こたつねこカフェ

癖のある俳優さん、悪役さんが大好きです。時代劇、ドラマ、映画、俳優さんのことを好きに書いています。
2014年03月 ≪  123456789101112131415161718192021222324252627282930 ≫ 2014年05月
TOP ≫ ARCHIVE ≫ 2014年04月

名優美術館

黒澤明監督の「天国と地獄」。
2007年にリメイクドラマになりました。
この台本用の題字が、本田さんの書でした。

本田さんが書を書き始めたのは、10年前。
きっかけは緒形拳さんの個展を訪れたことだそうです。
緒形さんの書は私も見たことがあります。
すごく、味のある書。

穏やかな、おおらかな、それでいて決してのんびりと穏やかなだけではない。
攻撃的に表現することはないが、その中には穏やかなだけではない感情が渦巻いている。
そんな字体でした。

同じく、澤明監督のリメイクされたドラマ「悪い奴ほどよく眠る」。
この題字の、本田さんの書も紹介。
本田さんが、この作品から感じたものは「人間の怒り」だったそうです。

この作品から本田さんが感じた、普通の人間が、普通に生きられない社会への怒り。
それを本田さんは、紙に叩きつけるように書いたそう。
テレビ版「悪い奴ほどよく眠る」には、本田さんも出演。
和田役を、熱演しました。

本田さん、「俳優と書の心は、まったく同じ」。
俳優は与えられた役に対し、自分の心に感じたものを体現するもの。
書もまた、自分の精神性を鏡のように映し出すものだ。

以上は、本田さんの言葉です。
ああ、なるほど、と思いました。
本田さんの書は、エキセントリックではなかった。

そこに流れているものはとてもシンプルな感じがしました。
緒形拳さんと、本田博太郎さん。
私の大好物のお名前ふたつ。
本田さんから緒形さんの名前が出るなんて、悶絶しそう。


スポンサーサイト

俺をとらなかったら映画界の損失 黒沢年男さん

影同心IIが始まりましたが、その前に時代劇専門チャンネルで黒沢年男さんがゲストで影同心を語ってくれました。
黒沢さんは、寺社奉行同心・堀田平八郎役です。
珍しいですよね~、寺社奉行の同心が主人公サイドに来る時代劇は珍しい。

影同心だから同心がいるのはおかしくないし、「I」は奉行所の同心3人でした。
でも、寺社奉行の同心というのは意外。
庵主さまが元締めですから、寺社の同心っていうのは確かにありですが。

若き日の水谷豊さんも元・こそ泥で、今は寺男の留吉役で出演。
今のイメージには邪魔になるかなと思うような役ですが、いやいや、若い水谷さんの体当たりの演技はドラマに力を与えてくれてます。
視聴者には等身大の存在で、見ていて、感情入ります。
浜木綿子さんは、庵主様の役ですが、まあ、美しいこと美しいこと。

さて、登場するなり、黒沢年男さん、「黒澤明です!」とお辞儀。
お茶目。
影同心のことを聞かれると、黒沢さんは「過去のことを振り返らない男だから、30年?40年までは行かないか?」とおっしゃる。

黒沢さんは、過去のことを振り返らない。
だから、もらった表彰状もカップも要らないと言う。
「あんなもん、ブリキだからね!」
MCのえなりかずきさんは、素材はブリキですが…と笑う。

さて影同心の話。
「どんどん聞いて!何聞いても大丈夫だよ」と黒沢さん。
「ありがとうございます」と、えなりさん。

影同心IIは、黒沢さん31歳の時。
初めての時代劇主演だったそうです。
撮影で大変だったことは、夏場に撮影して冬場に放送。
暑くて、ほとんどの俳優さんがハゲちゃうと黒沢さんはおっしゃる。

羽二重の頭の中で、ちゃぷちゃぷちゃぷちゃぷ、汗の音がする。
つらいけど、「お金もらえるからね。当時の俳優さんってギャラ良いから。今の俳優さん、かわいそうだよ」。
えなりさん「じゃ、今のギャラなら?」
黒沢さん「がんばります!」

ありゃ、がんばるんだ?!
「口では(いろいろ)言うけど、この年になってお仕事もらえて、ギャラもらえることはいいことかな、と」。
良い考え方ですよね。
でも「この年になってお仕事もらえ」るのは、黒沢さんがやっぱり、良いお仕事してきたからだなあと思いました。

影同心はIIだけど、Iは意識してなかったそうです。
「自分の与えられた仕事を一生懸命やる」から。
「仕事は楽しくやりたい。みんなと仲良くやれました。豊ちゃんはあのまんま、良い青年だよね。今子供もいるから、『良い方』って言わなきゃね」。

黒沢さんの殺陣がかっこいい、と言われました。
「運動神経は良いですけど、やっぱり勝新太郎さんに比べたら、どうしようもないですね」。
おお、勝さん。
若山富三郎さんもすごい、運動神経良かったですもんね。

「勝新太郎さんは、全部当てるんですよ。当たっても痛くないんですよ。三船敏郎さんは本気だから!」
おお、三船さん。
すごいなあ、勝さん、三船さんと直接お仕事した世代ですもんね。
だんだん薄くなったけど、と言って、黒沢さんは4針縫った額を見せてくれました。

確かに、傷が残ってる。
「あの人は本番なると、ほんとにやっちゃうから。だけどその時に、ギャラが15万だったのに、三船さんが僕の家に50万持ってきたの。悪いって言って。2回持ってきた」。
うわ~、この時代のスターにはみなさん、豪快な伝説がありますね。

えなりさん「じゃ、やっぱり斬られた瞬間は?」
黒沢さん「斬られた瞬間は、もらえる~っ!」
って、いやいや!と手を振ってました。

アシスタントの築山可奈ちゃんも黒沢さんの殺陣がかっこよかったと。
「イメージと違いましたね!」
黒沢さん「なんだい、そりゃあ!」

いや、築山可奈ちゃんにとって、黒沢さんのイメージはニコニコされたイメージだから。
それを聞いた能村さんも、黒沢さんも「年齢かな」。
能村さんは黒沢さんことを「ぎらぎらしてたからね。バラエティ見て、『えっ、こんなことやるんだ!』って思ったほうだからね」と言います。

私も黒沢さんというと、「ドーベルマン刑事」とか「ハングマン」とか、今年はお正月に「三つ首塔」見ましたけど、すごい野性味ある男の役でしたしね。
もう、そういうイメージ。
ぎらぎらした野心を持つ、ワイルドな危険な男。

東映のニューフェースで、黒沢さんは芸能界に入りました。
能村さん「俺を取らなかったら、映画界の損失だって言ったって…」。
黒沢さん「良くご存知ですね!」

「僕は運が良いから。運が良いと思いこんでるから」。
ああ、実際に運も良いと思いますし、才能もあると思いますが、このポジティブさも大きいでしょうね。
黒沢さん見てると、明るいところには明るいものが寄ってくるって言葉を思い出しましたもん。

最初の試験の時、東映さんは黒沢さんのことを「最初、黒澤監督の息子と勘違いしてくれたんです」。
「二次試験が受かって、三次試験は何とかして受かりたいと。それで、最終審査に遅れて行ったんです」。
えなりさん、エエーッとビックリ。
「その前、僕は二次試験でインプットしていたんです」。

審査員に新珠三千代さんがいた。
あの、すんご~い美人の女優さんですね。
宇津宮雅代さんもすごい美人だけど、新珠さんもすごい美人だった。

黒沢さんはその新珠さんに質問されて、新珠さんの前で頭抱えて「恥ずかしい~」と言った。
すると、司会が何やってんだ、君!まじめにやってくれと言った。
だから黒沢さんは「大好きな、こんな綺麗な人に声をかけられて、素直に答えられるほど、僕は人間がすれてない!」と言った。

黒沢さんは、二次試験に受かった。
受かったから、向こうは俺のこと覚えてるだろうと思った。
黒沢さんは、三次試験にはわざと遅れて行った。

それで土下座して暗記した言葉を言った。
「俺を取らなかったら映画界の損失になるぞ!」
そう言って、しめた。
結果、何千人の中で受かったのは、男は黒沢さんだけ。

「世の中ってのは、常識どおりに生きていたら絶対に成功しない!」
黒沢さんの力強い言葉は、まさにそうやって成功してきた人の説得力にあふれていた。
同時に、やっぱりそれができるのは黒沢さんが運が強くて、才能があって、魅力的な人だからとも思った。
実際に黒沢さんは、大活躍したんですから。

影同心IIを見る人にメッセージを、と言われて、「メッセージは特にない」。
「一生懸命仕事して、みんなが楽しんでくれたらいいと思う」。
「与えられた仕事は、もう、めいっぱい一生懸命やろうと自分でいつも思っている」。

これを聞いて、「ああ、この番組もそうなのかな」と思いました。
インタビューも、見ている人を楽しませようとしてるんだなと。
実際に見ていて短い時間だけど、ほんとに楽しかった。
魅力的で、今はあの頃みたいにぎらぎらはしてないけど、ほんのり漂う色気があります。

「黒沢年男さんでした!」
えなりさんの声で、黒沢さん、ニコニコして頭を下げる。
黒沢さんの話、また聞きたいですね。

影同心II、私はおもしろいと思って見てます!
黒沢さんがいなかったら、確かにこの楽しさは味わえなかった。
良かった~、黒沢さんが合格してくれていて。


「泣くなあっ!」 その後、「逃れの街」

その後の幸二は、酔った女を車の外で介抱している男の車に乗り込み、そのまま走り去って車を手に入れる。
朝になり、中山の家に行き、宏を乗せて逃げる。
中山は朝までずっと起きて、幸二を待っていたようだった。
「寝なかったのか」。

幸二が出て行くのを見て、中山の家で体を壊して寝ていた米倉が気づく。
米倉に体を大切にするように言うと、幸二は出て行く。
俺も連れて行ってくれと叫ぶ米倉。
じっとしていないと死ぬと中山は米倉を抑えようとするが、米倉はバイクで後を追ってきた。

兄貴、兄貴、置いていかないでくれよ、俺を一人にしないでくれ。
どこかで、見た光景と思う。
あの時、ふらふらになりながら叫んでいたのは、亨だった。
水谷さんだったけど。

海の近く、ヨットハーバーに着いた幸二は宏に語る。
「小さい頃から海の傍に住んでみたいと思ってたんだ。働いた金で、小さなヨットでいい。買いたかった。ヨットは俺のようなものには、手の届かない代物。すげー高いんだ。へへへへ。カタログだけが貯まるだけさ。しょうがないよなあ。金がないんだから」。
宏を相手に、幸二は話す。

やがてひと暴れするかと言って、起動戦士ガンダムだとヨットを銃撃する振りをして遊ぶ。
宏といる時だけが、子供の自分に戻れる、と言った感じの幸二。
すると、宏が山が見たい、と言った。
信州、白馬。

そこに宏の叔父がいると知った幸二は、信州に宏を連れて行くことに決めた。
途中、バイクの脇でぶっ倒れていた米倉に医者に行けと声をかけ、幸二は信州を目指す。
「兄貴、俺さみしいねん。俺を一人にせんといてくれぇ」。
後を追おうとした米倉だが、咳き込み、倒れてしまう。

そのまま、道路脇の、ひび割れた地面の野原に転落した米倉は、みんなが俺をバカにすると言った。
米倉が気になった幸二は道路を引き返すと、米倉のバイクが放置されている。
野原で米倉を見つけた幸二は助けおこすが、米倉はもう死んでいた。

「傷だらけの天使」の亨が死んじゃうシーンみたいだけど、こういうのって、トラウマになりそう。
ただ、修と違って、幸二は米倉に涙しない。
幸二もすぐに後を追うから。

その夜、野原で幸二は米倉を荼毘にふす。
燃え上がる炎を背に、幸二は宏の手を引き、走る。
当たり前ですが、現実にはこれは非常にまずい行為です。
だから、普通はやりませんできません。

その頃、幸二のアパートを訪ねた黒木はガスの臭いをかぎつける。
ドアを蹴破り、窓を開けると表にいる牧村刑事を呼ぶ。
置き去りにされた悦子が、幸二のアパートでガス自殺を図ったのだった。

悦子、冷静に考えるとすごい、人に迷惑かけちゃう娘だ。
幸二の運命は悦子で狂ったんだし。
だけど悦子だって、傷ついてんだと思う。

男はみんな、ひどい目にあえばいい。
この言葉は渡辺にだけじゃない。
悦子の父親、母親にくっつく今までの全部の男に向けられている。

それだけじゃない。
母親にも、いや、自分が知っているすべての大人に向けられた言葉に聞こえる。
悦子と母親と、母親を取り巻く男との生活が、今までの悦子の生活が透けて見える。

自分のために人を殺した幸二。
幸二は今や、悦子のすべてになった。
しかし悦子は幸二のことを、やくざたちにしゃべった。
普通なら、その罪の意識で自分を責める。

だとしてもそれはしかたがない、誰だってしゃべる。
人を刺した幸二にはびびっても、弱い悦子には何だってやるような男たちだ。
でも悦子が自殺を図ったのは、そんな罪の意識ではなかった。

幸二が自分を、連れていかなかったからだと思う。
もう、幸二は悦子のことも考えてないように見える。
悦子のために、悦子を置いて一人で逃げたのでもないように見える。
宏のことしか、頭にないように見える。

幸二はただ、誰かを愛したくて、誰かに愛してもらいたかったんじゃないか。
だから幸二がもう少し早く、宏と知り合っていたらこんなことにはならなかった気がしてしまう。
そういうのが全部、幸二という青年の不運で、それを描いている映画なんだけど。

白馬。
人々がスキーにやってきている。
映画はここからは、幸二と宏の世界が繰り広げられてる気がします。

宏の道案内で、幸二は宏の叔父の家に近づく。
そこは鈴木建設という建設会社で、大畑健三という議員の後援会の看板がかかっていた。
幸二は宏の叔父の鈴木に会うが、鈴木は選挙になると変なタカリがやってくると迷惑そうだった。

鈴木は、小池朝雄さん。
選挙で盛り上がる鈴木の周りから、幸二と宏は浮いてしまう。
たまらなくなった幸二は言う。
「あんたの身内の4つの子が、東京から来てるんですよ」。

幸二の言葉に鈴木は妻を呼び、幸二に妻と話をするように言って、選挙運動に戻る。
妻がやってきて、宏を見る。
幸二に話すところによると、宏は夫の兄弟の子供だということだった。

この妻は、絵沢萌子さん。
叔母は宏に優しく声をかけるが、宏は叔母の顔を見ない。
ぷい、とそっぽを向く。

叔母さんは優しそうだし、宏のことを心配はしている風だけど、宏はちっともうれしそうじゃない。
叔父が冷たかったのかもしれない。
鈴木の妻が言うには、宏の父親は去年の今頃、この家に宏を連れて来たが、借金の相談だった。

そしてその後に宏の一家はサラ金に追いかけられ、一家心中した。
宏だけ生き残り、養護施設に預けられていたのだ。
幸二が宏に感じた孤独は、これだった。
宏はきっと、父親に冷たかった叔父を見ていたんだろう。

「引き取ってくれますね」と幸二は言うが、妻は「それだけは勘弁してください」と言った。
今は選挙戦の真っ最中で、今身内で変な噂が立つようなことは避けたい。
宏を連れて、施設に帰ってくださいと妻は去っていく。

事務所に怒鳴り込んだ幸二は、鈴木に百万円の束を渡され、つまみ出される。
今引き取れないものが、この先引き取れるはずがない。
宏を引き取る気は、鈴木の家にはないのだった。

こんな家に、宏はなぜ行きたがったんだろう。
宏が行きたかったのは鈴木の家だろうか。
父親との、最後の、おそらく楽しい思い出がここにあったんじゃないだろうか…。

表で宏が目に涙をためて、幸二を待っていた。
「泣くな!」
「泣くなあっ!」
幸二は雪をつかむと、宏の顔を乱暴に洗う。

「なあ、宏ぃ。今夜の宿はどこにしようか、なあ…」。
幸二は人のいない別荘の窓を破り、鍵を開けると真っ暗な中に入る。
手探りで灯りをつけると、そこは瀟洒な別荘だった。

幸二には、宏を幸せにする力はない。
明日さえ、わからない幸二に、そんな力はない。
だから、何とかしてやらなければ。

夜。
雪が降る。
幸二は別荘を抜け出すと、鈴木の家に向かう。

鈴木の家に土足で侵入すると、鈴木の妻が気づいて悲鳴を上げる。
「誰だあ、おめえは!」
幸二はドスを手にしていた。
「おめえは、昼間の!」

「てめえら、ほんとに宏を預かる気がねえのかよ!」
「てめえ、やっぱりタカリだな、おい!やっぱり銭がほしいんだろ!俺を何だと思ってんだ、おい!俺は県会議員までやった男だぞ!おい!なめた真似すると承知しねえぞ。おい!」
「ばかやろう!宏の身にもなってみろよ。宏はお前らだけが頼りだぞ、宏預かれ、な、預かれ!」

「金なら出す。養育費なら」。
「ダメだ!お前が育てるんだ!」
「わかったよ。わかった」。

宏を何とか、まともな暮らしにもどしてやりたい。
冷たい家だとわかっていても、それでもさまようよりはマシだ。
世間体もあるから、学校はちゃんと行かせるだろう。
幸二はきっとそう思ってた。

鈴木が、床の間の下の小さな戸を開けた。
お金でも出すのかと思ったが次の瞬間、鈴木はピストルを構え、発砲した。
「こぞおおお。出てけえ!」

だが幸二は鈴木からピストルを取り上げると、鈴木を叩きのめす。
警察を呼べ、と鈴木は妻に叫び、幸二は逃げていく。
翌朝、警察が来て、包帯だらけの鈴木が事務所に入ると、事務所はめちゃくちゃに荒らされていた。
鈴木の発砲は、警察はどう扱うんでしょうね。

幸二は、事務所から当選ダルマを持ってきていた。
雪の中、ダルマを転がし、宏と遊ぶ。
東京から黒木と牧村刑事が来て、説明を聞く。
警察は山狩りを検討していた。

黒木と牧村が降りた車の中、悦子もいた。
悦子は隙を見て、車から出る。
雪の中、必死に走り、山へ向かう。

山狩りが始まった。
雪の中、斜面をダルマを転がし、幸二は遊んでいる。
それを遠くから見た刑事たちが、「子供を楯にされたら、逮捕は難しい」と相談している。

幸二いー!と、山に悦子の声がこだまする。
悦子は斜面を滑り落ちながら、少しでも山頂に近づこうとする。
何度も何度も、転びながらも走る。
木の枝に捕まりながら、斜面を登る。

警察の拡声器が、幸二に呼びかけているのが聞こえる。
渡辺とその舎弟の柴崎を殺した罪で、逮捕すると言っているのが聞こえる。
幸二は宏の頬を両手で包むと、「寒いだろ」と言った。

「寒いだろ」。
「寒いだろ」。
幸二は宏を抱きしめる。

宏に話しかける幸二の声は、限りなく優しい。
最初に公園で話しかけた時の声も優しかったが、本当に優しさに満ちている。
水谷さんの声の演技が、すばらしい。

「泣くなあっ!」と「寒いだろ」。
この2つに、ものすごい暖かさ優しさ、慈愛がある。
そしてこの辺りからはもう、破滅しか見えなくて、幸二の不器用さ、優しさ、宏への愛しさが哀しい。
もう、宏に自分は何もしてやれない…。

「行くぞお~!遊ぼう!」
宏が声を上げる。
幸二が、ダルマに抱きついた宏を抱えて走る。

柳ジョージの歌声が、かぶさる。
ああ、もう最期なんだとわかる。
幸二の最期の予感が、哀しい。

「あのな、宏。お兄ちゃんのな。田舎な。すごくな。綺麗なんだ」。
「そしてな、春になるとな、花が一杯咲くんだ。雪が解けるとな、小川にはな、おたまじゃくしがな、一杯泳いでるんだ」。
「宏、今度連れてってやる。ツクシとれんげ草でな、土のにおいがあったかくてな」。

「宏、かくれんぼやるか!」
「やる」。
「ようし」。
幸二は宏をかついで、走る。

警察が身を低くし、幸二たちに近づいていく。
「ようし。じゃんけんだ。じゃんけん、ぽい。宏が鬼だ。いいか、お兄ちゃんが20数えるからな。それまで目を開けたらダメだぞ。いくぞ」
「いーち、にーい」。

宏も数える。
さーん、しーい、ごーお、ろーく、しーち、はーち、くうう、じゅううう。
幸二の声が遠くなっていく。

じゅういち、じゅうに、じゅうさん、じゅうし、じゅうごー!
幸二がピストルを、警察に向ける。
じゅうろく、じゅうしちー、じゅうはちー、じゅうくー。

幸二がダルマを投げる。
バウン!
銃声が響く。

宏が立ち上がり、振り向く。
にーじゅう。
銃声が響く。

幸二がもんどりうって、倒れる。
そして、もう一度起き上がる。
うっすらと、幸二が笑う。

再び立ち上がると銃声が響き、幸二の周りの着弾した雪が跳ね上がる。
幸二は倒れた。
だが、まだ動いている。

きっと、宏は二度と白馬には行かない。
ここで楽しい思いをして、ここでその思い出をくれた人が去っていく。
きっときっと、大人になっても宏の心が痛むことだろう。
幸二は嘘ついたんじゃないんだよ、ほんとにそうしてやりたかったんだよ、宏ちゃん。

銃声を聞いた、悦子が走る。
幸二が雪を淡く染めて、両足を開き、斜面をずり落ちていく。
悦子の前には広い、雪山の斜面があった。

力尽きたように、悦子は座り込む。
遠い。
幸二のところまでは、遠い。
悦子の目の前の真っ白な斜面を、黒い点々が動いていく。

点々は、雪の斜面を登って行く。
右からも左からも黒い点となっている刑事たちが、登っていく。
その真ん中に、幸二がいるのだろう。
幸二は頭の下の雪を真っ赤に染め、目を見開いて絶命していた。


この、血のどぎつさ。
子供の頃見ると、この残酷さって心に残っちゃうんですよね。
哀しい破滅の青春映画。

70年代の残り香があるなあ、と思いました。
ショーケンの「青春の蹉跌」なんて本当に、70年代にしか作れない映画だった。
これも今作ったら、嘘っぽくなるだけかもしれない。

軽く、楽しく、が主流になろうとしている直前かもしれない。
もう少し経ったら、この手のドラマってやたら暗くて悲惨なのよね~、って言われた。
後味悪くって、とか。

でも水谷さんは、輝いていた。
あの頃にしかできない、水谷さんの無鉄砲さ無防備さ。
愚かしいほどの優しさがありました。


「逃げるように辞めちゃいけねえよ!」 逃がれの街

水谷豊さんと言うのは、ものすご~く長い間、活躍している俳優さんなのだ。
2時間サスペンス中心の時代もあるけど、水谷さんといえば何?と聞くと年代ごとに違う答えが返ってきたりする。
すごい俳優さんなのだ。

頭が悪くて、不器用で、純粋で、恵まれないチンピラ青年。
ちょっとなまりがある、実直な熱血先生。
クールで、天才で、変人の特命係の刑事。

いや、これだけ年代によってイメージが変わって、それでいてそのすべてがしっくり来て、主演をやっているという珍しい俳優さんかもしれない。
今度は時代劇専門チャンネルで「影同心2」が始まるので、若き日の時代劇の水谷さんも見られる。
そしていつの時代でも、さりげなくやっているけど、その運動神経の良さにも驚かされる。

「逃れの街」は、水谷さん主演の1983年の作品。
水谷豊さんが演じるのは、電気店で、新しいテレビを届ける代わりに古いテレビを回収してくるのが仕事の水井幸二という青年。
一緒に仕事をしているのは、米倉という関西弁の青年。
これは、島田紳助氏が演じている。

米倉は幸二を兄貴ぃ、兄貴と呼んでくっついてくる。
「傷だらけの天使」で、ショーケンの修に「アニキアニキ、アニキィ」とつきまとうようにしてくっついてくる亨を知っている人が見たら、「亨も大人になったんだな」っておもってしまうかもしれない。
「傷だらけの天使」の亨は、寂しくて、不器用で、拠り所がなくて、唯一の拠り所である修にくっついて歩いていた。

修からバカにされても、理不尽な扱いを受けても、修が好きだった。
また修も、いじめながらも亨がかわいくて、2人はいつも一緒に傷ついていた。
修が一人で綾部の社長と一緒に日本を脱出しようとした時、亨はインフルエンザをこじらせて死んでしまった。
田舎で修と暮らす土地を買おうと、アトラクションボーイをして真冬に冷たい公園の噴水に飛び込んだのが原因だった。

とことん要領が悪かった亨は最後まで寂しがって、そして一人で逝ってしまった。
「逃れの街」の水井幸二は亨より大人で、分別がきくけれど、やっぱり不器用で、不運で、流れを自分の味方にすることができずに、不運の中で殺される。
この当時の水谷さんといえば、頭が悪くて不器用で、寂しくて不運なチンピラ青年というのがすご~く、はまっていたんだなと思ってしまう。

水井幸二には遠藤牧子という恋人がいるが、彼女とはいつも電話で連絡するだけ。
私は幸二と牧子は、客と体を売っている女性なのかと錯覚してしまいました。
牧子は、当時人気のあった甲斐智枝美さん。
水井は牧子に、ギリシャの大富豪オナシスが持っているようなすごいヨットを買いたいと話している。

その夜、アパートに帰宅して寝ていた幸二に、一緒に上京した沼田から泊めてくれと電話がかかる。
「人殺したんだ」と言って「冗談だよ」と沼田は笑う。
だが土砂降りの中、公衆電話から電話する沼田が必死に拭いているスニーカーには血がついていた。

この沼田、平田満さん。
いや~、今見ると、渋い魅力の俳優さんたちが若くて楽しい。
さて、この沼田、冗談じゃなくて本当に強盗をやっていた。
そして幸二が仕事に出た後、水井のアパートの前で捕まったらしい。

幸二のアパートが一間の、畳が磨り減って汚れているようなアパート。
窓枠が木でできていて、ガラスはすりガラス。
ドアも木でできていて、壁が土壁で、押入れのふすまがボロボロ。

今、こんなアパート見なくなりましたね。
地震や火災で危ないし、老朽化しているから建て替えられちゃったんでしょうか。
経営者が代替わりして、建て変わっちゃったよって言っていた人もいましたが、バブルで地上げが盛んになった頃から見なくなりました。

まさに昭和って感じがします。
昭和というか、70年代なのか。
そういえばこの作品も、80年代前半にわずかに残っていた、70年代の香りがわずかに残った映画という感じがします。
ショーケンの「青春の蹉跌」などに見られる残酷な青春映画の香りが残った、最後の方の作品。

さて幸二は仕事が終わって帰ってきた時、先輩社員のおっさんこと中山から、警察が訪ねてきたと言われる。
この中山は、田中邦衛さん。
するとそこに矢部と牧村という刑事がやって来る。

矢部は小林稔侍さん。
牧村は、私の大好きな本田博太郎さん。
この頃の本田さんは、すごい好青年。
しかし今の方が、おもしろい俳優さんだと思います。

本田さん自ら、この好青年路線じゃ物足りなくて、悪役やら強烈な役にシフトして行った感じがするんですけどね。
今の水谷さんと反対で、これもおもしろい。
「相棒」で水谷さんに逮捕された本田さんを思い出すと、2人とも長く活躍していること、それがこの芸能界ではどれほどすごいことかわかりますね。
「夕べ、どこで何していた!」と怒鳴る牧田の声は、やっぱり本田さんです。

牧村に「お前」と呼ばれて幸二は、「お前?お前って俺のことかい?」と反発する。
沼田が幸二と一緒にやったと言ったこともあって、黒木という刑事はもう最初から共犯扱い。
ところがその時間、幸二は牧子と一緒にいた。
しかし牧子とは電話で連絡するだけ。

牧村によると、その電話番号に出たのは16歳の三谷悦子という高校生で、幸二の言った24歳ぐらいの自分と同じ年の女性なんかじゃなかった。
しかもその少女は、幸二のことなんか知らないと言ったらしい。
もう一人、担当の黒木刑事を演じるのは、夏木勲さんです。
まだ若くて、ハンサムで、それでいて渋みもあって、すごいかっこいい!

しかし母親の愛人のヤクザの渡辺が、素っ裸でいる=つまり浮気している?のを見てさりげなく、クローゼットにかばう女子高校生・悦子は、まさにあの牧子なのだった。
牧子はまだ16歳の高校生だった。
警察に留置された幸二は、お客さんのところに行く仕事からは外される。
さらに何度も刑事が来るので、主任の八田は嫌な顔をする。

主任の八田は阿藤海さんが演じていますが、主任に文句を言うと、この主任は元ボクサーだったので、ボッコボコにされてしまいます。
この頃の水谷さんの役は、ケンカは弱い役なのです。
幸二を助けたのは、中山。
中山も昔、ボクサーだった。

幸二の様子で彼が会社を辞めるとわかった中山は、「おめえ、仕事をなくすってことがどういうことか、まだようわかっとらんようだな」と言う。
中山には幸二の転落が、見えていたんでしょう。
「わかってるよ。でも飯ぐらい、食ってけらあ」と答える幸二。

「好きにしろ。おめえ、俺と違ってまだわけえんだ。仕事はいくらだってあんだろう」と言った中山だが、歩いていく幸二に向かって叫ぶ。
「幸二、社長に挨拶しとけ。世話になったんだ。おめえ、逃げるようにしちゃ、辞めちゃいけねえよ」。
「ここだけじゃねえぞ。辞める時はいつだってそうだ。こういうこたあ、きちんとしろ」。

こういうこと、言ってくれる大人がいるんだ。
中山の過去に、何があったのか。
もう少し中山と関われたら、幸二のその後も違ったかもしれない。

この言葉が、その後の「逃げる」幸二を暗示していた。
中山には、転落していく幸二が見えているのか。
逃げていく幸二が、その先は破滅が待っているのが、わかるのか。

その夜、幸二のアパートに、遠藤牧子がやってくる。
家出してきちゃったと言う。
「化粧、してねえのか」。

「もういらないもん。あんた、本当のこと知ってんだもん」。
「やっぱりお前、16なのか」。
「前はお前なんて言わなかったじゃん…」。

なぜ、自分のことを知らないと言ったのかと聞くと、ママにも学校にもばれちゃうからと牧子は言った。
「男なんか、嫌い。ひどい目にあえばいいのよ」。
「何?」
「誰だっていいんでしょ。あたしじゃなくたって…。いつまでもこんな話してんなら、あたし、もう帰る」。

幸二に「来ないで!」と逃げた牧子だったが、自分で服を脱ぎ、「優しくしてくんなきゃ、嫌」と言う。
牧子にも、なんかいろいろありそうだなあと思ったら、牧子は母親の愛人のヤクザ・渡辺とも関係していた。
万引きをして暮らしていた幸二と牧子の2人だが、ある日、幸二はもう辞めろ、自分が食わせると言う。
その時、幸二のアパートに牧子のママから頼まれた渡辺が連れ戻しに来る。

渡辺は、さすがヤクザ。
嫌がらせの仕方がプロ。
廊下で「素人の娘さんにわ~るいこと、しちゃって」とわめかれ、牧子、いや悦子はしかたなく帰る。
渡辺は財津一郎さん。

ユーモラスで、あの♪ピアノ売ってちょうだい♪の声で、わめいちゃう。
でも怖い。
お笑いの人が怖い演技すると、本当に怖い。

運送会社に採用された幸二は牧子に電話するが、無言で切られる。
しかたなく牧子の家に行くと、出て来たのはシャツの前をはだけた渡辺だった。
部屋の中から牧子の声だけが、「2人で話し合ってよね!私はどっちでも良いんだから」と聞こえてくる。
渡辺と共に表に出た幸二は、やっぱりボッコボコに殴られる。

翌日の夜、雨の降る公園に渡辺を呼出した幸二は、牧子と別れてくれと懇願する。
俺が飽きたら、別れてやるよと言った渡辺と殴り合いになるが、幸二は公園のベンチを持ち上げ、渡辺に叩きつけた。
すると渡辺の、シルエットになって映った指がぶらぶらになっているのが見える。
渡辺が、悲鳴を上げる。

それでも殴りかかられて、幸二は夢中で渡辺をそばにあった石で殴ってしまう。
噴水に頭を突っ込み、動かなくなった渡辺。
頭から血がにじみ、流れ、噴水が真っ赤に染まる。

幸二はおののきながら、逃げていく。
いや~、このやり過ぎ感が初めて見た当時は怖かったけど、今見ると楽しい。
私もスレたなあ。

アパートに戻り、泥のように眠った幸二を翌朝、牧村刑事が訪ねてくる。
幸二はとっさに血のついた服を冷蔵庫に押し込める。
強盗の疑いは晴れたのだ。
本当の沼田の共犯者が捕まり、金も出てきた。

では沼田はなぜ、無関係の幸二を仲間だと言ったのだろう?
すると牧村は、何か恨んでいたんだろうと言った。
自分たちが疑ったために会社を辞めた幸二に、牧村は「すまない」と詫びを入れる。

「毎日何やってるんだ。俺にできることがあったら電話でも何でも良いよ」。
何かあったら力になると言って、本当にすまなさそうにうなだれた牧村は出て行く。
1人になって幸二は笑い出す。
パンツ一丁で逆立ちし、笑う。

さて、牧子、いや、ほんとの名前・悦子の家では悦子のママが売上金数えてる。
ママは、草笛光子さん。
艶っぽい。
ママから店の売り上げの小切手を取り上げ、悦子は幸二のアパートに走る。

ドアを開けた途端、抱きついてきた悦子に幸二は冷たかった。
「これだけあれば、どこにでも逃げられるじゃん。一緒に逃げよう」。
「何で俺がお前と逃げなきゃいけねえんだよ。お前、渡辺の女だろ」。

「あたしは、あんたの女よ」。
「勝手な理屈を言うな。どっちでもいいから決めろって言ったのは、お前だ。そして渡辺の女に決まったんだよぅ~」。
「あんた、渡辺を殺したわ。あたしのために殺したわ。一人で逃げる気ね。警察に言うわよ。あんたが夕べ、渡辺呼び出したの知ってるの、あたしだけよ。ねえ、一人で逃げないで。あたしも一緒に殺したのよ」。

「いつまでも遊んでろよ。俺はお前の道具じゃねえんだよ」。
「ほんとに好きなのよ」。
「もういいよ。帰れ!」
泣き叫ぶ悦子を部屋から追い出した幸二は、街に出る。

公園の階段で寝転がり、ケンタッキーのポテトを食べていた幸二。
子供たちが迎えに来た親と一緒に、次々帰っていく。
一人、こっそり幸二に近づいてきた子供が幸二のポテトに手を出す。
目を開けた幸二に気づいた子供は逃げるが、幸二は怒らない。

坊や。
昼飯食いに帰らないのか。
家はどこだ。

誰か迎えに来るのか。
迷子になったのか。
違うのか。

親はどうした。
お袋とオヤジは、え?
どうしたんだ。

子供は、幸二と同じポーズをして座る。
隣に座り、幸二にくっつく。
食べな、やるよ。

おいしいか?
さようなら。
立ち上がり、歩いていく幸二。
しかし、子供は後をついてくる。

その頃、悦子は渡辺の舎弟に捕まり、詰問される。
渡辺の兄貴を殺したのは、誰だ。
落とし前つけないと、顔が立たない。
知らないと言う悦子だが、顔に傷つけたろか?シャブ漬けにしたろか?殺す前にやりたい奴はやれと言われ、顔にライターの火を近づけられる。

やがて、駅の構内に呼出された幸二は、自分についてきた子供・宏がやくざたちに捕まっているのを知る。
女ってのは、おしゃべりだなあと、あざ笑うやくざたち。
子供は関係ないと、宏を取り戻した幸二はやくざたちに追われる。
だがもうすでに人を一人殺している幸二には、ヤケになった狂気があった。

渡辺の時もそうだけど、決して幸二はケンカが強いわけじゃない。
しかし、ケンカのルールではありえないやり方をする怖さがある。
捨て鉢の怖さとでも言うのか。
1人がドスを振り回した幸二に刺されると、やくざたちも恐怖に駆られる。

「お前!人殺したことあんのか!人間ぶっ殺したことあんのか!」
「やかましい!」と叫んでも、幸二の狂気の前にやくざたちは散っていく。
「俺はあるぜ、渡辺をよ!お前の兄貴分をぼろっきれみてえにして、ぶっころしてやったよ!」

彼らだって、人と切りあい、殺しあったことはないんだもんねえ…。
こういうのは、怖がった方が負けなのか、怖い方が強いのか。
主犯格の男を何度も何度も刺した幸二は、宏を連れて逃げ出す。

ここから、宏を連れて、幸二の逃避行が始まるわけです。
中山に宏を一晩預かってくれと言って、幸二はアパートに戻る。
小銭を貯めた瓶を割り、お金を手にすると、幸二はスーツを着る。
コートを着た幸二は、自分の手に、手錠がついている幻を見る。

流れるのは、柳ジョージさんの歌声。
ものすごい切ない。
この方の歌声聞くと、すごく70年代の破滅の青春ドラマって感じがするんですよ。
終わりが必ず、哀しい、だからどこか怖いような気持ちで見ているドラマ。

こういう切なさは、もう、日本映画からはなくなりましたね。
なくなったのなら、それは必要じゃなくなったということで良いんでしょう。
わざわざ、必要もないのに主人公を何もかもが解決したところで意味なく死なせたりすれば、それは切なくなるでしょう。
そんなことして、無理に切なく作るものじゃないですしね。

切ないのが、やりきれないのが、この時代の空気だったわけで、それはこの時代にしか作れないものだった。
それで良いのではないでしょうか、ということで、逃れの街。
後半は、また書きます。
う~、すみません。


もう二度と探せない 「火の鳥 宇宙編」

手塚治虫先生のライフワーク、「火の鳥」。
初期の頃に作品に、「宇宙編」というのがあります。
これが子供の頃、結構怖かったんですね。

惑星と地球を往復する任務で、宇宙船に乗っているメンバー5人。
隊長、猿田、木月…って言ったかな、男性と紅一点の女性・ナナ、そして牧村。
木月とナナは何となく付き合っていた感じですが、そこに牧村が現れ、ナナは牧村に心惹かれてしまう。

余計な年を取らないよう、宇宙船の人間は任務期間以外は任務をしている1人を除き、冬眠状態になっている。
だがある日、宇宙船は隕石に衝突してしまう。
なぜ、隕石を避けられなかったのか?
その原因は任務についているはずの牧村が、座ったまま死んでいたからだった。

船には穴が開き、燃料も流出していた。
残った4人は、船から脱出しなければならないことになる。
だが、救命ボートは人数分あっても、それは1人ずつしか乗れないカプセル状のもの。
つまり、カプセルホテルで寝ているような状態なんですね。

しかもカプセルには、脱出の時に使う燃料しか詰めない。
あとは宇宙を漂いながら、救助を待つ。
狭い空間に、孤独に閉じ込められる。

いつ来るか、わからない救助をひたすら待つだけ。
水と食料、空気が尽きたら終わり。
おお、閉所恐怖症じゃなくても、これは怖い。

点呼を取った隊長は、牧村が最後に「僕は殺される」と椅子に書き残していたことを話す。
一体、誰が…。
猿田がどうしてそんなことを言うのか、と隊長を責める。
おかげで我々は、お互いを疑って、もう、取り返しがつかなくなってしまったと言う。

木月は、みんなが自分を疑っているのを察する。
ナナをめぐって、木月は牧村を恨んでいた。
だがその時、4人が脱出した後、何かが救助ボートの後をついてくる。
それは5つ目、牧村の分の救助ボートだった。

暗い宇宙空間に、ぽかんと浮いている救助カプセル。
無線の呼びかけにも、誰も答えない。
誰も残っていないはずの船から、誰が救助ボートを発射したのか?
一体、誰が乗っているというのだ?

ナナじゃなくても、「怖い!」。
さらにこの救助ボート、ただ浮いているだけ。
だから、はぐれてしまったらそれまで。
おお、これも怖い。

案の定、最悪の事態が起きる。
ヒロインのナナに思いを寄せていた木月のボートが離れ始める。
今は無線が届くが、それが届かなくなればもう、話すこともできない。

「正直言って、怖いです」と木月は言う。
当たり前。
考えただけで、怖い。

そんな中、木月は最後に、ナナと2人で会話をさせてくれと望む。
みんなが無線を切り、木月とナナだけになる。
ナナは知っていた。

木月が、牧村の眠っているカプセルの空気を止めたことがあることを。
気づいたナナが阻止し、黙っていたが、木月は牧村を殺そうとしたのだ。
あれは魔が差したんだ!と言う木月。

自分は絶対に、牧村を殺してはいない。
信じてくれ。
そして最後にナナに、好きだったと言ってくれと頼む。

ナナの一言を頼りに、彼は宇宙を漂うつもりなんでしょう。
しかしナナは「あなたはいい人だったのに…、さようなら、木月さん」と言う。
やがて、木月は呼びかけにも応じなくなる。

彼はこのまま、宇宙を漂い続ける。
救助されるまで。
どう考えたって絶望的…。

やがて救命ボートは、引力を持つ小惑星に接近してしまう。
燃料はないから、引力を利用し、曲がる。
曲がりきったところでボートを傾けて、微妙なところで惑星から離れる。
そうしないと、惑星の引力に捕らえられたまま、永遠に惑星の周りを回り続けることになるのだ。

だがその時、後からついてきた牧村のボートから、何か声が聞こえる。
誰かいるのか?
隊長は、牧村のボートに呼びかける。

その声に気を取られた時、隊長の救命ボートに小さな、惑星の周りを回っている石が衝突してしまう。
もうダメだ、コンピューターが死んだ。
幸運を祈る。
猿田とナナのボートは、無事、惑星から離れたが、隊長は未来永劫、惑星の周りを回り続けるのだろう。

孤独で、水も食料も、空気もいずれなくなる。
ひえええ、恐怖。
そしてナナと主人公・猿田の後を、牧村の、何がのっているかわからないボートがついてくる…。
おおおお、恐怖。

やがて宇宙のかなたから、光り輝く何かがやってくる。
鳥だ、火に包まれた鳥のようだった。
それはまるで、牧村のカプセルを覗き込むようにして去っていった。


ここからは、ネタバレ。
猿田とナナは、定期的に嵐が起きる星にたどり着く。
その島は奇妙なことに、崩れた石がまたもとの位置に戻っている島だった。
猿田はそこで、1人の宇宙人にである。

その宇宙人から話を聞くと、実は牧村はかつて、、宇宙の生命をないがしろにした男だった。
牧村を流刑地に送るために、牧村に全滅させられた星の住人が牧村を救命ボートに乗せたのだった。
救命ボートは、宇宙の果てにある流刑星に送られる。

宇宙人は、猿田とナナは関係ないから地球に送り返してやると言った。
さらに、猿田たちは気づいていなかったが、自分はずっとあの船にいたと言う。
十何年も、船にいた?
誰も気づかなかった?

お前は一体、何ものだ!
猿田が叫ぶと、宇宙人は火の鳥に姿を変えた。
お前は、宇宙で見た鳥!と、猿田は言う。

ナナと再会した猿田。
そしてナナもまた、火の鳥から牧村についての話を聞いたと言う。
この流刑地の木は、みんな元は生きて動いている生物だった。
それが動けない木に変えられている。

星には嵐が起き、木になった流人はその嵐に耐える。
やがて嵐は収まり、壊れたものは星を壊さないために元にもどる。
再び嵐が起き、流人はまたそれに耐える。

牧村だが、彼はある程度、大人になるとまた子供に戻る。
そして、何度でも何度でも大人と子供の間を繰り返し、ずっとずっとこの星で嵐と孤独に耐えなくてはいけない。
宇宙船の中でどんどん、体が縮まり、子供に帰っていく牧村はやっと、これが宇宙人の復讐であることに気づいた。
薄れ行く意識の中で、「ぼくはころされる」と書いたのは、そういう意味だったのだ。

猿田はナナに地球に一緒に帰り、結婚してくれと言う。
だがナナは、牧村を愛していると言った。
この流刑星でずっと、牧村を見守りたいと言う。

しかしそんなことは、ナナの犠牲だ。
猿田は承知できない。
牧村を殺そうとした猿田だが、赤ん坊になった牧村を何度刺しても、牧村は死なない。
崖から牧村を落とした猿田は、火の鳥にそのことをとがめられる。

火の鳥は、あなたが会いたいと思ったナナは、もういないと言う。
猿田の目の前には、木に変わったナナがいた。
ナナは木に変わり、牧村とともにこの星に残ることを選んだのだった。
俺を見つめていた、あのナナの瞳はどこに行ったんだ!

嘆く猿田は、火の鳥を殺してやると叫ぶが、火の鳥は牧村をころそうとした猿田も罰を受けなければならないと言う。
次の瞬間、猿田は宇宙に放り出され、醜い顔に変わっていた。
気がついた猿田は、地球に救助されていた。
猿田は思う。

この宇宙の片隅、もう二度と探せない流刑の星があって。
そこでナナが、今日も嵐に吹かれているのだろう。
我々の罪を一身に背負って…。

…という話です。
も~、哀しいやら、怖いやら。
生命というものをテーマにした火の鳥は、忘れられない傑作なんですが、この宇宙編。
怖い、という意味でも忘れられないのでした。

猿田は未来編や黎明編などを見ると、「あっ、あの人物だ!この時代にも存在しているんだな」ってわかる人物。
火の鳥は罪を犯した猿田に彼の子孫の様子を冷たく予言して流刑星から追放しますが、未来の猿田博士には冷たくない。
猿田は猿田で火の鳥のことを、「相手に自分を、どんな姿で見せることもできる。そうなるともはや生命体とは言えず、エネルギー体である。宇宙にはそうしたものが存在するということを、講義で聞いた」と言っています。


お月さまは、いいなあ

お月さまは、良いなあ。
浮かんでるだけで。
昔、疲れた時の口癖にこの言葉が出る人がいました。

今日の月は、きれい!
高層ビルの、谷間に、ぽっかり浮く、満月。
帰りの道の、公園の木の枝の間から見える、まあるい満月。
道の向こうの、中空に輝く、クレーターさえ見えそうな、満月。

刺すような冷たい、澄んだ空気の中浮かぶ満月もきれいだけど、寒さに震えない陽気の満月は、良いな~。
春の満月。
散歩したくなるような、きれいな満月。
良いですね~。



真実が歪められる 「MOZU」

「BORDER」の裏で放送していた「MOZU」。
こちらも見ました。
おもしろい!

こちらは、映画の放送を見ている気分になる画面作り。
そして、スケール。
TBSの本気を見ました。
WOWOWとの共同制作なんですね、WOWOWのドラマはおもしろいのでこれは期待できます!

主人公、倉木尚武は、警視庁公安部特務第一課の、公安のエリートの警部。
西島秀俊さんが演じますが、見ていて、西島さんは40代で今までの俳優人生が演技に反映して、渋くなっていきそうな感じがしました。
彼の妻・千尋が、銀座で起きた爆破事件の爆心近くにいたため、死亡。
ある国からVIPが来る警護を任されていた彼は、身内の事件のために捜査から外されながらも「夫として」、事件を時に違法な手法で追っていく。

警視庁刑事部捜査第一課、警部補の大杉良太。
香川照之さんが、安定の演技で演じます。
多数の死者、そして重傷者を出し、体や心に傷をおってその後の人生が変わることを余儀なくされた被害者たちを見て、事件の犯人に激しい怒りを燃やす。
捜査一課に必要な情報を渡さない公安にも苛立ちながら、捜査を進める。

愛想のない、鉄のような警視庁公安部公安第二課の女性刑事・明星美希は、真木よう子さん。
爆発事故が起きた時、現場にいたことから、倉木は明星が何かを捜査していたと感じる。
上司の津城の命令で捜査のため、倉木のことは駒として利用することを決心するが、倉木に対しては「怖いですね」と言いながら、どこか惹かれるものがあるらしい。
忘れたいのに、どうしても夢に見てしまうような体験を持っている…?

室井 玄こと、倉木の上司の警視庁公安部部長、警視監は、生瀬勝久さんが演じます。
倉木の妻・千尋は室井の部下であった。
また、倉木はクリスマスの夜、帰宅して、風呂場で妻の千尋が呆然とする横で、娘が溺死しているのを発見している。
その少し前、娘が大けがをした時、倉木は娘の血液型が書いてある書類を凝視していた…。

この頃、ある男が殺し屋とおぼしき男たちに拉致され、海に落とされた。
だが殺したはずのその男は崖から海に転落はしたが生きていて、そして記憶喪失になっていた。
彼のことが記事になったため、彼は再び狙われることになる。

だが、彼はすばやい動きで逆襲。
自分は一体、誰なのだと詰問する。
なぜ、襲われるのだ。

すると殺し屋は彼を、殺人鬼だと言った。
あの、爆破事件の犯人だと。
明星が追っていたのは、この男・新谷と新谷が狙っていた男・筧らしい。

筧は喫茶店で女性と会った後、外に出て、何かを見て、大声で呼び止めて走っていった。
その途端、筧の目の前で、千尋を巻き込んだ爆破事件が起きたらしい。
筧と新谷を尾行していた明星は、すべてを目の前で見ていた、これがどんな意味を持つのかはわからない。

今、都市伝説のように囁かれている、未解決事件にはすべて「ダルマ」と呼ばれる男が関わっているという噂がある。
そのダルマは、人々の夢でたびたび、目撃されている。
大杉はそんなことは噂だと言うが、大杉の協力者の警官・鳴宮は否定する。
だって、自分もダルマを見たのだと言って…。

しかしそのダルマには、大手警備会社のアテナセキュリティが関係しているらしい。
国内のセキュリティを多数引き受ける会社だが、もしかすると人々の夢を操り、動かしているのかもしれないと鳴宮は言う。
その目的のために利用した男・筧の持っているICチップを取り返し、口封じのために殺すよう、アテナの東と言う男が新谷を差し向けたらしい。

つまり、爆破事件はそのために起きたものなのか。
記憶喪失になり、襲われ、狙われるつどに逆襲し、自分についての情報を聞き出そうとする「殺人鬼」新谷。
そのたびに相手を殺し、また、新谷を殺すのに失敗した者をアテナセキュリティの東が消していく。

倉木は、妻・千尋が精神状態がおかしくなっていたという。
娘は本当に、溺死事故だったのか?
今となってはもう、真実をするすべはない。

公安内でも秘密の捜査があるが、そこからさらに踏み込んだ秘密を予感させる明星の上司・津城。
爆破事件の現場で、すれ違う倉木と新谷。
お互いがお互いのことを、まだ知らない。
人々が爆破事件をきっかけに、交差していく…。


…という導入部でしたが、冒頭の海外の事件の報道から、爆破事件は迫力満点。
まるで映画並み!
爆破事故、溺死事故、悲惨な事件の連続ですから、みなさん、暗く重い。

途中、記憶をなくした新谷が、行き場のない自分を重ねる野良犬の子犬がいるんですが、この子犬にほっとしました。
だから、子犬の寝るダンボール箱を蹴り飛ばす殺し屋・赤井にいや~な気分になりました。
赤井は新谷の殺害に失敗して、逆に殺されてしまいますけどね。
子犬はただ、かわいくて無事で良かった~。

まるで昔の、ちょっと前にCS放送で見た「大都会Part2」みたいに、刑事さんたちがタバコを吸ってました。
イマドキ、めずらしいね。
画面の感じといい、昔の刑事ドラマを思い出させました。

新谷は、記憶をなくしたために自分が何者かわからず、戸惑う。
不穏な雰囲気の、とても不安にさせる記憶の断片に苦しむ。
そして自分を殺そうとする者を前にすると、殺人鬼と言われるのがわかるような動きと冷徹さが出てくる。
聞きたいことを聞くと次々、相手を消していく時のギャップがおもしろかった。

最初に新谷を崖から落とす時、車で待っていた下っ端の背後を、誰かが通っていったように見えました。
それと、下っ端がトランクを開けて見ていたから、中にもう一人、いたのかな?とも。
新谷が「俺には妹がいるのか?」って聞いていたのも、気になる。

妻が突然死んで、その遺体を見たのに顔色ひとつ変わらない倉木。
しかしその倉木の顔が、どんどん無精ひげが出て荒んでいく様子で、喪失感が出てました。
もういない、帰ってこない。
昨日まで妻が立っていたキッチンを見た時の倉木が、つらかったです。

「俺は公安で、真実が歪められるのを散々見てきた。真実が歪められるのは、もう、見飽きた」。
倉木のこの言葉から、セキュリティ会社の東が黒幕ではないと見ました。
最終的には公安の正義、悪が描かれそうですね。

伏線がいっぱいで、これからの回収が楽しみでもあり、不安でもあります。
しかしこのスケールの大きさと、俳優さんたちの渋い演技は見ごたえありました。
ドラマに集中できて、いいです。

百舌って鳥は、捕ってきた獲物を保存のためだか、あんまり良くわかっていないみたいだけど、この獲物を木の枝にグッサリ刺して飛び去って行くんですね。
私、山で子供の頃、このグッサリ刺されたトカゲらしきものを見たことがあります。
「ぎゃああああ…」でした。

ストーリーも、ちょっとホラーっぽいけど、アクションあり、基本はミステリーかな。
人間ドラマとしても、期待が持てます。
木曜の夜が、楽しみです!
今期はいいドラマがあるな~。


オカルト刑事?! 「BORDER」

4月スタートのドラマ、まず見たのは木曜日。
「BORDER」。
小栗旬さん主演。

主人公の刑事・石川は仕事漬けの毎日を送っている。
いつのまにか、事件で呼び出されるのを密かに待つようになってしまった。
それはどこかで誰かが殺されることを、意味しているのを知りつつ…。

ある夜、石川はうっかり職務質問した犯人に銃撃されてしまう。
一時、心肺停止となった石川は、殺されたものの立場に立つ。
今まで積み重ねてきた人生は、どこへ行くのか。
悔しさ、怒りはどこに行くのか。

その時、奇跡的に石川は蘇生する。
しかし頭の中には、弾丸が入ったまま。
それを取り出すのは難しく、彼は頭に弾丸を入れたまま職務に復帰する。

小さな女の子が、石川の前に立っている。
寂しそうな目をして、ぬいぐるみを持っている。
「お前、何見てるんだ?」と、上司の市倉が声をかける。
目の前にいた女の子は、もういなかった。

病院に戻った石川は、小さな女の子が亡くなったのを知る。
両親はその子のぬいぐるみを持って、泣いていた。
ぬいぐるみは、さっき、公園で見た女の子が持っていたものだった。

職務に復帰した石川の、最初の事件は一家惨殺事件だった。
その家の前で、石川は小さな男の子が立って、自分を見ているのに気づく。
4歳の子供まで殺した犯人。
さすがの刑事たちも、現場の凄惨さに息を呑む。

「子供部屋に行くのは…、気が重いな」。
「許せないですね」。
「絶対つかまえるぞ」。

部屋を見ていた石川は、伏せられた写真を見て驚く。
その写真に写っていたのは、さっき、表にいた子供だった。
つまり、被害者だ。

「つかまえてください。私たちを殺した犯人を」。
声に顔を上げた石川の前には、さっき、血まみれで横たわっていたその家の主人と妻が立っていた。
そう、石川は一度死んだことをきっかけに、死者の姿が見え、話ができるようになっていたのだった。

新興宗教が怪しいということで、聞き込みに行く。
しかし現れた被害者は石川に向かって、「私たちを殺した人間は、この中にいない」と言う。
被害者が教えた犯人は、近所の青年だった。
妻は、犯人が自分に囁いた言葉を教える。

電気は消さない。
「良く見ておかないと、もったいないからな」。
石川は、死者から犯人を聞いて、その犯人をつかまえるべく動く。


いや~、なかなか、おもしろかったですよ。
石川が、息子の犯罪をかばう母親を座らせた喫茶店の席は、幼稚園から帰る母と子供が、大勢通るのが見える席とか。
取調室であくまでシラを切る犯人。

石川の前に現れる子供。
まっすぐに、犯人に向かって指をさす。
外で見ている同僚刑事・立花や、鑑識員の比嘉が注目している。

石川の視線の先。
彼以外には、何も見えない。
「何を、見てるの…?」
比嘉がつぶやく。

そっと石川が囁く。
途端に、犯人の顔色が変わる。
動揺。
いや、それを通り越して、恐怖に変わる。

見ていた立花刑事や、鑑識の比嘉が目を見張る。
「一体、何を言ったの…?」
子供は、おたふく風邪にかかっていた。
犯人は子供の返り血を浴びた時、おたふく風邪のウイルスを体内に入れてしまった。

ウイルスの形は、指紋と同じ。
同じものは、二つない。
つまり、お前の体中に、指紋がベタベタついてるんだ!
犯人はもう耐えられず、叫び声をあげた。


うーん、子供が殺される展開って、「JOKER」でもありましたが、嫌な光景ですよね。
それだけに犯人の異常さが強調され、絶対に許せないという気持ちにさせますが。
実際の事件を思い出させたり、公園から事件のあった家の窓の明かりが見え、影が見えるところはゾッとしました。
いや、このドラマ、手加減せず、すごい本気でやってるんだなと思いました。

犯人の顔色が変わった、一言。
それは
「良く見ておかないと、もったいないからな」。

犯人が被害者の妻を殺す時に言った、無慈悲な一言だった。
だがそれを、なぜこの刑事が知っている。
残酷な事件を起こした犯人を我慢して見ていた視聴者の、溜飲が下がるシーンでした。

犯人が逮捕されてから、3人の死者は現れなくなるんですね。
荼毘にふされたからなのか。
無念が晴れて、成仏したからなのか。
残酷な話ながら、最後はすっきりさせる。

クライマックスで、ここぞとばかりに音楽が大げさに流れることもない。
被害者のそれまでの人生、それを突然奪われた悔しさ、悲しさ、無念が伝わってくる。
演出、良かった。
そして小栗さん、良かったです。

立花役の遠藤憲一さんは、好きな俳優さん。
あと、NHKの朝の連続ドラマ「ちりとてちん」の草々さん役だった、青木崇高さんが立花役なのもうれしい。
いい俳優さんたちのドラマは、やっぱり見やすい。
後半は石川を銃撃した犯人が関わってくるんでしょうが、来週も楽しみです。


予断ですが、私の近くに、石川みたいに「見える」って人がいるんですよ。
でもその人は、ものすごい姿で見えるんだよ、って言うんです。
亡くなった時の姿で見えると、すごく怖いんだよ、って。
さすがにそれはテレビではできないんじゃ…、って、いやいや、こわい。


若き日の松平さん、吉宗 「吉宗評判記 暴れん坊将軍」

「暴れん坊将軍」の、第1シリーズを見ました。
若き日の、松平健さん。
細くて、綺麗だけど、まだまだ強烈な悪役さんたちの前では迫力が足りない。

でもスター性は、十分に感じる。
これは勝新太郎さんが期待を寄せただろうな、かわいがっただろうな、と思いました。
好青年で、それでも若さゆえの無鉄砲さがある松平さん。

これが今、同時に見ている第5、6シリーズぐらいになると、落ち着いてくる。
確かに貫禄が出て、分別もあって、頼りがいもある、名君にふさわしい吉宗になる。
しかし、優等生に見える。

「大岡越前」の山口崇さんの演じる吉宗は、賢くて、度量が大きくて、将軍にふさわしい物腰と品格を備えている。
それでもやんちゃな性格は、変わらないと言った感じ。
永遠のやんちゃ坊主といった風。
その点、松平さんの吉宗は優等生風だった。

暴れん坊といっても、ハメはずしたりはしてないんじゃないか?って思っちゃう。
禁猟の鯉を釣って、越前に捕らえられた…なんてことは、信じられない。
天一坊事件なんて考えられない。

だけどこの第1シリーズの吉宗なら、考えられる。
ありえると思う。
それはまだ若くて、形というものが定まらない当時の松平さんだから出せた雰囲気なのだと思う。

もちろん、吉宗だっていつまでも紀州の暴れん坊じゃなかったと思う。
同じように将軍にふさわしい貫禄が出て、名君にふさわしい落ち着きを見せたんでしょう。
暴れん坊だったなんて信じられない、という雰囲気になったかもしれない。
まさに吉宗と松平さんは一緒に成長してきたんだな、なんて思ってしまった。

それと、「暴れん坊将軍」のフォーマットもまだ定まらず、「成敗!」もない。
いろんなことにトライしているのが見えて、それも楽しい。
後にはいるのが当たり前になっている人たちとの出会い、原点が描かれているのも楽しい。
新鮮な気持ちで見てしまう、「吉宗評判記」「暴れん坊将軍」なのでした。


北見ー! 私、おとりになります! 蟹江さんの遺作「おとり捜査官 北見志穂」

「おとり捜査官 北見志穂18」を見ました。
蟹江敬三さんの遺作になったサスペンスです。
いろいろと、「何だそれはー!」と言うことがあっても、いつも楽しく見ていました。
好きなシリーズです。

クライマックスを迎える前の、松下由紀さんの演じる北見志穂の「私、おとりになります!」という、きっぱりとした決めセリフ。
この北見さんの、コスプレも楽しい。
以下、いつもの流れ。

見事、おとり捜査が成功し、犯人確保。
みんなの気が緩んだ瞬間、北見志穂に忍び寄る影。
気を失わせられ、連れ去られる北見。

いつものように、北見を見失う捜査一課。
無線も探知機も捨てられ、探すすべはない。
いい加減、学習しましょう。

いつも憎まれ口を叩きあっている相棒のベテラン刑事・袴田。
これが、蟹江敬三さん。
北見と捜査していた袴田には、北見をあきらめずに探すキーワードが浮かぶ。

必死の袴田刑事は、北見志穂の居場所を突き止める。
袴田刑事は、間に合ってくれ!と走り出す。
北見が目覚めたとき、すべての犯罪を犯した真犯人が目の前にいる。

犯行の動機は、真犯人の哀しい過去に関係したものだった。
家族や家庭や愛に恵まれなかったり、傷であったり、心の傷、トラウマだったり。
そこから生じたゆがんだ愛情や、復讐。

おとりになった北見志穂は、標的である本人だと思われていたり、あるいは計画をぶち壊された犯人の怒りから、さらわれている。
そして、殺されそうになる。
しかし間一髪、居場所を突き止めた袴田が助けに駆けつける。
犯人は殺人未遂の現行犯で逮捕。

後日、袴田刑事はしんみりと、犯人が犯行に至った心情を察して語る。
これまた、しんみりと聞いている北見。
最後はちょっと、袴田が北見をからかって、笑いで終わる。

この決まった流れがないと、ダメ。
わかっているけど、「私、おとりになります!」が出ると、ワクワクしてしまう。
こういうところ、時代劇に似てるかも。
そうか、どうりでサスペンスが好きなわけだ。

そして、袴田は体を張って、北見を助けます。
ある時なんか、火を消すのに自分がゴロゴロ~、ゴロゴロ~と床にローリングしてました。
もう、そんなところまで楽しませてくれるんですよ!
大好きなシリーズでした。

口が悪くて、がさつで、イマドキの風潮についていけず、嘆いたり、憤慨したりする袴田。
しかし、誰よりも頼りになるのが袴田。
袴田と北見の間柄は、お互いを認め合った相棒。
恋人未満のようでもあり、戦友のようでもあり、父親と娘のようでもある。

おとり捜査官シリーズが終わってしまうのか、後任が来るのか、わかりません。
その時は袴田が退職したことになるのか、それとも俳優さんだけが変わって袴田さんはそのままなのか、それもわかりません。
ベテラン俳優さんが袴田さんを引き継ぐ場合、違和感があるのは最初だけなんだろうなというのもわかります。

でも、北見志穂を助けに来るのは、蟹江さんでなければいけない。
見ていて、そう思いました。
何月の収録なんでしょうか。

蟹江さんは体が悪いなんて思えないほど、いつもどおりに演じていました。
具合も悪そうに見えませんでした。
昼間のテレビ東京の、ガイアの夜明けの収録時の蟹江さんは、びっくりするほどお痩せになっていましたが。

蟹江さんはもしかしたら、体調不良の中、走ったり跳んだりしていたのかもしれない。
最後まで、体を張って、演じていたのかもしれない。
だったら、こっちも楽しまなくてはいけない。
そう思いました。

「傷だらけの天使」で、殺意を抱きながら車内である計画を胸に、ほくそえみながら、修たちとすれ違う男。
「子連れ狼」で、いかにも変質者といった挙動不審な落ち着かない目つきで拝一刀をいたぶり、そして打ち殺されてしまう囚人。
「龍馬伝」で、だらしなくも、憎めない、哀しい身分の低い弥太郎の父親。
名取裕子さん演じる女性検事や、バスガイド探偵の上司。

蟹江さんの熱演だから、楽しもうと思った。
なのに、最後の蟹江さんの笑顔を見たら、泣いてしまった。
思い出すと、切りがないです。
蟹江さん、本当に長い間、ありがとうございました。