姉小路さん?!がんばってる 「マザー 強行犯係の女 傍聞き」

水曜日、テレビ東京で夜9時からの2時間サスペンス。
今週は「マザー 強行犯係の女 傍聞き」。
傍聞きと描いて、かたえぎぎと読む。

会話をしている人の傍らにいる者の耳に、聞く気もなく入って来る話のこと。
この中に、とても重要な情報が入っていたりする。
また、人との会話を通して、伝えたい情報を伝えることもある。
南果歩さんが強行犯の女性刑事・羽角。

無茶をする刑事と、周りは言う。
だが本人は言う。
無茶をするから、女性で強行犯の刑事ができる。

連続女性通り魔殺人が起きる。
1人目は刺殺。
2人目は絞殺。
3人目は撲殺。

いずれも額に、本人の口紅で×マークが描かれていた。
しかし羽角刑事は、3人目だけは連続殺人犯の犯行ではないと主張する。
×の書き順が逆なのだ。

その時、4人目の被害者が出る。
今度は刺殺だった。
×マークも描いてあった。

しかしやはり、3人目だけが書き順が違う。
連続殺人犯と、連続殺人犯に乗じて犯行を行った犯人。
2つの犯罪を羽角刑事が追う。


南さんがシングルマザーの女性刑事。
警察官であった夫は、出所した犯人によって殉職となった。
南さんは、娘とのコミュニケーションに悩みながらも愛情を注ぐ母親であり、戦う女性刑事でした。
どうしてもこの役は、「スペシャリスト」の姉小路さんを思い出しました。

宅間がいないので?姉小路さんが1人で頑張りました。
姉小路さん大変そうでした。
いや、姉小路じゃないんですけど。

まったく無関係に思えた、1人暮らしの老女の家に入った空き巣が、連続殺人犯と繋がっていく。
そして、3人目の被害者の裏の顔。
被害者が加害者であったこと。

それを恨んでいるのが誰か。
最後にその犯人が狙う相手のこと。
連続殺人犯の歪んだプライド。

そんな時、羽角が逮捕した男が出所してくる。
殉職した夫を思い出す。
だが今度の犯人は自分を狙わないだろう。

もっと、羽角を痛めつける方法がある。
娘だ。
羽角は娘を家から遠ざけようとするが、娘は離れない。

だが、自分とも話をしない。
一体、どうやって娘と心を通わせたら良いのか。
この出所した犯人と、「傍聞き」が結びつく。
突っ込みどころもありますが、全体としておもしろかったです。

あと、佐々木すみ江さんが、お元気で出演されていて、うれしかったですね。
高橋和也さんが演じる、出所して来た犯人。
私は「猫山」と聞こえて、「猫山」とは珍しい名前だなあと思ったんですが、「横山」だったみたいで。
その前に、猫の番組を見たせいかしらん?!


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深淵もまた… 「スペシャリスト」第2話

今週は「スペシャリスト」、第4話でした。
第2話はゲスト、鶴田真由さんの悪女ぶりが良かった。
最初からの悪女ではなくて、悪女になってしまったんですが。

早くも真里亜の生い立ちが明らかになった。
第1話に続き、捕まっちゃう真里亜、ちょっとかわいそう。
鶴田さんは不敵に、自信たっぷりに振舞っていたが、宅間にすべてを見通されてしまう。
草なぎさんと鶴田さんの対決が、見ごたえありました。

第3話は、さすが、姉小路!
宅間と姉小路はやっぱり、最高で最強のコンビ。
2話のラストで、姉小路は宅間は犯罪を読むと我妻に語る。
その宅間に知能犯、異常犯罪者もまた、引き寄せられるようにやってくると語る。

宅間には正義がある。
だがその正義は、姉小路から見ると、とても危うい。
宅間は犯罪者たちを理解し、見抜き、見通す。

それは彼らを理解し、彼らの気持ちにならなければできない。
つまり、宅間の能力は非常に彼らと「近い」ものなのだ。
姉小路はわかっている。
宅間があちらと一線を越えないでいられるのは、宅間の犯罪を憎む心だと。

被害者に深く共感し、犯罪に怒りを感じる。
その気持ちが常に、宅間の危うい能力を制御している。
だが、その制御が外れた時。

次々現れる犯罪者や、陰謀を越えていくと、宅間はどうなるのだろう。
FBIのプロファイラーが書いた本には、哲学者、ニーチェの一節があります。

「怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように、気をつけなくてはならない」。
「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」。
不気味な、怖い一節です。

この言葉のように姉小路は、危惧しているのです。
そして自分は宅間の、ストッパーだと思っている。
彼を日常に戻す役目がある。
そうしなければ、いけない…。


雛ちゃん

今さらですが、「相棒」元日スペシャル。
木村佳乃さんが演じる片山雛子議員は、辞職してしまったんですね。
ビックリ。
政治家だった父親を知っている人から「雛ちゃん」と呼ばれていましたが、彼女はそう呼ばれたくないんですね。

あの悪女ぶり。
野心。
人や事件を利用して大きくなる頭脳。
非情さ。

政治家として必要な要素。
必要な性格なんだろうなと、気になる登場人物ではありました。
それが事件で議員辞職。

まだ辞職しただけで、返り咲きは充分あり得る。
議員以外でまた、世の中に出て来る可能性は大です。
悪役キャラクターにしても、ここまで出て来たキャラクター。
退場させるにもぜひ、愛情ある退場のさせかたをして欲しいですね。

見せ場を作り、見て来た側が納得するような去りかたをさせて欲しい。
そうしたら、作品を盛り上げてくれたことに拍手して終わることができます。
お願いします!



愛に理屈はない! 「取調室 #7」(2/2)

8月17日。
取調室。
竜彦は、黙秘していた。

ついに竜彦の叔父が見つかった。
衣井刑事が見つけてきた。
竜彦の叔父は、海の家の臨時雇いだった。

「あんな疫病神いなくなって、せいせいしたよ」と叔父は言った。
はき捨てるようなその口調に、衣井のコンビの刑事は「なんてこと言うんだ。あんた叔父さんだろう」と言い返した。
しかし叔父は「何考えてるか、わからないガキでね。なまじ頭が良いから、始末が悪かった」と言った。

だが奇特な校長がいて、竜彦に目をかけた。
滝田秀治と言って、郷里が鳥栖だった。
しかし17年前、足を滑らせて崖から転落してなくなっている。
娘がいる。

水さんは娘に会いに行った。
日にちがなくなるのを、大河原刑事は気にしたが、黙秘を続ける竜彦の顔を見てすごしていても何にもならない。
竜彦は中学を卒業した後、採石場でアルバイトして独学していた。

校長の家に世話になっていた3年間を黙秘していることを聞いた滝田の娘は、「冗談じゃないわ。それじゃまるでうちが悪いみたいじゃないですか」と言った。
「お、思い出したくないのは、あたしのほうです」。
家族の洗濯物を干しながら、娘は唇を結んだ。

「何があったんです」。
「…」。
「滝田さん!」

竜彦には、女性の体を、特にお尻をじろじろ見る癖があった。
気持ちが悪かった娘は、そのことを父親に言いつけた。
父親は笑ってとりあわなかった。
だがある日、竜彦は娘を無理やり犯したのだ。

さすがに滝田もこれには怒り狂い、竜彦に向かって怒鳴った。
『お前なんか、この世から消えてなくなれ!』
この事件は、父親が亡くなる直前だった。
竜彦とは、もう関係がないと娘は言った。

採石場で、竜彦と働いていた男も見つかった。
男は竜彦を、変わった男だったと言った。
朝から晩まで真っ黒になって働いた。
つらい仕事だったが、竜彦は今が一番良いと言っていた。

その時、竜彦は東京から来ていたかわいい娘と付き合っていた。
しかし娘は、夏休みが終わると帰ってしまった。
竜彦がふっといなくなったのは、そのすぐ後だった。
「東京から来ていたかわいい娘?」

「水さん、それ、もしかして…」。
「小月綾乃をもう一度、調べる必要がある」。
そして滝田校長の事故死も…。
「水木さん、まさか…」。

結局、事件当日、知香が言った竜彦がはいていたスニーカーからは、現場の土も何も出なかった。
だが、知香がハールさんがはいていたというスニーカーと同じようなスニーカーが、竜彦の部屋の下駄箱にあった。
しかもそちらのスニーカーは、洗ってあった。

水さんは、「もう一度、辰彦の部屋を調べて欲しい」と要請した。
排水溝の中まで、だ。
捜査員はイライラしながら、科捜研の連絡を待っていた。

結果は夕方になるという電話が入った。
「夕方か。しかたないな」。
綾乃の叔母が、鳥栖に住んでいたことがわかった。

叔母はもう、なくなっているが、近所の人の証言で、親戚の娘が夏休みに来ていたことがわかった。
綾乃だ。
竜彦と綾乃には、接点があったのだ。

取調室。
水さんは竜彦にスニーカーを見せて、「あんたずいぶん綺麗好きなんだな。洗ってあった」と言った。
うっすらと、竜彦は笑った。

「滝田校長の家に行ってきた」。
竜彦の顔から、笑いが消えた。
「娘の美也子さんに会ってきたよ。オヤジのように慕っていたってな」。
水さんは突然、口調を変えた。

『お前なんかこの世から消えてなくなれ!』
そう言って怒鳴った。
『お前なんか死んだほうが良い!』
『この世から消えてうせろ!』

「やめろ…」。
かすれた声で、だがはっきりと竜彦は言った。
「やめろお!」

竜彦が叫び、水さんに飛びかかってきた。
大河原刑事に、取り押さえられる。
取調室に、セミの声が響く。

空調が故障したままだ。
暑い。
竜彦から汗が流れる。

「ほい」。
水さんが、煙草を差し出す。
火をつける。
水さんがコンコン!と、取調室の鉄条網を叩くと、鳴いていたセミが飛び去った。

ゴーと言う音がした。
「おお、やっと直った」。
エアコンの風が入る。
水さんが窓を閉める。

『お前なんかこの世から消えてなくなれ!』
「この言葉にお前、なぜあんなに取り乱すんだ?」
「僕はいつも、邪魔もんだった」。
竜彦がぽつり、と話し始める。

「みんなから、『お前なんかいなくなれば、せいせいする』と言われてきた。生まれてきたことが間違いだった。親もそう言った。水さん、あんたそんな風に言われたことないだろ?あんたにはわからないさ」。
「お前がこの言葉に以上までに反応するようになったのは、滝田先生に言われたからじゃないのか」。
「生まれて初めてお前を認めてくれた人」。
「オヤジのように守ってくれていた人。その人に言われたからだろう」。

『お前なんかこの世から消えてなくなれ!』
「黙れ。黙るんだ!」
竜彦が怒鳴る。

大河原が、取調室を出て行く。
日差しが強い。
大河原が、お茶を持って入ってくる。
ロイヤルミルクティーだった。

「綾乃さんが、大好きだったそうだな。17年前の夏、綾乃さんはこの鳥栖にいた。お前もこの鳥栖にいた」。
竜彦が、ミルクティーをゆっくりとかきまぜる。
「綾乃さんと一緒に飲んだ。ロイヤルミルクティー。うまかっただろ」。
「…うまかった」。

竜彦が、目を閉じる。
あの時、綾乃がいた。
向かい合って、竜彦がいた。

2人の間には、ロイヤルミルクティー。
綾乃は笑っていた。
美しかった。
まるで、天使のように見えた。

「だから綾乃さん、竜彦さんて、名前で呼んだんだろう」。
「母親に捨てられ、女性への不信感が憎しみに変わっていたお前がただ1人、この世で純粋に愛した人が綾乃さんだった」。
竜彦とって女性のお尻は、母親への母性そのものだった。
だから、じろじろ見ずにはいられなかった。

「憧れの綾乃さんには、手を出せなかった。その代わりに滝田美代子さんを犯したんだ」。
「そんな大切な人を僕が殺すわけない」。
竜彦は言った。
「好きに解釈してくれて結構!」

水さんは続ける。
「お前は心のどこかで、母親を求めていた。それが綾乃さんと重なった」。
「僕に肝心な動機がないことを、わかってもらえればね」。
竜彦は、薄く笑った。

9年前、竜彦が小月化学に就職したのも綾乃が参次郎と結婚していたからだ。
「しばらくは平和な日々だった」。
しかし竜彦は、セクハラを理由に解雇された。
だから竜彦は、知香が参次郎の子供ではないと、DNA鑑定を突きつけて脅迫した。

そして拒絶されて、知香を誘拐した。
綾乃は、竜彦から逃げた。
それでも竜彦は居所を突き止めて、また知香を誘拐した。

「今度は、結婚を迫った」。
「勝手な想像はやめろ」。
「追い詰められた綾乃さんは叫んだ」。

『あんたなんか、この世から消えてしまいなさいよ』。
「その言葉でお前は、あの残虐な殺人を計画した。滝田先生の時と同じだ」。
「黙れ…」。

竜彦はうなった。
「何の根拠もないのに、知ったようなことべらべらとしゃべるんじゃない」。
だが水さんは、スニーカーを机にバン!と叩き付けた。

「これはな。知香ちゃんが言っていたものとは。違うんだ」。
「お前は本当は、これをはいてた。綺麗に洗ってあったおかげで、お前の部屋の浴室からちゃんとした物証が出たよ」。「浴室の排水溝の網から、現状の土が検出された。ポリプロピレンが入った土が、な。lお前が言っていた確かな物証だ」。

「三田川竜彦!小月綾乃さんを焼き殺したんだな?」
竜彦の肩が、がくりと落ちる。
「綾乃さんだけは…、信じていたのに」。

竜彦の回想が始まる。
どろりとしたポリプロピレンが、ガソリンのタンクに入れられていた。
そして、あの採石場近くの道に、白い車がやってきた。
綾乃が降りてくる。

「知香はどこなの!」と叫んだ。
竜彦は言った。
「結婚してくれ!」
「3人で一緒に暮らそう」。

綾乃は激怒した。
「まだそんなこと言ってるの?!恥知らず!」
綾乃は、抱きしめようとした竜彦を突き飛ばした。

「自分の要求を通すために、子供を道具にしたくせに!」
そして、首を横に激しく振った。
「嫌っ!」

『あなたなんて死んでしまえば良いんだわ。この世から消えなさいよ!』
その瞬間、辰彦は綾乃を殴った。
綾乃は気絶した。

竜彦は綾乃の両手、両足をスカーフで縛った。
綾乃の体に、ガソリンがかけられていく。
「…信じていたからこそ、我慢がならなかった」。

竜彦が取調室で、つぶやいていた。
「17年前の滝田先生の時も同じだ。先生を崖から突き落とした」。
水さんの言葉に、竜彦がうなづく。
大河原が目を見張る。

「…そうか」。
水さんが言う。
「お前、綾乃さんを焼き殺すと決めた時から、逮捕は覚悟の上だったんだ」。

「だから知香ちゃんをわざと、鳥栖駅に置き去りにしたんだ。お前の目的は一体、何だったんだ。佐賀のマンションや車の中に平気で証拠を残したと思ったら靴に変な小細工をする。何のためなんだ」。
「何の、ため、なんだ?」

セミの声が消えてきた。
夕焼けが、取調室を紅く染める。
竜彦は、横を向いている。

「ハールさん」。
あまりに自然な、水さんの呼びかけだった。
「え?」

その呼びかけに、竜彦が素で振り向く。
今までの不適な笑みを浮かべた竜彦は、いなかった。
あまりに自然な、竜彦の返事だった。

「『ファウル』さん、でしたね」。
「『ハール』さんではなく、『ファウル』さんだった」。
「スウェーデンや、ノルウェーや、デンマークでは、ファウルは、お父さんのことだってな。佐賀大の先生に聞いて、ようやく、わかったよ」。
「やめろ!」

「知香ちゃんは『ファウル』さんを『ハール』さんと覚えた」。
「やめろ、やめるんだ」。
竜彦は、目を閉じていた。
「ファウルさん…、お父さん」。

「お前みたいな男でも、そう呼んでほしかった。知香ちゃんは、意味もわからずに呼んでいた」。
「知香ちゃんが、お前みたいな男に懐いていたのも、親子の血のつながりってやつか」。「佐賀で一緒に過ごした時、知香ちゃんの好きなカレーを作ったなあ?喜んでいた知香ちゃんを見て、どんな気持ちがした。一緒に暮らせて幸せだったか。ハールさんと無邪気に呼ぶ知香ちゃんを、お前は取引に使ったっ!」

「それがどうした。小月の奴から2人を取り戻すためだったら、俺はなんでもする」。
再び、竜彦の全身から悪意がにじみ出る。
「9年前のレイプ事件のことだがな」。
「レイプじゃない。あれはレイプじゃない」。

「じゃ、お前と綾乃さんとの関係は」。
「彼女は寂しかったんだ。仕事仕事で、ほとんど家にいない小月をただ待つだけの生活に、耐えられなかった。小月との結婚は間違ってたんだ」。
「しかし子供までなあ?」
「僕が生ませた」。

「どうしても離婚できないと言うから、だったら子供はおろすな。生めといったんだ。いつか取り返してやるつもりだった」。
「それまでの辛抱だと思い、僕はコペンハーゲンで研究に打ち込んだ。綾乃さんと子供のために、必ず成功して帰国するつもりだった」。
「だが小月のやつ、放漫経営のツケを、ぼくのせいにした」。

「あいつ、のうのうと社長を続けてるが、そうは行かない。裁判で僕の解雇が究明されればあいつも…」。
「小月さんを、一緒に破滅させるつもりでいたのか」。
「あいつは何もかも、僕から奪い取ったんだ。綾乃さんも子供も、9年間打ち込んだ研究も何もかも!」

竜彦の顔に、全身に憎悪がみなぎっていた。
「小月には、名誉も仕事も家庭も仕事も、幸せの何もかもある。なぜだろう?僕のほうがずっと能力が勝ってるのに」。
「自分のしたことに、屁理屈をつけるな!」

それはあまりに鋭い、水さんの一喝だった。
思わず、竜彦が水さんの顔を見る。
「愛に理屈はない!」

「小月さんは知香ちゃんのために、1億円もの身代金を支払っているんだぞ!自分の子供ではないということを知っていながら!」
「会社が経営不振で大変な時にも関わらずだ!」
「小月さんは、心から知香ちゃんを愛している。綾乃さんもな。お前のような身勝手な愛とは違う!」

「知香ちゃんは、お母さんがいなくなって寂しいだろうが、懸命に耐えて笑顔で暮らしているよ」。
「お前、知香ちゃんのお父さんまで奪おうとしているんだぞ!」
「知香ちゃんを、ひとりぼっちにしていいのか?」

突然、きゃああああと言う声が響いた。
「うわあああ」。
竜彦が、慟哭した。

「1億円とリュックの隠し場所、どこだ」。
「うわあああ」。
竜彦の鳴き声は、悲鳴だった。

「どこだあっ!」
「ううううっ」。
竜彦が、うめいた。

小さな声で言った。
「採石場跡、祠の裏の…。岩穴」。
大河原が立ち上がる。

夕暮れで、部屋が紅い。
ドアが開いた。
刑事が入ってくる。
手錠をかけ、連れて行く。

竜彦が、再び、消え入りそうな、だがはっきりとした声で言った。
「佐賀県警の、落としの達人もとんだ間違いをするもんだ」。
水さんが、竜彦の顔を見る。

「知香ちゃんは…、僕の子じゃない」。
竜彦が顔を上げる。
「小月参次郎の子だよ」。

水さんが応える。
「…わかった」。
「確かに知香ちゃんは、小月参次郎の子だ」。

水さんが、うなづいた。
竜彦が笑った。
薄く笑った。
だがその笑いは、これまでの不敵な笑みとは違っていた。

セミの声が激しい昼。
手錠をかけられた竜彦が、採石場に水木たちとやってくる。
祠の裏を、捜査員たちが掘っている。

「あったぞ!」
声が響く。
祠の裏の岩穴から、リュックとケースが出てきた。
ケースの中からは、ずらりと並んだ札束が出てきた。

竜彦は、それを見ていなかった。
彼の目は、花束が置かれた場所に注がれていた。
「綾乃…」。
備えられた花には、赤とんぼが止まっていた。

水さんは、小月の屋敷に向かう。
門を入ると、参次郎と知香が水遊びをしていた。
参次郎がホースで水をかけながら、知香を追う。

知香が笑う。
仲の良い親子の光景。
水さんは、それをじっと見ていた。


綾乃は、あれ?と思いました。
三原順子さん(現:三原じゅん子さん)。
やっぱりすごい、綺麗で素敵。
突っ張ったイメージが強いけど、実はこの方、すごくかわいらしいんですよね。

小月参次郎は、名高達郎さん。
ロイヤルミルクティーから、じわじわと嫌な感じが高まっていく。
まさか、まさかという気持ち。
「取調室」、みんなおもしろいんですが、これはダントツに心に響きました。

それは何と言っても、萩原流行さんの、すばらしい演技によるものです。
いや、良い俳優さんなんですね。
最初に現れて逮捕された時の、不敵な笑み。
おお、来たぞ、来たぞ、と思うんです。

実に似合っている。
冷酷で、頭が切れて、人を見下している様子がうまい。
それが『お前なんか消えてなくなれ!』で豹変するのも、予想されたうまさと言うとおかしいけど、予想はつく。

すごいのは、この先。
綾乃とのいきさつを水さんが語る辺りから、同じ「やめろ」なのに違ってくる。
それまでの自分の生々しい傷に触れられた怒りではなく、大切な思い出を汚されまいとしている様子がわかる。
誰にも触れさせないとする様子。

綾乃との関係は合意と言い張る竜彦。
真相はわからない。
想像するしか、ない。

そしてついに見破られた竜彦は、過去の校長殺しまで、すんなりと自白する。
もう、彼には犯罪を隠し、場を切り抜けようとする狡猾さがない。
そしてすごいのは「ハールさん」と呼びかけられた時の、素に戻った竜彦。

あまりに素直な「え?」
知香ちゃんには、優しかったであろう様子もわかる。
これが、彼の本当の姿なんだと思う。

ファウルさんが父親であることを指摘された時の「やめろ」は、プライドとか、犯罪の隠蔽ではない。
自分のあまりに悲しい、トラウマに満ちた願望を見破られまいとする必死さ。
悪意を、頭脳を武器に世間を敵に回してきた男の、あまりに弱い素の姿。
彼はこの自分を守ろうとして、冷酷さを装ってきたんだと思う。

しかし彼の愛情は、とても幼く、利己的なものだった。
綾乃が彼に愛想をつかした理由も、彼にはわからなかった。
彼の利己的な愛は愛想を尽かしてしまったゆえに起きた、悲劇。

愛情と憎しみは、表裏一体。
誰よりも愛に飢えていた竜彦の綾乃への愛は、憎悪に変わった。
滝田校長と同じだった。

愛する者を自分で葬る残酷さ。
そのため、彼は一層冷酷になる。
参次郎と比べて、なぜ、劣っていない自分が。

水さんはそんな彼の甘えを、一喝する。
思いあがりを、叩き潰す。
最後の叫びは、今まで築いてきた竜彦という男の崩壊だった。

1億円なんか、ほしくなかった。
ほしかったのは、綾乃と知香ちゃんだったんだ。
はっきり言って、竜彦は残酷で異常だと思う。

許せないと思う。
綾乃があまりに、かわいそうだと思う。
しかし、見ていてしかたがないんだと思ってしまった。

親からもいらない子といわれた彼は、愛情を、彼は無償の愛情を誰からも与えられていなかった。
与えられていないものは、持っていない。
持っていないから、示しようがなかったんだ。

唯一、綾乃だけは彼を無償で愛してくれたことがある。
だがその綾乃を彼は、残酷な方法で殺してしまった。
最後の1億円発見の時、竜彦はもう、何も見ていない。
彼の目は、自分が殺してしまった綾乃しか見ていない。

異常者であり、許せない男の竜彦。
それでもなお、この男を哀れに思わせる萩原流行さん。
彼はやっと、人を思いやるということがわかった。
人に対する心がわかった。

その竜彦が言うべきことは、ひとつだった。
知香ちゃんは僕の子じゃないよ…。
最後の「佐賀県警の、落としの達人もとんだ間違いをするもんだ」からの口調がまた、すばらしい。

綾乃との関係同様、本当か嘘かわからない。
でも、良いんだ。
きっと、そうなんだ。

事件解決と、秋の訪れを感じさせた赤とんぼが切ない。
萩原流行さんの演技を堪能。
改めて、萩原さんのご冥福をお祈りします。
すばらしい俳優さんです。

水さんが、どこまで話したかはこちらにはわからない。
でも知らなくても良い。
これで、良い。
良いんだ、きっと。


確かにあんた、人間じゃない 「取調室 #7」(1/2)

いかりや長介さんが落としの名人という、自白をさせるプロの警部補・水木正太郎を演じるシリーズ。
最後はほとんど、犯人役の俳優さんと2人芝居になる。
犯人と刑事、俳優同士が火花を散らす演技が見られるサスペンス。
このシリーズ、大好きでした。

佐賀県鳥栖市。
5月8日。
鳥栖駅で、1人の少女がぽつんと立っていた。
不審に思った石井ひろ子婦人警官が声をかけると、お母様を待っているんですと言う。

少女の名前は、小さい月にお線香の香に知る。
小月知香。
知香は石井婦人警官の制服がカッコいいと、言った。

母親を鳥栖駅で待っているところであり、母親は4時40分に来ると言う。
駅まで連れて来たのは、ハールさん。
4日前、佐賀に一緒に来た人だという。
ここに来るまでは、知香はハールさんのマンションにいた。

「あっ、お母様!」と知香が声をあげた。
「知香!」
1人の女性が、知香に駆け寄ってきた。

母親という女性は、とても美しい人だった。
知香を見て駆け寄り、手を引いて急いでホームに向かう。
石井警官に知香が手を振ると、振り向いた母親はお辞儀をした。

3ヵ月後の7月8日。
採石場を出たトラックの運転手は、道の脇に白い乗用車が止まっているのを見て、不審に思った。
この場所に乗用車が止まっているのは、とても違和感がある。

近寄ってみると、人はいなかった。
運転手は辺りを見回す。
下の原っぱに何かがある。

それは体を折りたたんだ人に見える。
「ひえっ!」
運転手は悲鳴を上げ、転げるように走った。
そこにあったのは、黒焦げの人間だった。

同じ日、石井警官は再び鳥栖駅に走っていた。
知香がまた、鳥栖駅に1人でいたのだ。
12時頃から、5時間もいた。
知香はおととい、東京からハールさんと来たという。

この前は、知香の家は福岡の平尾だった。
今度は東京から来たと言う。
知香は母親と一緒に引っ越したのだった。
今度もまた、ハールさんと佐賀のマンションにいたらしい。

なぜ知香は、ハールさんとマンションにいたのか。
ハールさんは、「お母様が悩んでいる。1人で考えさせてあげよう」と言って、知香を連れて行ったらしい。
5月の時は、知香の父親が知香に見せたいものがあると言って連れてきたようだ。

父親の名前は、小月参次郎。
母親の名は小月綾乃。
知香が言うには、知香の母親はハールさんを「竜彦」と呼んでいた。

その頃、佐賀県警捜査一課は通報を受けて、黒焦げの遺体に向かった。
残された車の持ち主は東京都世田谷区、小月綾乃と判明。
セミの声がひっきりなしに響いている。
遺体から3m先に、ライターがあった。

自殺なら自分に火をつけてから、投げたことになる。
つまり、他殺の疑いが濃厚だ。
遺体が運び出される
全員が手を合わせる。

佐賀県警捜査一課。
落としの水木と呼ばれる警部補・水木正一郎が「自殺じゃないなあ」と言う。
焼身自殺する人間は、わざわざこんな場所を選ばない。

その頃、石井警官は東京の小月家に連絡を取っていた。
しかし母親は、電話に出なかった。
父親も仕事で外国に行っていて留守で、お手伝いさんが応対したのみだった。

黒焦げの遺体は、小月綾乃と判明した。
それを聞いた鳥栖署の職員は、驚く。
署で保護している少女・知香の母親ではないか。

燃え残っていたバッグの底には、少女用の着替えがあった。
知香の着替えで、もし娘を迎えに行くところだったら、自殺ではない。
水木が知香に持ち物を確認してもらったところ、自分の着替えだと言う。
スカーフは母親のものだが、3枚組になっているうちの1枚だ。

バッグも見せると、確かにお母様のバッグだと言う。
「でも、どうしてこんな状態に?」
バッグが焼け焦げているのを見て、知香が言う。
誰もが答えられなかった。

知香は昨日、ハールさんと一緒に鳥栖駅に来た。
ハールさんは。四角いリュックを持っていた。
重そうだったので触ってみたら、ハールさんは怖い顔をして、さわってはだめだといったらしい。

知香は、ハールさんと一緒にいたマンションを覚えていた。
管理人は、5月に来た知香のことを覚えていた。
マンションの家賃は半年分先払いにされていたが、借りた男は竜彦という名前ではない。
偽名だった。

借りていた男は30歳半ばの、なかなかの男前だったと言う。
小月参次郎の家に調べに行くと、家政婦が応対した。
家政婦は、知香がいなくなったことは知らなかった。

だがいなくなったのが5月と聞くと、家政婦は主人から突然、休暇をもらったことを思い出した。
6月から夫婦は別居していた。
理由は、不明だった。

解剖の結果、綾乃は生きたまま火をつけられて死亡したことがわかった。
遺体の炭化は激しく、ガソリン以外のものをかけられたらしい。
両手の爪に、微量の繊維が残っていた。
スカーフの繊維だった。

つまり綾乃は、縛られた状態から逃れようとした。
マンションに残った髪の毛のDNAと、綾乃の車の中から発見された髪の毛のDNAが一致した。
重要参考人は、ハールと呼ばれる男。

綾乃の夫の参次郎は、会社経営の三代目。
会社は優良企業で、参次郎は猛烈な仕事人間だった。
しかし事業を拡張した影響で、最近の業績はあまり思わしくない。
生命保険を狙った依頼殺人だろうか?

8月9日。
綾乃と知香の東京の世田谷にあるマンションから、綾乃の日記が発見された。
日記には、Tという人物に綾乃がおびえ、悩んでた様子が書かれていた。
『8月1日以降、Tから頻繁に電話が掛かり、怖い。Tは普通じゃない。知香を助けて』と書かれていたた。

小月夫妻は、どうも脅迫をされていたようだ。
参次郎が、外国から戻ってきた。
マスコミを避けて、唐津のホテルに逗留する。

父親を見た知香は「あっ、お父様だ!」と叫んで駆け寄る。
「お母様は一緒じゃないの?」
知香の問いに参次郎は「…うん」としか言えなかった。

知香は送ってきてくれた石井警官に。帰らないでと言った。
無理を言ってはいけないと諭す父親に、知香は「お母様はいつ来るの?」と聞いた。
参次郎はまたしても、「うん」としか言えなかった。

水木こと水さんは、参次郎を取調室に呼んだ。
参次郎は冷ややかだった。
まさか、自分が疑われているのか?

これは凶悪犯罪だ。
別居中とは言え、妻が殺されて自分は関係ないで済むのか。
だが参次郎は、知香の行方不明のことも知らないと言った。

5月に綾乃が、鳥栖駅に知香を迎えに来たことも知らなかったと言う。
だが水さんは、参次郎は家政婦に誘拐を知られたくなくて、暇を出したのではないかと疑った。
なぜ、知香の誘拐を警察に届けなかったのか。
話せない何かがあるのか。
水さんが、小月夫妻は脅迫されていたのではないかと聞いたが、参次郎はそれを聞くと憤慨した。

綾乃がハールという男を「竜彦さん」と呼んでいたことも伝えた。
名前で呼ぶのは、かなり個人的な関係だろう。
すると参次郎は、ハールは三田川竜彦だと言った。
自分の会社にいた男で、解雇を恨んでいたと言う。

三田川竜彦は、参次郎の大学の同級生だった。
ずば抜けて優秀な男だったが、研究先の北欧にいた頃、多額の研究費を着服した。
だが一番の解雇の理由は、セクハラだった。

裁判沙汰になる直前だったのだ。
竜彦にはもともと、女性をじろじろ見る悪癖があった。
特に女性のお尻に、異常な興味を示した。
しかしセクハラで解雇されたぐらいで、社長の妻を焼き殺すまでの凶行に至るだろうか?

8月10日。
竜彦のアパートに、鳥栖署の刑事が向かう。
戸を叩くと、竜彦が現れた。

知香の誘拐と綾乃殺害容疑。
辰彦は逮捕された。
その時、辰彦は不敵な笑みを浮かべた。

取調室。
水さんが現れ、「自分は佐賀県警捜査一課、強行犯捜査係の水木警部補」と名乗った。
背後にいる若い刑事のことは、「同じく大河原刑事」と紹介した。
「あなたの取調べは最初から最後まで、我々2人が担当します」。

「8月10日、午後4時ちょうど」。
取調べが始まった。
「今年3月小月化学を退職。間違いありませんね」。

水さんは竜彦のプロフィールを話して確認する。
すると竜彦は「ま、そんなところですかね」と答えた。
「逮捕された理由もわかっておりますね?」
「うーん、何かごちゃごちゃ言ってたな」。

そう言うと、竜彦は薄く笑う。
すると酷薄で、残酷で、少し凶暴な感じが漂う。
「営利目的の略取誘拐。それに殺人容疑です」。
「ほお。僕は一体誰を誘拐して、誰を殺したのことになってるんですか?」

「小月知香を誘拐。母親・小月綾乃を殺害した容疑です」。
「警察は僕が犯人だと決めているわけだ」。
「今のところ、被疑者です。小月知香ちゃん、知ってますね」。
「知香ちゃんを誘拐ね、動機は?」

「解雇されたことを。あなたは恨んでいた」。
「ああ、小月は卑劣な奴でね。あることないこと、でっちあげられて僕は嵌められてあっさり、解雇」と竜彦は言った。
「だからって誘拐はないですよ。まして殺人なんてね」。
「そんなこと、言ってましたか。相変わらず汚い奴だ」。

竜彦はマンションを、中村三郎の偽名で借りていた。
それはおかしくはないのか。
すると竜彦は、「ふふふふ」と笑う。

「知香ちゃんを連れ出したことは認めるよ、だけど誘拐じゃない」。
「お父さんが見せたいものがある。そう言って連れ出したはずだがね」。
「そんなこと、言ったかなあ~」。

「小さい子を連れ出して、何日も部屋にとどめたら。それは略取だ。(小月夫妻に)1億円も要求する理由は何だ?」
「確かにそんなことで1億出す小月じゃない。その1億円を身代金とした証拠は?」
おそらく、竜彦は16時7分に鳥栖駅についた列車で、知香を下ろした。

小月夫人を乗せた列車が、その手前の駅に到着した。
駅には竜彦がいた。
1分の停車中に小月夫人は竜彦に1億円の入ったケースを渡し、そのまま知香を迎えに列車に乗った。

竜彦は、それは小月参次郎の作り話だと主張した。
誰かが身代金のやり取りを目撃でもしていたのかと、強気だった。
「証拠は何一つない」。

だが水さんは言った。
「証拠?証拠は今にあなたの口から語られますよ」。
きっぱりと言うと、「本日の取調べを終わります」といって水さんは立ち上がる。
「へえ、もうですか」。

水さんは、竜彦に対する態度を変えることにする。
翌日、取調室でふんぞり返った竜彦を見て、水さんは態度が大きいと怒った。
そして、知香が目撃したリュック、あれはガソリンが入っていたのではないかと言う。

だが竜彦は、「僕には小月夫人を焼き殺す理由がない」と反論した。
水さんは竜彦の目の前に、ライターの火をかざす。
「お前だよ、やったのは」。

そう言うと、竜彦がくわえている煙草に火をつけた。
綾乃は竜彦のことを、名前で呼んだ。
竜彦と綾乃の間には、何かあったのではないか?

「下品な推測はやめろ、なくなった夫人に対する侮辱だ!」
竜彦が突然、顔色を変えた。
「ハールさんとは?知香ちゃんはなぜ、ハールさんと呼ぶんだ?」

すっと、竜彦は視線を下にそらした。
だが次には不敵な笑みを浮かべ、「ニックネームだよ」と言った。
そして「刑事さん、昼飯まだかな。腹減ってきちゃったよ」と笑う。

竜彦は、検事の取調べに向かった。
車に乗り込む前、竜彦は署を見上げ、窓のところにいる水さんを見るとニヤニヤと笑った。
「あいつ、笑ってましたね」。
大河原刑事は、不愉快だった。

取調べの鉄則に、被疑者を反抗的な気分にさせてはいけないというものがある。
だが今日の水さんは、竜彦を明らかに挑発していた。
「ビッグ」と他の刑事が大河原をなだめた。

なぜ、大河原はビッグというニックネームなのだろう。
水さんが聞くと、大河原は、大河原大介と言う名前で大が2つもつくのに、子供の頃は背が小さかった。
だからみんなは、ビッグとニックネームをつけた。
ニックネームと言うのは、そういうものなのだろう。

竜彦は、自分は「幸せとは無縁の奴でね」と言っていた。
その通り、小学生の時に両親を相次いでなくしている。
竜彦はそれから、叔父のところに世話になっている。
だが竜彦には大学に行くまでの3年間、まったく消息不明の時期があった。

現在は叔父一家も夜逃げ同然に逃げているため、見つからない。
何とか叔父を見つけて、3年間何をしていたか知りたい。
水さんと同僚の刑事がそう話している時、居眠りしていたビッグが飛び起き、取り繕うように竜彦のプロフィールを読み上げた。
「好きなものは、ロイヤルミルクティー?意外だ」。

8月14日。
拘留14日目。
取調室。
検事の取調べが気に食わないと言って、竜彦は終始、黙秘していたらしい。

水さんは竜彦が中学卒業から3年間、何をしていたか聞いた。
竜彦は「それを調べるのが警察の仕事」と言って、答えなかった。
さらに、身代金として小月参次郎が1億円出しているが、自分が1億円せしめたらもう逃亡していると言う。

「綾乃さんの電話番号は、どうやって調べた?」
すると竜彦は「電話なんかしてないっ!」と声を荒げた。
「何を要求していたんだ?」

水さんは続ける。
5月、夫人は要求を断固はねつけたから、竜彦は知香を誘拐したのだろう。
だが今度はなぜ、綾乃は竜彦の要求を徹底して拒否をしたんだろう。

なぜだ。
だから竜彦は、綾乃を殺したのではないか。
竜彦はそれには答えずに言った。
「あんた、落としの達人だそうだがな。僕にはそう見えないんだがねえ」。

むっとした大河原刑事が立ち上がったのを、水さんは抑える。
「被疑者だって、否定するのが当たり前だ。それをたくみに自供に追い込むのが刑事さん。何とか言い逃れをしようとするのが被疑者」。
「そのすべての逃げ道を遮断するのが、刑事さん。取調べってのは、そういうものじゃないですかねえ」。
水さんは、「自分は無駄な戦いは避ける主義でしてね」と言う。

夜、近くの食堂で食事をしながら、大河原刑事は「落としの達人に取調べをとうとうと語った」と言って、怒っていた。
食堂のおばちゃんが、大河原をビックさんと呼んだ。
機嫌の悪かった大河原は、「ビックじゃなくて、ビッグ!」とおばちゃんの間違いを訂正した。

一緒にいた衣井刑事も言った。
「ドックじゃなくて、ドッグ。ベットじゃなくてベッド」。
そういえば野球で、ファウルをハールと言って笑われたと叔母ちゃんは笑った。

「ファウル?」
「ハール?」
水さんが、つぶやく。

8月15日。
取調室。
綾乃はひどく辰彦におびえていたのに、なぜ、知香を2度も誘拐されたのだろう?

竜彦は「おそろしいですねえ」と笑う。
そして「前から一度聞こうと思っていたけど、刑事さん。僕のことどういう人間だと思ってるんです?」と聞いた。
水さんは言う。

「見た目は人間だが、中身は人間じゃないと思ってる」。
「ほお」。
「生きている人間を、それも顔見知りの人間を焼き殺すなんて、人間の出来ることじゃない」。

「確かな物証性もないのに、決め付けるのはやめてくださいよ」。
「小月夫人の爪の中に、スカーフの繊維が入っていた。なぜだか、あんたが一番良く知っているはずだ」。
「両手首、両足首を縛られ、体の自由を奪われた夫人が炎に包まれた恐怖の中で、縛られたスカーフを死に物狂いで取り除こうとした」。

水さんは、竜彦の前に自分の手をかざす。
「両手の爪で、必死になって引っかき、こすった。その跡が爪に残っていたんだよ」。
水さんが、空をひっかく仕草をする。

「そうやって脅して、自供させようたってそうはいかない。やってないものはやってないんですよ」。
「小月綾乃を殺害したのは、あんただよ。三田川さん」。
「証拠もないのに決め付けるのは、やめてほしいって。人権蹂躙だ」。

「あんたかならず、自供するよ。必ず」。
水さんはそう、きっぱりと言うと立ち上がる。
「本日の取調べを終わります」。

8月16日。
水さんは、ホテルに滞在中の参次郎に会いに行く。
知香は、非番の石井婦人警官と遊んでいた。
久しぶりの笑顔だと、参次郎は言った。

水さんは、竜彦に夫妻が脅された理由を聞かせて欲しいと言った。
まさか、三田川信じているのでは?と、参次郎の顔が曇った。
「私は、どちらも違うと思っている」と水さんが言う。

なぜ、会社の揉め事で、綾乃が残酷に殺害されなくてはいけないのか。
参次郎が話してくれなければ、事件は解決しない。
外にいた知香が、父親に手を振る。

水さんは言う。
このままでは、知香の母親を殺した犯人を見逃すことになる。
参次郎が水木の顔を見る。

「水木さん。このことは絶対に、内分にしていただきたい。約束してもらえますか」。
水さんが。うなづく。
「…知香は私の子ではない」。

水さんも、大河原も息を呑む。
「私の留守中に、綾乃が暴行された時の子供だと言って、三田川は脅してきた。しかもDNA鑑定を突きつけて」。
「それでもはねつけたら、知香を誘拐した」。
「知香の命には変えられない。それで1億円を支払った」。

綾乃は。暴行の相手のことを覚えていなかった。
忘れようと言う参次郎に対して、綾乃は自分を責め、家を出て行ったのだ。
だが参次郎は今度の2度目の誘拐のことは、本当にまったく知らなかった。

綾乃が、相談してくれていれば。
「くやしいですよ…!」
そして参次郎は言った。

「知香と離れていて、はっきりわかりました。知香がかわいい。手放したくない」。
「水木さん、これから先、ずっとあの子と一緒に生きていきますよ」。
水さんは、参次郎に頭を深々と下げた。

知香が、やってきた。、
水さんにも、「こんにちわ」と挨拶した。
参次郎が、石井警察官に「なんにしますか?」と飲み物を聞いた。

「知香はロイヤルミルクティーだな」。
そう言うと水さんに「母親が好きだったもんですから」と言った。
大河原が、知香に持ってきた服を見せ、「ハールさんが着ていた服かな?」と聞くと知香ははっきり「そうです」と答えた。
水さんは知香に、ハールさんとこっちに来る前、東京でハールさんと会わなかったかと聞いた。

すると知香は目を丸くして、「おじさん、何でも知ってるのね」と驚いた。
その時、電話番号を聞かれなかったかなと言ったら、知香はますます驚いていた。
竜彦は、綾乃の電話番号は知香から聞いたのだった。

帰り道、水さんは考えていた。
ハール?
ハールの意味は何だろう?

水さんは大河原に、佐賀大学の教授のところに行って、意味を調べてくるように言った。
綾乃を焼いたガソリンには、小月化学で使っていた薬剤・ポリプロピレンが入っていた。
これを混入すると、燃えが激しくなる。

8月16日。
取調室。
エアコンが、壊れていた。
暑い。

竜彦は、前を向いて黙っていた。
水さんは、綾乃の遺体の写真を見せた。
竜彦は、平然と見下ろした。
「ほう。なぜ動揺しない。どんな人間でも普通、顔を背ける写真だと思うがね」。

「あいにく僕は普通の人間じゃないんでね。刑事さんに普通の人間じゃないと言われた」。
「確かにあんた、人間じゃない」。
「あんた、鬼だ」。
「鬼。いや、鬼以上だよ」。

「ほお鬼の次は、鬼以上か」。
「ガソリンだけでは、こうならない。燃焼力を高めるために、ポリプロペリンが添加してあった」。
「こんなひどいことができるのは人間じゃない。鬼だ。鬼以上だ」。
「あいにく僕の専門は、バイオの方でね。刑事さんあんたはじめっから、僕が鬼だって先入観にとらわれている。鬼だから、あんなむごたらしい殺し方って当然だってね」。

水さんは、知香が大田黒公園で竜彦と会ったと証言したことを話した。
知香はそこで、家の電話番号を聞かれた。
水さんは続ける。

「ハールさんはカレーを作ってくれた。それは少し、辛かった」。
「だが、あの子は優しい子だ。おいしいと言ったらば、次の日もその次の日もカレーだった」。
ふん、と言った表情で、竜彦は「子供を飢えさせるわけにはいかないからね」と言った。

「どうも不思議だ。どうして知香ちゃんは、あんたみたいな鬼のような男に懐いていたんだろうね。ハールさんなんて、ニックネームで呼んだりしてね」。
そして「あんたほどの男が子供の証言で追い詰められるとは、な」と鼻で笑った。
「今のあんたの心境は、『この世から消えてなくなりたい』心境だろう」。
「今、何て言った?」

竜彦の声の質が変わった。
その様子に、大河原も振り向いた。
「今、何て言った!」
竜彦が、机を叩いて立ち上がる。

「この世から消えてなくなるって。どういうことだ!」
竜彦が水さんにつかみかかろうとして、大河原に押さえられる。
「お前みたいな奴には、二度と口はきかん!」
竜彦は叫んだ。

「暴れた挙句に黙秘ですか」と白井課長は驚いた。
「そんなに興奮するとは」と、水さんも言った。
「奴にとって、何か重大な意味があるんだな」。


プロフィール

ちゃーすけ

Author:ちゃーすけ
癖の強い俳優さんや悪役さん大好き。
俳優さん、ドラマ、映画、CMその他、懐かしいもの、気になるものについて、長々と語っております。

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