「役者は1日にしてならず」。
俳優さんたちへのインタビューで構成された本です。
春日太一さん著。

好きな俳優さんたちがたくさん出ていて、私にはとても楽しい本です。
現在は闘病中の、松方さんのインタビューが出ていました。
松方さんは、時代劇とヤクザを演じる時、着流しの長さを変えているとか。

「今は、自分で帯が締められる役者さんはいないでしょう。
着流しを衣装さんに着せてもらう時、足を開いて突っ立っていると、帯から下がフレアスカートのようになってしまいます。
僕は着流しを着せてもらう時、足をクロス気味に閉じて着ます。すると、タイトスカートになるんです」。

「僕は先輩がそうしているのを見てきましたが、今の俳優さんは見ていない。
それではダメです。袴も帯の位置も、自分で着て、自分で合わせないと。
帯も締められっぱなしだから、途中で苦しいと言い出す」。

話は萬屋錦之助さんに。
「時代劇で渡世人を演じる時、錦兄ぃは浅黄色のパッチに、ストレッチ素材を特注で入れていました。
ですから、立つ時に皺が寄らなくてカッコいいんです。何であんなにカッコいいのか、今の人はわからないんじゃないかな。
錦兄ぃはセリフも動きも、天下一品でしたよ。僕の若い頃の芝居は、ほとんど錦兄ぃのマネをしています」。

「華があった。華って天性のもので、後から磨けないんですよ。主役には華がないとダメです」。
錦之助さんの弟の中村嘉津雄さん(津は草かんむり)にも、教えてもらったことがあるそうです。
「遠山の金さんの長袴の裾を前に飛ばす時、うまく飛ばない。裾の先に、小銭を入れておくんです。
そうすると、それが重しになって伸びる。そういうのは、中村嘉津雄さん(津は草かんむり)に教えてもらいましたね」。

松方弘樹さんのお父様は、名優・近衛十四郎さん。
しかしお父様に教えてもらったことはないとか。
ただ、立ち回りは見ておけと言われた。

「父は立ち回りは、1回で覚えるんですよ。僕が10回も20回もやっている時、父は『疲れるからやらんぞ』とイスに座っているだけでね」。
「それで本番テストになると、『1、2、3、4手で早く行くぞ。4手と5手で間を入れるぞ』」。
「『6、7、8、9、10、11、12は早いぞ』
『12手と13手は間があるぞ』って言いながら20手ぐらいを1回で覚えるんですね。僕も覚えるのは早い方ですが、何で覚えられるのってぐらい、父は早かったですね」。

「あの頃は先輩と撮影する時は必ず、部屋にご挨拶に伺うの。それは父親でも。挨拶に行くと鏡越しに『おう』と言うだけで、振り向いてもくれません。
ただ、立ち回りだけは見ておけと言われたので、見ていました。撮影が終わると、セットを何杯も見て行きました。
今の俳優は自分のロールが終わると帰りますが、自分たちの時はそんなことは絶対になかった」。

近衛は刀を斬り上げる時に右手を返す型が特長だが、それは松方も引き継いでいる。
「その方がただ、斬るだけより良いんですよ。刀の先が動きますからね。刀は手首に力が入ったら、動かないんです。
今の俳優さんは、手首が硬いまま、刀を振り回している。そうすると、刀は走りません」。

「ゴルフは手に力を入れると、飛ばないでしょう。あれと同じです」。
「大川橋蔵さんは、斬る時に内股になるんです。すると袴をはいていない、着流しの時は裾が乱れずに綺麗なんです。
そういうのは見ていればわかることですが、基礎がなかったら見てもわかりません」。

「僕は先輩がやったことは覚えていて、今も注文しています。
例えば弁慶をやる時、袈裟頭巾と言って、坊さんの袈裟を頭に巻くのがカッコいいんです。
袈裟は金糸が入っていて、綺麗なんです」。

「でも今は、その袈裟をピシッと巻けるスタッフがいない。だから白い布をただ巻くだけ。
注文をこちらから出さなければ、お仕着せになってしまう。
ですから時代劇というのは、ポイントを見ておかないといけないんです。注文をこちらから出せるだけの知識が必要です」。

「仁義なき戦い」の時の深作監督は、朝まで飲んで、『お前ら寝るな』って言うんです。明日の撮影は、目が赤い方が良いって。
それでも平気なぐらい、集中していました。
監督さんというのは、スタッフ、キャストを引っ張っていくパワーが必要なんですよ。
あの時の深作さんには、パワーがあった。統率力とカリスマがありましたよ。
実働45日で、あの人はほとんど寝てなかったんじゃないですかね」。

「台本を読んで良い役だと思ったのが、ポッと出た俳優と思っていた人たちに行ったことがありました。
でもこれが川谷拓三、室田日出男、志賀勝なんです。その中に入ったら、霞んで消えちゃうんですよ。
出が多ければ良いってわけじゃないんですよ。ワンシーンでもちゃんと演じられるかどうか。
良い台本は良い役がいくつもある。ちょっとしか出てなくてもね。そう言う役がある台本は良い本だ、出たいと思って出ます」。

「悪役はおもしろいです。主役は淡々としている方が良い。ずっと出ているわけですから、やりすぎるとお客さんが飽きてしまう。
悪役が主役を食うほどやると、逆に主役が立ってくるんです。
主役も回りも下手だと、どうにも観ていられない」。
「昔は育ててくれました。今は使い捨てです。僕は良い時代に、俳優の道に入ったと思います」。

話は、映画「十三人の刺客」での立ち回りに及ぶ。
春日さんいわく、「松方は武士としての佇まい、立ち回りの凄み。並み居る若手人気俳優を圧倒していた」。
それについて松方さんは言います。

「立ち回りは、いきなりはできませんよ。刀を持ったことも、差して歩いたこともなければ」。
黒澤監督が「椿三十郎」で当時の若手の加山雄三さんや、田中邦衛さんに「着物を着て生活しなさい」と言いましたね。
仲代達矢さんも、刀は重い。
差して歩いていると、歩き方が違ってくるとおっしゃっていました。

「袴もはいていないから、どんどん下がってきて、5回も座ったらお尻が出て、引きずって歩いています。
僕の立ち回りは出演した若手俳優さんは見に来ていましたが、見ててもできないんです。
しかもあの立ち回りは『動』ばかりで『静』がない。バンバン斬って血糊を塗っているから、誰が誰だかわからなくなるんです」。

「ですから、僕の絡みでは『僕がジッとしたら動くな』と言いました。止まるから初めて、動いた時に速く見える。
立ち回りは、1人ではできない。
絡みがいて、初めてできるんですが、あの現場では2百人のうち、できるのが5人ぐらいしかいなかった。

だから『動くな』と言ってもみんな、はやるんですよ。
自信のない奴はどんどん近寄ってくるんです。
刀は遠くから伸ばした方がよく映るのに、近くに来るんです」。

「絡みができる俳優が、本当にいなくなった。
芯のある主役がいなくて、両方が下手だったら、今の時代劇は観てられないわね。
…ひどい」。

でも松方さんは、今の俳優さんをけなしているのではありません。
「今は使い捨てなんです。昔は、映画会社にはスターを育てるという使命がありました」。
「そう言うシステムの時代に、僕はこの業界に入ったんです。今はもう、そう言うシステムではない。映画会社が自前で映画を作りませんからね」。

「昔の時代劇がちゃんと所作ができているのは、時間をかけているからです。時間とは、お金です。
僕の若い時は20回もテストをしてくれましたが、今は1回か2回ですからね。うまくなりません。
お金をかけないのが、すべてです」。

「俳優さんが悪いんじゃない。
体制が悪すぎる。悲しいです。
良い時代を見ているだけに、悲しい」。

共演した若手俳優さんたちのことを「芝居はうまい」。
「すごく良く考えて芝居をしている」。
「けど、まだ若い。彼らが40歳過ぎて『立つ!』となった時、蓄積したものが残っていたら良いと思います」と話しています。


現在、松方さんは闘病中です。
松方さんの「遠山の金さん」には、女優の池上希実子さんが出ていました。
この時、池上さんは最初、出演を断ったそうです。
理由は、お嬢様の受験。

それを聞いた松方さんは池上さんに「待つ!」と、おっしゃったそうです。
待つと言える松方さんの影響力にも驚きましたが、池上さんを待つと言う松方さんに驚きました。
でもこのインタビューを知ると、松方さんには明確なこの役は池上さんじゃなければいけない理由があったんだと思います。
それだけのこだわりと、見抜く目があった。

でも自分のために「待つ」と言ってくれたら、それはうれしいですよね。
期待に応えようと思います。
松方さんを大切に思います。

ご家族のことや私生活でいろいろと言われることもある松方さんですが、慕う人も多いはずです。
目黒弘樹さんの立ち居振る舞いと殺陣の見事さに、最近でも感嘆したばかりです。
松方さんがインタビューで言っていることは、さすが、時代劇を演じ続けて来たスターだと思いました。
松方弘樹さんの回復を心より願います。



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2016.07.28 / Top↑
NHKスペシャル「未解決事件」ファイル5「ロッキード事件」。
ロッキード事件は、前総理が逮捕されるというものすごいことになった事件。
戦後最大の疑獄事件と呼ばれている。


松重さん演じる吉永検事が中心に、ドラマは展開します。
自分も子供の頃、流行語になりましたからこの事件を知ってはいました。
「記憶にございません」とかね。

でも当たり前ですが、理解はしていなかった。
くだらない話で申し訳ありませんが、クラスメートに「こうちゃん」と呼ばれている子がいました。
それで「コーチャンってのは悪い奴なんだよな!」なんて、とばっちりくらってました。

再現ドラマはロッキード事件を、わかりやすく説明していたと思います。
職場の机やイス、家のちゃぶ台、タンス、かけているメガネ。
小道具に至るまで、昭和の時代が再現されている。
この点もすばらしかった。

そして実に骨太の、すばらしいドラマになっていました。
小道具、演出、俳優さん、ドキュメンタリーとしての構成。
とても丁寧に作っている。

こういうの見ると、NHKじゃないとできないなあと思ってしまうんですよね。
本当に良くできている。
受信料払う価値あると思うのは、こういうドラマを見た時。

しかし、闇が深い。
事件についてはわかったこともあるけど、わからないことはそのまま。
だから「未解決事件ファイル」なんでしょうが。

ロッキード事件と言うと、トライスターだと思っていたんですが、そうではないらしい。
本当の目的は軍用機であり、そちらの方は誰が、誰に渡し、どう使われたかは不明のまま。
見ていて、おそらくこれ以上の解明は危険で無理だと感じました。
怖いよ。

昨日のドラマは、エネルギッシュなおじさんたちが中心。
女性の出る幕がなかったけど、おもしろかった。
イケメンじゃないおじさんたちばかりで、それがすごくカッコよく見えました。
そんなドラマ、久々。

みんな、自分の立場で、自分の信念で、自分の正義で戦っている姿が良かったんでしょうね。
警察、ジャーナリスト、そして検察。
政治家は政治家で、国家も。
みんな、戦っていたんじゃないかと思います。

良かれ、と思って戦っていた。
誰もがそうだった。
そう思いたい。
だとしても、闇が深いですけどね…。


田中角栄氏を演じたのは、石橋凌さん。
この方、ロックバンドARBでこの事件について歌っていたような気がします。
おもしろい縁ですねえ。

松重さんは、自分を主張しない演技もできるところが良いです。
進行の邪魔にならない演技ができる。
ナレーションしていてもそう。

最後のシーン。
松重さん演じる吉永検事が、初めて、病床の児玉氏を訪問する。
訪問は、これ一度きりだったようです。

応接間に通され、待っている時、P3Cの模型が吉永検事の目に入る。
小さな模型の台の裏には英語で、「日本の防衛のために」と書かれていた。
P3Cは現在、海上自衛隊が使っているそうです。
奥さんが応接間に来た時、吉永検事の姿はなかった。

吉永検事は、帰ってしまっていた。
去っていく背中に、いろんな思いが溢れている。
実に味わい深い後姿でした。

良いドラマ、見ました。
翌日のドキュメンタリーも楽しみ。
このドラマは録画していて、本当に良かった。
じっくりまた、見直したいと思います。


2016.07.24 / Top↑
「蜘蛛女」を、再見しました。
土曜日の深夜に放送していたものの録画なんですが。
ああ、この時にはまだ猫がいたなあ、と思いながら見たんですが。

しかしこの映画、作りは雑なところがあるのに、俳優さんたちのハマり具合と迫力で夢中になりますね。
ゲイリー・オールドマンは悪徳警官役でも、こちらの情けない役の方が似合う。
この情けなさが、味があって良い。

そしてこの映画では何といっても、「蜘蛛女」こと、モナ・デマルコフがすごい。
レナ・オリンという、知的な感じの女優さんが演じている。
「氷の微笑」など悪女の映画は多くありますが、「蜘蛛女」は力技で押していく悪女。

普通の悪女は、緻密な計算と切れる頭脳と冷酷さで完全犯罪をやってのける。
だがモナは、男の首を太ももで締め付けて窒息寸前に追い込める力技の悪女。
見ていて怪物映画みたいで、これはこれで楽しい。

あの低い、ぬははははぁ、というような笑い。
ギャグになっちゃうぐらい、すごい。
ジャックの首を絞めながら、ぬははははは、ぬはははははっはっ、と笑う。

ガーターベルトなんてセクシーなスタイルなのに、下着丸出しで足でガラスを割る。
たたたたと走る時、邪魔になった靴を空中キックして脱ぐ。
両手が手錠でつながれてるからね。

自分で切り落とした左腕の義手を、「外した方が良い?」なんて聞く。
「そうしてくれ」と言われ、ポーンと放り投げる。
ぬははははと笑いながら。

会社の同僚で「俺、怖い映画嫌いだよ~お…」と言って、見ないという人がいました。
「怖い女、嫌いだよ~」。
私は「おかしくなっちゃうから見て!」と言いました。
モナは演じるのって、楽しかったんじゃないかな?

当時のファッションを見るのも楽しい。
モナが最初に護送される時に着ている、紺地?に細い白いラインが入ったピンストライプの服。
これはコート?
ワンピース?

こういう布地、この時期にあったな。
スーツ、ワンピース、スカート。
スカートはタイトだった。

シルエットはボディコン。
モナの着ている服も、ボディコンシャス。
マフィアのボスを生き埋めにする時に着ている、パンツスーツのシルエットも時代を感じる。

そうそう、日本はバブルの時代だった。
モナはロシアで、マフィアの殺し屋だった女性。
アメリカみたいな国家じゃなくて、何だか何でもありな国といったイメージ。
そこでマフィアの殺し屋だった女性なんだから、何でもありなのか。

肉体的、体力的にも精神的にも超越した強さを持つモナ。
対して、この映画の男性たちはみんなちょろい。
甘く見て、モナの女の罠にはまる。
ところがモナは、性別こそ女性の体に生まれてきたけど、か弱い女性じゃない。

肉体を餌におびき寄せることはしても、女性ではない。
自分を死んだことに偽装するために、自分の左腕を切り落とすような人間。
そこまでの気合と覚悟がない男性が、食われるのは当たり前。
だから男たちは、次々食われる。

中でもとことん、情けなかった悪徳警官・ジャック。
最初にモナの誘惑に乗った自分を「どの程度の男か、わかるだろう」と嘲るけど。
マフィアとモナ、両方から金を取ろうとしてモナにはめられる。
でもジャックは最後に1回だけ、男らしく逆襲する。

モナはジャックを、ちょっとだけでもかわいいと思ってたんじゃないかなんて考えた私も甘かった。
逃げ切ろうとするモナに、「それはお気の毒。あんたはもう2度と女房は抱けないよ」と言われる。
「あの女は死んだ。あんたが死んでるのと同じようにね」。

ぬはははは、と笑って出て行くモナ。
とっさに靴下の下に銃を隠し持っている同僚から、手錠がはまったまま、ジャックは銃を奪う。
そして遠ざかっていくモナに、発砲する。

1発目で、モナが振り向く。
2発目、モナの肋骨が砕け、血が飛び散る。
3発目、胸に命中。

4発目、さらに命中。
5発目、倒れるモナにとどめ。
とことん、バカにしていた男の逆襲に信じられない表情のモナ。

倒れ、上体を起こして自分に起きたことを見る。
驚愕の表情のまま、モナは死ぬ。
その後、ジャックも自殺を図るが、弾丸はもう入っていなかった。

同僚の刑事が言う。
「よくやった、ジャック」。
「良い腕だ」。

そう、ジャックは結構、良い腕を持つ刑事だったと思う。
それがこんなことになってしまうのは、欲に目がくらみ、そこをマフィアに、そしてモナにつけこまれた。
ジャックがどうして、モナを殺して表彰されるまでに至ったのか、わからないけど。

ちりーん。
最初に響いていた、鈴の音が響く。
それはジャックが新しい名前と身分を与えられ、経営しているダイナーの入り口の鈴の音だった。
この映画は、新しい名前と身分証明書、職業を与えられたジャックが過去の自分を語っていたのだった。

ハイウェイに、ぽつりとあるダイナー。
そこでドアが開き、ジャックは悲鳴をあげる。
モナが笑いながら、立っていたから。
次の瞬間、モナは消えた。

ホッとしたジャックは、入ってきた妻のナタリーを鏡に見て、額に入っていた手紙を落とす。
ガラスが割れる。
ジャックは妻のナタリーに、半年後、待っているから来てくれと言った。
5年前から、ジャックはここでナタリーを待っている。

ついに来たのだ。
歓喜のジャックは、笑顔で涙を流す。
ナタリーを抱きしめる。

2人の影が薄くなっていく。
消える。
ジャックが言う。
「時々、もう少し長くいてくれるときもある。ごく、たまに、だが」。

ジャックは、吸っていたタバコを床に落とす。
扉を開け、外に出る。
「俺が諦めると思ってるんだろ?」
「そんなことはない」。

「いつだってナタリーが、あのドアから入ってきてもおかしくない」。
人、車自体がここを、ほとんど通らないように見える。
ダイナーの他に、建物の影はない。

いや、何かの影がない。
動くものがない。
空にも、大地にも動いているものがない。

広々と広がる大地。
ジャックが、ガソリン給油機の傍らに座る。
ここもしばらく、使われた形跡がない。

彼はここで日が暮れて、辺りが暗くなり、星が出るまで座っているのだろう。
いつもいつも。
目がくらみそうになるほど、虚しい想像。

ジャックは言う。
「どんなことがあろうと、彼女は」。
「俺を愛している」。
「…はずだ」。

全編を貫く、けだるいジャズ。
それは最後にオルゴールの音色が足され、哀しさを強調する。
ラストシーンは、怖ろしく虚ろ。

ジャックの心のような、荒涼たる風景。
失ったものの大切さ。
初めて、失ってからわかる存在の大きさ。
ささやかでも、十分だった本当の幸せ。

悔いても、悔いても足りない。
もう、もどらない…。
身を切るような孤独。
切なさで胸が一杯になる。

猫を見送って1ヶ月。
もう、この手で触れることができない寂しさ。
大切なものが、そこにない喪失感。

猫がいた時に見た映画であり、猫がいた日々を思いながらこのラストを見るのは、一層切ない。
自分の手に触れるものが大切な存在だということは、ジャックのように忘れてはいなかったけど。
見送りに後悔が驚くほどなくて、予想していたひどいペットロスに陥らずに済んでいるけど。

この空の下、大切な者、そこにいた者がもうどこにもいない。
理屈ではない、寂しさ。
それがジャックと重なるのかもしれない。

モナの強烈なキャラクターに彩られた映画の、意外なほど切な過ぎるラストシーン。
映画はそれを見た時の自分の状況、思いも一緒に刻む。
「蜘蛛女」は、自分には忘れられない映画になっているのかもしれない。


2016.07.24 / Top↑
記憶にございません。
流行語になったんじゃないかな?
ロッキード事件で、追求された時に出てきた言葉。
子供はおもしろがっていたけど、成長すると「すごい事件だったんだな…」とわかる。

本日、NHKでシリーズ未解決事件のファイル5が放送されます。
このシリーズは、かなり見応えがあり、毎回必ず見ています。
今回のファイル5は、ロッキード事件!
しかも再現ドラマで、検察の鬼を演じるのは、松重豊さん!

すごい、すごい楽しみ!
放送は第1部と第2部が、7月23日の夜7時30分~10時まで。
第3部が、7月24日の夜9時~10時まで。
再現ドラマは1部と2部のようですが、全部楽しみです。



2016.07.23 / Top↑
もうすぐリオオリンピックで、ブラジル関連の報道もよく見かけるようになりました。
そして先週日曜日の朝。
突然知ったんですが、松重豊さんのブラジル紀行番組があるじゃないですか!
良かった、見逃さなくて。

松重さんはブラジルに行っても、身長が高かった。
ブラジルの人の中にいても、頭一つ出ていた。
それで、日系人が多いせいもあるのかわからないけど、街に溶け込んでいた。

松重さんは市場に行ったり、肉料理食べたり。
以前「孤独のグルメ」で、ブラジルのシェラスコ食べていたのを思い出します。
最後にお店に、オーナーの娘さんが来ていた。

ブラジルの松重さんは魚の養殖やっている日系人を訪ねて、ピラルクー?
見ていると泥臭い気がする、大きな魚を食べてました。
松重さんが持ち上げて、同じぐらいの大きさ。

市原悦子さんがピラニア食べてたのを、見たことあります。
白身で淡白でおいしいと言ってました。
似たようなものだろうか。

ラーメンも食べて、最後は日系人の経営するコーヒー園へ。
最後に景色の良い部屋で、コーヒーを飲む。
松重さん、コーヒー好きですね。
とても味わい深そうに、飲んでいました。

日系人のみなさんは、移民して苦労した方たち。
ブラジルを離れる時、その話を聞いた松重さんは言ってました。
「日本で、自分もまだ頑張れると思った」。

松重さんは、声が良いのかなあ。
お人柄も穏やかで、良いんだと思います。
非常に見ていて癒されるような、楽しい紀行番組でした。
またやってほしい。

2016.07.22 / Top↑
朝、市松が家に戻って来る。
するとおるいが懸命に竹林の中で、穴を埋めている。
市松が家に戻ると、湯が沸いている。
ちょっと怪訝な顔をした市松が、振り返る。

「おかえんなさい」。
おるいが自分に向かって、塩をかける。
「済んだの?」
「ああ」。

「うちの人は?」
「死んだよ、みんな」。
「そうお」。

おるいの声は、何も感情が混ざっていなかった。
「あの2人は私が埋めといたわ。慣れてるんだ、こういうことは」。
おるいは、平然としてた。

水を汲みながら言う。
「待っててね、今すぐご飯の仕度するわ」。
おるいは楽しそうだった。

「いいよ。おるいさん。眠いんだ。夕方までほっておいてくれないか」。
おるいの手が止まる。
市松はそう言って、横になる。

おるいは言う。
「知ってたのよ、私は。乾屋であんたに問い詰められた時」。
「そうだ。いっつあんもきっと、世の中の暗がりで暮らしている人間だ」。
「きっと私と、同じなんだ。そう、感じたわ」。

「三島の旅籠に泊まってていた人は、みんなそうなのよ」。
「あんただって、あんたのおとっつぁんだって」。
「でもすごかった…」。

おるいは、ため息をついた。
「あの2人を殺した時、あたしぞくぞくっとした」。
おるいは、市松が追ってきた2人の男を殺した時のことを思い出していた。

市松の横に座る。
「あんなこと、他の人にはできないわ…」。
「いっつぁんだけよ」。

「人殺しはずいぶん見てきたけど、あんなすごい殺しは初めてだった…」。
おるいは、うっとりしていた。
「良かった」。

「いっつあんに会えて、良かった」。
市松は、何も言わずに目を閉じていた。
「眠ったの?ねえ、いっつあん」。
答えない市松におるいは、そっと布団をかける。

市松の脳裏では、子供たちが歌うかごめかごめが響いていた。
遊んでいる子供。
夕焼けが赤い。

真っ赤だ。
辺り一目、美しく赤く染まっている。
市松とおるいが、遊んでいる。
2人が遊びながら、納屋で寝転ぶ。

市松が目を覚ますと、もう夕暮れだった。
「起きたの」。
髪を解いたおるいが、市松の横に来る。

「三島へは帰らないのか」。
「え?」
「おまえさんには、生まれ故郷がある。三島に帰った方が良い」。

市松がそう言うと、おるいは言った。
「いやだ。あたしは帰らない」。
声には、甘えが含まれていた。

「なぜ」。
「三島でね、人を殺したんだもの」。
怖ろしい言葉とは裏腹に、おるいは甘えていた。

市松が起き上がる。
「お前が?」
「うん。おとっつあんの後添えの女を、殺してやったんだ」。
おるいは平然と言った。

「だから三島へは帰れない」。
そう言いながら、おるいは市松に明らかに甘えていた。
「あたしだって女の一人ぐらい、殺せますよ」。

そう言うと、おるいは竹串で行灯の中で、ばたついている羽虫を刺した。
ぷすり。
目を見張るような、鮮やかな一撃だった。

おるいは刺した虫を行灯の炎にかざし、焼く。
それを見る市松の目が細くなる。
おるいが、市松を振り返った。
「ねえ、いっつあん。私と組んで、仕事をしよう?」

おるいは市松に、しなだれかかった。
「あいつが残したお金もあるしさ、三島へ行きゃあ、おとっつあんの手下だって集まってくれるよ」。
おるいが、市松の胸に手を伸ばす。

熱でうわ言を言うように「いつまでもさあ、人に使われている殺し屋なんて、つまんないじゃないか、ねえ!」と言った。
おるいは、市松の胸に顔をうずめる。
「ねえ、好きよ」。
「好きよ…」。

「私、子供の頃からずっとずっと、あんたが好きだったの」。
「あんたに…、抱かれたかった」。
おるいが、市松を押し倒す。
「ねえ。好きって言って」。

おるいの頭越しに市松の手が、頭の上の行灯に伸びる。
「好きって、言って」。
市松はおるいが虫を刺した、竹串を手に取る。
竹串に留められて行灯に映った虫の影が、ぽとりと落ちた。

市松が、目を閉じた。
おるいの髪を市松がそっと、撫ぜる。
「くすぐったい…」。
おるいが市松の胸に顔をうずめて、くすくす笑う。

市松が竹串を、おるいの背後に振り上げる。
おるいは市松に向かって、微笑んだ。
市松は再び硬く目を閉じる。
おるいの首筋を、竹串で刺す。

「あう」。
そのまま、ガクリとおるいの頭が市松の胸に落ちる。
市松はおるいをソッとどけると、横に寝かした。

おるいの顔を見る。
目を閉じてやる。
そして、起き上がる。

窓を開けた。
外は、見事な夕焼けだった。
子供の頃のような、美しい赤い夕焼け。

壮絶に美しく、赤い。
市松の目がそれを見る。
わずかにうるむ。
赤い夕焼けが、血に染まる…。


銀次は、岸田森さん。
短い出演時間ながら、どういう男か、よくわかります。
熱演というか、さすがですね~。
銀次メインの話も見たかったと思ってしまいます。

おるいは、中川梨絵さん。
これが見事。
おるいという女は「必殺」シリーズという作品に、最もふさわしい形の悪女ではないでしょうか。

今回は市松メインの話。
寡黙で自分の感情を表に出さず、語らない市松。
その市松の心の動きを、沖さんは見事に表現。
ビジュアルとともに、まさに絶品の1作に仕上がっています。

この話のすごいところは、実は仕置きの後なんですね。
2人だけの、市松と、おるいのシーンなんです。
前回の市松の内面を描いた「姦計が見えた」では、主水がその心に立ち会っていた。

でも今回は誰もいない。
市松以外は誰も知らないところで悲しく怖ろしいドラマが進行し、終わる。
この切なさ。
市松が1人で生きてきたこと、孤独であることがよくわかります。

今回、市松は瀕死の主人から頼まれるだけです。
依頼料について、市松の取り分は小銭です。
さらに情報を持ってきた男に市松は、1両支払っている。

つまり市松は今回の依頼では、持ち出しです。
命をかける危険な仕事で、持ち出し。
プロの殺し屋の市松の意外な行動。

瀕死の男に頼まれたからでしょう。
つまり、市松は決して冷酷非情な殺し屋ではない。
仕置屋のメンバーが断ることも前提の上で、市松は話をしている。
ネコババしてもかまわないと言う。

仕置屋のメンバーが断った時は、おそらく、自分ひとりでも動いたはず。
それでも他の付き合いのある殺し屋に持って行かず、仕置屋に持ち込んでいる。
市松はわずかながらでも、仕置屋のメンバーに対して、信頼を持ち始めているのでしょう。
でも今は、それもこれも仕置屋のメンバーは誰も知りません。

おるいとの思い出は、子供の頃の幸せなひとときの思い出だった。
殺し屋の父親が帰ってこなかった朝から、1人で生きていくことを覚悟した市松。
その後、殺し屋の養父に殺し屋として育てられた市松。

彼が子供らしい子供でいる時代は、ほとんどなかったと思われます。
あの養父ですから、殺し屋としての素質がないと判断されたら、放り出される。
いや、殺される。
そんなことをわかっている子供に、どんな思い出があるというのでしょう。

市松が子供らしい子供でいたのは、三島の旅籠の時代だけだった。
遊んでいる子供たちの親は、おるいに言わせれば全員訳ありの親だった。
それでも、それだからこそ、あの子供たちには心が安らぐ思い出であるはず。

でもこの子供たちは、大人になってから出会うべきではなかった。
訳ありの親をもち、その親の後を継いでいるのだとしたら絶対に。
市松とおるいのように…。

旅籠の娘だったおるいは、すっかり魔性の女になっていた。
銀次も手下も死んだと言われても、何の感情も動かないおるい。
さらに、父親の後添えを殺したことを告白する。

市松にベッタリと寄りかかるように。
それが甘えの要素になると、思っているかのようだ。
まさに魔性の女。

この下りの、中川さんの口調は見事。
おるいは嬉々として市松の女房に納まるつもりだった。
今度は市松に近づく女性を殺すだろう。

実際、おるいには、それは悪いことではないのだ。
自分の邪魔になる人間を、排除しただけだ。
虫を刺すように平然と。

市松は確信した。
逃げたいと言ったおるいの言葉は、本物だったかもしれない。
銀次の所業に心を痛めていたこともあるかもしれない。
しかし本当のおるいは、銀次に平然と加担し、見逃していたのだ。

あの冷酷さ。
利己的な行動。
市松は、瀕死の男を見ている。
殺された幼い子供から年寄りまで、見ている。

だから小銭を渡されたことで仕置きを引き受けたのだが、本当の気持ちは銀次が許せないからだ。
そんな市松には、おるいの魔性は放置できないものだった。
これは魔性の女だ。
人を傷つけ、殺し、自分の欲望を満たす女だ。

おるいは市松を本当に好きだった。
それはわかる。
市松はおるいを優しく、愛撫するように抱き寄せる。
そして、殺してしまう。

思い出を血に染め、自分を愛する女を葬り去る。
市松は自分の背中の荷物がまた一つ増え、一段と重くのしかかるのを感じる。
張り裂けるような市松の心の叫びのような、女性のコーラスの曲が流れる。

夕焼けを血の色に思わせる演出が、すばらしい。
音楽、演出、ビジュアル、ストーリー、沖雅也。
全てがすばらしい。
沖雅也、不世出の俳優。

外を見る市松の目。
あの日のような、見事な夕焼け。
だがもう、市松には夕焼けは血の色にしか見えない。

また一つ、俺は自分の思い出を自分で葬ってしまった。
それでも俺は、殺し屋として生きていかねばならない。
これが、俺の宿命なのか…。

哀しみがひたひたと彼に忍び寄ってくる。
孤独が市松の胸を満たす。
赤い夕日が沈めば、闇が降りてくる。
市松の心は、その闇で安らぐのだろうか…。

2016.07.17 / Top↑
一度、書いているんですが。
第12話、「一筆啓上魔性が見えた」。


ある夜、市松は乾屋という煙草店の前を通りかかった。
不穏な気配に気がついた市松は、裏口に回り、黒い影が立ち去るのを見た。
乾屋の中に入ると、一家、奉公人に至るまで9人が斬殺され、血の海であった。

中を探っている市松の足を、虫の息の主人がつかんだ。
水をほしがる主人に市松は、鉄瓶の水を手拭いに浸して飲ませる。
乾屋の主人は言う。
「全部、やられた」。

そう言って、市松に恨みを晴らしてくれるよう頼むと、主人は息絶えた。
市松は主人の血まみれの手を開き、小判と小銭を手拭いに包む。
仕置屋の集まる釜場で、市松は「どうする?」と聞いた。

死人の頼みだ。
このまま金だけネコババしても、構わない。
捨三は、そんなことはできないと言った。
印玄もそう言った。

自分たちが晴らさなければ、誰がやる。
そう言う捨三に市松は、お上がやってくれると言う。
「そうだな八丁堀」。
「うん…」。

主水の答えには、微妙な響きがあった。
たった今、現場を見てきた主水は難しいと言った。
あれでは捕まらないだろう。

主水は言った。
乾屋というのは、タバコの一服売りから始め、やっと店を構えた男だ。
それが店を持ち、女房をもらい、子供を儲けた途端、盗賊に殺されたなんて、死に切れないだろう。

「だんな、俺もらうぜ」。
捨三は小判を手に取った。
印玄も、もらった。

「市松、おめえどうする」。
主水の問いに市松は、「死人に頼まれたのは、この俺なんだ」と答えた。
「そいつを忘れてもらっちゃ、困るぜ」。
市松は小銭だけを手拭いに包んで、持っていく。

主水は表の仕事として、盗賊吟味方を調べる。
夜の町を探りを入れながらあるう市松に、乾屋に入った盗賊の情報を持ってきた男がいた。
市松は、その男に小判を渡す。

翌朝、市松は生薬屋の越中屋の前の店に来ていた。
前の店の女性は、越中屋はこの周りの店とはあまり付き合いがないのだと言った。
そして、中から出てきた1人の女性をされが女将さんだと市松に教えた。
市松の顔色が変わる。

近くの寺に参詣に行った女性に、市松は声をかけた。
「おるいさん」。
「願掛けかい?」
「あんた…」。

「覚えているかい?」
市松が微笑む。
「いっつぁんじゃないの!」
「そう、市松だ」。

おるいが目を丸くする。
「どうしたの、どうしてこんなところにいるの?」
「10年よ、10年も会わない、どうして、いっつぁんがあたしの目の前にいるのよ?!」

「本当にいっつぁんなんだね。あんたは昔から人を脅かす子だったけど、ぜんぜん変わっちゃいない」。
「会う早々からお説教とは、おるいさんの癖も変わっちゃいねえな」。
おるいは父親が、三島で浅間屋という旅籠をしていて、そこの娘だったのだ。

市松は三島の旅籠のことを聞いたが、おるいは人手に渡ったという。
「俺か?俺は」。
市松は遠い目をした。

「叔父貴に教わった竹細工で、細々とやっているよ」。
「おまえさん、何しているね」。
「何って」。

「人並みに亭主を持って、ただ生きてるってとこよ世。商売は生薬屋だけどね」。
「何ぁに?」
「変わらねえなあ。10年前のおるいさんがそのまんま、大人になってらあ」。
「当たり前よ。浅間屋のおるいさんは、いつまで立っても浅間屋のおるいさん」。

市松がおるいの目を見る。
「また会ってくれるかい?」
「いつ?」
おるいの手が市松の手に、そっと触れる。

印玄は、図面師の男が死んだ葬式から、情報を得てきた。
主水は地元の人間は、あんな荒っぽい仕事はしないと言う。
あれは、よそ者の仕業だ。

仕置屋が話しているところに、市松が現れる。
市松もまだ、何もつかんではいないと答えた。
おるいと越中屋のことは、何もまだ言わなかった。

市松は屋形船に、おるいを呼び出していた。
「何だか酔いそうだ」と、おるいは言った。
「船にか」。
「…」。

「ううん、あんたは怖くない。でも私が怖い。昔から、いっつあんのこと好きだったの」。
おるいは、昔旅籠にいた婆やに言われたことを話した。
市松より、おるいの方が年上だから一緒にはなれないと、おるいは言われたのだ。

その晩、おるいは朝まで泣き明かした。
次の日から、市松とは口を利かなかった。
おるいはそう言うと、外を見た。

それから、おるいは市松と一緒に遊びもしなかった。
死んだ父親がそんなおるいのことを、気が強いと呆れていた。
そこまで言うとおるいは、「もうだめね」。と言った。

「こうしていっつぁんと会ってしまったんだもの。きっとダメね」。
市松が、おるいの手を取る。
2人が見詰め合う。

その後、市松は乾屋の殺された現場におるいを連れて行く。
「さあ、おいで」。
死体はないが、外れた障子が破れ、血が飛び散ったままになっている。
生々しさが残っている。

それを見たおるいが、「いや」と言った。
「おるいさん」。
市松が肩を抱く。

10日前、ここに盗人が入った。
「かわいい子供から、60過ぎの飯炊きばあさんまで、一家9人。1人残らず殺された」。
市松の声が廃墟に響く。
「皆殺しだよ」。

血が飛び散った障子が目の前にある。
「血は乾いたかもしれないがね。恨みは消えやしねえ」。
「うかばれねえ仏の魂がまだ、そこらじゅうさまよってるんだ」。

おるいが、後ずさりしていく。
「おるいさん、教えてくれないか」。
「9人殺したのは誰なんだ。おめえさん、盗人たちとどういうつながりがあるんだ」。

「聞かしておくれ」。
座敷で、おるいが座り込む。
「私、知らなかった。今度のことは、どこでどう運んだのか、まるで知らなかった」。
「江戸で始めての仕事だから、女は黙ってろってそう言われたんですよ、いっつぁん!」

おるいは語り始める。
「うちの人が盗人だなんて、夢にも思わなかった…」。
「父親に言われて、当たり前のように一緒になり、このまま旅籠の女将になると思っていた」。

だが父親のお通夜の晩、夫が、自分の本当の仕事は盗人だと告白した。
それも父親の片腕で、一家を取り仕切っていたことを、おるいは初めて知った。
「おとっつぁん、盗人だったんだ。私は盗人の娘だったんだ、って」。

「何度も死のうと思った」。
「盗人の暮らしが嫌で、飛び出しては捕まり、逃げては引き戻された」。
「気がついたら、いつのまにか何も言わないで黙ってあの人の言うとおりに生きてた」。

「しょうがないもん。私は…、こういう生まれなんだ。こういう運命なんだって、自分で自分に言い聞かせて」。
「いつかはあの人も捕まるだろう。一緒に引き回されて、獄門にさらされて、それがせめて…」。
「私と、おとっつぁんの罪滅ぼしなんだって」。
「そう諦めて生きていたのに」。

「嫌だ」。
「もう嫌だ」。
おるいは泣いた。

「生きてるのがいや。死ぬのもいや」。
「ねえ、一体どうすれば良いの?どうすれば良いのよ?」

越中屋では、盗人たちが今度の仕事について話し合うため、集まっていた。
おるいの夫で、首領の銀次が乾屋で奪った金を分ける。
だが分け前はたったの5両だけだった。

手下が文句を言うと、今渡せば派手に使って、町方に目をつけられる者が必ず出て来ると銀次は言う。
それに、乾屋の仕事は思ったより、金が少なかった。
今度は違う。

おるいが帰ってきた。
銀次はおるいを見て、「また、いつもの病気が始まったのかい」と言った。
「おめえは一仕事すむと、すぐそれだ。今さらどうあがいたって。この稼業から足を抜けるわけがねえんだよ」。

「第一、おめえの体には、盗人の血が流れてるんだ。その血だけはどうしようもねえ」。
おるいは顔をそらしていた。
「さあ、いい加減にしてくつろごうぜ」。

銀次が、おるいの肩を抱く。
「やめて!」
銀次に押し倒されたおるいの目に映っていたのは、夕焼けだった。
かごめかごめをして遊ぶ、市松との思い出だった。

主水は図面師のロクを捕らえたが、ロクは白状しない。
だから主水はロクを泳がせ、亀吉に後をつけさせた。
しかし、亀吉はあっさり阻止された。

亀吉をまいて、ロクを越中屋に連れて来させたのは、銀次だった。
銀次はロクから次の標的、讃岐屋の絵図面を求めた。
ロクは小判の包みをいくつか手にすると、絵図面を出した。
こう見えても、同心に責められたって、口なんか割らないとロクは言った。

銀二の手が懐に伸びる。
匕首を出すと、ロクを刺し殺した。
手下たちも、次々ロクを刺す。
おるいはそれを、影から見ていた。

そしておるいは、逃げ出した。
銀次がおるいが逃げたことに気がつく。
おるいは、市松の家に走った。
市松は竹を削っている。

戸を開けて飛び込んできたおるいを見た市松は、「おるいさん、来たのか」と言った。
「逃げてきたのよ。怖かったわ。また年寄りが殺されたのよ」。
「あのおじいさん、良い人だったわ。おとっつぁんのように優しくて強い人だった」。

「もう、我慢できない。あの男がそばにいると思うだけで私、気が狂いそうになる」。
「いっつあん、私を助けて」。
「しっ」と市松が静かにするように言う。

足音が近づく。
戸が開く。
男が2人、踏み込む。

「どこだ、女は」。
市松に言う。
「女?知らないねえ」。

「おとなしく出しな!」
男達がすごむ。
「出さないと言ったら?」

「命知らずの野郎だぜ」。
男たちが笑い、匕首を出して市松に襲い掛かった。
だが市松はすっと身をかわすと、削っていた数本の竹串を男の首筋に刺した。

おるいの目が、それを捕らえる。
市松が竹串をかざす。
「どうした?」

市松の正体に、もう1人の男が気がつく。
「野郎!」
男はおののきながらも、市松に斬りかかった。

だが市松は男を押さえつけた。
一突きだった。
おるいは戸の影から、凝視していた。
全てが終わると「いっつぁんあんた…」と言った。

市松は竹串の血を手拭いに吸わせながら、「おるいさん、もう一度聞くがな」と言う。
「乾屋さんを殺したのは、おめえさんのご亭主なんだな」。
おるいは、うなづく。

「そいつらひとまとめにして、片付けてもおめえさん…」。
「殺して!」
おるいは叫んだ。

「みんな殺して!1人でも残ったら、私が殺される」。
「始末をして、いっつぁん」。
おるいが哀願した。

釜場では、図面師が殺されたことで捨三が主水を責めていた。
これで、盗人に繋がる手がかりはなくなった。
印玄はバツの悪そうな主水を見て、笑った。

「勝手なことばっかり言いやがって」。
だが逆に、ロクが殺されたということは、盗人がまだ江戸に潜んでいる証拠だ。
市松が、やってきた。

越中屋の盗人たちのことを市松は知らせた。
「今夜あたり、仕事をして高飛びするつもりだ」。
その言葉で、仕置屋は動いた。

捨三が提灯を持って、主水を誘導する。
おるいを追った2人が来ないのを、仕事前の銀次は苦々しく思っていた。
そこに「こんばんは」と捨三の声が響く。

「おるいさんの使いの者でございます」。
その言葉で銀次の手下が戸を明けた。
途端に、主水が踏み込む。

応対に出た男を主水が抑えて、中に入る。
「静かにしやがれ」。
同心姿の主水を見て、手下が襲ってくる。
主水は、立て続けに2人斬る。

1人の手下は、屋根の上を走って逃げた。
だが待ち構えている印玄が男をつかんだ。
「離せ」と騒ぐ男を印玄は、「行け!」と言って突き飛ばした。

「やめてとめて」。
男はその言葉を繰り返しながら、屋根の上を滑っていく。
「あああああ」。

悲鳴を上げて男は落下した。
ぐきり。
骨が砕ける音がした。

銀次は部屋の中に逃げ込んだ。
その背後の障子に映る市松の影。
市松の影を見た銀次は、「てめえら、殺し屋だな!」と叫んだ。

匕首をかざして、市松を襲う。
市松がその手を押さえる。
そしてそのままくるりと、市松が床に転がる。
銀次が匕首を振り下ろし、市松を刺そうとする。

市松が竹串を銀次目がけて、突き出す。
竹串は銀次の片方の目に、深々と刺さった。
思わず銀次が目を押さえて、悲鳴を上げる。
銀次の背後から市松が、首筋を深々と刺す。

2016.07.16 / Top↑
「人気マンガ・アニメのトラウマ最終回100」。
その中に、現代もシリーズとして続く「仮面ライダー」が入っていました。
今も人気が絶大、イケメン俳優の登竜門の「仮面ライダー」。
当時の子供は大人になっても、この関連グッズが出ると大人買いしてしまう。

マンガの「仮面ライダー」のラストでライダー1号の本郷猛は、悲劇的な最期を遂げるんですね。
知らなかった。
良かった、知らなくて。

同じ作者の「人造人間キカイダー」のマンガのラストは、知ってました。
良心回路と悪心回路をつけられたキカイダーは、人間と同じ心を持った。
それで、何かすごい光線を出せるようになった。

人間同士が殺しあえるのと同じに、キカイダーはビジンダーやゼロワン、ハカイダーやワルダーも殺せるようになる。
新たに得た光線で兄弟サイボーグたちを破壊し、1人残ったキカイダー。
自分を人間になりたかったピノキオに例え、「人間になったピノキオは本当に幸せだったのか?」と問いかけて終わり。
これも特撮ドラマしか知らなかった当時の子供には、ショックな重い終わり方でした。

そしてやはり同じ作者の「サイボーグ009」。
アニメの「サイボーグ009」の内容は、私はほとんど覚えていません。
しかしマンガのラストでは009は悪を倒すも、助けに来た002とともに大気圏で燃え尽きるんです。

うーん、やっぱり。
この本に載っているぐらいだし、時代も時代だし、そんなラストであろう気がした。
「009」には、続編もあるんだそうです。
しかしこの続編を読んだファンは、この悲劇的なラストでいい!と思ってるそうなので、これこそ知らないほうが良いんでしょうね。


2016.07.10 / Top↑
「人気マンガ・アニメのトラウマ最終回100」。
マンガやアニメ、ドラマなどの最終回から私たちの心に大きな傷を残した作品を、年代別に編集した本です。
こうして見ると、笑っちゃうものもあるんですけどね。
タイトル通り、この本に載ってる最終回は結構な傷、トラウマになるだろうなって最終回です。

特に子供の頃、楽しんで見ていた番組の最終回の悲惨さに改めてビックリ。
ビックリしたのは、「科学忍者隊ガッチャマン」。
私は「ガッチャマン」って映画しかラストを知らないんです。

でもこの時代、主人公を死なせる展開って珍しくないから、ガッチャマンも誰か死んだか、解散かと思っていました。
「ガッチャマン」って、何作か作られたみたいですが、その最後が「ガッチャマンF」らしいんですね。
それでこのラストで、ガッチャマンがラスボスを倒すも、エネルギーを使い果たし、全滅するんだそうです。
もう続きを作れなくする展開としてはいいのかもしれませんが、これも子供にはショックなラストでしょうね。


アニメの「マジンガーZ」の最終回が、何かすごいというのは聞いていました。
そうしたらもう、主人公もマジンガーZも穴空いて倒れる、破滅的な最後なんですね。
アニメ「真マジンガーZ」というのもあるとか。
こちらはもっとカオスな終わり方。

でもこの作者さんて、自分が描いてきた主人公を最後に破滅させる展開多い気がする。
だからこれ聞いても、何となくそんな終わり方にするのは納得できた。
「デビルマン」なんか、ものすごい最終回だったし。

「ガッチャマン」「マジンガーZ」。
日曜夕方6時から8時の夜になるまでの、子供の憩いのアニメ。
明日から月曜日で一週間が始まるという、日曜日の夕方。
それを楽しくさせてくれた懐かしいアニメの最終回が悲劇だなんて、月曜日が暗くならなかったか心配。


2016.07.08 / Top↑
寝る前にスマホでちょっと、動画を見ていたら突然、スマホが真っ暗になりました。
電源ボタン押しても復活しない。
仕方がないと思い、カード抜いてみた。
でも復活しない。

うは、まずい。
これは修理だろうか。
写真のバックアップは取ってあるけど、スマホ使えないとなると…。
こわっ。

ざっと考えただけで、ものすごい生活に支障がある。
こわっ!
うーん、スマホに頼っている生活だなあ。
反省する前に、これは困ったことになるぞと思い、パソコンでスマホについて検索。

ところがパソコンが古いから、なかなかフリーズして進まない。
ええいっ、日付が変わってしまったわ!
これもまずいなあ、何とか買い換えなくては。
いろんなことをいきなり反省しつつ、時間だけが経ってしまう。

スマホ、復活せず。
暗闇の中で諦めた時、電源ボタンにスマホが反応!
やった、復活。
格闘1時間半。

6月、いや、5月、いや、正確には3月ごろからいろんなことが起きている。
けれどもう、7月。
そろそろ運気も変わるじゃろ。
わかんないけど、何かそんな気がする。


2016.07.06 / Top↑