こたつねこカフェ

癖のある俳優さん、悪役さんが大好きです。時代劇、ドラマ、映画、俳優さんのことを好きに書いています。
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藤堂藩には何も起こらなかった 天知版「雲霧仁左衛門」最終回

天知茂さんつながりですが、天知さん主演の「雲霧仁左衛門」。
忙しかったので、後でももう一度ちゃんと見るつもりです。
白糸のおみつが好きな人と一緒になって、盗賊稼業から足を洗ったりと山崎版とは違うところも出てきました。
だけど一番違うのは、やっぱり最終回でしょう。

執念で雲霧一味のお盗めの現場を押さえた火盗改めの前で、小頭・吉五郎が自害。
この自害も、山崎版の吉五郎はお頭が来る前に危機を知らせに走り、お頭を熊五郎に託して、自分は楯となる。
大立ち回りの末、「火付け盗賊改め方である。神妙にいたせ」の声で、最期を悟った吉五郎。
ニヤリと凄みのある笑いを浮かべて、「木鼠の吉五郎だ。…見ろ」と言って自害。

天知版の吉五郎もが、「盗賊の意地を見せる」「これが本当の盗賊だ」と言って捕り方たちを前に盛大に自害。
「ピアノ売ってチョーダイっ!」の軽快なセリフがおかしい、財津一郎さんの名演技ではあります。
ただ、お頭との別れがあったら、もっと良かったなあと思ってしまうのは、山崎版から入った人間だからですね。

仁左衛門の身代わりに、兄が蔵人が捕まるのは同じ。
しかし蔵人は仁左衛門に、藤堂藩への復讐をやめ、違う人生を歩むように諭す。
この仁左衛門は忍者っぽいんです。
読唇術をやるのですが、市中引き回しにあっている兄が弟に気づき、唇の動きで伝える。

さらにこの引き回しの最中、おかねと富の市が一緒になるきっかけとなった凶賊・鳩栗の大五郎の弟と残党が兄の復讐で式部を狙う。
兄の最後の舞台を汚させないよう、仁左衛門は市中に潜み、式部を狙う大五郎の残党たちを始末。
誰にも知られず、大五郎一味の抹殺は遂行され、結果として式部を守ってやることになる。

蔵人の取調べ中に、式部が辻一家の気持ちに寄り添ってくるのも、山崎版では痛いように伝わってきた。
武士の悲哀。
法で裁けない、巨大な悪に対する苛立ち。
通じない正義感に立場を超えて、気持ちが通じ合っていく2人のお頭。

田村高廣さんは実にキリッと式部を演じていましたが、山崎版の中村敦夫さんのような演出の演技も見たかったな。
自分を宿敵が守ったことも知らず、法の番人としての立ち位置を変えなかった式部もまた、良かったですけど。
高瀬同心と、密偵のお京の最期は、どちらもやっぱり哀しい。
雲霧とは殺しあう運命だとしても、高瀬やお京も自分の信じる道を行ったのだと。

そして藤堂藩への復讐は、天知版では行われなかった。
一味は解散。
熊五郎はお頭はもう、別の人間として、別の道を歩んでいく。
自分たちには、止められないと言って肩を落とす。

お千代もまた、自分の道を行く。
仁左衛門から離れないという、道を。
その後の2人は、どうしたかわからない。

だが仁左衛門の後ろをひたすら歩いていくお千代を見ると、きっとどこかで暮らしたんだろうと思える。
山崎版のお千代は、きっといつまでもお頭を待ち続ける。
そして最後、藤堂藩にはその後、5年間は何も起こらなかったと語られて終わる。

山崎版は仁左衛門の人生を追い、復讐を終えるまでを見事に収めたラストだったんだなあ、と思いました。
これは、雲霧一味のお盗めと解散がメインのアクション時代劇というスタンスでしょうか。
同じ題材でも、ずいぶんテイストが違う作品になる。
これはこれで、楽しかったです。


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♪や、や、ややややーん 天知版

天知茂さん主演の「雲霧仁左衛門」。
今、ファミリー劇場で同じく、天知さんが名探偵・明智小五郎を演じる「江戸川乱歩シリーズ」も見ているので、そう思っちゃうんでしょうが、どこか活動劇っぽい。
町の中にひっそりと目立たず溶け込むお頭ではなく、派手な紫を使った衣装で登場したり、謎の虚無僧だったりする。

そのスーパーマンぶりと合わせて、どこか探偵活劇、大江戸捜査網的世界。
これはこれで、楽しい。
もちろん、人間ドラマも描かれているんですが、どちらかというと活劇っぽい。

因果小僧・六之助は山崎版の方が、無鉄砲。
逆に州走りの熊五郎は、あまり出てこない。
木鼠の吉五郎も、それほど出てこない。

お千代は山崎版は上品でたおやかでしたが、こちらは盗賊の姉御という感じがしますね。
山崎版ではお頭とお千代はあくまでプラトニックな間柄であり、そんなお千代の風情が松屋をひきつけたんですが、ここでは魔性の女ぶり発揮です。
お頭との関係も、天知版ではお千代の女っぽさが出てます。

私の好きな、江幡高志さんが配下の1人として出番が多いのはうれしいです。
安部式部役の田村高廣さんは、迫力と温かみがある。
密偵・お京の宮下さんも姉御的迫力と、それとは裏腹の、垣間見せる弱さが魅力的。
それぞれの良さが出ていて、天知版も好きです。

池波作品は、ひとつの原作をいろんな人が演じるので、その違いがまた楽しい。
個性が出ると、同じ原作でもこんな風になるのかと思いながら見てます。
それぞれの良さが出ていると、テイストが違っていても、十分、楽しめるんですね。

しかし、天知版は音楽がおもしろい。
オープニングの「や、や、ややややーん」という女性コーラスがなんだか、お色気あっておもしろい。
エンディングのまるで闇夜にとどろく怪人の笑い声みたいな「くわーかっ、かっか」みたいな音と、夜に目が光るふくろうがいかにも夜に動く集団っぽさを出しているのもおもしろい。
活劇っぽいのは、この音楽も理由かもしれませんね~。


天知茂さんの「雲霧仁左衛門」

時代劇専門チャンネルで、天知茂さん主演の「雲霧仁左衛門」が始まりました。
中村敦夫さんが演じた火付盗賊改めのお頭・安部式部が田村高廣さんというのが、すごく見所。
やっぱり、安部式部がしっかりしていないと、楽しくないですもん。

後に、七化けのお千代を演じる池上季実子さんが、白糸のおみつなんですね。
お千代は、大谷直子さん。
州走りの熊五郎は、谷隼人さん。

因果小僧・六之助は、江藤潤さん。
木鼠の吉五郎は、財津一郎さんですね。
富の市は、荒井注さん。

火付盗賊改めの裏切り者・岡田甚之助は、穂積隆信さん。
山田藤兵衛は、高松英郎さん。
めんびきのお京は、宮下順子さん。
このお京は、妖艶そうです。

それぞれが持ち味を生かせるキャスティングがされていて、いいですねえ。
山崎努さん主演の「雲霧仁左衛門」は、90年代で最高の時代劇の1つと思いましたが、こちらも楽しみ。
天知さんというと、明智小五郎なんかもお似合いでした。
そのせいか、なんだか天知さんの雲霧仁左衛門はケレン味たっぷり、というイメージで見てしまうんですが、果たして。


本田博太郎さんが「雲霧仁左衛門」を語る

中井貴一さんが「雲霧仁左衛門」を演じていますね。
私はまだ見ていないんですが、楽しみです。
山崎努さんの時は、私の好きな本田博太郎さんが演じていた州走りの熊五郎も楽しみです。

その博太郎さんの、「雲霧仁左衛門」についてのインタビューを、時代劇専門チャンネルで見ることができました。
プロデューサーとしてこの作品に関わった能村さんもこのときの本田さんのことを「良かったんだよ」と、おっしゃっていました。
義理堅く、与えられた仕事は完璧にこなす州走りの熊五郎。

博太郎さんは、「雲霧仁左衛門」の前に「必殺仕舞人」があったと語ります。
「松竹で工藤栄一監督、カメラ石原さん、照明中島さんという出会いがありまして、その10年後の作品なんです」。
「その、尊敬するチームに参加したい」。

これは以前、時代劇マガジンでも語っていました。
それで、意思表示を監督にしたと。
2007年の時代劇マガジンの時は、工藤監督が一言、「この役、本田でいいよ」と言ってくれたと語っていました。

「声をかけてもらえないということでしたら、お前はもう、ダメだという」。
「そういう意思表示をされるというものが、俺の中にあったものですからね。是が非でもこの作品には参加したい」。
これも時代劇マガジンで、これに呼ばれなかったらお前、もう役者としてダメなんだよと思っていたと語ってました。

そして、その撮影現場では?
「良い芝居をしようとか、演技をしようとか、そういうレベルじゃないんですよ。尊敬する山崎努さん、石橋蓮司さんですからね。芝居なんかしようもんなら、失礼ですよ」。
「頭で考えたものはだから、全部、あの人たちには通用しないんですよ。
「感性というかね、ここ(胸を押さえる)なんですよ。全部。まっすぐ。全部。愚直のごとくぶつかっていくだけですよ」。

張り詰めた空気の中、行われた撮影。
その中で印象的だったのは、お頭と小頭の別れだと語ります。
これもまた、マガジンでも語っていました。

頭・仁左衛門。
小頭・吉五郎。
火付け盗賊改めが迫る中、吉五郎を後にして叫ぶ仁左衛門。

2人の別れのシーン、セリフはほとんどないんです。
しかし、これが最後になるとお互いに覚悟している。
吉五郎が頭を下げる。
熊五郎が仁左衛門を乗せて舟をこぎ、離れていく。

無言で背中を見せている仁左衛門。
舟が遠ざかる。
その時、仁左衛門が叫ぶ。
「吉五郎!」

このシーンですね。
仁左衛門を乗せた舟をこいで脱出する熊五郎役を演じていた本田さんは、時代劇マガジンではこのシーン、「魂が震えた」と語っていました。
「人としての山崎努さん、石橋蓮司さんの精神性の会話がある。そこで見える。大人の、ふかぁ~いシーンですね」。

本田さんは時代劇マガジンでは、仁左衛門に裏切った仲間を「殺せ」と命じられる時のシーンもあげていました。
その時、山崎さんは本田さんの演技を「うん、そういうことだな」と評価されたそうです。
このシーンには盗賊2人のやりきれなさ、哀しみがこめられていた。

そして本田さん、能村さんに一言。
「能村さん、お久しぶりです。能村さんの熱い、深い洞察力!エネルギーをもう一度開花させて、傑作をもう一度作りましょう」。
「お客様に応えるような、すごい作品を作りましょー!」と、手を振る。
能村さんが笑う。

そして、「本田さんは本当に、この作品に力を入れてくれたのをよぅく知ってます。本田さんというと、とんでもない偉い人をやったかと思うと、北京原人までやるような幅が広い人です。どちらかというと演技は濃い方なんだけど、この作品はほんとに役に入り込んでたってことです」。
山崎さんもインタビューで「僕は仁左衛門になりきってました」と語ってましたからね。
プロが集まって、プロの仕事をしたんですから、良い作品になるわけです。

ここで吉五郎役・石橋さんのインタビューも、聞きたいところです。
そして、そうですね。
私もこういう良い作品が、ぜひ見てみたいです。
「雲霧仁左衛門」は、90年代最高の時代劇の一本だと思います。


「お頭!」「どちらさんで?」 「雲霧仁左衛門」 最終回

最終回、「最後のお盗め」。


まるで武士の切腹のような、吉五郎の最期。
討ち入りを前にしたような、仁左衛門と兄の別れ。
兄・蔵之助は自訴して出た。
「それがしが雲霧仁左衛門でござる」。

火盗で、仁左衛門の取調べが始まった。
式部と蔵之助は向かい合う。
「仁左衛門、表をあげい」と式部が言う。

仁左衛門の顔を見て、式部は考える。
あの時。
この男はお千代とお京を交換したあの時、斬りあった男だろうか?

「その方が、雲霧仁左衛門に間違いないか」。
「さようにございます」。
「雲霧仁左衛門とは仮の名であろう」。
「さようにございます」。

「まことの名は、辻蔵之助」。
「いずれの侍じゃ」。
「生州、藤堂藩でござる」。

「藤堂藩を浪人して、すぐ盗賊になったのか。浪人したのは何年前だ」。
「20年」。
「20年?」

「盗賊になったのは、17年前。3年間の流浪の果てでござる。きっかけは、ほんのちょっとしたこと。高利貸しを襲っての30両」。
「以後、この蔵之助についてくるものが1人増え、2人増え、気がついたときには手前1人では、どうにもならぬほどの仕組みになっており申した。その仕組みを守る為には、盗めをする。その繰り返し」。
「今思えば、あっという間の17年間でござった」。

「若くは見えぬが、その年で雲のように消えるとは思えぬな」。
「それがし、往年はその都度、影を使い申した。盗めの度ごとに、それがしが陣頭に立って走り回っていたわけではござらん」。
「その影とは?名は!」
「通り名を木鼠の吉五郎と申します。それがしにとっては、まことに頼もしい片腕でござった」。

「なぜ、自訴してまいった!」
「前もっての覚悟でございました」。
「何?」
「この度の勤めが最後のつもりでございました」。

「近頃は体力も気力も衰え、このまま長生きをしても詮無きこと。潔く、お上の手にかかってあの世へ旅立つつもりでございました」。
「まことか!」
「はい」。
山田も蔵之助をじっと見ている。

「盗みをすることで、世の中の仕組みに対する恨み鬱憤を、晴らしておるつもりでございました。今思えば、笑止の至り。世情を騒がしたる段、ただ、ただ、恐れ入ります」。
その時、若年寄の細田が来たという知らせが入る。
細田は雲霧のことを聞いてきた。

取り調べており、素直に応じていると式部が答えた時、「取調べなど無用」と細田は言った。
いや、無用とは言わないが、速やかに処刑すること。
老中・板倉よりのきついお達しだった。
その理由を細田は「世情、雲霧に喝采を叫ぶ声がある。そのような噂が広がる前に処置せよということだ。よいな」と言った。

山田が頭を下げて、細田は出て行く。
圧力だ。
どこからか、圧力がかかっている。

「お頭。直ちに処刑せよとは、ご老中のお言葉とは思えませんが」。
「つまり、取調べられてはまずいということだ。おそらく、藤堂藩の差し金であろう」。
「藤堂藩?」

「雲霧仁左衛門が、元・藤堂藩士では具合が悪い」。
「では、いかがなされますか?」
「このまま、調べを続ける!」。
式部も、藤堂藩からの黒い影に気づいた。

熊五郎が、野山を走っていく。
ある茶店に来て、戸を叩く。
治平が顔をのぞかせ、戸を開ける。

熊五郎にお松が「お頭が捕まったって、嘘だろう?嘘だろう?」と言った。
おもんも「嘘だよねえ?ねえっ!」と言う。
「熊五郎!」と治平が叫ぶ。
熊五郎は柄杓に水を汲み、一気に飲む。

お松、治平、おもんが悲壮な顔つきで駆け寄る。
「捕まったのは、お頭の兄上だ。お頭の身代わりだ!」
「お頭には侍としての、最後の大仕事がある!」
熊五郎の目も据わっている。

「最後の大仕事?!俺たちが手助けするわけにはいかねえのか!」
「だめでぇ!」
するとお松が「どうしよう…。お千代ちゃん、江戸へ行っちまったんだよ!」と言った。

お千代は、おかしらを取り返すと言って、江戸におみつと行ってしまった。
止めても聞かなかった。
「俺たちは皆、一緒の気持ちなんだ」。

治平の言葉に、お松もおもんもうなづく。
熊五郎が苛立ちのあまり、柄杓を投げ出す。
水がぶちまけられる。
熊五郎は前を睨み続ける。

子安村。
仁左衛門は1人、無人の寺に座っていた。
蔵之助の刀を手にして、抜き身を見る。

細田からの要請にも関わらず、式部の取調べは続いていた。
式部は、蔵之助に藤堂藩を追われたいきさつを聞いた。
「ある日、お納戸金・4百両が紛失いたしました…」。

「その罪はそれがし一身心に背負い込まされたのでござる。元凶は、国家老次席・八木十右衛門と御用達・伊勢屋金兵衛でござる。おのれらの使い込みをそれがしに押し付ける為、帳簿一切書き改められ、それがしの弁明は一切聞き入れられもうさん」。
「それがし、まだ若こうござった。妻と幼き娘2人を連れて脱藩いたしましたところ」。
式部が「追っ手を差し向けられたのだな」と言った。

「はい」。
蔵之助に、あの時の光景が蘇る。
「上意!」と叫びながら、大勢の追っ手が走ってくる。
小さい娘が転んだ。

蔵之助は転んだ娘を助け起こし、妻は娘を抱き寄せた。
若い蔵之助は、必死に応戦した。
妻も懐剣で、追っ手の刀を受けた。
回想はそこで、終わった。

「上意討ちということでござった。12人の手錬で、それがしも如何ともしがたくそれがしの目の前で妻も、娘たちも、果てましてございます」。
式部が思わず、息を飲む。
「江戸へもどって御老中に訴え出ました。既に巧みに、手が回っておりました」。
山田も、背後の2人の同心も、蔵之助を見つめていた。

「その方、兄弟は!」
「伊織と言いまして、5年前に病を得て、死にました」。
1人の同心が、蔵之助の刀を式部の前に持ってくる。

「5年前。その方が盗賊になってからじゃの」。
「それがしと前後して脱藩し、盗賊の群れに身を投じておりました。元来、体の弱い性質で、不憫な奴でございました」。
式部は、六之助が持っていたキセルを取り出した。
「このキセルに、見覚えがあるか」。

式部が、キセルを見せる。
「はい。それがし、配下の六之助に与えたものでございます」。
「もう一本あるはずじゃ。いかがいたした!」
式部の声が、鋭くなった。

その日の夕暮れ、江戸に密かに入ったおみつが、番屋の近くに立っていた。
番屋に灯りが入り、雲霧が捕まって、これで安心して眠れると言っていた。
そしてもっとも、雲霧に狙われるなど、貧乏人には関係がないことだがと笑った。

おみつが聞いている、その側にお千代がいた。
雲霧が捕縛されたというのは、本当だったのだ。
おみつが泣き出す。

「本当だったんですね。お頭のこと」。
「ばか。メソメソしたってしようがないじゃないか」。
「お千代姐さん。どうしたらいいの、ねえ、どうしたらいいの」。

「取り返すのさ」。
「どうやって」。
「考えるのさ。その気になったら、なんだってできる。考えるんだ…」。
その頃、仁左衛門は薄暗い街道を1人、歩いていた。

式部の取調べは、続いていた。
その床下に、六之助が潜んでいた。
松屋のこと。
吉五郎とお千代を使ったこと。

お千代との関わりりを聞かれると、単に配下の1人と言った。
松屋から奪った金額を聞かれると、「5千両と記憶しておる」と答えた。
「確かに5千両か」と、山田が聞く。
山田はあの時、松屋自身から1万両と聞いていた。

さらに山田は「もうひとつ聞こう。松屋の裏手の墓地には、我ら火付け盗賊改め方の役人が詰めておった」と聞く。
「それがしと、吉五郎が」。
高瀬たち同心は、確かに2人組に襲われ、生き埋めにされた。
「うむ」。

「何人おった?」
「3人」。
「籐兵衛。今日の調べはここまでにいたそう」と式部が言った。

山田は式部の元に飛んで来て、「それがし、どうにも腑に落ちぬことがあります!」と言った。
松屋が奪われた金は、1万両だった。
そして、墓地にいたのは5人だ。

雲霧は常に影を使っていたと言っていた。
あの男も影だったら。
もし、あれが雲霧でなかったとしたら。

「だったらどうする」。
「あの男が万一、雲霧でなかった場合、殺された高瀬が浮かばれません!」
式部は腕組みをして、聞いていた。

「籐兵衛。お前には武士の志というものがわかるか」。
「わしは今になってようやく、それがわかりかけてきた」。
蔵之助は牢で、ひたすら目を閉じて座っていた。

その頃、旅支度をして歩く男がいた。
この男は、阿之津の定七といって、元・辻家に仕えていた忠実な郎党だった。
地蔵が並ぶ木の側に立った仁左衛門に、定七は国家老・八木十右衛門が江戸に入るのは3日後でございますと教えた。
「そうか」。

定七が、仁左衛門の背後に控えている。
藤堂藩の藩主・高道が老中就任するのに際しての、賂1万両を持っての行列だ。
「我ら辻兄弟の仇敵・八木十右衛門。3日後に江戸」。

仁左衛門はそう言うと定七に「定七。長い間、ご苦労だった」と言う。
「はい。…後のことは」。
「後のことは、わし1人の仕事。それに…」。

仁左衛門は、ふっと笑う。
「州走りがしつこく、付きまとっておる」。
「はい」。
石仏が並び、カラスの声が響いていた。

お千代は、考えていた。
後に、おみつが続く。
お千代はおみつに、一党は解き放ちになったのだから、「あんたはおかえり。あたしと一緒にいたってしょうがないじゃないか」と言う。

「嫌です。帰るところなんかないの、知ってるくせに」。
だがおみつは、遠州に行って寺子屋を手伝うと話していたはずだ。
「姐さん、1人で死ぬつもりでしょう。そんなの、私、嫌!」
おみつは目に涙を溜めながら、ついていった。

その頃、八木十右衛門は藤堂藩藩主の老中就任の画策の為、賂1万両を持って、江戸へ向かっていた。
十右衛門の駕籠の後、1万両を担いで、行列は行く。
その背後に旅の僧侶の姿をした男が立っている。
笠から見える顔、それは熊五郎だった。

その夜、蔵之助は小伝馬町の牢屋敷に移された。
山田籐右衛門と政蔵、その他、たくさんの役人が、駕籠に付き添う。
政蔵が、山田に「旦那。お叱りを恐れずに申し上げます。殿様は辻蔵之助を、本物の雲霧じゃねえとお考えなのでは」と聞いた。

「おめえ、何でそう思った」。
「ただ、あっしにはそのように思えてならねえんです」。
「たわけたことを申すな」と山田は言う。
影で六之助が聞いている。

「火付け盗賊改め方のお頭が、盗人の心情に心を寄せているとでも申すか」。
そして「今にわかる。この男が本物の雲霧なら、奴らは必ず奪い返しに来る」と言った。
「来るとすれば、この道中」。

小伝馬町の牢屋敷の門が開く。
その時、「うおおおー」という声が響いて、「お頭あっ!」と六之助が斬りこんできた。
「お頭!」
だが、山田に取り押さえられる。

六之助の覆面がはがされる。
蔵之助が凝視する。
「お頭!お頭!」と六之助が蔵之助を見て、叫ぶ。

蔵之助が六之助を見て、六之助も蔵之助を見つめる。
「お頭あ…」。
蔵之助が前を見る。
山田が目を見開いて、2人を見ている。

牢に入った仁左衛門の前に、六之助が引き立てられてくる。
「六之助。この男お前らの頭、雲霧仁左衛門に間違えねえか?どうなんだよう!」と山田が凄む。
蔵之助が六之助を見つめる。
六之助が、牢に駆け寄る。

「お頭!お頭!俺も、俺もお仕置きしてくれえ!お頭!お頭あああ!」
山田はじっと蔵之助を見ている。
蔵之助は無言で前を見る。

町に告示がされた。
「雲霧仁左衛門。市中引き回しの上、磔獄門だってよ!」
「雲霧仁左衛門 磔、獄門」の文字がお千代の目に入ってくる。

おみつが唇を噛む。
隣の札には、「雲霧一党 因果小僧六之助 斬首」とあった。
お千代が見つめ、おみつが唇を噛み締める。

その夜、2人は花火師のところに盗みに入った。
お千代が樽をひとつ取り、中身をなめて、また元に戻す。
2つ目の樽を手にして、なめた。

そして2人は廃屋で、火薬を詰めて、爆薬を作っていた。
筒を幾つもつなげ、導線で結ぶ。
お千代はこの竹筒の火薬を投げ、どのどさくさの中でお頭を…と思っていた。

翌朝、藤堂藩の本陣から八木十右衛門が出立する。
僧侶姿の熊五郎が、離れたところから見ている。
「道中、気をつけていってらっしゃいませ」と本陣の主人が頭を下げる。

供の者が言う。
「ご家老、いよいよ、あと1日。江戸でございます」。
熊五郎がふっと笑って姿を消す。

処刑の朝でもあった。
小伝馬町の牢屋敷には役人が来て、「ゆっくり眠れたか。これよりヒゲをあたる」と言う。
「丁寧な御扱い、お礼の申しようも」と蔵之助が頭を下げる。

六之助は刑場にいた。
「お頭」とつぶやく。
六之助の顔に面紙がかけられる。

首斬り役人の刀に、水がかけられる。
六之助が、膝まづかされ、首を前に押し出される。
首斬り役人が刀を振り上げ、そして振り下ろす。
カラスが飛んでいく。

「あれが雲霧か」。
市中では雲霧仁左衛門を一目見ようと、人々が道に集まってきていた。
「さすが雲霧仁左衛門だ」。
「堂々としてやがるぜ」。

人々が口々にいろんなことを言う。
仁左衛門は畳みの上に乗せられ、罪状を書いた札が背後に掲げられている。
畳みは、4人の役人がそれを担いでいる。
行列の先頭には、式部が馬に乗っている。

お千代とおみつが見ている
「お頭じゃない!」とお密が囁く。
お千代も呆然としている。

角を曲がり、自身番の前で休憩になった。
安部式部と山田が、控える。
式部が、蔵之助を見つめる。

自身番の前の門が、閉められる。
お千代とおみつが、門の前まで来る。
「姐さん、お頭じゃない。引き返そう」と言う。

2人は顔を、見合わせる。
役人が、柄杓に水を持ってくる。
山田籐兵衛が、蔵之助の口まで持っていく。
蔵之助が水を飲み、お辞儀をする。

お千代が息を詰めて、見つめる。
式部も見る。
「出立!」の声がかかり、再び、引き回しが始まった。
お千代が、袖に手をやる。

その時、誰かがお千代を止める。
お千代がハッとして、見る。
目を見開く。
止めたのは、仁左衛門だった。

小塚原の刑場に、人々が走っていく。
仁左衛門は、離れたところに座っていた。
おみつがまた、離れたところで見守る。

「お頭、兄上様との今生のお別れ」とお千代が言う。
だが仁左衛門は「別れは済ませてある」と言った。
「六之助は最後までお頭のこと…」。

「お頭、すみませんでした。お頭との約束を破ってしまって、でもあたし、どうしても保土ヶ谷にじっとしていられなくて!」
「わかっておる」。
「お頭」。

「お千代」。
仁左衛門が振り向く。
「はい」。

「わしの最後のわがままを、聞いてくれるか」。
何かを察したお千代が「嫌です」と言う。
「お前と一緒に暮らすと言う約束は、守れそうもない」。
「嫌です。私どこまでもお頭といっしょに」。

「わしは薄汚れた、ぼろくずのような老いぼれだ。お前はまだ若い」。
「私、待ちます。お頭を。いつまでも待ち続けます。お頭が本懐を遂げられるその日まで、待ち続けます」。
「お千代。吉五郎六之助を始め、死んでいった雲霧一党のことを思えば、お前と2人、ヌクヌクと暮らすわけにはいかんのだ。お前は別の生きる道を探さねばならぬ」。
「お頭」。

お千代が駆け寄るが、仁左衛門は後ろを向く。
ガックリと、お千代が座り込む。
2人から離れて、おみつもうなだれていた。

鐘が鳴った。
蔵之助が、磔台の上に登った。
目の前で、処刑の刃が交差し、十字になる。

若年寄の細田は式部に「式部。見事な裁きであったと、御老中方は、ことのほかお喜びであったぞ」と言う。
「いえ、それがしはただ役目を果たしただけのこと。雲霧仁左衛門と言う男、散々手こずらせたあげく、自訴して出るなど。盗賊ながら、なかなかに肝の座った男でございました」。
「して、裁きを言い渡された雲霧は何ぞ申しておったか?」

「いえ、格別には」。
「ただ…」。
式部は細田を見つめる。
「ただ、法に触れることもなく、ヌクヌクと私腹を肥やす奴が俺は大嫌いと」。

「そんな奴がおる限り、第二第三の雲霧は必ず現れると」。
そう言うと、式部は笑った。
「ははは、盗人にも三分の理と言う奴でございましょうか」。
細田は呆然として、式部を見ていた。

仁左衛門が、街道を行く。
八木十右衛門の行列が、道中を行く。
仁左衛門は、歩く。

僧侶の姿をした熊五郎が、走ってくる。
走りながら錫杖を投げ、笠を投げて走っていく。
通行人がふと、熊五郎を見る。
だが、熊五郎は走る。

八木の行列は賂を持ち、坂に差し掛かった。
神社の中、仁左衛門は目を閉じて時を待っていた。
仁左衛門が、目を開く。

八木の行列は、細い道に差し掛かった。
その途端、行列の背後、前、横で4発の爆薬が炸裂した。
土煙が上がり、白くなって視界は遮られた。

鉢金をつけ、襷で袖を縛った仁左衛門が走って来る。
刀を抜く。
うろたえた行列の侍たちが、応戦しようとする。
だが仁左衛門は、1人、2人、3人と次々と、みねうちで倒していく。

1人を蹴り倒す。
駕籠を持った奴が、うろたえて後ずさりする。
「おのれえ!」という声が上がる。

混乱する行列に、熊五郎が乱入する。
1人の侍を倒し、斬りかかってきた1人を受け止め、突き飛ばす。
賂1万両を担いでいたやっこが、ふらついて倒れる。

1万両が、横になる。
千両箱が、転がっている。
熊五郎が、それを盗んでいく。

煙で見えない中、仁左衛門は次々に侍を打ちのめす。
確実に八木十右衛門の駕籠に、近づいていく。
八木の駕籠が、横倒しになる。
中から、八木が顔を飛び出させる。

驚いて身を乗り出し、辺りを見回す。
正面に仁左衛門が、いる。
仁左衛門が、八木を見据える。
みねうちだった刀を持ち変え、八木に刃を向ける。

刀を八木に向かって、横に払う。
「ああっ」と、八木が悲鳴をあげる。
次の瞬間、八木の髷が切られ、髪がざんばらに落ちる。
「おっ、おおお!」

八木が頭を抑えて、うろたえる。
仁左衛門が刀を、下に下ろす。
「あっ!」

仁左衛門が、八木を正面から見据えた。
「1万両、頂戴つかまつる!」
「つ、つじ!辻伊織!」
侍たちが転がって、もがいている中、仁左衛門は刀を収め、足早に去っていく。

その夜の藤堂藩・江戸上屋敷。
衝立が倒れる。
血まみれで、自害して果てている八木。
その目は、見開いたままだった。

夜半、火盗の屋敷の戸が叩かれる。
山田が式部に報告に来た。
「藤堂藩の行列が盗賊に?」
「はっ。それが火付け盗賊方改めに、何の正式な知らせもございませんが、その責めを負って、国家老・八木十右衛門が自ら腹を。金を盗まれたぐらいで、国家老ほどの者が腹を切るものでございましょうか」。

「おそらく金と一緒に手紙でも盗まれたのであろう。その中には、金を渡すはずの老中がたの名前が書いてあったのかも知れぬ」。
「籐兵衛」。
「はっ」。
「これはわしらには関わりあいのないことだ。ほっとけ!」

山田は黙った。
「辻蔵之助、積年の恨み晴れたやもしれぬ」。
式部の口元は、笑っていた。

翌朝。
上屋敷の戸が開いた。
「あっ!」
「ああっ!おい!」

門番が、驚愕する。
手紙が、門に張ってあった。
そこには、藤堂藩の藩主・高道の名前。
さらに、賂を渡す老中方の名前があった。

屋敷から侍たちが、飛び出してくる。
「もどってきた…!」
そう言うと、若い侍は1万両の前でガックリとひざをついた。

もう1人の侍が言う。
「殿が腹を斬った後というに…」。
1万両は千両箱に入ったそっくりそのまま、積まれていた。

定七と話した木の前で、仁左衛門は熊五郎といた。
「州走り。長い間ご苦労だった。一党への引き金よろしく頼む」。
「お頭!いずれお目にかかる日は」。
「もう会えぬかもしれん」。

熊五郎の顔が初めて、歪む。
「お頭あ」。
「早く行け!」
仁左衛門は、背を向けていた。

熊五郎の返事がない。
風が吹いていた。
後姿を見つめる熊五郎が、涙目になる。
口が歪む。

「へーい…」。
そう返事すると、熊五郎は消えた。
いつもながら、鮮やかだった。

最後の配下、州走りの熊五郎が消えて、仁左衛門は1人になった。
仁左衛門は、椿の花を持っていた。
地蔵に置く。

蔵之助、吉五郎、六之助の墓が並んでいる。
お千代が拝む。
「小頭、六之助、兄上様。あたしがしっかりお墓をお守りいたします。そしてお頭をお待ちします」。

ひと月後。
お松、おもん、治平がやっている茶店。
熊五郎が来た茶店だった。
治平が客に茶を運んできて、ふと表を見る。

離れたところ、ゴザに遮られて良く見えないが、こちらを向いて微笑んだ顔は仁左衛門だった。
「お頭…!」
治平が店から飛び出してくる。
「お頭!」

治平がゴザを避けるが、誰もいない。
おもんが「おとっつあん、どうしたの」と寄ってくる。
「今、お頭が!」

お松が「何言ってんだよ、この忙しい時に冗談言って」と言って、店に戻る。
「うん、そうだよな」。
治平が振り返り振り返り、中にもどっていく。

安部式部が歩いていた。
そこはいつか、仁左衛門が刀を見た通りだった。
鐘が鳴り響いていた。
式部が茶店でキセルと手にした。

キセルに火をつけ、一服する。
六之助が持っていた、あの、キセルだった。
その時背後から「あのお、恐れ入りますが、日をお貸し願えませんか」という声がする。
式部がキセルを出す。

男が式部と背中合わせに座り、キセルを持って来て、火を移す。
同じキセル…!
式部が男を凝視する。
火を貰った男が、式部を見つめて頭を下げる。

男が背を向ける。
式部が前を向く。
2人は黙ってキセルを吸う。

3年後。
お千代は、墓の前で花屋を営んでいた。
墓地に参拝する客と会話をする。

お千代は客を微笑んで見送る。
寂しそうに目を伏せる。
そうして、お千代は待ち続ける。

そして大阪。
鋳掛屋をやっている熊五郎が、人通りの多い通りに座っている。
子供が「おっちゃん。へたくそやな」と言う。
「じゃかあしい!」

その時、前を通る、いいとこの旦那の着物姿が目に入っててくる。
熊五郎が思わず、目で追う。
男は手にミカンを持っていた。
熊五郎が立ち上がる。

人を押しのけ、男の側に駆け寄る。
「あのう!」
熊五郎が、男の前に歩み出る。
男が、足を止める。

「お頭!」
熊五郎が頭を下げる。
「はっ?どちらさんで?」
2人が見詰め合う。

「失礼致しました」。
熊五郎が再び、お辞儀をする。
男もお辞儀をする。

旦那のように見えるその男がミカンを手に、去っていく。
ミカンを宙に投げ、男が微笑んでいる。
見送る熊五郎が笑顔になる。

その後の仁左衛門の行方は、わからなかった。
辻伊織から、雲霧仁左衛門。
そして今は何と名乗って、どんな人生を送ったか。
誰も知らない…。



ああー!見事に終わった。
すばらしく、見事に収束して終わりました。
見事!
そして胸を打つ、六之助の献身、雲霧一党の深い絆、仁左衛門と熊五郎の最後のお盗め。

このラストは後で書きますが、山崎さんはインタビューで考えに考えたとおっしゃってました。
すばらしいラスト。
音楽がまた、選曲といい、タイミングといい、やっぱり見事。

藤堂藩の行列が行く時に流れる、緊張感ある音楽。
爆破の後、仁左衛門が斬りこんでくるのに合わせて流れてくるテーマ曲。
クライマックスを、最高に盛り上げます。

江戸の仁左衛門とお千代の描写に、藤堂藩を追う熊五郎が入る。
熊五郎が仁左衛門から離れないのなら、おみつはお千代から離れない。
「姐さん、1人で死ぬつもりでしょう!そんなの、いやっ!」

4話で名古屋に行けないと思った、おみつ。
お千代を慕う姿が、とてもかわいらしい。
やっぱり、雲霧解散後、寺子屋に行くつもりだったんですね。

そして、六之助もお頭の為、命を張る。
山田たちが蔵之助を疑っていると知ると、捕えられるのを覚悟で斬りこみ、確信を持たせようとする。
囚われた六之助は、斬首。
仁左衛門と六之助の刑の告示を見たお千代、おみつの表情が哀しい。

六之助は本当に、仁左衛門に命を捧げてしまった。
お頭の役に立った…。
六之助は、満足していた。
カラスが飛び立ち、六之助の斬首を見ているこちらに知らせる。

仁左衛門ではないとわかっても、兄上とわかったお千代は奪還する決意。
そこに本物の仁左衛門が来て、制止する。
会えた。
お千代は、仁左衛門に会うことができた。

「別れは済ませてある」と言って、刑場に向かわない仁左衛門。
武家兄弟の絆。
覚悟。
さらに今度こそ、お千代との本当の別れ。

何かを察したお千代が、最後のわがままにキッパリ「嫌です」と言う。
解散したら、一緒にのんびり暮らす…、その約束はもう果たせない。
仁左衛門は、汚れた自分と手を切って、お千代には新しい人生を歩んでもらいたいと言う。
それはお千代を盗賊にした時から、仁左衛門がずっと思っていたことでもあった。

吉五郎。
六之助。
自分を逃すために死んでいった彼らを思えば、自分だけお千代と逃れて、暮らすわけに行かない。
お頭には本懐を遂げて、幸せになってほしいというのが死んだ仲間の、心からの願いであっても。

しかし、お千代は待ち続ける。
それはそうだ。
これだけの男を見たらもう、他の男性など思いもよらないだろうから。
だが仁左衛門が、この男がそう言ったなら、それは動かない。

そして、安部式部。
知っている。
安部式部は、知っている。
あれが、本物の仁左衛門ではないことを。

しかし、式部は仁左衛門の過去を知った。
そして、自分が属する側の組織の汚さを知った。
自分が尽くすのは、こんなものの為じゃない。

山田籐兵衛も薄々、あれが仁左衛門ではないこと、式部はそれを知っていることに感付いている。
だが山田としては、式部が盗人の心情に心を寄せているとは、絶対に言えない。
ところが式部は、「盗賊」に共感したのではない。
部下を失って、「盗賊」に共感するような式部ではない。

式部は武士としての心情に、大いに心が動かされた。
山田は政蔵に否定して見せたが、式部は仁左衛門、辻兄弟に共感していた。
そして、自分の属する組織の上層部にウンザリした。

「ただ、法に触れることもなく、ヌクヌクと私腹を肥やす奴が俺は大嫌い」。
それは仁左衛門の言葉では、ない。
安部式部自身の言葉だ。

若年寄・細田が呆然として、式部を見ている。
自分たちの後ろ暗いところを言い当てられて呆然としたのか。
式部らしくない言葉に、驚いたのか。

「そんな奴がおる限り、第二第三の雲霧は必ず現れると」。
これは、仁左衛門と言う存在の肯定。
1話で「盗賊に正義などあるはずはない」と言った式部は、仁左衛門の、盗賊の正義を認めた。

もし、このことを先に知っていれば、式部は仁左衛門を本気で捕えようとはしなかったかもしれない。
仁左衛門の言葉として自分の考えを伝えると、式部は笑う。
「ははは、盗人にも三分の理と言う奴でございましょうか」。
吉五郎が盗賊のお頭と小頭という関係以上に武士として、人として心酔していたように、式部も仁左衛門に武士として、人として感じ入るものがあった。

深い。
深いシーンです。
中村敦夫さんの見せ場です。

与力の山田籐兵衛の西田健さんも、敵役だったけど良かった。
ビシッとしていて怖いけど、お頭思いで、部下思いで、仕えたくなる与力。
籐兵衛がいて、引き締まりました。

若い高瀬と、良い対比でした。
西田さん、良い俳優さんだなあ。
長く長く、活躍していただきたい。
高瀬役の鷲生功さんも、本当に良かった。

斬りこみの躍動感に対して、その前は静かに目を閉じ、座っている仁左衛門のシーン。
静と動の対比。
そして、ついに斬りこみ。

鉢金というんでしょうか。
額を割られないように防ぐ為の、額に当てる鉢巻状のもの。
あれをつけ、襷で袖を縛った仁左衛門は、斬りこみスタイル。
戦いのスタイルです。

爆破でうろたえ、何も準備していなかったにしても、仁左衛門は強い。
それをサポートするのは、僧侶姿の熊五郎。
治平たちの所に行った熊五郎は、お頭には武士として最後の勤めがあると言った。
そして珍しく、苛立ちのあまり、柄杓を投げた。

「州走りがしつこい」というに是門の笑い。定七には見えなくても、仁左衛門が笑うところからすると、熊五郎はあれから仁左衛門について離れなかったんでしょう。
吉五郎がいない分、自分だけは離れない…。
そんな、熊五郎の決心が見えるよう。

藤堂藩の後をつけていく熊五郎が、僧侶姿で、まるで裏柳生ですよ。
走りながら、錫杖を捨て、笠を捨ててお盗めに向かうところがカッコイイ。
熊五郎も強い、強い。
最終回は仁左衛門に命をかけてついていく熊五郎の、最高の見せ場でもありました。

山崎さんの目、まっすぐな目の演技もすばらしい。
「念仏の鉄」と同じ人とは思えない。
快楽主義で刹那的で、死の間際に際しても虎の元締めが後を継がせようとは思わなかった自由人の鉄。
その片鱗もなかった。

同じ俳優さんとは、思えない。
仁左衛門も鉄も同じ反体制側の男だけど、仁左衛門はストイックで感情を抑えた、まるで武士のようなお頭だった。
それでこの山崎さんは、仁左衛門にしか見えない。

背筋が伸びていて、斬り込む仁左衛門の空気は、まさに武家・辻伊織の空気。
一族の仇敵を前に、ついにみねうちにしていた刀を反転させる。
殺すより見事な、意趣返し。

直接斬られるより、何倍も何十倍も無念。
目を見開き、血まみれで息絶えている十右衛門の表情がその無念さを語る。
切腹の前に、辻家の人々の顔が浮かんだに違いない。

さらにその後、金が返されていた。
この無念さと言ったら、ない。
あまりに見事な仇討ち。
12話の、汚れた金は要らないも思い出す、雲霧らしいやり方。

藤堂藩と十右衛門は、辻兄弟に仇討ちされただけじゃない。
死んでいった吉五郎、六之助、生きて最後まで尽くす熊五郎。
雲霧一党の絆の強さにも、敗れ去った。

知らせを受けた式部の「おそらく金と一緒に手紙でも盗まれたのであろう。その中には、金を渡すはずの老中がたの名前が書いてあったのかも知れぬ」の言葉。
「これはわしらには関わりあいのないことだ。ほっとけ!」。
式部は自分たちの上層部にも愛想を尽かし、見捨てた。
そして「辻蔵之助、積年の恨み晴れたやもしれぬ」と満足する…。

安部式部は、正義の男。
式部は、仁左衛門の、盗賊の正義を認めた。
だから式部は盗賊とは言え、汚い連中相手に仁左衛門が、正義が勝ったことに満足した。
そして、それを邪魔しなかった自分にも。

お頭との最後の別れに際して今まで無表情だった、熊五郎が泣き顔になる。
こんな顔をするなんて、無表情はやっぱり、ああいう商売だったからか。
それとも、それほどお頭との別れがつらかったのか。
これまでが無表情だったからこそ、胸を突く泣き顔。

熊五郎の、最後の涙まじりの「へーい」。
でも次の瞬間、姿は消えている。
さすが、州走り。

蔵之助のキセルは、式部のものになった。
自分の人生の最大の敵。
そして、「北斗の拳」風に言えば、強敵(とも)の持ち物。

何もかもが終わった後、仁左衛門は自分の手下が平和に暮らしているのを見届けた。
それぞれのところに現れた時、流れるテーマ曲。
仁左衛門は安部式部にも、挨拶に来た。
あれは1話で式部という人物を見る為、仁左衛門が刀を見た通り?

式部にキセルの火を貸してもらうという、そのやり方が粋。
キセルを見て、驚く式部だが、何も言わない。
初めて、2人は間近で顔を見合わせる。

最初で最後の、顔合わせ。
無言で煙を立ち上らせている姿は、まるで旧友が無言で通じ合っている姿のよう。
大勢が命を落としたが、大事なものは仁左衛門にも、式部の中にも生きている。

その後、お千代が映る。
「七化けだ。心配要らぬ」と言ったぐらい、お千代に関しては安心しているから、お頭は果たして、見に来ただろうか。
墓を見守り、仁左衛門を待ち続けるお千代の姿が美しく、ちょっと哀しい。
あんなすごい男に出会ってしまった女性の、宿命。

第1話の時、熊五郎が火盗が来るのを教えて、仁左衛門と2人で川を泳いだ。
そしてその後、仁左衛門がミカンを手に町を行った。
このラストからすれば、このどこかの大旦那のような男が仁左衛門だとわかる。
ミカンといい、1話が最終回の見事な伏線になっている。

山崎さんが言うには、この最後が、なかなか決まらなかった。
もう、考えに考えた。
今までの人生、生まれ変わったつもりで、全て過去を切り捨ててしまうのを最後のテーマにした。

だから、大阪で鋳掛け屋をやっている熊五郎が、ラスト。
ここ、「じゃかあしい!」がちょっと、直次郎。
引き金を任せるぐらいだから、吉五郎亡き後の熊五郎への信頼は只者ではない。

まして、最後に一緒に斬りこんだ手下。
生死をともにした手下。
かわいくないはずない。
だからこそ、熊五郎に最後まで「どちら様ですか?」と言って別れるのを、ラストにした。

一瞬にして仁左衛門の意図を理解し、見送り、微笑む熊五郎。
熊五郎と仁左衛門の最後の笑顔に、実に晴れ晴れとした気持ちになる。
笑顔が哀しいような、うれしいような。
涙を流しながら笑うような、そんな見事なラストで「雲霧仁左衛門」は幕。

7話の後にも書きましたが、「雲霧仁左衛門」はスポーツ中継や事件の特番の為、当時は放送が延期になることが何度もあって、ついに最後の3話が放送されずに終わりました。
この3話を見ると、「ここから先を放送しないなんて、そんなばかなっ!」って思います。
だってこれ、最後まで見ると時代劇、いや、ドラマや映画に求めるものが、全て見られると言ってもいいかもしれないんですから。
むしろ、時代劇だからこそできることをやっている。

肉親の情、絆。
血のつながりはなくても、魂で結ばれあった者との絆。
それぞれとの別れが、胸に迫る。
さらにそれを全て振り切って、生まれ変わるラスト。

全てがこのラストに収束し、見事に収まるのを見る快感。
1話が伏線になっているところからして、これは連続で見るのが、一番だったと思います。
不遇の作品だと言うのに、忘れられるどころか、DVDになり、何度もCSで放送される名作。

いや、良かった。
目まで、背中までがセリフを言っているような俳優さんの演技。
ストーリー、演出、音楽、全てが見事。
関わらなかった人が見て、羨ましがるようなプロの仕事。

間違いなく、90年代最高の時代劇のひとつです。
関わった方には、関わったことに胸を張ってほしいような作品。
大ヒットはしないかもしれないけど、見た人の心にはいつまでも残る作品。
見た人はずっとずっと、忘れない作品。

そういう作品に出会えたことは、すばらしい出会いだと思います。
これからもそんな作品に出会えれば良いなと思います。
ありがとう、「雲霧仁左衛門」!
そして、こんな長い記事を読んでくれた方、ありがとう!