こたつねこカフェ

癖のある俳優さん、悪役さんが大好きです。時代劇、ドラマ、映画、俳優さんのことを好きに書いています。
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大事な…。 「深夜食堂」第11話

第11話、「再び赤いウインナー」。

深夜食堂で、竜ちゃんが頼むのはいつも、赤いウインナーの炒めたもの。
店では常連の忠さんと、カメラマンの大道が高校野球の話題で盛り上がっている。
竜ちゃんは食べ終わると、帰って行く。

それと入れ違いに、小寿々さんが現れる。
あいにく、たった今、竜ちゃんが帰ったと聞いて小寿々はガッカリ。
連れてきたゲイバーの従業員に、あんたたちがちんたら歩いているからだと怒る。

従業員の一人が、「竜ちゃんって小寿々姐さんの良い人よね」と言う。
でも、「あの人どっかで見たことあるんだよね」。
小寿々姐さんは、「竜ちゃんはこの辺で一番の顔なんだから、出くわしても不思議じゃないわよ」と言う。

大道がストリップ劇場で写真を撮っていたら、客の一人が抑えられた。
その時の写真も、大道は撮った。
すると、その話をしていたら深夜食堂の戸が開いた。

大道が身を隠す。
「俺たち捕まえに?」
すると、その野口と言う刑事は「風営課じゃないもの」と笑った。

「誰か探しに?」
マスターの問いに野口は「いやどうも。お邪魔さん」と言って帰って行く。
バッティングセンターで竜がバットをふるう。

「まだやるんすか」と、ゲンが泣き言を言った。
「誰も付き合えなんて言ってねえだろう」。
「それよりお前、俺に話があるんじゃねえのか」。

ゲンがギクリとする。
「高校野球は売ってねえのかって、客から持ち掛けられたんだろう。何でそれ、断らねえんだよ」。
竜の声にはすごみがあった。

「で、でかく張ってくれるし、金払いの良い客だったんで」。
うろたえながら言い訳をするゲンを、竜は張り飛ばした。
蹴りを入れているところ、「はいはい、そこまで~」という声がした。
「今時、鉄拳制裁なんて流行んねえよ」。

野口刑事だった。
竜と野口が背中合わせに話す。
「博打がしのぎのくせに。相変わらず高校野球賭博はご法度か。律儀だねえお前も」。
「何の用すか、刑事さん」。

「…久美が入院してる。見舞いに行ってやってほしいんだ」。
「俺は今更顔出せる立場じゃないんで」。
竜はそれだけ言うと、立ち上がって出て行く。
ゲンも続く。

大道が個展を開いた。
「竜ちゃん素敵!何やっても絵になる男なのよねえ」。
小寿々が竜を撮った写真の前で、うっとりしている。

そこに来たゲイバーの従業員が、じっと見ている。
「止めてよお~、いやらしい目つきで。竜ちゃんアタシのものなんだから」。
「そうじゃないのよ。小寿々姐さん、この人はねえ」。

深夜食堂で、お茶漬けシスターズと呼ばれる3人組のOLが食べている。
「えええっ?」と一人が、素っ頓狂な声をあげた。
「あの人、元高校球児だったのお?!」

「福岡城崎高校って、野球の名門校出身で」。
竜のことだった。
プロのスカウトも、竜を見に来ていたらしい。

「福岡でナンバーワンの強打者!」
「福岡じゃなくて、九州一」と小寿々が訂正する。
「でもそのあとがやっぱりって感じ」。

「甲子園決まったのに地元のチンピラとケンカして、出場を辞退させられたんだって」。
「チームメイトも許せないだろうね~!今でも」
「かあっとなったら、後がきかずにやったのよ」。
「だからやくざに向いてるんだろうけど」。

「周りは、たまんないわよねえ」。
「マスターご馳走様。お勘定ここに置くわね」。
小寿々が立ち上がった。
「もう帰っちゃうの」と聞かれると、小寿々はキッとした。

「ケンカの理由もわかんないくせに」。
「竜ちゃん肴にして喜んでるあんたたちとは一刻も!一緒にいたくないの!」
そして「マスター、ご馳走様」とマスターには柔らかく声をかけて出て行った。
「おやすみ」。

『一日が終わり、家路へと急ぐ人々』。
『ただ、何かやり残した気がして寄り道したい日もある』。
また野口刑事が、深夜食堂にやってきた。
竜はいない。

「竜ちゃんならいないよ」。
「今日は客で来たんだ」。
マスターは、竜がいつも食べる赤いウインナーを炒める。

「は、なつかしいなあ~。これマネージャーが良くこれ作ってくれたんですよ」。
「やっぱりタコの足は6本で」。
「…俺と竜、高校の同級生なんです」。

「ひょっとして野球部?」
「あは」と笑って、野口はうなづく
「甲子園、あいつのせいでパーです」。

「あの日、マネージャーとデートしてたんです、あいつ。マネージャー、ウインナーの弁当作って」。
「そん時、運悪くチンピラに絡まれてね」。
「まあ、久美を。そのマネージャー守るために、しかたなかったんすけどね」。

「竜ちゃんのこと、恨んでないの?」とマスターが聞く。
「もう、昔のことだしね」。
「赦せなかったのは、あいつのせいで甲子園行けなかったことより、久美とデートしてたことです」。

「俺たちみんな、久美に惚れてたんだ」。
「…もうすぐ死ぬんですけどね」。
マスターが、ギョッとする。

バッティングセンター。
「両替」と竜がフロントで金を出す。
野口が来る。

「この前、言いそびれてたことがあるんだ」。
「あいつもう長くないんだ。乳がんが再発してな、手の施しようがないらしい」。
「だから今日こそは必ず、お前を見舞いにつれていく」。

夏木刑事がやってくる。
「それでもお前が拒否するんだったら」。
夏木刑事が手をあげる。

その手とゲンの手錠が、つながっていた。
「さっきこいつを公務執行妨害で、しょっ引いた。叩けば埃の出る体。当分、ぶち込まれることになるぞ」。
竜は黙っていた。

「どうぞ」。
それだけ言うと、出て行く。
唖然としたのはゲンだった。
竜が、タクシーに乗っている。

店の向かいにあるお稲荷さんに、マスターが油揚げをお供えし、手をたたく。
「意外と信心深いんだな」。
竜だった。
「お稲荷さんだからね。寄って行くかい?」

マスターが、竜にビールを注ぐ。
「知りたいか」。
「何が」。

「俺がなぜ、赤いウインナーを頼むのか」。
「関心ないね」。
「それより、同級生の見舞いに行ってやりなよ」。

「刑事さんがやってきてね、こぼしてたよ」。
「今更どの面して行けるんだよ。相手は死ぬんだぞ」。
「死んでく人間に何言ってやれる」。

「何も言えないよ。けどな竜ちゃん、あんたが会う会わないを決めるんじゃない」。
「あんたに会いたがってる相手が決めるんだよ」。
「おせっかいな野郎だな」。

病室で、堅気のスーツを着た竜がいた。
野口が「彼、新宿の区役所に勤めてるんですよ。僕と同じ公務員。地方公務員」と竜を紹介した。
「突然お邪魔して申し訳ありません」。
竜は頭を下げた。

だがそれは、どう見ても公務員のあいさつではなかった。
しかし、挨拶された男性は気にする風もなかった。
「こちらこそ。わざわざ来ていただいて。こいつも」。

病室の奥の方を指して、「剣崎さんに会えるのを楽しみにしていたんですよ」。
男性は、久美の夫だった。
「じゃあ、俺、仕事に戻るから」。
「行ってらっしゃい」。

奥から、女性の声がした。
夫は出て行った。
「大丈夫?」
そう言って、野口刑事が入って行く。

久美が、ベッドから身を起こしている。
こちらを見て、ニコッと笑った。
「竜ちゃん。立派になったとね」。

「こいつが新宿ばし切っとる、大物じゃけえ」と野口が言う。
「新宿で夜中から朝までやる食堂があるったい。そこでこいつ、タコの形した赤いウインナーばっかり食いようよ。女々しか男やろう!」
野口の言葉に久美が言う。
「…うれしか」。

「わああ~」と、野口が言う。
胸元のポケットに手を入れ「電話入っておる」と言った。
「あいたたたあ、本庁から電話入っとる」と言って腰を浮かし出て行く。

ふっと、竜が笑った。
「やっと笑ってくれたね」と久美が言った。
「まだ、昔のこと気にしとった?つまらないこと、引きずって」。
「なんも、気にしとらんばい」。

だが久美は、気にしてるから見舞いも断ったんだろうと言った。
「ばかやねえ。もう少し大人になっとると思っとった」。
「…変わらんね、竜ちゃん。よくそんな子供っぽい性格で、やくざの世界でやってこれたね」。

竜は黙っていた。
「竜ちゃんが学校辞めて、おらんなってから他のクラスの子とか、先生たちから時々、嫌がらせされた」。
「しかたなかよねえ…」。

「でも、私は全然、竜ちゃんも私も悪いと思っていない。今でもその気持ちは変わらんとよ」。
久美が遠い目をした。
「あの時、野口君だけは私をかばってくれたとよ」。

「野口君ね、自分のことを、竜ちゃんだと思って付き合ってくれって、鳴きながら私に告白してくれたの」。
「でも私、断ったんだ」。
「その頃、私、竜ちゃんと結婚したいくらい、好きやったけん…」。

久美の顔が、ほんの少し、泣き顔になる。
竜は黙っていた。
野口が、病室のドアの外で立っている。
「こんちは」。

向こうから、野球のユニフォームを着た少年がやってきて、野口に挨拶した。
久美の息子だった。
「おお、今お母さんの大事な友達が来ているからもう少し待ってな」。
「ああ、野球部の人?」

「そう!でも野球の才能はからっきしで、スター選手だった俺の周りをうろちょろしてた奴!」
そう言うと、野口は「あのさ、暇だったら少し付き合ってよ」と言った。
「野口さん、仕事しなくて大丈夫?」
「世の中には、仕事より大事なことがあるんだよ。行こう」。

病室では久美が竜に話しかけていた。
「結婚してこっちに住む前に一度だけ、竜ちゃん探しに東京に出てきたことがあったと」。
「原宿のホコ天行ったり、渋谷のセンター街行ったり、いろんなとこ行ったけど、見つからんかった」。

「当たり前よね。自分でも見つからん思うちょったし」。
「それでお腹すいて、生まれて初めて牛丼食べたら、めちゃくちゃおいしくて、そのまま最終の新幹線乗って帰ったと」。
「じゃけん、またこうやって会えるなんて全然思ってなかった」。

「…」。
久美がまた、遠い目をした。
そして悲しそうに言った。
「あの日、私が竜ちゃんデートに誘わなかったら、どうなってたんだろ?」

「つまらんこと言うな。食らわすぞ」。
視線を落とす久美。
「今度、私もウインナー食べにそのお店連れてってよ」。
「いつでも、よかばい」。

「来てくれてありがとうね」。
「また来るけん」。
竜の言葉に久美が笑顔になる。

「うん」。
久美がふとんの上に、手を伸ばす。
竜がそっと、その手に触れる。

青い空。
久美の息子と、キャッチボールする野口。
ボールを受けそこない、取りに行く。
しかし、戻ってこない。

野口がうつむいた。
そのまま、フェンスの前に座り込む。
電車が線路を走っていく。

フェンスをつかみ、野口が崩れ落ちるように座り込む。
うつむいたまま。
久美の息子が、それを見ている。

タクシーに乗って、久美が来る。
車いすを引くのは竜。
付き添う野口。

ゲンが、深夜食堂の前にいる。
車いすが通れるよう、段差をなくすためにゲンはスロープを用意する。
野口が、久美の前に来て引っ張り、竜が押す。
久美が店に、入って行く。

ゲンは外で待つ。
ちらりと、店をのぞく。
そして、外に座る。

赤いウインナーが、置かれる。
隣には、おきよめ塩がある…。
黒いネクタイの野口と竜。
マスターが2人に、ビールを注ぐ。

そして、奥に引っ込む。
竜も野口も語らない。
竜が先に、野口が遅れてビールのコップを持つ。
目の高さに掲げ、黙って飲む。




1話で印象的だった、竜ちゃんとギャップがありすぎる赤いウインナーの関係。
刺された竜ちゃんを、小寿々さんが見舞いに行く。
小寿々さんに赤いウインナーの思い出を聞かれて、ハッとした表情になる。

そしてサングラスをかける。
表情を知られまいとしたんでしょうね。
誰にでも知られたくない、大切な思い出ってあるものねと小寿々さんが察する。

竜ちゃんは、九州一の強打者でスカウトも見に来ていた高校球児だった。
しかし、街のチンピラとケンカして、その結果、学校は、出場辞退させられてしまったのだった。
スキャンダラスな過去に、いかにもと納得するお茶漬けシスターズ。

小寿々さんはさすが。
「理由もわからないくせに!」
「竜ちゃん肴にしてる」とキッパリ言う。

そして、今でも竜ちゃんは高校野球にこだわりを持っている。
やっぱり、小寿々さんは竜ちゃんが本当に好きなんですね。
いろんなことをわかってる。

野口も、竜ちゃんが高校野球に思いを残してるのを知っている。
だから久美に会わせたい。
あっさり、「どうぞ」と言われて唖然とするゲンがおかしい。
唖然とする野口もおかしい。

でも竜ちゃん、その後で、深夜食堂に行く。
深夜食堂は、竜ちゃんにとってただの食堂じゃないから。
マスター相手に話して、決心が付いた。

竜ちゃん、野口に連れられて久美のお見舞いに来たけど、野口の紹介も、よりによって公務員っておかしい。
普通のスーツが浮いている。
体になじんでない感じが、すごくうまい。

お辞儀も明らかに、堅気じゃない。
この明らかに「違う」感が、うまい。
野口がちょっと、うろたえるのがおかしい。

竜ちゃんの松重豊さんと、野口の光石研さん。
2人とも、福岡出身なんですね。
故郷の言葉で話す2人が、素のよう。
それでいて、ちゃんと世界作っている。

久美は、安田成美さん。
野口のスター選手だった俺の周りでうろちょろしていた、という言葉で、真相は逆だったことがわかる。
マネージャーにみんな惚れていて、でもマネージャーは竜ちゃんが好きで。
その情景も目に浮かぶ。

デートに誘ったのは、久美の方だった。
そして事件は起きた。
久美もつらかったと思う。
竜ちゃんも、つらかったと思う。

他のクラスの子、先生方。
嫌がらせされたって、ちょっとの嫌がらせじゃなかったはず。
野口は竜と久美を2人きりにさせるために、部屋を出て行ってくれた。

そして、息子とキャッチボールして、久美が母親に戻るのを先に延ばしてくれた。
きっと、事件の後も野口だけが味方だったんだろうと思う。
それでも久美は、竜ちゃんだけしか見ていなかったんだと思う。

キャッチボールで、泣き崩れる野口。
その後ろ姿が哀しい。
光石さん、うまい。

高校を辞めた後、竜ちゃんがどうやって生きていったのか。
チンピラとケンカした竜が、なぜ、やくざになったのか。
どうして野口は刑事になったのか。
2人の性格が、経緯が見える気がする。

でも、久美と話してる時の竜の顔は、やくざの顔じゃない。
野口の顔も、刑事の顔じゃない。
あの頃、高校生に戻っているように見える。
松重さんと光石の演技が哀しく、切ない。

竜と久美の会話以降、穏やかな女性ヴォーカルの曲だけが流れている。
久美を連れて来る竜と野口。
まるで、高校生の時のように。
泣けます。

赤いウインナーが置かれる。
久美が食べるのかと思ったら、隣にあるのは「おきよめ塩」だった。
黒いネクタイの竜と野口。
無言。

うまい俳優さんは、その人物が実在してるように感じさせる。
その人物の描かれてない部分まで、想像させる。
見ているこちらに、「夢を見せる」。

竜ちゃんも野口も小寿々さんも、まさにこちらに夢を見せている。
こういう人いるな。
きっとこんな行動するんだろう。
こういうことを経験して来てるんだろうな。

その人物に興味を持たせる。
ドラマ「深夜食堂」は、夢を見せる。
うまい俳優さんが揃って、夢を見せるドラマ。


暖かくて、でもどうしても付きまとう寂しさ。
まっすぐ帰りたくない時、行きたくなる場所。
深夜食堂があって、良かった…。


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男やめろよ 「深夜食堂」第12話

またまた「深夜食堂」。
第12話、唐揚げとハイボール。
唐揚げ食べながら見たくなる。


常連客が見守る。
サヤという女の子のお客が、カウンターで眠っている。
忠さんは微笑み、小寿々はちょっとあきれ顔。

初めてやって来た時、サヤは唐揚げを頼んだ。
サヤは唐揚げができるまでの間、目を閉じた。
そしてカウンターに座ったまま、寝ていた。
「寝かせてやんなよ、よっぽど疲れてんだな。きつい仕事してんだよ」と忠さんは言った。

そばでそれを見ていたゲンが、お札を置いて立ち上がる。
「釣りは?」
マスターが聞くとゲンは、眠っているサヤを顎で示して、「唐揚げだよ」と言って去って行く。

サヤは目を覚まし、お酒の注文に対してはビールが飲めないのでと言う。
するとマスターは、ハイボールを作って持ってきた。
それからサヤはちょくちょくやってきては、唐揚げを頼み、出て来るまでの間、カウンターで眠るようになった。

常連の男の客の五郎は、サヤちゃんの寝顔を見ていると、酒が進むと言う。
小寿々は、「簡単ね男って」と言う。
サヤが目を覚ます。
マスターが「いい夢だったかい?」と聞く。

サヤは「せっかく作った唐揚げ、また食べられちゃった。だから唐揚げください」と言った。
常連客がサヤのハイボールを見て、自分もハイボールと頼むと、マスターはサヤの分だけだと言う。
常連のを見てハイボールを頼むと、マスターはあれだけと言う。
「マスター、えこひいき~!」

すると、戸が開いた。
サヤの彼氏の章介だった。
章ちゃんと言うと、サヤは出て行った。
すぐに戻ってきて、ごちそうさまと言って出て行こうとする。

「唐揚げは?」
するとサヤは「良かったらみんなで食べて」と言って出て行った。
見ていた常連の客の女性が「あの男、見たことある、たぶん、お笑い芸人」と言った。
「深夜番組で一度見たことがある」。

小寿々が「売れてる人?」と聞く。
「全然だと思う。それでしか見たことないもの」。
深夜食堂の外で章はサヤに「ごめんな、サヤ」と言いながら、後輩に食べさせると言ってお金を取って行く。
サヤが「一緒に行っちゃだめ?」と聞くと、後輩に弱いところ見せられないと言って章は断った。

章はサヤに、「見ていてくれ、俺変わるから」と今までかけた苦労の分、サヤに還すと言っていた。
しかし、章のステージに、客は本当に数えることもないほどにしかいなかった。
サヤはパチンコ屋で、懸命に働いていた。

ある夜、ゲンが深夜食堂を出ると、その前にある小さな社でサヤが座って祈っていた。
ゲンに気が付いたサヤは「彼が売れますように、って」と教えた。
「芸人なんです」。

「へえ、おもしろいの」。
「たぶん」。
「なんだよ、たぶんって」。

サヤの答えに、ゲンが笑う。
「この頃よくわかんないの。売れてほしいのは本当なんだけど。あたし、何のために東京来たんだろう」。
ゲンは黙っていた。

相変わらず、深夜食堂でサヤは眠っている。
五郎がそれを見て「最近、やつれたなあサヤちゃん」と言う。
すると、ガラッと戸が開いて章が姿を現した。

「おっさん、ビール!」
横柄に言うと、サヤの横に座った。
「また唐揚げかよ」。
そう言って、一つ取って食べる。

目を覚ましたサヤが「どうだった?」と聞いた。
「何が」。
章の答えは、つっけんどんで冷淡だった。

「お笑いルーキーズ」。
「誰だよそれ」。
章の答えは、いら立っていた。

思わずサヤが「…ごめん」と謝る。
「ごめん?ごめんってなんだよ」。
章が絡む。
「…」。

サヤが押し黙る。
「なんだよ!」
「ごめん」。

「お前に何がわかるんだよ!」
章が怒鳴る。
「俺の気持ち、わかんのかよ!」
「正ちゃんごめん」。

サヤは明らかに、うろたえ、怯えていた。
「何で謝んだよ!」
章は唐揚げを、サヤに投げつけた。
サヤが思わず、顔をかばう。

マスターが厨房からビール瓶を手に、飛び出そうとする。
ガラッと戸が開いた。
マスターが見る。
ゲンだった。

入ってきた時、店にはサヤの「ごめん」という言葉が響いていた。
「俺のこと下に見てんだろお前!」
章が怒鳴り、唐揚げを投げつける。

それはゲンの顎に当たった。
ゲンが顎を撫でる。
振り向くと、にやりと笑って「痛ってえ」と言った。

刑事の野口と部下の夏木が、話をしている。
すると、声が聞こえて来る。
ゲンと章のケンカだった。

それを懸命に、サヤが止めようとしている。
章がゲンを罵倒していた。
夏木刑事が動きを止めた。

「早苗」と言う。
サヤも夏木を見て、固まった。
「ボケ!ボーケ!」と章は罵倒している。

夏木刑事を見て、動かないサヤを章がひっぱたく。
「てんめえ!何やってんだよ!」
怒鳴りつけ、章を殴り飛ばしたのは夏木刑事だった。
「俺の妹に何やってんだよ!」

章が驚きのあまり、夏木刑事を見る。
「もう、ほっといてよ!」
サヤが叫び、章の手を引いて行く。
野口に抑えられ、ゲンも帰って行った。

深夜食堂で野口刑事と夏木刑事が、話をする。
夏木刑事には父親がいなくて、母親が仕事が大変だった。
兄である夏木刑事が、妹のサヤの面倒を見ていた。
年が離れていたせいか、サヤには厳しくなってしまった。

夏木の言葉に野口は、「まあ、刑事やってるとな。そうなる時もあるよ」と言う。
サヤは高校出るとすぐ、章と付き合って家を飛び出していった。
夏木は止めたがその時、サヤに「私が選んだことに一度も賛成してくれたことがない」と言われた。
店の隅に、唐揚げが落ちていた。

夏木刑事が拾って言う。
「あいつ…、好きなもの変わってないな」。
マスターが「夢の中でいつもお兄さんに食べられちゃうんだって」と言った。
「だからつい、いつも唐揚げ頼んじゃうんだって、子供みたいな話、俺に教えてくれたよ」。

「すごいねえ、楽屋入ったの、あたしが初めて?」
ロングヘアの女の子が章の楽屋で、はしゃいでいた。
章は女の子に「カワイイ」と言った。
「何しても、かわいいな」。

女の子が笑い、「後で飲みに行くでしょ」と聞いた。
相方がやってきて章に「出番」とうながした。
章が女の子に笑いかけて、ステージに出て行く。

ステージに出て行った、相方が沈黙した。
続いて出て行った章が、客席を見て目を見張る。
小さな客席は、やくざで埋まっていた。

さっきの女の子が客席にやってくる。
周りを見ると、一目散に逃げていく。
章は言葉が出ない。

最前列にいたのは、ゲンだった。
ゲンは章を凝視していた。
必死に章はギャグを言おうとするが、相方は微動だにできない。

章も黙ってしまった。
ゲンが立ち上がった。
ステージに上って来る。

章の前に立つと「女に貢がせて、この程度かよ」と言う。
「お前、男やめろよ」。
章は声も出ない。

サヤが、深夜食堂に向かって歩いて来る。
足を止める。
階段の方に、兄の夏木刑事がいた。

深夜食堂に、唐揚げをあげる音がする。
「母さんには連絡してんのか」。
兄の問いにサヤは無言だった。

「そうか。どんな生き方してくれてもいい。俺はずっとサヤの味方だから」。
唐揚げが2人の前に置かれる。
夏木が箸をとって、サヤに渡す。
唐揚げを、サヤの皿に載せる。

サヤが箸を持つ。
食べる。
サヤの顔が、ゆがむ。
涙をこらえる。

泣きそうになりながら、サヤは食べる。
やがて、泣き始める。
兄が箸を置く。
サヤの頭をそっと撫ぜた。

ガラッと戸が開く。
ゲンが入って来る。
のれんをめくる。

章がいた。
動かない章は、ゲンに肩を押される。
章が店に入って来る。

「いろいろなことがあったみたいだけど、結局サヤちゃん、この男とは別れたみたいだよ」とマスターの声がする。
「サヤちゃんは母親の家に戻ったが、こうやってたまに遊びに来る」。
深夜食堂にサヤが入ってきた。

忠さんが「サヤちゃん、このごろ眠らなくなったね」と言った。
「うん、だって良く寝られるんだもの」とサヤは笑った。
「サヤちゃんの寝顔が見られなくて残念がってるお客が、けっこういるんだけどな」とマスターは言う。
深夜食堂の壁に貼られたメニューに、ハイボールが加わっていた。

「マスター、結局男ね~!」
客に笑われて、マスターがメニューをはがす。
それを止めようとする客。
深夜食堂に笑いがあった。



サヤは、平田薫さん。
「猫侍」で北村一輝さんのお隣さんでした。
かわいい。
でもなんか、不幸そうと思ったら、あんな男に貢いでたのですね。

こんなところで、夏木刑事とつながるとは思いませんでしたが。
夏木刑事の先輩刑事の野口が、竜ちゃんと個人的な関係があった。
今度は竜ちゃんの舎弟のゲンちゃんと、夏木刑事が個人的に関わった。
深夜食堂は、それぞれの肩書を取ったつながりができる場所ですね。

売れない芸人の章は、サヤに良いかっこしてお金を引き出している。
後輩に良いところ見せるのに、サヤからお金もらってるんだからそれだけでダメだなってわかる。
なのにサヤをバカにしきっていて、横柄な態度を隠さない。
サヤに暴力も振るってたんでしょう。

この時のマスターの殺気が、すごい。
とっさに醸し出す殺気。
あ、追い出す。
この人、やっぱりただもんじゃないんだと思いました。

しかしその時、ゲンちゃん登場。
「痛ってえ」と言って、笑うところが怖い。
調子に乗っている章は、ゲンちゃんを罵倒。
夏木刑事にぶっ飛ばされて唖然。

その時のサヤの態度と、夏木刑事の話から、サヤは兄に反発していたんだとわかる。
サヤは自分を肯定してほしくて、いつも章を甘やかしていたのではないでしょうか。
自分の選んだ人がダメで、いや、ダメにしたのは甘やかした自分かもしれない。

でもいつも兄に反対されていたサヤが、兄に反発して選んだ道だから、修正できなかった。
章に貢ぎ、報われなくても兄に対する意地で別れられなかった。
だけど兄の自分への愛情を確認して、兄に「何があっても俺は味方」と言われて意地を張る必要がなくなった。

今回、マスターも迫力ありましたけど、かっこよかったのはゲンちゃんです。
アニキの竜ちゃんも、小寿々さんが惚れ込む男だけど、舎弟のゲンちゃんもなかなか。
ゲンちゃんの怖さも知らず、罵倒した章は怖ろしい目に遭う。

さすが、竜ちゃんの舎弟。
ゲンちゃん、かなりな顔なんですね。
あれぐらいの人間を連れてくるぐらいの、顔ではある。

章はサヤをなめきっていて、浮気もしていた。
その女の子は、さっさと逃げてしまった。
まあ、あれで逃げない娘はいないと思いますけど。
章はサヤをなめきっていて、そのために人を見る目ももう、鈍っていたんでしょう。

サヤから別れを切り出したのか、章が切り出したのかはわかりません。
でもおそらく、章は自信喪失しているでしょう。
サヤは吹っ切って、よく眠れるようになった。
けど、章に安らかな眠りは訪れていないように思います。

これ見ていたら、唐揚げが食べたくなってしかたない。
マスター、ハイボールは結局、メニューに加えなかったんでしょうか。
最後の唐揚げの作り方を説明するサヤ。
後ろで夏木刑事が食べているのが、楽しい。


人生を変えるきんぴらごぼう 「深夜食堂」第28話

深夜食堂で、ゲンが食べている。
ゲンは剣崎竜、常連客の竜ちゃんの子分だ。
竜ちゃんはこの辺りでは、マスター曰く「イイ顔の兄さんだ」。
大きな組織の、幹部である。

ゲンが食べていると、1人の女性が入ってきた。
女性は、きんぴらごぼうを注文した。
その女性を見て、ゲンは固まる。

「きんぴらはささがけにしたんじゃ、良さが出ない」と言うその女性に、ゲンは恐る恐る言う。
「やっぱり、きんぴらは千切り…ですよね」。
それを聞いた女性は「お兄さんも好きなんだ、きんぴら」と笑った。

突然、ゲンは立ち上がって最敬礼した。
「ご無沙汰してます、市川先生!」
「林ゲンです!」

「ケンカばっかりしてた、あのゲンちゃん?」
「見違えたわね~!良い男になったわね、何年ぶり?!」
「10年ぶりに帰ってきて、まさか君に最初に再会するとはね、何か縁があるのかしら」。

女性は市川千鶴。
ゲンの中学時代の部活の顧問で、英語の教師だった。
ニューヨークで暮らしていて、10年ぶりに帰国したのだと言う。

「向こうで一緒に暮らしている人って、旦那さんですか」。
「同じ職場のルームメイトよ」。
この年齢で結婚していないなんて、みじめ?と千鶴が聞くと、ゲンは慌てて否定する。
「先生はあの頃と、全然変わってないです」。

ゲンは、千鶴と飲みに行く。
下戸なのに飲んで酔っぱらったゲンは、小寿々のゲイバーで「先生、愛してる!」と叫ぶ。
千鶴は、ニューヨークへのみやげを買う。

ゲンは、それに付き合った。
千鶴が、手ぬぐいを手にする。
花火の模様の手ぬぐい。

深夜食堂で、忠さんがその手ぬぐいを広げて「良いねえ」と言う。
小寿々もそれを見て、「どれどれ、アタシにも見せてよ」と言って近づく。
隅で食べているゲンが「汚すんじゃねーぞ」と注意する。

「あら、カワイイじゃない」と小寿々が言う。
「ゲンちゃんに似合ってるかどうかは、別として」。
小寿々が手ぬぐいを折って、自分の肩にかける。
「アタシには似合うでしょ」。

ゲンが猛然と立ち上がり、奪い取っていく。
小寿々が「先生、ゲンちゃんの仕事知ってんの」と聞く。
「自由業だって伝えてあるよ」。

忠さんが「まあ、やくざも自由業だから嘘じゃねえけど」と言う。
「なあ」。
小寿々は「女が一番嫌いなのは、隠し事する男よ」と言った。

「わかってるよ!」
「今、その、頃合いを見計らってるんだよ」。
マスターが小寿々に酒を運んできて「先生、いつ帰るんだい」とゲンに聞いた。

「2週間こっちにいるって言ってたから、あと…、4,5日会えると思う」。
「今から寄れば?」と小寿々が言う。
「忙しんだよ。毎晩、昔の仲間や、世話になった人と飲み明かしてっから」。
それを聞いた忠さんが、ポツリと言った。

「なんだか…、お別れ言いに来たみてえだなあ」。
マスターも、ゲンも一瞬、沈黙する。
「どういう意味だよ」。
「どっちみち、自分の番が来るまで待つしかないってわけね」と小寿々が言う。

その3日後、ついにゲンちゃんの番がやってきた。
ゲンは深夜食堂に、千鶴と来た。
この前の小寿々の店で酔っぱらったことをゲンは、詫びる。

携帯電話の振動の音がする。
千鶴が、自分の携帯をひっくり返す。
しかし、近くの席の男が自分の携帯を取り、話し始めた。
千鶴の携帯は、鳴っていなかった。

「俺なら、良いっすよ、さっと食って帰りますから」とゲンは言う。
「違うの。明日から熱海に行く予定だったんだけど、全然連絡なくって。やんなっちゃう」。
「彼氏…、さん、ですか」。
ゲンが視線を落としながら、聞いた。

「昔の男」と、千鶴が言った。
「女房が怖いんでしょ」。
「あー、どうしようかな」。
千鶴は、きんぴらごぼうを食べていた。

「あの…」。
思いつめたように、ゲンが言う。
「俺じゃダメかな」。
「あ、熱海」。

「え?」
千鶴がビックリする。
「ゲン、くんと?」

うつむくゲン。
黙って、うなづく。
「良いの?こんなおばあちゃんで」。
「いいっす、いいっす!」

ゲンは立ち上がる。
「おばあちゃんなんて、とんでもないっす!」
「そんなこと言うやつ、俺、ぶっ殺してやりますから!」

ゲンはそう言って、ドスを構えるポーズをする。
「大変ね、マスターも」。
微笑む千鶴。

千鶴が滞在しているホテルまで、ゲンは送って行った。
「明日、遅刻しちゃダメよ」。
「俺、もうガキじゃないっすから」と、ゲンが笑う。

「ごめん」。
ホテルのガラスドアーが開いて、男性が近づいて来る。
「ちょっと職場でごたごたあって」。

千鶴が約束していた男性だった。
「でも大丈夫。明日一緒に行けるから」。
そう言ってゲンをちらりと見て、「知り合い?」と聞く。

「昔の教え子」。
「そう。部屋まで送ってくよ」。
そう言うと、男性は千鶴の荷物を持とうとする。

千鶴は身をよじって、拒否した。
「怒ってんの」。
「そりゃ怒りますって、先輩」。

ゲンが口を出した。
「先輩からの電話、先生がどれだけ、待ちわびてたか。だからもっと、大事にしてあげてください」。
腰を落として、両足を開き、ゲンは首を垂れる。
「お願いします」。

「ゲンくん…」。
「先生も意地はんないでさあ、気持ち良く2人で行って来なよ!」
「みやげは、干物で良いっすから!」

そう言うとゲンは、「お先に失礼します」と言って去って行こうとした。
「行かないで!」
千鶴が叫んだ。

ゲンの手を引いてホテルに入っていく。
フロントを通り過ぎる。
「何!」
驚いたゲンが言う。

「イイの!」
ゲンの手を引きながら、千鶴は言った。
「お互い、とっくに賞味期限切れてんのに…。バカよね」。

ゲンはためらいながら「俺、先生に隠してたんすけど、実は…」と言った。
「やくざなんでしょ?」
千鶴は、ゲンがやくざであることに気付いていた。

「どう見たって、堅気には見えないもん」。
「ほんとに、俺なんかで良いんすか」。
「その代わり、ちゃんと抱いてね」。

「え?」
ゲンは驚く。
「明日まで取っとくつもりだったけど、残ってる時間は少ないんだから!」

「目いっぱい楽しもう?」
千鶴は笑顔だった。
「はい」とゲンは言う。

深夜食堂で、ゲンは千鶴を待っている。
ゲンが高校止めて上京する時だった。
「先生は『良い男になって戻っておいで』と言って餞別をくれた」。

そして、自分のお弁当をくれた。
「汽車の中で食べなさい、って」。
マスターは「良い先生じゃないか」と言った。

ゲンの前には、きんぴらごぼうが置いてあった。
「他にも、具は入っていたんだけど…」。
ゲンは遠い目をする。
「そんな中で、こいつの甘じょっぱさが体に沁みてよ」。

「…」。
ゲンが沈黙する。
「俺、…足を洗って、先生幸せにしたいと思ってる」。

「アニキにそのこと打ち明けたら、逆だって殴られた」。
アニキとは剣崎、常連の竜ちゃんのことだった。
「女がお前を幸せにしてくれるんだよって」。

マスターが「先生、明日帰るんだろう」と聞いた。
「伝えたのか?」
「また思い出にしちまいたくねえから」。

その時、深夜食堂の戸が開いて、千鶴がやって来た。
2人の様子に「何なに、何の話?」と聞く。
「それより先生、具合どうだったんですか」。

ケンの質問に千鶴が「え?」と言う。
「今日、入院してる友達の見舞い行くって言ってたじゃないですか。元気だったんすか」。
「うん。ビックリするぐらい元気だった。来月退院できるって」。

「良かったじゃないすか!」
ケンはビールを頼んだ。
めでたい時は、乾杯だと言って頼んだが、下戸のゲンはビール一杯で眠ってしまった。

隣でカウンターに顔を押し付けて、ゲンは眠っていた。
マスターが千鶴に「次はいつ帰って来るんだい」と聞く。
「わかんない」。

「ゲンちゃん、さびしがんだろうな」。
マスターがタバコをふかす。
それを見ていた千鶴が「一本もらっていい?」と聞いた。

マスターがタバコの箱を千鶴に向け、千鶴が一本、抜き取る。
千鶴のタバコに、マスターが火をつける。
「向こうじゃ愛煙家は肩身が狭いって聞くけど」。
「行ってから止めてたけど、もういいの」。

ふーっと、千鶴は大きく煙を吐いた。
マスターが灰皿を、千鶴の前に置く。
「あたしはもう、思い出さない」。

千鶴はなぜか、キッパリ言った。
「ここで会った時も、ゲン君に言われなきゃ思い出さなかったしね」。
千鶴が煙を吐く。

「ずっとアメリカに、いるつもりかい」。
「ううん」。
「今度はもっと、遠くに行くの」。
「だからゲンくんも、あたしのこと、忘れてほしい」。

ボーン、ボーン。
時計が鳴る。
カチコチと、時計の音がする。

「こらっ、ゲンくん、行くよ!」
千鶴は帰ろうとするが、ゲンは朦朧としている。
ゲンは、ホテルのベッドの上でも寝ていた。

すーすーと、寝息が聞こえる。
千鶴は、ゲンの傍らに腰を下ろす。
そっと、ゲンの顔に自分の顔を寄せる。

「せんせい…」と、ゲンが寝言を言う。
「バイバイ」。
そう言うと、千鶴はスーツケースを転がし、バッグを肩にかけて出て行った。

深夜食堂。
常連客のカメラマンが「今日ものぞいたらちゃんと働いてましたよ」と言う。
忠さんが言う。
「ほんとに。足を洗って堅気になるとはな」。

「そろそろ、ひと月になるんじゃないか」。
「あたしも、人生変えるような恋がしたいなあ」。
常連のサヤが言う。

「これ食べないと!」
そう言うと、忠さんが自分の前にあった皿を置く。
「ご利益あると良いけど」。
その深夜食堂には、エアメールが置かれている。

ゲンはパチンコ屋で、働いていた。
頭には、千鶴にもらった手ぬぐいをバンダナにして巻いている。
一人の客が、ゲンを呼び止める。

帰るので、いっぱいになったパチンコの玉を持ってくるように言ったのだ。
パチンコ玉でいっぱいになったいくつもの箱を、ゲンは引きずっていく。
目の前に、兄貴分だった竜ちゃんが立っていた。
黒ずくめにサングラス。

ゲンが気づいて、立ち上がる。
竜ちゃんがスーツの内ポケットから、エアメールを出す。
ゲンに渡す。
きょとんとして、ゲンはエアメールをながめる。

中を開ける。
手紙を出す。
字面を追う。

もう一枚、折りたたまれた手紙を開ける。
ゲンが、呆然自失といった表情で固まる。
目が泳ぐ。
竜を見て、何か言う。

そのまま、固まっている。
突然、ゲンはいっぱいにパチンコ玉が詰まった箱を蹴る。
蹴り飛ばす。

力いっぱい、箱を踏み潰す。
パチンコ玉が床に飛び散る。
さらに箱を蹴り飛ばす。
ひっくり返った箱を手に、今度は床にたたきつける。

座っている客が、何事かとゲンを見る。
ゲンは床に膝を着く。
号泣していた。

向こう側、ゲンがパチンコ玉を持っていくはずの方向に向かって、剣崎が何か言う。
丁寧に頭を下げる。
ゲンが床に座り込み、前のめりになっていく。
落ちているパチンコ玉を握りしめる。

肩を震わせ、ゲンは泣く。
頭に巻いていた、バンダナにしていた手ぬぐいをはぎ取り、ゲンは泣く。
ひたすら、泣いている。

セピア色の風景。
ベンチに座る千鶴と、ゲン。
ゲンの横には、千鶴が買ったいくつものショッピングバッグがある。

上着が、千鶴の膝にかかっている。
千鶴が、コーヒーの紙コップを持っている。
ゲンが同じ紙コップを持ち、飲む。

そよそよと、風が吹く。
緑のイチョウの葉が、揺れている。
千鶴は静かに満足そうな顔をしている。

視線が、上の方に向いている。
ゲンもまた、静かに満足そうな顔をして上を向く。
千鶴は、前を向いている。

ゲンが千鶴をちらりと見て、幸福そうに視線を前に向ける。
静かな時間。
幸せそうな2人。
…。



いきなり、深夜食堂です。
しかも28話。
すみません。

深夜食堂、第2シーズンになって存在感が増してきたゲン。
山中崇さんが演じてます。
千鶴は、つみきみほさん。
美少女アクションでデビューしたつみきさんですが、しっとりとした大人の女性役が似合っていました。

千鶴が滞在しているニューヨークのことをゲンが、「アメリカの首都だよ!」と言う。
こんなところでくすぶってる自分なんかとは、世界が違うとはしゃぐ。
常連客が「アメリカの首都はワシントン…」と言いかける。
ゲンの睨みで「ニューヨークです」と言う。

そう、常連客とは親しくなったけど、ゲンちゃんはやくざ。
兄貴分の竜ちゃんも、深夜食堂の常連だけど、大組織の幹部。
竜ちゃんは、松重豊さん。
こういう役やると、シャレにならないほどハマる。

最初の時、ゲンがやってきて、マスターに絡む。
その時、食べていたホストはまず、ゲンを見てひるむ。
ゲンの後に入って来た竜ちゃんを見て、「お、俺、もう行かなくちゃ」って逃げていく。

「ビッグマネー!」というドラマで、松重さんは総会屋の小日向さんの用心棒というか、右腕を演じていました。
そこでも主演の長瀬さんが、松重さんの演じるマッキーを見ると、飛びのいてましたもん。
最初にやって来るのを見た時は、「うわああ…」って言ってましたし。

その松重さんの竜ちゃんの子分が、ゲンちゃん。
最初こそ、感じ悪かったゲンちゃんだけど、この後、竜ちゃんが刺客に襲われます。
その時、最初に手を切られたのはゲンちゃん。
ゲンちゃんが転げまわって悲鳴を上げていて、竜ちゃんはゲンちゃんをいたわりつつ、刺客を蹴散らした。

その後、ゲンちゃんに「大丈夫か」と声をかけていた時、道の端にいたホームレスが突然、竜ちゃんを刺した。
最初にゲンちゃんを襲って、竜ちゃんに隙が出るのを待っていたんですね。
この後、ゲンちゃんは竜ちゃんを襲った相手の組の幹部を刺して、追われる身になりました。

小寿々さんの店にいたゲンちゃんにマスターが「兄貴分に迷惑かけて」って怒りました。
出頭していくゲンちゃんを待っていたのは、竜ちゃんでした。
「逃げませんから…」と頭を下げるゲンちゃんに竜ちゃんが「付き合わせろよ」と言う。
そして、付き添って行く。

この話はまた、別の機会に書きたいと思います。
12話ではゲンちゃんは、女の子に貢がせて、乱暴な扱いをしている男に腹を立てて、思い知らせてました。
ゲンちゃんって、結構なドラマがある登場人物なんです。

そして竜ちゃんが、すごく良い兄貴分なんです。
ゲンちゃんは、竜ちゃんを「アニキ!」と慕っていた。
そのゲンちゃんが、足を洗うと言うんだから、大変なこと。

足を洗う自体、大変なこと。
おそらく、竜ちゃんがかなり、動いてくれたんでしょう。
ゲンちゃんは五体満足で、ちゃんと働いていました。

山中崇さんが、実にうまくゲンちゃんを演じています。
やくざのゲンちゃんの、純情が切ないぐらいに伝わってきます。
高校を辞めて上京して、やくざになったゲンちゃんのおそらく初恋だったのでしょう。

千鶴のために頭を下げるゲンちゃん、まんま「お控えなすって」の世界なんです。
あの時、ホテルの前で千鶴が昔の彼氏を選ばなくて、本当に良かった。
そして千鶴は、全部わかっていた。

最後、エアメールが深夜食堂でアップになってからは、無音です。
テーマソングが流れるだけ。
だから最後、竜ちゃんがゲンちゃんに何を言ったのかはわかりません。

ゲンちゃんが何を言われたのか、何の手紙だったのか、はっきりと描写はされていません。
すごく悲しく、良い演出です。
そして、セリフがなくても伝わって来る山中さん、松重さんの演技が素晴らしいです。
竜ちゃんのお詫びの言葉、きっちりとしたお辞儀なので、聞きたかった。

忠さんの「お別れみたい」という言葉。
やめていたタバコを、吸っていること。
入院していた友達の見舞いに行っていたと言いながら、それを聞かれると「えっ?」と戸惑っていたこと。

マスターに「あたしはもう、思い出さない」と言った時の口調、
「今度はもっと遠くに行くの」。
「ゲンくんもあたしのこと、忘れてほしい」と言う言葉。

そこからの想像されること。
千鶴が日本に帰って来た理由は…。
不治の病だったから。
千鶴は、自分の余命を知って、日本にいる人たちにお別れを言いに帰って来た。

入院している友達の見舞いというのは、自分の診察だった。
もうすぐ退院というのは、余命いくばくもないということだった。
今度はもっと遠くに行く、というのはこの世を去るという意味。
最後のエアメールは、千鶴のニューヨークのルームメイトから。

ゲンちゃんに伝えてほしいと言われたルームメイトが、深夜食堂に送って来た。
そしてマスターは、誰にも言わずに竜ちゃんにだけは話して、エアメールを託した。
でなければ、堅気になったゲンちゃんに竜ちゃんが会いに来るわけがない。

そして最後の、ゲンちゃんのあの嘆き。
あの手紙は、千鶴の死の知らせだったのでしょう。
何もはっきり、言われていないけど、この想像は切なく、胸を打つ。

幸せそうな2人の、最後のシーン。
ゲンちゃんの幸福そうな顔と、その心の中。
隣で幸せそうに、それでも宙を仰ぐ千鶴。
その心中を思うと、とても哀しく切ない…。

手紙を持ってきた竜ちゃんが、赤いウインナーを食べる理由を描いた第11話があります。
まだ純情だった竜ちゃんの、少年時代。
その想い出の人。
竜もその思い出の大事な人を、病で亡くしている。

たまに登場する野口刑事と竜ちゃんには、個人的な関係があったことがもわかる。
この話もまた、書きたいと思いますが、かなり切ないお話でした。
あれを思い出すと、この時の竜ちゃんもかなり切ない。

あの丁寧なお辞儀は、「筋を通す人」という性格だけじゃない。
ゲンちゃんへの寄り添う気持ちの表れだと思いました。
竜ちゃんは自分のつらい経験を、ゲンへの思いやりにしているのでしょう。

知る人ぞ知る、深夜ドラマなんでしょうが、「深夜食堂」。
俳優も演出もとても、良い。
ドラマに一番あってほしい、人間を描いているドラマ。
心に響く、良作だと思います。


優しい人が描く悪い女と男 「あなたのことはそれほど」

今夜見るドラマは「あなたのことはそれほど」の第5話。
いくえみ綾さんの原作です。
学生の時から読んでる作家さんですが、息の長い活躍をされてますねえ。
昔から好きな作家さんです。

この作家さん、すごく優しい。
そう思ったのは飼い猫たちを描いた「そろえてちょうだい」を読んだ時。
特に「そろえてちょうだい」「0」。

その中に「お蔵出し」マンガがありまして、世話をした元野良ネコちゃんの話があります。
病気持ちで、しばらくは太って元気だった。
でも、徐々に症状が現れた。

後ろ足が利かなくなった猫さんの後ろ足を持って歩くいくえみさん。
腰に来ると言いながら、猫さんと一緒に冬の北海道のアスファルトをてちてち歩く。
前足も立たなくなった猫さんが、表に行きたがる。

元野良さんだから、表に行きたい。
すると今度は雪の中、いくえみさんは猫さんを抱っこして外を歩く。
「散歩したね~」。

「日向ぼっこ、気持ち良かったね」。
「ここで、てちてちしたね」。
「白い猫いたね、ケンカいっぱいしたね」。

猫が「うん」「うん」と返事してる。
抱っこしているいくえみさんに頬を寄せて。
「もう帰ろっか、寒いね」。
「うん」。

後ろ足は冷たくて、前足も硬くなってきた。
『それでも頑張って生きようとした。頑張り屋さんだった』。
『えらかったねえ』。
『かわいかったねえ』。

『今度は病気を持っていない、長生き猫に生まれて来るんだよ』。
『うん』。
『頑張ったのんたん(猫さんの名前)に、百点』。

猫だけじゃなくて、6歳になった時から一緒に暮らしたワンちゃんの話も良い。
優しい人だなあ、と思います。
この「そろえてちょうだい 0」には作家の町田康さんとの対談も載っています。
パンクバンドだった頃から、ファンだったとのこと。

この町田さんも、ぶっとんだ作品を描きますが、猫を書いた著作には優しさがあふれています。
「猫にかまけて」
「猫とあほんだら」

そのいくえみさんの原作のドラマだから見始めましたが、なかなかおもしろい。
波瑠ちゃんの自覚のない悪女ぶりも「ひどいことしてるなあ…」と思いつつ、楽しんでます。
その夫の東出昌大さんが徐々に壊れていくのも、これからの見もののようです。

波瑠ちゃんの不倫相手の有島くんの、これまた自覚のないひどい男ぶり。
気づいていそうな、奥さんの複雑な心情を演じている仲里依紗さんも良い。
これ、もしかしたら全員が悪い人なのかな。
誰でも持っているかもしれないけど、良識や理性で抑えているものを抑えない人たちの話なのかな。

でも一番好きなのは、波瑠ちゃんの母親を演じている麻生祐未さん。
清濁併せ呑んできた大人の風格と味わいを、見事に出してます。
さて東出昌大さんがこれから、佐野史郎さんがかつて演じた「冬彦さん」みたいになるのか。
楽しみに見たいと思います!


それだけが悩み 「孤独のグルメ」

「バイプレイヤーズ」の放送は終わってしまいましたけど、すごく楽しかった。
毎週金曜日、パジャマに着替えて、ベッドのそばで、お茶飲みながら見てました。
この時間にお茶飲むから、夜更かしになっちゃって。
そういうのも含めて、「バイプレイヤーズ」で楽しい金曜日の夜を過ごしました。

放送が終了した今は、「孤独のグルメ」!
松重さんが食べているドラマなんですけど、つぶやきや表情が良いんです。
グルメ番組が好きなわけじゃないのに、なぜかこれは見てしまう。

松重さんが好きというのもありますが、あれは実は難しいと思いますよ。
食べている時にセリフを言うわけじゃない。
表情と食べ方で、心の内、おいしさを表現。

そしてそれにかぶせる何気ないつぶやきには、味わいを感じさせなくてはいけない。
松重さんの名人芸を見ていると思ってます。
だから好きで、おもしろいんじゃないかな。
力のある俳優さんならではの、ドラマ。

ただ、お腹すいちゃうんだよねえ…。
あの時間に満足するほど食べたら、翌日大変なことになるし。
それだけが悩ましいかな。