シャチとの絆 「テンタクルズ」

一時、動物パニック映画が流行った時期がありました。
きっかけは大きなサメが暴れる「ジョーズ」だったのでしょうか。
「グリズリー」という巨大な熊が人を襲ったり、ピラニアが襲い掛かったり。

この前、見直したのは「スクワーム」。
ある街で、高圧電流が地面に流れたことがきっかけでミミズが凶暴化。
人々を襲いだす話です。

どうしてこの映画を作ろうと思ったのか、聞きたくなりました。
「フェノミナ」も食欲なくなりますけど、これもですね。
翌日、麺類がダメになる。
襲われている人の頭が見える画が、まるでスパゲティの中で溺れているみたいだというと、わかっていただけるでしょうか。

その動物パニック映画の中で大きなタコが人を襲う「テンタクルズ」という映画がありました。
伝説の海の怪物、クラーケンってこれか!という。
たぶん、私はテレビで見ました。

以来、何十年ぶりに見ました。
もっと怖かった気がするんですが、私はスレてしまったのか。
展開がだるくて、途中、ちょっと寝ました、すみません。
でも襲われた人の足が海中から出て、船にいる女性の前を移動していくシーンとか、海辺のベビーカーが消えるところはおもしろかった。

ビックリしたのは、ヘンリー・フォンダが出ていること。
どうして?と思いました。
製作者側に、お友達がいたのでしょうか。
話の中心人物も何だか誰に焦点を絞ってるのか、わからなかったぐらいの映画。

それと覚えていたのは、人間と心を通じ合った2頭のシャチが巨大タコを倒すこと。
間違っていなかった。
やっぱり、シャチが倒した。

映画自体は途中寝ちゃったぐらいですが、最後の人間ピンチ!にシャチが来るところは感動しました。
海に逃げても良いよ、と言って放したので、海に帰ったのかと思っていました。
サマーとウインターの2頭のオスメスのシャチ。

助けられ、海から船にあがってきた人間。
しかしシャチはいない。
人間はガックリしたのか、今度はアフリカに行こうかななんて、言っていると無事、シャチが現れる。

やったー!と言って歓声を上げる。
人間との絆に、ジンとします。
単純な観客です。
シャチ良いね!

でもね、タコがただのタコをアップで映しただけなのは、やっぱり残念。
タコの触手が船に伸びてくるシルエットなんかは、良かったですよ。
クライマックスもタコの足をシャチが齧っている。
シャチが良かったので、タコも模型ぐらい作れば良かったのにと思います。


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遅刻な私

風邪っぽいからちゃんと家にいて、からあげなんか作って食べて、お茶飲んでいたら…。
12月12日、スペシャリスト放送?!
おお~!
知りませんでした。

なんか…、知らないのは自分だけだったみたいで…。
世間から置いて行かれてる。
風邪って嫌ね(?)

元気になる

三連休を前に始まった月曜日。
月曜というのに朝から疲れていて、休みたい…と思いました。
この週は長くてつらくて、やっと三連休!という金曜日。
何だか風邪っぽい。

そうしたら三連休の初日の土曜日。
のどが痛い。
こりゃ、表をうろちょろしてる場合じゃない。
しかし熱は出ない。

そうしたら三連休後の今週、咳は出るわ、鼻はぐずぐず言うわ。
咳の仕方がいけなかったのか。
右の胸の下辺りが痛い。

もしや、肋骨?
いや、筋でも痛めたか?
やっぱり、疲れたという時は体の抵抗力も落ちてるんですねえ。
素直に休息してたら、こんなことにならなかったのでしょうか。

夜の9時30分に寝ちゃったりしてたから、世間にうとくなっちゃった。
今週、「必殺仕事人2015」放送なんですか~!
しかも遠藤憲一さんが出演。

ああ、一気にうれしくなった。
元気が出る。
休みの安心感なんでしょうが、体が楽になった…、ほんとにそうなら自分って単純過ぎ。

そして、そろそろ「スペシャリスト」も見たいんですけどね。
これ、2時間ドラマから連続ドラマになった「相棒」みたいにできると思うんだけど、ならないのかな。
おもしろくなるというか、見たい。
ドラマが楽しみな平日が、元気のためにもほしい~。

俺の成れの果てだとな 第3話「いかさま大勝負」

「必殺必中仕事屋稼業」の第3話「いかさま大勝負」。

苦しい息の下、手紙をしたためる女郎。
「どうせ死ぬ身ですから、あたしの身はどうなろうともかまいません」。
ゴホゴホと咳き込む。

「この上は、しらはたさまのお力で、あのにくい和泉屋与兵衛と伝八を」。
「あのにくい和泉屋与兵衛と伝八の2人を、地獄の底へ突き落としてください」。
戸が開いた。
楼主が入ってきて、「どうしたんだ、お袖。もう昼をまわってるんだぞ。いつまでゴロゴロしているんだ」と叱咤する。

早く顔を作って、客を迎える準備をしろと言われた時だった。
表から大きな声が聞こえてきた。
若い女性の声だった。
「やだああ、離してったらあ!」

女郎達も騒ぎを聞いて、表を見る。
「離してったらばあ!」
人を呼ぼうと思ったのか、娘は「火事ですよ、火事!」と叫んだ。
お袖と呼ばれた女郎は楼主が外を見ているその隙に、先ほど書いた手紙にかんざしを添えた。

「冗談じゃないよ!その手は食わないよ!ここは女郎屋じゃないかあ!」
若い娘は、叫んでいた。
それをなだめようとするのは、ヤクザ者の市五郎と仁助だった。

「話せばわかる」と2人は言ったが、若い娘は「助けてえええ」と叫び走る。
ちょうどその時、女郎屋から政吉が出てきた。
娘は政吉の後ろに駆け込んだ。

「おうい、どうしたんだよ」。
「人殺し!うそつき」。
政吉が聞くとその娘は「あたいが道聞いたらね、知ってるっていって連れてきたのが女郎屋なんだよ!」と言った。

「この手の顔には気をつけろって、ねえ、あんた、八丁堀行こう?」と娘は政吉に言った。
「ねえ、八丁堀!」
「ようしよし、おめえ騒ぐんじゃねえ。そっち行ってろ」。

政吉は娘を置いて、市五郎と仁助に「聞いたとおりだよ、どうやら兄さんたちの方が分が悪そうだな」と言った。
すると2人は、匕首を抜いてかざしてきた。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ、兄さん、ヤッパはやばいよ」。
政吉は手を上げたが、「かといって、このままじゃ兄さんたちも引っ込みがつかないだろうし…、ここはよ、これでどうだよ?」と懐からさいころを出した。

「チョウ目が出たら、この娘は俺が預かる」。
市五郎は「半目が出たら?」と聞く、
「煮るなら、焼くなり、好きにしろい!」

それを聞いていた娘は「ちょっと!」と言ったが、政吉はさいころをころがしてしまった。
結果はチョウだった。
しかたなく、市五郎と仁助は去っていく。

その後姿に政吉は「ばかやろう、俺は天才なんだよ!」と両手を挙げて叫んだ。
振り返ると、娘がいない。
「え?」

政吉が目をやった先では、娘が脱げたわらじを片方の足でとんとん、と跳びながら、拾い上げるところだった。
娘は政吉に向かって、ニカッと笑う。
わらじが切れて履けないので、政吉は娘を背負って川原沿いを歩いていた。
娘の名前は、お初。

「危ねえところを助けたんだからよ、今日は俺と付き合えよな」。
しかしお初は「あたしはねえ、博打するような人はだいっきらいなの」と言った。
「何よ、チョウが出たからいいようなももの、半が出てたらどうするつもりだったのよ!」

「見な」。
政吉は懐から、さいころを出した。
「なあに、これ」。
「チョウとチョウを足せば、チョウだよ」。

お初はさいころを見て、目を丸くした。
「じゃあ、今のいかさま?」
「そうだよ」。

お初は顔をしかめた。
「あんたってやな人ね。チョウとチョウなら、半にはなりっこないじゃない。きったない人ねえ」。
「助けられておいて、それはないぞ」。

政吉はお初の肩に手を回した。
「そういう風に、しないでくれる?」
お初は政吉の手を払いのけようとするが政吉は「俺と今日一晩つきあわねえか」と言う。

しかしお初は「ねえ、茂作さんて人、知らない」と聞いた。
「ちょっと、やだなこの手」。
「何だ、茂作って」。

そう言った政吉だがすぐに「あっ、何だお前、男がいたのか!」と叫ぶ。
「一緒に探してくれるでしょ?」
「きったねえな、冗談じゃねえよ、お前、1人で探せ!1人で!」
そう言って政吉は離れる。

「ねえ、茂作さんて言うの、ちょっとー、一緒に探してよー」。
お初はわらじを片手に持って片足で跳びながら、追いかけてくる。
「帰れ!」
「ねえ、探して!ねえってば!」

お初は半兵衛の坊主そばにいた。
珍しそうにきょろきょろと見渡す。
政吉は、お初を半兵衛の店に連れてきたのだ。

お初が探しているのは、許婚の武州の大里村の茂作だという。
江戸へ出て一旗あげると言って、3年。
お初はずっと待っていたが、なしのつぶてだった。
それで江戸に茂作を探しに来たらしい。

話を聞いたお春は「しかしそれじゃ、雲をつかむような話だねえ」と応えた。
半兵衛は、「女、できたんだよ、おんなぁ」と小指を立てる。
お春が半兵衛を突き飛ばして「ちょっと!」と怒る。
「すいません」。

「で、あたしたちに何しろって言うのさ?」
「そこだよ」、と政吉が言う。
「事情がわかった今じゃ、知らん顔もできないでしょう?」

「そりゃ、俺が引き取ったって良いんだよ。だけど俺はあんたと違って」と、半兵衛をぽんと叩く。
「独身だろう。だから一緒に暮らしたりしてベターッとされるの、やなんだよ俺」。
それを聞いたお初は「何言ってんのよ。あたしには茂作さんって人がいるんだから、あんたみたいなのに惚れるわけじゃない」と言った。  
「だいたいね、あたし博打するような男嫌いだもん」。

すると日ごろから半兵衛の博打好きに苦々しい思いをしていたお春が「えらい!そうこなくっちゃ!」と叫んだ。
「あんた、お初ちゃんとか言ったわね、あたしあんた気に入ったわよ」。
政吉がうれしそうに「気に入ったってよ!」と言った。

「良かったな」とお初に言うと「頼むな!」と言って走ってそば屋から出て行く。
「おい、だめだ!「」と半兵衛が追いかけていく。
「あんなの置いてったら!」
しかしお春は笑いながら「ねえ、あんた、この娘、うちに置いてあげようよ」と言う。

「いやダメだ!それは絶対ダメだ!」
「俺は置かねえぞ、うちになんか!」
「お願いしますう」とお初は言った。

「だめだよっ」と半兵衛。
「お願いしますう」とお初。
「だめだ、置くわけにいかないんだから!」
「お願いします、一生懸命やるから」。

「うるせえな、何度言ってもダメなんだよ」。
「お願いします」。
お春は「いいじゃないの」と言う。
「だめだよ!」と半兵衛が怒鳴る。

「ほ、あんたでも怒ることあるの、おお、こわいこわい」。
「お願いします、一生懸命やります」とお初が言う。
「ダメだよ!」
言い放って、半兵衛は裏口から出て行く。

「あんな女、うちに置くわけに絶対いかねえ!」
半兵衛がそう言った時、「半ちゃん」という声がした。
岡引きの源五郎だった。

「半ちゃん。何怒ってんの。またお春さんとケンカしたんでしょ」。
男っぽい容貌の源五郎が、小首をかしげてしなを作る。
「半ちゃん、うちに遊びに来ない?」

源五郎が半兵衛の肩に手をかける。
「いいいい!」と半兵衛が逃げていく。
「半ちゃんっ!」
半兵衛に逃げられた源五郎は「淡白ねえ」と言って、首をかしげながら歩く。

お初は坊主そばで、働き始めた。
こまめにくるくると、良く動く。
客のどんぶりを下げたお初は、洗い場で片方の足を持ち上げ、もう片方の足をかいた。

その白い足首に、ひげを整えていた半兵衛は思わず身を乗り出して見る。
ハッと我に帰った時、博打仲間が誘いに来る。
半兵衛はお春がいないのを確かめて、売り上げが入ったざるに手を伸ばした。

「泥棒ー!」
お初の声が響いた。
「おかみさん、旦那さん、おでかけですよう」。

「風呂、風呂へ行くんだ」と半兵衛が言い訳をした。
「お初ちゃん、一緒についてってよ」。
お春が言うと、半兵衛が「風呂ぐらい1人で行かせてくれよ」と哀れな声を出す。
「そうはいかないよ。目を放したら、どこへ飛んでくか、わかんないんだから」。

「旦那さん、最近は浜の湯の方が空いてるんですって、だから浜の湯にしなさい」。
お初の言葉に一瞬、目を丸くした半兵衛だが「いいかげんにしろよっ!」と怒鳴った。
「だから俺は嫌って言ったんだよ!」
「良いか、こうなることは端からわかってたんだよ。俺はこの娘が来た時からわかってたんだよ!」

「朝っから晩まで、旦那さん、旦那なさんてくっつかせやがって!」
「これもみんな、あんたのためなんですからね」。
お春は澄ました顔をして、そばをこねる。

続いてお初が言う。
「そうなんですよ、うちの村のもくべえさんなんか、七日七晩ぶっ通しで博打やって、朝になったらおっ死んだんだって!」
一瞬、半兵衛はきょとんとするが、「ばかやろう、おれはもくべえさんなんかじゃない。半兵衛さんっていうんだ!」と怒鳴った。

半兵衛の怒りはお春に向いた。
「おい、だいたい、おめえもおめえだ。女房でもねえくせに、でけえつらしやがって!」
「おたりまえじゃない、あたしがいなかったらね、この店とうに潰れてんですよ」。
「何言ってやがんだ。潰そうが潰すめえが俺の店だ。俺の勝手てじゃねえか」。

「あ。そ。じゃ勝手にしたら」。
「ああ、勝手にさせてもらうよ。俺は」。
「どうすんの」。
「出てく!」

「どうぞ」。
あっさりとしたお春に「どうぞ?いいのかい」と半兵衛が言う。
「ああ、せいせいするよ。お初ちゃん、塩まいてとくれ、ひげ目がけてさ」。
「やめろよ、お前。本気にするから」。

半兵衛が、情けない声を出した。
お初がその通りに、塩の壷を持ってくる。
「やめろつの、おいほら、やめろ」。

塩をかけられた半兵衛は「とけるよ!とける」と言う。
お春は知らん振りだった。
「おい!」
しかし、お春は何も言わず、そばをこねている。

「ちくしょう、じゃあ全部、手切れ金!手切れ金に俺がもらってくから!」
そう言うと半兵衛は、売上金が入ったざるに手を突っ込み、金をつかんだ。
「どけ!ほら!」とお初に言う。
さすがに心配になったお初が「旦那さん」と声をかける。

「旦那さんじゃねえよ!」
「旦那さぁん」。
「わああああ!」
半兵衛は泣き叫ぶと、お初を突き飛ばして出て行った。

その夜、半兵衛は博打場にいた。
1人、つきまくっている男がいる。
「どうだいどうだい、俺ぐらいになるとmさいの目の方が読んでくれ、読んでくれってすりよって来るんだよ」と男は笑った。

それを聞いた半兵衛が、自分の胸を叩く。
勝負だ。
「こいつはおもしれえ。おい、壷貸してくんな」と男が言う。

男が壷を振った時、政吉が入ってくる。
「半!」と半兵衛が言う。
だが、出たさいころはチョウであった。

「あ…」。
何から何まで、ついていない。
半兵衛が頭を抱えた。

「だから言わねえこっちゃねえな。おい、今日の俺に勝てる奴はいねえのかい」。
男は笑って半兵衛に小銭を放り、「おい、兄さん、とっておきな」と言って出て行く。
政吉を見た半兵衛は「少しまわして」としがみついた。

だが政吉は無視する。
「金!」
廊下に出た政吉は「金じゃないよ、今のいかさまだ」と言った。

「奴の壷振る手つきだ。妙な手つき、してたよ」。
半兵衛が、相手の壷を振る仕草を思い出す。
あの時だ。
さいころの目は、半だった。

だが男は、外から細工してさいころをひっくり返したのだ。
「野郎!」
だがもう、男の姿はなかった。

半兵衛は代貸しに、どこの男か聞いた。
男の名前は、伝八だと言う。
政吉が、「なあんだ。目くらましの伝八かあ」と言った。

男の名前は伝八。
結構、知られたいかさま師のようだった。
「どこにいるんだ」。
「知らねえ」。

その頃、口入屋の和泉屋に伝八は入って行っていた。
入り口で伝八を呼び止めた番頭は「お袖が死んだそうだ」と言う。
「へえ」。
それを聞いた伝八は顔色ひとつ、変えなかった。

「でも俺には関係ねえことだ」。
伝八は店の奥に入っていく。
和泉屋に、お春が来ていた。

お春は奉公口ではなく、お初の茂作のことで来ていたのだ。
口入屋なら、茂作のことを聞いたことがあるかもしれないと、お春は思ったのだ。
武州の大里村と聞いて、伝八の足が止まった。

奥の座敷には、お袖のいた店の楼主が、来ていた。
お袖は首を吊った。
「ともかくこれをようく、見ておくれ。お前さんたちのことが書いてあるんだ!」
楼主は、お袖の手紙を見せた。

ひらかなばかりの手紙には、固い屋敷奉公だと連れて行かれたら女郎奉公させられたと書いてあった。
楼主はそのことで、和泉屋と伝八を責めに来たのだ。
「こんなことがもし、本当だったら、お前さんたちひどすぎやしないか」。

しかも伝八は村を回っていかさま博打をし、そのかたに娘たちを取り上げてくるという話ではないか。
その時、黙って聞いていた伝八が口を開いた。
「博打ってのはなあ!やるほうが悪いんだ!」

鋭い、冷たい口調だった。
「挙句の果てがどうなろうと、俺が知ったことじゃありませんぜ」。
声には凄みがあった。

岡場所。
お袖が棺桶に入れられた。
釘が打たれる。

小雪がちらつく。
木枯しが吹いている。
仲間の女郎たちが、見送る。

和泉屋と伝八もいた。
「しかしあの女、身よりも何もねえはずなのにあんな手紙書きやがって。どこへ出すつもりだったんでしょうね」。
伝八が聞いた。

飛脚・嶋屋。
「あっ、利助さん、またこれがあったそうです」。
小僧が、番頭の利助に手紙を持って来た。

座敷では女主人のおせいが、着物の帯を締めていた。
利助の手紙を見て、「またですか」と言った。
「ええ、でもこれが最後だと思います」。
「何か、わかったのですか」。

「深川の岡場所に、お袖という二十歳になる女郎がいるんですが、今日、首をくくって死にました」。
「その人が、この手紙の主だというのですか」。
「間違いありません、今行って調べてきました」。

「20年の年期で売られてきたのですが、前借金の2百両を親代わりという、和泉屋が受け取っています」。
「それからこれは仲間の女郎に聞いてわかったんですが、『しらはたさま』というのは、お袖が生まれた村の鎮守さまの名前だそうです」。
「鎮守さま」。
「ええ」。

おせいの開けた引き出しからは、手紙がたくさん出て来る。
「どうせ死ぬのですから、あたしの身はどうなろうともかまいません。この上は、しらはたさまのお力で、あのにくい和泉屋与兵衛と伝八を」。
「あのにくい和泉屋与兵衛と伝八の2人を」。

手紙には、同じことが書かれていた。
「白幡神社とでもいうんでしょうが、まさか神様の名前とはね。いくら調べても、わからねえはずだ」と利助は言った。
「せめてもう少し早く、身元がわかっていたら」。
おせいが、悲しそうに言う。

「この中には和泉屋与兵衛と伝八の名前しか書いてなかったんです。調べようがないじゃありませんか」。
だが、おせいは悲しそうな表情を変えなかった。
「おかみさん」と、利助がなだめるように言った。

しかし、おせいは言う。
「お前はお袖さんが、なぜ死んだと思いますか」。
「そりゃ体が悪かったし」。

「この人は20歳で、年期は20年だと言いましたね」。
「そうですが、それが何か」。
「では女としての幸せをつかもうとする時、一体この人はいくつになっているのです。その上、お金は和泉屋が持って行ったというわけですか」。

おせいは、半兵衛と政吉を呼び出した。
「伝八をやるのか」。
半兵衛は言った。

「あいつは悪い奴ですよ。あいつならこれなしで、ぶっ殺したいぐらいです!」
おせいは、静かにうなづいた。
だが政吉は「いやあ、あいつは殺すには惜しい腕してるからなあ。俺降りるわ」と言った。
「降りる!」

するとおせいは「政吉さん」と言って近づいてきた。
政吉の懐に、おせいの白い手が伸びる。
「怒らないで」。

そう言うと、政吉の襟を丁寧に直してやる。
「いいですね?」
「やってくださいますね?」

政吉は大人しくなった。
「怒っちゃいねえけど、さ」。
「頼みましたよ」。
そう言うと、頼み量の小判を渡す。

政吉の手から、半兵衛が小判を取る。
「おっ。お前なんだ!」
2人は肩をぶつけ合いながら、去っていく。
利助が後姿に向かって、「博打なんか行って、無駄遣いしちゃいけませんよ!まじめにやってくださいね、まじめに!」と言う。

町に戻った2人は歓楽街を歩く。
政吉が「一発勝負やってくか」と誘うが、「いや、今日はまずいんだ」と半兵衛が言う。
「俺、うち、おん出てんだ」。
「なあんでだよ、てめえのうちだ。帰ればいいじゃねえか」。

「そこんところが微妙なんだよ。おん出たようであり、追い出されたようであり」。
半兵衛が言っているのを聞かず、政吉は声をかけてきた女を構い始めていた。
「俺には亭主でいながらだよ、亭主と言うものの権威が…」。

半兵衛が振り返ると、政吉はいない。
女と話している政吉を連れ戻した半兵衛は、「まじめに人の話聞けよ!」と怒る。
「俺には亭主でいながら、その、亭主と言うものの権威が…ないんだよ」。

語尾は消えそうに、弱々しくなった。
「だから今日は、お春にこの金叩きつけて、俺にも甲斐性があること見せてやりてえんだよ」。
上の空の政吉は「おめえの話は聞いちゃいられねえよ」と言った。

「いや、だから話聞いてくれよ。それでな」。
「わかったわかった」。
政吉は半兵衛の胸をぽん、と叩くと、「お春さんに相談してごらん」と言って岡場所の方に消えた。

1人残った半兵衛は「ばかやろう、男も中年になると複雑なんだよ」とつぶやいた。
半兵衛に呼び込みが声をかける。
「良い娘、いる?」と聞いた半兵衛だが「ダメだ」と言って、家に向かう。
呼び込みが残念そうに去っていく。

坊主そばの裏口。
半兵衛が家に入ろうか、入るまいか躊躇していると、お春の声が聞こえてきた。
「あんな奴に惚れてやしないわよ、いなくなってせいせいしてるわ」。
半兵衛がガックリする。

続いてお初の「うそお」という声が聞こえる。
「ほんとよ」。
「うそだってば、あたいにはわかってるんだから。旦那さんがいなくなってから、おかみさんずっと寂しそううだもの」。

半兵衛の顔が、パッと輝く。
「そうお。そう見えたとしたら、私がきっと後ろめたかったからでしょう」。
「どうして後ろめたいんですか?」

「私は、おかみさんなんかじゃないのよ。ただの奉公人。雇われ人がその家の亭主を追い出すなんて、聞いたことないもんね」。
「ああ、あの、おかみさんじゃないんですか」。
「私はお初ちゃんと違ってね、身寄りがないのよ。15の時に火事にあって、独りぼっちになって。それから、いろんなところで働いたんだけどさ。このとおりの性分でしょ、どこでもケンカしちゃってさ」。

「去年の秋だったわ。急にふらふらーっとして」。
「倒れたんですか」。
「気が付いたらあの人が、店の中かつぎ込んでくれてさ」。

「『お前、腹が減ってるんだろう』って、卵の入ったあっつーい掛けそばをつくってくれたのよ。あん時の月見ほどおいしいと思ったものは、なかったわ…」。
お春の声が、しみじみとする。
「へえ、優しかったんですね旦那さん」。

「ま。それで何となく、ここで働くことになったんだけど、男と女が一つ屋根の下に暮らしてれば…、わかるでしょ」。
外で聞いていた半兵衛が照れて、首をかしげている。
「そのうち、なるようになっちゃって」。

「やっぱり惚れてるんだ、おかみさんは」。
半兵衛がうれしそうに頭をかいて、入っていこうとした時だった。
「でもね、あんなろくでなし、本当は帰って来ないほうがいいんです!」

お初のきっぱりした声がした。
半兵衛の足が止まった。
「そうかしら」。
「ううん、ほらあ、女は男次第って言うでしょ。あんな男ついてたらおかみさん、だめになっちゃうよお」。

「だいたいね、博打するような男なんてほんと、ダメだもん!」
「茂作さんはどうだった?」
「うん、茂作さんは全然、そういうんじゃないの!茂作さんはね、朝から晩までずうっと働いてるけど、文句ひとつ言わなくて、悪いけどここの旦那さんとじゃ月とすっぽんね!」

「はあ」と、お春が感心する。
お春が戸に近づく気配を感じて、半兵衛はすばやく姿を消す。
「よいしょっと!」と言って、お春が漬物の樽を表に出す。

お春が空を見上げる。
「お初ちゃん、ちょっと来て!ほら、綺麗な星空!」
お初がやってくる。

「明日も天気ですね!」
「忙しいわよ、男手はないんだし、頼んだわよ!」
「はい!」

半兵衛は、とぼとぼと歩いていた。
「あら、半ちゃん!」
源五郎が声をかけてきた。

「こんばんわ」。
「どうしたの」。
「ちょっと星が綺麗だからね」。
すると源五郎は「食べる、おいも」と言って、焼き芋を出してきた。

「いただきます」。
「寒いわねえ」。
2人は並んで、焼き芋を食べている。

「半ちゃん!」
源五郎が抱きついてくる。
半兵衛は逃げていく。

行った先は、岡場所の2階に部屋を取った政吉のところだった。
「呆れて話にもなんねえな。さっきの勢いはどうしたんだよ」。
屋根の上に、政吉が出て来る。
「女房に金叩きつけて、出てけ!って言うんじゃなかったのかよ」。

「泊めてくれよ」。
下の道から半兵衛が言う。
「冗談じゃねえよ、こんなの、いるしよう」と女郎を指して言う。
「第一、ここは俺の住処じゃねえよ」。

「冷たいこと言うなよお」。
「勝手にさらせ。俺はな、決めてんだよ。何とでも言え。人が何と言おううとも、この世で頼れるのは自分だけだ」。
「お前には、わからねえんだよ」。
「何が」。

「ろくでなしってものがどういうものか、お前にはわからねんだ」。
半兵衛と政吉は、屋根の上で並ぶ。
寒さに、半兵衛が手をこする。

「へえ、じゃ、おめえさん、そのろくでなしってのを知ってんのか」。
政吉が言う。
「へえ、じゃ、教えてもらおうじゃねえか。教えてくれ」。
政吉が、中へ入る。

「お前、死人と博打したことあるか」。
半兵衛が、ポツリと言う。
背後の部屋の障子に、政吉の影が映る。
「死人?」

「俺のあの蕎麦屋、昔は弥助っておっさんの持ち物だったんだ」。
「このオヤジが博打が好きでよ。下手の横好きってやつで、どうしても俺には勝てなかったんだ」。
「あのオヤジが、心の臓の病でもう命がねえとわかった時、急に俺に会いてえとぬかしやがった」。

半兵衛の頭の中に、弥助という男の姿が浮かぶ。
「行ってみると…。勝負をしてくれって言うんだ」。
今、半兵衛の店となっている店。

半兵衛が寝ている座敷にもう、体が自由にならない男が横たわっていた。
男は硬直して動かない手を必死に動かし、起き上がる。
「負けたらこの店をやるから、どうしても勝負をしてえって聞かねえんだ」。

男の指が畳を這うように動き、枕元にあるさいころと壷に手を伸ばす。
さいころが男の手から、ポロリとこぼれる
「俺はそん時、はっきりわかった」。
「こいつは俺だ」。

半兵衛は、男の手からこぼれたさいころを拾い、手に戻してやる。
「俺の成れの果てだとな」。
しかし男の手からは、今度は壷が落ちる。

男は顔を歪ませるが、男の手はもう、壷も握れない。
若い半兵衛が代わりに、壷とさいころをひろう。
片手に壷、片手にさいころを持つ。

壷にさいころを放り込み、男の目の前に伏せる。
「入りました」。
親父の目は、壷を見るときだけ、しっかりとした。
しっかりとした声で「ちょう!」と言った。

「ちょう!」
「良いんだな」。
「ちょう!」
もう、男はちょうとしか言わなかった。

勝負。
さいころは4と5だった。
半だった。

「博打に勝って、店は俺のものになった」。
「はあ」と、半兵衛は深くため息をついた。
「博打にとりつかれた者なんてな、みんなろくでなしなんだ」。

その頃、和泉屋は番頭から、お春が来た話を聞いていた。
「そんなものが来たなら来たで、なぜもっと早く言わないんだ!とびっきりのカモじゃねえか!」
お初のことだ。

「で、その茂作探しに出てきた娘ってのは、年はいくつだ」。
「本人が来たわけじゃないので。その方はちょっと…」と番頭が口ごもる。
「確か18のはずですよ」。

市五郎と仁助を相手に、花札をしていた伝八が言う。
「なぜおめえ、知ってるんだい」。
「そりゃあ、お初はね…、あっしの許婚なんです」。
「なにい、それじゃおめえ?!」

「ええ、本名は茂作ってんです」。
伝八は遠い目をした。
「だがあんまり、肥やし臭せえ名前なんで、とっくの昔に捨てちまいましたがね。そうですか。お初が出てきたんですか」。

坊主そばで、お初はかいがいしく働いていた。
「はい、おまちどおさま」。
「またどうぞ」。
「はい、いらっしゃい!」

「坊主そば」ののれんを、誰かがくぐる。
お春が「はい、いらっしゃいませ」と言う。
伝八だった。

「お初」。
客のどんぶりを下げていたお初が、振り向く。
「茂作さあん!」

お初が伝八に、抱きつく。
「江戸に来ていたんだってね」。
伝八の声は、優しかった。

「お初ちゃん?」
訝しげなお春にお初が「そう、この人が茂作さん!」と叫んだ。
「こないだ、和泉屋さん来てくれたのは、おかみさんですね。ありがとうございました」。

伝八が頭を下げる。
どこから見ても、ちゃんとしたお店の奉公人といった風情だった。
「私は3年前、あの方の口利きで、蔵前のさるお店に奉公したんでございますが」。
伝八は、この前、和泉屋に茂作のことを訪ねてお春が来た時のことを、知らないこととはいえ、大変失礼したと和泉屋が謝ったことを伝えた。

そしてお初のほうを振り向くと「お初。悪かったな。消して忘れたわけじゃないんだよ」と言った。
お初は泣きじゃくっていた。
「もう少しえらくなってから、と、つい欲を出しちまって、勘弁しておくれ」。
「勘弁だなんて」。

「もう、離さないからね」。
お初が泣く。
見ていたお春も、もらい泣きする。
伝八は、お初を夜まで預かってくれと言う。

店の旦那とおかみさんにまだ話をしていないし、これから所帯を持つのに許しを得ておかなければならない。
それを聞いたお春は「行き届いたお話で、まったく。うちの人に爪の垢でも飲ませたいくらいですよ」と言った。
「お初ちゃんは、大切に預からせてもらいますから」。

茂作、いや、伝八は帰って行く。
まだうれし泣きしているお初をお春は「何よ、いつまでも泣いて。茂作さんに嫌われるよ」とからかった。
お初は涙を拭いた。

店の奥に行くお初の背中を「しっかりおし」と言ってお春は優しく、ぽんと叩く。
お初の笑顔が、樽の中にうつる。
はにかんだ、幸せそうな笑顔。

その頃、和泉屋の前で和泉屋を見張っていた政吉は、伝八が和泉屋に入っていくのを見た。
「あれ、伝八じゃねえか。半兵衛のやろう、何やってんだ」。
半兵衛は博打場で、伝八が来るのを待っているはずなのだ。
利助が市五郎と仁助のことを、「あの連中も和泉屋の手先だ」と教えた。

座敷で、和泉屋は言った。
「だから世の中、おもしろいんだ」。
伝八は「ま、あっしの口から言うのもなんですが、かなりの上玉です。たった3年間会わねえうちから、めっきり色っぽくなりやがった」と冷たい口調で言う。

この前、お初を引っ掛けようとしていた市五郎と仁助を、政吉は酒に誘っていた。
2人は、政吉が一度会った自分に酒をおごることを不審がっていた。
だが政吉は「女郎を1人、足抜けさせたい」と持ちかけた。

「やってくれたら、3割出すぜ」。
「半分出しな」と、2人は乗ってきた。
「またまた~、そりゃないよ」。

「ケチケチすんなよ。おめえのような色男なら、茂作と同じで女いくらでもいるだろう」。
「茂作?」
「ああ、俺達の仲間に伝八という、どこから見ても江戸っ子のちゃきちゃきがいるんだ。ところがつい、3年前まで武州の茂作ってドン百姓だって言うから、笑わせんじゃねえか」。
伝八のことだ。

必要な情報は、手に入れた。
「ははは」と笑って、政吉は5割で手を打った。
「その代わり、和泉屋の旦那、連れてきてくれよ。顔と体見てもらってから、値をつけようじゃねえか」。

2人は承知した。
仕事の仕掛けは、終わった。
後は半兵衛にそれを知らせるだけだ。

博打場で半兵衛は、外れ続けてふてくされて寝ていた。
そこに「何をしてるか」と利助が来て怒るが、半兵衛は伝八が来るのを待っているのだと言った。
利助は政吉が得た情報を伝えた。

「実は茂作ってのは、伝八なんです」。
半兵衛が起き上がる。
「茂作?!」

政吉が指定した岡場所に来るため、和泉屋がやってきた。
「どこの女郎だ」。
「この角、曲がった店です」。

「女には、旦那が来ることをちゃんと話してあります。客の振りをし、バレねえように、そおっと入ってくだっさい。部屋は竹の間。突き当たりのひとつ手前の部屋です」。
市五郎と仁助もついていこうとするのを政吉は、仮にも足抜けだ、ぞろぞろついてもらっちゃ困ると引き止めた。
2人には酒をおごると言って、連れて行く。

和泉屋は政吉に言われた店に入った。
客の振りをして、他の女郎と客に見つからないように指定された部屋に入った。
部屋にはおせいが、こちらに背を向けて座っていた。

「足抜けするのは聞いていたが、今夜やるのか」。
和泉屋が、おせいの顔を見た。
頭巾をかぶってはいるが、おせいの美しい顔立ちは誰の目にも明らかだった。

「話は聞いた。お前ならいくらでも力になってやろう。さあ、行こうか」。
和泉屋は、おせいの手を取る。
その背中を、おせいがにらみつける。

手には、お袖のかんざしがあった。
おせいは和泉屋の首のうしろに、かんざしを刺す。
和泉屋は声も立てず、絶命する。

人ごみの中、政吉は懐剣を抜くと、後をついてくる市五郎を物陰で刺す。
市五郎もまた、声も立てずに絶命した。
気が付かない仁助が棒立ちになった市五郎に「兄貴、何してんだ」と声をかける。

政吉の懐剣の、刃が突き出る。
仁助もまた、刺す。
市五郎と仁助が、相次いで倒れる。

歓楽街で行きかう人々が、足を止めた。
息をしていない2人を見て、「あっ、人殺しだ!」という声があがる。
女郎が悲鳴を上げる。
人々が逃げていく中、政吉も一緒に走る。

和泉屋を置いて、おせいが部屋を出る。
客ともつれあうように廊下を歩いていた女郎が、目を留める。
「あれ?」

頭巾をかぶったおせいは、平然と歩いていく。
「ちょいと。ちょいと!」
女郎が声をかけた。

だがおせいは、まったく振り向かず、優雅な足取りで出て行く。
それを見送った女郎は「ちょっと…、やだねえ。この部屋はね、こないだ首吊りがあって今、使ってないんだよ」と客に説明した。
おせいが出て行った部屋は、お袖の部屋だったのだ。

部屋をのぞいた女郎と客が「うわあああ」と、声を上げる。
「人殺しい!」
部屋には、目を見開き、仰向けに倒れた和泉屋がいた。

坊主そばの座敷で、お初が丁寧に紅を塗っている。
伝八がお初を、迎えに来ていた。
お春に「あの、おかみさん。こいつをお初に」と言って、小さな、綺麗な布で織られた匂い袋を出した。

「もうすぐですからね、お店の方でお待ちください」。
そう言ったお春はお初に「お初ちゃん、茂作くさんからほら、匂い袋だよ。いいねえ~」と言って匂い袋を渡した。
お初が香りをかぎ、幸せそうに微笑む。

その時「お春大変だあ!」という声がして、半兵衛が駆け込んでくる。
「何よ、いきなり」。
「俺は今、大変なことを聞いてきたんだよ」。

お春が丁寧にお初の髪に、櫛を通している。
「あ、お初ちゃん、今から俺の言うことを、心を落ち着かせて聞かなきゃだめだよ」。
「うん」。

「ちょっと、忙しいのよ、、あたし達は今」とお春がうるさそうに言う。
「忙しくたって、俺の言うことは大事なことなんだから!」
半兵衛はそう怒鳴ると、お初に向かって「お前の探している茂作さんって人は…」と切り出した。
「ああ」と、お初は笑う。

「2年前に…、しんじまったんだ!」
「うそおぉお」と言って、お初もお春もきゃはははと笑った。
半兵衛の言葉に、店でお初を待っていた伝八が振り向く。

気が付かない半兵衛は、続けた。
「急には信じられないだろうけど、お初ちゃんの言うとおり、真面目で良い人だったそうだよ。みんなから惜しまれて死んだんだってさ」。
お春が「いや、あのね」と、口をはさむ。
だが半兵衛は「お前は黙ってろよ!」と聞かない。

「死んじまったもんは、しょうがねえや、な。やなことは1日も早く忘れて」と、ぽんぽんとお初の肩を叩いた。
「故郷へけえんな。江戸なんてところは、お初ちゃんみたいな人の住むところじゃねえよ!まったく」。
だがお初は平然として、お春に髪をすいてもらっている。

「どうした。泣きたかったら、俺の前で遠慮なく泣いちまうんだ」と半兵衛は優しく言う。
たまらずお春が「何、世迷言、言っててんだよ」と言う。
「お前は、いちいちうるせえ…」と半兵衛が怒ったがお春は「うるさいのはあんたなんだよ!」と遮る。

「何が!」
お春は半兵衛の袖を引っ張った。
「ちょっとこっち来てごらん」。
そして、店にいる伝八の背中に向かって、「あそこにいるのが茂作さんで、これからお初ちゃんを連れて行くの」と言った。

「!」
ギョッとしたのは、半兵衛だった。
驚いて、声も出ない。

その様子にお春が「何驚いてんの」と不思議がった。
「…どこへ行くんだい」。
半兵衛はやっと、そう聞いた。

きょとんとしたお春は「どこへ行くか、知らないわよ。だけどね、あの人ならあんたと違って大丈夫。あたしの保障つきなんだから」と言った。
「ねえ、まったくお初ちゃんを泣かせるような、でたらめ言わないでちょうだい」。
すると、伝八が急に「おかみさん」と声をかけてきた。

「大島町の佐野屋さんに、ちょっと用事を思い出したもんですから、恐れ入りますが、そちらの方にお初を寄越していただけませんでしょうか」。
そう言うと、伝八は出て行く。
続いて出て行こうとする半兵衛の背にお春が「駕籠拾ってきておくれよ」と言う。

「わかったよ」と半兵衛は返事をすると、戸の向こうに消えた。
外に出ると、雪が降っていた。
伝八の後姿が見える。

「お春」と半兵衛が戻ってきた。
「駕籠屋さんが来たよ」。
その言葉でお春が「さ、お初ちゃん」と言って、仕度の終わったお初を立たせた。
「はい」。

お初が立ち上がり、お春に向かって「長い間どうもありがとうございました」と頭を下げた。
半兵衛が「お初ちゃん、さっきはすまなかったね。まさかお婿さんが来ているとは思わなかったから」と笑った。
お春も「まったくそそっかしんだからあ!」と笑った。

仕度を終え、綺麗に髪を結い、着物を着て紅を塗ったお初を半兵衛が見る。
「綺麗だよ」。
「どうもありがと」とお初が笑う。

「外は雪だから気をつけてな」。
「はい」。
お春が、「さあ、さ、さ」とお初をうながす。

「幸せになるんだよ」と言って、「あ、ちょっと待って、濡れるといけないから」とお初を気遣う。
「また近所まで来たら、寄っておくれ」。
お初をお春が見送る中、台所で1人、半兵衛がかみそりを研ぐ。

えいほ、えいほと掛け声をして、雪の中、駕籠が行く。
「お初ちゃん達者でね」。
お春が声をかける。

半兵衛がすばやく身を翻し、駕籠の後を追っていく。
駕籠がまっすぐ行く。
半兵衛は、駕籠の後ろの角を曲がる。

駕籠が行くのが見える。
ひとつ手前側の道を、半兵衛は小走りに行く。
半兵衛は駕籠と、平行に走る。
駕籠の中では、お初が幸せそうに微笑んでいる。

伝八が、駕籠の先回りをしている。
寒さに手に息を吹きかけ、こすって、駕籠を待つ。
駕籠が見えると、そちらに向かって歩く。
伝八が、こちらに向かってくる駕籠の前に出ようとした時だった。

背後から半兵衛が、伝八の口をふさいだ。
路地にひきずりこむ。
半兵衛が、かみそりを構えた。

路地に半兵衛の姿が、消える。
お初の乗った駕籠は、暗い路地の前を通過していく。
次の瞬間、伝八が首を押さえて現れる。

よろよろと、お初が通過した駕籠の後ろに、伝八が出て来る。
伝八が倒れる。
お初の乗った駕籠は、軽快に走り去っていく。

倒れた伝八に向かって、通行人が「旦那?」と声をかけた。
伝八が動かないのを見て、「ひええ」と悲鳴があがる。
「死んでる!」
「人殺し、人殺しだああ」。

人々が叫ぶ。
半兵衛が去っていく。
背後で騒ぎが起きているのに気づいたお初が、声のする背後をちらと見る。
だが、匂い袋を取り出すと、お初はそれをぎゅっと握り締めた。

武州の故郷を思いだす。
雪深い村。
すすきに、雪が吹き付けたようについている。

山も雪で白かった。
屋根も、山も、何もかもが雪に覆われていた。
風が吹く。

お初が微笑む。
幸せそうに。
寒い風が吹く。
強い風が吹く。

えいほ、えいほ。
駕籠屋の声がする。
お初は駕籠にゆられていく。

ひゅううう、と風がうなっている。
坊主そばの中。
お春が仕度をしながら言う。

「ねえ、あんた、あの娘、もう、村らについたかしらね」。
「うん、そうだな」。
「幸せになると良いね。かわいい娘だったもんね。働きもんでさ」。

半兵衛は何も言わず、手を動かしている。
「あんたも一緒にお風呂へついてってもらう娘がいなくなって、寂しいね」。
「ふふん」と、かすかに半兵衛が笑う…。



オープニングが終わってから5分。
見事な流れに乗って、物語が始まります。
お袖の悲惨な境遇。
そこに響く、お初の大声。
天真爛漫と言うか、何もわかっていない、田舎娘丸出しの大声。

政吉がお初を助け、お初をナンパ?し、お初が恋人を探しているとわかると、半兵衛に押し付けに来る。
女できたんだよぉと言って、お春にこづかれ、すいませんと謝る半兵衛。
この辺り、笑っちゃう。

そして助けてもらったのに、「博打やる人嫌い」とあっさり、政吉に言い放つお初。
政吉の「ベターッとされるの嫌」という言い方も笑えます。
お春が気に入ったと言うと、ものすごいスピードで置いていく政吉。
このやり取りの間、お初はただ、ニコニコしている。

「前略おふくろ様」で海ちゃんをやる前の桃井さん。
でもやっぱり、すごくうまい!
無防備と言うか、ちょっと思慮の足りない、でもかわいい田舎娘を完璧に演じてます。
さすが。

ダメだ!
お願いしますぅの半兵衛こと、緒形さんとのやり取りはさすが、芸達者同士。
ものすごいテンポに乗せられて、笑いながら進んでいきます。

怒った半兵衛が外に出ると、源五郎。
ごつい源五郎が、しなしなしているのが本当におかしい。
本当になぜか、似合っている。

源五郎に迫られ、逃げる半兵衛。
「淡白ねぇ…」と首をかしげる源五郎。
ここまで本当に、一気に見せます。

ダメだと言ってもお初は結局、坊主そばにいる。
くるくると良く動くお初が、足を足でかく。
その時、ちょっと見える足首。

ひげを整えている半兵衛が、首を伸ばしてそれを見てしまう。
そしてハッと、我に帰る。
お初の若さ、無防備さ、それに気が付いてない危険さ。
この辺りもすごくうまい。

博打に行こうとする半兵衛は、お初に見つかる。
お初と半兵衛、お春のやり取りがもう、本当にすごい良いリズムでおかしい。
それぞれの性格と個性が炸裂。

一気に、一気に進んでいく。
お初に塩をまかれて、「とけるっ、とけるよ」と泣きそうな半兵衛がすごくおかしい。
「旦那さぁん」に、わああああと泣き叫んで出て行く。

この後もまた、家に入れない半兵衛の様子がおかしい。
1人で「にゃはーっ」と言った表情で照れたり。
だがまた、お初の一言で入れなくなる。

軽快で笑ってしまうけど、ここでお初に対して語られるお春と半兵衛のいきさつはかなりシリアス。
お春が半兵衛に何だかんだ言っても、ついていくのは半兵衛の優しさを身をもって知っているからだとわかる。
そしてろくでなしでも、半兵衛がとても優しく、良い男であることもわかる。

しかしお初は、あんな男だめだもんとシビアに言い切る。
何度も、何度も、茂作がいかに真面目か。
博打など縁のない働き者か、お初が語る。
だから、後の茂作に衝撃を受ける。

お袖が死んでも、何の感情も持たない伝八。
抗議に来た楼主に、「博打なんてやるほうが悪い!」と言う伝八の口調が鋭い。
働き者で、博打など縁がなかった茂作。
この変わり様は、どうしたことなのか。

一体、江戸で茂作に何があったのか。
伝八は、和田浩二さん。
このセリフでこちらは、伝八の江戸での生活に思いをはせることができます。
何かがあったんだと思わせる、和田さんのセリフ。

お初に対して、限りなく優しい茂作になる。
だがそれは仮面。
お初に対しても伝八は、お袖同様。
何の感情も持たない。

同じ人間かと思うほど、冷たい態度と口調。
もう、本当に本当にお初が幸せそうだから、哀れになる。
さらに、そういう事情とは関係なく、仕事は進んでいく。
和田さんのセリフと演技も、一見の価値ありです。

そして今度は、政吉を相手に語られる、半兵衛が店を手に入れた経緯。
「こいつは俺だ」。
今まで情けなかった半兵衛の口調が、がらりと変わる。

「教えてくれよ」とバカにしているような政吉が、言葉を返せなくなる。
壮絶な過去。
へらへらしているようで、半兵衛もお春も相当ハードな人生を送ってきているんだ。
それでいてもやめられない博打、業の深さ。

仕事のシーンは、しんとしたお袖の部屋から。
和泉屋がおせいを連れて行こうとした時に、仕事屋のテーマが流れる。
おせいがかんざしで和泉屋を仕留めた背後に、刀をふりかざす錦絵が映る。
音楽と錦絵、仕事の見事な調和。

政吉が突き出した懐剣の先が、ぶるぶると震えているところもリアル。
まだ政吉だって、殺しのプロではないんだ。
しかし仕事は遂行する。

そして最後は、伝八を仕事にかける。
毎回どんでん返しがある仕事屋だけに、伝八が来ているのを知らない半兵衛がしゃべりまくるピンチがある。
まさに「!」

お初の駕籠と前後して、伝八と半兵衛が行く。
駕籠を止めようとした時、半兵衛が暗闇に伝八を引きずり込む。
伝八を切るシーンがなくて、効果音だけでこちらに見せる。
首筋を伝八が押さえて倒れ、かみそりから血が滴っているからわかるんですが、考えたらすごい。

伝八の前を、お初の駕籠が通過していく。
通過した後を、伝八が倒れる。
このタイミングの憎さ。

何も知らないお初。
背後で騒ぎが起きているのは、気が付く。
でもそれが茂作の一大事だとは、知らない。
政吉に助けられたお初。

今また、半兵衛に助けられたことも知らない。
茂作のことも。
ただ、自分を待っている幸せに思いをはせて、微笑んでいる。

真夏に見ても冷たさ、寒さを感じるような風の音。
雪に覆われた故郷。
お初の微笑。

知らなくて良い。
でも見ていて、しんと気持ちが冷えていく。
どうしようもなく、寒い。
冷たい。

この後、何も知らないお春の明るい声がまた、切ない。
返事をしない、できない半兵衛の心のうちも、つらい。
なんと切ない。
やるせないラスト。

笑いと、軽快さと、この切なさ。
見事な構成。
仕事屋は名作だと思います。


犬神家の一族は、なぜ

犬神家の一族はなぜ、おもしろいのか。
これほど、犯人がわかって、トリックがわかっているのに何度見てもおもしろい謎解きミステリー、推理小説の映像化の映画ってないです。
この手の映画は、犯人がわかってトリックがわかっていたら、もう二度は見なくても良いや、と思うものが多い。
なのにどうして、市川崑監督が作った横溝正史の映画はそうではないのか。

この疑問、持っていた人も多いでしょう。
私も持っていました。
それに答えてくれたのが、またしても春日太一さんですが、春日さんの「市川崑と『犬神家の一族』」でした。

ヒッチコック監督が言っていた「ミステリーは映画にすると、つまらない」。
「だから自分の映画はミステリーではなく、サスペンスだ」。
「サスペンスのために、ミステリーがある」。

では市川監督は、謎解きが興味の全てになりがちな推理小説、ミステリーをどうやって映画として見せたのでしょう。
どうやって観客の気持ちを、惹き付けたのか。
そのために、いかにたくさんの工夫を凝らせ、計算していたのか。
知って、感動しました。

おもしろさの理由のひとつ、やはり、金田一耕助に石坂浩二さんを起用したことが大きかったんですね。
石坂さんは声変わりの時、声がうまく出ないことがあったらしい。
それでボイストレーニングに通った。
この時、声にもメジャーな声とマイナーな声があることを知った。

良いナレーションは邪魔にならない。
BGMと合っている。
それでいて、ちゃんと聞いて耳に入らなくてはならない。

音楽が長調なら、ナレーションの声は短調。
音楽が短調なら、ナレーションの声は長調。
こうすれば、ナレーションが邪魔にならず、心地よく聞いてもらえる。
短調、長調の声を使い分けて、石坂さんはナレーションを行っていた。

市川監督には、それがわかっていたんです。
横溝正史の小説は、登場人物が多い。
先代から続く、複雑な人間関係もある。
事件が起きる以上、見ている人にはそれを理解させなくてはいけない。

つまり、事件を解き明かす金田一はナレーション役でもある。
観客に無理なく、退屈させず、それを理解してもらわなければ、訳がわからない。
説明に、そんなに時間をかけるわけにもいかない。
だから名ナレーターの石坂さんに、金田一を演じさせたかった。

また、ビックリしたのは、石坂さんは相手の声に自分の声を合わせていたらしいんですね。
相手の声に応じて、自分の声を作る。
そして耳障りにならないように、見ているこちらに聞いてもらう。

古舘弁護士や警察署長は、ガラガラ声でまくしたてる。
弁護士は犬神家を語り、署長は事件を語る。
だから金田一は高めの抑えたトーンの声で話す。

また、坂口良子さんの旅館の従業員。
彼女とのコミカルなやり取りの中で観客は、犬神御殿を知り、珠代を知り、家系図を見、彼女が報告した毒について知り、金田一の性格も察する。
坂口さんの旅館の娘は、のんびりした声で話す。
だから彼女に対しては金田一は、低めに早い口調で話す。

…すごい。
本当に、本当に石坂さんはすごい俳優さんなんだ。
石坂さんは、そんなことまで計算して演技していた。

これぞインテリジェンス、これぞ知性。
石坂さんは知識も豊富ですが、知識だけではない、それを有効に使うことができて知性なんだと思いました。
本当に頭が良いって、こういうことなんだと思ってしまいました。

前に仲代さんが、「この映画では自分の中で一番低い声で話した」とおっしゃっていました。
本当にプロというものは、そういうことまでするんだ。
できるんだ。

コミカルな坂口良子さんについても、初めてその女優としての才能を知りました。
こういう方たちが集まって、演技しているんです。
それを理解している監督が管理する。
おもしろいものが、できないわけはない。

演技もですが、石坂浩二さんの知性が映画を成功に導き、後の横溝正史の映像化を導いた。
石坂浩二さんという知性を起用した市川監督のすごさ。
改めて石坂さんのすごさと、横溝正史映画のすごさ、市川崑監督のすごさを知りました。
「犬神家の一族」のおもしろさのひとつは、石坂浩二さんの起用だったのですね。


阿藤快さん

俳優の阿藤快さんが、お亡くなりになりました。
本当に突然。
もう、まだまだお元気と思っていたので、訃報を聞いて「嘘…」と思わず言ってしまいました。
時代劇で悪役を演じた時は、その大きな体躯で存在感を示してくれました。

「仕置屋稼業」では、市松が付け狙う土地の大物の四天王の1人。
「どけえーっ!」と叫びながら市松を追って走ってきて、主水にこれまたバッサリ。
刀を構えたまま、どっと倒れる様子もまた、すごく特徴的でおもしろい。
何度も見返してしまいます。

「仕業人」で中村主水に斬られた時の「おぁあ~っ?!」という声も、忘れられません。
そして何といってもおもしろかったのが、「うらごろし」。
朝早く、おばさんこと市原悦子さんの「熊の権現のお札、いらんかね~」の声が岡場所に響く。
阿藤さんは前日、食い逃げしたおねむだと思って、飛び出してくる。

すると、おばさんなので「なあんだ」と帰ろうとする。
「熊の権現のお札いらんかね」。
阿藤さん、すごくぞんざいに「んなもんはいらねえんだよ、おばさん!」

おばさん、目にも留まらぬ速さで、「いらないのは」。
「あんたの命だよ!」
グッサリ。

目の前で起きたことが、わからない。
自分に起きたことが、わからない。
えっ?
おばさんだよ。

なんで?
どうして、このおばさんが?
呆然とする阿藤さん。
いろんなことが頭に浮かんだのと同時に、阿藤さんは刀を振り上げる。

しかし、おばさんに斬りつけるには至らない。
おばさんの一撃はもう、致命傷になっていた。
阿藤さんは倒れる。
この一連の流れは、何度見てもおもしろい。

そして何といっても良かったのは、「八丁堀捕物話」の阿藤さん。
阿藤さんは、名取裕子さん演じる太夫の復讐に手を貸す元盗賊。
最初は罪滅ぼしだったが、阿藤さんは太夫を愛していた。

舟遊びを装い、標的の1人を名取さんは殺す。
その後、逃げるためには川を渡らなければならない。
阿藤さんが、幾重にも着物を着た名取さんに言う。

「太夫。しっかり捕まっていなせえよ」。
名取さんがうなづく。
阿藤さんが川に入る。
名取さんが入る。

阿藤さんは、名取さんをしっかりと抱きとめる。
名取さんは、阿藤さんにすべてを預ける。
その信頼感。

阿藤さんは無言。
しかしその表情に、命に代えても太夫を守るという決意がみなぎっている。
俺が守る、と。
彼女は、俺の命だ、と阿藤さんの目が言っている。

感動的な愛のシーンだった。
血まみれの復讐の後なのに。
この阿藤さんがほんとに、忘れられません。

レポーターをしていると、阿藤さんの温かい人柄を感じられて、これも好きでした。
まだまだ、まだまだ、活躍していただきたかった。
阿藤さん、ありがとうございました。
ご冥福を心から、お祈りします。


文化勲章

ちょっと遅いですが、俳優の仲代達矢さんが文化勲章を受章されました。
仲代さんは奥様を亡くされた時、「真の孤独だ」と書いていらっしゃいました。
寂しさがこちらに、突き刺さるように感じました。

仲代さんの文化勲章を知った時、真の孤独とまで言った寂しさに耐えると、何か良いことがあるんだなと思えました。
こちらも元気が出ます。
本当にうれしいです。

仲代さんが授賞式に出るのが見たかったですが、仲代さんは2年前から決まっていた舞台の稽古で授賞式には欠席。
そんなところも、プロを感じさせてくれます。
おめでとうございます。


「おかしい」と思った時に引き返せ 「ドキュメント 道迷い遭難」

毎年発生する山の遭難事故。
その3分の1を占めるのが、道迷い遭難だという。
「道に迷い、山中をさまよう道迷い遭難の、恐怖の実態をあきらかにする」羽根田治氏の著書。
ヤマケイ文庫から出版の、その名も「道迷い遭難」。

その場にいるような気分になる。
迷って行く様子に、想像がつく。
絶望感を感じる。

とても他人事として客観視できない。
無謀な判断にゾッとするのは、想像がつくからと同時に、自分がその場にいたらやりそうだから。
たった一人、自分しか頼れない中、どんどん窮地に陥って行く遭難者が、自分に重なって行く。

でもここに出ているのは生還した方。
ですから、そういう点では安心して読める。
生還しなかった方の絶望感と言ったら、それはもう…。

何が起きたのか、こちらには知るすべもなく、しかしここに書かれているようなことが起きたに違いない。
この本で語っている方たちは、本当に運が良かった。
報道された記憶があるものも、あります。

時間が迫っている時に迷った、あの焦り。
たどり着けない不安。
繁華街、住宅地でも、観光地でも絶望的になるというのに、誰もいない山の中。
絶望感と無力感で、考えただけでも、うずくまりたくなる。

『山登りをやっている人なら、誰でも一度や二度は道に迷った、あるいは道に迷いかけた経験があると思う。
それが幸い大事に至らなかったのは、「あれ、おかしいぞ」と思った時点で引き返したからではないだろうか。
引き返していれば、「ここで間違えたんだ」というポイントが、必ず見つかるはずである』。

『ところがこの、「引き返す」ということが、なかなかできない。
「おかしいな」と思いながらも、「もうちょっと行ってみよう」と、ずるずる先に進んでいってしまう。
そして進めば進むほど、引き返すのが億劫になり、どんどん深みにはまってしまうのである』。

そう。
もうちょっと行けば、わかるんじゃないかと思ってしまう。
実際はわかるより、迷うほうが多い。

『はっきりと「しまった。道を間違えた」と自覚した時には、もうかなりの距離を歩いてきているので、今さら引き返す気にはなれなくなっている。
この時点であっても、引き返すのが最良の手段なのだが、当事者の頭の中にもう、その選択肢はない。
「このまま行けばどこかに出るはずだ」という淡い期待にすがり、闇雲に突進を続けていく』。

そう!
誰もが連想したことだと思いますが、これは日常の、そしていろんな決断をする時のタイミングにも当てはまります。
「ここまでやって、今さらやめることなんかできない」。
「あれだけ待って、今さらやめることなんかできない」。

『しかしやがて、行く手には滝や崖や藪が立ちふさがる。
それを避けながら進むうちに、ますます袋小路に追い詰められていき、最後は滝や崖を強引に突破しようとして転落してしまう。
あるいは体力が尽きて、行動不能に陥ってしまう。
これが、道迷い遭難の典型的なパターンである』。

『だからほとんどの道迷い遭難は、ごく単純なことで防ぐことができる。
なにしろ、「おかしい」と思った時点で引き返せばいいのだから。
ところがこの、簡単なことが難しい。
それはたぶん、道迷い遭難が人の本能と葛藤に起因するものだからだと思う。

「今たどっているルートが、正しいものであってほしい」とする願望と、本能が発する、「そっちは違うぞ」という危険信号との、せめぎあい。
その結果、人はどうしても楽なほう、安易なほうに流されがちであるから、願望が勝ってしまう。
かくして道迷い遭難が起きる』。

だと思う。
まさしく、そうだと思う。
そして人生の迷い道も、こうして起こる…。
ありふれたつまんない意見だろうけど、そうだと思う。

いろいろな事件も、この、人の心の弱みが関係しているものが多い。
策略、謀略、作戦もここを考えて練られていると思う。
株やら投資で破滅する人も、内容としては同じようなことだと思う。

最後に、捜索にかかった費用が書かれている。
生還した方も、これが命の値段とはいえ、大変なことだと思いました。
いろんな意味でゾッとした本です。


「仕事屋」考 最終回「必殺」が描いたテーマ

最終回。
半兵衛とお春の2人は、元に戻っている。
裏の顔を持つことは、2人の仲を引き裂くには至らなかった。
それほど、この2人は強く結びついているのだとわかる。

だからこそ。
だからこそ、最後に半兵衛が追われて旅立ち、お春が1人残るラストが胸を打つ。
あれほど素人ぽかった政吉が、親子の情に負けそうになるおせいのため、仕事屋として死んでいくのが切なくなる。

政吉を失ったおせいが死のうとするのを、やはり素人だった半兵衛が止める。
そして諭す。
「死なせて。政吉のそばに行かせて」。
この時の半兵衛の言葉は「必殺」史上、いえ、時代劇の中でも名セリフではないでしょうか。

「人間生きるため死ぬため、大義名分を欲しがる。
そんなものぁ、どうでもいいんだ!
明日のない俺たちは、無様に生き続けるしかないんですよ」。

うちひしがれるおせい。
半兵衛にも追手が迫っている。
「おかみさん、いや、おせいさん。無様に生き続けましょうよ」。
そして半兵衛は自ら囮になって、おせいを助ける。

今よりはるかに寿命が短く、病やケガや自然や災害に対して日本人が無防備で、身分制度がある時代。
そこに生きる人の生と死を描いたものが「必殺」、いえ、時代劇。
半兵衛の言葉は、そのひとつのテーマに対する答えではないでしょうか。

命があれば死にたくないから、なりふり構わず必死に生きる。
そうすれば、無様になることもある。
だから無様に思われないため、格好をつけ、言い訳をするため、大義名分を欲しがる。
大義がない戦争は士気が下がるって、言いますね。

でも生きることに、大義名分はいらないと半兵衛は言うんです。
追われる自分には、もう明日もない。
大切な人を失ったおせいにも、明日はないだろう。
明日、つまり希望、生きる目的、張り合いはない。

ただ生きているだけになるのかもしれない。
それでも生きること。
生き残った自分たちがやることって、そういうことじゃないのか。

すっぱり自害する武士。
大義名分のために死ぬ武士と「必殺」の殺し屋や庶民は違う。
自分たちは悲しかろうが、みっともなかろうが、みみっちい人生を無様に生きよう。

それで良いだろう。
俺は生きる。
あんたも生きてくれ。

市井の人の生と死、それに立ち会う殺し屋たちの物語が「必殺」。
この「必殺」に込められてきたテーマのひとつを、半兵衛が言っている。
だから「仕留人」と「仕事屋稼業」は、地味だろうと「必殺」の重要な作品になっていると私は思います。

仕事屋の厳しさを常々説いていたプロだったおせいは素人から成長した2人の仕事屋に救われ、諭され、生きていくことを教えられる。
勝負で言えば、逆転。
掛けごと勝負を描いてきた「仕事屋」の行き着いた見事な逆転ラスト。
お春との絆もすべての縁を断ち、博打好きのろくでなしのそば屋の主人だった半兵衛は、1人、仕事屋として旅立つ。

時に軽妙に、時に切なく展開された1話1話。
そのクオリティの高さ。
全編を通じて描かれる親子、夫婦、友情。
最後の、アマチュアがプロへ成長した果てに訪れた厳しく悲しく、たくましい結末。

「必殺」シリーズに興味のない人、時代劇に興味がない人でも仕事屋は見られるだろう、うなるだろうと思うのは、この人間ドラマがしっかりしているから。
そして、人が生きることに対してのエールが最後にある。
古今東西、時代劇があの時代を選んで描いてきたテーマがある。

ラスト。
歌を口ずさみ、半兵衛を一人、ずっと待っているであろうお春が映る。
かげろうが立ち上る中、地面から起き上がる半兵衛。
ふたりは、同じ歌を口ずさんでいる。

下手な人相書きを破り(これほんとにちょっと、奉行所は反省しましょう)振り向く半兵衛。
そこに生命力としたたかさが溢れている。
俺は生きるよ。
あんたも生きてくれ。

緒形拳、名演。
林隆三、ベストワーク。
草笛光子もまた、ベストワーク。
岡本信人、中尾ミエのクレジットも光る名演です。


「仕事屋」考 最終回前まで

「仕事屋稼業」を見返しているんですが、といっても、これまで何度も見返してはいるんですが。
やはりこれは、名作、傑作です。
私は、「必殺」シリーズでも1、2を争う名作だと思っています。
そしてやはり、1、2を争う好きな作品。

「仕掛人」は原作があるとはいえ、登場する仕掛人はプロ中のプロ。
裏稼業の世界を、悪役としてではなく描いた初めて描いた作品。
「仕置人」は身体能力はプロをしのぐアウトローが、怒りを武器に暴れる様を描いた作。

「助け人」は人助けがメイン。
殺しはそれを達成するための手段。
しかしその助け人が、仲間の死をきっかけに殺し屋として生きていく道を選び、別れて行く様子を描いた。

「仕留人」はプロの腕前を持つインテリだが、最後まで心は仕留人になれなかった男を主軸にすえた。
このインテリがたどる悲劇と、その男によって正義への夢を打ち砕かれる男の悲劇を描いた作品。
私は地味な作品なのかもしれませんが、この「仕留人」と貢という人物も相当好きなんです。
そして「仕事屋」は、実にこれらをうまく生かした設定なんですね。

私は、「新・仕置人」も「仕置人」も好きなんです。
念仏の鉄は仕事人ではなくて、仕置人という呼び名がピッタリな男だと思っています。
仕事人のような華麗さやスマートさはなくても、荒削りな野生を持つ、本能のみの力強さがある男。

彼にあるのは殺しの快楽。
しかし「外道にはなりたくない」。
この自分の最低限の信念と誇りを曲げずに、疑わずに、ぶれずに生きた無頼漢。
彼はこのために、最期は女郎屋で死体となる。

そして、鉄と限りなく魂が近いが、鉄のような自由に本能のままに生きることが許されない立場の主水。
この2人が、正義を遂行するために悪となったのが仕置人。
「仕置人」は主水と鉄の物語という面もあり、鉄という「ザ・仕置人」を描いた物語でもあると思うのです。
だから「仕置人」から始まった裏稼業の話は、「新・仕置人」で集大成を得た…と私なんかは思うんです。

そこに行くと「仕事屋稼業」の2人は、本当に度胸が良いだけの博打打ち。
武器だって、半兵衛は自分のひげを整えるためのかみそり。
刀やドスを持っている相手には、本当に頼りない。

政吉の武器はおせいの懐剣。
女が持つ懐剣だから、刃物と言えどもこれも頼りない。
くわえて2人は超人並みの体力や跳躍力があるわけでもなければ、剣術や武道の心得があるわけではない。
ちょっとけんかなれしている素人。

1話で政吉とおせいが、親子であることが描かれる。
さらに2話で、子供を旗本に奪われた母親を描き、旗本の養子に出したために生き別れになった政吉との関係を投影させる。
念入りに描いたところで、この次からも…と思ったら、これ以降、この設定は忘れられたように出て来ない。
そう思ったら、最終回間際でこの設定がものすごい生かされ方をしてくるという、仕事屋の構成がすごい。


ここから先、「仕事屋稼業」の展開、全てネタバレ。
いつも私がやる、悪いクセ、ネタバレ。
なのでここから先、未見の方は、ご注意ください。


お春が妊娠し、半兵衛が父親になるかもしれない23話。
殺しに手を染めた者が、人の親になること。
今度はお春と半兵衛が、政吉とおせいの殺し屋親子に重なってくる。
さらに24話で裏の顔を持つ夫と何も知らない妻が描かれ、半兵衛とお春の関係に重なる。

そして25話で、ついに半兵衛と政吉、おせいの関係のバランスが崩れる。
「あんたはそば屋だ!」
「あんたは飛脚屋!」

半兵衛とおせいに対し、指を指しながら叫ぶ政吉。
「いざという時には逃げ場がある」。
「殺し屋を表稼業にしているのは、私だけです」。
「もう、たくさんなんです」。

お春という家族がいても裏の顔はいえない半兵衛には半兵衛の苦悩がある。
しかし、一人ぼっちの政吉の気持ちは救えない。
痛いほどそれがわかるから、半兵衛は政吉に傷つけられても黙っている。

おせいも母親としての情があふれているが、政吉の指摘を否定しきれない。
どうにもできない。
そしてついに、お春に半兵衛の裏の稼業が知られてしまう。
半兵衛を傷つけたことを悔いながら、政吉は敵に捕らわれる。

クライマックスは、政吉の救出と外道殺し屋との対決。
そこで利助までが加わり、3人は強敵を力をあわせて倒す。
崩壊しかけた仕事屋稼業は、危うさを残しながらも再び結びつく。
しかし…、半兵衛とお春の仲は崩壊しかける。

23話の半兵衛の戸惑いと苦悩、喜びと落胆があるからこそ、突き刺さるお春の言葉。
生まれなくて良かった、あんたの子供なんて。
23話からこれまでの人間関係が動いて行きます。
そして迎える最終回で、それは収束して行きます。



プロフィール

ちゃーすけ

Author:ちゃーすけ
癖の強い俳優さんや悪役さん大好き。
俳優さん、ドラマ、映画、CMその他、懐かしいもの、気になるものについて、長々と語っております。

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