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ととさん、お冬は幸せですよ 「眠狂四郎 円月殺法」第14話

第14話、「津軽恨み節孤愁剣 天竜川の巻」。
この前、田村正和さんが「眠狂四郎ファイナル」をやっていました。
片岡さんの狂四郎を思い出して、見たくなりました。


貧しい身なりの三味線引きの少女・お冬が、挨拶もなしに街道で稼いだと2人のやくざ者に絡まれていた。
少女は突き飛ばされ、弟分が三味線を叩き壊そうとしていた。
兄貴分が少女の年齢を聞き、金さえ出せば勘弁してやると言って財布を取り上げたが財布には小銭しか入っていなかった。

「これじゃ噺にならねえぜ、兄貴」。
「しかたねえな」。
それではお冬の体で払ってもらおうと、2人が少女を押さえつけた時だった。

1人の袖に向かって、編み笠が投げられた。
笠が当たって男が振り向くと、藪の向こうから黒い着流しの狂四郎が現れた。
「てめえ!」

2人は襲い掛かってきたが、狂四郎は弟分の腕を取ると、グキリと音を立てて折った。
「ああっ、折れたあああ!」
悲鳴を聞いて兄貴分は狂四郎の背後から斬ろうとしたが、狂四郎は振り向きもせず、背後に向かって村正を振った。
兄貴分の帯が着られ、着物がはだけ、お冬から取った財布も落ちた。

悲鳴を上げる弟分を連れて、兄貴分は逃げていく。
あとには、座り込んだお冬が残っていた。
狂四郎はお冬に向かって財布を投げ、笠を拾うと立ち去ろうとした。

だがお冬は周りをキョロキョロと見渡し、「三味線は?」と言った。
「かかさんの三味線」。
お冬は必死に地面をはいずり、三味線を探す。

その様子に、狂四郎が動きを止める。
お冬が目をこらす。
白くぼやけたお冬の視界に黒い着流しの狂四郎が映った。
狂四郎は三味線を拾うと、お冬の方に歩いてきた。

お冬の手に、狂四郎はしっかり、三味線を握らせる。
「ありがとうございます。ありがとうございます!」
お冬は、三味線を抱きしめた。

「目が不自由なようだが」。
「はい」。
「気をつけて行くがいい」。

去っていく狂四郎にお冬は待って、お待ちください!お武家さんはどこからおいでになったんですか?!」と叫んだ。
「江戸だ」。
「江戸から。もしやどこぞで、青木俊介という名をお聞きになったことは?」
「知らん」。

「そうですか…。失礼なこと聞いて、すみません」。
「その男を探しているのか」。
「はい。…あたしの、ととさんなんです」。
狂四郎は哀しそうな少女をちらりと、見下ろした。

浜松は狂四郎所縁の、水野の越前の城下だ。
茶店で、薩摩の3人の武士が、浜松に着く前に狂四郎を始末する手立てを相談していた。
それを偶然、居合わせた金八が聞き耳を立てたが、金八の団子を目当てに寄ってきた子犬に気を取られた。
だが団子をやっても、子犬は金八から離れない。

金八が子犬を抱き上げた時、3人の姿はなかった。
「お前のおかげで肝心なとこ聞き漏らしちゃったじゃねえか」と金八は言ったが、子犬は金八の腕の中で眠っていた。
「あら、もう寝てやんの。後つけなきゃしょうがねえ」。
金八は3人の後を追い始めた。

降り続くひどい雨。
雨宿りしている屋根の下、お冬が三味線を弾き、歌っていた。
居合わせた4人のうち、夫婦者の妻が「いい歌だがなんだか悲しい」と言った。
「聞きなれない歌だが、どこの歌だろうね?」

夫がそう言うと、旅の僧侶が「津軽かもしれんな」と言った。
「津軽?あの奥州の津軽ですか?」と行商人が聞く。
僧侶は「自分は若い頃、修行で盛岡まで行ったが、盛岡でさえ江戸から百三十里。津軽はまだもっと、北の果てだ」と言う。

歌い終わったお冬に、雨宿りの一人が「お前さん、津軽から出てきたのかい?」とたずねた。
「はい」。
「女の身で、一人でかい?」

「ああ、やみそうにもないな」と僧侶がつぶやいた。
「困りましたね、お前さん、どうしましょう」と妻が言う。
すると行商人が、この先を少しきたに行った天竜川のほとりに、昔の池田塾の後がある」と教えた。

もっとも今は寂れてしまって、めったに旅人は寄り付かない。
しかしつぶれかけたような旅籠が、一軒だけある。
他には、天竜の上流から来る山男相手の飲み屋が一軒。
この雨がやまないと、舟渡しがどうにもならないので、夫婦者はそこに行くことにした。

天竜川代官所の前には、金八もいた。
薩摩の3人は、代官所に入ったのだ。
天竜川の代官に、薩摩の3人が川止めを頼んでいた。

「この程度の雨で本来なら、川止めは必要ないのだが」と代官は言った。
揉め事は困ると言う代官に薩摩の3人は、代官が天竜川上流の御用材を密かに横流ししていることを知っていると話した。
それが狂四郎の耳に入れば、狂四郎は水野側の人間だ。

ここの勘定奉行は、反・水野だ。
とすれば、水野によって代官も無事ではすまないだろう。
川止めすれば、狂四郎は旧池田宿に来る。
そこにしばらく足止めしていれば、討手もやってくるだろう。

旧池田宿の旅籠、立花屋は天竜川の山男たちであふれていた。
一人の男がお冬の三味線を「やめろ!辛気臭い!」と怒鳴った。
でも自分はこんなものしか弾けないと言うお冬に、男はこっち来いと言うと乱暴にお冬を引き寄せた。

怖がるお冬に、自分の女になればかわいがってやると男は組み伏せようとした。
その男の顔に水がかかった。
「ああっ、すんません!」と金八の声がする。

それは水ではなく、金八が抱いた子犬の小用だった。
怒り狂った男は金八に斬りかかってきたが、金八はうまく避ける。
座敷でしりもちをついた男の前に、刀が突き出される。

振り向いた奥の座敷で、女に酌をされている男は、死神主膳と呼ばれる武士だった。
主膳とわかると男は、小さくなった。
「こ、これはだんな」。

主膳はお冬に、何か弾けと命じた。
何が良いかお冬が聞くと、主膳はあいや節はできるかと言った。
お冬は主膳があいや節を知っているとわかると、主膳の生国と名前を尋ねた。
だが主膳は、生国や名前は忘れたと言う。

お冬はしょんぼりとして、あいや節を弾き始めた。
あいや節を弾き、歌い始めたお冬を、金八がじっと見つめる。
金八に酒、子犬に飯が来たところで、山男の一人が近づいてくる。

「後ろを見な」。
金八が振り向くと、さっきの山男がドスを構え、「さっきの礼がしてえ。表に出ろ!」と言った。
山男たちは金八を、表に連れ出した。

表に出ると金八は、山男を突き飛ばして逃げようとした。
追い詰められ金八がドスを突きつけられた時、向こうから黒い着流しの狂四郎が歩いてきた。
「だんな!」

金八が走り寄ると、男たちは狂四郎に「あの野郎の仲間か!」と襲い掛かってきた。
幸四郎にたちまち弾き飛ばされ、男たちがかっとなった。
「どうしたんだね?」
その時、立花屋の主人・市兵衛がやってきて、「酒が飲みたかったら飲ませてやるから、帰れ」と言った。

翌朝、金八は子犬と遊んでいたが、足止めされている夫婦者は退屈していた。
「ねえ、だんな。あれっぽっちの雨で舟止めなんておかしいよね?」
「別に急ぐ旅でもない」。

表からは、お冬の弾く三味線の音が聞こえてきた。
お冬は一点を見つめ、ひたすら弾いていた。
主膳に酌をしていた女が、主膳に向かって「たいそう気を引かれていたようだけど、あんた津軽の出なの?」と聞いた。
「昔のことは聞くな」。

その時、市兵衛が「先生。おいでですか?」と言って戸を開けた。
表では夫婦者が、材木を前にひらりと身軽に駆け寄っていた。
材木は、密かに切り出したご用材だった。

これを目付けに報告しようと夫婦者が出て行こうとした時、夕べの山男たちが現れた。
はじめからこの夫婦者は隠密だと、にらんでいたのだ。
だが男と女は、あっという間に4人を斬り捨てた。

逃げようとした時、市兵衛が主膳を連れて現れる。
「行くぞ!」
男の隠密がそう言うと、女の隠密が宙を飛んだ。
だが2人は、主膳に斬り捨てられてしまった。

2人を斬り捨てて戻ってきた主膳の前に、お冬が現れた。
「お願いでございます。生国とお名前をお聞かせください」。
「なぜだ。なぜそう、しつこく聞く」。
「ととさんを探しているんです」。

「父親の名前は、なんという」。
「元、津軽藩士で青木俊介と言います」。
主膳の顔色が変わった。

「あの!もしやご存知なのでは!」
「知らん!」
去ろうとした主膳にお冬がすがりつき、「腕を見せてください!」と叫んだ。
「何をする」。

お冬は突き飛ばされ、倒れた。
起き上がろうとしたが、起き上がれない。
背後で狂四郎が、三味線を拾ってきた。

お冬は狂四郎の持っていた薬を飲んで、座敷に寝かされていた。
金八が介抱し、お冬は起き上がった。
「おとっちゃん探して、津軽から来たんだって?」
金八の問いにお冬は「はい」と答えた。

「俺もね、ガキの時分から、親に縁がねえんだ。おとっつあんいなくなったの、いくつの時?」
「いつつです」。
「いつつか。じゃあ、顔も覚えてねえな」。
「ええ。青木俊介という名前だけが頼りなんです」。

「青木俊介。ねえ、何でこの辺にいるってわかったの?」
お冬は、最初は江戸にいると聞いて、江戸に出たと話した。
だが見つからなかった。
そのうち、この辺で見かけたと言う話を聞いたので、ここに来たのだ。

「それで何とか、目の見えるうちにと思って」。
「え?」
「私の目、今はまだぼんやり見えてますけど、そのうちに何にも見えなくなるんです。かかさんも同じだったんです」。

さすがに金八も、これには黙ってしまった。
そして「よし、わかった。俺おとっつぁん探すの手伝ってやる」と言った。
「おじさんが?」

名前以外に、手がかりはないのか。
金八が聞くと、お冬は腕のひざのあたりにやけどの跡があると言った。
どうも主膳が怪しいと思った金八は、お冬にここにいるように言うと探りに出た。
しかし狂四郎はお冬に「お前は父親が恋しい。ただそれだけで探しているのか?」と聞いた。

「…」。
「私にはそうは思えん。先ほど表であの浪人者を問い詰めていたお前の体には、殺気があった…」。
「なぜなんだ」。
お冬は、うつむいた。

「あたしのかかさんは…、ととさんに殺されたんです」。
お冬は話し始めた。
「私のかかさんは、津軽のご城下に住む、貧しい三味線引きです」。

「お願いです。日陰の身でいい。日陰の身でいいですから!あたしたち親子を捨てていくのだけは!」
あの日、お冬の母親はそう叫んでいた。
叫び、お冬の父親の足元にすがっていた。

父親が母親を振り切った時、はずみでお湯が入った鉄瓶がひっくり返った。
熱い湯が、父親の腕にかかった。
その途端、俊介はお冬の母親に向かって、刀を振り下ろした。
母親が倒れ、父親が出て行った。

お冬が倒れている母親に、走りよった。
「ととさんのこと…、決して忘れるんじゃないよ」。
そう言うと、母親はぱったり動かなくなった。
幼いお冬は「かかさん、かかさん」と叫んでいた。

話し終わったお冬は、三味線にそっと触れた。
三味線を抱きしめ、お冬は「かかさん」と泣き始めた。
狂四郎が目を閉じる。

金八は夕べの店で、女たちに主膳のことを聞いていた。
「ああ、人斬りのだんなかい?」
「あの人さ、名前なんて言うの?青木俊介って言わない?」
「そんな名前、聞いたことないね」。

主膳はさっき、立花屋の市兵衛と一緒に、代官のところに行ったらしい。
それを聞いて金八は、代官所に忍び込んだ。
代官たちは、隠密の2人を始末したことを話していた。

座敷をのぞく金八の目に、酒を飲む主膳の袖が見えた。
やけどの跡は、なかった。
ふと、主膳が天井を見た。
代官が槍を手に取る。

槍を取った代官の袖が下がり、代官の腕が見えが。
その腕には、やけどの跡があった。
「代官が、とっつぁんだったんだ…」。

代官は天井に槍を突き立てると、黒装束の忍が落ちてくる。
落ちたところを、今度は主膳が斬る。
「もう一人いたのか!」

代官は、津軽から来た娘のことを主膳から聞いた。
青木俊介と聞いた時、主膳は内心、驚いた。
それは旗本の娘に見初められ、婿入りする前の代官の名前だった。

今、その娘は黒紋付を着た、背の高い武士と一緒だと市兵衛が教える。
「眠狂四郎だ」。
代官は薩摩の3人に、狂四郎がいることを知らせた。

旅籠に戻った金八は、お冬に代官がお冬の父親だと知らせた。
狂四郎と相談するから、お冬には動くなと言って金八は狂四郎を探しに言った。
金八は、狂四郎にことの一部始終を話した。

「その話を、あの子にしたのか」。
「うん…」と言った後、金八はハッとして、「いけなかったかな」と言った。
狂四郎は立ち上がった。

部屋に戻ると、お冬はいなかった。
「代官所に行ったか!」
狂四郎が出ようと戸を開けた途端、廊下にいた虚無僧姿の男たちが数人、斬りかかってきた。
たちまち、狂四郎は斬り捨てる。

代官所では主膳が、もし、薩摩の討手が狂四郎を斬りもらしても自分が斬ると言っていた。
お冬が、庭に忍び込んでいた。
障子に酒を飲んでいる、3人の姿が映る。
お冬はじっと、その影を見つめていた。

代官らしき男の影が、端に映っている。
父親が母親を斬った時の、母親の叫び声が耳に蘇る。
かかさん、かかさんと叫んでいた自分の声も蘇った。

お冬は目に涙をため、匕首を握り締めた。
しかしお冬は石につまづき、倒れた。
「あっ」。

その声で、代官たちが表に出てきた。
主膳が「あの娘だ」と言った。
「あなたは青木俊介ですね?よくも、かかさんを。よくも…。殺してやる!」
匕首を握り締めたお冬に向かって主膳が歩み出ようとした時、代官が制した。

代官屋敷に向かおうとする狂四郎の前には、薩摩の討手たちが次々現れ、行く手を遮っていた。
「邪魔をするな!」
狂四郎は叫び、次々、討手たちを斬って前に進む。

「お冬!」
その頃、代官屋敷の庭では代官の声に、お冬が止まっていた。
「そうか。お前がお冬か。大きくなったなあ。あの津軽から、はるばる出てきたのか。あの遠い津軽から」。
お冬の目にぼんやりと、代官の姿が映る。

「さぞ、苦労したのだろう」。
お冬が匕首を落とす。
「お冬!」

名前を呼ばれたお冬が崩れ落ち、泣き始める。
「会いたかった。ひと目だけでも、ひと目だけでも会いたい。声を聞きたいと、それだけを思って生きてきた…」。
「憎い人だ。かかさんの仇だと思っても、どうしても恋しくて恋しくて。何度、ととさんの夢を見たか、しんない」。
「けど、夢の中のととさんに、いつも顔がなかった」。

「せめて、この目の見えるうちに。そう神様に祈り続けたかいが、ありました。ととさん。お冬はととさんにあえてうれしい」。
「お冬、さあ、ここにおいで」。
代官が手を広げた。

「ととさん!」
お冬が、代官に抱きつく。
代官の顔を、手でなぞる。

「これが、ととさんの顔なんですね。お冬は、ととさんの顔が見られてよかった。お冬は幸せですよ」。
その時、抱きついていたお冬の背後を、代官の刀が貫く。
お冬の絶望した目が、代官を見つめる。

「なぜ、なぜ私を…」。
「ととさん」。
お冬が庭に横たわる。

代官が立ち上がり、刀を納めた時、狂四郎が走ってくる。
狂四郎が倒れているお冬を見て、驚愕の表情を浮かべる。
「出会え!」の声で、用人たちが走ってくる。

狂四郎はお冬を助け起こした。
「しっかりしろ!お冬!」
だがお冬は「ととさん」とだけつぶやいた。

お冬の首が、がくりと後ろにたれた。
「お冬!」
狂四郎の目が怒りに燃えて、代官を見る。
「北の果てから、父親恋しさに二百何十里の旅をしてきたわが子を…おのれは」。

「わしの過去を知るものは、生かしては置けん。貴様もだ、狂四郎!斬れ!」
代官の声で、用人たちが狂四郎に斬って出る。
だが狂四郎は、あっという間に用人たちを斬り、刀を弾き飛ばした。
弾き飛ばされた刀は、市兵衛に刺さった。

「見事だな、狂四郎。俺が相手しよう」。
主膳がそう言うと、狂四郎は村正を一直線に頭上に振り上げ、一直線におろした。
キラリと、村正が光る。

狂四郎のつま先で、村正の切っ先が買える。
村正がゆっくりと弧を描いて、上に上がっていく。
主膳の目が、代官の目がそれをじっと見る。

じっと見つめる主膳の目が、うろたえてくる。
狂四郎の村正が動きを止めた。
主膳が、斬ってきた。
同時に斬りかかってきた代官を、はじく。

狂四郎はまず、主膳を斬った。
その返す刀で、代官を斬る。
あごを斬られて、代官は手であごを押さえた。
そして、再び狂四郎に向かって刀を振り上げる。

狂四郎は、村正を代官に突き刺した。
それを抜くと、今度は頭上から一文字に斬りおろす。
白目をむいて、代官は転がった。
額が割れている。

金八が走ってくる。
倒れているお冬を見た。
金八が目をそむけ、うつむく。
狂四郎が、お冬をじっと見つめる。

大きな、松の木の下。
お冬の墓がある。
墓標となった、三味線の柄が見える。
お冬が弾いていた三味線。

金八が村の娘に、子犬を預ける。
「この子の名前は?」と娘が聞く。
「この子はね、金八!」
「金八。まあ、かわいい名前」。

「そうだろう。ほっといても女の子が寄って来るんだ。ねえだんな!」
しかし狂四郎はもう、歩き出していた。
追おうとする金八の耳に娘の「ああ、おしっこした~!だめじゃないの、金八!」と言う声が聞こえてきた。
その少女の声を聞いて、金八は「狂四郎にすればよかった」と言って後を追う。



目が見えない三味線引きの娘が、三味線引きだった母親を殺した仇を追って長いつらい旅路に着く。
「必殺からくり人」の2話、「津軽じょんがらに涙をどうぞ」を思い出す話。
これもだけど、眠狂四郎のほうも相当、かわいそうな話です。

「眠狂四郎」での仇は、父親。
冒頭からお冬は、災難にあってます。
こんな調子でさぞかし、苦労をして旅をしてきたんだろうなと思います。
いや、よく今まで無事だったなと思ってしまう。

ああいうピンチに、さりげなく助けて去っていくのが狂四郎。
しかし、お冬が三味線を見つけられないのに気づき、握らせてやる。
その仕草が優しい。

目が不自由と知っても、一緒にいてやることができない。
むしろ、自分といたら危ないから。
再び再会した時も、三味線を拾ってやってます。

父親の名前を尋ねる時の、お冬から発する殺気に気づくところが狂四郎のすごさ。
おそらく、お冬の父親は貧乏武士で、三味線弾きの母親に食べさせてもらっていた。
ところが旗本の娘に見初められて、婿養子の話が出た。
そこで出世に目がくらんだ父親は、すがる母親を斬り捨てて行った。

藩士だったというから、脱藩したのかもしれない。
すると、昔の名前も、過去も知る人間がいてもらってはまずい。
私が予想できることだから、狂四郎には、たやすくわかったことでしょう。

父親が母親を斬って出て行ったという、身の上。
もうすぐ見えなくなる目。
あの頃、津軽から江戸はどれだけ遠かっただろう。
旅の僧侶でさえ、盛岡までしか行っていないと言う。

感情移入しやすく、感情がたやすく表に出る金八はたちまちお冬に協力してしまう。
何も言わなくても狂四郎も、哀れと思っている。
「哀れな…」というつぶやきが聞こえてきそうな表情で、目を閉じる狂四郎の表情でそれがわかる。
目の前のお冬には、わからないだろうけど。

うかつに金八は、代官が父親だったとしゃべっってしまう。
でも、金八にしたら一刻も早く知らせてやりたいんだろう。
「俺も親には縁がなくてね」の言葉で、金八も孤児だったことを匂わせる。
だったらなおさら、会わせてやりたいと思うだろう。

しかし、お冬は狂四郎を待たずに代官屋敷へ。
憎い父親を前に、思わず匕首を握り締める。
だけど、憎いだけじゃない。

愛情と憎しみは表裏一体。
お冬は父親に愛情があるから、憎かった。
それに憎いと思わなかったら、旅は乗り越えられなかった。

匕首を手に母親の仇を討とうとしたお冬だったが、その気持ちを見透かしていた代官はお冬の名を呼ぶ。
ここからが、鬼畜の所業。
ひどい父親だとわかっていながら、名前を呼ばれ、優しい言葉をかけられ、お冬の会いたい気持ちがあふれ出した。

夢の中の父親に、いつも顔がなかったと言う。
お冬は夢に父親を見ていたんだ。
顔が見られるうちに、会いたかった。

父親に抱きしめられ、幸せそうなお冬。
「お冬は幸せですよう」。
しかし、娘だという気持ちなどかけらもなく、ただ、過去を知る邪魔者としか思わなかった代官は抱きついてきたお冬を刺す。

こんな娘一人、どうだというんだ。
いたって、どんな影響があるんだ。
そして旗本の娘はいったい、この男の何が気に入ったというんだ。

お冬の絶望の表情が、とても哀しい。
この子の気持ちは、救いはどこに…。
代官所に向かおうとする狂四郎の前に、薩摩の刺客。
刺客は必死だが、今の狂四郎の眼中にはない。

お冬を助けようとする狂四郎は苛立ち、「邪魔をするな!」と怒鳴る。
そう、邪魔。
薩摩の刺客のせいで、間に合わなかった。
こういうところも、狂四郎がどんどん、薩摩を嫌いになる原因だ。

狂四郎の代官への怒りは、3度斬ったことでもわかる。
お冬を見つめる狂四郎の表情。
そうだ。
彼もまた、親を求めても許されぬ身の上だった。

死神主膳は、黒部進さん。
私たちのウルトラマンだ。
旅籠の主人は、山本昌平さんかな。

金八が道連れにする子犬が、すっごくかわいい。
腕の中で寝ちゃうなんて、たまらない。
悲しい話で、子犬が最後まで和みでした。
「狂四郎にすれば良かったかな」で、笑えて、それでも哀しくて終わりです。


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そなたの願いをかなえることはたやすい 「眠狂四郎 円月殺法」第15話

第15話、「ふたり狂四郎木枯し魔風剣 浜松の巻」。


ある夜、狂四郎は自分が斬った亡者たちが襲ってくる悪夢を見る。
顔色ひとつ変えず、再び斬る狂四郎だが、亡者たちは次々現れる。
そこで目が覚めた。
翌朝、見付宿の旅籠を出る狂四郎の後を薩摩の3人が見送る。

その頃、一人の女性がならず者に追われ、あばら家に連れ込まれていた。
泣き叫ぶ女性に襲い掛かった2人の前に、刀が突き出される。
「昼寝の邪魔だ!出て行け!」

一人の浪人が起き上がった。
「何を!」
たちまち浪人は1人の前で刀を払う。
その男の着物の前がはだけ、あわてた2人は早々に逃げていく。

襲われかけていたのは、美代という女性で、道中、一緒にいてくれるよう、助けてくれた浪人に頼む。
その時、美代は気づいた。
「もしや、お目が…」。
その浪人・水上源之進は盲目だった。

橋を渡れば、ついに浜松宿。
薩摩の3人は、浜松の道場を頼ることにする。
美代と源之進は道連れとなり、大道芸をして暮らす。

源之進が目隠しをし、美代が柿や栗を空中に投げる。
すると源之進が真っ二つに斬る。
感心した観客は、お金を入れる。

だが浜松宿で芸を披露していた時、師範・藤江が率いる剣術道場の門弟がこの芸をインチキだと言った。
その目隠しを自分にもさせろと言って、目隠しをし、目隠しが透けているのを指摘すると、自分も同じことをしてみせる。
これならできて当たり前だ。

早々に浜松宿を立ち去れと言う藤江に、美代が源之進の目が見えないことを言おうとする。
しかし源之進はそれを止め、怒った観客は金を取り返して去った。
その様子を狂四郎が見ていた。
水上源之進、そして美代。

狂四郎は、2人に目を留めた。
立ち去ろうとした源之進は、ふと、誰かが自分たちを見ていると立ち止まる。
美代には狂四郎が見えなかった。
「まだまだ、心の修行ができておらぬとみた」と言って、源之進が去る。

かつて狂四郎は源之進と勝負をし、源之進は敗れた。
そのことを思い出していた時、狂四郎の宿に源之進と美代が現れた。
向かいの部屋に美代に手を引かれた源之進がやってきたのを見た狂四郎は、仲居に今の2人は夫婦かと尋ねた。
2~3日前から逗留しているが、盲目の夫の面倒を良く見るいい妻だと仲居は教えた。

藤江を薩摩の3人が訪ねてきて、狂四郎を生け捕りにしたら5百両、首をはねたら3百両と言う。
その金額に、藤江の顔色が変わる。
狂四郎とは、薩摩にとってそれだけの価値がある男なのか。
しかし藤江は金額ではなく、薩摩には逗留した折りの恩があると言って引き受けた。

宿屋では、美代が源之進の目を冷やしていた。
「すまんな、美代どの。拙者と道連れになったばかりに、そなたにまで迷惑をかけてしまって」。
「いいんですよ。私の方が源之進様に勝手についてきたんですし」。

「それに…、源之進様は…、、私が知っていたあるお方に、とても感じが似ているのです」。
源之進は「それは光栄な話だが。それで美代殿は、その男を捨て去りはしているのか」と言った。
美代が、ギクリとした。

「どうしてそれを」。
「おかしなものでな。日増しに目が悪くなるに連れ、人の心が読めるようになったいうか。何か、けだもののような勘が働くようになった」。
美代は目をそむけた。

宿屋の部屋で、狂四郎は目を閉じて正座していた。
そして、パッと目を開く。
同時に表から宿屋の戸を明けて大勢が、押入ってきた。
宿屋の者があわてるが、覆面をした大勢は階段を上がった。

男たちは部屋を一つ一つ、開けていく。
そのひとつが、源之進と美代の部屋だった。
「何ものだ!土足で他人の部屋に上がりこんでくるとは」。

そう言った源之進に向かって覆面の男が「昼間の大道芸人か」と、嘲りの表情を浮かべた。
続いてやってきた藤江は「おぬしらまだいたのか!昼間も言ったはずだ!とっととこの町から消えうせろ!」と言った。
源之進に刀を向けた男に向かって、源之進は刀を閃かせた。

次の瞬間、男の覆面が落ち、髷が斬られて髪がばっさりと顔にかかる。
驚いた藤江が叫ぶ。
「貴様、何ものだ!」
「ただの大道芸人」。

源之進は刀を納めながら、淡々と言う。
「昼間のあの目隠しは、あってもなくても良かったのだ」。
「つまり私は、目が見えんのだ」。

この告白に、藤江がひるむ。
「厚手の布で、おぬしと勝負をしても良かったのだが、道場主であるおぬしに恥をかかせてはな。なにせ拙者にはもっと大切なことがある…」。
その時、門弟が「先生!眠狂四郎はどこにもいません!」と入ってきた。
「何い!」

門弟の言葉に、源之進も美代も反応を見せた。
「眠狂四郎!」
「狂四郎様が、この町に!」

「おぬしらが探しているのは、本当に眠狂四郎なのか」と源之進が尋ねる。
「貴様の知ったことか!貴様、狂四郎を知っているのか」。
「いささかの因縁でな」。

藤江たちは去っていく。
源之進が言う。
「狂四郎は必ず俺が斬る!」

美代が「なぜ、源之進様は狂四郎様を!?」と聞く。
源之進は逆に「おぬしこそなぜ、狂四郎を知っているのだ」と聞いた。
美代は目を伏せた。
源之助はうつろな表情で、「生々流転、生者必滅」とつぶやいた。

夜道を行く藤江たちの前に、狂四郎が現れた。
「何やつ!」
「眠狂四郎だな?」
「係わり合いのない人たちに、迷惑をかけたくない。だからここで、おぬしらを待っていた」。

「斬れ!」
藤江の言葉で門弟たちが斬りかかるが、あっという間に2人倒された。
「引け!引け、引け!」と藤江が去っていく。
狂四郎が奪った刀を放り出し、奪われた男がそれを拾って逃げていく。

源之進が美代に、狂四郎との因縁を語っていた。
4年前、源之進は一回の剣客として円月殺法に立会いを求めた。
その時の傷が、源之進の視力を奪ってしまった。

以来、源之進は藩を追われ、浪々の身となり、今一度、円月殺法と立ち会うために修行をしてきた。
「この4年間がどんなに苦しいものであったか、美代殿にはわかるまい」。
「その狂四郎がこの宿場に、いや、この同じ宿にいたとは!不覚であった。なぜきゃつらより早く、見つけ出さなかったのか」。
その頃、狂四郎は町の居酒屋で一人、酒を飲んでいた。

「しかし、なぜ、狂四郎殿をそれまでに」。
源之進の問いに、美代も語り始めた。
実は美代は江戸でも指折りの、両替商の娘として育った。

それが2年ほど前、ふとしたことから狂四郎に出会った。
たびたびの逢瀬が、続いた。
「とっても楽しかった…。幸せでした」。
ところが、半年ほど経つと、狂四郎は突然、美代の前から消えた。

旅に出たとのことだった。
それからの美代は、狂四郎恋しさに、ひと目会いたさに、とうとう家を出て、旅から旅へのその日暮らしとなってしまった。
「つらかったことや、苦しかったことが、今では憎しみに…。今は憎しみまでに…」。
美代は泣いた。

翌朝、美代は源之助の目を冷やしていた。
「大事な時にまた、目が痛くなるとは。寝ているわけには!」
起き上がろうとする源之進を制し、美代は医者を呼びに行った。
目の手ぬぐいを、源之進は震える手で取り去った。

医者に行った美代は帰り道、一本道で向こうから来る狂四郎とあった。
驚く美代。
美代は言った。

この半年間、狂四郎を探した。
狂四郎の噂を頼りに。
「私がどんな思いでいたか。狂四郎様にはお分かりになりますまい」。

美代の声は、震えていた。
「なぜ、私を捨てて江戸を出たのです」。
狂四郎は黙っている。

視線は動かない。
美代を見ない。
宿屋で寝ていた源之進は焦り、起き上がっていた。

「狂四郎様に何があったのか、知る由もありません。でも私はあなたを忘れられなかった。気がついてみるとあなたを追って、旅に出ておりました」。
「この半年間、旅のつらさや苦しさの果て、幾度死のうかと」。
「憎い!あなたが憎い!」

美代はそう言って、匕首を手にした。
狂四郎は黙っていた。
その横顔を見て、美代は泣き崩れた。

「私はあなたを殺すつもりだったのに!」
「なぜ、なぜーっ!」
地面の落ち葉を握り締め、美代は泣いた。

「狂四郎様、美代を…、今一度抱いてくださりませ」。
「そなたの望みをかなえることは、たやすい。だが、今、そなたに必要な男は私ではないはず。また、そなたを必要とする男も、私ではない」。
美代は顔を上げた。
狂四郎は美代を見ると、去っていった。

藤江の道場の門弟たちに連れられて、源之進が道場に入っていく。
向かいの道で、狂四郎がそれをいぶかしげに見ている。
「断る!」と源之進が立ち上がっていた。

源之進は狂四郎を捕らえたと騙されて、連れてこられたのだった。
円月殺法を破ることと、狂四郎の薩摩入りを阻止するために殺すのと何が違うと、藤枝たちは言った。
だが源之進は、「純粋に剣の道で技を競い合うのと、どこかの藩の都合で人を殺すのでは、雲泥の差がある。これ以上の問答は無用だ。帰らせてもらう」とはねつけ

た。

すると藤江たちは「そうはさせんぞ!」と言った。
秘密を話した以上、このまま騙して返すわけにはいかないのだ。
「その腕で拙者が斬れるかどうか、試してみるか」。
「何!」

門弟を制して藤江が言う。
「水上殿、なればこそ、おぬしの剣の腕を借りたいと申しておるのだ。礼金のほうもはずむぞ」。
「ほう、今度は金で拙者の剣を買おうというのか」。

「そのほうがおぬしも、納得がいくのではないか」。
「黙れ!」と源之進は一喝した。
「ぬしらのたくらみに加担するような剣は持たん!狂四郎殿とは、拙者が戦うのだ。もし邪魔立てするのなら、おぬしらを斬る!」

源之進を取り囲んだ門弟たちが、一斉に太鼓を鳴らし始めた。
耳に頼る源之進を惑わそうと言うのだった。
藤江が笑う。

源之進が目を閉じる。
だが右へ左へ動きながら、太鼓を鳴らされ、源之進は耳をふさいだ。
「はははは、目の見えぬ御仁の耳は目だ!その目をふさがれては身動きひとつもできまい!」

藤江が笑い、門弟たちが斬りかかる。
それでも源之進は、刃を受け止めた。
しかし、刀を落としてしまった。
床を刀が滑っていく。

その時、狂四郎が刀を拾った。
次に手裏剣を投げ、源之進に向かって刀を振り上げた門弟の手を射る。
「狂四郎!」

「源之進殿!」
狂四郎が叫び、源之進に向かって刀を投げる。
刀を得た源之進と、狂四郎の前で門弟たちは敵ではなかった。

川原で、源之進は狂四郎に「まさかこんな形でおぬしとめぐり合えるとは、考えもせなんだった」と言った。
「源之進殿。私とおぬしの試合は、あの時すでに終わっている。もう私のことは忘れて、目の養生をしたほうがいい」。
「私の目はもう、治らない。それは私が一番良く知っている」。

「確かに私は、そなたの円月殺法に挑み、負けた。その結果がこの盲目(めしい)だ。だが今の私には、生ある限り、眠狂四郎の円月殺法を破ることしかない。もは

やここまで来たしまった以上、ぜひとも一手お願いしたい」。
「無益な戦いはしたくない」。
「剣の道を志すものとして、今一度、私の剣を受けていただきたい。ぜひとも。生々流転、生者必滅。それもこの世の慣わし。明朝、卯の刻、この川原で」。
そう言うと、源之進は去っていく。

尋常ではかなわないと思った藤江は、弓に名手を一人百両で3名雇った。
これなら一人、百両は高くないと思った藤江たちは、今度こそ、狂四郎の息の根を止めると言った。
宿屋で源之進は美代に、明日の朝、狂四郎と立ち会うと言った。
美代には道中世話になり、礼の申し上げようもないと言う。

それを聞いた美代は震える声で、「なぜ、なぜそんなに剣の道が大事なのですか。今度こそ、狂四郎様に殺されるかも」と言った。
源之進は「それも天命だ。剣の道を志すものとして、円月殺法を破ることだけが私に与えられた宿命なのだ」と答える。
「私にはわかりません!天命だとか、宿命だとか。そんなこと、わかりません!」
「美代殿には、私の気持ちがわからんのだ」。

「私は狂四郎殿が憎くて、戦うのではない。あの人の持つ、円月殺法を破りたいのだ。それも正々堂々と!一対一で何の邪魔もなく戦いたいのだ!そのためにこそ

、この4年間の辛苦があったのだ!」
「源之進様!」
「美代殿は、狂四郎殿を今でも慕っておられるのか」。

「今の美代は違います。今の私は、あなたに死んでほしくないのです。私は生まれ変わったのです」。
源之進は、ハッとした。
「源之進様、あなたも生き方を変えてください。この宿場を出ましょう。どこにでもいい。あなたと二人、暮らしていけるのならば。勝手な私のお願いを、源之進様、お

聞きください!源之進様!」

「美代殿、わかってくだされ。私は狂四郎殿の円月殺法ともう一度だけ、戦わねばならんのだ。もし私が、狂四郎殿と戦わずして生き続けたとして、それは私の生き

た骸でしかないのだ」。
だが美代は言う。
「生きていてほしい。死なないで。死なないで!」

源之進の唇が、わなわなと震えた。
「私も円月殺法に勝ちたい。そして美代殿と…」。
「源之進様!」
2人はしっかり、抱き合った。

そして、今夜は一人にしてほしいと源之進が言う。
「美代殿。もし明日の朝、生きて帰れたら、そなたの言うとおりにしよう。私も剣を捨てる…」。
美代は出て行った。
「源之進様、死んでほしくない…」。

美代はその足で、藤江の道場に行った。
「あんたたち、本当に眠狂四郎を殺すことができるの?」
藤江たちは、顔を見合わせた。
暗い部屋で、美代は源之進の言葉を思い出していた。

「美代殿。私は狂四郎殿が憎くて、戦うのではない。あの人の持つ、円月殺法を破りたいのだ。それも正々堂々と!一対一で何の邪魔もなく戦いたいのだ!その

ためにこそ、この4年間の辛苦があったのだ!」
「美代殿、わかってくだされ。私は狂四郎殿の円月殺法ともう一度だけ、戦わねばならんのだ。もし私が、狂四郎殿と戦わずして生き続けたとして、それは私の生き

た骸でしかないのだ」。
美代は耳をふさぐ。

翌朝、川原には風が吹いていた。
「来たぞ」。
狂四郎と源之進が歩いてきて、向き合う。
藤江たちが、身を潜ませる。

源之進が刀を抜く。
狂四郎も刀を抜く。
「やめてええ」と声がする。

美代が走って来る。
「狂四郎様ー!源之進様ー!弓矢がー!」
その時、藤枝たちが雇った男たちが弓矢を美代に向けた。

美代が倒れた。
続いて、弓矢が狂四郎に飛んでいく。
狂四郎は弓矢をすべて、落とした。

藤江たちが刀を抜き、狂四郎に向かう。
狂四郎は門弟を押さえつけ、弓矢の楯にする。
2人は次々、藤江の門弟たちを斬る。

狂四郎が門弟の刀を取りあげ、弓を構えている男に投げる。
男が倒れ、弓を構えていた2人も刀を抜いてやってくる。
2人も斬られ、藤江だけが残った

狂四郎は藤江も斬った。
源之進も最後の一人を斬った。
「美代殿、美代殿ー!」

弓矢が刺さってもがく美代が、源之進の名を呼んだ。
その声を頼りに、源之進が美代を抱き起こす。
苦しい息の下、美代が「狂四郎様、源之進様、お許しください。私が浅はかでございました」と言う。
狂四郎が「もういい、何も言うな」と言った。

美代は、源之進を見上げた。
2人は近くの水車小屋に、美代を連れて行く。
狂四郎は源之進に薬の入った印籠と、消毒の酒を渡し「これで手当てをしてやるがいい」と言った。
「かたじけない」。

それだけ言うと狂四郎は、小屋を出た。
「美代殿。傷が治ったら、そなたの言うとおり、私も生き方を変えてみたい。一緒に暮らそう」。
美代が笑う。
「源之進様」。

美代、源之進の手を握る。
「さあ、もう一眠りしなさい。目が覚めたらきっと傷も治っている」。
美代の首が、がくりと下がる。
それきり、美代は何も言わなかった。

夕暮れになっていた。
狂四郎は表で、川を見て立っていた。
源之進がやってきて「美代殿が死んだ」と言った。

美代は、狂四郎との勝負を止めていた。
「私は迷った。
剣の道に生きるか。人の道に生き、生まれ変わるか。もし、美代殿が生きていたら、私は本当に生き方を変えたかもしれない。だが今の私は、美代殿のためにもお

ぬしと戦わねばならない。
結局、私は剣の道に生きるしかないのだ。

狂四郎は黙っていた。
風が吹く。
夕日が2人を照らす。

2つの影はゆっくりと歩き、向き合った。
源之進が剣を抜く。
狂四郎もまた、正宗を抜く。

正宗の先が、狂四郎の足元で返る。
ゆっくりと正宗が、弧を描きながら上がっていく。
源之進の剣も、同じように弧を描く。

刃が止まった。
2人が斬り結ぶ。
だが狂四郎の正宗は、源之進を斬った。
源之進が倒れる。

狂四郎が、正宗を納める。
風が吹く。
夕暮れが終わろうとしていた。
狂四郎は源之進を見つめると、一人、去っていく。



源之進は長塚京三さんです。
冒頭、亡者に襲われる悪夢を見る狂四郎。
過去、狂四郎が立ち会った、斬った相手。
前にも仇と狙ってきた、薩摩の女性たちに狂四郎は言っている。

尋常に立ち会った相手は、襲ってきた相手、卑怯な手段を取った者を斬っている。
だから恨まれる覚えはない。
でも恨まれているということは、わかっている。
恨みが自分にこびりついているということは、わかっている。

男も女も狂わせる、狂四郎。
美代が狂っちゃうのはいかにも、という感じ。
ですが狂四郎は、剣客としては立ち会いたい相手なんだろうな。

美代もまた、愛情と憎しみが表裏一体。
江戸を離れたわけがあるから、美代をもてあそんでいたわけじゃないと思うけど、美代にしたらわけわかんない。
納得できなかった美代は、狂四郎の後を追って旅に出てしまう。

すると両替商の娘として育った美代がその日暮しになり、転落していく。
そしてついに狂四郎を恨み、憎むに至る。
でも憎んでいるうちは、忘れてない。
愛情の反対は、無関心。

しかし美代に対する狂四郎の答えが「そなたの願いをかなえることはたやすい」って、天下の色男じゃなきゃ言えない答えだ。
これが絵になる俳優じゃないと、狂四郎はできない。
そして狂四郎は美代が本当に愛して一緒になるべき男は、源之進だと言う。

おお、「北斗の拳」のラストのリンとバットだ。
狂四郎に対して執着が取れなかった美代。
この言葉で、自分が今、誰を愛しているか愛するべきか目が覚める。

生まれ変わった美代は、源之進も生まれ変わってほしいと言う。
ところがこちらは、剣客としての生き方をなかなか捨てられない。
だから美代は、藤江たちに浅はかにも協力してしまう。

いや、どこまで狂四郎のために狂わされるんだと、今度は本気で殺そうと思っちゃうよ。
狂四郎に人生を狂わされた2人が一緒になって、さらにまた狂四郎に関わる。
すごい因縁話ですね。

源之進の一途な言葉が蘇り、自分の愚かさに気づいた美代は命を落とす。
瀕死の美代を前にして、今、自分の大切なものに源之進も気づいた。
たまに思うんだけど、武士のこの、剣の道に生きるとか、意地って時にはすごく不幸だよね…。

過去と対決しなければならない狂四郎と、因縁によって結ばれてしまった2人。
この3人のドラマの前では、藤江一派は単なる邪魔者。
強ければいいけど、対して強くない。

藤江たちは源之進を見下していたけど、相手にしてなかったのは源之進だったのか。
黙ってお金を取り上げられて、美代がかわいそうだった。
しかし、こういうのに耐えるも源之進の修行だったのか。

さらには藤江が卑怯で、どうしようもない。
1人百両で3人って、もう儲け度外視。
かくして道場全滅。

狂四郎は、源之進には優しいというか、礼儀を尽くしている。
彼も卑怯者が嫌いだから、太鼓なんか叩いて挑む藤江が許せない。
太鼓の囲みを破り、源之進に刀を投げる狂四郎に武士の友情を感じました。
さらには源之進に薬を渡し、出て行くところがかっこいい。

美代を失い、もはや生き直す意味を失った源之進。
やはり、狂四郎と勝負するしかない。
源之進はもう、死にたかったのか。
これで対決しないで生きていっても、それこそ生きる骸だ。

だから狂四郎も、源之進と立ち会う。
源之進の取った構えは、なんと、円月殺法!
おお、それで「ふたり狂四郎」。
つまりあれは、剣客の行き着く剣法なのか。

だが狂四郎に円月殺法が出てしまうと、眠狂四郎世界では終わり。
なので敵は、円月殺法を出させないように、刀を奪ったり、狂四郎を縛ったり、罠にはめたりする。
だけど円月殺法が出たら無敵なのだ。

結局、自分が斬ることでしか終わらなかった源之進の剣客道。
自分が心ならずも狂わせてしまった、男女の人生を思ったのか。
無表情ながら去っていく狂四郎は、自分の罪深さを思い知っているように見える。

男も女も狂わせる狂四郎。
罪な男だ。
つくづく、それが似合う俳優じゃないと、できない役だ。


生きたいように生きればいい 「眠狂四郎円月殺法」第13話

第13話、「いのち花わかれ盃情炎剣 袋井の巻」。

道端で、なにやら人だかりがしている。
「何をやらかしたのか」。
「みっともない」。

人々の視線の先。
一人の浪人が、灯篭に縄で縛られている。
両手を縛られ、灯篭に通しているため、ほどくことができないでいる。

「おい、みせもんじゃねえぞ」。
こんな状態の浪人の、それでも声には凄みがあった。
見ていた百姓たちは、あわてて立ち去った。

そこに黒の着流しを着た眠狂四郎が、通りかかった。
涼しい顔をして前だけを見て行く狂四郎に、浪人が声をかけた。
「おい」。
「私に何か用か」。

狂四郎の足が止まった。
「何か用か、は、ねえだろう。こうして縛られているんだから、同じ侍同士としてだ!いかがなされたか?ぐらい声かけたっていいだろう。気にならねえのか」。
「別に」。
「冷てえ男だな、おめえは」。

狂四郎が男の方を振り向いた。
「その様子では、賭場で負けが込んで、払えなくなったあげくのみせしめであろう。違うか」。
「はあ、そこまで。その通りだ」。

男は感心した。
「おぬしすげえ眼力だな」。
「さいころに身を持ち崩すような手合いは、もはや武士とはいえまい。したがって気にもならぬし、不憫とも思わぬ。屈辱をなめたなら、少しは立ち直ることだ」。

「屈辱なんかどうだっていいんだ。俺はな、腹減ってるんだ。何か食うもの持ってねえか」。
「あいにくだな」。
去っていく狂四郎の背に向かって、男は叫んだ。
「金のためなら何でもやるぞ!押し込みの相棒、勤めてもいいんだぜ!」

お蘭と金八は、宿場に来ていた。
金蔵は賭場に誘われて行ってしまったが、お蘭は鋭い目で辺りを見回す。
お蘭のいる宿に、狂四郎がやってきた。

「あ、旦那!」と、お蘭が声をかける。
「お待ちしてました。どうぞ」。
お蘭は狂四郎を部屋に招き入れ、酌をする。

狂四郎が杯を飲もうとすると、ふと、お蘭は「あ、ちょっと待ってください」と言った。
そして、庭の咲いている萩の花を摘んで、杯に浮かべる
「この、花びらごと」。
狂四郎がお蘭を見る。

「干すのか」。
狂四郎が、飲み干すのかと聞く。
「おまじないなんです。そうすると、縁が深くなるんですって」。

お蘭が微笑む。
「お蘭と俺のか」。
「お嫌ですか?」

「この俺と縁が深くなれば、地獄まで道連れになるぞ」。
「地の果てまでだって…」。
お蘭が狂四郎を見つめる。

しかし、狂四郎は飲まない。
「これ以上、死神を喜ばすこともあるまい」。
狂四郎は杯を置いた。
「それより用件を聞こう。この宿で俺に何をさせたいのだ」。

その夜、福知山藩主・朽木が滞在する本陣の寝所に狂四郎が現れ、朽木の喉元に刀を突きつけた。
だが狂四郎は朽木に向かって、朽木の「命はいらぬ」と言った。
「このたびの西国十三藩の密約書、いただきに参った」。

「おのれ!」
朽木は刀を手にするが、狂四郎の相手ではなかった。
狂四郎に喉元に刀を突きつけられ、朽木は密約書を突き出した。

用心を解かない狂四郎は、朽木に密約書を「開けろ」と言い渡す。
朽木が広げたその書には確かに、丹波・福知山藩の朽木の殿の名前、そして薩摩藩の島津公の名前が確かにあった。
密約書を手に、狂四郎は悠々と引き上げる。

門で用人たちが狂四郎を見つけ、「おのれえ、大胆な!」と言って斬りかかってきた。
狂四郎は襲い掛かってきた用人たちを次々斬り捨て、斬った1人の刀を取ると最後の1人に投げ、これを仕留めた。
密約書を奪われた朽木は、「福知山藩の立場がない」とうろたえていた。

水野の手に入れば、咎めがくるだけではない。
薩摩に対して、福知山藩の立場がなくなる。
すると側近の鮫島が、すべてを自分に任せるように言う。

鮫島の口笛ひとつで、黒装束の一群が舞い降りてきた。
忍びたちである。
その昔、伊賀と争って敗れ、家光の警護を解かれて追い出された雷神衆だと鮫島は説明した。

この太平の世に、忍びとは…。
懐疑的な殿の前で雷神衆は、火のついた矢を放った。
さらに、火のついた樽が正面から朽木に迫る。

朽木は思わず「やめろー!」と叫ぶ。
その途端、火は消え、樽は止まった。
鮫島と、雷神衆の頭領の加東次が「失礼つかまつった…」と深く頭を下げた。
雷神衆の実力を見た朽木は、「福知山藩のために働いてくれるか」と言う。

その頃、金八は珍しく、賭場で勝ちまくった。
しかし帰り道、
金を取り返しに来た賭場の元締めの袋井一家が、金八を追ってきた。
この賭場では決して、金を持って帰ることはさせないのだ。

逃げる金八と袋井一家の間に割って入ったのは、あの縛られていた浪人・片倉新九郎だった。
「おう!俺の刀、返してもらおうか」。
新九郎を見た親分は、「何ぬかしやがる、また痛い目にあいてえのかい。すっこんでろ!」と叫んだ。
完全に新九郎を侮っていた。

だが新九郎は、そう言った親分があげた手をあっさりつかむと、締め上げる。
「夕べはな。博打のツケが払えねえから、大人しく縛られてやったら…、勝ってもこういうからくりってわけか!」
調子に乗った金八が、「そうだよ!おめえらそれでも博打うちか!ごみ、だに、しらみ、のみ!」と叫んだ。

親分は「やっちまえ!」と叫んだ。
子分衆が刃物を抜いて、襲ってくる。
しかしまったく、新九郎に歯が立たない。
助けてもらった金八は、新九郎を女郎屋に誘う。

翌朝、金八は女郎屋で目覚めたが、新九郎は一人、廊下で座っていた。
新九郎は杯に庭に咲いていた萩の花を摘み、入れた。
「何それ、顔に似合わないオツなことして」と、金八が言う。

「こうするとな、男と女の縁が深くなるって。そう教えてくれた女が昔いたんだよ」。
「ふうん。ねえ、その人今、何してんの」。
「知らねえな」。

新九郎の顔を見ていた金八は、「まだ惚れてるね、その人にね。でも旦那みたいな生き様じゃ、大概の女は逃げ出すよ」と言った。
「これでも昔は、ちゃんとしてたんだ」。
「嘘ばっかり」。
「うるせえな!向こう行ってろ!」

新九郎に怒られて、金八は引っ込んだ。
一人になった新九郎は、酒を飲み続ける。
「こんな生き様じゃあ、まともな女は…、ふふ。確かにその通りだ」。

道を行く狂四郎の耳に、助けてと叫ぶ女の悲鳴が入ってきた。
一軒の農家で、百姓娘が男3人に押さえつけられようとしていた。
狂四郎が入ると、男たちが身構える。
女は狂四郎の背中に隠れた…、と思うと、「眠狂四郎!」と叫んで背後から押さえつけた。

雷神衆だった。
男たちが狂四郎に斬りかかる。
すると狂四郎は、すっと身を翻した。

男たちの刃は、狂四郎を背後から押さえつけていた女に刺さった。
狂四郎はその3人を斬ると、天井から、家の奥からさらに黒装束の男たちがやってくる。
すべての黒装束を斬ると、狂四郎はお蘭の待つ道にやってきた。

その頃、金八と新九郎も袋井一家に襲われていた。
このまま2人を帰したなら、袋井一家の面子が立たない。
親分はそう言った。

新九郎は、金八に逃げろと言う。
「こいつは俺のケンカだ」。
「俺だけズラかっていいの?」

「早く逃げろ!」
「恩に着るよ!」
金八が逃げた後、新九郎はたちまち3人の子分、そして2人の浪人の用心棒を斬り捨て、親分も斬った。

道の上で、通りかかった鮫島がそれをジッと見つめていた。
小川で血を洗っていた新九郎に近づくと鮫島は、「使えるな、おぬし」と声をかけた。
「金に不自由はしていないか?」
「なり見りゃ、わかるだろう!」

新九郎が去ろうとした時、背後で小判の音がした。
「ほんの手付けだ。おぬしを雇いたい」。
鮫島が地面に、小判を投げたのだった。

「袋井本陣へ訪ねて来い。丹波福知山・三千石が逗留しておる。ただし、勘違いしてもらっては困る。仕官ではない。あくまで人斬りとして、おぬしを雇いたい」。
鮫島はそれだけを言うと、去っていく。
新九郎が小判を拾う。

その背後の橋を、お蘭を乗せた駕籠が通り過ぎていく。
小判を拾い終わった新九郎が顔を上げると、お蘭の姿が目に入ってきた。
新九郎の顔色が、変わる。
そして、お蘭の駕籠の後を追った。

駕籠は、見附宿に入った。
旅籠に入ったお蘭を見て、新九郎は「間違いねえ!間違うはずはねえ!」と言った。
部屋で茶を飲んでいたお蘭の手から、湯飲みが落ちる。

お蘭が立ち上がる。
新九郎が、お蘭の前にいた。
2人は見つめう。

お蘭がやっと、口を開いた。
「どうして…、どうして…」。
「俺も驚いた。駕籠で行くあんたを見てな、夢中でここまで駆けてきた」。

そして新九郎は「しかし何だ、その格好はどうして旅なんかしてるんだ。あんたれっきとした…」と言いかけた。
お蘭がその言葉をさえぎった。
「もうやめてください。昔の話は…」。
お蘭は新九郎から、顔をそむけた。

「あなたこそ、どうしてこんなところに。それにしてもその変わりよう。昔、千代田のお城の勘定方にお勤めしていた頃の片倉新九郎様とは、とても…」。
「上役といさかいを起こして、逐電したこの俺だ。所詮は宮づかいのタマじゃねえのさ」。
新九郎の言葉に、皮肉っぽい調子が混ざった。

「いいえ!わたくしは知っております。あなたは上役たちの不正を正して、お城を飛び出したのです。あなたが去った後、何名かのよからぬ重役たちは評定所でお裁

きを受けました」。
新九郎は息を呑んだ。
「そうか、嫌、それを聞いて…、ずっと気になっていたんだ。俺一人が割りを食ったたと思っていた」。

新九郎は肩の荷を降ろしたような表情になった。
「うむ」と、ため息をついた。
気が楽になった…」。

そして新九郎は、お蘭を見た。
「美しくなられたのう、お蘭どの」。
お蘭は目を伏せた。

「本来なら夫婦(めおと)になっていた、俺とあんただ。そうなっていたら今頃は2人の間に子供がいて、つつがなく暮らしていたはずだ」。
「どうした父上は。碁がお好きで、良く碁の相手をさせられた」。
「父は…、先年、他界いたしました」。
「そうか」。

「新九郎様、どうか、お引き取りください。歳月の流れた今となっては、昔をとやかく話し合っても、いたしかたありますまい」。
お蘭の口調は、きっぱりしていた。
「お蘭殿!」

驚いた新九郎が、お蘭を見つめる。
「新九郎様、どうか!」
お蘭の目は悲しそうだった。
新九郎は、お蘭をジッと見つめた。

お蘭の目には、うっすらと涙がにじんでいた。
それを見た新九郎は「わかった…、もう会うこともないな。邪魔した」とだけ言う。
新九郎は、立ち去った。
お蘭は一人、立ち尽くしていた。

袋井の本陣にやってきた新九郎は、酒を飲んでいた。
「やはり来たか」。
鮫島が入ってきた。

「高いぞ、俺の人斬り代は!」
「よかろう、だがあるいは、おぬしが負けるかも知れない相手だ」。
「かまわん!たとえ野に屍をさらしても嘆く奴も、泣く奴もいねえ!」

そこに、雷神衆の頭領の加東次が、狂四郎が見附宿にいることを知らせてきた。
江戸からの使いと会うのだ。

道を行くお蘭。金八と合流した。
だが江戸からの使者を見つけるとお蘭は、金八に離れているように言う。
お蘭が、使者に近づく。

「お使者の方、お蘭です」。
編み笠を深くかぶった男は、「密約書をこっちへもらおうか」と言った。
その口調に、お蘭がいぶかしげに眉をひそめる。

傍らの草むらに斬り捨てられた本物の使者が、いた。
四方から、上空から雷神衆が降りてくる。
お蘭は懐剣を構えたが、捕らえられる。

そしてお蘭は、一軒のあばら家につれてこられた。
加東次はお蘭の持っていた三味線を解体するが、密約書はなかった。
「ない!」

お蘭を柱に縛りつけると、眠狂四郎の居場所を言えと迫る。
「どこかねえ?口が裂けたって言えないよ!」
「このアマ!」

加東次の合図で、雷神たちがお蘭を鞘に収めた刀で突く。
その時、新九郎がやってきた。
「おぬしか」。
加東次が新九郎を見る。

「打て!もっと打て!」
振り向いた新九郎は、打たれているお蘭を見て驚く。
お蘭もまた、新九郎を見て驚くが、すぐに打たれて前を向いた。

次々、お蘭を打つ雷神衆に向かって新九郎が「やめろ!」と一喝する。
「つなぎの女が帰ってこなけりゃ、眠という男もどっかの穴倉から出てきて、探し出すだろう。どうせ、この近くだ。こっちから仕掛けててやろうじゃねえか」。
そう新九郎は言った。

加東次は「ようし、逃がすな」と言って出て行く。
だが動かない新九郎を見て、「あんたは行かんのか」と聞いた。
「わかってる!」

新九郎が出て行った後、2人の男が見張りとして残った。
美しいお蘭を見る、2人の目が光った。
「けけけっ」と男たちが笑って、お蘭のあごを持つ。

気丈なお蘭は男に唾を吐きかけると男はお蘭を突き飛ばし、のしかかった。
お蘭の顔が、苦痛にゆがむ。
その時、その男が背後から刺された。

新九郎だった。
抜いた刀で、新九郎はもう1人も斬り捨てる。
お蘭の縄を切ると、「行け!」と言う。

「新九郎様、どうして!」
「どうして!あんな奴らの一味なんかに!」
「ははは、落ちるところまで落ちてるのさ。今の俺は金のためなら、何だってやるんだ」。
新九郎は乾いた笑い声を立てた。

そして「あんた、眠狂四郎の女なのか!そうなんだな?!」と聞いた。
お蘭は新九郎に背を向けて、答えない。
「まあ、いいや。しかし困ったなあ…。あんたの男を斬らなくちゃならねんだ」。

お蘭が、振り向く。
「どっちが死ぬのが望みだ」。
お蘭は顔を背ける。

新九郎はいきなり、お蘭を抱きしめる。
「恨みっこなしにしてくれ。俺は眠って男を斬る。そうしたら…、俺はあんたを…。そしたら、俺の女になってくれるか!」
「どうなんだ!」

お蘭は新九郎を見つめる。
その目に涙が浮かぶ。
お蘭は、哀しみで一杯だった。
「どっちも…、どっちも嫌。どっちも生きていてほしい」。

「信じろよ。必ずやる。眠って男をしとめる」。
「お願い、このまま、どっかに行ってください。いいえ、私を一緒につれてってもいいから。だから!」
「鍼九郎様どうか…」。
新九郎は、お蘭を見つめる。

「眠に伝えろ。必ず俺が命をもらいに参上するとな」。
そして「奴らが戻ってくる、早々に行け」とお蘭に出て行くよう促した。
お蘭は、新九郎の背中を見つめる。

その頃、荒れ寺で金八が、お蘭を助けに行かない狂四郎に詰め寄っていた。
「行けば、墓穴を掘ることになる」。
それを聞いた金八は、「何言ってんの!お蘭さん、だんなのために働いてるんでしょ!」と叫んだ。

だが、狂四郎は少しも声の調子を変えずに言った。
「それは少し違う。お蘭はもともと、俺を見張るために差し向けられた女だ」。
「いや俺さ、旦那のそういう、裏っかたの方、よくわかんねえけどさ、お蘭さんの気持ちわかってやんなきゃ。一生懸命なんだから!」

「奴らの狙いはこの密書だ。これが俺の手中にある限り、お蘭は無事だ」。
「気休め言ったって、つかまえてんの向こうなんだからさ!」
「人の心配より早うmここを抜け出すことだ」。
「え?」

「奴らはここをつきとめて、いずれ襲ってくるだろう」。
それを聞いた金八は「それじゃ、俺、ここにいない方がいいよね?」と聞いた。
狂四郎がうなづくと、金八は逃げていく。

その通りに、雷神たちは荒れ寺にやってきた。
しかし、狂四郎ももう、いなかった。
「逃がしたか…」。

お蘭はふらふらになりながら、道を急ぐ。
その先に狂四郎を見つけたお蘭は「だんな!」と叫ぶ。
「お蘭、無事だったか」。

「旦那、逃げて!逃げてください。相手は江戸で鳴らした、神道無念流の使い手なんです」。
「相手を知っておるのか」。
お蘭はハッと、息を呑む。
「お蘭」。

お蘭は、うつむいた。
「今は何も聞かないでください。後生です、逃げてください」。
お蘭は狂四郎に、頭を下げる。

だが狂四郎は逃げない。
「自ら好んで阿修羅に生きるこの俺に、その言葉は無用だ」。
「お蘭、無理をするな。お前は自分の生きたいように生きればいい」。
「生きたいように…」。

そう言うと、狂四郎は歩いていく。
お蘭はその背中を見送る。
「旦那…。生きたいようにって、あたしが生きたい道は…」。
お蘭が涙ぐむ。

雷神が新九郎をつれて、狂四郎の襲撃に向かう。
暗闇の中、表に出た新九郎は、少し離れた木陰から自分を見つめるお蘭を見る。
「お蘭どの」。
新九郎が、お蘭に近づく。

「どうした?」
お蘭の唇が震える。
「案内します…。そこで…。決着を…」。

「あなたたちが今行こうとしたところには、もういないんです。ほんとに恨みっこなしです。どちらかが…、そしたら、私…。自分がはっきりするんです」。
「わかった。案内してくれ」。
お蘭が先に立ち、川べりの道を新九郎と歩く。

小川の流れが、背後に見える。
水面が光る。
お蘭が口をきく。

「私、娘の頃、あなたの花嫁になることばかり考えていました。ほんとに…身も心も綺麗なままで…。あなたにどうしたら、気に入られるかって…。男と女がこんな風にして出会うなんて。やっぱり会わないほうが良かったんです…。会わないほうが…」。
お蘭が、新九郎を振り返る。
目には涙が浮かんでいる。

お蘭を見つめる新九郎の目も、悲しそうだった。
新九郎の視線が、下がっていく。
お蘭の手には、小刀が握られていた。

突然、お蘭が新九郎の懐に飛び込む。
持っていた小刀が、新九郎の胸、深くに突き刺さる。
まったく抵抗せず、お蘭と、お蘭の刃を受け止めた新九郎。

お蘭が、驚いて見つめる。
「どうして…」。
「いいんだ」。
新九郎が、かすかに微笑む。

「これでいいんだよ…。どうせならお前に…」。
新九郎は倒れる。
2人の頭上の木の、花が散っている。
風が吹く。

その頃、旅籠にいた狂四郎の座敷に爆薬が投げ込まれる。
たちまち、座敷は炎に包まれた。
障子を破り、狂四郎は二階から地上に飛び降りた。

体を回転させ、狂四郎は脱出する。
旅籠が炎上する。
次々やってくる雷神衆。
狂四郎も、次々雷神衆を斬る。

雷神衆は、爆薬を投げてくる。
狂四郎は雷神の一人を盾にして、爆薬を防ぐ。
楯にされた雷神の背中で、火が燃える。

両側から、樽が転がってくる。
しかし狂四郎はヒラリと飛び上がると、樽は衝突して止まる。
狂四郎は、最後の2人を斬る。

今度は、鮫島が現れる。
刀を抜いて、構える。
正宗を持つ狂四郎の手が、頭上に上がる。

すらりと頭上に上げた正宗の切っ先を、今度はピタリとを地面に向ける。
刀の先が、キラリと光る。
徐々に刀が弧を描いて、上に上がっていく、。
狂四郎の周りを、刀の光が彩っていく。

その時、雷神の頭領の加東次と、最後の一人が襲って来る。
しかし狂四郎は2人を交わし、斬る。
斬りこんで来た鮫島も斬る。
鮫島が倒れ、狂四郎は刀を納める。

翌朝。
峠の茶店には、お蘭と狂四郎がいた。
「行くか。お蘭」。
「はい、江戸へ立ち戻ります。こうやって一度けじめをつけないと」。

狂四郎が自分が飲んでいた杯を、お蘭に渡す。
徳利を傾ける。
お蘭が狂四郎に、酒を注いでもらう。

酒が注ぎ終わると、お蘭がお辞儀をする。
ふと、狂四郎が立ち上がる。
傍らの萩の花を摘む。
そして、お蘭の持つ杯に浮かべてやる。

「旦那…」。
お蘭がうっすらと微笑む。
もうひとつの杯に狂四郎も、萩の花を浮かべ、飲み干す。
お蘭が杯を飲み干し、微笑む。

街道を行く狂四郎を、お蘭が見送る。
「縁が深くなりますように…」。
そっと、お蘭がつぶやく。

狂四郎の後姿を見送っていたお蘭は、江戸へ向かう。
2人は、背中合わせに離れていく。
ススキの穂が、日差しを浴びて、光って揺れていた。



第13話、「いのち花わかれ盃情炎剣 袋井の巻」。


人だかりが、している。
「何をやらかしたのか」。
「みっともない」。

人々の視線の先。
一人の浪人が、灯篭に縄で縛られている。
両手を縛られ、灯篭に通しているため、ほどくことができないでいる。

「おい、みせもんじゃねえぞ」。
こんな状態の浪人の、それでも声には凄みがあった。
見ていた百姓たちは、あわてて立ち去った。

そこに黒の着流しを着た眠狂四郎が、通りかかった。
涼しい顔をして前だけを見て行く狂四郎に、浪人が声をかけた。
「おい」。
「私に何か用か」。

狂四郎の足が止まった。
「何か用か、は、ねえだろう。こうして縛られているんだから、同じ侍同士としてだ!いかがなされたか?ぐらい声かけたっていいだろう。気にならねえのか」。
「別に」。
「冷てえ男だな、おめえは」。

狂四郎が男の方を振り向いた。
「その様子では、賭場で負けが込んで、払えなくなったあげくのみせしめであろう。違うか」。
「はあ、そこまで。その通りだ」。

男は感心した。
「おぬしすげえ眼力だな」。
「さいころに身を持ち崩すような手合いは、もはや武士とはいえまい。したがって気にもならぬし、不憫とも思わぬ。屈辱をなめたなら、少しは立ち直ることだ」。

「屈辱なんかどうだっていいんだ。俺はな、腹減ってるんだ。何か食うもの持ってねえか」。
「あいにくだな」。
去っていく狂四郎の背に向かって、男は叫んだ。
「金のためなら何でもやるぞ!押し込みの相棒、勤めてもいいんだぜ!」

お蘭と金八は、宿場に来ていた。
金蔵は賭場に誘われて行ってしまったが、お蘭は鋭い目で辺りを見回す。
お蘭のいる宿に、狂四郎がやってきた。

「あ、旦那!」と、お蘭が声をかける。
「お待ちしてました。どうぞ」。
お蘭は狂四郎を部屋に招き入れ、酌をする。

狂四郎が杯を飲もうとすると、ふと、お蘭は「あ、ちょっと待ってください」と言った。
そして、庭の咲いている萩の花を摘んで、杯に浮かべる
「この、花びらごと」。
狂四郎がお蘭を見る。

「干すのか」。
狂四郎が、飲み干すのかと聞く。
「おまじないなんです。そうすると、縁が深くなるんですって」。

お蘭が微笑む。
「お蘭と俺のか」。
「お嫌ですか?」

「この俺と縁が深くなれば、地獄まで道連れになるぞ」。
「地の果てまでだって…」。
お蘭が狂四郎を見つめる。

しかし、狂四郎は飲まない。
「これ以上、死神を喜ばすこともあるまい」。
狂四郎は杯を置いた。
「それより用件を聞こう。この宿で俺に何をさせたいのだ」。

その夜、福知山藩主・朽木が滞在する本陣の寝所に狂四郎が現れ、朽木の喉元に刀を突きつけた。
だが狂四郎は朽木に向かって、朽木の「命はいらぬ」と言った。
「このたびの西国十三藩の密約書、いただきに参った」。

「おのれ!」
朽木は刀を手にするが、狂四郎の相手ではなかった。
狂四郎に喉元に刀を突きつけられ、朽木は密約書を突き出した。

用心を解かない狂四郎は、朽木に密約書を「開けろ」と言い渡す。
朽木が広げたその書には確かに、丹波・福知山藩の朽木の殿の名前、そして薩摩藩の島津公の名前が確かにあった。
密約書を手に、狂四郎は悠々と引き上げる。

門で用人たちが狂四郎を見つけ、「おのれえ、大胆な!」と言って斬りかかってきた。
狂四郎は襲い掛かってきた用人たちを次々斬り捨て、斬った1人の刀を取ると最後の1人に投げ、これを仕留めた。
密約書を奪われた朽木は、「福知山藩の立場がない」とうろたえていた。

水野の手に入れば、咎めがくるだけではない。
薩摩に対して、福知山藩の立場がなくなる。
すると側近の鮫島が、すべてを自分に任せるように言う。

鮫島の口笛ひとつで、黒装束の一群が舞い降りてきた。
忍びたちである。
その昔、伊賀と争って敗れ、家光の警護を解かれて追い出された雷神衆だと鮫島は説明した。

この太平の世に、忍びとは…。
懐疑的な殿の前で雷神衆は、火のついた矢を放った。
さらに、火のついた樽が正面から朽木に迫る。

朽木は思わず「やめろー!」と叫ぶ。
その途端、火は消え、樽は止まった。
鮫島と、雷神衆の頭領の加東次が「失礼つかまつった…」と深く頭を下げた。
雷神衆の実力を見た朽木は、「福知山藩のために働いてくれるか」と言う。

その頃、金八は珍しく、賭場で勝ちまくった。
しかし帰り道、
金を取り返しに来た賭場の元締めの袋井一家が、金八を追ってきた。
この賭場では決して、金を持って帰ることはさせないのだ。

逃げる金八と袋井一家の間に割って入ったのは、あの縛られていた浪人・片倉新九郎だった。
「おう!俺の刀、返してもらおうか」。
新九郎を見た親分は、「何ぬかしやがる、また痛い目にあいてえのかい。すっこんでろ!」と叫んだ。
完全に新九郎を侮っていた。

だが新九郎は、そう言った親分があげた手をあっさりつかむと、締め上げる。
「夕べはな。博打のツケが払えねえから、大人しく縛られてやったら…、勝ってもこういうからくりってわけか!」
調子に乗った金八が、「そうだよ!おめえらそれでも博打うちか!ごみ、だに、しらみ、のみ!」と叫んだ。

親分は「やっちまえ!」と叫んだ。
子分衆が刃物を抜いて、襲ってくる。
しかしまったく、新九郎に歯が立たない。
助けてもらった金八は、新九郎を女郎屋に誘う。

翌朝、金八は女郎屋で目覚めたが、新九郎は一人、廊下で座っていた。
新九郎は杯に庭に咲いていた萩の花を摘み、入れた。
「何それ、顔に似合わないオツなことして」と、金八が言う。

「こうするとな、男と女の縁が深くなるって。そう教えてくれた女が昔いたんだよ」。
「ふうん。ねえ、その人今、何してんの」。
「知らねえな」。

新九郎の顔を見ていた金八は、「まだ惚れてるね、その人にね。でも旦那みたいな生き様じゃ、大概の女は逃げ出すよ」と言った。
「これでも昔は、ちゃんとしてたんだ」。
「嘘ばっかり」。
「うるせえな!向こう行ってろ!」

新九郎に怒られて、金八は引っ込んだ。
一人になった新九郎は、酒を飲み続ける。
「こんな生き様じゃあ、まともな女は…、ふふ。確かにその通りだ」。

道を行く狂四郎の耳に、助けてと叫ぶ女の悲鳴が入ってきた。
一軒の農家で、百姓娘が男3人に押さえつけられようとしていた。
狂四郎が入ると、男たちが身構える。
女は狂四郎の背中に隠れた…、と思うと、「眠狂四郎!」と叫んで背後から押さえつけた。

雷神衆だった。
男たちが狂四郎に斬りかかる。
すると狂四郎は、すっと身を翻した。

男たちの刃は、狂四郎を背後から押さえつけていた女に刺さった。
狂四郎はその3人を斬ると、天井から、家の奥からさらに黒装束の男たちがやってくる。
すべての黒装束を斬ると、狂四郎はお蘭の待つ道にやってきた。

その頃、金八と新九郎も袋井一家に襲われていた。
このまま2人を帰したなら、袋井一家の面子が立たない。
親分はそう言った。

新九郎は、金八に逃げろと言う。
「こいつは俺のケンカだ」。
「俺だけズラかっていいの?」

「早く逃げろ!」
「恩に着るよ!」
金八が逃げた後、新九郎はたちまち3人の子分、そして2人の浪人の用心棒を斬り捨て、親分も斬った。

道の上で、通りかかった鮫島がそれをジッと見つめていた。
小川で血を洗っていた新九郎に近づくと鮫島は、「使えるな、おぬし」と声をかけた。
「金に不自由はしていないか?」
「なり見りゃ、わかるだろう!」

新九郎が去ろうとした時、背後で小判の音がした。
「ほんの手付けだ。おぬしを雇いたい」。
鮫島が地面に、小判を投げたのだった。

「袋井本陣へ訪ねて来い。丹波福知山・三千石が逗留しておる。ただし、勘違いしてもらっては困る。仕官ではない。あくまで人斬りとして、おぬしを雇いたい」。
鮫島はそれだけを言うと、去っていく。
新九郎が小判を拾う。

その背後の橋を、お蘭を乗せた駕籠が通り過ぎていく。
小判を拾い終わった新九郎が顔を上げると、お蘭の姿が目に入ってきた。
新九郎の顔色が、変わる。
そして、お蘭の駕籠の後を追った。

駕籠は、見附宿に入った。
旅籠に入ったお蘭を見て、新九郎は「間違いねえ!間違うはずはねえ!」と言った。
部屋で茶を飲んでいたお蘭の手から、湯飲みが落ちる。

お蘭が立ち上がる。
新九郎が、お蘭の前にいた。
2人は見つめう。

お蘭がやっと、口を開いた。
「どうして…、どうして…」。
「俺も驚いた。駕籠で行くあんたを見てな、夢中でここまで駆けてきた」。

そして新九郎は「しかし何だ、その格好はどうして旅なんかしてるんだ。あんたれっきとした…」と言いかけた。
お蘭がその言葉をさえぎった。
「もうやめてください。昔の話は…」。
お蘭は新九郎から、顔をそむけた。

「あなたこそ、どうしてこんなところに。それにしてもその変わりよう。昔、千代田のお城の勘定方にお勤めしていた頃の片倉新九郎様とは、とても…」。
「上役といさかいを起こして、逐電したこの俺だ。所詮は宮づかいのタマじゃねえのさ」。
新九郎の言葉に、皮肉っぽい調子が混ざった。

「いいえ!わたくしは知っております。あなたは上役たちの不正を正して、お城を飛び出したのです。あなたが去った後、何名かのよからぬ重役たちは評定所でお裁

きを受けました」。
新九郎は息を呑んだ。
「そうか、嫌、それを聞いて…、ずっと気になっていたんだ。俺一人が割りを食ったたと思っていた」。

新九郎は肩の荷を降ろしたような表情になった。
「うむ」と、ため息をついた。
気が楽になった…」。

そして新九郎は、お蘭を見た。
「美しくなられたのう、お蘭どの」。
お蘭は目を伏せた。

「本来なら夫婦(めおと)になっていた、俺とあんただ。そうなっていたら今頃は2人の間に子供がいて、つつがなく暮らしていたはずだ」。
「どうした父上は。碁がお好きで、良く碁の相手をさせられた」。
「父は…、先年、他界いたしました」。
「そうか」。

「新九郎様、どうか、お引き取りください。歳月の流れた今となっては、昔をとやかく話し合っても、いたしかたありますまい」。
お蘭の口調は、きっぱりしていた。
「お蘭殿!」

驚いた新九郎が、お蘭を見つめる。
「新九郎様、どうか!」
お蘭の目は悲しそうだった。
新九郎は、お蘭をジッと見つめた。

お蘭の目には、うっすらと涙がにじんでいた。
それを見た新九郎は「わかった…、もう会うこともないな。邪魔した」とだけ言う。
新九郎は、立ち去った。
お蘭は一人、立ち尽くしていた。

袋井の本陣にやってきた新九郎は、酒を飲んでいた。
「やはり来たか」。
鮫島が入ってきた。

「高いぞ、俺の人斬り代は!」
「よかろう、だがあるいは、おぬしが負けるかも知れない相手だ」。
「かまわん!たとえ野に屍をさらしても嘆く奴も、泣く奴もいねえ!」

そこに、雷神衆の頭領の加東次が、狂四郎が見附宿にいることを知らせてきた。
江戸からの使いと会うのだ。

道を行くお蘭。金八と合流した。
だが江戸からの使者を見つけるとお蘭は、金八に離れているように言う。
お蘭が、使者に近づく。

「お使者の方、お蘭です」。
編み笠を深くかぶった男は、「密約書をこっちへもらおうか」と言った。
その口調に、お蘭がいぶかしげに眉をひそめる。

傍らの草むらに斬り捨てられた本物の使者が、いた。
四方から、上空から雷神衆が降りてくる。
お蘭は懐剣を構えたが、捕らえられる。

そしてお蘭は、一軒のあばら家につれてこられた。
加東次はお蘭の持っていた三味線を解体するが、密約書はなかった。
「ない!」

お蘭を柱に縛りつけると、眠狂四郎の居場所を言えと迫る。
「どこかねえ?口が裂けたって言えないよ!」
「このアマ!」

加東次の合図で、雷神たちがお蘭を鞘に収めた刀で突く。
その時、新九郎がやってきた。
「おぬしか」。
加東次が新九郎を見る。

「打て!もっと打て!」
振り向いた新九郎は、打たれているお蘭を見て驚く。
お蘭もまた、新九郎を見て驚くが、すぐに打たれて前を向いた。

次々、お蘭を打つ雷神衆に向かって新九郎が「やめろ!」と一喝する。
「つなぎの女が帰ってこなけりゃ、眠という男もどっかの穴倉から出てきて、探し出すだろう。どうせ、この近くだ。こっちから仕掛けててやろうじゃねえか」。
そう新九郎は言った。

加東次は「ようし、逃がすな」と言って出て行く。
だが動かない新九郎を見て、「あんたは行かんのか」と聞いた。
「わかってる!」

新九郎が出て行った後、2人の男が見張りとして残った。
美しいお蘭を見る、2人の目が光った。
「けけけっ」と男たちが笑って、お蘭のあごを持つ。

気丈なお蘭は男に唾を吐きかけると男はお蘭を突き飛ばし、のしかかった。
お蘭の顔が、苦痛にゆがむ。
その時、その男が背後から刺された。

新九郎だった。
抜いた刀で、新九郎はもう1人も斬り捨てる。
お蘭の縄を切ると、「行け!」と言う。

「新九郎様、どうして!」
「どうして!あんな奴らの一味なんかに!」
「ははは、落ちるところまで落ちてるのさ。今の俺は金のためなら、何だってやるんだ」。
新九郎は乾いた笑い声を立てた。

そして「あんた、眠狂四郎の女なのか!そうなんだな?!」と聞いた。
お蘭は新九郎に背を向けて、答えない。
「まあ、いいや。しかし困ったなあ…。あんたの男を斬らなくちゃならねんだ」。

お蘭が、振り向く。
「どっちが死ぬのが望みだ」。
お蘭は顔を背ける。

新九郎はいきなり、お蘭を抱きしめる。
「恨みっこなしにしてくれ。俺は眠って男を斬る。そうしたら…、俺はあんたを…。そしたら、俺の女になってくれるか!」
「どうなんだ!」

お蘭は新九郎を見つめる。
その目に涙が浮かぶ。
お蘭は、哀しみで一杯だった。
「どっちも…、どっちも嫌。どっちも生きていてほしい」。

「信じろよ。必ずやる。眠って男をしとめる」。
「お願い、このまま、どっかに行ってください。いいえ、私を一緒につれてってもいいから。だから!」
「鍼九郎様どうか…」。
新九郎は、お蘭を見つめる。

「眠に伝えろ。必ず俺が命をもらいに参上するとな」。
そして「奴らが戻ってくる、早々に行け」とお蘭に出て行くよう促した。
お蘭は、新九郎の背中を見つめる。

その頃、荒れ寺で金八が、お蘭を助けに行かない狂四郎に詰め寄っていた。
「行けば、墓穴を掘ることになる」。
それを聞いた金八は、「何言ってんの!お蘭さん、だんなのために働いてるんでしょ!」と叫んだ。

だが、狂四郎は少しも声の調子を変えずに言った。
「それは少し違う。お蘭はもともと、俺を見張るために差し向けられた女だ」。
「いや俺さ、旦那のそういう、裏っかたの方、よくわかんねえけどさ、お蘭さんの気持ちわかってやんなきゃ。一生懸命なんだから!」

「奴らの狙いはこの密書だ。これが俺の手中にある限り、お蘭は無事だ」。
「気休め言ったって、つかまえてんの向こうなんだからさ!」
「人の心配より早うmここを抜け出すことだ」。
「え?」

「奴らはここをつきとめて、いずれ襲ってくるだろう」。
それを聞いた金八は「それじゃ、俺、ここにいない方がいいよね?」と聞いた。
狂四郎がうなづくと、金八は逃げていく。

その通りに、雷神たちは荒れ寺にやってきた。
しかし、狂四郎ももう、いなかった。
「逃がしたか…」。

お蘭はふらふらになりながら、道を急ぐ。
その先に狂四郎を見つけたお蘭は「だんな!」と叫ぶ。
「お蘭、無事だったか」。

「旦那、逃げて!逃げてください。相手は江戸で鳴らした、神道無念流の使い手なんです」。
「相手を知っておるのか」。
お蘭はハッと、息を呑む。
「お蘭」。

お蘭は、うつむいた。
「今は何も聞かないでください。後生です、逃げてください」。
お蘭は狂四郎に、頭を下げる。

だが狂四郎は逃げない。
「自ら好んで阿修羅に生きるこの俺に、その言葉は無用だ」。
「お蘭、無理をするな。お前は自分の生きたいように生きればいい」。
「生きたいように…」。

そう言うと、狂四郎は歩いていく。
お蘭はその背中を見送る。
「旦那…。生きたいようにって、あたしが生きたい道は…」。
お蘭が涙ぐむ。

雷神が新九郎をつれて、狂四郎の襲撃に向かう。
暗闇の中、表に出た新九郎は、少し離れた木陰から自分を見つめるお蘭を見る。
「お蘭どの」。
新九郎が、お蘭に近づく。

「どうした?」
お蘭の唇が震える。
「案内します…。そこで…。決着を…」。

「あなたたちが今行こうとしたところには、もういないんです。ほんとに恨みっこなしです。どちらかが…、そしたら、私…。自分がはっきりするんです」。
「わかった。案内してくれ」。
お蘭が先に立ち、川べりの道を新九郎と歩く。

小川の流れが、背後に見える。
水面が光る。
お蘭が口をきく。

「私、娘の頃、あなたの花嫁になることばかり考えていました。ほんとに…身も心も綺麗なままで…。あなたにどうしたら、気に入られるかって…。男と女がこんな風にして出会うなんて。やっぱり会わないほうが良かったんです…。会わないほうが…」。
お蘭が、新九郎を振り返る。
目には涙が浮かんでいる。

お蘭を見つめる新九郎の目も、悲しそうだった。
新九郎の視線が、下がっていく。
お蘭の手には、小刀が握られていた。

突然、お蘭が新九郎の懐に飛び込む。
持っていた小刀が、新九郎の胸、深くに突き刺さる。
まったく抵抗せず、お蘭と、お蘭の刃を受け止めた新九郎。

お蘭が、驚いて見つめる。
「どうして…」。
「いいんだ」。
新九郎が、かすかに微笑む。

「これでいいんだよ…。どうせならお前に…」。
新九郎は倒れる。
2人の頭上の木の、花が散っている。
風が吹く。

その頃、旅籠にいた狂四郎の座敷に爆薬が投げ込まれる。
たちまち、座敷は炎に包まれた。
障子を破り、狂四郎は二階から地上に飛び降りた。

体を回転させ、狂四郎は脱出する。
旅籠が炎上する。
次々やってくる雷神衆。
狂四郎も、次々雷神衆を斬る。

雷神衆は、爆薬を投げてくる。
狂四郎は雷神の一人を盾にして、爆薬を防ぐ。
楯にされた雷神の背中で、火が燃える。

両側から、樽が転がってくる。
しかし狂四郎はヒラリと飛び上がると、樽は衝突して止まる。
狂四郎は、最後の2人を斬る。

今度は、鮫島が現れる。
刀を抜いて、構える。
正宗を持つ狂四郎の手が、頭上に上がる。

すらりと頭上に上げた正宗の切っ先を、今度はピタリとを地面に向ける。
刀の先が、キラリと光る。
徐々に刀が弧を描いて、上に上がっていく、。
狂四郎の周りを、刀の光が彩っていく。

その時、雷神の頭領の加東次と、最後の一人が襲って来る。
しかし狂四郎は2人を交わし、斬る。
斬りこんで来た鮫島も斬る。
鮫島が倒れ、狂四郎は刀を納める。

翌朝。
峠の茶店には、お蘭と狂四郎がいた。
「行くか。お蘭」。
「はい、江戸へ立ち戻ります。こうやって一度けじめをつけないと」。

狂四郎が自分が飲んでいた杯を、お蘭に渡す。
徳利を傾ける。
お蘭が狂四郎に、酒を注いでもらう。

酒が注ぎ終わると、お蘭がお辞儀をする。
ふと、狂四郎が立ち上がる。
傍らの萩の花を摘む。
そして、お蘭の持つ杯に浮かべてやる。

「旦那…」。
お蘭がうっすらと微笑む。
もうひとつの杯に狂四郎も、萩の花を浮かべ、飲み干す。
お蘭が杯を飲み干し、微笑む。

街道を行く狂四郎を、お蘭が見送る。
「縁が深くなりますように…」。
そっと、お蘭がつぶやく。

狂四郎の後姿を見送っていたお蘭は、江戸へ向かう。
2人は、背中合わせに離れていく。
ススキの穂が、日差しを浴びて、光って揺れていた。


松尾嘉代さん演じる密偵・お蘭。
綺麗だなあとは思っていましたが、今回のお蘭は本当に美しい。
狂四郎の杯に花を浮かべて、「縁が深くなるんですって」と言う。
「この俺と縁が深くなれば、地獄まで道連れになるぞ」。

いつも狂四郎と関わる女性は、死んでいくから。
巻き添えで、死ぬ人間も多い。
それを知っているお蘭は、「地の果てまでだって…」と答える。
お蘭の目が熱く、艶っぽい。

しかし、狂四郎は杯の酒を飲まない。
お蘭を死なせてしまうことになるかもしれないから。
「これ以上、死神を喜ばすこともあるまい」と、杯を置く。
物騒な会話の、でもとても美しいシーン。

そして狂四郎が最初に出会った、すさみきった浪人。
これがお蘭の元・許婚だった。
演じるは、ウルトラセブンこと、森次晃嗣さん。

本当は腕が立つのに、博打で負けたからと言いなりに縛られていたらしい。
狂四郎は武士とはもう言えないと言ったけど、こういう律儀さはやっぱり、ならず者ではなくて、武士らしい。
金のためなら何でもやると言いながら、あんまり凶悪さは感じない。

襲ってくるヤクザに向かって、これは俺のケンカだと言って、金八を逃がすのも武士らしい。
恩に着るよ!と言って逃げる金八もおかしい。
卑怯なヤクザに向かって金八の「のみ、しらみ!」も、おかしい。
アドリブかと思ってしまう。

さて、助けてもらった礼に金八は新九郎を誘う。
勝った金で金八は遊ぶが、新九郎は遊ばない。
一人でいて、昔、女が教えてくれたと言って、花を浮かべて酒を飲む。

ここでわかる。
あ、お蘭の元恋人だって。
しかも、お蘭のことをこの人はまだ好きだ、って。

賭場で勝った金を追って来たヤクザから金八を守って、新九郎と金八は関わりあう。
そして新九郎は、狂四郎とも関わってる。
さらに鮫島がスカウトに来たことで、狂四郎と命のやり取りをすることになる…、はずだった。

この鮫島に向かって新九郎、「金に困ってないか、見りゃわかるだろ!」と投げやりな答えをする。
すると小判を放り投げる鮫島。
仕官ではないというところが、傲慢。

金のためなら何でもやると言っておきながら、新九郎は落ちるところまで落ちた自分が嫌だと思っている。
それでも金を拾う自分が、嫌だ。
この人は正義感の強い、立派な武士だったんだとわかる。
だからこそ、今の境遇がものすごくつらいだろうと思う。

使者が殺されたことでお蘭は捕らえられ、新九郎と再び会うことになる。
新九郎は、お蘭のピンチを救い、そして今のお蘭の狂四郎への思いを察する。
金で請け負った殺しだったが、新九郎にとって狂四郎との勝負はそれ以上のものになった。

もし、狂四郎を殺したら、一緒になってくれ!と叫ぶ新九郎。
お蘭が一緒になってくれるなら、この暮らしから立ち直ってみせる。
そう思っているように聞こえる。

どちらが死ぬのも嫌だ。
ならば自分を連れ去ってくれて、かまわない。
お蘭の表情が、美しく、切ない。
狂四郎と新九郎はお互いそれと走らずにお蘭をめぐって、そして金で命のやり取りもすることになった。

そこでお蘭は狂四郎に会う。
一見冷たく、突き放しているような狂四郎。
しかし狂四郎はお蘭に、「好きなように生きろ」と言う。

お蘭の好きなように生きろ。
無理をするなと。
そんなことを言ってくれる男は、おそらくいなかったに違いない。

ここでお蘭の心は、ピタリと決まったんだと思う。
殺したら自分のところに来てくれと言った新九郎と、好きなように生きろと言った狂四郎の違いをお蘭は感じたんだと思う。
今の自分がついていくのは、狂四郎だ。
自分で自分の過去にけじめをつけよう、と決心した。

この時のお蘭の悲しそうな、美しい表情。
松尾さんがとても綺麗。
新九郎もまた、お蘭が自分を刺すのを、無抵抗で受け入れる。
驚くお蘭。

どうせ落ちてしまった自分はいずれ、ろくでもない殺され方をするだろう。
ならば、お蘭の手にかかって死にたい。
武士として、男として、新九郎はやはり立派であったのだ。

森次さんの悲しい、そして深い愛を感じる表情。
お蘭と新九郎は、どこか似ていたのかもしれない。
平和な生活であったら、良い夫婦だっただろう…。

今回、奇妙な縁で狂四郎と、新九郎と、お蘭と、金八は全員顔見知りになっている。
しかし結局、狂四郎と新九郎はその後、顔をあわすことはなかった。
最後まで、相手の素性がわかっているのは、お蘭と新九郎だけ。

他は誰も自分とどういう縁があったのかは知らないまま、永遠に別れている。
もう、永遠に誰も、知ることはない。
ここがすごく切ない。
運命と言うか、人の縁って何だろうって思わせる。

最後に、杯を拒否した狂四郎が自らお蘭に教えられたように、花を浮かべて杯を飲み干す。
去っていく狂四郎の背中を見つめるお蘭に、後悔はない。
右と左に分かれながら、お蘭がつぶやく。

縁が深くなりますように…。
光るススキの穂と、お蘭と、萩の花と、狂四郎。
美しく、切ないラストシーン。


あいにく三途の川が川止めでな 「眠狂四郎 円月殺法」第11話

第11話、「姫君みだれ舞い妖艶剣 藤枝の巻」。


大井川の渡しで、渡し人たちが狂四郎を川渡ししていた。
彼らの噂によると、急ぎ渡しは狂四郎で3人目だと言う。
1人は鳥追い姿の、きりっとした女性。
もう1人は、でくの坊みたいなへの字眉の男で、2人が連れとはわからない。

1人が、それよりも本陣宿に止まっている阿波藩の行列がかわいそうだと言う。
大事を取った道中奉行の配慮でずっと、足止めだ。
挙句の果てに、この川止めなのだ。
だがどうせ、金に困らない大名なのだから、ゆっくり逗留してもらおうと1人は笑った。

岸についた狂四郎の行く手に、金谷宿の札が見えた。
山道を歩く狂四郎に向かって、女の笑い声が聞こえてきた。
そして、分銅をつけた紐が投げられた。
狂四郎がつかむと、紐を投げた者が現れた。

「かかった。ふふふ、獲物が罠にかかった。逃すまい。もはや逃しはせん」。
そう言って現れたのは、若い美しい姫だった。
「正気かお前は。それとも魔性か物の怪の類か」。

「物の怪は、その方であろう。わらわがこの場にて成敗して、魔界とやらに送り返してやろう」。
姫はそう言うと、紐を手繰り寄せ始めた。
狂四郎は姫を見据えると、突然、紐の力を抜いた。
姫が勢いの行き場を失って、倒れる。

「おのれ。その方、何をする!」
姫は懐剣を抜いて襲い掛かるが、狂四郎に押さえつけられてしまう。
「どちらが魔性か、その正体を暴いてくれるわ」。
狂四郎はそう言うと、姫の胸元に手を入れた。

「ひいさまー」という声がして、腰元や家来たちが姫を探しに来た。
狂四郎を見つけた腰元たちが近寄り、「その方、ひい様に何をする」「下がれ無礼者!」と言った。
「このお方はさる大身の、やんごとなきお方であらせられるぞ!」

姫が「この者がわらわを辱めた。屈辱を晴らせ!こやつを斬り捨てい!」と叫ぶ。
刀を抜く者たちに狂四郎は、「やめておけ。元はと言えば、その姫とやらの戯れが過ぎたゆえだ」と静かに言う。
「それほど大事な姫なら、野に放たず、籠に入れてしまっておけ!」
色めきたつ家来たち。

その時、家老が来て、みなをたしなめた。
「じい、何をしにまいったのじゃ」。
「姫様、お立場をお考えください」。

家老は、阿波藩の家老・勝俣雅楽と名乗り、狂四郎に謝った。
姫は阿波藩の貴世、貴世姫であった。
「今の息女、不憫と思わねばなるまいな」。
「それは…。いかようにも」。

狂四郎はうなづき、去っていく。
「あいや、ご浪士。名のあるお方か」と勝俣が呼び止める。
狂四郎は「阿波藩蜂須賀家なら存知よりのはず。西国13藩謀議切り崩しのために旅をしている、眠狂四郎だ」と名乗った。

「なんと!あやつが、狂四郎…!」
勝俣が驚愕する。
狂四郎は西国の藩にとっては、敵ではないのか。

道を行くお蘭の後を、金八が追いかけても懸命に口説いていた。
だがお蘭は、見向きもしない。
茶店に来たお蘭は、離れたところで話している島津の武士3人に気づいた。
お蘭は狂四郎に知らせに、そこを離れた。

金谷宿の本陣宿では、阿波藩貴世姫が宿泊していた。
都田水心もそこにおり、家老の勝俣は狂四郎がいたことを知らせていた。
阿波藩の面子にかけても、狂四郎を討つべきだと水心は言うが、勝俣としてはそれより一日も早く江戸に向かい、将軍家第40番目の和歌気味との婚礼を無事に済ませ、蜂須賀家の礎を築くことしか頭にない。

国許を立った時は、良かった。
だが江戸に近づくに連れ、貴世姫の乱行はひどくなった。
外から水心にも男の悲鳴が、聞こえてきた。

庭では寝間姿の男が、頼むから返してくれと腰元2人に懇願していた。
男はもうあんな化け物は見たくないと逃げ出した。
その逃げた先に、貴世姫がいた。

「わらわを化け物と申したな」。
恐れ入って、男は土下座した。
だが姫は「行くが良い。その方にもう、用はない」と言い放った。

男が頭を下げて去ろうとした時、貴世姫は男を刺し殺した。
倒れた男に貴世は、執拗に刀を差した。
「ひい様、お見事にございます」と、腰元が言った。
水心は「ご家老、これは?」と驚いて、尋ねた。

宿屋の主人・蔵三が、狂四郎に挨拶にみえた。
女でも呼ぼうかという蔵三の誘いを、狂四郎は断った。
「さようでございますか」。
出かける狂四郎を見て蔵三は、不気味な笑みを浮かべていた。

お蘭は狂四郎にこの宿が不吉だから、早く出ようと言っていた。
狂四郎を心配するお蘭を、狂四郎はじっと見つめた。
気づいたお蘭は、「だってこうやって、道中一緒にやってたらどうしたって情が移るでしょう」と言った。

「お蘭。飲むか」と、狂四郎は杯をお蘭に差し出した。
「いただきます」と、お蘭はうれしそうに受けた。
その時、不機嫌そうに金八がふすまを開けた。
金八はすねていた。

それでも金八は、阿波藩の行列の主の貴世姫が、将軍家の若君と見合いをするためにここに来ていることを話した。
「その姫ならもう会った」。
「会った?!」

さらにその姫は、少し頭がおかしいと金八が言う。
金八が姫は本当におかしいのか聞くと、狂四郎は「何とも言えんな」と言った。
それと、金八が聞いたところによると、姫は男に狂っており、旅の男を連れ込むらしい。

「まるで千姫御殿じゃないか」と、お蘭が言う。
さらに怖ろしいのは、男が逃げようとすると、ばっさりやってしまうことらしい。
お蘭は不吉なものを感じて、狂四郎を見る。

貴世姫は、腰元2人に入浴をさせてもらっていた。
「男なら誰でも良い、さらってまいれ」と貴世姫は2人に命じた。
「わらわには、慰めがのうてはならぬ」。

女郎屋に行き、上がりこむ金八を腰元2人はじっと見つめていた。
部屋に上がった金八が振り向くと、来たのは腰元2人だった。
店とは話をつけたので、自分たちと参られと言う。
「悪いようには、いたさぬゆえ」。

酒も料理も女も揃っていると言われ、金八は連れ出された。
目隠しをされ、駕籠に乗せられた金八は屋敷に連れ込まれ、風呂に入れられた。
寝間に着替えさせられ、香を炊いている部屋で布団の上で待っている金八はさすがに、なんだろうと思い始めていた。

すると戸が開き、貴世姫が現れた。
その言葉遣いに、金八は異様なものを感じた。
「わらわって、まさか…」。

「ひい様とか、わらわって、わかった!ここ阿波の本陣宿!」
そして相手は千姫もどき…。
金八は理解したが、もう遅かった。

お蘭が、どうやら金八が貴世姫の毒牙にかかったと狂四郎に知らせに来た。
あんなやつでも見殺しにすることは…、金八はどこか憎めないと、お蘭は救出を頼む蘭。
雨が降ってきた。

薩摩の島本、森田、松浦の3人は、雨の中、宿屋の主人の蔵三をを待っていた。
実は宿屋の主人は、表の顔。
蔵三は裏では、殺しを請け負う影の元締めだった。
一声で50人は集まる、眠狂四郎などと蔵三は言い、狂四郎殺しは引き受けたと金を受け取った。

雨が上がり、庭に出た水心は、池のほとりにいる金八を見つけて声をかけた。
すっかりいい気分になった金八を見た水心は、金八はやがて殺されると確信した。
だがその前に、金八を利用しない手はないと思い始める。

屋敷の様子を伺いに来たお蘭に、屋敷から出てきた水心が気づいた。
眠に親切を売りに行こうと思っていたと言って、水心は金八が屋敷におり、やがては殺されるであろうと伝えた。
お蘭が去るのを見た水心は、勝俣に狂四郎を討つことを勧める。
だが勝俣は、色よい返事をしない。

眠狂四郎を倒すため、裏三は殺し屋たち十数人を集めた。
いまだに円月殺法を破った者は、いない。
心してかかれといわれた殺し屋たちは、うなづいた。

貴世姫が鏡を覗き込んでいると、背後に狂四郎が映った。
振り返った貴世姫に狂四郎は、「この俺をはっきりと覚えているようだな。その目。どう見ても正気の人間だ」と言った。
懐剣を手にしようとした貴世姫を捕らえた狂四郎は、「何のために狂気を装う!将軍家との縁組を拒むためか。気にそぐわぬ縁談を断るためか!だが、そのために

罪もない旅人を手にかけた咎はどうなる!」と言った。

貴世姫は、唇を噛んだ。
「この後、愚かな真似はやめることだ。将軍家との縁組が嫌なら、25万石をかけて真っ向から断ればどうだ!」
「黙れ!その方ごときに何がわかる!わらわが狂気を装いしは、その方が推量のとおりじゃ」。

「だが…、やめられなくなったのじゃ。狂気の真似が、のう。狂気を装い男を伽にしての、勝手な振る舞いが楽しゅうて、やめられなくなったのじゃ。世にこれほど楽しいことはない」。
そして貴世姫は「江戸に参るまでに、何人の男を篭絡できるかのう」と笑った。
「わらわの前では男たちは哀れな虫けらじゃ」。
そう言って、貴世姫は狂四郎を見た。

「その方も男であろう。ただの男であろう。さすれば、わらわを抱きたくて参ったのであろう。許す。伽を許すゆえ、抱くが良い。さあ、ひれ伏してわらわのしもべになるのじゃ」。
狂四郎は、貴世姫を見つめる。
その動かない、哀れみを含んだ表情に思わず、貴世姫は懐剣を突き出した。

しかし狂四郎は懐剣を持つ手を握り締めると、懐剣を取り上げ、放り出した。
懐剣は床みに刺さった。
狂四郎はその床に、貴世姫を放り投げた。
「きゃあっ」。

悲鳴をあげて、貴世姫が頬を押さえた。
頬からは、鮮血が流れた。
「わらわの顔が…、わらわの顔が!」
「じい!じいーっ!」

姫の叫びを勝俣が聞き、駆けつけた。
「眠だ!ご家老!」
水心が立ち上がる。

この騒ぎの最中、お蘭が腰元2人を気絶させ、金八を連れ出す。
まだ夢うつつの金八をひっぱたき、お蘭の頭のおかしい姫様にいけにえにされるとの一言で金八は一緒に逃げ出した。
頬を押さえた貴世姫は、いつかの無頼の男にやられたと訴えた。

「眠狂四郎」と、水心は言った。
狂乱する姫に勝俣は、「なにとぞ、心安らかに、このじいがついておりますには、悪いようにはいたしませぬ!」と止めた。
だが姫は、「あの男生かしてはおかぬ。地の果てまで追い詰めても、あやつの命を!」と言うばかりだった。

宿場中、役人があふれて、アリのはいでる隙間もないと金八が言う。
お蘭は金八に、狂四郎が姫の顔を切ったと教える。
街道は、木戸まで閉められてしまった。

お蘭と金八に向かって狂四郎は、狙いは自分だから、お蘭と金八は夫婦者を装って宿場を出ろと言った。
「だんなは?」
「案ずるな。縁があったら又会おう」。
「そんな」。

「いいから行け」。
そう、狂四郎に言われたお蘭は「じゃ、だんな、待ってますよ。先の宿場で。だからきっと」と狂四郎を見つめた。
狂四郎もまた、お蘭を見つめる。

「きっと、来てくださいよ…」。
狂四郎は、かすかにうなづく。
お蘭は金八を連れて、宿場から出る。

阿波藩の武士が狂四郎を探すのを、島本と蔵三は見ていた。
これを利用しない手はない。
蔵三は眠狂四郎を探すように、殺し屋たちに命じた。
勝俣の前に、狂四郎が現れた。

狂四郎は言う。
「貴世姫は将軍家との縁組を嫌い、それが為の偽りの狂気乱行であったことを、おぬしは見抜けなかったのか」。
「まことか、それは。狂気の噂を立てるための芝居だったと申すのか」。
「はじめのうちはな」。

「どういうことだ」。
「貴世姫は、生まれながらに狂気を持っている。いや、あるいはその振りをしているうちに、まことの狂気になったのかもしれぬ。今は歯止めがきかなくなった。おぬしが諌めるほか、手はあるまい」。
「それを知らせに、わざわざ参ったのか」。

「このまま乱行が続けば身を。いや、阿波25万石を潰してしまうぞ。こんなことで阿波藩を潰してしまえば、俺の楽しみがなくなる」。
狂四郎は薄く笑うと、去っていく。
その背後を、蔵三が見ていた。

本陣宿に入ろうとする腰元を、蔵三が呼び止めた。
眠狂四郎を見かけたのを知らせに来たと、教える。
「あの男の居場所が、わかったのじゃな!仕度をいたせ!わらわが、じきじきに参る!」と貴世姫は叫んだ。

「姫!それはなりませぬ。どうか、じいの言うことをお聞きくださいませ」と勝俣は言ったが、貴世姫は聞き入れない。
安達が原を行く狂四郎の前に、般若の面をつけた貴世姫が現れた。
「眠狂四郎、そなたの命、貰い受ける」。
そう言うと姫は、刀を抜いた。

「おもてをつけねば、外に出られぬ化け物になったか。それも今までしでかした、悪行の報いと思え」。
狂四郎の言葉に貴世姫は、「ええい!死ね!」と叫び、飛び掛った。
そこに勝俣が現れた。

「姫!もうこの上の乱行はおやめください!じいは何もかも承知しております!そのお怪我で江戸へ行くことも、のうなりました!国おもてに立ち戻り、静かにお暮らしください」。
だが、貴世姫は「どけ、じい!その方とて、容赦はせぬぞ」と叫ぶ。
「お気のすむようになされませ。じいは、一歩もひきませぬぞ」。

「うつけ者!どかぬか!」
「姫、おやめくださいませ!」
蔵三の「今だ」、の声で槍が投げられる。

狂四郎は避けたが、姫をかばった勝俣は倒れた。
「じい!」と、貴世姫が叫ぶ。
虫の息の勝俣は狂四郎に「どうか、どうか姫を…、眠様」と言って倒れた。
「じい!」

蔵三に率いられた殺し屋たちが、姿を現す。
「貴様は薩摩の回し者だったのか」。
「殺すには惜しい男だが、あの世へ行ってもらおうか」と、蔵三が言う。
「あいにく、三途の川が川止めでな。行くに行けぬわ」。

「ぶっ殺せ!」
狂四郎が正宗を抜く。
切っ先が弧を描いて、上がっていく。
円月殺法。

狂四郎の刀が止まった時、近くにいた4人が襲い掛かってくる。
あっという間に、狂四郎は叩き斬る。
3人。
2人。

また2人。
一太刀で斬っていく。
狂四郎に向かって、左右から鎖が投げられた。

鎖は狂四郎に巻きつき、両手が広がった。
正面には、蔵三がいた。
蔵三が刀を抜く。
突進してきた。

だが狂四郎は、垂直に飛び上がった。
蔵三を交わすと、左右の男たちを斬り、返す刀で蔵三を斬った。
正宗を納めると、姫を見た。

顔にくっくりと一文字に赤い斬り跡をつけた貴世姫は、勝俣の遺体を前に座り込んでいた。
「その男は、バカなお前をかばって死んだ。目には見えぬが、その男はお前の影であったはずだ。影を失ったお前は1人で生きていかねばならぬ」。
呆然としていた貴世姫は、懐剣を手にした。
一瞬、姫は息を呑む。

狂四郎は去っていく。
ううっと貴世姫の声がして、姫が地面に伏せる。
狂四郎は振り返りもせず、去っていく。

貴世姫は、勝俣の背に寄り添うようにして自害して果てていた。
金谷宿を脱出した金八は相変わらずお蘭を口説いていたが、お蘭は機嫌が悪かった。
狂四郎は1人、舟で次の宿場に向かっていた。



これもまた、「新・仕置人」の「男狩無用」の元ねたかな?と思うような話でした。
「新・仕置人」では連れ込まれるのは、鉄ちゃんでした。
ここでは正八ならぬ、金八。
火野正平さんですね。

最初から狂四郎は、貴世姫にはきつい。
どうも嫌いな女性らしい。
いや、好きな人はいないでしょうが。
綺麗な姫なんですけどね。

ところが、狂四郎は貴世姫の真意を見抜いていた。
そうか、気の進まない将軍家との縁組っていうのは、姫にとってもつらいことなんだ。
だったら、向こうから嫌われるようにしよう。

しかし、そのうち、貴世姫の狂気は本物になってしまった。
実は最初から狂気を秘めていたのか。
いわゆる、シリアルキラーでしょうか。
人さえ殺さなかったら、狂四郎もあそこまできついことはしなかっただろうに。

狂四郎に向かって、わらわのしもべとなれ!は、怖ろしすぎる。
知らないって、怖いわねえ…。
金八はノコノコ乗ってしまったが、狂四郎は実はストイックなのだった。

相手は自分で選ぶ!
そんな口利くから、顔傷つけられちゃった…、って実はこれ、貴世姫の乱行を止める唯一の手段だった。
同時に、罪もない男性たちを自分の勝手で命を奪った貴世姫への報いだった。

西国の大身にとって敵の存在の狂四郎だが、勝俣は狂四郎の真意を知る。
口では「潰れたら楽しくなくなる」と言うが、狂四郎は実は藩が取り潰されるのを防いでくれているのだ。
そのためにも姫を止めようとしてくれたのだと。

狂四郎が姫の顔を傷つけたことで、縁組はなくなったも同然。
もう、狂気を装うことはしなくていい。
国で心安らかに暮らせる。

だが狂四郎への復讐に執着した貴世姫は、破滅する。
本当に大切な存在を失って、その喪失感に貴世姫はやっと気づく。
何度も何度も、チャンスはもらったはず。
そのたび、自分でそれを潰してきた。

気づいた貴世姫には、もう、乱行をする気力もなかった。
自分の愚かさに、姫は自ら命を絶つ。
ううむ、これ、表向きは病死とかなんだろうな。

止めもしない狂四郎。
貴世姫への報いか。
それとももう、貴世姫は生きる屍となるからか。

殺し屋の元締めは、山本昌平さん。
うひゃー、怖い宿屋の主人。
彼が出迎えてきたら、回れ右して帰っちゃう。
いやいや、実は人がとっても良い場合もあるぞ…。


つまらんことを言うな 「眠狂四郎 円月殺法」第10話

第10話、「無頼子連れ旅必殺剣 府中の巻」。
9話が、録画が見当たらなくて、飛ばしてすみません。
見たんですけどね。
山田五十鈴さんがゲスト。

火事ではぐれた母親と、盗賊に拾われ、再会した時は役人をあやめてしまい、死罪を待つ息子。
盗賊と離れて、一人で生きて行けとの忠告も届かず、盗賊たちを斬ってやるしかなかった狂四郎。
三味線の別れの音が悲しい、親子の別れの回でした。



海が近い茶店で、休みを取っていた狂四郎。
そこに老人に連れられた幼い少女が、やってきた。
「もうじき、母ちゃんとも合えるからな。うれしいか?」
少女は狂四郎にも、笑いかけた。

狂四郎の顔にも、うっすら微笑みかける。
そこに六部姿の数人の刺客が、襲い掛かる。
「眠狂四郎、覚悟!」

あわてて少女をかばって伏せた老人の背にも、刺客の刃が浴びせられた。
驚きと怒りで、狂四郎が振り向く。
「己ら、罪もない行きずりりの人を!」

「おじいちゃん、おじいちゃん!」
少女が、すがりつく。
全員を斬り捨てた狂四郎が、老人に駆け寄る

「しっかりしろ!思わぬ巻き添えにしてしまって、許してくれ!」
「お、おねげえで、ご、ごぜえます」。
「聞こう!」

「府中の彌勒町、万亀楼という女郎屋で、この子の母親が…。名はおすみ」。
「万亀楼のおすみだな」。
「こ、この子と、この金を」と言って、老人が懐から胴巻きを出す。

「み、身請けの金でごぜえます!」
「この金と、この子を届けてくれと言うのか」。
「おじいちゃん!」

「ちよ。お、おねげえでごぜえます」。
「おじいちゃん!」
「引き受けた。安心するがいい!」

「おじいちゃん!」
ちよが叫ぶ中、老人は息絶えてしまった。
「おじいちゃん、おじいちゃん」とすがりつき、ちよは泣いた。

「オヤジ」と、狂四郎は茶店のオヤジに声をかけた。
「はい」。
「この年寄りを葬ってやりたい。手を貸してくれ」。
「へ、へい」。

号泣するちよ。
海辺の近くに、石を墓標にした墓ができた。
線香の前で、ちよは手を合わせる。
狂四郎は茶店のオヤジに金を渡し、「六部たちの死骸は、いずれ仲間たちが引き取りに来るだろう。聞かれたら見たままを話すがいい」と言った。

そして、ちよに「確か、ちよといったな。そなたの母に会いに行こう」と声をかけた。
だがちよは狂四郎を見て、後ずさりしていく。
「母に会いたくはないのか」。
ちよは答えなかった。

しかし狂四郎が歩くと、ちよは離れて後をついていく。
狂四郎がいなくなると、茶店のオヤジの顔つきが変わった。
草むらに分け入ると、手足を縛られた本物の茶店のオヤジがうめいていた。

男は籠を手に取ると、手紙を小さなこよりにしたため、駕籠の中の鳩の足に結び付けて飛ばした。
街道を狂四郎と、その後ろを小さなちよがついていく。
狂四郎が足を止めて振り返ると、ちよが空を見ている。
ちよが指差した先には、鳩が飛んでいた。

鳩は薩摩の藩士・島本、森田、松浦の下へ飛んだ。
手紙を読んだ藩士は、眠狂四郎が府中に入ってくることを知った。
幼い女の子を伴い、彌勒町の万亀楼という女郎屋に来る。

何とか手を打とうと言った時、旅の坊主姿の男が現れた。
島本、森田、松浦のたちは「聞いていたな!」と言って、男に斬りかかった。
坊主は持っていた錫杖から、仕込み杖を抜いた。

それを見て「待て!」と一人が言った。
「貴殿か。居合いにかけては関八州に向かうものなしと言われた、暗闇の重兵衛とは」。
坊主姿の男は、新たな刺客だったのだ。

府中宿についた狂四郎はちよを連れて、万亀楼に向かった。
女郎たちが誘い、子供は預かるからと言う。
その一人に、この店におすみという女はいるかと狂四郎は尋ねた。
すると声をかけた女郎が、「おすみ?墨染めさんのことかい?墨染めさんならもういないよ」と言った。

「どうした?」
「身請けされちまったのさ。代わりに、あたいじゃどうだい?」
狂四郎は、ちよを見た。
万亀楼の中に入る。

楼主は、父親が百姓をしているのは知っていたが、墨染めに子供がいたとは知らなかったと言った。
「一足違いでございました。こんなこととわかっていたら、断りようもあったのでございますが」。
狂四郎は、身請けした客の身元を教えてくれと言った。

老人の遺髪を届け、それからちよの身の振り方もつけてやらなければならぬと狂四郎は言った。
おすみを身請けしたのは、鞠子の宿で麦とろの店を開いている、和助という男だった。
以前から、墨染めのところにあがっていたと言う。

山道を、おすみを乗せた駕籠が行く。
傍らには和助が付き添っていた。
潜んでいた藩士が「おい、麦とろ屋の和助が来たぞ」と言う。
そして「バカなやつだ。我らの手立てに利用されておるとも知らずに」と笑った。

駕籠がおすみを乗せて近づいてくる。
だが駕籠の中のおすみは、笑っていなかった。
和助が「駕籠屋さん止めておくれ」と言って、和助は重兵衛さまですか?と重兵衛たちに近づいてきた。

おすみを、預かった金で身請けしてきたと言った。
「これから、どうすればよろしいので?」
「何もせんでいい」。
「え?」

「お前の役目は、これで終わったと言うことだ」。
そう言うと、重兵衛は和助を殺してしまう。
重兵衛は、逃げ出した駕篭かきも斬った。
おすみはおびえ切って、駕籠に引きこもった。

そのおすみに、重兵衛が話しかけた。
「言うとおりにすれば、命はとらん。娘に会いたければ」。
「どうして、子供のことを?!」と、おすみは驚いた。
「娘の名前はちよ。年は?」と、重兵衛が聞いた。

「いつつでございます」。
「お前に会いに、府中の城下まで来ている。会いたいか?」
おすみの顔色が変わった。

「それはもう!3年前に別れたきりでございます。もう1日だって、ちよのことを忘れたことはございません。どうぞ、ひと目なりとも会わせてくださいませ!お願いいたします」。
「指図どおりにすると言うのだな」。
「はい、いたします。ちよに会わせてくれるのなら、たとえどんなことでもいたします」。
「よし、そのまま駕籠に乗っておれ」。

重兵衛は、女を鞠子の宿まで連れて行けと言った。
万亀楼を出た狂四郎は、ちよに「そなたの母は鞠子の宿にいるそうだ。これから夜道をかけて鞠子まで行くか」と聞いた。
ちよは、こっくりとうなづいた。

狂四郎の後を、ちよがついていく様子を薩摩の藩士が見ていた。
歩き始めた狂四郎だが、ちよがうずくまる。
「どうした?疲れたのか?」と言って、狂四郎がちよの額に手をやる。
「熱がある」。

狂四郎はちよを抱きかかえると、一軒の旅籠に入った。
「世話になる」。
それを見た藩士は自分は旅籠を見張る、といって一人を伝令に行かせた。
狂四郎は医者を呼んでほしいと、仲居に頼んだ。

やってきた医者はただの風邪だと言ってて、熱さえ下がれば案ずることはないと言う。
薬を渡し、暖かくして、ゆっくり休ませるように言うと帰っていく。
その頃、伝令は狂四郎が旅籠に止まったことを知らせる。

藩士は「襲うか?」と言ったが、狂四郎はいずれ鞠子に向かう。
その時襲えばよいと言って、引き上げた。
狂四郎は、ちよの頭の手ぬぐいを絞り、冷やし続けた。

その時、隣の部屋から「もし」と女の声がかかった。
声をかけた女はおしまといい、仲居から隣の部屋の子供の具合が悪いと聞いたので、様子を伺いに来たと言った。
「かわいい顔をして。だんなのお子さんですか?」

ちよを見たおしまは、そう聞いた。
「いいや」。
「だんな、何か私にお手伝いできることがありましたら、遠慮なくおっしゃってくださいまし」。

「そうか。では悪いがこの水を取り替えてきてくれ」。
「はいはい」。
狂四郎がおしまを、じっと見送る。

おしまが井戸で水を汲んでいると藩士が来て、「女、隣の浪人の様子はどうだ?」と聞いた。
連れの子供が熱を出しているから、その看病をしている。
熱が下がるまでは出発はできないだろうとおしまが言うと、藩士は礼を言い、自分のことは黙っているように言うと引き上げていった。
「あ、あの?」と、おしまが戸惑う。

おしまが桶に水を汲んで戻ってくる。
狂四郎は「すまん」と言った。
おしまは自分が子供は見ているから、狂四郎は休んでくれと言った。

「たいそう気が利くな」。
「察しがいいでしょ。あたしもお酒は好きなほうで」。
おしまは手ぬぐいを水に浸し、絞る。

ちよの顔を見ると「よく眠って。何の夢見てるんだろう」と言った。
狂四郎は酒を飲み、「地酒にしてはなかなかいい味だ」と言う。
「一杯付き合わんか」。
「いただきます」。

狂四郎に酒を注がれて、おしまは飲んだ。
おしまもまた、狂四郎に酒を注いだ。
狂四郎は、ちよの親のことを聞うたたおしまに、和助の話をした。
すると、おしまはその麦とろの店「ひさご屋」を知っていた。

この辺りは良く商いで行き来しているからと言うおしまに狂四郎は「何の商いだ?」と聞いた。
「まあ、いろいろと」。
しかし相手がひさごやの主人なら、ちよにとっても幸せだとおしまは言う。
ひさご屋の主人に妻はないしく、子供もないので、きっとちよを引き取ってくれる。

「そうなれば、何よりだが」。
「そうなるに決まってますよ。いえ、母親がそうせずにはおきませんよ。だって自分のお腹を痛めた子供じゃありませんか!わが子の顔を見たら、手放せるもんじゃありません!母親ってそういうものです!」
おしまの激しい口調に、狂四郎はおしまの顔を見る。

はっとしたおしまは、ごまかすように笑った。
そしてまた、ちよの手ぬぐいを替えた。
ちよの額に手をやると「だんな!この子、この子、熱が下がってます」と言う。
狂四郎もちよの額に手をやり、うなづいた。

その夜、ちよの傍らで目を閉じる狂四郎に「だんな?」「だんな」と、おしまが声をかける。
「だんな」。
返事がないので、おしまはそっと部屋に入ってくる。

そして狂四郎の持っていた、ちよの母親の身請けの金が入っている胴巻きに手を伸ばした。
重みを確かめるように持ち上げた時、ちよが「おかあちゃーん」と寝言を言った。
おしまは、はっとする。

自分の手を押さえると、おしまは胴巻きを元に戻した。
おしまが戻っていく。
すると、狂四郎が口を開いた。
「おしま」。

「お前には、子があるのではないか。私を酒に酔わせ、眠らせあの胴巻きを盗もうとした。だがこの子が夢うつつに母を慕うさまを見て、お前は盗むことができなくなった、違うか」。
「だんな…、おっしゃるとおりですよ。私には生きていたらちょうど、そのこと同じ年ぐらいの女の子がありました。でも…あたしは、その子をたった一人のわが子を自分で殺してしまったんです」。
おしまは語り始めた。

子供が3つになった年だった。
おしまは乳を飲ませ、添い寝をしていた。
昼間の疲れから、おしまがうつらうつらしてハッと目を覚ましたとき、子供は冷たくなっていた。

おしまが、窒息させてしまったのだ。
「だんなに子殺しの罪にさいなまれて生きていく母親の気持ち、おわかりになりますか?」と、おしまは涙声で訴えた。
「行き着く果ては、ごらんのとおり。女だてらの道中師。私、今でも時々、死んだ子の夢を見るんですよ。夢の中の子供、だんだん大きくなって」。

「ちょうど、この、ちよちゃんぐらいになって」。
おしまは泣き崩れた。
狂四郎は黙っていた。

翌朝早く、狂四郎とちよは旅籠を出た。
仲居が見送る中、ちよがにっこり笑って、狂四郎に手を伸ばした。
狂四郎もかすかに笑い、ちよと手をつないだ。

その様子を、薩摩の藩士が見ていた。
知らせを受け、藩士は麦とろ屋に行くものと、道中待ち受けるものの二手に分かれた。
待ち受ける男が言った。

昨日、仲間が5人でかかって、一人残らず斬られた。
尋常の手段では討てまい。
鉄砲で狙い打とう、砲術にはいささかの心得があると一人が言い、一人がうなづいた。

目を覚ましたおしまは「だんな」と言って、狂四郎たちがいた部屋のふすまを明けたが、誰もいなかった。
「黙って行っちゃうなんて、薄情な人」と、おしまはためいきをついた。
狂四郎はちよの手を握り、2人は街道を歩く。

物陰から、「来たぞ」と言って藩士が狙いをつける。
狂四郎が気配を察した。
「あ、お花だ!」と、ちよが道端に走った時だった。
「危ない!」

狂四郎が駆け寄る。
駆け寄った狂四郎は、肩を撃たれた。
狂四郎が倒れた。

「おじちゃん!」
ちよが叫ぶ。
刀を抜いて、2人が近づいてくる。

突然、起き上がった狂四郎は、2人を斬り捨てた。
「おじちゃーん!」
ちよが叫ぶ。
正宗を持つ狂四郎の手元に、血が流れてくる。

街道を行くおしまは駕籠屋に、鉄砲の音がしたといって急がせた。
「止めて!」と叫ぶ。
その先の道端に、2人の藩士の死体が転がっていた。
「だんなはどこへ…」。

水車小屋で、狂四郎は火を起こし、小刀を焼いていた。
ちよに「向こうを向いていなさい」と言うと、狂四郎は熱くなった刀で肩をえぐり、弾丸を取り出した。
狂四郎の顔がゆがむ。

ちよが振り向き、じっと見つめる。
弾丸は取り出した。
狂四郎が、肩を押さえる。
ちよが近づき、狂四郎の印籠を取って渡す。

狂四郎がうなづく。
印籠から狂四郎が薬を出すと、ちよが塗った。
「痛い?」
「いや、大丈夫だ」。

ちよが薬を包んでいた油紙を当て、狂四郎が手ぬぐいで傷口を縛ろうとした。
すると、ちよが手伝って縛る。
狂四郎が、うなづく。
「ありがとう」。

狂四郎が肩を押さえ、背後の柱に寄りかかる。
ちよが額に手をやり、近くの川の流れで手ぬぐいをぬらして絞った。
通りがかったおしまが、ちよを見つける。
ちよは狂四郎に夕べ、自分がしてもらったように額に手ぬぐいを乗せる。

その時、目を閉じていた狂四郎が「誰だ」と刀を手に起き上がる。
「だんな」。
おしまが現れる。

「お前か。よくわかったなここが」。
「探してたんですよ」。
おしまは水車小屋に入ってきた。

「そしたらおちよちゃ、、見かけたもんですから。怪我してるんですか?」
「ああ、鉄砲でやられた」。
おしまは息を呑んだ。

狂四郎はおしまに「おしま、この子を少しでも早く、母親に会わせてやりたいのだが、私はしばらく動くことができん。私の代わりに連れて行ってくれ」と頼んだ。
「いいですとも。でもだんな一人で大丈夫ですか」。
「手当ては済んだ。この子が手伝ってくれてな」。
「まあ、そうですか。賢かったのね」と、おしまはちよの頭をなでた。

狂四郎は、ちよの祖父から託された胴巻きと、遺髪の束を出した。
「これはおすみの父親が身請けするつもりで作った金と、遺髪だ。頼む」。
おしまが、声を詰まらせる。

「だんな。だんなは…。私が道中師だと、泥棒だと知ってて、こんな大金預けるんですか」。
おしまがうつむく。
「つまらんことを言うな。早く行け」。
おしまは顔をあげた。

「はい!おちよちゃんと一緒にきっとお届けします!」
おしまはちよを連れて出て行く。
ちよが、狂四郎を振り返る。

狂四郎が、わずかにうなづく。
2人は出て行った。
狂四郎は、目を閉じる。

おしまは、ちよを連れてひさご屋に着いた。
麦とろを作っている男を、おすみがそっと盗み見る。
奥のとが開き、藩士が男に「おい、まだか」と声をかけた。
男は首を横に振った。

「うん。ひょっとしたら安東たちが仕留めたか?」
客が食べ終わって、帰っていく。
そこに、おしまが入ってきた。

「おいでなさいまし」。
「あの、ここひさご屋さんだね?」
「へい、さようでございますが」と男が答える。

「ならいんですが、ご主人の顔が見えないもんだから」。
一瞬顔色を変えた男が「あいにくちょっと、仕入れに出ております」と答えた。
「あの、ここに、おすみさんて女の人、来てません?」

おすみが出てきた。
ちよをみて、驚きのあまり固まる。
「おちよ、おまえ…おちよじゃないかい?!」
「かあちゃん」。

「おちよ!お前、大きくなって」。
「かあちゃん!」
ちよがおすみに、抱きついて泣いた。
おすみが、ちよを抱きしめる。

「よく来てくれたね。良く来てくれた」。
見ていたおしまも涙ぐむ。
おしまは涙をぬぐうため、背を向けて座った。
すると、男が泣いているおすみを突付き、おしまのほうをあごで示した。

おすみは「どなたか存じませんが、ご親切にありがとうございました」と頭を下げた。
「いいえ、私はあるだんなに頼まれて、お使いにきただけなんですよ」。
おすみは、上がってくれと言った。

座敷に上がったおしまは胴巻きと遺髪を渡し、これを頼んだ浪人は鉄砲で撃たれて怪我をしたので、自分が代わりに来たと話した。
「そうでございましたか」。
おしまはおすみの父親に対して悔やみの言葉を言い、ちよに母親に「会えてうらやましい」と言った。

「おちよちゃん、良かったわね」。
「うん!」
「どうぞお幸せに、私これで失礼します」。

その時、錫杖の音が響いた。
男たちが入ってくる。
「女、眠狂四郎は怪我をしていると言ったな。やつは今、どこにいる」。
「あんたたち、誰なんだい!」

「さるお方の命を受けて、眠狂四郎を探しているものだ。狂四郎はどこだ」。
おしまが、そっぽを向く。
「言え!」
「お前が言わんと、この親子が死ぬことになる」。

重兵衛が錫杖から仕込み杖を抜き、親子の前にかざす。
「かあちゃーん!」
おすみとちよの、2人が抱き合う。

「どうする、女」。
おびえるちよを見ておしまは、「まさかねえ。やっと幸せをつかんだこの2人を、見殺しにはできませんよ」と吐き捨てた。
「狂四郎のいるところに、あないすると言うんだな」。
おしまは、うなづいた。

5人の藩士に囲まれ、最後尾に重兵衛がついて、おしまは水車小屋に向かった。
水車小屋では、目を閉じていた狂四郎が気配を察し、正宗を手にしていた。
小屋を前にしたおしまは、止まった。

重兵衛を振り返り、「あそこの水車小屋ですよ」と指差した。
途端におしまは走り出し「だんなーっ!」と叫んだ。
藩士が、おしまを背後から斬る。
おしまが倒れた。

藩士と麦とろの主人に化けた男が様子を伺い、水車小屋に入ろうとするが、すぐに出てくる。
中から狂四郎が現れた。
たちまち2人が斬られる。

狂四郎は倒れたおしまを見て、「おしま!」と叫んだ。
続く3人もあっという間に斬り伏せ、狂四郎はおしまに駆け寄る。
「おしま、しっかりしろ!」

おしまが目を開けた。
手を上げながら、「だんな、堪忍してくださいな。だんなの居場所を教えないと、おちよちゃんとおっかさんを殺すと言われたんで」と声を絞り出した。
狂四郎はうなづいた。
「わかっている」。

「だんな…、あたし、だんなのことを…」。
おしまが狂四郎を見つめて、目を閉じる。
「おしま!」
狂四郎が呼びかけても、おしまは動かなかった。

重兵衛を見た狂四郎が「この女を殺さねばならぬ、いわれはあるまい!」と言う。
「ふふふ」と、重兵衛が笑う。
「その傷ついた体で、わしと勝負しようと言うのか」。

片手で狂四郎は、正宗をの切っ先を下に向けた。
ゆっくりと刃が弧を描いていく。
それを目で追っていた重兵衛が、幻惑されたような表情になる。
重兵衛が、かけていた数珠を投げる。

狂四郎が払う。
数珠は、小川に落ちた。
狂四郎は片手で、重兵衛が斬りかかってきた刃を受けると、正宗を振り払う。

重兵衛が、錫杖に仕込み杖を納める。
納めて、振り返る。
そして倒れる。

街道の地蔵の前。
母親に手を引かれたちよが、狂四郎を見送る。
「ありがとうtございます。みんな、あなたさまのおかげです。本当になんとお礼を申し上げてよいか」と、おすみが頭を下げた。
狂四郎が、「たっしゃでな」とちよに言う。

ちよが前に進み出て、狂四郎を見つめる。
狂四郎がかすかに笑い、去っていく。
おじちゃーん!とちよが叫ぶ。

「おじちゃあああん!」
ちよの声がこだまする。
だが、狂四郎は振り向かない。
印籠がゆれている。

「おじちゃあーん!」
狂四郎の姿は遠ざかっていった。
すすきの穂が揺れていた。




無頼の主人公と、子供の組み合わせは名作になります。
重兵衛は、御木本伸介さん。
関八州では並ぶものがない居合いの達人の割りに、あっさりばっさり。
いや、狂四郎が強すぎるのでしょう。

これは第1話と、ちょっと似たシチュエーションです。
狂四郎を狙った刺客により、罪もない人が巻き添えで命を落とす。
その人には、子供の連れがいた。

子供の親を探してやらなければならない。
最初は子供は狂四郎に心を閉ざすが、その暖かさを理解するとなつくようになる。
1話では無残に子供まで殺されてしまいましたが、これは親子ともども助かって良かった。

わずかだけど、微笑を交わしたちよの祖父を巻き添えにした心の痛み。
犠牲になった老人へのすまなさが、狂四郎の全身から出ます。
老人を少しでも安心させてやろうという狂四郎の気持ちが、「聞こう!」「引き受けた。安心するがいい!」という言葉に出てます。

最初はおびえ、反感を持っていたちよだけど、看病をする狂四郎に心を開く。
さらに泥棒のおしまも、ちよに自分の死んだ子供を重ねて更正する。
狂四郎を狙えば避けられると見たのか、ちよを狙う刺客。
ちよを狙えば、必ず狂四郎はちよをかばうから。

この卑怯なやり方に、狂四郎も死んだ振りで応戦。
一人で治療する狂四郎は、ちよに血を見せまいと「向こうを向いてなさい」と言う。
でももう、ずいぶん血を見ちゃってる。

そこでちよが、狂四郎の手当てを手伝うところがけなげ。
狂四郎も、素直に手伝ってもらう。
愛しさがにじみ出てくる。

そこに追ってきたおしまに、狂四郎はお金を託す。
自分が泥棒と知っていて、大金を託されたおしまとのやり取りが泣かせます。
後悔にさいなまれる、おしま。

自分が盗もうとしたのを、知っているのに…。
自分なんか信用していいのかと思う、おしま。
それに対して「つまらんことを言うな」と言う、狂四郎が良かった。
こういうのが、時代劇の良さだなあと思います。

しかたなく、薩摩の刺客を案内してきたおしまが狂四郎に危機を知らせ、斬られる。
その時、詫びるおしまにうなづき、「わかっている」と言ってやる狂四郎がまた、いい。
「だんな…、あたし、だんなのことを…」と、思慕の念を伝えるおしま。
それは好きになってしまうでしょう。

狂四郎の「この女を殺さねばならぬ、いわれはあるまい!」に、怒りが感じられる。
またしても、罪もない人を手にかけた刺客に怒りの円月殺法。
片手でも強い。

決して朗らかに笑わず、わずかに微笑むだけの狂四郎。
だからこそ、その笑顔が人をとろけさせる。
これ、ちよは忘れないですね。
大きくなっても、狂四郎のことを語るでしょうね。

自由になったおすみ。
薩摩は結局、おすみを自由にしてやって、祖父のお金は残っちゃったね。
去っていく狂四郎に、「おじちゃーん」と叫ぶちよの様子がジーンと来る。
でももう、狂四郎は二度と振り返らない。

2人は自分とはもう、関わってはいけない、平和に暮らすべき人たちだから。
ちよとの別れに振り返らない狂四郎。
おしまは哀しかったけれど、最後に救われたのだと信じたい。

そして、おすみとちよの親子は、麦とろ屋で幸せに暮らすのだと思う。
切なさと、暖かさのラスト。
好きなエピソードの回です。