長い「必殺」シリーズの中に多く登場する殺し屋たち。
その中の、最も愛された一人に、山崎努さん演じる念仏の鉄が入るのではないでしょうか。
山崎さん自身も、10年ほど前ですが、インタビューの中で言っています。

今でも言われるのは、念仏の鉄という役だと。
鉄というのは、人の背中やあばらの骨を、素手で折る乱暴な殺し屋です、と。
それが今でもいろんな人に「見てました」とか「覚えています」とか「好きです」と言われるらしいんですね。

山崎さんは同じ役は、やらない方だそうです。
それが鉄は、2度やった。
ということは、山崎さんにとっても鉄は、相当に魅力的なキャラクターだったんでしょう。

「仕置人」の時、おきん役の野川由美子さんが疲れた撮影の帰り、「みんな、これ、もう一度やるって言ったら、やる~?」って聞いたとか。
するとみんな「やる」って言ったそうなので、本当に楽しい撮影だったし、良いスタッフさんだったし、魅力的なキャラクターだったんでしょう。
演ずる方にも、見ている方にも魅力的な男、鉄。
なぜ、この無頼の男がそんなにも愛されるのか。


人は、自分で自分の面倒を見なければならない。
自分で自分の面倒が見られて、自分のことを自分で決められる。
それが自立の始まり。

子供は自立できない。
だから親が引っ越す時には、嫌でもついていかなくてはいけない。
自分で自分のことを決められない。
決める力を持っていない。

自立すると今度は人は社会で生きて、社会の中で生活を送る。
そこから外れると、相当に厳しい生活が待っている。
社会の掟、規律から外れると、人は社会的に制裁を受ける。

つまり、社会的に抹殺される。
社会が人を、守ってくれる。
だから人は社会に属するということ、社会で生きることが重要になってくる。

そして社会で生活していると、自分の立場というものも重要になってくる。
地位とか名誉とかお金が、重要になってくる。
なぜなら地位とか名誉とかお金があれば、制約が少ないから。

人の言うことを聞かなければいけないことは、少ない。
好きなことが、できる。
豊かな生活が、送れる。
我慢することも、少なくなる。

自由が大きくなる。
権力者は、その頂点にいる。
しかし同時に、果たさなければならない責任も大きい。
完全な意味で、自由はない。


だけど、鉄はどうだ。
自由だ。
虎の会の死の掟はあるが、鉄はほとんど自由だ。
虎の会というものはあるが、誰の言うことも聞かなくて良い。

鉄はいつも、好きなことをしている。
物質的、金銭的に豊かな生活はしていないかもしれないけど、自分のやりたいことだけやっている。
我慢していない。
責任はほとんど、ない。

鉄にひとつ、守るべき規律があるとしたら、それは「外道にならないこと」。
人は社会の掟、規律から外れると、社会的に抹殺される。
だが権力が大き過ぎたり、狡猾過ぎたりすると、何の制裁も受けずに非道が通ったりする。

これを葬るのが、「必殺」の世界だった。
「仕置人」だ。
それで鉄はその、「仕置人」だ。

主水だって仕置人だ。
だけど、主水には社会的な生活を送る義務も責任もあった。
つまり、鉄というのはとことん、社会から外れている存在だった。

せんが主水の治療に来た鉄のことを、「無頼漢!」と罵る場面があります。
確かに鉄は、無頼漢。
せんのような立場の人間からは、考えられないような男。

さらにすごいのは、鉄の直前に山崎さんが演じていた土左衛門が、実にきちんとした武士であること。
土左衛門は非業の死を遂げた奥方について、その夫に最期の見事さを伝える。
実際はその奥方が命乞いをした末に、殺されていても。
この様子は、見ているこちらの背筋が伸びるほど。

その武士が翌週には、無頼漢。
山崎さんってすごい。
鉄を演じた山崎さんは、どこから見ても鉄にしか見えない。
でもおそらく、実生活ではすごく実直でまじめであるところがまた、すごく良い。


何で読んだのか、今、ちょっと思い出さないんですけど、元締・虎も鉄の自由さはわかっているというんですね。
自分も「新・仕置人」で虎が、「鉄さん、外道を頼む」と言ったシーンで思ったんです。
「鉄さん、虎の会を頼む」ではないんだな、と。

その文章にもありましたが、虎は鉄の力も、人望も、すべてを認めていてもなお、虎の会を頼むとは言わない。
虎は、鉄の自由さを知っているんだと。
掟に縛られているようでいて、本質的には自由である鉄を知っていると。

虎の会の掟は、もちろんある。
だが、鉄は他人の干渉をほとんど受けない。
鉄が自由なのは、強いから。

人が憧れてしまうのは、鉄の強さ。
強さによって自由に生きている、いけているところ。
そうそう、できる生き方ではない。

鉄は、力も強い。
精神力も強い。
生き抜く能力も強い。
だから鉄は自由で、無頼でいられる。

しかしその無頼の男は、外道ではなかった。
決して、外道にならない。
この一点において、鉄がとても忠実なこと。

最後にこの自由な無頼漢は、この唯一つの自分の中の決まりによって、死に至る。
自分が決めた、この一点において。
その厳しさは、実は普通に社会生活を送る者以上だった。

主水は、貢によって裏稼業の限界を知り、解けることのない課題を持った。
さらに剣之介に裏稼業の業と、自分の行く末を見た。
思い知った。
その主水を引きずり戻すほど、鉄は魅力的だった。

鉄は本当に深い魅力を持つ男です。
私も鉄が大好き。
鉄は永遠の仕置人。
自分にとって鉄は、永遠に生き続けるキャラクターなのです。


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2016.04.24 / Top↑
水曜日、テレビ東京で夜9時からの2時間サスペンス。
今週は「マザー 強行犯係の女 傍聞き」。
傍聞きと描いて、かたえぎぎと読む。

会話をしている人の傍らにいる者の耳に、聞く気もなく入って来る話のこと。
この中に、とても重要な情報が入っていたりする。
また、人との会話を通して、伝えたい情報を伝えることもある。
南果歩さんが強行犯の女性刑事・羽角。

無茶をする刑事と、周りは言う。
だが本人は言う。
無茶をするから、女性で強行犯の刑事ができる。

連続女性通り魔殺人が起きる。
1人目は刺殺。
2人目は絞殺。
3人目は撲殺。

いずれも額に、本人の口紅で×マークが描かれていた。
しかし羽角刑事は、3人目だけは連続殺人犯の犯行ではないと主張する。
×の書き順が逆なのだ。

その時、4人目の被害者が出る。
今度は刺殺だった。
×マークも描いてあった。

しかしやはり、3人目だけが書き順が違う。
連続殺人犯と、連続殺人犯に乗じて犯行を行った犯人。
2つの犯罪を羽角刑事が追う。


南さんがシングルマザーの女性刑事。
警察官であった夫は、出所した犯人によって殉職となった。
南さんは、娘とのコミュニケーションに悩みながらも愛情を注ぐ母親であり、戦う女性刑事でした。
どうしてもこの役は、「スペシャリスト」の姉小路さんを思い出しました。

宅間がいないので?姉小路さんが1人で頑張りました。
姉小路さん大変そうでした。
いや、姉小路じゃないんですけど。

まったく無関係に思えた、1人暮らしの老女の家に入った空き巣が、連続殺人犯と繋がっていく。
そして、3人目の被害者の裏の顔。
被害者が加害者であったこと。

それを恨んでいるのが誰か。
最後にその犯人が狙う相手のこと。
連続殺人犯の歪んだプライド。

そんな時、羽角が逮捕した男が出所してくる。
殉職した夫を思い出す。
だが今度の犯人は自分を狙わないだろう。

もっと、羽角を痛めつける方法がある。
娘だ。
羽角は娘を家から遠ざけようとするが、娘は離れない。

だが、自分とも話をしない。
一体、どうやって娘と心を通わせたら良いのか。
この出所した犯人と、「傍聞き」が結びつく。
突っ込みどころもありますが、全体としておもしろかったです。

あと、佐々木すみ江さんが、お元気で出演されていて、うれしかったですね。
高橋和也さんが演じる、出所して来た犯人。
私は「猫山」と聞こえて、「猫山」とは珍しい名前だなあと思ったんですが、「横山」だったみたいで。
その前に、猫の番組を見たせいかしらん?!


2016.04.23 / Top↑
中根の隠密であり、柳生十兵衛のひ孫である編笠十兵衛こと、月森十兵衛の活躍を描く話。
時は元禄。
刃傷松の廊下で取り潰された赤穂の浪士たちは、討ち入りを決心している。

中根平十郎は、これを助けようとする。
討ち入りを成功させることが、柳沢吉保に勝つこと。
柳沢吉保にとっては討ち入りを阻止することが、中根を追い込むことであった。
2人の激突は、2人が抱える隠密同士の激突でもあった。

第9話、「安売り天満屋異聞」。
天満屋嘉兵衛は、遠藤太津朗さん。
遠藤さんの男気ある善人役が見られる話。


江戸城。
老中・柳沢吉保は、廊下を歩く中根平十郎を呼び止めた。
「上様に何か御諫言でも?」
中根は上様にも意見ができる、ご意見番であった。

権力の絶頂にある柳沢にとっても、目の上のたんこぶのような存在だ。
「ただのご機嫌伺いです」。
中根は済まして応えた。

柳沢は言う。
上野の寛永寺に元赤穂浪士たちが集まり、年内の討ち入りの覚悟を表明した。
たくさんの密偵を抱える中根がこのことを。知らないとはありえない。
だが中根は逆に、これを知っている吉保こそ、相当の密偵を抱えていると言うことですなと言って、笑った。

吉保は、吉良を討つことは、公儀への謀反と思っていると言う。
「もし赤穂浪人に不穏な動きがあると知れば、厳しく取り締まる所存だ。どうか、そのおつもりで」。
柳沢が去って行く。
見送る中根は無表情に頭を下げていたが、顔を上げた時、その表情は一変していた。

近頃、江戸の呉服屋で売り上げを伸ばしているのは、上方から来た天満屋。
その夜、天満屋に火をかけようとしている数人の男がいた。
「おいっ!」

通りかかった浪人が、声を上げた。
それは赤穂浪士の1人、堀部安兵衛だった。
「火事だーっ!」付け火されたぞー!」
その声で、お店の者が飛び出してくる。

天満屋嘉兵衛も出てきた。
男たちと斬り合い、安兵衛は手傷を負った。
心配する嘉兵衛に安兵衛は「俺のことはいいから、早く火を消せ!」と怒鳴る。

十兵衛は火事のあった翌日、妻と子に早く早くと促がされていた。
天満屋が火事の無事を祝って、半額の安売りをするのだ。
妻の静江は、十兵衛を買い物に付き合わせようとしていた。

気位の高い江戸の呉服屋も天満屋を少し見習ってほしいと、静江は笑った。
天満屋は、大賑わいだった。
妻の反物を持たされた十兵衛は、店の奥に与力の井坂伝七が来ているのに気づいた。

天満屋は、井坂を送り出すところであった。
井坂は天満屋が差し出した菓子の皿を受け取り、その下の小判を受け取った。
そして「皿はいらぬわ!」と言って、帰って行く。
天満屋は「ご苦労様でございます」と頭を下げた。

井坂がいなくなると天満屋は、布団部屋に行く。
「堀部さま!何をしてはります!」
そこでは安兵衛が、布団をあげていた。

「そろそろ帰らねば。いつまでもここにいては、おぬしに迷惑が掛かる。これしきの傷で根をあげていては、大願成就はおぼつかぬよ」。
安兵衛は、井坂が天満屋に目をつけていることを心配していた。
どうも井坂は、赤穂の浪人と天満屋の関係を気づいていたようだ。

井坂の影には、柳沢がいる。
赤穂浪士とつながりがあると知れば、柳沢はすぐにでも天満屋店を取り潰すだろう。
自分たちへの協力をやめるのなら、今のうちだと安兵衛は言う。

「なんの。手前の志は。堀部様たちとおんなじでおます」。
「いったんお引き受けした仕事は、きっとやり遂げて見せますさかい、安心しておくれやす!」
天満屋は、きっぱりと言い切った。

堀部は裏口から出て行く。
十兵衛はそれに合わせるように表から出て、堀部を見送る。
声をかけようとしていた十兵衛だが、かけ損ねた。

その頃、天満屋の息子・吉太郎は矢場に出入りしていた。
矢場には、密偵のおれんがいる。
「たいした腕前だねえ」。
少しも的をかすらない吉太郎の放つ矢を見たおれんが、からかった。

おれんは矢を手にすると、すべての矢を見事に的に当ててみせる。
驚いた吉太郎は「わて、あんたとお友達になりたいわ。さ、一杯行こ」と酒を勧めた。
だがおれんは「それより…、もっといいところにご案内しますわ」と微笑んだ。

十兵衛は、中根と会っていた。
天満屋は赤穂と繋がっていたと、中根は言う。
「やはり。安兵衛が(天満屋から)出て来るのを見た時、そうではないかと思っていましたが」。

天満屋の生家は大阪で塩問屋を営んでいるが、赤穂の塩田開発に功績があった。
そのため赤穂の塩は、天満屋の兄の天野屋利兵衛が扱っていた。
弟の天満屋は呉服で、赤穂の奥向きにひいきにされていた。

つまり、兄弟揃って赤穂に恩がある。
問題は今も。赤穂の浪人たちを出入させている理由だ。
「天満屋が何をしようとしているか、探ってくれば良いわけですな」と十兵衛は聞いた。

天満屋嘉兵衛が、辺りを見渡しながら、店を出て行く。
寺の境内についた天満屋に「あっ、天満屋の旦那!」と声を上げた男がいた。
男は手代風の若い男だった。

天満屋が駆け寄る。
「しばらくだったな由蔵!兄さんからの言伝は」。
「はい、例の荷物は…」。

由蔵と呼ばれた男が何か言いかけるが、嘉兵衛は「しっ!」と抑える。
境内の影から、数人の男が出てきた。
「一緒に来てもらおうか」。

男たちは嘉兵衛を連れて行こうとする。
「御無体な。天満屋に何の御用ですか」。
「旦那様、お逃げ下さい!」

由蔵が匕首を抜く。
だがたちまち、浪人たちに斬られてしまった。
「由蔵!」

嘉兵衛が助け起こす。
浪人たちは嘉兵衛を連れ去ろうとする。
その時、十兵衛が駆けつけた。

「貴様何者だ」。
「人に名を問う時は、自分から名乗るもの。おぬしたちこそ、何者だ。誰に雇われた」。
「やかましい!」

浪人たちは十兵衛に襲い掛かるが、相手にならなかった。
刀を落とされ、浪人たちは逃げていく。
「由蔵!しっかりせい!」

嘉兵衛が由蔵を抱き起こした。
苦しい息の下、由蔵は「例の荷物は…」と囁いた。
「うん」。
「竜神丸で…」。

「竜神丸だな」。
由蔵はうなづくと、事切れた。
「由蔵!」
嘉兵衛は由蔵を抱きしめる。

十兵衛は嘉兵衛と話をした。
「では、一昨日の付け火も、奴らの仕業だと言うのか」。
嘉兵衛は、犯人は江戸の呉服屋ではないかと言った。
「いや、それは違うな。いか下に商売敵とはいえ、やり口があくどすぎる」。

「あつらの目当ては、おぬしの口から赤穂とのつながりを聞き出すことだったのではないか」。
十兵衛の言葉に、天満屋はうろたえ、目を伏せた。
だが「何をおっしゃいますやら」と口調は、平静であった。
「先刻殺された男、大阪の塩問屋、天野屋の手代だと言ったな。今わの際に、竜神丸と言い残している。どういう意味だ」。

「別に深い意味はございません。それより、あんさんはどういうお人ですか」。
「俺か。俺は安兵衛の友達だ」。
「堀部はんの!」

「おぬし、赤穂の連中のために、何をやろうとしているのだ。ことと次第によっては力にならんでもないぞ」。
だが嘉兵衛は慎重だった。
「せっかくですけど、ご心配には及びまへん」。
嘉兵衛は表通りに出ると「ここまで来たら大丈夫です。ありがとうはんでし」と十兵衛に礼を言って去っていく。

「何い!」
さきほどの浪人から報告を受けた井坂は、声を上げた。
「天野屋の使いを斬ってしまったのか」。
「向こうから斬りかかってきたので、な」。

「無益な殺生はする、天満屋は取り逃がす。柳沢さまも、結構な助っ人を寄越してくれたもんだ」。
やはり、あの浪人たちは柳沢の手の者だった。
井坂の皮肉に浪人は「後一歩のところまで行ったんだ。あの編笠の浪人に邪魔されなければ」。

それを聞いた井坂は「編笠だと?」と、飛び上がった。
「あの野郎、またでしゃばってきたのか!」
「あははは」。

笑い声が響いた。
おれんが笑ったのだ。
「何がおかしいんだよ、おれん」。

不快そうな井坂におれんは「あんたたちのやることは見ていられない、ってことだよ。ここはあたしにまかせておおき」と笑った。
「何か、あてでもあるのか」。
「おれんさまを見くびっちゃいけないよ。もうとうに種は撒いてあるのさ」。

翌日、天満屋の息子の吉太郎は、店の者が働いている中、店の売上金を見つめている。
そこから小判を握り、出て行く。
嘉兵衛が見ていた。

目に前に立ちはだかった嘉兵衛に吉太郎は「見てたのかい」と言った。
「何べん言うたら、わかんのや。さあ、銭をお返し」。
「しこたま荒稼ぎしてるのやろ。しみったれたこと、言わんといてえな」。

それを聞いた嘉兵衛は鋭く言った。
「おのれが汗水たらして、稼いだ銭なら、なんぼ使こうても構へんわい!けど、お前は商いのひとつも覚えんと、ただ無駄遣いしているだけやないか」。
吉太郎はウンザリと言った表情で「またかいなと言った。
「お父はん、お説教はもう、聞き飽きたわ。お父はん、わては知ってるんやで。一昨日、匿ってた浪人、元赤穂藩の堀部、言うひとやろ」。

「お前、そのこと!」
「誰にも言わんわ。誰にも言わよって、お父はんもわてのやることに口出しせんといて」。
吉太郎は出て行く。
嘉兵衛は怒りで、わなわなと震えていた。

吉太郎は、おれんと待ち合わせしていた。
「すっかり大人の遊びに夢中になってしまったね」。
「はよ、行こう」。

おれんは吉太郎を博打場に連れて行った。
吉太郎は調子よく、勝ち続けた。
おれんは吉太郎をすごいと持ち上げた。
吉太郎は気をよくした。

「今しばらくのお待ちを。ワナは仕掛けております」。
おれんは、柳沢にそう報告していた。
天野屋が購入した武器は、弟の天満屋の手に渡るに違いない。

「いかに赤穂に恩があろうとも、町人の分際でお上に楯突くとは、許せない」。
柳沢の口調は、バカに仕切っていた。
「思い知らせてくれるわ!」

安兵衛に会いに行った十兵衛は、つまり天野屋は私財で武器を買ってくれたということだと言った。
しかし十兵衛は、天野屋が調達した武器の中に鉄砲が5丁あったことを聞いていた。
お上はことのほか、鉄砲の流通に神経を尖らせている。
鉄砲が赤穂の浪士の手にあることを知れば、討ち入りどころではない。

吉良の用人のことを思えば、飛び道具を使うのもやむを得ないと安兵衛は主張した。
だが、たとえ仇討ちを成し遂げても鉄砲を使ったとあれば、謀反人となる。
江戸の町で、鉄砲を使ったとなれば、印象もだいぶ違う。

「なあ、安ベエ鉄砲はやめておけ」。
「そんな物を使わなくても、赤穂の者たちに意気があれば、吉良の用人たちなど怖れるに足りないはずだ」。
しかし、安兵衛は黙っていた。
安兵衛と会って帰る十兵衛は、吉太郎とすれ違う。

吉太郎はおれんと待ち合わせて、博打場に行くところだった。
「今日は何でこんなにつかへんのや」。
まるっきり当たらない博打に、吉太郎はため息をついた。
その時だった。

井坂による手入れが入った。
吉太郎は、捕らえられた。
おれんも、壷振りも客も全員逃げた。
捕らえられたのは、吉太郎だけだった。

与力の井沢は、吉太郎をたたきで責めた。
血だらけの吉太郎のところに、嘉兵衛が連れてこられる。
「吉太郎!」
「お父はん!」

「来たか、天満屋」。
嘉兵衛を見た井坂は、ほくそえんだ。
「井坂さま、申し訳ありません」。
「気の毒だが、島送りは決まりだな」。

「何で俺だけが!」
吉太郎は叫んだが、井坂に叩きのめされた。
嘉兵衛は井坂に、袖の下を握らせる。

だが井坂は中を見て、「2両?ふざけんな!」と小判を地面に叩き付けた。
「お前の了見次第では、あのバカ息子を見逃してやらんでもないがな」。
「手前にできることなら、なんなりと言うとくれやす」。
嘉兵衛は悲壮な声を出した。

井坂は声を潜めた。
「お前、赤穂の浪人たちのために武器を調達しているだろう」。
嘉兵衛の顔がこわばった。

「いつどこで、赤穂の浪人どものために武器を引き渡すか。それさえ言えば、お前もあのバカ息子も見逃してやるわ」。
嘉兵衛は黙った。
「言え!天満屋!」
井坂は棒を、嘉兵衛にも押し付けた。

「息子がかわいくねえのか!」
「天満屋は、何にも存じません」。
悲壮な顔つきで、それでも天満屋は言う。
「お父はん!」

「こいつがどうなってもいいんだな!」
井坂は一層、手荒く吉太郎を叩く。
「しょうがありません。知らんもんを、知ってるとは言えまへん」。

それを聞いた吉太郎は悲鳴のように叫んだ。
「嘘や!」
「オヤジは、嘘を言ってるんや!」

「それでも親か!」
「わてよりも、赤穂の浪人の方が大事なんか!」
嘉兵衛は目を閉じた。

「言えよ天満屋!」
井坂は嘉兵衛屋も叩いた。
だが嘉兵衛は黙っていた。

「ようしわかった!2人まとめて、島送りにしてやるわ!」
井坂が言い放った。
それを外から見ていたおれんは、苦しそうに目を伏せた。

罪悪感で一杯だった。
「まさか、こんなことになるとは思わなかった」。
そうつぶやいて、おれんは辛そうに立ち去る。

夜。
1人、やりきれない思いで屋台で飲むおれんに、十兵衛が声をかけた。
「後悔しているのか、自分のしたことを」。
「編笠…」。

「お前、天満屋親子をワナにはめたであろう」。
「それがどうしたってんだ。あたしゃ密偵だよ!人を欺くのが仕事なんだよ!」
「だがな、おれん。天満屋が口を割らなかったら親子揃って島送りに。下手をすれば、命さえうばわれるかもしれんのだぞ」。
「まさか命までは」。

「いや、柳沢殿ならやりかねん。お前もそれを知っているからこそ、こうして酒で気ををまぎらわせているのではないか」。
「やめとくれ!あたしゃそんな、やわな女じゃないんだよ」。
「それならいいんだが」。

番屋から、嘉兵衛だけが放り出された。
嘉兵衛は吉太郎の名を呼ぶ。
だが井坂は「バカを申せ。吉太郎は天下の情報を破った大罪人だ。おいそれと返すわけにはいかない!」と突き放した。

「旦那、待っとくれやす!」
浪人の頭が「本当に良いのか。奴をこのまま放免して」と聞く。
だが井坂は、天満屋を放免し、武器を渡すところを抑えると笑った。
「見てろよ赤穂の連中、今度は絶対に見逃さん」。

廻船問屋に、十兵衛は竜神丸と言う船が着くことを聞きに言ったが、人足には知らないと言われる。
帰り道、十兵衛は人足たちに囲まれた。
「早まるな、俺は赤穂の味方だ」。
人足たちは、ギョッとした。

竜神丸が着いた。
船着場で、天満屋は船が着くのを見守っていた。
「大丈夫か」。

船から荷物が降ろされる。
「気いつけておくれや」。
「旦那あ」。

船の人足に嘉兵衛は「ああ、ご苦労はんご苦労はん。ほなこれ、約束の手間賃。お世話さんでした」と言って金を渡す。
「さあ、運んでらおうか」。
「へい」。

荷物を運んでいく一行。
すると、目の前に井坂が現れる。
「待てや!

「とうとう年貢の納め時だな。おい、中を改めろ!」
井坂の声は、弾んでいる。
「ご、御無体な!やめなはれ」。

「うるさい!中に赤穂の連中に渡す武器が入ってるのは、わかってるんだ!」
荷物の蓋が開けられ、反物が見えた。
同心たちは、反物を取り出し、中を見る。
「井坂さま!」

「何だコリャ?!反物ばっかりじゃねえか!」
井坂は反物を抱えて、怒鳴った。
「そうだすがな。大阪から取り寄せた、安売りの品物ですがな」。

「ちっきしょう、はかりやがったな天満屋!」
井坂は怒り、反物を放り出す。
「そっちがそういうつもりならな、こっちにも考えがあるからな。おい、連れて来い!」

叩きのめされ、着物も脱げかけ、髪も乱れた吉太郎が引き立てられてきた。
「吉太郎!」
嘉兵衛が叫ぶ。

「天満屋、せがれがどうなってもいいのか。俺たちは本気だぞ。良く見ておれ!」
そう言うと、浪人の頭が刀を抜き、吉太郎に向かって振り下ろす。
「はっ!」

吉太郎の胸元に、一筋の血の筋が走る。
「吉太郎!」
「天満屋、言う気になったか」。

「おとうはん、言うて。わてが、わてがどうなってもええんか!」
吉太郎も叫ぶ。
だが嘉兵衛は、目を固く閉じていた。

「こうなったらしかたがない」。
「おい、バカ息子!恨むなら薄情な親を恨めよ」。
井坂がそう言うと、浪人の頭が刀を構え、振り下ろした。

その時、嘉兵衛が浪人を突き飛ばし、刃の前に出る。
吉太郎を抱きしめ、かばう。
刃は、嘉兵衛の背中を斬った。

「吉太郎!」
「お父はん!」
2人はしっかり、抱き合う。

「親子ともども、あの世に送ってくれるわ」。
振り上げられた刀に向かって、石が投げられる。
全員が振り向いた。
十兵衛が走ってくる。

「きさまあ!」
井坂が叫ぶ。
十兵衛はたちまち、捕り方を叩きのめす。
だが、みね打ちだ。

十兵衛が刀を返した。
浪人に向けた刀の刃が、くるりと逆向きになる。
みね打ちではない。
今度は、浪人に刃が向く。

井坂がおろおろとする。
頭が、十兵衛と向き合う。
斬りこんで来る。

十兵衛は、刀を斬り払う。
返す刀で、今度は下から斬り上げる。
そして、井坂を見る。
井坂が後ずさりしていく。

「た、助けてくれ」。
井坂の腰が抜ける。
「人の命を虫けらのように扱いながら、自分の命は惜しいというのか」。
「俺のせいじゃない。まさか、こんなことになるとは思ってなかったんだよ」。

井坂の声は、悲鳴のようだった。
斬られる。
十兵衛の刀が宙を舞う。
「うわあああああ」。

井坂が叫ぶ。
髷が飛んでいた。
髪が、ばさりと、肩に落ちてきた。

それを見た井坂は「うわああああ」と叫んだ。
「どけーっ!」
井坂は部下たちを突き飛ばし、走って逃げていく。

「お父はん、大丈夫か」。
吉太郎が、嘉兵衛を抱き起こす。
嘉兵衛は吉太郎を「吉太郎すまなんだ」と見上げた。
「どうしてもわしは…、男の約束を果たしたかった」。

嘉兵衛は目を閉じた。
「わてはお父はんに見捨てられた…、そない思ってた」。
「そやけど、わてを庇ぼうて!」

吉太郎が泣き叫んだ。
「誰がかわいいせがれ、見捨てるもんか」。
嘉兵衛の声は、しっかりしていた。

「お前は、たったひとりの跡取りやないかい…」。
「お父はん!」
十兵衛の顔が微笑む。

「心配するな。命に別状はない」。
そして嘉兵衛の顔を見て、「父親の気持ち、やっと通じたようだな」と言った。
「けど、いっぺんは、ほんまにせがれ、捨てるつもりやった…」。

「悪い親だす…!」
嘉兵衛はそう言うと、泣いた。
「言うな。その男気こそが、息子の命を救ったのだ」。

「それに赤穂の連中もな」。
吉太郎が嘉兵衛の手を、しっかりと握る。
その目は、父への愛と尊敬に溢れていた。

武器は無事、浪士たちの元へ届いていた。
十兵衛がやってくる。
安兵衛に「鉄砲が見当たらないが、どうした?」と聞いた。

「海へ捨てた」。
「捨てた?」
「おぬしの言うとおりだ。鉄砲など使っても殿は喜ばんだろう」。

天満屋は繁盛していた。
そこには、店の店頭に立って、呼び込みをしている吉太郎がいた。
嘉兵衛は店の奥から吉太郎を見て、優しく微笑んでいた。



遠藤太津朗さんの、漢ぶりが感動を呼びます。
まさに男気溢れる男。
天野屋さんの影になっていますが、天満屋も赤穂浪士を支えた一人。

芯が強く、それでいて人情に厚い。
全然、違和感がない。
さすがです。

ひどい目にあっても、信念は揺らがない。
つらそう。
しかし耐える。
この遠藤さんの表情に、無事を祈らずにはいられません。

口は割らない。
だが、息子と一緒に死ぬつもりだった。
この父親の気持ちに気づいた息子も、立ち直る。

息子はちょっと、この立派な父親にコンプレックスを感じていたのかも。
母親もいないから、うまく橋渡しをしてくれる人もいなかった。
赤穂浪士の話の前に、父親の愛情を感じられず、すねていたんじゃないか。

「悪い親や…」。
この遠藤さんの表情、口調。
いろんな思いが込められていて、つらさ悲しさを痛いほど感じる。
「そんなことない!」と言いたくなる。

嘉兵衛がどんな気持ちでいたのか、遠藤さんが感じさせてくれる。
あの顔を見てあの口調を聞いたら、そんなことない!と言いますよ。
だから吉太郎も、そうだったと思う。

遠藤さんは、井坂伝七を演じていたかもしれない。
そこを天満屋にしたスタッフさん、すばらしい。
伝七を演じているのは、六平直政さん。
残酷で、調子良くて、滑稽で、子供っぽくて、どこかおかしい。

「言えよー、天満屋ー!」
「何だこりゃあ!」
「むきーっ!」
良いですよ、この言い回し。

柳沢は西田健さん。
中根平十郎は、津川雅彦さん。
どちらも済ました顔をして、その顔の下ではバチバチに火花が散っている。

静江は、藤真利子さん。
物語に、華と明るさを添えてくれます。
この無邪気さが、十兵衛の安らぎなんですね。

おれんは、大沢逸美さん。
実は優しさが捨てられない、精一杯非情を装っている。
魅力的な役ですが、悲劇を予感させます。

十兵衛の活躍は、やっぱりカッコいい。
胸がすく。
でも今回の主役は、遠藤さんです。
私には、遠藤さんですね。

良い俳優さんです。
本当に良い俳優さんだと思いました。
吉太郎が、ひかる一平さんだったら…、とは、ちらりと思いました。

でもそれじゃ、「必殺」を見ていた人は集中できなかったかな。
似合うと思いましたが。
「編笠十兵衛」では、「必殺」で流れた音楽も、たまに流れます。

この話、遠藤さんを堪能するのに、オススメの1本です。
その善人ぶりも、演技も楽しめます。
やっぱり遠藤さんは、好きだなあ。
時折、「必殺」で聞いたような音楽が流れます。

2016.04.19 / Top↑
本当に、ニュースを聞いて、震度にビックリしてしまいました。
阪神淡路大震災を思い出し、被害の少ないことを祈りました。
いつまでも大きな地震が止みません。

大雪1日で苦労してしまうのに、どれほど不自由なことか。
どれほど、怖いことか。
不安なことか。

自分の想像以上だと思います。
生活が一変してしまう。
あって当たり前の生活が、なくなってしまう。

地震は、日本で生活する者にとって、人事ではありません。
迷惑が掛かるのを避けて、自分のできる範囲のことをしたいと思います。
被害にあわれた方、その後家族の方が、1日も早く心を落ち着けるようになりますよう。
お見舞い申し上げます。


2016.04.17 / Top↑
「新・仕置人」で一つの到達点に達した必殺シリーズ。
この後、しばらくの作品は仕置人の辿った道をなぞるだけではいけないと、試行錯誤しているように思えます。
「新・仕置人」の最終回は、それほどすごかった。

主水は上司・諸岡と対決。
この時、諸岡さまは主水を本当になめきっているんですね。
まず、主水が諸岡さまがどこにいるのか、わかって来ていることにピンと来ない。

頭を下げる主水をぞんざいに扱い、外に出てやっと、あれ?と気づく。
最初に主水が来た時の、諸岡さまの対応が違っていたら。
その後の主水を巡る展開は、もっと苦しいものになったのではないか。

辰蔵から諸岡さまは、聞いていたはずなんですよね。
鉄の一味に正体不明の3人目の殺し屋がいて、凄腕だということ。
あれは、ただの殺しではない。
一刀流の免許皆伝、剣豪のなせる技だということを。

その男が目の前にいる。
諸岡さまの最初の一撃は、はじかれている。
なのに諸岡さまは、そこに来てもまだ、主水がそんな腕の殺し屋だとはわかっていないように見えます。

徹底していたんでしょうね。
主水の昼行灯は。
第1話で「徹頭徹尾、手抜きで行きます!」宣言していましたが、本当にそうだったんだ。

あの、昼行灯宣言をして、主水は上司を斬った。
ここからまた、主水の仕置人人生が始まった。
そして最終回に、主水は再び上司を斬る。

剣之介は最後、滅多斬りとなったが、武士として剣を振るって死んだ。
「仕業人」の最後、主水は「仕業人」とは言わない。
武士である相手に対して、「中村主水だ」と名乗る。

これは、金をもらって恨みを晴らす「仕事」ではない。
私闘である。
個人的な果し合いである。

落とし前をつけに来たのだと。
あの名乗りは、そんな気持ちを表していたのかもしれない。
剣之介に自分を投影した主水は、殺しの世界から足を洗う。

「新・仕置人」の主水は、外道殺し屋の会を結成しようとする辰蔵のアジトに行く。
そして斬りまくる。
この間、主水は名乗らない。

人は最後に、大切な人のために動く。
最後に人は、お金や名誉のためには動かない。
人は人のために動く。

阪神や東日本の震災の時も思いました。
最後に、人は人のために動く。
正体はバレていない。
誰も主水のことは知らない。

なのに、主水は行く。
主水はただ、鉄のため、巳代松のために殴りこむ。
あれは主水の、仲間に対して辰蔵たちがしたことへの殴り込み。

そして今度こそ、すべてをなくす。
もう、自分を生かす場所もない。
自分の本当の姿をさらけ出せる仲間も、いない。

わかっていて主水は、せこい相手にせこい袖の下をせこくせしめて、もう誰も仲間のいない町を行く。
せしめた袖の下がいっぱいになったのを、主水はうれしそうに笑う。
この笑顔の下で主水はどれほどの無常感、虚無を抱えているのか。

それを抱えながら、退屈な日常に主水は戻っていく。
あれほど友人のために、壮絶な殺し合いをした主水が、それを微塵も感じさせない昼行灯に戻っていく。
だから、限りなく、「新・仕置人」の主水はカッコいい。
「新・仕置人」のラストは、胸に迫る。

ただ、死なせる。
斬りまくる。
それだけでは、あれほどのラストにはならない。


最終回前に死神の死、寅の会、仕置人世界の崩壊の序章を描いているだけに、最終回の世界の崩壊ぶりはすさまじい。
それに耐えて、日常に戻っていく昼行灯の主水の笑顔で、「仕置人」は幕を閉じる。
「仕置人」の鉄と主水の世界は、これで完結。
以降、鉄の話も巳代松の話も、全く出て来ないところが、大人の事情かもしれなくても、全く出て来ないところが!永遠のラストになっているのかも知れません。

2016.04.14 / Top↑
この桜の季節になると、思い出します。
桜が美しいドラマ。
そして、時代劇。

何と言っても思い出すのは、「必殺仕置人」の第2話「牢屋で残す血の願い」。
ものすごくギラギラした山崎努さんの鉄。
すがすがしい沖雅也さんの錠。
若さが抜け切らない藤田まことさんの主水。

抜け荷の罪を着せられて一家を滅ぼされ、女1人で身を張って復讐に望んだおしん。
おしんは最後の標的を前に復讐を果たせず、用心棒たちに辱められ、屈辱のうちに磔にされる。
血を吐くようなおしんの訴えに真実があることを確信しつつ、主水は奉行所では無力であった。

「何?」
主水から話を聞いた鉄は、目を丸くした。
「磔に決まった?おめえがついててそりゃ、どういうことだ」。
「どうしてあの女、助けてやらなかった。どうして、山城屋なんかに渡したんだ」。

「いや…、俺にはとても無理だ」。
主水の表情は、苦渋に満ちていた。
錠は怒っていた。

「まったく、奉行所ってのは、どいつもこいつも!」
「そうだ」。
主水は、錠の怒りを肯定した。
「だからおめえたちが、必要なんだ」。

殺しの現場に残った髪の毛から、鉄は件の殺しはおしんの仕業であることを見抜いていた。
それを危険に思ったおしんは鉄を誘惑し、殺そうと試みたが失敗した。
鉄はおしんに協力を申し出たが、おしんは鉄を信用し切れなかった。

確かに2人の殺しはおしんがやったが、越後屋殺しは自分ではない。
おしんの最後の標的・山城屋が越後屋を殺し、その罪をおしんになすりつけたのだ。
2人の同業者をおしんが殺し、越後屋も山城屋が殺したため、山城屋は1人、残って大もうけできる。

おしんはもはや、復讐を果たすことができない。
できることは、鉄に頼むことだけだった。
刑場に向かうおしんと、道にいる鉄の目があった。

おしんの家の桜の木の下に埋められていた仕置料は、鉄に渡される。
「おめえにはその意味が、よくわかるな?」
鉄は小判を握り締めた。

「どうする?どうするんだよぉ!何をもたもたしてるんだ!」
苛立つ錠に鉄は言う。
「騒ぐなって。くそお。おしんが一番、気が済むにはどうしたらいいか」。
「どう、山城屋を仕置きにかければ、思いが晴れるか」。

「うあああ」と、鉄は声をあげた。
「ちきしょう!ぞくぞくしてきやがった!」
そう言うと、鉄は首をすくめる。

桜の宴に、おきんが京都から呼ばれた芸者を装い、潜入する。
宴の中、用心棒に向かって主水は、越後屋の殺しについて、あれはおしんの仕業ではないことをほのめかす。

ばっさり袈裟懸けに斬られていた越後屋。
おしんに協力していた、元・おしんの店にいた使用人を、用心棒が斬った。
彼を斬った時の斬り口と、越後屋の斬り口は似ていた。

花札の勝負を挑んだおきん。
おきんがめくった花札は、桜だった。
これで桐が出たら、おきんの勝ちだ。

めくった花札は桐だった。
大豆の買占めと値上げを仕掛けていた商人4人は、花札の桜、桐、月、鶴に例えられていた。
おきんは、そのことを言っているのだ。

山城屋が叫ぶ。
「誰だお前は!」
おきんが山城屋の手をふりほどく。
「てやんでえ!」

「おうっ、山城屋!今夜は桐が消える番。おまえさん、死ぬ番だよ」。
「あばよっ!」
「誰だ、あれは!」
他の芸者は「あら、旦那が京都から呼んだんじゃないんですか!」と驚く。

棺桶を担ぎ、闇の中、半次が走っていた。
半次を鉄と錠が追い越して走る。
逃げるおきん。

走る錠。
走る鉄。
用心棒たちとともに、おきんを追う主水。

錠が先頭に出る。
用心棒の刃が、おきんの帯を切り裂く。
おきんが振り向きざま、桐の花札を投げる。
それが合図だった。

満開の桜の花びらが、雪のように降り注ぐ。
その闇と桜の中、錠が宙に舞う。
同時に用心棒の首を、錠の手槍が貫く。
鉄の指が、もう1人の用心棒にめり込む。

振り向いたままの、おきんが止まっている。
桜が狂ったように散り、降り注ぐ。
それ以外のすべてが、止まっている。
用心棒2人が、バタバタと倒れる。

やってきた山城屋が、鉄と錠を見て目を細める。
鉄が口を開く。
「おしんの恨み、晴らす」。

闇の中、浮かび上がった鉄の顔が笑っている。
こちらをにらんでいる錠がギリギリと、手槍を締め直して鳴らす。
「山城屋。おめえは抜け荷の罪を和泉屋に着せただけじゃねえ」。

「おしんが元締めたちを狙っているのを良いことに、残る越後屋源八を殺し、そいつをおしんの罪になすりつけた」。
「やることがちょっと、悪どすぎるようだな」。
「俺たちも頼まれなければ見逃したかもしれねえが、頼まれちまった以上、こっちも商売なんでね」。

「捕まえろ!」
山城屋が主水に、命令する。
主水は。おもしろそうな顔をしている。

ニヤニヤと笑い、頭をかいているが、動かない。
「捕まえんか!」
山城屋が苛立った声を出す。

「うわはははあ」。
鉄の哄笑が、闇に響く。
桜の花だけが、闇に白い。

「ははははは」。
主水も笑う。
鉄と主水の笑い声が響く。
主水が笑いながら言った。

「おめえを、な」。
「何い?!」
うわはははは。
鉄が笑う。

用心棒が動く。
おしんを陵辱した男だ。
主水が一太刀で斬り捨てる。

錠がジャンプし、残りの用心棒を相手に立ち回る。
手槍を突き刺され、用心棒が絶命する。
その怖ろしい光景を前に、棺桶を担いだ半次とおきんが身を寄せ合っている。
2人の顔は、やや、不安そうだった。

一仕事終えた主水が、息を吐きながら刀を収める。
山城屋が悲鳴を上げながら、逃げようとする。
笑い顔の鉄が、近づいてくる。

逃げる山城屋の背中に乗った鉄が、山城屋を膝まつかせる。
倒れた山城屋の背中を、鉄の革袋の指がなぞっていく。
ボキリ。
山城屋の背骨が、曲がった。


この一連の仕置きの場面の、桜の美しいこと。
鉄と主水の笑いの怖ろしいこと。
黒い笑いというが、まさにこの笑いが黒い。

笑い声に色がある。
黒い。
鉄と主水の笑い顔が、闇に浮かび上がる。

邪悪な笑顔。
後の「仕事人」シリーズでは見られない、主水の笑い。
怖さ。
不気味さ。

光と影の陰影のすばらしさ。
とても正義側の人間の描写では、ないです。
その中で、怒りの錠の清廉さが際立つ。

おきんが宴にすんなりと、潜入している。
これは、主水の手引きあればこそでしょう。
そのおきんの啖呵の勇ましいこと。
野川さんのおきんが大好きなのは、この啖呵です。

おきんが元締めになるシリーズって、見たかったな。
野川さん自身も言ってましたが、きっと周りを屈強な用心棒に守られ、本人は済ました顔でお茶なんか立ててる。
しかしいざとなると啖呵を切って、理不尽なことには怒りを露わにする。
見たかったな、おきんの元締め。


さて、不自由な体にされた山城屋は、飯を食べられない。
飢えた状態で放置され、目の前で飯をこぼされる。
耐え切れなくなった山城屋は、すべてを白状し、磔にされる。

ただ殺すより、エグイ復讐。
初期の「必殺」の、「仕置人」の中でもさらに初期の話。
荒削りで、洗練はされていない。
しかしパワーに満ちている。

桜の美しさと共に、この季節、必ず見たくなる。
白い桜と黒い笑い。
桜の嵐が彩る凄惨な仕置き。
永遠の名作。

2016.04.11 / Top↑
桜が長持ちしましたね。
入学式まで持ったかな。
桜の下の入学式は日本の風物詩。



夜でも、1本でも、桜は見事。



これから桜は北へ。
今年もありがとう、桜。

2016.04.10 / Top↑
朝、電車がなかなか発車しない。
隣の駅で乗客トラブルだったらしい。
5分遅れて発車して、いつも乗り換えて乗る急行に間に合わなかった。

そして着いたJRもまた、遅れていた。
ホームに人が溢れてる。
あちこち、トラブル。

帰り、会社を出る時に入館証をタッチする機械がトラブル。
ゲートが開かない。
私だけじゃない、他の人もゲート開かない。

解放されて、電車に乗る。
また発車しない。
隣の駅でトラブル。

帰りの急行にも間に合わないのか。
今日は通勤トラブルの日だなあ。
やっと発車して駅に着いたら、急行に間に合うかもしれない!

厄を落とすぞ。
乗るぞ。
走る!

間に合った~。
終わった~。
時期的にしかたないですけどね。
以降は順調でありますように。

2016.04.08 / Top↑
第4話、「逆転勝負」。

半兵衛とお春は出前に行って、岡引き・閻魔の弥三が島帰りの閻魔の弥三を脅して金を取っているところに居合わせた。
弥三は半兵衛とお春も脅す。
その直後、仕事屋に依頼が来た。

島帰りだが、今はまじめに勤める小間物屋の吉五郎が、弥三の十手を取り上げてほしいと言うのだ。
殺せば厄介なことになる。
だからくれぐれも殺さず、十手を取り上げてくれ。

吉五郎の依頼で半兵衛と政吉は、弥三の娘のおすみに接近することになる。
あんな弥三でも、娘は目の中に入れても痛くないほどかわいいらしい。
利助の話では、おすみは閻魔の弥三が父親のため、浮いた話のひとつもないらしい。
いつだったか、おすみに近づいた男を弥三は十手に物を言わせて百叩きの刑にした。

おすみを見た半兵衛は、「いいなあ。若くってかわいくって」と言う。
だが政吉も譲らない。
半兵衛と政吉が賭けをした結果、おすみに接近するのは政吉になった。

かんざしを買って、おすみに言い寄った政吉だが、弥三に見つかり散々な目にあう。
しかしその直後、うずくまる政吉に声をかけたのは、おすみの方だった。
おすみは政吉を家に誘い、自ら帯を解いた。
天女のように見えたおすみが、妖艶な笑みを浮かべて政吉を誘う。

戸惑う政吉は、おすみに告げる。
自分の父親が、何をしているか。
どういう人間か、知っているか。
だが、おすみは父親への愛情と父親の所業の間で苦悩していたのだった。

自暴自棄になるおすみと、政吉の間にやがて、本当の愛情が芽生える。
そんな矢先、弥三が殺される。
土間に倒れた弥三を抱き起こすおすみ。
政吉は、表に出た。

しかしその時、捕り方が迫ってきた。
やむを得ず逃げる政吉。
その影でそっと路地から出て行くのは、吉五郎だった。

だが弥三を殺したのは、吉五郎だった。
吉五郎はもう一度、盗みに手を染めるつもりでいた。
そのためには、つきまとう弥三が邪魔だった。
吉五郎は弥三のめかけのおくらと共謀し、弥三を殺したのだ。

仕事屋への依頼は、罪を仕事屋になすりつけるためだった。
吉五郎はおせいを尋ね、苦情を言い立てる。
十手を取り上げてくれとは言ったが、殺してくれとは言っていない。
しかしおせいは利助にもう一度、吉五郎を調べるように命じる。

奉行所では、政吉を犯人と断定した。
政吉にはおすみとのことで、弥三を殺す動機がある。
近所の人間も、おすみと政吉が親しくしていたことを証言した。

おすみは政吉ではないと言うが、奉行所では政吉を好きなおすみがかばっていると判断している。
出会い茶屋に潜む政吉を訪ねたおすみは、父親の着物をたたむ。
「たとえ閻魔だろうが鬼だろうが、あたしにとっては大事なおとっつあんです」。

おすみは、そう言った。
父親を殺した相手が憎い。
そう言いながら、おすみはおくらに父親の形見分けをしに出かけた。

こんなことがあった後だからと心配した政吉が、後をつけていく。
そこに利助が現れ、今度の仕事は半兵衛だけにやらせると告げた。
激昂する政吉は、おせいのもとへ走る。
その間におすみは一人、おくらを訪ねていく。

神社の敷地内で、おせいは半兵衛に今度の仕事は半兵衛だけに依頼すると告げていた。
それは政吉が奉行所に追われているからなのか。
聞いた半兵衛におせいは、半兵衛も政吉が下手人だと思うのか聞いた。

違う。
おせいも違うと思っていた。
そこに利助の「いけません、政吉さん!」という声が響いた。

「おかみさん、これはどういうことなんだ。どうしてこの仕事から俺をはずさなきゃいけねえ」。
政吉がおせいに詰め寄る。
「それは私が決めることです」。

おせいの声は冷静だった。
「そうかい。おかみさん、俺が奉行所に引っ張られて、この裏稼業がばれるのが怖いんじゃねえのか。俺はとにかく、てめえに降りかかった火の粉はてめえで払う!」
おせいは静かに言った。
「あなたは、仕事屋の掟を破ると言うのですか」。

「掟え?」
政吉は斜めに構えた。
「何言ってんだよ、その掟ってのは、おかみさんが決めたんじゃねえか」。
「私が決めた掟なら、どうでもいいと言うのですね」。

「とにかく俺は好きなようにやらせてもらうよ。俺は父親を殺されて泣いている、一人の娘の恨みをどうしてもはらしてやりてえんだよ!勝手にやらせてもらうよ!」
そう言うと政吉は去ろうとした。
「政吉!」
突然、おせいが声を張り上げた。

政吉の肩をつかむ。
その勢いに、政吉が体の体勢を崩す。
「勝手な真似は許さないよ!」

おせいが、政吉の頬を張る。
2回、3回。
「でなきゃお前を殺す!」

その剣幕に思わず、政吉が懐剣を抜く。
「おかみさん!」
利助が走り寄ろうとする。
半兵衛がすっと、止める。

おせいは政吉が抜いた懐剣を、手でつかんでいた。
政吉の動きが止まっていた。
おせいの手から血が流れ落ちる。
政吉が、おせいの顔を見上げた。

「政吉さん」。
おせいの目は今にも涙を流しそうな、哀しい目だった。
声も哀しく、つらそうだった。

政吉がおせいを見る。
だが次の瞬間、おせいはすっと、政吉から懐剣を取り上げ、鞘に収める。
いつもの冷静なおせいだった。

「政吉さん。あなたが地獄へ落ちる時は、私も一緒です」。
おせいは取り上げた懐剣を、政吉に差し出す。
政吉は無言でそれを受け取る。

おせいが去っていく。
政吉が去っていくおせいの後姿を見ている。
視線が地面に落ちた。

だが、もう一度、政吉はおせいを見る。
おせいが遠ざかっていく。
政吉は遠ざかるおせいの背中を、ずっと見ている。
見つめている。

その頃、おすみはおくらの下を訪ねていた。
湯上りのおくらの様子が、おかしい。
吉五郎が座敷に来ていた。
おすみを、吉五郎が捕らえる。

半兵衛は、おくらの家に急ぐ。
誰もいない。
水音がする。

風呂場で半兵衛は、何かに気づく。
湯の中で手に取ったのは、長い髪の毛だった。
長い髪の毛が、湯に浮いている。

風呂場からずっと、水が滴り落ちる後が続いている。
廊下へ。
半兵衛はそれをたどっていく。

水は座敷まで続いていた。
半兵衛が戸を開ける。
そこには、政吉がいた。
政吉の前には、息絶えたおすみがいた。

何が起きたのか。
2人にはその様子が、目に浮かぶ。
おすみの顔が、湯につけられて目を見開いていた。
政吉の手には、おすみにやったかんざしがあった。

「この仕事は私がお2人にお願いします」。
半兵衛と政吉に、おせいが金を積む。
利助が調べてきた。
吉五郎の昔の盗人仲間が、仲間に再び引き込まれるのをおそれてすべてを話した。

奉行所の手が回るのを怖れた吉五郎とおくらは、今夜、江戸を発つ。
「じゃ、江戸を発つ前に」。
半兵衛の言葉が、合図のようになる。

夜半、半兵衛と政吉が吉五郎とおくらが潜む水茶屋の前に立つ。
半兵衛が、なめし皮でかみそりをなめす。
政吉は、懐剣に油をたらす。
手ぬぐいで、それをぬぐう。

吉五郎とおくらが茶屋から、出て来る。
辺りをうかがいながら、逃げていく。
半兵衛と政吉が、後を追う。

吉五郎とおくらは鳥居が並ぶ場所に差し掛かった。
半兵衛がおくらの肩を抱いている吉五郎を、闇の中に引きずり込む。
吉五郎がいないことに、おくらが気づく。

「お前さん」と吉五郎を呼ぶ。
吉五郎の返事がない。
姿もない。

「お前さん」。
「どこにいるんだよ?」
「お前さん!」
おくらの声が鬼気迫ってくる。。

半兵衛が、吉五郎の口を押さえていた。
羽交い絞めにされた吉五郎に向かって、政吉が突進してくる。
懐剣を吉五郎に向かって刺す。

深く刺す。
さらに深く刺す。
深く、深く刺す。

半兵衛が出て行く。
「お前さん」。
おくらはやってきた半兵衛に声をかけようとするが、半兵衛は知らん顔で去っていく。

「お前さん」。
「どこへ行ったのさ」。
「お前さん!」
「お前さん!」

闇の中、1人残されたおくらは必死に声を張り上げた。
だが誰も答えない。
誰もいない。

その夜、政吉は女郎屋にいた。
おせいからもらった仕事両の小判を、派手に投げる。
女郎たちが群がる。

政吉が倒れる。
「あんたぁ、もうないの?」
「俺、政吉ってんだ!」
政吉が女郎たちに囲まれ、自暴自棄の笑いを浮かべる。



どっちがおすみに近づくか、半兵衛と政吉の賭けは何と、自分の脇の下の毛を抜いた長さ比べ。
政吉が半兵衛の倍の長さ。
「馬並みだな」と呆れる半兵衛に「毛並みが良いんだよ!」と言う政吉。
く、くだらないけど、笑っちゃう。

閻魔の弥三は、今井健二さん。
殺さないでくれの依頼が、結局殺すことになると予想がつく。
ところが弥三が殺されてしまう。

何と、今井さんが被害者に!
今井さんの岡引き、閻魔の弥三と設定があれば、「仕置人」の鉄と錠を相手に張り合った岡引きを思い出す。
もう、今井さんらしくない展開。
どんでん返しの「仕事屋」らしい。

父親への愛情と、父親の所業と、友達も恋人もいない孤独に苦しむおすみ。
弥三のためにおすみに近づいた政吉が、おすみに本気になっていく。
「たとえ閻魔だろうが鬼だろうが、あたしにとっては大事なおとっつあんです」。
奉行所に追われる政吉は、おせいの言うことも聞かず、暴走しようとする。

それまで冷たく、事務的だったおせいが突然、感情を爆発させる。
「政吉!」の声は元締めではなく、母親の声。
誰よりも大切と思いながら、「お前を殺す」と口走るおせい。
プロとして生きるおせいには、そうとしか言えない。

だがこれは、普通なら暴走する息子を諌める母親の図。
利助が止めようとするのを、黙って押しとどめる半兵衛。
半兵衛には、すべてわかっている。

政吉を手にかけたなら、おそらくおせいも死ぬであろうことが。
半兵衛には、すべてが見えている。
おせいの哀しみは、第2話より深い。

しかしこの政吉とおせいの立ち位置が、最終回では逆転してしまうんですから。
「仕事屋」は全編を通して見た時、すごさがわかる。
おせいの様子に、さすがに政吉も察する。

こうまでして自分を止める。
それは元締めの行動ではない。
政吉のおせいを見送る目。
その目が「おふくろ…」と言っている。

半兵衛、政吉、おせい。
緒形拳さん、林隆三さん、草笛光子さんの無言の演技。
目が、すべてを語っている演技。

おすみは、菊容子さん。
かわいらしい娘と、政吉を誘う妖艶さ。
天女と悪女が同居する様。
父親への愛情と憎しみで、苦悩する様。

そして殺されるシーンが、あまりにも痛ましい。
目をそむけたくなる。
改めて、菊容子さんのご冥福をお祈りします。

さらに今回は源五郎がパワーアップ。
半兵衛が弥三に家を突き止められ、叩けば誇りが出そうな奴、出ないなら出すってこともできるぜと脅されているところに登場。
うっかり、博打が見つかったのね?と口走り、弥三に口止めのネタを提供してしまう。

弥三が去った後、半兵衛にベタベタ、ベタベタすると、お春がもう、不愉快この上ないと言う顔をしてみる。
「なめくじっ!」と叫んで、お春が源五郎に塩をぶちまける。
「なめくじ、怖いっ!」と源五郎が叫んでいるところがおかしい。

「何よ、なめくじなんかいないじゃない」と気づいた源五郎が「ねえ、半ちゃん、うちに遊びにおいでよ」と再び誘う。
お春が間に割って入る。
すると源五郎。
「女の嫉妬って嫌ねえっ!だから女は嫌いよっ!」と言って出て行く。

源ちゃんはおくらの家に急ぐ半兵衛の前にも、もう一度、登場する。
「ねえ、半ちゃん、家においでよ」と言って、半兵衛の邪魔をするんですね。
いやいや、たまらなくおかしい。
この話は菊容子さんを襲った悲劇を知ると、見るのがとてもつらい話なのですが、源ちゃんは救いになっているかも…。


2016.04.07 / Top↑
何気なく日経新聞を見ていたら、コラムに、須賀不二男さんの名前を発見!
亡くなる1年ほど前に、コラムの筆者に須賀さんから送られて来た手紙の話でした。
映画は、千円ちょっとで楽しめる娯楽。

須賀さんは、時間があれば映画に行っていたようです。
しかし、お客さんが少ない。
お客さんが少ないのを、須賀さんは気にしていたそうです。

「必殺」では、印象的な悪役を演じていた須賀さん。
「からくり人」の全滅は、シリーズでも屈指のハードな展開。
それに相応しい宿敵が曇でした。
名優・須賀さんの熱演です。

山田五十鈴さんとの対決。
岸田森さんとの密談など、すごい迫力。
良い画ができてるんですよね~!

「雲霧仁左衛門」では、おかねという女盗賊のお頭。
おかねを育てた父親と言える存在。
年老いて、最後の仕事に臨むが、外道の盗賊に加担した手下に裏切られる。

刺されても必死に、おかねを逃がすお頭。
貧しきから盗らず、人を傷つけずに来たが、やはり盗賊。
裏を生きる人間。
どんなに情があっても、無惨な最期を迎える人間。

須賀さんのお頭からは、その哀しさが感じられました。
おかねは、そのお頭の仇を討とうとする。
描かれていないおかねとこのお頭の年月がどんなものだったのか、伝わって来ました。

須賀さんはテンプターズの映画では、遣り手社長を演じてました。
遣り手だが純情で不器用な男の恋の成就が、微笑ましかった。
「必殺仕事人」で、主水の昼行灯に胃を痛める上司を演じた時も楽しかった!

日経新聞のコラムなんて、意外なところで須賀さんの素顔が見られた気分。
きっと真面目な紳士だったんでしょう。
須賀さんの名前を見て、ちょっと幸せな気分になれました。


2016.04.03 / Top↑