人間なんてのは大体が嘘つきなんだよ 「暗闇仕留人」第24話

第24話、「嘘つきにて候」。


しじみ売りの少年・佐助は中村家でせんとりつに、「嘘をつくと閻魔様に舌を抜かれますよ」と叱られる。
ところが佐助は「この前抜かれた舌が、生えてきました」と言いのけ、せんに「子供の癖に末恐ろしい」と言われるような少年だった。
佐助のしじみを買ってくれる米問屋「備前屋」では、主人の大八が火事で焼け出された人々に食事を振る舞っている。

一生懸命働けば、お天道様は見ていてくれる。
必ず、報われる。
人間の本当の勇気は、人の為に何かができることだ。

その言葉を聞いた佐助は、大八に尊敬のまなざしを送る。
大八は先代の主人の妻のよねに、食事を運んでいく。
よねは気が触れたということで、座敷牢にいるのだった。

町で芝居小屋の為に絵を描いている貢は、大吉と外で飯を食っていた。
佐助が忠臣蔵の芝居の絵を見て、「ちぇっ。吉良の殿様はいい殿様なんだ。忠臣蔵の芝居は、でたらめだよ」と言う。
貢のところに来て、「ねえ、絵描きさん、あんた、嘘描くのかい?おいら、三州の生まれで知ってるんだ。吉良の殿様は良い殿様でね、赤穂の殿様はケチなんだよ!」と言う。

貢は笑って、「本当はそうだったかもしれないなあ。でも本当のことは本当のこと。芝居は芝居じゃないか」と言う。
描き直しなよと佐助は言うが、大吉も「固いこと言うんじゃねえよ」と笑った。
その時、数人のならず者に、若い女性が追われて来た。
女性は助けを求めるが、誰も助けない。

大吉に女性がしがみつくが、ヤクザ者は「余計なことするな」と言う。
佐助が「かわいそうじゃないか」とかばおうとするが、ヤクザに突き飛ばされ、足を強く打ってしまう。
女性はなおも逃げようとしてヤクザに捕まるが、貢も大吉も表立って目立ったことができず、見て見ぬ振りをするしかない。

その時、佐助の頭に、大八の「人間の勇気は…」という言葉が蘇った。
決心した佐助は天秤棒を持って、「やめろ!」とヤクザ者に向かって行った。
女性を逃がした佐助は、ヤクザ者に袋叩きにあう。
大吉が見ていられず、立ち上がった時、佐助は通りかかった大八に助けを求めた。

だが大八は無言で佐助を振り切ると、歩いていく。
佐助は叩きのめされてしまった。
貢が声をかけると、佐助はフラフラと立ち上がる。

大吉が「大丈夫か」と声をかける。
佐助は「大人なんて、大人なんて嘘つきだ!」と言って、絵に絵の具をぶちまけて壊す。
「嘘つきだ!嘘つきだ!」と言って、佐助は絵に絵の具をぶちまける。

その日、よねが食事を終えて、座敷に声をかけると、座敷牢の戸が開いた。
よねは牢から出ると町に出て「助けてくれ」と騒ぐが、大八が来て、「この女は気が触れている」とみんなに教える。
そして、やってきた十手持ちの虎松に袖の下を渡し、人を追い払わせると、佐助が来る。
大吉がそれを見ているが、虎松は佐助を殴って追い出す。

大吉が茶店で、おきんを見つける。
おきんに大吉が聞いたところによると、この虎松は十手は打ち出の小槌だと言い、十手をかさにきて金を巻き上げる男だと言う。
「あれは虎松ではなく、猫松だ」とおきんは言った。
大吉は佐助のことを心配していた。

主水が奉行所に戻ると、虎松が半年前の備前屋の、前の主人の殺しを調べ直していた。
備前屋を殺した犯人は、夜烏の三次という男で、この男は島抜けをしている。
虎松が再び備前屋に現れた時、表に佐助がいた。
佐助を覚えていた虎松は、追い払おうとする。

備前屋の人足の中に、三次がいた。
三次は虎松に「自分の話を聞いてくれ」、そして「手柄にするか、儲けにするか考えてくれ」と持ちかけた。
その夜、三次を連れて虎松が絵描きの留吉を訪ねて来た。
だが留吉は今、体を悪くして休養しており、代わりにいたのは貢だった。

虎松は、ならば貢でも良いと言って、人の顔を描いてもらいたいと言う。
そして三次を呼ぶ。
手ぬぐいを取った三次の顔を、貢は凝視する。

その翌日、佐助は備前屋に入ると、座敷牢まで踏み込み、しじみをばらまいた。
大八にもしじみをぶつけ、金はいらない、施しだと言って出て行く。
「ざまあみろ!」と言うと、「おいしそうなしじみだろう」と座敷牢のよねにも、大八にもぶつける。
奉公人に「なぜこんなことをするのか」と聞かれると佐吉は、「理由は旦那様に聞いてみろ」と言う。

その時、備前屋に虎松が来た。
佐助は虎松に自分を差し出しても良いと言うが、大八は「お前も気が済んだならお帰り」と言って、虎松に会いに行った。
あしらわれた佐助は、「ちぇっ」と言って見送った。

虎松は貢の描いた人相書きを手にしていた。
貢が描いたのは、この先代の主人殺しの三次だった。
この三次が島抜けして、大八に借りを返してもらおうと帰ってきていると虎松は言う。

三次の言う、借りとは何か。
実は先代の主人殺しは三次ではなく、本当は大八がやっていた。
三次は、このことをネタに、虎松と組んで、備前屋にたかろうというのだった。

その頃、よねの前で、佐助は「人間の本当の勇気とは、人様の為に何かできるということだ」と大声を出していた。
しじみをそっと回収しながら、よねは佐助の顔を見る。
虎松が大八に「よねに会いたい」と言った時、奥から大八を呼ぶ声がした。

すると、よねにしじみの殻剥きの小さな刃物を押し付けた佐助が現れ、「女将さんを返してほしかったら、大八が自分に頭を下げて詫びに来い」と叫ぶ。
虎松がどうしてほしいんだと聞くと、大八はとりあえず、よねを取り戻したいと言う。
それを聞いた虎松が、佐助の前に出る。

よねは「奉行所へ行きましょう」と言うが、佐助は大八に「出て来て謝れ!」と言って、しじみの殻剥きを振り回す。
「みんなの前で謝れ!」
やがて追い詰められた佐助は、自身番に立てこもった。

だがよねは、佐助から逃げたりしないと言う。
佐助は「女将さん、正気なんだね?気が触れてないんだね?」と驚く。
「初めから私と一緒に、奉行所に行ってればこんなことにならなかったのに」と言われると佐助は「大人は信用できない!」と答える。

自身番の前には、人が集まってきていた。
よねは佐助にはまだわからないだろうけど、「まじめ一方の番頭だった大八をあんな風にしてしまったのは、自分かもしれない」と言う。
大八はよねがほしいばかりに、備前屋の前の主人を殺したのだ。

佐助は「出て来い」という呼びかけに対して、大八が「一人だけで入って来い」と叫び、「大八の化けの皮をはがしたい」「それまでは出て行かない」と言い張る。
叫んでいる佐助の横で、よねは懐から小判を出し、佐助に「逃げて」と言った。
「逃げられるなら逃げて、幸せになってください」。
「女将さん…!」

見物人の中、貢もやってくる。
捕り方が大勢、やってきた。
それに感付いた虎松が、戸を破って入ってきた。

捕り方が来た脇を、佐助が逃げていく。
虎松は、「あの小僧ですよ」と捕り方たちに佐助が犯人だと教える。
自身番にいるよねに、大八が迫っていた。
大八は佐助が持っていた、しじみの殻剥きをよねから取り上げる。

貢と見物人たちが見ている前で、自身番から大八の泣き叫ぶ声が聞こえる。
よねに取りすがって、大八が泣いている。
「あの小僧、女将さんを殺しやがった」。

だが貢だけは何も言わず、ただ、眉をひそめて見ている。
同心がよねを殺した凶器であるしじみの殻剥きを取り、懐紙で血をぬぐう。
貢はますます、眉をひそめる。

その夜、町には捕り方が溢れた。
大吉の家に戻って来た貢が「おーい、石屋」と声をかけるが、中は暗いままだった。
すると、家に上がった貢の後ろから「灯りをつけるなよ!」と佐助が布団をはねのけて現れる。
「お前、三州の小僧だな」と、貢が冷静な声で言う。

「そんなこと、どうだっていいや!」
「お前、大変な騒ぎを起こしたな。外に出ないほうがいいぞ」。
そう言った時、大吉が鼻歌を歌いながら戻って来る。
佐助が、土間の作業部屋に走っていく。

人の気配に気づいた大吉が「誰だい」と声をかけると、貢が「ああ、私だよ」と答える。
「糸さんか、脅かすんじゃねえよ」と言って家に入った大吉に佐吉が「し、静かにしろ」と言う。
「なんだい、こりゃあ」。

「うん?例のしじみ売りの小僧さ」と、貢が笑う。
大吉も佐助を見て、「なぁんだ、おめえかぁ」と笑う。
灯りをつけようとした貢を見て、「つけるな。つけるとこいつの命ねえぞ」と大吉を刺す振りをして言うが、大吉は「ああ~、つけたってつけなくったって同じなんだよ」と笑う。
「おめえは、えれえことやりやがったなあ」。

灯りをつけている貢に、佐助は悲壮な声で「つけるな。つけるなよぉ~」と言う。
明るくなると佐助は「ひっ」と言って、顔を伏せる。
「おめえ、備前屋の女将さん、殺したんだってなあ」。
それを聞いた佐助は大吉を振り返って「ええっ?女将さんを?!」と言った。

「おいらが?」
「私ゃ、見たんだよ」と貢が言う。
「嘘だ!」
「嘘じゃない。女将さんはな、お前が持っていた殻剥きで刺されて死んでたんだよ」。

「おいらがやったんじゃない。おいらじゃないんだ。そんなはずないんだよ。だって女将さん、おいらに逃げろってお金までくれたんだよ」。
佐助は、よねに貰った金を見せる。
「しかし、備前屋と岡っ引きが踏み込んだ時、女将さん、もう死んでたんだぞ」。
だが佐助は「おいらがやったんじゃない。おいらじゃないんだよ」と言い張る。

「糸さんよ、あんた見たんだろう」と大吉が聞く。
「ああ」。
そう言うと貢は、佐助を見る。
「しかし、女将さんが殺されるところを見たわけじゃない」。

大吉は佐助に、なぜ、女将を自身番になど引き込んだのかと言うが、佐助は「そんなつもりじゃなかった」と言う。
人様の為に何かができる人こそ、勇気のある人だと大八は言ったのに、佐助が困っていた時、知らん顔をして行ってしまった。
貢も大吉も、それは見ていたはずだ。
大八は嘘つきだ。

「嘘をついたぐらいで、あんな大それたことをしたのか」と貢が言う。
「だって!」
貢は「人間なんてのはな、大体が嘘つきなんだよ」と言い、「人のことには関わりたくねえや!」と大吉は苛立つ。

その時、表からおきんの「よっ、八丁堀!」と言う声がする。
主水がずっと、大吉の家の表で話を聞いていたのだ。
佐助は怯えるが、主水が入ってきながら言う。
「小僧、外出るんじゃねえぜ。御用提灯がウロウロしてる」。

大吉は佐助が嘘ついてるとは思えない、何とかならないかと聞く。
しかし、虎松が見ていると言うし、証拠も揃っている。
佐助の無実を証明するのは、難しそうだ。
それを聞いて、佐助は大声で泣き始めた。

「おいら、もう、どうなってもいいや!でも…、おいら、何もしちゃいねえんだよ。おいらがあんなことしたばっかりに、女将さん死なちまった。おいら、おいら、申し訳なくて!」
しかし、佐助は本当にやっていない。
本当にやった奴を探し出してくださいと言って、佐助は頭を下げた。

佐助は主水によねがどこにいるか聞くと、主水は「自身番だ」と答えた。
「謝んなくっちゃ…」と言うと、佐助は「これ、置いてきます」と貰った小判を置いて外に出る。
主水がその包みを突付き、「4両へえってるぞ」と言った時、おきんが早くしないと佐助が捕まってしまうと叫んだ。
「おい、坊主!」と主水が追っていくが、佐助は「放っておいてくれよ」と走っていく。

佐助はその足で「女将さん、おいらだよ!」と言いながら、自身番に飛び込む。
主水が戻った時、自身番には虎松がいて、土間にはムシロをかけた佐助の遺体が置いてあった。
座敷にはよねの遺体と、寄り添う大八が座っていた。
虎松によると佐助は血迷って、今度は大八にまで向かって行ったのだと言う。

手こずったが、所詮は子供。
一発でぽっくりと、と、虎松は十手を拭きながら、「まあ、これも御上のご威光ってやつですかねえ」と言う。
佐助は十手で殴り殺されたのだ。
主水は黙って、ムシロを元に戻す。

大吉の家で、戻ってきた主水の話を聞いて、大吉はどうも佐助がやったとは思えないと言う。
その横で、貢は絵を描いている。
主水は大八がよねを殺す意味があるのかと、疑問に思っている。
貢が描いていたのは、虎松が連れてきた男の人相書きだった。

それを見た主水は、三次だと気づく。
全員が驚き、虎松と三次がグルだったことがわかる。
大八がよねを殺したわけが、これでわかった。

「そうか。あの小僧、誰もやったわけじゃねえんだな」。
「そうだろう、だから俺が言ってるじゃねえか!小僧の置いて行った銭だ!」
大吉が佐助の置いて行った小判を投げ出す。

さっそく、その夜、備前屋で部屋にいる大八の元に女中が、河岸の蔵に来てくれと言う人がいると知らせに来た。
これを見ればわかると言って、大八が渡されたのは、貢が描いた三次の人相書きだった。
虎松も三次に、大八が用があるからということで、河岸の蔵に呼び出されていた。
三次にかぶせた濡れ衣のことで、大八が金を出すのだと思った2人は笑っていた。

大八が蔵の鍵を開けていると、表で女が歌う声がする。
何かと思った大八が表を見に、ほんの少し、蔵の前を離れた時、貢と大吉が蔵に入る。
歌っていたのは、おきんだった。

大八を見ておきんが笑う。
おきんを見て、大八は蔵に戻り、暗い中に灯りをともす。
表で虎松が合図をすると、大八が蔵の中から戸を開けに行く。

虎松と三次が、蔵に入ってくる。
そして、大切な用とは何かと聞く。
大八の方が虎松と三次が、自分を呼び出した用は何かと聞く。
不審に思った大八が貢の描いた人相書きを見せると、虎松が自分が持っている人相書きを出して、同じものだと言う。

どうもおかしい。
だが今はそれより、金の話だと虎松と三次は言う。
三次に罪を着せて島送りにしたのだし、よねの殺しもある。
大八がいくら出すかと話をしている陰で、米俵に米を確かめる為の竹筒が差し込まれ、さらさらと米粒がこぼれ出す。

その音に大八が、気づく。
大八が金の話をごまかしているのかと思った虎松と三次だが、大量にこぼれ出した米粒の音に2人も気づく。
三次の後ろに、人影が映る。

「だ、誰かいやがるな」。
影が見えなくなる。
「誰もいるはずはない」と大八は言う。
しかし、三次と虎松は蔵の中を探しに行く。

米俵が積まれているだけで、蔵は静寂に包まれていた。
だが、三次の耳には、胡桃のすり合わせる音が響く。
しかし虎松が米粒がこぼれている俵を見つけ、三次に「これだよ」と声をかける。
一瞬、ビクッとした三次に虎松が「誰か細工しやがった奴がいるはずだな」と言う。

三次は匕首を手に、虎松は十手を手に、探し始める。
大八は座って竹筒を手に、2人を待っていた。
ピンという、貢が矢立の仕掛けを押す音がして、大八が顔を上げる。

匕首を手に、三次が進んでいく。
貢が突如現れ、三次をつかんで、大八の方に突き飛ばす。
大八が握っていた竹筒に、三次が刺される。

血に染まった竹筒を手に、大八が震え、竹筒を投げ出して逃げる。
大八が走ってきたところを、大吉が捕える。
目の前に迫る大吉の手を、必死になった大八が握って押さえる。

すると、グキリという音がして、大八の指が握りつぶされる。
目の前で胡桃が砕かれて、落ちて来る。
大吉が心臓をつかむ。

虎松は1人、蔵の中を進む。
ふと覗き込んだ先に、主水が歩いているのが見える。
驚いた虎松は、頭を引っ込める。

十手を持ったまま、歩いていくと、俵の陰に三次が倒れているのが見える。
虎松が駆け寄るが、三次が死んでいるのを見て、怯える。
貢の矢立の音がする。
虎松が、辺りを見回す。

そっと進んでいく虎松の前に、突然、貢が現れ、虎松の目に向かって矢立を振るう。
虎松が悲鳴をあげる。
貢が刃を収める。
目を押さえて虎松は走り、大八の死体につまづく。

手探りで大八の遺体と知った虎松は、声にならない悲鳴をあげながら戸口に走る。
必死に戸を開けようとしていた時、主水が虎松に近づく。
虎松の背中から、一気に刀を振り下ろす。
悲鳴をあげた虎松を、今度は正面から斬る。

仕事を終えた主水が振り返る。
貢がいる。
おきんが蔵の前を走っていく。

大吉は妙心尼に鐘がつきたいと言った。
その為に、1両持って来ていた。
主水が戻ると、せんとりつがツンツンしながら出て行く。

貢は再び、芝居小屋でかかる見世物の絵を描いていた。
鐘をつく大吉の手に、妙心尼が自分の手を添える。
2人は顔を見合わせ、笑って一緒に鐘をつく。



佐助に、すごく見覚えがありました。
すごく懐かしかった!
金子吉延さんですね。
「仮面の忍者 赤影」「河童の三平 妖怪大作戦」「どっこい大作」。

佐助、しじみ売りの少年、というより、まだ子供。
出かけていく主水に「旦那様、いってらっしゃいまし」と丁寧に挨拶するところがわざとらしくておかしい。
貢に芝居が嘘だと言って、描き直しなよと言うのでわかるけど、融通の利かないところがある。

しかし、部屋にしじみをばらまくぐらいなら、「こらー!」でお客さんを1人なくすだけだった。
何でよねを人質にしちゃったんだー!
ばかばかー。

だけど、佐助がよねに謝りに走るところは、純粋でかわいそう。
よねはもう、死んでいるのはわかったけど、佐助が殺されているのはショック。
どっこい大作が殺されてる~。

虎松役も、すごく懐かしい。
潮建志氏です。
「悪魔くん」のメフィスト、そして何と言っても「仮面ライダー」の地獄大使!

この人に似ている人を、私は知っている。
小学校の時、近くに住んでいた人だけど。
10年ほど前に小学校を訪ねたら、この人の家はまだあった!
その人はとっても気が弱い人だったけど、まだここに住んでいるんだろうかと思った。

貢と大吉が、芝居小屋の外で一緒にいるのが、個人的におもしろい。
よく一緒に遊んでるな~と。
佐助が街のヤクザにやられているのなんか、大吉は本来なら止めたかったと思います。
頭に来た佐助が「嘘つきだ!」と言って、貢の芝居小屋の絵をメチャクチャにするのを見た貢の「あちゃー」って顔がおかしい。

大吉の家に来た貢、暗い大吉の家を見て、「なんだ、『なりませぬ』の最中じゃないだろうな」って言う。
まじめな貢の言葉だからおかしい。
「あがるぞ!」と暗い中、上がりこんだ貢は散らかっていた茶碗につまづく。
「ああ~、汚ねえ奴だなあ」と言うのも、地味におかしい。

貢、それでも崩れた茶碗を元に戻していると、後ろから佐助が現れる。
それで、佐助をまともに扱わない貢。
さらに家にいるのが佐助だとわかると、「なーんだ」って感じの大吉。

そうだよね、当たりは柔らかくても、殺し屋なんだから、佐助が怖いわけはない。
佐助の話を聞いていると、おきんが来て、表で主水が聞いているのがわかるのも上手い。
「人間なんてのは大体が嘘つきなんだよ」と、貢が話す。
貢は頭がいいし、大人だから、そういうものも許容する懐の深さがある。

仕留め仕事では、蔵の中、佐助を追い詰めた男、殺した男を散々、怯えさせる仕留人たち。
さらさら、さらさら、米が流れる音が不気味。
ここのシーン、殺人鬼が潜む蔵で、エジキになる被害者のシーンに思えるほど、緊張感があって怖い。
まさに「暗闇」仕留人。

貢が手を下すのではなくて、三次は大八に刺される形になるのが意表をついてます。
意外にも、大吉の手を押し留めようと奮闘する大八。
でもその指が折れるから、すごい。

虎松が見ると、蔵の闇の中、主水がふっと見えて消えるのが不気味。
場違いなところに、場違いなものが見えるって怖い。
静寂の世界で、貢の矢立の、ピンという音が効果的。

いつ、どこから仕留人が来るか。
そして突如現れ、襲い掛かる貢が、虎松の目を封じる。
結構、残酷。

逃げる虎松が遺体につまづき、パニックを起こす。
そこを主水がバッサリ。
仕留めシーンは潮氏の動きがメインで、潮氏の演技がこのクライマックスを支えている。

最後におきんが、仕留めが終わった蔵の前を走って行く。
大吉が妙心尼に鐘をつきたいというと、妙心尼が何か勘違いして横たわるのがおかしい。
ちゃんと代金として、1両持ってくる大吉。
2人で鐘をついているのが、微笑ましい。

その鐘が響く中、せんとりつにツンツンされる主水が対照的に映る。
絵を描いている貢も映る。
佐助と、よねの供養になる鐘の音の中、ほのぼのして終わります。


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俺、絶対に許せない 「スペシャリスト 」

青い美しい蝶々が飛ぶ。
蝶々は刑務所の鉄格子を越え、1人の男の肩に止まる。
蝶々だけが鉄格子を越えて、外に出る。
まるで、ここに自由がないことを、思い知らせるために現れたような蝶々だった。

いや、蝶々に悪気はない。
無邪気な蝶々は自由の象徴だ。
蝶々が止まった男は、宅間だった。

『俺はまた、ここに戻ってきた』。
宅間は再び、関東の刑務所に服役していた。
『ここには何もない』。

『自由も権利も、日常の平和で退屈な生活も。何も』。
『同時にここには、すべてがある』。
宅間は、刑務所の運動場を見る。

『人間社会で起きる、あらゆるわずらわしさ。悪意。たくらみ。そして犯罪に繋がる心がある』。
受刑者同士のケンカが始まる。
宅間の目にはその2人の名前、罪状、懲役が見える。

スペシャリスト、第1回。
10ヶ月前。
3月14日。

備品管理室に、大きな荷物を持って1人の女性刑事がやってきた。
我妻真里亜。
迎えたのは、警視庁警備局警備対策官・滝道博喜。
我妻を見て、「元ミス警視庁!」と歓迎する。

「写真よりかわいいし」。
「そういう言い方って、セクハラになるんじゃ」。
真里亜がムッとする。
「じゃあ、肩もんであげたりしたら死刑か」。

滝道の言葉に言い返す気も失せた真里亜は、辺りを見回した。
備品管理室というだけあって、いろんな備品が雑然と置いてある。
ほとんど、物置だ。

「あの、部署の名前がまだ決まっていないようですが」。
「ああ、急ごしらえだからね!でもどんなことをやるかは聞いているでしょう」。
真里亜はきりっと起立すると、一気にまくし立てる。

「ボーダーレス化する凶悪犯罪に対応するため、縦割りの組織を超えて円滑な捜査ならびに情報の収集をするチームと聞いていますが」。
滝道も言う。
「ここに1人の男がいる」。

資料を見る。
そこには、1人の男のプロフィールが書かれている。
「宅間善人巡査部長」。

「君の相方」。
「…と言うか、この部署は、この男のために作られたといっても過言ではない。ちなみにこの男、刑務所に服役していた」。
真里亜が、ちらりと滝道を見る。

「そういう冗談、苦手なので」。
「優等生なのに応用力ない!?ああ、ゆとり世代か」。
「元犯罪者が、刑事になんてなれるわけありません。それより他には、どなたがいらっしゃるんでしょう?」

「どなたが、って君とこの男と2人で全員」。
真里亜が目を丸くする。
「こ、困ります、そんな!刑事だか犯罪者だかわからない、得体の知れない男と2人っきりだ何て!」

「またまたぁ。刑事だか犯罪者だかわからないなんて、ひどいこと言うよねえ」。
滝道の声ではなかった。
声がした方に、ソファがある。
毛布が動き、はねのけられる。

その下から、宅間が起き上がる。
「いるならいるって、教えてください!」
うろたえた真里亜が、滝道に抗議する。

「さっきここに1人の男がいるって言ったよね~?」
ソファから起き上がった男がやってくる。
「得体の知れない男、宅間です。よろしくね」。

怒っている?
呆れている?
宅間の表情からは、何の感情もつかみ取れなかった。

野方希望刑事が、書類を持ってやってくる。
彼は捜査一課所属だが、1課で手に余った事件をここに持ってくる。
滝道に伝書鳩と言われ、僕はあくまで1課の人間ですからとつぶやく。

書類を受け取った滝道は宅間に「名刺代わりに解決したりしてくれる?」と依頼した。
だが宅間は「我妻さんだって?任せた。俺基本的に、仕事しない人だから」と言って歩いていく。
「ああっ、宅間君!」
あわてて、滝道が引き止める。

部屋に置いてあるお菓子を指差し、「ほらこれ見て、このお菓子好きでしょ?」と叫ぶ。
「娑婆でしか食えないお菓子、これあげるから!」
「はい、この事件も上げるから!」
宅間がやっと、書類を開く。

真里亜が覗き込む。
「何なんですかこの現場」。
「動機?ミステリーだらけの犯行現場、って感じ?」
宅間がニッコリ笑う。

真里亜が宅間のプロフィールを見ている。
「京都府警本部、広報課に配属?最初は刑事じゃなかったんだ」。
『10年前、京都神社で殺人事件が発生』。

『スパナを握った宅間が逮捕され、無実の訴えも空しく服役』。
『服役中、宅間はあらゆる犯罪者の技能、犯行の手口、動機を頭の中にインプット』。
『10年後、被害者が意識を回復』。
『冤罪であることが判明』。

『宅間の扱いに困った警察は、宅間を特別捜査係として刑事として復職させた』。
『宅間は難解な事件を次々解決』。
「どうしてそんな人が…」。

すると、野方が声をかける。
「あのう、宅間さんがエントランスでお呼びですよ」。
「あっ、はい!」

呼ばれて向かった現場は、戦前から続く資産家・新宮司家の当主が殺された事件現場だった。
執事の君原が対応。
続いて出てきたのは、新宮司の妻、朱子であった。

現場の部屋に通された宅間は、「すっごい部屋だね」と言って見回した。
「あっ、何これ~」。
宅間は、精巧に作られたジオラマに飛びつく。

「あのこれ、走らせて良いですか?」
そう言うと、ジオラマの列車を走らせた。
「すげえ~!」

だが列車は、ぷつりと止まった。
真里亜がスイッチを切ったのだ。
そして、宅間をにらみつける。
「あっ。こわ。すっごい顔だね」。

新宮司家では事件の日、先代の命日であり、内輪の食事会が開かれることになっていた。
お客は、ライターの横内。
執事の君原の娘・清香。

だが時間になっても、当主の直兎は現れなかった。
声をかけるが、部屋から返事は帰って来ない。
ドアを破ると、部屋の奥には首を吊った直兎がいた。
気絶しかかる朱子に君原は、横内と、弁護士の近藤竜行を呼ぶように言った。

宅間は、この事件の特徴を次々に指摘していく。
まずは1つ目、密室。
そして十二支の人形が置かれ、兎の置物はすっぱり、首を切られていた。
つまり、2つ目、見立て。

そして、酉年の人形は被害者の直兎が握っていた。
3つ目、ダイイングメッセージ。
先ほど、宅間がはしゃいでいたジオラマ。
ジオラマには、台風で欠航と張り紙があった。

つまり、どこにも出られない。
クローズドサークル。
これが4つ目。

床に落ちていた首の部分で切られていた兎の置物は、首なし遺体を表している。
これが5つ目。
直兎の死因は脳虚血だった。
背中のナイフの傷は死後のもの。

宅間は壁にかかっている絵に注目した。
「ずれてるね」。
絵を動かすと、下から鍵が現れた。

朱子が驚く。
「これ、開けられますか?」
「いえ、知りませんでした」。

「古いから簡単だね」。
「あの、ちょっと!」
言うが早いか、宅間は鍵をいじる。

「あ、開いた」。
「やっぱりそうか。そうそう、俺が雑居房で一緒だったバルやんの話だけど…」。
唖然とするみんなを前に、宅間は話し始める。

「雑居房?」
君原が何かの聞き間違いかと思って、言葉を繰り返す。
宅間が言うバルやんと言う男は、寺から仏像を盗んだ。
だが住職は情け深く、犯罪にしないようにとりはかろうと、仏像はあげたものだと言った。

「バルやん、宿無しで刑務所に入りたかったんだよね」。
「時に人は、犯罪じゃないのに犯罪にするってこと」。
「そうですよね、君原さん?」

宅間はたちまち、直兎が入った生命保険の証書を見つけ出す。
受取人は執事の君原。
自殺の免責がなくなる、1年経過を待って、この事件は起きた。

直兎はかつて、小説で新人賞を受賞したが、その後はまったく書けなかった。
つまり…。
直兎は自殺。
ではなぜ、君原が受取人なのか。

顧問弁護士と思われた近藤は、新宮司家の直兎の弟であった。
君原の娘、清香は重い肝臓病で生体肝移植が必要なこと。
しかし生体肝移植は、「親族間のみ」できるため、海外での移植手術しか手段はなかった。

それには莫大な費用が掛かる。
直兎が死ねば、遺産は妻の朱子、そして弟に権利があるのでは?
さらに近藤は朱子を狙っていた。
これが意味するものは?

君原は近藤の犯行を知っているのに、娘を人質に取られて口をつぐんでいるのではないか?
さらにライターの横内が自殺した。
横内は末期がんであり、母親を高級老人施設に入居させようと思っていた。
つまり、彼もまた、莫大な費用を必要としていたのだ。

真里亜は、密室トリックの解明に取り掛かる宅間に呆れる。
もともとは、宅間が直兎は自殺だと言ったのだ。
「犯罪を犯した人間が捕まらずにのうのうと生き延びているなんて、俺、絶対に許せない」。

宅間の声だった。
その声には、いつものような笑いがなかった。
地の底から響いたような声だった。

だが、丸っきりの正義の声でもなかった。
怨嗟と、怒りと、得体の知れない何かがあった。
声の異様さに真里亜が思わず、宅間を見る。

「今、ドキッとしたでしょ?」
宅間がニッコリ笑った。
それは先ほどの声の主とは思えない、おちゃらけた宅間だった。

宅間の声に、驚くなんて。
この人は自分をからかっているだけなんだ。
そのからかいに乗ってしまったと思った真里亜は「礼儀として驚いてみせただけです!」と言う。


目が離せないテンポで進むストーリー。
明らかになる事実。
二転三転する展開。

クセモノ揃いの登場人物。
それを飄々とさばいていく宅間。
飄々としている宅間は、本当の姿なのか?

真里亜がギクリとした、時折見せる宅間の別の顔。
はまったと思ったワナだったが、宅間が「わざとはまった」ことがわかる。
その理由も。
効果も明らかになる。

助けに入るのは、京都府警で宅間と一緒に仕事をした仲間たち。
一番肝心なところで現れ、拍手喝さい。
宅間の才能が、危機一髪の相方、真里亜を救う。

「宅間さん、どうして…」。
なぜ、宅間が助けに来られたのか。
「わかるんですよ、俺。10年入ってましたから」。

関東の刑務所に入って、関東の犯罪者の情報もインプットできたしと言う宅間。
でも姉小路はわかっていた。
服役は、朱子の犯罪を止められなかった宅間の、罪滅ぼしだったのだ…。

「何なんですか、この人たち」。
事件解決後、新しいメンバーとしてやってきた姉小路たちを前に、呆然とする真里亜。
「うーん、何なんだろうね」。
とぼける滝道。

だが宅間は密かに、調べていた。
パソコンを開く。
USBメモリを手にする…。

そして、滝道の手にもUSBがあった。
真里亜が滝道に聞く。
「ひとつ聞いても良いですか」。

「この部署は『我々』と何か関係があるんですか?」
滝道が真里亜を見る。
「そのことは、口にしないほうが良いよ…」。
滝道の声もまた、笑いが少しもない声だった。

宅間の前に蘇る過去の事件。
『オタクが、我々の存在に気づいちゃったから』。
『わ、我々の存在…。気をつけるんだ…』。
宅間がまだ知らない、闇が存在している。

もう、ワクワクするような展開でした。
これまでのドラマを見ていたら、すごく楽しい。
見ていなくても大丈夫。
これはこれで、すごくおもしろい。

草なぎさんの演技も冴え渡る。
ガッツリ受けるのは、吹越さん。
お互い、軽くつきあっているようで、闇を抱えている。
この演技合戦、水面下の探りあいも見ごたえある。

昔の「相棒」や「臨場」が好きだった人にも、お勧めしたい。
私の母も叔母もこの草なぎさんを見て、「この子、良いねえ」と言う。
「演技うまくなったね」。
「この子は、前からうまいよ」。

この子、この子ってすみません。
「こういう役は長くできる役」。
「良い役もらったねー」。

「この子は丁寧に演じている」。
「だからこういう役が回ってくる」。
「この子だけは見分けられる!」
ははは。

犯罪者への怒りが、未解決事件のナビゲーターをしていた草なぎさんに重なりました。
楽しみなドラマ。
長く続いてほしい。

中村梅之助さん

中村梅之助さんが、おなくなりになりました。
時代劇専門チャンネルで、1月17日から日曜日夜11時に、「真田太平記」が放送されていますね。
「真田太平記」は以前にもちょっと書きましたが、キャストがすごく良かった。

特に私が好きだったのは、忍びのおごう。
遥くららさんが演じていました。
幸村を愛するおごうは、幸村、忍びの頭領が死んだ後は仲間を率いて幸村の家族を守る。

おごうに恨みを持つ敵方の忍び、石橋蓮司さんが執拗におごうを追う。
そして、徳川家康を演じたのは、中村梅之助さんだった。
この家康が、すごく狸オヤジだった。

大河ドラマの崇高な理想を持って、戦国の世を終わらせた家康とは別人のよう。
最後に幸村の投げた槍だったか。
それがスレスレに刺さって、すごくビビる姿も良かった。

時代劇専門チャンネルで、「遠山の金さん」を放送しています。
子供だった頃にはわからなかったんですが、梅之助さんって二枚目だったんですね。
金さんは杉良太郎さんがカッコよかったなあと思っていたんですが、梅之助さんの金さんがすごく良い。

去年、この放送を記念して時代劇専門チャンネルの「オニワバン!」に出演してくださいました。
お年を召されましたが、粋さや漂う色気や時代劇への熱い思いはそのままという感じがしました。
捕物などでも、ずいぶん、私も私の親から祖父祖母の代まで楽しませていただきました。
ご冥福をお祈りします。

おもしろかった~

今回もおもしろかった、「スペシャリスト」!
結構、大事なこと言ってたと思います。
帰宅して見直します。


一生許さない

「雪の奴、一生許さない…」。
そうつぶやいていた、あなた。
月曜日…、大切な用事があったのね?


英雄と悪魔 「アメリカン・スナイパー」

「人間は生きているうちに、殺したいほど憎い奴に出会うことがある。だが普通の人は殺さない殺せない」。

「こいつにも親がいる惚れた男か女かいる。そう思うとそいつが人間に見えて、だから人間は人間を殺さない!そして殺せない」。

「だがこいつは違う!こいつは憎くもない人を弱い人を選んで刺し殺した。なぜそんな事ができたか!それはこいつが人間じゃないからだ!」

「おめえもしっかり踏みとどまって戦え、人間なら!」

NHKのドラマ「リミット 刑事の現場」で、通り魔に対しての主人公の言葉です。
いわば「人間の証明」。
「怪物」ではなく、「人間」であることの証明。

しかしこの論理が通らない世界がある。
それが戦場だ。
戦争だ。

敵であるだけ。
何の恨みも関係もない相手を、殺す。
クリント・イーストウッド監督。
「アメリカン・スナイパー」。

狙撃手・クリスが護衛を1人つけ、部隊を援護している。
部隊に対して攻撃する者を見つけ、狙撃し、仲間が犠牲になることを阻止する。
この時、クリスの標的内にいたのは、子供だった。

男が倒れている。
その男の傍らに、ロケットランチャーが落ちている。
子供が近づく。

クリスがつぶやく。
「拾うな」。
だが子供は、ランチャーを手に取る。

「拾うんじゃない」。
子供はランチャーのベルトを、肩にかける。
クリスは子供に狙いを定めながら、つぶやく。
「捨てるんだ」。

子供でも、武器があれば大量の仲間を殺せる。
それはもう、立派な戦士なのだ。
仲間を守るためには、これを倒さなければならない。
犠牲は押さえなければならない。

「拾うな、クソガキ」。
そう言いながら、クリスは子供に狙いを定める…。
子供はランチャーを市街地に向ける…。

クリスは父親から言われた。
人間には3つの種類がいる。
羊と狼と、番犬だ。
お前は番犬になれ。

弱い者、羊。
ならず者、狼。
弱いものをならず者から守る者、番犬。

だからクリスは、海兵隊に入隊した。
そして今、クリスは子供を標的に捉えている。
クリスの指が、撃鉄にかかった…。


今、すぐにはレビューができない。
それほど、この作品は衝撃的だった。
彼は仲間からは「英雄」と称えられた。
敵からは「悪魔」と憎まれた。

クリント・イーストウッド監督の戦争を語る目は、いつも公平だと思う。
硫黄島の激戦を、日米双方の視点から描いたことでもわかる。
「父親たちの星条旗」で、アメリカ側から。
「硫黄島の手紙」で、日本側から。

この作品もなかなか、レビューが書けない。
イーストウッドは、答えをこちらにゆだねる。
答えは、ひとつではない。

そのイーストウッドが、伝説の狙撃手を描いた。
ただの反戦映画でも、アメリカ賛美映画でもないと思う。
イーストウッドの描く正義も、ひとつではない。


昨日と言う日のねえあっしには 「続・木枯し紋次郎」

「おいっ、そこの三下っ!耳がないのかよっ!おいっ。何とか言えってんだよ!」
女の怒鳴り声が響く。
野次馬が集まってくる。

おもしろそうな顔を露骨にした男、軽蔑のまなざしの女。
その先に酒でべろべろに酔った女と、それを止めようとしている妹がいた。
「姉さん」。
「うるさいね!」

姉さんと呼ばれた女は、お鶴。
妹は、お縫といった。
先ほどから紋次郎に絡んでいるのだ。
「あたしにゃ返事もできないってのかい!どうなんだい!うんとかすんとか、言ったらどうなんだい、この唐変木!」

「姉さん、いい加減に」。
「うるさいね!お前なんか出る幕じゃないよ!」
「旅がらす、声を賭けられたら返事ぐらいしたら、どうなんだい」。

だが紋次郎は黙々と、そばを食っている。
「ふん、ちくしょう。女だと思ってなめやがって!それとも何かい、このお鶴さんが年増なんで心底バカにするつもりかい!」
「姉さん」。

妹が心底、困惑した表情でとめようとする。
「うるさいね!何とか抜かせって言ってんだよ!」
お鶴が着物の裾を乱して、紋次郎を蹴った。

その拍子に、紋次郎の太ももにそばが掛かった。
周りの人間が息を呑む。
しかし紋次郎は平然とそばを食べ終わると、長楊枝をくわえ、立ち上がった。

「えい!」
今度はお鶴は、酒を撒き散らした。
「姉さん!」

「さあ怒れ、悔しかったら怒ってみな!」
だが紋次郎は、お鶴を見ることもしなかった。
「人を小ばかにしやがって。畜生、怒る気もないのかい!」

お鶴はますます苛立ち、地面に持っていた徳利を叩き付けた。
徳利が割れて、紋次郎の足にその破片が刺さった。
さすがに紋次郎の表情が、しかめっ面に変わった。

「さあどうだい、怒ってみな!怒る気になったかい!怒る気になったらこのあたしを、どうにでもおしよ、さあ!」
「殺しておくれ!一思いにざっくりやっておくれよ!」
紋次郎が初めて、口を利いた。
「そんな死にてえなら、川へでも身を投げたらどうですかい」。

お鶴はますます、頭に血が上った。
「何言ってんだい、女1人斬る度胸も持ち合わせていないのかい!」
そう言うとお鶴は、紋次郎の足元に座り込んだ。

「あっしは、女子供を斬るドスは持ち合わせていねえで」。
そう言って、足に刺さった徳利の破片を取る。
傷口から、血が流れた。

「ふん、じゃ、何かい。相手が女だったら、どんなことされたってドスは抜かないってのかい!」
「ごめんなすって」。
紋次郎は立ち去ろうとする。

するとお鶴は「殺してくれって頼んでるんだよ」と、紋次郎の足にしがみついた。
「堪忍してやってください」。
妹のお縫が詫びる。
「姉さん、嫁ぎ先からわけもわからず追い出されて、ヤケになっているんです」。

「あっしには、かかわりのねえことで」。
紋次郎の顔が、笠の中に隠れる。
お鶴は泣き崩れた。
妹のお縫は、遠ざかる紋次郎の後姿をじっと見詰める。

次の朝、早発の紋次郎は宿の女中にどこへ行くのか尋ねられた。
「当てのねえ旅さ」。
女中は松山道の街道は避けたほうが良い、渡世人は目の仇だからと言う。

「珍しいこっちゃねえ」。
すると女中は、そうではないと言った。
駒川の大谷村の利助親分の身内が、何のゆかりもない者を10人殺したのだ。

それも大抵の殺し方じゃない。
耳をそいだり、ずたずたにして殺している。
それを聞いた紋次郎は、違和感を覚えた。

大谷村の利助という親分は、たいした器量の親分だと聞いている。
その親分が、素人相手にそんなことをするものだろうか。
女中が言うには、利助には八五郎、仙造、吉兵衛の3人の代貸しがいる。
その中の誰かが、やらせているらしい。

「代官所には訴えねえのか」。
女中は、10人が10人、誰にやられたかはっきりとした証が立てられなければ、代官所は動かないと言う。
紋次郎がこれから行く埼玉県駒川の天領は、幕府直轄の領地だ。
代官所のような警察力は、ないに等しかった。

紋次郎が街道を行くと、人だかりがしていた。
そこにはお花という、15になったばかりの娘が、無残に殺されていた。
紋次郎が通りかかると、百姓たちは憎悪の視線を向けた。
だが紋次郎は、スタスタ歩いていく。

その先に、昨日の姉妹がいた。
お鶴は駕籠に乗せられて、眠りこけていた。
紋次郎に気づいたお縫が「旅人さん。昨日はすみませんでした」と言った。

「旅人さんに散々悪態ついて。今朝こんなざまなんですよ」。
お縫は、駕籠の中で眠りこけているお鶴を見せた。
紋次郎はちらりと見て、「よほど急ぎ旅のようですね」と言った。

「女連れが渡世人の足より先とは、夜旅をなすったんでございますね」。
お縫の顔色が、わずかに変わったように見えた。
だがすぐにニッコリと笑みを作り、「ここらの風は渡世人には冷たいところです。早くお戻りになったほうがいいですよ」と。
紋次郎は頭を下げた。

その先で、2人の渡世人が百姓を殺していた。
「何も見なかったことにしちゃくれねえか」。
兄貴と呼ばれた男の方が、紋次郎にそう言った。

「大谷の利助親分のお身内衆ですかい」と、紋次郎が言う。
「どうやら、11人目の死人が出たようですね」。
それを聞いた2人は、目の色を変えた。

「兄貴、こいつは生かしておいてはいけねえ」。
2人は襲い掛かってきた。
しかし紋次郎はあっさり2人を交わすと、ドスを弾き飛ばした。
ドスは、兄貴分の足の間に刺さった。

2人は震え上がった。
「何も見なかったことにいたしやしょう」と紋次郎は言った。
「あっしの知ったこっちゃねえからですよ!」
紋次郎は合羽を翻して、去っていく。

夜の峠越えにろうそくが切れたので、紋次郎は一軒の百姓家に声をかけた。
だがそこの家の女房とせがれが、渡世人に殺されていた。
大谷の、利助親分の身内の仕業だ。
誰も見たわけじゃないが、そうだろう。

とても成仏できそうにもない、むごたらしい殺され方だった。
その家の主人はまだ葬式を出すこともできず、渡世人の姿を見ただけで殺してやりたくなると言った。
紋次郎は頭を下げて、立ち去った。

翌日、2人の年寄りが家から引きずり出され、殺されているのが見つかった。
南の村の百姓たちは集まり、こうなったら、自分たちで渡世人を殺すしかないと言った。
そこに紋次郎が通りかかった。

手に鎌や鋤や鍬を持った百姓たちだが、紋次郎のドスを見てひるんだ。
この騒動を昨日、殺しを紋次郎に目撃された男2人が、草むらに潜んで見ている。
紋次郎は言った。
「ドスを抜くつもりはござんせん」。

「だまされるんじゃねえ。ドスを抜かねえはずがねえ!」
「案ずることはござんせんよ。手向かいは、いたしやせんからね」。
「どうしてだ!」
「堅気衆に向かって抜くようなドスは、持ち合わせちゃいませんよ」。

「これでもか!」
弥吉と呼ばれている、昨日、殺された娘の前で泣いていた男が鎌で切りかかった。
鎌は紋次郎の肩口を斬った。

「どうせ、いつかどこかでなくす命でござんす。別に惜しいとは思いやせん」。
「ようし、殺してやる!」
だが紋次郎は、次の攻撃はかわした。

「わけもわからず、命を捨てるのだけはあっし、ごめんこうむりやすぜ」。
年かさの百姓が、弥吉を止めた。
本当にこの男は、何も関係がないようだ。

その年かさの男が言うには、ことの起こりは、半月前の渇水による水騒動だった。
渇水も水害も農作物のできに関わるため、農民にとっては生死を分けることになる。
そのため、水害には堤防が築かれ、渇水には堰と用水口が作られている。

しかし用水口の閉鎖と開放に伴い、利害が異なる地域が出る。
北の地域とこの南の地域で、水による争いが起きた。
その日の騒動では、死人が出た。

死んだのは庄屋の次男坊で、半七という男った。
利助親分から盃をもらって、子分になっていた。
この男が水騒動を眺めていて巻き添えになったのだ。

だから利助が意趣返しのため、南の村の百姓たちを襲っているのだと、その男は教えた。
しかし、紋次郎はおかしいと言う。
親分のために子分が意趣返しをすることは、ある。

だが、渡世の道にかかわりにないことで殺された子分のために、親分が意趣返しをすることはありえない。
まして、素人相手だ。
だいたい、大谷の利助親分は、そんな男ではないはずだ。

紋次郎はそう伝えるだけ伝えると、去っていく。
するとあの2人が様子を伺いながら、ついてくる。
2人は山道で、紋次郎の前に2人は立ちはだかった。

「何か御用でござんすか」。
「おめえ、南の百姓たちに何をしゃべった!」
「おめえさん、『何も見なかったことにいたしやしょう』と言ったんだぜ」。
「渡世の義理、欠きゃしねえだろうな!」

「ご覧の通りの手傷を負ったのも、おめえさんたちのおかげだ。今度はあっしもドスを抜きやすぜ!」
2人は斬りかかってきたが、紋次郎の相手ではなかった。
あっさり兄貴分は叩き伏せられ、弟分もドスをはじかれてうずくまった。

「ツラ、あげろ!」
紋次郎にドスの先を突きつけられ、弟分は震え上がった。
「利助親分は、お達者なんですかい」。
すると親分は去年の夏、倒れ、いまだに体の自由も利かないし、口も利けなくなっていると弟分は答えた。

利助には、3人の代貸しがいた。
では14人を殺したのは、3人の代貸しなのか。
しかし、おかしい。
跡目を継ぐのは、3人のうちの誰かだ。

たった1人しか跡目を継げないというのに、3人が一致して百姓を殺すとはわからない。
弟分は、「できるだけ百姓をむごく、多く殺した者が跡目を継ぐことになっている」と教えた。
どこのどいつが、そんなことを決めたのか。
「そいつは…、実は」。

その時、兄貴分が背後から紋次郎にドスを突き刺そうと突進してきた。
紋次郎がひらりとかわしたので、ドスは弟分に突き刺さった。
叫び声をあげて、兄貴分が逃げていく。
紋次郎は置いていったドスを拾い上げ、投げた。

ドスは兄貴分の足に刺さった。
必死でドスを抜き、兄貴分は走ろうとした。
「うわああああ!」
兄貴分は足を踏み外し、崖から落ちていった。

同じ頃。
お鶴が、こっそり、水車小屋に向かって歩いていく。
見張りがうとうと眠っているのを見ると、お鶴はこっそり水車小屋に入った。

水車小屋の中で痛めつけられて傷だらけになった男に向かって、お鶴は抱きついた。
「由蔵、会いたかった…!」
「お鶴」。

お鶴は南の百姓である、この由蔵のところに嫁に行ったのだ。
しかし半七が水騒動の巻き添えにあって殺されたため、由蔵が関わっていると思った吉兵衛たちが家に押しかけてきた。
逃げろと言われてお鶴は逃げた。
だが、妹に追いつかれてしまったのだ。

大谷村に引き戻されそうになったお鶴は、何とか逃げ、ここに来たのだ。
お鶴は由蔵に一緒に逃げようと言うが、由蔵はもう無理だと言う。
半七を殺した奴を白状させようと由蔵は捕らえられ、責められた。
でも、誰が半七を殺したのか、あの大混乱の中ではわからない

お鶴は水車小屋を出ると眠りこけている見張りを殴り、由蔵と一緒に逃げ出した。
神社の祠の中にいる紋次郎が気配に気づくと、お鶴と由蔵が入ってきた。
「あの時の旅人さん」。

由蔵が倒れる。
紋次郎が、由蔵を奥に連れてきてやる。
「あんたぁ…」。
由蔵の頭をいとおしそうに抱えるお鶴に、紋次郎は薬をやった。

「助けてください」。
実はあの茶店で紋次郎にお鶴が絡んだのも、助けてもらえたらと思ってやったのだ。
「助けてもらいてえ?誰から?」
「あの…」。

「おめえさん、堅気の育ちじゃなさそうだね」。
「私は、利助の娘です」。
「利助親分の?」

追っ手がやってきた。
紋次郎が出る。
追ってきた男は、八五郎と名乗った。
代貸しの1人だ。

夫婦連れを見なかったかと聞かれた紋次郎は、知らないと言う。
さらに代貸しの仙造が名乗った。
「祠の中を改めてえんだ、そこをどいてくれ」。
「旅がらすには関わりのねえことずら。変に意地を張ってると命を落とすぜ」。

「関わりねえとは言わせねえぜ!」
紋次郎が鋭く叫んだ。
「大谷のお身内衆が堅気相手の外道のおかげで、難儀な旅をしやしたぜ!」
「てめえは!」

仙造たちが殺気立つ。
斬りあいになった。
紋次郎は地面を転がり、合羽を翻しながら、応戦する。

両脇を押さえられた紋次郎に向かって、八五郎が突進してきた。
八五郎のドスは、紋次郎の顔の横、左側の壁に刺さった。
紋次郎は2人を振り切り、転がり、ドスを突きたてようとした八五郎を刺した。

お鶴と由蔵が見つかり、捕まりそうになる。
紋次郎が2人を逃がしながら、戦う。
十数人相手に戦う。

必死に逃げるお鶴だったが由蔵が力尽き、倒れる。
子分たちがやってくる。
由蔵は刺された。

「あんた、あんた!」と叫ぶお鶴を由蔵から引き剥がし、紋次郎は逃がす。
紋次郎に襲い掛かった仙造が、紋次郎にバッサリ斬られた。
吉兵衛と、3人の代貸しが斬られたため、子分たちは恐れをなして逃げていく。

その時、ふらふらとお鶴が水車小屋から出てきた。
お鶴は、ばったり倒れた。
水車小屋の戸が開き、妹のお縫が出てきた。
お縫は手に、ドスを持っていた。

「駒川の南に住んでいる百姓たちに、意趣返しをするようにと、八五郎仙造吉兵衛の3人に指図したのは、このあたしさ」。
お縫の声は冷たかった。
「あたしたちは利助の娘だよ」。

はあはあと、姉が苦しそうにあえぐ。
「おとっつあんが役立たすになってからの一家は、あたしが取り仕切ってきたんだ」。
「水争いで殺された半七って野郎は、おめえさんと良い仲だったってわけですかい」。

「ふぅん」。
お縫は鼻で笑った。
「察しがいいじゃないか。そうだよ」。

「あたしゃ、半七に死ぬほど惚れてたんだ。いずれは夫婦になっただろうね」。
今まで薄笑いを浮かべていたお縫の顔が、夜叉のようになる。
「その大事な半七を、なぶり殺しにされたんだから、あたしが意趣返しに女の執念賭け立っておかしくないだろう」。
お縫の目が冷酷に光った。

「おめえさんもう、14人も殺してるんだぜ!」
「むごいと思うだろう」。
お縫は、ふっと笑った。

「だけど女はもともと、むごいもんなんだよ」。
「惚れた男のためなら、どんなひどいことだってできる…」。
そう言うと、お縫は姉を刺し殺した。

「実の姉さんじゃねえんですかい!」
「ああ。実の兄弟だよ」。
お縫の顔は、どこも痛みを感じていない顔だった。

「だけどこの女は、南の百姓の女房になってたんだ」。
「亭主が半七殺しに一枚加わってたらしく、あたしが話を聞きに行くと知って、逃げ出しやがったんだ」。
「だから甲州まで追って、連れ戻したんだ。それなのに亭主に心中立てしやがって」。
お縫の口調は、憎しみに満ちていた。

「あたしは南の奴らは、どんなことをしたって許さない」。
「もう、忘れてやりなせえ!3人の代貸しもいなくなったんだ」。
「冗談じゃないよ。まだ殺したりずにいるんだからね。あたし一人になっても、半七の意趣返しは続けるつもりさ」。
「それとも、おまえさんにやめさせることができるとでも言いたいのかい。まあ、無理だろうね」。

お縫はバカにしたように、笑った。
「やめさせるには、あたしを殺す他ないんだ。ところがお前さんは、どんな相手だろうと女を殺すドスは持たないって言うんだから」。
紋次郎は背を向けながら言う。

「おめえさんに向かってドスは使わねえが、おめえさんが死なねえとは限らねえんだぜ」。
「寝言いうんじゃないよ」。
お縫は嘲った。
そして紋次郎の背後から、ドスを構えて刺そうとした。

紋次郎は、お鶴に刺さったドスを自分の長ドスの先で拾った。
お鶴に刺さっていたドスが宙を舞い、お縫の胸に刺さった。
「ううっ!」

よろよろとよろけたお縫は、水車に背中をぶつけた。
水車は鈍い音を立てながら、回り始めた。
お縫はドスを落とした。

水車が軋みながら、回る。
お縫の着物の帯が、水車に巻き取られていく。
同時にお縫が水車に向かって、引き寄せられる。

帯が水車に巻き取られていく。
水車に帯をすっかり取られたお縫は、くるりと回転して倒れる。
苦しい息の下、倒れた拍子に落ちたかんざしに向かって這っていこうとする。

そして紋次郎に向かって聞いた。
「お前さん、名は何て言うんだい」。
「木枯しの紋次郎と申しやす」。

「確かに自分のドスは使わなかったけど、お前さん、女を殺したことに間違いはないんだよ」。
お縫が恨みがましい声で、言う。
「木枯し紋次郎が…、…、すぐそのことを忘れられれば…、いいんだけどね」。
お縫の顔色が青くなっていく。

「あっ、ああ」。
息が苦しくなる。
お縫が紋次郎を見上げる。

紋次郎が言う。
「昨日と言う日のねえあっしには、忘れられねえことなぞ、ござんせん」。
それを聞いたお縫に、絶望の表情が浮かんだ。

かんざしに向かって、手を伸ばす。
届かない。
遠い。

こんなに近いのに、届かない。
お縫の顔が歪む。
「これは…半七に…もらったもんなんだよ」。
哀しそうな顔をして、這おうとする。

紋次郎が、楊枝を鳴らす。
ふっと、吹く。
楊枝は、かんざしに当たった。
かんざしが飛び、お縫の手がかんざしに届く。

お縫はかんざしを握り締めると目を閉じ、倒れた。
水車は軋みながら、回っている。
もう誰も動かない。
山の上に見える夕日が美しかった。

薄闇の中、紋次郎は、そこを離れる。
歩いていく。
足元の大地は、乾いてひび割れていた。

ふと、紋次郎は立ち止まる。
どこもここも、ひび割れていた。
それを見上げ、紋次郎は辺りを見回す。
カラスがたくさん、山の上に飛んでいる。

山には頂上以外、緑がなかった。
紋次郎は1人、歩く。
その緑のない、山の上を歩いていく紋次郎の姿が遠くなる。

『木枯し紋次郎』
『上州新田郡三日月村の貧しい農家に生まれた』
『10歳の時、故郷を捨て、一家は離散したと伝えられる』
『天涯孤独の紋次郎が、なぜ、無宿渡世の世界に入ったのかは定かではない』



紋次郎に忠告する女中さんは、樹木希林さん。
この人と話す時の紋次郎はまるで、小さい頃から知ってる幼なじみと話してるよう。
礼儀を失わず、相手とちゃんと距離をとっている紋次郎にはめずらしい砕けた口調。
紋次郎って親しくなるとこんな感じなんだって、思いました。


お鶴は、稲野和子さん。
「必殺仕業人」では、息子の仇と主水の家に押し込む盗賊の女首領でした。
処刑された息子の生首を抱いていて、すごい迫力だった。
他にも「仕置屋稼業」で、主水に油の樽に押し込められて刺されたり。

たまにかわいそうな役もやっていましたが、切れ長の目が妖艶なんですよね。
だから悪女がすごくお似合い。
ここでも裾を乱して紋次郎に絡むのを、男性たちが注視しています。

妹のお縫は、大原麗子さん。
酔っ払って暴れる姉に困り果てた、いじらしそうな娘。
それがラストは、凄絶なまでの悪女の顔になる。
稲野さんの蓮っ葉な口調から、稲野さんが悪女かと思ったら。

大原麗子さんといえば、あの有名なCM。
あのような、ちょっとすねるとかわいい、けなげな女性役が似合う。
それが3人の代貸しを操り、罪もない人たちをなるべくたくさん、残忍に殺すよう仕向ける悪女とは!

あの美しい顔で悪を演じると、もう凄絶ですね。
アーモンド型の美しい瞳も、通った鼻筋も、形の良い唇も、とてつもなく冷たく感じるからすごい。
倒れた父親の代わりに一家を取り仕切ってきたというと、凄みのある姐さんに見えるからすごい。

そしてとてつもなく、美しい。
3人の代貸しが迷うのも、無理はない…。
だが紋次郎は、何となく見抜いていた感がある。
女の足で、自分より先に来ていることを指摘した時、お縫にちらりと別の顔が見える。

最後はお縫は、姉のお鶴を殺す。
女はもともと、むごいものと言いながら。
お縫には、姉の気持ちがわかる。

自分もそうだから。
姉もそうなんだろう。
だから許せない。

お鶴もお縫も、一途な姉妹なんだろう。
2人は似ている。
愛情が深く、自分が好きになった男をすべてにおいて、善悪より優先するのだろう。

死んでいる由蔵から離れないお鶴が、それを物語っている。
瀕死のお縫が這っていく、そこにはもう、悪女の面影はなかった。
ただの、死ぬ前に何とか、愛しい人のくれたかんざしにたどり着きたいだけの女がいた。

この姉妹の親の利助親分も、きっと良い人なんだろう。
姉妹で殺しあって、2人ともいなくなっちゃって。
代貸しもいなくなって、動けない口も利けない利助親分はどうなっちゃうんだろう。

ところでこの回の紋次郎、あっちこっちで理由なく絡まれすぎ。
襲われすぎ。
迷惑かけられすぎ。

それでもお鶴と由蔵を見て、とっさに察して運んでやり、薬までくれる紋次郎。
あっしにはかかわりねえから!って言いながら、とんでもなく親切。
正式な剣術など知らない、ケンカ殺法って言うけど、あれだけの大人数を相手にして生き残るんだから、相当強いよね。

最後の空しいこと。
美しい夕日が、山の上に見える。
倒れているお縫と、お鶴と、紋次郎が暗い影になる。

紋次郎が歩いていく。
今回の騒動のきっかけになった、渇水。
紋次郎の足元の地面が、ひび割れている。
ふと、辺りを見る。

どこもかしこも、ひび割れた大地。
紋次郎だって、貧農の家に生まれたなら、これがどういうことかわかる。
お縫は悪いけど、お縫がああなったのも、お鶴がこうなったのももともとは渇水のせいだ。

山の上をたくさん飛んでいるカラスが、まるでここは死の土地だといわんばかり。
頂上以外に、緑もない。
不毛の大地。

紋次郎は1人、歩く。
緑のない山の上を紋次郎が歩いていく。
初めて見た時、とてつもなく、空しく、やりきれないラストシーンが忘れられなかったです。


ありゃありゃ

駅に行けて、改札は通ったけど、入場制限でホームに行けない。
ホームに行けたところで、電車は来ない。
来たところで、当分乗れない。

寒い中、駅でずっと待ってたけど、風邪引きそうなので帰って来ました。
根性なし!
ごめんなさい!
みんな、行けてる?

駅に行く途中、横スレスレに車が通って行きました。
スリップしたら、どうなるの。
怖いな。

警察の車が止まってる。
ただ、止まってる。
警戒かな?
会社、行けるかなあ…。



国民的人気とは

「スペシャリスト」。
さすが。
おもしろいです。
予想以上におもしろかった。

二転三転するストーリー。
俳優さんたちも良かった。
私はスペシャル2時間枠で共に戦ってきた仲間が登場したところでうれしくなってしまったんですが、スペシャルドラマを知らなくても十分楽しめる内容になっていました。
知っていたらもっと楽しいと思います。

宅間が再び服役しているのに、なぜ?!と疑問を持ちつつ、最後に「ああ、そうだったのか…」と思い、拍手。
フットワークも軽く、飽きるどころか目が離せない展開でした。
草なぎさんがますます、宅間にはまっているのも良かった。


たまに私は70代から80代の方とお話するんですが、草なぎさんの評判が良いんです。
もちろん「任侠ヘルパー」の影響もありますが、この世代の方が「この子だけは見る」って言うのには「へえ」と驚きました。
家の親戚なんかも「この子は、うまいよね」と言います。
今回「スペシャリスト」見て、「この人、良い役もらったねえ」と言いました。

「良い役?」
「うん、これ、ずっとやっていける役じゃない」。
「この子は嫌じゃないんだよねえ」。
じゃ、どの子が嫌なんだって話ですが、嫌っていうより私が見ていて思うのは、わかんないみたいです。

「スペシャリスト」見た後、「これ、終わっちゃったの?」って。
「うん、終わり」。
「ええー、おもしろかったのに」。

そんな、私に言われても困ります。
「来週またやるよ」。
そして「おもしろかったの?」と聞いてみる。

「うん、おもしろかった!」
「そうか、じゃ、来週も録画して見せてあげるよ」。
「ありがとう!」
草なぎさんのことは「この子、何の役でもできるようになったね」。

この後はいつもの通り、時代劇視聴に戻ってました。
国民的人気。
こういうことなのか。

草なぎさんの宅間は、飄々としているんだけど時折、ドキリとする鋭さを見せる。
あまりに鋭いから、それをむき出しにしないようにしている。
むき出しの正義感。
人の人生を踏みにじる犯罪に対しての、激しい怒り。

巨大な悪は、内部にいる。
宅間のことを見ている。
もやもやを残して、それでも爽快な宅間の活躍が見られて楽しい。
楽しみなドラマができたなあ。


良い!

洗濯した、掃除して、唐揚げ作って、「スペシャリスト」見てます。
あっ、おもしろい!
やっぱりすごくおもしろい!

宅間のキャラ、いいなあ。
他キャストとの息も合ってる。
さあ、集中!



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ちゃーすけ

Author:ちゃーすけ
癖の強い俳優さんや悪役さん大好き。
俳優さん、ドラマ、映画、CMその他、懐かしいもの、気になるものについて、長々と語っております。

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