こたつねこカフェ

癖のある俳優さん、悪役さんが大好きです。時代劇、ドラマ、映画、俳優さんのことを好きに書いています。
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あたしたちは涙以外とは手を組みません 「必殺からくり人」

早坂暁さんがお亡くなりになりましたが、この方は「必殺」を語るには欠かせない方です。
今年、平尾昌晃さんもお亡くなりになりましたが、この方もそうですね。
本当にこうしてみると、当たり前のように存在していた方たちの訃報をよく聞くようになりました。
子供の頃は、こういうことがわかりませんでした。

親世代が嘆くのはわかりましたが、身近には感じなかったんです。
それがこういう訃報に接して、実感を持ってわかってくる。
「死」というものが、身近に感じられる年齢になる、ということでもあります。
だから、当たり前のように存在していた方たちの訃報は哀しいのです。

早坂さんといえば、「必殺」ファンには「からくり人」でしょう。
子供過ぎて記憶が定かではないのですが、早坂さんはNHKで「天下御免」と言うドラマを手掛けていました。
歴史上の出来事、人物を現代にもシンクロする演出で見せていたと思います。
これにより、ドラマの中の出来事が自分たち現代に生きる者にも、リアルに感じられました。

ネズミ小僧の俊足を表現する。
その言葉に「ネズミ小僧か、新幹線か!」というセリフがあったように思います。
これは子供にも、非常にわかりやすく、おもしろかった。
すばらしい言葉のセンスだと思います。

「からくり人」の早坂さんも、そうです。
ネズミ小僧が銀座に現れる。
舞台裏の山田五十鈴さんが、三味線について語る。
今ではめずらしくないかもしれませんが、当時は相当に斬新な演出だったと思います。

山田五十鈴さんは仕事人シリーズを知っている者には、レギュラー出演者です。
しかし山田さんをテレビドラマに引っ張り出すと言うのは、当時はものすごいことだったでしょう。
当時の早坂さんへの期待と重圧は、想像以上のものがあったと思います。
そしてこれに見事に応えています。

「からくり人」は「仕掛人」「仕置人」と続いてきた「必殺」の約束を破る構成でもあったからです。
「必殺」の主人公たち、人を殺す裏の稼業の人間としての、最低限の決まりは「外道仕事をしない」。
「感情でやらない、必ずお金で依頼された殺しをやる」でした。

「必殺」や「木枯し紋次郎」というドラマがなぜ、あんなに切ないのか。
それは王道、正道から外れざるを得なかった者が主人公だから。
だから彼らが関わるものが、同じように外れた者たちだから。

「必殺」は踏みにじられた者が、最後の最期、自分の身と引き換えにしたお金で恨みを晴らす依頼をする。
踏みにじられる者の、最後の最期に守れなかったものだけに、恨みは深い。
請け負った者は、彼らの恨みというものを武器に込めて相手に叩き込む。
壮絶なドラマが生まれるわけです。

ところが、仇吉率いるからくり人は、お金を受け取らない。
「仕事屋」のおせいもたまに自分がお金を出したりしていますが、仇吉はそもそもお金を要求しない。
「あたしたちの仕事は人殺し。死んだ元締めが言っていた通り、あたしたちは涙以外とは手を組みません」。
「涙のこぼれるような依頼しか、引き受けない」。

これ、歴代の「必殺」の仕事人たちは、本当はこう言い切りたかったに違いない。
ではなぜ、からくり人たちは、涙のこぼれるような依頼しか、引き受けないのか。
彼ら自身が、世間からはじき出された者たちが肩を寄せ合った集まりだったから。
虐げられるだけに留まらず、自分たちの流した涙を人の涙に置き換える優しさと強さと切なさを持っていた者たちだった。

この基準のために、からくり人たちが関わる依頼は、ものすごくつらい。
つらい話は胸を打つ。
その通り、ものすごくつらいんです。

「津軽じょんがらに涙をどうぞ」
「私ハ待ッテル一報ドウゾ」
「鳩に豆鉄砲をどうぞ」
この辺りの話のつらさといったら、初見の時は言葉が出ませんでした。

そして、だからこそ、お金で殺しを引き受ける者との抗争が発生する。
「お上と結びつく殺し屋は、臆病者」。
仇吉にそう言われる、曇り一味との抗争。

「涙、涙だってよ」と嘲る曇り。
そんな甘いこと言ってるから、先代の元締めも殺されたんだよと言う。
ところがこれが、シリーズ史上でも屈指の激しさを見せる。

甘いどころか、お互いの組織は壊滅する。
しかし、からくり人には、とんぼとへろ松がいる。
彼女が最後に、初めて匕首を手にして相手を倒さなければ生き残っていないにしても。

最初から最後まで、「からくり人」は本当に切ない。
仇吉そっくりとなった、とんぼが明治の時代を迎え、三味線を弾く姿。
暑く寝苦しい夜を背景に始まったからくり人は、最後にとんぼの背後で雪が降り積もる中、終わる。
こんなドラマを見せてくれた、早坂さん、ありがとうございました。


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古川ロックさんのベストワーク 「必殺からくり人 賭けるなら女房をどうぞ」

以前にも書きましたが、「必殺からくり人」の第3話「賭けるなら女房をどうぞ」
米の値段を吊り上げ、さばく陰謀により百姓一揆が起こされる話。
時次郎の知り合いの博打好きで女房を女郎にされてしまった魚屋伝次が、その陰謀に利用される。

女房が連れて行かれて、今さらながら後悔で泣き喚く伝次。
時次郎は女郎になった女房に、せめて最初の晩だけはいてやれと金を渡す。
だが、それだけ。
女房を身請けするには、大金が要る。

絶望する伝次を、曇一味の配下が連れて行く。
連れて行かれた伝次は髪をそられ、坊主の衣装を与えられ、念仏を覚えさせられる。
大金と引き換えに伝次は、奇跡を起こせる坊主を演じさせられる。
奇跡を起こし、百姓たちに拝まれた伝次は、一揆の首謀者になるのだ。

一揆は、2日だけの約束だった。
それ以上になれば、借金のために曇と米問屋に協力した藩も幕府よりお咎めを受ける。
途中までは、計画通りだった。

だが伝次には次第に、自分を慕う百姓娘をはじめとして、百姓たちに愛情が芽生えてくる。
首謀者を得た百姓たちの一揆の熱も上がり始め、一揆は次第に曇たちのコントロールも効かなくなってくる。
約束の2日も迫れば、伝次は消されるだろう。

伝次を守り、一揆を抑えるため、時次郎と天平が伝次の元へ行く。
明日は城下へ降りる。
だとすれば、このままでは伝次だけではない。
百姓たちも、藩によって殺されるだろう。

一緒に江戸に帰ろうという時次郎たちに、伝次は応えられない。
いきなり消えて、百姓たちを裏切ることはできない。
連れて行かれそうになった伝次は、裏切り者がいると声を上げる。
百姓たちに追われて、時次郎と天平は逃げるしかなかった。

しかし翌日、百姓たちを死なせることはできないと思った伝次は1人、城下に向かう。
母親の目を治してもらったと信じる百姓娘、キヨはついていこうとする。
伝次は自分は、神がかりなどではないと言う。

魚屋だ。
嘘、とキヨは驚く。
女房を女郎に売った、くだらない博打打ちだよ!

その言葉に驚いて立ち尽くすキヨを置き、伝次は人、城下に下りた。
待ってくれ、話を聞いてくれ。
だが待ち構えていた鉄砲隊は、伝次に発砲した。
伝次は倒れた。

藩の家老は、一揆の責任を取って腹を切った。
後に残ったのは、曇一味と、大もうけした米問屋…。
しかし仇吉は米問屋に、百姓たちの人件費と伝次の約束の金を取り立てに行く。

しらばっくれ、仇吉を追い返そうとする米問屋の大黒柱を揺らす怪力の藤兵衛。
バチを閃かせる仇吉。
女を相手に、この身代をかけて勝負なさいますか?

仇吉の気迫に負けた米屋は、儲けを吐き出した。
持って行け!
小判をばら撒き、逃げていく米屋。
仇吉は小判を拾い、涼しげな顔をして出て行く。

時次郎は伝次の報酬、50両を持って女郎屋に行き、女房に金を渡す。
あの人はどこにいるんです?
遠いところさ、これだけの金を稼ぐんだから、うんと遠くに行かなきゃ。

時次郎が帰った後、伝次の女房は身動きもせず、金を前に暗い部屋にいる。
膝を抱える。
きっともう、伝次は来ない。

水路を、時次郎の操る舟が渡っていく。
眠れぬ夜は、長くてつらいと歌いながら。
天保の、念仏一揆。
首謀者を捕まえてみると、それは漁師だったという。

はて、面妖な。
きっと別の魚屋伝次が、いたのでしょう。
水路を、時次郎の操る舟が渡っていく。
眠れぬ夜は、長くてつらい…。



話として、2話の「津軽じょんがらに涙をどうぞ」もすごいですが、これもすごいんですね。
群集の怖ろしさ。
そしてくだらない博打打ちの伝次が、百姓たちの気持ちにいつしか同化していく。

百姓たちに愛情を持ってしまう。
その経緯が実に自然。
1時間なのに、無駄な場面がない。
それどころか、どの場面もぎゅっと凝集されたように見逃せない。

伝次役の古川ロックさんの演技が、すごくいい。
必殺シリーズでは、主水の同僚のちょっとずるい同心や、そば屋のたちの悪い酔っ払い客やら演じていた古川さん。
ここでは、まさに主演です。

古川さんって、「必殺必中仕事屋稼業」でも9話で、魚屋を演じているんですね。
すぐに指差し役人に、斬られてしまいますが。
この後、「翔べ!必殺うらごろし」で悪人の坊さんを演じてます。
どう見てもどこかのおばさん以外に見えない市原悦子さんに、「お坊さん、お坊さん、芋焼けてるよ」と言われて寄って行き、ぐっさり刺されてます。

いつのまにか見なくなったと思っていましたが、飲食業に転進を考えてすぐに亡くなられてしまったようです。
長谷川伸シリーズの第3話「雪の渡り鳥」や、第6話「一本刀土俵入り」でもお見かけしました。
伝次は古川さんの、ベストワークじゃないでしょうか。
この名作とともに、古川さんのベストワークも残っています。


悪いおっかさんだったねえ… 「必殺からくり人」最終回(2/2)

長くなったので、2つに分けました。


冒頭、料亭のいつもらしさ、日常。
部屋に入ると、雰囲気は一変。
そこは殺し屋同士の世界。

曇りの仇吉を問い詰める迫力!
じわじわと、狙われたことへの怒りを感じる。
そして、仇吉も負けていない。

ついに、第1回の蘭兵衛殺害から持っていた、曇りへの怒りが爆発する。
「あたしたちの世界に証拠は要りません」。
そう、ここは証拠は?なんて言って、証拠が揃わなければ白!なんて世界じゃない。

仇吉は、曇りの提案をきっぱり断る。
「私たちは涙としか、手を組まない。涙のこぼれるような依頼しか、引き受けない」。
だから、からくり人は切ない話が多いのだと思った。

そして今まで曇りが所帯の小さい花乃屋に手を出さなかったのは、少数精鋭を知っていたから。
下手に手出しすれば、こちらも相当痛い目に遭う。
両替商を脅すやり方は、まさに鳥居という後ろ盾あってのこと。

曇りに向かって「勝負!」と言う仇吉がかっこいい。
受けて立つ曇り、須賀さんもかなりカッコイイ。
そして始まる全面対決。

曇りの側近中の側近・喜十郎は五味龍太郎さん。
「佐渡からお中元をどうそ」では、氷奉行だった。
どちらもお似合いです。

息つく間もなく始まる殺陣、全編、殺し合い。
匕首をとんぼに渡す籐兵衛の男らしさ。
籐兵衛の水中戦。

次々やってくる刺客、曇りの配下の多さに対して、今までの「必殺」の最終回を知っているこちらは、すごい無力感を感じる。
きっとダメだろう…と思ってしまう。
だけど撃たれ、刺されても籐兵衛は仇吉を迎えに行く。

姐さん、待っててください…。
仇吉の元へ、何が何でも向かおうとする籐兵衛。
2人の深い、深い信頼関係。
そういえば籐兵衛はいつも、こんな感じの誠実な男だった。

同時に花乃屋にいるとんぼは、誰かが来たのを知る。
戸を叩く音、外でとんぼを呼ぶ男の声が不吉、不気味。
とんぼが来ないとわかると、声が途切れる。
怖い。

天井から音がする。
怖い。
ホラー映画並みに怖い。

しかし、刃傷沙汰には縁がないと思ったとんぼは、見事に敵を撃退する。
花乃屋を出る仇吉が、一瞬、座敷を見るその間の取り方。
いろんなことを思い出し、仲間に対する思いがあふれているであろうことがわかる。

上から追ってくる刺客。
そして、親子の絆を感じさせる、へろ松が見る父親の籐兵衛の最期の姿。
今まで「アホ」と言われていたへろ松が、天平をしっかりサポートする。

大きな子供のようだったへろ松が、父を亡くしてなお、天平を支える。
それだけ、天平とへろ松の絆も強いことがわかる。
間寛平ちゃんも、見せ場。

蘭兵衛と時次郎の位牌を持っている仇吉の、仲間に対する思い。
「黒髪」を歌って、とんぼとの別れ。
今生の別れということが、胸に迫って来る。
「悪いおっかさんだったねえ…」。

延重という、悪い男が父親だったこと。
そして、それを眼の前で殺したこと。
この話を知ってこの場面を見ると母親として、とんぼへの愛情が迫ってくる。
すまない、そして生き残って欲しい。

曇りを出せー!と殴りこむ天平。
セリフがたまに、「くもりょーだせー」になってしまうのは後から何回か見てわかるご愛嬌。
しかし、一気に廃墟になるほどの爆発で、ご近所さんは何もしなかったのだろうか。
いや、曇りの屋敷はすごい広いんだなと解釈。

仇吉は「必殺」シリーズの山田さんで一番攻撃的と思うのだが、どうか。
そして一番、動きが良いような。
年齢的なものもあるだろうけど。
花乃屋の仲間を思い出しながら、目を閉じていく仇吉の顔は穏やか。

結局、とんぼとへろ松だけが生き残った。
殺し屋はどちらも、全滅。
凄まじい最終回。
「必殺」の中でも、指折りだと思う。


「必殺」は、娯楽である。
でもその他に「殺し屋」という、命のやり取りをするギリギリの場面で見せる人間ドラマだ。
そして、ここ「からくり人」では親子の、仲間の絆を見せるドラマだった。
だから「必殺」は、殺し屋の話なのに心に残ったりするんだと思う。


鳥居さまはまた、曇りに代わる人間を探したのか。
でも、歴史の波の中では、鳥居さまも無事ではいなかった。
世の中は変わった。
明治になった。

とんぼは、清元の名人・延寿太夫と呼ばれるようになっていた。
裏稼業をしているという意識が薄く、奉行所に駆け込もうとしたこともあるとんぼ。
しかし、とんぼは父親のことから意識が変わったのだと思う。

母親と、その仲間が事情があって寄り添っていること。
だから同じように泣いている人に対して、裏稼業をしていると。
とんぼは強くなった。
父の殺害を乗り越えて、へろ松は天平を支えた。

結果、とんぼとへろ松は生き残れたのだと思う。
仇吉そっくりの、年齢を重ねたとんぼ。
清元の名人となったとんぼの姿は、まるで、からくり人たちを偲ぶよう。
きっと彼女の胸の中には、仲間がいつまでもいたと思う。


涙のこぼれるような依頼しか引き受けない 「必殺からくり人」最終回(1/2)

「必殺」は、娯楽である。
でもそれだけじゃない。
そう思わせる「必殺からくり人」最終回。

「終わりに殺陣をどうぞ」。


仇吉が料亭にやってくる。
もういらっしゃってますと言われ、草履を脱ぐと、女将らしき女性にすぐに帰るかもしれないからそのままでいいと言う。
それから、迎えが勝手口の方から来るから、勝手口に置いておいてくれ、と。

座敷にいたのは、曇りだった。
「俺たちは同じ仲間だってのに、どういう具合か近頃しっくりといかねえな」。
「行かなくしたのは、誰です」。

先代の元締め、蘭兵衛が殺されたことはみな、曇りの仕業と知っている。
「証拠でもあるのか」。
「あたしたちの世界に、証拠は要りません」。

曇りが、火鉢に向かってキセルの煙をふうっと吐く。
「俺は最近、鉄砲で狙われた」。
曇りの頭に、あの日、鳥居が狙われた日のことが思い出される。
狙った相手は、木っ端微塵で身元がわからないと言う。

「時次郎、あの日以来ぷつりと姿を見せやがらねえ。俺はな名、会いてえんだよ、時次郎に」。
「自分で探せばいいでしょう」。
仇吉の言葉に曇りは「探したさ」と答える。
時次郎の片付いた部屋に、曇りの配下が押し入っている。

「時次郎が俺や幕府のお偉方を狙ったとしたら、ちいとばかり話は面倒になるな」。
「どういう風に面倒に?」
「あんたたち、潰さなきゃならねえ」。
もっとも、仇吉たちが曇りの配下になるなら話は別だ。

「お断りします」。
仇吉はキッパリ、断る。
「あたしたちの仕事は人殺し。死んだ元締めが言っていた通り、あたしたちは涙以外とは手を組みません」。
「涙のこぼれるような依頼しか、引き受けない」。

曇りがあざける。
「涙?涙だってよ」。
相変わらず、甘いことを言う。
だから、先代の蘭兵衛も殺されたのだ。

仇吉は言い返す
「お上と結びつく殺し屋は、臆病者」。
「何い」。
「あんたたちが考えているほど花乃屋の連中、甘っちょろくて弱いかどうか」。

「試してみろ、というんだ」。
仇吉と曇りは真正面から向き合う。
「勝負!」と仇吉が言う。
「勝負!」と曇りも言う。

仇吉を迎えに、籐兵衛が向かうところだった。
留守を1人きりで守るとんぼに、懐の匕首を渡す。
籐兵衛さんは、と言うとんぼに、腕を叩いて自分にはこれがあると言った。
誰も入れてはいけない。

籐兵衛が船を進めていくと、赤い襦袢を着た女が流れてきた。
死んでいると思ったが、女は生きていた。
突然、籐兵衛は水中に引き込まれる。

水中に落ちた籐兵衛は、何人もの黒装束の男が向かってくるのを見た。
自分に向かってくる匕首を、籐兵衛は水中で受け止める。
もがく女の腰巻を解き、刺客の首を絞める。
1人、また1人と刺す。

やっとのことで逃れ、船に上がる籐兵衛。
背後から銃声が響き、障子に穴が開く。
「曇りの配下か」。
また1発、籐兵衛に向かって弾丸が撃たれる。

相手を捕まえ、籐兵衛は首を絞める。
至近距離から、籐兵衛は撃たれた。
だが相手の首を絞め、刺客は動かなくなった。
すると、表から2人が走りこみ、次々籐兵衛を刺した。

籐兵衛が水中に崩れ落ちるのを見て、刺客は引き上げて行く。
だが籐兵衛は顔を上げて、船を押す。
「迎えに行きますから。姐さん、きっと行きますから。待っててくだせえ」。

仇吉は堀の上で待っていた。
花乃屋の屋形船が到着する。
「籐兵衛」。
だが答えはなかった。

ふと、船の後ろを見る。
籐兵衛が浮かんでいる。
「籐兵衛!」

とんぼは1人、匕首を握り締めて待っていた。
表の戸が叩かれる。
「仇吉さんからの伝言を持ってきました」。

とんぼは土間に下りていく。
「伝言ならそこで言ってください」。
「私は籠屋です。天平さんの小屋に送るように言われてきました」。
だが、とんぼは開けない。

「おかしいわねえ。天平ちゃんならここにいるんですけど」。
すると、声はふっつりしなくなり、戸を叩く音もしなくなる。
とんぼは奥に走り、匕首を握り締め、灯りを消す。
上から音がする。

とんぼは座敷の奥に、たんすの影に身を潜める。
刺客は瓦をはがしていた。
とんぼは押入れに隠れる。
刺客が飛び降りてくる。

とんぼのいる押入れに、刃が隙間から差し込まれる。
ふすまに向けて、とんぼが両手で思い切り、匕首を刺す。
悲鳴がし、ふすまを倒して刺客が倒れる。

とんぼが走り出る。
また1人、刺客が襲ってくる。
外に逃げるとんぼが戸を開けると、仇吉がいた。
思わず悲鳴をあげたとんぼに仇吉は「出ておいで」と声をかけ、外に出す。

外でとんぼは息を大きく吐く。
目の前に灯りの消えた屋形船がある。
中をのぞくと、暗い中、うつぶせで籐兵衛が倒れていた。
「籐兵衛さん!」

仇吉は、敵と斬り結び、これを倒した。
桶でバチを洗う。
「とんぼ、出るよ!三味線以外、何も持たなくていい」。
とんぼが天平を気遣うと、「あっちの方も襲われてるよ」と仇吉は言う。

「側を離れるんじゃないよ」。
仇吉は、位牌を持って火を消す。
戸を閉める一瞬、座敷を見て動きを止める。
しかし、静かに戸を閉めて仇吉は外に行く。

天平の小屋で、うなされているへろ松。
籐兵衛が刺されるのを、夢に見る。
へろ松は「おとっつぁんが死んだ」と起き上がる。
いつものように寝ぼけていると思った天平は怒って、「眠れよ!」と言う。

だが、表に数人の気配を感じる。
天平は、へろ松を置いて外へ出る。
地面を這って近づく刺客。

天平は相手の匕首を奪い、1人を刺す。
1人は花火を口に放り込んで、トドメを刺した。
「へろ松、逃げろ!」

叫びながら、もう1人も刺す。
表から1人が火を投げ込んだ。
火薬に引火して、大爆発を起こし、小屋は潰れた。
表に逃げていたへろ松が、立ち上がった天平に駆け寄る。

「しっかりして」。
「目が見えない。見えねえよ!」と目を見開いた天平が叫ぶ。
刺客が走ってくる。
「危ない!」とへろ松が叫ぶ。

倒れている刺客から、刀を取り、天平に握らせる。
天平の背後を支えるようにして、へろ松は「これ持って」と言った。
敵が斬りかかるのに「右だ!左だ!」と叫ぶ。
天平が見事に刺す。

「ようし、やった!」とへろ松が言う。
その頃、仇吉はとんぼと夜の町を走っていた。
逃げる仇吉を、屋根の上から追ってくる刺客。

2人が飛び降りてくる。
仇吉がとんぼに、物陰に行くように突き放す。
襲ってきた2人を、仇吉が仕留める。

朝、仇吉ととんぼが行くと、天平の小屋はなかった。
倒れている刺客。
潰れた小屋の中で、泣くとんぼ。

「ひどい…」。
仇吉は言う。
「大丈夫。しんじゃいないさ。生きてるよ」。

盆栽の手入れをしながら、側近の喜十郎から曇りは報告を受ける。
籐兵衛は仕留めたが、他は逃げられたと聞くと、曇りが言う。
「必ず探せ」。
そして曇りは、両替商の備前屋に向かう。

仇吉が影から見ている。
曇りは、備前屋の主人にある大名の借金の返済を後2年待ってやれと言う。
利子をつけて15万両、もう待てないと主人は言った。
すると、曇りは備前屋の妾のお久のことを持ち出す。

「お久さんは死にましたね」。
備前屋はそんなバカな、と笑う。
「いや、死にましたね。誰かに殺されてね」。

お久は今朝まで、備前屋と一緒だった。
「備前屋さん、あんたってことになりませんかね。女は、あんたのタバコ盆をつかんで死んでたんですよ」。
「そんなバカな!」

「でも、そうなんですよ」。
曇りの前で、借用書が破られていた。
「あなたは利口な人だ。お久殺しは、私がもみ消しますよ。町奉行の鳥居さまとは、お近づきになっているのでね」。

堀に止められている小船の中で、天平は目を冷やしている。
誰かの気配で、天平は起き上がる。
へろ松だった。
花乃屋は荒らされて、誰もいなかった。

「みんな、殺されたんだろうか」。
曇りに違いない。
へろ松は泣いた。
天平は「泣くんじゃねえ!」と怒鳴る。

夜の町を走る、黒装束の曇りの配下。
小船の中、ムシロをかぶせて潜んでいる仇吉ととんぼ。
仇吉は、とんぼに位牌を渡す。

「元締め、時次郎。籐兵衛のは作ってやって」。
そして、江戸を離れろと言う。
「無駄にしぬこたあないよ。これはあたし1人の敵討ちだ」。
とんぼが拒否する。

「みんなしんじまったら、からくり人がいたこと、誰も知ってくれないじゃないか」。
「どうしても曇りだけは殺す。殺さなくちゃならない」。
「無理よ!」
「無理でも生かしちゃおけない」。

仇吉は言う。
この堀をまっすぐ行けば、江戸湾に出る。
右に沿っていけば、江戸から出ることが出来る。
「大阪の曽根崎に清元の師匠がいる。この三味線を見せれば、お前の面倒を見てもらえる」。

仇吉は、とんぼの顔を見る。
「悪いおっかさんだったねえ」。
そして、向かい合って仇吉が「黒髪」を歌う。
とんぼが三味を引く。

やがて、仇吉が岸に上がり船を押す。
流れていく船からとんぼが「お母さん」と叫ぶ。
右へ行けと示す仇吉。
とんぼの声が遠ざかっていく。

見送る仇吉。
顔を目を伏せるが、やがて去っていく。
曇りの屋敷へ仇吉は向かう。

天平はへろ松に支えられ、夜の町を行く。
「大丈夫、天平さん、もうすぐだよ」。
屋敷の門の前に到着すると、天平はへろ松に「ここから何歩だ」と聞いた。
「20歩ぐらい」。

聞いた天平は、火のついたたいまつを手に「お前は向こうへ行け」と言う。
「だって」。
「早く行くんだ。お前は行くんだよ!」

宙を見据えたまま、天平は火薬に火をつける。
大きな曇りの屋敷の戸が壊れる。
「曇りを出せー!」と天平が叫ぶ。
へろ松が逃げる。

夜の町を仇吉が走る。
屋敷に入った天平の背後から、何人も刺客がやってくる。
天平は縁側から庭に落ちる。
だが、火薬を手にたいまつを持っている天平に、誰も手が出せない。

匕首を手に、遠巻きに囲むだけだった。
「曇を出せー!」と天平が叫ぶ。
座敷に向かった天平は、火薬に火をつける。
曇りの刺客たちが、奥に逃げ込む。

火薬は大爆発し、曇りの屋敷は煙を上げた。
一気に、障子が破れてボロボロになる。
仇吉は天平の名を呼びながら、やってくる。

襲ってくる刺客。
1人2人。
背後から1人。
次々、仇吉は刺す。

曇りの屋敷は、あばら家と化していた。
喜十郎が出て来て、仇吉に斬りつける。
仇吉の笠が切れる。
だが、相手も手傷を負う。

喜十郎の背後に曇りが現れる。
「曇りさん、一緒に死んでもらいますよ」。
腕を押さえた喜十郎が、突進してくるが仇吉に斬られる。

ふすまの影で仇吉は、バチを構える。
廊下に出ると、端と端で曇りと仇吉は向かい合った。
曇りは仇吉に、撃鉄を起こした銃を向ける。
仇吉は、顔の横でバチを構える。

銃声が響いた。
同時にバチが投げられた。
曇が悲鳴をあげる。
胸には、ぐっさりバチが刺さっている。

曇りが倒れる。
そして、仇吉が倒れる。
風の音がする。
もう、屋敷では動いている者は誰もいない。

倒れている曇り。
風に障子紙が舞う。
倒れている仇吉。

嵐の小船。
時次郎がこぐ。
蘭兵衛がいる。
籐兵衛が、子供へろ松を抱きしめる。

天平の笑顔。
ヘラを収めて、笑う時次郎。
心の中、仇吉は歌う。
風が吹く。

小船の上にとんぼがいる。
バチを握り締めている。
「とんぼさーん」とへろ松が走ってくる。
「へろ松っちゃん!」

へろ松は泣きながら「天平さんが死んじゃった。死んじゃったよ。俺これからどないしたらええんじゃ」と目をこする。
とんぼは、呆然とする。
朝になった船の上。
とんぼは、泣いているへろ松を隣に置いて三味線を弾いている。

明治の初め、上方で清元の名手として名をはせた延寿はとんぼのこと。
その姿といい、そのバチさばきといい、仇吉そっくりだったといいます。
歌っているとんぼ。
その姿は、仇吉そのものだった。


もし、あの時、鳩が飛ばなかったら 「必殺からくり人」第12話

衝撃のラスト前、「鳩に豆鉄砲をどうぞ」。


時次郎が失踪した。
とんぼが時次郎の手紙に気づいて外にでた時には、笑顔で船に乗って去っていくところだった。
手紙には本日を持って、花乃屋とは縁を切るとあった。
それから、13日の夜、そして15日の昼には人目につくところでアリバイを作るように。

仇吉は籐兵衛を時次郎の家に向かわせたが、時次郎の家は既に綺麗に片付けられていた。
時次郎は何か、大きなことをやるつもりだろう。
自分が捕まれば、花乃屋にも類が及ぶような何か。

天平は数日前、時次郎が家を訪ねて来た時のことを思い出していた。
花火を大好きだと誉め、振り向いた時にはいなくなっていた。
そして、火薬が持ち出されていた。
13日、明日だ…。

籐兵衛にはたったひとつ、手がかりがあった。
本所の岡場所、そこにしぐれという女郎がいた。
訪ねていくとしぐれが呼ばれ、身支度をしていた。
そして、時次郎はどこか聞かれたが、籐兵衛が聞きたいところだった。

しぐれは身請けされたのだ。
籐兵衛について、花乃屋へ行ったしぐれを見て仇吉はそっくりだと驚いた。
夕べ、具合が悪くて寝転がっていたしぐれのところに、時次郎が来たと言う。
枕と小判を出した時次郎を見て、しぐれは喜んだ。

籐兵衛はしぐれに、この金で身請けすると言った。
天平にもひとつ、心当たりがあった。
鉄砲鍛冶の花沢老人。

そこにやはり時次郎は来たらしい。
組み立て式の鉄砲に、遠眼鏡をつけさせたものを注文し、作らせたと言う。
一昨昨日の朝出来て、時次郎は試し撃ちをした。

誰をやるつもりなんだ…、仇吉は籐兵衛にある商家に船を向かわせる。
そこの女将は、アキと言った。
先代の元締めから聞いたのだが、時次郎が島送りになる前、アキは時次郎の婚約者だった。

祭りの夜、ケンカである男を突き飛ばし、その男は打ち所が悪くて死んでしまった。
その為、時次郎は島送りとなった。
島を出た時次郎はアキを訪ねたが、その夜はアキの婚礼の夜だったという。
玄関前で子供と花火をするアキを見た籐兵衛は、息を呑む。

しぐれとアキはそっくりだった。
時次郎は時たま、遠くからアキを見ていたらしい。
花乃屋ではしぐれが、時次郎の無事を祈っていた。
自分なんか、身請けする価値ないのに。

仇吉はアキに会った。
時次郎のことを聞かれて、アキは驚いた。
アキは時次郎は島に行って2年目、なくなったと聞いていた。
だから、アキは嫁に行ったのだ。

前日、子供と遊ぶアキは時次郎らしき男の後姿を見ていた。
去って行った後には、子供のおもちゃが置いてあった。
時次郎はアキに会って行ったのだ。
時次郎はいつ、帰って来るのか。

聞かれた仇吉は、もう帰ってこないだろうと答える。
だから、言われた通り、島に行って2年目に死んだと思ってくれ、と。
子供の頃、時次郎と遊んだ、はないちもんめを歌うアキ。
時次郎の行方はつかめなかったが、13日の夜、花乃屋の面々は言われた通り、町で人目につくようアリバイを作った。

13日、老中・水野の第一の側近・鳥居耀蔵のスパイを努めていた花井という小目付けが殺された。
鳥居耀蔵の行った蘭学者弾圧「蛮社の獄」。
花井をスパイにして鳥居は、蘭学者たちにあらぬ罪をかぶせて連行した。
しぐれは蘭学者弾圧の「蘭学者」という単語を聞いて、声をあげた。

去年の秋、しぐれは病で危ないところを時次郎が蘭学者・小関三英に命を救われていた。
しぐれを担いで時次郎は、小関のところに走った。
小関はしぐれという女郎を1人の人間として扱い、治療を施してくれた。
時次郎は、小関と蘭学者に恩を感じた。

籐兵衛が小関の家に向かうと、役人が見張っていた。
昔、小関の患者だったと言うと、役人は小関は自害したと言う。
蘭学者・渡辺華山逮捕を聞いて、自害したのだ。

捕えられた蘭学者は無実を訴え、日本を売る気などあるはずがないと訴えた。
鳥居耀蔵は自分は騙せないと言って、でっちあげかどうか決めるのは自分だと冷たく言い放つ。
「怖ろしい人だ。日本を不幸にする人だ」と言われても、「光栄ですな」と顔色一つ変えない。

仇吉たちは理解した。
時次郎は小関を自害に追い込んだ弾圧者・鳥居耀蔵を暗殺しようとしているのだ。
政府の要人の暗殺。
だから時次郎は、仇吉たちの前から姿を消し、関係を絶ったのだ。

15日は鳥居の父の命日で、鳥居が寺にやってくる。
それを知った仇吉たちは寺が見えるところまでやってくるが、寺は曇りの手下に囲まれていた。
曇りは鳥居の側について、人々を弾圧する側にまわったのだ。
ずらりと並んだ曇りの手下たちが、横に並び、威圧するように歩いてくる。

当然、仇吉たちが来たのにも気づいているのだ。
仇吉は時次郎は、おそらくあの塔の上にいるだろうと言ったが、曇りに気づかれないよう去るしかない。
時次郎はその通り、塔の上の小部屋で、白い鳩を相手に1人、遂行の時を待っていた。
寺の鐘が鳴り、豆を置く。

日数を数えていたのだ。
そしてついに、時次郎は塔の天辺へと続くはしごを、自ら倒した。
もう、外には出られない。
決行の日だ。

表では曇りの配下が、警備の位置についていた。
時次郎はライフルを構え、磨く。
遠眼鏡をのぞく。

メガネのレンズの中、曇りの配下が見える。
時次郎は下を見下ろし、鳥居が歩くはずの境内をレンズの中に見る。
ライフルを固定し、構える。
汗を拭く。

握り飯を食べ、水を飲む。
肩に白い鳩が乗り、時次郎からご飯粒を貰う。
時次郎が鳩を抱く。

水で目を洗い、手ぬぐいでぬぐう。
鳩の鳴き声がする。
時次郎は頭に細い皮を巻き、手に手甲をつける。

弾丸を取り出す。
目の前にかざし、つぶやく。
「鳥居耀蔵」。

また一つ、取り出しては顔の前にかざす。
つぶやく。
「金座の後藤三右衛門」。
弾丸をかざす。

外では、水野忠邦が駕籠に乗ってやってくる。
「水野忠邦」。
もうひとつ。
「曇り」。

籐兵衛が、見守る。
仇吉が、張り詰めた顔をしている。
寺の上を、鳩の群れが飛ぶ。
砂時計の砂が落ちる。

曇りの配下が、鳥居の出迎えに出る。
「ご苦労様でございます」。
頭を下げる。
駕籠の前に、草履が出される。

「曇りか」。
「水野様は」と曇りが尋ねる。
「おっつけ、まいられるであろう。中で待つ」。
曇りが頭を下げ、鳥居の後について行く。

「後藤様がお見えになりました」の声で、後藤が到着したので、曇りが駕籠のところに向かう。
鳥居と後藤が挨拶をする。
「早く来い、鳥居」。
狙いをつけた境内に来るのを待っている、時次郎がつぶやく。

花乃屋の面々は言われた通り、人目につく場所でそれぞれ三味を弾いたり、釣りをしていた。
「だんな、引いてますよ」と言われても、籐兵衛は「うるせえ」と言って釣り上げなかった。
一緒に釣りをしていた天平は「1人でやるなんて…、そりゃねえよ」と下を向いた。
へろ松は、往来でそうめんを売っていた。

鳥居、水野、後藤が歩いてくる。
時次郎が銃を構える。
狙いを定める。

すっていたタバコの火を、導火線につける。
撃鉄を引く…!
銃声が響いた。

白い羽を赤く染めて、白い鳩が羽を飛び散らせた。
時次郎がハッとする。
鳩が鳥居の前を横切ったのだ。

時次郎がかわいがっていた、あの白い鳩。
鳩は血に染まって、地面に落ちた。
時次郎は、すぐに構えなおした。

だが鳥居の周りには護衛が集まってきてしまった。
「囲め、囲むんだ」。
「あそこだ!」
時次郎の居場所が、わかってしまった。

鳥居は家臣たちに囲まれ、時次郎が再び撃った弾は警護の者に当たった。
移動していく鳥居。
鳥居が見えない。
誰もいなくなった地面に落ちている、白い鳩。

囲まれたまま、鳥居は屋根の下に避難してしまった。
時次郎が、頭に巻いたヒモを引きむしり、歯を食いしばる。
曇りが残酷な笑みを浮かべながら、「相手は逃げられねえんだ。殺さずに捕まえろ」と言う。
だが鳥居は「いや、殺していい!」と言う。

「相手が死んでいると、勝手に調書が作れる」。
そう言うと、鳥居は寺に向かった。
曇りは「わかりました」頭を下げ、横にいる手下に「殺せ」と伝えた。

時次郎は1人、塔の中に座っていた。
アキと昔、歌って遊んだ、はないちもんめを歌う。
まけてくやしい、はないちもんめ…。

そして火薬を顔に、体に塗り始める。
島帰りの証である、刺青がされた腕にも塗り込む。
頭に火薬をふりかける。

時次郎の顔に、笑みが浮かぶ。
タバコを見つめ、時次郎は目を閉じる。
すっていたタバコを落とす。
次の瞬間、塔は爆発した。

仇吉も、とんぼも、天平も、籐兵衛も、へろ松も、それぞれの場所でアリバイを作っていた。
爆発音を聞いたとんぼが、仇吉の側から外に走り出る。
へろ松が泣き崩れる。

人々が爆発音で、走っていく。
釣りをしていた籐兵衛が、顔を歪ませる。
天平が立ち上がる。
仇吉が息を呑む。



最初に作品の雰囲気を壊す叫びを、ひとつ。
ああ~、岸田森さんはやっぱりいい!
ザ・鳥居耀蔵!
冷徹なまなざし、表情。

やや青白い顔をして、薄く笑う。
岸田森さんにしか演じられない怖さ!
シーンとしては、短いんですよ。

なのに、この存在感!
今なら本田博太郎さんに演ってほしい。
岸田森、ばんざーい。

さあ、読んでくださっている方があきれたところで第12話の話です。


衝撃作と言われている「鳩に豆鉄砲をどうぞ」。
大したことない?
いや、本放送で、何の予備知識もなく見た時は、相当衝撃受けたんですよ。
暗殺を果たせず、かわいがっていた鳩を撃ってしまって自爆、って。

翌日、土曜日がかったるくなるほどの衝撃。
しかも、語り合う人はおらず。
土曜日の学校が、1人かったるかった私。
いやー、ほんと、土曜日休みだったら良かったのに。

「必殺」で殺し屋側が死ぬのは、初めてじゃないんですけどね。
からくり人としてではなく、いちテロリストとして行動し、失敗し、自縛する直次郎。
だからこっぱみじんになることで、身元不明になって、誰にも迷惑かけまいとした身の処し方。
この孤独。

花井を闇から走ってきて、すれ違いざま仕留めるとか、かっこいいんですけどね。
絵になります。
途中まで、時次郎は出ないんですが、まさに時次郎退場の為の一編です。

緒形さんの表情がすばらしい。
鳥居さまを待つ、息詰まる暗殺の瞬間。
解説にもあるように、映画「ジャッカルの日」のよう。

本来は優しい男というのが良くわかる、鳩との交流。
孤独を慰める、唯一の存在。
それを自分が…。

しかも鳩が鳥居をかばうような形で。
痛い、痛い、手も痛いし、心が痛いだろう。
結局、歴史の波は時次郎の暗殺を許さなかった…ってことでしょうか。

だれもいない境内に落ちている、血まみれの鳩が哀しい。
何か、踏みにじられた人々の象徴みたいで。
あの鳩はきっと誰にも顧みられず、片付けられちゃうんですよ。
哀しい!

身請けしてくれるとわかったしぐれの、うれしそうな顔。
帯を解き始める、しぐれにはそれしか礼ができない。
素朴で、素直な女だと思う。

しかし、2人の幸せな生活はなかった。
はないちもんめを歌うアキ。
最後に火薬をつけながら、歌う時次郎。

火薬を塗りながら、時次郎はかすかに微笑む。
殺し屋としての、自分への罰を感じたのか。
長い夜がやっと終わると、もはや安らぎを感じていたのか。
結局は運のない男だと、あれこそが「諦念」というものか。

ああいう仕事をする時に、情を感じるものは動物であっても一切、ご法度だと聞きました。
だから時次郎はからくり人であり、テロリストに向かないんだと思いました。
最後のナレーションの言葉が、またいい。

「もし、あの時、鳩が飛ばなかったら…。
日本の歴史は、少しばかり変わっていたのかもしれません」。