時代劇専門チャンネルで放送されている「腕におぼえあり」。
平成4年から放送を開始し、シリーズとして3まで作られました。
村上弘明さん主演。
藤沢周平原作で、何度かドラマになっていますが、自分としてはこの作品が一番好きです。

「3」の見所は何と言っても、敵となる隠密組織嗅足組(かぎあしぐみ)の頭領・石森左門でしょう。
近藤正臣さんが演じています。
これが、もう、本当にさすが。
最終回の決闘は、長時間に渡ります。

黒幕と思われた谷口が、病死している。
その原因は、本当に病なのか。
隠密の佐知が尋ねると、「毒殺…」と左門が言う。
怖い。

ついに又八郎と左門の戦いが始まります。
雷鳴轟く中、戦いは石森左門優勢となります。
又八郎を愛する隠密の佐知が、手裏剣でサポートに入りますが左門には無力。

すると、近くの桜の木に落雷。
左門に当たったかと思うような衝撃と叫び声。
起き上がった左門と又八郎。

左門の髪の髷が解け、落ち武者のような風貌になっている。
ここから左門が妖怪じみてきます。
開いた口からは、真っ赤な舌が見える。
「俺は嗅足組を、日の当たる場所に出したかったのだ!胸を張りたかった!」

汚い仕事を請け負わされ、日の当たる場所に出ることもなかった左門の怨念。
執念が吹き出してきます。
村上さんの青江又八郎だって、無敵の使い手です。
これまでにいろんなライバルを倒してきています。

しかし、その怨念が左門を強くしている。
何か、邪悪なものが左門に力を貸しているのではないか。
そんな風にまで思える。

命のやりとりの中、左門が笑っている。
笑っていると思うが、顔を見ると笑っているわけではない。
でもやっぱり、笑っているように見える。

左門の髪の一部が白髪になって、メッシュが入っているように見える。
そこがまた、迫力。
ほとんど妖怪。

勝負は左門の刀が、又八郎の刀を弾く。
飛んでいく又八郎の刀。
小刀を抜き、対抗する。
さらに両手に小刀を持ち、対抗する。

しかし又八郎、顔を斬られる。
かつてない傷を負い、追い詰められていく又八郎。
ついに尻餅をつき、ジリジリと後退していく。

刀を振り上げる左門。
するともう一度、落雷が起きる。
左門の刀は、又八郎を貫いていると思われた。

又八郎の眼にもはっきり、死の恐怖が浮かんでいた。
佐知が悲鳴をあげ、又八郎にしがみついた。
だが左門の表情が固まっている。

動かない。
やがて左門が倒れる。
左門の体には、折れた桜の枝が突き刺さっている。

これですね、又八郎の側から枝は左門に突き刺さっているんです。
絶体絶命の又八郎が、折れた枝を手にして刺した。
そう理解してますが、落雷によって枝が折れて刺さったんでしょうか。
又八郎にとどめを刺そうとしていた背中に刺さっていたなら、雷で折れて刺さったんだなって思ったんですが。

仰向けに倒れる左門。
左門の様子をうかがう。
目をカッと見開き、起き上がろうとする左門。

しかし息絶える。
ホラーです。
近藤さんの熱演です。

原作は前作から10年以上経っている設定で話が展開します。
そのため、老いてきた主人公と登場人物が描かれ、ちょっと寂しい。
「用心棒日月抄」のシリーズなんですが、用心棒稼業をする状態ではない。

そこを曲げてドラマにしているので、ちょっと違和感がある。
二度と交わることがない道を行く者もいれば、老後に立ち寄る楽しみができた人物もいる。
原作では謎解きがメインで、躍動感ある場面はほとんどなし。

しかしドラマでは、近藤さんが見せ場を作ってくれました!
決闘の結末の解釈は、違うのかな。
桜の枝で刺すって、まるで「必殺仕事人」の政ですもんねえ。


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2016.12.30 / Top↑
時代劇専門チャンネルで放送している「幡随院長兵衛 お待ちなせえ」。
平幹二郎さん主演で、幡随院長兵衛が江戸一番の元締めになるまでを描いたドラマ。
沖雅也さん、小松政夫さんの出演を見ると、いけない「必殺」好きは「おっ、市松と亀吉!」なんて思ったりする。
第1話でビックリしたのは、出演者の中に「松平健」の名前があったこと。

どこ?
どこにいるの?
そう思って凝視した第1話。

旗本愚連隊、じゃないですが、旗本の無法者のグループが幡随院長兵衛に絡む。
リーダーになって長兵衛に無体を働いたのは、財津一郎さん。
「逃れの街」でヤクザを演じましたが、この方の悪役はなかなか迫力あるんですよね。

旗本愚連隊の中、無法を働く財津さんの背後にいる4人。
その中に見覚えのある顔。
あっ、松平さん!

「暴れん坊将軍」で言えば、街で町人相手に暴れて新さんに追い払われるような役です。
今や、時代劇専門チャンネルでも4ヶ月連続で特集するスター。
松平さんの貴重な出演が見られて、だから昔のドラマっておもしろい。


2016.08.03 / Top↑
中根の隠密であり、柳生十兵衛のひ孫である編笠十兵衛こと、月森十兵衛の活躍を描く話。
時は元禄。
刃傷松の廊下で取り潰された赤穂の浪士たちは、討ち入りを決心している。

中根平十郎は、これを助けようとする。
討ち入りを成功させることが、柳沢吉保に勝つこと。
柳沢吉保にとっては討ち入りを阻止することが、中根を追い込むことであった。
2人の激突は、2人が抱える隠密同士の激突でもあった。

第9話、「安売り天満屋異聞」。
天満屋嘉兵衛は、遠藤太津朗さん。
遠藤さんの男気ある善人役が見られる話。


江戸城。
老中・柳沢吉保は、廊下を歩く中根平十郎を呼び止めた。
「上様に何か御諫言でも?」
中根は上様にも意見ができる、ご意見番であった。

権力の絶頂にある柳沢にとっても、目の上のたんこぶのような存在だ。
「ただのご機嫌伺いです」。
中根は済まして応えた。

柳沢は言う。
上野の寛永寺に元赤穂浪士たちが集まり、年内の討ち入りの覚悟を表明した。
たくさんの密偵を抱える中根がこのことを。知らないとはありえない。
だが中根は逆に、これを知っている吉保こそ、相当の密偵を抱えていると言うことですなと言って、笑った。

吉保は、吉良を討つことは、公儀への謀反と思っていると言う。
「もし赤穂浪人に不穏な動きがあると知れば、厳しく取り締まる所存だ。どうか、そのおつもりで」。
柳沢が去って行く。
見送る中根は無表情に頭を下げていたが、顔を上げた時、その表情は一変していた。

近頃、江戸の呉服屋で売り上げを伸ばしているのは、上方から来た天満屋。
その夜、天満屋に火をかけようとしている数人の男がいた。
「おいっ!」

通りかかった浪人が、声を上げた。
それは赤穂浪士の1人、堀部安兵衛だった。
「火事だーっ!」付け火されたぞー!」
その声で、お店の者が飛び出してくる。

天満屋嘉兵衛も出てきた。
男たちと斬り合い、安兵衛は手傷を負った。
心配する嘉兵衛に安兵衛は「俺のことはいいから、早く火を消せ!」と怒鳴る。

十兵衛は火事のあった翌日、妻と子に早く早くと促がされていた。
天満屋が火事の無事を祝って、半額の安売りをするのだ。
妻の静江は、十兵衛を買い物に付き合わせようとしていた。

気位の高い江戸の呉服屋も天満屋を少し見習ってほしいと、静江は笑った。
天満屋は、大賑わいだった。
妻の反物を持たされた十兵衛は、店の奥に与力の井坂伝七が来ているのに気づいた。

天満屋は、井坂を送り出すところであった。
井坂は天満屋が差し出した菓子の皿を受け取り、その下の小判を受け取った。
そして「皿はいらぬわ!」と言って、帰って行く。
天満屋は「ご苦労様でございます」と頭を下げた。

井坂がいなくなると天満屋は、布団部屋に行く。
「堀部さま!何をしてはります!」
そこでは安兵衛が、布団をあげていた。

「そろそろ帰らねば。いつまでもここにいては、おぬしに迷惑が掛かる。これしきの傷で根をあげていては、大願成就はおぼつかぬよ」。
安兵衛は、井坂が天満屋に目をつけていることを心配していた。
どうも井坂は、赤穂の浪人と天満屋の関係を気づいていたようだ。

井坂の影には、柳沢がいる。
赤穂浪士とつながりがあると知れば、柳沢はすぐにでも天満屋店を取り潰すだろう。
自分たちへの協力をやめるのなら、今のうちだと安兵衛は言う。

「なんの。手前の志は。堀部様たちとおんなじでおます」。
「いったんお引き受けした仕事は、きっとやり遂げて見せますさかい、安心しておくれやす!」
天満屋は、きっぱりと言い切った。

堀部は裏口から出て行く。
十兵衛はそれに合わせるように表から出て、堀部を見送る。
声をかけようとしていた十兵衛だが、かけ損ねた。

その頃、天満屋の息子・吉太郎は矢場に出入りしていた。
矢場には、密偵のおれんがいる。
「たいした腕前だねえ」。
少しも的をかすらない吉太郎の放つ矢を見たおれんが、からかった。

おれんは矢を手にすると、すべての矢を見事に的に当ててみせる。
驚いた吉太郎は「わて、あんたとお友達になりたいわ。さ、一杯行こ」と酒を勧めた。
だがおれんは「それより…、もっといいところにご案内しますわ」と微笑んだ。

十兵衛は、中根と会っていた。
天満屋は赤穂と繋がっていたと、中根は言う。
「やはり。安兵衛が(天満屋から)出て来るのを見た時、そうではないかと思っていましたが」。

天満屋の生家は大阪で塩問屋を営んでいるが、赤穂の塩田開発に功績があった。
そのため赤穂の塩は、天満屋の兄の天野屋利兵衛が扱っていた。
弟の天満屋は呉服で、赤穂の奥向きにひいきにされていた。

つまり、兄弟揃って赤穂に恩がある。
問題は今も。赤穂の浪人たちを出入させている理由だ。
「天満屋が何をしようとしているか、探ってくれば良いわけですな」と十兵衛は聞いた。

天満屋嘉兵衛が、辺りを見渡しながら、店を出て行く。
寺の境内についた天満屋に「あっ、天満屋の旦那!」と声を上げた男がいた。
男は手代風の若い男だった。

天満屋が駆け寄る。
「しばらくだったな由蔵!兄さんからの言伝は」。
「はい、例の荷物は…」。

由蔵と呼ばれた男が何か言いかけるが、嘉兵衛は「しっ!」と抑える。
境内の影から、数人の男が出てきた。
「一緒に来てもらおうか」。

男たちは嘉兵衛を連れて行こうとする。
「御無体な。天満屋に何の御用ですか」。
「旦那様、お逃げ下さい!」

由蔵が匕首を抜く。
だがたちまち、浪人たちに斬られてしまった。
「由蔵!」

嘉兵衛が助け起こす。
浪人たちは嘉兵衛を連れ去ろうとする。
その時、十兵衛が駆けつけた。

「貴様何者だ」。
「人に名を問う時は、自分から名乗るもの。おぬしたちこそ、何者だ。誰に雇われた」。
「やかましい!」

浪人たちは十兵衛に襲い掛かるが、相手にならなかった。
刀を落とされ、浪人たちは逃げていく。
「由蔵!しっかりせい!」

嘉兵衛が由蔵を抱き起こした。
苦しい息の下、由蔵は「例の荷物は…」と囁いた。
「うん」。
「竜神丸で…」。

「竜神丸だな」。
由蔵はうなづくと、事切れた。
「由蔵!」
嘉兵衛は由蔵を抱きしめる。

十兵衛は嘉兵衛と話をした。
「では、一昨日の付け火も、奴らの仕業だと言うのか」。
嘉兵衛は、犯人は江戸の呉服屋ではないかと言った。
「いや、それは違うな。いか下に商売敵とはいえ、やり口があくどすぎる」。

「あつらの目当ては、おぬしの口から赤穂とのつながりを聞き出すことだったのではないか」。
十兵衛の言葉に、天満屋はうろたえ、目を伏せた。
だが「何をおっしゃいますやら」と口調は、平静であった。
「先刻殺された男、大阪の塩問屋、天野屋の手代だと言ったな。今わの際に、竜神丸と言い残している。どういう意味だ」。

「別に深い意味はございません。それより、あんさんはどういうお人ですか」。
「俺か。俺は安兵衛の友達だ」。
「堀部はんの!」

「おぬし、赤穂の連中のために、何をやろうとしているのだ。ことと次第によっては力にならんでもないぞ」。
だが嘉兵衛は慎重だった。
「せっかくですけど、ご心配には及びまへん」。
嘉兵衛は表通りに出ると「ここまで来たら大丈夫です。ありがとうはんでし」と十兵衛に礼を言って去っていく。

「何い!」
さきほどの浪人から報告を受けた井坂は、声を上げた。
「天野屋の使いを斬ってしまったのか」。
「向こうから斬りかかってきたので、な」。

「無益な殺生はする、天満屋は取り逃がす。柳沢さまも、結構な助っ人を寄越してくれたもんだ」。
やはり、あの浪人たちは柳沢の手の者だった。
井坂の皮肉に浪人は「後一歩のところまで行ったんだ。あの編笠の浪人に邪魔されなければ」。

それを聞いた井坂は「編笠だと?」と、飛び上がった。
「あの野郎、またでしゃばってきたのか!」
「あははは」。

笑い声が響いた。
おれんが笑ったのだ。
「何がおかしいんだよ、おれん」。

不快そうな井坂におれんは「あんたたちのやることは見ていられない、ってことだよ。ここはあたしにまかせておおき」と笑った。
「何か、あてでもあるのか」。
「おれんさまを見くびっちゃいけないよ。もうとうに種は撒いてあるのさ」。

翌日、天満屋の息子の吉太郎は、店の者が働いている中、店の売上金を見つめている。
そこから小判を握り、出て行く。
嘉兵衛が見ていた。

目に前に立ちはだかった嘉兵衛に吉太郎は「見てたのかい」と言った。
「何べん言うたら、わかんのや。さあ、銭をお返し」。
「しこたま荒稼ぎしてるのやろ。しみったれたこと、言わんといてえな」。

それを聞いた嘉兵衛は鋭く言った。
「おのれが汗水たらして、稼いだ銭なら、なんぼ使こうても構へんわい!けど、お前は商いのひとつも覚えんと、ただ無駄遣いしているだけやないか」。
吉太郎はウンザリと言った表情で「またかいなと言った。
「お父はん、お説教はもう、聞き飽きたわ。お父はん、わては知ってるんやで。一昨日、匿ってた浪人、元赤穂藩の堀部、言うひとやろ」。

「お前、そのこと!」
「誰にも言わんわ。誰にも言わよって、お父はんもわてのやることに口出しせんといて」。
吉太郎は出て行く。
嘉兵衛は怒りで、わなわなと震えていた。

吉太郎は、おれんと待ち合わせしていた。
「すっかり大人の遊びに夢中になってしまったね」。
「はよ、行こう」。

おれんは吉太郎を博打場に連れて行った。
吉太郎は調子よく、勝ち続けた。
おれんは吉太郎をすごいと持ち上げた。
吉太郎は気をよくした。

「今しばらくのお待ちを。ワナは仕掛けております」。
おれんは、柳沢にそう報告していた。
天野屋が購入した武器は、弟の天満屋の手に渡るに違いない。

「いかに赤穂に恩があろうとも、町人の分際でお上に楯突くとは、許せない」。
柳沢の口調は、バカに仕切っていた。
「思い知らせてくれるわ!」

安兵衛に会いに行った十兵衛は、つまり天野屋は私財で武器を買ってくれたということだと言った。
しかし十兵衛は、天野屋が調達した武器の中に鉄砲が5丁あったことを聞いていた。
お上はことのほか、鉄砲の流通に神経を尖らせている。
鉄砲が赤穂の浪士の手にあることを知れば、討ち入りどころではない。

吉良の用人のことを思えば、飛び道具を使うのもやむを得ないと安兵衛は主張した。
だが、たとえ仇討ちを成し遂げても鉄砲を使ったとあれば、謀反人となる。
江戸の町で、鉄砲を使ったとなれば、印象もだいぶ違う。

「なあ、安ベエ鉄砲はやめておけ」。
「そんな物を使わなくても、赤穂の者たちに意気があれば、吉良の用人たちなど怖れるに足りないはずだ」。
しかし、安兵衛は黙っていた。
安兵衛と会って帰る十兵衛は、吉太郎とすれ違う。

吉太郎はおれんと待ち合わせて、博打場に行くところだった。
「今日は何でこんなにつかへんのや」。
まるっきり当たらない博打に、吉太郎はため息をついた。
その時だった。

井坂による手入れが入った。
吉太郎は、捕らえられた。
おれんも、壷振りも客も全員逃げた。
捕らえられたのは、吉太郎だけだった。

与力の井沢は、吉太郎をたたきで責めた。
血だらけの吉太郎のところに、嘉兵衛が連れてこられる。
「吉太郎!」
「お父はん!」

「来たか、天満屋」。
嘉兵衛を見た井坂は、ほくそえんだ。
「井坂さま、申し訳ありません」。
「気の毒だが、島送りは決まりだな」。

「何で俺だけが!」
吉太郎は叫んだが、井坂に叩きのめされた。
嘉兵衛は井坂に、袖の下を握らせる。

だが井坂は中を見て、「2両?ふざけんな!」と小判を地面に叩き付けた。
「お前の了見次第では、あのバカ息子を見逃してやらんでもないがな」。
「手前にできることなら、なんなりと言うとくれやす」。
嘉兵衛は悲壮な声を出した。

井坂は声を潜めた。
「お前、赤穂の浪人たちのために武器を調達しているだろう」。
嘉兵衛の顔がこわばった。

「いつどこで、赤穂の浪人どものために武器を引き渡すか。それさえ言えば、お前もあのバカ息子も見逃してやるわ」。
嘉兵衛は黙った。
「言え!天満屋!」
井坂は棒を、嘉兵衛にも押し付けた。

「息子がかわいくねえのか!」
「天満屋は、何にも存じません」。
悲壮な顔つきで、それでも天満屋は言う。
「お父はん!」

「こいつがどうなってもいいんだな!」
井坂は一層、手荒く吉太郎を叩く。
「しょうがありません。知らんもんを、知ってるとは言えまへん」。

それを聞いた吉太郎は悲鳴のように叫んだ。
「嘘や!」
「オヤジは、嘘を言ってるんや!」

「それでも親か!」
「わてよりも、赤穂の浪人の方が大事なんか!」
嘉兵衛は目を閉じた。

「言えよ天満屋!」
井坂は嘉兵衛屋も叩いた。
だが嘉兵衛は黙っていた。

「ようしわかった!2人まとめて、島送りにしてやるわ!」
井坂が言い放った。
それを外から見ていたおれんは、苦しそうに目を伏せた。

罪悪感で一杯だった。
「まさか、こんなことになるとは思わなかった」。
そうつぶやいて、おれんは辛そうに立ち去る。

夜。
1人、やりきれない思いで屋台で飲むおれんに、十兵衛が声をかけた。
「後悔しているのか、自分のしたことを」。
「編笠…」。

「お前、天満屋親子をワナにはめたであろう」。
「それがどうしたってんだ。あたしゃ密偵だよ!人を欺くのが仕事なんだよ!」
「だがな、おれん。天満屋が口を割らなかったら親子揃って島送りに。下手をすれば、命さえうばわれるかもしれんのだぞ」。
「まさか命までは」。

「いや、柳沢殿ならやりかねん。お前もそれを知っているからこそ、こうして酒で気ををまぎらわせているのではないか」。
「やめとくれ!あたしゃそんな、やわな女じゃないんだよ」。
「それならいいんだが」。

番屋から、嘉兵衛だけが放り出された。
嘉兵衛は吉太郎の名を呼ぶ。
だが井坂は「バカを申せ。吉太郎は天下の情報を破った大罪人だ。おいそれと返すわけにはいかない!」と突き放した。

「旦那、待っとくれやす!」
浪人の頭が「本当に良いのか。奴をこのまま放免して」と聞く。
だが井坂は、天満屋を放免し、武器を渡すところを抑えると笑った。
「見てろよ赤穂の連中、今度は絶対に見逃さん」。

廻船問屋に、十兵衛は竜神丸と言う船が着くことを聞きに言ったが、人足には知らないと言われる。
帰り道、十兵衛は人足たちに囲まれた。
「早まるな、俺は赤穂の味方だ」。
人足たちは、ギョッとした。

竜神丸が着いた。
船着場で、天満屋は船が着くのを見守っていた。
「大丈夫か」。

船から荷物が降ろされる。
「気いつけておくれや」。
「旦那あ」。

船の人足に嘉兵衛は「ああ、ご苦労はんご苦労はん。ほなこれ、約束の手間賃。お世話さんでした」と言って金を渡す。
「さあ、運んでらおうか」。
「へい」。

荷物を運んでいく一行。
すると、目の前に井坂が現れる。
「待てや!

「とうとう年貢の納め時だな。おい、中を改めろ!」
井坂の声は、弾んでいる。
「ご、御無体な!やめなはれ」。

「うるさい!中に赤穂の連中に渡す武器が入ってるのは、わかってるんだ!」
荷物の蓋が開けられ、反物が見えた。
同心たちは、反物を取り出し、中を見る。
「井坂さま!」

「何だコリャ?!反物ばっかりじゃねえか!」
井坂は反物を抱えて、怒鳴った。
「そうだすがな。大阪から取り寄せた、安売りの品物ですがな」。

「ちっきしょう、はかりやがったな天満屋!」
井坂は怒り、反物を放り出す。
「そっちがそういうつもりならな、こっちにも考えがあるからな。おい、連れて来い!」

叩きのめされ、着物も脱げかけ、髪も乱れた吉太郎が引き立てられてきた。
「吉太郎!」
嘉兵衛が叫ぶ。

「天満屋、せがれがどうなってもいいのか。俺たちは本気だぞ。良く見ておれ!」
そう言うと、浪人の頭が刀を抜き、吉太郎に向かって振り下ろす。
「はっ!」

吉太郎の胸元に、一筋の血の筋が走る。
「吉太郎!」
「天満屋、言う気になったか」。

「おとうはん、言うて。わてが、わてがどうなってもええんか!」
吉太郎も叫ぶ。
だが嘉兵衛は、目を固く閉じていた。

「こうなったらしかたがない」。
「おい、バカ息子!恨むなら薄情な親を恨めよ」。
井坂がそう言うと、浪人の頭が刀を構え、振り下ろした。

その時、嘉兵衛が浪人を突き飛ばし、刃の前に出る。
吉太郎を抱きしめ、かばう。
刃は、嘉兵衛の背中を斬った。

「吉太郎!」
「お父はん!」
2人はしっかり、抱き合う。

「親子ともども、あの世に送ってくれるわ」。
振り上げられた刀に向かって、石が投げられる。
全員が振り向いた。
十兵衛が走ってくる。

「きさまあ!」
井坂が叫ぶ。
十兵衛はたちまち、捕り方を叩きのめす。
だが、みね打ちだ。

十兵衛が刀を返した。
浪人に向けた刀の刃が、くるりと逆向きになる。
みね打ちではない。
今度は、浪人に刃が向く。

井坂がおろおろとする。
頭が、十兵衛と向き合う。
斬りこんで来る。

十兵衛は、刀を斬り払う。
返す刀で、今度は下から斬り上げる。
そして、井坂を見る。
井坂が後ずさりしていく。

「た、助けてくれ」。
井坂の腰が抜ける。
「人の命を虫けらのように扱いながら、自分の命は惜しいというのか」。
「俺のせいじゃない。まさか、こんなことになるとは思ってなかったんだよ」。

井坂の声は、悲鳴のようだった。
斬られる。
十兵衛の刀が宙を舞う。
「うわあああああ」。

井坂が叫ぶ。
髷が飛んでいた。
髪が、ばさりと、肩に落ちてきた。

それを見た井坂は「うわああああ」と叫んだ。
「どけーっ!」
井坂は部下たちを突き飛ばし、走って逃げていく。

「お父はん、大丈夫か」。
吉太郎が、嘉兵衛を抱き起こす。
嘉兵衛は吉太郎を「吉太郎すまなんだ」と見上げた。
「どうしてもわしは…、男の約束を果たしたかった」。

嘉兵衛は目を閉じた。
「わてはお父はんに見捨てられた…、そない思ってた」。
「そやけど、わてを庇ぼうて!」

吉太郎が泣き叫んだ。
「誰がかわいいせがれ、見捨てるもんか」。
嘉兵衛の声は、しっかりしていた。

「お前は、たったひとりの跡取りやないかい…」。
「お父はん!」
十兵衛の顔が微笑む。

「心配するな。命に別状はない」。
そして嘉兵衛の顔を見て、「父親の気持ち、やっと通じたようだな」と言った。
「けど、いっぺんは、ほんまにせがれ、捨てるつもりやった…」。

「悪い親だす…!」
嘉兵衛はそう言うと、泣いた。
「言うな。その男気こそが、息子の命を救ったのだ」。

「それに赤穂の連中もな」。
吉太郎が嘉兵衛の手を、しっかりと握る。
その目は、父への愛と尊敬に溢れていた。

武器は無事、浪士たちの元へ届いていた。
十兵衛がやってくる。
安兵衛に「鉄砲が見当たらないが、どうした?」と聞いた。

「海へ捨てた」。
「捨てた?」
「おぬしの言うとおりだ。鉄砲など使っても殿は喜ばんだろう」。

天満屋は繁盛していた。
そこには、店の店頭に立って、呼び込みをしている吉太郎がいた。
嘉兵衛は店の奥から吉太郎を見て、優しく微笑んでいた。



遠藤太津朗さんの、漢ぶりが感動を呼びます。
まさに男気溢れる男。
天野屋さんの影になっていますが、天満屋も赤穂浪士を支えた一人。

芯が強く、それでいて人情に厚い。
全然、違和感がない。
さすがです。

ひどい目にあっても、信念は揺らがない。
つらそう。
しかし耐える。
この遠藤さんの表情に、無事を祈らずにはいられません。

口は割らない。
だが、息子と一緒に死ぬつもりだった。
この父親の気持ちに気づいた息子も、立ち直る。

息子はちょっと、この立派な父親にコンプレックスを感じていたのかも。
母親もいないから、うまく橋渡しをしてくれる人もいなかった。
赤穂浪士の話の前に、父親の愛情を感じられず、すねていたんじゃないか。

「悪い親や…」。
この遠藤さんの表情、口調。
いろんな思いが込められていて、つらさ悲しさを痛いほど感じる。
「そんなことない!」と言いたくなる。

嘉兵衛がどんな気持ちでいたのか、遠藤さんが感じさせてくれる。
あの顔を見てあの口調を聞いたら、そんなことない!と言いますよ。
だから吉太郎も、そうだったと思う。

遠藤さんは、井坂伝七を演じていたかもしれない。
そこを天満屋にしたスタッフさん、すばらしい。
伝七を演じているのは、六平直政さん。
残酷で、調子良くて、滑稽で、子供っぽくて、どこかおかしい。

「言えよー、天満屋ー!」
「何だこりゃあ!」
「むきーっ!」
良いですよ、この言い回し。

柳沢は西田健さん。
中根平十郎は、津川雅彦さん。
どちらも済ました顔をして、その顔の下ではバチバチに火花が散っている。

静江は、藤真利子さん。
物語に、華と明るさを添えてくれます。
この無邪気さが、十兵衛の安らぎなんですね。

おれんは、大沢逸美さん。
実は優しさが捨てられない、精一杯非情を装っている。
魅力的な役ですが、悲劇を予感させます。

十兵衛の活躍は、やっぱりカッコいい。
胸がすく。
でも今回の主役は、遠藤さんです。
私には、遠藤さんですね。

良い俳優さんです。
本当に良い俳優さんだと思いました。
吉太郎が、ひかる一平さんだったら…、とは、ちらりと思いました。

でもそれじゃ、「必殺」を見ていた人は集中できなかったかな。
似合うと思いましたが。
「編笠十兵衛」では、「必殺」で流れた音楽も、たまに流れます。

この話、遠藤さんを堪能するのに、オススメの1本です。
その善人ぶりも、演技も楽しめます。
やっぱり遠藤さんは、好きだなあ。
時折、「必殺」で聞いたような音楽が流れます。

2016.04.19 / Top↑
このところ、時代劇専門チャンネルで、毎週、「総集編で見る大河ドラマ」を見ています。
ものすごい久しぶりというか、もうほとんど初見に近い。
NHKの大河ドラマ「勝海舟」を、総集編で見ました。

渡哲也さんが勝海舟だったと思ったのが、途中で松方弘樹さんになって、その理由がわからなかった。
自分の勘違いだと思ってました。
松方さんも良かったですが、渡さんも相当に良かった。
渡さんの海舟も、見たかった。

「勝海舟」でたびたび話題になるのは、若き日の萩原健一氏の岡田以蔵。
人斬り以蔵です。
萩原さんこと、ショーケンについては私よりこの方に書いてほしいという方がいらっしゃる。
この方が書くべきではと考えているのですが、これはやっぱり良かった。

「龍馬伝」で佐藤健さんが、哀しい以蔵を演じて印象に残りました。
この「哀しい人斬りの若者」の元って、ショーケンの以蔵なんじゃないでしょうか。
教養もなく、身分も低い以蔵の武市半平太に対する尊敬と献身が、空回りする。
「斬ってくれないか」ではなくて、「斬れ」と言ってくださいと以蔵は言う。

その以蔵に命じられた人斬りは、勝海舟だった。
武市先生も偉い人だが、勝先生も偉い人だ。
そして、勝先生のことは大好きだ。

張り裂けるような思いで、勝に会いに行く以蔵。
斬れない。
勝について夜道を行く以蔵は、逆に襲ってきた刺客を斬り伏せてしまう。

すべてをわかっている勝は、以蔵にここから離れろと言う。
やがて以蔵は捕らえられ、土佐に引き渡される。
散々、汚い仕事をさせられた挙句。

その様子を知った勝の心は、痛む。
以蔵は籠に乗せられ、まるで家畜のように運ばれる。
籠の隙間から勝を見た以蔵は、知らない人だと言う。

役人は、あれほど恩を受けた奉行に対して、無礼だと怒る。
でもそれは以蔵の勝に対する、迷惑をかけまいとする精一杯の思いなのだった。
それがわからない勝ではない。

以蔵を救えない。
蔑まれ、動物のように殺される以蔵。
救えなかった。
人を斬るのは、楽しいか。

以蔵は、そう聞かれた。
だが以蔵の目は決して、血に飢えてもいなかった。
楽しそうでも、充実感に溢れてもいなかった。
ただ、ただ、哀しく、寂しそうだった。
人を斬ることでしか、以蔵は尊敬する相手に尽くせないと思っているようだった。

でも、自分が相手を思うほど、相手は自分を思ってはいない。
わかっていながら、以蔵はそうするしかなかった。
その先に破滅が待っているとわかっていても、そこに向かって行くしかなかった。
ショーケンには、以蔵ってこういう青年だった!と思わせる力があった。

以蔵は、ショーケンみたいな青年だったんじゃないか?
いや、ショーケンがこの時代にいたら、以蔵になったんじゃないか?
勝のような大人と、もう少し早く、以蔵が出会えていたなら。
そんな以蔵は、悲しく、切ない。

歴史を扱う大河ドラマ。
その放送された時代の俳優さんも、時代の空気も感じることができる。
過去のドラマはいろんな意味で、ちょっとしたタイムマシーンになります。


2016.03.09 / Top↑
松田優作氏主演のテレビドラマ、3話完結の「熱帯夜」。
ものすごく、久しぶりというか、初見から何十年(笑)。
初めて再放送というか、2回目を見ました。
まだ1話目だけですけど。

ぼんやりと覚えていたのは、松田優作氏が演じる男が、桃井かおりさんが演じるサラリーマン金融に勤める冴えない女性と知り合う。
場所はプラネタリウムか、映画館だったなと思いました。
桃井さんは厚く、やぼったいメガネをかけている。
それを松田氏が外して、コンタクトにしろと言う。

コンタクトにすると、桃井さんはメガネに隠されていた美しい顔を現す。
そして松田氏はサラ金に強盗に入る。
桃井さんを人質にして逃げるが、2人はグルだった。

髪をばっさり切った桃井さんと松田氏は、ファッショナブルに変身。
街で彼らのスナップを撮ったことがきっかけで、ファッションカメラマンが道連れになる。
2人を連れて検問が行われている道路を、カメラマンが通過する。
一応、警官は後ろの座席の2人を見るが、「海で撮影です」「そちらの方はモデルですか」で通過。

このカメラマンは、彼らの強盗の旅を撮影することになる。
松田氏と桃井さんは、各地で銀行強盗をする。
マスコミは彼らをファッショナブル強盗と名づける。

しかしこの旅もやはり、終わりが来る。
ラブホテルで監視カメラを壊したことから、ホテルのオーナーが警察に連絡。
ここから、彼らは次第に追い詰められていく。

せんだみつおさんが演じるカメラマンは、最後に彼らが警察に包囲されると被害者を装う。
「助けてくれー」と言って、走って警察に保護される。
そして彼らが蜂の巣になるの最期までを、撮影する。

どうして、彼らはこんなことをしたのか。
「熱帯夜で眠れない」。
「暑いんだよ」。

確か、そんな理由だったんじゃないか。
こういう記憶でした。
違っていた部分や、合っている部分があって、自分の記憶の確認作業もおもしろい。

今見てわかったんですが、桃井さんが喋る時少しつかえるという設定があったんですね。
「みんなして、バカにして」と彼女はつぶやく。
そうか、鬱屈とした毎日を送っていたんだ。

必ずしも恵まれていない境遇。
いつか見返してやりたいという思い。
この2人が出会ったことで、それは強盗という形になった。
うーん、そう考えると、出会ってはいけない2人だったんだな。

「熱帯夜」だけど、今に比べたらまだまだマシでしたね。
今はもう、日本の夏は亜熱帯。
この頃は、そこまでひどくはなかったと思います。

熊谷真美さんが演じる風俗嬢と、彼女が連れてきた男性・ケーシー高峰さんも道連れになったんですね。
こちらはすっぽり、記憶から抜けていた。
ごめんなさい。

脚本が早坂暁さん。
さすがです。
おそらく、「俺達に明日はない」のボニーとクライドが下敷きなんでしょうね。

日本でこれはないな、と思うところもありますが、当時は素直におもしろく見ていました。
今も、おもしろいです。
宇崎竜童さんの主題歌にも、覚えがあります。

2015.11.08 / Top↑