日本怪談名作劇場。
第7話「怪談 玉菊燈籠」。


『吉原の夜を彩るものに遊女の白無垢と、玉菊灯篭があります』。
花魁が語る。
吉原に伝わる悲しい話が、燈籠流しをする、花魁の口から語られる。

ある冬の夜。
「覚悟は良いな」。
「はい」。

踊りの師匠の菊と、旗本・樫山家の跡取り息子の主水正が心中した。
だが死んだのは主水正だけで、菊は生き残ってしまった。
心中の生き残りとして、路傍にさらし者にされる菊。
人々はおもしろい見世物を見るように、寄ってくる。

「この子に見せてやっておくれ!」と叫ぶ母親がいた。
「色だの恋だの、身持ちが悪いとこうなるんだよ!」
母親はそう言って、菊を良く見るように娘を突き出す。
菊はあごをつかまれ、顔をさらされる。

着物のすそが乱れ、足が露わになる。
蔑まれ、笑い者にされた挙句に、菊は吉原に売られ、奴女郎として一生働くことになるのだ。
人々がそう言う。

吉原で女郎になり玉菊と名を与えられた菊だが、その美しさに客はついた。
しかし玉菊は、死んだように何にも反応しない。
悲しむ顔もしないが、笑いもしない。

およそ、人間らしい感情というものが感じられない。
何に対しても、玉菊は無反応であった。
イライラした客が郭に文句を言うと、玉菊は折檻される。
ついに首を吊ろうとした玉菊だが、発見され、また折檻を受けるだけであった。

そんな玉菊の様子を見ていられなくなった花魁が、玉菊を自分の座敷にも呼ぶようにしてくれた。
ある夜、玉菊に1人の客がつく。
「お客人、こちら、玉菊太夫」。

やり手婆の声に、相変わらず死んだような目をした玉菊が振り返り、客の顔を見た。
それまで何も言わず、表情ひとつ動かしたことがない玉菊の口が開く。
目が見開く。

客の男は、玉菊を見る。
その目が、残酷に細くなる。
玉菊が息を呑む。

心中の時。
死ぬ前に、主水正の刀で玉菊は自分の指を切った。
指から流れる血を、主水正は唇でぬぐった。

客の顔は、主水正その人であった。
「もんどのしょうさまあ!」
玉菊が絶叫する。
まるで突然、人形がしゃべったかのようだった。

「うわああああ!」と悲鳴を上げ、玉菊が客の首に抱きついた。
「ひどい人!」
「どうして!どうして!」

抱きついた玉菊が、今度は狂ったように笑う。
「玉菊さんが!」
やり手婆が驚いて、階段を下りて郭主の巴屋に報告する。

玉菊は男の首にかじりつき、泣き叫んでいた。
「似ているか!」
客が口を開いた。

「顔が似ているか!」
「似ているはずだ。俺は樫山源吾。主水正の弟だ!」
玉菊が驚き、客の顔を見た。

「兄者を殺し、樫山家を取り潰し、自分は平気で生き延びて、夜毎数知れぬ男の慰み者になっている女はmどんな顔しているかと思ってな!」
「それでこうやってやってきたのだ」。
玉菊は顔を伏せた。

「なぜ死なぬ!」
「そなた、なぜ兄者のところへ行ってやらぬのだ!」
男の厳しい声に、玉菊は「わああああ」と泣いた。

「死ぬのが怖いか。おい!」
玉菊は、肩をつかまれた。
「何度死のうと思ったことか、主水正の元へ行きたいと思ったか。でも、死ねませんでした…」。
玉菊は鳴き崩れた。

そして、源吾に向かって「どうぞ、殺してくださいませ」と手を合わせた。
「お願いでございます」。
源吾の手が、玉菊の首に掛かった。

「うれし、い」。
源吾の手が、玉菊の首を絞めていく。
玉菊の手が愛しいものに触れるように、源吾の手に触れる。
源吾の手が止まった。

玉菊を締めていた手が緩んだ。
すると、玉菊が咳き込む。
そのまま目を閉じて仰向けになった玉菊の顔を、源吾が見つめる。

花魁の声が響く。
『愛を得て、玉菊さんは再び、生きているおなごとして蘇りました…』。
その夜から、源吾は玉菊の元へ通い続ける。

「お前は、拙者の胸のうちがわかるか!」
他の座敷に呼ばれた玉菊の手を引っ張り、源吾が他の客を取ることを責める。
「お願い、苦しめないで」。

「気が狂いそうなんだ。いてもたってもいられぬ」。
玉菊は、源吾の背中に顔を寄せる。
「あなたは私の命です…」。
玉菊が言う。

「あなたにお目にかかるまで、私は死ぬことしか考えていなかった。それが今は…!」
「こうして、お目にかかれる時だけのために、私は生きていたい。何としても生きていたい」。
だが、源吾の顔が曇る。
「俺は身代わりか。兄者主水正の幻なのか」。

お大尽の奈良屋が、花魁の座敷に上がった。
奈良屋は玉菊の踊りを所望したが、玉菊は辞退した。
この座敷に呼ばれるだけでも幸いなことなのに。
周りがあわてるが、玉菊はあの踊りの師匠は、今はこの世におりませんと言い放った。

「今ここにござを汚しておりますのは、遊女玉菊というふつつか者の。お目にかける踊りはございません」。
しかし奈良屋は、玉菊を身請けすると言い出す。
あんな気風の女はいない。
「惚れました」。

巴屋も女将も、大喜びだった。
だが奈良屋は、「玉菊には悪い虫がついているようですね」と言った。
そこで巴屋と女将は、源吾を始末することにした。

やり手婆の1人のおりきは玉菊に、前から女将の鼻をあかしてやりたいと思っていたと言った。
だから源吾と玉菊を逃がしてやると、おりきは持ちかけた。
一方、忘七の1人の七之助は、源吾にも同じ話を持ちかけていた。

だが吉原を出る時には、吉原同心の調べが入る。
ところがこの話には、同心の斎藤左馬之助が噛んでいるのだ。
左馬之助は以前から、玉菊に思いを寄せていた。
逃がしてやる代わりに、左馬之助は玉菊に襲い掛かる。

一方、源吾は七之助との約束で、百両作るため、家宝である刀を売った。
「よろしゅうございます」。
道具屋はすぐに返事をし、刀は百両になった。

吉原を、駕籠が出て行く。
駕籠は、左馬之助の前で止まった。
左馬之助は駕籠の中を見るが、許可した。

七之助は源吾が待つ小屋に、百両を受け取りに来た。
だが源吾は、玉菊が確実に来るとわからないうちは渡せないと言った。
すると七之助は、信じられないのなら、自分を斬れと言う。
そこまで言うならと、源吾は七之助を信用した。

『怖ろしい時が近づいていることを、2人は知りませんでした』。
約束の時刻の鐘が鳴る。
源吾は七之助に百両を渡した。

おりきが小屋にやってきて、源吾と玉菊が落ち合う場所に連れて行こうとした時だった。
戸を開いたのは、左馬之助とそれに率いられた捕り方たちだった。
源吾は玉菊を連れ出そうとした罪で、捕らえられた。

捕らえられた源吾の竹光を目の前にかざし、七之助は「こいつが初めからわかってたから、こちとら威勢の良い啖呵を切りましたのさ。へへへ、おあいにく様で」と笑った。
怒った源吾は捕り方を突き飛ばし、竹光を構える。
「竹光だ!」
笑い声が上がる。

しかし源吾は竹光で捕り方を1人、突き刺した。
七之助の顔色が変わる。
源吾は竹光を振り回し、捕り方をまた1人叩きのめした。

おりきの顔色も変わり、「七さん!」と叫び、逃げ出す。
玉菊は、源吾が来るのを待っていた。
「殺せ殺せ、殺せ!」
左馬之助が捕り方に叫んだ。

捕り方の刀が、源吾に刺さった。
倒れた源吾は砂利をはいずり、玉菊の元へ行こうとする。
七之助が玉菊のところに来て、「けえるぜ」と言う。

玉菊が何かを察し、七之助を振り切って、夜道を走り出す。
おりきと七之助が追っててくる。
「源吾さまあ!」
「いやあああ!」

狂ったように玉菊が叫び、走ってくる。
倒れた源吾を見て、駆け寄る。
「逃げろ、玉菊、逃げろ!俺に構うな、逃げろ!」
「ははは、この侍、まだ玉菊の色のつもりでいるわ!」

七之助が笑う。
「源吾さまあぁあ…」。
「おい、この玉はな、もう奈良屋のお大尽が買占めたのよう」と七之助が言う。

おりきが、「いいかい玉菊さん、この男が死ぬとこを良ぅく、見ておくんだよ」と言った。
「だ、ました、ねぇえ…」。
玉菊が恨みを込めて叫ぶ。

「ひひひひ」と、おりきが笑う。
玉菊がつかみかかる。
七之助が引き剥がし、おりきが玉菊を引っぱたく。

「源吾さま、源吾さま!」
左馬之助も、玉菊を十手で引っぱたいた。
「玉菊ぅ」。
「源吾さまぁ」。

突如、落雷する。
みな、地面に伏せた。
落雷し、燃え上がる木の下に、源吾が立っていた。
源吾が、崩れ落ちる。

「源吾さま、源吾さま」。
玉菊が駆け寄る。
源吾は絶命していた。
玉菊が泣き叫ぶ。

血まみれの源吾の手に、竹光が握られていた。
玉菊が震える手で、その竹光を手から離す。
竹光の刃を握り締め、「あなた1人では…」とつぶやく。
「やりませぬ!」

玉菊がキッと、前を見据える。
「私も参ります!」
そして今度は、左馬之助たちを見据える。
「うらめ、し、や」。

「私たちを騙した、1人、1人に…」。
玉菊が、なめるように左馬之助たちを見る。
「この恨み、このうらみ…」。

そう言うと玉菊は、竹光を胸に突き刺した。
再び、顔を上げる。
口から血が流れる。
その目で見つめられた左馬之助の顔色も、変わる。

郭の裏口で七之助が、「お前さんが言ってくれよ」と、おりきに話をしていた。
「死にましたってかい?冗談じゃないよ!」
そう言いながら、2人は小判を分けていた。
床に1枚、小判が張り付いている。

七之助がそれをはがそうとするが、はがれない。
やっとのことで引き剥がしたが、その小判には恨みの形相の玉菊が映った。
「ぎゃっ」。
七之助が思わず、小判を落とす。

源吾の上で、息絶えた玉菊の姿。
その上に、もう1人の玉菊が映る。
立ち上がったもう1人の玉菊は、そっと源吾の上に覆いかぶさる。

「ふう」。
源吾が息を吹き返した。
自分の上で死んでいる玉菊を見る。

「玉菊。なぜ死んだ!」
「なぜ死んだ!」
源吾が泣く。

だが玉菊の手には、売ったはずの源吾の刀が握られていた。
「これは…、これは拙者の!どうしてここに…」。
「玉菊!」

源吾が玉菊を抱きしめる。
「お前に代わって、この刃で恨みを晴らしてやる!玉菊!」
源吾が刀を抜く。

巴屋の主人と女将、七之助とおりき、左馬之助が奈良屋を前に酒を飲んでいた。
奈良屋は「ほしいものは必ず手に入れると言った奈良屋。生まれて初めて、見事袖にされました。見上げたおなごもあればあるもの」と言う。
「もうしわけございませぬ」と言いながら、巴屋と女将は笑っていた。

奈良屋が盃を口にしようとして、ふと手を止めた。
酒は真っ赤に変わっていた。
「血、血だ!」
奈良屋が盃を放り出すと、畳に血が飛び散る。

巴屋も、女将も、左馬之助も息を呑む。
ひゅうう。
風が吹いた。
ろうそくが消える。

おりきが最初に、悲鳴を上げた。
天井から、燈籠が下がってくる。
全員、恐怖に畳に顔を伏せ、這いつくばる。

左馬之助が、燈籠を斬ろうとする。
部屋から出ようとした奈良屋が、驚いた。
廊下に立っていたのは、血まみれになった源吾であった。
目を血走らせた源吾が、刀を片手にやってくる。

「キサマぁ、死に損なったか」と左馬之助が言う。
「拙者にも、意地がある」。
源吾が言う。
「女郎にも、まことがあるのだ」。

そう言って、源吾は刀を抜いた。
左馬之助と源吾が、向き合う。
2人が斬り結んだ時、源吾はぎろりと巴屋と奈良屋を見た。

全員が怯えきって、逃げ惑う。
「ひええええ」。
斬りかかる左馬之助の刀をはじき、源吾の刀は七之助を貫いた。
恐怖に歪んだ七之助が、腹を押さえて倒れる。

「ひえっ!」
次に源吾は、おりきをにらむ。
左馬之助が斬りかかった隙に、奈良屋たちは戸を開けて外に逃げようとした。
しかし戸の前には、青い顔をした玉菊が立っていた。

「ひゃあああっ!」
一同は、表に出ることができない。
「きゃあっ!」
左馬之助と斬りあっていた源吾の刀が、おりきを斬る。

「ぎゃあああ」。
おりきが叫ぶ。
源吾はおりきから刀を抜くと、巴屋を斬った。
そのまま、今度は腰を抜かした女将に刃を突き立てた。

おりきの死体に寄りかかられて身動きが取れなかった左馬之助が、やっとおりきを突き放し、源吾を斬る。
源吾が立ち上がると、その首筋に刀を振り下ろす。
その隙に奈良屋が逃げようとするが、目の前には白い顔をした玉菊がいた。

「うわっ」。
奈良屋が飛びのき、巴屋の死体につまずいて転ぶ。
源吾がもみ合っている左馬之助を突き飛ばして、走る。
奈良屋を一刀の元に斬る。

その背後から、左馬之助が源吾を斬った。
源吾が振り向くと、左馬之助は源吾を蹴り飛ばす。
「おのれ!」
留めを誘うと刀を振り上げた左馬之助を、玉菊がにらんだ。

「ひっ!」
玉菊と目が合った左馬之助の動きが、止まった。
息が止まる。
その時、源吾が立ち上がり、左馬之助を刺し貫いた。

「ぐわああああ」。
左馬之助が倒れる。
息絶える。

だが源吾もまた、倒れる。
「たま、ぎ、く…」。
源吾が宙を見て、つぶやく。

玉菊が浮いている。
悲しそうに、源吾を見る。
源吾が顔を伏せる。

『この世では、ついに添い遂げられなかった一組の男と女』。
花魁が、燈籠を流す。
『消えぬ恨み。迷える魂の菩提を弔うだけでなく、あまたの女たちのさだめに、皆様の思いをかけていただければと存じます…』。
たくさんの燈籠が、魂の灯のようにきらめき、川を流れていく。



玉菊は、結城しのぶさん。
綺麗で、はかなげ。
主水正と源吾の二役が、元フォーリーブスの江木俊夫さん。
これが実に良いんです。

実はフォーリーブスのみなさんは、すばらしい俳優さんなんですね。
アイドルが片手間にやっている演技じゃないんですよ。
大人の役が、しっかりできるんです。
だって、演技がすごく艶っぽいんですもん。

憎いはずの玉菊に会った途端、惹かれてしまう源吾。
その苦悩。
苦しいからこそ、会わずにいられない。
玉菊との逢瀬の、艶っぽいこと悲しいこと。

源吾は玉菊を愛しく思いながらも、自分はあくまで、兄の身代わりなのではないかとの思いも消えない。
しかし、玉菊が他の座敷に出ることを思うともう、いてもたってもいられない。
地獄のような日々。
そうして苦悩しながらも、玉菊と会わずにいられない。

源吾の切ない思いが、伝わってきます。
同時に甘美な思いも、伝わってきます。
極限状況の恋なんだなあ…と思います。

その源吾と玉菊がとことん、踏みにじられる。
特に玉菊は、前半からいじめられっぱなし。
まあ、さらし者もひどかったけど、郭の折檻もひどい。

お女郎さんたちには、人としての尊厳なんかなかったんだろうか…。
あれじゃあ、「出」ますよ…。
それでも玉菊は、あまり感情が動かない。

主水正とともに、玉菊はお墓に入ってしまったかのよう。
それが源吾を見た途端、反応するから、お婆もビックリ。
まるで人形が動いたみたいですもん。
ああ、玉菊にも感情があったんだって。

それなのに2人の思いを利用して、金儲けに利用するおりきと七之助の計略で、源吾は滅多斬りにされる。
最期の力を振り絞る源吾を、あざ笑う人たち。
この江木さんは、すごい。

かっこ良さとか、そういうものをかなぐり捨ててやっている。
とことん、惨めに見せている。
「かっこ悪いこともやっちゃう俺って、カッコいいでしょ?」なんて感じじゃないんですよ。
見ていてつらいぐらい、尊厳も何もない。

だからこそ、思う。
「利根の渡し」じゃないけど、これは祟るよぉ…。
当たり前じゃないか。
後半の幽霊の報復は怖いというより、そうじゃなかったらやってられないわ!という感じ。

源吾は、自分は兄の身代わりではないかと悩んでいました。
でも、今度こそ一緒に死ぬと竹光で胸を刺した玉菊の思いは、疑えるものではありません。
確かに源吾は主水正と、瓜二つです。
だけど、主水正とはまったく違う、冷酷な性格だったら玉菊はあそこまで尽くしません。

玉菊は源吾によって、生き返った。
だから源吾とともに、今度は本当に死ぬ。
死ねないと言っていた玉菊は、竹光で自分を刺して死ぬ。
武士にだって、できないこと。

そして玉菊は、恥辱にまみれた源吾の怒りを、武士として晴らさせてやりたい。
玉菊の最期の命の灯火が源吾に吹き込まれたかのように、源吾は息を吹き返します。
1人1人に、見事に恨みを返す源吾。
まるでそれを助けるかのように、出て来る玉菊の亡霊。

怖ろしくも美しい。
しかしこの郭、もうやってられない。
郭主も死んじゃったし。
こんなに人が殺された座敷なんかもう、誰も使わない


いやー、巴屋、潰れたんだろうな。
奈良屋も潰れたでありましょう。
そして人々はこれを、玉菊と源吾の祟りだと噂したでありましょう。
この話は、吉原で語り継がれたのでありましょう。

だけど玉菊とこの樫山家って、何か因縁ありそう。
それじゃ累が淵になっちゃうか。
怪談というより、江木さんと結城さんの切ない恋物語を見ているような「玉菊燈籠」。

「拙者にも、意地がある」。
「女郎にも、まことがあるのだ」。
江木さんの魂から絞り出すような言葉。
熱演が、心に残ります。


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2015.06.04 / Top↑
日本怪談名作劇場。
第6話は「怪談 利根の渡し」。
前にも書いたけど、改めて見ました。
二度と見られないのかと思っていたので、感動です。

奥州。
本多能登守の城下。
野村家の奥方・お徳が、植木職人の男と話していた。
野菜を届けてくれたので、礼を言っていたのだ。

若頭の治平を従えて、主人の野村彦右衛門が戻ってくる。
お徳が植木職人と話しているのを見た彦右衛門は、たちまち不機嫌になる。
「職人風情と付き合いがあるのか。そなたは百八十石の野村家の妻。もはや足軽の娘ではない」。

その時、お徳の母親のお信がやってきた。
だが彦右衛門は治平に、追い返せと言う。
治平から話を聞いたお信は、先代であり、お徳にとって大切な祖父の命日。
法要に来られるようにしてほしいと言って、お信は帰った。

治平は確かに主人に伝えると言った。
それを見ていた野村の弟の政次郎が、哀れんだ。
治平からの頼みを聞いた彦右衛門は、激怒して治平を蹴り飛ばした。
「野村家に、足軽の親戚などいない!」

お徳は治平に謝る。
身分違いの家に嫁いだ自分を、バカな女だと思っているでしょうとお徳は言った。
「でもどうしようもなかったのです。逃げられなかったのです」。

お徳はそう言うと、走り去った。
治平の目に、哀しみが溢れる。
翌日、出かけようとするお徳の前に、酔った政次郎が現れた。

「お出かけですか、姉上」。
「ええ」。
「遠慮することはない。おでかけなさい」。

しかし、政次郎はお徳の前に立ちはだかり、どかなかった。
「この政次郎は、姉上の味方だ。日ごろの兄上のあなたに対する仕打ちに、腹を据えかねていたのです」。
そう言うと、政次郎はお徳を部屋の中に押し込んだ。

「何をするのです!」
「私はずっと前から、あなたが好きだった!」
その時、治平が入ってきた。
「なりません、政次郎さま!」

治平はお徳をかばい、後ろに逃がした。
「おのれ、主人の弟に向かって手向かいいたしたか!」
だが治平はきっぱり、どかなかった。
「そうか、おぬしたち2人は、そういうことだったのか!」

政次郎はそう言うと、立ち去った。
「放っておくのです。私たちは潔白。何も怖れることはありません」。
お徳は治平に供を頼み、法事にでかけた。

父親も母親も、娘が戻ってきたと言って喜んだ。
本当に、輿入れして初めての里帰りだった。
だが帰り道、お徳はめまいに倒れた。
近くの小屋で、治平が介抱した。

お徳の閉じた目から、涙がこぼれた。
「ご新造さま」。
「とうとう、そなたに見られてしまいました。誰にも見せなかった私の涙を」。
「初めてではございません。お庭の隅で、ご書院の机の上で、そっと涙をお拭きになるご新造様の姿を、この治平は何度も見ております」。

「治平」。
「お心のほど、この治平には痛いほどよくわかります。だが治平はここの若頭。どうすることもできません」。
「治平。その心根だけで、私は良いのです」。
2人の心が通い合う様を、政次郎が覗き見していた。

翌日、昼日中から酒をくらって寝ている政次郎は、兄にとがめられた。
政次郎は自分ではなく、姉上に意見しろと言った。
治平がわらじをお徳に手渡しているところ、彦右衛門がやってきた。

そしてお徳の頬を張った。
お徳が吹き飛ぶほどの、力だった。
「旦那様!」
止めようとする治平も「野良猫め!」と言って、彦右衛門は蹴り飛ばした。

「治平、覚悟はできていような!」
不義の疑いに対して、お徳は抗議した。
だが彦右衛門は政次郎を呼ぶと、お徳を部屋に閉じ込めるように言った。
「治平は成敗する」。

「旦那様、これは何かの間違いでございます!」
「黙れ!」
治平の前に、彦右衛門の刀が突きつけられる。

部屋に閉じ込められたお徳に、治平の悲鳴が聞こえてきた。
彦右衛門が入ってくる。
「治平に何をなされたのですか」。

「見たいか。見せてやる。よく見るのだ!」
縛られたお徳の前に、目を切られて血を流す治平が突き出された。
「何と言うことを!鬼!あなたは鬼です」。
しかし彦右衛門は、今度はお徳を叩き始めた。

その夜、目を布で覆った治平の下に、お徳がやってきた。
治平の手を、お徳が取る。
「ご新造さま」。
「逃げましょう、2人で」。

「でもわたくしは、目が」。
「私がそなたの杖になります。私はどうなろうとも、そなたを死なせるわけには行かず」。
2人は手を取って、逃げる。

山の中、2人の前に政次郎が現れた。
「政次郎さん、お願いします。どうかお見逃しください」。
「よしわかった。だが駆け落ちするのは、俺と姉上だ」。

お徳の手を引っ張った政次郎を、お徳は拒絶した。
「嫌です!」
「私は、治平と…、どこまでも!」
「この男は邪魔だ!」

政次郎は刀を抜いた。
お徳は阻止しようともみ合う。
その時、刀は政次郎に刺さった。

「ご新造様、どうなされました」。
「私は…、政次郎さんを、殺した!」
「逃げましょう、ご新造様。そして、生きられるだけ、生きましょう。二人で!」
「治平!」

お徳は治平を支えて歩く。
もうすぐ峠だ。
あれを超えれば…。

馬のひづめの音が近づく。
彦右衛門が、馬に乗って追跡してきたのだ。
ついに峠を越えようという時、2人は追いつかれた。

「見つけたぞ。お徳!治平!」
「覚悟!」「治平、逃げて!」
お徳は彦右衛門に斬られた。
「ご新造様!」

治平は道から転落した。
「おのれから地獄に落ちたわ!」
彦右衛門は去っていった。

お徳の遺体は、そのまま放置されていた。
長い時間が過ぎた。
治平は必死の思いで、這い上がってきた。
「ご新造様…、ご新造様」。

見えない手で、お徳を捜し求める。
冷たくなったお徳に触れる。
「さぞ…ご無念でござりましょう」。
「もし、生あれば七たび生まれ変わってこの恨み、治平が…!きっと…!」

7年後。
雨の日だった。
利根の渡しで船頭をしている平助とお咲夫婦が、魚を取ろうと悪戦苦闘していた。
その時、何かが飛んできた。

「刺さりましたか」。
声が聞こえる。
2人が見ると、道に座頭が立っている。

目玉に針が刺さった鯉が浮いてくる。
「確かに、目玉の真ん中に」。
平助とお咲はゾッとして、手を取り合って座頭を見つめていた。
確かに、鯉の目玉の真ん中には、針が突き刺さっていた。

「あれは何だ?」
船で運ばれてきた客が、船着場に立っている座頭を見て、不思議がった。
「人探しなんだ」と平助が教える。

1年前から毎日あそこに立って、上りの客にも下りの客にも聞いて回る。
素性も何も、どこから来たのか、どうしてきたのか、何も言わない。
「もし、あなたは野村彦右衛門というお人ではありませんか」。

「あっしは富山の薬売りだよ」。
「俺は大工の八五郎ってんだよ」。
山伏にも聞いた。
「いや、違う」。

雨が降ってきた。
平助はお咲が営む茶店に、座頭を誘った。
座頭は確かに、治平であった。
平助は毎日毎日、なぜ、野村彦右衛門という男を探して船着場に立つのか、聞いてみた。

だがお咲の言うとおり、治平は何も言わなかった。
「名前を聞いても無駄かい?」
「無駄で、ございます」。
平助は笑った。

それにしても、座頭の顔色が悪い。
心配する平助に茶を飲んで礼を言って、治平は出て行った。
だが治平は雨の中、高熱で倒れてしまった。

平助とお咲は放置できず、そのまま治平の面倒を見ていた。
お咲が止めるのも聞かず、ふらふらの体でも治平は船着場に行って、野村彦右衛門がいないか、聞いて回った。
「あきらめぬぞ。たとえ、5年、10年かかろうとも…」。

雨がひどくなった。
川止めになるかもしれない。
治平の体の調子は、良くならなかった。
熱があろうと何だろうと、船が出れば立って、野村彦右衛門を探して回るのだから、良くはならない。

「船着場に立って、1年目に俺んところに転がり込んで、かれこれふた月。1日として休んだことがねえとすると。その野村という男によほどの…」。
「恨みってことかい?」
「だろうなあ」。

お咲は、部屋から聞こえる音に気づいた。
「あの音、なんだい?」
座頭の部屋だ。
平助とお咲は、そっとのぞいてみた。

治平はこちらに背中を向け、針を研いでいた。
ふと、治平が振り返る。
平助とお咲は、顔を見合わせた。

その晩。
雨がひどかった。
お咲が目を覚ました。
座頭の部屋の戸が、そっと開く。

治平が顔をのぞかせた。
針を口にくわえる。
そして針を手に、近づいてくる。
お咲は声も上げられない。

目の前に針が突きつけられた。
ぎゃあー!
お咲は喉元に針が突き刺さる夢を見て、飛び起きた。

「喉笛に、針だろう!」
隣の平助も飛び起きた。
「俺もおんなじ夢を見ていたんだよ!」
治平はだが、静かに眠っていた。

次の日も、足を引きずりながら、治平は船着場にやってきた。
「のむら、ひこえ、もん」。
「おい、この座頭、何か言ってるぜ」。

治平は倒れた。
「だから寝てろといったじゃねえか」。
平助は治平を連れて帰り、医者を呼んだ。

「今、死ぬわけにはいきません…。野村、彦右衛門に出会うまで、は」。
「いかん、これは」と医者が言った。
お咲は怖がって、座頭を早く追い出すべきだったと言った。
「『刺さりましたか。目玉の真ん中に。刺さりましたか』。あたしゃ、あの声、一生忘れないよ!」

お咲は今、非常に嫌な気分だ、だから早く追い出せば良かったのに…と嘆いた。
だが平助は、そんな不人情なことはできないと、お咲はそんな奴だったのかと怒った。
医者はとにかく薬は置いていったが、長くはないだろうと言った。
弔いの用意をしなければならないが、名前もわからないのでは墓の作りようもない。

その時、船頭仲間の2人が治平に頼まれたと言って、鯉を2匹、たらいに入れて持ってきた。
だがもう、治平は鯉どころではないだろうと平助とお咲は止めようとする。
しかし奥から「松造さんに長治さんですね」と、治平の声がした。

「へい」。
「あれを、持ってきてくれましたか」。
「へえ。確かに」。
「ここへ。ここへ運んでください」。

2人は言われたとおり、治平の枕元に鯉の入ったたらいを置いた。
そして部屋を出た。
「どうだった」と聞かれた2人は、息をしていないように見えたと言った。
「冗談じゃねえよ」。

平助とお咲は、そう言って治平を見に行った。
「座頭さん。おい、座頭さん」。
お咲は顔をゆがめて、「死んでるよ、お前さん」と言った。
「なんまいだぶ」と松造と長治が手を合わせた。

「祟るぜえ…、この顔」。
「よせよ!つまらねえことを」。
みんな、手を合わせた。

その時、お咲が悲鳴を上げた。
たらいの中の鯉の、目玉の真ん中に針が刺さっていた。
「刺さりましたか」。
どこからか、声がする。

「今の声、座頭さんの!」
「確かに、目玉の真ん中に」と声は続けて言った。
4人は恐る恐る、「今のは、確かに」「座頭さんの声だ」と言い合った。
そして治平を見て、「死んでるよ…?」と言う。

その頃、野村家。
彦右衛門が苦しみ出した。
目を押さえて廊下に転がりだし、のたうちまわる。

「目、目が。突如、痛み出した」。
「旦那様!」
「医者を、医者を早く呼べ!」

平助とお咲は、治平の墓を作って弔った。
お咲が「成仏しておくれよ」と言った。
だが平助は言った。

「無理だよ。なあ、座頭さん。おめえさん、まだ成仏できねえはずだよな」。
「いやだよ、お前さん、けしかけたりして」。
「けしかけてるんじゃねえよ。俺にはわかるんだ」。

「たとえ死んだって、野村彦右衛門という人に巡りあわねえうちは、どうして浮かばれるもんか。なあ、座頭さん」。
平助が墓に話しかけた。
「そうだろう?」

その時、松造がどうしても渡してほしいという客が来ているとやってきた。
渡しはもう、お仕舞だと平助は断った。
だが若い侍が主人が眼病を患い、どうしても医者に診せなければならないと言って、土下座した。

平助はしかたなく、船を出すことにした。
若い侍に手を引かれ、男がやってきた。
「ああっ、いっ、痛いぃい!」
男が悲鳴をあげた。

霧が出てきた。
「船頭さん、急いでください!」
しかし、船の前も後ろも、深い霧でまったく前が見えない。
「急げったって、この霧の中じゃどうにも…」。

平助が振り返った時だった。
船には、確かに平助と、若い侍と、身分の高そうな男の侍しか乗っていなかったはずだった。
だが、船の奥。
あの、座頭、治平が座っている。

「痛い」と言って、川の水に手ぬぐいを濡らし、目に当てる男をじっと見ている。
「座頭さん」。
平助が驚いてつぶやいた時、男が一層、痛そうに悲鳴を上げた。

「痛いっ、ううっ、いたいいい」。
「これほどの痛みはいまだ…!」
「そうか…!もしや、お武家様は、野村彦右衛門さまと…!」

「どうして、みどもの名前を」と、彦右衛門が答えた。
「やっぱり!」
治平が、彦右衛門を開かない目でにらむ。

「痛いいいいっ!」
彦右衛門が悲鳴を上げた。
開かなかった治平の目が、うっすらと開く。
彦右衛門をにらみつける。

「あああっ!」
彦右衛門が叫ぶ。
声にならない声をあげて、平助が目をそらす。
目を閉じ、ひたすら船だけをこぐ。

「いたいいいい」。
おそるおそる平助が振り返ると、治平の姿はなかった。
彦右衛門は悶絶している。
若侍はただ、おろおろしている。

治平の目が、見開いた。
彦右衛門の背後。
船のふち。
ゆっくりと、自ら何かがあがってくる。

指だ。
手がにゅっと、突き出された。
その手は背後から、彦右衛門の背をつかんだ。

「なっ、何をする!」
彦右衛門は川に引きずり込まれた。
ごぼごぼと息を吐く。
だが上がれない。

誰かの手が、ガッチリと足首をつかんでいる。
彦右衛門が、必死にもがく。
髪の毛がばらけ、乱れる。
苦しい。

首を左右に振る。
しかし、逃れられない。
ぐさり。

ごぼごぼ。
水面に、泡が上がってくる。
そして、紅く染まる。

平助はびしょぬれになりながら、帰ってくる。
お咲が、船がひっくり返ったと聞いて、心配してやってくる。
船頭が溺れてたまるかと平助は言う。
そこに松造が飛んでくる。

「おおい、上がったぜ!さっきのお侍が土左衛門で、よう…」。
「それが奇妙なことに…、あのお侍」。

「目玉の真ん中に針」。
平助の言葉に、松造が驚く。
「どうしてそれを」。
お咲が「お前さん、もしかしてあのお侍」と言う。

「俺には聞こえるぜ」。
平助が言う。
「あの座頭の声が」。

水際に、彦右衛門の死体が上がっていた。
両目に、深く針が刺さっていた。
「刺さりましたか。確かに、目玉の真ん中に」。

船が行く。
その上には、治平とお徳が乗っていた。
船は霧の中、消えて行った。


日本の怪談は、化けて出る方に肩入れしてしまう場合がありますが、これなんかそう。
怪談じゃなくて復讐するとしたら、代行してくれるのが仕置人なんだな、って思いました。
これは念仏の鉄が目潰ししたり、主水が同じように斬ってくれても話が成立する。

怪談だから復讐は幽霊がやったり猫がやったりしますが、弱者の怨念がパワーとなり、最後に恨みを晴らすのは必殺シリーズに通じます。

毎日毎日、船着場に立って待っている。
恨みだね…、それも相当の。
これもまた「からくり人」の東北から盲目の娘が7年かけて江戸に来た話を聞いた仇吉が、「恨みだね」と言ったエピソードに通じます。

そりゃ、化けて出なきゃ。
許せるわけがない。
この話なんか、そうじゃなかったら気が晴れないわ!

いかにも誠実そうで実直そうな治平は、船戸順さんが演じてます。
座頭となってからボロボロの着物を着て、ふわふわとまるで、この世のものではない様子で不気味です。
この変化もすごい。

船頭の奥さんのお咲が結構、怖がってますが無理はない。
「刺さりましたか、目玉の真ん中に…、ああ、あたしあの声だけは一生忘れないよ!」
「祟るぜえ…」。
すごい納得しますもん。

目を斬られた治平があれから、どんな風にして生きてきたのか。
どんな思いを込めて、針を目玉の真ん中に命中させるだけ、練習してきたのか。
こもった怨念が感じられます。

今の様子がどうだろうと、ここまで来るにはどんな人にも過去があり、人生がある。
現在とは、まったく違った時があったかもしれない。
そんなことも、思ってしまう。

揃いも揃って、根性悪い兄弟。
状況が違えば殺しあったかもしれない。
あの兄が、どんな風にあの奥方を見初めたのか。

どれほど追い詰めて、執着したのか。
そしてあの後、奥方の実家にどんな仕打ちをしたか。
見なくても予想がついてしまいます。

「痛い」って、治平だって痛かったよ!
でも声はあげなかったよ!
上級武士のくせに、うるさいっ!って言いたくなっちゃう。
完全に亡霊側の味方です。

治平が死んで、目を押さえて苦しみだした彦右衛門。
利根の渡しにやって来る。
見ているこちらは、「来た来た!」って感じです。

船頭もすべてを納得。
もうわかる。
関係者、みんなわかる。
座頭さんの目を潰したのは、この武士だ。

はかなげな奥方・お徳は、渡辺やよいさん。
人の良い船頭は、左右田一平さん。
奥さんは海原小浜さん。
陰惨な物語の中で、ほっとする明るさを見せてくれます。

原作は、岡本綺堂。
さすがですね。
これを見事な映像にしてくれています。
DVDで残って、本当に良かった。

裕福な武家社会の冷たさと、貧乏庶民の暖かさの退避も見事。
怖がってるけど、葬ってまで面倒見た船頭夫婦。
恨みが深い分、情を示してくれた人への恩も深い。
船頭夫婦と利根の渡しは、きっと座頭さんがずっと守ってくれたことでしょう。



2015.04.24 / Top↑
日本名作怪談劇場、第5話は「怪談 佐賀の怪猫」。


備前鍋島藩35万7千石。
鍋島の殿・丹後守が、龍造寺の当主・又一郎をお手討ちにしたことから始まる化け猫騒動。
丹後守は又一郎の妹の冬を奥方に望んでいたが、又一郎は良い返事をしなかった。
冬は又一郎の家臣の小森半左衛門を想っており、半左衛門もまた、冬を想っていた。

側近の磯早備前は、自分の妹の豊を殿の奥方にと画策していた。
豊が子供を生めば、実権は自分が握り、事実上、鍋島家を乗っ取れる。
そのためには冬と又一郎が、邪魔だった。
豊もまた、丹後守が冬にばかり見とれていた時から、いつか冬を貶めてやろうと想っていた。

色良い返事をしない又一郎に丹後守は不満を募らせた。
さらに、龍造寺家が元は鍋島家の主家筋であることから、又一郎が自分を見下しているのではないかと思い始めた。
この機会を備前は最大限に利用した。
登城しようとする又一郎を、愛猫のコマが止めるかのように邪魔をした。

備前の陰謀により、又一郎は殿にお手討ちとなり、地下の蔵の壁に塗りこめられた。
龍造寺家では、コマが長い鳴き声を上げていた。
その夜、龍造寺政は碁盤の向こうに血まみれの夫の又一郎を見る。
又一郎を壁に塗りこめさせた職人たちも全員、備前に斬られた。

備前はさらに手を回し、龍造寺家を取り潰し。
冬の義姉の政は、家臣たちに暇を出した。
路頭に迷わぬため、鍋島家、備前に雇ってもらう道もあったが、家臣たちはみな、拒否した。

ところが半左衛門は、自分は野良犬にはなりたくないと言って、備前の元へ行った。
一刀流の使い手である半左衛門は、備前に召し抱えられた。
政は衝撃を受け、その夜、夫のあとを追って自害。
その血を、愛猫のコマがなめていた。

備前のはかったように、殿は冬を諦め、豊を寝所に呼ぶ。
ことはすべて、備前の思惑通りに運んでいた。
冬は食べたあとのないコマのご飯の茶碗を見て、「コマ。お前、どこに行ったの。もう帰ってこないの」と泣いた。

しかし、廊下を歩く備前に、猫の鳴き声が聞こえる。
又一郎を塗りこめた壁を前に、備前がほくそえんだ時だった。
猫の鋭い声が響く。

振り向いた備前の目に、こちらをにらみつける猫が見える。
すると今度は背後に、猫が現れる。
今度は足元にいる。
備前は、あわてて逃げた。

城に、コマが現れはじめた。
豊の懐妊の知らせを受けて満足そうな備前に、コマの鳴き声が聞こえる。
「またあの猫か!」

コマの姿を見た半左衛門が、「コマ!コマではないか!」と声をかけた。
あれは龍造寺家の猫と知った備前は、コマを捕まえるように家臣たちに命ずる。
だがコマは捕まらなかった。
コマは備前を付けねらうように姿を見せ始めた。

地下の蔵の前で座るコマの前で、壁が落ち始める。
コマの鳴き声に呼応するように、壁から血が流れる。
備前は猫を差し向けているのは冬だと言って、冬を捕らえさせた。

冬を捕らえて牢に入れれば、猫は必ず現れる。
備前に命令されて、半左衛門が数人とともに冬を捕らえる。
牢に入った冬は、半左衛門に言う。

「そなた、恥ずかしくはありませぬか。コマは恨みを呑んで自害してお果てになった姉上の仇と、備前さまをつけているのでしょう。獣と言いながら、元の主人の恩を忘れぬコマにそなたは…、恥ずかしいとは思わないのですね」。
「冬様、悪いことは申しません。ご家老様に正直子に申し上げたほうが、お身のためだ」。
「そなたとは口もききたくない!」

牢で1人、冬は幸せだった日を思い出し、涙する。
子猫のコマ。
抱き上げる自分、姉上がコマをあやす。

その夜、廊下を歩く備前の耳に奇妙な音が入ってくる。
コツ、コツ。
それは碁石を打つ音だった。
備前の立っている廊下。
その前に部屋で、備前は又一郎を斬ったのだった。
又一郎の顔に、血に染まった白い碁石が張り付く。
その無念の表情。

殿の寝所では、豊が心変わりをしない約束に、冬を殺してくれとねだっていた。
その時だった。
怖ろしい声が響く。
殿がふすまを開けると、大きな猫の影が映る。

仰天した殿は、登城した。
牢の冬を連れ出すため、鍵が開けられる。
「鍵を!」

だが牢番は出てこない。
牢番のいる部屋の障子に手をかけた時、大量の血が飛び散った。
ギョッとした家臣たちの前に、喉を食い破られた牢番の死体があった。

猫の声が響く。
壁一面に大きな猫の姿が映る。
パニックを起こした家臣たちに向かって、半左衛門が刀を抜く。
一刀流の使い手である半左衛門は、家臣たちを次々斬る。

猫の声と姿、半左衛門にパニックを起こしている家臣たちは倒れていく。
「さあ!冬様!」
半左衛門は冬を逃がす。
「そなた!」

「この三月の間、備前の身辺を探りましたが、いまだに何の確証も得ず。冬様、本心をお隠ししたことをお許しください」
「そうでしたか。そなたの心も知らず、ひどいことを私は言い続けました。許して…」。
夜道を冬をつれ、半左衛門はかつての使用人が暮らしている山小屋へ逃げていく。

必ず、備前の口から、又一郎の行方を吐かせる。
「お城へ、帰るの?」
「くれぐれも、お気をつけて!」

冬が逃げたことは、備前の耳に入った。
いよいよ、猫を探す家臣たちの動きは激しくなった。
城下の様子を見ていた使用人は、その動きでコマがまだ捕まっていないことを確信した。
「獣とはいえ、コマはきっと、小森様と一緒にお殿様のお行方を探してくれましょう…」。

2~3日のうち、必ず猫は捕まえる。
備前からの報告を受けた豊は「きっとそのようにお願いしますよ、兄上」と言った。
殿の来るのを待っていた豊だったが、殿は熱を出して来られなくなった。

さっそく見舞いに行くと言う豊だが、誰も良い返事をしない。
「何を怯える。猫を怖がっているんでしょう。ついてこなくても良い!」
豊はそう言うと、1人、廊下を歩く。
猫の鈴の音が聞こえる。

続いて、猫の声。
どこから聞こえてくるのか、わからない。
豊が辺りを見回したとき、突き当りの壁に大きな猫の顔が映った。

悲鳴を上げ、豊は逃げていく。
逃げて、逃げて、蔵の前jまで走っていく。
その様子を、半左衛門が見ている。

何かに追われるように悲鳴を上げて、蔵の前まで来た豊は扉を背にした。
扉が開き、豊は蔵の中へ逃れていく。
半左衛門が中をのぞこうとした時、豊が絶叫する。

扉に耳をつけた半左衛門の前に、血が滴り落ちてくる。
「あっ!」
すると扉が開き、豊が現れた。

豊はもう、何も見ていない。
半左衛門は、すべてを察した。
「殿!殿!」
扉に向かって、半左衛門は叫ぶ。

冬は半左衛門から、すべてを聴いた。
「半左衛門、そなた、備前を斬るつもり!そうですね!」
半左衛門は目をそらした。
「半左衛門、私も行く!」

「なりません!」
「そなたのいないこの世に生きながらえて、何の楽しみが…、私も行く!」
「冬様!」
「行きます、一緒に!」

鍋島の殿は高熱にうかされ、「許せ、又一郎」とうわごとを言っていた。
隙を見て、半左衛門と冬は、城に侵入した。
「なぜ御病室に参らぬ!」と備前は豊を叱った。
「わたくしがまいりましても、とののご病熱がさがるわけでもありますまいに」。

豊が何の抑揚もない言葉で、理由を述べる。
「あれほど、魚を嫌うておったのに…」。
備前は、綺麗に骨だけが残った魚が乗った皿を見る。
「身ごもって、食の好みがかわったようです」。

備前が出て行った後、豊がにんまりと笑う。
呼ばれて出て行った備前は、蔵の中で死んでいる豊を見つける。
骨だけの魚が脳裏を掠める。

部屋にいる豊が、行灯の油に手を伸ばす。
後姿。
廊下を行く冬と半左衛門の横に、備前たちが走っていくのが見える。
ただ事ではない様子に、2人は後を追う。

備前が豊の部屋の戸を開ける。
豊が、ゆっくりと振り向く。
その口は耳まで裂け、目は爛々と輝いていた。
ぺろりと赤い舌を出して、豊は備前を見た。

「見たぞ、己の正体!」
その声に豊は長い爪が生えた手で、手招きをする。
「おのれ…、この化け猫を討ち取れ!」

家臣たちが刀を抜いて迫った時、豊、いや、コマは宙返りした。
回転した足が着地すると同時に、飛び上がる。
天井にコマが張り付き、備前たちを見下ろす。

「たかが化け猫一匹!斬れ!斬れ!」
備前の声に、コマが長い爪をかざす。
目が爛々と見開いて、備前を見据える。

ヒラリと降りてくると、斬りかかった家臣の一人を押さえつけ、コマが赤い口をぱっくりと開ける。
喉笛に噛み付く。
そのまま喉笛を噛み千切られた男が、絶叫する。

冬と半左衛門が、部屋に飛び込んでくる。
目の前で男の喉笛を食いちぎったコマが、回転する。
「コマ!」

気が付いた冬が驚く。
備前が刀を抜き、コマに斬りかかる。
コマはするりと刀を避け、別の斬りかかってきた家来を押さえつける。
鋭い爪で、その額を切り裂く。

おののいた備前が、冬たちの前に背中を見せる。
冬がキッと備前を見据え、懐剣を手にする。
それを見たコマが再び、宙返りして備前の元へ降りてくる。
備前が転ぶ。

うなり声を上げて、コマが備前の上に降りた。
背後から備前を押さえつけ、首筋にガブリと噛み付く。
「うわああああ!」
備前がのけぞる。

深く、深く、備前の首に牙を突き刺し、コマは飛び上がる。
備前をつれ、天井まで登る。
「ぎゃあああ!」

垂れ下がった備前の足が、ばたばたと動く。
痙攣する。
そして、だらりと垂れ下がり、動かなくなる。
恐怖に目を見開いたまま絶命した備前が、落ちてくる。

コマが血に染まった口を拭い、天井を走る。
「逃げたぞ!」
「殿を守れ!」

寝込んでいる殿の枕元に血が滴る。
腰元たちが悲鳴をあげ、腰を抜かして逃げていく。
目を開けた殿は、天井に張り付き、自分を見下ろしているコマを見た。

「豊!」
コマは冷然と、殿を見下ろす。
「お方さまではございません!」
「正体は猫でございます!」

家臣たちが走ってくる。
「許してくれ、又一郎!」
殿は悲鳴をあげた。

コマは平然と近寄ってくる。
家臣たちは刀は構えているが、一歩も動けない。
「許してくれ!」
殿が叫ぶ。

「待って!」
冬が走ってくる。
殿は冬の元に駆け寄り、「助けて、助けてくれ、冬!」と懇願する。
斬りかかった家臣がまた1人、コマに喉を食いちぎられた。

コマはひらりと飛び、天井に張り付く。
血に染まった口をぬぐい、殿を見下ろす。
うなり声を上げ、降りたコマが殿を背後から捕らえた。

「う、うわあああ」。
ぱっくりとコマが赤い口を開けた。
殿が悲鳴を上げた。

喉に噛み付く、その瞬間だった。
「コマ、やめて!お願いやめて!」
冬の声で、コマが動きを止めた。
殿を放し、天井に駆け上る。

「コマ!私よ!」
コマが冬を見る。
「冬よ!お願いだから、やめて!」

コマは冬を見ていた。
「コマ!私がわからないの?!」
コマは、じっと冬を見ている。

冬の目から涙が溢れる。
「コマ!」
コマが、うつむいた。
だが次の瞬間、コマはうなり声を上げて降りてきた。

冬の上に降り、そして転がった。
コマの胸には、冬の懐剣が突き刺さっていた。
「コマ、お前、わざと私の手にかかったのね…」。
半左衛門も、息を呑む。

コマの姿が消えた。
血まみれになったコマは、荒れ果てた龍造寺家の仏間で息絶えていた。
姉が息絶えた場所だった。

それからしばらくして、冬と半左衛門は、墓の前にいた。
墓には、猫塚と掘られた小さな石の墓標もあった。
その前に、コマの首輪が置かれている。

冬と半左衛門は、手を合わせる。
子猫のコマ。
冬が抱き上げる。
姉が毬で遊ばせている。

冬の顔に、微笑が浮かぶ。
「コマ、龍造寺家は再興しましたよ。お前のおかげです」。
にゃおん。
どこかで猫の声がする。


猫ネタが続きますな。
偶然です。
こちらの猫話は、怪談。

豊役は、緑魔子さん。
私の大好きな女優さんです。
もう、ただでさえ猫っぽいのに、この緑魔子さんは絶品!

殿に甘える口調とか、嫉妬に狂った表情とか。
「お願いしましたよ、兄上」と言うねちっこく、かわいらしい口調は誰にも真似できません。
人を狂わせる、まさに魔性って感じがします。
猫っぽい女優さんだ。

そしてコマが変化した時の、冬を見る時の哀しそうな表情。
うつむいた時の目。
わからないはずはない。

コマには冬が、わかってるんです。
化け猫になった自分は、戻れない。
見ていて、こちらも哀しくなってしまいました。

備前役は、亀石征一郎さん。
良い悪役コンビです。
化け猫にとって、相手に不足なし!の迫力。

「猫に知恵を授けて、わしにわざわいをもたらそうとしているのだろう」って、猫にそんな知恵授けられるのか。
猫に吹き込んだのだろう、って、そんなことできるのか。
あるなら教えて。
やられっぷりも良く、徹底して楽しませてくれます。

冬は、永島映子さん。
はかなげで、涙が似合ってしまう。
緑魔子さんと対照的で、これまた良い感じ。

冬を救出する半左衛門を、サポートするように現れるコマ。
盛り上がる、盛り上がる。
化け猫の表現に、壁一杯に映る猫の顔。
つい、カワイイ…って思ってしまう。

死を覚悟した半左衛門についていく冬。
影で涙をこらえる使用人。
時代劇のお約束でも、こういう場面に日本人のDNAがグッと来る。
化け猫にグッと来るのは、主人と猫の絆にグッと来るんでしょう。

そういう意味では、ハチ公物語と同じ。
動物が、人を思うけなげさに泣ける。
化け猫に泣いてるって何なんだと、思うけど。
コマは私のハチ公物語。


2015.04.16 / Top↑
日本階段名作劇場。
第2話は「怪談 大奥開かずの間」。

慶応4年5月3日。
江戸城に、官軍の兵士が入ってきた。
隊長を先頭に3名の兵士が、大奥へ通じる廊下を行く。

戸を叩く。
空いた扉の向こうには、大奥総取締の滝山がいた。
「ご検分、ご苦労に存じます」。
かつては通った男は将軍だけの、お鈴廊下を4人が行く。

ひとつの鍵のかかった部屋の前で、隊長が足を止めた。
「なりませぬ!この部屋を開けてはなりませぬ!」
滝山が血相を変えて止める。

5代将軍綱吉の頃から、何があっても開けてはならぬと言われている開かずの間なのだ。
開ければ必ず、たたりがある。
「構わぬ。開けい!」

鍵が壊され、封印が解かれた。
中には豪華絢爛な駕籠。
美しい女性が描かれた掛け軸が、かかっている。
「お雪の方さま」。

滝山が呼びかけた途端に部屋中が揺れ、掛け軸の前に置かれたつづみが転がる。
駕籠が揺れる。
部屋中のものが、鳴動している。

さすがの隊長も、顔色を失った。
内掛けが落ちてくる。
背後から隊長の首を、誰かが絞める。

それは、能面をかぶった女性の手だった。
思わず隊長が、刀を振りかざす。
だが床に落ちた内掛けは、空気が抜けたようにぺしゃんこになる。

滝山は話し出す。
今から2百年前のこと。
綱吉が存命の時。

大奥に、1人の女性が入ってきた。
名はお妙。
綱吉の側室・お雪の方が亡くなって3年が経っていた。

お雪の方は、つづみの名手だった。
綱吉はよく、お雪につづみを打たせ、聴いていた。
お雪の方は、この開かずの間となっている部屋で、亡くなったのだ。

綱吉に無礼討ちにあった、いや、自害したと、奥女中たちはそれぞれ噂していた。
新入りのお妙が、挨拶回りに開かずの間の前を通った時だった。
鍵のかかった扉から、血が滴り落ちてくる。
お妙の管理者である毬乃小路が、衝撃のあまり、胸を押さえる。

その夜、見回りの奥女中たちは、お雪の方についていた尼・浦野が廊下に座り込んでいるのを発見する。
彼女は今は口も利けず、白く濁った目は、見えなくなっていた。
浦野はやって来た毬乃小路の手を引き、開かずの間の前に案内する。

開かずの間から、「出しておくれ」という小さな声がする。
「お雪の方さま!」
毬乃小路は倒れ、その日から高熱にうなされるようになる。

井戸からくみ上げた水の中からも、お雪の方の銀のかんざしが発見される。
お雪の方は生きていると、お妙は言った。
大奥全体が、怯え始める。

正室・信子と総取締役であり側室である右衛門佐は、お雪の墓を掘り返すことにした。
棺桶の中、お雪の方の遺体はなかった。
毬乃小路が倒れ、そのまま息を引き取る。

信子の方が、右衛門佐に心情を吐露する。
自分は右衛門佐を信頼しながらも、嫉妬を抑えることができない。
右衛門佐だけではない。

綱吉の側室、みんなに信子は嫉妬している。
自分にとって、上様は唯一の存在。
だが綱吉にとって、自分はただのお飾りの正室だ。
綱吉に寵愛された、お雪も憎かった。

そんなある日、綱吉がお妙に目を留める。
お妙は、綱吉の側室になった。
だがそれと同時に、大奥には開かずの間から流れるつづみの音が響くようになる。
それを聴いた綱吉は、真っ青になる。

開かずの間に入り、つづみを手にした綱吉は、つづみに残ったぬくもりにおびえる。
誰かが叩いていたのだ。
「お雪、許してくれ…」。

綱吉は、お雪を手討ちにした。
なぜか。
それはお雪が、寺の坊主と密通したためだ。

お雪は何一つ弁解せず、綱吉に討たれた。
綱吉がお妙と寝所にいる時、またしてもつづみの音が響く。
刀を手に、錯乱した綱吉が開かずの間に入る。

お雪は、密通などしていなかった。
将軍の子を身ごもったために嫉妬した信子が、毬乃小路たちとともにお雪を陥れた陰謀だった。
開かずの間で、綱吉が刀を振り回す。
それは信子に刺さった。

驚いた綱吉の腕の中で、信子は上様に刺されて幸せだと言った。
そして、綱吉を刺した。
2人が倒れた。

すると、お妙と浦野が現れた。
お妙は浦野の協力で、呉服問屋の幼女となり、この大奥に入ってきた。
だがお妙は、お雪の妹だったのだ。

浦野の口が利けないのは芝居であり、目も魚のうろこで覆われたために濁っていただけであった。
復讐を終えたと思った浦野とお妙の前に、右衛門佐が現れる。
すべては、右衛門佐の計画通りだったのだ。

それを聞いた綱吉は、力尽きる。
今度はお妙と浦野を、右衛門佐が殺してしまえば終わる。
右衛門佐が襲いかかる。
お妙を浦野が守ろうとする。

懐剣を構え、突進してきた右衛門佐はふいに足元に転がってきたつづみにつまずき、自らを刺した。
信子の方、綱吉、右衛門佐は病死ということになった。
以来、この部屋は開かずの間となったのだ。

滝山が語り終えた。
「怖ろしい話だ」。
官軍の隊長がつぶやく。

「しかし滝山殿、あなたはどうしてその話を?」
「大奥の中で語り継がれてきたとは思えぬ」。
すると、滝山が振り返る。

「わたくしが、そのお妙でございます」。
「バカな。2百年前の話ですぞ」。
隊長が薄く笑う。

雷鳴が轟いた。
滝山の顔が、白く浮かび上がる。
「バカな」。
隊長がもう一度、言う。

次の瞬間、女は消えた。
「滝山殿!」
隊長は、たった今まで目の前にいた滝山の名を呼ぶ。

「滝山殿!」
床に転がっていた能面が、密かに起き上がった。
隊長は、廊下に出た。
誰もいない。

廊下を歩いていく隊長は、気づかない。
足元に、お雪の銀のかんざしが落ちていることを。
そのかんざしに、髪の毛がまとわりついていることを。
大奥は、静まりかえっていた。


官軍隊長は、藤田まことさん!
顔は中村主水ですが、中身は官軍隊長です。
官軍の格好も、お似合い!
お元気な藤田さんの姿が、うれしい。

でも、隊長の部下3人は、どこに行っちゃったの?
最初のポルターガイストで、逃げちゃったの?
隊長も、気にならなかったの?

魚の鱗をコンタクトレンズのようにはめてごまかすのは、「必殺仕置人」で神田隆さんの検校もやってました。
痛そう。
目が乾きそう。

綱吉を信子が刺したとか、二人がほとんど一緒に亡くなってるとか、他の大奥ものにもありましたね。
柳沢に払い下げた染子が生んだ子が、自分の子ではないかと言う綱吉。
それを6代の後の7代将軍にしたい。

世継ぎ問題と、愛憎。
嫉妬と陰謀。
「大奥」の怖さは開かずの間ではなく、人間にあったのだ。

確かに大奥は怖い。
そう思った瞬間に、やって来た恐怖。
大奥に亡霊は、いたのだった。


2015.03.13 / Top↑
日本怪談名作劇場。
第1話は「累ヶ淵」。
怖い、怖い、もう書いてるだけで怖い。

日本人のDNAが怖がらせる。
あんまり怖いので、話が詳しく書けないという情けなさ。
ですが、改めて見ると、私にはうれしいキャスティングがされてるんですね。

雪の夜、まだ15になったばかりの娘に手を引かれて歩く按摩。
ピー。
笛の音が、寒い夜の中、響く。
深見という旗本屋敷の前で中間が按摩を呼び止め、殿様をほぐすように中に招き入れる。

娘は寒々しい廊下で、父親を待っている。
美しい。
粗末な着物、薄汚れた顔、乱れた結い髪でも、美しい。
その美しさに、酒を飲んでいた殿が目を留める。

お前の娘かと聞かれ、按摩はまだ子供ですと答える。
殿は息子が1人いたが、家を嫌って出て行ってしまった。
飯をかきこみ、酒を飲んでいる座敷から、布団を敷いた寝所が見える。

「娘、寒いであろう。ここに来て、火に当たれ」。
だが娘は答えない。
「入れ」。
殿は娘の手を引っ張り、中に引き入れる。

「不調法ものですから!」と按摩が許しを請う。
「いや、かまわん。この娘が気に入った!」
「お戯れを!」

抵抗する娘の右肩を、殿がすっと刀で撫でる。
血がにじむ。
娘が気絶する。

懸命に娘を逃がそうとする按摩を、殿は斬った。
そして殿はそのまま、娘を手篭めにした。
中間を呼びつけ、按摩の死体を捨ててくるように命ずる。

殿が哂う。
行李に按摩を押し込め、中間はおびえながら、雪の中、累ヶ淵へ行李を引っ張っていく。
雪の上に、赤く血の跡がつく。

屋敷では殿が飲んだくれていた。
よろけて立ち上がった拍子に、行灯が倒れた。
油が畳にこぼれる。
火がつく。

「殿様」。
誰かが呼んでいる。
ふと、斬ったはずの按摩が見える。

「お戯れはおやめくださいませ…」。
「そうか!按摩ぁ!どこからでも出て来い!」
仰天した殿は、再び斬りつける。

按摩は倒れない。
床に、障子に火がつく。
屋敷は炎上する。

庭に出た殿は、刀を振り回す。
刀の柄が庭の敷石に、はまる。
鋭利に上を向いた刀に、殿が突き刺さる。

口を開け、殿は逃れようとする。
抜けない。
ひいいいと、言葉にならない声を上げ、殿は後ろ向きにひっくり返る。
血は、刀をつたって、地面に吸い込まれる…。

中間は、淵に沈める前、行李の蓋を開けた。
頭から血を流し、按摩は冷たくなっている。
中間は、按摩の持っていた煙草入れを手に持つ。

人の顔をした、変わった煙草入れだった。
中間は、按摩を沈める。
氷が割れ、その下の水が真っ赤に変わる。
中間は腰を抜かした。

5年後。
焼けた屋敷跡に、1人の遊び人風の男がたたずむ。
ピー。

暑い夏の日だった。
どこかで、按摩が吹く笛の音がする。
ぼうっと、按摩の姿が浮かび上がる。

お豊、豊志賀師匠のところにお久という娘が助けを求めて転がり込んでくる。
義理の母親に売られ、ある大店の隠居に妾奉公させられる。
お豊はかばうが、義理の母親はヤクザを連れてきている。

そこに助けに入ったのが、屋敷跡にいた遊び人風の男。
男が負ったかすり傷を手当てしたお豊と、男の目が合う。
お豊の頬が染まる。

階段を下りていくお豊が暗闇をふと見ると、頭から血を流した男がこちらを見ている。
絶叫し、お豊は持っていた湯飲みを落とす。
驚いて降りてきた男に、お豊がしがみつく。
男は煙草売りで、あの深見の殿の息子・新五郎だった。

お豊と新五郎は深い仲になる。
しかし自分を捨てて、今度はお久に乗り換えるのではないかと思い込んだお豊は、お久を追い出す。
頼るところもないお久を、もう一度置いてやってくれと新五郎が頼みに来る。

断ったお豊に、腹を立てた新五郎。
師匠の弟子が少なくなり、仕事がおろそかになったのも自分のせいだと言う。
別れを口にして出て行く。
追いかけるお豊は、顔に怪我をする。

絶望したお豊は、自分の顔を白く、白く塗りこめる。
そこにお久の義理の母親が、ヤクザを連れてくる。
白い顔をして、白い装束を着て、ぽつんと階段に座っているお豊を見て、母親もヤクザもゾッとする。
「あの人はいないよ」。

それでも仕事を果たそうとするヤクザは、お豊を刺してしまう。
お豊の顔の傷口から、血が滴り落ちる。
白い顔、赤い血、その目、形相にヤクザも悲鳴を上げる。
母親も、腰を抜かす。

その頃、かつての中間だった爺やの家に、お豊が来る。
新五郎を待ちたいと言って、お豊は家に上がる。
やがて、新五郎がお久を連れて戻る。

すると、待っていたはずのお豊はいない。
中間に、お豊との因縁を聞かされた新五郎は、「江戸から逃げろ」と言われる。
お久と一緒に逃げていく新五郎。
だが、累ヶ淵まで来た時だった。

お久が足を滑らせ、淵に転落。
助けようとする新五郎は、落ちていた杖を拾う。
その杖は、お豊の父親が持っていた杖。

杖を伸ばし、お久を救う。
だが、しがみついてきたのは、怖ろしい形相のお豊だった。
思わず、手を離し、お久を突き落とす新五郎。

もみ合った新五郎の胸に、地面にはまった杖が突き刺さる。
父親の姿と、新五郎の姿が重なる。
逃れられない。

新五郎は倒れる。
累ヶ淵が、静かになる…。
ピー。
どこかで、按摩の笛の音が聞こえる…。



殿が、菅貫太郎さん!
うれしいキャスティングじゃないですか!
娘・お豊は、片桐夕子さん。
もう、これだけで時代劇ファンは喜んでしまいました。

新五郎は林与一さん。
色男!
旗本の息子だから、強い。
でもお豊の父親が、「その男はダメだ」と言わんばかりに現れる。

お久は新五郎に憧れたでしょうが、ここでの新五郎はお豊から乗りかえるような人じゃない。
しかし、お豊は嫉妬にかられる。
やがて、顔に傷を負うお豊。
もう、定番です。

ううう、来たよ。
傷はいっこうに、良くならない。
ならないどころか、傷口は腫れあがり、紫色に裂け、広がっていく。
あああ、怖い。

昔、「累ヶ淵は、怖ろしい話」と言われましたが、だんだんわかってくる。
お豊と新五郎は、敵同士。
それなのに2人は出会って、惹かれて恋仲になる。
2人のまったく知らないところで、つながっている。

累ヶ淵は、この「因縁」が延々と続く話。
知らないところで因縁がつながっていて、お互いが最後は殺し合い、不幸にし合っていくお話なんです。
本人たちが何も知らない、していないのに…。
わかった時、ゾッとしました。

霊感があるという人が、夫婦で殺しあった事件のニュースを見て、言ったことがあります。
「この2人は前世は、敵同士。一緒になっちゃいけない2人なのに、一緒になっちゃったからなのよ」って。
いやいや、本当かどうかは確かめようがないんですが、累ヶ淵を思い出しました。

「八つ墓村」だって、最後、犯人と主人公が実は尼子の落武者の系譜の上にいることがわかる。
金田一耕輔は、ここでもう、調査をやめる。
怖い。
確かにもう、知りたくない…。


2015.03.08 / Top↑