でなきゃお前を殺す 第4話「逆転勝負」

第4話、「逆転勝負」。

半兵衛とお春は出前に行って、岡引き・閻魔の弥三が島帰りの閻魔の弥三を脅して金を取っているところに居合わせた。
弥三は半兵衛とお春も脅す。
その直後、仕事屋に依頼が来た。

島帰りだが、今はまじめに勤める小間物屋の吉五郎が、弥三の十手を取り上げてほしいと言うのだ。
殺せば厄介なことになる。
だからくれぐれも殺さず、十手を取り上げてくれ。

吉五郎の依頼で半兵衛と政吉は、弥三の娘のおすみに接近することになる。
あんな弥三でも、娘は目の中に入れても痛くないほどかわいいらしい。
利助の話では、おすみは閻魔の弥三が父親のため、浮いた話のひとつもないらしい。
いつだったか、おすみに近づいた男を弥三は十手に物を言わせて百叩きの刑にした。

おすみを見た半兵衛は、「いいなあ。若くってかわいくって」と言う。
だが政吉も譲らない。
半兵衛と政吉が賭けをした結果、おすみに接近するのは政吉になった。

かんざしを買って、おすみに言い寄った政吉だが、弥三に見つかり散々な目にあう。
しかしその直後、うずくまる政吉に声をかけたのは、おすみの方だった。
おすみは政吉を家に誘い、自ら帯を解いた。
天女のように見えたおすみが、妖艶な笑みを浮かべて政吉を誘う。

戸惑う政吉は、おすみに告げる。
自分の父親が、何をしているか。
どういう人間か、知っているか。
だが、おすみは父親への愛情と父親の所業の間で苦悩していたのだった。

自暴自棄になるおすみと、政吉の間にやがて、本当の愛情が芽生える。
そんな矢先、弥三が殺される。
土間に倒れた弥三を抱き起こすおすみ。
政吉は、表に出た。

しかしその時、捕り方が迫ってきた。
やむを得ず逃げる政吉。
その影でそっと路地から出て行くのは、吉五郎だった。

だが弥三を殺したのは、吉五郎だった。
吉五郎はもう一度、盗みに手を染めるつもりでいた。
そのためには、つきまとう弥三が邪魔だった。
吉五郎は弥三のめかけのおくらと共謀し、弥三を殺したのだ。

仕事屋への依頼は、罪を仕事屋になすりつけるためだった。
吉五郎はおせいを尋ね、苦情を言い立てる。
十手を取り上げてくれとは言ったが、殺してくれとは言っていない。
しかしおせいは利助にもう一度、吉五郎を調べるように命じる。

奉行所では、政吉を犯人と断定した。
政吉にはおすみとのことで、弥三を殺す動機がある。
近所の人間も、おすみと政吉が親しくしていたことを証言した。

おすみは政吉ではないと言うが、奉行所では政吉を好きなおすみがかばっていると判断している。
出会い茶屋に潜む政吉を訪ねたおすみは、父親の着物をたたむ。
「たとえ閻魔だろうが鬼だろうが、あたしにとっては大事なおとっつあんです」。

おすみは、そう言った。
父親を殺した相手が憎い。
そう言いながら、おすみはおくらに父親の形見分けをしに出かけた。

こんなことがあった後だからと心配した政吉が、後をつけていく。
そこに利助が現れ、今度の仕事は半兵衛だけにやらせると告げた。
激昂する政吉は、おせいのもとへ走る。
その間におすみは一人、おくらを訪ねていく。

神社の敷地内で、おせいは半兵衛に今度の仕事は半兵衛だけに依頼すると告げていた。
それは政吉が奉行所に追われているからなのか。
聞いた半兵衛におせいは、半兵衛も政吉が下手人だと思うのか聞いた。

違う。
おせいも違うと思っていた。
そこに利助の「いけません、政吉さん!」という声が響いた。

「おかみさん、これはどういうことなんだ。どうしてこの仕事から俺をはずさなきゃいけねえ」。
政吉がおせいに詰め寄る。
「それは私が決めることです」。

おせいの声は冷静だった。
「そうかい。おかみさん、俺が奉行所に引っ張られて、この裏稼業がばれるのが怖いんじゃねえのか。俺はとにかく、てめえに降りかかった火の粉はてめえで払う!」
おせいは静かに言った。
「あなたは、仕事屋の掟を破ると言うのですか」。

「掟え?」
政吉は斜めに構えた。
「何言ってんだよ、その掟ってのは、おかみさんが決めたんじゃねえか」。
「私が決めた掟なら、どうでもいいと言うのですね」。

「とにかく俺は好きなようにやらせてもらうよ。俺は父親を殺されて泣いている、一人の娘の恨みをどうしてもはらしてやりてえんだよ!勝手にやらせてもらうよ!」
そう言うと政吉は去ろうとした。
「政吉!」
突然、おせいが声を張り上げた。

政吉の肩をつかむ。
その勢いに、政吉が体の体勢を崩す。
「勝手な真似は許さないよ!」

おせいが、政吉の頬を張る。
2回、3回。
「でなきゃお前を殺す!」

その剣幕に思わず、政吉が懐剣を抜く。
「おかみさん!」
利助が走り寄ろうとする。
半兵衛がすっと、止める。

おせいは政吉が抜いた懐剣を、手でつかんでいた。
政吉の動きが止まっていた。
おせいの手から血が流れ落ちる。
政吉が、おせいの顔を見上げた。

「政吉さん」。
おせいの目は今にも涙を流しそうな、哀しい目だった。
声も哀しく、つらそうだった。

政吉がおせいを見る。
だが次の瞬間、おせいはすっと、政吉から懐剣を取り上げ、鞘に収める。
いつもの冷静なおせいだった。

「政吉さん。あなたが地獄へ落ちる時は、私も一緒です」。
おせいは取り上げた懐剣を、政吉に差し出す。
政吉は無言でそれを受け取る。

おせいが去っていく。
政吉が去っていくおせいの後姿を見ている。
視線が地面に落ちた。

だが、もう一度、政吉はおせいを見る。
おせいが遠ざかっていく。
政吉は遠ざかるおせいの背中を、ずっと見ている。
見つめている。

その頃、おすみはおくらの下を訪ねていた。
湯上りのおくらの様子が、おかしい。
吉五郎が座敷に来ていた。
おすみを、吉五郎が捕らえる。

半兵衛は、おくらの家に急ぐ。
誰もいない。
水音がする。

風呂場で半兵衛は、何かに気づく。
湯の中で手に取ったのは、長い髪の毛だった。
長い髪の毛が、湯に浮いている。

風呂場からずっと、水が滴り落ちる後が続いている。
廊下へ。
半兵衛はそれをたどっていく。

水は座敷まで続いていた。
半兵衛が戸を開ける。
そこには、政吉がいた。
政吉の前には、息絶えたおすみがいた。

何が起きたのか。
2人にはその様子が、目に浮かぶ。
おすみの顔が、湯につけられて目を見開いていた。
政吉の手には、おすみにやったかんざしがあった。

「この仕事は私がお2人にお願いします」。
半兵衛と政吉に、おせいが金を積む。
利助が調べてきた。
吉五郎の昔の盗人仲間が、仲間に再び引き込まれるのをおそれてすべてを話した。

奉行所の手が回るのを怖れた吉五郎とおくらは、今夜、江戸を発つ。
「じゃ、江戸を発つ前に」。
半兵衛の言葉が、合図のようになる。

夜半、半兵衛と政吉が吉五郎とおくらが潜む水茶屋の前に立つ。
半兵衛が、なめし皮でかみそりをなめす。
政吉は、懐剣に油をたらす。
手ぬぐいで、それをぬぐう。

吉五郎とおくらが茶屋から、出て来る。
辺りをうかがいながら、逃げていく。
半兵衛と政吉が、後を追う。

吉五郎とおくらは鳥居が並ぶ場所に差し掛かった。
半兵衛がおくらの肩を抱いている吉五郎を、闇の中に引きずり込む。
吉五郎がいないことに、おくらが気づく。

「お前さん」と吉五郎を呼ぶ。
吉五郎の返事がない。
姿もない。

「お前さん」。
「どこにいるんだよ?」
「お前さん!」
おくらの声が鬼気迫ってくる。。

半兵衛が、吉五郎の口を押さえていた。
羽交い絞めにされた吉五郎に向かって、政吉が突進してくる。
懐剣を吉五郎に向かって刺す。

深く刺す。
さらに深く刺す。
深く、深く刺す。

半兵衛が出て行く。
「お前さん」。
おくらはやってきた半兵衛に声をかけようとするが、半兵衛は知らん顔で去っていく。

「お前さん」。
「どこへ行ったのさ」。
「お前さん!」
「お前さん!」

闇の中、1人残されたおくらは必死に声を張り上げた。
だが誰も答えない。
誰もいない。

その夜、政吉は女郎屋にいた。
おせいからもらった仕事両の小判を、派手に投げる。
女郎たちが群がる。

政吉が倒れる。
「あんたぁ、もうないの?」
「俺、政吉ってんだ!」
政吉が女郎たちに囲まれ、自暴自棄の笑いを浮かべる。



どっちがおすみに近づくか、半兵衛と政吉の賭けは何と、自分の脇の下の毛を抜いた長さ比べ。
政吉が半兵衛の倍の長さ。
「馬並みだな」と呆れる半兵衛に「毛並みが良いんだよ!」と言う政吉。
く、くだらないけど、笑っちゃう。

閻魔の弥三は、今井健二さん。
殺さないでくれの依頼が、結局殺すことになると予想がつく。
ところが弥三が殺されてしまう。

何と、今井さんが被害者に!
今井さんの岡引き、閻魔の弥三と設定があれば、「仕置人」の鉄と錠を相手に張り合った岡引きを思い出す。
もう、今井さんらしくない展開。
どんでん返しの「仕事屋」らしい。

父親への愛情と、父親の所業と、友達も恋人もいない孤独に苦しむおすみ。
弥三のためにおすみに近づいた政吉が、おすみに本気になっていく。
「たとえ閻魔だろうが鬼だろうが、あたしにとっては大事なおとっつあんです」。
奉行所に追われる政吉は、おせいの言うことも聞かず、暴走しようとする。

それまで冷たく、事務的だったおせいが突然、感情を爆発させる。
「政吉!」の声は元締めではなく、母親の声。
誰よりも大切と思いながら、「お前を殺す」と口走るおせい。
プロとして生きるおせいには、そうとしか言えない。

だがこれは、普通なら暴走する息子を諌める母親の図。
利助が止めようとするのを、黙って押しとどめる半兵衛。
半兵衛には、すべてわかっている。

政吉を手にかけたなら、おそらくおせいも死ぬであろうことが。
半兵衛には、すべてが見えている。
おせいの哀しみは、第2話より深い。

しかしこの政吉とおせいの立ち位置が、最終回では逆転してしまうんですから。
「仕事屋」は全編を通して見た時、すごさがわかる。
おせいの様子に、さすがに政吉も察する。

こうまでして自分を止める。
それは元締めの行動ではない。
政吉のおせいを見送る目。
その目が「おふくろ…」と言っている。

半兵衛、政吉、おせい。
緒形拳さん、林隆三さん、草笛光子さんの無言の演技。
目が、すべてを語っている演技。

おすみは、菊容子さん。
かわいらしい娘と、政吉を誘う妖艶さ。
天女と悪女が同居する様。
父親への愛情と憎しみで、苦悩する様。

そして殺されるシーンが、あまりにも痛ましい。
目をそむけたくなる。
改めて、菊容子さんのご冥福をお祈りします。

さらに今回は源五郎がパワーアップ。
半兵衛が弥三に家を突き止められ、叩けば誇りが出そうな奴、出ないなら出すってこともできるぜと脅されているところに登場。
うっかり、博打が見つかったのね?と口走り、弥三に口止めのネタを提供してしまう。

弥三が去った後、半兵衛にベタベタ、ベタベタすると、お春がもう、不愉快この上ないと言う顔をしてみる。
「なめくじっ!」と叫んで、お春が源五郎に塩をぶちまける。
「なめくじ、怖いっ!」と源五郎が叫んでいるところがおかしい。

「何よ、なめくじなんかいないじゃない」と気づいた源五郎が「ねえ、半ちゃん、うちに遊びにおいでよ」と再び誘う。
お春が間に割って入る。
すると源五郎。
「女の嫉妬って嫌ねえっ!だから女は嫌いよっ!」と言って出て行く。

源ちゃんはおくらの家に急ぐ半兵衛の前にも、もう一度、登場する。
「ねえ、半ちゃん、家においでよ」と言って、半兵衛の邪魔をするんですね。
いやいや、たまらなくおかしい。
この話は菊容子さんを襲った悲劇を知ると、見るのがとてもつらい話なのですが、源ちゃんは救いになっているかも…。


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俺の成れの果てだとな 第3話「いかさま大勝負」

「必殺必中仕事屋稼業」の第3話「いかさま大勝負」。

苦しい息の下、手紙をしたためる女郎。
「どうせ死ぬ身ですから、あたしの身はどうなろうともかまいません」。
ゴホゴホと咳き込む。

「この上は、しらはたさまのお力で、あのにくい和泉屋与兵衛と伝八を」。
「あのにくい和泉屋与兵衛と伝八の2人を、地獄の底へ突き落としてください」。
戸が開いた。
楼主が入ってきて、「どうしたんだ、お袖。もう昼をまわってるんだぞ。いつまでゴロゴロしているんだ」と叱咤する。

早く顔を作って、客を迎える準備をしろと言われた時だった。
表から大きな声が聞こえてきた。
若い女性の声だった。
「やだああ、離してったらあ!」

女郎達も騒ぎを聞いて、表を見る。
「離してったらばあ!」
人を呼ぼうと思ったのか、娘は「火事ですよ、火事!」と叫んだ。
お袖と呼ばれた女郎は楼主が外を見ているその隙に、先ほど書いた手紙にかんざしを添えた。

「冗談じゃないよ!その手は食わないよ!ここは女郎屋じゃないかあ!」
若い娘は、叫んでいた。
それをなだめようとするのは、ヤクザ者の市五郎と仁助だった。

「話せばわかる」と2人は言ったが、若い娘は「助けてえええ」と叫び走る。
ちょうどその時、女郎屋から政吉が出てきた。
娘は政吉の後ろに駆け込んだ。

「おうい、どうしたんだよ」。
「人殺し!うそつき」。
政吉が聞くとその娘は「あたいが道聞いたらね、知ってるっていって連れてきたのが女郎屋なんだよ!」と言った。

「この手の顔には気をつけろって、ねえ、あんた、八丁堀行こう?」と娘は政吉に言った。
「ねえ、八丁堀!」
「ようしよし、おめえ騒ぐんじゃねえ。そっち行ってろ」。

政吉は娘を置いて、市五郎と仁助に「聞いたとおりだよ、どうやら兄さんたちの方が分が悪そうだな」と言った。
すると2人は、匕首を抜いてかざしてきた。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ、兄さん、ヤッパはやばいよ」。
政吉は手を上げたが、「かといって、このままじゃ兄さんたちも引っ込みがつかないだろうし…、ここはよ、これでどうだよ?」と懐からさいころを出した。

「チョウ目が出たら、この娘は俺が預かる」。
市五郎は「半目が出たら?」と聞く、
「煮るなら、焼くなり、好きにしろい!」

それを聞いていた娘は「ちょっと!」と言ったが、政吉はさいころをころがしてしまった。
結果はチョウだった。
しかたなく、市五郎と仁助は去っていく。

その後姿に政吉は「ばかやろう、俺は天才なんだよ!」と両手を挙げて叫んだ。
振り返ると、娘がいない。
「え?」

政吉が目をやった先では、娘が脱げたわらじを片方の足でとんとん、と跳びながら、拾い上げるところだった。
娘は政吉に向かって、ニカッと笑う。
わらじが切れて履けないので、政吉は娘を背負って川原沿いを歩いていた。
娘の名前は、お初。

「危ねえところを助けたんだからよ、今日は俺と付き合えよな」。
しかしお初は「あたしはねえ、博打するような人はだいっきらいなの」と言った。
「何よ、チョウが出たからいいようなももの、半が出てたらどうするつもりだったのよ!」

「見な」。
政吉は懐から、さいころを出した。
「なあに、これ」。
「チョウとチョウを足せば、チョウだよ」。

お初はさいころを見て、目を丸くした。
「じゃあ、今のいかさま?」
「そうだよ」。

お初は顔をしかめた。
「あんたってやな人ね。チョウとチョウなら、半にはなりっこないじゃない。きったない人ねえ」。
「助けられておいて、それはないぞ」。

政吉はお初の肩に手を回した。
「そういう風に、しないでくれる?」
お初は政吉の手を払いのけようとするが政吉は「俺と今日一晩つきあわねえか」と言う。

しかしお初は「ねえ、茂作さんて人、知らない」と聞いた。
「ちょっと、やだなこの手」。
「何だ、茂作って」。

そう言った政吉だがすぐに「あっ、何だお前、男がいたのか!」と叫ぶ。
「一緒に探してくれるでしょ?」
「きったねえな、冗談じゃねえよ、お前、1人で探せ!1人で!」
そう言って政吉は離れる。

「ねえ、茂作さんて言うの、ちょっとー、一緒に探してよー」。
お初はわらじを片手に持って片足で跳びながら、追いかけてくる。
「帰れ!」
「ねえ、探して!ねえってば!」

お初は半兵衛の坊主そばにいた。
珍しそうにきょろきょろと見渡す。
政吉は、お初を半兵衛の店に連れてきたのだ。

お初が探しているのは、許婚の武州の大里村の茂作だという。
江戸へ出て一旗あげると言って、3年。
お初はずっと待っていたが、なしのつぶてだった。
それで江戸に茂作を探しに来たらしい。

話を聞いたお春は「しかしそれじゃ、雲をつかむような話だねえ」と応えた。
半兵衛は、「女、できたんだよ、おんなぁ」と小指を立てる。
お春が半兵衛を突き飛ばして「ちょっと!」と怒る。
「すいません」。

「で、あたしたちに何しろって言うのさ?」
「そこだよ」、と政吉が言う。
「事情がわかった今じゃ、知らん顔もできないでしょう?」

「そりゃ、俺が引き取ったって良いんだよ。だけど俺はあんたと違って」と、半兵衛をぽんと叩く。
「独身だろう。だから一緒に暮らしたりしてベターッとされるの、やなんだよ俺」。
それを聞いたお初は「何言ってんのよ。あたしには茂作さんって人がいるんだから、あんたみたいなのに惚れるわけじゃない」と言った。  
「だいたいね、あたし博打するような男嫌いだもん」。

すると日ごろから半兵衛の博打好きに苦々しい思いをしていたお春が「えらい!そうこなくっちゃ!」と叫んだ。
「あんた、お初ちゃんとか言ったわね、あたしあんた気に入ったわよ」。
政吉がうれしそうに「気に入ったってよ!」と言った。

「良かったな」とお初に言うと「頼むな!」と言って走ってそば屋から出て行く。
「おい、だめだ!「」と半兵衛が追いかけていく。
「あんなの置いてったら!」
しかしお春は笑いながら「ねえ、あんた、この娘、うちに置いてあげようよ」と言う。

「いやダメだ!それは絶対ダメだ!」
「俺は置かねえぞ、うちになんか!」
「お願いしますう」とお初は言った。

「だめだよっ」と半兵衛。
「お願いしますう」とお初。
「だめだ、置くわけにいかないんだから!」
「お願いします、一生懸命やるから」。

「うるせえな、何度言ってもダメなんだよ」。
「お願いします」。
お春は「いいじゃないの」と言う。
「だめだよ!」と半兵衛が怒鳴る。

「ほ、あんたでも怒ることあるの、おお、こわいこわい」。
「お願いします、一生懸命やります」とお初が言う。
「ダメだよ!」
言い放って、半兵衛は裏口から出て行く。

「あんな女、うちに置くわけに絶対いかねえ!」
半兵衛がそう言った時、「半ちゃん」という声がした。
岡引きの源五郎だった。

「半ちゃん。何怒ってんの。またお春さんとケンカしたんでしょ」。
男っぽい容貌の源五郎が、小首をかしげてしなを作る。
「半ちゃん、うちに遊びに来ない?」

源五郎が半兵衛の肩に手をかける。
「いいいい!」と半兵衛が逃げていく。
「半ちゃんっ!」
半兵衛に逃げられた源五郎は「淡白ねえ」と言って、首をかしげながら歩く。

お初は坊主そばで、働き始めた。
こまめにくるくると、良く動く。
客のどんぶりを下げたお初は、洗い場で片方の足を持ち上げ、もう片方の足をかいた。

その白い足首に、ひげを整えていた半兵衛は思わず身を乗り出して見る。
ハッと我に帰った時、博打仲間が誘いに来る。
半兵衛はお春がいないのを確かめて、売り上げが入ったざるに手を伸ばした。

「泥棒ー!」
お初の声が響いた。
「おかみさん、旦那さん、おでかけですよう」。

「風呂、風呂へ行くんだ」と半兵衛が言い訳をした。
「お初ちゃん、一緒についてってよ」。
お春が言うと、半兵衛が「風呂ぐらい1人で行かせてくれよ」と哀れな声を出す。
「そうはいかないよ。目を放したら、どこへ飛んでくか、わかんないんだから」。

「旦那さん、最近は浜の湯の方が空いてるんですって、だから浜の湯にしなさい」。
お初の言葉に一瞬、目を丸くした半兵衛だが「いいかげんにしろよっ!」と怒鳴った。
「だから俺は嫌って言ったんだよ!」
「良いか、こうなることは端からわかってたんだよ。俺はこの娘が来た時からわかってたんだよ!」

「朝っから晩まで、旦那さん、旦那なさんてくっつかせやがって!」
「これもみんな、あんたのためなんですからね」。
お春は澄ました顔をして、そばをこねる。

続いてお初が言う。
「そうなんですよ、うちの村のもくべえさんなんか、七日七晩ぶっ通しで博打やって、朝になったらおっ死んだんだって!」
一瞬、半兵衛はきょとんとするが、「ばかやろう、おれはもくべえさんなんかじゃない。半兵衛さんっていうんだ!」と怒鳴った。

半兵衛の怒りはお春に向いた。
「おい、だいたい、おめえもおめえだ。女房でもねえくせに、でけえつらしやがって!」
「おたりまえじゃない、あたしがいなかったらね、この店とうに潰れてんですよ」。
「何言ってやがんだ。潰そうが潰すめえが俺の店だ。俺の勝手てじゃねえか」。

「あ。そ。じゃ勝手にしたら」。
「ああ、勝手にさせてもらうよ。俺は」。
「どうすんの」。
「出てく!」

「どうぞ」。
あっさりとしたお春に「どうぞ?いいのかい」と半兵衛が言う。
「ああ、せいせいするよ。お初ちゃん、塩まいてとくれ、ひげ目がけてさ」。
「やめろよ、お前。本気にするから」。

半兵衛が、情けない声を出した。
お初がその通りに、塩の壷を持ってくる。
「やめろつの、おいほら、やめろ」。

塩をかけられた半兵衛は「とけるよ!とける」と言う。
お春は知らん振りだった。
「おい!」
しかし、お春は何も言わず、そばをこねている。

「ちくしょう、じゃあ全部、手切れ金!手切れ金に俺がもらってくから!」
そう言うと半兵衛は、売上金が入ったざるに手を突っ込み、金をつかんだ。
「どけ!ほら!」とお初に言う。
さすがに心配になったお初が「旦那さん」と声をかける。

「旦那さんじゃねえよ!」
「旦那さぁん」。
「わああああ!」
半兵衛は泣き叫ぶと、お初を突き飛ばして出て行った。

その夜、半兵衛は博打場にいた。
1人、つきまくっている男がいる。
「どうだいどうだい、俺ぐらいになるとmさいの目の方が読んでくれ、読んでくれってすりよって来るんだよ」と男は笑った。

それを聞いた半兵衛が、自分の胸を叩く。
勝負だ。
「こいつはおもしれえ。おい、壷貸してくんな」と男が言う。

男が壷を振った時、政吉が入ってくる。
「半!」と半兵衛が言う。
だが、出たさいころはチョウであった。

「あ…」。
何から何まで、ついていない。
半兵衛が頭を抱えた。

「だから言わねえこっちゃねえな。おい、今日の俺に勝てる奴はいねえのかい」。
男は笑って半兵衛に小銭を放り、「おい、兄さん、とっておきな」と言って出て行く。
政吉を見た半兵衛は「少しまわして」としがみついた。

だが政吉は無視する。
「金!」
廊下に出た政吉は「金じゃないよ、今のいかさまだ」と言った。

「奴の壷振る手つきだ。妙な手つき、してたよ」。
半兵衛が、相手の壷を振る仕草を思い出す。
あの時だ。
さいころの目は、半だった。

だが男は、外から細工してさいころをひっくり返したのだ。
「野郎!」
だがもう、男の姿はなかった。

半兵衛は代貸しに、どこの男か聞いた。
男の名前は、伝八だと言う。
政吉が、「なあんだ。目くらましの伝八かあ」と言った。

男の名前は伝八。
結構、知られたいかさま師のようだった。
「どこにいるんだ」。
「知らねえ」。

その頃、口入屋の和泉屋に伝八は入って行っていた。
入り口で伝八を呼び止めた番頭は「お袖が死んだそうだ」と言う。
「へえ」。
それを聞いた伝八は顔色ひとつ、変えなかった。

「でも俺には関係ねえことだ」。
伝八は店の奥に入っていく。
和泉屋に、お春が来ていた。

お春は奉公口ではなく、お初の茂作のことで来ていたのだ。
口入屋なら、茂作のことを聞いたことがあるかもしれないと、お春は思ったのだ。
武州の大里村と聞いて、伝八の足が止まった。

奥の座敷には、お袖のいた店の楼主が、来ていた。
お袖は首を吊った。
「ともかくこれをようく、見ておくれ。お前さんたちのことが書いてあるんだ!」
楼主は、お袖の手紙を見せた。

ひらかなばかりの手紙には、固い屋敷奉公だと連れて行かれたら女郎奉公させられたと書いてあった。
楼主はそのことで、和泉屋と伝八を責めに来たのだ。
「こんなことがもし、本当だったら、お前さんたちひどすぎやしないか」。

しかも伝八は村を回っていかさま博打をし、そのかたに娘たちを取り上げてくるという話ではないか。
その時、黙って聞いていた伝八が口を開いた。
「博打ってのはなあ!やるほうが悪いんだ!」

鋭い、冷たい口調だった。
「挙句の果てがどうなろうと、俺が知ったことじゃありませんぜ」。
声には凄みがあった。

岡場所。
お袖が棺桶に入れられた。
釘が打たれる。

小雪がちらつく。
木枯しが吹いている。
仲間の女郎たちが、見送る。

和泉屋と伝八もいた。
「しかしあの女、身よりも何もねえはずなのにあんな手紙書きやがって。どこへ出すつもりだったんでしょうね」。
伝八が聞いた。

飛脚・嶋屋。
「あっ、利助さん、またこれがあったそうです」。
小僧が、番頭の利助に手紙を持って来た。

座敷では女主人のおせいが、着物の帯を締めていた。
利助の手紙を見て、「またですか」と言った。
「ええ、でもこれが最後だと思います」。
「何か、わかったのですか」。

「深川の岡場所に、お袖という二十歳になる女郎がいるんですが、今日、首をくくって死にました」。
「その人が、この手紙の主だというのですか」。
「間違いありません、今行って調べてきました」。

「20年の年期で売られてきたのですが、前借金の2百両を親代わりという、和泉屋が受け取っています」。
「それからこれは仲間の女郎に聞いてわかったんですが、『しらはたさま』というのは、お袖が生まれた村の鎮守さまの名前だそうです」。
「鎮守さま」。
「ええ」。

おせいの開けた引き出しからは、手紙がたくさん出て来る。
「どうせ死ぬのですから、あたしの身はどうなろうともかまいません。この上は、しらはたさまのお力で、あのにくい和泉屋与兵衛と伝八を」。
「あのにくい和泉屋与兵衛と伝八の2人を」。

手紙には、同じことが書かれていた。
「白幡神社とでもいうんでしょうが、まさか神様の名前とはね。いくら調べても、わからねえはずだ」と利助は言った。
「せめてもう少し早く、身元がわかっていたら」。
おせいが、悲しそうに言う。

「この中には和泉屋与兵衛と伝八の名前しか書いてなかったんです。調べようがないじゃありませんか」。
だが、おせいは悲しそうな表情を変えなかった。
「おかみさん」と、利助がなだめるように言った。

しかし、おせいは言う。
「お前はお袖さんが、なぜ死んだと思いますか」。
「そりゃ体が悪かったし」。

「この人は20歳で、年期は20年だと言いましたね」。
「そうですが、それが何か」。
「では女としての幸せをつかもうとする時、一体この人はいくつになっているのです。その上、お金は和泉屋が持って行ったというわけですか」。

おせいは、半兵衛と政吉を呼び出した。
「伝八をやるのか」。
半兵衛は言った。

「あいつは悪い奴ですよ。あいつならこれなしで、ぶっ殺したいぐらいです!」
おせいは、静かにうなづいた。
だが政吉は「いやあ、あいつは殺すには惜しい腕してるからなあ。俺降りるわ」と言った。
「降りる!」

するとおせいは「政吉さん」と言って近づいてきた。
政吉の懐に、おせいの白い手が伸びる。
「怒らないで」。

そう言うと、政吉の襟を丁寧に直してやる。
「いいですね?」
「やってくださいますね?」

政吉は大人しくなった。
「怒っちゃいねえけど、さ」。
「頼みましたよ」。
そう言うと、頼み量の小判を渡す。

政吉の手から、半兵衛が小判を取る。
「おっ。お前なんだ!」
2人は肩をぶつけ合いながら、去っていく。
利助が後姿に向かって、「博打なんか行って、無駄遣いしちゃいけませんよ!まじめにやってくださいね、まじめに!」と言う。

町に戻った2人は歓楽街を歩く。
政吉が「一発勝負やってくか」と誘うが、「いや、今日はまずいんだ」と半兵衛が言う。
「俺、うち、おん出てんだ」。
「なあんでだよ、てめえのうちだ。帰ればいいじゃねえか」。

「そこんところが微妙なんだよ。おん出たようであり、追い出されたようであり」。
半兵衛が言っているのを聞かず、政吉は声をかけてきた女を構い始めていた。
「俺には亭主でいながらだよ、亭主と言うものの権威が…」。

半兵衛が振り返ると、政吉はいない。
女と話している政吉を連れ戻した半兵衛は、「まじめに人の話聞けよ!」と怒る。
「俺には亭主でいながら、その、亭主と言うものの権威が…ないんだよ」。

語尾は消えそうに、弱々しくなった。
「だから今日は、お春にこの金叩きつけて、俺にも甲斐性があること見せてやりてえんだよ」。
上の空の政吉は「おめえの話は聞いちゃいられねえよ」と言った。

「いや、だから話聞いてくれよ。それでな」。
「わかったわかった」。
政吉は半兵衛の胸をぽん、と叩くと、「お春さんに相談してごらん」と言って岡場所の方に消えた。

1人残った半兵衛は「ばかやろう、男も中年になると複雑なんだよ」とつぶやいた。
半兵衛に呼び込みが声をかける。
「良い娘、いる?」と聞いた半兵衛だが「ダメだ」と言って、家に向かう。
呼び込みが残念そうに去っていく。

坊主そばの裏口。
半兵衛が家に入ろうか、入るまいか躊躇していると、お春の声が聞こえてきた。
「あんな奴に惚れてやしないわよ、いなくなってせいせいしてるわ」。
半兵衛がガックリする。

続いてお初の「うそお」という声が聞こえる。
「ほんとよ」。
「うそだってば、あたいにはわかってるんだから。旦那さんがいなくなってから、おかみさんずっと寂しそううだもの」。

半兵衛の顔が、パッと輝く。
「そうお。そう見えたとしたら、私がきっと後ろめたかったからでしょう」。
「どうして後ろめたいんですか?」

「私は、おかみさんなんかじゃないのよ。ただの奉公人。雇われ人がその家の亭主を追い出すなんて、聞いたことないもんね」。
「ああ、あの、おかみさんじゃないんですか」。
「私はお初ちゃんと違ってね、身寄りがないのよ。15の時に火事にあって、独りぼっちになって。それから、いろんなところで働いたんだけどさ。このとおりの性分でしょ、どこでもケンカしちゃってさ」。

「去年の秋だったわ。急にふらふらーっとして」。
「倒れたんですか」。
「気が付いたらあの人が、店の中かつぎ込んでくれてさ」。

「『お前、腹が減ってるんだろう』って、卵の入ったあっつーい掛けそばをつくってくれたのよ。あん時の月見ほどおいしいと思ったものは、なかったわ…」。
お春の声が、しみじみとする。
「へえ、優しかったんですね旦那さん」。

「ま。それで何となく、ここで働くことになったんだけど、男と女が一つ屋根の下に暮らしてれば…、わかるでしょ」。
外で聞いていた半兵衛が照れて、首をかしげている。
「そのうち、なるようになっちゃって」。

「やっぱり惚れてるんだ、おかみさんは」。
半兵衛がうれしそうに頭をかいて、入っていこうとした時だった。
「でもね、あんなろくでなし、本当は帰って来ないほうがいいんです!」

お初のきっぱりした声がした。
半兵衛の足が止まった。
「そうかしら」。
「ううん、ほらあ、女は男次第って言うでしょ。あんな男ついてたらおかみさん、だめになっちゃうよお」。

「だいたいね、博打するような男なんてほんと、ダメだもん!」
「茂作さんはどうだった?」
「うん、茂作さんは全然、そういうんじゃないの!茂作さんはね、朝から晩までずうっと働いてるけど、文句ひとつ言わなくて、悪いけどここの旦那さんとじゃ月とすっぽんね!」

「はあ」と、お春が感心する。
お春が戸に近づく気配を感じて、半兵衛はすばやく姿を消す。
「よいしょっと!」と言って、お春が漬物の樽を表に出す。

お春が空を見上げる。
「お初ちゃん、ちょっと来て!ほら、綺麗な星空!」
お初がやってくる。

「明日も天気ですね!」
「忙しいわよ、男手はないんだし、頼んだわよ!」
「はい!」

半兵衛は、とぼとぼと歩いていた。
「あら、半ちゃん!」
源五郎が声をかけてきた。

「こんばんわ」。
「どうしたの」。
「ちょっと星が綺麗だからね」。
すると源五郎は「食べる、おいも」と言って、焼き芋を出してきた。

「いただきます」。
「寒いわねえ」。
2人は並んで、焼き芋を食べている。

「半ちゃん!」
源五郎が抱きついてくる。
半兵衛は逃げていく。

行った先は、岡場所の2階に部屋を取った政吉のところだった。
「呆れて話にもなんねえな。さっきの勢いはどうしたんだよ」。
屋根の上に、政吉が出て来る。
「女房に金叩きつけて、出てけ!って言うんじゃなかったのかよ」。

「泊めてくれよ」。
下の道から半兵衛が言う。
「冗談じゃねえよ、こんなの、いるしよう」と女郎を指して言う。
「第一、ここは俺の住処じゃねえよ」。

「冷たいこと言うなよお」。
「勝手にさらせ。俺はな、決めてんだよ。何とでも言え。人が何と言おううとも、この世で頼れるのは自分だけだ」。
「お前には、わからねえんだよ」。
「何が」。

「ろくでなしってものがどういうものか、お前にはわからねんだ」。
半兵衛と政吉は、屋根の上で並ぶ。
寒さに、半兵衛が手をこする。

「へえ、じゃ、おめえさん、そのろくでなしってのを知ってんのか」。
政吉が言う。
「へえ、じゃ、教えてもらおうじゃねえか。教えてくれ」。
政吉が、中へ入る。

「お前、死人と博打したことあるか」。
半兵衛が、ポツリと言う。
背後の部屋の障子に、政吉の影が映る。
「死人?」

「俺のあの蕎麦屋、昔は弥助っておっさんの持ち物だったんだ」。
「このオヤジが博打が好きでよ。下手の横好きってやつで、どうしても俺には勝てなかったんだ」。
「あのオヤジが、心の臓の病でもう命がねえとわかった時、急に俺に会いてえとぬかしやがった」。

半兵衛の頭の中に、弥助という男の姿が浮かぶ。
「行ってみると…。勝負をしてくれって言うんだ」。
今、半兵衛の店となっている店。

半兵衛が寝ている座敷にもう、体が自由にならない男が横たわっていた。
男は硬直して動かない手を必死に動かし、起き上がる。
「負けたらこの店をやるから、どうしても勝負をしてえって聞かねえんだ」。

男の指が畳を這うように動き、枕元にあるさいころと壷に手を伸ばす。
さいころが男の手から、ポロリとこぼれる
「俺はそん時、はっきりわかった」。
「こいつは俺だ」。

半兵衛は、男の手からこぼれたさいころを拾い、手に戻してやる。
「俺の成れの果てだとな」。
しかし男の手からは、今度は壷が落ちる。

男は顔を歪ませるが、男の手はもう、壷も握れない。
若い半兵衛が代わりに、壷とさいころをひろう。
片手に壷、片手にさいころを持つ。

壷にさいころを放り込み、男の目の前に伏せる。
「入りました」。
親父の目は、壷を見るときだけ、しっかりとした。
しっかりとした声で「ちょう!」と言った。

「ちょう!」
「良いんだな」。
「ちょう!」
もう、男はちょうとしか言わなかった。

勝負。
さいころは4と5だった。
半だった。

「博打に勝って、店は俺のものになった」。
「はあ」と、半兵衛は深くため息をついた。
「博打にとりつかれた者なんてな、みんなろくでなしなんだ」。

その頃、和泉屋は番頭から、お春が来た話を聞いていた。
「そんなものが来たなら来たで、なぜもっと早く言わないんだ!とびっきりのカモじゃねえか!」
お初のことだ。

「で、その茂作探しに出てきた娘ってのは、年はいくつだ」。
「本人が来たわけじゃないので。その方はちょっと…」と番頭が口ごもる。
「確か18のはずですよ」。

市五郎と仁助を相手に、花札をしていた伝八が言う。
「なぜおめえ、知ってるんだい」。
「そりゃあ、お初はね…、あっしの許婚なんです」。
「なにい、それじゃおめえ?!」

「ええ、本名は茂作ってんです」。
伝八は遠い目をした。
「だがあんまり、肥やし臭せえ名前なんで、とっくの昔に捨てちまいましたがね。そうですか。お初が出てきたんですか」。

坊主そばで、お初はかいがいしく働いていた。
「はい、おまちどおさま」。
「またどうぞ」。
「はい、いらっしゃい!」

「坊主そば」ののれんを、誰かがくぐる。
お春が「はい、いらっしゃいませ」と言う。
伝八だった。

「お初」。
客のどんぶりを下げていたお初が、振り向く。
「茂作さあん!」

お初が伝八に、抱きつく。
「江戸に来ていたんだってね」。
伝八の声は、優しかった。

「お初ちゃん?」
訝しげなお春にお初が「そう、この人が茂作さん!」と叫んだ。
「こないだ、和泉屋さん来てくれたのは、おかみさんですね。ありがとうございました」。

伝八が頭を下げる。
どこから見ても、ちゃんとしたお店の奉公人といった風情だった。
「私は3年前、あの方の口利きで、蔵前のさるお店に奉公したんでございますが」。
伝八は、この前、和泉屋に茂作のことを訪ねてお春が来た時のことを、知らないこととはいえ、大変失礼したと和泉屋が謝ったことを伝えた。

そしてお初のほうを振り向くと「お初。悪かったな。消して忘れたわけじゃないんだよ」と言った。
お初は泣きじゃくっていた。
「もう少しえらくなってから、と、つい欲を出しちまって、勘弁しておくれ」。
「勘弁だなんて」。

「もう、離さないからね」。
お初が泣く。
見ていたお春も、もらい泣きする。
伝八は、お初を夜まで預かってくれと言う。

店の旦那とおかみさんにまだ話をしていないし、これから所帯を持つのに許しを得ておかなければならない。
それを聞いたお春は「行き届いたお話で、まったく。うちの人に爪の垢でも飲ませたいくらいですよ」と言った。
「お初ちゃんは、大切に預からせてもらいますから」。

茂作、いや、伝八は帰って行く。
まだうれし泣きしているお初をお春は「何よ、いつまでも泣いて。茂作さんに嫌われるよ」とからかった。
お初は涙を拭いた。

店の奥に行くお初の背中を「しっかりおし」と言ってお春は優しく、ぽんと叩く。
お初の笑顔が、樽の中にうつる。
はにかんだ、幸せそうな笑顔。

その頃、和泉屋の前で和泉屋を見張っていた政吉は、伝八が和泉屋に入っていくのを見た。
「あれ、伝八じゃねえか。半兵衛のやろう、何やってんだ」。
半兵衛は博打場で、伝八が来るのを待っているはずなのだ。
利助が市五郎と仁助のことを、「あの連中も和泉屋の手先だ」と教えた。

座敷で、和泉屋は言った。
「だから世の中、おもしろいんだ」。
伝八は「ま、あっしの口から言うのもなんですが、かなりの上玉です。たった3年間会わねえうちから、めっきり色っぽくなりやがった」と冷たい口調で言う。

この前、お初を引っ掛けようとしていた市五郎と仁助を、政吉は酒に誘っていた。
2人は、政吉が一度会った自分に酒をおごることを不審がっていた。
だが政吉は「女郎を1人、足抜けさせたい」と持ちかけた。

「やってくれたら、3割出すぜ」。
「半分出しな」と、2人は乗ってきた。
「またまた~、そりゃないよ」。

「ケチケチすんなよ。おめえのような色男なら、茂作と同じで女いくらでもいるだろう」。
「茂作?」
「ああ、俺達の仲間に伝八という、どこから見ても江戸っ子のちゃきちゃきがいるんだ。ところがつい、3年前まで武州の茂作ってドン百姓だって言うから、笑わせんじゃねえか」。
伝八のことだ。

必要な情報は、手に入れた。
「ははは」と笑って、政吉は5割で手を打った。
「その代わり、和泉屋の旦那、連れてきてくれよ。顔と体見てもらってから、値をつけようじゃねえか」。

2人は承知した。
仕事の仕掛けは、終わった。
後は半兵衛にそれを知らせるだけだ。

博打場で半兵衛は、外れ続けてふてくされて寝ていた。
そこに「何をしてるか」と利助が来て怒るが、半兵衛は伝八が来るのを待っているのだと言った。
利助は政吉が得た情報を伝えた。

「実は茂作ってのは、伝八なんです」。
半兵衛が起き上がる。
「茂作?!」

政吉が指定した岡場所に来るため、和泉屋がやってきた。
「どこの女郎だ」。
「この角、曲がった店です」。

「女には、旦那が来ることをちゃんと話してあります。客の振りをし、バレねえように、そおっと入ってくだっさい。部屋は竹の間。突き当たりのひとつ手前の部屋です」。
市五郎と仁助もついていこうとするのを政吉は、仮にも足抜けだ、ぞろぞろついてもらっちゃ困ると引き止めた。
2人には酒をおごると言って、連れて行く。

和泉屋は政吉に言われた店に入った。
客の振りをして、他の女郎と客に見つからないように指定された部屋に入った。
部屋にはおせいが、こちらに背を向けて座っていた。

「足抜けするのは聞いていたが、今夜やるのか」。
和泉屋が、おせいの顔を見た。
頭巾をかぶってはいるが、おせいの美しい顔立ちは誰の目にも明らかだった。

「話は聞いた。お前ならいくらでも力になってやろう。さあ、行こうか」。
和泉屋は、おせいの手を取る。
その背中を、おせいがにらみつける。

手には、お袖のかんざしがあった。
おせいは和泉屋の首のうしろに、かんざしを刺す。
和泉屋は声も立てず、絶命する。

人ごみの中、政吉は懐剣を抜くと、後をついてくる市五郎を物陰で刺す。
市五郎もまた、声も立てずに絶命した。
気が付かない仁助が棒立ちになった市五郎に「兄貴、何してんだ」と声をかける。

政吉の懐剣の、刃が突き出る。
仁助もまた、刺す。
市五郎と仁助が、相次いで倒れる。

歓楽街で行きかう人々が、足を止めた。
息をしていない2人を見て、「あっ、人殺しだ!」という声があがる。
女郎が悲鳴を上げる。
人々が逃げていく中、政吉も一緒に走る。

和泉屋を置いて、おせいが部屋を出る。
客ともつれあうように廊下を歩いていた女郎が、目を留める。
「あれ?」

頭巾をかぶったおせいは、平然と歩いていく。
「ちょいと。ちょいと!」
女郎が声をかけた。

だがおせいは、まったく振り向かず、優雅な足取りで出て行く。
それを見送った女郎は「ちょっと…、やだねえ。この部屋はね、こないだ首吊りがあって今、使ってないんだよ」と客に説明した。
おせいが出て行った部屋は、お袖の部屋だったのだ。

部屋をのぞいた女郎と客が「うわあああ」と、声を上げる。
「人殺しい!」
部屋には、目を見開き、仰向けに倒れた和泉屋がいた。

坊主そばの座敷で、お初が丁寧に紅を塗っている。
伝八がお初を、迎えに来ていた。
お春に「あの、おかみさん。こいつをお初に」と言って、小さな、綺麗な布で織られた匂い袋を出した。

「もうすぐですからね、お店の方でお待ちください」。
そう言ったお春はお初に「お初ちゃん、茂作くさんからほら、匂い袋だよ。いいねえ~」と言って匂い袋を渡した。
お初が香りをかぎ、幸せそうに微笑む。

その時「お春大変だあ!」という声がして、半兵衛が駆け込んでくる。
「何よ、いきなり」。
「俺は今、大変なことを聞いてきたんだよ」。

お春が丁寧にお初の髪に、櫛を通している。
「あ、お初ちゃん、今から俺の言うことを、心を落ち着かせて聞かなきゃだめだよ」。
「うん」。

「ちょっと、忙しいのよ、、あたし達は今」とお春がうるさそうに言う。
「忙しくたって、俺の言うことは大事なことなんだから!」
半兵衛はそう怒鳴ると、お初に向かって「お前の探している茂作さんって人は…」と切り出した。
「ああ」と、お初は笑う。

「2年前に…、しんじまったんだ!」
「うそおぉお」と言って、お初もお春もきゃはははと笑った。
半兵衛の言葉に、店でお初を待っていた伝八が振り向く。

気が付かない半兵衛は、続けた。
「急には信じられないだろうけど、お初ちゃんの言うとおり、真面目で良い人だったそうだよ。みんなから惜しまれて死んだんだってさ」。
お春が「いや、あのね」と、口をはさむ。
だが半兵衛は「お前は黙ってろよ!」と聞かない。

「死んじまったもんは、しょうがねえや、な。やなことは1日も早く忘れて」と、ぽんぽんとお初の肩を叩いた。
「故郷へけえんな。江戸なんてところは、お初ちゃんみたいな人の住むところじゃねえよ!まったく」。
だがお初は平然として、お春に髪をすいてもらっている。

「どうした。泣きたかったら、俺の前で遠慮なく泣いちまうんだ」と半兵衛は優しく言う。
たまらずお春が「何、世迷言、言っててんだよ」と言う。
「お前は、いちいちうるせえ…」と半兵衛が怒ったがお春は「うるさいのはあんたなんだよ!」と遮る。

「何が!」
お春は半兵衛の袖を引っ張った。
「ちょっとこっち来てごらん」。
そして、店にいる伝八の背中に向かって、「あそこにいるのが茂作さんで、これからお初ちゃんを連れて行くの」と言った。

「!」
ギョッとしたのは、半兵衛だった。
驚いて、声も出ない。

その様子にお春が「何驚いてんの」と不思議がった。
「…どこへ行くんだい」。
半兵衛はやっと、そう聞いた。

きょとんとしたお春は「どこへ行くか、知らないわよ。だけどね、あの人ならあんたと違って大丈夫。あたしの保障つきなんだから」と言った。
「ねえ、まったくお初ちゃんを泣かせるような、でたらめ言わないでちょうだい」。
すると、伝八が急に「おかみさん」と声をかけてきた。

「大島町の佐野屋さんに、ちょっと用事を思い出したもんですから、恐れ入りますが、そちらの方にお初を寄越していただけませんでしょうか」。
そう言うと、伝八は出て行く。
続いて出て行こうとする半兵衛の背にお春が「駕籠拾ってきておくれよ」と言う。

「わかったよ」と半兵衛は返事をすると、戸の向こうに消えた。
外に出ると、雪が降っていた。
伝八の後姿が見える。

「お春」と半兵衛が戻ってきた。
「駕籠屋さんが来たよ」。
その言葉でお春が「さ、お初ちゃん」と言って、仕度の終わったお初を立たせた。
「はい」。

お初が立ち上がり、お春に向かって「長い間どうもありがとうございました」と頭を下げた。
半兵衛が「お初ちゃん、さっきはすまなかったね。まさかお婿さんが来ているとは思わなかったから」と笑った。
お春も「まったくそそっかしんだからあ!」と笑った。

仕度を終え、綺麗に髪を結い、着物を着て紅を塗ったお初を半兵衛が見る。
「綺麗だよ」。
「どうもありがと」とお初が笑う。

「外は雪だから気をつけてな」。
「はい」。
お春が、「さあ、さ、さ」とお初をうながす。

「幸せになるんだよ」と言って、「あ、ちょっと待って、濡れるといけないから」とお初を気遣う。
「また近所まで来たら、寄っておくれ」。
お初をお春が見送る中、台所で1人、半兵衛がかみそりを研ぐ。

えいほ、えいほと掛け声をして、雪の中、駕籠が行く。
「お初ちゃん達者でね」。
お春が声をかける。

半兵衛がすばやく身を翻し、駕籠の後を追っていく。
駕籠がまっすぐ行く。
半兵衛は、駕籠の後ろの角を曲がる。

駕籠が行くのが見える。
ひとつ手前側の道を、半兵衛は小走りに行く。
半兵衛は駕籠と、平行に走る。
駕籠の中では、お初が幸せそうに微笑んでいる。

伝八が、駕籠の先回りをしている。
寒さに手に息を吹きかけ、こすって、駕籠を待つ。
駕籠が見えると、そちらに向かって歩く。
伝八が、こちらに向かってくる駕籠の前に出ようとした時だった。

背後から半兵衛が、伝八の口をふさいだ。
路地にひきずりこむ。
半兵衛が、かみそりを構えた。

路地に半兵衛の姿が、消える。
お初の乗った駕籠は、暗い路地の前を通過していく。
次の瞬間、伝八が首を押さえて現れる。

よろよろと、お初が通過した駕籠の後ろに、伝八が出て来る。
伝八が倒れる。
お初の乗った駕籠は、軽快に走り去っていく。

倒れた伝八に向かって、通行人が「旦那?」と声をかけた。
伝八が動かないのを見て、「ひええ」と悲鳴があがる。
「死んでる!」
「人殺し、人殺しだああ」。

人々が叫ぶ。
半兵衛が去っていく。
背後で騒ぎが起きているのに気づいたお初が、声のする背後をちらと見る。
だが、匂い袋を取り出すと、お初はそれをぎゅっと握り締めた。

武州の故郷を思いだす。
雪深い村。
すすきに、雪が吹き付けたようについている。

山も雪で白かった。
屋根も、山も、何もかもが雪に覆われていた。
風が吹く。

お初が微笑む。
幸せそうに。
寒い風が吹く。
強い風が吹く。

えいほ、えいほ。
駕籠屋の声がする。
お初は駕籠にゆられていく。

ひゅううう、と風がうなっている。
坊主そばの中。
お春が仕度をしながら言う。

「ねえ、あんた、あの娘、もう、村らについたかしらね」。
「うん、そうだな」。
「幸せになると良いね。かわいい娘だったもんね。働きもんでさ」。

半兵衛は何も言わず、手を動かしている。
「あんたも一緒にお風呂へついてってもらう娘がいなくなって、寂しいね」。
「ふふん」と、かすかに半兵衛が笑う…。



オープニングが終わってから5分。
見事な流れに乗って、物語が始まります。
お袖の悲惨な境遇。
そこに響く、お初の大声。
天真爛漫と言うか、何もわかっていない、田舎娘丸出しの大声。

政吉がお初を助け、お初をナンパ?し、お初が恋人を探しているとわかると、半兵衛に押し付けに来る。
女できたんだよぉと言って、お春にこづかれ、すいませんと謝る半兵衛。
この辺り、笑っちゃう。

そして助けてもらったのに、「博打やる人嫌い」とあっさり、政吉に言い放つお初。
政吉の「ベターッとされるの嫌」という言い方も笑えます。
お春が気に入ったと言うと、ものすごいスピードで置いていく政吉。
このやり取りの間、お初はただ、ニコニコしている。

「前略おふくろ様」で海ちゃんをやる前の桃井さん。
でもやっぱり、すごくうまい!
無防備と言うか、ちょっと思慮の足りない、でもかわいい田舎娘を完璧に演じてます。
さすが。

ダメだ!
お願いしますぅの半兵衛こと、緒形さんとのやり取りはさすが、芸達者同士。
ものすごいテンポに乗せられて、笑いながら進んでいきます。

怒った半兵衛が外に出ると、源五郎。
ごつい源五郎が、しなしなしているのが本当におかしい。
本当になぜか、似合っている。

源五郎に迫られ、逃げる半兵衛。
「淡白ねぇ…」と首をかしげる源五郎。
ここまで本当に、一気に見せます。

ダメだと言ってもお初は結局、坊主そばにいる。
くるくると良く動くお初が、足を足でかく。
その時、ちょっと見える足首。

ひげを整えている半兵衛が、首を伸ばしてそれを見てしまう。
そしてハッと、我に帰る。
お初の若さ、無防備さ、それに気が付いてない危険さ。
この辺りもすごくうまい。

博打に行こうとする半兵衛は、お初に見つかる。
お初と半兵衛、お春のやり取りがもう、本当にすごい良いリズムでおかしい。
それぞれの性格と個性が炸裂。

一気に、一気に進んでいく。
お初に塩をまかれて、「とけるっ、とけるよ」と泣きそうな半兵衛がすごくおかしい。
「旦那さぁん」に、わああああと泣き叫んで出て行く。

この後もまた、家に入れない半兵衛の様子がおかしい。
1人で「にゃはーっ」と言った表情で照れたり。
だがまた、お初の一言で入れなくなる。

軽快で笑ってしまうけど、ここでお初に対して語られるお春と半兵衛のいきさつはかなりシリアス。
お春が半兵衛に何だかんだ言っても、ついていくのは半兵衛の優しさを身をもって知っているからだとわかる。
そしてろくでなしでも、半兵衛がとても優しく、良い男であることもわかる。

しかしお初は、あんな男だめだもんとシビアに言い切る。
何度も、何度も、茂作がいかに真面目か。
博打など縁のない働き者か、お初が語る。
だから、後の茂作に衝撃を受ける。

お袖が死んでも、何の感情も持たない伝八。
抗議に来た楼主に、「博打なんてやるほうが悪い!」と言う伝八の口調が鋭い。
働き者で、博打など縁がなかった茂作。
この変わり様は、どうしたことなのか。

一体、江戸で茂作に何があったのか。
伝八は、和田浩二さん。
このセリフでこちらは、伝八の江戸での生活に思いをはせることができます。
何かがあったんだと思わせる、和田さんのセリフ。

お初に対して、限りなく優しい茂作になる。
だがそれは仮面。
お初に対しても伝八は、お袖同様。
何の感情も持たない。

同じ人間かと思うほど、冷たい態度と口調。
もう、本当に本当にお初が幸せそうだから、哀れになる。
さらに、そういう事情とは関係なく、仕事は進んでいく。
和田さんのセリフと演技も、一見の価値ありです。

そして今度は、政吉を相手に語られる、半兵衛が店を手に入れた経緯。
「こいつは俺だ」。
今まで情けなかった半兵衛の口調が、がらりと変わる。

「教えてくれよ」とバカにしているような政吉が、言葉を返せなくなる。
壮絶な過去。
へらへらしているようで、半兵衛もお春も相当ハードな人生を送ってきているんだ。
それでいてもやめられない博打、業の深さ。

仕事のシーンは、しんとしたお袖の部屋から。
和泉屋がおせいを連れて行こうとした時に、仕事屋のテーマが流れる。
おせいがかんざしで和泉屋を仕留めた背後に、刀をふりかざす錦絵が映る。
音楽と錦絵、仕事の見事な調和。

政吉が突き出した懐剣の先が、ぶるぶると震えているところもリアル。
まだ政吉だって、殺しのプロではないんだ。
しかし仕事は遂行する。

そして最後は、伝八を仕事にかける。
毎回どんでん返しがある仕事屋だけに、伝八が来ているのを知らない半兵衛がしゃべりまくるピンチがある。
まさに「!」

お初の駕籠と前後して、伝八と半兵衛が行く。
駕籠を止めようとした時、半兵衛が暗闇に伝八を引きずり込む。
伝八を切るシーンがなくて、効果音だけでこちらに見せる。
首筋を伝八が押さえて倒れ、かみそりから血が滴っているからわかるんですが、考えたらすごい。

伝八の前を、お初の駕籠が通過していく。
通過した後を、伝八が倒れる。
このタイミングの憎さ。

何も知らないお初。
背後で騒ぎが起きているのは、気が付く。
でもそれが茂作の一大事だとは、知らない。
政吉に助けられたお初。

今また、半兵衛に助けられたことも知らない。
茂作のことも。
ただ、自分を待っている幸せに思いをはせて、微笑んでいる。

真夏に見ても冷たさ、寒さを感じるような風の音。
雪に覆われた故郷。
お初の微笑。

知らなくて良い。
でも見ていて、しんと気持ちが冷えていく。
どうしようもなく、寒い。
冷たい。

この後、何も知らないお春の明るい声がまた、切ない。
返事をしない、できない半兵衛の心のうちも、つらい。
なんと切ない。
やるせないラスト。

笑いと、軽快さと、この切なさ。
見事な構成。
仕事屋は名作だと思います。


「仕事屋」考 最終回「必殺」が描いたテーマ

最終回。
半兵衛とお春の2人は、元に戻っている。
裏の顔を持つことは、2人の仲を引き裂くには至らなかった。
それほど、この2人は強く結びついているのだとわかる。

だからこそ。
だからこそ、最後に半兵衛が追われて旅立ち、お春が1人残るラストが胸を打つ。
あれほど素人ぽかった政吉が、親子の情に負けそうになるおせいのため、仕事屋として死んでいくのが切なくなる。

政吉を失ったおせいが死のうとするのを、やはり素人だった半兵衛が止める。
そして諭す。
「死なせて。政吉のそばに行かせて」。
この時の半兵衛の言葉は「必殺」史上、いえ、時代劇の中でも名セリフではないでしょうか。

「人間生きるため死ぬため、大義名分を欲しがる。
そんなものぁ、どうでもいいんだ!
明日のない俺たちは、無様に生き続けるしかないんですよ」。

うちひしがれるおせい。
半兵衛にも追手が迫っている。
「おかみさん、いや、おせいさん。無様に生き続けましょうよ」。
そして半兵衛は自ら囮になって、おせいを助ける。

今よりはるかに寿命が短く、病やケガや自然や災害に対して日本人が無防備で、身分制度がある時代。
そこに生きる人の生と死を描いたものが「必殺」、いえ、時代劇。
半兵衛の言葉は、そのひとつのテーマに対する答えではないでしょうか。

命があれば死にたくないから、なりふり構わず必死に生きる。
そうすれば、無様になることもある。
だから無様に思われないため、格好をつけ、言い訳をするため、大義名分を欲しがる。
大義がない戦争は士気が下がるって、言いますね。

でも生きることに、大義名分はいらないと半兵衛は言うんです。
追われる自分には、もう明日もない。
大切な人を失ったおせいにも、明日はないだろう。
明日、つまり希望、生きる目的、張り合いはない。

ただ生きているだけになるのかもしれない。
それでも生きること。
生き残った自分たちがやることって、そういうことじゃないのか。

すっぱり自害する武士。
大義名分のために死ぬ武士と「必殺」の殺し屋や庶民は違う。
自分たちは悲しかろうが、みっともなかろうが、みみっちい人生を無様に生きよう。

それで良いだろう。
俺は生きる。
あんたも生きてくれ。

市井の人の生と死、それに立ち会う殺し屋たちの物語が「必殺」。
この「必殺」に込められてきたテーマのひとつを、半兵衛が言っている。
だから「仕留人」と「仕事屋稼業」は、地味だろうと「必殺」の重要な作品になっていると私は思います。

仕事屋の厳しさを常々説いていたプロだったおせいは素人から成長した2人の仕事屋に救われ、諭され、生きていくことを教えられる。
勝負で言えば、逆転。
掛けごと勝負を描いてきた「仕事屋」の行き着いた見事な逆転ラスト。
お春との絆もすべての縁を断ち、博打好きのろくでなしのそば屋の主人だった半兵衛は、1人、仕事屋として旅立つ。

時に軽妙に、時に切なく展開された1話1話。
そのクオリティの高さ。
全編を通じて描かれる親子、夫婦、友情。
最後の、アマチュアがプロへ成長した果てに訪れた厳しく悲しく、たくましい結末。

「必殺」シリーズに興味のない人、時代劇に興味がない人でも仕事屋は見られるだろう、うなるだろうと思うのは、この人間ドラマがしっかりしているから。
そして、人が生きることに対してのエールが最後にある。
古今東西、時代劇があの時代を選んで描いてきたテーマがある。

ラスト。
歌を口ずさみ、半兵衛を一人、ずっと待っているであろうお春が映る。
かげろうが立ち上る中、地面から起き上がる半兵衛。
ふたりは、同じ歌を口ずさんでいる。

下手な人相書きを破り(これほんとにちょっと、奉行所は反省しましょう)振り向く半兵衛。
そこに生命力としたたかさが溢れている。
俺は生きるよ。
あんたも生きてくれ。

緒形拳、名演。
林隆三、ベストワーク。
草笛光子もまた、ベストワーク。
岡本信人、中尾ミエのクレジットも光る名演です。


「仕事屋」考 最終回前まで

「仕事屋稼業」を見返しているんですが、といっても、これまで何度も見返してはいるんですが。
やはりこれは、名作、傑作です。
私は、「必殺」シリーズでも1、2を争う名作だと思っています。
そしてやはり、1、2を争う好きな作品。

「仕掛人」は原作があるとはいえ、登場する仕掛人はプロ中のプロ。
裏稼業の世界を、悪役としてではなく描いた初めて描いた作品。
「仕置人」は身体能力はプロをしのぐアウトローが、怒りを武器に暴れる様を描いた作。

「助け人」は人助けがメイン。
殺しはそれを達成するための手段。
しかしその助け人が、仲間の死をきっかけに殺し屋として生きていく道を選び、別れて行く様子を描いた。

「仕留人」はプロの腕前を持つインテリだが、最後まで心は仕留人になれなかった男を主軸にすえた。
このインテリがたどる悲劇と、その男によって正義への夢を打ち砕かれる男の悲劇を描いた作品。
私は地味な作品なのかもしれませんが、この「仕留人」と貢という人物も相当好きなんです。
そして「仕事屋」は、実にこれらをうまく生かした設定なんですね。

私は、「新・仕置人」も「仕置人」も好きなんです。
念仏の鉄は仕事人ではなくて、仕置人という呼び名がピッタリな男だと思っています。
仕事人のような華麗さやスマートさはなくても、荒削りな野生を持つ、本能のみの力強さがある男。

彼にあるのは殺しの快楽。
しかし「外道にはなりたくない」。
この自分の最低限の信念と誇りを曲げずに、疑わずに、ぶれずに生きた無頼漢。
彼はこのために、最期は女郎屋で死体となる。

そして、鉄と限りなく魂が近いが、鉄のような自由に本能のままに生きることが許されない立場の主水。
この2人が、正義を遂行するために悪となったのが仕置人。
「仕置人」は主水と鉄の物語という面もあり、鉄という「ザ・仕置人」を描いた物語でもあると思うのです。
だから「仕置人」から始まった裏稼業の話は、「新・仕置人」で集大成を得た…と私なんかは思うんです。

そこに行くと「仕事屋稼業」の2人は、本当に度胸が良いだけの博打打ち。
武器だって、半兵衛は自分のひげを整えるためのかみそり。
刀やドスを持っている相手には、本当に頼りない。

政吉の武器はおせいの懐剣。
女が持つ懐剣だから、刃物と言えどもこれも頼りない。
くわえて2人は超人並みの体力や跳躍力があるわけでもなければ、剣術や武道の心得があるわけではない。
ちょっとけんかなれしている素人。

1話で政吉とおせいが、親子であることが描かれる。
さらに2話で、子供を旗本に奪われた母親を描き、旗本の養子に出したために生き別れになった政吉との関係を投影させる。
念入りに描いたところで、この次からも…と思ったら、これ以降、この設定は忘れられたように出て来ない。
そう思ったら、最終回間際でこの設定がものすごい生かされ方をしてくるという、仕事屋の構成がすごい。


ここから先、「仕事屋稼業」の展開、全てネタバレ。
いつも私がやる、悪いクセ、ネタバレ。
なのでここから先、未見の方は、ご注意ください。


お春が妊娠し、半兵衛が父親になるかもしれない23話。
殺しに手を染めた者が、人の親になること。
今度はお春と半兵衛が、政吉とおせいの殺し屋親子に重なってくる。
さらに24話で裏の顔を持つ夫と何も知らない妻が描かれ、半兵衛とお春の関係に重なる。

そして25話で、ついに半兵衛と政吉、おせいの関係のバランスが崩れる。
「あんたはそば屋だ!」
「あんたは飛脚屋!」

半兵衛とおせいに対し、指を指しながら叫ぶ政吉。
「いざという時には逃げ場がある」。
「殺し屋を表稼業にしているのは、私だけです」。
「もう、たくさんなんです」。

お春という家族がいても裏の顔はいえない半兵衛には半兵衛の苦悩がある。
しかし、一人ぼっちの政吉の気持ちは救えない。
痛いほどそれがわかるから、半兵衛は政吉に傷つけられても黙っている。

おせいも母親としての情があふれているが、政吉の指摘を否定しきれない。
どうにもできない。
そしてついに、お春に半兵衛の裏の稼業が知られてしまう。
半兵衛を傷つけたことを悔いながら、政吉は敵に捕らわれる。

クライマックスは、政吉の救出と外道殺し屋との対決。
そこで利助までが加わり、3人は強敵を力をあわせて倒す。
崩壊しかけた仕事屋稼業は、危うさを残しながらも再び結びつく。
しかし…、半兵衛とお春の仲は崩壊しかける。

23話の半兵衛の戸惑いと苦悩、喜びと落胆があるからこそ、突き刺さるお春の言葉。
生まれなくて良かった、あんたの子供なんて。
23話からこれまでの人間関係が動いて行きます。
そして迎える最終回で、それは収束して行きます。



俺ぁ、やるよ 第2話「一発勝負」

第2話、「一発勝負」。

寒い、雪の舞う夜。
貧しい長屋の一角。
それでも部屋の中は、温かさがある。
若い父親と母親が、赤ん坊を見て幸せそうだからだ。

そこに数人の男が押入ってくる。
赤ん坊を取り上げ、「話し合いでは埒が明かん。若君をもらっていく!」と叫んだ。
「太一!」

父親も母親も必死に追ってくる。
「太一!」
だが、追ってくる夫婦は足蹴にされる。
それでも夫婦は、「太一」と子供の名前を叫びながら追う。
雪が降る。

飛脚屋の嶋屋。
その座敷の奥に、その夫婦がいた。
「お願いでございます。私たちの子供を取り戻してくださいませ!」
母親が叫ぶ。

「話の次第によってはお力になります」と、おせいが応える。
ここで話したことは一切、外にもれることはない。
おせいは言った。
だが、母親はぐっと、言葉を呑み、うつむいた。

それを見た父親が、「おしの、何なら俺が」と声をかけた。
しかし母親は気を取り直し、「いえ、大丈夫。私が…」と言う。
母親は、おしの、と言った。

「私は2年ばかり前までお旗本一千石、朝倉主膳様のお屋敷に女中奉公しておりました。その折りにお出入りの植木職人の、この人と契りを。そして私は身ごもったんです」。
「そのことから私、お屋敷に言って、一日にも早くお暇をいただこうと思っていました」。
「そんな矢先に…。…。お殿様が…」。

納戸部屋で片付け仕事をしているおしのの元に、主膳がやってきた。
「おしの、その方、とみに美しくなってきたの」。
主膳はそう言うと「おしの」と言って、おしのに襲い掛かった。

「お許しください」。
おしのは、必死に逃れようとした。
「これ、おしの」。
「お離しください。お許しください。お願いでございます!」

「ダメだ」。
主膳は歪んだ笑みを浮かべた。
おしのはなおも、抵抗した。

「貴様、女中の分際で手向かいいたすか!」
主膳はかっとなり、何度もおしのの頬を張った。
おしのは気絶した。

主膳が唾を飲み込む。
帯が解かれる。
奥方が、入ってきた。

主膳とおしのを見て「あなた!」と声を上げた。
奥方が目をそむける
「冗談じゃ。冗談じゃ」。
主膳は笑った。

「…私は何度死のうかと思ったか、知れません。だけどお腹には、植松さんと私の赤ちゃんが。それに植松さんは、私たちが所帯を持つ家を、一生懸命用意して。それを思うと私は思い切って、何もかもこの人に話しました」。
植松は、黙っていた。
しかし「おしの、俺は、おめえが今話したこと、なんも覚えちゃいねえ」と言った。

「もし仮に覚えていたとしても、金輪際口にしねえ。必ず忘れる。だからおしの、おめえも何もかも忘れちまえ。な、忘れよう」。
「あんた」。
「生んでくれ。俺とおめえの子供、生んでくれ!おしの、おれたちは夫婦なんだ」。
「あんた!」

「このようにして、私たちは朝倉家を出て所帯を持ち、やがて赤ん坊が生まれて、この人が太一と名づけて。やっと私たちも、幸せな日々を送れるようになりました」。
「ところが、4歳になる朝倉家の若様が流行病で急に亡くなられ、太一を朝倉家の跡継ぎにするなど、勝手なことを申したて、無理やりに力づくで…」。
それが、あの雪の夜のことだったのだ。

聞いていた利助が「そんな無茶な。あんたがたの子供さんには、その朝倉家の血は何の関わりも」と言った。
主膳には他にも手を付けた女中がいて、その子供を引き取った。
だが、子供が体が弱いとわかって、太一を寄越せと言って来たのだった。

朝倉の屋敷では、赤ん坊の泣き声がしていた。
おせいの頭の中でも、赤ん坊が泣いていた。
泣いている赤ん坊を前にして、おせいがいた。

赤ん坊をはさんで、向こう側には武家の男女が座っていた。
男が口を利いた。
「おせい。この金ですべてを約束どおり。このややは、旗本五千石、松永家の世継ぎとしてもらいうける。良いな」。

女が言った。
「これであなたとややは、他人です。今後、一切会うことはなりませぬぞ」。
2人は立ち上がった。

おせいが叫んだ。
「お願いです!今一度その子を抱かせてください!」
おせいは手を伸ばした。

「なりませぬ」。
女の冷たい、断固とした口調だった。
すると、おせいは懐剣を取り出した。
政吉の持っている赤い懐剣。

それをおせいは、赤ん坊の前に置く。
「せめてこの守り刀を、私の形見として」。
男はうなづいた。

おしのと植松を前にしたおせいの目からは、涙がこぼれていた。
「太一をお願いします」。
「お願いします」。

おしのと植松は、おせいに頭を下げた。
「わかりました。わたくしどもの仕事は手落ち、間違いのないように念には念を入れなければなりません」。
「一応お調べさせていただいたうえで、ご返事をさせていただきます」。

今日も半兵衛のそば屋には博打仲間が集まり、座布団の上にさいころ博打をしている。
「おめえもへえれよ」。
言われた半兵衛の顔に、笑顔が広がる。
「そうですか、じゃちょっとだけ、やらせてもらいます」。

するとのれんの向こうから、「あんた」とお春がにらみつける。
はっとした半兵衛は「お前さんがた、店での博打は一切止めてもらいます。この店で博打をするなら、2度と来ないでもらいます!」ときっぱりした口調で言った。
しかし次には、「…そう言えって言うんですよ。山の神が」とひどく困った顔になった。

お春の表情におそれをなした客は、引き上げる。
だが、半兵衛はその客たちに、盛りを注文させた。
そして、窓を開ける。

向こうから人が来るのが見える。
「しっかり稼いで!」
半兵衛は、向こうから来るのが男女のどちらかで賭けをすることを勧めたのだ。

お春が「あたしはね、店のためを思って言ってんのよ」と言う。
上の空の半兵衛に「ちょっとあんた、聞いてんの?」と怒る。
「聞いてるよ」。
「まったくもう」。

半兵衛は、お春に売り上げを台帳に載せるように指示すると、先ほどの客にそばを運ぶ。
そして、半兵衛も賭けに参加した。
「男!」
「女や!」

「それそれ、やったやった」。
向こうから来たのは、女性だった。
女性に賭けた客が色めき立つ。
だが半兵衛は「待ったあ!」と言った。

途中までやってきた女性だが、ふと、道を引き返して帰ってしまった。
代わりに来たのは男だった。
「男はいらん」。
「男ほしい!」

結局、男に賭けた半兵衛が勝った。
「おっさん、今度女行けよ」。
そう言われた半兵衛だが、「いや、今度は見送ろう」と言った。
「ん?」

今度に向こうから来たのは犬だった。
「ええ勘してる!」
「いやいや、他に働きがないんで」。

すると、今度、道を来たのは利助だった。
今度は自分たちの勝ちだろう。
「おっさん」。

だが半兵衛は、今度はどちらにも賭けていなかった。
「張ってへん」。
「運が強い」。

おせいに呼び出された半兵衛と政吉。
「じゃあ、あたしたちの仕事は」。
そう、朝倉という旗本から赤ん坊を取り上げて返してやることだった。

「あたしはだめだ。お前さんこそ似合いの仕事だ」。
半兵衛と政吉は、お互いに押し付けあった。
だがおせいは「半兵衛さん政吉さん。もしかしたら命がけの仕事になるかもしれませんよ」と言った。

厳しい声だった。
政吉はそのいわくを聞いたが、「仕事の内容についてはお教えしないのが決まりです」とおせいは突っぱねた。
「半兵衛さん。どんなことがあっても、必ず子供を母親の手元へ。政吉さん、わかりましたね」。

だが「大の男が2人かがりで子供を取り返すなんて」と政吉は納得しない風だった。
半兵衛が政吉に離れるよう指示し、急に目を彷徨わせ始める。
向こうから、源五郎が来たのだ。

「真面目にやってる?」
半兵衛に十手を突きつけながら、源五郎は聞いた。
「薬味のねぎ仕入れに」。
「そうお」。

半兵衛は源五郎をやりすごし、歩いていく。
政吉と早速、朝倉家の前にいた。
すると政吉が、この中間部屋で博打をやっていると教えた。

夜までにはまだ、間がある。
「いいねえ~」。
2人は屋敷に入っていく。

屋敷では、太一が泣いていた。
主膳に向かって奥方が、「女中の子を朝倉家の跡継ぎに!」と嘆いていた。
跡継ぎは自分が生んでみせる。

「わかっておる。その折りには、あの子を始末すればいいではないか」。
その言葉に呼応するかのように、太一の泣き声が激しくなる。
「ええい、うるさい。すぐ部屋へ連れて戻れ!」と奥方が怒る。
「はい、申し訳ございません」。

2人になると主膳は奥方に囁いた。
「それに子供の親がだいぶ騒いでいるようだ。ぐだぐた言われてことが面倒になると、な」。
主膳の言葉を聞いた奥方が、「わかっております。そのことで軍十郎たちを…」と囁いた。

長屋では、植松が朝倉の家に行こうとしていた。
「あんた!」
「おしの、俺はじっとしていられないんだ。太一の奴、腹すかせていねえか、泣いてねえか…」。
その時、向こうから太一を奪っていった男たちがやってきた。

おしのと植松は、危機を感じた。
「よお、おしのさん!今そこで八丁堀に会ってね!」
声をかけたのは、利助だった。
利助を見た男たちは、去っていった。

半兵衛は、博打の合間に屋敷を歩いてみた。
すると、奥に向かう木戸がある。
だが木戸の向こうには、犬がいた。

犬は猛然と半兵衛に吠え掛かった。
すると、おしのたちから太一を奪った勘八がやってきた。
半兵衛は厠に行きたいとごまかして、何とかその場を逃れた。

博打場に帰ってくると政吉が、朝倉の用心棒の軍十郎相手に金を取られて、イライラしていた。
「あの野郎、俺の反目反目に張りやがって!」
半兵衛は「お前さん、若いねえ」と笑った。
だが…。

半兵衛の金もどんどん、軍十郎の前に積まれていってしまう。
「ああ、ちくしょう、頭来たくやしい!」
「半兵衛さん、勝負ってのはカッカしたら負けじゃねえのか」。
そう言った政吉の頬を、半兵衛が張る。

夜になり、待ちきれない植松は長屋を出た。
おしのは仕事屋に頼んだのだからと止めた。
それでも植松はやはり、自分の子供のことは親がやらなければ!と言って出て行った。

屋敷では太一がまだ、泣いていた。
乳母が落ち着かないのでございますと言い訳をしていた。
「落ち着かぬ?育ちが卑しいと、しょうのないものじゃ。泣きやまぬか!」
イラついた奥方は赤ん坊の頬を、扇でつついた。

「太一」。
朝倉の屋敷に入り込んだ植松は、太一の泣く声を聞いた。
部屋に近づこうとした植松に、犬が吠え掛かった。
あわてた植松は、見つかってしまった。

「待て!」
追われた植松は、それでも屋敷の奥へ入っていく。
「貴様!」

見つかった植松は、家来たちに殴り飛ばされた。
ぞうりで顔も踏まれた。
騒ぎを聞いて、主膳がやってきた。

主膳を見た植松は「殿様、太一をお返しくださいませ。太一はわたくしのせがれでございます。どうか、お情けを」と懇願した。
勘八が「若君に向かって何を!」と突き飛ばす。
「太一!」

赤ん坊に近づいた植松を、主膳は一刀の下に斬り捨てた。
植松が倒れる。
主膳は平然と、斬った刀を家来に持たせた。

「太一、おっかちゃんが待ってる。おっかちゃんが」。
植松はそう言って、絶命した。
「ふん、愚か者が」。

奥方が吐き捨てるように言った。
そして「おしのを呼び寄せ、始末を」と言う。
主膳がうなづく。
「おしのに、この狼藉者の死体を引き取るよう、そう伝えろ」。

この騒ぎに、博打に来ていた客はざわざわしていた。
しかし騒ぎはなんでもないと言われ、半兵衛と政吉は博打に戻ってしまった。
半兵衛は軍十郎に向かって「よう、でっかいお侍さんよ、あたしはもうひとつの名前を、明け方の半兵衛って言うんだ。明け方になるとつよいよお~」と宣言した。
「良い名前だねえ、明け方の半兵衛さんか!」

政吉が合いの手を入れる。
「おう」。
「俺のことも、ちょっと聞いてよ。俺はね、一発の政ってんだ!」
「一発?」

「一発勝負につええから、一発の政ってんだ」。
「一晩中で一発か!」
半兵衛が笑った。

2人は調子よく「半!」と張った。
バカにしたように、にやりと軍十郎が笑った。
そして「チョウ」と言った。

朝になった。
「野菜も買えやしねえ」と言いながら、半兵衛が中間部屋を出てきた。
「何が夜明けの半兵衛だ」と政吉が文句を言う。
「そういう自分だってな、一発の政だって?いちころの政じゃねえか」。

2人とも、負けてしまったのだった。
懐をかきながら政吉が言う。
「くそ坊主そば食いてえな」。
「勘定はもらうよ」。

おせいに呼ばれた半兵衛と政吉は、植松が殺されたことを知った。
「じゃあ、あん時の騒ぎが」。
「そうです!」

利助が頬を膨らませた。
「その時に、植松さんが殺されたんです!あんたがたが仕事を忘れて、博打に夢中になっている時にね!」
「それだけじゃない。もしあんたがたが見つかれば植松さんのように、殺されていたかもしれないんですよ。半兵衛さん政吉さん。この稼業を甘く見過ぎていないですか!」

しかし、おせいが沈んだ声で、言った。
「今度のことは、すべて私に責任があります。お2人を仕事屋として認めたのは私です」。
だが利助は収まらなかった。

「だいたいね、おかみさんにこんな風に迷惑をかけるなんて。あんたがた仕事屋になる資格なんてありませんよ!」
「かぁーっ!」
政吉が反論する。

「言いたいことを言うじゃねえか、このガキは!だいたいな、俺は今度の仕事に関しては、ちょっとひっかかってることがあるんだよ」。
「何です、聞こうじゃありませんか」。
利助も引き下がらない。

「その赤ん坊を取り返したいって母親は、貧乏人なんだろう」。
「そんな貧乏暮らしよりよ、一千石の旗本屋敷で、乳母日傘で育ったほうが赤ん坊にとっちゃ、よっぽど幸せかもしんねえじゃねえか!」
政吉の言葉は、おせいの心を貫いた。
おせいを見ていた半兵衛の顔色も変わった。

「政吉さん…」。
おせいが搾り出すような、つらそうな声で言う。
「母親にしてみればね、お腹を痛めた子供を手放したくないのは、当たり前なんですよ」。

まるで、政吉にも、自分にも言い聞かすような口調だった。
「どんなに貧しくたって、母親の手で育てるのが親としても子としても、一番の幸せなんです」。
「そうかねえ、俺はそうは思わねえな」。

「人間が生きてくうえに、一番頼りになんのは金だよ。おふくろなんかいなくても、結構楽しくやってけんだ」。
政吉が遠い目をして、微笑んでいた。
「結構楽しくな」。
「政吉さん!」

おせいの声は鋭く、悲しげだった。
政吉がハッとする。
半兵衛だけではない。
利助も、おせいの様子に驚いていた。

おせいは目を閉じた。
大きく息を吐く。
「仕事には私情を挟まないように、いつも戒めてきた私が…。これからは気をつけます」。
もう、おせいの声はいつもの冷静な、事務的な口調に変わっていた。

「朝倉は今度の一件が世間にもれないように植松を殺し、次はおしのさんの口を封じるために命を…。どんなことがあっても、これだけは食い止めなければなりません」
「半兵衛さん、政吉さん、二度と間違えのないようにお願いします」。
政吉が、神妙に深くうなづく。
半兵衛もうなづく。

おしのが、半兵衛、政吉、利助と一緒に朝倉家にやってきた。
半兵衛と政吉、利助は頬かむりをしている。
利助が車を引いていた。

「中だ」。
勘八が邪険に、指をさした。
主膳と奥方が見ている。

おしのが、植松の遺体に近づく。
冷たくなった植松を見て、「あんた…」と絶句する。
あんた、あんたと言って、おしのが泣き崩れる。
半兵衛が、辺りを見渡す。

利助が車を持ってやってきた時、勘八が戸を締めようとした。
だが利助は、扉に車をはさんで阻止した。
男たちが利助を追い出しに走る。

半兵衛と政吉が男たちを殴り、追い払う。
植松の遺体をかつぎ、車に乗せて4人は逃げる。
風が吹く。
枯葉が舞う。

その後を、軍十郎たちが追ってくる。
風が吹く。
道に落ち葉が、舞い上げる。
追っている軍十郎たちが刀を抜こうとした時、歌声が流れてくる。

数人の若者の声。
道場帰りらしい若者の集団が、歌を歌いながらやってくる。
軍十郎たちは、半兵衛たちに斬りかかるのを諦めた。
何も知らない若者たちが、半兵衛たちの横を通過していく。

半兵衛が前をキッと向き、きっぱりと言う。
「俺ぁ、やるよ」。
政吉も言う。
「ああ」。

利助が、半兵衛と政吉に朝倉家の見取り図を見せていた。
中間部屋から母屋に行くには、木戸を通らなねばならない。
半兵衛が情けない声で、「そこに犬が」と言う。
「犬ぐらいなんです」。

さらに、赤ん坊の部屋に行く前の部屋には、若頭たちがいる。
「主膳の部屋はどこだい。それにかみさんは」。
政吉が聞く。

利助が「ここと、ここになります」と見取り図を指した。
「こいつらに植松さんの恨みをな!」
政吉が見取り図を指差しながら、強い口調で言った。
だがおせいが「政吉さん、まず、子供を」と諭すように言う。

すると政吉は素直に「うん」と言ってうなづいた。
その様子を、半兵衛が見ている。
おせいが微笑む。
半兵衛が、2人を見る。

おしのを芝浦の浜に待たせておくと、おせいは言った。
子供を取り返したら、おしのは木更津の親戚を頼っていく。
打ち合わせを終えた半兵衛と政吉の2人は歩いていくが、ふと、半兵衛が戻っていく。

「おかみさん。ちょいと話が」。
半兵衛は、おせいを呼び止めた。
「何でしょう?」
半兵衛は、おせいと2人きりになった。

「おかみさん。ずうっと気になっていることがありましてね」。
「え?」
「いや。今度の仕事で、もしかすると私か政吉が死ぬようなことになるかも。いやこれは、例えばの話ですよ。その前にひとつだけ、聞いておきたいことが」。
「これは私の勝手な勘ですがね」。

「おかみさん、もしかすると政吉の…」。
おせいが目を伏せる。
顔を横に向ける。

そして「半兵衛さん、私には子供はありませんよ」とだけ言った。
半兵衛は確信した。
しかし、半兵衛が発したのは「は…、はははは」という笑い声だった。

「やっぱり勘が外れたか!あたしの勘も当てには、なりませんね。ははは」。
「…半兵衛さん!」
おせいの声は思いつめたようだった。
「?」

おせいが半兵衛の目をしっかりと見て、うなづく。
「すみません」。
半兵衛が頭を下げた。
「このことはもう、二度と口には…。ごめんなすって!」

半兵衛は政吉の待つ道に、戻っていく。
「ああ」と、政吉が返事をする。
去っていく2人を見送るおせい。

利助が来る。
ふっとおせいは目をそらし、歩いていく。
不思議そうに見ていた利助だが、おせいの後をついていく。

朝倉家に侵入した半兵衛と政吉。
木戸を開けると、やっぱりあの犬がうなっている。
「犬の始末!」と、半兵衛が政吉に囁く。

「ほら!」
半兵衛が小銭を投げ、手の上に乗せてその上にまた手を乗せて伏せる。
「裏」と政吉が言う。

小銭を見た半兵衛は、にっこりと笑うと政吉に、細長いざるを渡す。
政吉は木戸を開け、屋敷内に入る。
犬に政吉が近づく。

ざるに入れていた餌を犬に向かって、放り投げる。
犬はそれを拾って、おいしそうに食べる。
政吉が近づく。

えさが張っていたざるを、犬が覗き込む。
政吉はそのざるについている金具を、犬の首輪にかけてしまった。
犬がクゥーンと悲しげに鳴く。
だがもう、それしか声を立てられない。

「さすが、一発だな!」と半兵衛が賞賛した。
庭には、中間が2人いた。
「冷えますですねえ」。
半兵衛が手をこすりながら、やってくる。

「何だお前、こんなところに何しに来た」。
「あたし?どろぼう」。
「なにい?」
半兵衛が2人を気絶させる。

屋敷では奥方が太一にイライラしていた。
「ええ、泣きやまぬか!かわいげのない。このような子は朝倉家には向かぬ。お殿様に言って、他に適当な子を見つけるゆえ、おきぬ、捨ててまいれ!」
乳母は「そのような、奥方様!」とうろたえた。
「そちが捨てることができねば…」。

「私が殺してやる」。
奥方が、懐剣を抜いた。
「子供を渡すのじゃ」。
「お許しください奥方様」。

「どけ!」
子供を守って、乳母が倒れる。
奥方が懐剣を振りかざした時だった。

政吉が突然、入ってくる。
「あっ」。
さっと、奥方を懐剣で刺す。

半兵衛が子供を抱きしめる。
「クセモノ!」と叫び、勘八がやってくる。
政吉は勘八も刺す。

半兵衛が子供を抱え、庭に飛び出す。
「どろうぼうだ」と、政吉が叫ぶ。
そして半兵衛がいるのと反対の方向に、家臣たちを誘導する。

政吉が誘導する方とは逆に、半兵衛が逃げる。
「ややがさらわれた。朝倉家の大事じゃ!探せい!」
主膳が叫ぶ。

政吉は家来たちを自分のいる方に誘導したが、半兵衛のいる方から赤ん坊の泣き声がしてしまう。
焦った政吉は「こっちだぞこっち!」と木を叩き、音をさせてひきつける。
半兵衛の方に向かおうとした集団と、政吉の方に向かおうとした集団が鉢合わせして倒れる。

「おうい、頼むよお」。
泣きやまない赤ん坊に、困り果てた半兵衛が鳴きそうな声で叫ぶ。
軍十郎がやってくる。

刀を抜いて、襲い掛かってくる。
半兵衛は刀を避けて逃げる。
燈籠をはさみ、半兵衛が逃げる。

必死の半兵衛は犬のように土をかいて、軍十郎にかける。
政吉が飛び出してくる。
刀を持った軍十郎の手を押さえる。

半兵衛が政吉に抑えられた軍十郎の小刀を抜いて、わき腹を刺す。
軍十郎が、のけぞる。
政吉が取り上げた刀を軍十郎に向かって、振り下ろす。
軍十郎が倒れる。

「この野郎には博打で勝ちたかった!」
そう言った半兵衛だが、軍十郎を刺した刀から手が離れない。
燈籠に刀の柄をぶつけて、やっと手から刀が離れた。
一方、政吉も軍十郎を斬った姿のまま、しばらく動けなかった。

それでも2人は必死に、塀を越えた。
主膳が馬に乗って、屋敷を出る。
馬に乗り、主膳がやってくる。

2人が逃げる。
主膳は馬に鞭をくれる。
半兵衛が政吉を「おぅい!」と呼び止め、赤ん坊を投げる。
政吉が受け取る。

子供を抱え、政吉が走る。
だが主膳は追いついた。
政吉に向かって、鞭を振り上げた。

逃げる政吉だったが、主膳の鞭が当たった。
政吉が額を押さえる。
血が流れる。

政吉は逃げる。
走っていく。
政吉が曲がると、馬に乗った主膳も曲がる。

木を曲がった時、主膳のスピードが落ちた。
その木の上には、半兵衛がいた。
半兵衛が主膳の馬の上に、飛び降りる。

主膳の後ろに乗り、首にかみそりを当てた。
首筋を切り裂く。
馬から飛び降りる。

主膳は馬に乗ったまま、走っていった。
そしてやがて、首ががくりと前に垂れ、馬から落ちた。
馬だけが去っていく。

終わった…。
すると、赤ん坊がまた泣き出す。
赤ん坊を渡された半兵衛が「あああああ、はいはいはい」とあやす。

船着場。
おせいと利助が、見送る。
船の上のおしのが、頭を下げる。

しっかりと、赤ん坊を抱く。
おしのと赤ん坊を乗せた船は、遠ざかっていく。
半兵衛と政吉もそれを見送る。

そば屋で、客がお春に催促をしている。
お春がそばを持っていくと「遅せえじゃねえか、待たせやがって」と文句を言った。
そして、お春の尻をぺろっとなでる。

「きゃあっ!すけべえ!」
お春が悲鳴を上げた。
笑い声が起きる。

半兵衛は、調理場にいた。
湯気が立つ。
半兵衛が湯気を煽る。

湯気がもうもうと立ち、半兵衛が見えなくなる。
その隙に半兵衛が、売上金に手を伸ばした。
「あんたっ!」

お春の叱責の声が飛ぶ。
「ははは」と半兵衛が笑う。
笑いながら「ちえっ」と、残念そうに首をかしげ、指を鳴らす。
しかたなく半兵衛はそばをこね、切っていくしかなかった。


必殺の女神の1人、ジュディ・オングさんがおしの。
ささやかな幸せを壊す旗本・朝倉主膳は、菅貫太郎さん。
この菅さんがもう、ザ・菅貫太郎劇場!
バカ殿、狂乱の殿様を演じさせたら世界一の菅さん。

理不尽。
横暴。
乱暴。
狂気。

お世継ぎ、いたのか。
いて、これなのか!
どうなっちゃってんだ。

怖いわあ。
迷惑だわ。
関わりたくないわ!と思いながら、菅さん堪能。

殿が怖けりゃ、ここでは奥方様も怖い。
おしのに対する嫉妬、赤ん坊に対する憎悪。
綺麗な加賀ちかこさん。
殿が悪いのか、もともと怖い人なのか。

彼らの自分勝手さが、自己中心が、ささやかな幸せをあっさりと壊していく。
罪の意識もない。
人を人とも思っていない。

仕事屋としてのプロ意識など、微塵もない半兵衛と政吉。
博打に夢中になり、植松が殺されるのを防げない。
それを利助に責められ、政吉が切れる。

だいたい依頼自体がどうなのかと言う。
貧乏な実の母親より、金持ちの方が良いと口走る。
自分の経験から、母親なんていなくても生きていけると言う政吉。

母親への恨みなら、まだ良い。
政吉の言葉は、母親の拒絶だ。
自分を捨てた母親へのうらみではない。
政吉が母親を、母親と言う存在を捨てている。

でもその口調は、決して楽しそうではない。
むしろ、「生きていけた」という口調。
「生きていけるんだ」と言う口調。

おせいは衝撃を受ける。
恐らく、自分に育てられるより旗本屋敷の方が幸せだと思って手放したはず。
なのに、なぜ政吉は博打打ちになっているのか。
政吉に何があったのか。

長年、おせいを見ているはずの利助もビックリ。
その2人を見ていた半兵衛が、親子ではないかと疑問を持つ。
ここでもまた、半兵衛の勘の良さは発揮された。

それはこういう仕事を、こういう人生を歩んでいくのに一番大切なものだと思う。
博打には発揮されなかったけど。
でも博打でこの勘を使い果たさなくて、かえって良かったんじゃないの。

しかしおせいの体勢の建て直しもすごい。
次には口調がもう、事務的なものに変わっている。
すべて、自分が悪いと言って…。

おせいの様子に加えて、おしのの嘆きを見た半兵衛。
親子を、幸せを壊す権利など、誰にも、何千石の旗本にだってありはしない。
なのにまだ、いや、なお、主膳たちはおしのを殺そうとする。

主膳の仕打ちに対する怒り。
おしのの嘆きに対する深い悲しみ。
半兵衛に、仕事達成への覚悟が生まれた。
「俺ぁ、やるよ」。

おしのの依頼が正しいのかと言っていた政吉にも、火がついた。
こいつらに恨みを…と言い始める。
そこにおせいが、まず子供をと言う。
すると素直に政吉が、「うん」と言う。

この様子が、まるで子供のようだった。
ヤクザ者の政吉が、まるで子供のように「うん」と言う。
にっこり笑うおせい。
一連の流れに、呼吸のような自然さを感じるのも無理はない。

そして仕事屋というのは、あくまで目的の達成のために動くということがはっきりされる。
目的のために殺しをすることもあるという、基本がはっきりする。
しかし、半兵衛も政吉も殺しは素人。

勢いと怒りで、奥方を始末。
さらには勘八も始末。
迫ってくる軍十郎は武士だ。

半兵衛の、砂をかけて逃れようとする様子はまさに追い詰められた素人。
飛んでくる政吉との連携で、軍十郎を倒す。
しかし刀が手から離れない。
もう、必死。

馬に乗ってやってくる主膳。
菅さん、実はすごくカッコいい。
半兵衛は木の上から奇襲。
身が軽い半兵衛の攻撃は成功。

朝倉家は、断絶になっちゃうんだろうか。
植松、おしの、太一の引き裂かれた関係に、おせいと政吉の親子が重なり、最後はおしのの元に太一が戻って終わる。
おしのにはおせいが、ちゃんとしてやったんだろう。
去っていくおしのから、安堵と哀しみが漂う。

幸せになると良いな。
だけど半兵衛さん、あんなふうに赤ちゃんキャッチボールは怖い…。
最後は半兵衛の情けない姿で終わって、笑いで締める。

1話で政吉とおせいが、親子であることが描かれました。
さらにこの2話で、子供を旗本に奪われた母親と、旗本の養子に出して生き別れになった政吉とおせいがシンクロしました。
しかしこの設定はこれっきり、最終回近くまで、なりを潜めるんですね。
その理由と衝撃は、23話ぐらいまでわからない…。


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Author:ちゃーすけ
癖の強い俳優さんや悪役さん大好き。
俳優さん、ドラマ、映画、CMその他、懐かしいもの、気になるものについて、長々と語っております。

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