猫は必要なところに行く 「玉之丞江戸へ行く」

まだ雪が残る山道を、よろよろと男が歩いていく。
「ひでえ目にあったなあ…」。
男は山小屋にたどりつき、身を横たえる。
目に前に持ってきた男の手には、血がついていた。

「帰れそうもねえか。すまねえ、お鶴ぅう」。
そう言った男は、何かの気配に警戒する。
にゃー。

小さな白い猫が現れた。
「猫か。どうした。おめえ、母ちゃんは。腹減ってんのか」。
「おら、もう食えねえ。おめえ、食え」。

男は自分のおにぎりを猫に与えた。
猫は元気良く食べ始める。
「うめえかぁ?」

その日の朝。
男は槍を持っていた。
「お鶴、いいから寝てろ」。
「あんた、どうしても行くの」。

「一揆って言ったって人死にが出るような、おおげさなもんじゃねえ」。
男は役人の家に石を投げに行くだけだと言った。
妻のお鶴は身重だった。
「腹減るといけねえから」。

お鶴は、おにぎりを作り出した。
「名前、考えておいておくれよ」。
お鶴は夫に、子供の名前を考えてくれと言っていたのだ。
「おお、村一番の良い名前つけてやっからなあ」。

男は守り袋から、子供の名前を書いた紙を出した。
「もらっておくれるかい。お鶴に届けてもらえると、ありがたいんだけどな」。
そう言って、男は猫に首輪をすると、紙を首輪につけた。

山道を、寺子屋の新垣先生が行く。
にゃあ。
寺子屋の先生は、猫の声に立ち止まった。

抱き上げた子猫の体には、血がついていた。
「けが、か?」
新垣先生は、山小屋を見つけて入っていく。

そこには息絶えた男がいた。
「百姓一揆か」。
「お前が看取ったのか」。
にゃん、と猫が答える。

猫の首に、何か挟まれている。
「命名 玉之丞」。
紙にはそう、書かれていた。
「おぬし、玉之丞と言うのか。えらく立派な名前じゃのう」。

それから幾年か過ぎた。
寺子屋に新しい女性の先生がやってきた。
村の男が声をかけても、見向きもしないで本を読む姿に男たちはお高く留まりやがってと悪態をついた。

「白玉塾?」
「こんにちわ。美和でございます!」
新垣先生が江戸に行って家族と暮らすことになったので、代わりに美和がやってきたのだ。
美和は騒ぐ子供たちを一喝。

教室を見回した美和は、ギョッとする。
一番後ろの机。
「猫?」

美和に新垣先生は言った。
「玉之丞じゃ。あいつも大事な生徒でな」。
『猫が生徒…?』

美和は挨拶の時、「今は女であれ、学問をする時代です」と言った。
生徒の1人が「猫もな」と笑った。
「静かに!」

その途端、にゃあという声が響いた。
玉之丞だった。
『…答えた?』
『まさか』。

子供たちが笑った。
「私語は禁止です!」
「わかったら返事!」

美和はちらりと玉之丞を見た。
「…」。
玉之丞は無言だった。
『今度は無視かよ!』

美和はなかなか、村の生活に馴染めない。
子供の頃、両親と別れた美和は、人に対して素直になれない。
この先も家族はいらないと公言し、自分には学問があれば良いと言う。
生徒の三吉の兄が、美和に示すが美和は振り向きもしない。

美和は教室に猫がいるのも、気に入らない。
だが新垣先生は、玉之丞は猫ではないと言う。
「人の子と同じじゃ!」
『あー、はいはい、そういう人、いるよね』。

「気まぐれでわがままで純粋で。強がるくせに放っておくと、寂しがる。ともに暮らすうちにわかるじゃろう」。
「ともに暮らす?」
にゃおん。

「玉之丞は残りたいそうだ」。
「誰が面倒を見るのです!」
美和は声を上げた。

「猫は必要とされるところに行く」。
先生は、穏やかに言った。
「玉之丞もいつか、このうちから巣立つ日が来るかもしれん。その日まで、しっかり頼んだぞ」。

『…まじか』。
「玉之丞、美和先生のことを頼んだぞ」。
美和に玉之丞を頼むのではなく、玉之丞に美和を頼んでいった。


この後は、美和は大切にしていたガラスの花瓶を玉之丞に壊され、怒り心頭。
玉之丞を押入れに押し込める。
だが、形あるものはいずれ壊れるもの。

この事件をきっかけに美和はすっかり、玉之丞と仲良くなる。
いつのまにか、玉之丞は美和にとってともに生活をする家族となる。
しかし、この領地の殿が江戸に滞在している間、役人たちが勝手に塾を閉鎖しようとする。

閉鎖されたくなければ、2両を出せと言うが、そんな大金があるはずがない。
美和は、江戸の殿にこの窮状を訴えようと考え、手紙を書く。
だが今度は、江戸まで飛脚を飛ばすお金が足りない。
すると飛脚たちは飛松という飛脚なら格安だと言って、笑う。

飛松はケガが元で、足を引きずって歩く飛脚であった。
それでも美和たちは飛松に作物と、手紙を託すことにする。
作物が入った箱に、玉之丞が入り込んでしまったことも知らずに…。

途中、仕事を放棄しようとした飛松は、箱の中に玉之丞がいるのに驚いた。
玉之丞を放置して帰ろうとした飛松であったが、玉之丞の声に惹かれるように戻ってしまう。
殿に渡す箱に玉之丞がいたことから、飛松は玉之丞も届け物だと思い込む。

そして江戸に行くが、屋敷の門番は玉之丞を受け取らない。
途方にくれた飛松は、玉之丞を懐に入れて歩くうち、「猫飛脚」と呼ばれ、人気になってしまう。
特に呉服の大店、加賀屋は玉之丞に会いたいために楊枝を作っては飛松を呼ぶ。
それを苦々しい思いで見つめる番頭の佐吉。

飛松に嫉妬した仲間の飛脚は、飛松をワナにはめ、役人に捕らえさせた。
届けた反物は猫の毛まみれで、小便の匂いがしたという訴えがあったのだ。
捕らえたのは石渡と言う同心と、北野という同心だった。

飛松がいなくなった町では、仲間の飛脚が猫をつれ「猫飛脚」として仕事を請け負っていた。
それを石渡が、じっと見ている。
飛松は北見に、責められていた。
北見は「俺はな、大の猫嫌いなんだよ」と言う。

「なんだったらこの場でこいつ、斬り殺してやろうか」。
そう言うと、北見は玉之丞の籠の前で、刀を抜く。
「やめろお!」

飛松が叫ぶ。
「玉に指一本触れてみろ。許さないからな!」
「へへへへへ」。
北見が玉之丞の籠に向けて、刀を閃かせた時だった。

荒々しく、戸が開いた。
石渡が立っている。
「これは石渡さん。どうしたんですか」。

「北野さま」。
石渡が突き出したのは、飛松の仲間の飛脚だった。
「このやろうが全部吐いたぜ」。

北野の顔色が変わった。
「すまねえ、飛松」。
仲間の飛脚は、飛松に膝をついて謝った。
飛松に嫉妬して、ちょっと困らせてやろうと思っただけだったのだと。

「おめえが絵、描いてやらかしたらしいじゃねえか」。
石渡が北野に言う。
「さあ、何のことだか」。
北野は石渡の目が、まともに見られない。

石渡は、刀の柄を北野のあごに押し付けた。
「喉、乾かねえか…?」
石渡が笑う。

「ひいいい」。
耐えた者は誰一人としていないと言う、石渡の水責め。
北野が悲鳴を上げている。

飛松は無事、解放された。
「行け」。
石渡に見送られ、玉之丞を抱いて、足をひきずりながらも出て行こうとする飛松。
「ほんとにありがとうございました」。

「おい」。
石渡が声をかけた。
飛松に近づく。
「ちょっとその猫、貸せ」。

飛松はきょとんとしながら、「はい」と言って石渡に玉之丞を渡す。
「おちょちょちょ」。
石渡が玉之丞をあやす。

「あっち行ってろよ」。
石渡は飛松に言った。
「あっち行け!」
「はい」。

飛松が離れると、石渡は背を向けた。
「た~まちゃん!」
石渡が玉之丞を抱く。

「たまちゃん!」
玉之丞を抱き上げる。
「よかったでちゅね。こわかったでちゅね。悪い人が一杯いるんでちゅね」。
「こわいでちゅね。かわいいでちゅねえ。たまちゃん!」

だが次に石渡は「おい、おうい」と飛松を呼んだ。
「へい」。
「何か、様子が変じゃねえかい?」

玉之丞の様子がおかしい。
「せっかく自由になれたっていうのに!」
飛松はうろたえた。

石渡が走る。
飛松を連れて、迷いもせず駆け込んだ。
石渡が叫ぶ。
「猫見屋!お七!」

「おい、主人はどこだ」。
店先で酒を飲んで、寝ていた男が起き上がった。
「長崎まで買出しに行ってるんでさ」。
「貴様、誰だ」。

「おれはお七の亭主だ」。
「亭主?」
石渡の顔色が変わった。
思わず、刀に手をかける。

「おんのれぇ~」。
「な、何だ?!」
だが飛松は玉之丞を見てくれと言う。

お七の亭主はただの店番で、猫のことはわからないと言った。
石渡は店の本を出し、飛松に玉之丞の様子をチェックさせた。
どうも虫下しが必要らしい。

「虫下し 1両」。
お七の亭主はニコニコしながら言う。
「びた一文、まかりませんよ」。

「でもちょっとこれ、高すぎじゃねえか」。
すると、お七の亭主は言う。
「猫ちゃんは、家族」。

『ばかか、こいつ』と飛松は思ったが、思わず石渡にむかって「だ、だんな!」と叫んでいた。
「今は、無理だ」。
飛松は走る。

行った先は、加賀屋だった。
金は必ず返しますと言う飛松に加賀屋の主人は「早く玉ちゃんに薬を!」と叫んだ。
横で佐吉が、情けなさそうな顔をしている。

猫見屋の前で、石渡と飛松が座っていた。
玉之丞は虫下しを飲み、元気になった。
石渡もとても、喜んだ。

「つらい思いをさせてしまって…、玉には、かわいそうなことをしました」。
「猫は家につく。あんまりつれまわすんじゃねえよ」。
「そうですよね…」。

飛松は本来の仕事を忘れ、猫飛脚として玉之丞を連れまわしたことを反省していた。
石渡は言った。
殿が玉之丞を受け取らないのなら、持ち主に返したらどうだ、と。
飛松は玉之丞を連れて、白玉塾に戻る。

だが、塾は閉鎖されていた。
参った飛松が玉之丞を抱いて途方にくれていると、子供が見ている。
その子供の母親がやってくる。

お鶴だった。
「名前、なんていうんだい?」
「玉之丞」。
「良い名だ」。

母親は飛松に柿をくれた。
飢饉続きだったが、今年は豊作だったからと言う。
「太郎、行くよ」。
太郎と呼ばれた子供は「うん」と言って、母親についていく。

自分が玉之丞と手紙を、殿に渡さなかったために塾は潰れた。
後悔する飛松は一大決心をして、屋敷に向かう。
だが昨日まで玉之丞を拒否していた門番は、月番が代わり休みになっていた。
新しい門番は、あっさり玉之丞と手紙を受け取った。

飛松が拍子抜けしていると、先日までの門番に行き当たった。
玉之丞を渡したことを伝えると、門番は殿は猫が嫌いだと言った。
殿に斬られるかもしれないから、門番は拒絶していたのだ。
飛松はそれを聞いて、魂が抜けてしまったようになった。

玉之丞が斬られたかもしれない。
俺のせいだ。
飛松は走る。
走れなかった足が動く。

だが、玉之丞は…。
衝撃のあまり、ふらふらと歩く飛松を探して、加賀屋の佐吉が走ってくる。
旦那に呼ばれた飛松は、加賀屋の広く、豪奢な屋敷の奥で座っている玉之丞を見る。

加賀屋は殿の御用達であった。
屋敷で騒ぎになっているのに気づき、その主が玉之丞であったため、加賀屋が貰い受けてきたのだ。
主人に玉之丞を渡された飛松は、ふと、足を止める。

加賀屋の主人は自分の子供に、死なれていた。
そして妻も去年、亡くなっていた。
飛松は、玉之丞がいたおかげで、ずいぶん迷惑をしたと言った。
玉之丞を加賀屋に、もらってほしい。

飛松の乱暴な言葉に託された思いを察した加賀屋は、玉之丞を預かると言った。
それから加賀屋は、玉之丞を溺愛した。
苦々しく思っている佐吉。
「迷わず、成仏してくれよ!」

飛松は、飛脚として復活した。
美和の塾は、再開していた。
その名も、「小芋塾」。

名前は三吉の兄が飼っている、かつて美和が「不細工」と言った猫の名前だった。
家族など持たないと言った美和は、幸福そうにお腹をなでた。
美和の中には、三吉の兄の子供がいた。

その夜。
満月の綺麗な夜だった。
佐吉に頼まれ、玉之丞を斬りにやってきた浪人がいた。

刀が振りかざされた。
振り向く玉之丞。
刀をジッと見つめる。
光る刀。

光る、美和のガラス瓶。
百姓一揆の槍。
長屋で飛松が使っていた鍬。
百姓一揆で死に掛けた男。

先生。
美和。
飛松。
そして加賀屋。

浪人の刀は頭上で、止まったままだった。
そのまま、浪人は固まっている。
にゃあ。

玉之丞の声が響く。
「猫は必要なところに行く」のである。
ぽん!
(この話、エピソード1へ続くのである)



「猫侍」本編からのキャストは、加賀屋さんと佐吉、石渡さんだけかな?
でもこれが良いんだ。
本編を見た人は、喜んでしまったと思う。

特に石渡さん。
ユキリョウイチさん、良いなあ。
飛松に近寄る時の足、あの歩調もずんずんと怖い雰囲気で歩く。
ちゃんと、足まで演技されています。

石渡さん、優秀な同心なんだ。
「喉、渇かねえか?」で、北見も震え上がる。
うわーっはっはっは、の声で遂行される水責め。

そう、この水責めに耐えた者はいない。
しかし…。
石渡さん、玉之丞を助けたかったねん。

玉之丞を抱っこした時から、怪しかったんですがもう、笑ってしまった。
「でちゅね~」。
コワモテに隠された、猫にデレデレの裏の顔。
二面性のあるキャラクターはおもしろいとは緒形拳さんの言葉ですが、これもそう。

玉之丞の異変にいち早く気づくのも、猫好きならでは。
迷わず駆け込むのが猫見屋というのも、笑う。
お七!と言うところからすると、石渡は猫見屋を知っていたんですね。
そりゃ、猫好きの石渡、同心の石渡が猫見屋を知らないはずがないとエピソード1でも思っていましたが。

お七に旦那がいたのも、驚き。
苦労をしたと言っていたのはこの旦那のことだったのか。
猫ちゃんは家族とお七の言葉を言ってはいたが、お金の方ばっかり見ている感じがした。
店先で酒飲んでいたところからして、お七に追い出されたのでしょうか。

カンニング竹山さん、おもしろかった。
石渡が亭主と聞いて絶句して、思わず刀に手をかけるところも笑えました。
お七には密かに、「期待」していたのでしょうか。
しみじみ、飛松に言って聞かせるところも良かった。

やっぱり世の中の裏を見てるんですよ。
そんな石渡の癒しは、猫なのかもしれない。
今回は石渡さんのいろんな面が見られて、良かったなあ。

本来は玉之丞と名づけられるはずの子供と、お鶴と、玉之丞の出会い。
それが奇妙な縁で結ばれたものと、見ているこちらにだけわかるところがニクイ。
玉之丞には、わかるのだろうか。

これで佐吉が久太郎に、玉之丞を斬ってくれと依頼するわけですね。
飛松がいた長屋、最初は名札になかった「まだらめ」がお話の終わりの方には掛かっているのも、芸が細かい。
今回は久太郎はシルエットと手だけ、というのもかえって良かった。

「猫は必要なところに行く」。
玉之丞はいろんな人を癒し、玉之丞によって人は変わった。
その行き着いた先が、久太郎だった。
加賀屋さんはそれを知っていたから、久太郎に玉之丞を「お嫁に出した」のか。

だから石渡さんは玉之丞が斬られたと思った時、「この世の地獄を見せる」と密かな怒りを燃やしたのか。
そして玉之丞を無事を確信していたのか。
縁というものについて、不思議だと思いながら考えてしまう。
これを見ると、エピソード1がもう一度見たくなります。

飛松は、田中直樹さん。
美和は山口紗弥香さん。
一揆で亡くなる男は、モロ師岡さん。

新垣先生は、渡辺哲さん。
個性派の演技派が揃っていて、良かった。
玉之丞は、あなごさん、さくらさん。
子供の頃は、こたまちゃんかな?

他に小芋ちゃんと、偽猫飛脚が連れている猫もかわいかった。
猫が本当にかわいらしく撮れている。
のびのびと、いきいきとしている。

あと、「猫同心」。
見たいなあ。
絶対おもしろいと思う。


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「名前はまだない!」 玉之丞、江戸へ行く

「猫侍」外伝、「玉之丞、江戸へ行く」。

見ました!
相変わらず、猫のあなごさん、かわいい。
スタッフは、猫をかわいらしく撮ってくれてます。
聞けば、撮影はすべて猫のペースらしい。


このお話は、久太郎に出会うまで、玉之丞がどういう猫生を歩んできたかを描いています。
まず初め、百姓一揆に出かけた男が死に掛けて小屋に転がり込むところから、話は始まりました。
身重の妻が心配する中、「役所に石投げるだけだから」と言って出た男。
しかし男は瀕死の重傷を負って、逃げてきた。

小屋の中、物音に気づいて飛び上がるが、そこにいたのは一匹の白い小さい猫。
死に掛けた男には、その小さなぬくもりと生命力がいとおしく感じたのか。
妻が持たせてくれた弁当を、猫に与える。

村一番の名前をつけてやると約束した男だが、おそらく、家には帰れないだろう。
おつる、妻のおつるに届けてくれたらいいんだけどなと言いながら、男は猫の首に紙を託す。
紙には「命名 玉之丞」と書いてあった。

まだ雪が残る山道を、寺子屋の先生が歩いていく。
猫の声に気づき、辺りを見回すと、小さな白い猫がいた。
だが猫の体には、赤い血がついている。

けがをしているのだろうか?
思わず抱き上げるが、猫にけがはない。
さらに辺りを見回すと、小屋がある。
先生は小屋に入っていく。

小屋の中、粗末な槍を持った男が息絶えていた。
「百姓一揆か」。
先生は男に手を合わせる。

猫の首輪に目を留めると、紙を開く。
「命名 玉之丞?」
えらく立派な名前だ。
先生は猫を自分の寺子屋に連れて帰ることにする…。


さて、ここから始まる玉之丞の、久太郎と運命の出会いをするまでの前日談。
「吾輩は猫である。名前はまだない!」
家にも突然、私を見て駆け寄ってきた猫がいましたが、この猫がそれまでどんな猫生を歩んできたのか、知るすべはない。

知りたいと思う。
しかし、知ることはできない。
何億もいる人間と動物とが出会う確率。

そしてお互い、かけがいのない存在になる。
運、いや、縁。
縁って不思議。

久太郎も、そんな気持ちになったことがあるのではないでしょうか。
加賀屋さんはある程度、知っているけど。
この話には、加賀谷さん、番頭の佐吉、「水責めのマサ」の同心が出演してくれてます。

ユキリョウイチさんが、本当に良い感じ。
しびれましたよ。
何と、「猫見屋」も登場。

全部見終わると、シーズン1が見たくなる。
この話、忙しさが一段落ついたら、ぜひとも書いてみたいです。
スピンオフ作るなら、ぜひ「猫同心」をお願いしたいところ!


陽だまりうたた寝 ああ猫日和 「猫侍」最終話

最終話。


目覚める、久太郎。
立ち上がり、戸を開ける
「おうい、朝だ」。

押入れに向かって、声をかけて、ハッとする。
(そっか、あいつはもういないのか)。
寂寥感が、久太郎を襲う。

(いかんいかん、猫一匹いなくなっただけで)。
(あいつのせいで、独り言が増えた)。
元気でやってるかなあと思いながら、素振りをする。
木刀が、久太郎の手からすり抜けている。

(はっ?)
(し、しまった)。
空から降ってくる木刀に、表にいた長屋の住人が驚く。

その頃、与左衛門は、帰ってきた玉之丞を溺愛していた。
「旦那様」と、声をかけて佐吉が入ってくる。
「極上の寿司でございます」と、寿司を持ってくる。

「こっちへ持っておいで」。
「はい」。
「よしよし、さあ、玉ちゃん、たーんとお食べ。ほら。、どうしたんだい?お前の大好物だろう」。

佐吉がひとつつまみ、口に入れ、「そうだよ!こんなにおいしいよ!」と言う。
「お前が食べてどうすんだい!こら!」
猫じゃらしで、与左衛門が佐吉を叩く。

「玉之丞」。
しかし、玉之丞は目を閉じているだけだった。
与左衛門が、ため息をつく。

久太郎は、いつか薪を届けに来た、あの猫茶屋の前にいた。
(別に玉之丞が恋しいわけじゃない)。
(そう、ようかんだ。ようかんを食いに来たんだ)。

猫茶屋に入った久太郎は「ご注文はお決まりでしょうか?」と聞かれた。
「ようかん」と、ムスッとした声で言う。
「ようにゃんですね♪」
店の女性が、陽気な声で言う。

「ようかん」。
「当店では猫をもじって、ようにゃんですが」。
「ようかん!」

(武士の道とは!決して引かぬこと!)
しかし、店員の女性は言った。
「きちんとご注文をいただきませんと、ご要望にはお答えできかねますが♪」
「よう、にゃん…」。

「かしこまりましたー♪」
女性の楽しそうな声に、肩を落とした久太郎。
(負けた…)。

「あと、好きな猫ちゃんをお選びいただけますが」。
(俺はようかんを食いに来たんだ!)
「いかがいたしましょう♪」
「白猫!」

久太郎は、即答していた。
「かしこまりました!」
(ああっ)。

「ようかんを前にした久太郎は、ようかんを切って食べる。
先ほどの店員がやってきた。
猫を差し出して、「はあい、かおりちゃんでーす、かわいがってあげてにゃーん」と言って久太郎に渡す。

猫をまじまじと、見て久太郎は思う。
(白猫とはいえん)。
おとなしい、その猫を玉之丞を抱いていたように抱く。

(うーむ。なーんか違うんだよなあ)。
その時だった。
店の中に、久太郎が視線を向けると、そこには…。

「かわいいな」と声を潜めて、子猫を抱きしめる男がいた。
それは、石渡だった。
石渡は小声で、言った。

小声になる、いや、声が出ないほど、石渡は猫をかわいがっているのだった。
「君のかわいさは、神のいたずら…、なんてかわいいんだ、きみは。ああっ!」
(みいちゃった…)。

猫見屋の裏手に来た久太郎を見て、お七が「あらあ、どしたの?」と声をかけた。
お七は、薪を割っていた。
「手伝ってくれるの?」

久太郎は、薪を割った。
「ううん、いつ見ても鮮やかよ世ねえ。巻き割りの仕事ならさ、いつでもあるからね」。
久太郎は、ぶっきらぼうに答えた。

「また士官の口を捜すつもりだ」。
「ええ。まだあきらめてなかったんだ?!」
(嫌な奴)。

「お国には帰らないの」。
「国にはまだ、帰れん」。
久太郎の言葉を聞いた、お七は言った。

「ねえ、小難しいこと考えないでさ。日が登れば汗して働いて、日が沈めばうちに帰って寝る。人生ってもんは、そういう毎日の繰り返しでいいと思う。それ以上でもそれ以下でもないんじゃないかな」。
「仕事より、大事なものはたくさんあるわ」。
黙々久太郎は、薪を割る。

久太郎の試合の相手であったはずの内藤は、考えていた。
赤い月が昇っていた。
内藤は、長屋への道を歩く。

座敷で1人、正座して黙想している久太郎。
やがて立ち上がり、たんすの引き出しを開ける。
その中には、妻と子供から送られてきた、未開封のたくさんの手紙がある。
久太郎は、ひとつを手に取る。

なああおん。
その時、猫の声が響く。
「玉之丞!」

縁側から出る、裏庭に玉之丞が伏せをしている。
「玉之丞!」
久太郎が、全身を弾ませて駆け寄る。

「おい、どうした。ここに来てはだめだろう!」
そう言う久太郎の声は、ごまかしようがないほど、明るく弾んでいる。
久太郎は玉之丞を抱きしめ、頬を寄せる。
「玉之丞」。

その時、とんとんと戸が叩かれる。
「俺だ。入るぞ」。
内藤が入ってきた。

久太郎を前に、内藤が聞く。
「猫のために勝負を捨てたと言うか」。
「そうだ」。

それを聞いた内藤は「もう一度俺と勝負しろ!」と言う。
「いつかお前を倒す。そのことばかりを考えてきた」。
思い出の中。
道場で立ち会う2人。

木刀がぶつかり合う。
鈍い音が響く。
内藤の額にした鉢巻から、血がにじむ。
額を割られた、内藤。

「もしあの時、真剣で立ち会っていたら、俺は負けていたかも知れぬ」。
「このままでは、収まりがつかぬ!勝負する気がないなら…」。
内藤は、刀を抜いた。
「嫌でも刀を抜かせるまで!」

玉之丞が、内藤を見上げた。
にゃあおん。
玉之丞が、鳴く。

「抜けえ!」
身動きしない久太郎に、内藤が苛立つ。
にゃあおん。
また、玉之丞が鳴いた。

内藤は、刀を構えている。
玉之丞が鳴く。
「猫を黙らせろ!」

だが久太郎は言う。
「猫は鳴きたい時に鳴く」。
にゃあおん。

内藤が、刀を振り上げる。
見つめる玉之丞。
にゃあおん。

内藤が意を決したように、刀を振り上げる。
にゃあおん。
一瞬、ひるんだ刀を、再び振り上げる。
にゃあおん。

内藤は、刀を下ろせない。
久太郎は、玉之丞をなでながら、悠然としている。
「…ばかばかしい」。

内藤が刀を下ろした。
「やめだやめだ。まともに斬る気木もないものを斬っても、しかたがないからな」。
「まったくお前と言う奴は…」。

「変わったんだ。こいつのおかげで」。
久太郎の声と表情は、穏やかだった。
「猫なんぞに…、心奪われおって!」

土間に下り、出て行こうとする内藤。
ポツリ、と言う。
「…自由だな。猫もお前も」。

久太郎を、じっと見る。
「さらばだ。猫侍」。
そう言うと、戸を開け、出て行った。

猫侍…?
久太郎が、ふっと笑う。
(ねこざむらい)。

ちりんちりんと、玉之丞の鈴の音がする。
「ありがとうな」。
「少ししたら、加賀屋に帰れ。な?」
「ん?その前にちょっと、綺麗にしてやろう」。

久太郎は、玉之丞を抱っこして庭に行こうとする。
すると、また外から、「斑目様」と言う声がする。
「加賀屋の佐吉でございます」。

「開いている。入られよ」。
戸が開いた。
外には、佐吉が立っていた。
佐吉がお辞儀をすると、今度は加賀屋の主人・与左衛門が現れた。

与左衛門が一礼して、入ってくる。
「お邪魔しているんだろうと、思っておりました」。
「心配だったであろう。玉之丞、ほら、迎えが来たよ」。

だが与左衛門は、意外なことを言った。
「誰も、玉之丞は束縛できないんですよ。猫は自由に生き、また、そうであるべきです」。
与左衛門は、玉之丞を見る。

「うちに帰りたい時、こちらさんに帰りたい時。玉之丞の好きにさせてやろうと、思いましてね。その、あなた様さえ、かまわなければ」。
「玉之丞を、どうかよろしくお願いします」。
与左衛門は、頭を下げた。
久太郎は、感謝で一杯になった。

「かたじけない」。
久太郎が頭を下げた。
にゃあん。
玉之丞が鳴いた。

久太郎は翌朝、玉之丞を抱きながら歩いていた。
若菜が、どなつぼうを売っている。
久太郎と玉之丞を見て、「玉ちゃん!」と声を弾ませる。

「また、にぎやかになる。2本くれ!」
「ようし、今日はお祝い。これ、全部おまけしちゃう」と若菜が言った。
「おいおい」。

「一杯食べて、しっかり仕事して稼がないとね。あ、玉ちゃんにひもじい思いさせちゃダメだよ」。
久太郎が、玉之丞に話しかけた。
「そうだにゃーん」。

若菜が、ギョッとする。
久太郎がハッとして、若菜に背を向ける。
若菜が笑う。

猫見屋の前で、お七が水をまいている。
玉之丞を連れてきた久太郎を見て、「ああらあ。玉ちゃん」と言った。
「頼むぞ」と、久太郎が言うと「いつでも来てよ。お代はしっかり、いただくけどね」と返した。

久太郎はお七に玉之丞を渡してから、「それと」と、どなつぼうを出した。
「ええ?ありがと」。
お七は、どなつぼうを食べた。
「うん、おいしい」。

久太郎が手を出すと、「え?お金取るの?」と驚く。
「冗談」。
「冗談言うんだ?!その顔で」。
にゃおう。

玉之丞が鳴く。
「良かったわね、また、一緒に暮らせるようになって」。
「まあな」。
「家族は一緒に、いないとね」。

久太郎が、猫を片手に長屋に戻ってくる。
気がついた住民の一人、おかみさんが、「あら?猫かい?」と言った。
「ちょっとあんた、猫猫」と、旦那に声をかける。

「名前は何て」。
「玉之丞」。
「へえ?」
長屋の者が集まって来る。

縁側で、久太郎は今までの手紙を読んでいた。
膝には、玉之丞がいる。
妻からの手紙には、お春が熊のような男の子をやりこめたことが書かれていた。

「さすが、斑目久太郎の娘と誉めてやりました」。
一緒に、「ちちうえ」と書かれたつたない絵が入っていた。
お春が書いた、久太郎だった。
久太郎は、微笑んだ。

「お静、春。元気そうで何よりだ。仕事探しは予定より長引いているが、決してあきらめていない。近いうちに必ず、吉報を届けられると思う」。
その手紙を、吾郎が妻と子供に届けていた。
「お春ちゃんにもお手紙あるんだよ」。

「1人暮らしに慣れるのは時間がかかったが、実は今、ひょんなことから玉之丞という猫と暮らしている。これがなかなか悪くない。家は手狭だが、会えばお春の良い遊び相手になるだろう」。
久太郎は、懐に玉之丞を入れ、あの老人に絵を描いてもらっていた。
「動かない!」と、老人が言う。

「どうだ?一度江戸に来てみないか」。
久太郎と、玉之丞の絵を見たお春が言った。
「母上、猫です」。

ちりんと風鈴の音がする。
長屋で、寝転がっている久太郎。
その横で、寝ている玉之丞。

(拙者、元加賀藩、剣術指南役。名を斑目久太郎。わが手前、無双一刀流免許皆伝なれば、誰が言うたか、ついた呼び名は…、猫侍)。
いびきが聞こえる。
横には玉之丞が寝ている。

江戸暮らし 金も仕事もないけれど 陽だまりうたた寝 ああ猫日和



一匹の猫をめぐって、人間たちが関わる。
一人の偏屈で、不器用で、それを言い訳にして、家族との関わりも逃げている。
そんな侍が、猫から発生した人との関わりを経て、変わっていく。

猫愛でるドラマ、ということは、ある程度はとんでも時代劇であり、それを楽しむ時代劇。
ファンタジーの部分に、ツッコミを入れるのは野暮というもの。
そんなドラマかと思ったら、本当にしんみりしました。
人間と猫のふれあいが、それによって変わる男がしっかり描けている。

最終回。
玉之丞がいない毎日に、久太郎は慣れない。
面影を求めて、猫茶屋に行ってしまう!

そこであくまでも、自分を崩さずにいようと思った久太郎だが、もろくも崩れ去る。
ようにゃん。
すかさず、「白猫」と口走ってしまう。
禁断症状ですわ。

来た猫だって、かなりかわいい。
でも、白猫ではなかった。
確かに。

抱っこしてみて、なんか違う…と思う。
そりゃ、一人にひとつずつ、みんな違うんですから、しょうがない。
すると…。

いや~、そうだと思ってたんですよね~。
玉之丞が殺されたと聞いて、「地獄をたっぷり味あわせてやる」と言った時から、石渡は猫好きだと思ってた!
いつ、石渡のこわもてが崩れるか、楽しみにしてました。

ああっ、君のかわいさは神の奇跡!
なんてセリフが、聞けました。
猫にほおずり。

あれは、企業秘密なんでしょうね。
だって、猫に弱いとわかったら、石渡の責めどころがわかってしまうから。
あれ、八五郎も知らないんじゃないかな?

心に穴が開いている久太郎。
何と、玉之丞も同じだった。
この2人、恋に落ちた2人だなあ。

玉之丞、加賀屋のご主人はお嫁入りさせるしかない。
もしくは、久太郎、加賀屋に婿入りだと。
以前も寺に預けられた玉之丞が、ご飯を食べなくなってしまったから、今回もあるんじゃないかと思ったら、やっぱり。
いつも、玉之丞には極上寿司食べさせてたんでしょうね。

それが、斑目特製・にゃーはんが食べたい玉之丞なのだ。
与左衛門さんが悪いんじゃない。
これは、恋なんです。
…って、でも玉之丞は、お静と張り合ったりしないと思うけど。

笑っちゃったのは、職場復帰している佐吉が、寿司をつまんでるところ。
ご主人が、猫じゃらしで叩くところ。
この2人のシーン、好きです。
心が通い合っている主従で、ほほえましい。

しかし、与左衛門さんは、やっぱりできたお人でした。
寂しいけど、考えるのは玉之丞の幸せ。
度量が大きい。

玉之丞が行きたいところに行かせる、生きたいように生きる。
そうではなくては、ならない。
ああ、無理やり寝床に引きずり込む私、ごめんなさい。

内藤の戦意もあっさり、そいでしまう玉之丞。
無敵は玉之丞だわ。
猫侍の名付け親が、内藤とは思わなかった。

「猫なんぞに、心奪われおって」には、嘲笑の響きはなかった。
「鬼になりきれぬ男よ」には、あったけど。
何度も「ここに居場所はない」って内藤は久太郎に言っていたけど、もしかしたら、武士としてどうか?ってこともやらされていたのかもしれない。
だから、そういうことができない久太郎に、居場所はないと言っていたのかもしれない。

去っていく時の内藤の寂しそうな、うらやましそうな「自由だな」。
これに内藤の今の状況についての思いが、こめられていた気がします。
内藤もまた、久太郎に持っていた妙なこだわりを、玉之丞によって捨てられたのかも。
あの内藤なら、切腹かなあと言っていたあの2人を寛大に許した気がします。

たぶん、よくわからない怖いお侍さんだった久太郎が、長屋の住人とお話するようになった。
にゃーはん作ってた時、後ろでおかみさんたちがめずらしそうに見てましたもんね。
きっと、久太郎は近寄りがたい存在だったんでしょう。
あの住人がいれば、ねずみ年の大家さんも大丈夫な気がする。

マイペースで、昼寝をして。
玉之丞を膝に乗せて、手紙を無理なく見られて。
それは久太郎が、玉之丞のおかげで、今の境遇に引け目がなくなったということでは。

ごいな。
猫による悟りだ~。
私も猫と毎日、べったりして暮らせたらどんなに良いだろうと思う…。

若菜や、お七と久太郎が恋愛モードにならないのも良かった。
あくまで、猫を真ん中に置いた人間関係。
いや、久太郎の恋人は玉之丞で十分だからかも…。

あの老人が玉之丞を見たら、さぞかし誉めるだろうと思ってました。
ラスト近くで、やっと遭遇しました。
絵を描いているだけでしたけど、あの絵、とっても良い。
あのおじいさんはやっぱり、ものすごい猫好きなんでしょうね。

さて、3ヶ月、ものすごく癒してもらったこのドラマ。
私生活の方ともリンクして、忘れられないものになりました。
シーズン2、できたら作ってほしい。

若菜が幸せになって、久太郎の生活も大丈夫と確信持ちたいです。
多分、大丈夫なんでしょうが。
映画もあるけど、映画はまた別物っぽいです。

もう、猫のかわいらしさ、神秘性がすごくよく出ていて、スタッフさん、監督さん、すばらしい。
猫に合わせたであろう出演者のみなさんも、全員本当に良かった。
このドラマに癒されていた私としては、本当にありがとうございましたとお礼を言いたいです。


なあと問うてもニャアと答えず 「猫侍」第11話

第11話。


外から、あばら家をのぞきこむ佐吉と、佐吉から刺客依頼をされた浪人・蜂谷孫三郎。
すぐにでも刀を抜こうとする蜂谷を抑えて、佐吉が様子を見に走る。
あばら家の中で、むしろを敷き、その上で若菜が眠っている。
傍らの鍋の中には、玉之丞が眠っている。

佐吉が、忍び寄ってくる。
玉之丞は確認できたが、久太郎がいない。
「あれ?いねえええ」と、小声でつぶやく。

蜂谷は、「娘もろとも串刺しだ」と言うが、久太郎も討ちたい佐吉は「いやいや、浪人が戻るまでお待ちください」と頼む。
「先に猫だけ、連れてまいります」。
蜂谷は、刀を抜いて立って待つ。

佐吉は蜂谷を手で制すと、玉之丞を連れに中に入った。
そっと壁伝いに忍んでいく。
だが、玉之丞にたどり着くには、若菜をまたがねばならない。
若菜が、寝返りを打った。

玉之丞のいる鍋に、佐吉が手を伸ばす。
すると、と若菜がまた寝返りを打った。
若菜に触れないよう、佐吉が手を伸ばす。

鍋に手が届くと思った瞬間、若菜が目を見開いた。
いきなり佐吉に噛み付いた。
「ああああ!」と佐吉が悲鳴を上げる。

にゃあお!と、玉之丞が鳴く。
若菜が、玉之丞を抱きかかえる。
「うおおおお!」
蜂谷が刀を抜いて乱暴に戸を開ける。

勢いで、戸が外れる。
「危ない」と佐吉が蜂谷を避ける。
「いつまで待たせるんだ。早く斬らせろ!小銀次が血を吸いたがってるんじゃ!」

蜂谷が佐吉に詰め寄っている間に、若菜は部屋の隅にあったつづらに玉之丞を隠した。
「あっち!」
佐吉があちらが玉之丞だと、蜂谷に言う。
蜂谷が、刀を手に近づいてくる。

若菜が両手を伸ばし、とおせんぼをする。
この先には行かせない。
蜂谷が「この名刀。小銀次の切れ味を堪能させてもらおうか」と言った。
若菜が目を閉じる。

蜂谷が、刀を振り上げる。
「待てえ!」
久太郎の声が響く。
「きたあ~」。

安堵で、若菜の顔がゆがむ。
「貴様…」。
やっと駆けつけた久太郎は、肩で息をしている。
「その顔を覚えているぞ」と蜂谷が言った。

あの時を、思い出す。
蜂谷は、久太郎に刀を落とされたのだ。
「ついに決着をつける時が来たな」。

蜂谷は両手に刀を持ち、構える。
だが久太郎は、「すでに決着済みだ」と言い放つ。
「あの時は、ぞうりが滑っただけだ!」
「猫のクソでな」。

蜂谷の顔色が変わる。
「こんのやろうおお~!」
久太郎に向かって、蜂谷が走って来る。
刀を頭上に振り上げる。

だが、蜂谷が振り上げた名刀・小銀次は、あばら家の軒下に刺さった。
小銀次は刺さり、蜂谷の手から抜けた。
刀を持ったつもりの蜂谷は、久太郎に向かって猛突進してきた。

そして、手の中に刀がないことに気づいた。
何も持たずに、走ってくることに気づいた。
「ないっ!」

蜂谷は、自分の手の中に刀がないことに呆然とした。
振り向き、今度は片方の手にある小刀を向けようとする。
チャリン。
せこい音がした。

蜂谷の小刀が、まるであしらわれるように久太郎の刀の先で、はじかれ、地に落ちた。
ほとんど、何の力もいれず、久太郎の刀は蜂谷の小刀を落とした。
ドドン、と、一巻の終わりの太鼓の音がした。

刀を向けられた蜂谷は、硬直した。
だが、久太郎が斬る気がないのがわかると、一目散に逃げていく。
佐吉が、軒下に刺さった蜂谷の刀を見つめている。

(なんだあいつは…)。
久太郎は、不可解なものを見る目で、蜂谷が逃げていく姿を見ていた。
「約束を破ったな!」という、佐吉の声が響いた。
「玉之丞を、なぜ斬らなかった!腰抜け侍!」

「3両返せ!嫌なら今すぐ、玉之丞を斬ってみろ!」
「斬ってみろ!」
恨み骨髄という目をして、刀を手にした佐吉が立っていた。

佐吉はしゃべりはじめた。
「あいつが来る前は、旦那様と楽しく暮らしていたんだ。…もう二度と帰れない」。
佐吉が遠い目をした。
だが次に佐吉は「くっそう!」と怒鳴ると、あばら家の中に走っていく。

「やめて」と、若菜が佐吉を阻止しようとする。
佐吉は若菜を突き飛ばし、つづらを開ける。
中には、玉之丞がいた。
玉之丞は驚いて、佐吉の方を振り返る。

「うわああああ!」
佐吉が叫び、刀を振り上げる。
「ああああああ!」
絶叫する佐吉。

怯えた玉之丞が、見ている。
再び、絶叫する佐吉。
玉之丞が、ジッと佐吉を見つめる。

「あああああ~っ!」
言葉にできない声をあげ、佐吉が刀を頭上に振り上げる。
だがその刀は、背後から久太郎に押さえられた。
佐吉は、外に放り出された。

「玉之丞のことは忘れろ」。
久太郎に言われた佐吉は「どいつもこいつも、猫ばっかり大事にしやがって」と言った。
佐吉が魂を抜かれたように、立ち上がる。
そして、肩を落として去っていく。

ちりん。
玉之丞の鈴が鳴る。
やがて佐吉は泣き叫びながら、林を抜けていく。

ぺたりと膝を折り、佐吉は泣き始めた。
号泣した。
子供が駄々をこねるようにひっくり返り、泣いた。

若菜が「玉ちゃん、良かったねえ。お侍さんが助けてくれたよ。ほら」と玉之丞に話しかけた。
久太郎は、若菜から玉之丞を手渡された。
玉之丞を腕の中に抱きながら、話しかける。
「お前はうちに、帰ろうな」。

そして若菜に向かって、「こいつは加賀屋に返す」と言った。
「お城勤めは?」
久太郎はそれには答えず、「幸せに暮らせ」と玉之丞に言った。

玉之丞のわきの下を持ち上げ、顔をじっと見る。
そして抱き寄せる。
お七が、立っていた。
「無事だったんだね」。

「もう逃げるのは辞めた。俺はまっすぐに生きたい。いろいろ、世話をかけた」。
久太郎は、玉之丞を抱いて歩く。
懐に玉之丞を抱え、久太郎は町を歩く。

夜になっていた。
久太郎が、番屋の前に立っている。
中から、石渡が出てくる。

「玉之丞だ」。
そう言って、玉之丞を石渡に見せた。
久太郎が、牢屋の廊下を歩く。
牢の戸が開く。

ピチャン、ピチャンと水がたれる音がする。
牢の中に、久太郎が入る。
石渡たちが去っていく。
久太郎は目を閉じ、正座をする。

「私には逃げる場所など、どこにもないのでね」という声がする。
目を開けると、牢の隅に佐吉が足を抱えて、居た。
「お侍さまあ、気がついたことがあるんですよ」。
「私が玉を殺そうとした時にね」。

あの時、玉之丞に向かって、佐吉は叫んでいた。
玉之丞は、じっと見つめていた。
「一瞬、胸が苦しくなりました。旦那様や、お侍様のお心持が…。わかったような気ががしたんです」。
久太郎は、佐吉を見ていた。

夜の中、立花と竹下は堀の前で酒を飲んでいた。
「これから、どうなるんですかねえ?」
「わからん」。

「謝りましょう」。
「ばあか」。
「そうですよね」。

「俺たち、切腹かなあ」。
「やっぱりそうなります?」
「あああ」。

「こうなったらいっそ、侍なんかやめちまうか」。
すると、「あのう、すいません」と気弱そうな声がする。
蜂谷が、立っていた。

「侍辞めるんでしたら、その刀、譲ってもらえません?」
「はあ?」
立花と竹下の、怪訝そうな顔に、蜂谷は「へへっ」と笑った。

玉之丞を抱いた与左衛門が、石渡たちを見送る。
「本当に何と、お礼を申し上げてよいやら」。
与左衛門と玉之丞を見た石渡は、「仲良く暮らせ」と言って去っていく。

加賀屋の前にいる与左衛門に、「与左衛門さん。こんにちは」と声がかかる。
お七だった。
「これはこれは、猫見屋さん」。

「玉之丞のことで、どうしてもお話しておきたいことがありまして」。
「はあ」。
与左衛門が、不思議そうな顔をする。

長屋に、仕事帰りの若菜が屋台を引いてやってくる。
玉之丞の鞠と猫じゃらしを手に、久太郎の部屋の前に立つ。
そっと、戸を明ける

久太郎の後姿を見て、「あ。おかえり」と驚く。
「でもなんで?」
久太郎の話は、こうだった。

牢に、与左衛門がやってきたのだった。
「佐吉」と、佐吉に声をかける。
「旦那様!」

ボロボロになっていた佐吉だが、それでも与左衛門を見ると佐吉は着物の前御取り繕い、立ち上がった。
「佐吉と少し、話がしたいのですが」。
与左衛門は、石渡に許可を取った。

「佐吉よ、お前、何でこんなことしたんだい?」
聞かれた佐吉は、うなだれた。
「すいませんでした。笑われるかもしれませんが、佐吉は…、玉之丞に嫉妬していたのです」。

与左衛門は、黙って聞いていた。
「子供の時から、実の子のように、かわいがってもらいました。…玉之丞が来てからは、旦那様の心は、どんどん、どんどん、私から離れていくので。それが寂しくて。寂しくて…。
「玉之丞は旦那様の心を奪った、化け猫だと考えるようになったんです。それで、お侍様に頼んで斬ってもらおうと…」。

「猫に嫉妬するなんて、ばかげている。頭ではわかっていたんですが、旦那様の心を取り戻すには、この方法しかないと考えるようになってしまって…。本当にすいませんでした」。
佐吉は頭を床に、こすりつけるように下げた。
与左衛門は石渡に言った。

「お聞きのように、悪いのは全部、佐吉です。あのお侍様は逆に、玉之丞の命を救ってくれたんです」。
「しかしだな」。
「猫見屋さんから聞きました」。

「それに…。玉之丞を見れば、わかります。ちゃんと真心を込めて、世話してくださっていたことが。お侍様に罪は、ありません。どうか自由にして差し上げてください」。
石渡は、「ならば佐吉を責めるか」と聞いた。
「いえ!佐吉もまた、ここから出してやってください」。

「旦那様」。
「この出来損ないを!もう一度、私の手元で教育し直します。もう二度と人様に迷惑をかけない、真人間にして見せますので。どうか!今回だけは!許してやってください」。
佐吉が目を閉じる。

話を聞き終えた若菜は、「玉ちゃん、ちゃんと、家族のところに帰れたんでしょ?良かったね!じゃあ、これ返すね」と、鞠と猫じゃらしを置いた。
久太郎は、何も言わなかった。
若菜は努めて、明るい声で「じゃあ、また明日」と言った。
だが、相変わらず久太郎は背を向けたままだった。

若菜がいなくなると、久太郎は「家族、か」と、つぶやいた。
久太郎はまた、思い出していた。
加賀を出る時だった。

「父上!」と、お春が呼んでいた。
「本当に、行ってしまわれるのですね」。
お春はそう言うと、久太郎に「これを」と言って、お守り袋を出す。

守り袋の、鈴の音が鳴る。
玉之丞の首につけた、鈴が鳴っていたことを思い出す。
思い出から帰ってきた久太郎は、自然に「玉之丞」と声をかけた。

声をかけて、振り向いた。
そして、気づく。
鞠があるだけだということに。

行く道を確かめながら振り返る なあと問うても ニャアと答えず



前半が緊迫の展開で、後半は静か~に進行します。
すべての糸が、解けていくように進行します。
結末に向かって、穏やかに。

佐吉の狂気が爆発して、しおれて、泣いて。
魂が抜けて。
与三郎の言葉に、涙して。

佐吉は玉之丞に嫉妬したけど、与左衛門にとって玉之丞は子供みたいなもんだったんじゃないか。
決して、佐吉が用がなくなったわけじゃなくて、佐吉は佐吉で、そばにいてくれるのが当たり前の存在だった。
玉之丞に会いに行って来い!って言えるような、気を許した存在だった。
佐吉と玉之丞は、かわいがってる次元が違うんだけど、佐吉にはそう思えなかった。

子供のように泣き喚く佐吉を見て、この人は与左衛門の愛に飢えた子供だと思いました。
どういう事情かわかりませんが、小さい頃から加賀屋に来て、若かった与左衛門にかわいがってもらったんでしょう。
本当に、与左衛門の子供のような気分だったんでしょう。
でも玉之丞が来てからは、お前は俺の子供じゃない、って言われたような気分だったんじゃないかな。

まるで何かに取り付かれたように、佐吉はどす黒い悪意に支配された。
自分のうまく行かないすべてのことが、玉之丞のせいのような気がして。
玉之丞に、もやもやをぶつけて。
猫に。

バカみたいだけど、自分には玉之丞が化け猫で、全部玉之丞のせいのような気がしていた…。
でも自分もやっぱり、玉之丞を斬れなかった。
玉之丞に夢中になる気持ち、久太郎が斬れなかった気持ちがわかる。

斬れなくて良かった。
だから、佐吉は戻ってこられた。
加賀屋にも、人間としても。
自分の手に運命をゆだねるしかない、小さなものの命を奪うようなことをしたら。

与左衛門さんも許さないだろうし、鬼になってしまってたと思う。
ボロボロになって、抜け殻になって、それでも人としての心を取り戻した。
この心の動きを、俳優さんがちゃんと演じてくれました。
水澤紳吾さん、すばらしい。

すごい、すごい間抜けだったのが、蜂谷。
あまりに期待はずれの、拍子抜けでした。
いや~、この人、人どころか、何にも斬ったことないでしょ。
顔が怖いだけで、全然気の弱い人でしょ。

そういう点では、久太郎と似ているかもしれない。
立花と竹下に見せた、いたずらっ子みたいな笑顔。
蜂谷さん、ご苦労様でした。

一方、ため息が止まらない、立花と竹下。
切腹するぐらいなら、いっそ、ザリガニ侍みたいに浪人になっちゃおうかと話し合う。
あんなにえらそうに久太郎に仕官と言っていた2人が、武士の身分なんて捨てちゃう、捨てること考えるんだ。
2人してザリガニ釣ってたら、笑える。

「仲良く暮らせ」。
久太郎も、石渡も言います。
この言葉で、石渡って正義感強い、悪い人じゃないんだろうなって思いました。

お七が、久太郎のために与左衛門に話をしに行く。
与左衛門は「猫見屋さん」知っていたのか。
さすが。
ずーっと寝込んで、「たまのじょ~」と腑抜けになっていた与左衛門は、人格者で、有能なご主人でした。

お七の話と、何よりも玉之丞の様子を見たら、久太郎と言う人が与左衛門にはわかったんでしょう。
佐吉を責めないところ、暖かい口調がすばらしかった。
子供の頃から面倒を見ていた佐吉を、あそこまで追い込んだ責任感じたのかな。

加賀屋ほどの屋敷を持つような商売をするんだから、只者じゃないはずだけど、すばらしかった。
きっと佐吉はそんな旦那様を尊敬しているし、大好きなんだろうなって思いました。
それも納得。

久太郎もまた、玉之丞をきっかけに、外見とは違う人だって知ってもらえた。
剣の道一筋で、不器用で、人にわかってもらえなかった久太郎。
家族ともうまく心を通じさせられなかった久太郎。
剣の道だけでいい、と、そんな自分に言い訳して、それでよかった久太郎。

玉之丞という失いたくない存在を得て、久太郎は一人じゃやっていけなくなった。
その代わり久太郎に、いろんな人が手を差し伸べた。
お七、若菜、与左衛門。
久太郎に、人とのかかわりができた。

しかし久太郎は、玉之丞を返してしまう。
一緒にいる自分の幸せより、自分と離れた時の相手の幸せを優先できるのが本当の愛情っていうけど、まさにそれ。
それでも当たり前のように話しかけて、いないことに気づくこの寂しさ。
玉之丞のいた痕跡だけが残っている、この喪失感。

そうなんだ。
猫は、自分の猫は、そこからいなくなってはいけない存在なんだ。
そんなことを思いました。

寂寥感たっぷりの、ラスト。
なあと問うても、ニャアと答えず。
涙が出るほど、これはつらい。
つらいですよ~。


銭より大事なものがある 「猫侍」第10話

第10話。


加賀屋。
石渡が連行してきた佐吉。
与左衛門が、佐吉が玉之丞殺しの真犯人と聞いて、「佐吉、本当なのかい?」と尋ねた。

「猫壷はどこだ」。
「ほら、さっさと案内しろ」。
石渡に言われた佐吉が、「こちらです」と庭に下りる。

佐吉は「すいません縄を。これじゃ、壷を取れれませんので」と縄を解いてくれるように願い出る。
「は?」
岡引の八五郎が、佐吉の縄を解く。

「では、取ってまいります」。
のろのろと歩き出した佐吉は、しゃがみこむと縁の下へ入った。
展開についていけない与左衛門が「こ、これは一体、何がどうなってるのでございましょう?」とうろたえる。

「黙ってみてろ」と、石渡が言う。
佐吉は「もののけ封印」「成仏」と書かれた札が貼られた壷を、目の前に置いた。
「これは…何が入っているんですか」。
「玉之丞の骸だ」。

「ひええ」。
与左衛門が悲鳴をあげて、倒れた。
石渡が壷に触れようとした途端、佐吉は「ひゃああああ」と叫んだ。
佐吉の声に八五郎が、「うおう!」とびっくりする。

「何だ」。
冷静な石渡は、動じない。
「化けて出ませんかね」。
「ばかばかしい」。

再び、石渡が壷に手を伸ばすと、佐吉がまた「ひゃあああああ」と悲鳴を上げた。
「うるさいっ!」
石渡は一喝すると、壷を開けた。

目をそらす佐吉。
蓋を開けた、その先には…、梅干が並んでいた。
八五郎が、きょとんとする。
佐吉も、目が点になる。

八五郎が「猫って死んだら、梅干になるんですか…」と言う。
「んなわけねえだろ!」
石渡が言う。

「ちくしょおお」。
佐吉が、悔しそうに声をあげた。
「な、あの浪人、斬ったと嘘をついてたんだよ。お前、まんまといっぱい食わされたな」。

八五郎が嘲った。
その時、佐吉は脱兎のごとく逃げ出した。
「あっ、待てえ!」
八五郎が追う。

事の成り行きに呆然とした与左衛門が「玉之丞は?」と聞く。
石渡は「まだ生きている」と答えた。
「へっ?」

がしゃんがしゃん、音をさせて、佐吉が逃げていく。
横道にそれる。
その速さに、八五郎は佐吉を見失った。
「どこだああ!」

その頃、久太郎はあばら家に玉之丞といた。
『今日まで剣之道をただひたすらに歩んできた。まさか天下の斑鬼が』。
「まいりました!」

久太郎が、土下座をする。
その土下座の前の鍋の中で寝ている玉之丞。
『猫に土下座…』。

にゃあおん。
玉之丞が鳴く。
「そんな風に言うな。これは練習だ。んん?ほら、これも武士の要領なんだと」。

久太郎は玉之丞を抱き上げて「やりたくてやってるわけではない」と言い聞かせた。
にゃあん。
玉之丞の鳴き方に久太郎は、「もしや軽蔑?いや、同情?!」と動揺した。

久太郎は玉之丞を、抱き寄せる。
「最初で最後だ。完璧な土下座を決めてやる」。
「でも、負けるのはやだなあああ」。

そう言って、玉之丞をなでなでする。
佐吉は、そっと久太郎の長屋にやってきた。
頬かむりをしている。

抜き足、差し足、忍び足。
どん、と久太郎の部屋の戸を叩いて飛びのく。
久太郎の返事がないので、中を見てみる。

誰もいない。
佐吉は、戸を開けて中に入る。
誰もいない座敷に上がりこみ、障子を閉める。

たたみに、手を触れる。
縁側から、裏庭に回ってみる。
そして、押入れを開ける。

押入れの上段には、猫の毛がたくさんついた座布団があった。
それから、鞠、猫じゃらし。
佐吉は鞠を握り締めた。

手がブルブルと震える。
「騙しやがって…、許さねえ。絶対、許さねえ」。
その時、「おじゃましまーす」という声がして、若菜が入ってくる。

若菜は押入れを開け「玉ちゃんのま~り~」と言うと、玉之丞の鞠と猫じゃらしを手にして走っていく。
下の段にいる佐吉には気づかない。
佐吉が、若菜の後をつけていく。

すると、「おさむら~いさ~ん」と呼びながら若菜があばら家に向かって走っていく。
「たまちゃ~ん」。
佐吉が追う視線の先には、久太郎に抱かれた玉之丞がいる。
それを見た佐吉は、不気味な笑みを浮かべると去っていく。

「今日一日、玉之丞を頼む」。
久太郎は若菜に、玉之丞を手渡す。
「朝ごはんも持ってきたんだよ。どにゃつぼう!」
「こいつの大好物だ」。

「玉ちゃんのこと、何でも知ってるね。やっぱり家族だね」。
久太郎は若菜の言葉に照れて、「うるさい。では屋敷へ行ってまいる」と言った。
若菜がカチッ、カチッと音をさせて久太郎を送ろうとするが、久太郎は「やめろ。もう、むしろ不吉だ」と断る。
「いってらっしゃい」。

佐吉が久太郎が行くのを、見送る。
そして顔を隠しながら、町で一人の浪人を見る。
町を行く、浪人の後をつけていく。

そして飯屋から出てきた浪人に、ぶつかる。
浪人は、楊枝をくわえていた。
いつか、猫を斬ろうとして、久太郎に撃退されたあの、浪人だった。

その浪人は、転んだ佐吉の首根っこをつかむと無理やり立たせ、「気をつけろ」とすごんだ。
「すみません…」。
その凶暴そうな目の色を見た佐吉は走っていき、「お侍様!」と後姿に向かって声をかける。
「お侍様に折り入って、お話があります。お侍様を、剣の達人とお見受けしてお願いしたいことが」。

辺りを見回してして「ここではなんですので」と言うが、浪人は「ここで話せ」とすごんだ。
「実は内々に斬っていただきたいものが」。
「物騒だな」。
「お礼はたっぷりと」。

浪人は、楊枝を捨てる。
チャキッと音を立て、刀を手に取る。。
「この名刀・小銀次に斬れぬものはない」。
佐吉が、黒い笑いを浮かべる。

御前試合の行われる屋敷の門の前で、久太郎は心の中で歌っていた。
天下の妖刀 一太刀で 広くその名をとどろかせ 百戦錬磨の剣さばき 斬るべし!斬るべし!斬るべし!無敵の斑鬼♪
「頼もぉ↑!」

だがその声は、裏返っていた。
(まずい、結構緊張している)。
もう一度、今度は太い声で言った。
「頼もう」。

「斑目久太郎だ」。
戸が開く。
「待っておったぞ」。

ひえじいと呼ばれていた、久太郎とも交流したあの猫好きの老人が絵を描いている。
そこに佐吉と、あの浪人がやってきた。
「実は猫を連れた、めっぽう強い浪人がおりまして。猫と一緒に、まとめて始末していただきたいのです」。

「猫もか」。
「はい」。
「3両お支払いします」。
「6両だ」。

「猫と浪人。合わせて6両」。
佐吉は一瞬、黙ったが「わかりました。両方とも確実に斬ってくださいね」と言った。
「ああ」。

その時、浪人が老人に気づく。
「誰だ」。
その声で、老人が飛び上がる。

「何だ、ひえじいか。驚かすなよ」と佐吉が言った。
「お前さんこそ、こんなところで油売ってると与左衛門さんに叱られるぞ」、
老人を見た浪人が、「お前、見た顔だな」と言う。

あの時の浪人。
わかった老人は、絵の道具を放り出して逃げ出した。
佐吉はそれを見たが、話を続ける。

「話の続きなんですがね」。
だが浪人は言った。
「ひとつ教えてやる。俺はな。人を斬るのが大好きなんだよ…」。
その目の色に、思わず佐吉も言葉を飲み込む。

「お七さーん!」
猫見屋の前を掃き掃除している、お七に老人が走ってきて叫ぶ。
「何をあわててるんだい」と、お七が聞く。

「聞いておくれよ、佐吉が。佐吉が」。
「加賀屋の佐吉かい?」
「ああ、そうなんだよ。佐吉が悪い侍と一緒になって、猫を斬るとか斬らないとか、よからぬ相談を!」
お七は、すぐに何のことか、理解した。

「玉之丞!」
「誰かが止めんと、大変なことになるぞ」。
「お店お願い!」
お七は、老人にほうきを渡すと走っていく。

屋敷では、久太郎が「今日の段取りだ」と立花と竹下に話をされていた。
途中までは、試合は一進一退。
だが途中から久太郎の旗色が悪くなり、負けるという段取りになっていた。

「決して殿にも、内藤様にも気づかれるなよ」。
「承知した」。
目を閉じる久太郎。

佐吉は、あばら家に浪人を連れてきた。
「あそこです。あの中に浪人と白猫がいます」。
浪人は、すぐに刀を抜こうとする。
だが佐吉は「ちょっとお待ちを。先に様子を見てまいります」と言った。

あばら家の中。
鍋の中で、寝ている玉之丞。
その横のむしろで寝転がる若菜。

お七は走る。
l久太郎の試合が行われる屋敷の、戸を叩く。
「お願いいたします!どなたか!お願いいたします!」と叫ぶ。
門が開いて、門番が顔を出す。

座敷で目を閉じ、正座をしている久太郎。
「斑目様」と声がかかる。
久太郎は、障子を開けて外を見た。

門番が「お七と名乗る女からです」と言って、結び文を差し出した。
一礼して去っていく。
久太郎が、手紙を開く。
その時、迎えが来た。

手紙には「佐吉にばれた玉があぶない」と書かれていた。
「斑目殿、時間だ」。
久太郎は、試合の行われる場所とは反対に歩いていく。

「どうした!」
「おい、待て!そちらでは!」
「斑目!今さら裏切るわけではあるまいな!」

うろたえた立花と竹下を無視して、久太郎は急ぐ。
「何事か」。
内藤がやってきた。
「斑目が!」

「待て、斑目!どこへ行く!俺との決着をつけろ!」
久太郎が足を止めた。
「急な用向きができた」。
「勝負より大事とは、如何に!」

「行かねば!」
久太郎は門を出た。
お七が待っていた。
「急いで」と言う。

久太郎は、走る。
ひた走る。
内藤は、唇を噛み締めた。

『世の中には、銭より大事なものがある』。
『父上の言葉の意味、今ようやくわかった!』
『玉之丞!』
さあ走れ もどかしく足もつれあう 無事でいてくれ 心だけ先行く



次回予告で、オールスター大運動会と称された今回。
佐吉、走る。
八五郎、走る。
そして久太郎、走る!

猫壷を開けようとした時、佐吉が怯えて絶叫するのがおかしい。
つられて、八五郎がびびるのもおかしい。
さらにおかしかったのは、猫壷を開けたら梅干がならんでいたところ。
うん、確かに梅干には良い環境を作っていたかもしれない。

さらにさらに、八五郎の一言。
「「猫って死んだら、梅干になるんですか」。
爆笑。
「んなわけねえだろ!」がまた、おかしい。

『今日まで剣之道をただひたすらに歩んできた。まさか天下の斑鬼が』。
「まいりました!」
『猫に土下座…』。
このタイミングが、笑いを誘う。

もうすっかり、鳴く玉之丞に話しかける口調が、デレデレしている。
「そんな風に言うなぁ~。これは練習だぁ。んん~?」って感じです。
北村さんって猫好きなんじゃないかな?と思わせる口調。

もう一度鳴かれて、軽蔑されているのではないかと、動揺している。
同情?!とも思っている。
前回、覚悟を決めた久太郎だけど、今回やっぱり、「負けるのはやだなあああ」。

こういった内心の動揺を玉之丞、ナデナデで抑える。
すっかり、玉之丞は久太郎の話し相手。
精神安定剤になっている。

佐吉の怨念爆発。
頬かむりしてそろそろ動く佐吉。
この俳優さん、仕草がうまい~。

押入れの下段に潜む佐吉に、若菜が気づかないのが笑える。
急いでいると、案外、目的以外には目が向かないのかも。
だけど、この時、気づいていれば…!



斑鬼のテーマソングを歌って気持ちを落ち着かせて、「頼もう!」と言うが、この声がもろに上ずっていて笑える。
北村さんの高い声。
あの門番が、取次ぎといい、久太郎に対して礼儀正しくなっている。

そして2話で登場した、浪人さん登場。
あの時はとんだヘタレで、あっさり刀を叩き落されて、一瞬、情けな~い顔したんですが。
密談をあの老人に聞かれる因縁つき。

結局、八百長ができない久太郎が勝ってしまうのではないかという予想ではなく、試合自体を放棄する展開となりました。
『世の中には、銭より大事なものがある』。
この言葉が、今まさに実感として迫ってきている。

『玉之丞!』の呼びかけに、切迫感が漂う。
もどかしく足もつれあう 無事でいてくれ 心だけ先行く
この気持ち、わかる。

無事でいて~!
「終わりの始まり」とか、嫌~。
玉之丞と久太郎は、離れ離れになってほしくない。


プロフィール

ちゃーすけ

Author:ちゃーすけ
癖の強い俳優さんや悪役さん大好き。
俳優さん、ドラマ、映画、CMその他、懐かしいもの、気になるものについて、長々と語っております。

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