悪霊になっていく男 傑作土曜ワイド劇場

実際の事件をドラマにして放送した、土曜ワイド劇場。
この中に泉谷しげるさんや、大地康夫さんの名演が見られる作品があります。
俳優・大地康夫さんのことを、家ではしばらく見かけると、この時の役名で呼んでいました。

実際の事件で、取り押さえられた犯人を見たあるカメラマンは、群衆の憎悪と罵倒を浴び、犯人が悪霊になっていくと言いました。
やったことを考えたらしかたがないけれど、人の憎悪のすごさを知ったそうです。
この男に悪霊が降りて来る。
そして、本物の悪霊になっていくと思った、そう言っています。

ドラマは15歳で銚子から東京に出て来て、寿司屋で見習いとして働く「川村軍平」の姿を描写するところから始まります。
なまりがあり、内気で自分に自信がない川村少年は、出前に行ってもちゃんと声をかけることができない。
黙って置いて行ったと、苦情が来る。

川村が代金を取りに行くと、すでに払ったと言われる。
別人が寿司屋に成りすまして、代金を盗ったのだった。
だが川村少年は、出前に行った家に、自分が来るから自分以外の人間に代金を渡さないでほしいという一言もうまく言えない。

先輩には意味なく、殴られる。
同僚は次々、もっと良い職場を目指して辞めていく。
つまらない毎日を送り、街に出ればカップルが目に付く。

あるカップルに絡んでみたが、男にパンチは交わされ、見事にぶっ飛ばされる。
顔にあざを作って電車に乗っていれば、中学の同級生に声をかけられる。
同級生は早稲田大学に進学し、女の子を連れていた。

たまらなくなった川村は次の駅で降り、何が早稲田だと悪態をつく。
どうにも気持ちが晴れず、寮の近くの映画館を見れば、宮本武蔵が上映されている。
自分だった侍になりたい。
強くなりたい。

「俺は強えんだ!」と叫び、映画館のウインドウを割る。
川村は警察に連行され、寿司屋の大将が迎えに来る。
帰るなり、殴られた。

シャリを炊けと言われるが、女将が留置所にはダニがいるんでしょ、汚いと言って下着まで替えて来いと命令した。
寮に戻った川村は、畳に敷いてあるゴザを切り裂いて出て行った。
今夜から帰る家もない。

飛び込みで職人を募集している寿司屋に行ってみると、海苔巻きを切らされた。
その手つきで大将は、素人同然と言って不採用にしようとした。
しかし、そこにいた板前が雇ってやってくれと言う。
板前は、川村が宿無しであることを見抜いていた。

休みの日に競馬に行った川村は、そこでその先輩の板前に会った。
飲んで帰る途中、肩が当たったと言ってチンピラが先輩を裏道に連れて行った。
3人のチンピラに抵抗することなく、先輩は殴られたが、押さえつけられた拍子にシャツが脱げた。
先輩の体には、見事な刺青があった。

「どうした?来い!」
チンピラたちは、逃げていく。
影で見ることしかできなかった臆病な川村は、先輩に土下座をする。
自分を舎弟にしてくれ!

強くなりたい。
だが先輩は、職人は、つるむものじゃないと言った。
職人が徒党を組んでつるんでいたら、バカにされるだけだ。
お前はそんなバカなことを言わず、精進しろと言う。

そんなある日、先輩が店を止めた。
出前から帰った川村は、先輩を追いかける。
自分も連れて行ってくださいと言う川村に、先輩は職人は腕を頼りに渡っていくものだ。
今の店で、しっかり修行しろ、腕を磨けと言う。

しかし川村の腕は上がらず、人とも自然に接することができない。
客に対する態度も悪い。
気持ち悪がられていた川村は先輩に憧れて、刺青を入れた。
その刺青を袖から客に見せた川村は、ついに首にされた。

故郷に戻り、トラックの運転手ををしていた川村は、またしても昔の同級生に会う。
同級生は自分の家のある土地が、工業地帯を建設するので高く売れたと言っていた。
外車に乗っていた。
川村はろくに口も利かず、トラックに乗って去っていく。

荷物をまとめて、東京に行くと言って止める母親を振り切って出て行く。
東京でついに川村は、恐喝で逮捕された。
一番最初に警察官に捕まった時、川村は小便を漏らす程、怖がった。

最初は執行猶予がついたが、次々、店で暴れて恐喝、傷害、器物破損などで懲役となる。
19歳、20歳、ついに2年3カ月の懲役で出てきた時は23歳になっている。
この辺りから川村に、人が自分の悪口を言っているという妄想が出始める。

刑務所の房内でわめき、暴れる。
看守が飛んでくる。
川村は壁を指差し、こいつが!こいつが!と叫ぶ。
人を睨み、ブツブツと怒る。

泣きたくないのに、電波で泣かされる。
笑いたくもないのに、ニヤニヤさせられる。
想像したくもないことを、想像させられる。

電波にひっつかれている。
なのに、親兄弟にまで一緒になって悪口を言われるとは思わなかったなあ。
そう、川村は思った。
幻覚、幻聴がひどくなる。

何度目かの少年刑務所を出ると、母親と、厳しかった父親が迎えに来ている。
父親も年を取ってきたし、一緒にシジミ漁をやろうと母親が言う。
この時、川村はシジミで稼げるようになる。

すると、女性にもてない川村はクラブに通うようになる。
そこで豪勢におごり、ホステスの真理子と仲良くなった。
そんな川村に、ある男が覚せい剤を売りに来る。
虚勢を張った川村は、覚せい剤を買う。

この時から、川村は覚せい剤をやるようになった。
父親はそれに気づいて、問い詰める。
川村は奇行が目立ち始め、漁をしないと組合で決めた日にも漁に出て行く。
妄想はますますひどくなり、船の手入れをしている夫婦に自分の悪口を言っただろうと言いに行く。

暴力をふるいそうになるところを、父親に止められる。
川村がドライブに行くと、真理子がガソリンスタンドで待っていた。
真理子を助手席に乗せて、海に行った。

そこでできた堤防によって、シジミ漁に影響が出ていることを話す。
シジミ漁が思うようにならなくなった代わりに政府は、1500万を払ってくれるらしい。
川村は半分寄こせとすごむが、母親はその金で土台まで腐ったこの家を建て直すと言う。

父親に睨まれた川村は、逃げていくしかない。
持っていけ!と父親に、包丁を放り投げられた。
地面に刺さった包丁を見て、川村は腰が抜けそうになる。
母親に荷物を持ってきてもらって、再び家を出て行く。

アパートに住んだが、母子が遊んでいる鼻先に乱暴に車を突っ込ませたりする川村は嫌われ者だった。
抗議した母親に向かって、棒切れを振り上げて脅す川村。
するとアパートの他の住民が、やって来る。

どうせ、自分より小さいものにしか、強く出られないくせに。
小さな子供までが、川村を嫌っている。
嘲られてカッとなった川村だが、すぐにその女性の夫がやってくる。

屈強そうなその男に追われた川村は、あわてて部屋に逃げていく。
部屋に逃げ込んだ川村は、覚せい剤を打つ。
強気になって、素振りなどを始める。

近くのスーパーに買い物に出かけると、真理子の同僚のホステスが噂話をしていた。
真理子は川村をたらしこんで、アクセサリーを貢がせた。
そのうち、現金を貢がせるだろうが、真理子に夫がいることを川村は知っているのか。

いくら金のためだからといって、川村なんか相手にするなんて。
若いのにはげているし、第一、気持ちが悪い。
それを聞いた川村は、出勤する真理子が店の迎えのバスに乗る前に立ちはだかった。

話が違うんじゃねえか。
真理子は悪ぶれず、結婚してないなんて言ってないと言った。
それ、3万円もしたんだぞとネックレスを指さすと、真理子はそれを引きちぎって地面に捨てた。

カッとなった川村は、真理子を刺そうとする。
だが気が付いた店の車の運転手がやってきて、投げ飛ばされた。
それでも真理子を追って来ようとする川村は、真理子に噛みつかれて包丁を落とす。
さらに運転手の男に、泥の溝に頭を押さえつけられ、顔を突っ込まれた。

またしても懲役。
出所した川村は寿司屋に勤めるも、腕もあまり良くない上に、独り言を言ったりするため、気持ち悪がられる。
元々患っていたであろう精神的な病気に、覚せい剤が拍車をかけた。

同僚に、包丁を向けたため、首になる。
いくら何でも、仕事の道具を人に向けるなんてと大将が怒る。
実家に戻るが、真っ暗で何もない。

座り込んでいると、母親が探しに来てくれた。
川村が帰ってくるのは、ここしかない。
補償金の1500万が出たので、家を買って引っ越した。
おいでと言われるが、川村は拒否した。

職を転々とした。
勤め先に電話が来て、母親が倒れたと言われる。
母親は亡くなった。
川村はたった一人の味方を失い、泣いた。

飲酒運転をしてつかまり、またしても懲役となった。
妄想はますますひどくなり、勤務時間になっても起きない。
2度は我慢したが、3度目は許さないと寿司屋の大将が言って、首になる。

川村は目を見開いて、新聞広告の寿司屋の募集を探す。
月給は、そんなもんで良いわと言う。
だがすぐに生活態度や、人に対して攻撃的なために首になる。
新聞広告をなめるように見て、寿司屋に応募する。

他の寿司屋でも2日で給料を渡され、来ないで来れと言われるなど長続きせず、ついにどこにも雇ってもらえない状態となる。
器物破損や傷害、恐喝で刑務所と娑婆を行ったり来たりする。
刑務所の作業で稼いだ金で、川村は包丁を買った。

2500円なので、あと500円足りませんと言った店員に向かって、川村は階段の端に100円玉を並べる。
ありがとうございますと言う店員に向かっていきなり、買った包丁を突き出す。
黒幕に言われてるんだな?
女性店員が恐怖にかられる中、川村は出て行く。

黒幕は、通行人にまぎれている。
川村はそう言っていた。
面接に行った寿司のチェーン店でも、様子がおかしい。
女性事務員が話しているのを、自分の悪口を言っているなと口走る。

部長と言う男は、自分だけでは採用の判断ができないと言って川村を返す。
結果を聞きに翌日に来社すると言う川村に、電話をくれたら良いと言う。
木賃宿で川村は、ざまあみろ、明日からは職人だと言っている。

すると「ダメだよ」と笑う声がする。
雇ってもらえないよ。
お前はダメだよ。
もう185円しかないのに、どうするつもり?

その通り、川村の所持金は185円だった。
男と女が笑う。
怒った川村は探してやる!と叫び、あちこちを開け始める。
廊下で叫ぶ。

黒幕がいると口走り、そいつと勝負すると言う。
ケジメをつけてやる。
川村は巻いていたサラシを切って、包丁に巻き付けた。

翌日、川村は昨日のチェーン店に電話をした。
採用だろ?
しかし答えは、ご期待に沿えないと言う断りだった。

「お、おお」と相槌を打ちながら、川村は受話器を落としていた。
もしもし?
もしもし?
ぶら下がった受話器から、声がする。

歩きながら川村は、バッグのファスナーを開ける。
サラシを巻いた包丁を握る。
…。

母親の墓参りをしている父親のもとに、警官が走って来る。
今、大変なことが起きている。
軍平が人を次々と刺し、人質を取って立てこもっている。

父親が走る。
そして…。
川村は捜査員に抑えられた。
パンツ姿で、テレビカメラの前にさらされる。

川村の現場検証は、警察署の中で行われると言う異例のものになった。
縄でつながれた川村は、再現して見せる。
ベビーカーの中に向かって、紙でできた包丁を突き立てる。
何度も何度も。

ベビーカーを引いている、母親役の女性警察官を刺す。
何度も刺す。
手をつないでいた、子供役の女性警察官も刺した。
執拗に刺した。

倒れた子供役の女性警官が、川村をじっと見ている。
川村は薄笑いを浮かべて、あのガキ、と言う。
倒れてこっちを見ていた。
根性あるよ。

次に犠牲者となった女性に扮した女性警察官が、やってくる。
違う!
日傘を差しながら来るんだ!と叫ぶ。
その通りにした女性警察官も、川村は刺した。

次に重傷となった女性に扮した女性警察官も、川村は刺した。
そして、人質になった女性に扮した刑事に包丁を押し付けた。
何度も肩や背中を、包丁でつついてやった。
刑事は、とんでもないことをしたなと言う。

だが川村は言った。
俺は侍だ、武士だ。
武士は、無礼討ちにしても良いんだ。
反省する必要はねえ。

裁判が始まった。
刑法第39法。
心神喪失状態という言葉が、聞こえて来る。

結局、川村は死刑ではなく、無期懲役となった。
ナレーションが語る。
「川俣軍司」のような人間を2度と出さないことが、被害者へのせめてもの貢献だと。


大地康雄さん、熱演、名演。
いやいや、すごい。
この犯人にしか見えない。
かなり気持ち悪い。

この人が横に座って、独り言言っていたらみんな席を立つでしょう。
通報しちゃうかもしれない。
大地さん、街で叫ばれたりしなかったのでしょうか。
刑法第39条、「怪奇大作戦」も頭に浮かびます。

川村は、カップルの男にぶっ飛ばされ、アパートの住人の男に追い回され、ホステスの運転手には顔を泥水に突っ込まれる。
そんな弱い人間が酒を飲み、やがて覚せい剤をやるようになると、その時はとてもしゃっきりと強気になる。
弱い自分を忘れられる。
現実を見なくて済む。

山岸涼子の「負の暗示」にも通じる話です。
教師になれない学力=職人としてやっていけない腕。
女性に忌み嫌われる現実。

そのどれも、彼は直視しなかった。
快楽でごまかし、問題を先延ばしにした。
そしてついに逃げきれなくなって、他人を巻き込んで破滅した。

弱い人。
自分の中にもある、そういう弱い部分が描かれている川村の反省。
しかし、全く感情移入できない。

確かに川村の置かれた境遇は、恵まれたものではない。
最初の寿司屋からして、つまづいたなって感じはする。
もっとこの人に向いている仕事が探せなかったか、そうしていれば事態は違ったと思わないこともない。

誰だってそういう部分はあるし、つらいことはある。
だけど、それだからって同じような人がみんな、反社会的行為に走るかと言ったら走らない。
川村が乗り越えられず、ついに罪なき人を巻き込む様子は悲惨であり、不快。

自分は侍だから、良いんだと言い張る。
武士だって、何もしてない町人を無礼討ちや辻斬りしたら、御家取りつぶしになりますって。
事件のシーンは、ありません。

なくていい。
現場検証で、十分。
ものすごく、嫌な気持ちになります。
ドラマでも「被害者感情に配慮し」「異例の警察での現場検証」となったと言っています。

臆病で、弱虫で、腕っぷしは弱い。
自分より小さいものにしか、強く出られないと言われるが、最後に事件を起こした時もそうだった。
ベビーカーの赤ちゃん、母親、子供。

襲われたのは、お年寄り、女性、子供。
誰でも良かったんじゃない、ちゃんと選んでいる。
弱い人。

その弱さが、不快であり、腹立たしい。
「太陽にほえろ」のボスが、自分が知っている一番怖ろしい事件は気弱な男が起こした…というセリフも思い出します。
この人が間違わずに行けたのは、刺青の先輩がいた時だけでしょう。

小林稔侍さんが演じています。
まるで、任侠映画そのもののかっこ良さ。
昔、何かがあったんだろうけど、今はそれを人への優しさにできる男。

川村は初めて、尊敬できる人に会ったんだと思います。
でもその尊敬が彼の強さだけに行って、人間的な強さ、優しさには行かなかった。
彼の真似をするのが、刺青入れることとは…。

しかも腕だけしか、色が入ってない。
弟がそれを見て、でも父親の入れ墨には色が入っていると言う。
彼の父親にも昔、何かがあったんだなと思います。

ドラマの中に当時のヒット曲、ニュースが挟まれ、時代を感じさせます。
この男が時代に取り残されていくというのも、わかります。
いやいや、「シャイニング」のジャック・ニコルソンを思い出させる大地康雄さんの演技はすごい。
後に、鬼貫刑事や黒豆刑事だったり、「お父さんは心配性」のパパだったりするんですから。

ギャップが激しくて、おもしろいです。
最近、お見掛けしないけど、好きな俳優さんだなあ。
でもおそらく、このドラマ、今は再放送もされないでしょうね…。
大地さんの名演が見られるので、見られるなら、気分が悪くない時に見てほしいと思います。


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両刃の刃 「スペシャリスト」

宅間は優秀な刑事。
彼には、犯罪者の心理がわかる。
犯罪者はその宅間の才能に引き寄せられるように、寄って来る。

それを解決して行く宅間は、優秀な刑事だ。
だが彼は常に、犯罪に引き込まれる危険がある。
彼の才能は、両刃の刃だ…。


アメリカFBIは、犯罪プロファイリングのプロを養成している。
そのプロが言う言葉。
「深淵を覗きこむ時、『彼ら』もこちらを見ている」。

宅間は、これだなと思いました。
ダークサイドとの、自分との戦い。
宅間の話し方、接し方が違う時、ありますね。

宅間の感情があまり入ってないような話し方の時、それは宅間にとって距離がある人間ということ。
「刑務所の中」の人間には、何となく宅間の口調がなめらかに感じる。
つまり、宅間には「刑務所の中」の人間は距離が近い。
…危うい。

宅間の才能も危うい類いの才能だけど、それだけじゃない。
10年入ってたって、すごく重い。
まして冤罪だし。

元警察官の犯罪者に対する風当たりも、かなりあったでしょう。
そうして10年。
一筋縄でいかない人間になって、当たり前。

それにあの才能。
宅間は犯罪者に近い位置にいると感じました。
だからもう、本当は事件とは関わりたくない。
ここらへんの草なぎさんの表現にも、期待。

大杉さんと草なぎさんも、いつも良いコンビだから連続ドラマでも見たかったんですが。
警察内部に、ダークサイドがありそう。
通常なら、これでまた来年まで待たなければいけなかった。
来年に続きが見られる!

「10年入ってましたから」。
重い言葉ですが、これ、十分な決めセリフになりますよね。
来年が楽しみ。


今夜

「スペシャリスト」の4が放送。
今夜あのテレビがある。
昼間、何かやっていて、ふと夜のテレビ番組を思い出して楽しみになる。
テレビって、そうあってほしい。

しかし、今夜の展開は気になる。
誰か死んでしまうのか。
南さんと良いコンビだし、心配。



浅野ゆう子さんの「黒革の手帳」

浅野ゆう子さんの「黒革の手帳」を見ました。
2時間ドラマ枠ということもあって、元子の生い立ちは省かれていました。
母親のように、男では破滅しない。

男を手玉にとってのし上がってやるという、元子の決意。
しかし結局、同じように男によって破滅する様子に哀れさと凄みが漂うと思うのですが、しかたない。
掘り下げが浅いけれど、夜の銀座の女の戦争はおもしろく描けていました。

元子の家を出て行く捨て猫。
この捨て猫と元子が重なる構成。
最後は猫も元子も、情けにはすがらない。

ボロボロになっても一人、きっちりと生きていくというラストになっていました。
田中美奈子さんの波子は、なかなか良かったですね。
綺麗だし、野心家のところがピッタリ。
萬田久子さんの波子も良かったし、このドラマはやっぱり波子が良くないとダメだなあと思いました。


市原悦子さんの?「黒革の手帳」ならぬ銀座ママ物語

銀座のママ物語と言うと、演じる女優も生活感がない美女ばかり…と思いますが、あの市原悦子さんも演じたことがあります。
タイトルとかは忘れてしまったし、かなり前の2時間ドラマでしたが、さすが市原さん。
庶民的なキャラクターが得意な市原さんですが、ちゃんとママに見えました。

このママ、男を何人も破滅させている。
そんなママには娘が1人いて、娘は母親の生き方を嫌っている。
結局、娘は母親とはケンカの果て、出て行ってしまう。
もう少し、うまくやれたらよかったのに、と娘自身、寂しそうに言って。

ママは店で雇った、新人ホステスと馬が合った。
行くところがない彼女を家に泊める。
自分を否定し続けた娘と違い、彼女はママを尊敬していた。

ある夜、ママに貢いで破滅した男がママを襲った。
ホステスはママを守った。
男は自分で勝手に破滅したのだと、ママは言う。

ママとホステスは、2人はまるで親子に見えた。
かわいがっている小型犬と、ママとホステスの暮らしが始まる。
ママはホステスに、店の経営や男のあしらい方まで教える。
自分の娘がこのホステスのようだったら、ママはこうしていたことだろう。

ママにはかわいがっていた、かなり年下の恋人がいた。
その恋人のため、店の拡張のため、ママは借金をする。
相手は真っ当な筋の人間ではなかったが、ママは「返せないときは体で払うわよぉ!」と啖呵を切った。
その話をホステスに得意げにするママ。

しかし、破滅はすぐにやってきた。
そしてその借金は、ママから店を取り上げるためのワナだったのだ。
取り上げられた店は、何と、あのホステスのものになった。
さらに男はママの影で、ホステスと恋仲になっていた。

怒りで震えるママに、ホステスは言った。
勝手に破滅したんでしょ、と。
そしてサラ金のボスも、ママの恋人も、みんな私のご機嫌を取ろうとしていろんなことをしてくると言った。

いい年してるのにね、と、彼女はキュートに笑った。
怒りのあまり、ママはナイフを手にしてホステスを刺した。
ホステスは腰の辺りを刺され、ソファに崩れ落ちた。
そして数ヵ月後。

ママの店は、ホステスをママにして華やかにオープンした。
刺されたホステスは軽傷で、何のダメージもなかった。
たくさんの花が届き、男たちを迎えてホステスだった彼女はママと呼ばれて華やかに笑っていた。
ママの恋人も、サラ金のボスも、かつてのパトロンも彼女の周りにいた。

病院の掃除をしている、掃除婦がいた。
床を掃除していた掃除婦は、救急患者を運ぶ医師と看護師に突き飛ばされた。
それでも掃除婦は、ぼんやりとしていた。

掃除婦は、ママだった。
住んでいた場所は、豪華なマンションから狭い古いアパートに変わっていた。
帰ってきたママを迎えたのは、犬だけだった。


市原悦子さんがママで、ホステスは甲斐智恵美さん。
無邪気な悪意が出てて、良かったです。
年下の恋人は、国広富之さんでした。
たぶん、佐藤慶さんも出ていたと思います。

「こんな手に引っかかるなんて…」と思うような手口だったと思います。
でも娘との関係が、ママに微妙な影響を与えていたのかもしれないなと。
だから娘のように付き合っていたホステスと、年下の恋人に良いようにだまされたのかも。

市原さんが、ものすごい落差を演じるんです。
最後に徹底して、本当に惨めで抜け殻になったママ。
それと対照的に華やかに笑うホステス。
ママの一撃は、彼女に何のショックも与えていなかった。

迎えるのは、犬だけ。
すっかり萎れた市原さんは、ぼんやりした初老の掃除婦以外には見えない。
見かけのすごさというより、気力が抜けてしまっている。
生命力がない人を見た衝撃がありました。

かろうじて彼女を世の中につなぎとめているのは、あの犬だけなのだろう。
逆に、犬だけは、本当に彼女自身を好きでいてくれる。
彼女に付属しているものとか、本当に関係ない。

タイトルも何も忘れてもこれだけ覚えているんですから、話はもちろん、市原さんはじめ、俳優さんたちの演技が良かったんでしょうね。
このまま、あの人は朽ち果てるのだろうか…と思わずにはいられない。
娘が帰って来て、母親を非難しながらも、支えてくれと思わずにいられない。

プロフィール

ちゃーすけ

Author:ちゃーすけ
癖の強い俳優さんや悪役さん大好き。
俳優さん、ドラマ、映画、CMその他、懐かしいもの、気になるものについて、長々と語っております。

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