こたつねこカフェ

癖のある俳優さん、悪役さんが大好きです。時代劇、ドラマ、映画、俳優さんのことを好きに書いています。
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そなたの願いをかなえることはたやすい 「眠狂四郎 円月殺法」第15話

第15話、「ふたり狂四郎木枯し魔風剣 浜松の巻」。


ある夜、狂四郎は自分が斬った亡者たちが襲ってくる悪夢を見る。
顔色ひとつ変えず、再び斬る狂四郎だが、亡者たちは次々現れる。
そこで目が覚めた。
翌朝、見付宿の旅籠を出る狂四郎の後を薩摩の3人が見送る。

その頃、一人の女性がならず者に追われ、あばら家に連れ込まれていた。
泣き叫ぶ女性に襲い掛かった2人の前に、刀が突き出される。
「昼寝の邪魔だ!出て行け!」

一人の浪人が起き上がった。
「何を!」
たちまち浪人は1人の前で刀を払う。
その男の着物の前がはだけ、あわてた2人は早々に逃げていく。

襲われかけていたのは、美代という女性で、道中、一緒にいてくれるよう、助けてくれた浪人に頼む。
その時、美代は気づいた。
「もしや、お目が…」。
その浪人・水上源之進は盲目だった。

橋を渡れば、ついに浜松宿。
薩摩の3人は、浜松の道場を頼ることにする。
美代と源之進は道連れとなり、大道芸をして暮らす。

源之進が目隠しをし、美代が柿や栗を空中に投げる。
すると源之進が真っ二つに斬る。
感心した観客は、お金を入れる。

だが浜松宿で芸を披露していた時、師範・藤江が率いる剣術道場の門弟がこの芸をインチキだと言った。
その目隠しを自分にもさせろと言って、目隠しをし、目隠しが透けているのを指摘すると、自分も同じことをしてみせる。
これならできて当たり前だ。

早々に浜松宿を立ち去れと言う藤江に、美代が源之進の目が見えないことを言おうとする。
しかし源之進はそれを止め、怒った観客は金を取り返して去った。
その様子を狂四郎が見ていた。
水上源之進、そして美代。

狂四郎は、2人に目を留めた。
立ち去ろうとした源之進は、ふと、誰かが自分たちを見ていると立ち止まる。
美代には狂四郎が見えなかった。
「まだまだ、心の修行ができておらぬとみた」と言って、源之進が去る。

かつて狂四郎は源之進と勝負をし、源之進は敗れた。
そのことを思い出していた時、狂四郎の宿に源之進と美代が現れた。
向かいの部屋に美代に手を引かれた源之進がやってきたのを見た狂四郎は、仲居に今の2人は夫婦かと尋ねた。
2~3日前から逗留しているが、盲目の夫の面倒を良く見るいい妻だと仲居は教えた。

藤江を薩摩の3人が訪ねてきて、狂四郎を生け捕りにしたら5百両、首をはねたら3百両と言う。
その金額に、藤江の顔色が変わる。
狂四郎とは、薩摩にとってそれだけの価値がある男なのか。
しかし藤江は金額ではなく、薩摩には逗留した折りの恩があると言って引き受けた。

宿屋では、美代が源之進の目を冷やしていた。
「すまんな、美代どの。拙者と道連れになったばかりに、そなたにまで迷惑をかけてしまって」。
「いいんですよ。私の方が源之進様に勝手についてきたんですし」。

「それに…、源之進様は…、、私が知っていたあるお方に、とても感じが似ているのです」。
源之進は「それは光栄な話だが。それで美代殿は、その男を捨て去りはしているのか」と言った。
美代が、ギクリとした。

「どうしてそれを」。
「おかしなものでな。日増しに目が悪くなるに連れ、人の心が読めるようになったいうか。何か、けだもののような勘が働くようになった」。
美代は目をそむけた。

宿屋の部屋で、狂四郎は目を閉じて正座していた。
そして、パッと目を開く。
同時に表から宿屋の戸を明けて大勢が、押入ってきた。
宿屋の者があわてるが、覆面をした大勢は階段を上がった。

男たちは部屋を一つ一つ、開けていく。
そのひとつが、源之進と美代の部屋だった。
「何ものだ!土足で他人の部屋に上がりこんでくるとは」。

そう言った源之進に向かって覆面の男が「昼間の大道芸人か」と、嘲りの表情を浮かべた。
続いてやってきた藤江は「おぬしらまだいたのか!昼間も言ったはずだ!とっととこの町から消えうせろ!」と言った。
源之進に刀を向けた男に向かって、源之進は刀を閃かせた。

次の瞬間、男の覆面が落ち、髷が斬られて髪がばっさりと顔にかかる。
驚いた藤江が叫ぶ。
「貴様、何ものだ!」
「ただの大道芸人」。

源之進は刀を納めながら、淡々と言う。
「昼間のあの目隠しは、あってもなくても良かったのだ」。
「つまり私は、目が見えんのだ」。

この告白に、藤江がひるむ。
「厚手の布で、おぬしと勝負をしても良かったのだが、道場主であるおぬしに恥をかかせてはな。なにせ拙者にはもっと大切なことがある…」。
その時、門弟が「先生!眠狂四郎はどこにもいません!」と入ってきた。
「何い!」

門弟の言葉に、源之進も美代も反応を見せた。
「眠狂四郎!」
「狂四郎様が、この町に!」

「おぬしらが探しているのは、本当に眠狂四郎なのか」と源之進が尋ねる。
「貴様の知ったことか!貴様、狂四郎を知っているのか」。
「いささかの因縁でな」。

藤江たちは去っていく。
源之進が言う。
「狂四郎は必ず俺が斬る!」

美代が「なぜ、源之進様は狂四郎様を!?」と聞く。
源之進は逆に「おぬしこそなぜ、狂四郎を知っているのだ」と聞いた。
美代は目を伏せた。
源之助はうつろな表情で、「生々流転、生者必滅」とつぶやいた。

夜道を行く藤江たちの前に、狂四郎が現れた。
「何やつ!」
「眠狂四郎だな?」
「係わり合いのない人たちに、迷惑をかけたくない。だからここで、おぬしらを待っていた」。

「斬れ!」
藤江の言葉で門弟たちが斬りかかるが、あっという間に2人倒された。
「引け!引け、引け!」と藤江が去っていく。
狂四郎が奪った刀を放り出し、奪われた男がそれを拾って逃げていく。

源之進が美代に、狂四郎との因縁を語っていた。
4年前、源之進は一回の剣客として円月殺法に立会いを求めた。
その時の傷が、源之進の視力を奪ってしまった。

以来、源之進は藩を追われ、浪々の身となり、今一度、円月殺法と立ち会うために修行をしてきた。
「この4年間がどんなに苦しいものであったか、美代殿にはわかるまい」。
「その狂四郎がこの宿場に、いや、この同じ宿にいたとは!不覚であった。なぜきゃつらより早く、見つけ出さなかったのか」。
その頃、狂四郎は町の居酒屋で一人、酒を飲んでいた。

「しかし、なぜ、狂四郎殿をそれまでに」。
源之進の問いに、美代も語り始めた。
実は美代は江戸でも指折りの、両替商の娘として育った。

それが2年ほど前、ふとしたことから狂四郎に出会った。
たびたびの逢瀬が、続いた。
「とっても楽しかった…。幸せでした」。
ところが、半年ほど経つと、狂四郎は突然、美代の前から消えた。

旅に出たとのことだった。
それからの美代は、狂四郎恋しさに、ひと目会いたさに、とうとう家を出て、旅から旅へのその日暮らしとなってしまった。
「つらかったことや、苦しかったことが、今では憎しみに…。今は憎しみまでに…」。
美代は泣いた。

翌朝、美代は源之助の目を冷やしていた。
「大事な時にまた、目が痛くなるとは。寝ているわけには!」
起き上がろうとする源之進を制し、美代は医者を呼びに行った。
目の手ぬぐいを、源之進は震える手で取り去った。

医者に行った美代は帰り道、一本道で向こうから来る狂四郎とあった。
驚く美代。
美代は言った。

この半年間、狂四郎を探した。
狂四郎の噂を頼りに。
「私がどんな思いでいたか。狂四郎様にはお分かりになりますまい」。

美代の声は、震えていた。
「なぜ、私を捨てて江戸を出たのです」。
狂四郎は黙っている。

視線は動かない。
美代を見ない。
宿屋で寝ていた源之進は焦り、起き上がっていた。

「狂四郎様に何があったのか、知る由もありません。でも私はあなたを忘れられなかった。気がついてみるとあなたを追って、旅に出ておりました」。
「この半年間、旅のつらさや苦しさの果て、幾度死のうかと」。
「憎い!あなたが憎い!」

美代はそう言って、匕首を手にした。
狂四郎は黙っていた。
その横顔を見て、美代は泣き崩れた。

「私はあなたを殺すつもりだったのに!」
「なぜ、なぜーっ!」
地面の落ち葉を握り締め、美代は泣いた。

「狂四郎様、美代を…、今一度抱いてくださりませ」。
「そなたの望みをかなえることは、たやすい。だが、今、そなたに必要な男は私ではないはず。また、そなたを必要とする男も、私ではない」。
美代は顔を上げた。
狂四郎は美代を見ると、去っていった。

藤江の道場の門弟たちに連れられて、源之進が道場に入っていく。
向かいの道で、狂四郎がそれをいぶかしげに見ている。
「断る!」と源之進が立ち上がっていた。

源之進は狂四郎を捕らえたと騙されて、連れてこられたのだった。
円月殺法を破ることと、狂四郎の薩摩入りを阻止するために殺すのと何が違うと、藤枝たちは言った。
だが源之進は、「純粋に剣の道で技を競い合うのと、どこかの藩の都合で人を殺すのでは、雲泥の差がある。これ以上の問答は無用だ。帰らせてもらう」とはねつけ

た。

すると藤江たちは「そうはさせんぞ!」と言った。
秘密を話した以上、このまま騙して返すわけにはいかないのだ。
「その腕で拙者が斬れるかどうか、試してみるか」。
「何!」

門弟を制して藤江が言う。
「水上殿、なればこそ、おぬしの剣の腕を借りたいと申しておるのだ。礼金のほうもはずむぞ」。
「ほう、今度は金で拙者の剣を買おうというのか」。

「そのほうがおぬしも、納得がいくのではないか」。
「黙れ!」と源之進は一喝した。
「ぬしらのたくらみに加担するような剣は持たん!狂四郎殿とは、拙者が戦うのだ。もし邪魔立てするのなら、おぬしらを斬る!」

源之進を取り囲んだ門弟たちが、一斉に太鼓を鳴らし始めた。
耳に頼る源之進を惑わそうと言うのだった。
藤江が笑う。

源之進が目を閉じる。
だが右へ左へ動きながら、太鼓を鳴らされ、源之進は耳をふさいだ。
「はははは、目の見えぬ御仁の耳は目だ!その目をふさがれては身動きひとつもできまい!」

藤江が笑い、門弟たちが斬りかかる。
それでも源之進は、刃を受け止めた。
しかし、刀を落としてしまった。
床を刀が滑っていく。

その時、狂四郎が刀を拾った。
次に手裏剣を投げ、源之進に向かって刀を振り上げた門弟の手を射る。
「狂四郎!」

「源之進殿!」
狂四郎が叫び、源之進に向かって刀を投げる。
刀を得た源之進と、狂四郎の前で門弟たちは敵ではなかった。

川原で、源之進は狂四郎に「まさかこんな形でおぬしとめぐり合えるとは、考えもせなんだった」と言った。
「源之進殿。私とおぬしの試合は、あの時すでに終わっている。もう私のことは忘れて、目の養生をしたほうがいい」。
「私の目はもう、治らない。それは私が一番良く知っている」。

「確かに私は、そなたの円月殺法に挑み、負けた。その結果がこの盲目(めしい)だ。だが今の私には、生ある限り、眠狂四郎の円月殺法を破ることしかない。もは

やここまで来たしまった以上、ぜひとも一手お願いしたい」。
「無益な戦いはしたくない」。
「剣の道を志すものとして、今一度、私の剣を受けていただきたい。ぜひとも。生々流転、生者必滅。それもこの世の慣わし。明朝、卯の刻、この川原で」。
そう言うと、源之進は去っていく。

尋常ではかなわないと思った藤江は、弓に名手を一人百両で3名雇った。
これなら一人、百両は高くないと思った藤江たちは、今度こそ、狂四郎の息の根を止めると言った。
宿屋で源之進は美代に、明日の朝、狂四郎と立ち会うと言った。
美代には道中世話になり、礼の申し上げようもないと言う。

それを聞いた美代は震える声で、「なぜ、なぜそんなに剣の道が大事なのですか。今度こそ、狂四郎様に殺されるかも」と言った。
源之進は「それも天命だ。剣の道を志すものとして、円月殺法を破ることだけが私に与えられた宿命なのだ」と答える。
「私にはわかりません!天命だとか、宿命だとか。そんなこと、わかりません!」
「美代殿には、私の気持ちがわからんのだ」。

「私は狂四郎殿が憎くて、戦うのではない。あの人の持つ、円月殺法を破りたいのだ。それも正々堂々と!一対一で何の邪魔もなく戦いたいのだ!そのためにこそ

、この4年間の辛苦があったのだ!」
「源之進様!」
「美代殿は、狂四郎殿を今でも慕っておられるのか」。

「今の美代は違います。今の私は、あなたに死んでほしくないのです。私は生まれ変わったのです」。
源之進は、ハッとした。
「源之進様、あなたも生き方を変えてください。この宿場を出ましょう。どこにでもいい。あなたと二人、暮らしていけるのならば。勝手な私のお願いを、源之進様、お

聞きください!源之進様!」

「美代殿、わかってくだされ。私は狂四郎殿の円月殺法ともう一度だけ、戦わねばならんのだ。もし私が、狂四郎殿と戦わずして生き続けたとして、それは私の生き

た骸でしかないのだ」。
だが美代は言う。
「生きていてほしい。死なないで。死なないで!」

源之進の唇が、わなわなと震えた。
「私も円月殺法に勝ちたい。そして美代殿と…」。
「源之進様!」
2人はしっかり、抱き合った。

そして、今夜は一人にしてほしいと源之進が言う。
「美代殿。もし明日の朝、生きて帰れたら、そなたの言うとおりにしよう。私も剣を捨てる…」。
美代は出て行った。
「源之進様、死んでほしくない…」。

美代はその足で、藤江の道場に行った。
「あんたたち、本当に眠狂四郎を殺すことができるの?」
藤江たちは、顔を見合わせた。
暗い部屋で、美代は源之進の言葉を思い出していた。

「美代殿。私は狂四郎殿が憎くて、戦うのではない。あの人の持つ、円月殺法を破りたいのだ。それも正々堂々と!一対一で何の邪魔もなく戦いたいのだ!その

ためにこそ、この4年間の辛苦があったのだ!」
「美代殿、わかってくだされ。私は狂四郎殿の円月殺法ともう一度だけ、戦わねばならんのだ。もし私が、狂四郎殿と戦わずして生き続けたとして、それは私の生き

た骸でしかないのだ」。
美代は耳をふさぐ。

翌朝、川原には風が吹いていた。
「来たぞ」。
狂四郎と源之進が歩いてきて、向き合う。
藤江たちが、身を潜ませる。

源之進が刀を抜く。
狂四郎も刀を抜く。
「やめてええ」と声がする。

美代が走って来る。
「狂四郎様ー!源之進様ー!弓矢がー!」
その時、藤枝たちが雇った男たちが弓矢を美代に向けた。

美代が倒れた。
続いて、弓矢が狂四郎に飛んでいく。
狂四郎は弓矢をすべて、落とした。

藤江たちが刀を抜き、狂四郎に向かう。
狂四郎は門弟を押さえつけ、弓矢の楯にする。
2人は次々、藤江の門弟たちを斬る。

狂四郎が門弟の刀を取りあげ、弓を構えている男に投げる。
男が倒れ、弓を構えていた2人も刀を抜いてやってくる。
2人も斬られ、藤江だけが残った

狂四郎は藤江も斬った。
源之進も最後の一人を斬った。
「美代殿、美代殿ー!」

弓矢が刺さってもがく美代が、源之進の名を呼んだ。
その声を頼りに、源之進が美代を抱き起こす。
苦しい息の下、美代が「狂四郎様、源之進様、お許しください。私が浅はかでございました」と言う。
狂四郎が「もういい、何も言うな」と言った。

美代は、源之進を見上げた。
2人は近くの水車小屋に、美代を連れて行く。
狂四郎は源之進に薬の入った印籠と、消毒の酒を渡し「これで手当てをしてやるがいい」と言った。
「かたじけない」。

それだけ言うと狂四郎は、小屋を出た。
「美代殿。傷が治ったら、そなたの言うとおり、私も生き方を変えてみたい。一緒に暮らそう」。
美代が笑う。
「源之進様」。

美代、源之進の手を握る。
「さあ、もう一眠りしなさい。目が覚めたらきっと傷も治っている」。
美代の首が、がくりと下がる。
それきり、美代は何も言わなかった。

夕暮れになっていた。
狂四郎は表で、川を見て立っていた。
源之進がやってきて「美代殿が死んだ」と言った。

美代は、狂四郎との勝負を止めていた。
「私は迷った。
剣の道に生きるか。人の道に生き、生まれ変わるか。もし、美代殿が生きていたら、私は本当に生き方を変えたかもしれない。だが今の私は、美代殿のためにもお

ぬしと戦わねばならない。
結局、私は剣の道に生きるしかないのだ。

狂四郎は黙っていた。
風が吹く。
夕日が2人を照らす。

2つの影はゆっくりと歩き、向き合った。
源之進が剣を抜く。
狂四郎もまた、正宗を抜く。

正宗の先が、狂四郎の足元で返る。
ゆっくりと正宗が、弧を描きながら上がっていく。
源之進の剣も、同じように弧を描く。

刃が止まった。
2人が斬り結ぶ。
だが狂四郎の正宗は、源之進を斬った。
源之進が倒れる。

狂四郎が、正宗を納める。
風が吹く。
夕暮れが終わろうとしていた。
狂四郎は源之進を見つめると、一人、去っていく。



源之進は長塚京三さんです。
冒頭、亡者に襲われる悪夢を見る狂四郎。
過去、狂四郎が立ち会った、斬った相手。
前にも仇と狙ってきた、薩摩の女性たちに狂四郎は言っている。

尋常に立ち会った相手は、襲ってきた相手、卑怯な手段を取った者を斬っている。
だから恨まれる覚えはない。
でも恨まれているということは、わかっている。
恨みが自分にこびりついているということは、わかっている。

男も女も狂わせる、狂四郎。
美代が狂っちゃうのはいかにも、という感じ。
ですが狂四郎は、剣客としては立ち会いたい相手なんだろうな。

美代もまた、愛情と憎しみが表裏一体。
江戸を離れたわけがあるから、美代をもてあそんでいたわけじゃないと思うけど、美代にしたらわけわかんない。
納得できなかった美代は、狂四郎の後を追って旅に出てしまう。

すると両替商の娘として育った美代がその日暮しになり、転落していく。
そしてついに狂四郎を恨み、憎むに至る。
でも憎んでいるうちは、忘れてない。
愛情の反対は、無関心。

しかし美代に対する狂四郎の答えが「そなたの願いをかなえることはたやすい」って、天下の色男じゃなきゃ言えない答えだ。
これが絵になる俳優じゃないと、狂四郎はできない。
そして狂四郎は美代が本当に愛して一緒になるべき男は、源之進だと言う。

おお、「北斗の拳」のラストのリンとバットだ。
狂四郎に対して執着が取れなかった美代。
この言葉で、自分が今、誰を愛しているか愛するべきか目が覚める。

生まれ変わった美代は、源之進も生まれ変わってほしいと言う。
ところがこちらは、剣客としての生き方をなかなか捨てられない。
だから美代は、藤江たちに浅はかにも協力してしまう。

いや、どこまで狂四郎のために狂わされるんだと、今度は本気で殺そうと思っちゃうよ。
狂四郎に人生を狂わされた2人が一緒になって、さらにまた狂四郎に関わる。
すごい因縁話ですね。

源之進の一途な言葉が蘇り、自分の愚かさに気づいた美代は命を落とす。
瀕死の美代を前にして、今、自分の大切なものに源之進も気づいた。
たまに思うんだけど、武士のこの、剣の道に生きるとか、意地って時にはすごく不幸だよね…。

過去と対決しなければならない狂四郎と、因縁によって結ばれてしまった2人。
この3人のドラマの前では、藤江一派は単なる邪魔者。
強ければいいけど、対して強くない。

藤江たちは源之進を見下していたけど、相手にしてなかったのは源之進だったのか。
黙ってお金を取り上げられて、美代がかわいそうだった。
しかし、こういうのに耐えるも源之進の修行だったのか。

さらには藤江が卑怯で、どうしようもない。
1人百両で3人って、もう儲け度外視。
かくして道場全滅。

狂四郎は、源之進には優しいというか、礼儀を尽くしている。
彼も卑怯者が嫌いだから、太鼓なんか叩いて挑む藤江が許せない。
太鼓の囲みを破り、源之進に刀を投げる狂四郎に武士の友情を感じました。
さらには源之進に薬を渡し、出て行くところがかっこいい。

美代を失い、もはや生き直す意味を失った源之進。
やはり、狂四郎と勝負するしかない。
源之進はもう、死にたかったのか。
これで対決しないで生きていっても、それこそ生きる骸だ。

だから狂四郎も、源之進と立ち会う。
源之進の取った構えは、なんと、円月殺法!
おお、それで「ふたり狂四郎」。
つまりあれは、剣客の行き着く剣法なのか。

だが狂四郎に円月殺法が出てしまうと、眠狂四郎世界では終わり。
なので敵は、円月殺法を出させないように、刀を奪ったり、狂四郎を縛ったり、罠にはめたりする。
だけど円月殺法が出たら無敵なのだ。

結局、自分が斬ることでしか終わらなかった源之進の剣客道。
自分が心ならずも狂わせてしまった、男女の人生を思ったのか。
無表情ながら去っていく狂四郎は、自分の罪深さを思い知っているように見える。

男も女も狂わせる狂四郎。
罪な男だ。
つくづく、それが似合う俳優じゃないと、できない役だ。


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生きたいように生きればいい 「眠狂四郎円月殺法」第13話

第13話、「いのち花わかれ盃情炎剣 袋井の巻」。

道端で、なにやら人だかりがしている。
「何をやらかしたのか」。
「みっともない」。

人々の視線の先。
一人の浪人が、灯篭に縄で縛られている。
両手を縛られ、灯篭に通しているため、ほどくことができないでいる。

「おい、みせもんじゃねえぞ」。
こんな状態の浪人の、それでも声には凄みがあった。
見ていた百姓たちは、あわてて立ち去った。

そこに黒の着流しを着た眠狂四郎が、通りかかった。
涼しい顔をして前だけを見て行く狂四郎に、浪人が声をかけた。
「おい」。
「私に何か用か」。

狂四郎の足が止まった。
「何か用か、は、ねえだろう。こうして縛られているんだから、同じ侍同士としてだ!いかがなされたか?ぐらい声かけたっていいだろう。気にならねえのか」。
「別に」。
「冷てえ男だな、おめえは」。

狂四郎が男の方を振り向いた。
「その様子では、賭場で負けが込んで、払えなくなったあげくのみせしめであろう。違うか」。
「はあ、そこまで。その通りだ」。

男は感心した。
「おぬしすげえ眼力だな」。
「さいころに身を持ち崩すような手合いは、もはや武士とはいえまい。したがって気にもならぬし、不憫とも思わぬ。屈辱をなめたなら、少しは立ち直ることだ」。

「屈辱なんかどうだっていいんだ。俺はな、腹減ってるんだ。何か食うもの持ってねえか」。
「あいにくだな」。
去っていく狂四郎の背に向かって、男は叫んだ。
「金のためなら何でもやるぞ!押し込みの相棒、勤めてもいいんだぜ!」

お蘭と金八は、宿場に来ていた。
金蔵は賭場に誘われて行ってしまったが、お蘭は鋭い目で辺りを見回す。
お蘭のいる宿に、狂四郎がやってきた。

「あ、旦那!」と、お蘭が声をかける。
「お待ちしてました。どうぞ」。
お蘭は狂四郎を部屋に招き入れ、酌をする。

狂四郎が杯を飲もうとすると、ふと、お蘭は「あ、ちょっと待ってください」と言った。
そして、庭の咲いている萩の花を摘んで、杯に浮かべる
「この、花びらごと」。
狂四郎がお蘭を見る。

「干すのか」。
狂四郎が、飲み干すのかと聞く。
「おまじないなんです。そうすると、縁が深くなるんですって」。

お蘭が微笑む。
「お蘭と俺のか」。
「お嫌ですか?」

「この俺と縁が深くなれば、地獄まで道連れになるぞ」。
「地の果てまでだって…」。
お蘭が狂四郎を見つめる。

しかし、狂四郎は飲まない。
「これ以上、死神を喜ばすこともあるまい」。
狂四郎は杯を置いた。
「それより用件を聞こう。この宿で俺に何をさせたいのだ」。

その夜、福知山藩主・朽木が滞在する本陣の寝所に狂四郎が現れ、朽木の喉元に刀を突きつけた。
だが狂四郎は朽木に向かって、朽木の「命はいらぬ」と言った。
「このたびの西国十三藩の密約書、いただきに参った」。

「おのれ!」
朽木は刀を手にするが、狂四郎の相手ではなかった。
狂四郎に喉元に刀を突きつけられ、朽木は密約書を突き出した。

用心を解かない狂四郎は、朽木に密約書を「開けろ」と言い渡す。
朽木が広げたその書には確かに、丹波・福知山藩の朽木の殿の名前、そして薩摩藩の島津公の名前が確かにあった。
密約書を手に、狂四郎は悠々と引き上げる。

門で用人たちが狂四郎を見つけ、「おのれえ、大胆な!」と言って斬りかかってきた。
狂四郎は襲い掛かってきた用人たちを次々斬り捨て、斬った1人の刀を取ると最後の1人に投げ、これを仕留めた。
密約書を奪われた朽木は、「福知山藩の立場がない」とうろたえていた。

水野の手に入れば、咎めがくるだけではない。
薩摩に対して、福知山藩の立場がなくなる。
すると側近の鮫島が、すべてを自分に任せるように言う。

鮫島の口笛ひとつで、黒装束の一群が舞い降りてきた。
忍びたちである。
その昔、伊賀と争って敗れ、家光の警護を解かれて追い出された雷神衆だと鮫島は説明した。

この太平の世に、忍びとは…。
懐疑的な殿の前で雷神衆は、火のついた矢を放った。
さらに、火のついた樽が正面から朽木に迫る。

朽木は思わず「やめろー!」と叫ぶ。
その途端、火は消え、樽は止まった。
鮫島と、雷神衆の頭領の加東次が「失礼つかまつった…」と深く頭を下げた。
雷神衆の実力を見た朽木は、「福知山藩のために働いてくれるか」と言う。

その頃、金八は珍しく、賭場で勝ちまくった。
しかし帰り道、
金を取り返しに来た賭場の元締めの袋井一家が、金八を追ってきた。
この賭場では決して、金を持って帰ることはさせないのだ。

逃げる金八と袋井一家の間に割って入ったのは、あの縛られていた浪人・片倉新九郎だった。
「おう!俺の刀、返してもらおうか」。
新九郎を見た親分は、「何ぬかしやがる、また痛い目にあいてえのかい。すっこんでろ!」と叫んだ。
完全に新九郎を侮っていた。

だが新九郎は、そう言った親分があげた手をあっさりつかむと、締め上げる。
「夕べはな。博打のツケが払えねえから、大人しく縛られてやったら…、勝ってもこういうからくりってわけか!」
調子に乗った金八が、「そうだよ!おめえらそれでも博打うちか!ごみ、だに、しらみ、のみ!」と叫んだ。

親分は「やっちまえ!」と叫んだ。
子分衆が刃物を抜いて、襲ってくる。
しかしまったく、新九郎に歯が立たない。
助けてもらった金八は、新九郎を女郎屋に誘う。

翌朝、金八は女郎屋で目覚めたが、新九郎は一人、廊下で座っていた。
新九郎は杯に庭に咲いていた萩の花を摘み、入れた。
「何それ、顔に似合わないオツなことして」と、金八が言う。

「こうするとな、男と女の縁が深くなるって。そう教えてくれた女が昔いたんだよ」。
「ふうん。ねえ、その人今、何してんの」。
「知らねえな」。

新九郎の顔を見ていた金八は、「まだ惚れてるね、その人にね。でも旦那みたいな生き様じゃ、大概の女は逃げ出すよ」と言った。
「これでも昔は、ちゃんとしてたんだ」。
「嘘ばっかり」。
「うるせえな!向こう行ってろ!」

新九郎に怒られて、金八は引っ込んだ。
一人になった新九郎は、酒を飲み続ける。
「こんな生き様じゃあ、まともな女は…、ふふ。確かにその通りだ」。

道を行く狂四郎の耳に、助けてと叫ぶ女の悲鳴が入ってきた。
一軒の農家で、百姓娘が男3人に押さえつけられようとしていた。
狂四郎が入ると、男たちが身構える。
女は狂四郎の背中に隠れた…、と思うと、「眠狂四郎!」と叫んで背後から押さえつけた。

雷神衆だった。
男たちが狂四郎に斬りかかる。
すると狂四郎は、すっと身を翻した。

男たちの刃は、狂四郎を背後から押さえつけていた女に刺さった。
狂四郎はその3人を斬ると、天井から、家の奥からさらに黒装束の男たちがやってくる。
すべての黒装束を斬ると、狂四郎はお蘭の待つ道にやってきた。

その頃、金八と新九郎も袋井一家に襲われていた。
このまま2人を帰したなら、袋井一家の面子が立たない。
親分はそう言った。

新九郎は、金八に逃げろと言う。
「こいつは俺のケンカだ」。
「俺だけズラかっていいの?」

「早く逃げろ!」
「恩に着るよ!」
金八が逃げた後、新九郎はたちまち3人の子分、そして2人の浪人の用心棒を斬り捨て、親分も斬った。

道の上で、通りかかった鮫島がそれをジッと見つめていた。
小川で血を洗っていた新九郎に近づくと鮫島は、「使えるな、おぬし」と声をかけた。
「金に不自由はしていないか?」
「なり見りゃ、わかるだろう!」

新九郎が去ろうとした時、背後で小判の音がした。
「ほんの手付けだ。おぬしを雇いたい」。
鮫島が地面に、小判を投げたのだった。

「袋井本陣へ訪ねて来い。丹波福知山・三千石が逗留しておる。ただし、勘違いしてもらっては困る。仕官ではない。あくまで人斬りとして、おぬしを雇いたい」。
鮫島はそれだけを言うと、去っていく。
新九郎が小判を拾う。

その背後の橋を、お蘭を乗せた駕籠が通り過ぎていく。
小判を拾い終わった新九郎が顔を上げると、お蘭の姿が目に入ってきた。
新九郎の顔色が、変わる。
そして、お蘭の駕籠の後を追った。

駕籠は、見附宿に入った。
旅籠に入ったお蘭を見て、新九郎は「間違いねえ!間違うはずはねえ!」と言った。
部屋で茶を飲んでいたお蘭の手から、湯飲みが落ちる。

お蘭が立ち上がる。
新九郎が、お蘭の前にいた。
2人は見つめう。

お蘭がやっと、口を開いた。
「どうして…、どうして…」。
「俺も驚いた。駕籠で行くあんたを見てな、夢中でここまで駆けてきた」。

そして新九郎は「しかし何だ、その格好はどうして旅なんかしてるんだ。あんたれっきとした…」と言いかけた。
お蘭がその言葉をさえぎった。
「もうやめてください。昔の話は…」。
お蘭は新九郎から、顔をそむけた。

「あなたこそ、どうしてこんなところに。それにしてもその変わりよう。昔、千代田のお城の勘定方にお勤めしていた頃の片倉新九郎様とは、とても…」。
「上役といさかいを起こして、逐電したこの俺だ。所詮は宮づかいのタマじゃねえのさ」。
新九郎の言葉に、皮肉っぽい調子が混ざった。

「いいえ!わたくしは知っております。あなたは上役たちの不正を正して、お城を飛び出したのです。あなたが去った後、何名かのよからぬ重役たちは評定所でお裁

きを受けました」。
新九郎は息を呑んだ。
「そうか、嫌、それを聞いて…、ずっと気になっていたんだ。俺一人が割りを食ったたと思っていた」。

新九郎は肩の荷を降ろしたような表情になった。
「うむ」と、ため息をついた。
気が楽になった…」。

そして新九郎は、お蘭を見た。
「美しくなられたのう、お蘭どの」。
お蘭は目を伏せた。

「本来なら夫婦(めおと)になっていた、俺とあんただ。そうなっていたら今頃は2人の間に子供がいて、つつがなく暮らしていたはずだ」。
「どうした父上は。碁がお好きで、良く碁の相手をさせられた」。
「父は…、先年、他界いたしました」。
「そうか」。

「新九郎様、どうか、お引き取りください。歳月の流れた今となっては、昔をとやかく話し合っても、いたしかたありますまい」。
お蘭の口調は、きっぱりしていた。
「お蘭殿!」

驚いた新九郎が、お蘭を見つめる。
「新九郎様、どうか!」
お蘭の目は悲しそうだった。
新九郎は、お蘭をジッと見つめた。

お蘭の目には、うっすらと涙がにじんでいた。
それを見た新九郎は「わかった…、もう会うこともないな。邪魔した」とだけ言う。
新九郎は、立ち去った。
お蘭は一人、立ち尽くしていた。

袋井の本陣にやってきた新九郎は、酒を飲んでいた。
「やはり来たか」。
鮫島が入ってきた。

「高いぞ、俺の人斬り代は!」
「よかろう、だがあるいは、おぬしが負けるかも知れない相手だ」。
「かまわん!たとえ野に屍をさらしても嘆く奴も、泣く奴もいねえ!」

そこに、雷神衆の頭領の加東次が、狂四郎が見附宿にいることを知らせてきた。
江戸からの使いと会うのだ。

道を行くお蘭。金八と合流した。
だが江戸からの使者を見つけるとお蘭は、金八に離れているように言う。
お蘭が、使者に近づく。

「お使者の方、お蘭です」。
編み笠を深くかぶった男は、「密約書をこっちへもらおうか」と言った。
その口調に、お蘭がいぶかしげに眉をひそめる。

傍らの草むらに斬り捨てられた本物の使者が、いた。
四方から、上空から雷神衆が降りてくる。
お蘭は懐剣を構えたが、捕らえられる。

そしてお蘭は、一軒のあばら家につれてこられた。
加東次はお蘭の持っていた三味線を解体するが、密約書はなかった。
「ない!」

お蘭を柱に縛りつけると、眠狂四郎の居場所を言えと迫る。
「どこかねえ?口が裂けたって言えないよ!」
「このアマ!」

加東次の合図で、雷神たちがお蘭を鞘に収めた刀で突く。
その時、新九郎がやってきた。
「おぬしか」。
加東次が新九郎を見る。

「打て!もっと打て!」
振り向いた新九郎は、打たれているお蘭を見て驚く。
お蘭もまた、新九郎を見て驚くが、すぐに打たれて前を向いた。

次々、お蘭を打つ雷神衆に向かって新九郎が「やめろ!」と一喝する。
「つなぎの女が帰ってこなけりゃ、眠という男もどっかの穴倉から出てきて、探し出すだろう。どうせ、この近くだ。こっちから仕掛けててやろうじゃねえか」。
そう新九郎は言った。

加東次は「ようし、逃がすな」と言って出て行く。
だが動かない新九郎を見て、「あんたは行かんのか」と聞いた。
「わかってる!」

新九郎が出て行った後、2人の男が見張りとして残った。
美しいお蘭を見る、2人の目が光った。
「けけけっ」と男たちが笑って、お蘭のあごを持つ。

気丈なお蘭は男に唾を吐きかけると男はお蘭を突き飛ばし、のしかかった。
お蘭の顔が、苦痛にゆがむ。
その時、その男が背後から刺された。

新九郎だった。
抜いた刀で、新九郎はもう1人も斬り捨てる。
お蘭の縄を切ると、「行け!」と言う。

「新九郎様、どうして!」
「どうして!あんな奴らの一味なんかに!」
「ははは、落ちるところまで落ちてるのさ。今の俺は金のためなら、何だってやるんだ」。
新九郎は乾いた笑い声を立てた。

そして「あんた、眠狂四郎の女なのか!そうなんだな?!」と聞いた。
お蘭は新九郎に背を向けて、答えない。
「まあ、いいや。しかし困ったなあ…。あんたの男を斬らなくちゃならねんだ」。

お蘭が、振り向く。
「どっちが死ぬのが望みだ」。
お蘭は顔を背ける。

新九郎はいきなり、お蘭を抱きしめる。
「恨みっこなしにしてくれ。俺は眠って男を斬る。そうしたら…、俺はあんたを…。そしたら、俺の女になってくれるか!」
「どうなんだ!」

お蘭は新九郎を見つめる。
その目に涙が浮かぶ。
お蘭は、哀しみで一杯だった。
「どっちも…、どっちも嫌。どっちも生きていてほしい」。

「信じろよ。必ずやる。眠って男をしとめる」。
「お願い、このまま、どっかに行ってください。いいえ、私を一緒につれてってもいいから。だから!」
「鍼九郎様どうか…」。
新九郎は、お蘭を見つめる。

「眠に伝えろ。必ず俺が命をもらいに参上するとな」。
そして「奴らが戻ってくる、早々に行け」とお蘭に出て行くよう促した。
お蘭は、新九郎の背中を見つめる。

その頃、荒れ寺で金八が、お蘭を助けに行かない狂四郎に詰め寄っていた。
「行けば、墓穴を掘ることになる」。
それを聞いた金八は、「何言ってんの!お蘭さん、だんなのために働いてるんでしょ!」と叫んだ。

だが、狂四郎は少しも声の調子を変えずに言った。
「それは少し違う。お蘭はもともと、俺を見張るために差し向けられた女だ」。
「いや俺さ、旦那のそういう、裏っかたの方、よくわかんねえけどさ、お蘭さんの気持ちわかってやんなきゃ。一生懸命なんだから!」

「奴らの狙いはこの密書だ。これが俺の手中にある限り、お蘭は無事だ」。
「気休め言ったって、つかまえてんの向こうなんだからさ!」
「人の心配より早うmここを抜け出すことだ」。
「え?」

「奴らはここをつきとめて、いずれ襲ってくるだろう」。
それを聞いた金八は「それじゃ、俺、ここにいない方がいいよね?」と聞いた。
狂四郎がうなづくと、金八は逃げていく。

その通りに、雷神たちは荒れ寺にやってきた。
しかし、狂四郎ももう、いなかった。
「逃がしたか…」。

お蘭はふらふらになりながら、道を急ぐ。
その先に狂四郎を見つけたお蘭は「だんな!」と叫ぶ。
「お蘭、無事だったか」。

「旦那、逃げて!逃げてください。相手は江戸で鳴らした、神道無念流の使い手なんです」。
「相手を知っておるのか」。
お蘭はハッと、息を呑む。
「お蘭」。

お蘭は、うつむいた。
「今は何も聞かないでください。後生です、逃げてください」。
お蘭は狂四郎に、頭を下げる。

だが狂四郎は逃げない。
「自ら好んで阿修羅に生きるこの俺に、その言葉は無用だ」。
「お蘭、無理をするな。お前は自分の生きたいように生きればいい」。
「生きたいように…」。

そう言うと、狂四郎は歩いていく。
お蘭はその背中を見送る。
「旦那…。生きたいようにって、あたしが生きたい道は…」。
お蘭が涙ぐむ。

雷神が新九郎をつれて、狂四郎の襲撃に向かう。
暗闇の中、表に出た新九郎は、少し離れた木陰から自分を見つめるお蘭を見る。
「お蘭どの」。
新九郎が、お蘭に近づく。

「どうした?」
お蘭の唇が震える。
「案内します…。そこで…。決着を…」。

「あなたたちが今行こうとしたところには、もういないんです。ほんとに恨みっこなしです。どちらかが…、そしたら、私…。自分がはっきりするんです」。
「わかった。案内してくれ」。
お蘭が先に立ち、川べりの道を新九郎と歩く。

小川の流れが、背後に見える。
水面が光る。
お蘭が口をきく。

「私、娘の頃、あなたの花嫁になることばかり考えていました。ほんとに…身も心も綺麗なままで…。あなたにどうしたら、気に入られるかって…。男と女がこんな風にして出会うなんて。やっぱり会わないほうが良かったんです…。会わないほうが…」。
お蘭が、新九郎を振り返る。
目には涙が浮かんでいる。

お蘭を見つめる新九郎の目も、悲しそうだった。
新九郎の視線が、下がっていく。
お蘭の手には、小刀が握られていた。

突然、お蘭が新九郎の懐に飛び込む。
持っていた小刀が、新九郎の胸、深くに突き刺さる。
まったく抵抗せず、お蘭と、お蘭の刃を受け止めた新九郎。

お蘭が、驚いて見つめる。
「どうして…」。
「いいんだ」。
新九郎が、かすかに微笑む。

「これでいいんだよ…。どうせならお前に…」。
新九郎は倒れる。
2人の頭上の木の、花が散っている。
風が吹く。

その頃、旅籠にいた狂四郎の座敷に爆薬が投げ込まれる。
たちまち、座敷は炎に包まれた。
障子を破り、狂四郎は二階から地上に飛び降りた。

体を回転させ、狂四郎は脱出する。
旅籠が炎上する。
次々やってくる雷神衆。
狂四郎も、次々雷神衆を斬る。

雷神衆は、爆薬を投げてくる。
狂四郎は雷神の一人を盾にして、爆薬を防ぐ。
楯にされた雷神の背中で、火が燃える。

両側から、樽が転がってくる。
しかし狂四郎はヒラリと飛び上がると、樽は衝突して止まる。
狂四郎は、最後の2人を斬る。

今度は、鮫島が現れる。
刀を抜いて、構える。
正宗を持つ狂四郎の手が、頭上に上がる。

すらりと頭上に上げた正宗の切っ先を、今度はピタリとを地面に向ける。
刀の先が、キラリと光る。
徐々に刀が弧を描いて、上に上がっていく、。
狂四郎の周りを、刀の光が彩っていく。

その時、雷神の頭領の加東次と、最後の一人が襲って来る。
しかし狂四郎は2人を交わし、斬る。
斬りこんで来た鮫島も斬る。
鮫島が倒れ、狂四郎は刀を納める。

翌朝。
峠の茶店には、お蘭と狂四郎がいた。
「行くか。お蘭」。
「はい、江戸へ立ち戻ります。こうやって一度けじめをつけないと」。

狂四郎が自分が飲んでいた杯を、お蘭に渡す。
徳利を傾ける。
お蘭が狂四郎に、酒を注いでもらう。

酒が注ぎ終わると、お蘭がお辞儀をする。
ふと、狂四郎が立ち上がる。
傍らの萩の花を摘む。
そして、お蘭の持つ杯に浮かべてやる。

「旦那…」。
お蘭がうっすらと微笑む。
もうひとつの杯に狂四郎も、萩の花を浮かべ、飲み干す。
お蘭が杯を飲み干し、微笑む。

街道を行く狂四郎を、お蘭が見送る。
「縁が深くなりますように…」。
そっと、お蘭がつぶやく。

狂四郎の後姿を見送っていたお蘭は、江戸へ向かう。
2人は、背中合わせに離れていく。
ススキの穂が、日差しを浴びて、光って揺れていた。



第13話、「いのち花わかれ盃情炎剣 袋井の巻」。


人だかりが、している。
「何をやらかしたのか」。
「みっともない」。

人々の視線の先。
一人の浪人が、灯篭に縄で縛られている。
両手を縛られ、灯篭に通しているため、ほどくことができないでいる。

「おい、みせもんじゃねえぞ」。
こんな状態の浪人の、それでも声には凄みがあった。
見ていた百姓たちは、あわてて立ち去った。

そこに黒の着流しを着た眠狂四郎が、通りかかった。
涼しい顔をして前だけを見て行く狂四郎に、浪人が声をかけた。
「おい」。
「私に何か用か」。

狂四郎の足が止まった。
「何か用か、は、ねえだろう。こうして縛られているんだから、同じ侍同士としてだ!いかがなされたか?ぐらい声かけたっていいだろう。気にならねえのか」。
「別に」。
「冷てえ男だな、おめえは」。

狂四郎が男の方を振り向いた。
「その様子では、賭場で負けが込んで、払えなくなったあげくのみせしめであろう。違うか」。
「はあ、そこまで。その通りだ」。

男は感心した。
「おぬしすげえ眼力だな」。
「さいころに身を持ち崩すような手合いは、もはや武士とはいえまい。したがって気にもならぬし、不憫とも思わぬ。屈辱をなめたなら、少しは立ち直ることだ」。

「屈辱なんかどうだっていいんだ。俺はな、腹減ってるんだ。何か食うもの持ってねえか」。
「あいにくだな」。
去っていく狂四郎の背に向かって、男は叫んだ。
「金のためなら何でもやるぞ!押し込みの相棒、勤めてもいいんだぜ!」

お蘭と金八は、宿場に来ていた。
金蔵は賭場に誘われて行ってしまったが、お蘭は鋭い目で辺りを見回す。
お蘭のいる宿に、狂四郎がやってきた。

「あ、旦那!」と、お蘭が声をかける。
「お待ちしてました。どうぞ」。
お蘭は狂四郎を部屋に招き入れ、酌をする。

狂四郎が杯を飲もうとすると、ふと、お蘭は「あ、ちょっと待ってください」と言った。
そして、庭の咲いている萩の花を摘んで、杯に浮かべる
「この、花びらごと」。
狂四郎がお蘭を見る。

「干すのか」。
狂四郎が、飲み干すのかと聞く。
「おまじないなんです。そうすると、縁が深くなるんですって」。

お蘭が微笑む。
「お蘭と俺のか」。
「お嫌ですか?」

「この俺と縁が深くなれば、地獄まで道連れになるぞ」。
「地の果てまでだって…」。
お蘭が狂四郎を見つめる。

しかし、狂四郎は飲まない。
「これ以上、死神を喜ばすこともあるまい」。
狂四郎は杯を置いた。
「それより用件を聞こう。この宿で俺に何をさせたいのだ」。

その夜、福知山藩主・朽木が滞在する本陣の寝所に狂四郎が現れ、朽木の喉元に刀を突きつけた。
だが狂四郎は朽木に向かって、朽木の「命はいらぬ」と言った。
「このたびの西国十三藩の密約書、いただきに参った」。

「おのれ!」
朽木は刀を手にするが、狂四郎の相手ではなかった。
狂四郎に喉元に刀を突きつけられ、朽木は密約書を突き出した。

用心を解かない狂四郎は、朽木に密約書を「開けろ」と言い渡す。
朽木が広げたその書には確かに、丹波・福知山藩の朽木の殿の名前、そして薩摩藩の島津公の名前が確かにあった。
密約書を手に、狂四郎は悠々と引き上げる。

門で用人たちが狂四郎を見つけ、「おのれえ、大胆な!」と言って斬りかかってきた。
狂四郎は襲い掛かってきた用人たちを次々斬り捨て、斬った1人の刀を取ると最後の1人に投げ、これを仕留めた。
密約書を奪われた朽木は、「福知山藩の立場がない」とうろたえていた。

水野の手に入れば、咎めがくるだけではない。
薩摩に対して、福知山藩の立場がなくなる。
すると側近の鮫島が、すべてを自分に任せるように言う。

鮫島の口笛ひとつで、黒装束の一群が舞い降りてきた。
忍びたちである。
その昔、伊賀と争って敗れ、家光の警護を解かれて追い出された雷神衆だと鮫島は説明した。

この太平の世に、忍びとは…。
懐疑的な殿の前で雷神衆は、火のついた矢を放った。
さらに、火のついた樽が正面から朽木に迫る。

朽木は思わず「やめろー!」と叫ぶ。
その途端、火は消え、樽は止まった。
鮫島と、雷神衆の頭領の加東次が「失礼つかまつった…」と深く頭を下げた。
雷神衆の実力を見た朽木は、「福知山藩のために働いてくれるか」と言う。

その頃、金八は珍しく、賭場で勝ちまくった。
しかし帰り道、
金を取り返しに来た賭場の元締めの袋井一家が、金八を追ってきた。
この賭場では決して、金を持って帰ることはさせないのだ。

逃げる金八と袋井一家の間に割って入ったのは、あの縛られていた浪人・片倉新九郎だった。
「おう!俺の刀、返してもらおうか」。
新九郎を見た親分は、「何ぬかしやがる、また痛い目にあいてえのかい。すっこんでろ!」と叫んだ。
完全に新九郎を侮っていた。

だが新九郎は、そう言った親分があげた手をあっさりつかむと、締め上げる。
「夕べはな。博打のツケが払えねえから、大人しく縛られてやったら…、勝ってもこういうからくりってわけか!」
調子に乗った金八が、「そうだよ!おめえらそれでも博打うちか!ごみ、だに、しらみ、のみ!」と叫んだ。

親分は「やっちまえ!」と叫んだ。
子分衆が刃物を抜いて、襲ってくる。
しかしまったく、新九郎に歯が立たない。
助けてもらった金八は、新九郎を女郎屋に誘う。

翌朝、金八は女郎屋で目覚めたが、新九郎は一人、廊下で座っていた。
新九郎は杯に庭に咲いていた萩の花を摘み、入れた。
「何それ、顔に似合わないオツなことして」と、金八が言う。

「こうするとな、男と女の縁が深くなるって。そう教えてくれた女が昔いたんだよ」。
「ふうん。ねえ、その人今、何してんの」。
「知らねえな」。

新九郎の顔を見ていた金八は、「まだ惚れてるね、その人にね。でも旦那みたいな生き様じゃ、大概の女は逃げ出すよ」と言った。
「これでも昔は、ちゃんとしてたんだ」。
「嘘ばっかり」。
「うるせえな!向こう行ってろ!」

新九郎に怒られて、金八は引っ込んだ。
一人になった新九郎は、酒を飲み続ける。
「こんな生き様じゃあ、まともな女は…、ふふ。確かにその通りだ」。

道を行く狂四郎の耳に、助けてと叫ぶ女の悲鳴が入ってきた。
一軒の農家で、百姓娘が男3人に押さえつけられようとしていた。
狂四郎が入ると、男たちが身構える。
女は狂四郎の背中に隠れた…、と思うと、「眠狂四郎!」と叫んで背後から押さえつけた。

雷神衆だった。
男たちが狂四郎に斬りかかる。
すると狂四郎は、すっと身を翻した。

男たちの刃は、狂四郎を背後から押さえつけていた女に刺さった。
狂四郎はその3人を斬ると、天井から、家の奥からさらに黒装束の男たちがやってくる。
すべての黒装束を斬ると、狂四郎はお蘭の待つ道にやってきた。

その頃、金八と新九郎も袋井一家に襲われていた。
このまま2人を帰したなら、袋井一家の面子が立たない。
親分はそう言った。

新九郎は、金八に逃げろと言う。
「こいつは俺のケンカだ」。
「俺だけズラかっていいの?」

「早く逃げろ!」
「恩に着るよ!」
金八が逃げた後、新九郎はたちまち3人の子分、そして2人の浪人の用心棒を斬り捨て、親分も斬った。

道の上で、通りかかった鮫島がそれをジッと見つめていた。
小川で血を洗っていた新九郎に近づくと鮫島は、「使えるな、おぬし」と声をかけた。
「金に不自由はしていないか?」
「なり見りゃ、わかるだろう!」

新九郎が去ろうとした時、背後で小判の音がした。
「ほんの手付けだ。おぬしを雇いたい」。
鮫島が地面に、小判を投げたのだった。

「袋井本陣へ訪ねて来い。丹波福知山・三千石が逗留しておる。ただし、勘違いしてもらっては困る。仕官ではない。あくまで人斬りとして、おぬしを雇いたい」。
鮫島はそれだけを言うと、去っていく。
新九郎が小判を拾う。

その背後の橋を、お蘭を乗せた駕籠が通り過ぎていく。
小判を拾い終わった新九郎が顔を上げると、お蘭の姿が目に入ってきた。
新九郎の顔色が、変わる。
そして、お蘭の駕籠の後を追った。

駕籠は、見附宿に入った。
旅籠に入ったお蘭を見て、新九郎は「間違いねえ!間違うはずはねえ!」と言った。
部屋で茶を飲んでいたお蘭の手から、湯飲みが落ちる。

お蘭が立ち上がる。
新九郎が、お蘭の前にいた。
2人は見つめう。

お蘭がやっと、口を開いた。
「どうして…、どうして…」。
「俺も驚いた。駕籠で行くあんたを見てな、夢中でここまで駆けてきた」。

そして新九郎は「しかし何だ、その格好はどうして旅なんかしてるんだ。あんたれっきとした…」と言いかけた。
お蘭がその言葉をさえぎった。
「もうやめてください。昔の話は…」。
お蘭は新九郎から、顔をそむけた。

「あなたこそ、どうしてこんなところに。それにしてもその変わりよう。昔、千代田のお城の勘定方にお勤めしていた頃の片倉新九郎様とは、とても…」。
「上役といさかいを起こして、逐電したこの俺だ。所詮は宮づかいのタマじゃねえのさ」。
新九郎の言葉に、皮肉っぽい調子が混ざった。

「いいえ!わたくしは知っております。あなたは上役たちの不正を正して、お城を飛び出したのです。あなたが去った後、何名かのよからぬ重役たちは評定所でお裁

きを受けました」。
新九郎は息を呑んだ。
「そうか、嫌、それを聞いて…、ずっと気になっていたんだ。俺一人が割りを食ったたと思っていた」。

新九郎は肩の荷を降ろしたような表情になった。
「うむ」と、ため息をついた。
気が楽になった…」。

そして新九郎は、お蘭を見た。
「美しくなられたのう、お蘭どの」。
お蘭は目を伏せた。

「本来なら夫婦(めおと)になっていた、俺とあんただ。そうなっていたら今頃は2人の間に子供がいて、つつがなく暮らしていたはずだ」。
「どうした父上は。碁がお好きで、良く碁の相手をさせられた」。
「父は…、先年、他界いたしました」。
「そうか」。

「新九郎様、どうか、お引き取りください。歳月の流れた今となっては、昔をとやかく話し合っても、いたしかたありますまい」。
お蘭の口調は、きっぱりしていた。
「お蘭殿!」

驚いた新九郎が、お蘭を見つめる。
「新九郎様、どうか!」
お蘭の目は悲しそうだった。
新九郎は、お蘭をジッと見つめた。

お蘭の目には、うっすらと涙がにじんでいた。
それを見た新九郎は「わかった…、もう会うこともないな。邪魔した」とだけ言う。
新九郎は、立ち去った。
お蘭は一人、立ち尽くしていた。

袋井の本陣にやってきた新九郎は、酒を飲んでいた。
「やはり来たか」。
鮫島が入ってきた。

「高いぞ、俺の人斬り代は!」
「よかろう、だがあるいは、おぬしが負けるかも知れない相手だ」。
「かまわん!たとえ野に屍をさらしても嘆く奴も、泣く奴もいねえ!」

そこに、雷神衆の頭領の加東次が、狂四郎が見附宿にいることを知らせてきた。
江戸からの使いと会うのだ。

道を行くお蘭。金八と合流した。
だが江戸からの使者を見つけるとお蘭は、金八に離れているように言う。
お蘭が、使者に近づく。

「お使者の方、お蘭です」。
編み笠を深くかぶった男は、「密約書をこっちへもらおうか」と言った。
その口調に、お蘭がいぶかしげに眉をひそめる。

傍らの草むらに斬り捨てられた本物の使者が、いた。
四方から、上空から雷神衆が降りてくる。
お蘭は懐剣を構えたが、捕らえられる。

そしてお蘭は、一軒のあばら家につれてこられた。
加東次はお蘭の持っていた三味線を解体するが、密約書はなかった。
「ない!」

お蘭を柱に縛りつけると、眠狂四郎の居場所を言えと迫る。
「どこかねえ?口が裂けたって言えないよ!」
「このアマ!」

加東次の合図で、雷神たちがお蘭を鞘に収めた刀で突く。
その時、新九郎がやってきた。
「おぬしか」。
加東次が新九郎を見る。

「打て!もっと打て!」
振り向いた新九郎は、打たれているお蘭を見て驚く。
お蘭もまた、新九郎を見て驚くが、すぐに打たれて前を向いた。

次々、お蘭を打つ雷神衆に向かって新九郎が「やめろ!」と一喝する。
「つなぎの女が帰ってこなけりゃ、眠という男もどっかの穴倉から出てきて、探し出すだろう。どうせ、この近くだ。こっちから仕掛けててやろうじゃねえか」。
そう新九郎は言った。

加東次は「ようし、逃がすな」と言って出て行く。
だが動かない新九郎を見て、「あんたは行かんのか」と聞いた。
「わかってる!」

新九郎が出て行った後、2人の男が見張りとして残った。
美しいお蘭を見る、2人の目が光った。
「けけけっ」と男たちが笑って、お蘭のあごを持つ。

気丈なお蘭は男に唾を吐きかけると男はお蘭を突き飛ばし、のしかかった。
お蘭の顔が、苦痛にゆがむ。
その時、その男が背後から刺された。

新九郎だった。
抜いた刀で、新九郎はもう1人も斬り捨てる。
お蘭の縄を切ると、「行け!」と言う。

「新九郎様、どうして!」
「どうして!あんな奴らの一味なんかに!」
「ははは、落ちるところまで落ちてるのさ。今の俺は金のためなら、何だってやるんだ」。
新九郎は乾いた笑い声を立てた。

そして「あんた、眠狂四郎の女なのか!そうなんだな?!」と聞いた。
お蘭は新九郎に背を向けて、答えない。
「まあ、いいや。しかし困ったなあ…。あんたの男を斬らなくちゃならねんだ」。

お蘭が、振り向く。
「どっちが死ぬのが望みだ」。
お蘭は顔を背ける。

新九郎はいきなり、お蘭を抱きしめる。
「恨みっこなしにしてくれ。俺は眠って男を斬る。そうしたら…、俺はあんたを…。そしたら、俺の女になってくれるか!」
「どうなんだ!」

お蘭は新九郎を見つめる。
その目に涙が浮かぶ。
お蘭は、哀しみで一杯だった。
「どっちも…、どっちも嫌。どっちも生きていてほしい」。

「信じろよ。必ずやる。眠って男をしとめる」。
「お願い、このまま、どっかに行ってください。いいえ、私を一緒につれてってもいいから。だから!」
「鍼九郎様どうか…」。
新九郎は、お蘭を見つめる。

「眠に伝えろ。必ず俺が命をもらいに参上するとな」。
そして「奴らが戻ってくる、早々に行け」とお蘭に出て行くよう促した。
お蘭は、新九郎の背中を見つめる。

その頃、荒れ寺で金八が、お蘭を助けに行かない狂四郎に詰め寄っていた。
「行けば、墓穴を掘ることになる」。
それを聞いた金八は、「何言ってんの!お蘭さん、だんなのために働いてるんでしょ!」と叫んだ。

だが、狂四郎は少しも声の調子を変えずに言った。
「それは少し違う。お蘭はもともと、俺を見張るために差し向けられた女だ」。
「いや俺さ、旦那のそういう、裏っかたの方、よくわかんねえけどさ、お蘭さんの気持ちわかってやんなきゃ。一生懸命なんだから!」

「奴らの狙いはこの密書だ。これが俺の手中にある限り、お蘭は無事だ」。
「気休め言ったって、つかまえてんの向こうなんだからさ!」
「人の心配より早うmここを抜け出すことだ」。
「え?」

「奴らはここをつきとめて、いずれ襲ってくるだろう」。
それを聞いた金八は「それじゃ、俺、ここにいない方がいいよね?」と聞いた。
狂四郎がうなづくと、金八は逃げていく。

その通りに、雷神たちは荒れ寺にやってきた。
しかし、狂四郎ももう、いなかった。
「逃がしたか…」。

お蘭はふらふらになりながら、道を急ぐ。
その先に狂四郎を見つけたお蘭は「だんな!」と叫ぶ。
「お蘭、無事だったか」。

「旦那、逃げて!逃げてください。相手は江戸で鳴らした、神道無念流の使い手なんです」。
「相手を知っておるのか」。
お蘭はハッと、息を呑む。
「お蘭」。

お蘭は、うつむいた。
「今は何も聞かないでください。後生です、逃げてください」。
お蘭は狂四郎に、頭を下げる。

だが狂四郎は逃げない。
「自ら好んで阿修羅に生きるこの俺に、その言葉は無用だ」。
「お蘭、無理をするな。お前は自分の生きたいように生きればいい」。
「生きたいように…」。

そう言うと、狂四郎は歩いていく。
お蘭はその背中を見送る。
「旦那…。生きたいようにって、あたしが生きたい道は…」。
お蘭が涙ぐむ。

雷神が新九郎をつれて、狂四郎の襲撃に向かう。
暗闇の中、表に出た新九郎は、少し離れた木陰から自分を見つめるお蘭を見る。
「お蘭どの」。
新九郎が、お蘭に近づく。

「どうした?」
お蘭の唇が震える。
「案内します…。そこで…。決着を…」。

「あなたたちが今行こうとしたところには、もういないんです。ほんとに恨みっこなしです。どちらかが…、そしたら、私…。自分がはっきりするんです」。
「わかった。案内してくれ」。
お蘭が先に立ち、川べりの道を新九郎と歩く。

小川の流れが、背後に見える。
水面が光る。
お蘭が口をきく。

「私、娘の頃、あなたの花嫁になることばかり考えていました。ほんとに…身も心も綺麗なままで…。あなたにどうしたら、気に入られるかって…。男と女がこんな風にして出会うなんて。やっぱり会わないほうが良かったんです…。会わないほうが…」。
お蘭が、新九郎を振り返る。
目には涙が浮かんでいる。

お蘭を見つめる新九郎の目も、悲しそうだった。
新九郎の視線が、下がっていく。
お蘭の手には、小刀が握られていた。

突然、お蘭が新九郎の懐に飛び込む。
持っていた小刀が、新九郎の胸、深くに突き刺さる。
まったく抵抗せず、お蘭と、お蘭の刃を受け止めた新九郎。

お蘭が、驚いて見つめる。
「どうして…」。
「いいんだ」。
新九郎が、かすかに微笑む。

「これでいいんだよ…。どうせならお前に…」。
新九郎は倒れる。
2人の頭上の木の、花が散っている。
風が吹く。

その頃、旅籠にいた狂四郎の座敷に爆薬が投げ込まれる。
たちまち、座敷は炎に包まれた。
障子を破り、狂四郎は二階から地上に飛び降りた。

体を回転させ、狂四郎は脱出する。
旅籠が炎上する。
次々やってくる雷神衆。
狂四郎も、次々雷神衆を斬る。

雷神衆は、爆薬を投げてくる。
狂四郎は雷神の一人を盾にして、爆薬を防ぐ。
楯にされた雷神の背中で、火が燃える。

両側から、樽が転がってくる。
しかし狂四郎はヒラリと飛び上がると、樽は衝突して止まる。
狂四郎は、最後の2人を斬る。

今度は、鮫島が現れる。
刀を抜いて、構える。
正宗を持つ狂四郎の手が、頭上に上がる。

すらりと頭上に上げた正宗の切っ先を、今度はピタリとを地面に向ける。
刀の先が、キラリと光る。
徐々に刀が弧を描いて、上に上がっていく、。
狂四郎の周りを、刀の光が彩っていく。

その時、雷神の頭領の加東次と、最後の一人が襲って来る。
しかし狂四郎は2人を交わし、斬る。
斬りこんで来た鮫島も斬る。
鮫島が倒れ、狂四郎は刀を納める。

翌朝。
峠の茶店には、お蘭と狂四郎がいた。
「行くか。お蘭」。
「はい、江戸へ立ち戻ります。こうやって一度けじめをつけないと」。

狂四郎が自分が飲んでいた杯を、お蘭に渡す。
徳利を傾ける。
お蘭が狂四郎に、酒を注いでもらう。

酒が注ぎ終わると、お蘭がお辞儀をする。
ふと、狂四郎が立ち上がる。
傍らの萩の花を摘む。
そして、お蘭の持つ杯に浮かべてやる。

「旦那…」。
お蘭がうっすらと微笑む。
もうひとつの杯に狂四郎も、萩の花を浮かべ、飲み干す。
お蘭が杯を飲み干し、微笑む。

街道を行く狂四郎を、お蘭が見送る。
「縁が深くなりますように…」。
そっと、お蘭がつぶやく。

狂四郎の後姿を見送っていたお蘭は、江戸へ向かう。
2人は、背中合わせに離れていく。
ススキの穂が、日差しを浴びて、光って揺れていた。


松尾嘉代さん演じる密偵・お蘭。
綺麗だなあとは思っていましたが、今回のお蘭は本当に美しい。
狂四郎の杯に花を浮かべて、「縁が深くなるんですって」と言う。
「この俺と縁が深くなれば、地獄まで道連れになるぞ」。

いつも狂四郎と関わる女性は、死んでいくから。
巻き添えで、死ぬ人間も多い。
それを知っているお蘭は、「地の果てまでだって…」と答える。
お蘭の目が熱く、艶っぽい。

しかし、狂四郎は杯の酒を飲まない。
お蘭を死なせてしまうことになるかもしれないから。
「これ以上、死神を喜ばすこともあるまい」と、杯を置く。
物騒な会話の、でもとても美しいシーン。

そして狂四郎が最初に出会った、すさみきった浪人。
これがお蘭の元・許婚だった。
演じるは、ウルトラセブンこと、森次晃嗣さん。

本当は腕が立つのに、博打で負けたからと言いなりに縛られていたらしい。
狂四郎は武士とはもう言えないと言ったけど、こういう律儀さはやっぱり、ならず者ではなくて、武士らしい。
金のためなら何でもやると言いながら、あんまり凶悪さは感じない。

襲ってくるヤクザに向かって、これは俺のケンカだと言って、金八を逃がすのも武士らしい。
恩に着るよ!と言って逃げる金八もおかしい。
卑怯なヤクザに向かって金八の「のみ、しらみ!」も、おかしい。
アドリブかと思ってしまう。

さて、助けてもらった礼に金八は新九郎を誘う。
勝った金で金八は遊ぶが、新九郎は遊ばない。
一人でいて、昔、女が教えてくれたと言って、花を浮かべて酒を飲む。

ここでわかる。
あ、お蘭の元恋人だって。
しかも、お蘭のことをこの人はまだ好きだ、って。

賭場で勝った金を追って来たヤクザから金八を守って、新九郎と金八は関わりあう。
そして新九郎は、狂四郎とも関わってる。
さらに鮫島がスカウトに来たことで、狂四郎と命のやり取りをすることになる…、はずだった。

この鮫島に向かって新九郎、「金に困ってないか、見りゃわかるだろ!」と投げやりな答えをする。
すると小判を放り投げる鮫島。
仕官ではないというところが、傲慢。

金のためなら何でもやると言っておきながら、新九郎は落ちるところまで落ちた自分が嫌だと思っている。
それでも金を拾う自分が、嫌だ。
この人は正義感の強い、立派な武士だったんだとわかる。
だからこそ、今の境遇がものすごくつらいだろうと思う。

使者が殺されたことでお蘭は捕らえられ、新九郎と再び会うことになる。
新九郎は、お蘭のピンチを救い、そして今のお蘭の狂四郎への思いを察する。
金で請け負った殺しだったが、新九郎にとって狂四郎との勝負はそれ以上のものになった。

もし、狂四郎を殺したら、一緒になってくれ!と叫ぶ新九郎。
お蘭が一緒になってくれるなら、この暮らしから立ち直ってみせる。
そう思っているように聞こえる。

どちらが死ぬのも嫌だ。
ならば自分を連れ去ってくれて、かまわない。
お蘭の表情が、美しく、切ない。
狂四郎と新九郎はお互いそれと走らずにお蘭をめぐって、そして金で命のやり取りもすることになった。

そこでお蘭は狂四郎に会う。
一見冷たく、突き放しているような狂四郎。
しかし狂四郎はお蘭に、「好きなように生きろ」と言う。

お蘭の好きなように生きろ。
無理をするなと。
そんなことを言ってくれる男は、おそらくいなかったに違いない。

ここでお蘭の心は、ピタリと決まったんだと思う。
殺したら自分のところに来てくれと言った新九郎と、好きなように生きろと言った狂四郎の違いをお蘭は感じたんだと思う。
今の自分がついていくのは、狂四郎だ。
自分で自分の過去にけじめをつけよう、と決心した。

この時のお蘭の悲しそうな、美しい表情。
松尾さんがとても綺麗。
新九郎もまた、お蘭が自分を刺すのを、無抵抗で受け入れる。
驚くお蘭。

どうせ落ちてしまった自分はいずれ、ろくでもない殺され方をするだろう。
ならば、お蘭の手にかかって死にたい。
武士として、男として、新九郎はやはり立派であったのだ。

森次さんの悲しい、そして深い愛を感じる表情。
お蘭と新九郎は、どこか似ていたのかもしれない。
平和な生活であったら、良い夫婦だっただろう…。

今回、奇妙な縁で狂四郎と、新九郎と、お蘭と、金八は全員顔見知りになっている。
しかし結局、狂四郎と新九郎はその後、顔をあわすことはなかった。
最後まで、相手の素性がわかっているのは、お蘭と新九郎だけ。

他は誰も自分とどういう縁があったのかは知らないまま、永遠に別れている。
もう、永遠に誰も、知ることはない。
ここがすごく切ない。
運命と言うか、人の縁って何だろうって思わせる。

最後に、杯を拒否した狂四郎が自らお蘭に教えられたように、花を浮かべて杯を飲み干す。
去っていく狂四郎の背中を見つめるお蘭に、後悔はない。
右と左に分かれながら、お蘭がつぶやく。

縁が深くなりますように…。
光るススキの穂と、お蘭と、萩の花と、狂四郎。
美しく、切ないラストシーン。


あいにく三途の川が川止めでな 「眠狂四郎 円月殺法」第11話

第11話、「姫君みだれ舞い妖艶剣 藤枝の巻」。


大井川の渡しで、渡し人たちが狂四郎を川渡ししていた。
彼らの噂によると、急ぎ渡しは狂四郎で3人目だと言う。
1人は鳥追い姿の、きりっとした女性。
もう1人は、でくの坊みたいなへの字眉の男で、2人が連れとはわからない。

1人が、それよりも本陣宿に止まっている阿波藩の行列がかわいそうだと言う。
大事を取った道中奉行の配慮でずっと、足止めだ。
挙句の果てに、この川止めなのだ。
だがどうせ、金に困らない大名なのだから、ゆっくり逗留してもらおうと1人は笑った。

岸についた狂四郎の行く手に、金谷宿の札が見えた。
山道を歩く狂四郎に向かって、女の笑い声が聞こえてきた。
そして、分銅をつけた紐が投げられた。
狂四郎がつかむと、紐を投げた者が現れた。

「かかった。ふふふ、獲物が罠にかかった。逃すまい。もはや逃しはせん」。
そう言って現れたのは、若い美しい姫だった。
「正気かお前は。それとも魔性か物の怪の類か」。

「物の怪は、その方であろう。わらわがこの場にて成敗して、魔界とやらに送り返してやろう」。
姫はそう言うと、紐を手繰り寄せ始めた。
狂四郎は姫を見据えると、突然、紐の力を抜いた。
姫が勢いの行き場を失って、倒れる。

「おのれ。その方、何をする!」
姫は懐剣を抜いて襲い掛かるが、狂四郎に押さえつけられてしまう。
「どちらが魔性か、その正体を暴いてくれるわ」。
狂四郎はそう言うと、姫の胸元に手を入れた。

「ひいさまー」という声がして、腰元や家来たちが姫を探しに来た。
狂四郎を見つけた腰元たちが近寄り、「その方、ひい様に何をする」「下がれ無礼者!」と言った。
「このお方はさる大身の、やんごとなきお方であらせられるぞ!」

姫が「この者がわらわを辱めた。屈辱を晴らせ!こやつを斬り捨てい!」と叫ぶ。
刀を抜く者たちに狂四郎は、「やめておけ。元はと言えば、その姫とやらの戯れが過ぎたゆえだ」と静かに言う。
「それほど大事な姫なら、野に放たず、籠に入れてしまっておけ!」
色めきたつ家来たち。

その時、家老が来て、みなをたしなめた。
「じい、何をしにまいったのじゃ」。
「姫様、お立場をお考えください」。

家老は、阿波藩の家老・勝俣雅楽と名乗り、狂四郎に謝った。
姫は阿波藩の貴世、貴世姫であった。
「今の息女、不憫と思わねばなるまいな」。
「それは…。いかようにも」。

狂四郎はうなづき、去っていく。
「あいや、ご浪士。名のあるお方か」と勝俣が呼び止める。
狂四郎は「阿波藩蜂須賀家なら存知よりのはず。西国13藩謀議切り崩しのために旅をしている、眠狂四郎だ」と名乗った。

「なんと!あやつが、狂四郎…!」
勝俣が驚愕する。
狂四郎は西国の藩にとっては、敵ではないのか。

道を行くお蘭の後を、金八が追いかけても懸命に口説いていた。
だがお蘭は、見向きもしない。
茶店に来たお蘭は、離れたところで話している島津の武士3人に気づいた。
お蘭は狂四郎に知らせに、そこを離れた。

金谷宿の本陣宿では、阿波藩貴世姫が宿泊していた。
都田水心もそこにおり、家老の勝俣は狂四郎がいたことを知らせていた。
阿波藩の面子にかけても、狂四郎を討つべきだと水心は言うが、勝俣としてはそれより一日も早く江戸に向かい、将軍家第40番目の和歌気味との婚礼を無事に済ませ、蜂須賀家の礎を築くことしか頭にない。

国許を立った時は、良かった。
だが江戸に近づくに連れ、貴世姫の乱行はひどくなった。
外から水心にも男の悲鳴が、聞こえてきた。

庭では寝間姿の男が、頼むから返してくれと腰元2人に懇願していた。
男はもうあんな化け物は見たくないと逃げ出した。
その逃げた先に、貴世姫がいた。

「わらわを化け物と申したな」。
恐れ入って、男は土下座した。
だが姫は「行くが良い。その方にもう、用はない」と言い放った。

男が頭を下げて去ろうとした時、貴世姫は男を刺し殺した。
倒れた男に貴世は、執拗に刀を差した。
「ひい様、お見事にございます」と、腰元が言った。
水心は「ご家老、これは?」と驚いて、尋ねた。

宿屋の主人・蔵三が、狂四郎に挨拶にみえた。
女でも呼ぼうかという蔵三の誘いを、狂四郎は断った。
「さようでございますか」。
出かける狂四郎を見て蔵三は、不気味な笑みを浮かべていた。

お蘭は狂四郎にこの宿が不吉だから、早く出ようと言っていた。
狂四郎を心配するお蘭を、狂四郎はじっと見つめた。
気づいたお蘭は、「だってこうやって、道中一緒にやってたらどうしたって情が移るでしょう」と言った。

「お蘭。飲むか」と、狂四郎は杯をお蘭に差し出した。
「いただきます」と、お蘭はうれしそうに受けた。
その時、不機嫌そうに金八がふすまを開けた。
金八はすねていた。

それでも金八は、阿波藩の行列の主の貴世姫が、将軍家の若君と見合いをするためにここに来ていることを話した。
「その姫ならもう会った」。
「会った?!」

さらにその姫は、少し頭がおかしいと金八が言う。
金八が姫は本当におかしいのか聞くと、狂四郎は「何とも言えんな」と言った。
それと、金八が聞いたところによると、姫は男に狂っており、旅の男を連れ込むらしい。

「まるで千姫御殿じゃないか」と、お蘭が言う。
さらに怖ろしいのは、男が逃げようとすると、ばっさりやってしまうことらしい。
お蘭は不吉なものを感じて、狂四郎を見る。

貴世姫は、腰元2人に入浴をさせてもらっていた。
「男なら誰でも良い、さらってまいれ」と貴世姫は2人に命じた。
「わらわには、慰めがのうてはならぬ」。

女郎屋に行き、上がりこむ金八を腰元2人はじっと見つめていた。
部屋に上がった金八が振り向くと、来たのは腰元2人だった。
店とは話をつけたので、自分たちと参られと言う。
「悪いようには、いたさぬゆえ」。

酒も料理も女も揃っていると言われ、金八は連れ出された。
目隠しをされ、駕籠に乗せられた金八は屋敷に連れ込まれ、風呂に入れられた。
寝間に着替えさせられ、香を炊いている部屋で布団の上で待っている金八はさすがに、なんだろうと思い始めていた。

すると戸が開き、貴世姫が現れた。
その言葉遣いに、金八は異様なものを感じた。
「わらわって、まさか…」。

「ひい様とか、わらわって、わかった!ここ阿波の本陣宿!」
そして相手は千姫もどき…。
金八は理解したが、もう遅かった。

お蘭が、どうやら金八が貴世姫の毒牙にかかったと狂四郎に知らせに来た。
あんなやつでも見殺しにすることは…、金八はどこか憎めないと、お蘭は救出を頼む蘭。
雨が降ってきた。

薩摩の島本、森田、松浦の3人は、雨の中、宿屋の主人の蔵三をを待っていた。
実は宿屋の主人は、表の顔。
蔵三は裏では、殺しを請け負う影の元締めだった。
一声で50人は集まる、眠狂四郎などと蔵三は言い、狂四郎殺しは引き受けたと金を受け取った。

雨が上がり、庭に出た水心は、池のほとりにいる金八を見つけて声をかけた。
すっかりいい気分になった金八を見た水心は、金八はやがて殺されると確信した。
だがその前に、金八を利用しない手はないと思い始める。

屋敷の様子を伺いに来たお蘭に、屋敷から出てきた水心が気づいた。
眠に親切を売りに行こうと思っていたと言って、水心は金八が屋敷におり、やがては殺されるであろうと伝えた。
お蘭が去るのを見た水心は、勝俣に狂四郎を討つことを勧める。
だが勝俣は、色よい返事をしない。

眠狂四郎を倒すため、裏三は殺し屋たち十数人を集めた。
いまだに円月殺法を破った者は、いない。
心してかかれといわれた殺し屋たちは、うなづいた。

貴世姫が鏡を覗き込んでいると、背後に狂四郎が映った。
振り返った貴世姫に狂四郎は、「この俺をはっきりと覚えているようだな。その目。どう見ても正気の人間だ」と言った。
懐剣を手にしようとした貴世姫を捕らえた狂四郎は、「何のために狂気を装う!将軍家との縁組を拒むためか。気にそぐわぬ縁談を断るためか!だが、そのために

罪もない旅人を手にかけた咎はどうなる!」と言った。

貴世姫は、唇を噛んだ。
「この後、愚かな真似はやめることだ。将軍家との縁組が嫌なら、25万石をかけて真っ向から断ればどうだ!」
「黙れ!その方ごときに何がわかる!わらわが狂気を装いしは、その方が推量のとおりじゃ」。

「だが…、やめられなくなったのじゃ。狂気の真似が、のう。狂気を装い男を伽にしての、勝手な振る舞いが楽しゅうて、やめられなくなったのじゃ。世にこれほど楽しいことはない」。
そして貴世姫は「江戸に参るまでに、何人の男を篭絡できるかのう」と笑った。
「わらわの前では男たちは哀れな虫けらじゃ」。
そう言って、貴世姫は狂四郎を見た。

「その方も男であろう。ただの男であろう。さすれば、わらわを抱きたくて参ったのであろう。許す。伽を許すゆえ、抱くが良い。さあ、ひれ伏してわらわのしもべになるのじゃ」。
狂四郎は、貴世姫を見つめる。
その動かない、哀れみを含んだ表情に思わず、貴世姫は懐剣を突き出した。

しかし狂四郎は懐剣を持つ手を握り締めると、懐剣を取り上げ、放り出した。
懐剣は床みに刺さった。
狂四郎はその床に、貴世姫を放り投げた。
「きゃあっ」。

悲鳴をあげて、貴世姫が頬を押さえた。
頬からは、鮮血が流れた。
「わらわの顔が…、わらわの顔が!」
「じい!じいーっ!」

姫の叫びを勝俣が聞き、駆けつけた。
「眠だ!ご家老!」
水心が立ち上がる。

この騒ぎの最中、お蘭が腰元2人を気絶させ、金八を連れ出す。
まだ夢うつつの金八をひっぱたき、お蘭の頭のおかしい姫様にいけにえにされるとの一言で金八は一緒に逃げ出した。
頬を押さえた貴世姫は、いつかの無頼の男にやられたと訴えた。

「眠狂四郎」と、水心は言った。
狂乱する姫に勝俣は、「なにとぞ、心安らかに、このじいがついておりますには、悪いようにはいたしませぬ!」と止めた。
だが姫は、「あの男生かしてはおかぬ。地の果てまで追い詰めても、あやつの命を!」と言うばかりだった。

宿場中、役人があふれて、アリのはいでる隙間もないと金八が言う。
お蘭は金八に、狂四郎が姫の顔を切ったと教える。
街道は、木戸まで閉められてしまった。

お蘭と金八に向かって狂四郎は、狙いは自分だから、お蘭と金八は夫婦者を装って宿場を出ろと言った。
「だんなは?」
「案ずるな。縁があったら又会おう」。
「そんな」。

「いいから行け」。
そう、狂四郎に言われたお蘭は「じゃ、だんな、待ってますよ。先の宿場で。だからきっと」と狂四郎を見つめた。
狂四郎もまた、お蘭を見つめる。

「きっと、来てくださいよ…」。
狂四郎は、かすかにうなづく。
お蘭は金八を連れて、宿場から出る。

阿波藩の武士が狂四郎を探すのを、島本と蔵三は見ていた。
これを利用しない手はない。
蔵三は眠狂四郎を探すように、殺し屋たちに命じた。
勝俣の前に、狂四郎が現れた。

狂四郎は言う。
「貴世姫は将軍家との縁組を嫌い、それが為の偽りの狂気乱行であったことを、おぬしは見抜けなかったのか」。
「まことか、それは。狂気の噂を立てるための芝居だったと申すのか」。
「はじめのうちはな」。

「どういうことだ」。
「貴世姫は、生まれながらに狂気を持っている。いや、あるいはその振りをしているうちに、まことの狂気になったのかもしれぬ。今は歯止めがきかなくなった。おぬしが諌めるほか、手はあるまい」。
「それを知らせに、わざわざ参ったのか」。

「このまま乱行が続けば身を。いや、阿波25万石を潰してしまうぞ。こんなことで阿波藩を潰してしまえば、俺の楽しみがなくなる」。
狂四郎は薄く笑うと、去っていく。
その背後を、蔵三が見ていた。

本陣宿に入ろうとする腰元を、蔵三が呼び止めた。
眠狂四郎を見かけたのを知らせに来たと、教える。
「あの男の居場所が、わかったのじゃな!仕度をいたせ!わらわが、じきじきに参る!」と貴世姫は叫んだ。

「姫!それはなりませぬ。どうか、じいの言うことをお聞きくださいませ」と勝俣は言ったが、貴世姫は聞き入れない。
安達が原を行く狂四郎の前に、般若の面をつけた貴世姫が現れた。
「眠狂四郎、そなたの命、貰い受ける」。
そう言うと姫は、刀を抜いた。

「おもてをつけねば、外に出られぬ化け物になったか。それも今までしでかした、悪行の報いと思え」。
狂四郎の言葉に貴世姫は、「ええい!死ね!」と叫び、飛び掛った。
そこに勝俣が現れた。

「姫!もうこの上の乱行はおやめください!じいは何もかも承知しております!そのお怪我で江戸へ行くことも、のうなりました!国おもてに立ち戻り、静かにお暮らしください」。
だが、貴世姫は「どけ、じい!その方とて、容赦はせぬぞ」と叫ぶ。
「お気のすむようになされませ。じいは、一歩もひきませぬぞ」。

「うつけ者!どかぬか!」
「姫、おやめくださいませ!」
蔵三の「今だ」、の声で槍が投げられる。

狂四郎は避けたが、姫をかばった勝俣は倒れた。
「じい!」と、貴世姫が叫ぶ。
虫の息の勝俣は狂四郎に「どうか、どうか姫を…、眠様」と言って倒れた。
「じい!」

蔵三に率いられた殺し屋たちが、姿を現す。
「貴様は薩摩の回し者だったのか」。
「殺すには惜しい男だが、あの世へ行ってもらおうか」と、蔵三が言う。
「あいにく、三途の川が川止めでな。行くに行けぬわ」。

「ぶっ殺せ!」
狂四郎が正宗を抜く。
切っ先が弧を描いて、上がっていく。
円月殺法。

狂四郎の刀が止まった時、近くにいた4人が襲い掛かってくる。
あっという間に、狂四郎は叩き斬る。
3人。
2人。

また2人。
一太刀で斬っていく。
狂四郎に向かって、左右から鎖が投げられた。

鎖は狂四郎に巻きつき、両手が広がった。
正面には、蔵三がいた。
蔵三が刀を抜く。
突進してきた。

だが狂四郎は、垂直に飛び上がった。
蔵三を交わすと、左右の男たちを斬り、返す刀で蔵三を斬った。
正宗を納めると、姫を見た。

顔にくっくりと一文字に赤い斬り跡をつけた貴世姫は、勝俣の遺体を前に座り込んでいた。
「その男は、バカなお前をかばって死んだ。目には見えぬが、その男はお前の影であったはずだ。影を失ったお前は1人で生きていかねばならぬ」。
呆然としていた貴世姫は、懐剣を手にした。
一瞬、姫は息を呑む。

狂四郎は去っていく。
ううっと貴世姫の声がして、姫が地面に伏せる。
狂四郎は振り返りもせず、去っていく。

貴世姫は、勝俣の背に寄り添うようにして自害して果てていた。
金谷宿を脱出した金八は相変わらずお蘭を口説いていたが、お蘭は機嫌が悪かった。
狂四郎は1人、舟で次の宿場に向かっていた。



これもまた、「新・仕置人」の「男狩無用」の元ねたかな?と思うような話でした。
「新・仕置人」では連れ込まれるのは、鉄ちゃんでした。
ここでは正八ならぬ、金八。
火野正平さんですね。

最初から狂四郎は、貴世姫にはきつい。
どうも嫌いな女性らしい。
いや、好きな人はいないでしょうが。
綺麗な姫なんですけどね。

ところが、狂四郎は貴世姫の真意を見抜いていた。
そうか、気の進まない将軍家との縁組っていうのは、姫にとってもつらいことなんだ。
だったら、向こうから嫌われるようにしよう。

しかし、そのうち、貴世姫の狂気は本物になってしまった。
実は最初から狂気を秘めていたのか。
いわゆる、シリアルキラーでしょうか。
人さえ殺さなかったら、狂四郎もあそこまできついことはしなかっただろうに。

狂四郎に向かって、わらわのしもべとなれ!は、怖ろしすぎる。
知らないって、怖いわねえ…。
金八はノコノコ乗ってしまったが、狂四郎は実はストイックなのだった。

相手は自分で選ぶ!
そんな口利くから、顔傷つけられちゃった…、って実はこれ、貴世姫の乱行を止める唯一の手段だった。
同時に、罪もない男性たちを自分の勝手で命を奪った貴世姫への報いだった。

西国の大身にとって敵の存在の狂四郎だが、勝俣は狂四郎の真意を知る。
口では「潰れたら楽しくなくなる」と言うが、狂四郎は実は藩が取り潰されるのを防いでくれているのだ。
そのためにも姫を止めようとしてくれたのだと。

狂四郎が姫の顔を傷つけたことで、縁組はなくなったも同然。
もう、狂気を装うことはしなくていい。
国で心安らかに暮らせる。

だが狂四郎への復讐に執着した貴世姫は、破滅する。
本当に大切な存在を失って、その喪失感に貴世姫はやっと気づく。
何度も何度も、チャンスはもらったはず。
そのたび、自分でそれを潰してきた。

気づいた貴世姫には、もう、乱行をする気力もなかった。
自分の愚かさに、姫は自ら命を絶つ。
ううむ、これ、表向きは病死とかなんだろうな。

止めもしない狂四郎。
貴世姫への報いか。
それとももう、貴世姫は生きる屍となるからか。

殺し屋の元締めは、山本昌平さん。
うひゃー、怖い宿屋の主人。
彼が出迎えてきたら、回れ右して帰っちゃう。
いやいや、実は人がとっても良い場合もあるぞ…。


つまらんことを言うな 「眠狂四郎 円月殺法」第10話

第10話、「無頼子連れ旅必殺剣 府中の巻」。
9話が、録画が見当たらなくて、飛ばしてすみません。
見たんですけどね。
山田五十鈴さんがゲスト。

火事ではぐれた母親と、盗賊に拾われ、再会した時は役人をあやめてしまい、死罪を待つ息子。
盗賊と離れて、一人で生きて行けとの忠告も届かず、盗賊たちを斬ってやるしかなかった狂四郎。
三味線の別れの音が悲しい、親子の別れの回でした。



海が近い茶店で、休みを取っていた狂四郎。
そこに老人に連れられた幼い少女が、やってきた。
「もうじき、母ちゃんとも合えるからな。うれしいか?」
少女は狂四郎にも、笑いかけた。

狂四郎の顔にも、うっすら微笑みかける。
そこに六部姿の数人の刺客が、襲い掛かる。
「眠狂四郎、覚悟!」

あわてて少女をかばって伏せた老人の背にも、刺客の刃が浴びせられた。
驚きと怒りで、狂四郎が振り向く。
「己ら、罪もない行きずりりの人を!」

「おじいちゃん、おじいちゃん!」
少女が、すがりつく。
全員を斬り捨てた狂四郎が、老人に駆け寄る

「しっかりしろ!思わぬ巻き添えにしてしまって、許してくれ!」
「お、おねげえで、ご、ごぜえます」。
「聞こう!」

「府中の彌勒町、万亀楼という女郎屋で、この子の母親が…。名はおすみ」。
「万亀楼のおすみだな」。
「こ、この子と、この金を」と言って、老人が懐から胴巻きを出す。

「み、身請けの金でごぜえます!」
「この金と、この子を届けてくれと言うのか」。
「おじいちゃん!」

「ちよ。お、おねげえでごぜえます」。
「おじいちゃん!」
「引き受けた。安心するがいい!」

「おじいちゃん!」
ちよが叫ぶ中、老人は息絶えてしまった。
「おじいちゃん、おじいちゃん」とすがりつき、ちよは泣いた。

「オヤジ」と、狂四郎は茶店のオヤジに声をかけた。
「はい」。
「この年寄りを葬ってやりたい。手を貸してくれ」。
「へ、へい」。

号泣するちよ。
海辺の近くに、石を墓標にした墓ができた。
線香の前で、ちよは手を合わせる。
狂四郎は茶店のオヤジに金を渡し、「六部たちの死骸は、いずれ仲間たちが引き取りに来るだろう。聞かれたら見たままを話すがいい」と言った。

そして、ちよに「確か、ちよといったな。そなたの母に会いに行こう」と声をかけた。
だがちよは狂四郎を見て、後ずさりしていく。
「母に会いたくはないのか」。
ちよは答えなかった。

しかし狂四郎が歩くと、ちよは離れて後をついていく。
狂四郎がいなくなると、茶店のオヤジの顔つきが変わった。
草むらに分け入ると、手足を縛られた本物の茶店のオヤジがうめいていた。

男は籠を手に取ると、手紙を小さなこよりにしたため、駕籠の中の鳩の足に結び付けて飛ばした。
街道を狂四郎と、その後ろを小さなちよがついていく。
狂四郎が足を止めて振り返ると、ちよが空を見ている。
ちよが指差した先には、鳩が飛んでいた。

鳩は薩摩の藩士・島本、森田、松浦の下へ飛んだ。
手紙を読んだ藩士は、眠狂四郎が府中に入ってくることを知った。
幼い女の子を伴い、彌勒町の万亀楼という女郎屋に来る。

何とか手を打とうと言った時、旅の坊主姿の男が現れた。
島本、森田、松浦のたちは「聞いていたな!」と言って、男に斬りかかった。
坊主は持っていた錫杖から、仕込み杖を抜いた。

それを見て「待て!」と一人が言った。
「貴殿か。居合いにかけては関八州に向かうものなしと言われた、暗闇の重兵衛とは」。
坊主姿の男は、新たな刺客だったのだ。

府中宿についた狂四郎はちよを連れて、万亀楼に向かった。
女郎たちが誘い、子供は預かるからと言う。
その一人に、この店におすみという女はいるかと狂四郎は尋ねた。
すると声をかけた女郎が、「おすみ?墨染めさんのことかい?墨染めさんならもういないよ」と言った。

「どうした?」
「身請けされちまったのさ。代わりに、あたいじゃどうだい?」
狂四郎は、ちよを見た。
万亀楼の中に入る。

楼主は、父親が百姓をしているのは知っていたが、墨染めに子供がいたとは知らなかったと言った。
「一足違いでございました。こんなこととわかっていたら、断りようもあったのでございますが」。
狂四郎は、身請けした客の身元を教えてくれと言った。

老人の遺髪を届け、それからちよの身の振り方もつけてやらなければならぬと狂四郎は言った。
おすみを身請けしたのは、鞠子の宿で麦とろの店を開いている、和助という男だった。
以前から、墨染めのところにあがっていたと言う。

山道を、おすみを乗せた駕籠が行く。
傍らには和助が付き添っていた。
潜んでいた藩士が「おい、麦とろ屋の和助が来たぞ」と言う。
そして「バカなやつだ。我らの手立てに利用されておるとも知らずに」と笑った。

駕籠がおすみを乗せて近づいてくる。
だが駕籠の中のおすみは、笑っていなかった。
和助が「駕籠屋さん止めておくれ」と言って、和助は重兵衛さまですか?と重兵衛たちに近づいてきた。

おすみを、預かった金で身請けしてきたと言った。
「これから、どうすればよろしいので?」
「何もせんでいい」。
「え?」

「お前の役目は、これで終わったと言うことだ」。
そう言うと、重兵衛は和助を殺してしまう。
重兵衛は、逃げ出した駕篭かきも斬った。
おすみはおびえ切って、駕籠に引きこもった。

そのおすみに、重兵衛が話しかけた。
「言うとおりにすれば、命はとらん。娘に会いたければ」。
「どうして、子供のことを?!」と、おすみは驚いた。
「娘の名前はちよ。年は?」と、重兵衛が聞いた。

「いつつでございます」。
「お前に会いに、府中の城下まで来ている。会いたいか?」
おすみの顔色が変わった。

「それはもう!3年前に別れたきりでございます。もう1日だって、ちよのことを忘れたことはございません。どうぞ、ひと目なりとも会わせてくださいませ!お願いいたします」。
「指図どおりにすると言うのだな」。
「はい、いたします。ちよに会わせてくれるのなら、たとえどんなことでもいたします」。
「よし、そのまま駕籠に乗っておれ」。

重兵衛は、女を鞠子の宿まで連れて行けと言った。
万亀楼を出た狂四郎は、ちよに「そなたの母は鞠子の宿にいるそうだ。これから夜道をかけて鞠子まで行くか」と聞いた。
ちよは、こっくりとうなづいた。

狂四郎の後を、ちよがついていく様子を薩摩の藩士が見ていた。
歩き始めた狂四郎だが、ちよがうずくまる。
「どうした?疲れたのか?」と言って、狂四郎がちよの額に手をやる。
「熱がある」。

狂四郎はちよを抱きかかえると、一軒の旅籠に入った。
「世話になる」。
それを見た藩士は自分は旅籠を見張る、といって一人を伝令に行かせた。
狂四郎は医者を呼んでほしいと、仲居に頼んだ。

やってきた医者はただの風邪だと言ってて、熱さえ下がれば案ずることはないと言う。
薬を渡し、暖かくして、ゆっくり休ませるように言うと帰っていく。
その頃、伝令は狂四郎が旅籠に止まったことを知らせる。

藩士は「襲うか?」と言ったが、狂四郎はいずれ鞠子に向かう。
その時襲えばよいと言って、引き上げた。
狂四郎は、ちよの頭の手ぬぐいを絞り、冷やし続けた。

その時、隣の部屋から「もし」と女の声がかかった。
声をかけた女はおしまといい、仲居から隣の部屋の子供の具合が悪いと聞いたので、様子を伺いに来たと言った。
「かわいい顔をして。だんなのお子さんですか?」

ちよを見たおしまは、そう聞いた。
「いいや」。
「だんな、何か私にお手伝いできることがありましたら、遠慮なくおっしゃってくださいまし」。

「そうか。では悪いがこの水を取り替えてきてくれ」。
「はいはい」。
狂四郎がおしまを、じっと見送る。

おしまが井戸で水を汲んでいると藩士が来て、「女、隣の浪人の様子はどうだ?」と聞いた。
連れの子供が熱を出しているから、その看病をしている。
熱が下がるまでは出発はできないだろうとおしまが言うと、藩士は礼を言い、自分のことは黙っているように言うと引き上げていった。
「あ、あの?」と、おしまが戸惑う。

おしまが桶に水を汲んで戻ってくる。
狂四郎は「すまん」と言った。
おしまは自分が子供は見ているから、狂四郎は休んでくれと言った。

「たいそう気が利くな」。
「察しがいいでしょ。あたしもお酒は好きなほうで」。
おしまは手ぬぐいを水に浸し、絞る。

ちよの顔を見ると「よく眠って。何の夢見てるんだろう」と言った。
狂四郎は酒を飲み、「地酒にしてはなかなかいい味だ」と言う。
「一杯付き合わんか」。
「いただきます」。

狂四郎に酒を注がれて、おしまは飲んだ。
おしまもまた、狂四郎に酒を注いだ。
狂四郎は、ちよの親のことを聞うたたおしまに、和助の話をした。
すると、おしまはその麦とろの店「ひさご屋」を知っていた。

この辺りは良く商いで行き来しているからと言うおしまに狂四郎は「何の商いだ?」と聞いた。
「まあ、いろいろと」。
しかし相手がひさごやの主人なら、ちよにとっても幸せだとおしまは言う。
ひさご屋の主人に妻はないしく、子供もないので、きっとちよを引き取ってくれる。

「そうなれば、何よりだが」。
「そうなるに決まってますよ。いえ、母親がそうせずにはおきませんよ。だって自分のお腹を痛めた子供じゃありませんか!わが子の顔を見たら、手放せるもんじゃありません!母親ってそういうものです!」
おしまの激しい口調に、狂四郎はおしまの顔を見る。

はっとしたおしまは、ごまかすように笑った。
そしてまた、ちよの手ぬぐいを替えた。
ちよの額に手をやると「だんな!この子、この子、熱が下がってます」と言う。
狂四郎もちよの額に手をやり、うなづいた。

その夜、ちよの傍らで目を閉じる狂四郎に「だんな?」「だんな」と、おしまが声をかける。
「だんな」。
返事がないので、おしまはそっと部屋に入ってくる。

そして狂四郎の持っていた、ちよの母親の身請けの金が入っている胴巻きに手を伸ばした。
重みを確かめるように持ち上げた時、ちよが「おかあちゃーん」と寝言を言った。
おしまは、はっとする。

自分の手を押さえると、おしまは胴巻きを元に戻した。
おしまが戻っていく。
すると、狂四郎が口を開いた。
「おしま」。

「お前には、子があるのではないか。私を酒に酔わせ、眠らせあの胴巻きを盗もうとした。だがこの子が夢うつつに母を慕うさまを見て、お前は盗むことができなくなった、違うか」。
「だんな…、おっしゃるとおりですよ。私には生きていたらちょうど、そのこと同じ年ぐらいの女の子がありました。でも…あたしは、その子をたった一人のわが子を自分で殺してしまったんです」。
おしまは語り始めた。

子供が3つになった年だった。
おしまは乳を飲ませ、添い寝をしていた。
昼間の疲れから、おしまがうつらうつらしてハッと目を覚ましたとき、子供は冷たくなっていた。

おしまが、窒息させてしまったのだ。
「だんなに子殺しの罪にさいなまれて生きていく母親の気持ち、おわかりになりますか?」と、おしまは涙声で訴えた。
「行き着く果ては、ごらんのとおり。女だてらの道中師。私、今でも時々、死んだ子の夢を見るんですよ。夢の中の子供、だんだん大きくなって」。

「ちょうど、この、ちよちゃんぐらいになって」。
おしまは泣き崩れた。
狂四郎は黙っていた。

翌朝早く、狂四郎とちよは旅籠を出た。
仲居が見送る中、ちよがにっこり笑って、狂四郎に手を伸ばした。
狂四郎もかすかに笑い、ちよと手をつないだ。

その様子を、薩摩の藩士が見ていた。
知らせを受け、藩士は麦とろ屋に行くものと、道中待ち受けるものの二手に分かれた。
待ち受ける男が言った。

昨日、仲間が5人でかかって、一人残らず斬られた。
尋常の手段では討てまい。
鉄砲で狙い打とう、砲術にはいささかの心得があると一人が言い、一人がうなづいた。

目を覚ましたおしまは「だんな」と言って、狂四郎たちがいた部屋のふすまを明けたが、誰もいなかった。
「黙って行っちゃうなんて、薄情な人」と、おしまはためいきをついた。
狂四郎はちよの手を握り、2人は街道を歩く。

物陰から、「来たぞ」と言って藩士が狙いをつける。
狂四郎が気配を察した。
「あ、お花だ!」と、ちよが道端に走った時だった。
「危ない!」

狂四郎が駆け寄る。
駆け寄った狂四郎は、肩を撃たれた。
狂四郎が倒れた。

「おじちゃん!」
ちよが叫ぶ。
刀を抜いて、2人が近づいてくる。

突然、起き上がった狂四郎は、2人を斬り捨てた。
「おじちゃーん!」
ちよが叫ぶ。
正宗を持つ狂四郎の手元に、血が流れてくる。

街道を行くおしまは駕籠屋に、鉄砲の音がしたといって急がせた。
「止めて!」と叫ぶ。
その先の道端に、2人の藩士の死体が転がっていた。
「だんなはどこへ…」。

水車小屋で、狂四郎は火を起こし、小刀を焼いていた。
ちよに「向こうを向いていなさい」と言うと、狂四郎は熱くなった刀で肩をえぐり、弾丸を取り出した。
狂四郎の顔がゆがむ。

ちよが振り向き、じっと見つめる。
弾丸は取り出した。
狂四郎が、肩を押さえる。
ちよが近づき、狂四郎の印籠を取って渡す。

狂四郎がうなづく。
印籠から狂四郎が薬を出すと、ちよが塗った。
「痛い?」
「いや、大丈夫だ」。

ちよが薬を包んでいた油紙を当て、狂四郎が手ぬぐいで傷口を縛ろうとした。
すると、ちよが手伝って縛る。
狂四郎が、うなづく。
「ありがとう」。

狂四郎が肩を押さえ、背後の柱に寄りかかる。
ちよが額に手をやり、近くの川の流れで手ぬぐいをぬらして絞った。
通りがかったおしまが、ちよを見つける。
ちよは狂四郎に夕べ、自分がしてもらったように額に手ぬぐいを乗せる。

その時、目を閉じていた狂四郎が「誰だ」と刀を手に起き上がる。
「だんな」。
おしまが現れる。

「お前か。よくわかったなここが」。
「探してたんですよ」。
おしまは水車小屋に入ってきた。

「そしたらおちよちゃ、、見かけたもんですから。怪我してるんですか?」
「ああ、鉄砲でやられた」。
おしまは息を呑んだ。

狂四郎はおしまに「おしま、この子を少しでも早く、母親に会わせてやりたいのだが、私はしばらく動くことができん。私の代わりに連れて行ってくれ」と頼んだ。
「いいですとも。でもだんな一人で大丈夫ですか」。
「手当ては済んだ。この子が手伝ってくれてな」。
「まあ、そうですか。賢かったのね」と、おしまはちよの頭をなでた。

狂四郎は、ちよの祖父から託された胴巻きと、遺髪の束を出した。
「これはおすみの父親が身請けするつもりで作った金と、遺髪だ。頼む」。
おしまが、声を詰まらせる。

「だんな。だんなは…。私が道中師だと、泥棒だと知ってて、こんな大金預けるんですか」。
おしまがうつむく。
「つまらんことを言うな。早く行け」。
おしまは顔をあげた。

「はい!おちよちゃんと一緒にきっとお届けします!」
おしまはちよを連れて出て行く。
ちよが、狂四郎を振り返る。

狂四郎が、わずかにうなづく。
2人は出て行った。
狂四郎は、目を閉じる。

おしまは、ちよを連れてひさご屋に着いた。
麦とろを作っている男を、おすみがそっと盗み見る。
奥のとが開き、藩士が男に「おい、まだか」と声をかけた。
男は首を横に振った。

「うん。ひょっとしたら安東たちが仕留めたか?」
客が食べ終わって、帰っていく。
そこに、おしまが入ってきた。

「おいでなさいまし」。
「あの、ここひさご屋さんだね?」
「へい、さようでございますが」と男が答える。

「ならいんですが、ご主人の顔が見えないもんだから」。
一瞬顔色を変えた男が「あいにくちょっと、仕入れに出ております」と答えた。
「あの、ここに、おすみさんて女の人、来てません?」

おすみが出てきた。
ちよをみて、驚きのあまり固まる。
「おちよ、おまえ…おちよじゃないかい?!」
「かあちゃん」。

「おちよ!お前、大きくなって」。
「かあちゃん!」
ちよがおすみに、抱きついて泣いた。
おすみが、ちよを抱きしめる。

「よく来てくれたね。良く来てくれた」。
見ていたおしまも涙ぐむ。
おしまは涙をぬぐうため、背を向けて座った。
すると、男が泣いているおすみを突付き、おしまのほうをあごで示した。

おすみは「どなたか存じませんが、ご親切にありがとうございました」と頭を下げた。
「いいえ、私はあるだんなに頼まれて、お使いにきただけなんですよ」。
おすみは、上がってくれと言った。

座敷に上がったおしまは胴巻きと遺髪を渡し、これを頼んだ浪人は鉄砲で撃たれて怪我をしたので、自分が代わりに来たと話した。
「そうでございましたか」。
おしまはおすみの父親に対して悔やみの言葉を言い、ちよに母親に「会えてうらやましい」と言った。

「おちよちゃん、良かったわね」。
「うん!」
「どうぞお幸せに、私これで失礼します」。

その時、錫杖の音が響いた。
男たちが入ってくる。
「女、眠狂四郎は怪我をしていると言ったな。やつは今、どこにいる」。
「あんたたち、誰なんだい!」

「さるお方の命を受けて、眠狂四郎を探しているものだ。狂四郎はどこだ」。
おしまが、そっぽを向く。
「言え!」
「お前が言わんと、この親子が死ぬことになる」。

重兵衛が錫杖から仕込み杖を抜き、親子の前にかざす。
「かあちゃーん!」
おすみとちよの、2人が抱き合う。

「どうする、女」。
おびえるちよを見ておしまは、「まさかねえ。やっと幸せをつかんだこの2人を、見殺しにはできませんよ」と吐き捨てた。
「狂四郎のいるところに、あないすると言うんだな」。
おしまは、うなづいた。

5人の藩士に囲まれ、最後尾に重兵衛がついて、おしまは水車小屋に向かった。
水車小屋では、目を閉じていた狂四郎が気配を察し、正宗を手にしていた。
小屋を前にしたおしまは、止まった。

重兵衛を振り返り、「あそこの水車小屋ですよ」と指差した。
途端におしまは走り出し「だんなーっ!」と叫んだ。
藩士が、おしまを背後から斬る。
おしまが倒れた。

藩士と麦とろの主人に化けた男が様子を伺い、水車小屋に入ろうとするが、すぐに出てくる。
中から狂四郎が現れた。
たちまち2人が斬られる。

狂四郎は倒れたおしまを見て、「おしま!」と叫んだ。
続く3人もあっという間に斬り伏せ、狂四郎はおしまに駆け寄る。
「おしま、しっかりしろ!」

おしまが目を開けた。
手を上げながら、「だんな、堪忍してくださいな。だんなの居場所を教えないと、おちよちゃんとおっかさんを殺すと言われたんで」と声を絞り出した。
狂四郎はうなづいた。
「わかっている」。

「だんな…、あたし、だんなのことを…」。
おしまが狂四郎を見つめて、目を閉じる。
「おしま!」
狂四郎が呼びかけても、おしまは動かなかった。

重兵衛を見た狂四郎が「この女を殺さねばならぬ、いわれはあるまい!」と言う。
「ふふふ」と、重兵衛が笑う。
「その傷ついた体で、わしと勝負しようと言うのか」。

片手で狂四郎は、正宗をの切っ先を下に向けた。
ゆっくりと刃が弧を描いていく。
それを目で追っていた重兵衛が、幻惑されたような表情になる。
重兵衛が、かけていた数珠を投げる。

狂四郎が払う。
数珠は、小川に落ちた。
狂四郎は片手で、重兵衛が斬りかかってきた刃を受けると、正宗を振り払う。

重兵衛が、錫杖に仕込み杖を納める。
納めて、振り返る。
そして倒れる。

街道の地蔵の前。
母親に手を引かれたちよが、狂四郎を見送る。
「ありがとうtございます。みんな、あなたさまのおかげです。本当になんとお礼を申し上げてよいか」と、おすみが頭を下げた。
狂四郎が、「たっしゃでな」とちよに言う。

ちよが前に進み出て、狂四郎を見つめる。
狂四郎がかすかに笑い、去っていく。
おじちゃーん!とちよが叫ぶ。

「おじちゃあああん!」
ちよの声がこだまする。
だが、狂四郎は振り向かない。
印籠がゆれている。

「おじちゃあーん!」
狂四郎の姿は遠ざかっていった。
すすきの穂が揺れていた。




無頼の主人公と、子供の組み合わせは名作になります。
重兵衛は、御木本伸介さん。
関八州では並ぶものがない居合いの達人の割りに、あっさりばっさり。
いや、狂四郎が強すぎるのでしょう。

これは第1話と、ちょっと似たシチュエーションです。
狂四郎を狙った刺客により、罪もない人が巻き添えで命を落とす。
その人には、子供の連れがいた。

子供の親を探してやらなければならない。
最初は子供は狂四郎に心を閉ざすが、その暖かさを理解するとなつくようになる。
1話では無残に子供まで殺されてしまいましたが、これは親子ともども助かって良かった。

わずかだけど、微笑を交わしたちよの祖父を巻き添えにした心の痛み。
犠牲になった老人へのすまなさが、狂四郎の全身から出ます。
老人を少しでも安心させてやろうという狂四郎の気持ちが、「聞こう!」「引き受けた。安心するがいい!」という言葉に出てます。

最初はおびえ、反感を持っていたちよだけど、看病をする狂四郎に心を開く。
さらに泥棒のおしまも、ちよに自分の死んだ子供を重ねて更正する。
狂四郎を狙えば避けられると見たのか、ちよを狙う刺客。
ちよを狙えば、必ず狂四郎はちよをかばうから。

この卑怯なやり方に、狂四郎も死んだ振りで応戦。
一人で治療する狂四郎は、ちよに血を見せまいと「向こうを向いてなさい」と言う。
でももう、ずいぶん血を見ちゃってる。

そこでちよが、狂四郎の手当てを手伝うところがけなげ。
狂四郎も、素直に手伝ってもらう。
愛しさがにじみ出てくる。

そこに追ってきたおしまに、狂四郎はお金を託す。
自分が泥棒と知っていて、大金を託されたおしまとのやり取りが泣かせます。
後悔にさいなまれる、おしま。

自分が盗もうとしたのを、知っているのに…。
自分なんか信用していいのかと思う、おしま。
それに対して「つまらんことを言うな」と言う、狂四郎が良かった。
こういうのが、時代劇の良さだなあと思います。

しかたなく、薩摩の刺客を案内してきたおしまが狂四郎に危機を知らせ、斬られる。
その時、詫びるおしまにうなづき、「わかっている」と言ってやる狂四郎がまた、いい。
「だんな…、あたし、だんなのことを…」と、思慕の念を伝えるおしま。
それは好きになってしまうでしょう。

狂四郎の「この女を殺さねばならぬ、いわれはあるまい!」に、怒りが感じられる。
またしても、罪もない人を手にかけた刺客に怒りの円月殺法。
片手でも強い。

決して朗らかに笑わず、わずかに微笑むだけの狂四郎。
だからこそ、その笑顔が人をとろけさせる。
これ、ちよは忘れないですね。
大きくなっても、狂四郎のことを語るでしょうね。

自由になったおすみ。
薩摩は結局、おすみを自由にしてやって、祖父のお金は残っちゃったね。
去っていく狂四郎に、「おじちゃーん」と叫ぶちよの様子がジーンと来る。
でももう、狂四郎は二度と振り返らない。

2人は自分とはもう、関わってはいけない、平和に暮らすべき人たちだから。
ちよとの別れに振り返らない狂四郎。
おしまは哀しかったけれど、最後に救われたのだと信じたい。

そして、おすみとちよの親子は、麦とろ屋で幸せに暮らすのだと思う。
切なさと、暖かさのラスト。
好きなエピソードの回です。


情けに振り向けば危険に陥るのみ 「眠狂四郎 円月殺法」第8話

第8話「闇に光る女吹き針無想剣 沼津の巻」

にわか雨で狂四郎は、お堂の下で雨宿りをした。
同じお堂の下で雨宿りをする、足袋職人に話しかけられた。
気の良さそうな男であった。

夜半過ぎ、狂四郎は沼津の宿に差し掛かった時、一軒の商家が盗賊に襲われて助けを求めているのに遭遇した。
中では女将が、盗賊たちに組み伏せられていた。
狂四郎が盗賊を追い払い、女将の縄を切って、猿轡をはずした。

猿轡から現れた女将の口に、針が含まれていた。
女将は狂四郎のまぶたに向かって、針を吹き付けた。
両まぶたに針が2本、刺さった。

先ほど助けを求めた使用人の男女が、刀を抜いて襲い掛かる。
男の槍を叩き切り、女の刃を交わし、上から下に無想正宗を振り下ろす。
女の着物が真っ二つに斬られ、肌があらわになった女は胸を隠して逃げた。

男が持っていた槍を正宗がはじくと、女将の顔すれすれのところで、柱に刺さった。
女将の顔色が青くなる。
狂四郎がまぶたの針を抜いて、うずくまると、薩摩の刺客が現れた。

吹き針で目を射られていてもなお、剣勢は衰えない…。
たちまち2人が斬られると、狂四郎は正宗を行灯に突き刺し、灯りを消した。
逃げながら1人を斬る。
暗闇の中、刺客は狂四郎を見失った。

夜の街に、お蘭が歩いていく。
薩摩の刺客が狂四郎を追うのを見たお蘭は、漁師の網が下がっている縄を切り、刺客の行く手を阻んだ。
橋下の舟の筵の下に狂四郎を匿い、お蘭は舟を操る。

沼津の宿・駿河屋の主人の仁兵衛が、先ほどの女将に化けた女性・千佐に約束の小判を出した。
千佐がすぐには小判を受け取らないので、仁兵衛が「どうしました?」と聞く。
「怖ろしい男だと…」。
先ほど、顔のすぐ横に槍が突き刺さったのを思い出したのか、千佐の顔が青い。

「吹き針に目を射られても、少しもたじろがずに、まるで目が見えるような鋭い剣。侍衆があの男を眠狂四郎と呼んでおりましたが、いったいあの男は何者なのでございましょう?」
「余計な詮索はせぬことでございますな。約束どおり、わたくしはあなたの吹き針の特技を3両で利用させていただく。その交換条件として、私はご主人源之助様のご仕官の口ぞえをする。それが千佐さんとの商取引でございましたな」。
仁兵衛は、そう言って、仕官の手は打ってあると言った。
「商人が商取引に偽りを申したら、潰れてしまいます。心配なさいますな」。

「なにとぞ、よろしくお願いいたします」。
千佐は、頭を下げて出て行く。
隣の部屋から、蔵人が入ってくる。
「女は怖ろしいのう。虫も殺さぬ優しい顔をしていて吹き針の特技とは。一寸の針が、槍よりも怖ろしいと言われる武器だ」。

その時、薩摩隠密の弥十郎が狂四郎を見失い、2人の男女の隠密が追っていると告げた。
吹き針に両目を刺されたので、遠くには行っていまい。
しかし、この状態でまだ逃げられるとは…。

だが眠狂四郎といえど、鬼神ではない。
今、包み込んで討てば討てるだろう。
その頃、お蘭は狂四郎の手を引いて、逃げていた。

千佐は家に戻る。
家には先ほど、雨宿りの時に狂四郎と言葉を交わした男がいた。
狂四郎と雨宿りした男が、千佐の夫だったのだ。

男の名は倉本源之助といい、元は奥義まで修めた剣の使い手であったが、今は足袋職人として暮らしている。
そこまで極めた男が足袋作りなどしているのが、千佐には悔しくてたまらない。
しかし源之助は自ら、3年前に武士を捨てた。

その話は二度とするなと言う源之助に千佐は、「でも子供には侍の家を継がせとうございます」と言う。
千佐に子供ができたのだ。
これには源之助も「めでたい。でかしたぞ」と大喜びした。

お蘭はどこかの小屋で、狂四郎の目を手当てする。
「狂四郎のだんなともあろうお方が、吹き針なんかで目をやられるとはね…」。
「場所に死角があるように、人間にも盲点がある。それが心の隙というものだ」。
「おや、だんなにも心の隙なんてもんがあるんですか」。

お蘭がそう言った時、狂四郎が戸に向かって小刀を投げた。
戸が倒れ、黒装束の忍びが倒れる。
お蘭を突き飛ばし、自らは身をよけると手裏剣が刺さる。

「お蘭、火を消せ」。
言うとおりにお蘭が火を消すと、あたりは闇になった。
狂四郎が手探りで立ち上がり、進む。
3人の刺客がやってくるが、狂四郎は一刀で斬り捨てた。

続いて2人が戸口で待ち受けているが、これも斬った。
くの一が離れたところから手裏剣を構えていたが、あきらめて去る。
「心配するな。暗闇ならばこちらに七分の利がある」。
だがお蘭は「ここも危なくなってきたねえ」とつぶやく。

お蘭は狂四郎を医師の玄庵に見せるが、玄庵は灯りを目の前にかざしてこれがわかるか聞く。
幸いにも傷は、眼球まで達していなかった。
だがだいぶ腫れているので、それが引くまではまぶたは開けられないだろう。
お蘭が玄庵にそう言われて戸を明けると、外はすっかり明るくなっていた。

狂四郎が見つからず、追っ手がすべて斬られたので、蔵人はいらだっていた。
仁兵衛の命令で、再び追っ手がかかる。
「今のうちなのだ。やつを討つのは…、今のうちなのだ!」
蔵人があせる。

お蘭が目を包帯に覆われた狂四郎に、薬を持ってくる。
「毒が入っているのではないだろうな」。
「だんなったら!」

「お蘭とて、油断はならん」。
「ええ、ええ、毒もしびれ薬もたんと入ってますともさ」。
お蘭が茶碗を狂四郎の手に持たせると、狂四郎が薬を飲む。

「でもね、だんな。あたしゃ何も好き好んで、だんなの面倒を見ているわけじゃないんですよ」。
「誰も面倒を見てくれとは言っていない」。
「おや、言ってくれるじゃございませんか。もっともだんなには人の親切なんかわからないでしょうけどね」。

「情けに振り向けば、危険に陥るのみだ。何も背中の死神を喜ばすことはあるまい」。
「そこまで言われちゃ腹立ちも足踏みですよ」と、お蘭は笑う。
その時、玄関で「ごめんください、玄庵先生は…」と言う声が聞こえた。

お蘭が応対に出ると、そこには千佐がいた。
玄庵が留守だと知って帰る千佐だが、窓から狂四郎の姿を見て顔色を変える。
お蘭はその様子を見逃さなかった。
狂四郎に吹き針の相手が女だったと言うことを確認し、千佐の後をつける。

千佐の家では源之助が道具を探して壷に行き当たり、小判を発見した。
まさか…。
千佐が吹き針の芸を披露して、座敷で拍手喝さいを浴びている様子が思い出される。

その時、千佐が帰ってくる。
源之助は千佐に、何か隠し事があるのではないかと聞いた。
この大金は、駿河屋に言われて、吹き針を座敷の座興として見せたのではないか。

だが千佐は駿河屋が足袋の前金と、問屋筋への卸業者を辞めて、一手に足袋を引き受ける仕度金にくれたと嘘を言う。
「私はまた、お前が吹き針を…」。
「それはあの時、一度きりでございます!」と千佐が叫ぶ。

源之助が病に倒れた時、千佐は駿河屋に頼んで吹き針を使って見せたのだ。
言いかけた千佐をつわりが襲い、源之助はそこで千佐を問い詰めるのをやめた。
「すまん。疑ったりして。私はのう、千佐。その日その日をお前と2人で静かに暮らせればそれでいいと思っているのだ。決して、多くを望んではいない。そうか、これからは2人ではなく、3人だったな」。

玄庵医師が、狂四郎の包帯を取ろうとしていた。
腫れが引いていればいいのだが、と言った時、狂四郎が「迎えが来たようだ」と立ち上がる。
「世話になった」。

玄庵に治療代を渡すと、「こんなに、たくさん?!」と玄庵が驚く。
「私にはもう、必要なくなるかもしれん。とっておいてもらおう」。
「しかし!まだ目が!」

狂四郎は包帯をしたまま、外に出て行く。
無想正宗を、帯同する。
玄関を出たところで、無想正宗をいきなり抜き、背後に振る。
「ぐうっ」と声がして、黒装束のくの一が落ちてくる。

倒れたくの一を背に、狂四郎が前に進む。
行く手の玄関を出た道に、3人の刺客が現れる。
奥から出てきた玄庵がくの一の死体を見て、「おお」と驚く。

狂四郎は走り、医師の家の前から消えた。
道の途中で、塀を背にして狂四郎は立ち止まり、包帯を取った。
向こうからも、刺客がやってくる。
目を開いた狂四郎の視界はまだぼんやりと、白くぼやけてはいるが人の姿が確認できた。

塀を背に狂四郎は、手探りで進む。
ぼんやりとした視界の中で、白羽の刃を手に刺客が襲い掛かってくるのが見えた。
あっという間に1人、2人…、5人まで斬られた。

狂四郎は手探りながら、前に進む。
お蘭が帰ってきて、くの一の死体を見て、「だんな!」と叫びながら家に入る。
玄庵から大勢の人間がいきなり襲ってきたと聞いてお蘭は、狂四郎の名を呼びながら探しに行く。

夜になっていた。
狂四郎が居酒屋で、酒を飲んでいた。
その居酒屋に、源之助が来た。
店のオヤジに子供ができたことを報告した源之助は、狂四郎に気づいた。

雨宿りの時に会った武士だとわかって、源之助は話しかけてくるが、狂四郎の目の異変にも気づいた。
狂四郎は、虫に刺されただけだと言う。
「災難でしたな」。
源之助が帰った後、店のオヤジが源之助がうれしそうだ、あんなに夫婦仲が良いのだからと言うのを狂四郎は聞いていた。

弥十郎は、蔵人に叱咤されていた。
だが弥十郎は、狂四郎の目が見えるようになっていると言った。
しかし何とかして、この沼津で狂四郎を討っておきたい。

弥十郎は「もう一度吹き針の女を差し向けたら」と言うが、蔵人は「おろかなことだ。眠狂四郎、二度と同じ轍は踏まぬ!」と怒る。
そこで仁兵衛が千佐の夫の源之助が、心形刀流の使い手だと教えた。
心形刀流は、心の剣である。

円月殺法もまた、心の剣である。
心と心をぶつける。
狂四郎を心形刀流なら敗れるかもしれないと、蔵人は考えた。

家に戻った源之助は、居酒屋で目を腫らしていた武士に出会ったと話す。
千佐の顔色が変わる。
源之助は、千佐の様子に気がついた。

鋭い目で千佐を見て、駿河屋と縁を切ったほうが良いと言った。
だが千佐は、今、駿河屋と手を切れば、仕官がかなわなくなると反論した。
蔵元家は、勘定方150石の由緒ある家柄。
いつか、きっと再び源之助が仕官することを千佐はひたすら思い続けてきた。

それを聞いた源之助は、言った。
「私はのう、千佐。つくづく侍の世界がバカらしくなったんだ。常に上司の機嫌を伺い、同僚といえば微笑の裏に針をもつごとし。すきあらば仲間を蹴落として出世をと、あることないことの告げ口。おまけに二言目には命をとして殿に忠義だ」。
そして源之助は、3年前、勘定方に出入り商人との不正事件があったことを語る。

だがそれで罰せられたのは、当の本人の上司ではなく、平役の源之助だった。
「そんなことが平気でまかり通る世界に、ほとほと愛想が尽きた」。
「侍を捨てて、本当に芯から幸せだとおっしゃるのですか」。

「今の私には自由がある。誰にも拘束されず、この命は私自身が握っているんだ。侍になることだけがすべてではあるまい」。
「この世のなかにしっかりと生きていくためには、誰にも頼らず、己の力で、己の腕で大地に立たねばならんのだ。それが本当の生き方だと思う」。
だが千佐は言う。

「このような貧しさに耐えるだけの生活が、本当の人間の生き方だと申されるのですか。病気になっても薬代もなく、そんなみじめな暮らしをすることが人間の生き方だと言うのですか」。
「生まれての町人暮らしならば、何も申しません。でもあなたは侍です。もしご仕官なされば、あなたの剣法とご器量をもってすれば、立派なご奉公ができるに違いありません。それをあなたは、捨てると申されるのですか」。

「わたくしには納得が行きません。いいえ、耐えられません」。
その時、表の戸が叩かれる。
叩いた者は、駿河屋の使いと名乗った。

「ほっとけ!」」と源之助は言うが、千佐は立ち上がり、戸を開けた。
だが辺りを見回しても、誰もいない。
千佐が不審に思った時、千佐の口がふさがれ、当て身をされて連れ去られる。

「千佐?」と表に出た源之助の前に、手紙が着いた手裏剣が刺さる。
手紙には「千差は預かった。命を助けたかったら受け取りに参れ」と書いてあった。
差出人は、駿河屋仁兵衛だった。

お蘭が、宿屋にやってくる。
向かいの部屋が戸を開けると、狂四郎がいるのが見えた。
「だんな!」

お蘭が叫び、目の具合を心配する。
そしてお蘭は玄庵のところに来た千佐が吹き針の女で、駿河屋仁兵衛が使った女だと教える。
駿河屋は薩摩の隠れ宿。

この沼津中が敵ばかりだと言うと、狂四郎は「いまさら惜しい命でもない」と言った。
お蘭は絶句する。
「人がこんなに心配しているのに!憎たらしい!」

駿河屋はやってきた源之助に、狂四郎を討つのに、剣の腕を借りたいという。
「断ったら?_」
すると駿河屋は、千佐を連れてきた。

千佐に、四方八方から刃が突き出される。
源之助は、うなづくしかなかった。
「そうですか。それは良かった」。

翌朝、お蘭が向かいの部屋の狂四郎に声をかけると、狂四郎はもういなかった。
女中に聞くともう発ったと言われる。
狂四郎が一人、竹林の中を歩く。
まだ目は閉じている。

行く手に、源之助が現れる。
「やはりおぬしだったか」と源之助が言い、自分の名を名乗る。
「お手前とは縁も所縁もない。まして恨みなどない。だがおぬしを斬らねばならぬ」。
「侍を捨てた男が、なにゆえ刀を手にした。おろかなことだ」。

狂四郎は、そのまま歩く。
源之助は刀を抜く。
「何も好んで、命を捨てることはあるまい」。
「妻の命を救うために、おぬしを斬らねばならん!」と源之助が叫ぶ。

千佐を連れた弥十郎たちが近くで、見ている。
「眠どの!参るがいいか!」
狂四郎も源之助の刀をひらりとかわし、正宗を抜く。

蔵人たちも近くで、見ている。
狂四郎が、うっすらと目を開ける。
ぼんやりとした視界に、刀を構えた源之助が見える。

狂四郎は、再び目を閉じる。
大きく手を振りかざし、刃を下ろす。
刀の先が、狂四郎の足元に向く。

つま先で、刀が裏返る。
源之助もまた、同じように刀を下を向ける。
狂四郎の正宗が、弧を描いていく。

源之助は刀を、上に上げていく。
千佐も息を呑んで、見守っている。
狂四郎の動きが止まった。

源之助が斬り込んでくる。
2人は斬りあった。
狂四郎が源之助の刀を、交わす。
次に狂四郎が正宗を横に払った時、源之助の腕から血が流れた。

源之助が、刀を落とす。
千佐が「あっ」と言う。
仁兵衛と蔵人が、うなづいて去る。

「これで二度と刀を握ることはできまい。薩摩のご一党、この男、もはやおぬしたちの役にはたたん。妻女を人質に取っておく必要はなくなったはずだ。離してやったらどうだ」。
「あなた!」
千佐が、駆けていく。

その時、千佐の動きが止まった。
千佐が倒れ、源之助が斬られる。
続いて、刺客たちが狂四郎に向かってくる。

弥十郎が、狂四郎に斬りかかってくる。
狂四郎が弥十郎を斬り、倒れた。
千佐と源之助の2人は、並んで倒れていた。
うっすらと開けた目で、狂四郎は2人を見た。

狂四郎は去っていく。
そして、橋を渡っていく。
向かいから、巡礼がやってくる。

巡礼はすれ違いざま、狂四郎に向かって刃を抜いた。
狂四郎が振り向きもせず、斬る。
仁兵衛だった。

「眠…、狂四郎…!」
それだけ言うと、仁兵衛は倒れた。
顔を狂四郎に向け、仁兵衛は恨みの形相で息絶えた。
狂四郎は正宗を納めると、静々と歩いていく。



千佐は、岡まゆみさん。
仁兵衛は、田口計さん。
源之助は、原口剛さんです。

冒頭から、感じの良い源之助。
次には加勢した狂四郎が、目を射られる。
ふっつり、まぶたに刺さった針の映像が、生理的に怖い。

これでも敵を撃退し、千佐の横を狙って刃物を刺す狂四郎、強すぎ。
鬼神じゃないって言うけど、鬼神ですよ。
まぶただけで傷が済んでいるというのも、反射神経の良さか。
千佐の攻撃は、そこまで強力じゃなかったということか。

その後も刺客が襲うが、敵ではない。
蔵人が今やらなくてはできないと言うが、それは正解。
直後も、玄庵のところで襲撃するのも、全部失敗。
あれだけのハンディをもらって討てないんだから、討てないでしょう。

千佐の、最初から町人なら平気だが、という言葉。
源之助の立派な姿を知っている千佐には、今の姿が屈辱的でしかないのだな。
どうしても、武家のプライドが捨てられない。
でも狂四郎に話しかけた様子からしても、源之助は今の生活が楽しい。

確かに病気になって医者に見せる金もないというのは、困る。
武家の嫌な部分を直接体験している源之助と、今の生活の困る部分を直接体験している千佐。
どっちの言い分もわかる。
間違っていないと思う。

だからこそこれは、埋められない溝。
この2人の会話って、現代にも通じる会話だなあと思う。
そして千佐の武士復帰への執念が、悲劇を呼んでしまう。

狂四郎の「場所に死角があるように人間にも盲点がある。それが心の隙というものだ」と言う言葉は、ああいう弱者がやられそうなシチュエーションに自分は弱いと自覚している言葉。
「情けに振り向けば、危険に陥るのみだ」と言う言葉は、そういうのを放置できない自分の甘さ、隙を自覚して自嘲し、戒めている言葉。
「何も背中の死神を喜ばすことはあるまい」という言葉には、自分に関わったために死ぬことになった人々を思い出した痛みが感じられる。

お蘭は憎たらしいと思いながらも、絶対放置できない。
むしろ、狂四郎がおとなしく自分の目の届く範囲にいてくれてうれしそう。
でも狂四郎はお蘭も死なせたくなくて、冷たくしているのだと思う…。

玄庵のところで、表に刺客が来たのを気配で察知する狂四郎。
お金をたくさん置いて「自分には必要なくなるかも」などと言うことは、今回はかなり覚悟していたんですね。
帰ってきたお蘭が血相を変えて探すも、その後は描かれていない。
しかし夜になって居酒屋で酒を飲んでいるところを見ると、撃退し、相手をまいてきたんですね。

狂四郎が「侍を捨てた男が、なにゆえ刀を手にした。おろかなことだ」と言うのは、居酒屋での話から子供ができたのを知ったから。
そして捕らえられた千佐を見て、自分を襲った女が源之助の妻であることも、子供がいるのもわかった。
だから狂四郎は、源之助を斬らなかった。

二度と刀を握れなくなれば、彼の剣を目当ての者が付きまとうこともないし、千佐の執念も終わる。
ところが!
それが仇となって、彼らは斬り捨てられてしまう。
狂四郎の目は、立会いを終えて、橋の上でやっと開いている。

向こうから来る巡礼を装った仁兵衛を、振り向きもせず斬り捨てている。
倒れて、狂四郎の方を悔しそうに見る仁兵衛。
だが、狂四郎は最初から最後まで歯牙にもかけていない。
しかし、千佐の中には子供がいると言うのに、容赦ない展開です。