こたつねこカフェ

癖のある俳優さん、悪役さんが大好きです。時代劇、ドラマ、映画、俳優さんのことを好きに書いています。
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桜吹雪の下 あんたは裏切った、嘘をついた

桜が咲きましたね。
必殺必中仕事屋稼業、第19話、「生かして勝負」。
桜が印象的な時代劇の1つ。



読経が響く中、階段を上っていくのは仕事屋の元締め・おせい。
廊下に出た女性が、座り込む。
檜屋の伝蔵の、百か日の法要だった。
廊下でしゃがみこんでしまった女性は、伝蔵の妻のおとよだった。

「気の休まる日がないんでしょうね」。
「あ、お姉さん」。
おとよは、おせいを「お姉さん」と呼んだ。

「檜屋さんがなくなってから、ずっと…。でもあんた、えらい」。
「商売だってちゃんと続けているし、こうやって立派に百か日の法要も…」。
「さっきね、お経を聞きながら、ああ、うちの人が死んでから百日経ったんだな。これでやっと、喪が明けたんだなと思ったら人並みに悲しくなってきて」。
「でもこれからはもっと、大変ね。材木問屋・檜屋の看板を背負っていかなくてはいけないんだから」。

「芸者の頃は楽だったわ。何かあれば、お姉さんに泣きつけば良かったんですもの」。
「あの頃はかわいかったわね、あんたも」。
「でもこれからも力になってね」。
おとよがおせいを見上げる目つきは、甘えるような上目遣いだった。

その頃、珍しく半兵衛は博打で勝っていた。
もう、ひきあげるかな~と半兵衛が言った時、奉行所の手入れが入った。
捕まった半兵衛は、百叩きにあった。

隣で百叩きになっていた老人が、いた。
老人は「わしは桧屋の主人だ。こんな目にあういわれはない!」
その老人は、叫んでいた。

お春は店を切り回す傍ら、半兵衛を介抱していた。
「まったく博打で捕まって百叩きにあうなんて」とお春は愚痴った。
お春は客に渡さないで、蕎麦を半兵衛に持っていった。
「重湯にしてくれよ~、重湯に。体中が熱持ってんだから」。

「何言ってんの、食べられるでしょ」。
「そばにいてくれよ、痛えんだからさ」。
甘える半兵衛にお春は「だいじょぶよ、あんたはちょっとやそっとでは死なないから!」と笑った。
半兵衛はお春が去った座敷で、「食欲はあるんだよな」と言いながら、蕎麦をすすった。

材木問屋、桧屋。
雨が降っている。
その廊下から見える庭に、雨の中の桜が美しかった。

おとよが廊下を歩いてきた。
「おとよ!」
半兵衛と一緒に、百叩きにあっていた老人だった。

「ぶちのめされてきたんだぞ!」
老人は叫びながら、おとよににじり寄った。
「ひいい!」
おとよが顔を背ける。

「死者を語り、悪ふざけ、不届き至極!ってな!」
「どうして俺を訴えたんだ。一体俺を…」。
「あんた一体誰なんですの!」

おとよが叫ぶ。
「何だってこんな、たちの悪いいたずらを!」
「おとよ!」
「それは顔かたちは変わったかも知れん。ケガと火傷のせいでな。だがな、お前ならわかるはずだ」。

「亭主の伝蔵だ!」
老人が顔にかぶせていた、手拭いを取る。
顔には火傷の跡があった。

「きゃああ。やめてください!」
おとよは悲鳴を上げた。
顔を背け、目を閉じる。

「怖ろしくはないんですか、忌んだ人に成りすますなんて」。
「わしの顔を見てくれ!」
「誰かあ!」

おとよの叫びで、数人の店の者が飛んでくる。
「この野郎」と使用人が伝蔵をつまみだそうとする。
「おとよ!」
「わしがわからんのか、わしは主人の伝蔵だ!」

雨の中、伝蔵は乱暴に店から放り出される。
それでも中に入ろうとする伝蔵を、店の者が手荒に扱う。
見ていた政吉が「おいおいおい、ちょっと待ってくれよ。どんな事情があるかしらねえけど、相手はけが人じゃないか」と止める。

「こっちは迷惑してるんだ!」
雨の中、放り出された伝蔵に政吉が「大丈夫か」と駆け寄る。
だが伝蔵は「ほっといてくれ」と言うと、フラフラと歩き出す。

桧屋では番頭の忠七がおとよに「もう一度お上にお願いして、懲らしめてもらいましょうか」と言った。
「それはダメ」。
そんなことを何度もやられたら、奉行所に不審と思われる。
桧屋の看板に傷がつく。

「大丈夫。何とかします」。
忠七がおそるおそる、言う。
「つかぬ事をうかがいしますが…。なくなられた旦那様に双子の兄弟がいたという話をお聞きになったことは」。
「いいえ、なぜ」。

「実はあの男、今日、ほんの一瞬ですが…。なくなられた旦那様にそっくりだったの」。
おとよは、ハッとする。
「忠七、あんな男の言うことに惑わされないで!」

「いえ、私はただ…」。
おとよは、振り向いて嫣然と笑う。
歩いていき、廊下への障子を閉めた。

「忠七」。
おとよが、忠七の手をとる。
「あたし、お前だけが頼りなんだよ」。

「おかみさん!」
忠七が抱きつく。
「いけないよ、忠七」。
だが2人はそのまま、抱き合って倒れた。

「お姉さん」。
「あら」。
おせいの嶋屋に、おとよがやってきた。
「今そこで、こんな大きな犬に吠え付かれたの」。

おとよの声が弾んでいた。
犬は、利助が追い払ってくれた。
おせいとおとよは、楽しそうに笑いながら、嶋屋の奥に入った。
見送った利助は思わず、「後家の花、二厘か。もったいねえなあ~」と言った。

「それで?今日は何?わざわざ甘えに来たのね」。
「それじゃいけないかしら」。
「お姉さん、助けてほしいの」。
「ほら。はいはい、私でお役に立つかしら。難しいことじゃないといいけど」。

おせいの声は、そう言いながら楽しそうだった。
「お役人じゃ埒が明かないようなことでも、お姉さんなら何とかかたをつけてしてくれるでしょ」。
おとよの言葉に、おせいの笑いが消えた。

「仕事屋の話は、私だって知ってます」。
「そう、でも、おとよちゃん。その方はよくよくでないと」。
「私、もうどうしたらいいのか。お願い、助けて」。
おとよはそう言った。

賭場に来た半兵衛と政吉。
半兵衛が「こないだはえらい目にあっちゃった」と言う。
そこに立花屋に、すがりついている老人がいた。

「わしゃ伝蔵だよ、伝蔵!」と、老人は言っていた。
「わしゃもう、あんただけが頼りなんだ」。
だが立花屋は、老人を邪険に突き飛ばした。

それを見た半兵衛が「あのオヤジ、まだやってんのかなあ」と言った。
「何だよ、知ってんのか」。
政吉の問いに半兵衛は「知ってるってほどのもんでも…」と口ごもった。
結局、老人は、追い出されてしまった。

さあ、博打…と半兵衛と政吉が座る。
その時、利助が半兵衛の肩を叩く。
「お2人ともお楽しみのところ、仕事ですよ」。
半兵衛も政吉も、嫌な顔をする。

おせいの依頼は、次のようなことだった。
自分は死んだ桧屋の主人だと、名乗っている老人がいる。
このまま放っておけば、店の名前に傷がつく。
それに、こんなことで再三、役人を呼ぶわけにも行かない。

政吉が「まさか。桧屋伝蔵が、墓場から這い出てきたjんじゃねえだろうな」と言った。
利助が、「バカなこと言わないでください!」とキッパリ言う。
「夜に、おしっこにいけなくなるじゃありませんか!」

半兵衛も政吉も、無言になる。
先に口を開いたのは半兵衛だった。
「で、あたしたちにどうしろと」。
「これ以上、仏様になった方の名前を名乗らせないようにしてもらいます」。

「やり方は任せます。なるべく早く始末をつけてください」。
しかし半兵衛は言う。
「おかみさん、いくら昔の朋輩の頼みと言っても、ですよ」。

ここまで言うと半兵衛は、言葉を選んだ。
「いやまあ…」。
良いにくそうに、だが半兵衛は言う。
「その、おとよさんという人を信用するとして」。

「あたしの見たところ、あの爺さん、せいぜい、桧屋に遺恨を抱いている人に踊らされているって感じじですけどねえ」。
おせいがむっとする。
「半兵衛さん」。

「いや、そんな人簡単に、始末しろって言われても」。
「おとよちゃんとは芸者時代からの、深い付き合い。私に嘘をつくわけがありません!」
おせいの言葉は、半兵衛に何がわかるか、と言いたそうだった。

「元締めの私が、間違いないと思って決めたことです」。
おせいは明らかに怒っていた。
「それをとやかく言われたのでは、わたくしの立つ瀬がありません!」
「もう結構です。頼みません!」

割って入ったのは、政吉だった。
「いやいや、おかみさん」。
「俺は…」。
そして半兵衛には「半兵衛さん、金はいらねえのか」。

「いや、金はいる」。
半兵衛は言った。
「やり方は考えます。やり方を」。

伝蔵は桧屋に今日も来て、頼みなのはあんただけなんだよと、今度は職人頭の徳平にすがっていた。
「墓に埋められているのは、違う人間だ!」
職人たちに迷惑がられている伝蔵を、政吉と半兵衛が連れて行く。

「一緒に百叩きにあった仲かじゃねえか、つきあえよ」。
「断るよ、わしゃ間違って百叩きにあったんだ。おまえらみたいな悪党じゃねえんだよ!」
すると政吉が「いつまでもこんなことしていると、本当の悪党にされちまうぞ」と言った。
伝蔵は政吉の顔を見て、「お前、誰に頼まれた。おとよか。番頭の忠七か」と言う。

3人は、桧屋の墓の前にやってくる。
伝蔵が、自分の墓をなでる。
4ヶ月前、伝蔵は手代の忠次と一緒に秩父に材木の買い付けに行った。
そして、山小屋に泊まった。

夜中にふと目が覚めると、あたり一面、火の海だった。
伝蔵は忠次、忠次と手代の名を呼んだ。
返事はなかった。

ふた月ぐらいの間、おそらく頭を打ったせいだろう。
伝蔵は、ぼんにりしていた。
「へえ、頭打ったの」と半兵衛が聞いた。
「それで自分が誰だか、わからなくなったの」と、政吉も聞いた。

だが伝蔵は思い出した。
自分が、桧屋の伝蔵だということを。
伝蔵は、旅はまだ無理だという医者を振り切って。江戸に帰ってきた。

「だが誰もわしをわしだと認めてくれん。手代の忠次耳と一緒に火事で焼け死んだと言う。自分を知らないと言う」。
「これがわしの墓だ」。
伝蔵が、震える手で自分の名が書かれた墓をなでる。

「これが!」
「わしゃ、わからん。わからん。わからん」。
伝蔵は泣いた。

その夜、おとよは料亭に言った。お
「遅くなりまして」。
艶っぽい声でそう言うと、おとよは座敷に入った。

先に作事奉行の大山栄之進が来ていた。
「待たせるのも手管のうちか」。
おとよは笑って、「この荷が重くて」と言うと、ずっしりと金を出した。
「作事奉行、大山さまのこの月の取り分です」。

「お前もしゃあしゃあとしているではないか」。
「たっぷり代償は払っております」。
「伝蔵のほうは、どうだった」。
「はい、確かな筋に頼みましたから、もう」。

「まったく手間の掛かることだ。お前の亭主だった男は!」
「お前と組む手があったから、良かったようなものの」。
「秩父の山奥で火達磨になり、崖から落ちながらも戻ってきた。せっかく身代わりの死体を用意したのに、危うく水の泡だ」。

おとよが不安そうに「まるで別人だったから追い出せたようなものの…」と言った。
「なあに、その時はその時で手はある」。
大山はおとよを抱き寄せる。

やがて、大山が帰って行く。
おとよは、座敷の布団に横たわっていた。
背後のふすまが開く。

「忘れ物ですか」。
「そういうことだったのか!」
おとよがギョッとして起き上がる。

「売女!」
ふすまを開けたのは、伝蔵だった。
「大山なんかとつるんで!恩知らず!泥沼稼業から救い出して、女房にまでしてやったこのわしによくも!」

「もう聞き飽きたよ、そんな言い草は!」
おとよの声は、鋭かった。
伝蔵も言う。

「あん時の涙は空涙だったのか!。一生わしの恩は忘れないと言った、あの言葉は!」
「あの頃の私は、バカだったのさ!」
おとよの言葉は、止まらない。

「芸者から女房になったのがうれしくて、人並みに幸せになれると思って、ほんとにバカだよ!芸者の時よりもきついとは知らずにさ」。
「何だと!」
「あんた、私に一文だって自由にさせてくれたことがあったかい?!」

「なまじ大店の女房と言うんで、周りにはいつも喉から手が出そうなものが、ちらちらしているというのに、 あたしゃただ、かついでていなきゃいけなかったんだよ!」
「亭主のあんたは、腐るほどお金があるというのに!地獄だよ!」
「それで、お前はわしを殺す気になったのか」。

「あんた、私を先に殺そうとしたんだ」。
「たわけたことを!どうしてわしがお前を」。
「それもいかん、これもするな、あれもするな。年中、家に押し込めて、あんた、亭主らしいこと一度もしてくれたことあったかい!?」
「ろくに抱いてもくれなかったじゃないか!あたしゃ、生身の女なんだよ。まるで蛇の生殺しじゃないか!」。

「あんたは楽しんでたんだ。真綿で首を締め上げて、あたしが苦しんでたの楽しんでたんだ!」
「そ、そんな風にこのわしが…」。
伝蔵は絶句した。

「いや、わ、悪いことは改める。大山さまのことも目をつぶる。だからもうわしを、桧屋へ戻してくれ!頼む!」
「ごめんだね!」
「おとよ!」

「今さら、やり直しなんかきくもんか!」
「おとよ!」
おとよが、匕首をかざす。

逃げる伝蔵を追い詰め、喉元に匕首の刃を突きつける。
「そんな風にわしが!」
「ジタバタするのは、およし!あんたの言うことなんか、誰も信じしやしないんだから!」
「ああ」。

「これ以上うるさくすると、今度こそ、あんたを…」。
「出てって!2度と私の前に現れないで!」
「出てって!」
伝蔵は転がるように、座敷を出て行く。

翌日。
おせいとおとよが会っていた。
「おとよちゃん」。
おせいが言う。

「私に、偽りや隠し事はないでしょうね」。
「どうしてそんな」。
「この仕事で裏切りは、命取りなの」。

「話したでしょう」。
「私がお姉さんに、嘘なんかつけると思って??下地の頃から、本当の妹みたいにかわいがってくれている人、どうして」。
「そう…、だったらいいのよ」。

「でもなぜ、なぜ今になって急に」。
「調べてみるとね、あんたの迷惑がってる人、言ってることがまんざら、でたらめだと思えなくてね」。
「あんたの内々のことも、いろいろ知ってるし」。

「そうなの」。
おとよは平然としている。
「どうやって調べたのか。そういうことを並べ立てて、わしが主人だって言いふらすでしょ。だから手に負え名うて、お姉さんに」。
「そう。じゃ、安心して待ってて。あんたを信用してきっと、ケリをつけてあげる」。

「それはそうと、おとよちゃん、あんたこのごろ、お遊びが過ぎるんじゃない」。
「ええ?」
「夜、出かけることが多いんでしょ」。

おせいは、大山のことを言っているのだった。
気づいたおとよは、客をもてなさなければいけないこともあると誤魔化した。
「旦那様の喪が明けて、まだ人が浅いんじゃない」。

すると突然、おとよはうずくまった。
「お姉さん。あたし。自分の体が憎らしい」。
「魔物よ!魔物が棲み付いているのよ。芸者をしている頃から、いつの間にかこんな体に…」」。

おせいはおとよを介抱しながら、目をそむけた。
「よしましょう。ただね。桧屋のような大店を取り仕切っていくにはあんた、もう少し身を慎まなきゃ」。
「さあ、もうお帰りなさい」。

おとよが遠ざかっていくのを、おせいは見送っていた。
その目に、疑惑が満ちてくる。
キッと、前を見据え、おせいは立ち上がった。
おとよはおとよで、おせいの方を密かに振り返って見ていた。

神社の境内で、おせいが佇んでいる。
その目は何かを決心したようだった。
半兵衛、政吉、利助がやってくる。

「仕事はちょっぴり、回り道してください。桧屋の様子をもう少し探ってもらいます」。
おせいの言葉に半兵衛が「あの人が信用ならねえんですか」と聞いた。
「私は、おとよちゃんを信じてやりたい」。

おせいの声は、切迫していた。
「でも過ちは犯したくありません。人一人の、運命が掛かっているんですから」。
「おかみさんもつらいところだ」。
半兵衛と政吉は、桧屋伝蔵を居酒屋で見かけた。

桧屋に戻ったおとよに、番頭の忠七が話をする。
「あの男のことはもう、心配ないって言ったでしょ。この辺りをうろついてることは、わかっているじゃないか」。
しかし忠七は言った。
「だんだん妙な気分になってきまして。ひょっとしたらあの人、旦那様じゃないか」。

「何を言い出すんだい。旦那様は私がちゃんと見届けて、埋葬したんだよ」。
「間違え、ってこともありますし」。
「忠七!」
「こんなこと申し上げちゃ何ですが、あの亡骸は…、焼け爛れていて」。

「焼けていても、旦那様の印は、いくつも見つけましたよ。歯の形、数、脇の下のあざ。左足の小指が欠けてているところまで、私ははっきり、確かめたんだよ」。
しかし、忠七は言う。
「今夜、居酒屋であの人が話したのは、旦那様でないとわからないような…」。

「どこかで盗み聞きしたんだよ」。
「おかみさん。私はもう何だか怖ろしくて…もしあの人が…」。
「忠七、どうしたんだよ。桧屋は今が一番大事な時じゃないか。お前がそんなことじゃ、私ゃ、一体誰に…」。
「おかみさん!」

「わかりました。もう余計なご心配は、かけません、ですから、おかみさんもどうか、大山さまとあんまりしげしげとお会いになるのは…」。
おとよは、はっとした。
しかしすぐに「忠七、私が好きで、大山さまに抱かれていると思っているの?あのお方のご機嫌を損じたら、桧屋の店はどうなるかお前だって!」

そして忠七に「私が好きなのは、お前だけなんだよ」と言った。
「いずれは桧屋の主になってほしいんだよ」。
「わかっておくれ、私が好きなのは、お前だけなんだ」。

「おかみさん!」
忠七は思わず、おとよを抱きしめる。
その途端、突然、背後から忠七は刺される。

おとよが背中に回した匕首で、忠七を一突きにしたのだ。
「うああああ」。
おとよが忠七の手を、振り解く。
そしておとよは、匕首を振り回した。

背後から大山が現れ、忠七を抑える。
おとよの匕首を持った手を取り、忠七を刺した。
忠七が倒れると「思い切ったことを」と言った。
「危ない者は芽のうちに積むと、おっしゃったでしょう。この男の代わりは、いくらでもおりますか」。

荒い息を吐いていたおとよだが、突然、大山にむかって抱きつく。
「大山さま、抱いてください!」
「おとよ。怖い女だ」。
そう言う大山の声には、笑いが含まれていた。

政吉がすべて、床下で聞いていた。
そして、深い息を吐いた。
居酒屋で伝蔵を見た半兵衛と政吉が声をかけると伝蔵は「私はもう、伝蔵じゃありません」と言った。
「名無しの権兵衛になりました」。

その夜、半兵衛は伝蔵を賭場に誘った。
伝蔵は、ついていた。
「何もかも諦めるとバカづきするんだ。私は賭け事なんて、数えるほどしか、やったことがないのに」。

さいころが転がった。
その時、廊下に政吉が現れた。
半兵衛が立ち上がり、政吉の方へ行く。

伝蔵が半兵衛の顔を見る。
「半、半」と半兵衛が指示する。。
「半だ」。

「できました、勝負!」
「勝った勝った勝った!」
伝蔵はまたしても勝った。

半兵衛と政吉は、伝蔵に居酒屋でおごってもらっていた。
伝蔵は意外なことを口にした。
「わしはもう、おとよの前には顔を出しません」。
「へえ、そりゃどうしてまた」。

「せっかく墓もあることだし、桧屋の伝蔵の名前はそこにうずめてしまおうってわけですよ」。
政吉は「ひでえな、こりゃあ。一天地六のどんでん返しだ」とうなった。
「いやね、からくりがわかってみると、作事奉行の大山さまが黒幕だったんだ」。

「わしはすっかり、思い出したんだ。おとよの奴も大山さまに脅されて、仕方なく従ってるんでしょ」。
「今さらわしがしゃしゃり出て、これ以上、おとよを苦しめちゃかわいそう」。
「言われて見ると、わしゃ、鬼のような亭主だった…」。

伝蔵の目が遠くを見ている。
「で、あんた、このまま泣き寝入りするのか」。
「よお、腹立たねえのか、こんな目にあわされて」。
「本当の相手は、天下の作事奉行様だ。生きながら死人にされてしまったわしに、何ができる?」

その頃、桧屋では大山がおとよに「良い手を思いついたぞ!厄介ごとを、いっぺんに片付ける方法をな」と言っていた。
「お前がやるんだ」。
おとよは、不思議そうに大山を見ていた。

居酒屋で飲んだ半兵衛と政吉が、伝蔵と別れる。
「大丈夫か」。
「気をつけてな」。
「気をつけていけよ!」

半兵衛と政吉は、何度も言って、伝蔵を見送る。
「仕事は終わりましたね。だけど妙な幕だったね」と、政吉が言った。
「奴さんが本物の伝蔵で、悪はあの女房だってわかったのにな。しかしまあ、本人が諦めたんだからそれでいいか」。

政吉が、ポツリと言った。
「だけどな。あのおとよって女は、おかみさんだましたんだよな」。
半兵衛も言う。

「番頭も殺してる」。
「どういう風にしましょうか」。
だが半兵衛は「明日、ね。今夜良く寝て明日考えましょ」と言った。。

伝蔵が神社で、水を飲もうとしていた。
「あんた」。
伝蔵に、声をかけたのはおとよだった。

桜の花が綺麗だった。
その中で、おとよがニッコリ笑った。
「おとよ」。
おとよが、伝蔵に近づいてくる。

坊主そばに帰ってきた半兵衛は、目だけを残して手拭いで頭を覆った。
そしてお春に「お春。俺がこうやってよ、夜、こうやって、ただいまって帰ってきたらわかる?」と聞いた。
「何やってんの」。
明日の仕度をしながら、お春は呆れる。

「目え、だけ、目だけ」。
「わかるわよ」。
「何でわかるんだよ?」

「匂いでわかるの」。
半兵衛が自分の袖やらの匂いをかぐ。
「バカなことやってないで」。

お春にうながされて半兵衛は、お春の首筋をかみそりで整えてやる。
突如、素っ頓狂な声を出して「あれえ。こんなとこにつむじがあるよ」と驚いた。
「そうよ、知らなかったの」。

「知らなかった。前からあったか」。
「あんたそういう風に薄情なのよねえ」。
お春が呆れた時、利助が呼びに来る。

「俺、ちょいとぶらっと出かけてくるわ」。
半兵衛の言葉にお春が「もう帰ってこなくて良いわ」と言った。
「え?」
「こっちは頼りにしてないんだから」。

翌日。
遺体が揚がった。
半兵衛が野次馬で見に行こうと走る。

すると、走って来る源五郎と一緒になった。
「あらっ、半ちゃんじゃない」。
「ああ、源ちゃん」。

「そんなに急いでどこ行くのさ」。
「うん、ほら、あっちの方で、ひとだかりがしてるだろ。あれ」。
「あたしとおんなじよ!」

「あれ、お前の仕事か。じゃ、俺帰る」。
踵を返した半兵衛に源五郎が「見てよ、あたしのいいところ」と言った。
「やだよ、仕事じゃ」。

「あたしの仕事ぶり、見てて!」
「いや」。
「いいじゃない!さ、行こ。行こ、早く!」

「これ、どいたどいた!」
打って変わって、源五郎の声にはドスが効いている。
「見ててね」。
半兵衛を振り返る源五郎の声は、変わっている。

「うん」。
遺体を見た、半兵衛の顔色が変わる。
それは伝蔵と、忠七だった。
2人は互いに、匕首を持っていた。

おとよが伝蔵を指した。
大山がやってくる。
番頭の遺体を、引きずってくる。
そして2人の手に、匕首を持たせた。

「おとよと大山が、グルで仕組んだんだ」。
「忠七を殺った後で、仕組んだんだな」。
半兵衛と政吉は、そう言う。

おせいが2人を呼び出した。
2人の前に、仕事料を置く。
「これは、わたくしが改めてお二人に依頼する仕事料。2人で大山栄之進を始末してください」。

利助が教える。
大山は、秩父の御用林に見回りに出かけた。
幕府の御用林の伐採で、大山とおとよは手を組んでいたのだ。
「今夜は熊谷宿泊まりですね」。

半兵衛と政吉は、熊谷まで急ぐ。
おせいが無言で、袖から出した得物を見る。
力を入れて引っ張ると、鞘からは鋭い針が出る。

熊谷は、ひどい雨だった。
笠をかぶり、半兵衛と政吉が大山が載っている駕籠を見ている。
歩きながら半兵衛が、かみそりを手拭いで磨く。

向こうから駕籠がやってくる。
2人と駕籠の距離が近づく。
半兵衛と政吉が、籠を真ん中に右と左に分かれる。

駕籠の中の大山に向かって、政吉の懐剣が刺さる。
ギョッとした大山の喉元に、半兵衛かみそりが当たる。
喉を切り裂く。

2人が足早に去る。
駕籠の中から雨の中、大山が落ちる。
「いかがなされました」。
家来たちが騒然となる。

「探せ!」
「探すんだ!」
大山を殺した相手を探そうとする家来たちが叫ぶ。
だがもう、2人の姿は消えていた。

「おとよちゃん」。
おせいが声をかけた。
「お姉さん」。
桜の花が、雨のように散っていた。

2人が並ぶ。
おせいが口を開いた。
「なぜ、あんた…。本当の旦那様を自分の手で」。

おせいが知っているのがわかると、おとよは動揺した。
「しかたがなかったのよ。ああでもしなきゃ、私が殺されている」。
「そうなる前にどうして、私に」。

「元の毎日に逆戻りするなんて、死んでも嫌だった。伝蔵との暮らしがどんなものだったか、お姉さんには想像もできないでしょうね」。
「何かあるたびに芸者上がりと罵られて。店の者にまで小さくなって」。
「着物一枚、かんざし一つ買って貰えなかったのよ。これだけの身代がありながら、私ゃ、一文のお金だって、好きに使えなかった」。

「夫婦の交わりだって、一緒になった当座だけで、後は放りっぱなし。まるで、牢屋に閉じ込められたのと同じじゃないか」。
「女房は囚人じゃないんだ。だから大山さまから企みの相談があった時、清水の舞台から飛び降りるつもりで承知したんだよ」。
「そんな暮らしから逃げ出せるんだったら、私、何だってやってやる」。

「お姉さん、わかって!」
「欲でやってんじゃないんだよ。つらい、惨めな毎日から逃げ出したかったんだよ」。
おとよの声は、甘えるような声だった。

だがおせいは、眉一つ動かさない。
「でも、あんたは私を裏切った…」。
「ひっ」。

おとよが息を呑むほど、おせいの声は冷たかった。
「お姉さん!」
おとよが、おせいの前に回る。

桜が散っている。
闇の中、散っていく桜は雪が激しく降っているように見えた。
おせいは前を向いたまま、おとよを見ない。

「許せない」。
おとよの目が、恐怖に丸く見開かれる。
「お姉さん」。

おとよが駆け出す。
そして、り込む。
「許して」。

桜が散っている。
「おとよちゃん」。
おせいが言う。
「バカな人」。

何の感情も入らない声だった。
おせいが、近づいてくる。
「近寄らないで」。
おとよの顔が、闇に浮かび上がるように白い。

その目が殺意に満ちている。
おとよが振り向いた。
立ち上がる。
走ってくる。

おせいに向かって、おとよは匕首を突き出した。
それをおせいが交わし、おとよの手を押さえる。
手首をつかむ。
おとよの手から、匕首が落ちた。

「嘘をついた報いを受けるのよ」。
おせいが、袖口から得物を取り出した。
手を振り上げる。

おとよの胸元を、一突きだった。
「うっ」。
おとよがひらひらと回転し、倒れる。

羽織が、おせいの手に残った。
おせいはそれを、おとよの顔にかけてやる。
桜が闇の中、激しい雪のように散っている。



これも、桜が美しい風景で出てきます。
クライマックス、その桜が怖ろしい光景になります。
仕事屋も映像が凝りまくってます。

おとよが忠七と最初に話すシーン、おとよは髪を解いて手鏡をのぞいています。
忠七が鏡に映ります。
鏡の中、おとよの表情が映っています。

背中を向けられている忠七には、おとよの顔は見えません。
私たち、視聴者だけが、おとよの顔を見ています。
鏡の中のおとよは、本心をむき出しにした鬼が映っているように見えます。

おとよは、おせいに甘えるのがうまい。
面倒見の良い性格のおせいは、昔からこの甘え上手な妹分をかわいがって面倒見てきたのでしょう。
その頃からおとよが、おせいを利用していたのかはわかりません。
でもおとよは、おせいに対して、とても甘い声を出しています。

もしかしたら、おとよは本当につらかったのかもしれない。
つらくて、伝蔵を恨んでいたところを、大山の誘惑があった。
おとよはおとよで、自分の身を守ろうとしたことがきっかけだったのかもしれない。

伝蔵に対しておとよが吐く恨みの言葉に嘘があるようには、思えない。
本当に憎いように見える。
欲のために抹殺したのではなく、本当に憎かったように感じる。

女房は囚人じゃない。
今、使ってもおかしくない言葉。
おとよは贅沢をしたかったのではなく、愛されていると実感したかったのかもしれない。
皮肉なことにそれを感じさせたのは、大山だったのかもしれない。

かわいがっていたおとよの頼みで、珍しく、おせいが簡単に依頼を受けます。
よほど、おとよをかわいがっていたのでしょう。
これに対して、おとよに何の先入観もない半兵衛が違和感を覚えます。
半兵衛に対して、短気を起こすおせい。

珍しい光景です。
割ってはいるのが、政吉。
半兵衛と政吉が仕事屋として、成長しているのがわかります。
ここで利助の「夜、おしっこにいけなくなるじゃありませんか!」の口調がまじめでおかしい。

思わず短気を起こしてしまったおせいですが、さすがにおとよの様子に疑問を持ちます。
おとよを信じたい。
しかし、湧き上がってくる疑問を否定できない。

おとよと会った後のおせいの表情。
無言の中、おせいの葛藤が見えます。
確かに間違ったことは言っていない。

でも、裏の道を歩いてきた者の、鋭い勘が「怪しい」と言っているんです。
「信用ならねえんですね」。
半兵衛の言葉を、今度はおせいも否定しません。

桧屋伝蔵は、浜村純さん。
伝蔵の昔の主人振りが想像できる。
火傷を負い、人相が変わって、物乞いのようになった今とのコントラストが違和感ないのもすごい。
墓をなでる伝蔵の哀れさ。

いなくなった子供を探すが、子供の存在を疑われる映画で「バニーレーンは行方不明」という映画がありますが、誰も自分を知らないと言われたら、どうするんでしょう。
姿かたちが変わっていたら、自分だと言うことをどうやって証明するんでしょう。
ちょっと怖い話です。

おとよの恨みの言葉に、詰め寄っていた伝蔵がたじたじとなる。
女房だった女性の、自分に対する恨みに驚く。
刃まで向けられ、逃げていく伝蔵。

しかし伝蔵は自分を反省し、おとよを理解する。
おとよにはおとよの、つらさがあったのだと思う。
大山にしかたなく従っていると思う。

おとよの言葉には、伝蔵を反省させるだけの恨みがあった。
伝蔵はもう、自分はおとよの邪魔をせずに生きていこうと決心する。
もう少し、この気持ちを早く持って、見せていれば、うまく行った夫婦になったのではないだろうか。
だがおとよは、すでに我欲で人を殺すまでに変貌していた。

伝蔵が良いなら、しかたがないと半兵衛と政吉は納得する。
だが政吉は、おとよがおせいをだましていたことを指摘する。
これだけは、穏便に行かないだろうと言っているようだ。

そして、おせいはつらい決断をする。
おとよは自分が殺す。
雨の中の、半兵衛と政吉の一瞬の仕事。
それに対して、桜の花が雪のように散る中、ゆっくりと行われるおせいの仕事。

おせいと、おとよの感情が入り乱れる展開だった。
だがおせいの気持ちは決心した以上、もう動かない。
おとよは誤った。
ここにいるのは、芸者だった姉貴分のおせいではない。

おとよが話したのは、仕事屋の元締めのおせいだった。
仕事屋の元締めに、おとよがしてしまったのだ。
おせいの気持ちをどうしても動かせないとわかったおとよは、おせいに斬りかかる。

「バカな人」。
この静かなセリフに込められた殺気。
怒りの激しさ。

だが、おせいはおとよのしたことを責めてはいないのだ。
おせいは飽くまで、おとよが自分に嘘をついたことを怒っている。
つらい身の上から逃げるためにしたことを、一言も責めてはいない。

ただ、嘘をついた。
裏切った。
それを指摘している。

裏街道を歩いてきた、おせいのこれまでの人生が伺える。
世間の常識ではなく、自分とのつながりを重要視してきたことがわかる。
そういう常識になる裏街道の人生が、どんなものだったのか。
裏稼業の人間の、特異な価値観、正義感が垣間見える。

こうしておせいもまた、過去の楽しい思い出と決別する。
そうやって、おせいは生きてきたのだ。
おそらく、半兵衛と政吉もそうなる…。

大山栄之進は、井上昭文さん。
おとよは、池玲子さん。
色っぽい女優さんです。

桜の花の散る激しさが、おせいの内面を表しているかのよう。
闇と桜と、おせいとおとよの他は何も見えない。
サックスの響く音楽と共に、ラストを迎える。
戯れに、気軽に、触れるべからず、裏稼業。


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知ってるよ。こうなるんだ 第5話「忍んで勝負」

しばらく見ていないと、すご~く見たくなるもの、それは「必殺」。
見てないなーと思うと、見たくなって見たくなってしかたがなくなる。
先週、「破獄」がテレビ東京で放送されていましたが、なかなか良かったです。

山田孝之さんの目に、すごみがありました。
良い俳優さんですよね。
緒形拳さんの「破獄」も、一度見たら忘れられないドラマでした。
同じく、緒形拳さんが牢に捕らわれる話、それが「必殺必中仕事屋稼業」にもあります。

第5話、「忍んで勝負」。

小伝馬町の牢内。
博打の借金が返せない男が1人、殺された。
「おめえたちも博打の借金が返せなきゃ、こうなるんだ」。

牢名主のもぐらの留三の言葉に、囚人たちが震え上がった。
役人がやってくるが、「いつものことか」と言って去っていく。
この牢名主の留三には、できないことはないと留三は豪語する。

留三の殺しの依頼が、仕事屋に来た。
月の10日に牢内で行われた博打の借金を、牢の外にいる囚人の身内に届けさせる。
払えなければ、殺される。

留三は牢役人、牢番とグルになっている。
捌きがあれば磔、獄門の悪人なので留三は役人たちに金をばら撒いて裁きを受けないようにしている。
そのため、留三は絶対に外には出ないのだ。
これをどうやって仕留めるか。

仕事の依頼を受けて戻ってくる半兵衛に、源五郎が声をかける。
家まで来た源五郎は、お春と話す。
源五郎はお春に、どうも半兵衛は博打をやっているようだと言う。

「あたしの調べたところじゃどうも、賭場に出入りしているようね」。
「親分さん、ちょっと牢にでもぶち込んでくださいよ」。
お春の言葉に、半兵衛の手が止まる。
留三が牢から出ないのなら、自分達が牢に行けば仕留められるのではないか。

賭場に行く半兵衛と政吉。
その後を、源五郎がついていく。
半兵衛と政吉はそれに気づいていながら、大きな声で博打の話をする。

賭場で半兵衛と政吉が博打をしている時だった。
「動くな!」という源五郎の声がした。
手入れだ。

「うわあああ」という叫び声がして、逃げようとする者と捕り方で鳥羽は大混乱に陥った。
捕り方相手に暴れる半兵衛の手をとった源五郎が「半ちゃん、逃がしてあげるから、おいでこっちへ」と言う。
その時、政吉が源五郎の額を金物でコツン、と打った。

額を押さえてうずくまる源五郎。
半兵衛と政吉は大の字に寝転び、その上に捕り方たちが重なる。
2人は捕まった。

奉行所でも反抗的な2人は、留三の牢に入れられた。
新入りとして2人は散々殴られたが、政吉は留三に賄賂を贈ることで、何とか免れた。
しかし半兵衛は殴られ続ける。
その横で政吉は、水を飲ませてもらう。

押さえつけられた半兵衛は、懐に潜ませていたかみそりを見つけられてしまった。
かみそりを持ち込んだ理由を聞かれた半兵衛は、ひげの手入れがしたいと言う。
すると留三は、自分の手入れをしろと言う。
半兵衛は留三に、かみそりを押し付ける。

だがかみそりを持つ半兵衛の手に数人の子分が、張り付くように見る。
とてもではないが、仕事はできない。
あげく、半兵衛は牢内の囚人全部のひげをそるはめになる。

さらに翌日になると、牢内で博打が始まる。
牢番も何も言わない。
この博打は、半兵衛や政吉を絶対に勝つことができないように仕組まれていた。

明らかなイカサマだけではない。
出た目を違う目と言わされたりして、半兵衛と政吉は10両の借金を作らされた。
これを同心の小坂とその手下の平八が、家族に取り立てに行くのだ。
返せない囚人は留三に殺されるが、その死は小坂と平八が自然死として扱う。

その頃、お春は源五郎に、半兵衛が捕まったことを知らされていた。
「ええ?!牢に?だから言わないこっちゃないのよ」。
「あたしもさ、半ちゃん助けようと思ってさ、いろいろやってみたんだけどね、すごいのよ。あの2人とも暴れちゃって。見てよこのコブ!」
「あらっ、まあ」。

源五郎の額のコブを見たお春は、驚く。
「それで、うちの人はどんな具合なの」。
「いじめられてるみたいね」。

源五郎は、半兵衛の牢内での様子を知っていた。
それを聞いてお春は、いてもたってもいられない。
「何とか牢から出す方法は、ないのかしら」。

「ないことは、ないんだけど」。
「どうすればいいの」。
「お金よ」。
「お金…」。

お金と聞いて、お春は「お金ね、ちょと待ってて」と言って、奥に入った。
たんすから3両出すと、少し考えて2両を持って出る。
「あのね、今、うちにこれしかないの」と言って、源五郎に2両を渡す。
「だからあの、親分の力で何とか出してやってください」。

源五郎はお春から渡された小判を見て、「2両…」と少し考えた。
「2両、よし、何とかあたし、半ちゃんのためにやってみるわ」。
「お願いします」。
「じゃね」。

源五郎の働きで、半兵衛と政吉は牢から出された。
「半ちゃん」と源五郎が寄ってくる。
「良かったねえ」。
そう言って、隣にいる政吉を突き飛ばす。

「もうだめよ、暴れたりしちゃ」。
「そっと、逃がしてあげようと思ったんだからさ」。
「今度だって半ちゃんのために、いろんなところに手を回して苦労したのよ」。

政吉が寄ってくる。
そして源五郎のコブを指して「親分、これ、かなり腫れましたな」と言う。
「…行け」。

源五郎の顔が強張る。
「にやけやがって。行けえ!」
そう言って政吉を突き飛ばした。

「あいたあっ!」
そして「半ちゃん。行こう?」と半兵衛の手をとった。
「行こう」。

坊主そばで、半兵衛はお春に怒られていた。
お春は情けないと嘆いた。
政吉は小紫のいる女郎屋で、手当てを受けた。

そして2人は再び、嶋屋へ集まった。
おせいは髪結いの最中だった。
髪結いの娘との話が聞こえてくる。

この髪結いの娘の父親は、牢内に髪結いに行くらしい。
囚人だって年に一度、床屋の手入れをしてもらえる。
床屋は回り持ちで牢内に行くのだ。

牢名主なんかになると、髪を結っている時なんかも外に出ないと娘は言う。
みんな嫌だから、牢に行くのはくじ引きで決めるらしい。
その当番は月の10日だが、誰も行きたがらない。

半兵衛と政吉が、すっといなくなる。
2人がいなくなったのに気づいたおせいの目が笑う。
半兵衛と政吉は、髪結いのところにいた。

政吉が髪結いの男に、小判を渡す。
半兵衛は髪結いの道具をそろえる。
風呂から帰ってきたお春の髪を、半兵衛が結ってやる。
髪結いの練習だ。

一方、政吉はさいころを作る。
丁寧に紙にさいころの作りを書き、型から作る。
さいころを型にこめるところから始める。

たくさんのさいころが転がっている。
政吉はそのさいころをどかし、作ったさいころを投げる。
半!

もう一度投げる。
半!
また投げる。

半!
「できた…」。
政吉が笑った。

風呂から帰ってきたお春の髪を、半兵衛は結った。
留三を仕留めるための髪結いの練習なのだが、お春は「実は他にお目当てがあるんじゃないの」と疑った。
どきりとした半兵衛にお春は「嫌よ、若い子に変な気起こしちゃ」と言った。
お春の焼きもちと気づいた半兵衛は「俺にはお前が似合いだよ」と笑った。

10日は、あさってに迫った。
小坂と平八は、留三の博打で借金を作らされた囚人の家に金の取立てに行っている。
ある囚人の父親は、頭を擦り付けるようにして、待ってくれと言う。
だが小坂から息子が病と聞いて、親はおろおろした。

小坂と平八は父親に、明日の昼まで何とかしろと言って出て行く。
この前の金では足らないと言われている女郎がいる。
女郎は、みんなから聞いたと言って怒った。

「旦那方は牢に入った囚人につけこみ、金を搾り取っている」と。
牢に入ってしまえば生かすも殺すも、自分たち次第だと言って、脅している。
しかし小坂と平八は、それがどうしたと開き直る。
金を待ってるぜと言われた女郎は泣くしかない。

その様子をずっと、半兵衛は見ていた。
小坂と平八は、人気のない路地に入った。
後ろから半兵衛が来る。
前からは、政吉。

「だんな」と、半兵衛は声をかけた。
「その節には」。
「借りてた銭を持ってまいりました」。

そう言うと半兵衛は突然、小坂の首筋を切り裂く。
政吉は小坂の方を振り向いた平八を刺した。
倒れた2人を半兵衛と政吉は引いてきた大八車に乗せ、上にむしろをかけた。
小坂と平八を仕留め、後は留三だけだ。

10日。
牢屋敷に髪結いが入る日が来た。
役人が一人一人、髪結いの名前を呼ぶ。
留三の担当が来て、「手前でございます」と半兵衛が名乗る。

「赤坂新町の勘兵衛」。
それに…、「牛込浜町の政太郎でございます」と政吉も名乗る。
「よろしく」。

役人が「牢名主の他はみんな出ろ」と命じると、ぞろぞろと囚人が牢から出て来る。
残った留三に向かい、半兵衛と政吉は「どうも牢名主さん、その節はどうも」とお辞儀をした。
2人に気づいた留三は「なあんだ、おめえたちか」と言った。

「約束の金10両、確かに持ってまいりました」。
留三は金を受け取ると「殊勝な心がけだな」と言う。
「牢名主さん、名前を消してください」。

半兵衛の申し出に留三は、名簿の半兵衛の名前を消した。
「ああ、確かに消えましたよ」と半兵衛が確認する。
さて、「お水はそこですよ。「失礼いたします」と留三の髪結いに入る。

「その節はお世話になりまして」。
「シャバはどうだ」。
「不景気でございますね」。

「襟足から当たらせてもらいます」。
半兵衛は留三の首筋にかみそりを立てるが、牢番や辺りの様子を見てひっこめた。
政吉が半兵衛を見る。
牢番が、あくびをする。

半兵衛が政吉に、目配せした。
政吉の懐から、さいころが転がり出る。
「あらっ、いけねえ!とんだものをお見せしちゃって」と政吉は笑った。

それを留三が見逃すはずがなかった。
「おいおめえ、あんなに負けてまだやってんのか」。
政吉はそれが、牢を出てからずっとつきっぱなしだと笑う。

「おめえ、金もってんのか」。
「ええ、ここに10両ばかりあるんですけどね」。
留三は目を輝かせた。

博打は、何の楽しみもない牢内での楽しみ。
「見て見ぬ振りしてくださるぜ」との声に牢番はすっと後ろを向いた。
博打が始まる。

政吉は「こないだみたいなのは無しですよ」と笑う。
「勝負は三番勝負。いいな」。
「いいでしょう」。

さいころ勝負が始まった。
「半!」
政吉が言う。

掛け金は、有り金10両全部。
「よし」。
10両で勝負だ。

「勝負!」
さいころの目は半だった。
「あはははあ、名主さん、だから言ったでしょう。このところ、ずっとついてるって」。
政吉が笑う。

「今度は俺だ」。
今度は、留三から巻き上げた20両で勝負だ。
留三がさいころを投げる。

「勝負!」
政吉が言う。
「受けた」。

「勝負!」
さいころの目はやはり、半だった。
「あはは。ついてるなあ。しかし名主さん、取り巻き連中がいないと、全然だめですなあ」。
政吉が楽しそうに言う。

「このへんでやめますか」。
「いや」。
「じゃあ今度は、最後の一番ですよ」。

「まあ、このサイはなあ」。
留三はそう言いながら、さいころをころがす。
「いかさまだなんて、おっしゃるんですか」。

留三は合点がいかないようだったが、さいころのイカサマは見破れないようだった。
「そうじゃねえようだがなあ…」。
さいころを転がしながら、「おめえのサイだからなあ」と言う。

「ああっ、じゃあ親分が好きなもので」と政吉が申し出る。
「これだ」。
「あ、花ですか」。

留三が出したのは、花札だった。
「いいですね」。
政吉と留三がやりとりしている後ろで、半兵衛は長い柄の櫛の先を研いでいる。
櫛の先が、鋭く鋭く細くなっていく。

札が慣れた手つきで切られ、並べられる。l
政吉が手元の札を見る。
札を差し出す。

留三がそれを取る。
慣れた手つきで、札を切る。
札を置く。
だが、留三の手の中には札が一枚、残っている。

「ああ、名主さん今度はいくらかけるんですか」。
積んである札を取ろうとした政吉が、手を止めて聞く。
「全部だよ」。
「ああ、じゃ、出してくださいよ」。

政吉はそう言うが、留三の手元にはもう、金はない。
「なんだねえのか、それじゃ勝負にならねえよ」。
「証文を書く」。
「またまたあ、こんどはその手にはひっかからねえよ」。

政吉の言葉に留三がカチンと来た。
「よし!俺の命張ってやるよ」。
留三の声には、凄みがあった。

「あはははあ、さすがは名主さん。震えちゃうなあ」。
政吉が笑った。
だがその笑いが、すっと消えた。
「勝負…」。

「ようし!」
政吉がひっくり返した札は、鹿ともみじの絵が描いてあった。
「しっぴん」。

そう言って留三が自分の札を取ろうとしたときだった。
留三の手の中には、札がすでにあった。
それは政吉の札に対して、いのししが描いてある札だった。

「待ったあ!」
政吉が鋭く声を出し、留三の手を押さえる。
「何しやがんでえ」。

「イカサマはいけねえよ、親分」。
「何?」
「手の中に一枚、札が入えってるだろう!そんなイカサマに引っかかってたまるかぁ!」
「おい…、正気でものを言ってんだろうな?」

留三の声が低くなる。
「もし、この手の中に札がなかったらどうする?」
留三が政吉をにらむ。

「どうするよ!」
「おう、首でも命でもくれてやらあ!四の五の言わずに開けてみろい!」
政吉も負けなかった。

留三がニヤリと笑った。
「ようし、どけろよ」。
「この、薄汚ねえ手を、どけねえかっ!」

政吉が抑えていた手をどける。
留三が手のひらを上に向ける。
手の中には、何もなかった。

ガラン!と音がして、札もさいころも吹っ飛ぶ。
留三が政吉の首根っこを押さえつけた。
「博打に言いかがりをつけたらどうなるか、そいつはてめえも知ってるんだろうな」。

「知ってるよ」。
背後から半兵衛の声がした。
「こうなるんだ」。
半兵衛が言うと同時に、研いでいた櫛の先端が留三の脳天に刺さる。

「牢名主さん?」
半兵衛の声が響く。
「牢名主さん!」

留三はひっくり返ったまま、白目をむいて動かない。
「あっ、これは卒中だ!」
「卒中だ。卒中でございますよ!」

半兵衛の声があわてる。
「お役人さまあ、大変でございますよ!ああ、ああ」。
半兵衛が倒れている留三の手を、懸命にさする。

その夜。
政吉は女郎屋で、昼間、留三が見せた手を再現しようとして花札を一枚、取っていた。
「ええい!」
だが、手の中に札は残らない。

「だめだな」。
「ううん、主さん」。
政吉がちっとも、自分のほうを見ないので、部屋の主の小紫が苛立つ。

「あいつにできて、俺にできねえはずはねえんだけどな」。
「うん!」とすねた小紫が、花札を自分の背中の方に隠す。
「あたしと言う女がありながら…、他の女と…、見合いするなんて」。
そして整えられた政吉の髪を見て、「ああ、頭なんて刈っちゃって」とすねた。

どうも、政吉は見合いをするために髪を整えたことになっているらしかった。
「いや、見合いだって俺、好きでやったわけじゃねえんだよ。ちょっと、返してくれよ」。
政吉は花札を取り返そうとした。

「じゃ、今でもあたしのこと、好き?」
小紫の問いに「とにかく、そういう難しい話は後にしてさあ」と政吉が言うと、小紫はかなしそうに視線を落とした。
しょんぼりした女郎にあわてた政吉が「好きだよ、好き!」と言う。
小紫がニッコリ笑う。

坊主そば。
半兵衛が明日の準備をしている。
「うどんやそばの出し汁は、昆布が最高だなあ」。

「ねえ」と、片づけをしているお春が声をかけた。
「ええ?」
「なんか…、足りないと思わない?」

「鰹節もう少し足すか?」
「ここにさあ、子供がいたら、言うことないわね」。
「子供?!」

「ねえ、子供ほしいと思わない?」
「いや、それは…。ほしくねえことはねえけど。…子種がねえよ、俺には」。
「そんなことないわよ!いままで博打に精出してたところを、こっちにまわせばいいじゃない!」

「…がんばってみるよ」。
お春は、今日の売上金をざるから取る。
うれしそうだった。

お春が座敷に、布団を敷き始める。
枕を二つ、並べる。
「ねえ、もう休まない?」
お春の声は弾んでいた。

「いや、もうちょっと…、これやっちゃうよ」。
半兵衛の声があわてる。
お春が帯を解いている。
半兵衛はそれを、そっと覗き見る。



今回、笑えるシーンが一杯。
源五郎のシーンもおかしい。
政吉と小紫もおかしい。

まず、坊主そばで。
お春が、「ちょっとちょっとあんた、これ見てよ」と言う。
「どじょう」。
これをそばに入れてみたらどうか、と、お春が言う。

「食べようよ、食べようよ」と、源五郎が言う。
「あ、ちょうどいいわ。親分さんに試食してもらおうよ」。
お春が言うと半兵衛が「いや、それはやめたほうが良いよ。親分さん忙しい人だからさ」と止める。
すると源五郎が「半ちゃん」と、体をくねらせる。

「はい」。
「あんたあたしのこと、早く帰す気なの?」
源五郎が半兵衛をつねる。
「痛い、痛いなあ。そんな気、ありませんよ」。

その後、半兵衛が「ああ、でも、これ、俺、殺すのは嫌だよ」。
「なあんで、簡単よ、きゅってひねれば」とお春。
「やだよ!」
「なあんでよ」。

「生き物殺すの、嫌いなんだ」。
ここで半兵衛の裏の仕事を知っている視聴者は、笑ってしまう。
いやいや、何となくわかるけど。

するとお春「なあに、情けないわね」。
「お前やりゃあいいじゃん」。
「あたしはいいわよ」。

お春もやっぱり、嫌。
「じゃ、どうすんだよ」。
「じゃ、もったいないけど、どぶにでも捨てるか」。
そう言った時、源五郎がどじょうの入っているざるを奪う。

目つきが、爛々としている。
ざるの中を凝視して、「…あたしにやらせてよ!」
どじょうを手に取り、「あたし、こういうの殺すの、とっても好きなんだから…」。
ひええええ。

場面が変わって、政吉がいる女郎屋の部屋。
「殺す?」
小紫という、ちょっと良い着物を着て髪を結っている女郎が首をかしげる。
「ああ、もぐらをな」。

「もぐらって穴の中にいるあれでありんすか」。
「そのもぐらを穴の中からほじくり出して、食っちまおうってんだ」。
「あんなもの、食べられるんでありんすか」。
すると、政吉、片目をつぶり、「ぜひとも、食いてえ!」

場面が変わり、再び坊主そば。
前掛けをした源五郎が、そばをすすり「ああ、おいしいわぁ」と言う。
どんぶりの中を見て、「何か共食いみたいね」。

お春が寒そうに肩をすぼめる。
ゾッとしている。
半兵衛も無言で、下を向いている。
嫌なものを見たな。

「おいしいわあ、半ちゃん食べない?」
源五郎だけが楽しそう。
半兵衛はうっすら笑って、首を振る。

再び、女郎屋の政吉。
仕事料の小判を、小紫に渡している。
「主さん、こんなにいただいてもよろしいんでありんすか」。

「ああ、いいよ」と笑う政吉。
「うれしい」と、しなだれかかる小紫。
「これで主さんと、所帯を持つ資金にするでありんす」。

それを聞いて政吉、仰天。
「所帯?!よせよ!」
「あのな、それからその『ありんす』って、やめてくれないか。しらけてしょうがないんだ」。

すると小紫、「でもあちきは、ありんすって言葉しか、知らないんでありんす」。
「ほんとかよ~。お前、ところで生まれ故郷はどこだっけ」。
小紫が視線を落とす。

そういうの、ここではタブーでしょう?
「吉原でありんす」。
「いや、そうじゃねえんだよ、生まれたところなんだよ」。

「…」。
答えない小紫。
「うん、あのな、お前にだってさ、故郷ってあんだろう?」
「ここ」。

言い張る小紫。
すると政吉、きゅっと小紫の手をつねる。
小紫、びっくりして飛び上がり、鉄瓶をひっくり返してしまう。

とっさに出た言葉は「あいたたたた、何てことすんだっぺ!」
それを聞いた政吉、ニヤリ。
「ああ、火傷しちまう。顔だって着物だってこんな」。

田舎言葉丸出しで嘆く小紫の手を取った政吉「ああぁ~、なつかしいな」。
こちらもなまっている。
「俺、あの、庄内の、ずうーっと先の方なんだ!」

小紫、うれしそうに「おめ、庄内けえ?あっだし、宇都宮だああ」。
「あら、あの宇都宮か!」
2人は意気投合。

政吉「おまええ、ありんす言葉より、ずっといいぜ!」
そして小紫をこづき、「それで行け!」
思わず、口を押さえる小紫。
おかしい。

牢から帰ってきた政吉が、再び小紫と。
小紫が政吉の背中の傷に、塗り薬を塗っている。
「痛いっ!お前、乱暴だよ」。
政吉が悲鳴を上げる。

「ああ、動いたらだめだあ!」
なまりのある声で、小紫が言う。
「お前さあ、もうちょっとこう、やわらか~くできないのかよ。お、そうだよ、こっちの方、得意の『ありんす』ってやってくれよ~、なあ?」
すると小紫は「こうでありんすか」と澄ます。

「うん、まあ…、そうだな」。
政吉は満足そう。
小紫「ケンカなんかするから、いけないんでありんす」。
この2人のやり取りは、最後までおかしい。

ギャグシーンがおもしろいから、逆に仕事のシーンの緊張感がすごい。
今回はもう、留三の多々良純さん。
この名演技に尽きる!

多彩な表情とコミカルな口調、動き。
悪党なのに、すごくおかしい。
牢内で、「はいぃーっ」って前に手を伸ばして、すーはー。

ヨガです。
牢内でみんなで、ヨガやってるんです。
政吉が留三の体をもんで、柔らかいと言うと、ボソッと「ヨガやってるよ、ヨガ」って言ってる!

やってることは極悪なのに、多々良さんの留三にはたびたび、笑っちゃう。
しかし、凄むところはすごい。
眼光も鋭く、口調もまるで切りつけるよう。
この緩急のつけ方、もう、見事です。

最後、のびてる多々良さんの顔がまた、笑っちゃう。
多々良さんは「仕留人」でも殺される時の顔がおかしかった。
サービス満点、楽しませてくれる悪役さんだなあ。
若い芸者に入れあげて息子を嘆かせるご隠居なんか演じても、この方はすごくおもしろかった。

おせいの言葉から半兵衛と政吉が、髪結いとなって牢内に入り込む経緯はセリフがありません。
音楽と、半兵衛と髪結いに金を握らせる政吉が映る。
これだけで何が行われているか、わからせてしまう。

政吉との最後の博打の場面は、下から撮影している。
ガラスを張って、その下から撮影している。
だから、さいころも花札もよく見えるんです。
すごい。

ここで緊張感のある音楽が、流れる。
そしてついに有り金むしりとられた留三が、「俺の命張ってやらあ」と言う。
それまで笑っていた政吉から、すうっと笑いが消える。
半兵衛にも緊張感が走る。

「震えちゃうなあ」から「…勝負!」の流れが実にうまい。
この、命を賭けるという言葉を待っていた。
だから卒中で倒れるのも、しかたがないと思わせる。
多々良さんと林さんの、緊張溢れるやり取り。

留三のイカサマ手口も、こちらからは良く見える。
それに気づいた政吉が止める。
すると、留三が凄む。

この辺りはユーモラスな演技は跡形もなく消え、留三という男の怖さがにじみ出て来ます。
政吉をにらみつける留三の目つきの、怖いこと。
この男はこうやって、人を殺してきたんだと感じる。

押さえつけられた政吉が殺される寸前。
「知ってるよ」という低い声。
「こうなるんだ」。

緒形さんの声も相当、怖い。
今まで丁寧に接していたのが、嘘のような声。
緒形さん、林さん、多々良さんの完全なる3人芝居。

ズブッという鈍い音。
脳天に刺さる櫛。
白目をむく留三。
今度は白々しく…、見ているこちらには白々しく映る半兵衛の「ああっ」というあわてぶり。

この仕事屋の博打で仕置きのシーンは、後に津川雅彦さんが登場する回で昇華します。
留三のシーンに時間をかけているせいか、小坂と平八の仕事はあっさりですが、仕事シーンもたっぷりあるんですね。
セリフのやり取り、演技のコミカルさ、リズム。

これが私の文章では伝えられないのが、つらい。
芸達者なみなさんの演技による、緩急あるシーンの数々。
映像のこだわりといい、お勧めの回です。


でなきゃお前を殺す 第4話「逆転勝負」

第4話、「逆転勝負」。

半兵衛とお春は出前に行って、岡引き・閻魔の弥三が島帰りの閻魔の弥三を脅して金を取っているところに居合わせた。
弥三は半兵衛とお春も脅す。
その直後、仕事屋に依頼が来た。

島帰りだが、今はまじめに勤める小間物屋の吉五郎が、弥三の十手を取り上げてほしいと言うのだ。
殺せば厄介なことになる。
だからくれぐれも殺さず、十手を取り上げてくれ。

吉五郎の依頼で半兵衛と政吉は、弥三の娘のおすみに接近することになる。
あんな弥三でも、娘は目の中に入れても痛くないほどかわいいらしい。
利助の話では、おすみは閻魔の弥三が父親のため、浮いた話のひとつもないらしい。
いつだったか、おすみに近づいた男を弥三は十手に物を言わせて百叩きの刑にした。

おすみを見た半兵衛は、「いいなあ。若くってかわいくって」と言う。
だが政吉も譲らない。
半兵衛と政吉が賭けをした結果、おすみに接近するのは政吉になった。

かんざしを買って、おすみに言い寄った政吉だが、弥三に見つかり散々な目にあう。
しかしその直後、うずくまる政吉に声をかけたのは、おすみの方だった。
おすみは政吉を家に誘い、自ら帯を解いた。
天女のように見えたおすみが、妖艶な笑みを浮かべて政吉を誘う。

戸惑う政吉は、おすみに告げる。
自分の父親が、何をしているか。
どういう人間か、知っているか。
だが、おすみは父親への愛情と父親の所業の間で苦悩していたのだった。

自暴自棄になるおすみと、政吉の間にやがて、本当の愛情が芽生える。
そんな矢先、弥三が殺される。
土間に倒れた弥三を抱き起こすおすみ。
政吉は、表に出た。

しかしその時、捕り方が迫ってきた。
やむを得ず逃げる政吉。
その影でそっと路地から出て行くのは、吉五郎だった。

だが弥三を殺したのは、吉五郎だった。
吉五郎はもう一度、盗みに手を染めるつもりでいた。
そのためには、つきまとう弥三が邪魔だった。
吉五郎は弥三のめかけのおくらと共謀し、弥三を殺したのだ。

仕事屋への依頼は、罪を仕事屋になすりつけるためだった。
吉五郎はおせいを尋ね、苦情を言い立てる。
十手を取り上げてくれとは言ったが、殺してくれとは言っていない。
しかしおせいは利助にもう一度、吉五郎を調べるように命じる。

奉行所では、政吉を犯人と断定した。
政吉にはおすみとのことで、弥三を殺す動機がある。
近所の人間も、おすみと政吉が親しくしていたことを証言した。

おすみは政吉ではないと言うが、奉行所では政吉を好きなおすみがかばっていると判断している。
出会い茶屋に潜む政吉を訪ねたおすみは、父親の着物をたたむ。
「たとえ閻魔だろうが鬼だろうが、あたしにとっては大事なおとっつあんです」。

おすみは、そう言った。
父親を殺した相手が憎い。
そう言いながら、おすみはおくらに父親の形見分けをしに出かけた。

こんなことがあった後だからと心配した政吉が、後をつけていく。
そこに利助が現れ、今度の仕事は半兵衛だけにやらせると告げた。
激昂する政吉は、おせいのもとへ走る。
その間におすみは一人、おくらを訪ねていく。

神社の敷地内で、おせいは半兵衛に今度の仕事は半兵衛だけに依頼すると告げていた。
それは政吉が奉行所に追われているからなのか。
聞いた半兵衛におせいは、半兵衛も政吉が下手人だと思うのか聞いた。

違う。
おせいも違うと思っていた。
そこに利助の「いけません、政吉さん!」という声が響いた。

「おかみさん、これはどういうことなんだ。どうしてこの仕事から俺をはずさなきゃいけねえ」。
政吉がおせいに詰め寄る。
「それは私が決めることです」。

おせいの声は冷静だった。
「そうかい。おかみさん、俺が奉行所に引っ張られて、この裏稼業がばれるのが怖いんじゃねえのか。俺はとにかく、てめえに降りかかった火の粉はてめえで払う!」
おせいは静かに言った。
「あなたは、仕事屋の掟を破ると言うのですか」。

「掟え?」
政吉は斜めに構えた。
「何言ってんだよ、その掟ってのは、おかみさんが決めたんじゃねえか」。
「私が決めた掟なら、どうでもいいと言うのですね」。

「とにかく俺は好きなようにやらせてもらうよ。俺は父親を殺されて泣いている、一人の娘の恨みをどうしてもはらしてやりてえんだよ!勝手にやらせてもらうよ!」
そう言うと政吉は去ろうとした。
「政吉!」
突然、おせいが声を張り上げた。

政吉の肩をつかむ。
その勢いに、政吉が体の体勢を崩す。
「勝手な真似は許さないよ!」

おせいが、政吉の頬を張る。
2回、3回。
「でなきゃお前を殺す!」

その剣幕に思わず、政吉が懐剣を抜く。
「おかみさん!」
利助が走り寄ろうとする。
半兵衛がすっと、止める。

おせいは政吉が抜いた懐剣を、手でつかんでいた。
政吉の動きが止まっていた。
おせいの手から血が流れ落ちる。
政吉が、おせいの顔を見上げた。

「政吉さん」。
おせいの目は今にも涙を流しそうな、哀しい目だった。
声も哀しく、つらそうだった。

政吉がおせいを見る。
だが次の瞬間、おせいはすっと、政吉から懐剣を取り上げ、鞘に収める。
いつもの冷静なおせいだった。

「政吉さん。あなたが地獄へ落ちる時は、私も一緒です」。
おせいは取り上げた懐剣を、政吉に差し出す。
政吉は無言でそれを受け取る。

おせいが去っていく。
政吉が去っていくおせいの後姿を見ている。
視線が地面に落ちた。

だが、もう一度、政吉はおせいを見る。
おせいが遠ざかっていく。
政吉は遠ざかるおせいの背中を、ずっと見ている。
見つめている。

その頃、おすみはおくらの下を訪ねていた。
湯上りのおくらの様子が、おかしい。
吉五郎が座敷に来ていた。
おすみを、吉五郎が捕らえる。

半兵衛は、おくらの家に急ぐ。
誰もいない。
水音がする。

風呂場で半兵衛は、何かに気づく。
湯の中で手に取ったのは、長い髪の毛だった。
長い髪の毛が、湯に浮いている。

風呂場からずっと、水が滴り落ちる後が続いている。
廊下へ。
半兵衛はそれをたどっていく。

水は座敷まで続いていた。
半兵衛が戸を開ける。
そこには、政吉がいた。
政吉の前には、息絶えたおすみがいた。

何が起きたのか。
2人にはその様子が、目に浮かぶ。
おすみの顔が、湯につけられて目を見開いていた。
政吉の手には、おすみにやったかんざしがあった。

「この仕事は私がお2人にお願いします」。
半兵衛と政吉に、おせいが金を積む。
利助が調べてきた。
吉五郎の昔の盗人仲間が、仲間に再び引き込まれるのをおそれてすべてを話した。

奉行所の手が回るのを怖れた吉五郎とおくらは、今夜、江戸を発つ。
「じゃ、江戸を発つ前に」。
半兵衛の言葉が、合図のようになる。

夜半、半兵衛と政吉が吉五郎とおくらが潜む水茶屋の前に立つ。
半兵衛が、なめし皮でかみそりをなめす。
政吉は、懐剣に油をたらす。
手ぬぐいで、それをぬぐう。

吉五郎とおくらが茶屋から、出て来る。
辺りをうかがいながら、逃げていく。
半兵衛と政吉が、後を追う。

吉五郎とおくらは鳥居が並ぶ場所に差し掛かった。
半兵衛がおくらの肩を抱いている吉五郎を、闇の中に引きずり込む。
吉五郎がいないことに、おくらが気づく。

「お前さん」と吉五郎を呼ぶ。
吉五郎の返事がない。
姿もない。

「お前さん」。
「どこにいるんだよ?」
「お前さん!」
おくらの声が鬼気迫ってくる。。

半兵衛が、吉五郎の口を押さえていた。
羽交い絞めにされた吉五郎に向かって、政吉が突進してくる。
懐剣を吉五郎に向かって刺す。

深く刺す。
さらに深く刺す。
深く、深く刺す。

半兵衛が出て行く。
「お前さん」。
おくらはやってきた半兵衛に声をかけようとするが、半兵衛は知らん顔で去っていく。

「お前さん」。
「どこへ行ったのさ」。
「お前さん!」
「お前さん!」

闇の中、1人残されたおくらは必死に声を張り上げた。
だが誰も答えない。
誰もいない。

その夜、政吉は女郎屋にいた。
おせいからもらった仕事両の小判を、派手に投げる。
女郎たちが群がる。

政吉が倒れる。
「あんたぁ、もうないの?」
「俺、政吉ってんだ!」
政吉が女郎たちに囲まれ、自暴自棄の笑いを浮かべる。



どっちがおすみに近づくか、半兵衛と政吉の賭けは何と、自分の脇の下の毛を抜いた長さ比べ。
政吉が半兵衛の倍の長さ。
「馬並みだな」と呆れる半兵衛に「毛並みが良いんだよ!」と言う政吉。
く、くだらないけど、笑っちゃう。

閻魔の弥三は、今井健二さん。
殺さないでくれの依頼が、結局殺すことになると予想がつく。
ところが弥三が殺されてしまう。

何と、今井さんが被害者に!
今井さんの岡引き、閻魔の弥三と設定があれば、「仕置人」の鉄と錠を相手に張り合った岡引きを思い出す。
もう、今井さんらしくない展開。
どんでん返しの「仕事屋」らしい。

父親への愛情と、父親の所業と、友達も恋人もいない孤独に苦しむおすみ。
弥三のためにおすみに近づいた政吉が、おすみに本気になっていく。
「たとえ閻魔だろうが鬼だろうが、あたしにとっては大事なおとっつあんです」。
奉行所に追われる政吉は、おせいの言うことも聞かず、暴走しようとする。

それまで冷たく、事務的だったおせいが突然、感情を爆発させる。
「政吉!」の声は元締めではなく、母親の声。
誰よりも大切と思いながら、「お前を殺す」と口走るおせい。
プロとして生きるおせいには、そうとしか言えない。

だがこれは、普通なら暴走する息子を諌める母親の図。
利助が止めようとするのを、黙って押しとどめる半兵衛。
半兵衛には、すべてわかっている。

政吉を手にかけたなら、おそらくおせいも死ぬであろうことが。
半兵衛には、すべてが見えている。
おせいの哀しみは、第2話より深い。

しかしこの政吉とおせいの立ち位置が、最終回では逆転してしまうんですから。
「仕事屋」は全編を通して見た時、すごさがわかる。
おせいの様子に、さすがに政吉も察する。

こうまでして自分を止める。
それは元締めの行動ではない。
政吉のおせいを見送る目。
その目が「おふくろ…」と言っている。

半兵衛、政吉、おせい。
緒形拳さん、林隆三さん、草笛光子さんの無言の演技。
目が、すべてを語っている演技。

おすみは、菊容子さん。
かわいらしい娘と、政吉を誘う妖艶さ。
天女と悪女が同居する様。
父親への愛情と憎しみで、苦悩する様。

そして殺されるシーンが、あまりにも痛ましい。
目をそむけたくなる。
改めて、菊容子さんのご冥福をお祈りします。

さらに今回は源五郎がパワーアップ。
半兵衛が弥三に家を突き止められ、叩けば誇りが出そうな奴、出ないなら出すってこともできるぜと脅されているところに登場。
うっかり、博打が見つかったのね?と口走り、弥三に口止めのネタを提供してしまう。

弥三が去った後、半兵衛にベタベタ、ベタベタすると、お春がもう、不愉快この上ないと言う顔をしてみる。
「なめくじっ!」と叫んで、お春が源五郎に塩をぶちまける。
「なめくじ、怖いっ!」と源五郎が叫んでいるところがおかしい。

「何よ、なめくじなんかいないじゃない」と気づいた源五郎が「ねえ、半ちゃん、うちに遊びにおいでよ」と再び誘う。
お春が間に割って入る。
すると源五郎。
「女の嫉妬って嫌ねえっ!だから女は嫌いよっ!」と言って出て行く。

源ちゃんはおくらの家に急ぐ半兵衛の前にも、もう一度、登場する。
「ねえ、半ちゃん、家においでよ」と言って、半兵衛の邪魔をするんですね。
いやいや、たまらなくおかしい。
この話は菊容子さんを襲った悲劇を知ると、見るのがとてもつらい話なのですが、源ちゃんは救いになっているかも…。


俺の成れの果てだとな 第3話「いかさま大勝負」

「必殺必中仕事屋稼業」の第3話「いかさま大勝負」。

苦しい息の下、手紙をしたためる女郎。
「どうせ死ぬ身ですから、あたしの身はどうなろうともかまいません」。
ゴホゴホと咳き込む。

「この上は、しらはたさまのお力で、あのにくい和泉屋与兵衛と伝八を」。
「あのにくい和泉屋与兵衛と伝八の2人を、地獄の底へ突き落としてください」。
戸が開いた。
楼主が入ってきて、「どうしたんだ、お袖。もう昼をまわってるんだぞ。いつまでゴロゴロしているんだ」と叱咤する。

早く顔を作って、客を迎える準備をしろと言われた時だった。
表から大きな声が聞こえてきた。
若い女性の声だった。
「やだああ、離してったらあ!」

女郎達も騒ぎを聞いて、表を見る。
「離してったらばあ!」
人を呼ぼうと思ったのか、娘は「火事ですよ、火事!」と叫んだ。
お袖と呼ばれた女郎は楼主が外を見ているその隙に、先ほど書いた手紙にかんざしを添えた。

「冗談じゃないよ!その手は食わないよ!ここは女郎屋じゃないかあ!」
若い娘は、叫んでいた。
それをなだめようとするのは、ヤクザ者の市五郎と仁助だった。

「話せばわかる」と2人は言ったが、若い娘は「助けてえええ」と叫び走る。
ちょうどその時、女郎屋から政吉が出てきた。
娘は政吉の後ろに駆け込んだ。

「おうい、どうしたんだよ」。
「人殺し!うそつき」。
政吉が聞くとその娘は「あたいが道聞いたらね、知ってるっていって連れてきたのが女郎屋なんだよ!」と言った。

「この手の顔には気をつけろって、ねえ、あんた、八丁堀行こう?」と娘は政吉に言った。
「ねえ、八丁堀!」
「ようしよし、おめえ騒ぐんじゃねえ。そっち行ってろ」。

政吉は娘を置いて、市五郎と仁助に「聞いたとおりだよ、どうやら兄さんたちの方が分が悪そうだな」と言った。
すると2人は、匕首を抜いてかざしてきた。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ、兄さん、ヤッパはやばいよ」。
政吉は手を上げたが、「かといって、このままじゃ兄さんたちも引っ込みがつかないだろうし…、ここはよ、これでどうだよ?」と懐からさいころを出した。

「チョウ目が出たら、この娘は俺が預かる」。
市五郎は「半目が出たら?」と聞く、
「煮るなら、焼くなり、好きにしろい!」

それを聞いていた娘は「ちょっと!」と言ったが、政吉はさいころをころがしてしまった。
結果はチョウだった。
しかたなく、市五郎と仁助は去っていく。

その後姿に政吉は「ばかやろう、俺は天才なんだよ!」と両手を挙げて叫んだ。
振り返ると、娘がいない。
「え?」

政吉が目をやった先では、娘が脱げたわらじを片方の足でとんとん、と跳びながら、拾い上げるところだった。
娘は政吉に向かって、ニカッと笑う。
わらじが切れて履けないので、政吉は娘を背負って川原沿いを歩いていた。
娘の名前は、お初。

「危ねえところを助けたんだからよ、今日は俺と付き合えよな」。
しかしお初は「あたしはねえ、博打するような人はだいっきらいなの」と言った。
「何よ、チョウが出たからいいようなももの、半が出てたらどうするつもりだったのよ!」

「見な」。
政吉は懐から、さいころを出した。
「なあに、これ」。
「チョウとチョウを足せば、チョウだよ」。

お初はさいころを見て、目を丸くした。
「じゃあ、今のいかさま?」
「そうだよ」。

お初は顔をしかめた。
「あんたってやな人ね。チョウとチョウなら、半にはなりっこないじゃない。きったない人ねえ」。
「助けられておいて、それはないぞ」。

政吉はお初の肩に手を回した。
「そういう風に、しないでくれる?」
お初は政吉の手を払いのけようとするが政吉は「俺と今日一晩つきあわねえか」と言う。

しかしお初は「ねえ、茂作さんて人、知らない」と聞いた。
「ちょっと、やだなこの手」。
「何だ、茂作って」。

そう言った政吉だがすぐに「あっ、何だお前、男がいたのか!」と叫ぶ。
「一緒に探してくれるでしょ?」
「きったねえな、冗談じゃねえよ、お前、1人で探せ!1人で!」
そう言って政吉は離れる。

「ねえ、茂作さんて言うの、ちょっとー、一緒に探してよー」。
お初はわらじを片手に持って片足で跳びながら、追いかけてくる。
「帰れ!」
「ねえ、探して!ねえってば!」

お初は半兵衛の坊主そばにいた。
珍しそうにきょろきょろと見渡す。
政吉は、お初を半兵衛の店に連れてきたのだ。

お初が探しているのは、許婚の武州の大里村の茂作だという。
江戸へ出て一旗あげると言って、3年。
お初はずっと待っていたが、なしのつぶてだった。
それで江戸に茂作を探しに来たらしい。

話を聞いたお春は「しかしそれじゃ、雲をつかむような話だねえ」と応えた。
半兵衛は、「女、できたんだよ、おんなぁ」と小指を立てる。
お春が半兵衛を突き飛ばして「ちょっと!」と怒る。
「すいません」。

「で、あたしたちに何しろって言うのさ?」
「そこだよ」、と政吉が言う。
「事情がわかった今じゃ、知らん顔もできないでしょう?」

「そりゃ、俺が引き取ったって良いんだよ。だけど俺はあんたと違って」と、半兵衛をぽんと叩く。
「独身だろう。だから一緒に暮らしたりしてベターッとされるの、やなんだよ俺」。
それを聞いたお初は「何言ってんのよ。あたしには茂作さんって人がいるんだから、あんたみたいなのに惚れるわけじゃない」と言った。  
「だいたいね、あたし博打するような男嫌いだもん」。

すると日ごろから半兵衛の博打好きに苦々しい思いをしていたお春が「えらい!そうこなくっちゃ!」と叫んだ。
「あんた、お初ちゃんとか言ったわね、あたしあんた気に入ったわよ」。
政吉がうれしそうに「気に入ったってよ!」と言った。

「良かったな」とお初に言うと「頼むな!」と言って走ってそば屋から出て行く。
「おい、だめだ!「」と半兵衛が追いかけていく。
「あんなの置いてったら!」
しかしお春は笑いながら「ねえ、あんた、この娘、うちに置いてあげようよ」と言う。

「いやダメだ!それは絶対ダメだ!」
「俺は置かねえぞ、うちになんか!」
「お願いしますう」とお初は言った。

「だめだよっ」と半兵衛。
「お願いしますう」とお初。
「だめだ、置くわけにいかないんだから!」
「お願いします、一生懸命やるから」。

「うるせえな、何度言ってもダメなんだよ」。
「お願いします」。
お春は「いいじゃないの」と言う。
「だめだよ!」と半兵衛が怒鳴る。

「ほ、あんたでも怒ることあるの、おお、こわいこわい」。
「お願いします、一生懸命やります」とお初が言う。
「ダメだよ!」
言い放って、半兵衛は裏口から出て行く。

「あんな女、うちに置くわけに絶対いかねえ!」
半兵衛がそう言った時、「半ちゃん」という声がした。
岡引きの源五郎だった。

「半ちゃん。何怒ってんの。またお春さんとケンカしたんでしょ」。
男っぽい容貌の源五郎が、小首をかしげてしなを作る。
「半ちゃん、うちに遊びに来ない?」

源五郎が半兵衛の肩に手をかける。
「いいいい!」と半兵衛が逃げていく。
「半ちゃんっ!」
半兵衛に逃げられた源五郎は「淡白ねえ」と言って、首をかしげながら歩く。

お初は坊主そばで、働き始めた。
こまめにくるくると、良く動く。
客のどんぶりを下げたお初は、洗い場で片方の足を持ち上げ、もう片方の足をかいた。

その白い足首に、ひげを整えていた半兵衛は思わず身を乗り出して見る。
ハッと我に帰った時、博打仲間が誘いに来る。
半兵衛はお春がいないのを確かめて、売り上げが入ったざるに手を伸ばした。

「泥棒ー!」
お初の声が響いた。
「おかみさん、旦那さん、おでかけですよう」。

「風呂、風呂へ行くんだ」と半兵衛が言い訳をした。
「お初ちゃん、一緒についてってよ」。
お春が言うと、半兵衛が「風呂ぐらい1人で行かせてくれよ」と哀れな声を出す。
「そうはいかないよ。目を放したら、どこへ飛んでくか、わかんないんだから」。

「旦那さん、最近は浜の湯の方が空いてるんですって、だから浜の湯にしなさい」。
お初の言葉に一瞬、目を丸くした半兵衛だが「いいかげんにしろよっ!」と怒鳴った。
「だから俺は嫌って言ったんだよ!」
「良いか、こうなることは端からわかってたんだよ。俺はこの娘が来た時からわかってたんだよ!」

「朝っから晩まで、旦那さん、旦那なさんてくっつかせやがって!」
「これもみんな、あんたのためなんですからね」。
お春は澄ました顔をして、そばをこねる。

続いてお初が言う。
「そうなんですよ、うちの村のもくべえさんなんか、七日七晩ぶっ通しで博打やって、朝になったらおっ死んだんだって!」
一瞬、半兵衛はきょとんとするが、「ばかやろう、おれはもくべえさんなんかじゃない。半兵衛さんっていうんだ!」と怒鳴った。

半兵衛の怒りはお春に向いた。
「おい、だいたい、おめえもおめえだ。女房でもねえくせに、でけえつらしやがって!」
「おたりまえじゃない、あたしがいなかったらね、この店とうに潰れてんですよ」。
「何言ってやがんだ。潰そうが潰すめえが俺の店だ。俺の勝手てじゃねえか」。

「あ。そ。じゃ勝手にしたら」。
「ああ、勝手にさせてもらうよ。俺は」。
「どうすんの」。
「出てく!」

「どうぞ」。
あっさりとしたお春に「どうぞ?いいのかい」と半兵衛が言う。
「ああ、せいせいするよ。お初ちゃん、塩まいてとくれ、ひげ目がけてさ」。
「やめろよ、お前。本気にするから」。

半兵衛が、情けない声を出した。
お初がその通りに、塩の壷を持ってくる。
「やめろつの、おいほら、やめろ」。

塩をかけられた半兵衛は「とけるよ!とける」と言う。
お春は知らん振りだった。
「おい!」
しかし、お春は何も言わず、そばをこねている。

「ちくしょう、じゃあ全部、手切れ金!手切れ金に俺がもらってくから!」
そう言うと半兵衛は、売上金が入ったざるに手を突っ込み、金をつかんだ。
「どけ!ほら!」とお初に言う。
さすがに心配になったお初が「旦那さん」と声をかける。

「旦那さんじゃねえよ!」
「旦那さぁん」。
「わああああ!」
半兵衛は泣き叫ぶと、お初を突き飛ばして出て行った。

その夜、半兵衛は博打場にいた。
1人、つきまくっている男がいる。
「どうだいどうだい、俺ぐらいになるとmさいの目の方が読んでくれ、読んでくれってすりよって来るんだよ」と男は笑った。

それを聞いた半兵衛が、自分の胸を叩く。
勝負だ。
「こいつはおもしれえ。おい、壷貸してくんな」と男が言う。

男が壷を振った時、政吉が入ってくる。
「半!」と半兵衛が言う。
だが、出たさいころはチョウであった。

「あ…」。
何から何まで、ついていない。
半兵衛が頭を抱えた。

「だから言わねえこっちゃねえな。おい、今日の俺に勝てる奴はいねえのかい」。
男は笑って半兵衛に小銭を放り、「おい、兄さん、とっておきな」と言って出て行く。
政吉を見た半兵衛は「少しまわして」としがみついた。

だが政吉は無視する。
「金!」
廊下に出た政吉は「金じゃないよ、今のいかさまだ」と言った。

「奴の壷振る手つきだ。妙な手つき、してたよ」。
半兵衛が、相手の壷を振る仕草を思い出す。
あの時だ。
さいころの目は、半だった。

だが男は、外から細工してさいころをひっくり返したのだ。
「野郎!」
だがもう、男の姿はなかった。

半兵衛は代貸しに、どこの男か聞いた。
男の名前は、伝八だと言う。
政吉が、「なあんだ。目くらましの伝八かあ」と言った。

男の名前は伝八。
結構、知られたいかさま師のようだった。
「どこにいるんだ」。
「知らねえ」。

その頃、口入屋の和泉屋に伝八は入って行っていた。
入り口で伝八を呼び止めた番頭は「お袖が死んだそうだ」と言う。
「へえ」。
それを聞いた伝八は顔色ひとつ、変えなかった。

「でも俺には関係ねえことだ」。
伝八は店の奥に入っていく。
和泉屋に、お春が来ていた。

お春は奉公口ではなく、お初の茂作のことで来ていたのだ。
口入屋なら、茂作のことを聞いたことがあるかもしれないと、お春は思ったのだ。
武州の大里村と聞いて、伝八の足が止まった。

奥の座敷には、お袖のいた店の楼主が、来ていた。
お袖は首を吊った。
「ともかくこれをようく、見ておくれ。お前さんたちのことが書いてあるんだ!」
楼主は、お袖の手紙を見せた。

ひらかなばかりの手紙には、固い屋敷奉公だと連れて行かれたら女郎奉公させられたと書いてあった。
楼主はそのことで、和泉屋と伝八を責めに来たのだ。
「こんなことがもし、本当だったら、お前さんたちひどすぎやしないか」。

しかも伝八は村を回っていかさま博打をし、そのかたに娘たちを取り上げてくるという話ではないか。
その時、黙って聞いていた伝八が口を開いた。
「博打ってのはなあ!やるほうが悪いんだ!」

鋭い、冷たい口調だった。
「挙句の果てがどうなろうと、俺が知ったことじゃありませんぜ」。
声には凄みがあった。

岡場所。
お袖が棺桶に入れられた。
釘が打たれる。

小雪がちらつく。
木枯しが吹いている。
仲間の女郎たちが、見送る。

和泉屋と伝八もいた。
「しかしあの女、身よりも何もねえはずなのにあんな手紙書きやがって。どこへ出すつもりだったんでしょうね」。
伝八が聞いた。

飛脚・嶋屋。
「あっ、利助さん、またこれがあったそうです」。
小僧が、番頭の利助に手紙を持って来た。

座敷では女主人のおせいが、着物の帯を締めていた。
利助の手紙を見て、「またですか」と言った。
「ええ、でもこれが最後だと思います」。
「何か、わかったのですか」。

「深川の岡場所に、お袖という二十歳になる女郎がいるんですが、今日、首をくくって死にました」。
「その人が、この手紙の主だというのですか」。
「間違いありません、今行って調べてきました」。

「20年の年期で売られてきたのですが、前借金の2百両を親代わりという、和泉屋が受け取っています」。
「それからこれは仲間の女郎に聞いてわかったんですが、『しらはたさま』というのは、お袖が生まれた村の鎮守さまの名前だそうです」。
「鎮守さま」。
「ええ」。

おせいの開けた引き出しからは、手紙がたくさん出て来る。
「どうせ死ぬのですから、あたしの身はどうなろうともかまいません。この上は、しらはたさまのお力で、あのにくい和泉屋与兵衛と伝八を」。
「あのにくい和泉屋与兵衛と伝八の2人を」。

手紙には、同じことが書かれていた。
「白幡神社とでもいうんでしょうが、まさか神様の名前とはね。いくら調べても、わからねえはずだ」と利助は言った。
「せめてもう少し早く、身元がわかっていたら」。
おせいが、悲しそうに言う。

「この中には和泉屋与兵衛と伝八の名前しか書いてなかったんです。調べようがないじゃありませんか」。
だが、おせいは悲しそうな表情を変えなかった。
「おかみさん」と、利助がなだめるように言った。

しかし、おせいは言う。
「お前はお袖さんが、なぜ死んだと思いますか」。
「そりゃ体が悪かったし」。

「この人は20歳で、年期は20年だと言いましたね」。
「そうですが、それが何か」。
「では女としての幸せをつかもうとする時、一体この人はいくつになっているのです。その上、お金は和泉屋が持って行ったというわけですか」。

おせいは、半兵衛と政吉を呼び出した。
「伝八をやるのか」。
半兵衛は言った。

「あいつは悪い奴ですよ。あいつならこれなしで、ぶっ殺したいぐらいです!」
おせいは、静かにうなづいた。
だが政吉は「いやあ、あいつは殺すには惜しい腕してるからなあ。俺降りるわ」と言った。
「降りる!」

するとおせいは「政吉さん」と言って近づいてきた。
政吉の懐に、おせいの白い手が伸びる。
「怒らないで」。

そう言うと、政吉の襟を丁寧に直してやる。
「いいですね?」
「やってくださいますね?」

政吉は大人しくなった。
「怒っちゃいねえけど、さ」。
「頼みましたよ」。
そう言うと、頼み量の小判を渡す。

政吉の手から、半兵衛が小判を取る。
「おっ。お前なんだ!」
2人は肩をぶつけ合いながら、去っていく。
利助が後姿に向かって、「博打なんか行って、無駄遣いしちゃいけませんよ!まじめにやってくださいね、まじめに!」と言う。

町に戻った2人は歓楽街を歩く。
政吉が「一発勝負やってくか」と誘うが、「いや、今日はまずいんだ」と半兵衛が言う。
「俺、うち、おん出てんだ」。
「なあんでだよ、てめえのうちだ。帰ればいいじゃねえか」。

「そこんところが微妙なんだよ。おん出たようであり、追い出されたようであり」。
半兵衛が言っているのを聞かず、政吉は声をかけてきた女を構い始めていた。
「俺には亭主でいながらだよ、亭主と言うものの権威が…」。

半兵衛が振り返ると、政吉はいない。
女と話している政吉を連れ戻した半兵衛は、「まじめに人の話聞けよ!」と怒る。
「俺には亭主でいながら、その、亭主と言うものの権威が…ないんだよ」。

語尾は消えそうに、弱々しくなった。
「だから今日は、お春にこの金叩きつけて、俺にも甲斐性があること見せてやりてえんだよ」。
上の空の政吉は「おめえの話は聞いちゃいられねえよ」と言った。

「いや、だから話聞いてくれよ。それでな」。
「わかったわかった」。
政吉は半兵衛の胸をぽん、と叩くと、「お春さんに相談してごらん」と言って岡場所の方に消えた。

1人残った半兵衛は「ばかやろう、男も中年になると複雑なんだよ」とつぶやいた。
半兵衛に呼び込みが声をかける。
「良い娘、いる?」と聞いた半兵衛だが「ダメだ」と言って、家に向かう。
呼び込みが残念そうに去っていく。

坊主そばの裏口。
半兵衛が家に入ろうか、入るまいか躊躇していると、お春の声が聞こえてきた。
「あんな奴に惚れてやしないわよ、いなくなってせいせいしてるわ」。
半兵衛がガックリする。

続いてお初の「うそお」という声が聞こえる。
「ほんとよ」。
「うそだってば、あたいにはわかってるんだから。旦那さんがいなくなってから、おかみさんずっと寂しそううだもの」。

半兵衛の顔が、パッと輝く。
「そうお。そう見えたとしたら、私がきっと後ろめたかったからでしょう」。
「どうして後ろめたいんですか?」

「私は、おかみさんなんかじゃないのよ。ただの奉公人。雇われ人がその家の亭主を追い出すなんて、聞いたことないもんね」。
「ああ、あの、おかみさんじゃないんですか」。
「私はお初ちゃんと違ってね、身寄りがないのよ。15の時に火事にあって、独りぼっちになって。それから、いろんなところで働いたんだけどさ。このとおりの性分でしょ、どこでもケンカしちゃってさ」。

「去年の秋だったわ。急にふらふらーっとして」。
「倒れたんですか」。
「気が付いたらあの人が、店の中かつぎ込んでくれてさ」。

「『お前、腹が減ってるんだろう』って、卵の入ったあっつーい掛けそばをつくってくれたのよ。あん時の月見ほどおいしいと思ったものは、なかったわ…」。
お春の声が、しみじみとする。
「へえ、優しかったんですね旦那さん」。

「ま。それで何となく、ここで働くことになったんだけど、男と女が一つ屋根の下に暮らしてれば…、わかるでしょ」。
外で聞いていた半兵衛が照れて、首をかしげている。
「そのうち、なるようになっちゃって」。

「やっぱり惚れてるんだ、おかみさんは」。
半兵衛がうれしそうに頭をかいて、入っていこうとした時だった。
「でもね、あんなろくでなし、本当は帰って来ないほうがいいんです!」

お初のきっぱりした声がした。
半兵衛の足が止まった。
「そうかしら」。
「ううん、ほらあ、女は男次第って言うでしょ。あんな男ついてたらおかみさん、だめになっちゃうよお」。

「だいたいね、博打するような男なんてほんと、ダメだもん!」
「茂作さんはどうだった?」
「うん、茂作さんは全然、そういうんじゃないの!茂作さんはね、朝から晩までずうっと働いてるけど、文句ひとつ言わなくて、悪いけどここの旦那さんとじゃ月とすっぽんね!」

「はあ」と、お春が感心する。
お春が戸に近づく気配を感じて、半兵衛はすばやく姿を消す。
「よいしょっと!」と言って、お春が漬物の樽を表に出す。

お春が空を見上げる。
「お初ちゃん、ちょっと来て!ほら、綺麗な星空!」
お初がやってくる。

「明日も天気ですね!」
「忙しいわよ、男手はないんだし、頼んだわよ!」
「はい!」

半兵衛は、とぼとぼと歩いていた。
「あら、半ちゃん!」
源五郎が声をかけてきた。

「こんばんわ」。
「どうしたの」。
「ちょっと星が綺麗だからね」。
すると源五郎は「食べる、おいも」と言って、焼き芋を出してきた。

「いただきます」。
「寒いわねえ」。
2人は並んで、焼き芋を食べている。

「半ちゃん!」
源五郎が抱きついてくる。
半兵衛は逃げていく。

行った先は、岡場所の2階に部屋を取った政吉のところだった。
「呆れて話にもなんねえな。さっきの勢いはどうしたんだよ」。
屋根の上に、政吉が出て来る。
「女房に金叩きつけて、出てけ!って言うんじゃなかったのかよ」。

「泊めてくれよ」。
下の道から半兵衛が言う。
「冗談じゃねえよ、こんなの、いるしよう」と女郎を指して言う。
「第一、ここは俺の住処じゃねえよ」。

「冷たいこと言うなよお」。
「勝手にさらせ。俺はな、決めてんだよ。何とでも言え。人が何と言おううとも、この世で頼れるのは自分だけだ」。
「お前には、わからねえんだよ」。
「何が」。

「ろくでなしってものがどういうものか、お前にはわからねんだ」。
半兵衛と政吉は、屋根の上で並ぶ。
寒さに、半兵衛が手をこする。

「へえ、じゃ、おめえさん、そのろくでなしってのを知ってんのか」。
政吉が言う。
「へえ、じゃ、教えてもらおうじゃねえか。教えてくれ」。
政吉が、中へ入る。

「お前、死人と博打したことあるか」。
半兵衛が、ポツリと言う。
背後の部屋の障子に、政吉の影が映る。
「死人?」

「俺のあの蕎麦屋、昔は弥助っておっさんの持ち物だったんだ」。
「このオヤジが博打が好きでよ。下手の横好きってやつで、どうしても俺には勝てなかったんだ」。
「あのオヤジが、心の臓の病でもう命がねえとわかった時、急に俺に会いてえとぬかしやがった」。

半兵衛の頭の中に、弥助という男の姿が浮かぶ。
「行ってみると…。勝負をしてくれって言うんだ」。
今、半兵衛の店となっている店。

半兵衛が寝ている座敷にもう、体が自由にならない男が横たわっていた。
男は硬直して動かない手を必死に動かし、起き上がる。
「負けたらこの店をやるから、どうしても勝負をしてえって聞かねえんだ」。

男の指が畳を這うように動き、枕元にあるさいころと壷に手を伸ばす。
さいころが男の手から、ポロリとこぼれる
「俺はそん時、はっきりわかった」。
「こいつは俺だ」。

半兵衛は、男の手からこぼれたさいころを拾い、手に戻してやる。
「俺の成れの果てだとな」。
しかし男の手からは、今度は壷が落ちる。

男は顔を歪ませるが、男の手はもう、壷も握れない。
若い半兵衛が代わりに、壷とさいころをひろう。
片手に壷、片手にさいころを持つ。

壷にさいころを放り込み、男の目の前に伏せる。
「入りました」。
親父の目は、壷を見るときだけ、しっかりとした。
しっかりとした声で「ちょう!」と言った。

「ちょう!」
「良いんだな」。
「ちょう!」
もう、男はちょうとしか言わなかった。

勝負。
さいころは4と5だった。
半だった。

「博打に勝って、店は俺のものになった」。
「はあ」と、半兵衛は深くため息をついた。
「博打にとりつかれた者なんてな、みんなろくでなしなんだ」。

その頃、和泉屋は番頭から、お春が来た話を聞いていた。
「そんなものが来たなら来たで、なぜもっと早く言わないんだ!とびっきりのカモじゃねえか!」
お初のことだ。

「で、その茂作探しに出てきた娘ってのは、年はいくつだ」。
「本人が来たわけじゃないので。その方はちょっと…」と番頭が口ごもる。
「確か18のはずですよ」。

市五郎と仁助を相手に、花札をしていた伝八が言う。
「なぜおめえ、知ってるんだい」。
「そりゃあ、お初はね…、あっしの許婚なんです」。
「なにい、それじゃおめえ?!」

「ええ、本名は茂作ってんです」。
伝八は遠い目をした。
「だがあんまり、肥やし臭せえ名前なんで、とっくの昔に捨てちまいましたがね。そうですか。お初が出てきたんですか」。

坊主そばで、お初はかいがいしく働いていた。
「はい、おまちどおさま」。
「またどうぞ」。
「はい、いらっしゃい!」

「坊主そば」ののれんを、誰かがくぐる。
お春が「はい、いらっしゃいませ」と言う。
伝八だった。

「お初」。
客のどんぶりを下げていたお初が、振り向く。
「茂作さあん!」

お初が伝八に、抱きつく。
「江戸に来ていたんだってね」。
伝八の声は、優しかった。

「お初ちゃん?」
訝しげなお春にお初が「そう、この人が茂作さん!」と叫んだ。
「こないだ、和泉屋さん来てくれたのは、おかみさんですね。ありがとうございました」。

伝八が頭を下げる。
どこから見ても、ちゃんとしたお店の奉公人といった風情だった。
「私は3年前、あの方の口利きで、蔵前のさるお店に奉公したんでございますが」。
伝八は、この前、和泉屋に茂作のことを訪ねてお春が来た時のことを、知らないこととはいえ、大変失礼したと和泉屋が謝ったことを伝えた。

そしてお初のほうを振り向くと「お初。悪かったな。消して忘れたわけじゃないんだよ」と言った。
お初は泣きじゃくっていた。
「もう少しえらくなってから、と、つい欲を出しちまって、勘弁しておくれ」。
「勘弁だなんて」。

「もう、離さないからね」。
お初が泣く。
見ていたお春も、もらい泣きする。
伝八は、お初を夜まで預かってくれと言う。

店の旦那とおかみさんにまだ話をしていないし、これから所帯を持つのに許しを得ておかなければならない。
それを聞いたお春は「行き届いたお話で、まったく。うちの人に爪の垢でも飲ませたいくらいですよ」と言った。
「お初ちゃんは、大切に預からせてもらいますから」。

茂作、いや、伝八は帰って行く。
まだうれし泣きしているお初をお春は「何よ、いつまでも泣いて。茂作さんに嫌われるよ」とからかった。
お初は涙を拭いた。

店の奥に行くお初の背中を「しっかりおし」と言ってお春は優しく、ぽんと叩く。
お初の笑顔が、樽の中にうつる。
はにかんだ、幸せそうな笑顔。

その頃、和泉屋の前で和泉屋を見張っていた政吉は、伝八が和泉屋に入っていくのを見た。
「あれ、伝八じゃねえか。半兵衛のやろう、何やってんだ」。
半兵衛は博打場で、伝八が来るのを待っているはずなのだ。
利助が市五郎と仁助のことを、「あの連中も和泉屋の手先だ」と教えた。

座敷で、和泉屋は言った。
「だから世の中、おもしろいんだ」。
伝八は「ま、あっしの口から言うのもなんですが、かなりの上玉です。たった3年間会わねえうちから、めっきり色っぽくなりやがった」と冷たい口調で言う。

この前、お初を引っ掛けようとしていた市五郎と仁助を、政吉は酒に誘っていた。
2人は、政吉が一度会った自分に酒をおごることを不審がっていた。
だが政吉は「女郎を1人、足抜けさせたい」と持ちかけた。

「やってくれたら、3割出すぜ」。
「半分出しな」と、2人は乗ってきた。
「またまた~、そりゃないよ」。

「ケチケチすんなよ。おめえのような色男なら、茂作と同じで女いくらでもいるだろう」。
「茂作?」
「ああ、俺達の仲間に伝八という、どこから見ても江戸っ子のちゃきちゃきがいるんだ。ところがつい、3年前まで武州の茂作ってドン百姓だって言うから、笑わせんじゃねえか」。
伝八のことだ。

必要な情報は、手に入れた。
「ははは」と笑って、政吉は5割で手を打った。
「その代わり、和泉屋の旦那、連れてきてくれよ。顔と体見てもらってから、値をつけようじゃねえか」。

2人は承知した。
仕事の仕掛けは、終わった。
後は半兵衛にそれを知らせるだけだ。

博打場で半兵衛は、外れ続けてふてくされて寝ていた。
そこに「何をしてるか」と利助が来て怒るが、半兵衛は伝八が来るのを待っているのだと言った。
利助は政吉が得た情報を伝えた。

「実は茂作ってのは、伝八なんです」。
半兵衛が起き上がる。
「茂作?!」

政吉が指定した岡場所に来るため、和泉屋がやってきた。
「どこの女郎だ」。
「この角、曲がった店です」。

「女には、旦那が来ることをちゃんと話してあります。客の振りをし、バレねえように、そおっと入ってくだっさい。部屋は竹の間。突き当たりのひとつ手前の部屋です」。
市五郎と仁助もついていこうとするのを政吉は、仮にも足抜けだ、ぞろぞろついてもらっちゃ困ると引き止めた。
2人には酒をおごると言って、連れて行く。

和泉屋は政吉に言われた店に入った。
客の振りをして、他の女郎と客に見つからないように指定された部屋に入った。
部屋にはおせいが、こちらに背を向けて座っていた。

「足抜けするのは聞いていたが、今夜やるのか」。
和泉屋が、おせいの顔を見た。
頭巾をかぶってはいるが、おせいの美しい顔立ちは誰の目にも明らかだった。

「話は聞いた。お前ならいくらでも力になってやろう。さあ、行こうか」。
和泉屋は、おせいの手を取る。
その背中を、おせいがにらみつける。

手には、お袖のかんざしがあった。
おせいは和泉屋の首のうしろに、かんざしを刺す。
和泉屋は声も立てず、絶命する。

人ごみの中、政吉は懐剣を抜くと、後をついてくる市五郎を物陰で刺す。
市五郎もまた、声も立てずに絶命した。
気が付かない仁助が棒立ちになった市五郎に「兄貴、何してんだ」と声をかける。

政吉の懐剣の、刃が突き出る。
仁助もまた、刺す。
市五郎と仁助が、相次いで倒れる。

歓楽街で行きかう人々が、足を止めた。
息をしていない2人を見て、「あっ、人殺しだ!」という声があがる。
女郎が悲鳴を上げる。
人々が逃げていく中、政吉も一緒に走る。

和泉屋を置いて、おせいが部屋を出る。
客ともつれあうように廊下を歩いていた女郎が、目を留める。
「あれ?」

頭巾をかぶったおせいは、平然と歩いていく。
「ちょいと。ちょいと!」
女郎が声をかけた。

だがおせいは、まったく振り向かず、優雅な足取りで出て行く。
それを見送った女郎は「ちょっと…、やだねえ。この部屋はね、こないだ首吊りがあって今、使ってないんだよ」と客に説明した。
おせいが出て行った部屋は、お袖の部屋だったのだ。

部屋をのぞいた女郎と客が「うわあああ」と、声を上げる。
「人殺しい!」
部屋には、目を見開き、仰向けに倒れた和泉屋がいた。

坊主そばの座敷で、お初が丁寧に紅を塗っている。
伝八がお初を、迎えに来ていた。
お春に「あの、おかみさん。こいつをお初に」と言って、小さな、綺麗な布で織られた匂い袋を出した。

「もうすぐですからね、お店の方でお待ちください」。
そう言ったお春はお初に「お初ちゃん、茂作くさんからほら、匂い袋だよ。いいねえ~」と言って匂い袋を渡した。
お初が香りをかぎ、幸せそうに微笑む。

その時「お春大変だあ!」という声がして、半兵衛が駆け込んでくる。
「何よ、いきなり」。
「俺は今、大変なことを聞いてきたんだよ」。

お春が丁寧にお初の髪に、櫛を通している。
「あ、お初ちゃん、今から俺の言うことを、心を落ち着かせて聞かなきゃだめだよ」。
「うん」。

「ちょっと、忙しいのよ、、あたし達は今」とお春がうるさそうに言う。
「忙しくたって、俺の言うことは大事なことなんだから!」
半兵衛はそう怒鳴ると、お初に向かって「お前の探している茂作さんって人は…」と切り出した。
「ああ」と、お初は笑う。

「2年前に…、しんじまったんだ!」
「うそおぉお」と言って、お初もお春もきゃはははと笑った。
半兵衛の言葉に、店でお初を待っていた伝八が振り向く。

気が付かない半兵衛は、続けた。
「急には信じられないだろうけど、お初ちゃんの言うとおり、真面目で良い人だったそうだよ。みんなから惜しまれて死んだんだってさ」。
お春が「いや、あのね」と、口をはさむ。
だが半兵衛は「お前は黙ってろよ!」と聞かない。

「死んじまったもんは、しょうがねえや、な。やなことは1日も早く忘れて」と、ぽんぽんとお初の肩を叩いた。
「故郷へけえんな。江戸なんてところは、お初ちゃんみたいな人の住むところじゃねえよ!まったく」。
だがお初は平然として、お春に髪をすいてもらっている。

「どうした。泣きたかったら、俺の前で遠慮なく泣いちまうんだ」と半兵衛は優しく言う。
たまらずお春が「何、世迷言、言っててんだよ」と言う。
「お前は、いちいちうるせえ…」と半兵衛が怒ったがお春は「うるさいのはあんたなんだよ!」と遮る。

「何が!」
お春は半兵衛の袖を引っ張った。
「ちょっとこっち来てごらん」。
そして、店にいる伝八の背中に向かって、「あそこにいるのが茂作さんで、これからお初ちゃんを連れて行くの」と言った。

「!」
ギョッとしたのは、半兵衛だった。
驚いて、声も出ない。

その様子にお春が「何驚いてんの」と不思議がった。
「…どこへ行くんだい」。
半兵衛はやっと、そう聞いた。

きょとんとしたお春は「どこへ行くか、知らないわよ。だけどね、あの人ならあんたと違って大丈夫。あたしの保障つきなんだから」と言った。
「ねえ、まったくお初ちゃんを泣かせるような、でたらめ言わないでちょうだい」。
すると、伝八が急に「おかみさん」と声をかけてきた。

「大島町の佐野屋さんに、ちょっと用事を思い出したもんですから、恐れ入りますが、そちらの方にお初を寄越していただけませんでしょうか」。
そう言うと、伝八は出て行く。
続いて出て行こうとする半兵衛の背にお春が「駕籠拾ってきておくれよ」と言う。

「わかったよ」と半兵衛は返事をすると、戸の向こうに消えた。
外に出ると、雪が降っていた。
伝八の後姿が見える。

「お春」と半兵衛が戻ってきた。
「駕籠屋さんが来たよ」。
その言葉でお春が「さ、お初ちゃん」と言って、仕度の終わったお初を立たせた。
「はい」。

お初が立ち上がり、お春に向かって「長い間どうもありがとうございました」と頭を下げた。
半兵衛が「お初ちゃん、さっきはすまなかったね。まさかお婿さんが来ているとは思わなかったから」と笑った。
お春も「まったくそそっかしんだからあ!」と笑った。

仕度を終え、綺麗に髪を結い、着物を着て紅を塗ったお初を半兵衛が見る。
「綺麗だよ」。
「どうもありがと」とお初が笑う。

「外は雪だから気をつけてな」。
「はい」。
お春が、「さあ、さ、さ」とお初をうながす。

「幸せになるんだよ」と言って、「あ、ちょっと待って、濡れるといけないから」とお初を気遣う。
「また近所まで来たら、寄っておくれ」。
お初をお春が見送る中、台所で1人、半兵衛がかみそりを研ぐ。

えいほ、えいほと掛け声をして、雪の中、駕籠が行く。
「お初ちゃん達者でね」。
お春が声をかける。

半兵衛がすばやく身を翻し、駕籠の後を追っていく。
駕籠がまっすぐ行く。
半兵衛は、駕籠の後ろの角を曲がる。

駕籠が行くのが見える。
ひとつ手前側の道を、半兵衛は小走りに行く。
半兵衛は駕籠と、平行に走る。
駕籠の中では、お初が幸せそうに微笑んでいる。

伝八が、駕籠の先回りをしている。
寒さに手に息を吹きかけ、こすって、駕籠を待つ。
駕籠が見えると、そちらに向かって歩く。
伝八が、こちらに向かってくる駕籠の前に出ようとした時だった。

背後から半兵衛が、伝八の口をふさいだ。
路地にひきずりこむ。
半兵衛が、かみそりを構えた。

路地に半兵衛の姿が、消える。
お初の乗った駕籠は、暗い路地の前を通過していく。
次の瞬間、伝八が首を押さえて現れる。

よろよろと、お初が通過した駕籠の後ろに、伝八が出て来る。
伝八が倒れる。
お初の乗った駕籠は、軽快に走り去っていく。

倒れた伝八に向かって、通行人が「旦那?」と声をかけた。
伝八が動かないのを見て、「ひええ」と悲鳴があがる。
「死んでる!」
「人殺し、人殺しだああ」。

人々が叫ぶ。
半兵衛が去っていく。
背後で騒ぎが起きているのに気づいたお初が、声のする背後をちらと見る。
だが、匂い袋を取り出すと、お初はそれをぎゅっと握り締めた。

武州の故郷を思いだす。
雪深い村。
すすきに、雪が吹き付けたようについている。

山も雪で白かった。
屋根も、山も、何もかもが雪に覆われていた。
風が吹く。

お初が微笑む。
幸せそうに。
寒い風が吹く。
強い風が吹く。

えいほ、えいほ。
駕籠屋の声がする。
お初は駕籠にゆられていく。

ひゅううう、と風がうなっている。
坊主そばの中。
お春が仕度をしながら言う。

「ねえ、あんた、あの娘、もう、村らについたかしらね」。
「うん、そうだな」。
「幸せになると良いね。かわいい娘だったもんね。働きもんでさ」。

半兵衛は何も言わず、手を動かしている。
「あんたも一緒にお風呂へついてってもらう娘がいなくなって、寂しいね」。
「ふふん」と、かすかに半兵衛が笑う…。



オープニングが終わってから5分。
見事な流れに乗って、物語が始まります。
お袖の悲惨な境遇。
そこに響く、お初の大声。
天真爛漫と言うか、何もわかっていない、田舎娘丸出しの大声。

政吉がお初を助け、お初をナンパ?し、お初が恋人を探しているとわかると、半兵衛に押し付けに来る。
女できたんだよぉと言って、お春にこづかれ、すいませんと謝る半兵衛。
この辺り、笑っちゃう。

そして助けてもらったのに、「博打やる人嫌い」とあっさり、政吉に言い放つお初。
政吉の「ベターッとされるの嫌」という言い方も笑えます。
お春が気に入ったと言うと、ものすごいスピードで置いていく政吉。
このやり取りの間、お初はただ、ニコニコしている。

「前略おふくろ様」で海ちゃんをやる前の桃井さん。
でもやっぱり、すごくうまい!
無防備と言うか、ちょっと思慮の足りない、でもかわいい田舎娘を完璧に演じてます。
さすが。

ダメだ!
お願いしますぅの半兵衛こと、緒形さんとのやり取りはさすが、芸達者同士。
ものすごいテンポに乗せられて、笑いながら進んでいきます。

怒った半兵衛が外に出ると、源五郎。
ごつい源五郎が、しなしなしているのが本当におかしい。
本当になぜか、似合っている。

源五郎に迫られ、逃げる半兵衛。
「淡白ねぇ…」と首をかしげる源五郎。
ここまで本当に、一気に見せます。

ダメだと言ってもお初は結局、坊主そばにいる。
くるくると良く動くお初が、足を足でかく。
その時、ちょっと見える足首。

ひげを整えている半兵衛が、首を伸ばしてそれを見てしまう。
そしてハッと、我に帰る。
お初の若さ、無防備さ、それに気が付いてない危険さ。
この辺りもすごくうまい。

博打に行こうとする半兵衛は、お初に見つかる。
お初と半兵衛、お春のやり取りがもう、本当にすごい良いリズムでおかしい。
それぞれの性格と個性が炸裂。

一気に、一気に進んでいく。
お初に塩をまかれて、「とけるっ、とけるよ」と泣きそうな半兵衛がすごくおかしい。
「旦那さぁん」に、わああああと泣き叫んで出て行く。

この後もまた、家に入れない半兵衛の様子がおかしい。
1人で「にゃはーっ」と言った表情で照れたり。
だがまた、お初の一言で入れなくなる。

軽快で笑ってしまうけど、ここでお初に対して語られるお春と半兵衛のいきさつはかなりシリアス。
お春が半兵衛に何だかんだ言っても、ついていくのは半兵衛の優しさを身をもって知っているからだとわかる。
そしてろくでなしでも、半兵衛がとても優しく、良い男であることもわかる。

しかしお初は、あんな男だめだもんとシビアに言い切る。
何度も、何度も、茂作がいかに真面目か。
博打など縁のない働き者か、お初が語る。
だから、後の茂作に衝撃を受ける。

お袖が死んでも、何の感情も持たない伝八。
抗議に来た楼主に、「博打なんてやるほうが悪い!」と言う伝八の口調が鋭い。
働き者で、博打など縁がなかった茂作。
この変わり様は、どうしたことなのか。

一体、江戸で茂作に何があったのか。
伝八は、和田浩二さん。
このセリフでこちらは、伝八の江戸での生活に思いをはせることができます。
何かがあったんだと思わせる、和田さんのセリフ。

お初に対して、限りなく優しい茂作になる。
だがそれは仮面。
お初に対しても伝八は、お袖同様。
何の感情も持たない。

同じ人間かと思うほど、冷たい態度と口調。
もう、本当に本当にお初が幸せそうだから、哀れになる。
さらに、そういう事情とは関係なく、仕事は進んでいく。
和田さんのセリフと演技も、一見の価値ありです。

そして今度は、政吉を相手に語られる、半兵衛が店を手に入れた経緯。
「こいつは俺だ」。
今まで情けなかった半兵衛の口調が、がらりと変わる。

「教えてくれよ」とバカにしているような政吉が、言葉を返せなくなる。
壮絶な過去。
へらへらしているようで、半兵衛もお春も相当ハードな人生を送ってきているんだ。
それでいてもやめられない博打、業の深さ。

仕事のシーンは、しんとしたお袖の部屋から。
和泉屋がおせいを連れて行こうとした時に、仕事屋のテーマが流れる。
おせいがかんざしで和泉屋を仕留めた背後に、刀をふりかざす錦絵が映る。
音楽と錦絵、仕事の見事な調和。

政吉が突き出した懐剣の先が、ぶるぶると震えているところもリアル。
まだ政吉だって、殺しのプロではないんだ。
しかし仕事は遂行する。

そして最後は、伝八を仕事にかける。
毎回どんでん返しがある仕事屋だけに、伝八が来ているのを知らない半兵衛がしゃべりまくるピンチがある。
まさに「!」

お初の駕籠と前後して、伝八と半兵衛が行く。
駕籠を止めようとした時、半兵衛が暗闇に伝八を引きずり込む。
伝八を切るシーンがなくて、効果音だけでこちらに見せる。
首筋を伝八が押さえて倒れ、かみそりから血が滴っているからわかるんですが、考えたらすごい。

伝八の前を、お初の駕籠が通過していく。
通過した後を、伝八が倒れる。
このタイミングの憎さ。

何も知らないお初。
背後で騒ぎが起きているのは、気が付く。
でもそれが茂作の一大事だとは、知らない。
政吉に助けられたお初。

今また、半兵衛に助けられたことも知らない。
茂作のことも。
ただ、自分を待っている幸せに思いをはせて、微笑んでいる。

真夏に見ても冷たさ、寒さを感じるような風の音。
雪に覆われた故郷。
お初の微笑。

知らなくて良い。
でも見ていて、しんと気持ちが冷えていく。
どうしようもなく、寒い。
冷たい。

この後、何も知らないお春の明るい声がまた、切ない。
返事をしない、できない半兵衛の心のうちも、つらい。
なんと切ない。
やるせないラスト。

笑いと、軽快さと、この切なさ。
見事な構成。
仕事屋は名作だと思います。


「仕事屋」考 最終回「必殺」が描いたテーマ

最終回。
半兵衛とお春の2人は、元に戻っている。
裏の顔を持つことは、2人の仲を引き裂くには至らなかった。
それほど、この2人は強く結びついているのだとわかる。

だからこそ。
だからこそ、最後に半兵衛が追われて旅立ち、お春が1人残るラストが胸を打つ。
あれほど素人ぽかった政吉が、親子の情に負けそうになるおせいのため、仕事屋として死んでいくのが切なくなる。

政吉を失ったおせいが死のうとするのを、やはり素人だった半兵衛が止める。
そして諭す。
「死なせて。政吉のそばに行かせて」。
この時の半兵衛の言葉は「必殺」史上、いえ、時代劇の中でも名セリフではないでしょうか。

「人間生きるため死ぬため、大義名分を欲しがる。
そんなものぁ、どうでもいいんだ!
明日のない俺たちは、無様に生き続けるしかないんですよ」。

うちひしがれるおせい。
半兵衛にも追手が迫っている。
「おかみさん、いや、おせいさん。無様に生き続けましょうよ」。
そして半兵衛は自ら囮になって、おせいを助ける。

今よりはるかに寿命が短く、病やケガや自然や災害に対して日本人が無防備で、身分制度がある時代。
そこに生きる人の生と死を描いたものが「必殺」、いえ、時代劇。
半兵衛の言葉は、そのひとつのテーマに対する答えではないでしょうか。

命があれば死にたくないから、なりふり構わず必死に生きる。
そうすれば、無様になることもある。
だから無様に思われないため、格好をつけ、言い訳をするため、大義名分を欲しがる。
大義がない戦争は士気が下がるって、言いますね。

でも生きることに、大義名分はいらないと半兵衛は言うんです。
追われる自分には、もう明日もない。
大切な人を失ったおせいにも、明日はないだろう。
明日、つまり希望、生きる目的、張り合いはない。

ただ生きているだけになるのかもしれない。
それでも生きること。
生き残った自分たちがやることって、そういうことじゃないのか。

すっぱり自害する武士。
大義名分のために死ぬ武士と「必殺」の殺し屋や庶民は違う。
自分たちは悲しかろうが、みっともなかろうが、みみっちい人生を無様に生きよう。

それで良いだろう。
俺は生きる。
あんたも生きてくれ。

市井の人の生と死、それに立ち会う殺し屋たちの物語が「必殺」。
この「必殺」に込められてきたテーマのひとつを、半兵衛が言っている。
だから「仕留人」と「仕事屋稼業」は、地味だろうと「必殺」の重要な作品になっていると私は思います。

仕事屋の厳しさを常々説いていたプロだったおせいは素人から成長した2人の仕事屋に救われ、諭され、生きていくことを教えられる。
勝負で言えば、逆転。
掛けごと勝負を描いてきた「仕事屋」の行き着いた見事な逆転ラスト。
お春との絆もすべての縁を断ち、博打好きのろくでなしのそば屋の主人だった半兵衛は、1人、仕事屋として旅立つ。

時に軽妙に、時に切なく展開された1話1話。
そのクオリティの高さ。
全編を通じて描かれる親子、夫婦、友情。
最後の、アマチュアがプロへ成長した果てに訪れた厳しく悲しく、たくましい結末。

「必殺」シリーズに興味のない人、時代劇に興味がない人でも仕事屋は見られるだろう、うなるだろうと思うのは、この人間ドラマがしっかりしているから。
そして、人が生きることに対してのエールが最後にある。
古今東西、時代劇があの時代を選んで描いてきたテーマがある。

ラスト。
歌を口ずさみ、半兵衛を一人、ずっと待っているであろうお春が映る。
かげろうが立ち上る中、地面から起き上がる半兵衛。
ふたりは、同じ歌を口ずさんでいる。

下手な人相書きを破り(これほんとにちょっと、奉行所は反省しましょう)振り向く半兵衛。
そこに生命力としたたかさが溢れている。
俺は生きるよ。
あんたも生きてくれ。

緒形拳、名演。
林隆三、ベストワーク。
草笛光子もまた、ベストワーク。
岡本信人、中尾ミエのクレジットも光る名演です。