時代劇専門チャンネルの「助け人走る」。
昨日が最終回、「解散大始末」でした。
改めてみると、本当に質の高い作品でした。
主水が出ないシリーズでは、「必殺必中仕事屋稼業」がそうでしたが、「助け人走る」も本当に質が高い。
それで私は、昨日、間違えて後の話の方を記事として、一瞬、アップしてしまいました。
見た方いたら、すみません。
後日、またアップします。

テレビ埼玉では「必殺仕事人」が、放送中。
今日は、菅貫太郎さんがゲスト。
それだけでワクワク。

少し前に放送された31話では、主水が秀に言って聞かせるシーンがあります。
「世の中には、はらわたが煮えくり返るようなひどい話は、山ほどある。ひどい野郎も、山ほどいる。その中で、どうしてもこいつだけは生かしちゃおけない。許せない野郎を銭貰って地獄に送るのが、俺たちの仕事だ」。

この頃は秀もまだ、主水にお説教されたり、怒られたりして、成長して行ってる若者なんですね。
それに対して、主水はベテラン。
「勝手なことされちゃ、俺たちまで危ない。おめえがそんな甘っちょろい考えのようじゃ、おめえと一緒に仕事はできねえや」と言います。

本日、もうすぐ放送してしまいますが、テレビ東京で「衝撃のお宅を大捜索 日本列島!仰天ハウス」という番組が放送されます。
日本の珍しい作りの住宅を探して、紹介してくれるようです。
見たことある住宅も放送されそう。
だけど、私が見た、円柱の上に乗った家は…、謎のままなんでしょうね。

そして今日は「JOKER 許されざる捜査官」と「逃亡弁護士」が放送。
去年は「任侠ヘルパー」で楽しんでました。
8月も終わり。
なかなか、この夏のテレビ番組は自分には充実してました。


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2010.08.31 / Top↑
第29話、「地獄大搾取」。


大川端で釣りをしていたところ、百姓の遺体がかかった。
それは弥吉という、出羽の本庄郡日吉村から出てきた百姓だった。
日吉村と聞いた利吉の顔色が変わる。
ふさという百姓娘は弥吉の遺体に取りすがって泣き、奉行所に巳之吉という男の探索を願い出るが、奉行所は取り合わなかった。

利吉は、助け人たちにふさを会わせる。
ふさの話によると、田植えが始まる前という約束で、日吉村に江戸の口入屋という男が来た。
その男とともに、大勢の男が出稼ぎに出た。
だが、男たちは誰も戻ってこなかったし、稼いだ金も届かなかった。
弥吉は巳之吉という百姓とともに、江戸に出てきたのだが。

ふさに金はなく、平内は奉行所に目をつけられている今、金にもならない仕事を道楽でやるわけにはいかないと言う。
文十郎も頼りになるのは金だけだ、その金がないのでは話にならないと言った。
しかし利吉は金ならここにある、と仕事を引き受けさせようとした。

龍はそれは利吉の金じゃないのか、と聞くが、利吉は誰の金でもいいだろうと言う。
平内は仏心を出すのはやめろ、1つ間違えれば自分たちの首が飛ぶのだからよせと止める。
すると利吉は人に頼むのが間違っていた、これは自分がやらなければいけない仕事だったと引き下がった。
何か訳があるんだろうと聞く平内に、自分が間違っていた、自分ひとりでやると言って出て行く。

利吉は巳之吉たちが稼ぎに行った先を探すが、ご法度の口入屋だろうから看板を出したり、募集したりはしない。
だから向こうから利吉に働かないか、と声をかけてくるのを待つしかないと教えられた。
利吉は町をさ迷い歩き、食い詰めた揚句の泥棒に間違えられて、やっと声をかけられた。

大店の主人の相手を探していると声をかけてきた男に連れられ、利吉は料亭に行く。
その細面の顔、絶対に間違いはないと言われ、座敷で待っていた利吉だが、それは何と男色家の主人の相手だった。

「…おもしろい人。一杯飲む?」
利吉は悲鳴をあげて、逃げ出した。
逃げられて悔しがる主人。

それを聞いたしのは大笑いするが、何故そんなにも力を入れてやるのか、心配して尋ねた。
ふさは懸命に巳之吉を探し、文十郎も結局は手助けしているが、手がかりはつかめないようだった。
利吉は重い口を開いた。

「俺はねえ、あの人と同じ村の生まれなんだ。5つの時に、人買いに売られたんだ。家が貧乏でね、子供を売らなきゃあ、生きていけなかったんだろう。親父もおふくろも」。
「利吉さん…」

「俺は今でも売られていく時に、わあわあ泣いた自分を覚えている。そして、俺にすがって泣いていたおふくろの顔もね。それだけじゃねえ、じっと俺を見送っていた親父や兄貴がいたことも覚えている」。

雪が積もる民家。
川のせせらぎ。
すすきの野原。
利吉は故郷を思い出す。

「そうなんだ。俺には確か2つ違いの兄貴がいた。その兄貴は長男だから売られずに残ったんだ。その兄貴が生きているとしたら、ちょうどあの大川に浮いた弥吉さんと同じじぐらいだ」。
しのは利吉を見つめる。

「だがなあ、おしのちゃん。俺はあん時のおふくろの顔は思い出せても、親父や兄貴の顔がどうしても思い出せねえ。いや名前だって思い出さねえ。もし俺の兄貴が生きているとすりゃ、あの弥吉さんみてえにこの江戸に出て来ているような気がしてしかたがねえ。だから何とか探してみてえんだ。金や欲得抜きだ。どうしても探してみてえんだ」。

それを聞いたしのは、何故その話をふさにしなかったのか、と言った。
話をすれば、利吉の家族のことがわかったかもしれないのに。
「こわかったんだよ、おしのちゃん」。

「それに名前だって覚えてないんだ。もしそれを聞いて、みんな死んでるって言われたらどうするんだ。親父やおふくろはもう年だから死んでるかもしれない。だけど…、せめて兄貴だけは生きてると思っていたい。この世の中に誰か、身寄りが生きているんだって思っていたいんだ。だから…、ふささんにも俺は聞けなかったんだ」。
利吉はずっと、うつむいていた。

「このことは誰にも言いたくなかったんだが、とうとうおしのちゃんには喋っちまった。だけど兄さんたちには黙っててくれよ。助け人が銭金抜きで、いくら自分のこととはいえ、仕事をするのはご法度なんだ。そんな奴は、助け人の風上にもおけねえ。だけど、今度のことだけは見逃してくれ。おしのちゃんの胸だけに閉まっておいてほしいんだ」。

去っていく利吉にしのは、せめて寝起きしているところだけは教えてくれと言ったが、何かあったらこの茶屋に来ると言って利吉は再び町に出た。
物乞い姿の利吉は、飯屋で追い払われるが、その時、奥から利吉に声をかける男がいた。
台場の人足小屋で半年も働けば1両にはなると言ったその男は利吉に小銭を与え、身奇麗にして来いと言った。

利吉は遊郭に連れて行かれ、大勢の男たちと一緒にもてなされた。
その後を文十郎と平内がつけていた。
女郎を部屋に呼んだ文十郎と平内は女郎に、ああやって人を集めてここで遊ばせるが、結局は彼らは賃金はもらえない。

作事奉行から出た賃金はびた一文、出て行かないのだと教えた。
それをタコ釣りと言う。
女郎たちは自分たちも同じ、タコが自分で自分の足を食べているような立場だと自嘲した。

すると女郎を連れに鉄五郎という男が入ってきたが、平内はまだだと追い返す。
1人の女郎を2人で読んでいる文十郎と平内に、鉄五郎は呆れて出て行く。
その頃、利吉はあてがわれた女郎に生まれはどこだ、と聞かれていた。
誤魔化す利吉。
翌朝、男たちが集められ出て行く時にその女郎は利吉を呼び、無茶はしないでくれと守り袋を手渡した。

その日から過酷な飯場での仕事が始まった。
大雨の中、こずかれ、蹴飛ばされながらの建築現場での仕事だ。
あまりの過酷さに1人の男が話が違うと訴えたが、支度金を渡し、酒を飲ませ、女郎まで呼んでやったと男たちは言う。

逃げ出そうとしても、見張りがいるから無理だと、男は言った。
それでも逃げたなら、他の仲間がただではすまない。
死にたくなかったら、大人しく働けと言われ、人足たちは力なく返事をするしかなかった。

男たちが出ていった後、利吉は牢に入れられている数人の男に気づく。
水をくれと言うその男に、今は無理だから後で汲んできてやると利吉は言った。
男たちは6人おり、1人は逃げたと言う。
その逃げた弥吉はどうなったか、わからない。

もしや、日吉村の人間では…と言う利吉は、巳之吉という男がいないかと聞いた。
奥でうずくまっていた男が駆け寄る。
利吉はおふさが巳之吉を探していると言い、何とかしてここから出してやると言った。

そして利吉は鉄五郎たちを呼び、利吉は10両を投げ出した。
この金で巳之吉たちを返してくれ、家に戻れば50両60両持ってくると利吉は言ったが、鉄五郎は金は手に入ると言った。
どうせなら、ここで死ぬまで働いてもらう。

ここが音に聞こえた駒吉親分の飯場だ、と鉄五郎は言った。
それを聞きながらほくそえむ駒吉。
利吉は散々、殴られ、部屋に戻された。

戻ってきた利吉を仲間は介抱しながら、利吉はてっきりお上のまわし物だと思ったと話した。
だが、誰かをここから助けようなんて無理だ。
しかし、俺たちならできる。
その言葉を聞いた利吉は思わず、起き上がる。

目配せした仲間たちは辺りを確認すると、「おめえは運がいいぜ」と言った。
自分たちはここから抜け出し、自分たちをここに連れてきたタコ釣りのところへ戻る。
そうしてまた別のところへもぐりこみ、金を貰うのだ、と男たちは言った。

そして飯場の見張りの位置を話すと、鉄砲や矢を持っていると言った。
見つかれば撃たれるが、それは見つかるからだ。
その時、鉄五郎が飯を運んできた。
男たちはさっと寝る体勢になり、鉄五郎は勝手に食えと飯を置いて出て行く。

鉄五郎がいなくなると、男たちは床板をめくった。
床の下には抜け穴が掘ってあり、男たちは夜になるとその穴を掘った。
利吉も一緒になって掘り、牢に入れられている百姓のもとにたどり着くと飯と水を持って行く。
気を大きく持つよう、もうすぐ出られるからと利吉は声をかける。

翌朝も過酷な人足仕事が始まったが、利吉は少しはなれたところに龍の姿を見た。
「いるかどうかわからない兄貴の為に、命を捨てるのか」。
「おしのちゃんが言ったのか」。
「ああ、文さんと平さんはここの子分に顔を見られている。だから俺が来ただ。いいか、俺がここの誰かを人質にする。その隙に…」。
「待ってくれ、それよりもな…」。

その時、鉄五郎が作業をやめさせて全員を集めた。
小屋に連れて行くと全員を並ばせ、床板を外した。
抜け穴が見つかってしまった。
「ぶっ殺してやる。てめえらみんなぶっ殺してやる」。

すると、巳之吉が牢の中から「待ってくれ、おらが逃がしてくれと言ったんだ」と叫んだ。
「何い?出てきやがれ!」
巳之吉は牢の中に通った抜け穴から顔を出して見せた。
「そうかい、おめえかい」。

駒吉が刀を抜くと、「ようく見とけ!」と巳之吉を斬り捨てた。
利吉が衝撃を受ける。
「おめえらもこうなりたくなかったら…」と駒吉が言った瞬間、龍が布団を駒吉にかぶせると首の後ろにかついだ。

グルグルと回転させると、龍は駒吉を放り投げた。
駒吉の頭が小屋の壁を突き破って外に投げ出され、駒吉が悲鳴をあげる。
刀を持った数人が飛びかかって来るが、龍が撃退し、みなが布団をかぶせてその間に外に出る。

飯場を人足が逃げ、森に逃げ込む。
追っ手がすぐにやってくる。
龍は追っ手が来るのを見ると、利吉と支えていた巳之吉を「頼むぞ」と他の人足に預け、迎え撃つ。

利吉たちは途中で追っ手が来ないのを見て、巳之吉を道端に下ろす。
「あの水と…、握り飯はうまかった」と巳之吉がつぶやく。
「巳之吉さん!しっかりするんだ!」と利吉が叫ぶ。

巳之吉は手ぬぐいを利吉に渡すと、これはふさが路銀の足しにと着物を売ったと言って渡す。
「あいつら、鬼だ」。
そう言うと巳之吉は息絶えた。

その頃、料亭では人足が騒いで訴えても自分が抑えると脇田重四郎が三州屋と話をしていた。
三州屋は、人足たちに渡さなかった賃金や必要以上に節約した工事の金を、脇田に渡す。
もっとあるのではないかという脇田へ、材木の方もだいぶ浮かせたが、それは売ってから渡すと三州屋は言う。

その時、表で芸者の悲鳴が聞こえた。
何かと思って外に出た三州屋の前にドロドロドロという音と、赤い光が移動していくのが見えた。
赤い光は宙を移動すると、障子を突き破った。
それは平内のキセルだった。

「誰だ!」
脇田が表に出たが、誰もいない。
パシャ、と音がする。
それは脇田たちが飲んでいた酒の徳利が引っくり返り、滴っていたのだった。

座敷の奥に逃げた三州屋の背後から、何かのうめき声がする。
口に手ぬぐいをかまされた鉄五郎が龍に担がれて、姿を現す。
三州屋が脇田のところまで、逃げていく。

龍の後ろには文十郎と平内が並んでいる。
鉄五郎を担いだ龍が追う。
外に逃げようとした三州屋だが、廊下から文十郎が現れる。

脇田も、三州屋も座敷の奥に龍に追われて逃げ込む。
文十郎と並んだ平内が、キセルを抜き、文十郎が鉄心を抜く。
ふすまを背に、追い詰められた脇田と三州屋。
同時に文十郎と平内が、脇田と三州屋をふすまの向こうから刺す。

倒れる脇田と三州屋。
龍が担いだ鉄五郎を降ろす。
鉄五郎の体を背中から、2つに折っていく。
やがて、鉄五郎の頭は自分の足の裏にくっつくほどになる。

翌朝、ふさは故郷へもどって行った。
文十郎も、平内も、龍も、そして利吉もそれを見送っていた。
その姿を見た平内は利吉に「ふささんは巳之吉には弟がいると言っていたのに、何故、おめえ、名乗ってやらなかったんでえ?」と聞く。

文十郎も言う。
「言ってやれよ。え?せめてそれだけでも、ふささんは…」。
だが利吉は前を見つめたまま言った。
「言ったところで、どうなるんです。それがどうして俺だと言い切れるんですか」。

利吉は座る。
ふさが助かった数人の村人と一緒に、帰って行く。
「遠い昔のことだ。売られて行った子供は俺だけじゃねえ」。

利吉は、かすかに微笑む。
「俺の兄貴は生きている。きっとあの人たちの村で、生きてるんですよ」。
一瞬、利吉の笑顔が消える。

だが再び、利吉はかすかに微笑むと、帰って行くふさたちを見つめる。
文十郎たちはふさを見送ると、黙って去っていく。
利吉は残って、いつまでもふさたちの去った方を見つめている。



いつも軽くて明るい利吉の過去編。
助け人たちは前半、あんまり影を背負っている人間ではないように描かれていましたが、後半はみなさん、影を背負うんですね。
背負うのは為吉の死であり、それでもなお裏の仕事を選んだ文十郎はもう気楽な浪人でもない。
平内は、細々と繋がっていた武家の家と、完全に縁を切られた。
龍は捨て子で、島帰り。

そして、一見、お調子者の利吉にはこんな過去が。
ですよねえ、何かなければ義賊といえども盗賊の手下にはならないですよねえ。
売られた子供だった利吉が、清兵衛の下で働くようになるまでに、一体どれほどのことがあったのか。
清兵衛のところに落ち着くまでの経緯は語られていないですが、相当のことがあったに違いない。

利吉役の秋野大作さん(当時・津坂匡章さん)が、細やかな演技を見せています。
最初の遺体を見て、日吉村の地名を聞いて顔色が変わるところ。
自腹を切ってまで、文十郎たちに仕事を持ちかけるところ。

そして断られると、納得して、自分が悪いんだと諦めたような、悟ったような表情になる。
しのにも、いつも見せる顔とは違う。
一切を受け付けない厳しい、それでいて寂しい顔。

荒っぽいことができない性質なのに、この上ない荒っぽい飯場に耐える。
10両投げ出した後に、殴られても耐える。
天涯孤独と思っていたのが、いるかもしれない兄の為とはいえ。

利吉も為吉同様、清兵衛の手下になるだけあって、実は相当精神力が強い。
いつもはそんなこと、全然見せないけれど。

女郎が利吉に守り袋を渡してくれたのも、利吉のどこか寂しげで、それでいて決意を秘めた顔と、苦労をした人間にわかる優しさに惹かれたんじゃないかと。
それほど、今回の利吉はいい男。
秋野さんはお調子者の役がうまいですけど、本当はこんな役が似合う二枚目なんですね。

利吉に迫る男色家の旦那は、汐路章さん。
一見、コワモテのあの方です。
良く悪役で出演されますよね。
それが誰もいなくなると、突然なよって利吉に迫るのがおかしい!

裏稼業を知ってから、密かに協力するようになったしの。
そこから話を聞いた助け人が動いている。
何だかんだ言っても、利吉を心配している助け人。

一見冷たそうな龍が飯場に潜入して助けに来るのも、いいシーン。
龍って実は情に厚い!
もしかしたら,
利吉の過去を知った捨て子の龍には、何か心に響くものがあったのかもしれない。

それで、今、テレビ埼玉で「必殺仕事人」を放送していて、左門さんが「新技腰骨折り」を始めましたが、龍がやっていたんですねえ。
他には印玄も、そして鉄もやってましたが、龍は早かった!

あと一歩で、巳之吉は殺されてしまう。
結局、巳之吉が利吉の兄だったかどうかは語られない。
ただ、何となくやっぱりそうなんじゃないかな、と思わせる。

巳之吉に、売られて行った弟がいたかどうか。
いたとして、利吉が感じたのと同じ、生きていればあのぐらいの年齢と利吉を見て思ったのか。
でも、巳之吉の人の良さが、やっぱりどこか利吉を思わせる。
いや、お互いにどこか惹かれあったから、かばいあったのか…。

帰って行くふさに、それでも利吉は語らない。
自分の家族がみんな、死んでしまっているなんて知りたくない。
しの「怖いんだ」と、語った言葉の重さ。
「仕置人」で錠も言ってますよね。
「天涯孤独の1人ぼっち。それがどんなものか、知らねえ方がいい」って。

だから、どこかで、自分の兄は生きているんだ。
この世の中に自分は独りじゃないと思っていたい。
遠い昔、売られて行った子供は自分だけじゃない。

「俺の兄貴は生きている。きっとあの人たちの村で、生きてるんですよ」。
一瞬、利吉の笑顔が消え、そしてまた微笑む。
この表情に、利吉の心情が細やかに描かれていると思います。

利吉の表情、言葉のひとつひとつが心に沁みる。
そして、切ないラスト。
利吉がただの身の軽い密偵ではないこと、それが描かれることによって「助け人」はより深い奥行きを持つ。
かなり見応えのある、利吉主役の回でした。


2010.08.30 / Top↑
歴史上、重大な場面にして、龍馬の功績が語られています。
ところが毎週日曜日、落ち着いて見られない状態なんですね~…。
そのうちに話は、饅頭屋長次郎切腹まで進んでしまいました。

気になるのは、恋愛以外で龍馬を巡る女性たち。
登場したお元の人間像も興味深い。
長崎奉行に報酬の小銭を投げて寄越され、「ありがとうございます、ありがとうございます」とはいつくばって拾う。
しかし目は、自分を道具以下に扱う権力者への憎しみに満ちている。
飼い馴らされた密偵ではなかった。

本来なら弾圧を受ける身であるお元の境遇の過酷さは、みんなが笑って暮らせる国を創りたいという龍馬の理想なんか甘くて軽蔑の対象でしかない。
ふん、いい気なもんだわ…。
虐げられてないから、そんなこと言ってるのよ。

そんなこと言いたそうな、顔してます。
甘い理想を語る龍馬に、瞬間、自分を使う権力者へ、それ以上の軽蔑が湧く。
私は誰も彼も嫌い。

しかし、龍馬は自分の力が及ばないところに行き始める。
思惑と違う。
お元の焦り。

密偵ということがばれたお元に「そこでは刀が届いてしまうきに」と動き封じた龍馬。
一瞬、怯えたお元だが、やがて龍馬に感情を叩きつけていく。
誰にもお互い話さない約束ができても、お元は龍馬の言葉に素直にならない。

お元は、お龍さんとは違う強さと、過酷な運命を背負った女性。
しかしともに龍馬には最初、反発しつつ、自分たちを踏みにじる侍とは違うものを感じてはいる。
お元に疑いを持つ前に、金策を聞かれた照れ臭さを笑う龍馬の人の良さ。
こういうところが、反感を買いつつ、人を引き付けるのだと思いました。

いや~、最近、弥太郎が不足してますが、新撰組に捕まってる図はどこか、やってくれるな~!という気持ちになります。
ごめんなさい!

そして、カッコイイのは、大浦慶さん役の余貴美子さん。
お正月にでも、この方の伝記をやっていただきたいくらいです。
カッコイイ女性実業家ですね。


2010.08.29 / Top↑
第27話、「江戸大暗黒」。


船宿「船善」の女将・おえいは、水茶屋で密会しているところをやくざの兵六に見つかり、以来、ふた月で80両もゆすり取られた。
今月から10日に一度、10両出すように言われ、困り果ててお吉を通じて助け人に相談してきた。
だが、船宿で誰と密会、不義密通していたのか。

利吉は一応、助け人の仕事をする以上、必要な情報だと尋ねてもおえいはそれは言えないと口を閉ざす。
こう言っては何だが、不義密通していたのなら、おえいの自業自得だ。
しかし、お吉は利吉に冷たいと言い、利吉は清兵衛から留守を預かっていると言う。

ではみんなでこの仕事を請けるかどうか協議したらどうか、そんな話の最中、同心がやってきた。
利吉はおえいをお吉に急いで裏から逃がすように言い、応対に出たが、それは清兵衛のところから事故の遭った工事に人を出してないかどうかの改めだった。

安心して文十郎と平内に話すお吉だが、最近、奉行所も手の込んだ探りを入れてくる、用心にこしたことはないと文十郎と平内は言う。
「船善」の主人は痛んでいる船を使って、使用人を2人、死なせたという罪で現在、江戸ところ払い中だが、あとふた月もすれば戻ってくる。

その間にこの話に決着をつけたいのだろう、と平内は言った。
利吉はおえいが誰と会っていたのか、どうあっても言わないので、この仕事は受けない方がいいと主張する。
だが小判を見た平内も、龍も考え込む。
やっちまえばいい、と龍は言うが、文十郎は相手によってはぶっ飛ばせば良い話、まずは探りを入れようと言う。

しのの茶屋で平内は、籠に乗ってきた男が一度籠を下りたが、忘れ物と戻ってきて籠をつきやぶり、転んでケガをするのを目撃する。
転んだ男は頭をかかえ、男たちが集まってくる。

しのは心配したが、平内はあれで揺すって金をせしめるんだと言う。
信じられないしのを連れ、平内は籠屋の主人のところまで行くと、平内の言った通り、男たちは怪我人を盾に主人から大金をせしめているようだった。

龍が食事をしていた蕎麦屋で、財布を忘れたという男が戻ってきた。
娘は財布を男に渡したが、その直後、別の男が財布を忘れたとやってきた。
財布は連れに返したと娘は言うが、男は並んで食べていたからといって連れとは限らない、赤の他人だ、財布をどうしてくれると言い始めた。

困り果てた娘が父親を呼ぶと、男は中に5両入っていた、払えと凄んだ。
龍はそれをのれんの向こうから見ていた。

おえいは約束の日、金を持って行ったが、とても要求額には足りない。
とりあえずは引き下がってくれたが、龍が尾行してたどり着いた館には利吉も来ていた。
そこは大門の大五郎という男の館だった。
さらに利吉が、探ろうとした時だった。

「いけねえ!八丁堀だ」と利吉は隠れる。
屋敷の中では、肩に猫を乗せた大五郎がいた。
これが、大勢の親分たちが売り上げを差し出す黒幕らしかった。
大五郎は、売り上げが悪い子分には、「たまちゃん、お前も大きくなればネズミの3匹くらい取れるよな」と猫をなでながら言う。

「船善」ももう、金が搾り取れなくなったとの報告を受けると、大五郎は「店があるではないか」と言った。
船宿というのは、密談に使われることが多い。
「船善」を手に入れることで、仕事の幅が広がる、と大五郎は猫をなぜながら言った。

同心と大勢の屋敷の警戒に利吉も引き下がるしかなかった。
しかも、おえいはどうしても水茶屋で会っていた相手の名を言わない。
その報告を受けた文十郎は、この仕事は止めた方が賢明のではないかと言った。

だがお吉は反発する。
もっともらしいことは言うが、要するに十手が怖いんだろう。
「いちいち十手が怖いだったらね、助け人なんてカッコイイこと言わなきゃいいんだよ!」
お吉の言葉を文十郎が「お吉」と、とがめる。

「わかってますよ。感情に溺れるなって言いたいんでしょう?でもあたしも人間ですからね、時には感情に溺れることだってありますよ!」
だが、利吉は今度の仕事はやめにしましょうと言い、金は女将に返すようにお吉に言う。

お吉は気持ちが高ぶったまま、走って出て行く。
帰り際、利吉は龍を呼び止め、あの若い八丁堀が助け人と大五郎と、どちらに目をつけているのか探ってくれと頼む。
その後、文十郎は平内の誘いに応じず、出て行った。

お吉が仕事に行く料亭の前で、文十郎が立っていた。
だがまだ気持ちが治まらないお吉は、文十郎を見ても、「甲斐性なし!」と悪態をつく。
そのまま座敷に出たお吉は散々酒を勧められた上、その旦那に迫られ、思わず投げ飛ばしてしまった。

客にケガをさせ、3両で話をつけたと言う店の女将に、「3両で売られてたまるか!」と激昂したお吉はおえいに返すはずの5両を叩きつけてしまった。
料亭から出たお吉を、文十郎がずっとつけていた。

家で、お吉はうなだれていた。
次に箪笥をあさり、着物を畳み始める。
後ろから文十郎が声をかけた。
「それを全部売り払ったところで、たかだか1両。ここに5両ある」。

お吉が驚く。
「文さん、そのお金は?」
「驚くこたあない。5両ぐらいならいつでもある」。
そう言うと、文十郎は小判を並べる。

「刀を…。武士の魂を売って…、それでそのお金を…」。
「そんなもんは、とっくの昔にどっか捨てちまったよ」。
そう言って文十郎は笑う。

「文さん…」。
お吉は文十郎の前で、詫びた。
「許して。私なんて、バカなことを…」
「俺たちの仲間で町方にガンつけられてねえのは、おめえ1人だけだ。問題を起こすようなことはやめてくれ」。
お吉はうなづく。

翌日、お吉はおえいに自分たちの仕事は納得がいかないことは引き受けるわけにはいかないと、おえいに金を返していた。
お吉が帰る時、船大工の棟梁がおえいに会いに来ていた。
帰るお吉は龍とバッタリ会い、龍が「八丁堀だ」と言った。
「あたしがつけられたの?」

表から様子をうかがう、同心・小宮の姿が見えた。
「違うな。たぶん、大物を追ってきたんだ」。
そう言うと、龍はお吉を先に帰らせた。

やがて、「船善」の前に籠が到着し、中から大五郎が下りてきた。
船大工は金の返却を迫り、おえいが困窮していた時、「あまり大きな声がしたので」と大五郎が入ってきた。
大五郎はおえいの夫を知っており、今は自分は隠居の身だと話した。

そして、自分からも頼むから、もう少し返却を待ってくれと言った。
では代わりに80両払ってくれるのか、と言う船大工に、乗りかかった船だ、お払いしましょう」と応えた。
おえいがそんなことはしてもらえないと言うと、大五郎は立て替えるだけだと言う。

だが、今すぐに80両は払えない。
ではここにいる友人が金貸しをしているので、立て替えてもらおうと大五郎は言った。
横には金貸しの銀造がいた。
すぐに証文が書かれ、船大工は大五郎のところまでついていくことになった。

大五郎が出て行くと、小宮が店に現れ、おえいに先ほどの隠居は大門の大五郎という大物の悪党だと言った。
驚くおえいに、小宮は隠さず勇気を持って全てを話すように迫った。
だが、おえいは何も喋らなかった。
龍は利吉に「八丁堀の目的は、俺たちじゃない」と報告、利吉は胸をなでおろした。

奉行所で小宮は他の同心に、「何だあの態度」「誰でも新米の頃はみんなああなんだ」と持て余されているようだった。
「だが、狙っている相手が悪い、大物過ぎる」。
「誰だ?」
「大門の大五郎だ」。

同僚たちが噂している中、小宮は与力に些細な泣き言を取り上げるなと怒られる。
しかし、小宮は庶民の声だ、自分たちが守ってやらなければと主張する。
そして、先ほども大門の大五郎に動きがあったといい、これ以上野放しにはできないと言った。

ちょうどその頃、大五郎は金貸しの銀造と「こんなにも上手く行くとは」と笑っていた。
「これで船善は手に入った」。
証文は、大五郎の名前の部分を切り取られてしまった。
おえいは証文を前に、ガックリとうなだれていた。

利吉におえいは、全てを話した。
船宿で会っていたのは、江戸ところ払いになった主人だとおえいは言った。
何故、そんなことを…。

商売のことやら何やらを話したことが、こんな事態を引き起こしてしまった。
ところ払いの主人が江戸に戻っていたのがわかれば、次は遠島だ。
おえいはそれで、打ち明けられなかったのだ。

利吉は「わかりました。お引き受けしましょう。ただし、その方法は一切、わたくしどもにお任せいただきます。よろしゅうございますね?」と言った。
「ありがとうございます」。
おえいは頭を下げた。

平内はすぐに旅に出て、「船善」の主人の善兵衛に会った。
善兵衛から平内は手紙を持って戻った。
手紙には、1人で苦しんでいたことを悲しみ、苦しみは分かち合いたい、とあったのではないかと平内は言う。
平内は、あの同心に本当のことを話すように勧める。

その頃、大五郎の下では「船善」のことで子分の虎吉が、忠治がやる気がなかったと密告していた。
虎吉が言うには、5両しかとれなかったのを自分の5両を足して、10両と大五郎に届けていたということだった。
それを聞いた大五郎は「やる気がないものはいなくていい」と言って、虎吉の懐から匕首を取り出した。
忠治を見ながら、虎吉のことを大五郎は「お前は若いし、頭もいい」と言った。

匕首を向けられ、忠治が怯んだ一瞬、大五郎は匕首を背中にいる虎吉の方につきたてた。
「自分の親分を裏切るなんて、もってのほかだ。そういう奴は必ず、わしも裏切る」。
その時、表で見張っていた小宮が「見たぞ!」とやってきた。

大五郎は虎吉殺しで、小宮が牢に引き立てて行った。
しかし、すぐに虎吉を殺したのは自分だと忠治が出頭してきた。
与力の香川と大五郎は座敷で話をしていた。
香川は別の殺しの下手人を大五郎に話し、もう1ヶ月にもなるのにわからないと言うと、大五郎は下手人はすぐに突き出すと笑った。

大五郎は悠々と廊下を歩き、小宮に挨拶をして帰った。
小宮は香川に確かに自分が見て捕えたのに、このまま帰して良いのかと詰め寄った。
香川は真犯人が名乗り出たのだからしかたがないと言い、小宮は、町民からの訴えはほとんど大五郎にからむものだと言った。
しかし、香川に確かな証拠がないのに、軽々しく話をするなと一喝される。

「わかりました!御免!」と小宮は立ち去る。
その夜、夜道で小宮は突然、喉元に短剣を突きつけられる。
「大門の大五郎の手のものか!」
「黙って俺の話を聞いて欲しい」。

その短剣は、文十郎の兜割りであり、声は文十郎だった。
「被害者の立場は弱いんだ。だから本当のことが言えない。あんたは勇気を出せと言っているが、その勇気は時と場合によっちゃあ、命と引き換えになる場合がある。その命、一体誰が守ってやる?」
「俺にできる限りのことはしてみせる」と小宮は言った。

兜割りが引っ込み、編み笠を深くかぶった文十郎が、小宮の背後に姿を現す。
「船善の女将さんがもうそろそろ、本当のことを言うだろう」。
そう言うと同時に、文十郎は闇の中に消えた。

翌朝、小宮はおえいに会った。
「良く打ち明けてくれた。ご公儀には必ずお慈悲があるだろう。後は何も案ずることはない」。
おえいは小宮に深く頭を下げた。

次に小宮は、籠屋に話を聞きに行った。
財布に5両が入っていたと言われ、払わされた蕎麦屋。
次々、大五郎の悪行が小宮に訴えられる。

小宮はその訴えを持って、香川に一日も早く大五郎を召し取るように言った。
香川は驚き、承知した。
利吉はもうすぐ、町方が大五郎の屋敷に踏み込むから、その前に船善の証文をいただいてくると文十郎に言っていた。
だが…、香川は大五郎の屋敷に向かい、調書を見せると「他には一切もれていないので、安心せい」と言った。

屋敷に忍び込んだ利吉は、庭で大五郎と手下に囲まれた小宮を見つけ、身を潜めた。
「わしを甘く見ていたな」。
調書が投げ出される。

小宮はハッとする。
それは香川に提出した調書。
「わしはかぎまわる奴が大嫌いだ」。
座敷の障子が開き、そこには香川が座っていた。

「香川様…」。
その途端、小宮は斬られた。
小宮が倒れると、全員、香川のいる座敷に戻っていくのを利吉が見ていた。
利吉は戻ると、文十郎と平内、龍に報告した。

「与力が奴らとグルだったとは…、うかつでした」。
「そうか…、許せねえ」。
刀がないはずの文十郎は、紫の布で包まれた刀を取り出す。
その刀身は、鉄だった。

大五郎の屋敷では、船善の次は籠屋がほしいと大五郎が子分たちに申し渡していた。
ちらと大五郎は、「手抜かりが多いようですなあ。もっと身の安全を守ってもらわねば」と香川を見る。
「わかっておる」。
香川は金を受け取る。

子分たちが外に出て行く。
その時、次々とうなりをあげ、提灯が壊される。
「何しやがんでい、この野郎!」

行く手に文十郎が現れる。
文十郎がゆっくり、鉄の刀、鉄心を抜く。
鉄心を振りかざした文十郎がまず、手前の子分を叩き伏せる。
「うわっ」。

声をあげて、子分は倒れる。
次の子分は足に鉄心を叩きつける。
足はあっさり、妙な方向に曲がり、男は地面に転がった。

次に文十郎は、鉄心を横に払った。
鉄心は、男の胸元に当たった。
最後の男にも、文十郎は鉄心を叩き込む。

夜道を帰って行く香川を、木の上から龍が見ている。
龍はひらりと下りると香川を捕え、抱えあげた。
砂利道に向かって、香川を脳天から落とす。
グキッという音がして、香川の首が曲がる。

音に気づいた大五郎の用心棒が、門の外に出てくる。
その前に文十郎が現れる。
刀を抜いた用心棒が、斬りかかってくる。
文十郎が下りてくる刀を鉄心で受け止めると、刀はあっさり、真っ二つに折れた。

用心棒は鉄心で手を叩かれ、思わず折れた刀を落とす。
動けない用心棒を文十郎は鉄心で捕え、自分の前で鉄心で挟んだ。
押さえつけると、骨が折れる音がする。
そのまま、鉄心を上へと移動させると、次々骨が折れていく。

部屋の中で、大五郎は猫の名を呼んでいた。
猫の声がするが、姿が見えない。
大五郎は縁側に這って行き、縁の下を覗き込んだ。

床下には白い子猫がいた。
そして、その横から紫煙が流れてくる。
わけがわからない大五郎は、一度、顔を上げた。

猫の声がする。
そして、平内がキセルの先を取り、針にする。
もう一度、大五郎が猫の名を呼びながら覗き込んだ。
その時、平内の針が大五郎のこめかみを刺す。

目をむいて大五郎はそのままの姿勢で、絶命する。
平内は猫を拾い、動かない大五郎の上に乗せる。
猫はそのまま、大五郎の上を通り過ぎていく。

座敷にある船善の証文を手に、平内が出てくる。
表には文十郎と龍が待っている。
平内が証文を破り捨てる。
3人が闇の中、去って行く。

翌朝、船善に主人が戻ってきた。
おえいも、番頭も待ちかねたように頭を下げて迎え、おえいが足を洗う桶を持ってくる。
主人も、おえいも、みんな微笑む。





ええ、私、ずっと文さんの持っている探検を「鉄心」と勘違いしていました。
今回、文十郎が
持った刀身が鉄の刀が、「鉄心」ですね。

いつも持っている探検は、「兜割り」でした。
すみません。
おいおい、直していきます。

文さん、いろんな武器持ってるなあ。
しかしこの鉄心、うなりをあげているところを見ると、これを扱うのは難しいんじゃないですか。
力もコツもいりそう。
こんな武器を使いこなせる、だけどそれがゆえ、泰平の世には向かない男。
本当に解説にあるように、平時には用がない、乱世の男なんでしょう。

仕事を引き受けない文十郎にお吉が激昂し、結果、お座敷で人に怪我をさせる。
刀を売らせてしまってしょんぼりするお吉に笑いながら、「そんなもんは、とっくの昔にどっか捨てちまったよ」と言える。
さらに小宮には被害者の立場を説き、どうすると言って、小宮から被害者を守る覚悟を聞き出す。
そこらの侍より、よっぽど侍らしい。

文十郎が刀を売るはめになる、この設定が活かされた殺陣ですが、お吉がこの後、文さんの刀を買おうとする回があります。
刀がないのでどうするのかと思ったら、一味違った殺陣がこの後、おもしろい。

利吉がずいぶん、清兵衛の留守を預かってしっかりしてます。
お吉は不満のあまり、みんなで協議しようと言いますけど、ほとんど元締め役ができている。
しかし、清兵衛さんに比べると、若さゆえか、正確化、洞察がまだ甘い。

だけど、平内さん、証文を門前で破って捨てて、おえいさんに疑いはかからなかったんですね。
ハラハラしちゃう。

助け人が奉行所に目をつけられているから、小宮が何を狙ってうろうろしているのかがわからない。
ここも、助け人が「悲痛大解散」以来、奉行所と緊張状態にある設定が活きてます。
そして大五郎一家が香川と結びついていて、ついに小宮が犠牲になる。
助け人なんかより、ひどいのがいるんですけどね、ほんと。

解説にあるように、できる限り、法の下で、穏便に解決するのが助け人。
同時に、それが助け人が出遅れて、時に被害者を出してしまう理由でもある。

小宮、奉行所では煙たがられていますが、いい同心です。
こういう同心が報われないのが、「必殺」。
だから主水がグレて、仕置人になってくれた。
真面目な同心は殺される、これも「必殺」ならでは。

見ているこちらは与力の香川が五味龍太郎さんだから、「あー、危ない」と思えるわけですが。
大五郎一家のおえいへのゆすりも、気分悪い。
だけど、いきなり密告した虎吉の方を刺すのは、ビックリ。
こういう奴はいつか自分も裏切ると考える、大五郎の狡猾で用心深い性格がわかります。

大五郎役は、多々良純さん。
「仕事屋稼業」では、悪いんだけど、どこかコミカルな牢名主でした。
政吉のイカサマ博打を、ガラス張りの下から撮影するシーン、おもしろかったです。
イカサマを見抜かれて、政吉相手に「その汚ねえ手をどけろっ!」と言うのも小柄なのにド迫力。

今回の特長は、子猫を抱いているところ。
子猫には非常に優しいのですが、その子猫に言い聞かせるようにして子分たちにプレッシャーかけてる。
いやー、子猫には優しいが、人間には容赦ない。
「商売人」でいえば、おせいさんにつららで仕置きされた、犬を飼っている悪人みたいな感じ?

多々良さんは、「新・仕置人」では相撲の勧進元の悪役。
「暴れん坊将軍」では若い女性にうつつを抜かし、騙されているご隠居なんかもやってました。
これもまた、コミカルで楽しい。
この回、最後は善人が笑って終わって、良かったです。



2010.08.28 / Top↑
8月24日の「十三人の刺客」の、コメント内で教えていただいた情報です。
教えていただいて、ありがとうございます。


9月22日から、時代劇専門チャンネルでは深夜3時から「悪役列伝」!
第1回は22日深夜3時(27時~)、遠藤太津朗さん。
「暴れん坊将軍」「素浪人 月影兵庫」、そして「新・必殺仕置人」の4話「暴徒無用」、「新・必殺仕事人」32話「主水安心する」を放送。

そして第2回は27日深夜3時(27時~)、菅貫太郎さん!
「何をやっても得体の知らない不気味さが漂う男。有名なインテリ・酒乱・女好きのバカ殿系悪役以外にも様々な悪役をこなす俳優座出身の確かな演技力に脱帽!」
「荒野の素浪人」「暴れん坊将軍」から2本、「新・必殺仕置人」5話「王手無用」、「新・必殺仕事人」35話「主水友情に涙する」、「続・木枯し紋次郎」「明鴉に死地を射た」、「大江戸捜査網」を放送。

その後は10月に川合伸旺さん、亀石征一郎さんと続きます。
お願いです!
ザッと考えただけですが…。

志賀勝さん、内田勝正さん、江幡高志さん、藤岡重慶さん、早川保さん。
今井健二さん、南原宏治さん、石橋蓮司さん、岸田森さん、小松方正さん。
天津敏さん、神田隆さん、田口計さん、寺田農さん、山本麟一さん。
須賀不二男さん、山本昌一さん、佐藤慶さん、戸浦六宏さんなんかもお願いします!
悪役というか、名優の方ですが、この方たちの悪役の迫力は見なきゃ損!ですから。


2010.08.27 / Top↑
第25話、「逃亡大商売」。


大坂で盗みを働いた盗賊・夕立小僧が市中引き回しの上、打ち首となった。
夕立小僧は処刑の間際、「およね」と叫んだ。
血しぶきが桶に飛び散る。

「お願いです。連れのような顔をしてください。見つけられたら最後なんです」。
編み笠を深くかぶった文十郎に、女がすがってくる。
女が怯える視線の先には、同心がいた。

「八丁堀か」。
文十郎と女は連れ添って歩いた。
町外れに行くと、「力にはなれん。俺も目をつけられている。悪く思うなよ」と文十郎は立ち去った。

助け人は事実上、解散状態だった。
金策に文十郎は、質屋に出かけた。
文十郎が質屋にいると、男が「八丁堀が来るぞ」と知らせに来る。
「心配ありません。ただの見回りです」と弥平次は言った。

それは北町の梶川要蔵という同心だった。
思わず、顔を背ける文十郎。
梶川は質屋の主人・弥平次に一通り文句をつけ、袖の下を受け取って帰って行った。

「犬野郎め」。
愛想良く応対していた弥平次だが、梶川が去ると、吐き捨てるように行った。
「北町か」。
「今日お仕置きになった夕立小僧を先だって、お縄にした奴で」。

そして、文十郎に何か困ったことがあるか聞いて来た。
八丁堀に終われているなら、力になれる。
「私は弥平次と申します」。

「じゃ、おめえさんが、あの」。
「へい、逃がし屋の弥平次で」。
「そうか、名前はかねがね聞いていたが…」。
「八丁堀と聞いた時の旦那のご様子があまり普通じゃなかったもので、つい余計なおせっかいを申し上げましたが」。

弥平次は、東海道、越後路、通行手形に5両払ってくれれば全国津々浦々、どこまででも逃がすと言った。
「気持ちはうれしいが、俺はまだそれほど切羽詰っちゃいねえんだ。その時になったら、よろしくな」。
戻った文十郎に家の前で見張っていた岡っ引きが、どこに行ってたんだと十手を振りかざす。
次第に寄っては、また痛い目見るぞ、と脅す岡っ引きに、お前たちが張り付いているから仕事にも就けない、金策に行っていた、いいかげんにしてほしいと文十郎は言う。

家の中に入ると、お吉が待っていた。
「ばか、来るなと言ったじゃねえか」。
留守だから帰ろうと思ったが、表に見張りがついてしまったのでお吉は帰れなくなったのだと言う。
この前の一件で、傷がつかなかったのはお吉だけなのだ。

平内はやはり、町方に見張られていて、長屋に戻れず、賭場を泊まり歩いている。
清兵衛は旅に出たままで、店の大戸は閉めたままだ。
棟梁は、本当に為吉の故郷に行って帰って来るのだろうか。
お吉は何だか、清兵衛は帰ってこないような気がすると言う。

それを聞いていた文十郎だが、お吉が買ってきた酒を見せると喜び、お吉と飲み始めた。
見ていたお吉は、寂しそうにため息をつく。
文十郎の酒の飲み方まで、変わってしまった。
「助け人か…」。

お吉はため息をつく。
「たった一回、町方に目をつけられたばっかりに今じゃ何もかもばらばら。文さん、私たち、一体何をやってきたんだろうねえ…」。
お吉のため息にも、文十郎は答えがなかった。

その頃、清兵衛のいない店に、およねという女が訪ねてきていた。
応対に出た利吉は、現在、棟梁がいないので助け人は休業中と応えた。
だが、およねは裏の助け人の方だと言った。
どうしても助けてほしいと言うおよねに顔色を変えた利吉は、うちは裏も表もない、御定法に逆らうことはしたことがないと言って追い返した。

ガッカリして帰るおよねに、密かに追ってきた利吉は声をかけた。
「もし、女将さん。誰にもつけられちゃいませんね?」
「じゃあ…!」と、およねは顔を輝かせた。

しのの茶店に利吉が来て、茶を飲んで、御代を置いて帰って行った。
利吉が飲んだ茶碗の下には、手紙がある。
しのは「ありがとうございました」と言って、気づかれないように手紙を取る。

そして、しのは神社に行き、おみくじを引くと、手紙を木に結ぶ。
龍が遠くでそれを見ている。
しのが去った後、龍がやってきて、用心深く辺りを見回しながらその手紙を取っていく。
それは利吉が助け人たちを、芝居小屋の奈落に呼んだ手紙だった。

文十郎が行くと、龍がいた。
「文さん」。
平内もやってきた。
「しばらくだったなあ、平さん」。

助け人たちは久しぶりの再会を喜ぶ。
ところで、何の集まりか。
当分、仕事はしないはずだったが…。

すると、利吉が「既に頼み人を呼んである」と、およねを皆に引き合わせた。
文十郎は「おめえさん、いつかの…」と、つぶやく。
およねは、夕立小僧の処刑の時、文十郎に助けを求めてきた女だった。

実はおよねは、夕立小僧の女房だった。
「それであんた、あの日、あそこに…」。
夫はとっくに足を洗っていた。

「足を洗ったもんがお縄になるはずはねえだろう」。
平内はそう言うが、小間物屋を営んでいたのが、昔の仲間とトラブルになり、やってもいない罪で密告されて捕えられ、処刑となった。
「それがどうした。盗人の揉め事に首をつっこむのはごめんだぜ」と龍は言うが、話はそうではなかった。

市中引き回しの上、打ち首になるような罪では、親兄弟はもちろん、女房にも累が及ぶ。
女房のおよねもまた、死罪になるはずだった。
それを血眼になって探し、手柄にしようと言うものがいる。

北町の梶川という同心だ。
だからその前に逃がして欲しいというのだ。
しかも、およねには子供ができている。
箱根の関所まで連れて行ってほしいとおよねは頼む。

しかし、この仕事はまともに八丁堀とぶつかることになる。
文十郎はこの仕事は下りるとはっきり言った。
利吉は驚いて言った。

「何を言うんです。この仕事はどっから見たって、恥かしい話じゃないし、文十郎さんともあろう方がどうして」。
「わけは聞くな。とにかく俺は下りる。引き受け手がなければ、逃がし屋にでも頼め」。
そう言うと、文十郎は表に出た。

「俺も文さんと一緒でな鳴ければやる気がしねえや。俺も下りるよ」。
文十郎がやらないなら、平内も下りると言った。
龍は自分がやろうと言ったが、利吉は年がな、と言った。

「年?」
龍とおよねが連れ添って旅をしたのでは、どこからどう見てもどこかの女房と若い男の駆け落ちだ。
人目についてしょうがない。
この話は無理だ。

外に出た文十郎を、平内が追ってくる。
「この頃、少し変だぜ。どうして今日の仕事下りたんだ?利吉が信用できねえのか」と平内が聞く。
「いや」。
「じゃ。何故だい」。

文十郎は言う。
「為吉だよ」。
「為吉?死んだ為吉が、どうかしたのか」。

「平さん、この仕事をやっていけば、俺たちはきっといつか為公のような死に様をさらすに違いねえ」。
文十郎の脳裏に、拷問を受けている為吉の姿が蘇る。
「あいつは最後の最後まで、俺たちをかばって口を割らずに死んで言ったが、俺は口を割らずに死んでいける自信がねえんだ。あれだけ痛めつけられりゃ、俺はきっとはいちまうよ。平さんのことも。清兵衛さんや利吉や龍のことも」。

その言葉を、平内は強く否定する。
「いや、そんなことはねえ!お前さんそんな男じゃねえよ!」
だが、文十郎は言う。
「例えば平さん、おめえだ。おめえさん、為公のように死んでいけるって自分に言えるか?」

平内の言葉を待たず、文十郎は言った。
「とにかく朝から晩まで、町方の目が光っているんだ」。
すると、平内もしみじみ言う。
「俺にゃ、女房や子供もあらあ。いつまでも、こんな危ねえ綱渡りをしているわけにはいかねえ。…この辺が考え時かもしれねえな」。

その夜、平内と文十郎は賭場の帰りに、大暴れをした。
翌朝、平内は辻の屋敷へ向かった。
いつも8の日に、養育費を取り立てに来る元妻の綾が来なかったので、自分から辻家の屋敷に向かったのだ。

屋敷では子供が素振りの稽古をし、綾が厳しく見ていた。
影から平内が見ているのに気づいた綾が、子供に素振りをやめて家に入るように言う。
だいぶ腰が据わってきたようだなと言った平内に、綾は冷たく「今後一切、あなた様の下さるお金はご辞退申し上げます」と言った。
養育費を持って来たという平内に、綾は平内が助け人という不浄な商売の為に奉行所で取調べを受けたことを責めた。

平内が持って来た養育費だが、そんな不浄の金で子供を養育するわけにも行かない。
子供の為にも、この、辻の家から罪人を出すわけには行かない。
今後一切、会いたくない、夫婦の縁も切らせてもらう。
平内は辻家とは関わりがないもの、と綾は平内に言った。

一方、家に戻った文十郎は妹のしのの着物がなくなっていることに気づいた。
酒を買ってきたと言って戻ってきたしのに、文十郎はこれはどうした、いつからこんなことをしていると聞いた。
「いつからだっていいじゃない、みんな私のものなんだから」。

「バカ言え。これはみんな、お前の嫁入り道具だったんだ。その金で、俺が酒を飲んで喜ぶと思ってるのか?え?金がないならないで、何で俺にそう言わねえんでい」。
「私、お嫁になんて行かなくていいのよ。私、兄さんと一緒にそれだけでいられればいいんです。棟梁や、平内さんや、利吉さんや、お吉さんと毎日仲良く暮らしていければ、それで幸せなんです」。
そう言ったしのの頬を、文十郎が叩く。

「歯の浮くようなこと言いやがって。世の中はそんな甘いもんじゃねえ」。
そう言うと文十郎は、「金は俺が作ってくる。入れた着物はすぐ戻して来い」と言って外に出た。
表に出た文十郎に、岡っ引きが十手を振りかざして、どこに行くか聞いた。

「言えねえのか。言えねえなら、ちょっと番屋来てもらおうか」。
「うるせえ!」
文十郎が思わず岡っ引きの胸倉をつかむと、岡っ引きが「な、何でえ!」と怯える。

その時、しのが「兄さん、ちょっとちょっと!」と文十郎を呼びとめ、手招きした。
文十郎が戻ると、しのは戸を閉めた。
しのの声の調子が変わる。
利吉の使いが裏口に来ているとしのは言った。

芝居小屋に行った文十郎を、利吉が待っていた。
結局、平内も断った仕事は不成立になったので、およねは逃がし屋に任せようと思うと利吉は言った。
だから、逃がし屋に接触したことのある文十郎が、およねを弥平次に引き合わせてほしい。

「いくらだい?」
「いくら、とは?」
「とぼけんじゃないよ、おめえさん、前金でいくらか貰ってるんだろう。多分、5両ぐらいで」。
「まあ、そんなとこで」。

文十郎は頼み料を寄越すように言ったが、利吉は逃がし屋に引き合わせるだけなので、2両と言いたいところを1両にまけてくれと言って、1両渡した。
弥平次は、およねを見て、これは亭主が自慢にするだけの器量だと感嘆した。
「では、うちの人を?」

およねが逃がし屋は弥平次を知っているのかと聞くと、知っているも何も、夕立小僧は弥平次の手で箱根までという約束で逃がしたのだと明かした。
だが自分たちの手を離れた途端、三島宿で御用となった。
およねは木更津周りで逃げることになった。

通行手形から何から何までそろえるので、10両いただくと弥平次は言った。
高い値に文十郎は顔を曇らせるが、高いものはそれなり、と弥平次は言った。
何かと物入りになるので、全て現金で今払うというわけにいかないと、およねは母親の形見という、べっ甲の櫛を差し出した。

受け取った弥平次は、夕方には木更津だと言って腰を上げた。
「良かったな」と文十郎が言うと、およねは微笑みながら、「いろいろお世話になりました」と言った。
その後、弥平次はある常磐津の師匠の家に急ぐ。

「ここに来るようじゃ、よっぽど大きい魚がひっかかったと見えるな」。
そう言って座敷にいたのは、梶川だった。
「へい、お目当ての魚がね」。

顔を上げた弥平次は、もはや人の良さそうな逃がし屋の顔ではなかった。
「どの口だ」。
「それがね、夕立小僧の女房だ」。
「ほう、そいつは夫婦揃って運がねえな」。

そう言った梶川は、誰がその話を持って来たのか聞いた。
文十郎のことを聞いた梶川は、「どうやらその野郎もくせえな」と言う。
弥平次は「また来るでしょうから、調べておきますが」と文十郎の素性調査を約束した。

今すぐ御用にしたいと言った梶川に、立場があるので、一応逃がしてからにしてくれと弥平次は言う。
「俺とお前は持ちつ、持たれつ」。
梶川は手配書を弥平次に渡しながら、そう言った。
すると、梶川の愛人は、およねの見事な櫛に目を留める。

およねは弥平次の手引きの下、籠に乗って旅立った。
だが、しばらくすると籠が止まった。
駕篭かきは、ここから先は2両出さないと動かないと言う。

およねは逃がし屋に既に親方に金は払っているはずだと抗議したが、自分たちは動かなくても何にも困らない、何の義理もないのだから番屋に駆け込んでもいいと

言う駕篭かきにしかたなく2両払った。
しばらく行くと、高輪でおよねのいる籠に十手が差し出された。

岡っ引きが現れ、ここから先は自分が守ってやるから口利き料として、3両よこせと言う。
およねは従うしかなかった。
しばらくすると、別の岡っ引きが声をかけてきて、高輪から鮫洲まで自分が守ってやるという。
男は財布ごと渡せ、あるのはわかっていると言う。
およねはまたしても、言う通りにするしかなかった。

途中、およねは籠が走っている場所に不安を覚え、止めてくれと叫んだ。
すると、また籠が止まった。
およねが下りると、そこは夕立小僧が処刑され、さらし首になった場所だった。

同心の梶川が現れ、「およね、御用だ」と言った。
騙された…!
怒りのおよねは、逃げ出そうとした。
そこを駕篭かきや岡っ引きが担ぎ、胴上げしてからかう。

悲鳴をあげるおよねだが、胴上げはやまない。
そして、胴上げが行き過ぎた時。
およねの体は投げ出され、首をさらす台に刺さってしまった。
悲鳴をあげ、およねは、すぐに息絶えた。

およねを死なせてしまった梶川は渋い顔をしたが、すぐに気を取り直し、およねは一度逃げたが観念し、夫と同じ刑場のさらし首の台に身を投げて死んだことにしようと言った。
そりゃいいや、だんなの評判が上がると岡っ引きは笑った。
全員が笑いながら、およねを置いて去っていく。

お吉が座敷に呼ばれる。
行ってみると、文十郎だった。
今日はお吉のつけにしておいてくれ、と文十郎は言い、旅に出ようかと思うと言った。

「ひょっとするともう、2度とこの江戸には戻ってこねえかもしんねえ」。
「本気なのね、あんた」。
「何て顔をしてるんだよ。俺みてえな疫病神がいなくなれば、おめえにもきっと、いい運が周ってくるぜ。餞別はせいぜい、弾んでもらわなきゃな」。

そう言うと、文十郎は寝転がる。
お吉は明るく「いいよ!」と言った。
「どこでも行っといでよ。旅に出れば、気分も紛れるし。里心がついたら、いつでも帰っといで。断っておきますけどね、その頃はあたしはどっかの玉の輿に乗ってるかもしれませんよ」。

「派手に送り出したげるよ。陽気にいきましょ、ぱーっとね」。
「それがいいや」
「はい、飲んだり、飲んだり」。

明るく振る舞うお吉だが、文十郎はお吉の髪にさしてあるべっ甲の櫛に目が行った。
「これ、どうしたんだ?」
「買ったの、さっき」。
「誰から」。

「常磐津のお師匠さんから。そのお師匠さんね、旦那さんから貰ったんだって。気に入ったからね、譲ってもらったの。定廻りの役人てのは、いいもの手に入るわね」。
「常廻り?じゃ、町方か、その旦那ってのは。名前は?名前何てんだ」
「えっと…あ、梶川。梶川要蔵」。

「梶川!」
その櫛は、およねのものだった。
文十郎の胸に、不吉なものが走る…。

その頃、平内は利吉を訪ねていた。
利吉は家から縁を切られた平内は、自分と同じ、一人ぼっちになったんだと言った。
平内は妙にサバサバした、元々武士の家に自分が入ったのが間違いだった。
こうなれば、太く短く、思い切りやるまでだ。

何か仕事はないか、と言う平内に、利吉は現金だと笑った。
その時、文十郎がやってきた。
とにかく、逃がし屋を調べてくれと文十郎が言った時、誰かが入ってきた。
文十郎と平内に殺気が走る。

「俺だ。龍だよ」。
龍はおよねが死んだと話した。
「確かか!」
「ああ、詳しいことはわからねえが、あの女、確かに一遍は逃げたらしい」。

だが、亭主と同じところで死んだのだと龍は言った。
「手柄を立てたのは、北町の梶川って奴だ」。
文十郎も平内も、利吉も沈黙した。

「何故こんなことになったんだ?聞いてるんだよ!」
やがて、文十郎が尋ねる。
「利吉、俺の取り分はいくらだったんだ?」
「取り分?へえ、2両ですが」。

「今頃になって引き受ける気か」と龍が言う。
だが、利吉は言った。
「いいんですか?私は平内さんから聞いて、あなたの気持ちはよくわかってます」。
利吉は厳しい顔をしていた。

「今ここで金を受け取ったら、もう後にもどれませんよ。それを承知で。金を出せと言ってるんですね」。
「そうだ、俺はこの仕事をやる。あの人にかわって…。金をくれ」と文十郎は言った。
平内も文十郎を見つめ、うなづく。
龍も息を詰めて見つめている。
2両が文十郎の手に渡る。

その頃、料亭で駕篭かきと瓦版屋、そして岡っ引きがふぐ鍋をつついていた。
「死なせることは、なかったんだ」。
「いい女だったなあ」。
「ふざけるからいけねえんだよ」。
「おめえが、からかうから」。

「酒だ、酒だ」の声に利吉が「はあーい、ただいま」とやってくる。
女中が立て込んでいて手が離せないから、代わりに来たと言う。
「鍋はふぐに限りますな」と、利吉は次々、ふぐや野菜を鍋に放り込む。
具を入れ終わった利吉が、そのまま出ていく。

1人の岡っ引きが厠に立つ。
岡っ引きが外に出て、石畳を歩き、厠に入ろうとした時、龍がすれ違う。
一旦、厠に入った岡っ引きを、龍が捕える。

岡っ引きを龍が逆さに持ち上げる。
悲鳴をあげる岡っ引き。
そして、龍はそのまま、岡っ引きを脳天から石畳に落とす。
グキッという音がして、岡っ引きの首が曲がる。

本当の料亭の女中が、駕篭かきたちがいる部屋にやってくる。
戸を開けて、女中が悲鳴をあげる。
ふぐの毒で駕篭かきも瓦版屋も、喉を押さえて悶絶し、死んでいた。

その頃、梶川は料亭の愛人との逢瀬を楽しんでいた。
「梶川さまはおいでで?」と表から声がし、奉行所から与力の急ぎの手紙を預かってきたと声は言った。
「待ってろ」と言うと、梶川は外に出る。

だが誰もいなかったので、戻ってくる。
部屋に入る寸前、背後から平内の手が梶川の口をふさぐ。
紫煙が立ち昇る。

キセルの先を取り、針を取り出した平内。
梶川の首筋を一刺しする。
平内の顔が歪む。
声も立てずに、梶川は絶命する。

愛人が背中を向けている廊下で、梶川がすとんと座り込む。
戸を閉める音がする。
「おまえさん?何の御用?」と、愛人が目を見開いている梶川に声をかける。

弥平次の店、質に入っている着物が揺れる。
「誰だ?」と気配に弥平次が声をかける。
文十郎が現れる。
「誰だ、てめえは」。

「世の中、おもしれえもんだな、オヤジ。最後まで仲間をかばって死んでった者もいれば、逃がし屋のくせに町方とグルになっている下種野郎もいる」。
かかっている着物で、弥平次から文十郎が見えない。
「死んだ者はもう、2度と生き返っちゃこねえんだ。おめえさんの方から、あの世へ行って、およねさんに詫びるんだな」。
「そうか、てめえは!」

文十郎に気づいた弥平次が、匕首を手にする。
だが、古着の中、文十郎は見えない。
匕首を振り回す弥平次を、文十郎は兜割りの探検で正面から刺す。

弥平次を刺したまま、文十郎は勢い良く走って行く。
そのまま、弥平次はふすまに押し付けられると、ふすまが破り貫かれる。
隣の部屋に文十郎は弥平次を刺したまま、走る。
また1枚、ふすまが破ける。

それでもまだ、文十郎は弥平次を刺したまま、走る。
最後に障子を2人は破いて、部屋の奥に弥平次は到達する。
文十郎は、弥平次を行き当たった部屋の奥で刺し貫く。

弥平次が倒れる。
兜割りを弥平次から抜いた文十郎の手は、怒りに震えていた。
外に出ると、平内が待っていた。
仕事を終えた文十郎は、また、今までのように2人、連れ添って夜の町を帰って行く。




始まりから血しぶき飛び散る陰惨な演出で始まります。
前半の明るさとは打って変わった、後半にふさわしい幕開けかも。
これぞ必殺、という気がしないでもないんですが。

前回の「悲痛大解散」が、相当、尾を引いています。
当たり前ですけど。
何もかもが、お吉のいうように「ばらばら」に。

文十郎は編み笠を深くかぶり、まるで人目を避けるようにひっそりと移動してます。
岡っ引きは相変わらず、偉そうに見張ってるし。
清兵衛はおらず、助け人の看板は下りたまま。

しかし、しのが助け人の一員として何気なく協力していたり、新しい展開も。
茶屋で、そして明るく兄を呼ぶところなんか、結構うまく立ち回ってくれていると思います。
けなげだし。

助け人としての兄を受け入れ、以前のようにみんな仲良く暮らせればいいと言うしの。
だが、しのをここまで追い詰めてしまった文十郎の気持ちは晴れない。
いっそ、江戸を出てしまった方がいいのではないか、と考える。

その決心を何とも簡単にお吉に伝えるところが、残酷。
お吉さん、ショック。
この時のお吉さんの気持ちが、見てると手に取るようにわかる。
家にお酒持って来たところからして、文十郎の為に、いろんなことを置いてやっているはずなのに。

自分なんて、置いていかれてもいい存在だったのか。
何より、文十郎がいなくなるのがショック。
その気持ちを知ってか知らずか、軽く言う文十郎。

本当にお吉との仲がダメになると、わかってて言ってるのかどうか。
ダメになるってことが、どういうことか、わかっているのか。
文十郎みたいな男の人って、こういうところってありますよね。
お吉さん呼んで、ツケで飲んで、ごろんと寝転がる文十郎を見て、「堕落したな」と私でも思ってしまいました。

文十郎は、お吉さんに甘えてる!と思いました。
今回は、文さんが一番ダメになった感じがします。
為吉の死を目の前にした衝撃は、わかるんですが、豪快さ、軽快さがないのはもちろん、何よりも自信をなくしてしまって。
そんな文十郎に戸惑う利吉、そして平内。

平内さんは、綾さんに縁を切られてしまいました。
綾さんは子供の為、お家の為でしたが、平内さんはこれで吹っ切れた。
この時、利吉が「これで平内さんも、私と同じ1人ぼっち」と言ってます。

利吉は直接手を下してなかったんですが、ここでは毒殺してます。
文さんに後戻りできないですよ、と言って聞かせる利吉、かっこいい。
元締めみたいな迫力があります。

龍は怒ってます。
助けなかった人間の為、今さら動くのかよ!と怒ります。
龍はやっぱり、すごく良い人だと思いますね。

さて、悪人側は弥平次に伊丹十三さん!
最初に吐き捨てるように「犬」呼ばわりするところ、そして何と言っても常磐津の師匠のところで、およねが網に引っかかった報告をするところ。
ガラリと目つき、表情が悪党に変わります。

この方、「仕置人」でも金座の主人の役でした。
凶悪ではないが、冷たい狡猾な目をしてます。
頭が良く、礼儀の正しい人間の裏側を見せられた気がしてとても怖い。

同心・梶川は外山高士さん。
アニメ「サスケ」のサスケのお父さん役だったとは、ずいぶん後で知りました。
道理で声が渋くて良いはずです。

「うらごろし」では、「おばさん」に目をぱちくりしている間に刺されてたな~と思い出します。
「仕置屋稼業」では、山田五十鈴さんを説得する小屋の座長さん。
この時は、全然悪くない、どちらかというと良い人の役。
「必殺」シリーズには、たくさん出ていると思います。

およね役は、これまた「必殺」では良く出てくれた弓恵子さん。
「助け人」にも、前半に出演しています。
そこでも哀しい役。
自分が好きで、そして女中として面倒を見た若様の為、奔走し、最後は国許で嫁を貰う若様の為、姿まで消してしまう。

お吉は若様を守るのに助け人に払ったお金は、彼女が身を売ってしまったのでは…と心配する。
しかし、清兵衛さんもそれはわからない。
関知するところではない。

彼女が、どこに消えたかもわからない。
国に帰る若様は、夕陽に向かっていなくなった女中の名を叫ぶ。
切ないラストでした。
この回、お吉が助け人に加入した回でもあります。

「仕置屋稼業」では「八丁堀小町」と呼ばれた美貌の為、目をつけられ、市松が子供を引き取るエピソードになっている。
「新・仕置人」では鉄に艶っぽい殺し方をされる悪女。
綺麗な方なんですよねー、出ると、この方は男の人を惑わしている。
ここでは、「そんな死に方、おかしいと思うでしょ」って殺され方してます。

利吉の厳しい言葉。
それに対して、お金を受け取る文十郎。
完全に全員が、殺し屋として生きていくことを覚悟して、選択しました。

非道への怒りが、恐怖に勝った。
裏稼業の人間への信頼を裏切った弥平次への、文十郎の怒りが凄まじい。
やっぱり、江戸を出たとしても、今の状態じゃ、絶対、このままでは終わらないと思いますね。

中村主水が何度決心しても、その度、非道を眼にしたら裏稼業に戻ってしまったみたいに。
「仕置屋稼業」で、おこうが最初に言った言葉、「一遍、お仕置きをした人間は、その首かせから抜け出せんのと違いますか?」あれは真実突いてるんじゃないか、と思います。
やっぱり、文さんは裏稼業に復帰しました。

でも最後、平さんと待ち合わせて去っていく時の文さんは、今までのように晴れやかな顔をしてません。
BGMも哀しいもの。
今までわからなかったけれど、彼らもまた、殺し屋の悲しい業を背負い、生きていくのだ、と。
それをはっきり見せた回でした。

2010.08.26 / Top↑
菅貫太郎さん。
1970年後半か、80年の時のインタビューです。

やってきた菅さんは下駄に登山帽、サングラス。
1年中、この格好だそうです。

登山帽は、奥様の自家製。
「チャンバラやって、髪がベトベトになって、家に帰って来るまで汚いでしょ。これかぶって、メガネかけてりゃ、そんなに誰も汚いとは思わない」。

自分の出た映画は概して見ないけど、「十三人の刺客」は見た。
「おもしろかったなあ。友達が、あれはおもしろいぞって言うのを聞いて、その題名だったら俺出てるはずだって。観に行った。
工藤さんに1年ぐらいして、あれはいい映画でしたねって言ったら『ええっ!』って驚いて言ってたね」。

インタビュアー「自分も一歩踏み間違えると、ああなってしまうんじゃないか、という戦慄する怖さがあった。バカ殿さまを、あれだけ迫真的に演じた人はいない」。

菅さん「あんまり考察したことはないけど、狂気願望っていうのは、誰にでもあるのかもしれないね。例えば、この世の中、大地震でも起きて全部なくなったらさっぱりするだろうな、と思ったりね。あるいは気が狂ってしまったら、どんなに楽かとかね。
追い詰められると、あるんじゃないかと思いますよ。誰でもそういう資質を持ってて、近いところまで行くことがあるけど、行かないだけでね」。

「でも、あれ(十三人の刺客)に出てから脚本がそうでなくても、あれに近い線でやってくれって。みんな、そうですよ。バカの一つ覚え(笑)。
まあ、全部が全部そうだったわけじゃないけど、結構、数をやっているうちに不愉快になっちゃって。
最初は、図に乗ってやってたのね。人前で誰かをひっぱたくとか、殺すとかできるこっちゃないからさ(笑)」。


菅さんは、悪役が全てじゃない。
元々は大スター・早川雪洲の元へ通ううち、演劇を志して大学を中退した。
俳優座に、9期生として入所。

卒業後は、ブレヒト「セチュアンの善人」で舞台を踏み、ノーマン・テイラー「鹿の園」、清水邦夫「あなた自身の為のレッスン」などに出演。
寺山修司監督の映画「田園に死す」では、作者の分身・現在の私を演じた。

「僕は、あの人の短歌が割と好きだったし、あまり出演料・お金は出せないけど、どうしても僕に、って言ってきたんだよね。
それでプロットができて、内容がよくわからなかったけど、小さいころの自分に対面する話でしょ。おもしろそうだから、つきあわせてくださいって言って出たんです。
あれは、寺山さんの中でもいいんじゃない。僕はあれ、好きですよ。うーん、あれはいい!」


「田園に死す」のラストシーン、20年前の母親と向き合ってご飯を食べるシーン。
バタンと板が倒れて、新宿東口の雑踏になる衝撃!
「昼間でね、いい見世物にされちゃったよ(笑)」

(インタビュー当時は、俳優座をやめて8年)。

「人間ていうのは、どんなに素敵な、明晰な人でもあろうと、なかろうと、やっぱりそこにいると、そのグループなり組織の人になるみたいですね。
三菱なら三菱の顔になっちゃう。組織としては比較にならない小さな組織だけど、やっぱり俳優座の顔になるんだね。不思議とね。
そういうのが嫌になったんじゃないかなあと思うね、今、1人になってね。

組織から出て、1人で食えるかって不安はあるわけでしょ。サラリーマンでも、きっと思うと思う。まあ、ここは不満だけどもう少しいよう、もう少しいよう、と思いつつ、50になっちゃったっていう場合も、なんぼでもあると思う。
でも中にいる人間は、やっぱり組織の人になってしまって、他からの目で自分を見ることは難しいでしょう。どこかでポーンと出てしまわないと、自分が何であったか、わからないみたいだね」。


10年ぐらい前には、ふらりと東京から京都まで歩いてみたりした。
荒っぽいべらんめえ口調を時折使いながら、意外にも?デリカシーに溢れた俳優さんだった。
おっかなびっくり、「悪役を演じていると、周りがビビリませんか?」と聞いてみた。
すると、「こっちがビビってるんだ(笑)」と、こちらを安心させてくれた。


「俺はやっぱり、いつまでたっても素人役者だ、そう思うね。上手く行かない時、人が嫌になったりもするけど、素人…、素人だね。
取り組み方になんか、こう、がめつさがないっていうかね。淡白なんだ。全然くよくよしないっていうのも、嘘になるけどさ!そうだなー、よくわかんないな」。


そう、菅さんは悪役だけの方ではない。
しかし、この方が悪党で出てくると、それはもう、下手な主役は食われてしまうと思うほど。
何をしでかしてくれるか、出て来ただけで、「来た来た来た!」と言ってしまうんですね。
出演作は多いので、「必殺」をざっと、ですが…。

「仕事屋稼業」では、2話でジュディ・オングの女中に非道を尽くすバカ殿!
これがすごい、もうすぐ結婚するという女中を「無礼者ー!」と引っぱたき、気絶させて手篭めに。
まさにバカ殿。

さらに女中が婚約者とこの件を乗り越えて家庭を築いたというのに、子供が生まれたら「自分の子だ」と言い始め、亭主を斬殺して子供を奪わせる。
…何て殿だ。
子供を奪還した仕事屋を馬に乗って追いかけ、ムチでひっぱたく、狂気の殿様。

「仕事屋」では、2回出演。
あと1回は、イカサマ博打打ち。
既に悪女か道具のように扱われようと、離れられなくなってしまった自分。
緒形拳さんの半兵衛にかつての自分を見て、自分のようになるなと逃がす。
刺されると思った半兵衛に、いきなり土下座して、逃げてくれと訴える。


「仕置屋稼業」では姉と弟に仇と追われるが、極悪旗本に悪事の指南をして庇護される。
仇と追っている姉を逆に見つけ、居合わせた市松とともに拉致。
市松に暴行、姉を手篭めに。
…ひどい!

「仕置屋」が動いて、追い詰められると、市松に土下座。
自分で自分の始末はつけたいと、ぎょえーといえる悲鳴とともに自害…、した振り。
市松を油断させたと思って、再び襲い掛かる。
しかし、人間性を見抜いていたのか、市松にグッサリ刺されて終わり。


「仕業人」では、市原悦子演じる三味線弾きのヒモで、どうしようもない男かと思えば、市原悦子が商家の旦那におもちゃにされたと知り、殴り込みに行く。
しかしあえなく殺され、三味線弾きはとっくに愛想をつかしても不思議はないこの男にすがり、大声で叫ぶ。
そして男の為、三味線弾きは有り金はたいて仕置きを依頼し、少し関わっただけの剣之介もどこか憎めない男だったとつぶやく。


「新・仕置人」では何故か笑ってしまう旗本の困った侍。
将棋狂いで、将棋に負けてもう一番勝負させてくれなかったからと女将棋さしを斬殺。
寅の会にかけられる。

仲間が1人、また1人と殺される中、警護がつくが、正八がワナを仕掛ける。
将棋の本代ぐらい、払いなさい。
本代を取りに来た正八に、煙詰めという詰め将棋の紙を見せられ、夢中で解こうとする。

「しょうがねえ旦那だ」と老使用人がボヤく。
煙詰めの答えが知りたくて、自分を守っている主水たちの警護の目をかいくぐって外出。
正八に答えを教えろ~!とおっかなく迫るが、最後は「頼むっ、頼むっ!」と哀願。
どこか怖いのに、おかしい。


「商売人」では、300回記念「殺られた主水は夢ん中」に登場。
江幡さんとともに、悪事を働くが、しょせん小悪党。
大きな悪に潰されていく。
小悪党の哀しさ、いっぱい。


こんな風に見ていると、本当にね、惜しいです。
もっと、もっと、いや、今の菅さんがどんなだったか、とっても見たかったです。
きっと、良い味を出していると思うんですよね。

いつまでも忘れられない俳優さんです。
知らない方にも、菅さんという俳優さんはぜひ、見てほしいです。

2010.08.25 / Top↑
おおおっ?!
稲垣吾郎さんが悪役の映画、登場?!

三池崇史監督の映画「十三人の刺客」での話。

これは、1963年、昭和38年に工藤栄一監督の映画のリメイク?!

話は1844年。
明石藩江戸家老・間宮図書が、筆頭老中・土井利位邸の門前で自決。
訴状を持っていたことから、明石藩主・松平斉韶の狂気とそれによる暴虐の政治が明らかになる。

だが、斉韶は将軍・徳川家慶の弟。
そう簡単に処罰はできない。
しかも、弟の異常性を知らない兄は、斉韶を老中に取り立てようとする。

ここにきてついに、老中・土井は斉韶を葬ることを決意。
旗本・島田新左衛門は土井の命令により、13人の刺客を選び、それを率いて密かに斉韶の暗殺を計画する。
新左衛門の友・倉氷左平太、三橋軍次郎、樋口源内、他11人からなる暗殺部隊が結成される。

暗殺は、参勤交代の帰国の途中。
13人の刺客は、行列をつける。
中仙道で襲う計画は、斉韶を守る半兵衛により失敗に終わる。
そこで、新左衛門は尾張藩の通行を阻止し、斉韶たちに木曽落合宿に通らせるよう、罠を仕掛けることにする。

計画に、息子夫婦を斉韶に惨殺された牧野靭負と言う男も協力する。
その朝、深い朝もやの中を斉韶の行列と、53人の武士が行く。
行列はできたばかりの塀の前に足を止め、さらに背後の橋が崩れ落ちる。
逃げ場なし。
半兵衛の制御も利かず、その状態で、13人対53人の戦いは始まった。

時代劇映画史上最長の、20分以上に渡る13人対53人の殺陣。
「平和な時代に人を斬ったことのない侍が、刀を持った時の殺陣」だそうです。
ゆえに集団、大混乱。

この混乱を表現する為、工藤監督の掛け声とともに斬り合いの撮影が始まり、まず斉韶らの部下を自由に動かせる。
そこに13人の刺客がなだれ込むという、殺陣の指示なしの撮影だったそうです。
さらに手持ちカメラによる移動撮影で、逃げ惑う斉韶の部下たちや、圧倒的な数の武士を相手にする13人の刺客をダイナミックに撮影。
リアリティあるクライマックスです。

斉韶は、菅貫太郎さん。
すごいですよー、もう、狂気のバカ殿様。
凶悪非道!
バカ殿大迷惑!

こんなのが殿だったら、民はどれだけ苦しむことか。
バカ殿演じたら、世界一だと思います、この方は。
「必殺」でも良く見られる狂気の、これは原点。
あんまりすごいから、菅さんはこの後、狂気の侍を演じることが多くなります。

それを稲垣さんが演じる?!
稲垣さん、いいの?!と心配になるほど。
すごいなー。
これは新境地ですよ、頑張れー!

そして、この機会に菅さんのバカ殿がたくさんの方に見て貰えると良いな、と思います。
バカ殿=志村けん、じゃないですよ。
すごいんですから、もう…。

稲垣さんの出演する「十三人の刺客」は、9月25日公開です。


2010.08.24 / Top↑
第21話、「心中大悲憤」。


しのの勤める茶屋に赤ん坊が捨てられた。
母親はおみくじを引きに行ったきり、帰って来なかったのだ。
置手紙に気づいたしのが仰天する中、母親のおすえは影ながら見守っていた。

その帰り、市中引き回しになっている罪人の女がいた。
「鬼!」と罵倒されていた罪人・おわかはお吉が抱いている赤ん坊が泣いているのを見て、馬を止めてくれるよう懇願した。
赤ん坊は、「お腹が空いているんです!」と叫ぶおわかの声に役人は馬を止めてやった。

おわかは下りると、お吉に自分の乳を飲ませてやるように頼んだ。
その様子に再び馬に載せられたおわかをお吉は本当に子供殺しなのか、と役人に詰め寄った。
何かの間違いではないのか。
文十郎は制するが、本当に殺したのなら、それは鬼だ、人間じゃないとお吉は叫ぶ。

おわかが磔になるのを、文十郎もお吉も見ていた。
その寸前、見物人の中から、「お役人さま!」「おわかちゃんだけが悪いんじゃありません!」「男が悪いんだよ!」と叫ぶ女たちがいた。
だが刑は執行され、お吉も、そして赤ん坊を置いてきた女も思わず目を伏せた。

赤ん坊は、文十郎とお吉が預かることになった。
寒風吹きすさぶ中、文十郎は赤ん坊を背負って洗濯をし、それを見た平内は大笑い。
その頃、お吉はおわかのことを聞きに、勤めていた髪結いのもとを訪ねていた。

すると、ちょうどおわかの磔の時に叫んでいた2人が主人に連れられて戻ってきた。
邪険にする女将に金を握らせ、お吉はおわかが子供を殺した理由を聞き出した。
おわかの同僚によると、おわかは渡り徒士の矢崎雄之助と江戸で所帯を持つ約束をしていた。

ところが矢崎はおわかの貯めた金を持ち出し、給金を前借りしていた。
おわかは体が持つギリギリまで、働いていたという。
矢崎を、おわかは赤ん坊を抱いて待っていた。

だが矢崎は冷たくあしらい、本当に自分の子かどうかわからないと突き放した。
そんなある日、おわかは呼び出され、おわかも同僚も良い話かと期待した。
しかし、おわかを待っていたのは数人の武士。

雄之助に頼まれた武士たちはおわかを襲い、そこに雄之助が入ってきた。
泣き叫ぶおわかを雄之助は、こんな女を女房にできるかと言い放った。
絶望したおわかは赤ん坊を抱いて、身投げした。
結局、おわかだけが助かり、子殺しの罪で磔になったのだ。

矢崎だけが無傷なことにお吉は腹を立て、清兵衛に訴えに行く。
清兵衛は腹は立つが、お吉が頼み人になるという訴えには、感情に流されるわけにいかないと断る。
料理屋に勤めているおすえのもとに、矢崎が訪ねて来ていた。

おすえはおわかが磔になったことを責めるが、矢崎は騙されたのは自分の方だし、苦労をかけているおすえにいずれ報いるつもりだと言う。
そう言いながら矢崎はおすえに博打ですったので、10両都合してくれ、と言う。
前借りも限界なおすえは断ると、矢崎は女郎になることを勧める。

絶望したおすえは、文十郎とお吉を訪ねる。
おすえは涙ながらに謝る。
赤ん坊を返してくれと言うおすえだが、お吉は断る。
怒りのお吉に文十郎は何か事情があったんだろう、察してやれと言う。

かわいい子供を好きで捨てる親はいないと言う平内に、利吉はそんなことが言えるのかと追及するとばつが悪そうに平内は頭をかく。
赤ん坊がいなくてガッカリするしのに、いつでも子供が欲しいなら協力すると言う利吉。
すると奥から文十郎が「何か言ったかい?」と顔を出し、利吉は慌てる。

その夜、3か月分の給金を前借りしてきたというおすえに、矢崎はもっと出せと怒った。
寝ている赤ん坊を見て、子供は嫌いだと言っただろうと激昂した。
赤ん坊をかばうおすえを殴り倒し、箪笥を次々に開くと矢崎は財布を持って外に出て行った。

泣いているおすえの前に「ひどい男だ…」と、1人の老人が入ってきた。
老人はおわかの父親・清造で、越後から3ヶ月かけておわかを訪ねてきた。
だがその時にはおわかは磔になり、孫も死んできた。

母親はショックで心臓発作を起こし、そのまま息を引き取った。
全てのいきさつを髪結いから聞いて、矢崎にせめて娘の無念をと思い、ずっと後をつけてきた。
それでおそらく娘と同じ目に遭っているおすえを見て、耐え切れず出てきたのだ。

このままではおすえもおわかと同じ目に遭う。
一緒に田舎に行こう、と清造は言う。
清造は博打を打っている矢崎のもとに行き、せめて娘の無念をと思ったが逆に矢崎と矢崎の仲間に散々殴られてしまう。

翌朝、清造は清兵衛を訪ねた。
清兵衛はまんざら知らない話ではないし、むしろ頼み人が出るのを待っていたと言い、引き受けた。
このままでは、また犠牲者が出るだろう。

既に矢崎は別の女性にたかっており、そしてその女性もまた子供ができたと矢崎に言っていた。
矢崎の顔色が変わる。
その時、矢崎のことを探っている男がいると仲間が矢崎に報せに来る。
利吉の探りが感付かれ、矢崎は賭場にいる龍に目をつけた。

龍の後をつけた矢崎たちは龍に感付かれた。
矢崎は何か裏の仕事をやっていると噂の龍に、10両出すから自分を狙っている奴を突き止めて殺してくれと頼む。
その頃、おすえは百両で雄之助に売り飛ばされていた。

おすえが連れて行かれそうになり、清造は必死に阻止しようとするが無力だった。
その時、平内がやってきて女衒たちを叩き伏せる。
おすえは女房でも何でもない、金ならそのおすえを売ろうとした連中から取れと平内は追い返す。

同じ頃、龍が清兵衛を訪ねてきた。
彫刻をする清兵衛の背後で、龍が名乗る。
清兵衛の命を貰いに来た…、だが構える龍も、見守る利吉も、ノミを持ったままの清兵衛を前に動けない。

汗が落ちる。
その時、清兵衛が彫り物をノミで貫き、大きな音を立てる。
利吉が膝をつき、龍が構えを解いた。

「間違いなく、あんたの命を取れる…、だが俺も生きちゃいない」。
平内、そして文十郎が姿を現す。
清兵衛は裏の仕事を知られたからには、龍を生かしてはおけないと言う。

この仕事は事と次第によっては人様の命を頂戴しなければならない仕事、万が一にも間違いは許されない。
「じゃあ、どうすりゃいいんだい」。
「どうだい、俺たちの仲間に入らねえか?仲間なら、殺すわけにもいかないんでね」。
文十郎、平内が見つめる。

龍は文十郎と平内を案内する。
反発する平内に文十郎は、ガキの言うことだから、となだめる。
だが龍は、「あの野郎は俺がやる!」と矢崎は自分がやると言う。

「おめえ、戌年か?申年の俺とはどうも合わねえな」と平内。
文十郎は「はっきり言っておくが、余計な手出しはするな」と言う。
だが2人に背中を向けて歩く龍は言った。

「俺は…、捨て子なんだ!」。
それを聞いた2人の足が止まり、文十郎は矢崎の始末は龍にやらせようと言う。
「思う存分やんな!」と平内が声をかける。

新しい女と、芝居小屋で遊んでいる矢崎と仲間の集まりに龍が現れる。
「誰だ」。
龍が下駄をそっと脱ぐ。

龍とわかった矢崎が言う。
「何だお前さんかい?仕事は済んだのか?」
「いや、まだ残ってる。お前さんをやることになった」。

「何だと!」
矢崎が刀を払い、龍が避けると女性に当たる。
女が悲鳴をあげる。

悲鳴で駆けつけた仲間3人の前に三味線の音が響き、横から芝居に使う猪が仲間の前に立ちふさがり、そして背後から獅子が現れる。
猪と獅子に仲間たちが挟まれる。
「貴様たち、何者だ!」

「助け人だ。おめえさんたちは邪魔なんだ。消えてもらうよ」。
「何!」
獅子を脱ぐと、平内が現れる。
平内がキセルを外し、針を取り出す。

文十郎はあっという間に1人を刀で斬り、後ろ手に鉄心で刺す。
平内が残る1人を押さえつけ、獅子の面をかぶせる。
獅子の面の上から平内が刺し、獅子の口の中で男が悶絶ずる。

平内と文十郎が見守る中、龍が矢崎を追ってくる。
矢崎をつかむと持ち上げ、ぐるぐると回転する。
そしてそのまま後ろに倒れる。

グキッという音がして、矢崎の口から血が流れる。
文十郎と龍がすれ違い、平内が龍に下駄を渡してやる。
芝居小屋の絵に、血が流れている…。

翌日、清造にあやされながら赤ん坊を抱いたおすえは3人で街道を歩いていた。
江戸を振り返り、そしてまた3人は歩いていく。
その姿は誰が見ても、幸せそうな、孫と娘と祖父に見える。



龍が仲間入り。
渋い大人の助け人に、若くてアクションの大きな龍が入ったことで躍動感が出てきました。
前回から、龍は清兵衛に会いたがってました。

思えば、清兵衛に敵意を持っているからというよりも、清兵衛の器を確かめてみたかったんじゃないかなあと。
器の大きさを確認して、さらに仲間に誘ってもらったので、すんなり加入。
そんな風に見えました。

清兵衛という元締めがどういう人かも、改めて描かれていた回ですね。
おわかは磔になったのに、矢崎だけが無傷なことに、お吉が腹を立てる。
だけど、清兵衛は腹は立つが、頼み人がいなければどうにもならないと諭す。

ならばお吉が頼み人になるというとは、そうやって感情に流されて仕事しているわけにいかないと断る。
龍には人様の命を頂戴することもあるんだから、万が一にも間違いは許されないと言う。
信念ある元締め。

さて、話は捨て子から磔になる女囚の話で、悪い男の描写になる。
絶望のあまり、死なせてしまった我が子をお吉の抱く赤ん坊に見たおわか。
子供に乳をやらせてくれと懇願し、こんな女が鬼のわけがないと思うお吉。

磔を前に、叫ぶ同僚。
そこから探る真相。
うまい導入だと思いました。

おすえ役は赤座美代子さん。
赤座さんは、悪女役もバッチリな女優さん。
「仕事屋稼業」での悪女は迫力です。
後ろで男が殺されているのに、鏡に向かって化粧をしながらチラリとそちらを見る笑顔のすごいこと。

でも、ここでは哀しくけなげ。
自分を騙していると、もうわかっていながら一縷の望みを捨てきれない。
しかし子供と自分を売り飛ばした件で、愛想が尽きた。

かわいそうなのは、おわか、そして矢崎の巻き添えになったおすえの次の女性。
だけど、矢崎は何でもてるんでしょ?
渡り徒士は不安定な身分って主張してましたけど、あれはきっと仕官するよりあの男にとっては身軽で気楽なんだな。
矢崎をどうにかできないかと思っていたところ、清造という頼み人が現れてよかった。

画は相変わらず、凝ってます。
清兵衛と龍の対決シーン。
龍は、隙がなくて動けない。

滴り落ちる汗。
緊張感、そしてそれがフッと緩む。
利吉がこける。

仕置きシーンも凝ってますね。
龍に反発していた平内だけど、「俺は捨て子なんだ!」の搾り出すような声に仕置きを譲る。
そうか、譲れないな、清兵衛さんの目に狂いはない、と。
龍は悪い奴じゃないと認識する、大人の2人。

猪と獅子の被り物で現れる文十郎と平内。
獅子の中で平内に刺された男の悶絶する様が、獅子の口から見える。
前回同様、武器を用いないけれど、豪快な龍の仕置き。
芝居小屋の錦絵とシンクロし、迫ってくる恨みの深さ。

最後に平内が龍の下駄を渡してやることで、仲間として正式に加入って感じが良かったです。
独りぼっちになってしまったけど、おすえというまるで嫁のような娘ができて、同じような境遇の赤ん坊を救えて清造もおすえもめでたしのラスト。
おわかは死んでしまったけど、清造もおすえも死ななくて良かった~。

憤慨するお吉、子供を渡さないお吉。
その後、文十郎に子供ほしいとせがむお吉。
男の身勝手さに怒るしのを、自分は違うとなだめる利吉などの描写も楽しいです。


2010.08.23 / Top↑
日経新聞第2版日経マガジンに「JOKER 許されざる捜査官」主演の堺雅人さんが載ってました。
ジョーカーの撮影現場での話。

被害者が、いずれコーヒー店を開くのが夢と語っていたこと。
堺さん演じる伊達の前にはコーヒー。
何気なく、砂糖に手が伸びる。
そこで堺さんは、はっとする。
コーヒーへのこだわりを表現するなら、砂糖は入れないのではないか。

「これは味を堪能すべきコーヒーだと伊達が気付けるかどうか。大事だと思うんです」。
細かいところまで納得して進んで行く。
セリフの語尾が「ですか」か「ですね」か、ニュアンスの違いを考える。
ここまでやる俳優も、なかなかいない。


あ、これは第3話の現場ですね。
伊達が被害者家族を訪問するシーン。
あのシーンにこんな細かいこだわりが。


伊達について。
「表と裏の表情の違いを、わかりやすく演じ分けはしない方が良いと思う。
狂気は自分が狂気と思ったら、底の浅いものになってしまう。
自分と、この人は同類なんだ。
自分の中にも悪意はあるという思いが、苦みや痛みとしてあれば良いかな、と今は考えています」。


裏と表の顔に明らかな違いがないのは、こんな気持ちで演じていたからだったんですね。
がらりと変わるんじゃない。
それじゃ浅い。
裏は、あくまで、表の延長。
狂気は普段からある。
凶悪犯へ、とはいえ、人に対する悪意は確かに伊達の中に存在している。
それを自覚している苦み、痛み。


堺さんの最初の演劇経験は5才の時。
幼稚園で「みなしごハッチ」を上演した。
その時、堺さんはカベムシの役だった。

カベムシについて調べるところから、始めた。
だが、先生が何か間違えたのか、図鑑で調べてもカベムシは載ってない。
カベムシという虫が、わからない。

すると先生は、あっさり「クモにしましょう」と言った。
だが、堺さんは言った。
「カベムシしかできません」。
既にわからないながらも、カベムシの想像ができていた。
「今でも同じことしそうですね」と、堺さんは笑う。


あっ、大人にわからない子供のきまじめさでもありますね。
しかし、堺さんのきまじめさやこだわりは、この頃から。
いや、幼稚園の頃にこれってことは、これは堺さんの本質なんでしょう。


堺さんは、徹底した役作りで知られる。
役によっては、体重を7kg減らし、タバコを吸う。
または、8kg増やし、タバコをやめる。


ひええ、ストイック!
いや、すごい。


「ゴールデンスランバー」の中村監督は言う。
「堺さんの顔を思い浮かべると、脚本が進む。最小限にセリフを削っても、ちゃんと演じてくれるし、逆に長いセリフでもすらすら言える。
脚本が頑張らなくても、成立してしまうんです」

「クライマーズハイ」で記者を演じた時は、自分自身の仕事に疑いを持たず、真っすぐ進んで行けた。
今は、堤さんが演じた管理職が抱える葛藤が良くわかる。

「40才を初老とは良く言ったもので、30代後半は老い始めというか。
後ろの方に下がる準備をする期間だと、思うんですね。
頑張ればまだまだ若手には負けないぞ、という思いよりは、どうすれば大先輩のようになれるんだろうという心持ち。

ただ、後ろ向きの思考ではない。
年を取ると、自分の価値観に固執して頑固になるイメージがあるけど、最後まで正常な思考能力を備えていたい。
常におそれおののいたり、揺らいだりしながら、その場その場で誠実な思考を巡らせていたい。
それさえあれば、老いは老いとして迎えられる気がする」。

この方は良い年の取り方ができる、年相応の良い役が得られる俳優さんかもしれませんね。
すごいしっかりした考えの俳優さん。
自分を良く見てるんですねえ…。

堺さんは数年前、裏方さんに非常に人気で、もう一度一緒に仕事をしたい俳優さん1位でしたが、わかる気がします。
意外なところで、なかなか興味深い堺さんのインタビューを読めました。


2010.08.22 / Top↑