大晦日の呪文 「加牟理入道郭公」

いろーんなやらなきゃいけないことを残している気がする、今日は大晦日。
以前はもっと、正月は家の中やらさっぱりさせて、新年を迎えた気がするんだけど、特に今年はどうしようもできないっ。
それでもさっぱり片付けた一部分を見ると、いいなと思うんですが、とにかくもう、あと数時間で2013年も終わり。
年越しそばは、天ぷらそばで食べた。

水木しげる氏の「妖怪文庫」によると、大晦日の夜、お手洗いに行って「加牟理入道郭公」(かんばりにゅうどうほととぎす)と唱える。
すると1年間、お手洗いで妖怪を見ないそうです。
お手洗いで1年間、妖怪を見ない!
逆に昔は、そんなにお手洗いで妖怪に遭遇する機会が多かったのかと思ってしまう。

水木氏は、今は水洗トイレだから怖くもないが、昔は下は深い穴だった。
なので夜などは、そこから白い手が出ても不思議はないような気がしたと書いてます。
妖怪ならぬ、生きた人間が入り込む、のぞく、手を伸ばす者もいたかもしれない、と。
だからこの呪文は、お手洗いでの不安をとりのぞくものだったのだろうとのこと。

ああ、私が子供の頃は夏休みに行く田舎の家には、まだおトイレが外にある家がありました。
いろんな意味で、合理的な理由があったんでしょうが、子供には夜、外のトイレに行くのは怖かった。
だけど夏だから、昼間や夕方、夜寝る前に思いっきり水分取っちゃってるんですよね。
夜中、必ずといっていいほど、トイレに行きたくなるようなことしている。

私は夏の間だけ、しかも天気が悪い日に滞在した記憶はないんですが、雨の日なんかは大変だな。
寒い日なんかは、もっと大変だな。
冷えると何度も行きたくなったりするし。
子供だから、すごい距離に感じたけど、案外そんなに遠くなかったのかなって、大晦日に田舎のおトイレの話になってる。

大人になっても、夜、このトイレに行くのはちょっと怖いんじゃないか。
こういうお手洗いなら、大晦日に「加牟理入道郭公」って言っちゃうでしょうね。
大晦日に忘れてはいけない、やらなくてはいけないことだ。

さて、今年、このブログに来てくださって、読んでくださった方、拍手くださった方、ありがとうございます。
みなさまにとって、来年が良い年になりますよう。
今年一年間、ありがとうございました。
それではみなさま、良いお年を。


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「5人殺してください」 誰から聞いたの?

年末、年末と全然関係ないけど、「必殺シリーズ」で、以前から不思議に思っていたことのひとつ。
「必殺仕業人」の第12話「あんたこの役者をどう思う」。
依頼人のお染に、仕業人のことを教えたのは誰?と気になる話。


捨三は洗濯仕事をしていて、ふと気配に気づく。
すると、1人の若い女性が立っている。
営業用の笑みを浮かべた捨三に、その女性は「ここは洗濯屋さんでしょ?」と聞く。
女郎の腰巻から、野郎のふんどしまで、何でもござれ。

そう答えた捨三に女性はいきなり、「人を5人殺してください」と言う。
「あなた、殺しを請け負う仕業人の捨三さんでしょ?」
さすがに表情がこわばった捨三だが「あんたの寝言に付き合っている暇はねえんだよ」と叱り飛ばし、小屋の中に入る。
そっと表を見ると、女性の姿はどこにもなかった。

いつものように、売れない芸を披露している剣之助とお歌。
まるでやる気のない剣之助に、お歌が気分を害する。
今日はダメだ、近くで薬売りがこの道、40年の芸を見せている。

剣之助はそう言って、独楽などをまわしている。
だが1人だけ、剣之助とお歌の方を見ている女性がいた。
客と見たお歌が、にっこり笑って月琴を弾き始める。

女性は駆け寄ってくると、「仕業人の赤井剣之助さんでしょう?人を5人殺してください」と言った。
うろたえながらもお歌は否定し、さらに剣之助の刀を抜き、「これだって竹光なんですよ」と笑ってみせる。
だが女性の目をじっと見ていた剣之助は「今日は店じまいだ!」と言うなり、立ち去る。
お歌は女性をにらみ、「変なこと言いふらさないでよ!」と言って、剣之助の後を追いかける。

やいとや又右衛門が、女性の着物のすそをめくっていく。
手を押さえようとした女性に、「恥ずかしがらないで」と言う。
足三里のつぼを押さえて、ここに灸をすえると、旅の疲れが吹っ飛ぶと言った。

女性はあの女性だった。
「人を殺してほしいんです。5人殺してほしいんです。仕業人のやいとや又右衛門さんでしょ?」
一瞬、目つきが鋭くなった又右衛門だが「私も医者のはしくれ。人様の命を助けても命を頂戴するなんてこと」と否定した。

その夜、「こんな夜はうちへけえりたくねえなあ」と楊枝をくわえて歩く主水に「八丁堀の中村主水さんでしょ」と声がかかる。
主水の足が止まる。
「牢屋見回り同心の、中村主水さんでしょ」。

「はい、私が中村主水だったらどうだっていうんですか?」
「男を5人殺してください」。
「お前、変なこと言うとしょっぴくぞ」。
主水が近寄った時、女性の姿は闇の中に消えてしまった。

翌日、4人は集まり、昨日、妙な女性がそれぞれのところに現れたと話す。
「あの女は、俺たちの名前まで知ってるぜ」。
「一体、誰から俺たちのこと、聞きやがったのかな」。
「とにかく、中に入って相談しようぜ」。

自分たちのことを知っている者は早いところ見つけて、消さなければならない。
又右衛門が「女はあたしの専門だ。あたしが引導渡しますよ」と外に行こうとする。
捨三が戸を開けた時、表にあの女性が立っていた。

4人がギョッとしたのは、ほんの一瞬だった。
女性は中に引きずり込まれ、悲鳴を上げる。
又右衛門が女性の目の前に、針をかざす。
だが剣之助は殺す前に、この女性に自分たちの名前を教えた者の名を吐かせなければならないと言う。

すると女性はお染と名乗り、武州埼玉から来た庄屋の娘だと言った。
去年の秋、借り入れも終わり、年貢も整った時だった。
里に犬村猿十郎一座という、旅役者がやってきた。

白波五人男の演目が、評判になった。
その中の1人、弁天小僧役の菊三という男と恋仲となった。
よくある話だと、又右衛門が口を挟む。

女に子供ができる。
途端に、男が去っていく。
殺してください、そんなことだろうと又右衛門が半ばあきれた口調で言う。
だが、これはそんな話ではなかった。

ある夜、密かに菊三がやってきて、お染と逢引をしていた時だった。
突如、お染の家に賊が押入る。
家族を次々刃にかけ、お染と菊三がいる部屋にもやってきた。
怯えきったお染の前で、菊三は「どうかお助けを」と命乞いをした。

その時、お染は気づいた。
刃物を持った男たちの指に、うっすらと残っている白い白粉の痕跡が残っていることに。
自分の肩にかかっている菊三の指に、同じような白粉の痕跡があることに。
かすかに漂う、賊と菊三の同じ香りに。

お染の父親と母親は、年貢だけは持っていかないでくれと懇願した。
だがそれは無駄だった。
5人は家のものを皆殺しにし、すべてを持ち去った。

「舞台の白波五人男は、本物の盗賊だったわけだ」。
ふざけた話だと、主水たちは言った。
田畑、屋敷を始末し、年貢に当てたお染は菊三の後を追った。
菊三と再会したお染は、仇を討とうとした。

だが猿十郎たちに押さえつけられたお染は、川に投げ込まれた。
川に投げ込まれたのは、刃物で刺したのがわかればそれがきっかけになって、自分たちに疑いがかかるかもしれないとの用心からだった。
「それにしても、よく助かったね」と又右衛門が言う。

気がついたら、お染は「ある方」に助けられ、介抱されていたのだ。
「そのある方という奴から、俺たちのことを聞いたのか」。
「そいつは一体、誰なんだ」。
主水の問いにお染は、「それは言えません。その人と約束しました」と言って、口をつぐむ。

「死んでもらう」と仕業人たちに言われたお染だが「お願いです。あの男たち5人を殺してください。父や母や姉や兄や、妹や弟の仇とってください」と言った。
「お願いします。それからでしたら、私は死んでもかまいません。そうしないと私、私、あの世に行ってから誰にも会えません」。

そう言うとお染は号泣した。
4人は、黙って聞いていた。
誰も何も言わない。
やがて剣之助が「俺は女に泣かれると弱いんだ。どうだ、この娘、信用できそうじゃねえか」と口を開く。

又右衛門が「殺されてもいいってのは、いんですけどね。この人、金持ってるのかね」と淡々とした口調で言う。
「はい。ここに12両あります。これを全部差し上げます」。
お染がすかさず、金を出す。

「俺、乗ったぜ!12両だよ。1人3両じゃねえかよ!」と捨三が叫ぶ。
「旅費に1両かかったとしても、2両は残るな。俺はやるぜ」と剣之助も言う。
話は決まった。

しかし、犬村一座は今どこにいるのか。
探し出すのは、おおごとだ。
すると剣之助は「蛇の道は蛇だ」と言った。

剣之助は大道芸の仲間から、犬村猿十郎一座のことを聞いた。
主水は奉行所で、出張の話をまとめてきた。
仕業人たちは猿之助一座を追って、安房への旅に出る。

うるさいせんとりつを前に、出張の準備に余念がない主水。
行き先の方角を気にして、暗剣殺!と拝む又右衛門。
翌日、剣之助が突然消えて、お歌は又右衛門の家に走る。
又右衛門の留守も、確認した。

さすがに主水の家には行けないのか。
「とうとう行っちまったんだな。こんな日がいつかは来ると思ってたけど」。
絶望したお歌だが、芸人仲間に剣之助が犬村一座のことを聞いていたのを思い出し、「きっとそうだ…」と微笑む。

主水、又右衛門、そして剣之助の3人は渡世人姿で旅をする。
ある親分から主水は紹介状も、もらってきていた。
途中、3人は渡世人から仁義を切られる。

すると剣之助が返事をする。
「俺っちは急ぎ旅だ!仁義は受けられねえ!失礼さんにござんす!」
感心する主水に剣之助は、「芸人のはしくれ」と言う。

道中、博打で負けてすっからかんになった渡世人が3人を見つけて「兄弟!兄弟!」と声をかけてくる。
「ワラジ銭の方…」。
この時も剣之助が、うまくやる。

「俺っち同じく、オケラにござんす!失礼さんにござんす!」
「あっそう…」。
がっくりした渡世人は、「あ~あ」と座り込む。

3人は猿十郎一座が興行する村にたどり着く。
5人はまた、お染の時と同じ手口で、庄屋の娘をたらしこみ、押し込みを計画していた。
急がなければならない。
そして、肝心の菊三に逃げられてはならない。

だから殺る時は、5人まとめてだ。
だがその夜、猿十郎一味は庄屋の家に押し込んで、皆殺しにしてしまった。
菊三は、今度は庄屋の娘も殺した。

間に合わなかった。
奴らは、どこかで黒装束から旅役者姿に着替える。
そう思った3人は、後をつける。

水車小屋に入った一味を仕留めようとした3人だが、旅の男たちが夜露がしのげると言って、入っていってしまった。
するとたちまち、男たちは殺されてしまった。
中に入るが、もう猿十郎たちの姿はなかった。

その頃、人質として捨三の元にいるお染は、捨三の手伝いをしていた。
お染の姿が見えないと、捨三はあわてて探した。
だがお染はかいがいしく働き、捨三は良かったら、このままここにいないかとまで言うようになっていた。

翌日、猿十郎一座は白波五人男の興行中だった。
背後に臨時の素人の出演者として、主水、又右衛門、剣之助の姿があった。
拍手喝さいの中、捕り方に扮した剣之助が密かに指を動かす。

パラリ、と、ほんの一筋、菊三の髪がきちんと結われた髷から落ちる。
菊三は少しだけ、奇妙に思った。
だがすぐに、気を取り直して芝居に戻る。

舞台に背を向けた又右衛門が、やいとを吹く。
やいとの針が、紅く染まる。
男が又右衛門が傘を渡さないので、「傘!傘、傘!」と小声で又右衛門をうながす。
傘を渡した又右衛門が、男に針を刺す。

舞台袖から、主水が別の1人に刀を突き刺す。
捕り方役の又右衛門が、今度は座長に向き合った瞬間、針を打ち込む。
座長は目を見開いたまま、正面を向く。

額には細い、小さな針が刺さっている。
男は見得を切ろうとして、本当に痙攣を起こす。
その見事な見得に、拍手が起こる。

もう1人に、主水が舞台袖から刺す。
菊三と立ち回った剣之助が、ほんの一筋、落ちている髪をするりと菊三を振り向かせ、髪を首にかける。
くるりと菊三をまわして、舞台の方に向かせると、髪が首に一回転して巻きつく。
剣之助はそれを、キュッと締めていく。

菊三の目が、恐怖と苦痛に見開かれる。
だが誰も気づかない。
舞台が終わり、幕が閉じた。
幕に主水が突き刺した刀が破った、細い穴が開いている。

5人が倒れている。
仕業人たちは、どこにもいない。
黒子たちが、呆然としている。

渡世人の姿に戻った3人が、言う。
思わぬ大仕事になった。
しかも、自分たちのことを知っている人間がいる。
覚悟はできているが、何と言っても今は無事に江戸に帰れる。

だが江戸に帰った仕業人を、お染は待ってはいなかった。
お染からの手紙が、置いてあった。
「仕業人のみなさん、ありがとうございます。
染は何とか、自分の力で生きていけそうです」。

そこには、捨三への言葉も書いてあった。
「捨三さん。短い間ですが、本当に親切にしていただいて、御礼の言葉もありません」。
そして、お染が消えた理由もわかった。

「お渡しした12両は私の体を売ったお金ですから、いつまでもここにいるわけにはまいりません。
「あなた方のことは、決して忘れません」。
「でもあなた方のことを教えてくれた人の名を言わなかったように、あなた方のことも決して他人様にはしゃべりません。ご安心ください。染」

手紙はそこで、終わっていた。
全員、黙っていた。
捨三は、目を閉じ、脱力していた。

仕事が終わった捨三は、洗濯の仕事に戻った。
又右衛門は、せっせと本業のやいとに励んでいた。
白波五人男の口上を覚えた剣之助は、お歌の元にやってきて、さっそくそれを披露した。

だがお歌は、あきれているだけだった。
「ダメか」と剣之助が言う。
主水は、再び牢屋見回りの仕事に戻った。
いつものように、牢屋に舞い戻ってきた銀次をたたきにかけながら、それぞれにいつもの日常が帰ってきていた。



最初に登場するお染が、ミステリアスで不気味。
それぞれに接触し、5人殺してほしいんですと衝撃的な言葉でコンタクトを取ってくる。
とぼけ、そして怒る捨三。

うろたえながらも否定し、笑ってごまかそうとするお歌。
だがこの時の剣之助は、じっとお染に目を据え、動かない。
何も答えず、「今日は仕舞だ」とだけ言って立ち去る。
お染に殺気を感じたというか、危険を感じたという雰囲気がうまい。

この女、本気だ。
だからこそ、危ない。
殺しの依頼をされた又右衛門の、一瞬の殺気。
すぐにそれをかき消し、やいとに戻る表情も見事。

ご機嫌なのか、ヤケなのか、歌いながら帰りたくもない家に帰る途中の主水の前にも、お染は現れる。
お染は完璧に、4人の名前も職業も知っている。
一体、誰に聞いたのか。

自分たちのことを知っている者を消すのに、女は自分の専門だと言う又右衛門。
たらしこむのも、遊ぶのも、殺すのも専門ということか。
深い一言だ。
お染の話をバカにしたようだった又右衛門だけど、それは悲惨なものだった。

シーンとしてしまう仕業人たち。
泣き出したお染を前に、「女が泣くのは嫌だ」とこの場を早く終わらせたくなる剣之助がかわいい。
剣之助のかつての許婚はお未央の方という、美しくもすさまじい悪女だった。
あんな女性見ているというのに、剣之助は女性に優しいんだな。

さて、旅役者を追っていく仕事は当然、仕業人たちも旅に出る。
それが渡世人姿というのは、紋次郎の中村敦夫さんを渡世人姿にするためのサービスか、遊びか。
ちゃんとどこかの親分から、主水が添え状もらってるところもえらい。

主水が仲間にいるって、ほんと~に強い。
昼行灯で通っている牢屋見回りの主水だけど、その切れ者ぶりはわかる人にはわかると思う。
親分たちは案外、主水のこういうところをわかっている気がする。

途中、仁義を切られた時の剣之助の対応。
何者も寄せ付けない、しかしどこか人に頼られ、放置できない紋次郎の口調とは違うけど、そこが剣之助の個性。
対応に困る様子の又右衛門をよそに、うまくやり過ごすのが楽しい。
「仁義は受けられねえ!」ってあるんだ。

2度目に、賭場ですっからかんになった渡世人に声をかけられた時は、もっと楽しい。
「俺っち、同じくオケラにござんす!」
「あっ、そう…」と、座り込んでしまう相手もおかしい。

そしてやっと見つけた標的。
しかし残念なことに、間に合わなかった。
今度は娘も殺しているのは、お染の時の教訓からか。
それとも、菊三でもお染にはためらう何かがあったのか。

この怒りは、舞台での仕置きになる。
誰にも気づかれず、大勢の人が注目する中、仕置きを遂行する仕業人たち。
鮮やかで、プロフェッショナルとしか言いようがない。

剣之助が最初の頃、ジタバタして失敗しそうになったなんて嘘のよう。
ハラリ、と、ほんとに一筋。
一筋だけの髪で、絞め殺す見事な技を見せる。
又右衛門の針に刺された座長が、針のせいでぶるぶる震えて、それが見得になっているのもうまい。

お染に仕業人のことを教えた人物は、誰だかわからない。
しかし、かなりポイントを抑えて教えている。
こんなこと教えられる人間は、彼らに助けられた人間か、同業者か。

川で死に掛けて、流れてきたお染を助けられるような人物って誰だろう。
やっぱり、旅の途中なのか。
これまで描かれた来た被害者で、彼ら全員の素性を知っていて生き残った人って誰だろう。

1話で剣之助が主水を訪ねてきたのは、市松から聞いたとはっきり言っていた。
それは市松の、最大の信頼だと思ったんですが。
お染を助けて、仕業人のことを話すって言うと、市松が一番「それらしい」。

それとも描かれていない被害者や依頼人で、誰かいるのか。
最後まで教えてくれた人のことを言わないお染は、仕業人たちのことも決して言わないだろう。
何も言わないところが、切なくもすがすがしいから、これはこれでいいんですね。
追求するのは、余計なお世話というものなんですね。

お染に惚れかかっていた捨三は、ガックリ。
最初から最後まで、登場人物のキャラクターが最大限にいきている。
すがすがしく暗くないラストでも、どこか切なく、仕業人らしさが失われていないのもいいと思います。


藤堂藩には何も起こらなかった 天知版「雲霧仁左衛門」最終回

天知茂さんつながりですが、天知さん主演の「雲霧仁左衛門」。
忙しかったので、後でももう一度ちゃんと見るつもりです。
白糸のおみつが好きな人と一緒になって、盗賊稼業から足を洗ったりと山崎版とは違うところも出てきました。
だけど一番違うのは、やっぱり最終回でしょう。

執念で雲霧一味のお盗めの現場を押さえた火盗改めの前で、小頭・吉五郎が自害。
この自害も、山崎版の吉五郎はお頭が来る前に危機を知らせに走り、お頭を熊五郎に託して、自分は楯となる。
大立ち回りの末、「火付け盗賊改め方である。神妙にいたせ」の声で、最期を悟った吉五郎。
ニヤリと凄みのある笑いを浮かべて、「木鼠の吉五郎だ。…見ろ」と言って自害。

天知版の吉五郎もが、「盗賊の意地を見せる」「これが本当の盗賊だ」と言って捕り方たちを前に盛大に自害。
「ピアノ売ってチョーダイっ!」の軽快なセリフがおかしい、財津一郎さんの名演技ではあります。
ただ、お頭との別れがあったら、もっと良かったなあと思ってしまうのは、山崎版から入った人間だからですね。

仁左衛門の身代わりに、兄が蔵人が捕まるのは同じ。
しかし蔵人は仁左衛門に、藤堂藩への復讐をやめ、違う人生を歩むように諭す。
この仁左衛門は忍者っぽいんです。
読唇術をやるのですが、市中引き回しにあっている兄が弟に気づき、唇の動きで伝える。

さらにこの引き回しの最中、おかねと富の市が一緒になるきっかけとなった凶賊・鳩栗の大五郎の弟と残党が兄の復讐で式部を狙う。
兄の最後の舞台を汚させないよう、仁左衛門は市中に潜み、式部を狙う大五郎の残党たちを始末。
誰にも知られず、大五郎一味の抹殺は遂行され、結果として式部を守ってやることになる。

蔵人の取調べ中に、式部が辻一家の気持ちに寄り添ってくるのも、山崎版では痛いように伝わってきた。
武士の悲哀。
法で裁けない、巨大な悪に対する苛立ち。
通じない正義感に立場を超えて、気持ちが通じ合っていく2人のお頭。

田村高廣さんは実にキリッと式部を演じていましたが、山崎版の中村敦夫さんのような演出の演技も見たかったな。
自分を宿敵が守ったことも知らず、法の番人としての立ち位置を変えなかった式部もまた、良かったですけど。
高瀬同心と、密偵のお京の最期は、どちらもやっぱり哀しい。
雲霧とは殺しあう運命だとしても、高瀬やお京も自分の信じる道を行ったのだと。

そして藤堂藩への復讐は、天知版では行われなかった。
一味は解散。
熊五郎はお頭はもう、別の人間として、別の道を歩んでいく。
自分たちには、止められないと言って肩を落とす。

お千代もまた、自分の道を行く。
仁左衛門から離れないという、道を。
その後の2人は、どうしたかわからない。

だが仁左衛門の後ろをひたすら歩いていくお千代を見ると、きっとどこかで暮らしたんだろうと思える。
山崎版のお千代は、きっといつまでもお頭を待ち続ける。
そして最後、藤堂藩にはその後、5年間は何も起こらなかったと語られて終わる。

山崎版は仁左衛門の人生を追い、復讐を終えるまでを見事に収めたラストだったんだなあ、と思いました。
これは、雲霧一味のお盗めと解散がメインのアクション時代劇というスタンスでしょうか。
同じ題材でも、ずいぶんテイストが違う作品になる。
これはこれで、楽しかったです。


必然性なく?入浴する美女

天知茂さんが明智小五郎探偵を演じる、江戸川乱歩シリーズ。
江戸川乱歩というのは、サスペンスの形を取った非日常世界のファンタジーの世界だとおっしゃったのは、「黒蜥蜴」美輪様。
そうなんですね、日常に紛れ込むサスペンスですが、冷静に考えたらわかる。
「これは有り得ない!」

トラックで運んでいた石膏像が、出会い頭の衝突のショックで荷台から落ちる。
すると石膏像から血が流れる。
警察で解体すると、中から女性の死体が…。
有り得ないけど、サスペンスとしてはすごく期待してしまうようなシチュエーションが用意されてるでしょう?

こちらが期待してしまうような舞台設定、登場人物が用意されているため、その有り得ない展開を見たくなる。
非日常の世界が楽しいんですね。
この江戸川乱歩シリーズ、タイトルが「浴槽の美女」「宝石の美女」などと、「美女」になっている。
その通りに毎回、被害者にも犯人関係にも「美女」が出てきます。

さらに美女が毎回必ず、お風呂に入っている。
必ず、入浴シーンが出てくるんですね。
犯人が襲ってくるのに、1人で無防備な状態というので、必要と言えば必要。
必然性ないといえば、ない。

だけどここは、男性サービスとして用意されたシーン。
美しく撮影されているし、綺麗な人の綺麗なシーン。
70年代80年代に活躍した女優さんが一杯見られるのも、楽しい。

追い詰められた犯人の美女が、用意しておいた花火を打ち上げる大筒に入る。
ズドーン!
打ち上げ花火とともに、夜空に散る美女。

夜空に紅い花火。
彼女の野望は、野望が達成された祝いのはずの花火とともに散った。
有り得ない!

富豪の3人姉妹の1人が、浴室で殺される。
「どうして…」と、ショックの3姉妹。
だがすぐに、残った2人の姉妹は大使館員とテニスやってる。

喪に服さないのかー!
有り得ない!
そして更衣室に現れる、黄金仮面。

いやいや、有り得ない。
でも楽しい!
そういえば、角川映画が「犬神家の一族」を作る前に横溝正史の映画作品、金田一探偵ものは、この明智小五郎テイストでした。

江戸川乱歩がその時代のモダンなら、横溝正史世界は封建的な前時代の世界。
横溝正史作品は、この古い日本の世界を守った成功だなと思います。
日本のミステリーを代表する江戸川乱歩と横溝正史だけど、こういう違いを作ったところがすばらしかった。

さて、江戸川乱歩シリーズは、ツッコミ入れつつ、入り込んでしまうのがいい。
天知茂さんがお正月番組として放送された作品の冒頭に、「あけましておめでとうございます」とご挨拶して「どうぞ、お楽しみください」と言ってます。
はい、楽しんでますよ。
見ながら、テレビが娯楽だった楽しい時代だった、楽しい正月番組があった、なんて思います。


年末オカルト

クリスマス、年末も近いこの時期、去年もそうでしたが、なぜかオカルトな番組が放送されてました。
その中でももうずいぶん前からやっているのが、テレビタックル場外乱闘?
オカルト信じる組と、信じない組での討論バトル。

信じるという男性が、なんかもう、見てるだけでおもしろかった。
どう見ても普通のアメリカ人なんですけど、金星人と会ったと言うと、その人たちの写真を見せる。
ただのアメリカ人でしょ!と言われると、いや、金星人なんです!と答える。

憎めないというか、胡散臭いとかそんなことを言うのは野暮なんですね?って感じでした。
否定派がバカにしきって、お互い感情的になっているのかなと思うんですが、もしかしたらこの人たち、仲がいいのかもしれない。
そう思わせる、ほのぼの感も漂う。

しかしさすがに、肯定派も否定派もお年を取ってきた。
どちらもお元気で、ケンカしててほしい。
そんなことを思ってしまうなんて、ちょっと寂しいけど。
怖い話より、悲しい話がダメな私は、そう思う。


変装・敦夫さん 「雪姫隠密道中記」

何気なく見始めた、「雪姫隠密道中記」。
片平なぎささん主演の、1980年放送の作品です。
おおっ!と思ったのは、中村敦夫さんが出演していること。

敦夫さんの役は、小鈴の佐平次という義賊です。
どうも、元伊賀忍者らしい。
見た時は、薬売りの姿でした。

義賊として悪党から大金を盗んで貧しい人々に配るのはもちろん、雪姫の道中を見守る。
その身の軽さを生かして、隠密活動をする。
クライマックスでは立ち回りをして、悪党を粉砕。

役柄から、変装もいたします。
いやいや、敦夫さんの変装がまた見られるなんて。
敦夫さん、この役も楽しんでるなあ。

何ていっても本当に議員さんだったわけですから、エリートの役も似合う。
いつも言ってしまうんですが、こういう役を楽しんでとことん演じてしまうところに、敦夫さんの頭のよさと柔軟さを感じます。
敦夫さんが出ていることだし、視聴継続決定。

ああっ、こんな時間。
早く睡眠取らなきゃ!
みなさま、おやすみなさい。


もっ、ものもらい

な~んか、目が痛かったんですよ。
熱持ったみたいだし。
もしや、と思って、上まぶたの内側、まつげのキワ見たら、赤い。

前々日にそこにポツンと、1ミリにもならない、白い点があったんです。
あ、ものもらい。
ばくりゅうしゅ、麦粒腫って昔、言われたんですけどね。
ものもらいじゃないのかな?

子供の頃できたのは、えらい腫れました。
だから、眼帯しました。
大人になってできるのは、まぶたの内側にポツンと小さく。

最近、そんな人、あんまり見ない。
ものもらいは、腫れなくなったのでしょうか。
ものもらいは伝染力強いから、みんな、触らないの。
私、バイキン。

ものもらいは、私は抵抗力落ちると、できるみたいです。
でも最近、目を使ってたし、疲れてもいた。
どっちのせいだろう?

昨日、ものもらいに効く目薬買って来ました。
おかげで、今日は痛くない。
調子乗ってたら、夜またちょっと痛い。
目薬さして、早よ寝ます。

あなた様のお命を占のうております…

時代劇専門チャンネルで「必殺仕切人」を、初めて見ています。
見たことなかった。
いや、楽しい。
狼男が出現したと江戸で噂になったり、鳥人間コンテストがあって、賞金目当てにみんな、飛ぼうとしていたり。

京マチ子さんが演じるお国は、悪人を仕置きする時、占いしてるんですね。
易をしている、ジャッジャッという音に気づいた悪人。
「何者じゃ!何をしておる!」と言う。
すると、お国「あなた様の命を占のうております」と答える。

「何い!」
「卦は凶!」
「貴様!」

途端にお国、持っていた筮竹を投げる。
相手がひるんだ瞬間、すでにお国は相手の背後にいる。
すばやい!

一体どうやって?!
動いたの、見えなかった!
「お命、終わります」。
そして、口にくわえた赤い筮竹を相手の首にグッサリ。

黒い笠、黒い着物。
笠を止めるために編みこみとなった紐の1本と、袖や襟から見えるのが紅色。
京マチ子さんの唇と、筮竹も紅色。

黒い闇と紅色、京マチ子さんの白い肌のコントラスト。
そして目力が、美しい凄みをもって迫る。
う~ん、美しい。
これだから女優さんは「必殺」シリーズに出演するのを、喜んだんでしょう。

撮り方だけじゃなく、京マチ子さんは相手を刺す仕草まで、優雅で指先までが美しい。
「仕舞人」の踊りもすばらしかったけど、こんな仕草までが、美しい。
何気なくやっているけど、この所作ってなかなかできないと思う。
京さんは、ものすごく肉体を鍛錬していたと思う。

ちょっと前、岡田茉莉子さんが、女優とはすべてに優れた女性でなければと言いましたが、岡田さんも80歳とは思えない美しさと若さだった。
あの年齢で、あの状態というのが、どれほどすごいことか、年齢を重ねてくれば誰もがわかるはず。
この岡田さんを見て、京マチ子さんを思い出しました。

お2人とも、「優れた女性」「女優」なんだな。
山田五十鈴さんもそうだったんだと思います。
岡田さんは言うことが厳しいと言われていたけど、自分にはもっと、並外れて厳しい人なんだろうと思います。
「仕切人」、やっぱり大女優は見ていて楽しい。



五連発の旦那

「暴れん坊将軍V」を見ていたのですが、ゲストが大出俊さんでした。
彼の役は、主君に騙されて無実の男を斬ったのをきっかけに浪人となり、金で人を斬る刺客稼業となった男。
斬った男の遺児を育てながら、行方不明となった母親を探している。

この主君が、菅貫太郎さん。
すばらしい腹黒さ、残酷さ、卑怯さ。
も~、悪役はこうでなくっちゃ!

そして菅さんは、自分が騙した男・大出さん演じる男を殺す。
大出さんが虫の息の時、吉宗登場、「愚か者!世の顔を見忘れたか!」と言われ、開き直って「斬れ斬れ斬れ斬れ~い!」と絶叫。
当然ご成敗されちゃうんですが、大出さんを斬るんじゃないんですね。
彼を仕留めるのは、連発銃なんです。

大出さんと連発銃といえば、かつて「五連発の旦那」というキャラクターを演じてくれました。
「五連発の旦那」とは、その通り名の通り、五連発の連発銃を操る凄腕の浪人・鮎香之助。
三船敏郎さん演じる峠三十郎とともに、旅をする。

「暴れん坊将軍」には、中村主水を思わせる人物もゲストで出てきましたが、鮎香之助を演じた大出さんを、連発銃で死なせるとは!
実際の「五連発の旦那」は最終回で、女性を本気で好きになり、旅を止めました。
最強の敵と渡り合って勝った香之助は、堅気になる決意をする。
そして自分の武器だった、連発銃を埋める。

堅気となった香之助が、女性と縁日を歩く。
もう彼は武装していない。
しかし、その時、彼を狙った刃が、彼を貫く。
最強の五連発の刺客が、五連発を埋めて穏やかな生活を送った途端だった。

そ、そんな。
この空しさ。
しかし今、無理やりそういう結末に持っていったら感動するかと言ったら、違うと思います。
でも70年代のドラマって、こういう結末を用意していたから、最後まで気が抜けなかった。

さて、「暴れん坊将軍」。
この衝撃の鮎香之助のラストをもじってるとしか、思えなかった。
もじっているというより、かつての視聴者ならニヤリとしそうな配役と演出をしていたんじゃないか。

演じた大出さんも、ニヤリとしながら演じたのでは?
こういうのがあると、知っている人は楽しい。
まじめな「暴れん坊将軍」だけど、結構遊んでたりするんですね。


誰にも渡さない 森瑤子さんの「渚のパーティー」

森瑤子さんという、作家さんがいました。
男女が出会って、やがて別れていく。
その過程に興味があり、自分はそれを描く作家だとおっしゃっていた気がします。
森さんはパーティーをテーマにした短編集を描いていましたが、その中では、サスペンス好きの私は「渚のパーティー」という短編が好きです。


ダイビングのグループのリーダーの男性の恋人と、ペアで潜っていた女性主人公。
リーダーの恋人のタンクが、岩につかえてしまった。
冷静にタンクをはずし、2人で酸素を分け合いながら浮上すれば、助かったかもしれない。
だが、彼女はパニックを起こした。

死に物狂いの力で腕をつかまれた主人公は、彼女のタンクをはずそうとした。
だが、タンクは、はずれなかった。
地上に浮上して、助けを呼びに行くにはもう、酸素が足りなくなっていた。

残された道は、2人で酸素を分け合いながら、救助を待つことだった。
しかしパニックを起こした彼女の酸素は、すでに尽きてしまった。
発見された時、主人公はもう溺死している彼女に一生懸命、酸素を吸わせようとしていた。

恋人を失ったリーダーは、海に潜れなくなった。
リーダーが戻るまで、全員がダイビングをやめていた。
恋人の死に責任があると、主人公は懸命にリーダーを立ち直らせようとした。

彼が海に戻ってこないのは、死んだ恋人のせい。
ならば、自分のせい。
そう言う主人公に、リーダーの心も動いた。

去年の夏は楽しかった。
名実ともに、彼の恋人だった私。
今年の夏は、つまらない…。
なぜなら、彼のそばには新人の真由美がいるから。

ダイビング合宿に行ったけれど、リーダーは真由美のそばにばかりいる。
仲間の1人が言う。
真由美が来て、初めて、かつての恋人が彼の中から消えたんだ。

彼はキミを好きだけど、キミを愛してはいない。
確かにリーダーを立ち直らせたのは、キミだ。
でもそれは、自分たち男と、女性であるキミが、立ち直らせ方が違ったということだ。

だけど、キミがここで真由美と自分とどっちを取るか、リーダーに迫るような修羅場を演じたら、どうなる?
俺たちは仲間としてのキミも失ってしまう。
耐えてくれ。
俺たちは、仲間を失いたくない。

彼女は言う。
大丈夫よ。
彼が愛した人なら、いい人なのよ。
私も愛せると思うわ。

翌朝、彼女はみんなの前で、劇的に交代を発表する。
自分は彼を海に戻すことが、使命だった。
彼は戻ってきてくれた。

「でも正確には、自分が完全にできなかったことを真由美が一ヶ月でやってしまったんです。完全に脱帽。私は喜んで、自分の役目を真由美にバトンタッチします」。
リーダーはそれを聞いて、「俺、彼女が女を上げた分、男を下げてしまったみたいだな」と笑う。
とにかく、自分たちはみんなを失望させないから、見守っていてくれと言った。

主人公は真由美に、そのうち、一緒に潜ろうと誘う。
リーダーは、彼女なら安心だよと言う。
そして、合宿の最終日。

主人公は真由美を、初心者でも大丈夫な易しいスポットがあるから、潜ってみない?と誘う。
真由美はためらいながらも、主人公に押し切られる形で、潜りに行く。
そこは美しく、真由美は来てよかったと微笑む。

主人公も笑う。
透明度が高いから、いつもより深く潜っていても気にならない。
主人公は、岩にしがみつく。

その先には、海流がある。
海流は、岩と岩の隙間に向かって流れている。
真由美は運ばれていく。
主人公は、無表情にそれを見送る。

真由美は流れていく。
岩場の隙間の、細くなっている場所に向かって。
そこからは、抜けられない。
タンクがつかえてしまうのだ。

落ち着いて、タンクをはずし、かかえて泳ぐなら出てこられるだろう。
海流に逆らって、泳ぐ力があれば。
主人公は、10分、待った。
そして地上に浮上し、助けを呼ぶ。

テントを片付けていた男たちが気づいて、タンクを装着しながら走ってくる。
主人公に連れられて、真由美が岩の先にいると知り、驚愕の表情を浮かべる。
1人の男がロープで体を縛り、真由美が流れた先に泳いでいく。

1人が持って待つ。
合図が来て、ロープを引く。
足の先、ふくらはぎ、太もも。
徐々に引っ張られ、体が見えてくる。

そして、腕。
手の先には真由美の足首が、握られている。
真由美が現れる。
すでに溺死している、真由美が。

「事故だった」。
渚で、真由美の遺体を前に、仲間が言う。
あの海流では、初心者は絶対に流される。
彼女が助かったのは、奇跡だ。

リーダーは、声もなく、泣いている。
傷ついた獣のような姿に、耐え切れなくなった仲間が、リーダーを真由美から引き離す。
その途端、彼の視線が主人公を捕らえる。

リーダーの目が、憎悪と疑惑と、確信に満ちている。
彼は気づいた。
主人公の殺人に。

バネのように、リーダーが主人公のところに飛んでいて、首を絞める。
「何をするんだ」。
「狂ったのか」。

仲間がリーダーを抑える。
リーダーは、力なく、仲間に引き立てられていく。
それを見ながら、主人公は思う。

彼を、誰にも渡さないわ。
この1年、一度だって、彼は本当には自分のものではなかった。
彼の心にはいつも、死んだ恋人がいた。

そこから恋人を消すには、新しい恋人が必要だった。
真由美をグループに誘ったのは、彼女だった。
思うとおりに、彼は真由美に心を奪われた。

彼の心から、恋人が消えた。
だから今度は、真由美を取り上げなければ。
彼が自分のものにならないのなら、彼の望む女性だって彼に与えない。

「大丈夫か」。
仲間が声をかけてくる。
「ええ。でも彼が心配。気が狂うかもしれない」。
そう言って、彼に締められた首にそっと、手をやる。


いくつかの短編の中で、これは印象が強かった。
読んでいて、このリーダーは、女性の怖さを知らないなと思いました。
軽やかに交代を宣言する主人公を信じて、彼女が女を上げた分、男を下げちゃったかもしれないなと言う彼が、能天気に思える。
彼を誰にも渡さない、と決心する主人公に対して、いや~、のんきなこと。

みんなを失望させない、って、彼女に対して、そんなこと、どうやって?と思う。
どうしたって、無理なんですよ。
それを、彼女なら、安心だよ、って。
鈍いんじゃないか?って思いましたよ。

しかし、人2人をあっさり死なせる主人公の怖いこと。
死なされた彼女たちにも、人生があって、いろんな人が関わってきていた。
そう思うと、自分の心で人を死なせていいわけがないと思う。

この報いとして、主人公には望む愛は、永遠に手に入らないんでしょうが。
いや~、リーダーも、とんだ女性に惚れられたもんです。
2人の女性は、ほんとに災難。

女性の怖さ。
男性の能天気さ。
森さんは、男女のすれ違いを描くのが、ほんとにうまかったと思います。


プロフィール

ちゃーすけ

Author:ちゃーすけ
癖の強い俳優さんや悪役さん大好き。
俳優さん、ドラマ、映画、CMその他、懐かしいもの、気になるものについて、長々と語っております。

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