映画スター 高倉健さん

高倉健さんがお亡くなりになりました。
テレビのバラエティや、トーク番組に出ている記憶があんまりない。
というより、テレビに出ている姿があまり記憶にありません。

そのせいでしょうね。
高倉健さんは、スターと言うだけではなくて、「映画スター」という呼び名がしっくりします。
映画スターが、いなくなったなあと思いました。

「幸福の黄色いハンカチ」などは、若い頃の東映ヤクザ映画の主人公が落ち着いたようでした。
実際、渋くなってきた年齢からは、そんな感じの役を演じたら、健さんは随一でしたね。
不器用ですから…というセリフがピッタリな、寡黙で世渡り下手な役。

でも高倉健さん自体は、非常に穏やかな気配りの方だったようです。
ファンだけではなく、映画を見てくれる、観客になってくれるかもしれない一般の人たちにまで気を配った人だと思います。
しかしそういうところまでが、昔は鬼のように強く怖かったヤクザが、年を経て落ち着いた人みたいに見えた俳優さんですね。
若い頃は戦国の世を暴れまわった武将が、晩年、僧侶になるような感じです。

つまり高倉さんは、映画の役柄そのものを生きた人だったんじゃないか。
私生活を売り物にするどころか、ほとんど明らかにしない。
それは映画で夢を見るファンに、その夢を見る妨げにならないようにする。
昔ながらの映画スターの姿に見えました。

「幸福の黄色いハンカチ」は、桃井かおりさんも、武田鉄也さんも良かった。
でも「昭和残侠伝」とかも見たい。
「動乱」も見たい。

高倉さんは、いくつもの意味で、日本映画界のスターだったなあ。
ご冥福をお祈りします。
長い間、ありがとうございました。


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おやつ前には出てこない 「ガメラ対ギャオス」昭和版

ディアゴスティーニの大映特撮映画コレクション。
次号はもう「ガメラ3 イリス覚醒」!
惜しみなく、傑作を出版する太っ腹。

さて、文化勲章を受けたほどの作家・遠藤周作先生が「あれ、おもろいわ」と言った「ガメラ対ギャオス」。
佐藤愛子先生も「ガメラ対ギャオス、見てる」と言った「ガメラ対ギャオス」。
時間がなくて、やっと先週見られました。


ガメラがギャオスから子供を守る、平成ガメラでも見られるシーンは楽しい。
子供の「ギャオスは、おやつ前には出てこない」という指摘の仕方も楽しい。
つまり、ギャオスは夜行性だということで、坊っちゃん、エライ。
この子の言葉は、後の作戦のヒントにもなります。

ギャオス、怖いけど、ちょっとかわいい。
ガメラに噛みつかれ、逃げられない。
夜が明けて行く。
日の光に弱いギャオスの頭が赤くなる。
ピンチ!

ギャオスは自分の足を切って、ガメラから逃れる。
洞窟で足が再生したのを確かめるギャオス。
うれしそう。
ギャオスに真っ二つにされた自動車が、半分になりながら走行するのもおもしろい。

ガメラとギャオスは陸上で、海で対決する。
ギャオスはガメラを空に運び、何度も落下させる攻撃。
やっぱりカラスみたい。

ガメラはギャオスの超音波メスを器用に避ける。
ギャオスは、首を後ろに向けることができない。
ガメラに背後からガブリと噛みつかれ、ジタバタ。
うは~、ガメラ、ワイルド!

そのまま、夜が明けて来る。
ガメラはギャオスを火山の火口に連れて行く。
「ギャオスの断末魔だ…」。
火口から超音波メスが空に向かって、何度か放たれ、やがて静かになる。

傑作です。
好んで人間を食べるギャオスはなかなか人間にはまずい、怖い、脅威の存在です。
これは自然と、ガメラに頼る状況になります。
平成ガメラで、ギャオスが復活するわけです。

これを下敷きに、平成ガメラができたんですね~。
平成ガメラのギャオスとの最後の対決は
ガメラとギャオスが向かい合って超音波メスとガメラの炎が真っ向対決!
見応えたっぷりですが、これが元になっているなら、と思いました。

昭和ガメラ対ギャオスのラストに流れる、ガメラの歌。
バックの映像には、バルゴンまでが登場!
ああっ、バルゴン見たい!

久々に見て思った。
バルゴンって、トカゲっぽいなあ。
今の技術で、バルゴンの虹光線作ったら綺麗だろうな。

次号は「ガメラ3 イリス 邪神覚醒」という、すばらしい。
なのに、残業続きでまだ買えてないよ…。
すごい、見たいのに。

ごめん、ガメラ。
許して。
ああ、大人はつらいよ、ガメラ!



そなたの願いをかなえることはたやすい 「眠狂四郎 円月殺法」第15話

第15話、「ふたり狂四郎木枯し魔風剣 浜松の巻」。


ある夜、狂四郎は自分が斬った亡者たちが襲ってくる悪夢を見る。
顔色ひとつ変えず、再び斬る狂四郎だが、亡者たちは次々現れる。
そこで目が覚めた。
翌朝、見付宿の旅籠を出る狂四郎の後を薩摩の3人が見送る。

その頃、一人の女性がならず者に追われ、あばら家に連れ込まれていた。
泣き叫ぶ女性に襲い掛かった2人の前に、刀が突き出される。
「昼寝の邪魔だ!出て行け!」

一人の浪人が起き上がった。
「何を!」
たちまち浪人は1人の前で刀を払う。
その男の着物の前がはだけ、あわてた2人は早々に逃げていく。

襲われかけていたのは、美代という女性で、道中、一緒にいてくれるよう、助けてくれた浪人に頼む。
その時、美代は気づいた。
「もしや、お目が…」。
その浪人・水上源之進は盲目だった。

橋を渡れば、ついに浜松宿。
薩摩の3人は、浜松の道場を頼ることにする。
美代と源之進は道連れとなり、大道芸をして暮らす。

源之進が目隠しをし、美代が柿や栗を空中に投げる。
すると源之進が真っ二つに斬る。
感心した観客は、お金を入れる。

だが浜松宿で芸を披露していた時、師範・藤江が率いる剣術道場の門弟がこの芸をインチキだと言った。
その目隠しを自分にもさせろと言って、目隠しをし、目隠しが透けているのを指摘すると、自分も同じことをしてみせる。
これならできて当たり前だ。

早々に浜松宿を立ち去れと言う藤江に、美代が源之進の目が見えないことを言おうとする。
しかし源之進はそれを止め、怒った観客は金を取り返して去った。
その様子を狂四郎が見ていた。
水上源之進、そして美代。

狂四郎は、2人に目を留めた。
立ち去ろうとした源之進は、ふと、誰かが自分たちを見ていると立ち止まる。
美代には狂四郎が見えなかった。
「まだまだ、心の修行ができておらぬとみた」と言って、源之進が去る。

かつて狂四郎は源之進と勝負をし、源之進は敗れた。
そのことを思い出していた時、狂四郎の宿に源之進と美代が現れた。
向かいの部屋に美代に手を引かれた源之進がやってきたのを見た狂四郎は、仲居に今の2人は夫婦かと尋ねた。
2~3日前から逗留しているが、盲目の夫の面倒を良く見るいい妻だと仲居は教えた。

藤江を薩摩の3人が訪ねてきて、狂四郎を生け捕りにしたら5百両、首をはねたら3百両と言う。
その金額に、藤江の顔色が変わる。
狂四郎とは、薩摩にとってそれだけの価値がある男なのか。
しかし藤江は金額ではなく、薩摩には逗留した折りの恩があると言って引き受けた。

宿屋では、美代が源之進の目を冷やしていた。
「すまんな、美代どの。拙者と道連れになったばかりに、そなたにまで迷惑をかけてしまって」。
「いいんですよ。私の方が源之進様に勝手についてきたんですし」。

「それに…、源之進様は…、、私が知っていたあるお方に、とても感じが似ているのです」。
源之進は「それは光栄な話だが。それで美代殿は、その男を捨て去りはしているのか」と言った。
美代が、ギクリとした。

「どうしてそれを」。
「おかしなものでな。日増しに目が悪くなるに連れ、人の心が読めるようになったいうか。何か、けだもののような勘が働くようになった」。
美代は目をそむけた。

宿屋の部屋で、狂四郎は目を閉じて正座していた。
そして、パッと目を開く。
同時に表から宿屋の戸を明けて大勢が、押入ってきた。
宿屋の者があわてるが、覆面をした大勢は階段を上がった。

男たちは部屋を一つ一つ、開けていく。
そのひとつが、源之進と美代の部屋だった。
「何ものだ!土足で他人の部屋に上がりこんでくるとは」。

そう言った源之進に向かって覆面の男が「昼間の大道芸人か」と、嘲りの表情を浮かべた。
続いてやってきた藤江は「おぬしらまだいたのか!昼間も言ったはずだ!とっととこの町から消えうせろ!」と言った。
源之進に刀を向けた男に向かって、源之進は刀を閃かせた。

次の瞬間、男の覆面が落ち、髷が斬られて髪がばっさりと顔にかかる。
驚いた藤江が叫ぶ。
「貴様、何ものだ!」
「ただの大道芸人」。

源之進は刀を納めながら、淡々と言う。
「昼間のあの目隠しは、あってもなくても良かったのだ」。
「つまり私は、目が見えんのだ」。

この告白に、藤江がひるむ。
「厚手の布で、おぬしと勝負をしても良かったのだが、道場主であるおぬしに恥をかかせてはな。なにせ拙者にはもっと大切なことがある…」。
その時、門弟が「先生!眠狂四郎はどこにもいません!」と入ってきた。
「何い!」

門弟の言葉に、源之進も美代も反応を見せた。
「眠狂四郎!」
「狂四郎様が、この町に!」

「おぬしらが探しているのは、本当に眠狂四郎なのか」と源之進が尋ねる。
「貴様の知ったことか!貴様、狂四郎を知っているのか」。
「いささかの因縁でな」。

藤江たちは去っていく。
源之進が言う。
「狂四郎は必ず俺が斬る!」

美代が「なぜ、源之進様は狂四郎様を!?」と聞く。
源之進は逆に「おぬしこそなぜ、狂四郎を知っているのだ」と聞いた。
美代は目を伏せた。
源之助はうつろな表情で、「生々流転、生者必滅」とつぶやいた。

夜道を行く藤江たちの前に、狂四郎が現れた。
「何やつ!」
「眠狂四郎だな?」
「係わり合いのない人たちに、迷惑をかけたくない。だからここで、おぬしらを待っていた」。

「斬れ!」
藤江の言葉で門弟たちが斬りかかるが、あっという間に2人倒された。
「引け!引け、引け!」と藤江が去っていく。
狂四郎が奪った刀を放り出し、奪われた男がそれを拾って逃げていく。

源之進が美代に、狂四郎との因縁を語っていた。
4年前、源之進は一回の剣客として円月殺法に立会いを求めた。
その時の傷が、源之進の視力を奪ってしまった。

以来、源之進は藩を追われ、浪々の身となり、今一度、円月殺法と立ち会うために修行をしてきた。
「この4年間がどんなに苦しいものであったか、美代殿にはわかるまい」。
「その狂四郎がこの宿場に、いや、この同じ宿にいたとは!不覚であった。なぜきゃつらより早く、見つけ出さなかったのか」。
その頃、狂四郎は町の居酒屋で一人、酒を飲んでいた。

「しかし、なぜ、狂四郎殿をそれまでに」。
源之進の問いに、美代も語り始めた。
実は美代は江戸でも指折りの、両替商の娘として育った。

それが2年ほど前、ふとしたことから狂四郎に出会った。
たびたびの逢瀬が、続いた。
「とっても楽しかった…。幸せでした」。
ところが、半年ほど経つと、狂四郎は突然、美代の前から消えた。

旅に出たとのことだった。
それからの美代は、狂四郎恋しさに、ひと目会いたさに、とうとう家を出て、旅から旅へのその日暮らしとなってしまった。
「つらかったことや、苦しかったことが、今では憎しみに…。今は憎しみまでに…」。
美代は泣いた。

翌朝、美代は源之助の目を冷やしていた。
「大事な時にまた、目が痛くなるとは。寝ているわけには!」
起き上がろうとする源之進を制し、美代は医者を呼びに行った。
目の手ぬぐいを、源之進は震える手で取り去った。

医者に行った美代は帰り道、一本道で向こうから来る狂四郎とあった。
驚く美代。
美代は言った。

この半年間、狂四郎を探した。
狂四郎の噂を頼りに。
「私がどんな思いでいたか。狂四郎様にはお分かりになりますまい」。

美代の声は、震えていた。
「なぜ、私を捨てて江戸を出たのです」。
狂四郎は黙っている。

視線は動かない。
美代を見ない。
宿屋で寝ていた源之進は焦り、起き上がっていた。

「狂四郎様に何があったのか、知る由もありません。でも私はあなたを忘れられなかった。気がついてみるとあなたを追って、旅に出ておりました」。
「この半年間、旅のつらさや苦しさの果て、幾度死のうかと」。
「憎い!あなたが憎い!」

美代はそう言って、匕首を手にした。
狂四郎は黙っていた。
その横顔を見て、美代は泣き崩れた。

「私はあなたを殺すつもりだったのに!」
「なぜ、なぜーっ!」
地面の落ち葉を握り締め、美代は泣いた。

「狂四郎様、美代を…、今一度抱いてくださりませ」。
「そなたの望みをかなえることは、たやすい。だが、今、そなたに必要な男は私ではないはず。また、そなたを必要とする男も、私ではない」。
美代は顔を上げた。
狂四郎は美代を見ると、去っていった。

藤江の道場の門弟たちに連れられて、源之進が道場に入っていく。
向かいの道で、狂四郎がそれをいぶかしげに見ている。
「断る!」と源之進が立ち上がっていた。

源之進は狂四郎を捕らえたと騙されて、連れてこられたのだった。
円月殺法を破ることと、狂四郎の薩摩入りを阻止するために殺すのと何が違うと、藤枝たちは言った。
だが源之進は、「純粋に剣の道で技を競い合うのと、どこかの藩の都合で人を殺すのでは、雲泥の差がある。これ以上の問答は無用だ。帰らせてもらう」とはねつけ

た。

すると藤江たちは「そうはさせんぞ!」と言った。
秘密を話した以上、このまま騙して返すわけにはいかないのだ。
「その腕で拙者が斬れるかどうか、試してみるか」。
「何!」

門弟を制して藤江が言う。
「水上殿、なればこそ、おぬしの剣の腕を借りたいと申しておるのだ。礼金のほうもはずむぞ」。
「ほう、今度は金で拙者の剣を買おうというのか」。

「そのほうがおぬしも、納得がいくのではないか」。
「黙れ!」と源之進は一喝した。
「ぬしらのたくらみに加担するような剣は持たん!狂四郎殿とは、拙者が戦うのだ。もし邪魔立てするのなら、おぬしらを斬る!」

源之進を取り囲んだ門弟たちが、一斉に太鼓を鳴らし始めた。
耳に頼る源之進を惑わそうと言うのだった。
藤江が笑う。

源之進が目を閉じる。
だが右へ左へ動きながら、太鼓を鳴らされ、源之進は耳をふさいだ。
「はははは、目の見えぬ御仁の耳は目だ!その目をふさがれては身動きひとつもできまい!」

藤江が笑い、門弟たちが斬りかかる。
それでも源之進は、刃を受け止めた。
しかし、刀を落としてしまった。
床を刀が滑っていく。

その時、狂四郎が刀を拾った。
次に手裏剣を投げ、源之進に向かって刀を振り上げた門弟の手を射る。
「狂四郎!」

「源之進殿!」
狂四郎が叫び、源之進に向かって刀を投げる。
刀を得た源之進と、狂四郎の前で門弟たちは敵ではなかった。

川原で、源之進は狂四郎に「まさかこんな形でおぬしとめぐり合えるとは、考えもせなんだった」と言った。
「源之進殿。私とおぬしの試合は、あの時すでに終わっている。もう私のことは忘れて、目の養生をしたほうがいい」。
「私の目はもう、治らない。それは私が一番良く知っている」。

「確かに私は、そなたの円月殺法に挑み、負けた。その結果がこの盲目(めしい)だ。だが今の私には、生ある限り、眠狂四郎の円月殺法を破ることしかない。もは

やここまで来たしまった以上、ぜひとも一手お願いしたい」。
「無益な戦いはしたくない」。
「剣の道を志すものとして、今一度、私の剣を受けていただきたい。ぜひとも。生々流転、生者必滅。それもこの世の慣わし。明朝、卯の刻、この川原で」。
そう言うと、源之進は去っていく。

尋常ではかなわないと思った藤江は、弓に名手を一人百両で3名雇った。
これなら一人、百両は高くないと思った藤江たちは、今度こそ、狂四郎の息の根を止めると言った。
宿屋で源之進は美代に、明日の朝、狂四郎と立ち会うと言った。
美代には道中世話になり、礼の申し上げようもないと言う。

それを聞いた美代は震える声で、「なぜ、なぜそんなに剣の道が大事なのですか。今度こそ、狂四郎様に殺されるかも」と言った。
源之進は「それも天命だ。剣の道を志すものとして、円月殺法を破ることだけが私に与えられた宿命なのだ」と答える。
「私にはわかりません!天命だとか、宿命だとか。そんなこと、わかりません!」
「美代殿には、私の気持ちがわからんのだ」。

「私は狂四郎殿が憎くて、戦うのではない。あの人の持つ、円月殺法を破りたいのだ。それも正々堂々と!一対一で何の邪魔もなく戦いたいのだ!そのためにこそ

、この4年間の辛苦があったのだ!」
「源之進様!」
「美代殿は、狂四郎殿を今でも慕っておられるのか」。

「今の美代は違います。今の私は、あなたに死んでほしくないのです。私は生まれ変わったのです」。
源之進は、ハッとした。
「源之進様、あなたも生き方を変えてください。この宿場を出ましょう。どこにでもいい。あなたと二人、暮らしていけるのならば。勝手な私のお願いを、源之進様、お

聞きください!源之進様!」

「美代殿、わかってくだされ。私は狂四郎殿の円月殺法ともう一度だけ、戦わねばならんのだ。もし私が、狂四郎殿と戦わずして生き続けたとして、それは私の生き

た骸でしかないのだ」。
だが美代は言う。
「生きていてほしい。死なないで。死なないで!」

源之進の唇が、わなわなと震えた。
「私も円月殺法に勝ちたい。そして美代殿と…」。
「源之進様!」
2人はしっかり、抱き合った。

そして、今夜は一人にしてほしいと源之進が言う。
「美代殿。もし明日の朝、生きて帰れたら、そなたの言うとおりにしよう。私も剣を捨てる…」。
美代は出て行った。
「源之進様、死んでほしくない…」。

美代はその足で、藤江の道場に行った。
「あんたたち、本当に眠狂四郎を殺すことができるの?」
藤江たちは、顔を見合わせた。
暗い部屋で、美代は源之進の言葉を思い出していた。

「美代殿。私は狂四郎殿が憎くて、戦うのではない。あの人の持つ、円月殺法を破りたいのだ。それも正々堂々と!一対一で何の邪魔もなく戦いたいのだ!その

ためにこそ、この4年間の辛苦があったのだ!」
「美代殿、わかってくだされ。私は狂四郎殿の円月殺法ともう一度だけ、戦わねばならんのだ。もし私が、狂四郎殿と戦わずして生き続けたとして、それは私の生き

た骸でしかないのだ」。
美代は耳をふさぐ。

翌朝、川原には風が吹いていた。
「来たぞ」。
狂四郎と源之進が歩いてきて、向き合う。
藤江たちが、身を潜ませる。

源之進が刀を抜く。
狂四郎も刀を抜く。
「やめてええ」と声がする。

美代が走って来る。
「狂四郎様ー!源之進様ー!弓矢がー!」
その時、藤枝たちが雇った男たちが弓矢を美代に向けた。

美代が倒れた。
続いて、弓矢が狂四郎に飛んでいく。
狂四郎は弓矢をすべて、落とした。

藤江たちが刀を抜き、狂四郎に向かう。
狂四郎は門弟を押さえつけ、弓矢の楯にする。
2人は次々、藤江の門弟たちを斬る。

狂四郎が門弟の刀を取りあげ、弓を構えている男に投げる。
男が倒れ、弓を構えていた2人も刀を抜いてやってくる。
2人も斬られ、藤江だけが残った

狂四郎は藤江も斬った。
源之進も最後の一人を斬った。
「美代殿、美代殿ー!」

弓矢が刺さってもがく美代が、源之進の名を呼んだ。
その声を頼りに、源之進が美代を抱き起こす。
苦しい息の下、美代が「狂四郎様、源之進様、お許しください。私が浅はかでございました」と言う。
狂四郎が「もういい、何も言うな」と言った。

美代は、源之進を見上げた。
2人は近くの水車小屋に、美代を連れて行く。
狂四郎は源之進に薬の入った印籠と、消毒の酒を渡し「これで手当てをしてやるがいい」と言った。
「かたじけない」。

それだけ言うと狂四郎は、小屋を出た。
「美代殿。傷が治ったら、そなたの言うとおり、私も生き方を変えてみたい。一緒に暮らそう」。
美代が笑う。
「源之進様」。

美代、源之進の手を握る。
「さあ、もう一眠りしなさい。目が覚めたらきっと傷も治っている」。
美代の首が、がくりと下がる。
それきり、美代は何も言わなかった。

夕暮れになっていた。
狂四郎は表で、川を見て立っていた。
源之進がやってきて「美代殿が死んだ」と言った。

美代は、狂四郎との勝負を止めていた。
「私は迷った。
剣の道に生きるか。人の道に生き、生まれ変わるか。もし、美代殿が生きていたら、私は本当に生き方を変えたかもしれない。だが今の私は、美代殿のためにもお

ぬしと戦わねばならない。
結局、私は剣の道に生きるしかないのだ。

狂四郎は黙っていた。
風が吹く。
夕日が2人を照らす。

2つの影はゆっくりと歩き、向き合った。
源之進が剣を抜く。
狂四郎もまた、正宗を抜く。

正宗の先が、狂四郎の足元で返る。
ゆっくりと正宗が、弧を描きながら上がっていく。
源之進の剣も、同じように弧を描く。

刃が止まった。
2人が斬り結ぶ。
だが狂四郎の正宗は、源之進を斬った。
源之進が倒れる。

狂四郎が、正宗を納める。
風が吹く。
夕暮れが終わろうとしていた。
狂四郎は源之進を見つめると、一人、去っていく。



源之進は長塚京三さんです。
冒頭、亡者に襲われる悪夢を見る狂四郎。
過去、狂四郎が立ち会った、斬った相手。
前にも仇と狙ってきた、薩摩の女性たちに狂四郎は言っている。

尋常に立ち会った相手は、襲ってきた相手、卑怯な手段を取った者を斬っている。
だから恨まれる覚えはない。
でも恨まれているということは、わかっている。
恨みが自分にこびりついているということは、わかっている。

男も女も狂わせる、狂四郎。
美代が狂っちゃうのはいかにも、という感じ。
ですが狂四郎は、剣客としては立ち会いたい相手なんだろうな。

美代もまた、愛情と憎しみが表裏一体。
江戸を離れたわけがあるから、美代をもてあそんでいたわけじゃないと思うけど、美代にしたらわけわかんない。
納得できなかった美代は、狂四郎の後を追って旅に出てしまう。

すると両替商の娘として育った美代がその日暮しになり、転落していく。
そしてついに狂四郎を恨み、憎むに至る。
でも憎んでいるうちは、忘れてない。
愛情の反対は、無関心。

しかし美代に対する狂四郎の答えが「そなたの願いをかなえることはたやすい」って、天下の色男じゃなきゃ言えない答えだ。
これが絵になる俳優じゃないと、狂四郎はできない。
そして狂四郎は美代が本当に愛して一緒になるべき男は、源之進だと言う。

おお、「北斗の拳」のラストのリンとバットだ。
狂四郎に対して執着が取れなかった美代。
この言葉で、自分が今、誰を愛しているか愛するべきか目が覚める。

生まれ変わった美代は、源之進も生まれ変わってほしいと言う。
ところがこちらは、剣客としての生き方をなかなか捨てられない。
だから美代は、藤江たちに浅はかにも協力してしまう。

いや、どこまで狂四郎のために狂わされるんだと、今度は本気で殺そうと思っちゃうよ。
狂四郎に人生を狂わされた2人が一緒になって、さらにまた狂四郎に関わる。
すごい因縁話ですね。

源之進の一途な言葉が蘇り、自分の愚かさに気づいた美代は命を落とす。
瀕死の美代を前にして、今、自分の大切なものに源之進も気づいた。
たまに思うんだけど、武士のこの、剣の道に生きるとか、意地って時にはすごく不幸だよね…。

過去と対決しなければならない狂四郎と、因縁によって結ばれてしまった2人。
この3人のドラマの前では、藤江一派は単なる邪魔者。
強ければいいけど、対して強くない。

藤江たちは源之進を見下していたけど、相手にしてなかったのは源之進だったのか。
黙ってお金を取り上げられて、美代がかわいそうだった。
しかし、こういうのに耐えるも源之進の修行だったのか。

さらには藤江が卑怯で、どうしようもない。
1人百両で3人って、もう儲け度外視。
かくして道場全滅。

狂四郎は、源之進には優しいというか、礼儀を尽くしている。
彼も卑怯者が嫌いだから、太鼓なんか叩いて挑む藤江が許せない。
太鼓の囲みを破り、源之進に刀を投げる狂四郎に武士の友情を感じました。
さらには源之進に薬を渡し、出て行くところがかっこいい。

美代を失い、もはや生き直す意味を失った源之進。
やはり、狂四郎と勝負するしかない。
源之進はもう、死にたかったのか。
これで対決しないで生きていっても、それこそ生きる骸だ。

だから狂四郎も、源之進と立ち会う。
源之進の取った構えは、なんと、円月殺法!
おお、それで「ふたり狂四郎」。
つまりあれは、剣客の行き着く剣法なのか。

だが狂四郎に円月殺法が出てしまうと、眠狂四郎世界では終わり。
なので敵は、円月殺法を出させないように、刀を奪ったり、狂四郎を縛ったり、罠にはめたりする。
だけど円月殺法が出たら無敵なのだ。

結局、自分が斬ることでしか終わらなかった源之進の剣客道。
自分が心ならずも狂わせてしまった、男女の人生を思ったのか。
無表情ながら去っていく狂四郎は、自分の罪深さを思い知っているように見える。

男も女も狂わせる狂四郎。
罪な男だ。
つくづく、それが似合う俳優じゃないと、できない役だ。


明け方見た夢のような 「千と千尋の神隠し」

金曜日、一週間の疲れでぐったりして帰ったら、「千と千尋の神隠し」をテレビで放送していました。
もうずいぶん前に見たなあと思いながらも見ていました。
あの、千が「カオナシ」を連れて電車に乗るシーンはすごく惹きつけられます。

水の上を走る電車。
電車から見える水の風景。
乗客たち。

外にいる、黒いシルエットの人。
駅にいる少女。
戻ってこない人を見送ったのか。
帰ってこない人を待っているのか。

そんな気持ちにさせる、どこか物悲しい人たち。
なぜ透けているのか。
降りようとする乗客が荷物を持つと、その荷物までが透ける。

劇中でも言っていましたが、この電車、帰りの電車がある気がしないんですよね。
疲れた頭と目が、ボーっとしながらでも、画面に釘付け。
それで、この電車って、何を表しているのかなあと考えてました。

不思議な電車は「銀河鉄道の夜」という名作が、ベースにあるんでしょうね。
「千と千尋の神隠し」のこの電車の乗客たちって、もう、この世にいない人なのかな。
だから戻って来られる気がしないのか。

すごく素敵で、不思議。
綺麗で、それでいてどこか不安になる。
明け方に見た夢のよう。

それなのに、これで映画作ってほしいぐらい惹きつけられる。
このシーンで、宮崎監督ってやっぱりすごいんだなと思ってしまう。
宮崎映画には明確に意味を示さないシーンがありますが、こういうシーンの解釈は人それぞれに任せてるんでしょうね。

最後、戻ってきた父親と母親と、車に戻ると、木々がうっそうとしている。
あの世界にいたのは、あの世界では少しの間なんでしょう。
でも千尋の世界の世界では、相当の時間が経っているんですね。

現実の世界を考えると、千尋たちがいなくなった世界では、大騒ぎ。
引越し中に一家が消えたミステリーとして、取り上げられる事件になっているのか。
「この人たち、どこに行ったんだろう」と言われているのか。
戻ってきた人たちには、時間が経過していることを知らない。

私は、千尋たちのその後を想像してました。
昔からいう、神隠しとは、こういうことなのかも。
疲れた頭で見たけど、この映画って、あの電車のシーンだけでも見入ってしまうんだな。


「暗闇にベルが鳴る」が発売

怖いクリスマスの映画、「暗闇にベルが鳴る」。
レンタルもないし、もう見られないのかと思っていたらブルーレイが来年、発売になるらしい!
「チェンジリング」もブルーレイが出たし、すばらしい。
諦めていたホラーの名作が見られるなんて、嘘のようです。

悪質ないたずら電話がかかって来るので、警察に逆探知してもらう。
いたずら電話を切ると、今度は警察がかけて来る。
「今すぐ家から出てください」。
「電話は家の中からかかって来ています…!」

都市伝説にある、いたずら電話は家の中からかかって来ている。
これは、この「暗闇にベルが鳴る」の影響もあるんじゃないかと思いました。
発売が待ち遠しい!


オトウサン…。ウラメシイ。

もう、ずいぶん前に見た映画「チェンジリング」。
クリント・イーストウッド監督の映画じゃないです。
ジョージ・C・スコットという名優さんが主演した、ホラー映画。

これは怖かった。
脅かす演出はないし、起こっている現象を描写しているような、冷静で重厚なムード。
しかし、怖い。

主題歌に日本だけ、ヒカシューという、ニューウェーブと当時呼ばれたバンドの「パイク」という曲がついてました。
歌詞の意味がわからないと、ちょっと話題になってました。
しかし、そういった話題がなくても、この映画は怖かった!

深夜ドラマ「幻想ミッドナイト」の最終回で、誰もいない2階から階段にボールが落ちて来るシーンがありました。
それを見た時、思わず「チェンジリング!」。
「チェンジリング」のこのシーン、ヒャーっとしました。
怖かった。

「リング」や「仄暗い水の底から」を見た時、「チェンジリング」の影響があるんじゃないかとちょっと思いました。
映画の宣伝コピーは子供の声で「オトウサン…、ウラメシイ」。
映画見て、意味がわかると、ゾーっとしますよ。

この「チェンジリング」がブルーレイで復活!
もう見ることができないのかと思ってましたから、うれしいったらありゃしません。
怖い映画が好きな人、おすすめです。
私は「パイク」の曲も忘れられない。


A-studio~!

ひゃ~、来週の、いや、もう今週の金曜日。
23時からのTBSの「A-studio」。
ゲストが、松重豊さん!
び~っくり。

めずらしいって言うか、こんなトーク番組に呼ばれるようになったんですね。
鶴瓶さんのしゃべりと、聞き上手に乗って、松重さんの魅力が出せると良いな~。
既に録画予約も、バッチリ。
良かった、見逃さなくてー!

この前の真夜中の「世にも奇妙な物語 傑作編」の「懲役30日」。
井の頭五郎さんのイメージが強い方には、看守の松重さんは怖かったかな?
今また、「ビッグマネー!」のマッキーみたいな役やったら、楽しいと思いますね。
金曜日を楽しみに、明日からがんばろう。


片桐竜次さん2連発

「桃太郎侍」と「暴れん坊将軍」を見ていたら、どちらにも片桐竜次さんがゲスト出演していました。

「桃太郎侍」では、昔は忠義の家来。
しかし主人は酒乱の果てに同僚に斬りつけ、止めた片桐さんも不自由な体にされてしまった。
そしてお家が断絶になった後は、主人の妻の、何と客引きとなった。
そんな片桐さんが、桃太郎に武家の妻女が買えると声をかけたのが話の始まり。

武家の妻女がそんな目にあってると知った桃太郎は、この悲しい妻女に関わって行く。
片桐さんは、加賀まりこさん演じるこの妻女を、あまりな売り方をした為に彼女に刺し殺されます。
奇妙な愛憎でつながった男女。
いろんなことがあったんだろうなと思わせる片桐さんでした。

「暴れん坊将軍」では、女性のおもんと二人組の無法者の佐吉。
強盗したり、賭場荒らししたり。
だがおもんの方は、自分の為に借金を背負って苦界に身を沈めた姉の身請けの金を作る目的があった。

佐吉は逃げる途中に身を隠した墓地で、幕閣の不正を目撃。
これをネタに大金を儲けて、江戸から出ることを考えた。
しかしほんとの悪は、佐吉とおもんを滅多斬り。
駆けつけた新さんに「江戸なんかで死ぬのは嫌だ」と言い残してバッタリ。

新さんも「しっかりしろ」と定番のセリフは言うものの、佐吉より「おもんはどうした!」状態。
ま~、聞かなきゃダメなんですが、何か、片桐さんカワイソでした。
佐吉も悪いんだけど。

今は貫禄たっぷり、ちょっとおかしさもある「相棒」の刑事部長さんの片桐さん。
この部長さん、特命係が嫌いで、大晦日の事件で呼ばれて、餅つきのところだったのに!って憮然としてる。
かわいい。

今回のドラマはさすが、昔の映像だから若い。
片桐さんは刑事ドラマでも犯人役したり、必殺で草笛光子さんに殺られたり。
水谷豊さんの「事件記者 立花陽介」では主人公の良き先輩で協力者。

水谷さんも動きが良い人ですが、片桐さんも敏捷な動きをする人です。
やはり、水谷さん同様、かなり身体能力高いんじゃないかな?

長い活動が見られる、出ているのがわかるとうれしい俳優さん。
予期せぬ片桐さん2連発は、うれしかったな。
今は渋くて良いけど、若い片桐さんもステキです。
これからも長~く活躍して欲しい俳優さんです。


東京タワー

最近、東京タワーを見ると「あそこにギャオスが眠ってた」と思ってしまう。
ああやって見ると、ギャオスでかい!とか。
残業続きで疲れてるのか。
青空の下の東京タワーは、気持ちいいのだった。



生きたいように生きればいい 「眠狂四郎円月殺法」第13話

第13話、「いのち花わかれ盃情炎剣 袋井の巻」。

道端で、なにやら人だかりがしている。
「何をやらかしたのか」。
「みっともない」。

人々の視線の先。
一人の浪人が、灯篭に縄で縛られている。
両手を縛られ、灯篭に通しているため、ほどくことができないでいる。

「おい、みせもんじゃねえぞ」。
こんな状態の浪人の、それでも声には凄みがあった。
見ていた百姓たちは、あわてて立ち去った。

そこに黒の着流しを着た眠狂四郎が、通りかかった。
涼しい顔をして前だけを見て行く狂四郎に、浪人が声をかけた。
「おい」。
「私に何か用か」。

狂四郎の足が止まった。
「何か用か、は、ねえだろう。こうして縛られているんだから、同じ侍同士としてだ!いかがなされたか?ぐらい声かけたっていいだろう。気にならねえのか」。
「別に」。
「冷てえ男だな、おめえは」。

狂四郎が男の方を振り向いた。
「その様子では、賭場で負けが込んで、払えなくなったあげくのみせしめであろう。違うか」。
「はあ、そこまで。その通りだ」。

男は感心した。
「おぬしすげえ眼力だな」。
「さいころに身を持ち崩すような手合いは、もはや武士とはいえまい。したがって気にもならぬし、不憫とも思わぬ。屈辱をなめたなら、少しは立ち直ることだ」。

「屈辱なんかどうだっていいんだ。俺はな、腹減ってるんだ。何か食うもの持ってねえか」。
「あいにくだな」。
去っていく狂四郎の背に向かって、男は叫んだ。
「金のためなら何でもやるぞ!押し込みの相棒、勤めてもいいんだぜ!」

お蘭と金八は、宿場に来ていた。
金蔵は賭場に誘われて行ってしまったが、お蘭は鋭い目で辺りを見回す。
お蘭のいる宿に、狂四郎がやってきた。

「あ、旦那!」と、お蘭が声をかける。
「お待ちしてました。どうぞ」。
お蘭は狂四郎を部屋に招き入れ、酌をする。

狂四郎が杯を飲もうとすると、ふと、お蘭は「あ、ちょっと待ってください」と言った。
そして、庭の咲いている萩の花を摘んで、杯に浮かべる
「この、花びらごと」。
狂四郎がお蘭を見る。

「干すのか」。
狂四郎が、飲み干すのかと聞く。
「おまじないなんです。そうすると、縁が深くなるんですって」。

お蘭が微笑む。
「お蘭と俺のか」。
「お嫌ですか?」

「この俺と縁が深くなれば、地獄まで道連れになるぞ」。
「地の果てまでだって…」。
お蘭が狂四郎を見つめる。

しかし、狂四郎は飲まない。
「これ以上、死神を喜ばすこともあるまい」。
狂四郎は杯を置いた。
「それより用件を聞こう。この宿で俺に何をさせたいのだ」。

その夜、福知山藩主・朽木が滞在する本陣の寝所に狂四郎が現れ、朽木の喉元に刀を突きつけた。
だが狂四郎は朽木に向かって、朽木の「命はいらぬ」と言った。
「このたびの西国十三藩の密約書、いただきに参った」。

「おのれ!」
朽木は刀を手にするが、狂四郎の相手ではなかった。
狂四郎に喉元に刀を突きつけられ、朽木は密約書を突き出した。

用心を解かない狂四郎は、朽木に密約書を「開けろ」と言い渡す。
朽木が広げたその書には確かに、丹波・福知山藩の朽木の殿の名前、そして薩摩藩の島津公の名前が確かにあった。
密約書を手に、狂四郎は悠々と引き上げる。

門で用人たちが狂四郎を見つけ、「おのれえ、大胆な!」と言って斬りかかってきた。
狂四郎は襲い掛かってきた用人たちを次々斬り捨て、斬った1人の刀を取ると最後の1人に投げ、これを仕留めた。
密約書を奪われた朽木は、「福知山藩の立場がない」とうろたえていた。

水野の手に入れば、咎めがくるだけではない。
薩摩に対して、福知山藩の立場がなくなる。
すると側近の鮫島が、すべてを自分に任せるように言う。

鮫島の口笛ひとつで、黒装束の一群が舞い降りてきた。
忍びたちである。
その昔、伊賀と争って敗れ、家光の警護を解かれて追い出された雷神衆だと鮫島は説明した。

この太平の世に、忍びとは…。
懐疑的な殿の前で雷神衆は、火のついた矢を放った。
さらに、火のついた樽が正面から朽木に迫る。

朽木は思わず「やめろー!」と叫ぶ。
その途端、火は消え、樽は止まった。
鮫島と、雷神衆の頭領の加東次が「失礼つかまつった…」と深く頭を下げた。
雷神衆の実力を見た朽木は、「福知山藩のために働いてくれるか」と言う。

その頃、金八は珍しく、賭場で勝ちまくった。
しかし帰り道、
金を取り返しに来た賭場の元締めの袋井一家が、金八を追ってきた。
この賭場では決して、金を持って帰ることはさせないのだ。

逃げる金八と袋井一家の間に割って入ったのは、あの縛られていた浪人・片倉新九郎だった。
「おう!俺の刀、返してもらおうか」。
新九郎を見た親分は、「何ぬかしやがる、また痛い目にあいてえのかい。すっこんでろ!」と叫んだ。
完全に新九郎を侮っていた。

だが新九郎は、そう言った親分があげた手をあっさりつかむと、締め上げる。
「夕べはな。博打のツケが払えねえから、大人しく縛られてやったら…、勝ってもこういうからくりってわけか!」
調子に乗った金八が、「そうだよ!おめえらそれでも博打うちか!ごみ、だに、しらみ、のみ!」と叫んだ。

親分は「やっちまえ!」と叫んだ。
子分衆が刃物を抜いて、襲ってくる。
しかしまったく、新九郎に歯が立たない。
助けてもらった金八は、新九郎を女郎屋に誘う。

翌朝、金八は女郎屋で目覚めたが、新九郎は一人、廊下で座っていた。
新九郎は杯に庭に咲いていた萩の花を摘み、入れた。
「何それ、顔に似合わないオツなことして」と、金八が言う。

「こうするとな、男と女の縁が深くなるって。そう教えてくれた女が昔いたんだよ」。
「ふうん。ねえ、その人今、何してんの」。
「知らねえな」。

新九郎の顔を見ていた金八は、「まだ惚れてるね、その人にね。でも旦那みたいな生き様じゃ、大概の女は逃げ出すよ」と言った。
「これでも昔は、ちゃんとしてたんだ」。
「嘘ばっかり」。
「うるせえな!向こう行ってろ!」

新九郎に怒られて、金八は引っ込んだ。
一人になった新九郎は、酒を飲み続ける。
「こんな生き様じゃあ、まともな女は…、ふふ。確かにその通りだ」。

道を行く狂四郎の耳に、助けてと叫ぶ女の悲鳴が入ってきた。
一軒の農家で、百姓娘が男3人に押さえつけられようとしていた。
狂四郎が入ると、男たちが身構える。
女は狂四郎の背中に隠れた…、と思うと、「眠狂四郎!」と叫んで背後から押さえつけた。

雷神衆だった。
男たちが狂四郎に斬りかかる。
すると狂四郎は、すっと身を翻した。

男たちの刃は、狂四郎を背後から押さえつけていた女に刺さった。
狂四郎はその3人を斬ると、天井から、家の奥からさらに黒装束の男たちがやってくる。
すべての黒装束を斬ると、狂四郎はお蘭の待つ道にやってきた。

その頃、金八と新九郎も袋井一家に襲われていた。
このまま2人を帰したなら、袋井一家の面子が立たない。
親分はそう言った。

新九郎は、金八に逃げろと言う。
「こいつは俺のケンカだ」。
「俺だけズラかっていいの?」

「早く逃げろ!」
「恩に着るよ!」
金八が逃げた後、新九郎はたちまち3人の子分、そして2人の浪人の用心棒を斬り捨て、親分も斬った。

道の上で、通りかかった鮫島がそれをジッと見つめていた。
小川で血を洗っていた新九郎に近づくと鮫島は、「使えるな、おぬし」と声をかけた。
「金に不自由はしていないか?」
「なり見りゃ、わかるだろう!」

新九郎が去ろうとした時、背後で小判の音がした。
「ほんの手付けだ。おぬしを雇いたい」。
鮫島が地面に、小判を投げたのだった。

「袋井本陣へ訪ねて来い。丹波福知山・三千石が逗留しておる。ただし、勘違いしてもらっては困る。仕官ではない。あくまで人斬りとして、おぬしを雇いたい」。
鮫島はそれだけを言うと、去っていく。
新九郎が小判を拾う。

その背後の橋を、お蘭を乗せた駕籠が通り過ぎていく。
小判を拾い終わった新九郎が顔を上げると、お蘭の姿が目に入ってきた。
新九郎の顔色が、変わる。
そして、お蘭の駕籠の後を追った。

駕籠は、見附宿に入った。
旅籠に入ったお蘭を見て、新九郎は「間違いねえ!間違うはずはねえ!」と言った。
部屋で茶を飲んでいたお蘭の手から、湯飲みが落ちる。

お蘭が立ち上がる。
新九郎が、お蘭の前にいた。
2人は見つめう。

お蘭がやっと、口を開いた。
「どうして…、どうして…」。
「俺も驚いた。駕籠で行くあんたを見てな、夢中でここまで駆けてきた」。

そして新九郎は「しかし何だ、その格好はどうして旅なんかしてるんだ。あんたれっきとした…」と言いかけた。
お蘭がその言葉をさえぎった。
「もうやめてください。昔の話は…」。
お蘭は新九郎から、顔をそむけた。

「あなたこそ、どうしてこんなところに。それにしてもその変わりよう。昔、千代田のお城の勘定方にお勤めしていた頃の片倉新九郎様とは、とても…」。
「上役といさかいを起こして、逐電したこの俺だ。所詮は宮づかいのタマじゃねえのさ」。
新九郎の言葉に、皮肉っぽい調子が混ざった。

「いいえ!わたくしは知っております。あなたは上役たちの不正を正して、お城を飛び出したのです。あなたが去った後、何名かのよからぬ重役たちは評定所でお裁

きを受けました」。
新九郎は息を呑んだ。
「そうか、嫌、それを聞いて…、ずっと気になっていたんだ。俺一人が割りを食ったたと思っていた」。

新九郎は肩の荷を降ろしたような表情になった。
「うむ」と、ため息をついた。
気が楽になった…」。

そして新九郎は、お蘭を見た。
「美しくなられたのう、お蘭どの」。
お蘭は目を伏せた。

「本来なら夫婦(めおと)になっていた、俺とあんただ。そうなっていたら今頃は2人の間に子供がいて、つつがなく暮らしていたはずだ」。
「どうした父上は。碁がお好きで、良く碁の相手をさせられた」。
「父は…、先年、他界いたしました」。
「そうか」。

「新九郎様、どうか、お引き取りください。歳月の流れた今となっては、昔をとやかく話し合っても、いたしかたありますまい」。
お蘭の口調は、きっぱりしていた。
「お蘭殿!」

驚いた新九郎が、お蘭を見つめる。
「新九郎様、どうか!」
お蘭の目は悲しそうだった。
新九郎は、お蘭をジッと見つめた。

お蘭の目には、うっすらと涙がにじんでいた。
それを見た新九郎は「わかった…、もう会うこともないな。邪魔した」とだけ言う。
新九郎は、立ち去った。
お蘭は一人、立ち尽くしていた。

袋井の本陣にやってきた新九郎は、酒を飲んでいた。
「やはり来たか」。
鮫島が入ってきた。

「高いぞ、俺の人斬り代は!」
「よかろう、だがあるいは、おぬしが負けるかも知れない相手だ」。
「かまわん!たとえ野に屍をさらしても嘆く奴も、泣く奴もいねえ!」

そこに、雷神衆の頭領の加東次が、狂四郎が見附宿にいることを知らせてきた。
江戸からの使いと会うのだ。

道を行くお蘭。金八と合流した。
だが江戸からの使者を見つけるとお蘭は、金八に離れているように言う。
お蘭が、使者に近づく。

「お使者の方、お蘭です」。
編み笠を深くかぶった男は、「密約書をこっちへもらおうか」と言った。
その口調に、お蘭がいぶかしげに眉をひそめる。

傍らの草むらに斬り捨てられた本物の使者が、いた。
四方から、上空から雷神衆が降りてくる。
お蘭は懐剣を構えたが、捕らえられる。

そしてお蘭は、一軒のあばら家につれてこられた。
加東次はお蘭の持っていた三味線を解体するが、密約書はなかった。
「ない!」

お蘭を柱に縛りつけると、眠狂四郎の居場所を言えと迫る。
「どこかねえ?口が裂けたって言えないよ!」
「このアマ!」

加東次の合図で、雷神たちがお蘭を鞘に収めた刀で突く。
その時、新九郎がやってきた。
「おぬしか」。
加東次が新九郎を見る。

「打て!もっと打て!」
振り向いた新九郎は、打たれているお蘭を見て驚く。
お蘭もまた、新九郎を見て驚くが、すぐに打たれて前を向いた。

次々、お蘭を打つ雷神衆に向かって新九郎が「やめろ!」と一喝する。
「つなぎの女が帰ってこなけりゃ、眠という男もどっかの穴倉から出てきて、探し出すだろう。どうせ、この近くだ。こっちから仕掛けててやろうじゃねえか」。
そう新九郎は言った。

加東次は「ようし、逃がすな」と言って出て行く。
だが動かない新九郎を見て、「あんたは行かんのか」と聞いた。
「わかってる!」

新九郎が出て行った後、2人の男が見張りとして残った。
美しいお蘭を見る、2人の目が光った。
「けけけっ」と男たちが笑って、お蘭のあごを持つ。

気丈なお蘭は男に唾を吐きかけると男はお蘭を突き飛ばし、のしかかった。
お蘭の顔が、苦痛にゆがむ。
その時、その男が背後から刺された。

新九郎だった。
抜いた刀で、新九郎はもう1人も斬り捨てる。
お蘭の縄を切ると、「行け!」と言う。

「新九郎様、どうして!」
「どうして!あんな奴らの一味なんかに!」
「ははは、落ちるところまで落ちてるのさ。今の俺は金のためなら、何だってやるんだ」。
新九郎は乾いた笑い声を立てた。

そして「あんた、眠狂四郎の女なのか!そうなんだな?!」と聞いた。
お蘭は新九郎に背を向けて、答えない。
「まあ、いいや。しかし困ったなあ…。あんたの男を斬らなくちゃならねんだ」。

お蘭が、振り向く。
「どっちが死ぬのが望みだ」。
お蘭は顔を背ける。

新九郎はいきなり、お蘭を抱きしめる。
「恨みっこなしにしてくれ。俺は眠って男を斬る。そうしたら…、俺はあんたを…。そしたら、俺の女になってくれるか!」
「どうなんだ!」

お蘭は新九郎を見つめる。
その目に涙が浮かぶ。
お蘭は、哀しみで一杯だった。
「どっちも…、どっちも嫌。どっちも生きていてほしい」。

「信じろよ。必ずやる。眠って男をしとめる」。
「お願い、このまま、どっかに行ってください。いいえ、私を一緒につれてってもいいから。だから!」
「鍼九郎様どうか…」。
新九郎は、お蘭を見つめる。

「眠に伝えろ。必ず俺が命をもらいに参上するとな」。
そして「奴らが戻ってくる、早々に行け」とお蘭に出て行くよう促した。
お蘭は、新九郎の背中を見つめる。

その頃、荒れ寺で金八が、お蘭を助けに行かない狂四郎に詰め寄っていた。
「行けば、墓穴を掘ることになる」。
それを聞いた金八は、「何言ってんの!お蘭さん、だんなのために働いてるんでしょ!」と叫んだ。

だが、狂四郎は少しも声の調子を変えずに言った。
「それは少し違う。お蘭はもともと、俺を見張るために差し向けられた女だ」。
「いや俺さ、旦那のそういう、裏っかたの方、よくわかんねえけどさ、お蘭さんの気持ちわかってやんなきゃ。一生懸命なんだから!」

「奴らの狙いはこの密書だ。これが俺の手中にある限り、お蘭は無事だ」。
「気休め言ったって、つかまえてんの向こうなんだからさ!」
「人の心配より早うmここを抜け出すことだ」。
「え?」

「奴らはここをつきとめて、いずれ襲ってくるだろう」。
それを聞いた金八は「それじゃ、俺、ここにいない方がいいよね?」と聞いた。
狂四郎がうなづくと、金八は逃げていく。

その通りに、雷神たちは荒れ寺にやってきた。
しかし、狂四郎ももう、いなかった。
「逃がしたか…」。

お蘭はふらふらになりながら、道を急ぐ。
その先に狂四郎を見つけたお蘭は「だんな!」と叫ぶ。
「お蘭、無事だったか」。

「旦那、逃げて!逃げてください。相手は江戸で鳴らした、神道無念流の使い手なんです」。
「相手を知っておるのか」。
お蘭はハッと、息を呑む。
「お蘭」。

お蘭は、うつむいた。
「今は何も聞かないでください。後生です、逃げてください」。
お蘭は狂四郎に、頭を下げる。

だが狂四郎は逃げない。
「自ら好んで阿修羅に生きるこの俺に、その言葉は無用だ」。
「お蘭、無理をするな。お前は自分の生きたいように生きればいい」。
「生きたいように…」。

そう言うと、狂四郎は歩いていく。
お蘭はその背中を見送る。
「旦那…。生きたいようにって、あたしが生きたい道は…」。
お蘭が涙ぐむ。

雷神が新九郎をつれて、狂四郎の襲撃に向かう。
暗闇の中、表に出た新九郎は、少し離れた木陰から自分を見つめるお蘭を見る。
「お蘭どの」。
新九郎が、お蘭に近づく。

「どうした?」
お蘭の唇が震える。
「案内します…。そこで…。決着を…」。

「あなたたちが今行こうとしたところには、もういないんです。ほんとに恨みっこなしです。どちらかが…、そしたら、私…。自分がはっきりするんです」。
「わかった。案内してくれ」。
お蘭が先に立ち、川べりの道を新九郎と歩く。

小川の流れが、背後に見える。
水面が光る。
お蘭が口をきく。

「私、娘の頃、あなたの花嫁になることばかり考えていました。ほんとに…身も心も綺麗なままで…。あなたにどうしたら、気に入られるかって…。男と女がこんな風にして出会うなんて。やっぱり会わないほうが良かったんです…。会わないほうが…」。
お蘭が、新九郎を振り返る。
目には涙が浮かんでいる。

お蘭を見つめる新九郎の目も、悲しそうだった。
新九郎の視線が、下がっていく。
お蘭の手には、小刀が握られていた。

突然、お蘭が新九郎の懐に飛び込む。
持っていた小刀が、新九郎の胸、深くに突き刺さる。
まったく抵抗せず、お蘭と、お蘭の刃を受け止めた新九郎。

お蘭が、驚いて見つめる。
「どうして…」。
「いいんだ」。
新九郎が、かすかに微笑む。

「これでいいんだよ…。どうせならお前に…」。
新九郎は倒れる。
2人の頭上の木の、花が散っている。
風が吹く。

その頃、旅籠にいた狂四郎の座敷に爆薬が投げ込まれる。
たちまち、座敷は炎に包まれた。
障子を破り、狂四郎は二階から地上に飛び降りた。

体を回転させ、狂四郎は脱出する。
旅籠が炎上する。
次々やってくる雷神衆。
狂四郎も、次々雷神衆を斬る。

雷神衆は、爆薬を投げてくる。
狂四郎は雷神の一人を盾にして、爆薬を防ぐ。
楯にされた雷神の背中で、火が燃える。

両側から、樽が転がってくる。
しかし狂四郎はヒラリと飛び上がると、樽は衝突して止まる。
狂四郎は、最後の2人を斬る。

今度は、鮫島が現れる。
刀を抜いて、構える。
正宗を持つ狂四郎の手が、頭上に上がる。

すらりと頭上に上げた正宗の切っ先を、今度はピタリとを地面に向ける。
刀の先が、キラリと光る。
徐々に刀が弧を描いて、上に上がっていく、。
狂四郎の周りを、刀の光が彩っていく。

その時、雷神の頭領の加東次と、最後の一人が襲って来る。
しかし狂四郎は2人を交わし、斬る。
斬りこんで来た鮫島も斬る。
鮫島が倒れ、狂四郎は刀を納める。

翌朝。
峠の茶店には、お蘭と狂四郎がいた。
「行くか。お蘭」。
「はい、江戸へ立ち戻ります。こうやって一度けじめをつけないと」。

狂四郎が自分が飲んでいた杯を、お蘭に渡す。
徳利を傾ける。
お蘭が狂四郎に、酒を注いでもらう。

酒が注ぎ終わると、お蘭がお辞儀をする。
ふと、狂四郎が立ち上がる。
傍らの萩の花を摘む。
そして、お蘭の持つ杯に浮かべてやる。

「旦那…」。
お蘭がうっすらと微笑む。
もうひとつの杯に狂四郎も、萩の花を浮かべ、飲み干す。
お蘭が杯を飲み干し、微笑む。

街道を行く狂四郎を、お蘭が見送る。
「縁が深くなりますように…」。
そっと、お蘭がつぶやく。

狂四郎の後姿を見送っていたお蘭は、江戸へ向かう。
2人は、背中合わせに離れていく。
ススキの穂が、日差しを浴びて、光って揺れていた。



第13話、「いのち花わかれ盃情炎剣 袋井の巻」。


人だかりが、している。
「何をやらかしたのか」。
「みっともない」。

人々の視線の先。
一人の浪人が、灯篭に縄で縛られている。
両手を縛られ、灯篭に通しているため、ほどくことができないでいる。

「おい、みせもんじゃねえぞ」。
こんな状態の浪人の、それでも声には凄みがあった。
見ていた百姓たちは、あわてて立ち去った。

そこに黒の着流しを着た眠狂四郎が、通りかかった。
涼しい顔をして前だけを見て行く狂四郎に、浪人が声をかけた。
「おい」。
「私に何か用か」。

狂四郎の足が止まった。
「何か用か、は、ねえだろう。こうして縛られているんだから、同じ侍同士としてだ!いかがなされたか?ぐらい声かけたっていいだろう。気にならねえのか」。
「別に」。
「冷てえ男だな、おめえは」。

狂四郎が男の方を振り向いた。
「その様子では、賭場で負けが込んで、払えなくなったあげくのみせしめであろう。違うか」。
「はあ、そこまで。その通りだ」。

男は感心した。
「おぬしすげえ眼力だな」。
「さいころに身を持ち崩すような手合いは、もはや武士とはいえまい。したがって気にもならぬし、不憫とも思わぬ。屈辱をなめたなら、少しは立ち直ることだ」。

「屈辱なんかどうだっていいんだ。俺はな、腹減ってるんだ。何か食うもの持ってねえか」。
「あいにくだな」。
去っていく狂四郎の背に向かって、男は叫んだ。
「金のためなら何でもやるぞ!押し込みの相棒、勤めてもいいんだぜ!」

お蘭と金八は、宿場に来ていた。
金蔵は賭場に誘われて行ってしまったが、お蘭は鋭い目で辺りを見回す。
お蘭のいる宿に、狂四郎がやってきた。

「あ、旦那!」と、お蘭が声をかける。
「お待ちしてました。どうぞ」。
お蘭は狂四郎を部屋に招き入れ、酌をする。

狂四郎が杯を飲もうとすると、ふと、お蘭は「あ、ちょっと待ってください」と言った。
そして、庭の咲いている萩の花を摘んで、杯に浮かべる
「この、花びらごと」。
狂四郎がお蘭を見る。

「干すのか」。
狂四郎が、飲み干すのかと聞く。
「おまじないなんです。そうすると、縁が深くなるんですって」。

お蘭が微笑む。
「お蘭と俺のか」。
「お嫌ですか?」

「この俺と縁が深くなれば、地獄まで道連れになるぞ」。
「地の果てまでだって…」。
お蘭が狂四郎を見つめる。

しかし、狂四郎は飲まない。
「これ以上、死神を喜ばすこともあるまい」。
狂四郎は杯を置いた。
「それより用件を聞こう。この宿で俺に何をさせたいのだ」。

その夜、福知山藩主・朽木が滞在する本陣の寝所に狂四郎が現れ、朽木の喉元に刀を突きつけた。
だが狂四郎は朽木に向かって、朽木の「命はいらぬ」と言った。
「このたびの西国十三藩の密約書、いただきに参った」。

「おのれ!」
朽木は刀を手にするが、狂四郎の相手ではなかった。
狂四郎に喉元に刀を突きつけられ、朽木は密約書を突き出した。

用心を解かない狂四郎は、朽木に密約書を「開けろ」と言い渡す。
朽木が広げたその書には確かに、丹波・福知山藩の朽木の殿の名前、そして薩摩藩の島津公の名前が確かにあった。
密約書を手に、狂四郎は悠々と引き上げる。

門で用人たちが狂四郎を見つけ、「おのれえ、大胆な!」と言って斬りかかってきた。
狂四郎は襲い掛かってきた用人たちを次々斬り捨て、斬った1人の刀を取ると最後の1人に投げ、これを仕留めた。
密約書を奪われた朽木は、「福知山藩の立場がない」とうろたえていた。

水野の手に入れば、咎めがくるだけではない。
薩摩に対して、福知山藩の立場がなくなる。
すると側近の鮫島が、すべてを自分に任せるように言う。

鮫島の口笛ひとつで、黒装束の一群が舞い降りてきた。
忍びたちである。
その昔、伊賀と争って敗れ、家光の警護を解かれて追い出された雷神衆だと鮫島は説明した。

この太平の世に、忍びとは…。
懐疑的な殿の前で雷神衆は、火のついた矢を放った。
さらに、火のついた樽が正面から朽木に迫る。

朽木は思わず「やめろー!」と叫ぶ。
その途端、火は消え、樽は止まった。
鮫島と、雷神衆の頭領の加東次が「失礼つかまつった…」と深く頭を下げた。
雷神衆の実力を見た朽木は、「福知山藩のために働いてくれるか」と言う。

その頃、金八は珍しく、賭場で勝ちまくった。
しかし帰り道、
金を取り返しに来た賭場の元締めの袋井一家が、金八を追ってきた。
この賭場では決して、金を持って帰ることはさせないのだ。

逃げる金八と袋井一家の間に割って入ったのは、あの縛られていた浪人・片倉新九郎だった。
「おう!俺の刀、返してもらおうか」。
新九郎を見た親分は、「何ぬかしやがる、また痛い目にあいてえのかい。すっこんでろ!」と叫んだ。
完全に新九郎を侮っていた。

だが新九郎は、そう言った親分があげた手をあっさりつかむと、締め上げる。
「夕べはな。博打のツケが払えねえから、大人しく縛られてやったら…、勝ってもこういうからくりってわけか!」
調子に乗った金八が、「そうだよ!おめえらそれでも博打うちか!ごみ、だに、しらみ、のみ!」と叫んだ。

親分は「やっちまえ!」と叫んだ。
子分衆が刃物を抜いて、襲ってくる。
しかしまったく、新九郎に歯が立たない。
助けてもらった金八は、新九郎を女郎屋に誘う。

翌朝、金八は女郎屋で目覚めたが、新九郎は一人、廊下で座っていた。
新九郎は杯に庭に咲いていた萩の花を摘み、入れた。
「何それ、顔に似合わないオツなことして」と、金八が言う。

「こうするとな、男と女の縁が深くなるって。そう教えてくれた女が昔いたんだよ」。
「ふうん。ねえ、その人今、何してんの」。
「知らねえな」。

新九郎の顔を見ていた金八は、「まだ惚れてるね、その人にね。でも旦那みたいな生き様じゃ、大概の女は逃げ出すよ」と言った。
「これでも昔は、ちゃんとしてたんだ」。
「嘘ばっかり」。
「うるせえな!向こう行ってろ!」

新九郎に怒られて、金八は引っ込んだ。
一人になった新九郎は、酒を飲み続ける。
「こんな生き様じゃあ、まともな女は…、ふふ。確かにその通りだ」。

道を行く狂四郎の耳に、助けてと叫ぶ女の悲鳴が入ってきた。
一軒の農家で、百姓娘が男3人に押さえつけられようとしていた。
狂四郎が入ると、男たちが身構える。
女は狂四郎の背中に隠れた…、と思うと、「眠狂四郎!」と叫んで背後から押さえつけた。

雷神衆だった。
男たちが狂四郎に斬りかかる。
すると狂四郎は、すっと身を翻した。

男たちの刃は、狂四郎を背後から押さえつけていた女に刺さった。
狂四郎はその3人を斬ると、天井から、家の奥からさらに黒装束の男たちがやってくる。
すべての黒装束を斬ると、狂四郎はお蘭の待つ道にやってきた。

その頃、金八と新九郎も袋井一家に襲われていた。
このまま2人を帰したなら、袋井一家の面子が立たない。
親分はそう言った。

新九郎は、金八に逃げろと言う。
「こいつは俺のケンカだ」。
「俺だけズラかっていいの?」

「早く逃げろ!」
「恩に着るよ!」
金八が逃げた後、新九郎はたちまち3人の子分、そして2人の浪人の用心棒を斬り捨て、親分も斬った。

道の上で、通りかかった鮫島がそれをジッと見つめていた。
小川で血を洗っていた新九郎に近づくと鮫島は、「使えるな、おぬし」と声をかけた。
「金に不自由はしていないか?」
「なり見りゃ、わかるだろう!」

新九郎が去ろうとした時、背後で小判の音がした。
「ほんの手付けだ。おぬしを雇いたい」。
鮫島が地面に、小判を投げたのだった。

「袋井本陣へ訪ねて来い。丹波福知山・三千石が逗留しておる。ただし、勘違いしてもらっては困る。仕官ではない。あくまで人斬りとして、おぬしを雇いたい」。
鮫島はそれだけを言うと、去っていく。
新九郎が小判を拾う。

その背後の橋を、お蘭を乗せた駕籠が通り過ぎていく。
小判を拾い終わった新九郎が顔を上げると、お蘭の姿が目に入ってきた。
新九郎の顔色が、変わる。
そして、お蘭の駕籠の後を追った。

駕籠は、見附宿に入った。
旅籠に入ったお蘭を見て、新九郎は「間違いねえ!間違うはずはねえ!」と言った。
部屋で茶を飲んでいたお蘭の手から、湯飲みが落ちる。

お蘭が立ち上がる。
新九郎が、お蘭の前にいた。
2人は見つめう。

お蘭がやっと、口を開いた。
「どうして…、どうして…」。
「俺も驚いた。駕籠で行くあんたを見てな、夢中でここまで駆けてきた」。

そして新九郎は「しかし何だ、その格好はどうして旅なんかしてるんだ。あんたれっきとした…」と言いかけた。
お蘭がその言葉をさえぎった。
「もうやめてください。昔の話は…」。
お蘭は新九郎から、顔をそむけた。

「あなたこそ、どうしてこんなところに。それにしてもその変わりよう。昔、千代田のお城の勘定方にお勤めしていた頃の片倉新九郎様とは、とても…」。
「上役といさかいを起こして、逐電したこの俺だ。所詮は宮づかいのタマじゃねえのさ」。
新九郎の言葉に、皮肉っぽい調子が混ざった。

「いいえ!わたくしは知っております。あなたは上役たちの不正を正して、お城を飛び出したのです。あなたが去った後、何名かのよからぬ重役たちは評定所でお裁

きを受けました」。
新九郎は息を呑んだ。
「そうか、嫌、それを聞いて…、ずっと気になっていたんだ。俺一人が割りを食ったたと思っていた」。

新九郎は肩の荷を降ろしたような表情になった。
「うむ」と、ため息をついた。
気が楽になった…」。

そして新九郎は、お蘭を見た。
「美しくなられたのう、お蘭どの」。
お蘭は目を伏せた。

「本来なら夫婦(めおと)になっていた、俺とあんただ。そうなっていたら今頃は2人の間に子供がいて、つつがなく暮らしていたはずだ」。
「どうした父上は。碁がお好きで、良く碁の相手をさせられた」。
「父は…、先年、他界いたしました」。
「そうか」。

「新九郎様、どうか、お引き取りください。歳月の流れた今となっては、昔をとやかく話し合っても、いたしかたありますまい」。
お蘭の口調は、きっぱりしていた。
「お蘭殿!」

驚いた新九郎が、お蘭を見つめる。
「新九郎様、どうか!」
お蘭の目は悲しそうだった。
新九郎は、お蘭をジッと見つめた。

お蘭の目には、うっすらと涙がにじんでいた。
それを見た新九郎は「わかった…、もう会うこともないな。邪魔した」とだけ言う。
新九郎は、立ち去った。
お蘭は一人、立ち尽くしていた。

袋井の本陣にやってきた新九郎は、酒を飲んでいた。
「やはり来たか」。
鮫島が入ってきた。

「高いぞ、俺の人斬り代は!」
「よかろう、だがあるいは、おぬしが負けるかも知れない相手だ」。
「かまわん!たとえ野に屍をさらしても嘆く奴も、泣く奴もいねえ!」

そこに、雷神衆の頭領の加東次が、狂四郎が見附宿にいることを知らせてきた。
江戸からの使いと会うのだ。

道を行くお蘭。金八と合流した。
だが江戸からの使者を見つけるとお蘭は、金八に離れているように言う。
お蘭が、使者に近づく。

「お使者の方、お蘭です」。
編み笠を深くかぶった男は、「密約書をこっちへもらおうか」と言った。
その口調に、お蘭がいぶかしげに眉をひそめる。

傍らの草むらに斬り捨てられた本物の使者が、いた。
四方から、上空から雷神衆が降りてくる。
お蘭は懐剣を構えたが、捕らえられる。

そしてお蘭は、一軒のあばら家につれてこられた。
加東次はお蘭の持っていた三味線を解体するが、密約書はなかった。
「ない!」

お蘭を柱に縛りつけると、眠狂四郎の居場所を言えと迫る。
「どこかねえ?口が裂けたって言えないよ!」
「このアマ!」

加東次の合図で、雷神たちがお蘭を鞘に収めた刀で突く。
その時、新九郎がやってきた。
「おぬしか」。
加東次が新九郎を見る。

「打て!もっと打て!」
振り向いた新九郎は、打たれているお蘭を見て驚く。
お蘭もまた、新九郎を見て驚くが、すぐに打たれて前を向いた。

次々、お蘭を打つ雷神衆に向かって新九郎が「やめろ!」と一喝する。
「つなぎの女が帰ってこなけりゃ、眠という男もどっかの穴倉から出てきて、探し出すだろう。どうせ、この近くだ。こっちから仕掛けててやろうじゃねえか」。
そう新九郎は言った。

加東次は「ようし、逃がすな」と言って出て行く。
だが動かない新九郎を見て、「あんたは行かんのか」と聞いた。
「わかってる!」

新九郎が出て行った後、2人の男が見張りとして残った。
美しいお蘭を見る、2人の目が光った。
「けけけっ」と男たちが笑って、お蘭のあごを持つ。

気丈なお蘭は男に唾を吐きかけると男はお蘭を突き飛ばし、のしかかった。
お蘭の顔が、苦痛にゆがむ。
その時、その男が背後から刺された。

新九郎だった。
抜いた刀で、新九郎はもう1人も斬り捨てる。
お蘭の縄を切ると、「行け!」と言う。

「新九郎様、どうして!」
「どうして!あんな奴らの一味なんかに!」
「ははは、落ちるところまで落ちてるのさ。今の俺は金のためなら、何だってやるんだ」。
新九郎は乾いた笑い声を立てた。

そして「あんた、眠狂四郎の女なのか!そうなんだな?!」と聞いた。
お蘭は新九郎に背を向けて、答えない。
「まあ、いいや。しかし困ったなあ…。あんたの男を斬らなくちゃならねんだ」。

お蘭が、振り向く。
「どっちが死ぬのが望みだ」。
お蘭は顔を背ける。

新九郎はいきなり、お蘭を抱きしめる。
「恨みっこなしにしてくれ。俺は眠って男を斬る。そうしたら…、俺はあんたを…。そしたら、俺の女になってくれるか!」
「どうなんだ!」

お蘭は新九郎を見つめる。
その目に涙が浮かぶ。
お蘭は、哀しみで一杯だった。
「どっちも…、どっちも嫌。どっちも生きていてほしい」。

「信じろよ。必ずやる。眠って男をしとめる」。
「お願い、このまま、どっかに行ってください。いいえ、私を一緒につれてってもいいから。だから!」
「鍼九郎様どうか…」。
新九郎は、お蘭を見つめる。

「眠に伝えろ。必ず俺が命をもらいに参上するとな」。
そして「奴らが戻ってくる、早々に行け」とお蘭に出て行くよう促した。
お蘭は、新九郎の背中を見つめる。

その頃、荒れ寺で金八が、お蘭を助けに行かない狂四郎に詰め寄っていた。
「行けば、墓穴を掘ることになる」。
それを聞いた金八は、「何言ってんの!お蘭さん、だんなのために働いてるんでしょ!」と叫んだ。

だが、狂四郎は少しも声の調子を変えずに言った。
「それは少し違う。お蘭はもともと、俺を見張るために差し向けられた女だ」。
「いや俺さ、旦那のそういう、裏っかたの方、よくわかんねえけどさ、お蘭さんの気持ちわかってやんなきゃ。一生懸命なんだから!」

「奴らの狙いはこの密書だ。これが俺の手中にある限り、お蘭は無事だ」。
「気休め言ったって、つかまえてんの向こうなんだからさ!」
「人の心配より早うmここを抜け出すことだ」。
「え?」

「奴らはここをつきとめて、いずれ襲ってくるだろう」。
それを聞いた金八は「それじゃ、俺、ここにいない方がいいよね?」と聞いた。
狂四郎がうなづくと、金八は逃げていく。

その通りに、雷神たちは荒れ寺にやってきた。
しかし、狂四郎ももう、いなかった。
「逃がしたか…」。

お蘭はふらふらになりながら、道を急ぐ。
その先に狂四郎を見つけたお蘭は「だんな!」と叫ぶ。
「お蘭、無事だったか」。

「旦那、逃げて!逃げてください。相手は江戸で鳴らした、神道無念流の使い手なんです」。
「相手を知っておるのか」。
お蘭はハッと、息を呑む。
「お蘭」。

お蘭は、うつむいた。
「今は何も聞かないでください。後生です、逃げてください」。
お蘭は狂四郎に、頭を下げる。

だが狂四郎は逃げない。
「自ら好んで阿修羅に生きるこの俺に、その言葉は無用だ」。
「お蘭、無理をするな。お前は自分の生きたいように生きればいい」。
「生きたいように…」。

そう言うと、狂四郎は歩いていく。
お蘭はその背中を見送る。
「旦那…。生きたいようにって、あたしが生きたい道は…」。
お蘭が涙ぐむ。

雷神が新九郎をつれて、狂四郎の襲撃に向かう。
暗闇の中、表に出た新九郎は、少し離れた木陰から自分を見つめるお蘭を見る。
「お蘭どの」。
新九郎が、お蘭に近づく。

「どうした?」
お蘭の唇が震える。
「案内します…。そこで…。決着を…」。

「あなたたちが今行こうとしたところには、もういないんです。ほんとに恨みっこなしです。どちらかが…、そしたら、私…。自分がはっきりするんです」。
「わかった。案内してくれ」。
お蘭が先に立ち、川べりの道を新九郎と歩く。

小川の流れが、背後に見える。
水面が光る。
お蘭が口をきく。

「私、娘の頃、あなたの花嫁になることばかり考えていました。ほんとに…身も心も綺麗なままで…。あなたにどうしたら、気に入られるかって…。男と女がこんな風にして出会うなんて。やっぱり会わないほうが良かったんです…。会わないほうが…」。
お蘭が、新九郎を振り返る。
目には涙が浮かんでいる。

お蘭を見つめる新九郎の目も、悲しそうだった。
新九郎の視線が、下がっていく。
お蘭の手には、小刀が握られていた。

突然、お蘭が新九郎の懐に飛び込む。
持っていた小刀が、新九郎の胸、深くに突き刺さる。
まったく抵抗せず、お蘭と、お蘭の刃を受け止めた新九郎。

お蘭が、驚いて見つめる。
「どうして…」。
「いいんだ」。
新九郎が、かすかに微笑む。

「これでいいんだよ…。どうせならお前に…」。
新九郎は倒れる。
2人の頭上の木の、花が散っている。
風が吹く。

その頃、旅籠にいた狂四郎の座敷に爆薬が投げ込まれる。
たちまち、座敷は炎に包まれた。
障子を破り、狂四郎は二階から地上に飛び降りた。

体を回転させ、狂四郎は脱出する。
旅籠が炎上する。
次々やってくる雷神衆。
狂四郎も、次々雷神衆を斬る。

雷神衆は、爆薬を投げてくる。
狂四郎は雷神の一人を盾にして、爆薬を防ぐ。
楯にされた雷神の背中で、火が燃える。

両側から、樽が転がってくる。
しかし狂四郎はヒラリと飛び上がると、樽は衝突して止まる。
狂四郎は、最後の2人を斬る。

今度は、鮫島が現れる。
刀を抜いて、構える。
正宗を持つ狂四郎の手が、頭上に上がる。

すらりと頭上に上げた正宗の切っ先を、今度はピタリとを地面に向ける。
刀の先が、キラリと光る。
徐々に刀が弧を描いて、上に上がっていく、。
狂四郎の周りを、刀の光が彩っていく。

その時、雷神の頭領の加東次と、最後の一人が襲って来る。
しかし狂四郎は2人を交わし、斬る。
斬りこんで来た鮫島も斬る。
鮫島が倒れ、狂四郎は刀を納める。

翌朝。
峠の茶店には、お蘭と狂四郎がいた。
「行くか。お蘭」。
「はい、江戸へ立ち戻ります。こうやって一度けじめをつけないと」。

狂四郎が自分が飲んでいた杯を、お蘭に渡す。
徳利を傾ける。
お蘭が狂四郎に、酒を注いでもらう。

酒が注ぎ終わると、お蘭がお辞儀をする。
ふと、狂四郎が立ち上がる。
傍らの萩の花を摘む。
そして、お蘭の持つ杯に浮かべてやる。

「旦那…」。
お蘭がうっすらと微笑む。
もうひとつの杯に狂四郎も、萩の花を浮かべ、飲み干す。
お蘭が杯を飲み干し、微笑む。

街道を行く狂四郎を、お蘭が見送る。
「縁が深くなりますように…」。
そっと、お蘭がつぶやく。

狂四郎の後姿を見送っていたお蘭は、江戸へ向かう。
2人は、背中合わせに離れていく。
ススキの穂が、日差しを浴びて、光って揺れていた。


松尾嘉代さん演じる密偵・お蘭。
綺麗だなあとは思っていましたが、今回のお蘭は本当に美しい。
狂四郎の杯に花を浮かべて、「縁が深くなるんですって」と言う。
「この俺と縁が深くなれば、地獄まで道連れになるぞ」。

いつも狂四郎と関わる女性は、死んでいくから。
巻き添えで、死ぬ人間も多い。
それを知っているお蘭は、「地の果てまでだって…」と答える。
お蘭の目が熱く、艶っぽい。

しかし、狂四郎は杯の酒を飲まない。
お蘭を死なせてしまうことになるかもしれないから。
「これ以上、死神を喜ばすこともあるまい」と、杯を置く。
物騒な会話の、でもとても美しいシーン。

そして狂四郎が最初に出会った、すさみきった浪人。
これがお蘭の元・許婚だった。
演じるは、ウルトラセブンこと、森次晃嗣さん。

本当は腕が立つのに、博打で負けたからと言いなりに縛られていたらしい。
狂四郎は武士とはもう言えないと言ったけど、こういう律儀さはやっぱり、ならず者ではなくて、武士らしい。
金のためなら何でもやると言いながら、あんまり凶悪さは感じない。

襲ってくるヤクザに向かって、これは俺のケンカだと言って、金八を逃がすのも武士らしい。
恩に着るよ!と言って逃げる金八もおかしい。
卑怯なヤクザに向かって金八の「のみ、しらみ!」も、おかしい。
アドリブかと思ってしまう。

さて、助けてもらった礼に金八は新九郎を誘う。
勝った金で金八は遊ぶが、新九郎は遊ばない。
一人でいて、昔、女が教えてくれたと言って、花を浮かべて酒を飲む。

ここでわかる。
あ、お蘭の元恋人だって。
しかも、お蘭のことをこの人はまだ好きだ、って。

賭場で勝った金を追って来たヤクザから金八を守って、新九郎と金八は関わりあう。
そして新九郎は、狂四郎とも関わってる。
さらに鮫島がスカウトに来たことで、狂四郎と命のやり取りをすることになる…、はずだった。

この鮫島に向かって新九郎、「金に困ってないか、見りゃわかるだろ!」と投げやりな答えをする。
すると小判を放り投げる鮫島。
仕官ではないというところが、傲慢。

金のためなら何でもやると言っておきながら、新九郎は落ちるところまで落ちた自分が嫌だと思っている。
それでも金を拾う自分が、嫌だ。
この人は正義感の強い、立派な武士だったんだとわかる。
だからこそ、今の境遇がものすごくつらいだろうと思う。

使者が殺されたことでお蘭は捕らえられ、新九郎と再び会うことになる。
新九郎は、お蘭のピンチを救い、そして今のお蘭の狂四郎への思いを察する。
金で請け負った殺しだったが、新九郎にとって狂四郎との勝負はそれ以上のものになった。

もし、狂四郎を殺したら、一緒になってくれ!と叫ぶ新九郎。
お蘭が一緒になってくれるなら、この暮らしから立ち直ってみせる。
そう思っているように聞こえる。

どちらが死ぬのも嫌だ。
ならば自分を連れ去ってくれて、かまわない。
お蘭の表情が、美しく、切ない。
狂四郎と新九郎はお互いそれと走らずにお蘭をめぐって、そして金で命のやり取りもすることになった。

そこでお蘭は狂四郎に会う。
一見冷たく、突き放しているような狂四郎。
しかし狂四郎はお蘭に、「好きなように生きろ」と言う。

お蘭の好きなように生きろ。
無理をするなと。
そんなことを言ってくれる男は、おそらくいなかったに違いない。

ここでお蘭の心は、ピタリと決まったんだと思う。
殺したら自分のところに来てくれと言った新九郎と、好きなように生きろと言った狂四郎の違いをお蘭は感じたんだと思う。
今の自分がついていくのは、狂四郎だ。
自分で自分の過去にけじめをつけよう、と決心した。

この時のお蘭の悲しそうな、美しい表情。
松尾さんがとても綺麗。
新九郎もまた、お蘭が自分を刺すのを、無抵抗で受け入れる。
驚くお蘭。

どうせ落ちてしまった自分はいずれ、ろくでもない殺され方をするだろう。
ならば、お蘭の手にかかって死にたい。
武士として、男として、新九郎はやはり立派であったのだ。

森次さんの悲しい、そして深い愛を感じる表情。
お蘭と新九郎は、どこか似ていたのかもしれない。
平和な生活であったら、良い夫婦だっただろう…。

今回、奇妙な縁で狂四郎と、新九郎と、お蘭と、金八は全員顔見知りになっている。
しかし結局、狂四郎と新九郎はその後、顔をあわすことはなかった。
最後まで、相手の素性がわかっているのは、お蘭と新九郎だけ。

他は誰も自分とどういう縁があったのかは知らないまま、永遠に別れている。
もう、永遠に誰も、知ることはない。
ここがすごく切ない。
運命と言うか、人の縁って何だろうって思わせる。

最後に、杯を拒否した狂四郎が自らお蘭に教えられたように、花を浮かべて杯を飲み干す。
去っていく狂四郎の背中を見つめるお蘭に、後悔はない。
右と左に分かれながら、お蘭がつぶやく。

縁が深くなりますように…。
光るススキの穂と、お蘭と、萩の花と、狂四郎。
美しく、切ないラストシーン。


プロフィール

ちゃーすけ

Author:ちゃーすけ
癖の強い俳優さんや悪役さん大好き。
俳優さん、ドラマ、映画、CMその他、懐かしいもの、気になるものについて、長々と語っております。

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