もうこの手に戻らないものを思う 「蜘蛛女」

「蜘蛛女」を、再見しました。
土曜日の深夜に放送していたものの録画なんですが。
ああ、この時にはまだ猫がいたなあ、と思いながら見たんですが。

しかしこの映画、作りは雑なところがあるのに、俳優さんたちのハマり具合と迫力で夢中になりますね。
ゲイリー・オールドマンは悪徳警官役でも、こちらの情けない役の方が似合う。
この情けなさが、味があって良い。

そしてこの映画では何といっても、「蜘蛛女」こと、モナ・デマルコフがすごい。
レナ・オリンという、知的な感じの女優さんが演じている。
「氷の微笑」など悪女の映画は多くありますが、「蜘蛛女」は力技で押していく悪女。

普通の悪女は、緻密な計算と切れる頭脳と冷酷さで完全犯罪をやってのける。
だがモナは、男の首を太ももで締め付けて窒息寸前に追い込める力技の悪女。
見ていて怪物映画みたいで、これはこれで楽しい。

あの低い、ぬははははぁ、というような笑い。
ギャグになっちゃうぐらい、すごい。
ジャックの首を絞めながら、ぬははははは、ぬはははははっはっ、と笑う。

ガーターベルトなんてセクシーなスタイルなのに、下着丸出しで足でガラスを割る。
たたたたと走る時、邪魔になった靴を空中キックして脱ぐ。
両手が手錠でつながれてるからね。

自分で切り落とした左腕の義手を、「外した方が良い?」なんて聞く。
「そうしてくれ」と言われ、ポーンと放り投げる。
ぬははははと笑いながら。

会社の同僚で「俺、怖い映画嫌いだよ~お…」と言って、見ないという人がいました。
「怖い女、嫌いだよ~」。
私は「おかしくなっちゃうから見て!」と言いました。
モナは演じるのって、楽しかったんじゃないかな?

当時のファッションを見るのも楽しい。
モナが最初に護送される時に着ている、紺地?に細い白いラインが入ったピンストライプの服。
これはコート?
ワンピース?

こういう布地、この時期にあったな。
スーツ、ワンピース、スカート。
スカートはタイトだった。

シルエットはボディコン。
モナの着ている服も、ボディコンシャス。
マフィアのボスを生き埋めにする時に着ている、パンツスーツのシルエットも時代を感じる。

そうそう、日本はバブルの時代だった。
モナはロシアで、マフィアの殺し屋だった女性。
アメリカみたいな国家じゃなくて、何だか何でもありな国といったイメージ。
そこでマフィアの殺し屋だった女性なんだから、何でもありなのか。

肉体的、体力的にも精神的にも超越した強さを持つモナ。
対して、この映画の男性たちはみんなちょろい。
甘く見て、モナの女の罠にはまる。
ところがモナは、性別こそ女性の体に生まれてきたけど、か弱い女性じゃない。

肉体を餌におびき寄せることはしても、女性ではない。
自分を死んだことに偽装するために、自分の左腕を切り落とすような人間。
そこまでの気合と覚悟がない男性が、食われるのは当たり前。
だから男たちは、次々食われる。

中でもとことん、情けなかった悪徳警官・ジャック。
最初にモナの誘惑に乗った自分を「どの程度の男か、わかるだろう」と嘲るけど。
マフィアとモナ、両方から金を取ろうとしてモナにはめられる。
でもジャックは最後に1回だけ、男らしく逆襲する。

モナはジャックを、ちょっとだけでもかわいいと思ってたんじゃないかなんて考えた私も甘かった。
逃げ切ろうとするモナに、「それはお気の毒。あんたはもう2度と女房は抱けないよ」と言われる。
「あの女は死んだ。あんたが死んでるのと同じようにね」。

ぬはははは、と笑って出て行くモナ。
とっさに靴下の下に銃を隠し持っている同僚から、手錠がはまったまま、ジャックは銃を奪う。
そして遠ざかっていくモナに、発砲する。

1発目で、モナが振り向く。
2発目、モナの肋骨が砕け、血が飛び散る。
3発目、胸に命中。

4発目、さらに命中。
5発目、倒れるモナにとどめ。
とことん、バカにしていた男の逆襲に信じられない表情のモナ。

倒れ、上体を起こして自分に起きたことを見る。
驚愕の表情のまま、モナは死ぬ。
その後、ジャックも自殺を図るが、弾丸はもう入っていなかった。

同僚の刑事が言う。
「よくやった、ジャック」。
「良い腕だ」。

そう、ジャックは結構、良い腕を持つ刑事だったと思う。
それがこんなことになってしまうのは、欲に目がくらみ、そこをマフィアに、そしてモナにつけこまれた。
ジャックがどうして、モナを殺して表彰されるまでに至ったのか、わからないけど。

ちりーん。
最初に響いていた、鈴の音が響く。
それはジャックが新しい名前と身分を与えられ、経営しているダイナーの入り口の鈴の音だった。
この映画は、新しい名前と身分証明書、職業を与えられたジャックが過去の自分を語っていたのだった。

ハイウェイに、ぽつりとあるダイナー。
そこでドアが開き、ジャックは悲鳴をあげる。
モナが笑いながら、立っていたから。
次の瞬間、モナは消えた。

ホッとしたジャックは、入ってきた妻のナタリーを鏡に見て、額に入っていた手紙を落とす。
ガラスが割れる。
ジャックは妻のナタリーに、半年後、待っているから来てくれと言った。
5年前から、ジャックはここでナタリーを待っている。

ついに来たのだ。
歓喜のジャックは、笑顔で涙を流す。
ナタリーを抱きしめる。

2人の影が薄くなっていく。
消える。
ジャックが言う。
「時々、もう少し長くいてくれるときもある。ごく、たまに、だが」。

ジャックは、吸っていたタバコを床に落とす。
扉を開け、外に出る。
「俺が諦めると思ってるんだろ?」
「そんなことはない」。

「いつだってナタリーが、あのドアから入ってきてもおかしくない」。
人、車自体がここを、ほとんど通らないように見える。
ダイナーの他に、建物の影はない。

いや、何かの影がない。
動くものがない。
空にも、大地にも動いているものがない。

広々と広がる大地。
ジャックが、ガソリン給油機の傍らに座る。
ここもしばらく、使われた形跡がない。

彼はここで日が暮れて、辺りが暗くなり、星が出るまで座っているのだろう。
いつもいつも。
目がくらみそうになるほど、虚しい想像。

ジャックは言う。
「どんなことがあろうと、彼女は」。
「俺を愛している」。
「…はずだ」。

全編を貫く、けだるいジャズ。
それは最後にオルゴールの音色が足され、哀しさを強調する。
ラストシーンは、怖ろしく虚ろ。

ジャックの心のような、荒涼たる風景。
失ったものの大切さ。
初めて、失ってからわかる存在の大きさ。
ささやかでも、十分だった本当の幸せ。

悔いても、悔いても足りない。
もう、もどらない…。
身を切るような孤独。
切なさで胸が一杯になる。

猫を見送って1ヶ月。
もう、この手で触れることができない寂しさ。
大切なものが、そこにない喪失感。

猫がいた時に見た映画であり、猫がいた日々を思いながらこのラストを見るのは、一層切ない。
自分の手に触れるものが大切な存在だということは、ジャックのように忘れてはいなかったけど。
見送りに後悔が驚くほどなくて、予想していたひどいペットロスに陥らずに済んでいるけど。

この空の下、大切な者、そこにいた者がもうどこにもいない。
理屈ではない、寂しさ。
それがジャックと重なるのかもしれない。

モナの強烈なキャラクターに彩られた映画の、意外なほど切な過ぎるラストシーン。
映画はそれを見た時の自分の状況、思いも一緒に刻む。
「蜘蛛女」は、自分には忘れられない映画になっているのかもしれない。


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怖いけど懐かし 「日本の熱い日々 謀殺・下山事件」

俳優・仲代達矢さんの仕事という企画で、「日本の熱い日々 謀殺・下山事件」を見ました。
下山国鉄総裁事件を扱った映画ですが、同じ題材の映画を一度、子供の頃に見た記憶があります。
これかなあ…と思って見たのですが、これではなかった。

私が見たのは、山村聡さんが出演していました。
かなり怖い映画でした。
映画でも事件は謎のまま。
得体の知れない、大きな力が働いていることだけはわかった。

良くは覚えていないんですが、事件の情報を知る人間が次々、不思議な死を遂げる。
最後に事件の鍵となる情報を知っていた人間も、面会前に死んでしまった。
白黒の画面で、電車の通るガード下らしき場所で、最後の鍵となる人物が息絶えたような…。
「日米戦争でも始まらなかったら明らかにならない」という感じで終わりました。

不気味な怖い映画でしたが、当時の記者の根性は印象に残りました。
巨大な権力に対して歯止めになるためにマスコミの人間は反骨精神を持つのだ、と。
名もなき庶民が大きな権力に踏みにじられないために、自分たち権力の反対側にいるのだと、がんばった。
ただ、映画の最後、主人公は自分たちに協力した人間が殺されて、その妻が狂乱したのを見た。

自分が死なせたと思うでしょう。
もう、犠牲は出せない。
この事件を追うのはやめようと思うでしょうね。
結局、この事件に関与しようとする人は無事では済まないという、やっぱり怖い映画でした。

さて、「日本の熱い日々 謀殺・下山事件」は懐かしい、知っている顔の俳優さんが若い!
面影を残しているもんだから、うれしくなりました。
あれあれあれ?これは役所広司さん?って感じ。

仲代さんは、あんまり変わらない感じなんですけどね。
もう、いらっしゃらない俳優さんの若い頃も見られて、だから昔の邦画っておもしろい。
昔と言ってもこれは昭和56年の作品なんですが、もっと古いように感じます。


さようならで御座います 「丑三つの村」感想

「犬丸継男くん、ばんざーい!ばんざーい!ばんざーい!」
最初に言ったように、かつてのビートたけしはギャグで、両手を棒のように挙げて万歳を連呼した。
映画を見た人には、あっ!となるシーンだったと思う。

万歳の声に送り出されていくのは、ビートたけしとコンビを組んでいたビートきよし。
だから、このギャグだったのか。
いや、それだけとは思えない。

なぜならこれは、ものすごいシーンだから。
これを、このシーンをギャグに使う当時のビートたけし。
「ブラック漫才」。

自分を育ててくれた祖母を残虐な方法で手に掛けることによって鬼と化し、殺戮に向かうシーンなんだから。
たった一人の軍隊。
一人ぼっちの出征。
孤独な、継男の、孤独な戦場。

ドキュメンタリーじゃないから、ドラマだからか、継男という犯人に感情移入するようにできている。
でも別に、犯罪を肯定するためにやっているわけじゃない。
だけど、冷酷な狂気が爆発しての事件ということなら、「八つ墓村」の方の描写がそうなんですね。
これは青春映画。

というか、理解を超える事件の場合、どうにかして理解しなきゃ怖くてやってられない。
被害者にも非があるとか思わないと、怖くてやっていられないんでしょう。
それが時には、とてつもない誤解と第二の悲劇を生むわけだけど。
ただ、この事件を題材に映画を作った場合、こういう解釈で作るのもありなのかと思う。


冒頭、兵士を送り出すのに駆け出して途中でつまづく継男。
これが後の継男を象徴しているのか、していないのか。
帰っていく継男が見るのは、鶏虐待。

ここね、嫌なシーンなんです。
弱いものいじめと言うか、抵抗できないものをみんなで鬱憤晴らしにいたぶっている。
ここも、鶏を後の継男や村の男たちに投影させているシーンなのか、そうでないのか。

鶏と言えば、継男がいよいよ、凶行に及ぶ晩、おばやんが電気がつかないのを知って、「今日はけったいな日や。鶏は急にしんでしまいよるし」と言う。
ここいらの描写はないけど、継男がおそらく、すべて終わりにするつもりだから、鶏もしなせて行ったんでしょう。
しかし、凶行に及ぶ継男が表に出た時、鶏小屋に「コ~、コココ」とつぶやく鶏の姿があるのに、私はホッとした。

さて、出征を見送って家に帰る継男が道でさわやかに挨拶すると、みんな挨拶してくれる。
小高い森の上から見た村の風景。
何度も出てくるこの風景は、最後に怖ろしい風景に変わる。

つぶれそうな小さな家々。
障子が破れ、茶色くなっている戸口。
ここではピンクや水色などのパステルカラーは、存在しない。
きらびやかな光というものも、見かけない。

鉄やプラスチックや、ビニールなどの工業製品は目に入らない。
かやぶき屋根、わら、石。
素朴で粗末で、何もかもが茶色く、古く、すすけている。
どこでロケしたのかわからないけどこのすすけた感じ、今は作ろうと思っても作れないんだろうな。

その村で、継男が始まって以来の秀才と言われている。
特別扱いされている。
継男の祖母は、原泉さん。

怖いおばあさんを演じたら、天下一品。
ハリウッドにだって、こんな怖いおばあさんはいないんじゃないかという女優さんだけど、ここでは継男に優しい祖母。
これがまた、うまい。

継男の夢は兵隊になることだが、おばやんは誇らしげに見送ると言ってくれる。
だけど継男が出征したら、大声上げて泣くかもしれないと1人になってつぶやく。
あの子が自分を置いて、街の学校になど行くわけがないと言う。
村のはみ出し者、よそ者と遭遇して、おばやんのことを言われて温厚な継男が怒る。

継男がいかにおばやんを大事に思っているか。
自慢の孫をかわいがるおばやん。
継男とおばやんの絆。
見ているだけで、これから後の展開の切なさが胸に迫ってくる。

忠明たちよそ者の暴れる場面では、村ではこの忠明と称するよそ者たちがどんな扱いを受けているかがわかる。
村がどれほど閉鎖的かも、わかる。
そして、継男が胸が悪そうなところも。

そしてやってくる、ミオコ。
五月みどりさん。
色っぽい。
ミオコとの会話から、村がみんな血縁関係にあるような間柄だとわかる。

この血の濃さ。
閉鎖的社会。
継男の先輩の哲夫の「しまいにゃ、ばちあたるで!」の言葉が、この村の行く末を暗示する。
怪しげな商売をしている様子ではあれ、外の世界を知っている哲夫には、この村の異常さが客観的にわかる。

継男は村の子供たちを集めて、話をするのが好きだった。
子供と遊ぶ継男が、最後に子供まで…。
古尾谷さんはどう見ても、おとなしく、頭のいい継男だ。
どう見ても秀才の性格のいい青年の継男が、なぜそんな狂気に至るのかと思う。

だが子供は夜の夫婦の様子を、無邪気に演じてみせる。
継男は何のことかわかるから、どぎまぎする。
しながらも、どんなかちょっと聞いてみる。

狭いこの村で家で、性が開放的というか、乱れるというか、そうならざるを得ない状況ということもわかってくる。
後にミオコとだって継男は、子供が何人も寝ている次の間で情交に及ぶのだから。
哲夫に言われて夜中に散歩してみた継男は、えり子が村の有力者・勇三と絡み合っているのを目撃する。
その後、自警団の男たちに遭遇し、勇三のずるさ、大人のずるさに触れる。

青年らしい正義感3割、えり子、いやもやもやした下心7割といったところでえり子を訪問。
継男を誘惑するえり子、池波志乃さんのことを「昼間から布団でだらしないかっこをしていても絵になる女」と称した文章を読んだことがありますが、まさにこの本量発揮。
うろたえるどころか、継男を堂々と誘惑、押し倒す。
継男なんかひとたまりもないですね。

次は、ミオコの誘惑です。
この辺り、継男、古尾谷さんはまだ女性たちに翻弄される純情少年。
さて、いろんなことがちょっと気になるお年頃の継男には、気になる幼馴染がいる。
無邪気な、かわいいやすよ。

このやすよと継男も、実は従兄弟ぐらいの間柄。
だから結婚は、できない。
つまり、そのぐらい、この村の血は濃い。
しかし継男が結核でなかったら、一緒になっていたと思われる。

やすよを演じる田中美佐子さんが、本当に初々しく、かわいらしい。
この暗く、血なまぐさく、息が詰まるような悪意の渦巻く村で、彼女だけが清らか。
彼女だけが健全。
病んでいく継男がなおさら彼女に惹かれるのも、当たり前。

継男と一緒に村を見つめていると、村が夕焼けで真っ赤に染まっていく。
もう、この村の惨劇、忠明らに降りかかる運命をはっきり示している赤い色。
不吉な色。

哲夫の半ば受け売りかもしれないが、継男は自分も誘惑されて乗りかかっているのに、この村の人間関係と行動が気持ち悪いと言う。
まだ、継男は青年らしい健全さを失ってはいなかった。
それに対して、やすよは言う。
女は寂しいんだと、やすよは言う。

この閉鎖的な社会。
逃げ場がない社会。
男にすがるしかない社会。
その中でやすよが小さな幸せを感じるとしたら、好きな男と一緒になることだけだと言ってるように見える。

そして悲劇は、さっさと来る。
結核の診断。
呆然として、立ち上がれない継男。

だけど、軍医からの結核の診断の後、すぐに村人が継男を無視し始めるのって早い。
情報が早すぎる。
娯楽がないんだ。
外の世界とか、村のほかに目を向ける場所も視点もないんだと思う。

そして村人の変わり身の早さ、豹変。
昨日まで秀才天才と持ち上げられていた継男には、つらい。
おばやんにも、つらい。

あれだけ継男を誘惑したミオコが、徹底的にキスを拒む。
最後には「最初から嫌いやったんよ」と、拒絶する。
露骨に誘惑していたえり子にも、拒絶される。

やることがない、誰にも相手にされない継男は山をうろうろしていた犬に吠え掛かる。
この後、継男はこの犬をつれて歩いている。
まさか、この犬も殺さないよね…。

そのシーンは嫌だなあと思っていたら、犬はいつの間にかいなくなっていた。
ほっ。
ディレクターズカット版では、犬についてのシーンもあったのかもしれない。

そしてやすよは、継男と引き剥がされるように嫁に行かされる。
私、嫁に行く先がてっきり隣村かなんかだと思ったら、やっぱり村の中だった。
どれだけ血を濃くするんだ。

誰にも相手にされない継男に唯一、和子だけが優しい。
継男も和子に惚れられていると思ってしまうほど、優しいのか、継男がまだちょっとうぬぼれる余地があったのか。
だが和子は、哲夫といちゃついていた。

血が濃いと言いながら、和子といちゃついていた哲夫。
しかし、外の世界を知っている哲夫は、先輩としてふさわしい態度で継男に接する。
哲夫は、新井康弘さん。
新井康弘さんのキャラクターは、この役が一番生きている気がします。

哲夫の忠告も聞かず、継男は夜這いに行き、間違えて母親の布団に入る。
この時の継男はかなり、情けない。
そして、和子に、母親に思い切り傷つけられる。

和子が、一番ひどい豹変をする。
優しかっただけに、恨みが深い。
注文が厳しくて縁談をまとめるのが大変だったと言う、村のおばちゃんの言葉からすると、和子は結構な野心を持っていた女性なんだろう。
継男にも村一番の秀才への野心のみで親切にした、したたかな女性だということがわかる。

そして継男は、村の暗黒部分を目撃する。
忠明を私刑にかける村人たちの様子は、まさしく鬼だった。
常識人であり、青年らしい潔癖さをまだ失わない継男は駐在に、忠明は自殺ではないと言う。
しかしそれは秀才と言う地位を失い、ごくつぶしと言われる身分になった継男の行動としてはあまりに危険なものだった…。

この継男を笑う男たちの目が、ものすごい怖い。
ああ、閉鎖的な社会って怖い!って思ってしまう。
笑っているのに誰一人、目が笑っていない。
みなさん、熱演です。

特に凄みがあるのは、後の烈堂さまこと、夏八木勲さん。
みんなが笑っている中、1人笑いをやめて継男を凝視する。
ああもう、殺すことに決めたんだなと読める表情です。
この時は、夏木勲という表記ですね。

自衛の手段として、継男は銃器を買い求めたように見える。
殺されないために、武装する。
殺されないために、殺す。

しかし、山の中で恨み深い常代の名前を書いた等身大のわら人形を相手に銃の訓練をする辺りは、自衛というより、恨み。
今見ると、継男が大量殺戮に走るまで、あまりの大量殺人に走るまでが弱い気がしてしまった。
何もそこまでする必要あるか…という感じだけど、ここまで陰湿なエピソードが重なった上に、継男がねちこくいじめられるところをあと30分も描かれたらたまらない。

今、ディレクターズカットなんかが出たら、そこのところが丹念に描かれていたのかなと思う。
でもここに至るまで、もうひとつ、恨みが重なる描写があれば、継男の行動に自然さが感じられたのかもしれない。
または私刑と、常代と和子のシーンが逆ならすんなり理解したかも。
ミオコの夫の中次とのもめるシーンがあったら、もっと理解できたか。

それでも村人の狂気が、継男の狂気を呼んだという解釈もできる。
山の中で人形を撃つ継男の顔に、狂気が宿り始める。
夜中、継男は「犬丸継男の戦場」と書いた地図を広げる。

そんな状態に来て、やすよの結婚が壊れた理由をその本人たちに話す嘉子。
どれだけ、継男をバカにしているか。
継男は自分をバカにしたより、おばやんがかわいそうだったのではないか。

ここで継男は嘉子に、今にバチ当たると言う。
今度は哲夫の受け売りではない。
継男をバカにしているうち、村人たちは継男の存在を軽く見るようになっていたかもしれない。
だがミオコは怯える。

ミオコの家に入った後、中次と対峙した時の継男は、中次には一応礼儀正しかった。
この中次が、石橋蓮司さん。
「ミオコ、お前!」
「お前は呼び捨てにせんでええわい!」の辺りが、おかしい。

これが決定打になったか、継男はおばやんを哀しませないために先に殺して、凶行に及ぶ決心をする。
だがおばやんは察知して、逃げ出す。

一度は逃げたおばやんだが、刑事にはしらを切りとおす。
おばやんはあくまで、継男のために生きているのだ。
この辺りのおばやんが愛しく、悲しい。

おばやんが逃げた後、探しに言った継男は、やすよが風呂に入っているのを見る。
思わず押し倒し、「俺がもろうたる。俺の子供生め。村一番の子供や!天才と別嬪さんのガキや」と本当はずっと言いたかったことを言う。
さらに「俺の血や。立派な…肺病病みの子や!」と自嘲する。

しかし突如、発作はやってくる。
血を風呂に吐いてしまった継男は、自分の現実を思い知った。
頭を冷やす、自分を笑うために、お湯を頭からかけた継男に、やすよは自分もかぶってみせる。

「そんなこと、私はかまわない」。
運命共同体。
二人で何度もお湯をかぶり、彼女の気持ちを見た継男は彼女だけは自分の運命に巻き込むまいと走り去る。

哲夫は嫁入りする和子を見ていた継男を、未練たっぷりかと言ったが、そうではない。
もう、継男には和子は標的以外の何物でもない。
継男が守らなければならないのは、おばやんとやすよだけ。

哲夫が諦めたように、入隊を告げる。
「行きとおても行けん奴。行きとのうても行かんならん奴。うまいこと言うな」が皮肉な響きを持つ。
継男はうらやましい。

行くべきところに行けて、死ねる哲夫がうらやましい。
「行けるところがある人は、ええわ」。
もうすぐ戦争に行かされる哲夫は、何かを察したのか。

銃を買い込んできた継男の前に、やすよが現れる。
かつて、無邪気に遊んだ山で、道が完全に分かれてしまった2人が会う。
やすよはまた、嫁に行かされる。

以前、やすよは村の女は寂しいと言った。
でも継男だって、寂しいのだと言う。
頭がいいだけに、いろんなことが見えてしまって、単純に快楽には走れない継男こそ、寂しかったんだと思う。
そして今は本当に孤独になったのだと思う。

この映画は、情交のシーンが丹念に描かれている。
でもこのシーンは、男性サービスシーンと言うだけじゃなかったのかもしれない。
継男の大人への変化と、狂う段階を示すためのシーン。
人と最も濃密につながろうとする、継男の寂しさを描くためでもあったのかもしれない。

それが裏切られたとき、深い恨みに代わる。
濃密であれば、濃密であるほど恨みは深い。
恨みの深さを描くためにも、情交のシーンは丹念に、濃密に描かれたのかもしれない。

やすよと最後の別れをした継男を待っていたのは、ミオコの家が夜逃げ同然にいなくなった知らせだった。
継男が原因だと、継男は八一に責められる。
ほとんど、私刑・死刑の宣告がされる。

「逃げられた」と継男は言ったが、この事件を描いたマンガ「負の暗示」にもあるように、ミオコには継男を追い詰めた自覚があったのだろう。
継男の絶望が、ミオコには見えた。
だから危険を察知した小動物のように、ミオコは一家を連れて逃げた。

手先が器用で頭がいい継男が、犯罪に向かってまっしぐらになったらどれだけ怖いか。
自転車用のライトと、懐中電灯を結び、カチッ、カチッとつけてみる。
ライトに照らされた継男の顔は、まさに鬼になっている。
「こらやっぱり鬼や」と、満足そうに言う。

そして何度も見慣れた風景が出てくる。
村の、小さな家が立ち並ぶ、小川の風景。
「皆様方よ。今に見ておれで御座いますよ」。

出ました。
宣伝コピーにもなった、セリフ。
しかしこのセリフ、もっと恨み深く言うかと思ったら、あっさりと言っている。

だからこそ、怖い。
もう、殺すことは、未曾有の大量殺戮は遂行されるだけだ。
彼の中では、何の罪の意識も、人の命の重みもない…。

やすよにもらった組みひもを取り出し、首に巻きつけ、自分で自分を締めて「ぐえっ」「ぐえっ」と舌を出し、声を出す。
彼ももう、生きているつもりはない。
インテリの穏やかな継男青年は、もうどこにもいない。

やすよに手紙を出しに行く継男は、ニワトリの羽を拾う。
忠明らが殺したニワトリ。
だが、継男はニワトリにはならない…。
そんな熱い決心が感じられたわけでもなく、こちらが思っているだけで、継男は淡々と羽を拾い、捨てる。

犯行当日の夕焼けは、わざとらしいほどの血の色だった。
でもこれは不気味。
赤い闇の中、継男が電線を切る。
始まる。

おばやんが、ニワトリは急に死んでしまいよると言ったところからすると、継男はニワトリも後顧の憂いなく、毒殺してしまったんだろうか。
あ~、犬をどうこうするの描写がなくて、良かった。
しかし後に継男が家から出るとき、家の入り口の小屋にはニワトリがいるのだった。

和子が戻ってきているのを知った継男は、これぞ天の助けと言った風に喜ぶ。
ゴーサインだ。
その夜、村は不吉なほど、静かだった。
この時流れるシンセサイザーの音楽が、シーンに向いていないと言われているようですが、この静けさには合っている気がします。

誰も動いていない。
小川が流れ、木々がざわめくだけ。
時計の音が響く。

ここで音楽を鳴らしても、吸い込まれていくような静けさ。
落ち着きのない私は、こういうのがダメ。
こういうのが怖い。

ガシャガシャ、パッパー、ジャンジャン、ザワザワしているのが安心。
田舎暮らしができないですね。
私は寂しがりやというのではなくて、臆病なんだと思う。

そしてついに訪れる、惨劇の時。
実際の犯人もこんな風に時を待っていたのだろうかと思うほど、リアルな描写。
1時の鐘が鳴るまで待つ。
戦場だから、下着まで全てを着替える。

継男はこんな時でも律儀、まじめ。
この律儀とまじめが虐殺に向かうんだから、とんでもないことになるわけだ。
装備していくあたりから、じわじわと盛り上がっていく。

おばやんを殺すシーンは、私はやっぱりひどいと思いました。
「俺を夜叉にしてくれぃ!鬼にしてくれ!」
自分を愛し、育てた祖母を殺して継男は文字通り、鬼になりました。

「犬丸次男くん、ばんざあーい。ばんざーい。ばんざああーい。ばんざああ…い」。
たった一人の出征。
誰も見送ってくれない出征。

もう、誰も、自分を愛してくれた人はそばにいない。
だから、継男は自分で自分を祝う。
想像を絶する孤独。
飛び散った血で染まる、継男の顔、日本刀の柄。

ついに始まる殺戮は、音楽もなく、リアルだ。
闇の中、継男の頭の懐中電灯と胸のライトだけが動いているのを見ると、実際はこんなだったんじゃないかと思える。
最初の犠牲者は、壮絶な表情で殺される。
寝込みをいきなり刺されるって、実際はこんななんじゃないかと思わされる。

しかしこれはまだ始まったばかり。
血の飛び散り方、流れ方。
逃げる人、はいずる人。

恐怖で声も出ない人。
撃たれた人。
主に逃げる人をカメラで追っているせいか、みんな、ものすごく芸達者でリアルなのだ。

常代に向かって、銃口を向けながらの継男の「くそばばあ。夜這いに来たで」は、ものすごい。
怨念爆発。
「結婚、おめでとうさん」もすごい。
まさにこれは今までの仕返しだということを物語っている。

和子の口への銃口押し込みは、ぎゃーやめてやめてと思った。
これはね、この和子は想像を絶する恐怖だと思う。
匕首で止めを刺すんだけど、これはもう、匕首でよかったと思ってしまう。

次の、やすよを追い出した文明の家庭への襲撃は、子供も巻き添えのまさに鬼。
ここはやっぱりひどく残酷。
闇の中、逃げていく文明を継男のライトだけが照らし、後は真っ暗というのがリアル。

文明が逃げ込んだ家の者にも銃を向けるけど、老人の必死の悪口を言わなかったという叫びで、継男は撃つのをやめる。
このあたりが継男がいかに、悪口を言った人間を恨んでいたかがわかる。

そして栄子のいる家。
栄子が気丈で、「おかやん、どないしたんや!」と叫ぶ。
この人は本当に継男が嫌いでいそう。

しかしそんなことが今の継男に通じるわけがなく、アッサリ撃たれる。
ここは皆殺し。
布団をかぶった老人まで、撃っている。

次は恨みの深い八一。
襲撃されるまで寝ていたみたいなので、案外わからなかったんですね。
もうパニックになっているから、子供だろうと妻だろうと盾にしそうになる八一。

真っ暗な家の中、ライトが八一を照らしている。
逃げていく八一をカメラが追うのが、すごくリアル。
これ以上の恐怖はないといった表情で、八一が逃げていく。

3人の若い女性は、絶叫しながら逃げる。
最後の1人が田んぼの中で撃たれるんだけど、人間は必死になるとああやって逃げるだろうと思う。
そして何かを感じたやすよが戻ってきて、継男にもうやめてとグシャグシャの顔をして訴える。

次の嘉子への「おばちゃん、こっちや」が笑いを含んでいる。
太一の必死の抵抗もむなしく、匕首で止めを刺される。
この後、ヤギの乳を搾り、喉を潤す。
「はー、はー…。よしっ!」

もう、人を殺しているとは思えない。
実際にはこんなになっちゃってるのかもしれない。
この日常感が怖い。

そして恨みの深い勇三。
しかし、勇三は殺せない。
「時間がない」と言うのは、一体なんだ。
まだ警察は来ないけど、えり子を撃ちもらすのを怖れたのか。

一見、助かってラッキーな勇三だけど、生き残ってかつての勢いが保たれたとは思えない。
知り合いが、この事件のあった村の近くが出身地なんですよ。
それで、この知り合いの家に行くのに、事件のあった村のほうを通っていった人がいる。
知り合いの家の人がそれを知ったとき、「良くあんなとこ、通れたね」と言ったらしい。
当たり前なんだけど。

「なぜ?」と愚問を投げかけてみたら、「地元の人間だってあそこは通らない」と言う。
「どうして?」とさらに頭の悪い質問をしてみたら、「気持ち悪いでしょ!」と言う。
70年経ってても。
そんな状況で、あの勇三がまともにやっていけたのか。

あの辺りの村の人が今もあそこは通らないと言うぐらいなので、生き残った彼への風当たりは相当きつかったと思う。
1人残されて、勇三こそ生き地獄だったんじゃないか。
正気でいられたのか。
それを言ったら、やすよが心配だけど。

継男の最後の目的の、えり子。
池波志乃さんの恐怖の表情、逃げる様子は白熱の名演技。
まさに恐怖そのもの。
妻をかばうおっちゃんとのやり取りが、妙におかしいのがかえって悲劇。

「ここがいかんのや」。
倒れたえり子の着物の裾をめくるあたりがもう、戦慄。
ここは銃声も消して、ただ血が飛び散るだけ。
しかし凄絶な殺し方…。

終わった。
この直後に流れる青春映画の音楽風の曲が、おかしいという意見を聞きました。
私はこれで、ああ、これは青春映画なんだと理解しました。
惨劇の青春。

やすよの腹に耳を当てて、聞こえる…と言うが、本当に継男の子供はいたんだろうか。
いたとしたら、やすよはその子供をどう育てて行ったんだろうか。
この後、やすよは、村はどうなったんだろうか。

夜が開けて、確か原作では継男は村を見下ろして、150人ちょっとしかいないこの村はっ今日から火が消えたようになるぞ…と思うんですね。
やすよにもらった紐を捨てる。
鬼になった自分にはもう、安らぎはない。

朝露を口にして、末期の水。
銃を口にくわえ、「皆様方よ。さようならでございますよ」。
このセリフが、古尾谷さんと重なってたまらなくなる。

古尾谷さんの熱演。
この映画が、古尾谷さんという俳優を知られるために残ってよかったです。
古尾谷さんを見るてめだけに見てもいいぐらい、彼は「犬丸継男」を生きてます。

無茶な言い方だけど、彼は自殺しちゃいけなかったなあ…。
すごくいい俳優さんだよね…。
それだけにつらかったんだろうけど、悲しい。
胸が締め付けられるラストシーン。

音楽が流れる。
青春音楽のような曲が。
そして、スタッフの名前が出て、最後に田中登監督の名前が出る。
灰色の山に、血を思わせる夕焼けか、赤がかかったタイトルバック。

「終」の文字。
そして銃声が響く。
悲しい。
切ない。

しかしこれしかなかった…。
終わるなら、これしかなかった。
そう思わせるラスト。
悲劇、惨劇、継男の人生、映画が終わる。


惨劇の映画だけど、古尾谷雅人さんを見る映画と言ってもいい。
彼もまた、好きか嫌いかは、人それぞれと言える個性の強い俳優さん。
私生活について、夫人が書いていた著書を読んで、思うことはある人もいるでしょう。
しかし、優作氏についても言えることだけど、それぞれに言いたいことがあってもこの映画の、この時の古尾谷正人という俳優は輝いている。

永遠にこの姿は、スクリーンに残る。
だからか。
だからなのか。

最近、おなくなりになった俳優さんたちのスクリーンでの輝く仕事を見ることが増えました。
自分がリアルタイムで見た映画の出演者さんたちが、おなくなりになってしまっているということなんですが。
リアルタイムで見た時より、一層その姿が強烈に見えるんです。

経験から、感情移入することが出てきたということもありますね。
もう会えないという、心理的な作用。
それと、こちらも年齢を重ねたから、彼らのすごさ、すばらしさが年月を置いて、冷静に見て判断できるようになっているのも大きい。

だとしても、彼らの輝きは心に残る。
俳優さんたちが、スタッフさんが、映画に心血を注ぐ理由がわかる気がしました。
その後に何があったとしても、その時の彼らの輝きが永遠に刻まれるからでしょう。
古尾谷さんにとって、この映画はまさにそのひとつだと思います。

皆様方よ。さようならで御座いますよ 「丑三つの村」(5/5)

ここから先は、残酷、反社会的と言う判断で、R-18指定を受けたこの映画のクライマックスです。
全部、殺戮のシーンですから、気分が悪くなりそうな方はご遠慮ください。


継男はそっと、祖母の寝ている部屋の戸を開ける。
ライトに照らされても、祖母は起きない。
「おばやん」と継男は声をかける。
「うーん」と祖母は声を出し、少し咳き込んだ。

継男は土間に降り、銃を置く。
傍らにあったまさかりを手に「おばやん。約束や。笑おうて見送ってくれや」と言った。
まさかりを振り上げる。

ライトに照らされた、祖母の首を見つめる。
「やぁっ!」という声とともに、継男は斧を振り下ろした。
呼吸音だけが、聞こえている。

継男が顔を上げる。
飛び散る血で、継男の顔も、白い日本刀の柄も赤く染まっている。
「おばやん。俺を夜叉にしてくれぃ!」
「鬼にしてくれ!」

継男は、荒い呼吸をする。
ふーっ、ふーっ。
息を吸い込むと、叫ぶ。

「犬丸次男くん、ばんざあーい。ばんざーい。ばんざああーい。ばんざああ…い」。
ぎこちない万歳をする。
最後のほうは、声が枯れた。

継男はそのまま、立ち尽くす。
ガシャという音とともに、継男が動き出す。
外に出た。

まず隣だ。
すらりと継男が、日本刀を抜く。
眠っている、隣の住人のことみに近づく。

「とやあ!」という掛け声で、ことみの胸に向かって一気に日本刀を突き刺す。
「ぎゃあ」と言う声をあげて、ことみは腕を前に突っ張らせ、上体を起こした。
ことみは、目を見開き、絶命した。

「どないしたんや」と隣の部屋から、ことみの長男が出てきた。
日本刀をかざし、切りかかる継男を見て、悲鳴を上げて逃げ出す。
土間まで、長男は逃げた。

継男は、銃を構える。
逃げ出そうとした長男を、後ろから撃つ。
壁に穴が開き、長男は倒れた。

「あほんだらあ!おとなしゅう寝とけや!」と、継男は怒鳴る。
そして「栄子はどこじゃあ!栄子お!」と叫ぶと、次の部屋に入っていく。
目指す栄子は、いなかった。

継男は、外に出る
暗闇の中、見えるのは継男の頭の懐中電灯の丸い光だけだった。
光が、光だけが人魂のように異動していく。

次の家に行く。
戸を開ける。
部屋に押し入った。
和子の家だ。

布団をはぐと、いつかのように常代は足を開いて寝ていた。
その足を継男は、銃でポンと叩く。
常代は、その感触と光で、飛び起きた。

継男は、常代に向かって銃口を向けた。
「くそばばあ。夜這いに来たで」。
継男のライトに照らされた常代は、恐怖で硬直した。

「ひいいい、ひいいい」と、声が漏れる。
カチャッと、音をさせ、弾丸が装着され、銃身から用済みになった弾丸が飛ぶ。
顔に血が飛び散った継男が、常代に銃を押し付ける。

銃声がして、常代が撃ち抜かれて倒れる。
その物音に和子が戸を開け、目を丸くする。
継男の姿を見た和子は、恐怖に悲鳴もあげない。

和子に継男は、銃を向けた。
「結婚、おめでとうさん」。
皮肉な口調で言う。

和子は、声も出ない。
荒い呼吸音だけが、聞こえる。
和子の首に銃口が向けられ、それは口に向かう。
継男は、和子の口に、銃口を押し込む。

和子は殺さないでも、ごめんなさいも、許してくださいも言えない。
ただ荒く呼吸をし、口に銃を入れられ、後ろに下がっていく。
継男は和子の口から銃をはずし、音をさせて構える。
少し離れたところから、肩口を撃つ。

和子が倒れる。
苦痛にうめく。
継男は倒れた和子の胸に匕首を刺し、そのまま床に倒してぐりぐりと押し付けるようにして止めを刺す。
和子が苦痛に声を出し、動かなくなる。

継男はまた、暗闇を走る。
やすよを追い出した葉村史明の家だった。
戸を開け、部屋に飛び込むと「起きんかい!皆殺しにしたるわ!」と叫ぶ。

飛び起きた葉村の夫婦でまず、妻を撃ち殺した。
次に、夫を撃つ。
奥の部屋の戸を開けると、飛び起きた3人の子供を次々撃つ。

「史明はどこじゃ。やすよを追い出したガキはどこじゃ!」
そう言って、継男は押入れに発砲する。
悲鳴を上げて、史明が戸を開け、布団を継男に放り投げ、逃げる。

必死の史明が追ってくる継男の銃を抑え、もみ合いになる。
継男を突き飛ばすと、外に飛び出す。
足をもつれさせながら、史明は後ろを振り返り振り返り、叫びながら走る。
転び、振り返ると、3つの光が追いかけてくる。

暗闇の中、継男が照らす史明の背中だけが明るく闇に浮かび上がる。
一軒の家の前まで来ると、「助けてくれ、継男が気い狂いよったあ」と叫ぶ。
後ろ手ぶ戸を開けて、中に逃げ込む。

継男の銃が障子を破る。
その穴から、銃が突き出されると火を噴いた。
史明は右の肩を撃たれ、囲炉裏がある部屋まで這いつくばって逃げる。

継男が入ってきて「助けてくれ」と、絶叫する史明を追い詰めていく。
壁を背に立ち上がった史明の左肩も、撃ち抜く。
背後の壁に、穴が開く。

継男はさらに、銃を向ける。
銃を史明に押し付けていき、至近距離から体の真ん中を撃つ。
史明は、ずるずると崩れ落ちていく。

継男は、その家の家族が集まっている部屋の戸を開ける。
銃を構えた継男に、老人が叫ぶ。
「わしら、お前の悪口言うた覚えないわ!」
老人とその家の夫婦の夫は、男の子を真ん中に抱き合っていた。

その背後には、妻がやはり子供を抱きかかえていた。
「助けてくれえ」。
「静かにしとけよ!」
そう言うと、継男は外に飛び出して走る。

暗闇の中、3つのライトが動く。
継男が戸を開け、また一軒の家の中に飛び込む。
ライトに照らされた暗闇の中、寝ていた夫が跳ね起きる。
栄子のいる家だ。

横にいた栄子が夫に飛びつきながらも、継男に向かって「おかやん、どないしたんや!」と怒鳴る。
顔に血を飛び散らせ、銃を向けながら継男は言う。
「いっとう最初に死んでもろうた!お前も探しとったんやで!」
そう言うなり、発砲した。

弾丸は命中し、栄子がふすまを倒してひっくり返る。
継男は次々、発砲する。
舅、背中を向けて逃げようとした姑、怯え切って「やめてくれ」と言うように両手を前に伸ばして振っている夫。

次々撃つ。
動く者がいなくなる。
布団をかぶっていた老人を撃ち、恐怖で逃げ出した娘は日本刀で刺し貫いた。

外に出て日本刀を地面に突き刺し、銃に弾を込める。
「八一(やいち)ぃ、待っとれよ八一」。
やいち、やいちと叫びながら、継男は戸を開ける。

部屋の戸を開けると、暗闇の中、八一の一家が照らされる。
手前にいた妻は起き上がり、奥に逃げる。
八一が怯えたように叫び、飛び起きる。

継男が上にかかっている壁時計を見て、発砲する。
悲鳴が、悲鳴に鳴らない、泣き言のような声が響く。
時計が壊れるのを見た継男が、すさまじい笑顔を浮かべ、銃を向ける。

「八一、ミオコ、中次、逃がした罰じゃあ!」
そう叫ぶと、継男は銃を向ける。
怯えた声が止まらない八一は子供をつかんで前に押し出そうとして放し、妻をつかんで前に押しやった。
部屋の奥、たんすの前に逃げた八一だが、右肩を撃たれた。

妻と子供が、逃げた。
継男は2人にも、発砲した。
ふすまを倒して、2人は倒れて動かなくなった。

悲鳴をあげて逃げる、老いた八一の父親を撃ち、母親も撃った。
誰も動かなくなった。
八一が継男に、声にならない声をあげながら、むしゃぶりついてくる。

継男は八一を突き飛ばすと、八一は「うわーああああ」と叫びながら、廊下を走った。
八一が逃げた方に向かって、継男は歩き、日本刀を抜く。
奥に、奥に、八一は暗闇の中、継男のライトに照らされてひたすら逃げる。
継男は障子を蹴飛ばし、追い詰めていく。

土間に下りた八一の左肩に向かって、継男は日本刀を押し付けた。
一気に、日本刀を走らせる。
手を上げ、目を見開いたまま、八一は倒れた。

継男はまた、外に出る。
隣家から3人の女性が、悲鳴を上げながら走り出る。
継男は1人を追い詰め、発砲した。
女性は、わらを背に崩れ落ちる。

きゃあああと叫びながら逃げる女性もまた、撃った。
1人は田んぼまで這いずりながら、逃げた。
継男は女性の前に先回りすると、発砲した。
女性は田んぼの泥の中、前のめりに倒れた。

銃に弾丸を込めるため、継男は一度、山の方に登る。
「継男」と呼ぶ声がする。
「誰じゃ!」
声のした方に、継男は銃を向ける。

ライトに照らされて見えたのは、やすよだった。
やすよは泣いていた。
震える声で、「もう、や、やめてえ」と言う。

「心配すな、おまえとこやらん!」
「手紙貰ろうて、あわてて戻ってきて…」。
やすよは、泣きじゃくる。

「音が聞こえて、行かな思って。止めなあかん、思って」。
やすよは、顔をくしゃくしゃにして泣いた。
だが継男は「まだ3軒残っとる!」と言った。

やすよが鋭く叫ぶ。
「鬼や!」
継男は「鬼のどこが悪い!」と叫ぶと、行ってしまう。
「継男!」

戸から恐る恐る、ランプを持って、嘉子と太一は出てきた。
辺りを見回す。
太一は棒を持っている。

「おばちゃん、こっちや」。
継男の声がする。
声に笑いが含まれていた。
太一が、声がした方をライトで照らす。

3つのライトだけが、暗闇に光っていた。
「ひえっ」と嘉子が口を開けた時、継男が発砲した。
暗闇に照らされ、倒れる嘉子だけが浮かび上がる。

太一が腰を抜かす。
継男が近づき、嘉子を撃って止めを刺す。
「何てことするんだ」と太一が、後は言葉にならない叫びを上げながら、継男に飛び掛って来る。

継男が発砲し、弾が太一の頬をかすめた。
太一が叫びながら、継男に飛び掛る。
銃を持って、何とか継男を阻止しようとする。

2人はもみ合いながら家の中に飛び込み、土間に転がった。
太一は銃を奪おうとする。
だが太一はのけぞり、しりもちをついた。
継男が、近づいてくる。

ひい、ひいと太一が、悲鳴を漏らす。
継男が匕首を抜くと、太一に向かって突進してくる。
柱を背に、太一は刺された。

匕首に手を添えたまま、太一は転がった。
継男は思わず舌を出して、唇をなめる。
戸口の前には、嘉子が絶命していた。

継男は、太一たちが飼っていたヤギの腹の下にもぐりこむ。
口に向かって、ヤギの乳を搾る。
喉を潤した継男は、「あ~」とため息をつき、「よしっ」と言って走っていく。

勇三の家の前に行くと、「勇三、出て来い!一番許せん!撃ち殺してやる!」と叫び、発砲する。
2階の窓が開き、勇三が「助けてくれーっ!早う、誰か!警察に知らせるんや!」と絶叫する。
次々、発砲する継男。

勇三が窓から継男に向かって、部屋にあるものを次々投げてくる。
たんすまで、投げてくる。
勇三は、畳を起こすと、窓に押し付ける。
畳を弾丸が貫通する。

勇三がまた、1枚重ねる。
弾丸が、貫通する。
3枚目を立てかける。
弾丸が、貫通する。

4枚。
5枚。
そのたびに、畳の真ん中を埃を立ててて、弾丸が貫通していく。
貫通するが、勇三は畳の横に立ち、弾丸を避けている。

「えへへへ」と、勇三が妙な笑い声を立てる。
「ちくしょう!」と言って、継男が2階に向かって匕首を投げる。
匕首は、畳に当たって、落ちた。
「時間があれへん!」

継男は走り、えり子の家に向かう。
戸を叩かれたので、夫が戸を開けると、血まみれの継男がいる。
「継男、どないしたんじゃい!」
「おっちゃんには、関係ない!」

そう言って継男は家の中に踏み込むと、寝ていたえり子が飛び起きる。
恐怖に顔を引きつらせ、悲鳴を上げて、えり子は左右に逃げ惑う。
「えり子お!あんたが最後やあ!安心しい」。

暗闇の中、ライトに照らされたえり子が逃げ惑う。
銃を構えた継男の前に出たえり子の夫が、「お、おいこらっ、うちのおかんに何するんや」と叫ぶ。
えり子が、夫の背後に逃げ込む。

「おいっ、貴様、やめんか!」
「どいてくれ、おっちゃん!」
継男が悲壮な顔をする。
「どいてくれ、どいてくれや!」

そう言うと継男は発砲した。
えり子の夫の頭が、吹っ飛んだ。
壁に貼られた帝国軍人の心得に、黒く穴が開く。

それを見下ろしたえり子が、目も口も開いて、絶叫する。
「ぎゃあああ」と声を上げ、壁を背にしてへたりこむ。
這いずりながら、継男から逃げる。
暗い家の中、逃げていくえり子だけが照らされた。

ひたすら叫び声をあげながら、えり子は部屋の奥に逃げた。
壁にかかっている国民服を、継男に投げつける。
暗闇の中、えり子だけが照らされる。
部屋に、えり子が照らされた影ができる。

土間に下り、継男の方を見たえり子を継男は撃った。
弾丸はえり子に当たらなかったが、えり子は硬直した。
起立したまま、部屋の奥に上がった。

継男は、えり子の左胸の上を撃った。
えり子が目を見開き、ずるずると倒れていく。
障子が倒れる。

倒れたえり子のふくらはぎが、あらわになる。
「ここが、いかんのや」。
継男はそう言うと、カチャッと音をさせ、近づいていく。

銃で継男は、えり子の着物の裾をめくる。
白い太ももまで、あらわになる。
継男は、えり子の股間に弾丸を撃ち込む。
血しぶきが、あがる。

継男が外に出ると、やすよが泣き崩れていた。
「終わったんや。肝心の奴、やれなんだ」。
継男の声は、晴れ晴れとしていた。
「もう、やめて…」。

「俺はこれで終わりや」。
継男はそう言ってやすよに近づくと、やすよの腹に耳を当てる。
「心臓の音や。俺にはよう聞こえる」。

継男は血まみれの手で、泣いているやすよの顔を自分に向ける。
「鬼のやや子に、よう覚えとといたってくれよ」。
「鬼、鬼、おにおにおに!」と泣きながらやすよは、拳を振り上げる。

やすよの拳を受け止めながら、継男は笑顔でうなづく。
「鬼や。けど、鬼は鬼退治しただけの話や」。
そして笑うと「おばやん、1人で寂しがっとる。そばにいてやってくれや。ここのおなごはみんな、寂しがり屋やからな」と言った。

笑顔で継男は、森の奥に消える。
もやの出る森の中、継男が身につけたライトだけが動いてく。
山の中、いつか、継男が標的にしたわら人形があった。
継男は、それをじっと見つめる。

朝。
すすきが、さらさらと音を立てる。
継男の歌声が、ぼんやりとした歌声が聞こえる。

「おーれは、かーわらの、かーれすーすーきー。おーなじ、おーまえも、かーれすーすーきー」。
「どーうーせ、ふーたりーは、こーのよーでーはー。はーなーのさーかない、かーれすーすーきー」。
「おーれーは、かーわらーの、かーれすーすーきー」。

歌いながら、継男はゲートルを取って巻いていく。
「おーなーじ、おーまえーも」。
歌が止まる。

継男は、やすよに貰った紐を取り出す。
手に握ると、村が見える崖下に向かって放り投げる。
じっと、継男は放り投げたほうを見る。

かたわらの葉を手でしごくと、手のひらに朝露がたまった。
もうひとつ、葉をしごく。
たまった朝露をなめる。

そして継男は、銃を手に取る。
引き金に、親指をかける。
銃口を口にくわえる。

カチッと音がする。
眼下に見える村。
「皆様方よ。さようならで御座いますよ」。

継男は、そう言うと銃を口にくわえる
引き金に、親指がかかる。
笑顔が浮かぶ。
全てが止まる。

血のような赤色で染まった、山のようなイラスト。
背後は、暗く沈んだ灰色の空。
(古尾谷雅人をトップにキャストが流れていく。監督が最後に出て)

「終」の文字。
響く銃声。
最後の、銃声…。


皆様方よ。今に見ておれで御座いますよ 「丑三つの村](4/5)

村に戻ってきた継男は、ミオコの家が閉鎖されているのを見る。
夜逃げ同然に、いなくなったらしい。
八一(やいち)が「わいに何の相談もなく」と言っている。

戻ってきた継男を見て、勇三や八一がやってくる。
八一が継男につかみかかり「継!おとなしゅう暮らしてる人間、何で追い出さなあかんねん!」と言う。
勇三も「中次もミオコも、ガキ連れて出ていきおった」と言った。

「俺の知ったことかよ!」と継男は叫ぶ。
勇三は「村の人間だと思って、今まで何も言わなかったが、好き勝手もええかげんにしとけや」とすごむ。
「殺すのやったら、はよ殺してくれや」。

勇三は笑いながら、「近いうちお前の処分を決めて、おばやんに言いに来る」と言った。
「日暮れ谷に住み着いた鬼は、追い出すだけや!」と八一が言う。
みんな、顔を見合わせて帰って行く。
残った継男は「逃げられたんかい。のんびりしておれん」とつぶやく。

夜、継男は自分の部屋で、自転車のライトを首から提げてみた。
鉢巻に懐中電灯を2本、差してつけられるようにもした。
実際に鉢巻を巻いてみる。
そうしてみて、首から提げたライトをつけると、鉢巻に巻かれ、頭の両側にセットされた懐中電灯が光る。

カチッ。
カチッ。
カチッ。

つけたり消したりして、確かめる。
継男の顔が、ライトに照らされて陰影を作る。
「こらやっぱり鬼や」。
継男がうっすら、笑う。

いつもの風景だった。
継男は、いつもの場所から村を見下ろす。
「まあ、皆様方よ今に見ておれで御座いますよ」。

そう言うと継男は、懐からやすよにもらった組み紐を取り出し、首に巻きつける。
自分で両側から引っ張り、締めてみる。
締めるたびに「ぐえっ」「ぐえっ」と舌を出し、声を出してみる。

継男は手紙を書いた。
やすよにだった。
手紙を持ち、ニワトリに入り口で餌をやっている祖母の横を通り、石の橋を渡って行く。
橋の袂にいた親子連れが、子供を連れて引っ込もうとするが、継男はもう目もくれない。

前略、やすよさま。
お元気ですか。
突然のぶしつけなお便り、お許しください。

僕は戦場へ行きます。
10月20日、戦場へ行きます。
その日、村には絶対に近づかないでください。

鬼になれるように、毎日祈っています。
戦場へ行きます。
鬼になります。
やすよさま、本当のさようならです。

途中、山道で継男は、ニワトリの羽を拾う。
忠明たちが、ニワトリを殺していた道だ。
羽を持って、橋の上で捨てる。

その日の夕方、時計が鳴った。
5時だ。
横になっていた継男が、目を開く。

外が赤く染まるのを見る。
障子が真っ赤だ。
継男がそれを見る。
外に行き、電柱を見上げる。

登っていくと、電線をパチン、パチンと切る。
電線は、地面に落ちた。
継男はそれも、じっと見る。

「あれ?」
夜、電球に手を伸ばした祖母が言う。
継男、停電みたいやぞ。はよ、飯食ってしまおう」。

ろうそくに火をともしながら、祖母は「今日はほんまに、けったいな日や。鶏は急に死んでしまいよるし。停電になるわ。和子が初めて里帰りしてきた日やと言うのに」と言う。
和子が、里帰りしてきている。
それを聞いた継男は晴れやかに「今日はええ日や!大安や!」と言った。

夜半の村。
静まり返っている。
ただ動くのは、村を流れる小川の水。

風に揺れる森の木の葉。
森も、家家も。
響く時計の音。

継男は、目を閉じている。
壁にかけた時計の鐘が鳴る。
継男が目を見開く。
12時。

次に時計が鳴る。
1時。
継男は、長持ちを取り出す。
蓋を開ける。

中から出てきたのは、綺麗に畳まれた服。
継男はろうそくに灯りをつけると、着ている服を脱ぎ始める。
ふんどしも取り、新しいものを身につける。
きゅっと、縛る。

白いシャツを着る。
ズボンを履く。
継男が身につけたのは、詰襟の学生服だった。
地下足袋を履く。

ゲートルを、丁寧に巻いていく。
丁寧に巻き、結んで止める。
押入れを開け、銃と日本刀を取り出す。

懐中電灯と、自転車のライトも出す。
かばんに、弾丸を入れる。
鉢巻に、懐中電灯をセットする。

ガチャガチャと音をさせ、ベルトを身につける。
ベルトに、日本刀を差す。
しっかりと皮ひもで結び、日本刀を固定する。
自転車のライトを首にかける。

一つ一つ、作業が終わると継男は「よし」「よし」と確認するように声を出す。
匕首を差す。
その上からまた、ベルトで匕首を固定する。
もう一振りの匕首を差す。

次に、油紙に包まれた銃を出す。
銃を手にして、継男は弾丸を込める。
継男は、銃を構えてみる。

四方に向かって、飛びのきながら銃を構える。
ライトをつけ、正面に向かって銃を発射する構えをする。
準備は終わった。


プロフィール

ちゃーすけ

Author:ちゃーすけ
癖の強い俳優さんや悪役さん大好き。
俳優さん、ドラマ、映画、CMその他、懐かしいもの、気になるものについて、長々と語っております。

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