「バイプレイヤーズ」の放送は終わってしまいましたけど、すごく楽しかった。
毎週金曜日、パジャマに着替えて、ベッドのそばで、お茶飲みながら見てました。
この時間にお茶飲むから、夜更かしになっちゃって。
そういうのも含めて、「バイプレイヤーズ」で楽しい金曜日の夜を過ごしました。

放送が終了した今は、「孤独のグルメ」!
松重さんが食べているドラマなんですけど、つぶやきや表情が良いんです。
グルメ番組が好きなわけじゃないのに、なぜかこれは見てしまう。

松重さんが好きというのもありますが、あれは実は難しいと思いますよ。
食べている時にセリフを言うわけじゃない。
表情と食べ方で、心の内、おいしさを表現。

そしてそれにかぶせる何気ないつぶやきには、味わいを感じさせなくてはいけない。
松重さんの名人芸を見ていると思ってます。
だから好きで、おもしろいんじゃないかな。
力のある俳優さんならではの、ドラマ。

ただ、お腹すいちゃうんだよねえ…。
あの時間に満足するほど食べたら、翌日大変なことになるし。
それだけが悩ましいかな。


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2017.04.30 / Top↑
テレビ東京の金曜日24時12分から放送されていた「バイプレイヤーズ」。
この番組を作るきっかけは雑誌の「日本映画を支える俳優6人」だそうです。
2002年頃、下北沢で名バイプレイヤー6人の作品を、週替わりでオールナイト上映する企画がありました。
その時から「いつかこのメンバーでやれたらいいね」って話していたそうです。

この「バイプレイヤーズ」放送に際して、「an・an」に6人のインタビューが出ていました。
大杉漣さんはずっとその企画を暖めていたそうで、実現に向けて動いていたとか。
だからこの番組の企画を聞いた松重さんは「深夜の連ドラ。しかもテレビ東京!」
「テレビ東京、挑戦してきたな」と語っていました。

ほんとにテレビ東京は、攻めてますよね。
何でも鑑定団もおもしろかったですけど、おもしろい番組が多い。
「空から日本を見てみよう」も好きでした。

今だったら「YOUは何しに日本へ!」も好きです。
「家ついてっていいですか?」もすごい「攻め」の番組だなあって思います。
実録ものも、テレビ東京がやるのがおもしろい。

さてこの番組に出演する遠藤憲一さん「ごまんといる俳優の中で、選んでいただいて光栄です」。
この番組に出ない人にも納得してもらえるように、と考えていたそうです。
田口トモロヲさんは意外にも人見知りだそうで、とにかくこの5人と話せるのが楽しいと。
残りの人生に良い思い出ができました、生きてて良かった、ってまだまだですよ、田口さん。

最後に6人が飲んで話してるコーナーがあります。
あれは撮影現場をのぞき見しているみたいで、おもしろいでしょ、と寺島さん。
「バイブレトーク」ですが、自然と役割ができていたとか。
松重さんが理路整然とした知性担当だったそうです。

実はこれまで一番冷静と思われていた光石研さんの知られざる面が見られたと言うのは、大杉漣さん。
みなさん、温度差を感じることなく、熟知した信じられる者同士で撮影はスムーズに楽しかったようです。
他の若い俳優さんたちもとても良くて、ジャスミン役の北香那さんは「僕らの介護女優」と呼ばれていました。
31歳の松居大悟監督も、ベテラン6人の意見を聞いてがんばってくれたとか。

大人の男性が見られる素敵な番組でしたが、松重さんは「男の子スピリットも感じてもらえる」と発言。
「もうみんな、それぞれ家庭もあって、俳優としてのポジションもある」。
「でもそこからこの作品は離れて、映画小僧、演劇少年だった頃に戻っているところを見てもらえるんじゃないか」。

そう言ってます。
まさに!
大杉さんが「おじさんたちの修学旅行みたいな撮影」。
これもまた、まさに!

はい、いくつになってもそういうことができると楽しいなと思います。
そういう仲間がいるのって、良いなあと思いますし。
寺島さんが「30代なんて、自分のことしか考えられなかったよ。これからは50オーバーの時代だよ!」と発言。
これにもうなづけます。

そして「かみさん、家庭を大切にしている男が集まったってところも素晴らしいんだよ」。
すると大杉さん「家庭は原点で『行ってらっしゃい』『お帰りなさい』という普通のことが大切」。
下積みが長く、悪役も多く演じ、今は渋い魅力で輝いているみなさんの言葉。
きっと家族が支えていたんだろうなあ、と思えます。

蟹江敬三さんや、石橋蓮司さんだって70年代は強烈な悪役を演じていましたが、渋くて良い味を出す俳優さんですもんね。
こういう話になると、ほんと、岸田森さんや成田三樹夫さん、管貫太郎さんにいてほしかったです。
「バイプレイヤーズ」のみなさんは、末永く活躍してください!

しかし大杉漣さん、小学校の時の通信簿に「とにかく落ち着きましょう」って書かれていたそう。
自分も思いますが、小学校の時の通信簿に書かれていたことって、結構、自分の性格を表していると思います。
大杉さんは「落ち着こう」ですか、そうですか。
すると大杉さん「今でも最年長の自分の落ち着きが…」。

そこで松重さん「俳優として安定に走らず、これだけはっちゃけた姿を見せてくれる大杉さんはやはり、僕らのリーダー」。
「精神的な支えです」。
さすが知性派。
インタビュー、決まりました。


2017.04.29 / Top↑
手元に本がないので、うろ覚えで書きます。
睦月とみさんの作品「夢の木」。
このタイトルさえ、正確かどうか自信がありません。

ある街の丘に、立派な古い木がある。
暑い夏など、その木の下で人が休む。
その木の根元には、刃が入った跡がある。

どうして切ろうとしたのか。
なぜ、途中でやめたのか。
誰も知らない。

昔、村には芽見(めみ、この字でいいのかわかりませんが)という娘と、芽見の恋人で木こりのトム(登夢?)という青年がいた。
村の丘のてっぺんには大きな木があり、夢の木と呼ばれていた。
長老は、その木を決して、傷つけてはならないと言っていた。

芽見とトムは、その木のある丘の上で会っていた。
その時、アクシデントが起きて芽見は木の上から落ちてしまう。
下では危機一髪、トムが芽見を受け止めた。

だが…。
「トム、木が!」
芽見が捕まった木の枝が、折れて落下していた。

その夜だった。
フラフラになった女性が、村にたどり着いた。
女性は酔生子(ようこ)と言って、都に上る途中だった。

馬に水をやるために池のほとりで休んでいたところ、馬も、供も忽然と消えてしまったのだ。
酔生子の話を聞くと、馬や供が消えた時刻は、芽見が夢の木の枝を折った時刻だった。
恐怖におののく芽見だが、トムは笑い飛ばす。
酔生子は、しばらく村で休んで、体力を回復させることにした。

「笑い飛ばして。そうでなきゃ、あたし、不安で不安でしかたがない」。
そして芽見は何でもないことを証明しようと、夢の木の小さい枝をポキポキと折る。
いくつもいくつも折る。
数日たった。

すると村の人が言い始める。
「おらのところのニワトリ小屋がニワトリごと、消えちまった」。
「おらの牛が消えた」。
次々、村で何かが消えて行った。

それをトムに知らせようとした芽見の目に、トムと酔生子が入って来る。
酔生子は、トムに字を教えていた。
トムの手のひらに酔生子が字を書き、トムがそれを声に出す。
酔生子が何か書く。

トムが大声で、読む。
「す」。
「き」。
「だ」。

その言葉の意味に気付いたトムが、ハッとする。
酔生子が笑う。
「学問をなさいな、トム殿」。

2人は芽見がいるのに気づく。
微笑んで言う。
「酔生子さんに、字を教えてもらってたんだ」。
「本当ですよ、それだけです」。

「嘘だ」。
芽見は叫ぶ。
「嘘!」

そして思わず、手に握りしめていた石を投げてしまった。
石は、トムの額に当たった。
血が流れる。
「トム殿!」

「何てこと!」
「早く、こちらへ!」
トムを手当てするため、急いで連れて行く酔生子。
芽見がひとり、残った。

雨が降って来る。
雷が鳴る。
ショックで戻ってきた芽見を、父親が驚いて出迎える。

「芽見」。
その時、落雷が夢の木の枝に落ちる。
枝が燃え上がり、落ちる。

芽見の目の前にいた父親の影が、すうっと薄くなる。
「父ちゃん!」
芽見の目の前から、父親が消える。

翌朝。
カーン、カーンと音が響く。
芽見が父親の斧を持ち出し、夢の木を切っている。

父親が失踪し、芽見はおかしくなった。
村人たちはそう言った。
芽見は思った。

世界中は夢の木が見ている夢だ。
夢の木を切れば、みんな消える。
トムも消えてしまう。
自分も、自分の醜い心も消える。

全部消えて、綺麗にしたい。
トムが見ている。
酔生子がやってくる。

芽見はトムも、酔生子も恨まない。
その代わり、全部消してしまうことを選んだ。
俺は芽見の望むとおりにしてやりたい。

疲れた芽見が、へたりこんだ。
すると、トムが斧を拾った。
カーン。

今度はトムが、夢の木を切ろうとする。
「お前の望むとおりにしてやりたい」。
カーン、カーン。
芽見が叫ぶ。

「やめて」。
「やめて、トム」。
「消えないで」。
「都に行っても良い。幸せに暮らして」。

酔生子が、旅支度をしている。
2人を見ながら言う。
「夢の木を切れば、世界中が、消える…?」

「わたくし、そのような考えにはついていけません」。
「一人でまいります」。
そう言いながら、酔生子の頬を涙がつたっていた。
芽見とトムは、固く抱き合っていた。

現代。
大きな丘の上の木。
その木の根元には、刃が入った跡がある。
どうして切ろうとしたのか。

なぜ、途中でやめたのか。
誰も知らない。
だがその木の下で昼寝をした者はみんな、幸せそうに寄り添って暮らす娘と木こりの夢を見る。



酔生子のスタイルからすると、平安時代みたいなんです。
だけど名前が、芽見、トム、酔生子。
どこか異国っぽい。
この作家さん、こういう無国籍、時代不詳な雰囲気を出すのがうまい。

小さな村に、外からやってきた洗練された女性。
新鮮で刺激的で、トムもちょっと惹かれたと思います。
酔生子にも、疲れ切ったところに頼もしく優しいワイルドなトムは新鮮だったはず。
何となく、惹かれ合っちゃうんですねえ。

トムも外で学問することに憧れたでしょうし。
でも冷静に考えたら、この2人は都に一緒に出てもうまくいかなかったでしょうね。
酔生子が村で暮らせるはずもない。

だけど、芽見にはそんなこと判断できない。
結局、トムは芽見への思いを再認識。
口では付き合え切れないと言っている酔生子の頬に涙は、ジンと来ます。

世界中が本当に、夢の木が見ている夢なのかどうか。
それはわかりません。
ただ、謎の失踪と夢の木の枝が折れることはシンクロしているんです。
あのまま、芽見が木を切ったら、世界は消えたんでしょうか。

結局、2人はより強く、結びついた。
末永く、この村で幸せに暮らしたはず。
その証拠に、人はこの木の下で芽見とトムの夢を見る。
うまいラストです。


2017.04.28 / Top↑
このところずっと忙しくて、書けなかった「嘘の戦争」。
何といっても水曜日に用事が重なりまして。
すみません。

しかも、録画消されてしまってね…。
どうしようかと。
でも、今更ですが、とっても良かったので書きたいと思います。

第9話。

興三は、退院する。
そこに浩一が現れ、、興三は2人で話そうと外に行く。
浩一はまず、興三が謝罪会見を開き、30年前のことを嘘と公表することを要求した。
拒否するならあのテープを、ネット上で公開する。

さらに自分はもうひとつ、重大な秘密を知っている。
また連絡すると言って、浩一は去っていく。
興三は浩一が握るもう一つの秘密とは、粉飾決算だと気が付いた。

隆に相談すると隆は、百田に会いに行く。
「今度はこちらが、一ノ瀬をはめる」。
カズキもそれを聞いている。

心が揺れ動くカズキに百田は、ずるくなれと言う。
本物の詐欺師になるなら、もっともっとずるくなれ。
一方、浩一は弁護士を装い、三瓶の娘の由美子に接近する。
由美子は近々、結婚式を挙げる。

相手はエリートらしく、まじめな青年であり、家のようだった。
浩一はその結婚を壊す計画を立てる。
だがこの計画に、さすがにハルカの顔も曇った。
「一人でやって。今回は協力できない…」。

浩一は由美子に、三瓶が振り込み詐欺にあったと言う。
だから三瓶に電話をしてくれ、と。
三瓶と由美子は、母が離婚してから疎遠になっていた。
由美子は、三瓶は自分の誕生日にも、いつもいつもいなかったと言う。

隆は、酒におぼれる晃に会いに行く。
誰かに粉飾決算のことを話さなかったか。
晃の脳裏に、酔っぱらった時に声をかけてきたハルカの姿がよぎったが、わからないと答える。

そして、なぜ、隆が社長になったか。
社長になった途端、変わったのかわかったと言う。
「俺と親父の罪を背負ってくれていたんだな…。悪かった」と頭を下げる。

隆は晃の証言さえあれば、浩一を詐欺の罪で逮捕できると言う。
「あいつを詐欺師として、ぶちこもう」。
晃は楓に、浩一を逮捕させると言った。
楓は絶句する。

三瓶に、由美子から電話が入る。
その夜、三瓶が昔のアルバムを見ているところに、浩一がやってきた。
古い写真には若い三瓶と、そして浩一の父親が写っていた。
写真は何枚も、何枚もあった…。

ハルカは、楓に会いに行った。
意外なことにハルカは、楓に浩一を「説得してくれないかな」と言った。
自分でも楓に何を言っているんだろうと思いながらも、ハルカは続ける。

「今の浩一は、過去を清算するんじゃなくて、過去にとらわれてるみたい」。
「お世話になった人もハメようとしてるし。」
「説得してくれないかな、もうやめろって」。

「なぜ、私に…」。
「あんたが仇の娘ってわかってる。私もあんたに頼み事なんてしたくない」。
「でも…、今の浩一を止めることができる人、他にいないんだもん…」。

楓は浩一にもらった指輪を、じっと見る。
そして、浩一に連絡をする。
夜、楓は浩一に会う。

「一番許せないのは、あの時の、大人たちに負けて嘘をついた自分を許せないんでしょう?」と言った。
「父や兄を許して、なんて言わない」。
「でも9歳の千葉陽一くんのことは許してあげて。あの嘘が、あなたを救ったのよ」。

「私もあなたの嘘に、救われた。…どうせなら、一生、騙してほしかった」。
浩一は楓に「晃さん、どうしてるの」と言う。
「さあ、会ってないから」。

「そう」。
去って行こうとする浩一だが、楓に「下手だね、嘘」と言って微笑んだ。
帰ってきた浩一を、陰から晃がものすごい目で睨んでいた。

翌日、浩一は笑顔で、由美子の家族と顔合わせに行く三瓶を送り出す。
その後に破滅が待っていることも知らず、三瓶は笑顔で出て行く。
浩一が、三瓶の持っていた昔の写真を見ている。
その裏に、何かが書かれている…。

ホテルのラウンジ。
三瓶は懸命に、由美子の婚約者、その家族に頭を下げる。
浩一は上の階から、それを見つめる。
三瓶の姿を、じっと見つめる。

手に持っているのは、合成写真。
あの五十嵐の写真を利用し、合成で作った三瓶のハレンチな写真だ。
これが頭の上から、降って来る。

三瓶のオロオロし、絶望した顔。
浩一の憎しみを認識する顔を、想像する。
これ以上の復讐はない。

だが浩一は、それを手に取り、ばらまくことはしなかった。
浩一が出て行く後姿を見た三瓶が、追って来る。
「浩一くん!」

外に出た浩一は三瓶に「縁談ぶち壊して、2度と娘に会えなくしようと思ってた」と告げる。
浩一の憎しみの強さを知り、呆然とする三瓶。
「なぜ、やめたの」。

三瓶は、それも当然と思っていた。
「僕は君のお父さんの信頼を裏切った…」。
「娘を守りたかったなんて、言い訳だよ。本当は怖かったんだ」。
「君が嘘つきじゃないって、僕は知っていた。なのに」。

すると、浩一は言った。
「でも、いてくれた」。
「誕生日も、クリスマスも、正月も」。

三瓶を追って、由美子がやってきた。
浩一は由美子に言う。
「あなたのお父さんは、僕にずっと嘘をついていました」。

だが次に浩一が言った言葉は、意外なものだった。
「僕と由美子さん、誕生日同じなんです」。
由美子は、目を見張る。

浩一が見つけた、写真の裏の何か。
それは、由美子と浩一の誕生日が同じであるメモだった。
「僕も3月15日うまれ。家族全員をなくして、ひとりぼっちの僕を守さんは祝ってくれた」。

「本当は由美子さんのところに帰りたかった。帰りたい家があったのに」。
「そんなこと、一言も言わなかった」。
「僕の父の友人だと言う、ただそれだけの理由で」。
「でも、守さんの嘘に救われた…」。

由美子は三瓶に「どうして言ってくれなかったの」と言う。
「守さんは、あなたたちを巻き込みたくなかったんです」。
三瓶の目に、涙があふれる。

「長い間、お父さんをお借りしてすみませんでした」。
浩一が頭を下げる。
そして三瓶に笑顔を向ける。

「もう、俺、大丈夫なんで」。
そして歩いていく。
後には父親に対する、温かい気持ちがあふれた由美子と、泣いている三瓶がいた。

浩一をハルカが待っていた。
「終わりにする」。
浩一は、晴れ晴れとした顔をしていた。

「これ、終わったらタイに行くか。それとも全然、別の国に行って、新しい詐欺を考えるか?」
「二科興三、あいつで終わり。全部終わりだ」。
ハルカが微笑む。

浩一の最後の復讐が始まった。
隆に会い、12時間以内に記者会見を開けと言う。
でなければ、30年前のことを世界中にぶちまける。
アジトに戻った浩一は、ネットにテープを公開する準備を始めた。

隆が興三にこのことを告げると、興三は会見を開くと言う。
晃は警察に行った。
ハルカが浩一に、「記者会見が始まる!」と知らせに飛び込んでくる。

記者会見が始まった。
興三は、粉飾決算の指示をしたことを告白した。
周りがざわめく。

そしてこのことで、ある人物から脅迫されていると言った。
2千万円の詐欺の被害にもあった。
だがこの人物は、逮捕されるだろうと宣言する。

激怒した浩一は立ち上がり、あのテープを流そうとする。
その目の前で、アップしようとした声のファイルが消えていく。
百田と一緒にいるカズキの仕業だった。
マスターテープも、スマートフォンの音声も目の前で消滅した。

「ちくしょう!」
こんなことができるのは、百田とカズキしかいない。
裏切られた…。

百田は隆から報酬を受ける。
カズキは、部屋を出る。
秘書が送ろうとするが、カズキはトイレに行きたいと言う。

もうすべては終わったのだから、良いだろうと判断したのか。
カズキは一人で歩いていく。
誰もいなくなったのを確認したカズキは、ハルカが手に入れた晃のICカードを取り出す。
研究開発室に入ることに成功したカズキ。

怒りの浩一だが、その時、百田の店に刑事が踏み込んでくる。
ハルカは知らんぷりをするが、オウムが浩一の名前を言ってしまった。
奥の部屋に潜んでいた浩一だが、音を立ててしまった。

刑事が踏み込んできた。
「逃げて!」
浩一は逃げる。

すんでのところで外に脱出する。
刑事が追って来る。
その様子を見ているのは、六車だった。
六車はゆっくりと、車を走らせ、刑事たちの後から浩一を追った。



次回、最終回だというのに、どうやってまとめるんだ!と思いました。
本当に毎回毎回、内容が濃い。
見逃して良い部分が、全然ありませんねー。

このドラマ、草なぎさんの表情が本当に良いんですが、今回も素晴らしかった。
三瓶に対する思いが、あふれていました。
好きだった。
感謝していた。

だからこそ、憎かった。
でも、その憎しみは一瞬にして溶けてしまった。
憎しみにとらわれ、自分も、大切なものを見失いかけていた浩一。

三瓶は家族より、何より自分を優先してくれていた。
自分のためなら、命だって投げ出したかもしれない。
もう、良い。
それで良いじゃないか。

過去から解放された浩一。
赦すことは難しい。
その難しさを一気に超えさせたのは、三瓶だった。

30年の、三瓶との月日がひどい終わり方をしなくて良かった。
三瓶のためにも、浩一のためにも良かった。
浩一は本当は、誰よりも傷ついたはずだから。
自分が赦せなくなるはずだったから。

この時の、赦しの境地に到達した時の表情。
まさに憑き物が落ちた。
晴れ晴れとした表情。
いやー、うまいのはわかってましたが、今回の草なぎさんの演技は本当にすごいです。

「もう大丈夫なんで」。
このセリフが、いろんな意味になります。
結局、三瓶と娘との絆をより強くした浩一でした。

それと、楓に対するあの目。
「もしかしたら自分への思いの中に『真実』はあったんじゃないか?」
こんな風に、思っちゃうような目なんです。
それが詐欺師なんでしょうが、本当にそう思っちゃうような目なんですよ。

ハルカが浩一を好きな気持ちがわかります。
そのハルカも、浩一を救いたくて、楓のところに来る。
女性たちの浩一に対する思いが、切ない。

それに対して、二科家の男性は最低だなって思ってしまう。
晃もかわいそうだったんですが、自分たちのしたこと忘れて、そうなるか?!って。
そりゃ、会社と従業員、従業員家族を守る義務がある。
だったら二科一族は退けって、思っちゃうんですわ。

これで、最後と言った時、その最後は困難を極めるであろうと予想されましたが…。
そこで来るか、百田の裏切り。
浩一も真から百田を信用しているわけじゃないにしても、百田の裏切りは、最悪のタイミングで起きました。

でもなんか、納得いってなさそうなカズキの行動が気になる。
開発中のロボットの機密、盗みましたね。
でもカズキの裁量じゃ、まだまだ単独でそれを最大限に利用することは無理そう。

さらに六車が動き出した。
まだ足、引きずってますけど。
由美子は、国仲涼子さん。
みんなすごい適役で、すごい良い演技です。

こういう草なぎさんを、また近いうち、ぜひ見たい!
近所で、良く買いに行って、良く話をするケーキ屋さんがあるんですが、そこのパティシエさんも言ってました。
草なぎさんは、演技うまい!って。
このドラマ見たら、認めざるを得ないですよ!

浩一のどのセリフも良いから、困る。
というより、今回はそのセリフを言っている草なぎさんの表情が良いんですね。
言葉だけじゃなくて、ぜひ、表情を見てほしいというシーンばかりです。


2017.04.25 / Top↑
「ガラスの仮面」が有名な美内すずえ先生ですが、他にもいろんな骨太の話を描いています。
ホラー作品だと本当に怖かった。
当時の少女マンガにしては、革命の描写など残酷な描写もありました。
王女を描いた作品の中で、自分が印象に残っている作品は「王女アレキサンドラ」です。

たぶん、長編の読み切り作品として掲載された作品だと思います。
王女アレキサンドラは、幼い頃、爆弾テロにあって失明。
目の見えないアレキサンドラに母は「あなたにできることは、人を信じること」と言い残します。

父の王の後妻は、自分が生んだ男の子に王位を継がせたい。
アレキサンドラが王位継承にふさわしくないと判断されるように、策略を巡らせます。
その一つが、反逆の疑いで父親が投獄されて死んだ、医師のアルバートをアレキサンドラの主治医にすることだった。

自分の生い立ちを知っているはずの王妃が、なぜアレキサンドラを任せるのか。
アルバート自身も不審に思う。
最初はアレキサンドラに冷たかったアルバートだが、次第に心優しいアレキサンドラを本気で心配するようになる。
晴れの挨拶の日、アレキサンドラが国民に手を振るために出て来る。

その時の衣装には、不吉にも血のシミがついていた。
しかし、自分にはそれはわからなかった。
侍女のマーゴが、王妃に言われてやったのだった。

アレキサンドラは、目を治したいと切実に思う。
だがアルバートに目はもう、治らないと言われて絶望する。
その嘆きを見たアルバートは、目が見えなければ他のやり方があるとアドバイスする。

ある日、アレキサンドラは美術館で、画家たちの作品を見ることになる。
王妃、そして王妃の子・ライラスたちが作品にいろんな意見を言う。
和やかな輪に、アレキサンドラは入れない。
目が見えない王女が、なぜ、この場にいるのか。

画家たちも困惑する。
めげそうになったアレキサンドラを励ましたのは、アルバートだった。
気を取り直したアレキサンドラは、画家たちと握手をしたいと申し出る。
画家たちと握手をしながらアレキサンドラは、「この手で傑作をお描きになるのね」と声をかける。

「抽象画でも手はそうじゃなくて良かった」と言う王女の周りに笑い声が上がる。
王女と握手した画家たちは、感激する。
継母たちの影は薄くなってしまった。

次に王妃は、国内で起きた自然災害で被害をこうむった地域の視察に、アレキサンドラを行かせた。
「目が見えない王女に何がわかるんだ」。
「うわべだけの言葉などいらない」。
そう言っていた国民たちだが、現れたアレキサンドラを見て驚く。

アレキサンドラは一人で、被災地を歩いた。
がれきの山を歩き、転倒した。
その手に、家の屋根が触れた。

こんなところに屋根が!
アレキサンドラは、身をもって、その被害のひどさを知った。
ドレスの裾が破れ、傷だらけで現れたアレキサンドラは言う。
ひどい被害だ。

しかしそれに負けずに皆さんが復興を遂げることを、私は信じます…。
アレキサンドラの言葉に励まされた人々は、次々と復興のために動き出す。
ここでも王妃の思惑は外れた。

そしてついに最大の危機がやってきた。
かつてアレキサンドラの視力を奪った爆弾犯が、コンタクトを取ってきたのだ。
犯人は隣国の支援を受けていた。

王妃はこの交渉に、アレキサンドラを行かせた。
場合によっては、もともと仲の悪かった隣国との戦争に発展するかもしれない。
犯人はアレキサンドラに自分が憎いか、と聞く。

だがアレキサンドラは、もう過ぎたことだと言う。
すると今度は犯人は、アレキサンドラに自分を許すという書類へのサインを求めた。
だがアレキサンドラには、その書類が何かはわからない。
もし、このラストニア国を譲るという書類だったら…。

ためらうアレキサンドラの頭の中に、母の声が響いた。
『信じなさい、アレキサンドラ』。
…!

『目の見えないあなたにできることは、人を信じること』。
「おお、そうだわ」。
背筋を伸ばしたアレキサンドラは、「そこにいてください。声を頼りにそちらへ行きます」と言う。
その毅然とした様子に、犯人が後ずさっていく。

まっすぐに手を伸ばし、やってくるアレキサンドラ。
アレキサンドラと犯人は、互いにサインをしあう。
サインをし終わると、犯人が人々に言う。

「安心してくれ」。
犯人が掲げた書類は、白紙だった。
アレキサンドラはサインしなければ、自分もするつもりはなかった。
改めて、犯人はアレキサンドラに深くわび、許しを乞うた。

見事に交渉をまとめ、隣国との紛争にもならずに事態を収めたアレキサンドラを国民は絶大的に支持した。
それを見守るアルバートだが、使用人はアルバートが主治医の範囲を超えているのではと心配する。
王女が心配なだけだと言うアルバートに、老人は「だと良いが。身分違いは悲劇の元」と言った。
その時、アルバートは自分が王女を愛していることに気付いた。

王妃になり、しかるべき王室と縁を結ぶ運命のアレキサンドラ。
アルバートはもう、そばにはいられない。
暇をもらいたいと言って去っていくアルバートに、アレキサンドラも泣き崩れる。
愛している。

戴冠式の日が来た。
アレキサンドラを馬車に乗せたのは、侍女のマーゴだ。
マーゴは王妃に言われた通り、アレキサンドラが戴冠式に着けないよう、馬車を郊外に走らせた。

道がごつごつしていることを不審に思いながらも、アレキサンドラは乗っている。
その時、羊飼いの少年の鳴らす鈴が耳に入って来る。
アレキサンドラが、はっとする。

マーゴも顔色を変えた。
しまった…!
気付かれた!

アレキサンドラも、自分が戴冠式の場から遠ざかっていることに気付く。
しかしニッコリ笑うと、マーゴに語り掛ける。
「今のは、どこかの教会の鐘ね」。

マーゴの胸に、その言葉は突き刺さった。
さわさわと草原を渡る風。
鐘の音。
気付かないはずはない、気付かないはずは。

アレキサンドラは言う。
「目の見えない私には、人を信じることがすべてです」。
「マーゴ。あなたを信じています」。
マーゴの心は、完全に砕けた。

アレキサンドラは来ない。
王妃が、ほくそ笑んだ時だった。
「アレキサンドラ様のお成りー!」という声が響く。

そこにはアレキサンドラがいた。
横には深く首を垂れ、うやうやしく手を取るマーゴの姿があった。
まさか、あのマーゴが私を裏切るなんて!
王妃は声も出ない。

戴冠式が始まり、アレキサンドラは無事、王妃となった。
その途端、アレキサンドラは王冠を取り、叫ぶ。
「来てください、ライラス!ラストニア次期国王は、あなたです!」

王妃も、ライラスも仰天した。
アレキサンドラは目の見えない自分には、国王としての義務が果たせない。
初めからアレキサンドラは一度王となり、ライラスに王位を譲る考えだったのだ。

戴冠する息子の姿を見た王妃は、泣いた。
「私は…、何という、何という愚かな…」。
王妃はアレキサンドラに詫びた。

アレキサンドラは言う。
「お義母様、あなたを信じています」。
そして、アレキサンドラの近くには再び、アルバートがいた。

「身分違いの、由々しき事態!」と言う側近に王妃は微笑む。
爵位がないなら与えれば良いではありませんか、と。
でももう、そんなことは問題ではない。
アレキサンドラは光の中を、歩いているのだから…。



この国、私はリトアニアだったか、ラトビアだったか、思い出しながら悩みました。
確か、ラストニア…って言ってたような、どっちだったか、わからないなあと。
それなので、バルト三国のニュースが流れると、注目して見ていたことがありました。
架空の国のお話だったみたいですね。

美内さんの王女の物語でもうひとつ、印象的なのは「ジュリエッタの嵐」です。
こちらは革命にあった王女が軟禁された城を抜け出し、最後は革命を起こした男とその村で一人の女性として生きていく話でした。
普通の少女マンガの展開なら、抜け出して苦労した後、王女に返り咲くんですけどね。

自分たちの贅沢な生活を思い知り、革命の意味を知り、自分たちを不幸にした男の生い立ちを知る。
そしていつしか惹かれ合った2人は、ただの男女として暮らしていく。
骨太のストーリーでした。

人を信じる。
これはアレキサンドラのような立場にあれば、普通の人間より困難なこと。
アレキサンドラは、人の悪意には気付いているんです。
王妃の子、娘の方は割とアレキサンドラに悪意がありましたが、弟のライラスは良い子でした。

アレキサンドラは悪意に気付いているうえで、それでも信じていると言って、相手の判断にゆだねる。
アレキサンドラの人を信じるという危ういように見えて、人の良心を揺さぶる生き方。
彼女に信じていますと言われた者は、「人間の証明」をしなくてはいけなくなる。

最後のマーゴとのシーンは、感動を呼びます。
うやうやしくアレキサンドラの手を取るマーゴの姿。
あれを見れば、彼女が今後、一生かけてアレキサンドラに尽くしたであろうことが予想できます。
そして最後にアレキサンドラによって、自分の愚かさを思い知った王妃も。

アレキサンドラの気高さ。
美内さんの画力は、それをしっかり表現してます。
やっぱりこの作家さんは、力があるなあ。
なのに、本が今は手元にないという…。

だけど、あの犯人との交渉にアレキサンドラを行かせるって、王妃も相当危ないことをする。
アルバートの出番は、それほど多くないですが、最後もハッピーエンドで良かった。
感動の話だけど、人を心底信じるって本当に難しい。

信じて、そしてうまくいくことは本当に難しいと思います。
だからこそ、アレキサンドラの姿は忘れられないのでしょうね。
良い話です。


2017.04.23 / Top↑
「スペシャルフォース」。
映画のすべてがネタバレしていますので、ご注意を。
昔、フランスには外人部隊という、フランス正規軍とは別の部隊があると聞きました。
外人、つまりフランス以外の国から志願した兵士で構成される部隊。

非常に精鋭揃いで、難しく危険な任務をこなす。
そしてこの部隊に所属する者には、強い自殺願望があるとも聞きました。
これは外人部隊ではないですが、フランスの特殊部隊の映画。

アフガニスタンのカブールで、フランス人女性ジャーナリスト・エルサがタリバンに捕らわれる。
タリバンはエルサを盾に、フランスにアフガニスタンに派兵をやめるように要求。
フランス政府の要請で、スペシャルフォースが救出に向かう。

スペシャル・フォースたちはタリバンの隠れ家を急襲、エルサを救出した。
成功したかに見えた奪還計画だが、ここから数々のアクシデントに見舞われる。
そして白人女性に異様な憎しみとこだわりを持つ、タリバンのリーダーの1人が執拗に追ってくる。
1人、また1人と倒れていくスペシャルフォース。

脅威は敵だけではなかった。
たいした装備もなく、雪山を越えていかなければならない。
倒れた仲間を背負い、歩く。
消耗していく体力。

彼らは次第に、苛立っていく。
この女性ジャーナリストは、フランスの派兵に否定的であり、軍を非難する記事を書いていた。
なぜ、こんなジャーナリストのために、命をかけなければならない?
どうして、仲間が死ななければならない?


特殊部隊を主人公にした戦争映画と思ったら、人間ドラマでした。
ジャーナリスト・エルサは、ダイアン・クルーガー。
どんな状況でも美しい顔だけは変わらない…なんてことなくて、ちゃんとお肌が荒れて、熱演しています。

無線一つ置いて来ただけで、窮地に陥っていく戦場の怖さも感じました。
助けを求めた者を拒絶しない村人たち。
その村人を容赦なく殺していくタリバンたち。

放置できなくて、戻っていくスペシャルフォースたち。
そこでまた、何人も死んでいく。
敵も味方も、罪のない人も。

何でこんな女性を助けなくてはいけないのか、と言い出す特殊部隊。
それに対しての答えは、「だって(スペシャルフォースは)最高の仕事だろ?」
「これが、任務だ」。

エルサは、タリバンが支配する社会に理不尽に扱われる女性を取材しています。
逃げるなんて、無理と言う女性に希望を与える。
幸せになる権利があると教える。
結局、彼女は殺されてしまう。

この理不尽を、残酷を、エルサは世界に知らせなければならないと思っている。
なぜ、エルサはそんな危険地域で取材しなくてはいけないのか。
どうして、フォースたちは戦わなくてはいけないのか。
エルサにはエルサの、スペシャルフォースにはスペシャルフォースの信念に基づいた仕事がある。

誰かを助けられるなら、自分は助けなければならない。
その使命感により、遂行するだけ。
立場は違うが、エルサもフォースたちもその精神は同じ。
それが通じ合った時、彼らは立場を超えて仲間になる。

ラスト、君だけでも助かれとエルサを送り出すスペシャルフォースの生き残り2人。
きっともう、自分たちは助からない。
だがエルサは基地までたどり着く。
そして、彼らを探しにヘリに乗る。

あきらめない。
場所も定かではないが、エルサは彼らを必ず連れ戻すと決心している。
ついに岩場で動けない2人を見つけ、連れ帰る。

たくさんの命と引換えに、生還を果たしたエルサ。
エルサはこれから先、スペシャルフォースを、軍隊を非難することはできるだろうか。
正義の基準は、彼女の中でどう変わるのだろう。
生還した喜びの中、そんなことも考えさせた作品でした。

予告を見た記憶がないんですが、未公開映画のようですね。
たくさん人が死んでしまいますし、スペシャルフォースにしてはアクシデント多いなと思います。
でも、人間ドラマとして、良い映画だと思います。


2017.04.19 / Top↑
しばらく見ていないと、すご~く見たくなるもの、それは「必殺」。
見てないなーと思うと、見たくなって見たくなってしかたがなくなる。
先週、「破獄」がテレビ東京で放送されていましたが、なかなか良かったです。

山田孝之さんの目に、すごみがありました。
良い俳優さんですよね。
緒形拳さんの「破獄」も、一度見たら忘れられないドラマでした。
同じく、緒形拳さんが牢に捕らわれる話、それが「必殺必中仕事屋稼業」にもあります。

第5話、「忍んで勝負」。

小伝馬町の牢内。
博打の借金が返せない男が1人、殺された。
「おめえたちも博打の借金が返せなきゃ、こうなるんだ」。

牢名主のもぐらの留三の言葉に、囚人たちが震え上がった。
役人がやってくるが、「いつものことか」と言って去っていく。
この牢名主の留三には、できないことはないと留三は豪語する。

留三の殺しの依頼が、仕事屋に来た。
月の10日に牢内で行われた博打の借金を、牢の外にいる囚人の身内に届けさせる。
払えなければ、殺される。

留三は牢役人、牢番とグルになっている。
捌きがあれば磔、獄門の悪人なので留三は役人たちに金をばら撒いて裁きを受けないようにしている。
そのため、留三は絶対に外には出ないのだ。
これをどうやって仕留めるか。

仕事の依頼を受けて戻ってくる半兵衛に、源五郎が声をかける。
家まで来た源五郎は、お春と話す。
源五郎はお春に、どうも半兵衛は博打をやっているようだと言う。

「あたしの調べたところじゃどうも、賭場に出入りしているようね」。
「親分さん、ちょっと牢にでもぶち込んでくださいよ」。
お春の言葉に、半兵衛の手が止まる。
留三が牢から出ないのなら、自分達が牢に行けば仕留められるのではないか。

賭場に行く半兵衛と政吉。
その後を、源五郎がついていく。
半兵衛と政吉はそれに気づいていながら、大きな声で博打の話をする。

賭場で半兵衛と政吉が博打をしている時だった。
「動くな!」という源五郎の声がした。
手入れだ。

「うわあああ」という叫び声がして、逃げようとする者と捕り方で鳥羽は大混乱に陥った。
捕り方相手に暴れる半兵衛の手をとった源五郎が「半ちゃん、逃がしてあげるから、おいでこっちへ」と言う。
その時、政吉が源五郎の額を金物でコツン、と打った。

額を押さえてうずくまる源五郎。
半兵衛と政吉は大の字に寝転び、その上に捕り方たちが重なる。
2人は捕まった。

奉行所でも反抗的な2人は、留三の牢に入れられた。
新入りとして2人は散々殴られたが、政吉は留三に賄賂を贈ることで、何とか免れた。
しかし半兵衛は殴られ続ける。
その横で政吉は、水を飲ませてもらう。

押さえつけられた半兵衛は、懐に潜ませていたかみそりを見つけられてしまった。
かみそりを持ち込んだ理由を聞かれた半兵衛は、ひげの手入れがしたいと言う。
すると留三は、自分の手入れをしろと言う。
半兵衛は留三に、かみそりを押し付ける。

だがかみそりを持つ半兵衛の手に数人の子分が、張り付くように見る。
とてもではないが、仕事はできない。
あげく、半兵衛は牢内の囚人全部のひげをそるはめになる。

さらに翌日になると、牢内で博打が始まる。
牢番も何も言わない。
この博打は、半兵衛や政吉を絶対に勝つことができないように仕組まれていた。

明らかなイカサマだけではない。
出た目を違う目と言わされたりして、半兵衛と政吉は10両の借金を作らされた。
これを同心の小坂とその手下の平八が、家族に取り立てに行くのだ。
返せない囚人は留三に殺されるが、その死は小坂と平八が自然死として扱う。

その頃、お春は源五郎に、半兵衛が捕まったことを知らされていた。
「ええ?!牢に?だから言わないこっちゃないのよ」。
「あたしもさ、半ちゃん助けようと思ってさ、いろいろやってみたんだけどね、すごいのよ。あの2人とも暴れちゃって。見てよこのコブ!」
「あらっ、まあ」。

源五郎の額のコブを見たお春は、驚く。
「それで、うちの人はどんな具合なの」。
「いじめられてるみたいね」。

源五郎は、半兵衛の牢内での様子を知っていた。
それを聞いてお春は、いてもたってもいられない。
「何とか牢から出す方法は、ないのかしら」。

「ないことは、ないんだけど」。
「どうすればいいの」。
「お金よ」。
「お金…」。

お金と聞いて、お春は「お金ね、ちょと待ってて」と言って、奥に入った。
たんすから3両出すと、少し考えて2両を持って出る。
「あのね、今、うちにこれしかないの」と言って、源五郎に2両を渡す。
「だからあの、親分の力で何とか出してやってください」。

源五郎はお春から渡された小判を見て、「2両…」と少し考えた。
「2両、よし、何とかあたし、半ちゃんのためにやってみるわ」。
「お願いします」。
「じゃね」。

源五郎の働きで、半兵衛と政吉は牢から出された。
「半ちゃん」と源五郎が寄ってくる。
「良かったねえ」。
そう言って、隣にいる政吉を突き飛ばす。

「もうだめよ、暴れたりしちゃ」。
「そっと、逃がしてあげようと思ったんだからさ」。
「今度だって半ちゃんのために、いろんなところに手を回して苦労したのよ」。

政吉が寄ってくる。
そして源五郎のコブを指して「親分、これ、かなり腫れましたな」と言う。
「…行け」。

源五郎の顔が強張る。
「にやけやがって。行けえ!」
そう言って政吉を突き飛ばした。

「あいたあっ!」
そして「半ちゃん。行こう?」と半兵衛の手をとった。
「行こう」。

坊主そばで、半兵衛はお春に怒られていた。
お春は情けないと嘆いた。
政吉は小紫のいる女郎屋で、手当てを受けた。

そして2人は再び、嶋屋へ集まった。
おせいは髪結いの最中だった。
髪結いの娘との話が聞こえてくる。

この髪結いの娘の父親は、牢内に髪結いに行くらしい。
囚人だって年に一度、床屋の手入れをしてもらえる。
床屋は回り持ちで牢内に行くのだ。

牢名主なんかになると、髪を結っている時なんかも外に出ないと娘は言う。
みんな嫌だから、牢に行くのはくじ引きで決めるらしい。
その当番は月の10日だが、誰も行きたがらない。

半兵衛と政吉が、すっといなくなる。
2人がいなくなったのに気づいたおせいの目が笑う。
半兵衛と政吉は、髪結いのところにいた。

政吉が髪結いの男に、小判を渡す。
半兵衛は髪結いの道具をそろえる。
風呂から帰ってきたお春の髪を、半兵衛が結ってやる。
髪結いの練習だ。

一方、政吉はさいころを作る。
丁寧に紙にさいころの作りを書き、型から作る。
さいころを型にこめるところから始める。

たくさんのさいころが転がっている。
政吉はそのさいころをどかし、作ったさいころを投げる。
半!

もう一度投げる。
半!
また投げる。

半!
「できた…」。
政吉が笑った。

風呂から帰ってきたお春の髪を、半兵衛は結った。
留三を仕留めるための髪結いの練習なのだが、お春は「実は他にお目当てがあるんじゃないの」と疑った。
どきりとした半兵衛にお春は「嫌よ、若い子に変な気起こしちゃ」と言った。
お春の焼きもちと気づいた半兵衛は「俺にはお前が似合いだよ」と笑った。

10日は、あさってに迫った。
小坂と平八は、留三の博打で借金を作らされた囚人の家に金の取立てに行っている。
ある囚人の父親は、頭を擦り付けるようにして、待ってくれと言う。
だが小坂から息子が病と聞いて、親はおろおろした。

小坂と平八は父親に、明日の昼まで何とかしろと言って出て行く。
この前の金では足らないと言われている女郎がいる。
女郎は、みんなから聞いたと言って怒った。

「旦那方は牢に入った囚人につけこみ、金を搾り取っている」と。
牢に入ってしまえば生かすも殺すも、自分たち次第だと言って、脅している。
しかし小坂と平八は、それがどうしたと開き直る。
金を待ってるぜと言われた女郎は泣くしかない。

その様子をずっと、半兵衛は見ていた。
小坂と平八は、人気のない路地に入った。
後ろから半兵衛が来る。
前からは、政吉。

「だんな」と、半兵衛は声をかけた。
「その節には」。
「借りてた銭を持ってまいりました」。

そう言うと半兵衛は突然、小坂の首筋を切り裂く。
政吉は小坂の方を振り向いた平八を刺した。
倒れた2人を半兵衛と政吉は引いてきた大八車に乗せ、上にむしろをかけた。
小坂と平八を仕留め、後は留三だけだ。

10日。
牢屋敷に髪結いが入る日が来た。
役人が一人一人、髪結いの名前を呼ぶ。
留三の担当が来て、「手前でございます」と半兵衛が名乗る。

「赤坂新町の勘兵衛」。
それに…、「牛込浜町の政太郎でございます」と政吉も名乗る。
「よろしく」。

役人が「牢名主の他はみんな出ろ」と命じると、ぞろぞろと囚人が牢から出て来る。
残った留三に向かい、半兵衛と政吉は「どうも牢名主さん、その節はどうも」とお辞儀をした。
2人に気づいた留三は「なあんだ、おめえたちか」と言った。

「約束の金10両、確かに持ってまいりました」。
留三は金を受け取ると「殊勝な心がけだな」と言う。
「牢名主さん、名前を消してください」。

半兵衛の申し出に留三は、名簿の半兵衛の名前を消した。
「ああ、確かに消えましたよ」と半兵衛が確認する。
さて、「お水はそこですよ。「失礼いたします」と留三の髪結いに入る。

「その節はお世話になりまして」。
「シャバはどうだ」。
「不景気でございますね」。

「襟足から当たらせてもらいます」。
半兵衛は留三の首筋にかみそりを立てるが、牢番や辺りの様子を見てひっこめた。
政吉が半兵衛を見る。
牢番が、あくびをする。

半兵衛が政吉に、目配せした。
政吉の懐から、さいころが転がり出る。
「あらっ、いけねえ!とんだものをお見せしちゃって」と政吉は笑った。

それを留三が見逃すはずがなかった。
「おいおめえ、あんなに負けてまだやってんのか」。
政吉はそれが、牢を出てからずっとつきっぱなしだと笑う。

「おめえ、金もってんのか」。
「ええ、ここに10両ばかりあるんですけどね」。
留三は目を輝かせた。

博打は、何の楽しみもない牢内での楽しみ。
「見て見ぬ振りしてくださるぜ」との声に牢番はすっと後ろを向いた。
博打が始まる。

政吉は「こないだみたいなのは無しですよ」と笑う。
「勝負は三番勝負。いいな」。
「いいでしょう」。

さいころ勝負が始まった。
「半!」
政吉が言う。

掛け金は、有り金10両全部。
「よし」。
10両で勝負だ。

「勝負!」
さいころの目は半だった。
「あはははあ、名主さん、だから言ったでしょう。このところ、ずっとついてるって」。
政吉が笑う。

「今度は俺だ」。
今度は、留三から巻き上げた20両で勝負だ。
留三がさいころを投げる。

「勝負!」
政吉が言う。
「受けた」。

「勝負!」
さいころの目はやはり、半だった。
「あはは。ついてるなあ。しかし名主さん、取り巻き連中がいないと、全然だめですなあ」。
政吉が楽しそうに言う。

「このへんでやめますか」。
「いや」。
「じゃあ今度は、最後の一番ですよ」。

「まあ、このサイはなあ」。
留三はそう言いながら、さいころをころがす。
「いかさまだなんて、おっしゃるんですか」。

留三は合点がいかないようだったが、さいころのイカサマは見破れないようだった。
「そうじゃねえようだがなあ…」。
さいころを転がしながら、「おめえのサイだからなあ」と言う。

「ああっ、じゃあ親分が好きなもので」と政吉が申し出る。
「これだ」。
「あ、花ですか」。

留三が出したのは、花札だった。
「いいですね」。
政吉と留三がやりとりしている後ろで、半兵衛は長い柄の櫛の先を研いでいる。
櫛の先が、鋭く鋭く細くなっていく。

札が慣れた手つきで切られ、並べられる。l
政吉が手元の札を見る。
札を差し出す。

留三がそれを取る。
慣れた手つきで、札を切る。
札を置く。
だが、留三の手の中には札が一枚、残っている。

「ああ、名主さん今度はいくらかけるんですか」。
積んである札を取ろうとした政吉が、手を止めて聞く。
「全部だよ」。
「ああ、じゃ、出してくださいよ」。

政吉はそう言うが、留三の手元にはもう、金はない。
「なんだねえのか、それじゃ勝負にならねえよ」。
「証文を書く」。
「またまたあ、こんどはその手にはひっかからねえよ」。

政吉の言葉に留三がカチンと来た。
「よし!俺の命張ってやるよ」。
留三の声には、凄みがあった。

「あはははあ、さすがは名主さん。震えちゃうなあ」。
政吉が笑った。
だがその笑いが、すっと消えた。
「勝負…」。

「ようし!」
政吉がひっくり返した札は、鹿ともみじの絵が描いてあった。
「しっぴん」。

そう言って留三が自分の札を取ろうとしたときだった。
留三の手の中には、札がすでにあった。
それは政吉の札に対して、いのししが描いてある札だった。

「待ったあ!」
政吉が鋭く声を出し、留三の手を押さえる。
「何しやがんでえ」。

「イカサマはいけねえよ、親分」。
「何?」
「手の中に一枚、札が入えってるだろう!そんなイカサマに引っかかってたまるかぁ!」
「おい…、正気でものを言ってんだろうな?」

留三の声が低くなる。
「もし、この手の中に札がなかったらどうする?」
留三が政吉をにらむ。

「どうするよ!」
「おう、首でも命でもくれてやらあ!四の五の言わずに開けてみろい!」
政吉も負けなかった。

留三がニヤリと笑った。
「ようし、どけろよ」。
「この、薄汚ねえ手を、どけねえかっ!」

政吉が抑えていた手をどける。
留三が手のひらを上に向ける。
手の中には、何もなかった。

ガラン!と音がして、札もさいころも吹っ飛ぶ。
留三が政吉の首根っこを押さえつけた。
「博打に言いかがりをつけたらどうなるか、そいつはてめえも知ってるんだろうな」。

「知ってるよ」。
背後から半兵衛の声がした。
「こうなるんだ」。
半兵衛が言うと同時に、研いでいた櫛の先端が留三の脳天に刺さる。

「牢名主さん?」
半兵衛の声が響く。
「牢名主さん!」

留三はひっくり返ったまま、白目をむいて動かない。
「あっ、これは卒中だ!」
「卒中だ。卒中でございますよ!」

半兵衛の声があわてる。
「お役人さまあ、大変でございますよ!ああ、ああ」。
半兵衛が倒れている留三の手を、懸命にさする。

その夜。
政吉は女郎屋で、昼間、留三が見せた手を再現しようとして花札を一枚、取っていた。
「ええい!」
だが、手の中に札は残らない。

「だめだな」。
「ううん、主さん」。
政吉がちっとも、自分のほうを見ないので、部屋の主の小紫が苛立つ。

「あいつにできて、俺にできねえはずはねえんだけどな」。
「うん!」とすねた小紫が、花札を自分の背中の方に隠す。
「あたしと言う女がありながら…、他の女と…、見合いするなんて」。
そして整えられた政吉の髪を見て、「ああ、頭なんて刈っちゃって」とすねた。

どうも、政吉は見合いをするために髪を整えたことになっているらしかった。
「いや、見合いだって俺、好きでやったわけじゃねえんだよ。ちょっと、返してくれよ」。
政吉は花札を取り返そうとした。

「じゃ、今でもあたしのこと、好き?」
小紫の問いに「とにかく、そういう難しい話は後にしてさあ」と政吉が言うと、小紫はかなしそうに視線を落とした。
しょんぼりした女郎にあわてた政吉が「好きだよ、好き!」と言う。
小紫がニッコリ笑う。

坊主そば。
半兵衛が明日の準備をしている。
「うどんやそばの出し汁は、昆布が最高だなあ」。

「ねえ」と、片づけをしているお春が声をかけた。
「ええ?」
「なんか…、足りないと思わない?」

「鰹節もう少し足すか?」
「ここにさあ、子供がいたら、言うことないわね」。
「子供?!」

「ねえ、子供ほしいと思わない?」
「いや、それは…。ほしくねえことはねえけど。…子種がねえよ、俺には」。
「そんなことないわよ!いままで博打に精出してたところを、こっちにまわせばいいじゃない!」

「…がんばってみるよ」。
お春は、今日の売上金をざるから取る。
うれしそうだった。

お春が座敷に、布団を敷き始める。
枕を二つ、並べる。
「ねえ、もう休まない?」
お春の声は弾んでいた。

「いや、もうちょっと…、これやっちゃうよ」。
半兵衛の声があわてる。
お春が帯を解いている。
半兵衛はそれを、そっと覗き見る。



今回、笑えるシーンが一杯。
源五郎のシーンもおかしい。
政吉と小紫もおかしい。

まず、坊主そばで。
お春が、「ちょっとちょっとあんた、これ見てよ」と言う。
「どじょう」。
これをそばに入れてみたらどうか、と、お春が言う。

「食べようよ、食べようよ」と、源五郎が言う。
「あ、ちょうどいいわ。親分さんに試食してもらおうよ」。
お春が言うと半兵衛が「いや、それはやめたほうが良いよ。親分さん忙しい人だからさ」と止める。
すると源五郎が「半ちゃん」と、体をくねらせる。

「はい」。
「あんたあたしのこと、早く帰す気なの?」
源五郎が半兵衛をつねる。
「痛い、痛いなあ。そんな気、ありませんよ」。

その後、半兵衛が「ああ、でも、これ、俺、殺すのは嫌だよ」。
「なあんで、簡単よ、きゅってひねれば」とお春。
「やだよ!」
「なあんでよ」。

「生き物殺すの、嫌いなんだ」。
ここで半兵衛の裏の仕事を知っている視聴者は、笑ってしまう。
いやいや、何となくわかるけど。

するとお春「なあに、情けないわね」。
「お前やりゃあいいじゃん」。
「あたしはいいわよ」。

お春もやっぱり、嫌。
「じゃ、どうすんだよ」。
「じゃ、もったいないけど、どぶにでも捨てるか」。
そう言った時、源五郎がどじょうの入っているざるを奪う。

目つきが、爛々としている。
ざるの中を凝視して、「…あたしにやらせてよ!」
どじょうを手に取り、「あたし、こういうの殺すの、とっても好きなんだから…」。
ひええええ。

場面が変わって、政吉がいる女郎屋の部屋。
「殺す?」
小紫という、ちょっと良い着物を着て髪を結っている女郎が首をかしげる。
「ああ、もぐらをな」。

「もぐらって穴の中にいるあれでありんすか」。
「そのもぐらを穴の中からほじくり出して、食っちまおうってんだ」。
「あんなもの、食べられるんでありんすか」。
すると、政吉、片目をつぶり、「ぜひとも、食いてえ!」

場面が変わり、再び坊主そば。
前掛けをした源五郎が、そばをすすり「ああ、おいしいわぁ」と言う。
どんぶりの中を見て、「何か共食いみたいね」。

お春が寒そうに肩をすぼめる。
ゾッとしている。
半兵衛も無言で、下を向いている。
嫌なものを見たな。

「おいしいわあ、半ちゃん食べない?」
源五郎だけが楽しそう。
半兵衛はうっすら笑って、首を振る。

再び、女郎屋の政吉。
仕事料の小判を、小紫に渡している。
「主さん、こんなにいただいてもよろしいんでありんすか」。

「ああ、いいよ」と笑う政吉。
「うれしい」と、しなだれかかる小紫。
「これで主さんと、所帯を持つ資金にするでありんす」。

それを聞いて政吉、仰天。
「所帯?!よせよ!」
「あのな、それからその『ありんす』って、やめてくれないか。しらけてしょうがないんだ」。

すると小紫、「でもあちきは、ありんすって言葉しか、知らないんでありんす」。
「ほんとかよ~。お前、ところで生まれ故郷はどこだっけ」。
小紫が視線を落とす。

そういうの、ここではタブーでしょう?
「吉原でありんす」。
「いや、そうじゃねえんだよ、生まれたところなんだよ」。

「…」。
答えない小紫。
「うん、あのな、お前にだってさ、故郷ってあんだろう?」
「ここ」。

言い張る小紫。
すると政吉、きゅっと小紫の手をつねる。
小紫、びっくりして飛び上がり、鉄瓶をひっくり返してしまう。

とっさに出た言葉は「あいたたたた、何てことすんだっぺ!」
それを聞いた政吉、ニヤリ。
「ああ、火傷しちまう。顔だって着物だってこんな」。

田舎言葉丸出しで嘆く小紫の手を取った政吉「ああぁ~、なつかしいな」。
こちらもなまっている。
「俺、あの、庄内の、ずうーっと先の方なんだ!」

小紫、うれしそうに「おめ、庄内けえ?あっだし、宇都宮だああ」。
「あら、あの宇都宮か!」
2人は意気投合。

政吉「おまええ、ありんす言葉より、ずっといいぜ!」
そして小紫をこづき、「それで行け!」
思わず、口を押さえる小紫。
おかしい。

牢から帰ってきた政吉が、再び小紫と。
小紫が政吉の背中の傷に、塗り薬を塗っている。
「痛いっ!お前、乱暴だよ」。
政吉が悲鳴を上げる。

「ああ、動いたらだめだあ!」
なまりのある声で、小紫が言う。
「お前さあ、もうちょっとこう、やわらか~くできないのかよ。お、そうだよ、こっちの方、得意の『ありんす』ってやってくれよ~、なあ?」
すると小紫は「こうでありんすか」と澄ます。

「うん、まあ…、そうだな」。
政吉は満足そう。
小紫「ケンカなんかするから、いけないんでありんす」。
この2人のやり取りは、最後までおかしい。

ギャグシーンがおもしろいから、逆に仕事のシーンの緊張感がすごい。
今回はもう、留三の多々良純さん。
この名演技に尽きる!

多彩な表情とコミカルな口調、動き。
悪党なのに、すごくおかしい。
牢内で、「はいぃーっ」って前に手を伸ばして、すーはー。

ヨガです。
牢内でみんなで、ヨガやってるんです。
政吉が留三の体をもんで、柔らかいと言うと、ボソッと「ヨガやってるよ、ヨガ」って言ってる!

やってることは極悪なのに、多々良さんの留三にはたびたび、笑っちゃう。
しかし、凄むところはすごい。
眼光も鋭く、口調もまるで切りつけるよう。
この緩急のつけ方、もう、見事です。

最後、のびてる多々良さんの顔がまた、笑っちゃう。
多々良さんは「仕留人」でも殺される時の顔がおかしかった。
サービス満点、楽しませてくれる悪役さんだなあ。
若い芸者に入れあげて息子を嘆かせるご隠居なんか演じても、この方はすごくおもしろかった。

おせいの言葉から半兵衛と政吉が、髪結いとなって牢内に入り込む経緯はセリフがありません。
音楽と、半兵衛と髪結いに金を握らせる政吉が映る。
これだけで何が行われているか、わからせてしまう。

政吉との最後の博打の場面は、下から撮影している。
ガラスを張って、その下から撮影している。
だから、さいころも花札もよく見えるんです。
すごい。

ここで緊張感のある音楽が、流れる。
そしてついに有り金むしりとられた留三が、「俺の命張ってやらあ」と言う。
それまで笑っていた政吉から、すうっと笑いが消える。
半兵衛にも緊張感が走る。

「震えちゃうなあ」から「…勝負!」の流れが実にうまい。
この、命を賭けるという言葉を待っていた。
だから卒中で倒れるのも、しかたがないと思わせる。
多々良さんと林さんの、緊張溢れるやり取り。

留三のイカサマ手口も、こちらからは良く見える。
それに気づいた政吉が止める。
すると、留三が凄む。

この辺りはユーモラスな演技は跡形もなく消え、留三という男の怖さがにじみ出て来ます。
政吉をにらみつける留三の目つきの、怖いこと。
この男はこうやって、人を殺してきたんだと感じる。

押さえつけられた政吉が殺される寸前。
「知ってるよ」という低い声。
「こうなるんだ」。

緒形さんの声も相当、怖い。
今まで丁寧に接していたのが、嘘のような声。
緒形さん、林さん、多々良さんの完全なる3人芝居。

ズブッという鈍い音。
脳天に刺さる櫛。
白目をむく留三。
今度は白々しく…、見ているこちらには白々しく映る半兵衛の「ああっ」というあわてぶり。

この仕事屋の博打で仕置きのシーンは、後に津川雅彦さんが登場する回で昇華します。
留三のシーンに時間をかけているせいか、小坂と平八の仕事はあっさりですが、仕事シーンもたっぷりあるんですね。
セリフのやり取り、演技のコミカルさ、リズム。

これが私の文章では伝えられないのが、つらい。
芸達者なみなさんの演技による、緩急あるシーンの数々。
映像のこだわりといい、お勧めの回です。


2017.04.16 / Top↑
渡瀬恒彦さん主演の、「警視庁捜査一課9係」。
刑事さんたちの軽妙な、さりげないやり取りがおもしろい。
中でも、吹越満さんが演じる青柳靖刑事のアドリブっぽいセリフと行動が楽しい。
かと思うと、肝心なところを押さえていて、青柳は有能な刑事であることがわかる。

個性豊かな刑事たち。
そしてそれをさりげなく、それでいてバッチリまとめ上げている渡瀬さん。
グイグイ前に出ることはないが、彼らを支えているのは渡瀬さんだった。

頼もしく、彼らにこの上なく信頼されている上司。
現実の渡瀬さんもそうだったことが伺えるドラマです。
姿はなくても、そこに渡瀬さんの存在がある。

「大都会Part2」を見ていたから思うのかもしれませんが、徳吉刑事ってこういう刑事像のお手本だなあと思います。
松田優作氏の、高い身体能力。
それが一目でわかる身長や容貌。
こんな超人的な徳吉が、アドリブのような軽妙なセリフを言うのが、おかしかった。

しかし昨今のリアルな警察ドラマでは、徳吉のようなアクションはあまりない。
犯人は容赦なく殴ってノックダウンさせて、手錠ですから。
射殺してしまいますから。

市街戦が頻繁に起こり、カーチェイスが繰り広げられる。
そんな展開の刑事ものは、昨今リアルではなくて作らなくなっているんですね。
でもあの徳吉刑事には、やっぱりアクションがほしい。

徳吉刑事はあの時代だから、演じられた役なのかもしれない。
でも、俳優なら徳吉刑事みたいな役は演じたいでしょうね。
徳吉はいざと言うときは、黒岩刑事にとって誰よりも頼りになる優秀な刑事です。

おかしさと優秀さ。
互いが互いを引き立てている。
どちらかが引き立て役ということはない。

黒岩刑事は、渡哲也さん。
渡瀬さんのお兄さんです。
やっぱり、兄弟だなあと思ってしまいます。

ドラマの質も、役のタイプも違う。
でもその存在感は、似ている。
かっこいい兄弟ですよね。


2017.04.13 / Top↑
それが最高潮になるのが、球磨子の元・情夫の豊崎が出廷した時。
ヒモだろうか。
鹿賀丈史さんが実にうまい!

球磨子に不利な証言をしたため、球磨子が「言わないわよ、そんなこと!」とわめく。
「チンコロが」。
豊崎の目が丸くなる。
「チンコロお?!」

「あんたみたいな嘘つきを刑務所じゃチンコロって言うんでしょ。あんた、良く知ってんじゃない。懲役太郎なんだから」。
周りをにらみつけ「この男はね、シャバより刑務所のほうが長いのよ!」
そして、法廷で取っ組み合いのケンカを始める。
この2人はこうしてケンカをして、それで一緒に暮らしていたんだろうと想像がつく。

だけどこの男、佐原が球磨子の無実を信じていると知ると、佐原に会いに来る。
佐原は「あの人のことは、あなたが一番良く知ってる」と言う。
「あの人、人が殺せる人?」
だが豊崎にも、よくわからない。

球磨子は店のホステスに火をつけて懲役をくらったことはあるが、計画的に人を殺すようなことができる女だろうか?
豊崎は球磨子が懲役を終えて出所してきたときのことを語る。
誰も迎えに来ない球磨子は、1人、刑務所の外の長い壁に沿った道を歩いていく。

すると、仕事先だろうか、おしぼり屋の車を運転してきた豊崎が球磨子を迎えに来た。
乗れよと言われた球磨子が、豊崎を凝視する。
目に涙がたまってくる。
あの時の球磨子はまるで少女のようで、かわいかったと豊崎は言う。

豊崎は、ほかの誰も知らない球磨子を知っている。
球磨子は本当に、うれしかったんだろう。
だから球磨子にとって、豊崎は特別なんだ。

3億円入ったら5千万分け前をやってもいいというのは、調子に乗ったにせよ、豊崎が球磨子には特別であるからだと思う。
豊崎も刑務所と外を行ったり来たりしているような男だが、どこか妙に優しいところがある。
突然、豊崎は証言を翻す。

「んもう、どうしてそういうこと早く言わないのよぉ、しゃらくさいわねえ~!」
顔をしかめながらもうれしそうな球磨子。
「ごめん、新聞社に世話になっちゃったから」。
球磨子と豊崎は、相性が良いんだと思う。

豊崎の答えに球磨子は、鼻にしわを寄せて手を振る。
退廷時には「がんばれよっ!」と、豊崎はこぶしを握って見せる。
球磨子も、下から救い上げるようにVサインを見せる。
何じゃ、この2人は。

結局、球磨子は保険金殺人はしていなかったと認められ、無罪となる。
鹿賀丈史に便宜を図って、球磨子に不利な証言をさせた新聞記者・秋山は離島に飛ばされる。
これが柄本明さん。
やっぱりうまい。

法廷で、豊崎に「あそこにいるから聞いてみろ」と言われ、目が左右に動く。
秋山は佐原に電話をしてきて、離島に飛ばされたけど後悔していないと言う。
あんな女、罪に問われれば良い。

だが佐原は重要なのは、真実だと言う。
真実やっていないのなら、それは罰するべきじゃない。
それに対して、弁護士さんと自分たちの正義は違うようだと秋山は言う。
疑わしきは罰せず。

初めて見た時、球磨子みたいな女は罰せられれば良いと思う感情は、理解できた。
しかしそんな感情で罰して良いのかとも思った。
裁判員制度の今だったら、球磨子はどう判断されるのだろう。

佐原は球磨子が祝杯をあげるクラブに向かう前、離婚した夫が引き取った娘と会う。
そこで再婚相手に、もう娘と会わないでほしいと頼まれる。
これが真野響子さん。

だが、権利が認められていると佐原は言う。
それに対して、自分は子供を作らないと彼女は宣言する。
佐原の娘を自分の娘として、彼女だけを見て育てていく。

だから…。
佐原は答えない。
答えずに立ち上がり、娘に持ってきたプレゼントを渡した。

そして振り返りもせず、去っていく。
白いスーツ。
彼女の潔癖さとプライドを象徴しているかのような、白いスーツ。
最後の球磨子と佐原とのシーンは、圧巻。

「せんせ!」と、球磨子が佐原を見て声をあげる。
球磨子はバーで、佐原を待っていた。
佐原を待って乾杯をした球磨子だが、「あたしね出所祝いどころじゃないの。相談乗って」と切り出す。

福太郎氏は結局、球磨子と無理心中を図った。
つまり自殺なのだが、保険加入後1年以内の自殺では保険金が下りない。
須磨子は言う。

「3億円ね、出ないって言うの。保険会社じゃね、掛けてから1年以内の自殺はダメだっていうの」。
「別に保険金目当てにあの人、自殺したわけじゃないんだからさ。そこんとこどうにかしてえ、あんた、弁護士でしょ」。
「これで3億円取れなかったら、何で富山来たんだかわかりゃしない。踏んだり蹴ったりよ」。

「何とかして」と言う球磨子に佐原は「無理ね、あきらめなさい」と突き放す。
すると須磨子は「ね、そしたらさぁ、白河家から慰謝料取れない?」と言い出した。
「だいたいあたし、被害者なんだからさ、あいつらちょっと、シメてやんなきゃいけないっしょ」。

佐原は冷然と「何言ってんのよ、お互い様じゃないの」と言った。
「向こうだってあなたのこと、恨んでるのよ。福太郎さんの自殺は、あなたが追い込んだせいよ」。
須磨子は平然と「追い込んじゃいけなかった?」と言った。

「いいじゃない男の一人や二人死んだって。ねえ?」
周りにいるホステスに同意を求めるように、球磨子はちらりとホステスたちを見る。
それから球磨子は、吐き捨てるように言った。
「何が愛してるよ」。

タバコを持った手で髪をかき上げながら「あたしに逃げられるのが嫌で、つかまえときたかっただけじゃない」と言った。
その物の言い方に、さすがにホステス2人が、席を立つ。
残っていた1人も立ち上がって、出て行く。
「無理心中なんて、ふざけたこと言っちゃ困るのよ」。

タバコを持った手を佐原に向け球磨子は「大体、せんせ、まずいわよぉお」と言った。
「無理心中なんて下手な弁護するから、保険金入らなくなっちゃうのよぉお」。
「入ったらさぁ、せんせに5千万ぐらいやろうかと思ってたのよ」と、5本の指を佐原に向けながら言う。
「トチるんだもん。3億円パァよパア!」

佐原はタバコを手に球磨子を見下ろしながら、「あなた、福太郎さんが無理心中仕掛けなかったらどうしてた?」と聞いた。
球磨子もタバコをふかしながら「ええ?」と笑いの混ざった声で、聞き返す。
「殺してた?」

佐原は、球磨子を見下しながら聞く。
「それとも殺せなかった?どっち?」
「度胸もないくせに。じたばたすんの、およしなさいよ、みっともないから」。

球磨子はタバコを持った右の手のひらに顎を乗せながら「そうだねえ…」と、言う。
「時間があったら、殺ってたね」。
そして佐原をちらりと、見る。
佐原も、球磨子も見る。

球磨子はl今度はニヤニヤ笑いながら、「あんたってさぁ、ほんとにヤな目つきしてるわねぇ」と言った。
次に顔をしかめながら「いつでも人を、モルモットみたいに見てんのね」と言った。
佐原も「私ね、あなたみたいにエゴイストで自分に甘ったれてる人間って、大っ嫌いなの」と言った。
冷たく、軽蔑しきっている目だった。

球磨子はフフッと笑って「あたしだってあんたみたいな女、嫌いよぉ」と言う。
タバコの煙を吐き、ワインを注ぎながら「あたしはねぇ、どんな悪くたってねえ、みっともなくたって人になんか構ってらんないのよ」と言う。
「だけど、あたしはあたしが好きよ」。

そして、ワインのボトルを佐原のスーツの上に持ってくる。
「あんた、ねえ、あんた」。
球磨子は佐原を、ワインでつつく。

赤いワインの液体が、佐原のスーツの袖に落ちていく。
「自分のこと、好きだって言える?」
ワインの瓶の口からどんどん、赤い液体が佐原の白いスーツに落ちていく。

「言えないっしょ?」
球磨子は、佐原のスーツにワインをこぼし続ける。
「かわいそうな人ねえ」。

須磨子はにやりと笑って、今度は佐原の白いスカートに向かってワインをこぼし続ける。
「あんたみたいな女、みんな、大っ嫌いよ」。
ワインの中身を全部こぼし終わると、球磨子はボトルを下げる。
下を向いて、ニヤニヤ楽しそうに笑う。

佐原は白いスーツの前を赤く染めながら、タバコをぎゅっと、もみ消す。
その手で、グラスに入ったワインをパシャッ!
勢いよく、球磨子の顔に叩きつける。
球磨子が目を反射的に閉じる。

「あなたって最低ね!」
佐原はそう鋭く言うと、トン!と音を立ててグラスを置く。
「命が助かっただけでも、めっけもんでしょ?」

球磨子が佐原を見て、「あたし懲りてるわけじゃないのよ」と言う。
「今度のことで自信持っちゃってさ、あたし。あんたみたいな女にだけはほんと、ならなくて良かったと思って」。
そして球磨子は真顔になって「あたしは今まで通り、あたしのやり方で生きてくわよ」と言う。
「男たらして、死ぬまでしっかり生きて見せるわよ」。

そう言ってグラスを口に運ぶ。
佐原も言う。
「あなたは、それでしか生きられないでしょうね」。

佐原はいかにも須磨子をバカにしたように、ふっと笑う。
そして真顔になって言う。
「私は私のやり方で生きていくわ」。
佐原は須磨子にそう言うと、バッグを手に立ち上がる。

須磨子も「ま、せいぜいがんばってね」と返す。
佐原はバッグを肩にかけ、「またしくじったら弁護したげるわよ」と言う。
そのピシリとした背中に向かって球磨子は、「頼むわ」と言った。
階段を上がって行く佐原に、ホステスたちが頭を下げる。

翌日、球磨子は富山を出ていく。
階段を上る球磨子に、すれ違ったアベックが視線を注ぐ。
列車に乗り込んだ球磨子に気付いた人々は露骨に、または密かに見る。

窓の前にいる人たちに球磨子は舌を出し、手を振った。
列車は発車した。
球磨子の左の窓の景色が流れていく。

たばこを吸う球磨子。
顔に嗤いが浮かぶ。
列車はどんどん、加速していく。


2大女優が最初から最後まで、気の抜けない対決を見せる。
球磨子と佐原は、全く違う女性。
全く違う相手に惹かれることは、ある。
でもこの2人は仕事を離れたら、お互い大嫌いなタイプ。

聡明で冷静なエリート女性、女であることに頼らない佐原。
こういう女性を、球磨子は大嫌い。
だらしなくて、感情的で自分を抑えられず、男を渡り歩くことで生きてきた球磨子。
佐原はこういう女性が、大嫌い。

それでもどこかで、2人は似ているのかもしれない。
同族嫌悪のようなところがあるのかも、しれない。
ああなりたくないとお互い、言っている。
自分の中にある、大嫌いなものを見せてくるから、嫌いなのか。

それとも自分にないものを持っているから、自分ができないことをやるから嫌いなのか。
いろいろな思いが浮かんでくる。
球磨子の口調、表情は「ザ・桃井かおり!」
これ、ほんとに桃井さんしかできない球磨子。

佐原の冷徹さ、聡明さは岩下さんの冷たく切れる美貌にぴったり。
「鬼畜」の感情的なお梅とは、似ても似つかない女性。
どちらも素晴らしい女優の演技。
何時見ても、引き込まれる。

全く違う個性の女優を、ここまで生かしたのもすごい。
球磨子は桃井さんだから、佐原さんは岩下さんだからここまでできた。
でももしかしたら、2人の役を入れ替えても、この2人ならできるかもしれない。


ものすごい女性同士の対決ですが、実際の撮影は楽しかったと、岩下さんはおっしゃってました。
最後の息詰まる、赤ワインのシーン。
終わった途端、緊張が解けた2人は、「あはははは」って、笑ってしまったそうです。

TVのCMでは岩下さんが桃井さんに「ジタバタするの、およしなさい!」って言い放つシーンが流れていました。
本編では、ありませんでした。
そうしたら、あれはCM用の映像だったみたいです。

球磨子が列車に乗って、富山を離れていくラストシーン。
息を吸い込み、煙を吐き出しながら球磨子は嗤う。
思い出し笑いのようにも、見える。
ほくそ笑んでいるようにも、見える。

無罪なのだろうか。
この人を解き放して、良かったのだろうか。
じんわり、広がっていくような音楽。
疑惑がむくむくと湧いてくる。


2017.04.08 / Top↑
久々に82年の映画「疑惑」を見ました。
実はこの記事、アップ直前に壊れましてね。
ちょっとくじけてたんです。

鬼塚球磨子役は、桃井かおりさん。
桃井さんの、ベストワークの一つではないでしょうか。
鬼塚球磨子が日本映画史に残る悪女になったのは、桃井さんの功績だと思います。
これは桃井さんでなければ、出せない味。

この映画を見たある映画評論家は、「桃井かおりってほんとに嫌な女よ。あれ、地よ」と言いました。
いや~、それはないんじゃないのって思いました。
でもそれだけ、はまっていたんです。

桃井さん以外では鬼塚球磨子は、余貴美子さんが良かった。
本当は黒なのだと示唆する笑い、ゾクゾクします。
余さんの魅力が最大限に発揮されていて、佐藤浩市さんが迷うのも無理はないです。

しかし、どういう育ち方をして、どういう人生を送ると、球磨子みたいになるのかと思います。
それほど球磨子は常識はずれ、非常識。
思いやりなんか一片もない。
人に迷惑をかけないという意識もおそらく、全くない。

「馬屋古女王」じゃないですけど、純粋に本能のみ。
自分の快楽のみ。
ここまでになるには何かが、この人の人生にあったんでしょう。
でも、そういう描写は一切ない。

なくて良いです。
これは法廷劇に徹してくれた映画。
球磨子というとんでもない悪女が、本当に人を殺しているのか。

この女はひどい女だが果たして、人が殺せる女なのか。
その真実を追究するための法廷劇。
なので、球磨子には球磨子の哀しい事情があったのです、という説明はこの映画では必要がない。

真実を追究していくのは、佐原律子弁護士。
岩下志麻さんが演じます。
球磨子とは正反対の生き方をしてきたであろう、女性。

おそらく、球磨子はこういう女性が大嫌い。
また佐原も、球磨子みたいな女性が大嫌い。
この心の中では大嫌いな女性が仕事と生存をかけて組み、生き残っていく映画。
今見ると、ものすごく豪華な出演者のみなさん。

富山の埠頭で、車が海に落ちる。
乗っていたのは富山でも有名な資産家・白河酒造の御曹司の福太郎。
そして後妻の球磨子。
浮かび上がって助けられたのは、球磨子だけだった。

球磨子は東京でホステスをしていたところ、福太郎氏が懇願して妻に迎えた女性だったが、前科があり、酒癖も悪い。
金遣いも荒く、かなり評判が悪かった。
従業員はもちろん、白河家からも嫌われている。

こんな女に遺産の半分が行くことを考えた白河家では、先妻の弟の助言によって福太郎と先妻の間に生まれた15歳の宗治に全財産を相続させてしまった。
しかし球磨子は福太郎に3億円以上の保険金をかけていたため、これは事故ではなく保険金殺人の疑いがかかる。
警察の追求に動じることなく応じる球磨子に苦慮した警察は、福太郎の葬儀に球磨子を連れて行った。

何をしに連れてきたと怒る福太郎の母親だったが、警察は福太郎の遺体を見た球磨子の反応が見たいのだと言った。
棺の中の福太郎を見た球磨子の反応は…。
「うっ、うっ、うっ」。
泣いてるんじゃない。

「う、うええええ」。
「げえええええ」。
棺に向かって球磨子が、吐き気を催している。
周囲は唖然、呆然だった。

保険金殺人として球磨子は起訴され、裁判になるが、いきなり弁護人が降りてしまう。
降りてしまう弁護人が、丹波哲郎さん、松村達雄さん。
すると球磨子は拘置所で猛然と、六法全書を読み始める。
そこに国選で選ばれてきたのが、佐原律子だった。

謁見した佐原に球磨子は「あんた、あたしがやったと思ってんでしょ」と切り出した。
そしてこんな悪女扱いされるのは、自分の名前が悪いからだと言う。
鬼塚球磨子、だから鬼クマなんて言われちゃう。
もっと可憐な名前だったら、違ってたと。

まー、もう、ここまでくると名前じゃない気がしますけどね。
でもやっぱり名前は、大事。
どういう意図で、鬼という苗字で名前にクマってつけたのか。

女の子ですからね、からかわれたことがあったのかも。
さらっと言ってますが、名前のことは球磨子は昔から気になっていたのかもしれません。
球磨川と関係あるんですかね。
…関係ない話になりました。

さらに球磨子は佐原に「嫌いだなぁ、あたし、あんたの顔」と言う。
しかし佐原は冷静に「死刑になりたければどうぞ」と言う。
「私が嫌いなら断れば。私だってあなたの弁護、断れるんだから」。

でも重大な犯罪には弁護士がつかなければ審議はできない。
六法全書読んでるなら、そこ、読めと言って佐原は出て行く。
かくして、カーン。
ゴング鳴った。

検事は小林稔侍さんです。
裁判で罪状を読み上げる検事に「あんたの言ってることは全部、でたらめ」って球磨子は言っちゃう。
証人に森田健作さん。
アイボリーの車が転落するところを目撃したと言うと、最初は白い車と証言していたと佐原は突いてくる。

「本当はアイボリーだった、誰かがあなたに教えたのですね?」と、誰かの入れ知恵があったことを示唆する。
しかし球磨子が「こいつ、いい加減」なんて言うもんだから、証人はカッとなる。
「あんたが運転していた」と言われてしまう。

球磨子は「あんなのあたしに責められて逆上しただけじゃない、見りゃわかるわよ」。
そう球磨子は言うが、佐原は裁判記録には残ってしまうと言う。
このように球磨子には裁判で、弁護人が手を焼いてしまうのだ。

印象に残るのは、球磨子が勤めていたクラブのママが証人として呼ばれたシーン。
ママは、山田五十鈴さんが演じます。
法廷で年齢を聞かれて、ゴホンと咳払いして答えない。
楽しそうな顔の球磨子。

「書いてある通りですね」と言われると、ママはフフッと笑う。
「何言ってんのよ、散々あたしで金引き出したくせに」と言う球磨子にピシリと「おだまり!」
あの球磨子を黙らせる迫力。

ママが懇意にしていたお客は、福太郎氏との交渉に難航していた。
そこで球磨子を使って福太郎氏との取引を優位に運び、謝礼を受けたのではないか。
佐原がそういう方向に話を持っていこうとすると、「ちょっとぉ、ここ税務署?」
「あんた、バカじゃないの!」

女が男をだますのなんて当たり前じゃないの、って、男も承知で遊びに来てるんだから!
あたしゃこの商売30年やってるんだ、男と女のことなら、あんたなんかよりよっぽど知ってる。
そんなこっちゃ、亭主に逃げられるよ!
家に帰って聞いてごらん!

ママはそう怒鳴る。
ええ、佐原は離婚してます。
これには、さすがに佐原もムッとする。

しかしママは、「あの福太郎さんって人は、そういうところが通じない人ではあったわねえ…」と、しみじみ言ってくれる。
こちらの聞きたいことはポイント押さえて言ってくれている。
その感じが、さすがの貫禄。


2017.04.05 / Top↑