「塚原ト伝」第6回。
新右衛門が鹿島から修行に旅立ち、京都に来て10年。
名声は轟き、多くの弟子を抱えていた。
だが、奥津が落とした影は濃く、新右衛門の前には、自分が倒した剣客の姿がしばしば蘇るようになっていた。
自分に襲い掛かってくる亡霊たち。
新右衛門は一瞬、惑わされかかる。
間一髪、我に帰った新右衛門は、自分に襲い掛かってきた刺客を斬り捨てる事ができた。
それは長い間、大内の屋敷に勤めていた男だった。
ずっと間者として、屋敷に潜んで平賀丹後守と大内家のことを探っていたのだ。
あと少し遅かったら…、斬られていた。
新右衛門の頭に公方さまの、手が血で真っ赤だ、と言う言葉が蘇る。
権力争いと謀略にまみれた都、それに巻き込まれるしかない今の自分。
鹿島の剣を広めたいと思って、鹿島を出たはずだった。
なのに、自分の剣は神から離れているのではないか。
既に血にまみれた、鬼になっているのではないか。
山に登り、自分を見つめ直す日々が続く。
そしてある日、鹿島の海を思い出す。
「鹿島に帰ろう」。
丹後守の主家である大内義興は細川高国との政争に勝利し、明との貿易を勝ち取った。
大内は、山口に戻ることを決める。
家臣である丹後守も山口に戻ることになり、鹿乃も当然、山口へ戻ることとなる。
新右衛門は丹後守に一緒に山口には行かず、鹿島に帰ることを伝える。
「神に向き合いとう、ございます」。
その夜、丹後守の娘・鹿乃は新右衛門に寄り添い、連れて行ってほしいとつぶやく。
だが平賀の家を継ぐ鹿乃には無理な話だということは、鹿乃自身にもわかっていた。
新右衛門も鹿乃への想いを秘めたまま、旅立ちの朝は来た。
丹後守、京都で親交のあった者たちが新右衛門を見送る。
鹿乃もそっと見送る。
京都の町、鹿乃と手を取って歩いた思い出が新右衛門に蘇る。
やがて、新右衛門と左門は鹿島に戻る。
鹿島では、後を継いだ鹿島義幹が玉造常陸介の言う通り、城の改築をするところだった。
先代からの家臣たちは費用がないと反対するが、殿は玉造の意見を聞き入れてしまう。
そこに新右衛門が戻ってきた。
諸国に名が轟く新右衛門が帰ってきたことで、玉造を牽制できる。
みな、大喜びで新右衛門を迎え、武勇伝を聞きたがる。
しかし、新右衛門は鹿島神宮で千日、俗世と縁を切ってこもる修業に入ると伝える。
養父は納得できない。
だが、実父は新右衛門の気持ちに理解を示す。
実母が心配する中、新右衛門と共に成長した木を見つめ、おこもり場も用意する。
真尋も祈る中、千日の修業が始まった。
誰とも口を利かず、関わりを持たず、1人で滝に打たれ、水に入り、祈り、剣を振るう日々が続く。
左門も心配をして見に来ている。
千日の修行が、終わる前の夜だった。
幼い頃、真尋と一緒に、物忌さまともう1人の自分と遭遇した場所。
そこで剣を振るっていた新右衛門の前に、もう1人の自分が現れる。
向かい合い、剣を交える2人。
あなたは…。
鹿島の剣の祖・真人さまでは…。
もう1人の自分の太刀が、新右衛門の頭の上に振り下ろされ、止まった。
新右衛門の頭の中に、声が響く。
「恐るるな」。
「己は相手とともにある」。
「心新しくして事に当たれ」。
あの夜と同じように、雷が鳴り響く。
新右衛門の手には、真人がくれた剣、一つの太刀があった。
夜が明ける。
新右衛門は剣の道は、形や腕にはないことを悟る。
ついに悟りを開いた新右衛門。
千日の修業を終え、戻ってきた新右衛門に左門も胸をなでおろす。
強くなればなるほど、迷って行ってしまった新右衛門。
自分が倒した亡霊たちが現れ、襲いかかろうとする。
奥津は、言った通り、自分と同じ地獄へ堕ちかかっている新右衛門を嘲笑いに現れる。
これまでに対戦した相手、斬り捨てた盗賊のことが思い出される。
血で染まった手を見るように促した公方さま。
本田博太郎さんが回想場面で現れたのは、うれしい。
業苦の世界に入りかけた新右衛門の癒しは、鹿乃だった。
今回、鹿乃は新右衛門に「なぜ戦うのです」と食って掛かったりせず、そっと支えていました。
山口へ戻る鹿乃は、おそらく2度と会うことはない新右衛門に向かって、鹿島へ連れて行ってくれたら…と胸のうちを打ち明ける。
新右衛門も、心の中では鹿乃を連れて行きたいと思っている。
しかし、迷いの中にあり、これから鹿島へ戻る自分が、平賀の家を継ぐ鹿乃を連れて行くことはありえない。
お互いに気持ちをわかっている2人には、お互いの無理もわかっている。
2人はそっと、目に心を込めて、別れていく。
鹿乃が切なくて、良かった。
今回は迷い、怖れ、そして悟り。
試合や斬り合いよりも、堺さんの内面の演技に比重がかかった回。
堺さん、飄々としているようで、こういうところの演技はしっかりしてますねー。
本田さんは一瞬しか出ないし、物語としては内面の葛藤に徹した回だったのですが、退屈することなく見られました。
こういう人間としての挫折や苦悩あってのト伝誕生だと、強さに説得力が増しますね。
ト伝を無敵のスーパーヒーローに描く物語も、あってもいい。
ですが、これはそういう物語とは違う話でした。
悟りを開く展開は、第1話の神話のような世界に戻るんですが、この神秘的な展開は良かったです。
そうそう、新右衛門が見たもう1人の自分は鬼ではなかった。
鹿島の真人さまだった。
なんと失礼な解釈を、私はしていたのでしょう。
物忌さまが、新右衛門には試練がかかるが、鹿島の神と共にある、大丈夫だというのはこのことだったんですね。
新右衛門はまさに、鹿島の神の太刀を継ぐものだった。
鬼を知って、神を知る。
これまでは、その為の戦いの日々だったんですね。
悟りを開いて次回、最終回!
早い~。
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