果し合い

今やベテラン中のベテラン、名優・仲代達也さんは「七人の侍」にエキストラで出演。
百姓が侍をスカウトしに町に出た時に、彼らの目の前を通過する侍の一人だった。
その時、黒澤監督は仲代さんの歩き方にNGを出した。

刀の重みがないと言って。
何度も何度も。
撮影は朝の9時から、昼の3時までかかった。
三船さん以下、出演者もスタッフも、仲代さんができるのを待っている。

文句も聞こえてくる。
着物は初めて、時代劇は初めて。
ああ、俺は時代劇に向いてないと仲代さんは思った。

何で俺を、交替させないんだ。
エキストラなんて、他にもいるだろう。
できる人と替えれば良いのに。
そう思った。

しかしその後、「用心棒」の卯之助役が来た。
仲代さんは、この経験があるから断った。
「世界の黒澤監督に、ですよ。若いですよね」と仲代さんは言う。

仲代さんに断られた黒澤監督は「ホンがおもしろくないか?」と聞いた。
だから仲代さんは「七人の侍」の時の話をした。
すると監督は言った。
「覚えてるよ。だから君を使うんだ」。

…すごいですね。
厳しくも、育ててますね。
本人の為になってます。
以下、仲代さんの話です。

時代劇をやって、わかった。
役者は歩き方が大事だ。
時代劇には時代劇の歩き方がある。
侍の、ヤクザの、百姓の歩き方がある。

侍は、ぼんやり歩いていたら斬られるかもしれない。
だから侍は、ブラブラ歩いたりしない。
ブラブラしているけど、ブラブラ歩いてはいない。

でも今、テレビの時代劇を見ると、侍がブラブラ歩いていたりする。
こういうことを教える人がいなくなったんだなあ、と思う。
だから無名塾では、歩き方を教える。
役によって、歩き方を変えることを教える。

週の半分は、着物を着て過ごせと教える。
「椿三十郎」で、若手だった加山雄三さんや田中邦衛さんに、黒澤監督は着物を着て暮らすことを命じた。
するとみんな、所作ができるようになった。
こういうこと、できるかできないかわからないが、自分は教えておこう、残しておこうと思う。

そして、俳優は声だ。
昔はマイクの性能が悪かったから、声を出すのは俳優の基本だった。
声がちゃんと出ることは、俳優の素質だった。

でも今は、性能が良いから、ちゃんとセリフを拾ってくれる。
逆にできない人が多くなった。
そしてできなくても、現場の人は何も言わなくなった。
スタッフは、自分の担当の一本さえ失敗しなければ良いやというシステムになってしまった。

例えば自分で言うと、映画「切腹」では自分の一番低い声を使ってやっている。
29歳の自分が、孫もいる役。
唯一、戦国時代に生き、実戦を知っている役。

だからそういう声で演じないと、そうは見えない。
地声でやれば日常のリアリティはでるだろうけど、それは「扮する」「演じる」とは違う。
「虚」と「実」を混ぜるから、俳優がプロとして成り立つ。

「実」だけ、日常の、自分と同じ日常のリアリズムだけを見るなら、お客は金なんか払わないだろう。
自分の日常で良い。
自然体は演技の基本だけど、プロならそこからさらに作り上げなくてはいけない。

時代劇が、かつらをがぶって着物を着た現代人の「時代劇ごっこ」になってはいけない。
昔、時代劇は演技力がないとできない。
そう言っているのを聞きましたが、そういうことなんですね。

でも今はもう、そういう俳優がいない。
作らせる監督もいない。
すべてが、変わってしまったから、作れないことを俳優だけのせいにして、俳優を責めても仕方がないということだそうです。
あの「必殺」だってメチャクチャみたいだけど、仕業人の刀の見方とか、きちんとしてるところはすごいんですよね。

仲代さんは、こういうことを伝えるだけは、伝えておこうと思うと言います。
時代劇はどうなっていくのか。
若い人の手で続いていくとは思うけど、凝った作り方ができるのか。
それは難しいことではないか。

危惧している仲代さん。
その仲代さんの時代劇主演作「果し合い」が放送予定。
仲代さんの役の作り込みが見られる。
楽しみです。


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成層圏のローレライ

柴田昌弘さんが少女マンガ雑誌に描いた「成層圏のローレライ」。
名前忘れたので登場人物は適当に名づけました、すみません。
手元にマンガもないし、何となく覚えているような名前です。
ごめんなさい。


飛行機の墜落事故が発生し、ボイスレコーダーが回収された。
ボイスレコーダーの記録には、機長はじめ乗務員の笑い声が残っていた。
乗務員全員が発狂した…?

客室乗務員の紀子は、持病のため気圧の変化により気を失ってしまう。
症状は隠しおおせるものではなくなっており、親友はフライトを交代してくれる代わりに仕事を辞めるよう進言していた。
だがその親友が乗った機が、今度の事故にあった。

同僚達は紀子に「今度フライトを代わる時は言ってちょうだい。私もやめるから」などと悪意のある言葉を浴びせた。
パイロットの航一は、紀子をかばう。
紀子は事故でなくなった恋人の代わりに、空を飛ぶ夢を持っていたのだった。
その夢を、今度のフライトで終わらせる。

決心して乗った最後のフライトに、ある双子の兄弟の1人も乗っていた。
この双子は兄は眼が良く見えない。
弟は耳が聞こえない。
2人はテレパシーにより、互いの見えない目、聞こえない耳を補える能力を持っていた。

フライトの最中、紀子はやはり、突然気を失ってしまった。
その時、大空の禁断の一角に、飛行機は進入するところだった。
機内に、ゴーという音が響く。
そしていきなり、オペラを歌うような女性の歌声が鳴り響く。

「聞くなっ!この声を聞いてはいけない!」
機長は叫んだが、すでに遅かった。
乗客乗員、この女性の歌声を聞いた者は精神のバランスを失い、大声で笑うと失神した。

紀子が目覚めた時、乗客も乗員もすべて、失神している。
このままでは、この前の飛行機と同じ、墜落する。
愕然とする紀子の前に、双子の弟が現れた。
彼もまた、歌声を聞かずに済んでいたのだ。

地上で弟の手術の成功を祈っていた兄は、弟の異変に気づいた。
紀子は双子の力を借り、地上の航一の指導に従って、飛行機を着陸させることに全力を注ぐ。
乗客の命を危険にさらす恐怖に耐えられないと言う紀子に、航一は好きだ、生還してほしいと訴える。
無謀な試みは成功し、飛行機は生還する。

…と、まあ、突っ込みどころはあるマンガですが、当時は最後まで一気に読みました。
この無謀な試みは成功し、全員無事に生還します。
その歌声を聴くと、船は難破するというローレライの歌声にちなんで、この空域は「ローレライ」と名づけられる。
「大空にはまだ、人間が踏み込むことを許さない、禁断の空域がある」というラスト。


この話には続編がありまして、航一が滞在先であるジプシーの占い師に言われます。
「大勢の人間が死ぬ。赤い子猫が死を呼ぶ。あんたが死を運ぶ」と。
だが航一は、今週の占いで自分はついていると出ていると言って、取り合わない。

友人で客室乗務員のフューリーという女性が航一に思いつめたように、相談があると言う。
その頃、滞在している客室乗務員達が次々、誘拐されていた。
一方、航一と約束の時間にフューリーは現れなかった。
航一は副操縦士としてフューリーとフライトに出る前に、話は何かと聞くがそれはもう解決したと言われた。

誘拐されたはずの乗務員達も、全員揃っていた。
航一はふと、気になる。
赤い子猫が死を呼ぶ。
フューリーの髪は、赤い…。

その頃、運河にはフューリーの全裸死体が、身元不明者として浮かんでいた。
フライトに出てしばらく。
この機の客室乗務員のあまりの態度の悪さに、乗客が文句を言い始めた。

パーサーがたしなめようとすると、客室乗務員達は全員、ピストルを向けてきた。
客室乗務員がハイジャック?!
「私たちは赤い子猫」。
フューリーは日本政府の代表者を出せと言う。

この機には原爆が積んである。
2千億円用意しないと、原爆を日本の上空で爆発させる。
とんでもないことになったが、10人を全員、一気に取り押さえるのは無理だ。
下手をすれば、原爆のスイッチが入ってしまう。

その時、航一が言う。
前方に乱気流。
航路をそれます。

機長に、航一が告げた変更先。
それはあの、ローレライの空域だった。
機長と航一は、言い争いを始めた。

腰抜け機長。
ひょっこが!
その言葉に機長は航一を殴り飛ばし、航一は気絶した。

だがフューリーは機長の様子がおかしいと思い始める。
「何をジグザグに飛んでいるの?!」
「航路を元に戻しなさい!」

その時だった。
ゴーという音が,機内に響いた。
そして、オペラを歌うような女性の歌声。

「なっ、何、この声は?!」
女性の歌声が機内に鳴り響いた。
ハイジャックしていた乗務員は全員、気が狂ったように笑い、そして失神した…。

目覚めた航一は、「ありがとう、ローレライ!」と叫ぶ。
だがなぜか、原爆のスイッチは入ってしまっていた。
「どこにいる、赤い子猫!お前の計画はもう、失敗した!」
しかし誰も応えない。

日本政府は航一に、このまま日本の領域に入らせるわけにはいかないと伝えた。
もし、このまま入ることになれば、撃墜するしかない。
しかし自衛隊の爆弾処理班が、機に向かっていた。
タイムリミットは2時間。

だが決死隊が到着するには、2時間を切ってしまっていた。
帰るように命令されるが、処理班は「今さら戻れるか!」と計画を決行。
原爆のタイムリミットを示す時計は、3分を残し、沈黙した。

正気に戻ったフューリーたち、客室乗務員。
彼女達はみんな、誘拐された時、催眠をかけられていた。
原爆には時限装置が設置されており、いずれにしても爆発することになっていた。
さらにそこからは電波が出ており、客室乗務員達はそれに操られていたのだった。

「機械に操られていたのね、私…」。
航一にフューリーが言いたかったこと。
行方不明だった姉が突然、現れた。
「姉さん、私と同じ顔だったの」。

姉は何かの組織と関係ができ、客室乗務員の妹そっくりに顔を変えていた。
しかし姉とは連絡が取れなくなってしまった。
フューリーはそのことを航一に相談したかったのだ。

だが目的が大量殺人と知った姉は、妹に知らせようとしたらしい。
運河に浮いていたのは、姉の死体だったのだ。
このとんでもないテロを仕掛けた組織、および国家は判明しなかった。

紀子との婚約をフューリーに知らせた航一。
笑顔のフューリー。
航一は言った。
「結局、占いは全部当たったんだよ。俺はついていたのさ」。

祝福しながら、フューリーは思った。
一緒に、搭乗員を目指す学校にいた時から、変わらないのね、航一。
あなたが大好きだったわ。


こちらも突っ込みどころは満載なんでしょうが、おもしろかった。
ローレライがハイジャック犯を全員、気絶させるところなんて迫力。
話はこの後も展開がありますが、やっぱりここがクライマックスです。

ローレライとハイジャック、うまい展開だと思いますね。
「成層圏のローレライ」で、ローレライはたくさんの犠牲者を出す災いの源。
それが次の「赤い仔猫」では、人を助ける。

しかしローレライ自身はただ、そこに存在しているだけ。
人間が、ローレライの周りで動いているだけ。
そんな設定も含めて、優れたサスペンスだと思います。

今でもパニック映画としてできそう。
でも、飛行機については、安易なものは作れませんね。
30年以上前の作品。
もう一度、読みたいです。

とことん、川島なお美

正直、好きな女優さんではなかったんです。
タレントだった彼女は、女優となっていた。
しかし、女子大生タレントだった頃から、ずいぶん長い間、この浮き沈みの激しい芸能界で生き残っている。

流行りとか、世の中の動きに敏感で、そういうのに乗るのがうまい人だと思ってました。
また、そういうところがあざとい感じで、正直、そんなに知的だとも思っていなかった。
でも確かに、調子が良いだけで生き残れるほど、彼女のいる世界は甘くない。
考えてみたら、そんな人で、いつの間にか消えていた人が多い。

そして、実際に彼女に会ったという人を今まで何人か知っていますが、彼女を悪く言わないんですね。
彼女と会った人の話を聞いても、私の彼女の印象はあまり変わらなかった。
でもある人の話を聞いて、その気さくさと気転の良さに笑ってしまった。
この話で世間に作っている彼女のイメージと、実際の彼女は全然違う人なんじゃないかと思いました。

そして、結婚。
旦那さんになった方が、病気。
すると彼女が、旦那さんを支える、支える。

中村敦夫さんの言葉が蘇る。
女優は綺麗だけど、中身は男だ。
それを地で行っているようだった。
彼女の名前は、川島なお美さん。

その彼女が、胆管がんと知りました。
衝撃でした。
今まで、いるのが当たり前のような人が、大きな病気になる。
それは自分にとっても、時間の流れと現実を感じさせるものだった。

病気を宣告された川島さんは、どれほど不安だろう。
どれほど、つらいか。
治療だって、どれだけつらいか。

気になって、今年の夏、「どうしてるんだろうね?」と会社の隣の席の人に聞いてみました。
大丈夫だといいね、と。
今月の7日、マスコミの前に出てきた川島さんを見て、驚きました。

痩せている。
すごく、痩せた。
でも目に光があるし、声もしっかりしている。

そして、綺麗。
自分が作った川島なお美のイメージを崩さないようにしている。
それはもう、並大抵の気力ではない。

強い人だと思いました。
気が強い人とは思っていましたが、すごくメンタル強い。
貫いている、と思いました。
この人はとことん、川島なお美であろうとしている。

人間、ギリギリのところに立つと、その人の本質が出ると言う。
カッコいいなあ。
がんばって、生き抜いて欲しい。
そう思っていました。

かわいそうなんて、言ったら失礼だと思わせる人。
川島さんは自分の人生を自分で作って、それを生きて、成功した。
幸せな人だと思う。

でも、このまま年取っていって、それでも綺麗でいて、「この人、年取らないねえ~」
「がんばってるね!」
「何してるんだろ?」って話題にしたかったですよ。
笑顔でいるって、すごい気力と体力だったと思います。

つらくなかったですか。
闘いましたね。
がんばりましたね。

かわいがっていたワンちゃんと会えたと思う。
ゆっくり休んでください。
でも、すごく悲しいですよ…。

川島さんがいなくなって悲しいと思う人間がいる。
とことん、川島なお美でした。
川島さんは、良い人生送りました。
ご冥福をお祈りします。


どなたか上まで上げてください 「男たちの旅路 車輪の一歩」(2/2)

敏夫は尾崎のアパートで、尾崎たちと車椅子の5人を前に吉岡の話をした。
「俺達は、普通の人とはやっぱり違う人生を歩いてるとは思うんだ。吉岡さん良いこと言ってくれたよ」と重雄が言う。
「どういうこと?」

「だからさ、人に迷惑をかけることを怖がっちゃダメだって言うんだ。怖がってたら、部屋に閉じこもっているしかない。決心して迷惑かけても良いんだって」。
だが一郎は「どうなると思う」と言った。
「遠慮してても、俺達は迷惑な存在なんだ。それが遠慮しなくなったら、世間は何と言う。人の世話になっているくせに、何を思いあがってるって、叩いてくるに決まってるんだ。そういう時の世間はイジワルだぞ。かろうじて俺達が同情されているのは、俺達が遠慮しているからなんだよ」。

敏夫が言った。
「じゃあ今のままで良いと言うのか。遠慮して、おずおずして歩ける人間に恨みを持って、この2人にとりついたように、惨めに恨みを晴らして。隅で目をギラギラさせていればいいのか!」
重雄も言う。
「僕はあの人は良いことを言ってくれたと思うな」。
「じゃあ、やってみればいいさ。外に出てって俺を大事にしろ、俺を重んじろとわめいてみるといいんだ」。

「そんなことを言ってるんじゃないよ」。
「人に迷惑をかけるなと言うルールが、僕達を縛っているのは事実なんだ。僕達はそれを疑っても良いんじゃないか。そう言ってくれたんじゃないかな。疑っても良いはずだと思うよ」。
「疑うのは良いよ。でもそれは健康な人間の言い草だよ」。
「健康な人間の話をしてるんじゃない。俺たちはもともと、人に迷惑をかけているんだよ」。

吉岡に、尾崎が言う。
「どうしてあいつら、まじめなんでしょうね。あんなハンディ抱えてていろんな目にあって」。
「どうしてグレないのか、不思議だよな」。

「ほんとね」と妹の信子も言う。
吉岡は言った。
「グレてる暇がないのさ」。

尾崎がハッとする。
「車椅子の人間がグレて、1人で生きていけるか。そんなゆとりはないんだ」。
「ほんとね。そうなのね」。

鮫島は、良子に会いに行く。
追い返そうとする、向かいの主婦は尾崎がうまく抑えた。
部屋に入った鮫島は良子に言う。

なぜ、重雄たちが良子を誘うのか。
「君を励ますことで、自分達も励まされたい。そういう気持ちがあると思うんだな」。
「そういう付き合いを、大切にしたほうが良いと思うんだ。ここで1人でいるほうが良いなんて、そんなはずないじゃないか」。

吉岡は、良子と良子の母親に会いに行った。
「娘を部屋に閉じ込めておいて、幸せになれるのかってそう言ってるの、わかりますよ」。
良子の母親はそう言った。

「いいえ、親御さんの気持ちとしては」。
「わかるんですか。親の気持ちがわかるんですか。こういう子供を持った親の気持ちなんて、わかるわけありませんよ」。
「外へ出さなきゃいけないって、そんなこと、今まで何度も思いました」。

「小学3年の時から車椅子を使うようになって、一人で外に出せば必ず泣いて帰ってきました。鬼じゃないかって思う人、いっぱいいましたよ」。
「縁日に連れて行けば、どうしてこんな人ごみに車椅子で連れてくるんだって。映画を見せてやろうとすれば、もっと評判の悪い、すいた時に来いとか」。
「中学に入れるんだって、どれだけ学校から嫌味を言われたか、わかりませんよ」。

「私に言わせれば、世間は思いやりがなさ過ぎですよ。世間をもう、信用していないんです。もう私一人でこの子を背負って生きて行こうって。そういう決心をさせたのは世間なんですよ。一生、この子のためだけに、生きてくつもりなんです。ほっといてくださいよ」。
「あなたはよく、わかっていらっしゃる」と吉岡は言った。
「何をですか」。

「お嬢さんを外に出さなきゃいけないって」。
「そんなこと言ってないでしょう!」
「お嬢さんはあなたと一緒に死ぬわけじゃない」。

その時、良子が「死ぬわ」と言った。
「一緒に死ぬわ」。
「お母さんは、そんなこと望んじゃいない」。

「お母さんの一生、めちゃめちゃにしたの私ですもの」。
「良子」。
「お父さんが逃げ出したのは、私がこんなだからだもの」。

「お母さんはそんなこと、思っちゃいない」。
「思ってるわ!」
「思っちゃいないっ!」

「お母さんは君が強くなることを願っている。一人でどこにでも行ける、強い人間になることを願っている」。
母親が言う。
「そうじゃないって言ったでしょう!」

吉岡は言う。
「かわいいからだよ」。
「かわいいから、君を傷つけるのが怖いんだ」。
「…」。

「良子は脊髄なんですよ」と、母親は言った。
「わかりますか。車椅子と言えばあなた方は、つまりは足が不自由だろう、ぐらいにしか思わないけど、一人一人いろいろなんですよ」。
「誰かが外に出たから、それは勇気があるとか、外に出ないから勇気がないとか、十把一絡な言い方してもらいたくないんです。ただ足が不自由なのと、良子みたいに他のことがある子とじゃ、そりゃあもう全然違うんです」。

「確かにそうでしょうが、お嬢さんは部屋から一歩も自分では出られないほどでしょうか」。
「あなた知らないから、そんなこと言うんですよ」。
「君は自分ではどう思うの?」

吉岡は良子に向かって聞いた。
「外へ出ようと言う私は、話にならない無理を言っているか」。
「母をありがたいと思っているわ。逆らいたくないわ」。

「逆らえと言ってはいない。自分で判断しなくてはいけないと言っているんだ」。
「君はお母さんの言うなりになって、言うなりになっていればきっといつか、お母さんを恨むようになる」。
「さあ、みんな、君を待っている。一緒に強くなろうと言っている。そこへ行くか行かないか、自分で決めなければいけないと言っているんだ」。

「自分の一生じゃないか」。
「わかりゃしないわよ。親の気持ちなんて。誰にもわかりゃしないわよ」。
母親は、そう言うと、涙ぐんだ。

良子は、外に出た。
商店街を車椅子で進む。
その先は駅だ。
駅の前には、階段があった。

母親も吉岡も影から見守っている。
良子は進む。
階段の前、良子は「誰か…」と言う。

「誰か。あたしを上まで上げてください」。
「どなたか、あたしを上まで上げてください」。
「どなたか。あたしを上まで上げてください」。
「どなたか、あたしを上まで上げてください」。

数人が気が付いて、やってくる。
上まで、車椅子を抱えてあげてくれる。
車輪の、一歩だった。



経験していない人に、経験した人の気持ちは、わからない。
病気やケガをして、自分も不自由や痛みを実感して、初めて理解する。
自分の痛みを通して、人の痛みを思いやること。
これが大人になるということだった。

歩ける人に、歩けない人の大変さはわからない。
でも理解していなくても、思いやることはできる。
経験していなくても、人の痛みを理解しようとする気持ちがある。

それをできるのが、人間だということだった。
今の自分にこれができているとは言えないけど、山田太一のこのドラマは、まさにそういうことを言っていると思いました。
このドラマを見ると見ないのとでは、全然違う。
そして80年代になる前に、このドラマを作っているということに、驚きを感じます。

80年代に、ヨーロッパに行ったことがある。
その時、車椅子の人が、当たり前に街に出ていることに驚いた。
驚いたということは、日本ではあまり見たことがなかったからだと思う。
頭が緑色やピンクのパンクのお兄ちゃんが駅で、トゲトゲのついたリストバンドをした手で、ごく自然に車椅子を押していた。

車椅子の人が、ライブハウスにいるなんて当たり前。
パブにもいて、当たり前。
普通の人だから。

この普通が、まだ、当時の日本にはなかった。
いやいや、今もあるだろうか。
「普通の人」という感覚が。

「車輪の一歩」に描かれているように、女性と付き合いたい。
ピンク映画を見たいという、普通の人であるということ。
そして、歩ける人に悪意を持つこともあること。
つまりは、普通の感情は全て持っている人間であるということ。

そんなことを描くということがすごい。
「俺たちは天使じゃない」。
だからこそ、吉岡や鮫島や尾崎兄妹と彼らは、わかり合う。
これを見ると、24時間チャリティーのテレビではわからないものが見えて来る気がする。

現在は、駅や公共機関ではスロープが、エレベーターがある。
バリアフリーされていないなんて「遅れてる」。
「意識が低い」。
そんな印象。

今やそれは障害を持つ方ばかりではなく、高齢者や小さい子どもを連れた人のためでもある。
しかし、自分は本当に相手の立場を、理解しているのか。
日本は、高齢化社会となる。

自分も年齢を重ねて行く。
いつかは自分も、人の世話になる日が来ること。
その時、自分は何を思うのか。
彼らの気持ちが、わかるのか。

この「車輪の一歩」を見ると、考えざるを得なくなります。
「シルバーシート」で投げ掛けられた言葉が、重なる。
あの時、人の心を揺さぶることができなかった吉岡の言葉が、今度は良子に一歩を踏み出させる。
このドラマを見ると見ないのとでは、ものの見方が全然違ってしまう。

古尾谷さんも、京本さんもさすが、光っている。
中でも繁雄の斉藤洋介さんが良い。
切ない。
良子の母親の赤木春恵さんも泣けます。

清水健太郎氏が、素朴な青年を自然に演じています。
とても良い味を出しています。
時の流れを感じます…。

恨みを人にぶつけると自分が傷つく「男たちの旅路 車輪の一歩」(1/2)

鶴田浩二が、吉岡主任警備員を演じる「男たちの旅路」。
前シリーズから引き続き、部下の鮫島は柴俊夫さん。
新しいレギュラーの尾崎兄妹が、清水健太郎さんと岸本加代子さん。

百貨店の前に車椅子に乗った青年が6人、いる。
女性のほうが角が立たないからといわれ、女性警備員の尾崎信子が言う。
邪魔だからどいてくれ、と。

言われた青年の1人が言い返す。
あっちには10人いますね。
信子は、こんな入り口にいたら誰だってどいてくれと言わざるを得ないと言わざるを得ない。

人の迷惑になることはしないっていうのが、常識があるわけよね。
じゃあ、あんた、外に連れてってくださいと青年は言う。
自分で行けるでしょう。
行きたくないんです。

そういうこと言っちゃ、いけないんじゃないかしら。
こんなところに6台もいれば、どいてくれっていうのが当たり前でしょう。
そんなこと言ってたら、同情する気持ちだってなくしちゃうんじゃないですか?

青年達の無言。
いいですか、あたし、車椅子の人に偏見なんて全然ないんですよ。
でもいくら車椅子の人だからって、人に迷惑をかけて良いなんてこと、ないんじゃないですか。

「男たちの旅路」最終シーズンの最終話。
「車輪の一歩」。
何と言うオープニング。
そして車椅子の青年達を演じている俳優の顔ぶれに、あっと言う。

古尾谷雅人が浦野一郎。
京本政樹が藤田重雄。
斎藤洋介が川島敏夫。
車椅子の少女、前原良子が斎藤とも子。

彼らは自分達を注意しに来た小島信子とその兄、尾島清二につきまとうようになる。
それがきっかけになり、彼らと吉岡たちは交流を持つことになる。
重雄はいつも1人で家に閉じこもっている良子を、外に連れ出そうと必死になる。
だが良子の母親は、娘のことは放って置いてほしいと言う。

「悪いけどみんな車椅子じゃないの。そんなのが4人で外に出てどこへ行けるって言うの」と良子の母親は言う。
「どこへだっていけますよ」と繁雄は言う。
「どうやって?タクシーが乗せてくれる?一人で階段登れるの?切符は自分で買えるんですか?」
「周りの人に頼みます。切符は駅の人に頼みます!」

「娘はねえ、階段をあげてもらいたかったら、3日前に予約しろって言われたのよ。国電に乗るなら3日前に予約しろって言われたのよ」。
「良い人も居ます。そんな人ばかりじゃありません」。
「どっちにしたって、頭を下げなきゃならないでしょう」。

「1人で外に出れば1、2段の階段を上がるんだって、誰かに助けてもらわなきゃならない。ぺこぺこ、ぺこぺこ頭を下げて、お礼を言って迷惑がられて」。
「あたし、自分の娘をそんな目にあわせたくないのよ!あたしが生きている間は、あの子を厄介者にしたくないのよ」。
「それで娘さん、幸せですか」。
「幸せなわけないでしょう!」

「だったら」。
「外に出れば良いことある?娘は骨身にしみてるのよ。もう、何度も何度も嫌な思いをしているのよ」。
「外に出て良いことないって、懲りてるのよ。気持ちはわかるけど、ほっておいてちょうだい。帰ってちょうだい」。

それでも、重雄は良子を誘いに来る。
仲間がいる。
それなら子供が笑っても、大丈夫だと。

信子を誘いに、這ってやってきた一郎や敏夫の熱意で、良子は外に出た。
公園でキャッチボールをして遊んだ。
その帰り、踏切を渡った時だった。

良子の車椅子の車輪が線路に、はまり込んでしまう。
身動きが取れない。
遮断機が下りる。
電車が近づいてくる。

6人も男がいて、誰も助けられない。
通行人が気づいた。
車を運転していた人も、降りてくる。
危険を顧みず線路に入り、何とか助け出す。

6人もいて、1人を助けられない自分達が惨めだった。
帰り道、良子は失禁してしまっていた。
脊髄損傷の良子は、トイレを我慢できないことがある。

みんな、目をそむける。
良子は泣いた。
彼女が外に出たがらないのは、そういうこともあったのだ。

その話を聞いた尾島、鮫島、吉岡。
尾島は陽気に飲もうと言った。
吉岡は何か言おうとしたが、敏夫は聞きたくないと拒否した。

だがその翌日、敏夫は吉岡のアパートにやってきた。
敏夫は喫茶店でもと言うが、吉岡は彼を背負って自分の部屋に連れて行く。
「こうやって対等に喋ろうと思っても、すぐに世話になっちゃうんですよね」。
「対等に喋れば良い」。

「たとえば今、あなたとケンカして下に行くには、どうしたら良いですか」。
「飛び出すなんてわけにいかない。這って行くには、時間が掛かりすぎる。挙句にケンカしたあなたにおぶさっておりていくなんて、はめになるんですよ」。
「ケンカしに来たかい?」
「そうじゃないけど、時々世話になることがやりきれなくなりますよ」。

「(吉岡のアパートを)探しただろう、バス降りてからちょっとあるしな」。
「橋を渡ってきたんですよ」。
「まさか、乗せないってわけじゃ」。
「つきそいがないと、だめなんですよ」。

「そうか」。
「そういう規則が出来る前は、お客がみんなで乗せてくれたりしたけど、規則破ってまで乗せてやろうなんて人、いないからね」。
「そうか」。

「タクシーは断るからシャクだし、金もないしね」。
「今度から電話くれよ。迎えに行くよ」。
「(吉岡が)何を言おうとしたのか…、気になってね」。

「あの時は妙な説教されたらたまらないと思ったけど、家に帰ったら、あなたが何を言おうとしたのか気になってきたんですよ」。
「そうか」。
「あれきり…、ただ、ウダウダ生きているだけだから」。
「そうか」。

重雄は、鮫島に言っていた。
良子が自分に心を開かないのは、「車椅子の女は車椅子の男が嫌いなんだ」と。
「付き合う男ぐらい、健康な奴が良いと思ってるんだ」。

「あんたもそうかい?」
「僕はそうじゃない。車椅子の苦労を一番知ってるのは、やっぱり車椅子の人間だもんな」。
「丈夫な奴となんか付き合えば、裏切られるに決まってるんだ」。

吉岡と向かい合った敏夫は「なかなか言わないんですね」と言った。
「あの晩、言おうとしたことですよ。何でも言って欲しいな。割と俺達、言われないんですよね。みんな障害者(セリフ、ドラマのまま)だと思うと遠慮しちゃうんですよね」。
「言いにくい…、と言うより自信がない」と吉岡は言う。
「君達はいろんな目にあってきた。私達はそれを想像するだけだからね。見当はずれだったり甘かったりするかもしれない」。

「それでも良いんです。本気で言ってくれるんなら」。
「君達は丈夫で、歩き回れる尾島君と妹に取り付いて、迷惑をかけてやろうとした。車椅子の人間がどんな気持ちで生きているか、思い知らせてやろうとした」。
「それを良いとは言わない。でも、そんな風に恨みを人にぶつけると、結局は自分が傷つく」。
「だからと言って人に迷惑をかけるなと、聞いた風な説教は出来ない」。

「あの晩にはまだそれほど、考えが熟さなかった。今の私はむしろ、君達に迷惑をかけることを怖れるなと言いたい気がしている。それは私にも意外な結論だ」。
「人に迷惑をかけるなと言うルールを、私は疑ったことはなかった。多くの親は子供に最低の望みとして、人に迷惑だけはかけるなと言う」。
「のんだくれのなまけものが、俺はろくでもないことを一杯してきたが人様に迷惑だけはかけなかったと、自慢そうに言うのを聞いたことがある」。

「人に迷惑をかけないと言うのは、今の社会で一番疑われていないルールかもしれない」。
「しかしそれが、君達を縛っている。一歩外へ出れば、電車に乗るのも、少ない石段をあがるのも、誰かの世話にならなければいけない」。
「迷惑をかけまいとすれば、外へ出ることができなくなってしまう。だったら、迷惑をかけてもいいんじゃないのか」。

「もちろん嫌がらせの迷惑は、いかん。しかしギリギリの迷惑は、良いんじゃないか。いや、かけなればいけないんじゃないか」。
「君達は普通の人が守っているルールは、自分達も守ろうと言うかもしれないが、私はそうじゃないと思う」。
「君達が町へ出て、電車に乗ったり、階段を上ったり、映画館へ入ったり、そんなことを自由に出来ないルールはおかしいんだ」。
「いちいち後ろめたい気持ちになったりするのは、おかしい」。

「私はむしろ、堂々と胸を張って迷惑をかける決心をすべきだと思った」。
「そんなことが通用するでしょうか」。
「通用させるのさ!君達は特殊な条件をしょってるんだ。差別するなと怒るかもしれないが、足が不自由だと言うことは特別なことだ。特別な人生だ」。
「歩き回れる人間のルールを、同じように守ろうとするから、おかしい。守ろうとするから、歪む。そうじゃないだろうか」。

「もっと外をどんどんと歩いて、迷惑をかけて。そう、階段でちょっと手伝わされるとか、切符を買ってやるとか、そんなことを迷惑だと考える方がおかしい」。
「どんどん頼めば良いんだ。そうやって君達を街でのあちこちで、しょっちゅう見ていたら、並みの人間の応対の仕方も違ってくるんじゃないだろうか」。
「たまに会うだけだとみんな緊張して、親切にしすぎたり敬遠したりしてしまうが、君達をしょっちゅう見ていたら、もっと何気なく手伝うことが出来るんじゃないだろうか」。

「君達は、並の人間とは違う人生を歩いている。そこのところを、私たちも君達も、しっかり認め合うことが必要があるんじゃないか」。
「権利かなんかみたいに、どんどん人に頼めっていうこと?周りの人間をどんどん使えと言うこと?」
「もちろん節度は必要だ。しかし、世話になった、また世話になった。心を傷つけながら生きているより、世話になるのが当然なんだ。並みの人間がちょっと手伝ったりするのは当然なんだ。そう、世間に思わせてしまう必要があるんじゃないか」。

「世間がそんなに甘いとは思わないけど」。
「甘いとは、私も言ってはいない。抵抗は当然あるだろう。それでも、迷惑をかけることを怖れるな。胸を晴れ。そう言いたいんだ」。
「特別な人生?」

「一段下とか上とか言ってるんじゃあ、ないんだよ」。
「わかってます」。
「特別な人生には違いないだろう」。

「確かにね。俺達、普通の人生じゃないなって思うことありますよ」。
そう言うと、敏夫は自分の経験を語り始めた。
「俺、おふくろにこんなこと頼んだことがあるんですよ。今考えると、よくあんなこと頼めたもんだと思うけど、その時はすごく切羽詰った考えだったし」。

「俺は稼ぎが少なかったし。親父は厄介者の俺が嫌いだったし。おふくろに頼むしかなかったんですよね」。
母親が敏夫を、布団に寝かせていた。
隣の部屋で、父親が背を向けていた。
テレビがついていた。

「お母ちゃん。俺、いっぺんで良いからトルコ言ってみたいんだよ」。
「トルコって外国の」。
「そんなとこ、行きたがるわけないじゃないか」。
「じゃあ、あの…何かい」。

「決まってんだろう」。
「俺、女にもてっこないだろう。嫁さん、来ると思う?いっぺんでいいから、ああいうところでいいから、女の人と付き合ってみたいんだよ。一生女なんか縁ないかもしれないもんな」。
「どうなの?黙ってるんだね。俺だって金が有るなら、おかあちゃんにこんなこと頼みやしないよ」。

「いいよ」。
母親が言った。
「行っといで。いくらあったらいいんだい」。

「3万か、4万やっとけ!」
背中を向けていた父親が言った。
「いいか、ケチるんじゃないぞ。チップははずむんだぞ」。

「でもそんな金」。
「バカやろう。そのぐらいの金、俺だってどうにかすらい」と父親が言う。
「…どうにか、するわい」。

「翌日の晩、お袋が上から下まで新しいもの着せてくれて、金4万5千円持って出かけたんだけどね」。
繁華街を車椅子で行く敏夫。
「車椅子はどこもダメだって言うんだよ。どこへ行っても転んだりして、事故があったら責任がもてないって言うんだ」。

「結局うろうろしただけで、家に帰って来たんだけど、断られたなんて言いたくなくて」。
車椅子の敏夫の両側を、柄の悪い男が囲んだりしていた。
「おかえり」。
帰ってきた敏夫を、母親が迎えた。

「ただいま」。
「やだよ、この子ったらゲラゲラ笑って」。
「そりゃそうだよ。行ってよかったよ」。

「どうだった」と、父親も聞いた。
その途端、敏夫は「うわあああああ」と声を上げて泣いた。
「考えてみれば、こんなこと。普通の親子じゃないよね」。


愛に理屈はない! 「取調室 #7」(2/2)

8月17日。
取調室。
竜彦は、黙秘していた。

ついに竜彦の叔父が見つかった。
衣井刑事が見つけてきた。
竜彦の叔父は、海の家の臨時雇いだった。

「あんな疫病神いなくなって、せいせいしたよ」と叔父は言った。
はき捨てるようなその口調に、衣井のコンビの刑事は「なんてこと言うんだ。あんた叔父さんだろう」と言い返した。
しかし叔父は「何考えてるか、わからないガキでね。なまじ頭が良いから、始末が悪かった」と言った。

だが奇特な校長がいて、竜彦に目をかけた。
滝田秀治と言って、郷里が鳥栖だった。
しかし17年前、足を滑らせて崖から転落してなくなっている。
娘がいる。

水さんは娘に会いに行った。
日にちがなくなるのを、大河原刑事は気にしたが、黙秘を続ける竜彦の顔を見てすごしていても何にもならない。
竜彦は中学を卒業した後、採石場でアルバイトして独学していた。

校長の家に世話になっていた3年間を黙秘していることを聞いた滝田の娘は、「冗談じゃないわ。それじゃまるでうちが悪いみたいじゃないですか」と言った。
「お、思い出したくないのは、あたしのほうです」。
家族の洗濯物を干しながら、娘は唇を結んだ。

「何があったんです」。
「…」。
「滝田さん!」

竜彦には、女性の体を、特にお尻をじろじろ見る癖があった。
気持ちが悪かった娘は、そのことを父親に言いつけた。
父親は笑ってとりあわなかった。
だがある日、竜彦は娘を無理やり犯したのだ。

さすがに滝田もこれには怒り狂い、竜彦に向かって怒鳴った。
『お前なんか、この世から消えてなくなれ!』
この事件は、父親が亡くなる直前だった。
竜彦とは、もう関係がないと娘は言った。

採石場で、竜彦と働いていた男も見つかった。
男は竜彦を、変わった男だったと言った。
朝から晩まで真っ黒になって働いた。
つらい仕事だったが、竜彦は今が一番良いと言っていた。

その時、竜彦は東京から来ていたかわいい娘と付き合っていた。
しかし娘は、夏休みが終わると帰ってしまった。
竜彦がふっといなくなったのは、そのすぐ後だった。
「東京から来ていたかわいい娘?」

「水さん、それ、もしかして…」。
「小月綾乃をもう一度、調べる必要がある」。
そして滝田校長の事故死も…。
「水木さん、まさか…」。

結局、事件当日、知香が言った竜彦がはいていたスニーカーからは、現場の土も何も出なかった。
だが、知香がハールさんがはいていたというスニーカーと同じようなスニーカーが、竜彦の部屋の下駄箱にあった。
しかもそちらのスニーカーは、洗ってあった。

水さんは、「もう一度、辰彦の部屋を調べて欲しい」と要請した。
排水溝の中まで、だ。
捜査員はイライラしながら、科捜研の連絡を待っていた。

結果は夕方になるという電話が入った。
「夕方か。しかたないな」。
綾乃の叔母が、鳥栖に住んでいたことがわかった。

叔母はもう、なくなっているが、近所の人の証言で、親戚の娘が夏休みに来ていたことがわかった。
綾乃だ。
竜彦と綾乃には、接点があったのだ。

取調室。
水さんは竜彦にスニーカーを見せて、「あんたずいぶん綺麗好きなんだな。洗ってあった」と言った。
うっすらと、竜彦は笑った。

「滝田校長の家に行ってきた」。
竜彦の顔から、笑いが消えた。
「娘の美也子さんに会ってきたよ。オヤジのように慕っていたってな」。
水さんは突然、口調を変えた。

『お前なんかこの世から消えてなくなれ!』
そう言って怒鳴った。
『お前なんか死んだほうが良い!』
『この世から消えてうせろ!』

「やめろ…」。
かすれた声で、だがはっきりと竜彦は言った。
「やめろお!」

竜彦が叫び、水さんに飛びかかってきた。
大河原刑事に、取り押さえられる。
取調室に、セミの声が響く。

空調が故障したままだ。
暑い。
竜彦から汗が流れる。

「ほい」。
水さんが、煙草を差し出す。
火をつける。
水さんがコンコン!と、取調室の鉄条網を叩くと、鳴いていたセミが飛び去った。

ゴーと言う音がした。
「おお、やっと直った」。
エアコンの風が入る。
水さんが窓を閉める。

『お前なんかこの世から消えてなくなれ!』
「この言葉にお前、なぜあんなに取り乱すんだ?」
「僕はいつも、邪魔もんだった」。
竜彦がぽつり、と話し始める。

「みんなから、『お前なんかいなくなれば、せいせいする』と言われてきた。生まれてきたことが間違いだった。親もそう言った。水さん、あんたそんな風に言われたことないだろ?あんたにはわからないさ」。
「お前がこの言葉に以上までに反応するようになったのは、滝田先生に言われたからじゃないのか」。
「生まれて初めてお前を認めてくれた人」。
「オヤジのように守ってくれていた人。その人に言われたからだろう」。

『お前なんかこの世から消えてなくなれ!』
「黙れ。黙るんだ!」
竜彦が怒鳴る。

大河原が、取調室を出て行く。
日差しが強い。
大河原が、お茶を持って入ってくる。
ロイヤルミルクティーだった。

「綾乃さんが、大好きだったそうだな。17年前の夏、綾乃さんはこの鳥栖にいた。お前もこの鳥栖にいた」。
竜彦が、ミルクティーをゆっくりとかきまぜる。
「綾乃さんと一緒に飲んだ。ロイヤルミルクティー。うまかっただろ」。
「…うまかった」。

竜彦が、目を閉じる。
あの時、綾乃がいた。
向かい合って、竜彦がいた。

2人の間には、ロイヤルミルクティー。
綾乃は笑っていた。
美しかった。
まるで、天使のように見えた。

「だから綾乃さん、竜彦さんて、名前で呼んだんだろう」。
「母親に捨てられ、女性への不信感が憎しみに変わっていたお前がただ1人、この世で純粋に愛した人が綾乃さんだった」。
竜彦とって女性のお尻は、母親への母性そのものだった。
だから、じろじろ見ずにはいられなかった。

「憧れの綾乃さんには、手を出せなかった。その代わりに滝田美代子さんを犯したんだ」。
「そんな大切な人を僕が殺すわけない」。
竜彦は言った。
「好きに解釈してくれて結構!」

水さんは続ける。
「お前は心のどこかで、母親を求めていた。それが綾乃さんと重なった」。
「僕に肝心な動機がないことを、わかってもらえればね」。
竜彦は、薄く笑った。

9年前、竜彦が小月化学に就職したのも綾乃が参次郎と結婚していたからだ。
「しばらくは平和な日々だった」。
しかし竜彦は、セクハラを理由に解雇された。
だから竜彦は、知香が参次郎の子供ではないと、DNA鑑定を突きつけて脅迫した。

そして拒絶されて、知香を誘拐した。
綾乃は、竜彦から逃げた。
それでも竜彦は居所を突き止めて、また知香を誘拐した。

「今度は、結婚を迫った」。
「勝手な想像はやめろ」。
「追い詰められた綾乃さんは叫んだ」。

『あんたなんか、この世から消えてしまいなさいよ』。
「その言葉でお前は、あの残虐な殺人を計画した。滝田先生の時と同じだ」。
「黙れ…」。

竜彦はうなった。
「何の根拠もないのに、知ったようなことべらべらとしゃべるんじゃない」。
だが水さんは、スニーカーを机にバン!と叩き付けた。

「これはな。知香ちゃんが言っていたものとは。違うんだ」。
「お前は本当は、これをはいてた。綺麗に洗ってあったおかげで、お前の部屋の浴室からちゃんとした物証が出たよ」。「浴室の排水溝の網から、現状の土が検出された。ポリプロピレンが入った土が、な。lお前が言っていた確かな物証だ」。

「三田川竜彦!小月綾乃さんを焼き殺したんだな?」
竜彦の肩が、がくりと落ちる。
「綾乃さんだけは…、信じていたのに」。

竜彦の回想が始まる。
どろりとしたポリプロピレンが、ガソリンのタンクに入れられていた。
そして、あの採石場近くの道に、白い車がやってきた。
綾乃が降りてくる。

「知香はどこなの!」と叫んだ。
竜彦は言った。
「結婚してくれ!」
「3人で一緒に暮らそう」。

綾乃は激怒した。
「まだそんなこと言ってるの?!恥知らず!」
綾乃は、抱きしめようとした竜彦を突き飛ばした。

「自分の要求を通すために、子供を道具にしたくせに!」
そして、首を横に激しく振った。
「嫌っ!」

『あなたなんて死んでしまえば良いんだわ。この世から消えなさいよ!』
その瞬間、辰彦は綾乃を殴った。
綾乃は気絶した。

竜彦は綾乃の両手、両足をスカーフで縛った。
綾乃の体に、ガソリンがかけられていく。
「…信じていたからこそ、我慢がならなかった」。

竜彦が取調室で、つぶやいていた。
「17年前の滝田先生の時も同じだ。先生を崖から突き落とした」。
水さんの言葉に、竜彦がうなづく。
大河原が目を見張る。

「…そうか」。
水さんが言う。
「お前、綾乃さんを焼き殺すと決めた時から、逮捕は覚悟の上だったんだ」。

「だから知香ちゃんをわざと、鳥栖駅に置き去りにしたんだ。お前の目的は一体、何だったんだ。佐賀のマンションや車の中に平気で証拠を残したと思ったら靴に変な小細工をする。何のためなんだ」。
「何の、ため、なんだ?」

セミの声が消えてきた。
夕焼けが、取調室を紅く染める。
竜彦は、横を向いている。

「ハールさん」。
あまりに自然な、水さんの呼びかけだった。
「え?」

その呼びかけに、竜彦が素で振り向く。
今までの不適な笑みを浮かべた竜彦は、いなかった。
あまりに自然な、竜彦の返事だった。

「『ファウル』さん、でしたね」。
「『ハール』さんではなく、『ファウル』さんだった」。
「スウェーデンや、ノルウェーや、デンマークでは、ファウルは、お父さんのことだってな。佐賀大の先生に聞いて、ようやく、わかったよ」。
「やめろ!」

「知香ちゃんは『ファウル』さんを『ハール』さんと覚えた」。
「やめろ、やめるんだ」。
竜彦は、目を閉じていた。
「ファウルさん…、お父さん」。

「お前みたいな男でも、そう呼んでほしかった。知香ちゃんは、意味もわからずに呼んでいた」。
「知香ちゃんが、お前みたいな男に懐いていたのも、親子の血のつながりってやつか」。「佐賀で一緒に過ごした時、知香ちゃんの好きなカレーを作ったなあ?喜んでいた知香ちゃんを見て、どんな気持ちがした。一緒に暮らせて幸せだったか。ハールさんと無邪気に呼ぶ知香ちゃんを、お前は取引に使ったっ!」

「それがどうした。小月の奴から2人を取り戻すためだったら、俺はなんでもする」。
再び、竜彦の全身から悪意がにじみ出る。
「9年前のレイプ事件のことだがな」。
「レイプじゃない。あれはレイプじゃない」。

「じゃ、お前と綾乃さんとの関係は」。
「彼女は寂しかったんだ。仕事仕事で、ほとんど家にいない小月をただ待つだけの生活に、耐えられなかった。小月との結婚は間違ってたんだ」。
「しかし子供までなあ?」
「僕が生ませた」。

「どうしても離婚できないと言うから、だったら子供はおろすな。生めといったんだ。いつか取り返してやるつもりだった」。
「それまでの辛抱だと思い、僕はコペンハーゲンで研究に打ち込んだ。綾乃さんと子供のために、必ず成功して帰国するつもりだった」。
「だが小月のやつ、放漫経営のツケを、ぼくのせいにした」。

「あいつ、のうのうと社長を続けてるが、そうは行かない。裁判で僕の解雇が究明されればあいつも…」。
「小月さんを、一緒に破滅させるつもりでいたのか」。
「あいつは何もかも、僕から奪い取ったんだ。綾乃さんも子供も、9年間打ち込んだ研究も何もかも!」

竜彦の顔に、全身に憎悪がみなぎっていた。
「小月には、名誉も仕事も家庭も仕事も、幸せの何もかもある。なぜだろう?僕のほうがずっと能力が勝ってるのに」。
「自分のしたことに、屁理屈をつけるな!」

それはあまりに鋭い、水さんの一喝だった。
思わず、竜彦が水さんの顔を見る。
「愛に理屈はない!」

「小月さんは知香ちゃんのために、1億円もの身代金を支払っているんだぞ!自分の子供ではないということを知っていながら!」
「会社が経営不振で大変な時にも関わらずだ!」
「小月さんは、心から知香ちゃんを愛している。綾乃さんもな。お前のような身勝手な愛とは違う!」

「知香ちゃんは、お母さんがいなくなって寂しいだろうが、懸命に耐えて笑顔で暮らしているよ」。
「お前、知香ちゃんのお父さんまで奪おうとしているんだぞ!」
「知香ちゃんを、ひとりぼっちにしていいのか?」

突然、きゃああああと言う声が響いた。
「うわあああ」。
竜彦が、慟哭した。

「1億円とリュックの隠し場所、どこだ」。
「うわあああ」。
竜彦の鳴き声は、悲鳴だった。

「どこだあっ!」
「ううううっ」。
竜彦が、うめいた。

小さな声で言った。
「採石場跡、祠の裏の…。岩穴」。
大河原が立ち上がる。

夕暮れで、部屋が紅い。
ドアが開いた。
刑事が入ってくる。
手錠をかけ、連れて行く。

竜彦が、再び、消え入りそうな、だがはっきりとした声で言った。
「佐賀県警の、落としの達人もとんだ間違いをするもんだ」。
水さんが、竜彦の顔を見る。

「知香ちゃんは…、僕の子じゃない」。
竜彦が顔を上げる。
「小月参次郎の子だよ」。

水さんが応える。
「…わかった」。
「確かに知香ちゃんは、小月参次郎の子だ」。

水さんが、うなづいた。
竜彦が笑った。
薄く笑った。
だがその笑いは、これまでの不敵な笑みとは違っていた。

セミの声が激しい昼。
手錠をかけられた竜彦が、採石場に水木たちとやってくる。
祠の裏を、捜査員たちが掘っている。

「あったぞ!」
声が響く。
祠の裏の岩穴から、リュックとケースが出てきた。
ケースの中からは、ずらりと並んだ札束が出てきた。

竜彦は、それを見ていなかった。
彼の目は、花束が置かれた場所に注がれていた。
「綾乃…」。
備えられた花には、赤とんぼが止まっていた。

水さんは、小月の屋敷に向かう。
門を入ると、参次郎と知香が水遊びをしていた。
参次郎がホースで水をかけながら、知香を追う。

知香が笑う。
仲の良い親子の光景。
水さんは、それをじっと見ていた。


綾乃は、あれ?と思いました。
三原順子さん(現:三原じゅん子さん)。
やっぱりすごい、綺麗で素敵。
突っ張ったイメージが強いけど、実はこの方、すごくかわいらしいんですよね。

小月参次郎は、名高達郎さん。
ロイヤルミルクティーから、じわじわと嫌な感じが高まっていく。
まさか、まさかという気持ち。
「取調室」、みんなおもしろいんですが、これはダントツに心に響きました。

それは何と言っても、萩原流行さんの、すばらしい演技によるものです。
いや、良い俳優さんなんですね。
最初に現れて逮捕された時の、不敵な笑み。
おお、来たぞ、来たぞ、と思うんです。

実に似合っている。
冷酷で、頭が切れて、人を見下している様子がうまい。
それが『お前なんか消えてなくなれ!』で豹変するのも、予想されたうまさと言うとおかしいけど、予想はつく。

すごいのは、この先。
綾乃とのいきさつを水さんが語る辺りから、同じ「やめろ」なのに違ってくる。
それまでの自分の生々しい傷に触れられた怒りではなく、大切な思い出を汚されまいとしている様子がわかる。
誰にも触れさせないとする様子。

綾乃との関係は合意と言い張る竜彦。
真相はわからない。
想像するしか、ない。

そしてついに見破られた竜彦は、過去の校長殺しまで、すんなりと自白する。
もう、彼には犯罪を隠し、場を切り抜けようとする狡猾さがない。
そしてすごいのは「ハールさん」と呼びかけられた時の、素に戻った竜彦。

あまりに素直な「え?」
知香ちゃんには、優しかったであろう様子もわかる。
これが、彼の本当の姿なんだと思う。

ファウルさんが父親であることを指摘された時の「やめろ」は、プライドとか、犯罪の隠蔽ではない。
自分のあまりに悲しい、トラウマに満ちた願望を見破られまいとする必死さ。
悪意を、頭脳を武器に世間を敵に回してきた男の、あまりに弱い素の姿。
彼はこの自分を守ろうとして、冷酷さを装ってきたんだと思う。

しかし彼の愛情は、とても幼く、利己的なものだった。
綾乃が彼に愛想をつかした理由も、彼にはわからなかった。
彼の利己的な愛は愛想を尽かしてしまったゆえに起きた、悲劇。

愛情と憎しみは、表裏一体。
誰よりも愛に飢えていた竜彦の綾乃への愛は、憎悪に変わった。
滝田校長と同じだった。

愛する者を自分で葬る残酷さ。
そのため、彼は一層冷酷になる。
参次郎と比べて、なぜ、劣っていない自分が。

水さんはそんな彼の甘えを、一喝する。
思いあがりを、叩き潰す。
最後の叫びは、今まで築いてきた竜彦という男の崩壊だった。

1億円なんか、ほしくなかった。
ほしかったのは、綾乃と知香ちゃんだったんだ。
はっきり言って、竜彦は残酷で異常だと思う。

許せないと思う。
綾乃があまりに、かわいそうだと思う。
しかし、見ていてしかたがないんだと思ってしまった。

親からもいらない子といわれた彼は、愛情を、彼は無償の愛情を誰からも与えられていなかった。
与えられていないものは、持っていない。
持っていないから、示しようがなかったんだ。

唯一、綾乃だけは彼を無償で愛してくれたことがある。
だがその綾乃を彼は、残酷な方法で殺してしまった。
最後の1億円発見の時、竜彦はもう、何も見ていない。
彼の目は、自分が殺してしまった綾乃しか見ていない。

異常者であり、許せない男の竜彦。
それでもなお、この男を哀れに思わせる萩原流行さん。
彼はやっと、人を思いやるということがわかった。
人に対する心がわかった。

その竜彦が言うべきことは、ひとつだった。
知香ちゃんは僕の子じゃないよ…。
最後の「佐賀県警の、落としの達人もとんだ間違いをするもんだ」からの口調がまた、すばらしい。

綾乃との関係同様、本当か嘘かわからない。
でも、良いんだ。
きっと、そうなんだ。

事件解決と、秋の訪れを感じさせた赤とんぼが切ない。
萩原流行さんの演技を堪能。
改めて、萩原さんのご冥福をお祈りします。
すばらしい俳優さんです。

水さんが、どこまで話したかはこちらにはわからない。
でも知らなくても良い。
これで、良い。
良いんだ、きっと。


確かにあんた、人間じゃない 「取調室 #7」(1/2)

いかりや長介さんが落としの名人という、自白をさせるプロの警部補・水木正太郎を演じるシリーズ。
最後はほとんど、犯人役の俳優さんと2人芝居になる。
犯人と刑事、俳優同士が火花を散らす演技が見られるサスペンス。
このシリーズ、大好きでした。

佐賀県鳥栖市。
5月8日。
鳥栖駅で、1人の少女がぽつんと立っていた。
不審に思った石井ひろ子婦人警官が声をかけると、お母様を待っているんですと言う。

少女の名前は、小さい月にお線香の香に知る。
小月知香。
知香は石井婦人警官の制服がカッコいいと、言った。

母親を鳥栖駅で待っているところであり、母親は4時40分に来ると言う。
駅まで連れて来たのは、ハールさん。
4日前、佐賀に一緒に来た人だという。
ここに来るまでは、知香はハールさんのマンションにいた。

「あっ、お母様!」と知香が声をあげた。
「知香!」
1人の女性が、知香に駆け寄ってきた。

母親という女性は、とても美しい人だった。
知香を見て駆け寄り、手を引いて急いでホームに向かう。
石井警官に知香が手を振ると、振り向いた母親はお辞儀をした。

3ヵ月後の7月8日。
採石場を出たトラックの運転手は、道の脇に白い乗用車が止まっているのを見て、不審に思った。
この場所に乗用車が止まっているのは、とても違和感がある。

近寄ってみると、人はいなかった。
運転手は辺りを見回す。
下の原っぱに何かがある。

それは体を折りたたんだ人に見える。
「ひえっ!」
運転手は悲鳴を上げ、転げるように走った。
そこにあったのは、黒焦げの人間だった。

同じ日、石井警官は再び鳥栖駅に走っていた。
知香がまた、鳥栖駅に1人でいたのだ。
12時頃から、5時間もいた。
知香はおととい、東京からハールさんと来たという。

この前は、知香の家は福岡の平尾だった。
今度は東京から来たと言う。
知香は母親と一緒に引っ越したのだった。
今度もまた、ハールさんと佐賀のマンションにいたらしい。

なぜ知香は、ハールさんとマンションにいたのか。
ハールさんは、「お母様が悩んでいる。1人で考えさせてあげよう」と言って、知香を連れて行ったらしい。
5月の時は、知香の父親が知香に見せたいものがあると言って連れてきたようだ。

父親の名前は、小月参次郎。
母親の名は小月綾乃。
知香が言うには、知香の母親はハールさんを「竜彦」と呼んでいた。

その頃、佐賀県警捜査一課は通報を受けて、黒焦げの遺体に向かった。
残された車の持ち主は東京都世田谷区、小月綾乃と判明。
セミの声がひっきりなしに響いている。
遺体から3m先に、ライターがあった。

自殺なら自分に火をつけてから、投げたことになる。
つまり、他殺の疑いが濃厚だ。
遺体が運び出される
全員が手を合わせる。

佐賀県警捜査一課。
落としの水木と呼ばれる警部補・水木正一郎が「自殺じゃないなあ」と言う。
焼身自殺する人間は、わざわざこんな場所を選ばない。

その頃、石井警官は東京の小月家に連絡を取っていた。
しかし母親は、電話に出なかった。
父親も仕事で外国に行っていて留守で、お手伝いさんが応対したのみだった。

黒焦げの遺体は、小月綾乃と判明した。
それを聞いた鳥栖署の職員は、驚く。
署で保護している少女・知香の母親ではないか。

燃え残っていたバッグの底には、少女用の着替えがあった。
知香の着替えで、もし娘を迎えに行くところだったら、自殺ではない。
水木が知香に持ち物を確認してもらったところ、自分の着替えだと言う。
スカーフは母親のものだが、3枚組になっているうちの1枚だ。

バッグも見せると、確かにお母様のバッグだと言う。
「でも、どうしてこんな状態に?」
バッグが焼け焦げているのを見て、知香が言う。
誰もが答えられなかった。

知香は昨日、ハールさんと一緒に鳥栖駅に来た。
ハールさんは。四角いリュックを持っていた。
重そうだったので触ってみたら、ハールさんは怖い顔をして、さわってはだめだといったらしい。

知香は、ハールさんと一緒にいたマンションを覚えていた。
管理人は、5月に来た知香のことを覚えていた。
マンションの家賃は半年分先払いにされていたが、借りた男は竜彦という名前ではない。
偽名だった。

借りていた男は30歳半ばの、なかなかの男前だったと言う。
小月参次郎の家に調べに行くと、家政婦が応対した。
家政婦は、知香がいなくなったことは知らなかった。

だがいなくなったのが5月と聞くと、家政婦は主人から突然、休暇をもらったことを思い出した。
6月から夫婦は別居していた。
理由は、不明だった。

解剖の結果、綾乃は生きたまま火をつけられて死亡したことがわかった。
遺体の炭化は激しく、ガソリン以外のものをかけられたらしい。
両手の爪に、微量の繊維が残っていた。
スカーフの繊維だった。

つまり綾乃は、縛られた状態から逃れようとした。
マンションに残った髪の毛のDNAと、綾乃の車の中から発見された髪の毛のDNAが一致した。
重要参考人は、ハールと呼ばれる男。

綾乃の夫の参次郎は、会社経営の三代目。
会社は優良企業で、参次郎は猛烈な仕事人間だった。
しかし事業を拡張した影響で、最近の業績はあまり思わしくない。
生命保険を狙った依頼殺人だろうか?

8月9日。
綾乃と知香の東京の世田谷にあるマンションから、綾乃の日記が発見された。
日記には、Tという人物に綾乃がおびえ、悩んでた様子が書かれていた。
『8月1日以降、Tから頻繁に電話が掛かり、怖い。Tは普通じゃない。知香を助けて』と書かれていたた。

小月夫妻は、どうも脅迫をされていたようだ。
参次郎が、外国から戻ってきた。
マスコミを避けて、唐津のホテルに逗留する。

父親を見た知香は「あっ、お父様だ!」と叫んで駆け寄る。
「お母様は一緒じゃないの?」
知香の問いに参次郎は「…うん」としか言えなかった。

知香は送ってきてくれた石井警官に。帰らないでと言った。
無理を言ってはいけないと諭す父親に、知香は「お母様はいつ来るの?」と聞いた。
参次郎はまたしても、「うん」としか言えなかった。

水木こと水さんは、参次郎を取調室に呼んだ。
参次郎は冷ややかだった。
まさか、自分が疑われているのか?

これは凶悪犯罪だ。
別居中とは言え、妻が殺されて自分は関係ないで済むのか。
だが参次郎は、知香の行方不明のことも知らないと言った。

5月に綾乃が、鳥栖駅に知香を迎えに来たことも知らなかったと言う。
だが水さんは、参次郎は家政婦に誘拐を知られたくなくて、暇を出したのではないかと疑った。
なぜ、知香の誘拐を警察に届けなかったのか。
話せない何かがあるのか。
水さんが、小月夫妻は脅迫されていたのではないかと聞いたが、参次郎はそれを聞くと憤慨した。

綾乃がハールという男を「竜彦さん」と呼んでいたことも伝えた。
名前で呼ぶのは、かなり個人的な関係だろう。
すると参次郎は、ハールは三田川竜彦だと言った。
自分の会社にいた男で、解雇を恨んでいたと言う。

三田川竜彦は、参次郎の大学の同級生だった。
ずば抜けて優秀な男だったが、研究先の北欧にいた頃、多額の研究費を着服した。
だが一番の解雇の理由は、セクハラだった。

裁判沙汰になる直前だったのだ。
竜彦にはもともと、女性をじろじろ見る悪癖があった。
特に女性のお尻に、異常な興味を示した。
しかしセクハラで解雇されたぐらいで、社長の妻を焼き殺すまでの凶行に至るだろうか?

8月10日。
竜彦のアパートに、鳥栖署の刑事が向かう。
戸を叩くと、竜彦が現れた。

知香の誘拐と綾乃殺害容疑。
辰彦は逮捕された。
その時、辰彦は不敵な笑みを浮かべた。

取調室。
水さんが現れ、「自分は佐賀県警捜査一課、強行犯捜査係の水木警部補」と名乗った。
背後にいる若い刑事のことは、「同じく大河原刑事」と紹介した。
「あなたの取調べは最初から最後まで、我々2人が担当します」。

「8月10日、午後4時ちょうど」。
取調べが始まった。
「今年3月小月化学を退職。間違いありませんね」。

水さんは竜彦のプロフィールを話して確認する。
すると竜彦は「ま、そんなところですかね」と答えた。
「逮捕された理由もわかっておりますね?」
「うーん、何かごちゃごちゃ言ってたな」。

そう言うと、竜彦は薄く笑う。
すると酷薄で、残酷で、少し凶暴な感じが漂う。
「営利目的の略取誘拐。それに殺人容疑です」。
「ほお。僕は一体誰を誘拐して、誰を殺したのことになってるんですか?」

「小月知香を誘拐。母親・小月綾乃を殺害した容疑です」。
「警察は僕が犯人だと決めているわけだ」。
「今のところ、被疑者です。小月知香ちゃん、知ってますね」。
「知香ちゃんを誘拐ね、動機は?」

「解雇されたことを。あなたは恨んでいた」。
「ああ、小月は卑劣な奴でね。あることないこと、でっちあげられて僕は嵌められてあっさり、解雇」と竜彦は言った。
「だからって誘拐はないですよ。まして殺人なんてね」。
「そんなこと、言ってましたか。相変わらず汚い奴だ」。

竜彦はマンションを、中村三郎の偽名で借りていた。
それはおかしくはないのか。
すると竜彦は、「ふふふふ」と笑う。

「知香ちゃんを連れ出したことは認めるよ、だけど誘拐じゃない」。
「お父さんが見せたいものがある。そう言って連れ出したはずだがね」。
「そんなこと、言ったかなあ~」。

「小さい子を連れ出して、何日も部屋にとどめたら。それは略取だ。(小月夫妻に)1億円も要求する理由は何だ?」
「確かにそんなことで1億出す小月じゃない。その1億円を身代金とした証拠は?」
おそらく、竜彦は16時7分に鳥栖駅についた列車で、知香を下ろした。

小月夫人を乗せた列車が、その手前の駅に到着した。
駅には竜彦がいた。
1分の停車中に小月夫人は竜彦に1億円の入ったケースを渡し、そのまま知香を迎えに列車に乗った。

竜彦は、それは小月参次郎の作り話だと主張した。
誰かが身代金のやり取りを目撃でもしていたのかと、強気だった。
「証拠は何一つない」。

だが水さんは言った。
「証拠?証拠は今にあなたの口から語られますよ」。
きっぱりと言うと、「本日の取調べを終わります」といって水さんは立ち上がる。
「へえ、もうですか」。

水さんは、竜彦に対する態度を変えることにする。
翌日、取調室でふんぞり返った竜彦を見て、水さんは態度が大きいと怒った。
そして、知香が目撃したリュック、あれはガソリンが入っていたのではないかと言う。

だが竜彦は、「僕には小月夫人を焼き殺す理由がない」と反論した。
水さんは竜彦の目の前に、ライターの火をかざす。
「お前だよ、やったのは」。

そう言うと、竜彦がくわえている煙草に火をつけた。
綾乃は竜彦のことを、名前で呼んだ。
竜彦と綾乃の間には、何かあったのではないか?

「下品な推測はやめろ、なくなった夫人に対する侮辱だ!」
竜彦が突然、顔色を変えた。
「ハールさんとは?知香ちゃんはなぜ、ハールさんと呼ぶんだ?」

すっと、竜彦は視線を下にそらした。
だが次には不敵な笑みを浮かべ、「ニックネームだよ」と言った。
そして「刑事さん、昼飯まだかな。腹減ってきちゃったよ」と笑う。

竜彦は、検事の取調べに向かった。
車に乗り込む前、竜彦は署を見上げ、窓のところにいる水さんを見るとニヤニヤと笑った。
「あいつ、笑ってましたね」。
大河原刑事は、不愉快だった。

取調べの鉄則に、被疑者を反抗的な気分にさせてはいけないというものがある。
だが今日の水さんは、竜彦を明らかに挑発していた。
「ビッグ」と他の刑事が大河原をなだめた。

なぜ、大河原はビッグというニックネームなのだろう。
水さんが聞くと、大河原は、大河原大介と言う名前で大が2つもつくのに、子供の頃は背が小さかった。
だからみんなは、ビッグとニックネームをつけた。
ニックネームと言うのは、そういうものなのだろう。

竜彦は、自分は「幸せとは無縁の奴でね」と言っていた。
その通り、小学生の時に両親を相次いでなくしている。
竜彦はそれから、叔父のところに世話になっている。
だが竜彦には大学に行くまでの3年間、まったく消息不明の時期があった。

現在は叔父一家も夜逃げ同然に逃げているため、見つからない。
何とか叔父を見つけて、3年間何をしていたか知りたい。
水さんと同僚の刑事がそう話している時、居眠りしていたビッグが飛び起き、取り繕うように竜彦のプロフィールを読み上げた。
「好きなものは、ロイヤルミルクティー?意外だ」。

8月14日。
拘留14日目。
取調室。
検事の取調べが気に食わないと言って、竜彦は終始、黙秘していたらしい。

水さんは竜彦が中学卒業から3年間、何をしていたか聞いた。
竜彦は「それを調べるのが警察の仕事」と言って、答えなかった。
さらに、身代金として小月参次郎が1億円出しているが、自分が1億円せしめたらもう逃亡していると言う。

「綾乃さんの電話番号は、どうやって調べた?」
すると竜彦は「電話なんかしてないっ!」と声を荒げた。
「何を要求していたんだ?」

水さんは続ける。
5月、夫人は要求を断固はねつけたから、竜彦は知香を誘拐したのだろう。
だが今度はなぜ、綾乃は竜彦の要求を徹底して拒否をしたんだろう。

なぜだ。
だから竜彦は、綾乃を殺したのではないか。
竜彦はそれには答えずに言った。
「あんた、落としの達人だそうだがな。僕にはそう見えないんだがねえ」。

むっとした大河原刑事が立ち上がったのを、水さんは抑える。
「被疑者だって、否定するのが当たり前だ。それをたくみに自供に追い込むのが刑事さん。何とか言い逃れをしようとするのが被疑者」。
「そのすべての逃げ道を遮断するのが、刑事さん。取調べってのは、そういうものじゃないですかねえ」。
水さんは、「自分は無駄な戦いは避ける主義でしてね」と言う。

夜、近くの食堂で食事をしながら、大河原刑事は「落としの達人に取調べをとうとうと語った」と言って、怒っていた。
食堂のおばちゃんが、大河原をビックさんと呼んだ。
機嫌の悪かった大河原は、「ビックじゃなくて、ビッグ!」とおばちゃんの間違いを訂正した。

一緒にいた衣井刑事も言った。
「ドックじゃなくて、ドッグ。ベットじゃなくてベッド」。
そういえば野球で、ファウルをハールと言って笑われたと叔母ちゃんは笑った。

「ファウル?」
「ハール?」
水さんが、つぶやく。

8月15日。
取調室。
綾乃はひどく辰彦におびえていたのに、なぜ、知香を2度も誘拐されたのだろう?

竜彦は「おそろしいですねえ」と笑う。
そして「前から一度聞こうと思っていたけど、刑事さん。僕のことどういう人間だと思ってるんです?」と聞いた。
水さんは言う。

「見た目は人間だが、中身は人間じゃないと思ってる」。
「ほお」。
「生きている人間を、それも顔見知りの人間を焼き殺すなんて、人間の出来ることじゃない」。

「確かな物証性もないのに、決め付けるのはやめてくださいよ」。
「小月夫人の爪の中に、スカーフの繊維が入っていた。なぜだか、あんたが一番良く知っているはずだ」。
「両手首、両足首を縛られ、体の自由を奪われた夫人が炎に包まれた恐怖の中で、縛られたスカーフを死に物狂いで取り除こうとした」。

水さんは、竜彦の前に自分の手をかざす。
「両手の爪で、必死になって引っかき、こすった。その跡が爪に残っていたんだよ」。
水さんが、空をひっかく仕草をする。

「そうやって脅して、自供させようたってそうはいかない。やってないものはやってないんですよ」。
「小月綾乃を殺害したのは、あんただよ。三田川さん」。
「証拠もないのに決め付けるのは、やめてほしいって。人権蹂躙だ」。

「あんたかならず、自供するよ。必ず」。
水さんはそう、きっぱりと言うと立ち上がる。
「本日の取調べを終わります」。

8月16日。
水さんは、ホテルに滞在中の参次郎に会いに行く。
知香は、非番の石井婦人警官と遊んでいた。
久しぶりの笑顔だと、参次郎は言った。

水さんは、竜彦に夫妻が脅された理由を聞かせて欲しいと言った。
まさか、三田川信じているのでは?と、参次郎の顔が曇った。
「私は、どちらも違うと思っている」と水さんが言う。

なぜ、会社の揉め事で、綾乃が残酷に殺害されなくてはいけないのか。
参次郎が話してくれなければ、事件は解決しない。
外にいた知香が、父親に手を振る。

水さんは言う。
このままでは、知香の母親を殺した犯人を見逃すことになる。
参次郎が水木の顔を見る。

「水木さん。このことは絶対に、内分にしていただきたい。約束してもらえますか」。
水さんが。うなづく。
「…知香は私の子ではない」。

水さんも、大河原も息を呑む。
「私の留守中に、綾乃が暴行された時の子供だと言って、三田川は脅してきた。しかもDNA鑑定を突きつけて」。
「それでもはねつけたら、知香を誘拐した」。
「知香の命には変えられない。それで1億円を支払った」。

綾乃は。暴行の相手のことを覚えていなかった。
忘れようと言う参次郎に対して、綾乃は自分を責め、家を出て行ったのだ。
だが参次郎は今度の2度目の誘拐のことは、本当にまったく知らなかった。

綾乃が、相談してくれていれば。
「くやしいですよ…!」
そして参次郎は言った。

「知香と離れていて、はっきりわかりました。知香がかわいい。手放したくない」。
「水木さん、これから先、ずっとあの子と一緒に生きていきますよ」。
水さんは、参次郎に頭を深々と下げた。

知香が、やってきた。、
水さんにも、「こんにちわ」と挨拶した。
参次郎が、石井警察官に「なんにしますか?」と飲み物を聞いた。

「知香はロイヤルミルクティーだな」。
そう言うと水さんに「母親が好きだったもんですから」と言った。
大河原が、知香に持ってきた服を見せ、「ハールさんが着ていた服かな?」と聞くと知香ははっきり「そうです」と答えた。
水さんは知香に、ハールさんとこっちに来る前、東京でハールさんと会わなかったかと聞いた。

すると知香は目を丸くして、「おじさん、何でも知ってるのね」と驚いた。
その時、電話番号を聞かれなかったかなと言ったら、知香はますます驚いていた。
竜彦は、綾乃の電話番号は知香から聞いたのだった。

帰り道、水さんは考えていた。
ハール?
ハールの意味は何だろう?

水さんは大河原に、佐賀大学の教授のところに行って、意味を調べてくるように言った。
綾乃を焼いたガソリンには、小月化学で使っていた薬剤・ポリプロピレンが入っていた。
これを混入すると、燃えが激しくなる。

8月16日。
取調室。
エアコンが、壊れていた。
暑い。

竜彦は、前を向いて黙っていた。
水さんは、綾乃の遺体の写真を見せた。
竜彦は、平然と見下ろした。
「ほう。なぜ動揺しない。どんな人間でも普通、顔を背ける写真だと思うがね」。

「あいにく僕は普通の人間じゃないんでね。刑事さんに普通の人間じゃないと言われた」。
「確かにあんた、人間じゃない」。
「あんた、鬼だ」。
「鬼。いや、鬼以上だよ」。

「ほお鬼の次は、鬼以上か」。
「ガソリンだけでは、こうならない。燃焼力を高めるために、ポリプロペリンが添加してあった」。
「こんなひどいことができるのは人間じゃない。鬼だ。鬼以上だ」。
「あいにく僕の専門は、バイオの方でね。刑事さんあんたはじめっから、僕が鬼だって先入観にとらわれている。鬼だから、あんなむごたらしい殺し方って当然だってね」。

水さんは、知香が大田黒公園で竜彦と会ったと証言したことを話した。
知香はそこで、家の電話番号を聞かれた。
水さんは続ける。

「ハールさんはカレーを作ってくれた。それは少し、辛かった」。
「だが、あの子は優しい子だ。おいしいと言ったらば、次の日もその次の日もカレーだった」。
ふん、と言った表情で、竜彦は「子供を飢えさせるわけにはいかないからね」と言った。

「どうも不思議だ。どうして知香ちゃんは、あんたみたいな鬼のような男に懐いていたんだろうね。ハールさんなんて、ニックネームで呼んだりしてね」。
そして「あんたほどの男が子供の証言で追い詰められるとは、な」と鼻で笑った。
「今のあんたの心境は、『この世から消えてなくなりたい』心境だろう」。
「今、何て言った?」

竜彦の声の質が変わった。
その様子に、大河原も振り向いた。
「今、何て言った!」
竜彦が、机を叩いて立ち上がる。

「この世から消えてなくなるって。どういうことだ!」
竜彦が水さんにつかみかかろうとして、大河原に押さえられる。
「お前みたいな奴には、二度と口はきかん!」
竜彦は叫んだ。

「暴れた挙句に黙秘ですか」と白井課長は驚いた。
「そんなに興奮するとは」と、水さんも言った。
「奴にとって、何か重大な意味があるんだな」。


繋がらない

いやいや、自分のサイトに繋がらなくなってしまっていて、焦りました。
もちろん、管理ページにもたどりつけなくて、古いパソコン使っていることを反省しました。
こりゃ買い換えないとダメかな…、と思っていましたが、何とかつながりました。
でももう、買い換えなくてはいけないことには違いない。

しかし、どのパソコンにしていいのか、わからない。
とりあえず繋がったから…。
うーん、いけないな。
買い替えを考えよう。


シンクロ

YKKのCM。
"YKK AP CM 似たものどうし篇 90秒" を YouTube で見る

愛情をお互いに感じると、ペットと飼い主は似てくるという。
つまり、猫と人間が似てくる。
http://www.ykkap.co.jp/company/ad/tv_radio.html
これ、すごくわかる。
一緒に飼っている猫同士、または猫と犬が同じようなポーズして寝ていることがありますよね。

最後に、ほっこり。
優しい飼い主さん。
恋が実って、次は飼い主さん、いや、相棒に幸せが来る。
YKKさん、うまいなあ~。


日常生活と人生と夢

「新・座頭市」の勝新太郎さんの殺陣は、すさまじい。
話も庶民の視線。
悪に対して市は一人、戦う。
何の見返りもなく、ただ、許せないから戦う。

次回の予告に、悲惨の理由は「夏にコタツが必要なほどの冷夏」とありました。
座頭市の時代には、それは命に直結する問題になったのだと思います。
90年代や2000年代になっても、夏に長袖が必要なほどの冷夏の時は農作物がダメになりました。

生活、命がかかっているというだけでなく丹精こめて作ったものがダメになる。
その無念といったら、ないでしょう。
今度の大雨による災害。

新米の取入れ前の稲が、泥水に浸かっている。
田んぼが水浸し。
農作機械までやられてしまうとは。

買い物で、新米を見つけた時。
あっ、新米だ!
何が良いかな、ひとめぼれ?あきたこまち?コシヒカリかなあ、って選ぶ。
新米だよ、おいしいよね、ツヤツヤしてるの、って言う。

酷暑を乗り切って成長した農作物。
稲は、今週末が刈入れだったでしょう。
ずっと降り続いたあげく、本当に、何がしたいんだ!って言いたくなるような大雨。

1年間が台無し。
土地は、土は元に戻るのだろうか。
自然を相手にすることは、本当に大変。
無事に刈入れしたお米は、一粒も無駄にできない。

市街地でも「空から日本を見てみよう」で、神田川を紹介した時、神田川が良く氾濫したこと。
治水工事により、現在は氾濫しなくなったことが伝えられました。
神田川だけではなく、現在の70代くらいの方が現役で働いていた頃は、台風がくる度に浸水の被害が、あちこちで発生していたそう。

全部が台無しになる水浸しの被害に、良く泣かされたとおっしゃる。
台風がよく上陸するのは今も変わらないというか、前よりひどいが被害は減ってきた。
それは長年、大金を使っても工事を進めたおかげとおっしゃる。

今回は、自宅近くの地域でも、避難勧告が出たところがありました。
友達の自宅近くの川は、溢れました。
危機感がありました。

災害の報道を見る度、思う。
日常生活と人生。
夢までが奪われて行く現実を目の当たりにするのは、つらい。
被害に遇われた方たちの復興と、災害対策の充実を願わずにいられません。

プロフィール

ちゃーすけ

Author:ちゃーすけ
癖の強い俳優さんや悪役さん大好き。
俳優さん、ドラマ、映画、CMその他、懐かしいもの、気になるものについて、長々と語っております。

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