんですね。
若をピシリと怒る時のおっかさんっぽさ、そして怒った後は優しく声をかけてくれる。
これじゃ、虐げられてきた若はおばさんを母親のように思っちゃうだろうなあ…と。

あったかそうなんです。
だからこそ、殺しの時とのギャップがすごい。
市原さんの演技力のすごいこと。

基本的に不可能と思われる殺し技を考えてきた「必殺」プロデューサーの山内さんは、この市原さんを見て、完全にまずいと思ったそうです。
実現不可能に思わせようとしての市原さんの起用なのに、リアルすぎる…と。

若は和田アキ子さん。
見ているこちらは女性だってわかってるんだけど、格好といい、誰も男扱いしてるのが…悲しいというか。
助けてくれたのに「にいさん」って呼ばれて、それで仲の良い2人を見たら荒れるのもわかる。

でもきっと2人には、わからない。
悪気がないから、ああやって怒るしかない。
その後、先生に告白している若を見て、この人、本当は誰よりも女性らしい心を持っているんだろうに、と思いました。
ずーっとずーっと、傷つけられてきたであろう若。

殺しの手段は殴る、蹴る、と和田さんというキャスティングを笑いにとったとも思える手段。
だけど、中村敦夫さんは和田さんのことを、身長こそ当時、高いと思ったけど、言われているようにゴツイ女性じゃなかったと語ってました。

「ゴッドねえちゃん」なんて言われていたけど、手足が長く、女性らしい華奢なところがあった、と言ってます。
和田さんは10代の頃から芸能界にいた自分には世間一般の常識や知識が欠けているのではないかと、時間があれば本を読んで勉強していたらしいです。
それでこの撮影、男性としてのアクションを求められている和田さんは楽々…どころか、全身傷だらけになりながらこなしていたとか。

本当に、若みたいなところがあったんですね。
上手いところに目をつけたキャスティングだなあと思います。

正八、じゃない、正十こと、火野さん。
こういう役なら、火野さんの右に出るものはいない、って感じ。
「無駄遣いしそうな顔してる」っておばさんに言われてるのが、笑いました。

おねむは「商売人」の妙心尼とは別人なんですけど、正八、じゃない、正十なんですけど、彼の好みの顔してるのかな~。
この後、たくましい加代ですね、鮎川さんは。
まだ「鮎川いずみ」ではなく、「鮎川いづみ」表記です。

重蔵は、山本麟一さん。
素顔は人の良さそうなおじさまなんですけどね、こういう役では迫力あります。

そうそう、中村さんは足に布を巻きつけただけで、砂利ばかりの砂山を駆け下りてます。
あれ大丈夫…?と思ってしまいました。
実際、中村さんは走るのが速かったそうで、紋次郎の時も追いかけるのに俳優さんは苦労したそうですから。

動き、すばやいです。
先生は中村さんしかないですね、でも過去には「必殺」で剣之介だったりしたし。
やっぱり、中村さんは型破りでおもしろいです。
こうして、先生の周りにどこかに傷を持った人たちが集まり、旅を続けていくことになったのでした。


プロフィール

ちゃーすけ

Author:ちゃーすけ
癖の強い俳優さんや悪役さん大好き。
俳優さん、ドラマ、映画、CMその他、懐かしいもの、気になるものについて、長々と語っております。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
ブロとも一覧

本も映画も文具も、いいものはいい!

LEVEL1 FX-BLOG
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード