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英雄も怪物、どちらも人殺しだろう? 「チャイルド44 森に消えた子供たち」
2018/02/13(Tue)
その男は、工場内を歩いていた。
レオの視線に気づいた男は、走り出す。
あの男だ。
ブラド・マレヴィチ。

男は森に逃げる。
レオが追いつく。
森を見回して、ブラドは言う。

「この風景、思い出すよ」。
「食い物を探して、走り回った」。
「ある時はネズミ。猫ならごちそうだ。いつも飢えてた」。

「仲間さえ、食うこともあった」。
銃を向けているレオの顔色が変わる。
飢えの記憶。
スターリンがもたらした飢餓による虐殺「ポロドモール」。

「弱い者が餌食だ」。
孤児院の光景。
1人の少年をみんなで寄ってたかって、蹴る。

「君のことは知ってるよ」。
「孤児院育ちだろう。私のように」。
「君のことなら、国中が知ってる」。

レオは、戦争の英雄だ。
「戦争が君の運命を変えた」。
「君は国家の英雄だ」。

「だが運に恵まれない子供たちも、いた」。
「私は軍所属の外科医だった」。
「だが何だ。突き詰めれば英雄も怪物も、どちらも人殺しだ」。
「答えてくれ」。

「子供を不幸にしてないと言い切れるか?」
姉妹の目の前で、ワシーリイに射殺された両親。
「君は国家保安省の隊員として、進んで殺したろう?」
レオの銃を構えた手が、下がっていく。

「だが私は…」。
「自分が抑えられなくて」。
「どうしようもなかった」。

ここから先は、結末をつけただけですが、ライーサも加えてアクションシーンとなります。
レオを抱きしめるライーサ。
そして…。

「君の復帰を歓迎するよ」。
モスクワに帰還したレオ。
長官だった少佐は、昨日逮捕されていた。
レオは復職している。

「今はもう、新体制だよ」。
将軍が言う。
「君に昇進の話を用意しておいた。国の新しい保安組織だ」。

「望むなら将来、政治にもかかわる任務にもつける」。
「ブラド・マレヴィチ!」
将軍は、声を上げた。

あの犯人の名前だ。
「新聞はロストフの狼男と命名した」。
「狼男?」
「ああ、ブラドは戦争中、ドイツの捕虜収容所で2年過ごしてる」。

「そんな環境に2年もいれば、西側の思想に転向しても不思議ではない…」。
「我々はナチスのスパイを帰国させてしまったのだ。そういうことだろう?」
「…可能性はあります」とレオは言った。
「ですが、ブラドはこの国の孤児院で育ったのでは」。

「だから敗戦の報復にナチスが彼を訓練し、帰国させたのだろう」。
「ソ連の社会が怪物を生んだ。我々にそう思わせるのが目的だ」。
「だが実際にはあの男はドイツで教育を受け、堕落し、洗脳された!」
「そうは思わないかね。デビドフ?」

「難しい質問です」。
「難しい?なぜだ」。
「それは簡単には確かめられないことだからです」。

将軍が顔をしかめる。
「ブラドがああなった理由、どちらの社会に原因があるか。簡単に、答えが求められるものではありません」。
「バカを言え」。

「昇進の件ですが、できれば別の要望をお聞き届けいただきたい」。
将軍がレオをじっと見る。
「正気か」。
「言いたまえ」。

「モスクワ殺人課を新設し、そこの責任者を希望します」。
「どうしてそんな部署が必要なのかね?」
「おっしゃる通り。殺人は国を内側から打ち破る脅威です」。
「ブラド・マレヴィチは?」

レオは、ふうっと息を吐いた。
「あの男の場合はやはり、西側の思想に毒されて帰国したのでしょう。間違いありません」。
「良いだろう」。

将軍は立ち上がった。
「あと一つ。お願いがあります」。
ロストフの警察署長を、新設する部署に呼びたい。
彼の経験は、捜査に必要です。

レオはライーサと、廊下にある椅子に座っていた。
老人が来て、部屋に案内する。
そこには、両親を射殺された姉妹がいた。
2人とも、男の子のように髪を刈られていた。

「やあ」。
レオはできるだけ、明るく声をかけた。
「こちらは妻のライーサだ。ライーサは先生をしている」。
「こんにちはエレーナ、タマーラ」とライーサが挨拶する。

「どうかしら、2人が良ければ一緒に暮らさない?私たちの家で」。
妹がレオを見て、「おじさん、家に来た人」と言った。
レオが息を止める。

「ああ、そうだ、そうだよ。でも…」。
…。
…。
「だけど」。

ライーサが空気を察して声を出した。
「あなたたちのお世話がしたいの」。
姉がもう、しゃくりあげていた。
レオが声を出した。

「ご両親を返すことはできない。会いたいだろうが、それはできない」。
「無理なんだ。できることなら返してあげたい。でもできない」。
「すまないと思ってる。気の毒なことをした」。
レオの目には涙がにじんでいる。

姉はひたすら、泣いていた。
妹はレオを凝視していた。
まばたきもせず、見ていた。

「嫌ならいいのよ。無理することはないの」。
ライーサが優しく、言った。
「別の家族を見つけてあげる。約束するわ。ここから出してあげる」。

「私たち少し外を歩いて来るから考えてみて。ゆっくりでいいのよ」。
姉妹はぎゅっと、手を握っていた。

廊下でレオとライーサは並んで座っていた。
「ライーサ。正直に答えてくれ」。。
「今でも…、今でも俺のことを、どうしようもなく怖ろしい男だと思っている?」
「今でも俺は怪物なのか?」

ライーサがレオを見る。
レオの手に自分の手を重ねる。
フッと笑う。
「いいえ」。

首を横に振る。
うつむくレオ。
廊下を、姉妹が歩いて来る。
老人に連れられて。

ライーサが立ち上がり、レオを見る。
レオも立ち上がる。
歩いていく。
距離が縮まっていく。

ライーサが、姉のエレーナの手を取る。
姉妹は手を握っている。
レオが2人のトランクを持つ。
4人は、階段を下りていく。


こうなってもまだ、ソ連に連続殺人事件などないという姿勢を崩さない。
ナチスのせいにする。
これを見て、受け入れがたいものであっても現実を受け止めない限り、先ってないんだなと思いました。

レオも世の中を良くするためには、同意するしかない。
この、本心では違うのがこちらにはわかるところがちょっとおかしいやら、闇が深いやら。
めでたく、モスクワに殺人課誕生、デミドフ敏腕刑事誕生。

最初のスターリンの虐殺、孤児院。
戦争。
ブラド・マレヴィチの言葉。
うまくつながっているんですね。

そして「戦争の英雄も、シリアルキラーも同じ人殺しだろう?」の言葉。
「子供を不幸にしてないか?」
レオの心に突き刺さった。
結果、最後にレオはあの姉妹を引き取ることを決意する。

ライーサに怪物と言われたレオだが、夫婦はもう、危機を乗り越えて深く結ばれている。
1953年にスターリンは死去している。
将軍が古い時代は終わったと言うけど、確かにそうなんです。

新しい部署は、おそらく、KGBでしょう。
プーチン大統領が長官をしていたところ。
この映画では戦友のアレクセイさえも、レオを見張る。

ワシーリイに息子は事故です、と言う。
しかし、アレクセイはその直後、ワシーリイに射殺されてしまうんです!
本当にこんなにあっさり、隊員を殺して良いのかはわかりませんが。
アレクセイにも、反逆罪の疑いがかけられていたのかもしれません。

チェコスロバキアだったか、こんな話を聞いたことがあります。
「近頃、魚が釣れなくなったよ」。
「魚も口を開くのが、怖いんだろう」。

いかに当時の共産主義国家の密告、監視が怖ろしかったか。
ロシア、今もいろいろ言われているけど、少なくともこの時よりは全然良いんだなあ…と思いました。
2時間を優に超える長い映画ですが、飽きさせません。
ただ、登場人物が多くて、あまり見分けがつかないのと脳内で補完が必要です。

テーマも重いため、とても疲れるので、休日か、翌日休日の時に見るのが良いと思います。
ミステリー部分は少ないです。
あれほどの犯罪を重ねた男の動機も、よくわからない。

そういう男なんだ、という解釈も、今日ではアリなのかもしれませんが。
子供の時のスターリンによる飢餓の虐殺で、仲間を食べたことがあると言っていました。
それが彼の人生に影を落としたのかもしれませんが、そこも掘り下げていないのでわかりません。
なので、この辺りは物足りないと感じる人も多いかもしれません。

その分、国家とは何か。
友情とは、人と人との絆とは何か。
こういう社会で、人はどう生きるべきか、考えさせられる映画です。

この後、本当にソ連が解放されるのは、まだまだ先。
1953年ですから、30年。
ゴルバチョフを、待たなければならないんですね。
ペレストロイカまで、待たなければならない。

2014年公開。
ダニエル・エスピノーザ監督。
レオはトム・ハーディという、人の好さが隠せない感じの俳優さんが演じてます。

ネスデロフ警察署長は、ゲイリー・オールドマン。
出演時間は短いし、あんまり活躍するシーンはありませんが、存在感はさすがです。
この俳優さん大好きなので、うれしい。

ライーサはノオミ・ラパス。
ドロドロの泥だらけになりながら、最後はレオと共に闘います。
ワシーリイはジョエル・キナマン。
冷酷で卑怯な感じがすごくうまく出ていて、物語を盛り上げてくれます!


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得られるのは命を犠牲にして正しいことをした自己満足だけ 「チャイルド44 森に消えた子供たち」
2018/02/12(Mon)
「チャイルド44」。
おもしろかったので、もう少しお付き合いくださいね。
ここから先は全てネタバレしています。


主人公のレオは、悲しみにくれるアレクセイの家を訪れる。
息子が殺される直前、一緒に歩いている男を目撃した人物もいる。
事故なんかじゃない。
もしそうなら、なぜ息子は全裸で見つかったのだ。

列車に轢かれて、服が脱げるのか。
しかしレオは事故だと言い張る。
レオは冷酷に感じる口調で、言い含める。
そうしないと、アレクセイの家族が危ない。

だがレオ自身、監察医から聞いている。
鋭い切り傷。
そがれた肉。

内臓も、なくなっている。
こんな列車事故など、あろうはずがない。
やったのは、こういうことに手慣れている奴だ。
密かに、レオは監察医に同じような遺体の資料を頼む。

レオがとらえたグロスキイが、中庭に連れ出される。
腹には、血が付いたままだ。
拷問、自白剤。
彼はすでに、ボロボロだ。

壁の前に立たされる。
その前には、5~6人の兵士が銃を構えている。
グロスキイは銃殺される。

その前に彼が自白させられた、反逆的人物が7名いた。
レオは長官に呼び出され、その7人目を調べるように言い渡される。
この人物に関しての情報はほとんどない、と言われ、写真を渡される。
写真の人物は、妻のライーサだった…。

ライーサの小学校の教師が、次々、反逆的な教育をした、そういう思想を持っているということで逮捕されていく。
家庭科の女教師も逮捕された。
彼女が助けてと絶叫した時、MGBの兵士が殴る。
本に血が飛び散る。

この、発禁本を持っているということが逮捕の理由だった。
駆け寄ろうとするライーサを、同僚のイワンが止める。
外ではずっと、レオが妻を監視している。
監視しているのは、戦友のアレクセイだった。


…という感じで、ここからはミステリーというよりも監視社会である旧ソ連の怖さが描かれます。
この映画、ちょっと説明不足のところがあって、登場人物も多いのでついていくのが大変です。
それでもこの社会の怖ろしさ、息苦しさは伝わってきます。
ライーサにスパイの疑いがかかったことを、レオは両親に伝えに行く。

あれ?
レオの父親は亡くなってるよね?
この人、誰?って感じなんですよ。
そこで、ああ、レオにレオと言う名前をくれた兵士か、養子になったの?とか頭の中で補完しながら見ました。

レオは言う。
もし、ライーサがスパイなら。
証拠が挙がって、それが本当なら。
俺たち家族全員、ただでは済まない。

父親が聞く。
「どう言ってほしくて、ここに来たんだ」。
「死ぬ気で戦おう、か?みんなで彼女を守る、か?」
「だがライーサをかばえば、みんな、死ぬ」。

父親は話を続ける。
レオは答えられない。
「4人とも助からない」。

「得られるのは自己満足だけ」。
「命を犠牲にしても、正しいことをした」。
「そう思って死ねるだけだ」。

「単純に考えろ」。
「1人の死か、4人の死か」。
「1人か、4人か」。

そこにノックの音。
ライーサが訪ねて来ていた。
「いつもはまっすぐ帰るけど、今日は病院に行って来た」と言う。

どこか悪いのかと聞くレオにライーサは、子供ができたと告げる。
レオの母親が泣き笑いの表情になる。
仕事に行くライーサを見送るレオ。

離れたところで、MGBの局員が見張っている。
もうすでに、見張りがついているのだ。
その一人は、アレクセイだ。


ここからの展開もよくわからないのですが、あのワシーリイが長官の信用を得ている。
おそらく、密告でしょう。
あることないこと。
結局、妻を告発できなかったレオは、妻とともに逮捕される。

そしてあの、裏庭に連れて行かれる。
パニックを起こして叫ぶ妻。
お腹に子供がいると、手荒に扱わないでくれと言うレオ。
兵士たちが銃を向ける。

だが、レオと妻は銃殺されなかった。
ワシーリイが言う。
これは、レオの忠誠心を試すためのものだった。

ライーサを告発すれば、何でもなかったと言うのに。
バカな男だ。
レオは降格となり、妻は教師を辞めさせられた。

2人はモスクワから離れた、辺鄙な田舎町に赴任させられた。
レオを迎え入れた警察署長は、露骨に敵意を示した。
彼が国家保安機関にいたことで、自分たちを密告するのではないかと危惧しているのだ。

田舎町で、今までの豪奢な家とは全く違う、共同トイレのアパートに来たレオとライーサ。
ライーサは妊娠していなかった。
あの時、ライーサはドアの外で、レオと両親の会話を聞いたのだ。

「1人の死か、4人の死か」。
「1人か、4人か」。
「そう言ってたわよね。だから子供ができたと嘘を言ったの」。
「死にたくなかったのよ!」

そして、レオが最初に声をかけた時、嘘の名前を言った理由も話した。
「怖かったのよ!」
「国家保安局の男に声をかけられて」。

好きになって結婚したんじゃない。
もし断ったら、逮捕されるのではないかと怖かったからだ。
レオと結婚したのは、国家保安局のエリートの妻になれば、生きていけると思ったからよ!
「あなたは怪物よ」。

ライーサには、どうやらワシーリイも言い寄っていたらしい。
ワシーリイは自分のところに来いと言った。
そうしたら、助かる。

レオはライーサに、モスクワに帰ってもいいと言う。
自分と一緒に居なくて、良い。
好きにして良い。


駅に、少年がいる。
切手を買いに来たのだ。
少年に話しかける男がいる。

自分も切手を集めている。
珍しいものもある。
見に来る?
見に来る?

また、子供が遺体となって発見される事件が起きる。
やはり、全裸だ。
そして同じように切り開かれ、肉がそがれ、内臓がなくなっている。
レオは署長に聞く。

何と同じような子供が、この近郊で44人も発見されていた。
犯人は捕まっている。
全部で43人だ。
1件は事故だ。

レオは言う。
これは全部、同じ手口だ。
犯人は同じだ。

署長は否定する。
同性愛で逮捕された若い男性がいた。
死にたくなければ、お前の知っている同性愛者を言え。
特に、若い男と関係を持っている男の名前を書け。

その情報によって、次々、男たちが逮捕される。
最後の1人が逮捕された時、彼は列車の前に飛び出して自殺した。
子供を殺したのは、こういう「反逆者」だろう。

しかし、レオは署長に言う。
あの男に、子供は殺せません。
こんなことができる男じゃあ、ない。

その時、ライーサも署長に言う。
「学校に行くには、森を通らなければなりませんよね?」
森は近道だ。

しかし今は危ないので、子供たちには森は通らないように校長が言い渡していた。
「もう犯人がいないのなら、近道の森を通させたら良いのでは?」
ライーサの言葉に署長も、署長の妻も押し黙る。

モスクワでは、MGB長官とワシーリイが話している。
「私が失脚する時は、お前は道連れだ!」と長官が叫ぶ。
レオが左遷された本当の理由は、子供の連続殺人事件を探っていたからだ。

今も彼はあきらめていない。
むしろ、彼はもう、恐れない。
必ず、犯人を突き止める。
その決意に、ライーサはモスクワ行きをやめた。

ワシーリイは、レオを逮捕させる。
自白剤を打つ。
だがレオの心は、折れない。

ワシーリイはライーサを誘う。
ライーサは冷たい口調で言う。
「あなたは怪物よ」。

署長は身分証明書を作って、モスクワに行かせてくれる。
ライーサも一緒だ。
しかし帰りの列車に乗れない。
誰か、協力者が必要だ。

ライーサがかつての同僚、イワンの家に連れて行く。
イワンが協力者に電話をしている時、ライーサが本棚の本に目を留める。
この本…。
家庭科の教師が持っていて逮捕された、発禁本だ。

ライーサが本を見ると、血が飛び散っている。
あの時の本なのだ。
なぜ、この本がイワンの本棚にあるのだろう?
まさか。

イワンは国家保安局に協力する、密告者だったのだ。
気付いたライーサが殺されそうになる。
間一髪、レオが助けた。
だがもう、ここにいるわけにはいかない。

駅で身分証明書を点検している兵士の一人を見たライーサが、そっとレオに教える。
あの人、本当は字が読めないわ。
その兵士のところに行き、レオとライーサは列車に乗ることができる。

しかしワシーリイはモスクワから戻る列車の中に、暗殺者を差し向ける。
レオの危機。
ライーサは相手に噛みつき、肉を噛みちぎる。
長官はワシーリイを、無能と罵った。

レオは地図を見て、被害者が出た地点に、ピンを打っていく。
この沿線だ…。
レオはその沿線にある工場に向かい、保安員を倒して銃を奪う。
工場長を銃で脅し、社員の名簿を見せるように言う。

この地域で、この沿線で移動している男だ。
日付も言う。
この日、この日、この日。

そこを通った人間を、ピックアップしろ。
管理されているのだから、わかるはずだ。
数人が浮かび上がった。
レオはその中の一人に注目した。


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最悪のシリアルキラーなのに『楽園に殺人は存在しない』「チャイルド44 森に消えた子供たち」
2018/02/11(Sun)
実在したシリアルキラー、アンドレイ・チカチーロをモデルにした映画です。
というか、原作アリ。
しかし、チカチーロは52人もの被害者が出るまで、捕まらなかった。

実に巧みに逃げたのか。
否。
それは、このような理由のためだった。

There is no murder in paradise.
楽園に殺人は存在しない。
(犯罪が存在するのは、腐った資本主義社会だけだ)。


1933年、スターリンがウクライナにもたらした食糧危機により、1日に2万5千人が餓死した。
この飢餓による虐殺「ポロドモール」で多くの子供が孤児になった。
1人の少年が青い闇の中、ベッドに横たわっている。
涙が流れる。

傍らのテーブルにあるのは、木製のコイン。
少年は意を決してそれを持ち、外に出る。
外では少年たちが1人の少年を囲み、蹴っていた。
少年はひっそりと、外に出る。

走る。
雪の積もっている森の道を、ひたすら走る。
軍人らしき男たちが、たき火をしている。

コインを見つめる少年に、「お父さんかい?」と声をかける男。
「死んだのか」。
「君、名前は?」

「…要らないから捨てた」。
少年は初めて、口をきいた。
するとその男性は言った。

「新しいのをやろう」。
「レオ。ライオンのことだ」。
少年が持っていたコインを、見つめる軍人。
その目に痛みが走る。


「チャイルド44 森に消えた子供たち」。


1945年、ベルリンの国会議事堂。
激しい銃撃戦になっていた。
「進め!進め!」
怒号が飛ぶ。

1人が撃たれる。
「ワシーリイ、撃つんだ!」
だがワシーリイと呼ばれた男は動けない。

「アレクセイ、援護しろ!」
レオという隊長がアレクセイに声をかけ、前に進む。
手榴弾が飛ぶ。
ドイツ兵が吹き飛ぶ。

「行くぞ!」
レオが走る。
「ワシーリイ何してる、早くしろ!」

国会議事堂は、占拠された。
ソ連兵たちが、階段に座ってタバコを吸っている。
赤い国旗を持って、やってくる男たち。

「君が来い」。
レオとアレクセイが呼ばれる。
「ソ連軍によるベルリン陥落」。
「良い写真になるぞ!」

だがアレクセイは略奪して、たくさん腕につけている時計を取れと言われる。
アレクセイはそれを拒否し、レオが国旗を持っててっぺんに登る。
空にはソ連軍の飛行機が次々、飛んできている。

レオ・デミドフ。
英雄として、新聞に写真が載った。
レオ。
あの少年の成長した姿だった。

1953年。
モスクワ。
今、レオはMGB(KGBの前身)のエリートとして働いている。

レオは、学校の美しい教師のライーサを妻にしていた。
一目惚れだった。
しかし、ベッドの中でライーサは冷めきった表情をしていた。

レオの仕事は、スパイの取り締まりだ。
突然、民家に押し入り、スパイ、反逆者の疑いがある者を連行する。
「獣医の家だ」。
「スパイめ、どこに逃げた」。

彼らはスパイ容疑の男を追って、ある農家にやってきた。
農家を銃を持ち、囲むMGBたち。
歌を歌いながら家から出てきた少女が、MGBの兵士たちに気付く。
「シー」という制止にもかかわらず、少女が「ママ!」と絶叫して家に戻った。

仕方なく、兵士たちは家に入る。
ドアをけ破る。
「ママ!」
「動くな!」

中では夫婦が姉妹を抱きしめて、恐怖に立ちすくんでいた。
隊長であるレオが入って来る。
「見当たりません」と部下が報告する。

「アナトリイ・ブロスキイを知ってるな?」
「いません」。
「この家にいると言う情報をつかんできたんだが」。

外を見ると、草原の中、走って行く男がいる。
「ユーリ!ニコライ!あそこだ」。
「ブロスキイ!」

呼ばれた男は立ち止まった。
服を脱ぎ、天を仰ぐ。
「撃ってくれ」。

「手は頭の上だ」。
「殺せ!」
男は襲い掛かってきた。

MGBの兵士が銃を発射し、仲間を呼ぶ。
「殺せ!」
押さえつけたが、ブロスキイは兵士の腰のナイフを取り、自分の腹を刺した。

兵士2人が走って来る。
「ニコライ、抑えろ!」
「とんでもない奴だ」。

農家の前で、兵士たちに囲まれた夫は、「お願いです、家族を殺さないでください」と哀願していた。
「うるさい、黙れ!」
夫が膝まづかされた。

「お願い、助けて!」
妻が叫ぶ。
「お願い」と妻が振り向いた瞬間、ワシーリイが頭を撃ち抜いた。

ブロスキイが「やめろお!」と絶叫する。
夫が、両脇を抑えられる。
ワシーリイが夫に向かって、銃を向ける。

「ワシーリイ!」
それを見たレオが叫ぶ。
「や、やめろ」。
兵士に抑えられながらも、グロスキイが走って来る。

ワシーリイが背後から、あっさりと夫の頭を撃ち抜いた。
子供2人は震えながら、泣いている。
「おい、ワシーリイ!」
レオが空に向けて、銃を撃った。

ワシーリイが振り向く。
「お前、何をしている」。
レオの声に怒りを感じたワシーリイはうろたえた。

姉妹は手を取り合って、泣いている。
「何、って…」。
「見せしめですよ」。
「教えてるんです」。

「何だと?」
「奴ら、裏切り者だ」。
「同じ道を歩まないように教訓を」。

「何を言ってる?」
「学ばせてやったんです」。
次の瞬間、レオは思い切り、ワシーリイを殴った。
ワシーリイが勢いよく吹っ飛び、うずくまる。

「教訓だと?」
レオはワシーリイの襟首をつかみ、立たせた。
「学ばせてやっただと?」
「お前から何を学ぶっていうんだ?!」

「臆病者のくせに!子供だぞ!」
「まだ子供なんだ!」
「ふざけたことを抜かすな!」

「レオ」とアレクセイが呼ぶ。
「子供は関係ない!」
「レオ」。
アレクセイが止める。

「こいつを連れてけ。顔を見ると殺したくなる」。
「何をしている?子供を中に入れてやれ」。
アレクセイが子供たちを「行こう。大丈夫だから」と連れて行く。
グロスキイの悲鳴も聞こえて来る。

少女2人を前に、レオが「近くに親戚がいるか」と聞く。
長女は泣いていたが、次女は魂が抜けたように押し黙っていた。
レオは部屋の隅からトランクを取り出し、2人のものと思われる人形を入れてやる。
彼が涙をぬぐっているのを、アレクセイが見ている。

レオが帰宅した。
何かに耐えられないように、キッチンで料理しているライーサを、背後から抱きしめる。
すると一瞬、ライーサが何かに耐える表情をする。

少年が、列車のレールの上にスプーンを乗せている。
列車が通過し、スプーンが平らになるのを見て、少年は笑った。
男が近づいて来る。
「コインで試したこと、ある?」

男の顔は見えない。
「この方が楽しいよ」。
男はポケットからコインを出した。
「やってみせてあげよう」。

「向こうにもっといい場所がある」。
少年は男の言葉を信じた。
男と並んで歩いていく。
「名前は?」

夜中、レオの家のドアがノックされる。
妻のライーサが、不安そうな声でレオを起こす。
「誰か来たわ」。
レオは夜中、呼び出されてMGBへ向かう。

「悲惨な事故が起きた」。
上官が話し始める。
「アレクセイの息子が、列車に轢かれた」。

少年の遺体が、ベッドに置かれている。
遺体が持ち上げられ、背中が見える。
背中に走る、赤いT字の大きな傷跡。

「列車事故、…ですか?」
「君とアレクセイは、同じ部隊にいた戦友と聞いている」。
「そうです」。

「アレクセイは優秀な捜査官だ。我々は彼を守りたい」。
「すみません、話が今一つ見えないのですが」。
「守るとは?」

「悲しみで混乱しているのだろう。息子は殺されたと言っている」。
「だが同志スターリンが言うように、殺人は資本主義の病だ」。
「党への批判ととられかねない。君ならどうすべきかわかるだろう」。
「この件は、担当部署に回したら…」。

上司はレオの発言を遮った。
「君以上の適任は、いないと思う」。
「彼のためだ。親友なら『助けて』やれ」。


最初に書いたように、これは実在したシリアルキラー、アンドレイ・チカチーロがモデルです。
この犯人の所業が実におぞましい。
書くのも嫌。

無残な少年の…。
明らかに殺されて、…。
…不自然に遺体が切り取られている。
にも関わらず、殺人事件として認められないのです。

これは事故死だと言う。
見た者は誰もが、事故死ではないと確信しながら、犯人を捜そうとはしない。
できない。
誰もやらない。

スターリン政権下のソ連。
連続殺人などは、腐った資本主義社会の犯罪。
この世の楽園である共産主義国家・ソ連ではそんな犯罪はあり得ない。
だが44人もの子供が、行方不明になっているのだ。

ついにレオの親友のアレクセイの息子が、死体となって発見された。
これが普通なら、犯人探しと逮捕のミステリー作品になるところ。
だが、これは殺人だとは言えない。

真相を追うレオは、やがて、何と、国家に対する反逆の疑いをかけられるのです!
そんなバカな!
しかしこれは、当時のソ連ではあったことらしい。

当時のソ連では殺人事件など、ないとスターリンが「決めている」。
スターリンが決めたことに異を唱える人間は、反逆者なのだ。
それが戦争の英雄であっても。

MGB局員としてスパイ、反逆者を取り締まる立場だったレオ。
それが国家から敵にされなければならなくなる。
しかし、それでもレオはこの連続殺人犯を追い詰めようとする。

食糧不足、圧倒的に物が不足している社会。
そして当時、密告社会であるソ連では、自分が生きるためには何でもする。
人を犠牲にしても、それはしかたないことなのだ。

今の日本に生きている者からすると、とんでもなく息苦しい社会が描かれます。
子供を殺害するシーンが出て来なくて、本当に良かった。
それがあったらもう、見られない…。

稀代のシリアルキラーを逮捕するまでのミステリーであると同時に、国家とは何か。
そこが人間の命を大切にしない世界なら、そこで生きる人間はどうしたら良いのか。
これはスターリン政権下のソ連を舞台にした、シリアルキラーを題材にしながらも、そういうことを考えさせられる映画なのです。

「スターリン大元帥は、子供の安全をお望みです」。
学校教師であるライーサが、子供たちにそう、言う。
今もどこかの国で、起きていそうな話であります。


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あんたみたいな女、嫌いよ 「疑惑」(2/2)
2017/04/08(Sat)
それが最高潮になるのが、球磨子の元・情夫の豊崎が出廷した時。
ヒモだろうか。
鹿賀丈史さんが実にうまい!

球磨子に不利な証言をしたため、球磨子が「言わないわよ、そんなこと!」とわめく。
「チンコロが」。
豊崎の目が丸くなる。
「チンコロお?!」

「あんたみたいな嘘つきを刑務所じゃチンコロって言うんでしょ。あんた、良く知ってんじゃない。懲役太郎なんだから」。
周りをにらみつけ「この男はね、シャバより刑務所のほうが長いのよ!」
そして、法廷で取っ組み合いのケンカを始める。
この2人はこうしてケンカをして、それで一緒に暮らしていたんだろうと想像がつく。

だけどこの男、佐原が球磨子の無実を信じていると知ると、佐原に会いに来る。
佐原は「あの人のことは、あなたが一番良く知ってる」と言う。
「あの人、人が殺せる人?」
だが豊崎にも、よくわからない。

球磨子は店のホステスに火をつけて懲役をくらったことはあるが、計画的に人を殺すようなことができる女だろうか?
豊崎は球磨子が懲役を終えて出所してきたときのことを語る。
誰も迎えに来ない球磨子は、1人、刑務所の外の長い壁に沿った道を歩いていく。

すると、仕事先だろうか、おしぼり屋の車を運転してきた豊崎が球磨子を迎えに来た。
乗れよと言われた球磨子が、豊崎を凝視する。
目に涙がたまってくる。
あの時の球磨子はまるで少女のようで、かわいかったと豊崎は言う。

豊崎は、ほかの誰も知らない球磨子を知っている。
球磨子は本当に、うれしかったんだろう。
だから球磨子にとって、豊崎は特別なんだ。

3億円入ったら5千万分け前をやってもいいというのは、調子に乗ったにせよ、豊崎が球磨子には特別であるからだと思う。
豊崎も刑務所と外を行ったり来たりしているような男だが、どこか妙に優しいところがある。
突然、豊崎は証言を翻す。

「んもう、どうしてそういうこと早く言わないのよぉ、しゃらくさいわねえ~!」
顔をしかめながらもうれしそうな球磨子。
「ごめん、新聞社に世話になっちゃったから」。
球磨子と豊崎は、相性が良いんだと思う。

豊崎の答えに球磨子は、鼻にしわを寄せて手を振る。
退廷時には「がんばれよっ!」と、豊崎はこぶしを握って見せる。
球磨子も、下から救い上げるようにVサインを見せる。
何じゃ、この2人は。

結局、球磨子は保険金殺人はしていなかったと認められ、無罪となる。
鹿賀丈史に便宜を図って、球磨子に不利な証言をさせた新聞記者・秋山は離島に飛ばされる。
これが柄本明さん。
やっぱりうまい。

法廷で、豊崎に「あそこにいるから聞いてみろ」と言われ、目が左右に動く。
秋山は佐原に電話をしてきて、離島に飛ばされたけど後悔していないと言う。
あんな女、罪に問われれば良い。

だが佐原は重要なのは、真実だと言う。
真実やっていないのなら、それは罰するべきじゃない。
それに対して、弁護士さんと自分たちの正義は違うようだと秋山は言う。
疑わしきは罰せず。

初めて見た時、球磨子みたいな女は罰せられれば良いと思う感情は、理解できた。
しかしそんな感情で罰して良いのかとも思った。
裁判員制度の今だったら、球磨子はどう判断されるのだろう。

佐原は球磨子が祝杯をあげるクラブに向かう前、離婚した夫が引き取った娘と会う。
そこで再婚相手に、もう娘と会わないでほしいと頼まれる。
これが真野響子さん。

だが、権利が認められていると佐原は言う。
それに対して、自分は子供を作らないと彼女は宣言する。
佐原の娘を自分の娘として、彼女だけを見て育てていく。

だから…。
佐原は答えない。
答えずに立ち上がり、娘に持ってきたプレゼントを渡した。

そして振り返りもせず、去っていく。
白いスーツ。
彼女の潔癖さとプライドを象徴しているかのような、白いスーツ。
最後の球磨子と佐原とのシーンは、圧巻。

「せんせ!」と、球磨子が佐原を見て声をあげる。
球磨子はバーで、佐原を待っていた。
佐原を待って乾杯をした球磨子だが、「あたしね出所祝いどころじゃないの。相談乗って」と切り出す。

福太郎氏は結局、球磨子と無理心中を図った。
つまり自殺なのだが、保険加入後1年以内の自殺では保険金が下りない。
須磨子は言う。

「3億円ね、出ないって言うの。保険会社じゃね、掛けてから1年以内の自殺はダメだっていうの」。
「別に保険金目当てにあの人、自殺したわけじゃないんだからさ。そこんとこどうにかしてえ、あんた、弁護士でしょ」。
「これで3億円取れなかったら、何で富山来たんだかわかりゃしない。踏んだり蹴ったりよ」。

「何とかして」と言う球磨子に佐原は「無理ね、あきらめなさい」と突き放す。
すると須磨子は「ね、そしたらさぁ、白河家から慰謝料取れない?」と言い出した。
「だいたいあたし、被害者なんだからさ、あいつらちょっと、シメてやんなきゃいけないっしょ」。

佐原は冷然と「何言ってんのよ、お互い様じゃないの」と言った。
「向こうだってあなたのこと、恨んでるのよ。福太郎さんの自殺は、あなたが追い込んだせいよ」。
須磨子は平然と「追い込んじゃいけなかった?」と言った。

「いいじゃない男の一人や二人死んだって。ねえ?」
周りにいるホステスに同意を求めるように、球磨子はちらりとホステスたちを見る。
それから球磨子は、吐き捨てるように言った。
「何が愛してるよ」。

タバコを持った手で髪をかき上げながら「あたしに逃げられるのが嫌で、つかまえときたかっただけじゃない」と言った。
その物の言い方に、さすがにホステス2人が、席を立つ。
残っていた1人も立ち上がって、出て行く。
「無理心中なんて、ふざけたこと言っちゃ困るのよ」。

タバコを持った手を佐原に向け球磨子は「大体、せんせ、まずいわよぉお」と言った。
「無理心中なんて下手な弁護するから、保険金入らなくなっちゃうのよぉお」。
「入ったらさぁ、せんせに5千万ぐらいやろうかと思ってたのよ」と、5本の指を佐原に向けながら言う。
「トチるんだもん。3億円パァよパア!」

佐原はタバコを手に球磨子を見下ろしながら、「あなた、福太郎さんが無理心中仕掛けなかったらどうしてた?」と聞いた。
球磨子もタバコをふかしながら「ええ?」と笑いの混ざった声で、聞き返す。
「殺してた?」

佐原は、球磨子を見下しながら聞く。
「それとも殺せなかった?どっち?」
「度胸もないくせに。じたばたすんの、およしなさいよ、みっともないから」。

球磨子はタバコを持った右の手のひらに顎を乗せながら「そうだねえ…」と、言う。
「時間があったら、殺ってたね」。
そして佐原をちらりと、見る。
佐原も、球磨子も見る。

球磨子はl今度はニヤニヤ笑いながら、「あんたってさぁ、ほんとにヤな目つきしてるわねぇ」と言った。
次に顔をしかめながら「いつでも人を、モルモットみたいに見てんのね」と言った。
佐原も「私ね、あなたみたいにエゴイストで自分に甘ったれてる人間って、大っ嫌いなの」と言った。
冷たく、軽蔑しきっている目だった。

球磨子はフフッと笑って「あたしだってあんたみたいな女、嫌いよぉ」と言う。
タバコの煙を吐き、ワインを注ぎながら「あたしはねぇ、どんな悪くたってねえ、みっともなくたって人になんか構ってらんないのよ」と言う。
「だけど、あたしはあたしが好きよ」。

そして、ワインのボトルを佐原のスーツの上に持ってくる。
「あんた、ねえ、あんた」。
球磨子は佐原を、ワインでつつく。

赤いワインの液体が、佐原のスーツの袖に落ちていく。
「自分のこと、好きだって言える?」
ワインの瓶の口からどんどん、赤い液体が佐原の白いスーツに落ちていく。

「言えないっしょ?」
球磨子は、佐原のスーツにワインをこぼし続ける。
「かわいそうな人ねえ」。

須磨子はにやりと笑って、今度は佐原の白いスカートに向かってワインをこぼし続ける。
「あんたみたいな女、みんな、大っ嫌いよ」。
ワインの中身を全部こぼし終わると、球磨子はボトルを下げる。
下を向いて、ニヤニヤ楽しそうに笑う。

佐原は白いスーツの前を赤く染めながら、タバコをぎゅっと、もみ消す。
その手で、グラスに入ったワインをパシャッ!
勢いよく、球磨子の顔に叩きつける。
球磨子が目を反射的に閉じる。

「あなたって最低ね!」
佐原はそう鋭く言うと、トン!と音を立ててグラスを置く。
「命が助かっただけでも、めっけもんでしょ?」

球磨子が佐原を見て、「あたし懲りてるわけじゃないのよ」と言う。
「今度のことで自信持っちゃってさ、あたし。あんたみたいな女にだけはほんと、ならなくて良かったと思って」。
そして球磨子は真顔になって「あたしは今まで通り、あたしのやり方で生きてくわよ」と言う。
「男たらして、死ぬまでしっかり生きて見せるわよ」。

そう言ってグラスを口に運ぶ。
佐原も言う。
「あなたは、それでしか生きられないでしょうね」。

佐原はいかにも須磨子をバカにしたように、ふっと笑う。
そして真顔になって言う。
「私は私のやり方で生きていくわ」。
佐原は須磨子にそう言うと、バッグを手に立ち上がる。

須磨子も「ま、せいぜいがんばってね」と返す。
佐原はバッグを肩にかけ、「またしくじったら弁護したげるわよ」と言う。
そのピシリとした背中に向かって球磨子は、「頼むわ」と言った。
階段を上がって行く佐原に、ホステスたちが頭を下げる。

翌日、球磨子は富山を出ていく。
階段を上る球磨子に、すれ違ったアベックが視線を注ぐ。
列車に乗り込んだ球磨子に気付いた人々は露骨に、または密かに見る。

窓の前にいる人たちに球磨子は舌を出し、手を振った。
列車は発車した。
球磨子の左の窓の景色が流れていく。

たばこを吸う球磨子。
顔に嗤いが浮かぶ。
列車はどんどん、加速していく。


2大女優が最初から最後まで、気の抜けない対決を見せる。
球磨子と佐原は、全く違う女性。
全く違う相手に惹かれることは、ある。
でもこの2人は仕事を離れたら、お互い大嫌いなタイプ。

聡明で冷静なエリート女性、女であることに頼らない佐原。
こういう女性を、球磨子は大嫌い。
だらしなくて、感情的で自分を抑えられず、男を渡り歩くことで生きてきた球磨子。
佐原はこういう女性が、大嫌い。

それでもどこかで、2人は似ているのかもしれない。
同族嫌悪のようなところがあるのかも、しれない。
ああなりたくないとお互い、言っている。
自分の中にある、大嫌いなものを見せてくるから、嫌いなのか。

それとも自分にないものを持っているから、自分ができないことをやるから嫌いなのか。
いろいろな思いが浮かんでくる。
球磨子の口調、表情は「ザ・桃井かおり!」
これ、ほんとに桃井さんしかできない球磨子。

佐原の冷徹さ、聡明さは岩下さんの冷たく切れる美貌にぴったり。
「鬼畜」の感情的なお梅とは、似ても似つかない女性。
どちらも素晴らしい女優の演技。
何時見ても、引き込まれる。

全く違う個性の女優を、ここまで生かしたのもすごい。
球磨子は桃井さんだから、佐原さんは岩下さんだからここまでできた。
でももしかしたら、2人の役を入れ替えても、この2人ならできるかもしれない。


ものすごい女性同士の対決ですが、実際の撮影は楽しかったと、岩下さんはおっしゃってました。
最後の息詰まる、赤ワインのシーン。
終わった途端、緊張が解けた2人は、「あはははは」って、笑ってしまったそうです。

TVのCMでは岩下さんが桃井さんに「ジタバタするの、およしなさい!」って言い放つシーンが流れていました。
本編では、ありませんでした。
そうしたら、あれはCM用の映像だったみたいです。

球磨子が列車に乗って、富山を離れていくラストシーン。
息を吸い込み、煙を吐き出しながら球磨子は嗤う。
思い出し笑いのようにも、見える。
ほくそ笑んでいるようにも、見える。

無罪なのだろうか。
この人を解き放して、良かったのだろうか。
じんわり、広がっていくような音楽。
疑惑がむくむくと湧いてくる。


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日本映画史上に残る悪女バトル 「疑惑」(1/2)
2017/04/05(Wed)
久々に82年の映画「疑惑」を見ました。
実はこの記事、アップ直前に壊れましてね。
ちょっとくじけてたんです。

鬼塚球磨子役は、桃井かおりさん。
桃井さんの、ベストワークの一つではないでしょうか。
鬼塚球磨子が日本映画史に残る悪女になったのは、桃井さんの功績だと思います。
これは桃井さんでなければ、出せない味。

この映画を見たある映画評論家は、「桃井かおりってほんとに嫌な女よ。あれ、地よ」と言いました。
いや~、それはないんじゃないのって思いました。
でもそれだけ、はまっていたんです。

桃井さん以外では鬼塚球磨子は、余貴美子さんが良かった。
本当は黒なのだと示唆する笑い、ゾクゾクします。
余さんの魅力が最大限に発揮されていて、佐藤浩市さんが迷うのも無理はないです。

しかし、どういう育ち方をして、どういう人生を送ると、球磨子みたいになるのかと思います。
それほど球磨子は常識はずれ、非常識。
思いやりなんか一片もない。
人に迷惑をかけないという意識もおそらく、全くない。

「馬屋古女王」じゃないですけど、純粋に本能のみ。
自分の快楽のみ。
ここまでになるには何かが、この人の人生にあったんでしょう。
でも、そういう描写は一切ない。

なくて良いです。
これは法廷劇に徹してくれた映画。
球磨子というとんでもない悪女が、本当に人を殺しているのか。

この女はひどい女だが果たして、人が殺せる女なのか。
その真実を追究するための法廷劇。
なので、球磨子には球磨子の哀しい事情があったのです、という説明はこの映画では必要がない。

真実を追究していくのは、佐原律子弁護士。
岩下志麻さんが演じます。
球磨子とは正反対の生き方をしてきたであろう、女性。

おそらく、球磨子はこういう女性が大嫌い。
また佐原も、球磨子みたいな女性が大嫌い。
この心の中では大嫌いな女性が仕事と生存をかけて組み、生き残っていく映画。
今見ると、ものすごく豪華な出演者のみなさん。

富山の埠頭で、車が海に落ちる。
乗っていたのは富山でも有名な資産家・白河酒造の御曹司の福太郎。
そして後妻の球磨子。
浮かび上がって助けられたのは、球磨子だけだった。

球磨子は東京でホステスをしていたところ、福太郎氏が懇願して妻に迎えた女性だったが、前科があり、酒癖も悪い。
金遣いも荒く、かなり評判が悪かった。
従業員はもちろん、白河家からも嫌われている。

こんな女に遺産の半分が行くことを考えた白河家では、先妻の弟の助言によって福太郎と先妻の間に生まれた15歳の宗治に全財産を相続させてしまった。
しかし球磨子は福太郎に3億円以上の保険金をかけていたため、これは事故ではなく保険金殺人の疑いがかかる。
警察の追求に動じることなく応じる球磨子に苦慮した警察は、福太郎の葬儀に球磨子を連れて行った。

何をしに連れてきたと怒る福太郎の母親だったが、警察は福太郎の遺体を見た球磨子の反応が見たいのだと言った。
棺の中の福太郎を見た球磨子の反応は…。
「うっ、うっ、うっ」。
泣いてるんじゃない。

「う、うええええ」。
「げえええええ」。
棺に向かって球磨子が、吐き気を催している。
周囲は唖然、呆然だった。

保険金殺人として球磨子は起訴され、裁判になるが、いきなり弁護人が降りてしまう。
降りてしまう弁護人が、丹波哲郎さん、松村達雄さん。
すると球磨子は拘置所で猛然と、六法全書を読み始める。
そこに国選で選ばれてきたのが、佐原律子だった。

謁見した佐原に球磨子は「あんた、あたしがやったと思ってんでしょ」と切り出した。
そしてこんな悪女扱いされるのは、自分の名前が悪いからだと言う。
鬼塚球磨子、だから鬼クマなんて言われちゃう。
もっと可憐な名前だったら、違ってたと。

まー、もう、ここまでくると名前じゃない気がしますけどね。
でもやっぱり名前は、大事。
どういう意図で、鬼という苗字で名前にクマってつけたのか。

女の子ですからね、からかわれたことがあったのかも。
さらっと言ってますが、名前のことは球磨子は昔から気になっていたのかもしれません。
球磨川と関係あるんですかね。
…関係ない話になりました。

さらに球磨子は佐原に「嫌いだなぁ、あたし、あんたの顔」と言う。
しかし佐原は冷静に「死刑になりたければどうぞ」と言う。
「私が嫌いなら断れば。私だってあなたの弁護、断れるんだから」。

でも重大な犯罪には弁護士がつかなければ審議はできない。
六法全書読んでるなら、そこ、読めと言って佐原は出て行く。
かくして、カーン。
ゴング鳴った。

検事は小林稔侍さんです。
裁判で罪状を読み上げる検事に「あんたの言ってることは全部、でたらめ」って球磨子は言っちゃう。
証人に森田健作さん。
アイボリーの車が転落するところを目撃したと言うと、最初は白い車と証言していたと佐原は突いてくる。

「本当はアイボリーだった、誰かがあなたに教えたのですね?」と、誰かの入れ知恵があったことを示唆する。
しかし球磨子が「こいつ、いい加減」なんて言うもんだから、証人はカッとなる。
「あんたが運転していた」と言われてしまう。

球磨子は「あんなのあたしに責められて逆上しただけじゃない、見りゃわかるわよ」。
そう球磨子は言うが、佐原は裁判記録には残ってしまうと言う。
このように球磨子には裁判で、弁護人が手を焼いてしまうのだ。

印象に残るのは、球磨子が勤めていたクラブのママが証人として呼ばれたシーン。
ママは、山田五十鈴さんが演じます。
法廷で年齢を聞かれて、ゴホンと咳払いして答えない。
楽しそうな顔の球磨子。

「書いてある通りですね」と言われると、ママはフフッと笑う。
「何言ってんのよ、散々あたしで金引き出したくせに」と言う球磨子にピシリと「おだまり!」
あの球磨子を黙らせる迫力。

ママが懇意にしていたお客は、福太郎氏との交渉に難航していた。
そこで球磨子を使って福太郎氏との取引を優位に運び、謝礼を受けたのではないか。
佐原がそういう方向に話を持っていこうとすると、「ちょっとぉ、ここ税務署?」
「あんた、バカじゃないの!」

女が男をだますのなんて当たり前じゃないの、って、男も承知で遊びに来てるんだから!
あたしゃこの商売30年やってるんだ、男と女のことなら、あんたなんかよりよっぽど知ってる。
そんなこっちゃ、亭主に逃げられるよ!
家に帰って聞いてごらん!

ママはそう怒鳴る。
ええ、佐原は離婚してます。
これには、さすがに佐原もムッとする。

しかしママは、「あの福太郎さんって人は、そういうところが通じない人ではあったわねえ…」と、しみじみ言ってくれる。
こちらの聞きたいことはポイント押さえて言ってくれている。
その感じが、さすがの貫禄。


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