あるいは幻 「伊藤潤二の猫日記 よん&むー」

伊藤潤二の猫日記 よん&むー。
ホラーマンガ家・伊藤潤二さんの飼い猫との日々を描いた愛猫マンガ。
タッチがホラーなので、落差に笑わずにいられない。

第3話では、猫じゃらしを使って遊ぶ光景が、まるで何かを攻撃しているかのように描かれてます。
ホラーマンガの本領発揮は第5話「よんはやっぱり変な顔」。
締め切り間際の徹夜で、頭がもうろうとしたJ。
顔を洗おうとして廊下に出て、「はっ!」とする。

廊下には椅子の足より大きな、なめくじがいたのであった!
ヌメー。
そのヌメヌメ、ヌラヌラした質感。
長く尾を引く影と、触覚。

「ひょ~っ!」と悲鳴上げたJ。
しかし、それはよく見ると、長く伸びた「よん」の寝姿であった。
『な…、なんだ、「よん」か…。でっかいナメクジに見えた…』。
『俺も相当、疲れてるな…』。

ピクリと耳がJの方を向き、フワーっと大きくあくびをした「よん」。
(すごい、こういう顔になる、猫のあくびは)。
むにゃむにゃと手をなめだし、ペロペロペロと大股を開いて肢をなめる。
(ちゃんとお尻の穴まで描写…まっ)。

「いい気な奴。人が徹夜してるってのに」と言ってJは廊下を歩いていく。
すると、スタスタスタスタと、よんが歩いて来る。
その目がギラリと輝く。
「!?」

次の瞬間、Jの横をシュルシュルシュルシュルと通って行ったのは!
背中に「ドクロ」の模様をつけた、異形の蛇。
ツチノコであった!

「出た!ツチノコだ!」
「A子、ツチノコだ!」
「早く捕まえろ!」

「何言ってるの、あれは『よん』だよ」。
眠い目をこすりながら廊下を見たA子は言った。
「な…、なんだと。はっ。またしても幻覚」。
「にゃあああ」と、よんが鳴いた。

顔を洗うJを横で見ているのは、むー。
ブクニャンという声に、「よかった。むーは、やっぱり『むー』だ」。
「お前はおっとりしてて可愛いね」と、抱き上げる。

ゴロゴロ言っていた「むー」だが、突然、カッと目を見開くと、ガブッ。
Jの指に思い切り、噛みついた。
「まあ、『むー』は猫らしい可愛さがあるから許す…。本気で噛むが」。

「問題はやはり、『よん』だ。あれは本当に猫なのか?」
そっとテレビのある部屋をのぞく。
すると、背中に3つの丸い模様があるおっさんが、座っている。
「だ…、誰だ!?あのおっさん」。

「あっ…」。
次の瞬間、おっさんは「よん」になった。
Jは、疲れているのだ。

必要なのは、癒しだ。
すると、背後で声がする。
「ニャー」。
「よん…」。

突然、よんがJの膝に飛び乗った。
クルン、と腹を見せる。
「な…、なんだ。どういう風の吹き回しだ…」。
Jの額に、汗がにじんでくる。

ブルン、ブルン、ブルン。
よんの顔と、ブルン、ブルン、ブルン、という音。
Jのよんを凝視する目にも、それは響いて来る。
(ほとんど、ホラー)。

『奇妙な時間が流れた』。
『そう…、それは例えるなら、「そういうムード」だった』。
ブルン、ブルン、ブルン。

音を立てている「よん」に、Jは小指を差し出す。
「よん」が口を開ける。
(うわあ、本当に猫の口元ってこんな感じ)。

舌がのぞく。
Jの指が接近する。
チュボッ。
音を立て、よんがJの小指を口にした。

チュッチュッ、チュッチュッ。
よんがJの指をかかえ、赤ん坊のように吸っている。
『それは初めてのチュッチュだった…。今までA子にしかしなかったチュッチュ…』。
『よんのザラつく舌が私の疲れた小指を熱く包み込み…』。

『まるで鼓動のように静かに…、そして熱く!』
『しかし…、それはあるいは幻なのかもしれなかった…』。
(…、なんだこれ…笑)。

よんちゃんの鼻。
その周りのヒゲと、ヒゲが生えている皮膚というか、毛の部分の描写、見事です。
舌といい、毛といい、リアルです。

体温があります。
息までかかって来そうなリアルさ。
猫に指をなめられた時の感触が、蘇ってきます。

うれしいはず。
待ちに待った瞬間のはずのJは、目を閉じ、あきらめたような表情。
まるで、女性に逃げられたような、傷心のようなシーンなのが、おかしい…。

いやいや、伊藤潤二さんの発想ってすごい。
描写もすごいですが、発想もぶっ飛んでます。
よんは確かに白い猫だけど、ナメクジに見える?

ツチノコになる?
おじさんに見えることが、あるのだろうか。
確かに、おじさんっぽい時もありますけど…。

そういえば、映像化された作品もありますね。
中でも、よくこんな発想するな、と思うような作品が映像化されているそうです。
どんな作品になっているのか、その映像が気になりだしました。

私がマンガを読み始めた頃、ホラーマンガと言ったら楳図かずおさんでした。
当時はホラーとは言わずに、「恐怖コミックス」「怪奇コミックス」と書いてあった気がします。
近所の友達がマンガたくさん持ってたんですが、楳図かずおさんのマンガもいっぱい持ってた。

良く借りたものですが、机の上に置いてるのも怖かった。
顔の半分に、グロテスクなもう一つの顔ができていたり。
夜ごとに庭にあるお墓から、ゾンビのようになった娘がやってきたり。

借りておいて、家にあって怖くないの?とか失礼なこと聞いてました。
何で怖いの?って言われましたが。
大人になって、本人を見た時は別の驚きがありました。
その後、メルヘンチックな家を作ってそれにも驚きました。

「まことちゃん」というギャグマンガがヒットした頃には、「怖いマンガも描いているのですね」なんて言われたそうです。
私たちが楳図さんのマンガに怖がりながらも魅了されたように、伊藤潤二さんも人を惹きつけているのでしょう。
その非凡な画力、表現力はこの愛猫マンガにも十分、生かされているのです…。
また描いてほしいものです。


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不穏な猫マンガ 「伊藤潤二の猫日記 よん&むー」

ちょっと前ですが、Eテレで、伊藤潤二というマンガ家の特集をやっていました。
ホラーを描いていて、ひとつの絵が完成されるまでを追っていましたが、その緻密さ。
こだわりと出来栄えのすばらしさに、思わず見入ってしまいました。
虫が嫌いな私には、自分で描いていて、おぞましくならないのかなあと言うぐらいの緻密さでした。

その伊藤さんが描いた、猫マンガ。
「伊藤潤二の猫日記 よん&むー」。
表紙があの緻密なタッチの猫。
しかし、ホラー風味!

猫の顔が怖い。
特に怖いのが、向かって左側の猫。
よんちゃんと言うそうです。

猫だけじゃない。
主人公のJくん、伊藤潤二先生の顔も怖い。
婚約者、のちの奥さんになるA子さんも、常に白目をむいている。

でも表紙をめくった後のカラーページの、2匹の猫はかわいい。
伊藤先生の愛情が感じられます。
日記は、JくんとA子さんが新築の家にやってくる。
そしてA子さんが実家から「よん」という猫を連れて来ると言ったところから、始まります。

第1話「むー登場」。
Jは新居を購入した。
貼りたての白い壁紙。

ピカピカの床。
かぐわしい新築の香り。
そしてこの新居には、Jの婚約者A子がいる。

しかしまもなく、宅配便が届く。
キャットタワーだった。
「キャッ…、キャットタワー?なんでそんなもの、買ったんだ?」
「何言ってんの?千葉の実家から『よん』を連れて来るって話したじゃん」。

Jは、「よん」という猫を思い出します。
A子の実家に行った時、そういえばそこにいた。
『よん…。そうだ、あれは数か月前、A子の実家へ初めて行った時のこと』。

『そこに、「よん」はいた」。
Jを見る、よん。
その目の周りは黒く縁どられ、陰影が禍々しい。

『それは誰が言ったか…』。
「呪い顔の猫…』。
(いや、あなたが言ったんでしょ)。

『あの呪い顔の猫が…』。
『この家に来るだと?!』
『認めん、認めん…』
「認めんぞ~!」

叫んだJは、次のコマでは、キコキコキコとドライバーを回し、キャットタワーを作っているのであった。
さらにA子は、よんが一人だけじゃ寂しいと思うと言って、もう1匹飼うと言う。
新居の壁を、テカテカした爪とぎ防止シートで覆って行ったJは思う。

『な、何…。もう1匹猫を飼うだと…?!』
『1匹ならまだしも、2匹も飼うというのか…』。
『認めん…、認めん…』。
「認めんぞ~!」

叫んだJは、次のページではA子を乗せて、初めて行く場所へのドライブに神経を使っていたのでした。
そして家に来た「むー」ちゃん。
ホラーマンガ家の母親とA子が、「かわいい」「かわいい」とあやす。
ゴロゴロゴロと喉を鳴らす「むー」。

Jの目が大きく見開かれ、目が充血し、血管が浮き上がっていく。
その血管が、中心に向かって行く。
中心には、猫のマークが!

「か…、貸せっ!」
叫び、突然、猫を2人から奪うJ。
パックリと口を開き、むき出しになった歯が糸を引いている。
狂気に満ちて目で猫を見ると、「お…、お前」。

「食べちゃうぞ~っ!」
そして「チューッ!」と叫び、猫の顔を口で吸い始める。
部屋の真ん中で猫を抱えて、回転しながら「食べちゃうぞ~っ!」と叫ぶJ。
誰も止められない。

そしてついに「やってくる…」。
「もうすぐ、やって来る」。
「あいつが我が家に…」。

「数時間後には我が家へやって来る…」。
「あの呪い顔の猫『よん』が…」。
ということで、第2話は「よん襲来」。

A子が帰宅。
部屋で、キャリーケースを開ける。
Jくんは廊下からこっそり、それを見ている。

暗い部屋。
ギイイイイと音がする。
キャリーケースの闇の中、目が光っている。

「ヌー」。
首が伸び、出てきたのは、ホラー顔の猫「よん」。
(これ、猫飼ってる人にはわかるんじゃないですか。猫が首を伸ばしたところ)。

その背中の模様を見て、Jは「あっ!!」と叫ぶ。
「よんの背中に…、ドクロの模様がっ」。
「の…、呪われている…」。
「やはり呪いの猫だ」。

「呪いの猫がやって来た」。
「我が家に呪がやって来た!」
(いや、ただの模様)。

頭を抱え、ムンクの悲鳴のポーズで走り出すJ。
その背後には、大きなよんの呪いの顔。
しかしその夜、A子が泣きながらやってくる。

「よんが…、よんが…」。
J「よ…、よんがどうしたのだ?」
「呪っているのか?」
(そんなわけないと思います!)

「よんが全然、ご飯を食べなくて元気がなくなっちゃったから、今夜は私の部屋で看病するね」。
(ああっ、かわいそう)。
A子が部屋に行くと、キャットタワーの箱の中、よんちゃんが寝ている。
元気がない。

「よんちゃん…」。
「よんちゃん…」。
A子が泣いている。
(ああ…、わかる)。

伊藤先生の絵は、元気のない「よん」を的確に描写してます。
よんが、好きなんですね。
突然、見知らぬ家に連れて来られて、よんは極度のストレスを感じ、まいってしまった。
でもA子の看病で、よんは元気を取り戻します。

3日ほどすると、「よん」は「むー」とも仲良しになります。
後姿のA子にJが「何をしているのだい?」と、声をかけます。
すると白目のA子が振り向き、「チュッチュだよ」。
「おっぱいの代わりだよ、これでもまだ1歳だからね」。

見ると、よんが、A子の指をチュポ、チュポと吸っています。
『その頃、私は気づいていた…』。
『よんは呪い顔なのではなく…』。
『単に変な顔の猫なのだと…』。

『変な顔だが、それはそれで可愛いのだと…』。
(でも写真の猫「よん」は、かわいい。「変な顔」というのは、伊藤先生の愛情表現でしょう)。
はあ、はあ、はあ。

Jの目が血走って来る。
息遣いが荒くなる。
「か…、貸せっ!」

Jは叫ぶと、A子からよんを奪い取る。
血走った目。
陰影が付いた顔で、Jは叫ぶ。
「チュッチュしろ!」

「さあ、俺にもチュッチュしろ!」
そう言って、指をよんに差し出す。
だが…。

よんは、ズルッと腕から逃げる。
白目をむいたA子が笑う。
「フフフ…」。
「チュッチュは私にしか、しないんだよ…」。

「グググググ」。
歯ぎしりし、目を剥きだしたJくん。
よんを扉の向こうから、未練たっぷりに見る。
『変な家に連れてこられたにゃー」と、よんは思う…。


ホラータッチの絵。
描写!
展開は、ホラー。

だが中身は、猫日記!
それも愛情たっぷりの猫日記。
爆笑です。
私はうっかり、電車の中でこれを見て、危ない人になってしまいました。

最初の「Jくん」「なんだい、A子」からして、ホラー。
「Jくんは犬派?猫派?」に、「フフフ、そうだな、どちらかと言えば、ハムスター派かな」。
(どっちも言ってないじゃないですか)。

「私は犬も好きだけど、やっぱり猫派だな」。
「ランラン」と歌いながら、でも顔はホラーのA子。
「…」と沈黙しながら、Jは思う。

「…俺は本当は犬派さ。なぜなら犬は人間の友…。犬はけなげで涙を誘うからな…」。
それを言うのに、なぜ、黒目が上に張り付くほど上目遣いになって、充血しているのか。
セリフがなければ、これが愛猫マンガだとは誰も思わない…。
す、すばらしい…。

こんな、私ごときの文章、表現力では伝えきれない。
猫好きも、そうでない方にもおススメ。
ぜひ、ご一読を!


よん&むー

「声が大きいよ!」  翔べ!必殺うらごろし 第4話

第4話、「生きてる娘が死んだ自分を見た!」
なぜか急にすごく見たくなって「うらごろし」。
もうすぐ夏だから?!


夜中に目を覚ました若と正十は先生がいないのに気がつき、探し始める。
先生は木の葉の水をすくい、上ってくる太陽を見ている。
油問屋・百舌屋の娘、うめは病にかかっており、今日も女中のたつが付き添って医者に行っていた。

だいぶ良くなっているとのたつの報告に、後妻であるくには喜ぶが、うめはそれを浮かない表情で聞いていた。
くにはうめに転地治療を勧めるが、うめは首を縦に振らない。
早く良くなって、百舌屋の身代を継いでくれないと困るとくには言う。
たつが自分の故郷に行くことを勧め、榛名山の麓にむかったうめだが、途中発作を起こしてしまう。

通りがかった先生たちが気づき、正十は胸を患っているのに気づき飛びのいてしまう。
だが、若は伝染るのを気にする正十が止めるのも無視し、うめを背負ってたつの家まで連れて行く。
先生は、おばさんがどうしたの?と指摘するほど、うめを凝視していた。

若はたつの家に到着し、泊まっていってくれと言うたつに仲間が待っているからと去っていく。
うめは言われた通りの薬を服用して寝ていたが、世中、水音と壁を流れる血を見る。
恐ろしさにうめが起き上がると、真っ赤に染まった障子の影からもう1人の自分がフラフラと現れる。

「あなたは何の為に現れるの?私に死を告げに?それなら知っています」。
もう1人のうめは、悲しそうな顔をしてじっとこちらを見ている。
「どうせ、間もなく私は死んでしまうのです。それを告げたいなら、もう来ないで。お願い、そんな怖ろしい姿を見せないで」。

先生は宿場町に足を止めると、旗を地面に突き刺し、災いが起こると言う。
正十は金になると喜ぶが、おばさんはたしなめる。
気になったおばさんは、先生の売り込みに町に声をかけて回る。

百舌屋の前に来たおばさんに、使用人がお嬢さんの病…と言いかけたが、くには療養に出しているのだからと取り合わない。
先生は百舌屋にやはり、何かあると言う。
病とは違う、災いが。

先生とおばさんと正十がいるところに、おねむがやってくる。
正十はおねむの札を百舌屋に売りつけることを考える。
そして、正平と名乗って油職人として、百舌屋に入り込む。

札を売り込みに来た正十だが、くにと一緒にいた医師の宗丹は、目の前で迷信だと札を破り捨てた。
売れたかと聞きに来たおねむを水茶屋に連れ込んだ正十は、そこで、くにと宗丹が逢引をしているのを目撃する。
不審に思った正十は、宗丹がくにに渡した薬を表から木の枝を使って、くすねてくる。
その夜、うめは父親が庭で苦しそうに倒れたことを思い出す。

正十は先生の下へ走り、くすねてきた薬を見せる。
しかし、先生は夜の中、走っていく。
うめがフラフラとさまよっていた。

その頃、百舌屋ではうめが金を数えながら、番頭の紋兵エに、主人が自分につらく当たったことを思い出して話していた。
来月には紋兵エにも暖簾わけをしてやると、くには言った。
そこにうめが行方不明になったと言って、たつが駆け込んでくる。
うめは、おとっつぁんと言っていたと聞き、くにの顔色が変わる。

うめは父親の墓にいた。
おとっつぁんと泣きながら、うめは父の墓を掘り返し始める。
先生がそれを見ていた。

くには、うめは自分が毒を飲まされていることを知っていたとうろたえていた。
しかも、父親が毒殺されたことも知っていたのではないか。
1年かけて病人にしたのに、今、おうめに訴え出られたら何もかも水の泡だとくには叫ぶ。

父の骨にすがって泣くうめを見た先生は、うめの手を取り、霊視を始める。
もうじき太陽が昇る。
うめの心は開かれるだろう。
あなたは何を見た?と先生は放心状態のうめに問う。

雪の中、うめが苦しみもだえ、叫んでいた。
「私に死を告げに?そどうせ、間もなく私は死んでしまうのです」。
気絶して横たわるうめ。
先生は駆けつけたおばさんと若に、影の病だ、と言った。

これにかかった者はまもなく、死ぬ。
うめも父親と同じく、微量の毒を盛られ続け、死ぬのだ。
この子は毒と知って飲んでいる。

だが、うめはほっといてくれと言う。
死のうが生きようが勝手でしょう、と言ううめの言葉を聞いたおばさんは言う。
「勝手!そんな言い方がありますか」。
「死に掛けている人は助けたい。近しい人が死ねば悲しい!それが人間同士じゃないの?」

だが、うめは、「私の為に、誰も悲しまない」と言った。
「私が死ねば、喜ぶ人ばかり。だから私、早く死にたいんです」。
それを聞いた先生は、うめに言う。
「それは嘘だ。あんたは本当は死を恐れているんだ。その怖れが影の病だ。本当は生きたいんだ」。

うめは紙に包んだお金を渡し、これで私が死んだ後の後生でも祈ってくださいと言った。
それを聞いた若は怒った。
「さっきから聞いてりゃ、死ぬ、死ぬって!俺の弟はな、6つの時、労咳で死んだ!死にたくないって泣いても、助ける術もなかったんだ。そのつらさ、悲しさがてめえにわかるか!」

先生が必死に、激昂する若を羽交い絞めにして止める。
「それをてめえは助かるんじゃねえか!先生も助けたいって言ってるじゃねえか!それを何だ。思い上がるな!命の大切さを身にしみろ!」
若、お前が殴ったら相手が壊れちまうと先生は言うが、若は頭に来たと言う。

うめは、だって早く死にたい、おとっつぁんやおっかさんに会いたいと叫んで泣く。
「かわいそうに1人で耐えて来たんだね。つらかったろうよ。でも死んじゃいけない。あの世のご両親だって、こんな若いあんたが行ったら悲しむよ」。
おばさんはそう言って、うめを抱きしめる。
若はそれを見つめている。

「でも、私本当に治るんですか?」
先生は「毒は抜ける。影の病もあんたに生き残ろうとする気力がある限り治せる。金貰った以上は責任持って治す」と言った。
だけど、うめは怖い。

仮にも親だから、くにを訴えるのも怖い。
若は、うめに家出を勧める。
何もかも捨ててしまえ。

先生はうめが渡されている薬をなめてみたが、たちまち悶絶してしまう。
いつも草や木ばかり口にしているので、利いてしまうのだろうとおばさんは言う。
だが、うめが姿を消した。
うめは、百舌屋に戻ってしまったのだ。

くには、うめが戻ったと聞いて笑いを浮かべた。
早いところ、かたをつけてしまった方が良さそうだ。
宗丹は、薬を大量に飲ませるんだなと言った。

うめにくには優しそうに微笑み、良く帰ってきてくれたと言った。
女中のたつを下がらせ、宗丹がうめを診る。
うめの額に手を当てた宗丹は、熱があるので、今日は薬を多めに飲んだ方がいいと言うが、うめは拒絶する。
この薬でおとっつぁんも…、と言う、うめを押さえつけ、宗丹は薬を飲ませようとする。

宗丹を跳ね飛ばしたうめだが、諦めたように立ち上がり、「薬をください」と言った。
「さあ」と宗丹が薬を渡す。
うめは一気に飲み干した。

薬を飲んだうめの手が、湯飲みを落とす。
うめが動かなくなる。
宗丹と、くにが部屋を出て行く。

百舌屋に正十が探りを入れに来る。
もがいたうめが戸を倒して、縁側に倒れこむ。
助け起こそうとした正十だが、見つかりそうになり、部屋の奥に隠れる。

かけてきたくにと宗丹を見て、縁側のうめは笑った。
ふらふらしながら、くにと宗丹の元へ歩いてくる。
怯えた2人だが、うめは目の前で倒れた。

紋兵エと使用人の岩吉が、うめを墓に連れてきた。
うめは生きたい、殺さないでと叫ぶ。
紋兵エは五体バラバラにして、方々の墓に埋めろ、そうすればばれないと命令していた。

正十がうめが殺されたことを知らせに来た。
どこにいると聞かれて、墓場だと叫ぶ。
先生たちが急ぐ。
墓場の土の上、枯葉の上には鮮血が点々と続いていた。

正十が埋まっていたうめを見つける。
何で、何でうちになんて戻ったんだよ…、と若が嘆く。
「ひどい、ひどすぎる」とおばさんが崩れ落ちる。

「これだったんだ。あの子の、影の病はこれだったんだ。あの子は殺される自分を見ていた」。
「死ぬ覚悟だったあの子の心は、この殺される瞬間の悲しみや恨みを先に映し出していたんだな…」。
先生がつぶやく。

傍らには真っ赤な椿が咲いている。
正十も、悲しそうに見ている。
おばさん、若が何かを決意する。

百舌屋では仕事が終わり、紋兵エが火の後始末を確認していた。
誰もいなくなった部屋に、道具の立てる音が響く。
「誰だ!誰かいるのかい!」
道具が音を立てている。

見に来た紋兵エに向けて、おばさんが突然むしろを放り投げて立ち上がる。
うろたえた紋兵エの背後から、おばさんが匕首を突き立てる。
悲鳴をあげた紋兵エ。
「声が大きいよ!」

おばさんは紋兵エを刺したまま、言う。
「静かに地獄へ行きな」。
匕首を抜くと、紋兵エが崩れ落ちる。
おばさんが見下ろして笑みを浮かべる。

先生は若に、墓で若と正十に奴らが戻ってくると言った。
影の病に怯えたあの子に怯え、殺人者はまたここに戻ってくる、と。
先生には見えたのだ。
その言葉を合図に、先生と若、正十が散る。

あの子が死んだのをはっきり見ないと安心できない、と、くにが言いながら宗丹を連れてくる。
生霊とか死霊とか、そんなものがあってたまるか!と吐き捨てる宗丹。
死んで土の下だ、と言う宗丹と怯えるくにだが、その時、先生の声が響く。

「影だ!お前たちの罪の影だ!」
「お前たちの罪を赦そうとしたあの子を!せっかく生きようとしたあの子を!」
宗丹が誰だと叫ぶ。
旗が揚がり、飛んできて2人の前に刺さった。

悲鳴をあげて、くにが逃げる。
宗丹を振り上げ、人形のように振り回して先生は投げた。
地面に激突した宗丹は、口から血を流して絶命した。
腰を抜かしたくにに、先生は旗を突き刺した。

岩吉は若に捕まっていた。
若は岩吉を殴り飛ばし、倒れた岩吉に向けて大きな石を振り下ろした。
怯えながら、岩吉は絶命した。

翌日、正十は先生の後を歩きながら、わからないなあと言っていた。
影の病があるとして、どうしてもそれは避けられなかったのか、と。
「避けてやれなかった」と、先生は言う。

あの子の言うとおり、後生しか弔ってやれなかった。
自分は未熟だと言う先生に、正十は大声で先生は未熟だ!と言い、先生はうるさい!と答える。
「でも仇をとってやったじゃない」と、おねむが言う。

「それはそうだ、」と正十が言う。
落ち込んでいる風の若に、おばさんが「行こう、若」と声をかける。
若は立ち上がり、歩き出す。



これは、ドッペルゲンガー現象を扱った回なんですね。
ドッペルゲンガー。
ナレーションは、「ゲーテ、モーパッサン、芥川龍之介、泉鏡花が体験者だという」と言ってます。

はい、いつかも書きましたが、有名な話らしいですね。
「江戸時代の随筆には、影の病として書かれている。未来がなぜ、見えるのか」。
「この怖ろしい疑問にいまだ科学は答えを出していない」と続きます。

解説にもあるように、冒頭、うめが鳩を蹴散らしているのが、彼女の鬱屈とした内面を表していると思います。
うめという少女が、もう1人の自分の怖ろしい姿を目撃する。
壁という壁から血が流れてきて、もう1人の自分の背景も真っ赤。
これ、未来の自分だったという…、怖い。

それで、若の過去が少し出てきます。
弟が労咳で死んでいること、生きたがったのに為すすべもなかったこと。
だから若は正十が伝染ると避けたのに、放置しておけなかったこと。

おばさんの言葉も、今の方がずっと心に響く。
「死に掛けている人は助けたい。近しい人が死ねば悲しい!それが人間同士じゃないの?」
殺し屋の口から出る言葉としては変なのかもしれませんが、外道ではない殺し屋だから言える言葉でもあります。
人間じゃなくても、そうですよね。

だが、うめは、「私の為に、誰も悲しまない」と言う。
「私が死ねば、喜ぶ人ばかり。だから私、早く死にたいんです」。
遺品整理業をやっている人が、「そんな風に考えている人っていますけど、本人が思っている以上に泣く人はいるんですよ」って言ってました。
赤の他人、近所の住人でも、話も聞いてやれなかったと悔やむ人はいる、と。

うめは「早く死にたい、おとっつぁんやおっかさんに会いたい」と言う。
でも先生の、「それは嘘だ。あんたは本当は死を恐れているんだ」っていうのも事実だと思うんです。
うめはただ、現実がつらいんですね。
優しい両親がいた時に戻りたい。

本人は本人で、すごくつらくて、もう目の前の死しか考えられないのかもしれません。
ですが、愛する者を見送るしかなかった若の怒りもわかります。
解説にありますが、毒と知って飲んでいるうめの、これは自殺なんですね。

察したおばさんが、「かわいそうに1人で耐えて来たんだね。つらかったろうよ。でも死んじゃいけない。あの世のご両親だって、こんな若いあんたが行ったら悲しむよ」とあの声で言うから泣ける。
それがあの結末ですから。

うらごろしは死者の声を聞いて仇を討つというのが基本ですけど、あんまりひどい。
何もあんな殺し方しなくたってー!
だからか、先生の殺しがすごい。

もう、人形ですよ。
ぶんぶん振り回して投げて、ここ、笑うところでしたか?ってぐらい。
まあ、笑いも必要でしょうか。
くにだって女性だけど容赦しない。

おばさんの殺しは凄みを増してきました。
まるで子供を叱るように、「声が大きいよ!」
言い聞かせるように、「静かに地獄へ行きな」。
若は石を振り下ろすというリアルさ。

笑いといえば、正十のパートは笑えます。
何ですか、潜入する時の偽名「正平」って。
もう、正十と正八と正平が混ざってしまった。
ついにおねむ相手に思いを遂げた正十の、おねむのリアクションにショックを受ける様もおかしい…。

自然のものばかり食している先生が、毒を口にして動けなくなるのも、何か納得でおかしい。
体に悪いものには、敏感なんですね~。
それに対して、おばさんも若も正十もあんまり心配してないのも、納得でおかしい。

ラスト、悔いる先生。
茶化す正十。
ぼけーっとしているようで、的確なことを言ってくれるおねむ。

本当は誰よりも生きてほしかったうめを思って座り込む若。
若に声をかけて、前進をうながすおばさん。
言われていることですが、孤独で心の傷を持った人が集まって、まるで家族みたいな、うらごろし一行です。


本田さん目線で「長七郎江戸日記」

今、時代劇専門チャンネルで「長七郎江戸日記」も見ています。
「必殺」のDVDを貸した友達が「長七郎江戸日記」を見て「映像が違う…」と言いました。
「画面がのっぺりしているなって思ったんだけど、そうじゃない。必殺の映像がすごかったんだね!」

それはもう、表と裏の顔を持つ者たちを描いている物語の特性からして、光と影のコントラストが鋭い映像を作ったんだとは思いますが。
必殺の映像って、やっぱり凝ってるんだと思いました。
長七郎は長七郎で、好きですけどね。
時代劇の良さが入ってるシリーズですし。

そこで、若い時の本田博太郎さんを見つけました。
第115話「殺しの配達人」。
「仕舞人」の直次郎の後だと思うんですけどね。

御広敷役人・小谷宇兵衛を、本田さんが演じます。
彼は身分の低い無役の御家人の家から、旗本の家に婿に来た。
そのため、奥方は宇兵衛を蔑み、体に触れるのも拒否する。
しかし自分は役者と出会い茶屋で、遊んでいる。

宇兵衛は家に帰る前に芸者のところに寄り、飲んで帰るのが、わずかな癒しの時間。
ある日、宇兵衛はふと、「奥方は長生きしそうだ。誰か殺してくれたら良いのに」と愚痴った。
すると、「引き受け候」という文が投げ込まれる。
その通りに、出会い茶屋で奥方が殺された。

本気で殺したいと思ったわけではないと言う宇兵衛だが、罠は張り巡らされていた。
大奥に「この包みを届けば何とかしてやる」と奥方殺害の実行犯の男に言われ、届けた包みは爆発。
中臈と、その腰元が死んでしまう。
それを知った宇兵衛は、その場で切腹して果てた。

中臈とともに亡くなった腰元は、長七郎が居候している弁当屋の牛さんの姪っ子だった。
牛さんのそばで暮らして、牛さんの面倒を見てあげる、と言っていた矢先だった。
急な雨で雨宿りしていた長七郎は、同じく雨宿りした宇兵衛と面識があった。

武家の奥方が、出会い茶屋で殺された事件。
そしてその夫である宇兵衛が届けた包みによる、大奥の爆発事件。
長七郎は、疑問に思った。

それは将軍に再び寵愛を受けるために、ライバルが邪魔な局と、その兄の勘定奉行の策略だったことがわかる、。
勘定奉行は、妹の大奥での寵愛を武器に出世を企んでいた。
そのためには将軍の寵愛を受ける中臈が、邪魔だった。

この2人による罠に宇兵衛は、はまったのだった。
怒る長七郎は、彼らを成敗する。
…というお話。

本田さんは、後には「剣客商売」の「その日の三冬」の勘助といった複雑な役を演じます。
同じ被害者でも勘助は、「一体、彼はどうしたら良かったんだろう?」
「なぜ、こんなことになってしまうのだろう?」
見た人が深く、考えてしまうような役でした。

ここではまだ、妙な言い方ですが典型的な被害者。
クライマックスへの盛り立て役です。
それでも好青年ぶりは、とても好感が持てます。

こんな人を切腹に追い込むなんて、ひどいなあ…と思わせます。
もうちょっと待てば、助かったんじゃないか。
そんな風に思うところがまた、かわいそう。

この話、意外にもたくさん被害者が出ます。
宇兵衛の奥方、宇兵衛のアリバイを証言する下女、お中臈、牛さんの姪っ子の腰元、宇兵衛。
上様の御寵愛を受け、世継ぎを…という大きな野望が絡むからとはいえ、結構な数。
この手の時代劇であんまり被害者が出ると「被害が広がる前に助けてやってー!」って言いたくなります。

牛さんこと高品格さんは、姪っ子が殺されて、ガックリ。
そこに火野正平たちが俺たちを実の子供だと思って良いよ、なんて言って慰めに来る。
すると牛さんは「こんな出来の悪い子供なんて!」と怒る。
皆は、いつもの牛さんになったと笑って、終わり。

でも、一番ひどい目に遭いっぱなしだったのは宇兵衛。
その宇兵衛こと、本田さんのことは誰も悼んであげてない。
私にはそこが一番、かわいそうで泣けたのでした。
本田さん目線の視聴でした。


大杉漣さんと「ぷっすま」

6月9日の「ぷっすま」。
大杉漣さんがゲストでした~!
ビックリ。

漣さんの「合宿所」を、彅スケが訪問。
九十九里行って、普段できない話もしたいという漣さん。
テレビのことなど、忘れてしまっているみたい。

合宿所、「バイプレイヤーズ」の舞台かなと思いました。
ユースケさんもそう言ってました。
違ってましたけど、あのドラマの元になっているのかな?
自家製蜂蜜を作っているお隣さんにも、ご挨拶。

漣さんは、休みの日、ここで過ごすのが楽しみだそうです。
耳を澄ませば、波の音。
小鳥の声。

ネットを張って、サッカーするための庭。
キッチン。
雑魚寝できるロフト。
ジェットバスがついたお風呂。

良いなあ。
漣さん、ここ、夢だったんでしょうね。
リビングには、卓球台もあります。

ここで緊急開催。
5ポイント選手の卓球対決。
漣さんと草なぎさん。
ユースケさんと足立さんで、対決。

すんごいはしゃいでる、草なぎさん。
ほんとに、大人の合宿所。
漣さんと草なぎさんチームが、勝ちました。

次は、漣さんが連れて行きたい店にお昼を食べに。
漣さん、この年齢ですごくやっぱり、若々しくてかっこいいなあ。
数年前、見逃しそうなこのお店にふらりと立ち寄ったことから漣さんの行きつけになったそうです。
とんかつ屋さんです。

このとんかつ屋さん、1人1人の席に名前入りのランチョンマットを用意。
さらに1人1人に、微妙に色が違うお花をセットしている。
草なぎさんのお花の色、実は心が不安定な人の色だとユースケさんが言う。
心の中に魔物を飼っている、って。

自分は実は優しい人の色だと、勝手な解釈してます。
魔物を飼っているというか、優れた演技者はそういうところを持っているものでは…、と思ってしまう。
そのぐらい、草なぎさんはダークな表情も見せられますからね。

ああ、とんかつおいしそう。
「孤独のグルメ」と言い、これといい、深夜にお腹がすく…。
この後、サッカーチームも持っているという漣さんがサッカーをしたいと言う。

そっくり日本代表チームと、大杉漣チームで対決。
この日本代表チームには、本物の武田修宏さんもいます。
すんごい楽しそう。

漣さんも草なぎさんも、シュート決めました。
この後も、やりたいことがまだまだいっぱい。
地元でとれた食材で、BBQ。

草なぎさんと大杉さんのギターセッションもあるみたいです。
来週も楽しみ!
草なぎさん、良い人脈築いているなと思うなあ。


悪霊になっていく男 傑作土曜ワイド劇場

実際の事件をドラマにして放送した、土曜ワイド劇場。
この中に泉谷しげるさんや、大地康夫さんの名演が見られる作品があります。
俳優・大地康夫さんのことを、家ではしばらく見かけると、この時の役名で呼んでいました。

実際の事件で、取り押さえられた犯人を見たあるカメラマンは、群衆の憎悪と罵倒を浴び、犯人が悪霊になっていくと言いました。
やったことを考えたらしかたがないけれど、人の憎悪のすごさを知ったそうです。
この男に悪霊が降りて来る。
そして、本物の悪霊になっていくと思った、そう言っています。

ドラマは15歳で銚子から東京に出て来て、寿司屋で見習いとして働く「川村軍平」の姿を描写するところから始まります。
なまりがあり、内気で自分に自信がない川村少年は、出前に行ってもちゃんと声をかけることができない。
黙って置いて行ったと、苦情が来る。

川村が代金を取りに行くと、すでに払ったと言われる。
別人が寿司屋に成りすまして、代金を盗ったのだった。
だが川村少年は、出前に行った家に、自分が来るから自分以外の人間に代金を渡さないでほしいという一言もうまく言えない。

先輩には意味なく、殴られる。
同僚は次々、もっと良い職場を目指して辞めていく。
つまらない毎日を送り、街に出ればカップルが目に付く。

あるカップルに絡んでみたが、男にパンチは交わされ、見事にぶっ飛ばされる。
顔にあざを作って電車に乗っていれば、中学の同級生に声をかけられる。
同級生は早稲田大学に進学し、女の子を連れていた。

たまらなくなった川村は次の駅で降り、何が早稲田だと悪態をつく。
どうにも気持ちが晴れず、寮の近くの映画館を見れば、宮本武蔵が上映されている。
自分だった侍になりたい。
強くなりたい。

「俺は強えんだ!」と叫び、映画館のウインドウを割る。
川村は警察に連行され、寿司屋の大将が迎えに来る。
帰るなり、殴られた。

シャリを炊けと言われるが、女将が留置所にはダニがいるんでしょ、汚いと言って下着まで替えて来いと命令した。
寮に戻った川村は、畳に敷いてあるゴザを切り裂いて出て行った。
今夜から帰る家もない。

飛び込みで職人を募集している寿司屋に行ってみると、海苔巻きを切らされた。
その手つきで大将は、素人同然と言って不採用にしようとした。
しかし、そこにいた板前が雇ってやってくれと言う。
板前は、川村が宿無しであることを見抜いていた。

休みの日に競馬に行った川村は、そこでその先輩の板前に会った。
飲んで帰る途中、肩が当たったと言ってチンピラが先輩を裏道に連れて行った。
3人のチンピラに抵抗することなく、先輩は殴られたが、押さえつけられた拍子にシャツが脱げた。
先輩の体には、見事な刺青があった。

「どうした?来い!」
チンピラたちは、逃げていく。
影で見ることしかできなかった臆病な川村は、先輩に土下座をする。
自分を舎弟にしてくれ!

強くなりたい。
だが先輩は、職人は、つるむものじゃないと言った。
職人が徒党を組んでつるんでいたら、バカにされるだけだ。
お前はそんなバカなことを言わず、精進しろと言う。

そんなある日、先輩が店を止めた。
出前から帰った川村は、先輩を追いかける。
自分も連れて行ってくださいと言う川村に、先輩は職人は腕を頼りに渡っていくものだ。
今の店で、しっかり修行しろ、腕を磨けと言う。

しかし川村の腕は上がらず、人とも自然に接することができない。
客に対する態度も悪い。
気持ち悪がられていた川村は先輩に憧れて、刺青を入れた。
その刺青を袖から客に見せた川村は、ついに首にされた。

故郷に戻り、トラックの運転手ををしていた川村は、またしても昔の同級生に会う。
同級生は自分の家のある土地が、工業地帯を建設するので高く売れたと言っていた。
外車に乗っていた。
川村はろくに口も利かず、トラックに乗って去っていく。

荷物をまとめて、東京に行くと言って止める母親を振り切って出て行く。
東京でついに川村は、恐喝で逮捕された。
一番最初に警察官に捕まった時、川村は小便を漏らす程、怖がった。

最初は執行猶予がついたが、次々、店で暴れて恐喝、傷害、器物破損などで懲役となる。
19歳、20歳、ついに2年3カ月の懲役で出てきた時は23歳になっている。
この辺りから川村に、人が自分の悪口を言っているという妄想が出始める。

刑務所の房内でわめき、暴れる。
看守が飛んでくる。
川村は壁を指差し、こいつが!こいつが!と叫ぶ。
人を睨み、ブツブツと怒る。

泣きたくないのに、電波で泣かされる。
笑いたくもないのに、ニヤニヤさせられる。
想像したくもないことを、想像させられる。

電波にひっつかれている。
なのに、親兄弟にまで一緒になって悪口を言われるとは思わなかったなあ。
そう、川村は思った。
幻覚、幻聴がひどくなる。

何度目かの少年刑務所を出ると、母親と、厳しかった父親が迎えに来ている。
父親も年を取ってきたし、一緒にシジミ漁をやろうと母親が言う。
この時、川村はシジミで稼げるようになる。

すると、女性にもてない川村はクラブに通うようになる。
そこで豪勢におごり、ホステスの真理子と仲良くなった。
そんな川村に、ある男が覚せい剤を売りに来る。
虚勢を張った川村は、覚せい剤を買う。

この時から、川村は覚せい剤をやるようになった。
父親はそれに気づいて、問い詰める。
川村は奇行が目立ち始め、漁をしないと組合で決めた日にも漁に出て行く。
妄想はますますひどくなり、船の手入れをしている夫婦に自分の悪口を言っただろうと言いに行く。

暴力をふるいそうになるところを、父親に止められる。
川村がドライブに行くと、真理子がガソリンスタンドで待っていた。
真理子を助手席に乗せて、海に行った。

そこでできた堤防によって、シジミ漁に影響が出ていることを話す。
シジミ漁が思うようにならなくなった代わりに政府は、1500万を払ってくれるらしい。
川村は半分寄こせとすごむが、母親はその金で土台まで腐ったこの家を建て直すと言う。

父親に睨まれた川村は、逃げていくしかない。
持っていけ!と父親に、包丁を放り投げられた。
地面に刺さった包丁を見て、川村は腰が抜けそうになる。
母親に荷物を持ってきてもらって、再び家を出て行く。

アパートに住んだが、母子が遊んでいる鼻先に乱暴に車を突っ込ませたりする川村は嫌われ者だった。
抗議した母親に向かって、棒切れを振り上げて脅す川村。
するとアパートの他の住民が、やって来る。

どうせ、自分より小さいものにしか、強く出られないくせに。
小さな子供までが、川村を嫌っている。
嘲られてカッとなった川村だが、すぐにその女性の夫がやってくる。

屈強そうなその男に追われた川村は、あわてて部屋に逃げていく。
部屋に逃げ込んだ川村は、覚せい剤を打つ。
強気になって、素振りなどを始める。

近くのスーパーに買い物に出かけると、真理子の同僚のホステスが噂話をしていた。
真理子は川村をたらしこんで、アクセサリーを貢がせた。
そのうち、現金を貢がせるだろうが、真理子に夫がいることを川村は知っているのか。

いくら金のためだからといって、川村なんか相手にするなんて。
若いのにはげているし、第一、気持ちが悪い。
それを聞いた川村は、出勤する真理子が店の迎えのバスに乗る前に立ちはだかった。

話が違うんじゃねえか。
真理子は悪ぶれず、結婚してないなんて言ってないと言った。
それ、3万円もしたんだぞとネックレスを指さすと、真理子はそれを引きちぎって地面に捨てた。

カッとなった川村は、真理子を刺そうとする。
だが気が付いた店の車の運転手がやってきて、投げ飛ばされた。
それでも真理子を追って来ようとする川村は、真理子に噛みつかれて包丁を落とす。
さらに運転手の男に、泥の溝に頭を押さえつけられ、顔を突っ込まれた。

またしても懲役。
出所した川村は寿司屋に勤めるも、腕もあまり良くない上に、独り言を言ったりするため、気持ち悪がられる。
元々患っていたであろう精神的な病気に、覚せい剤が拍車をかけた。

同僚に、包丁を向けたため、首になる。
いくら何でも、仕事の道具を人に向けるなんてと大将が怒る。
実家に戻るが、真っ暗で何もない。

座り込んでいると、母親が探しに来てくれた。
川村が帰ってくるのは、ここしかない。
補償金の1500万が出たので、家を買って引っ越した。
おいでと言われるが、川村は拒否した。

職を転々とした。
勤め先に電話が来て、母親が倒れたと言われる。
母親は亡くなった。
川村はたった一人の味方を失い、泣いた。

飲酒運転をしてつかまり、またしても懲役となった。
妄想はますますひどくなり、勤務時間になっても起きない。
2度は我慢したが、3度目は許さないと寿司屋の大将が言って、首になる。

川村は目を見開いて、新聞広告の寿司屋の募集を探す。
月給は、そんなもんで良いわと言う。
だがすぐに生活態度や、人に対して攻撃的なために首になる。
新聞広告をなめるように見て、寿司屋に応募する。

他の寿司屋でも2日で給料を渡され、来ないで来れと言われるなど長続きせず、ついにどこにも雇ってもらえない状態となる。
器物破損や傷害、恐喝で刑務所と娑婆を行ったり来たりする。
刑務所の作業で稼いだ金で、川村は包丁を買った。

2500円なので、あと500円足りませんと言った店員に向かって、川村は階段の端に100円玉を並べる。
ありがとうございますと言う店員に向かっていきなり、買った包丁を突き出す。
黒幕に言われてるんだな?
女性店員が恐怖にかられる中、川村は出て行く。

黒幕は、通行人にまぎれている。
川村はそう言っていた。
面接に行った寿司のチェーン店でも、様子がおかしい。
女性事務員が話しているのを、自分の悪口を言っているなと口走る。

部長と言う男は、自分だけでは採用の判断ができないと言って川村を返す。
結果を聞きに翌日に来社すると言う川村に、電話をくれたら良いと言う。
木賃宿で川村は、ざまあみろ、明日からは職人だと言っている。

すると「ダメだよ」と笑う声がする。
雇ってもらえないよ。
お前はダメだよ。
もう185円しかないのに、どうするつもり?

その通り、川村の所持金は185円だった。
男と女が笑う。
怒った川村は探してやる!と叫び、あちこちを開け始める。
廊下で叫ぶ。

黒幕がいると口走り、そいつと勝負すると言う。
ケジメをつけてやる。
川村は巻いていたサラシを切って、包丁に巻き付けた。

翌日、川村は昨日のチェーン店に電話をした。
採用だろ?
しかし答えは、ご期待に沿えないと言う断りだった。

「お、おお」と相槌を打ちながら、川村は受話器を落としていた。
もしもし?
もしもし?
ぶら下がった受話器から、声がする。

歩きながら川村は、バッグのファスナーを開ける。
サラシを巻いた包丁を握る。
…。

母親の墓参りをしている父親のもとに、警官が走って来る。
今、大変なことが起きている。
軍平が人を次々と刺し、人質を取って立てこもっている。

父親が走る。
そして…。
川村は捜査員に抑えられた。
パンツ姿で、テレビカメラの前にさらされる。

川村の現場検証は、警察署の中で行われると言う異例のものになった。
縄でつながれた川村は、再現して見せる。
ベビーカーの中に向かって、紙でできた包丁を突き立てる。
何度も何度も。

ベビーカーを引いている、母親役の女性警察官を刺す。
何度も刺す。
手をつないでいた、子供役の女性警察官も刺した。
執拗に刺した。

倒れた子供役の女性警官が、川村をじっと見ている。
川村は薄笑いを浮かべて、あのガキ、と言う。
倒れてこっちを見ていた。
根性あるよ。

次に犠牲者となった女性に扮した女性警察官が、やってくる。
違う!
日傘を差しながら来るんだ!と叫ぶ。
その通りにした女性警察官も、川村は刺した。

次に重傷となった女性に扮した女性警察官も、川村は刺した。
そして、人質になった女性に扮した刑事に包丁を押し付けた。
何度も肩や背中を、包丁でつついてやった。
刑事は、とんでもないことをしたなと言う。

だが川村は言った。
俺は侍だ、武士だ。
武士は、無礼討ちにしても良いんだ。
反省する必要はねえ。

裁判が始まった。
刑法第39法。
心神喪失状態という言葉が、聞こえて来る。

結局、川村は死刑ではなく、無期懲役となった。
ナレーションが語る。
「川俣軍司」のような人間を2度と出さないことが、被害者へのせめてもの貢献だと。


大地康雄さん、熱演、名演。
いやいや、すごい。
この犯人にしか見えない。
かなり気持ち悪い。

この人が横に座って、独り言言っていたらみんな席を立つでしょう。
通報しちゃうかもしれない。
大地さん、街で叫ばれたりしなかったのでしょうか。
刑法第39条、「怪奇大作戦」も頭に浮かびます。

川村は、カップルの男にぶっ飛ばされ、アパートの住人の男に追い回され、ホステスの運転手には顔を泥水に突っ込まれる。
そんな弱い人間が酒を飲み、やがて覚せい剤をやるようになると、その時はとてもしゃっきりと強気になる。
弱い自分を忘れられる。
現実を見なくて済む。

山岸涼子の「負の暗示」にも通じる話です。
教師になれない学力=職人としてやっていけない腕。
女性に忌み嫌われる現実。

そのどれも、彼は直視しなかった。
快楽でごまかし、問題を先延ばしにした。
そしてついに逃げきれなくなって、他人を巻き込んで破滅した。

弱い人。
自分の中にもある、そういう弱い部分が描かれている川村の反省。
しかし、全く感情移入できない。

確かに川村の置かれた境遇は、恵まれたものではない。
最初の寿司屋からして、つまづいたなって感じはする。
もっとこの人に向いている仕事が探せなかったか、そうしていれば事態は違ったと思わないこともない。

誰だってそういう部分はあるし、つらいことはある。
だけど、それだからって同じような人がみんな、反社会的行為に走るかと言ったら走らない。
川村が乗り越えられず、ついに罪なき人を巻き込む様子は悲惨であり、不快。

自分は侍だから、良いんだと言い張る。
武士だって、何もしてない町人を無礼討ちや辻斬りしたら、御家取りつぶしになりますって。
事件のシーンは、ありません。

なくていい。
現場検証で、十分。
ものすごく、嫌な気持ちになります。
ドラマでも「被害者感情に配慮し」「異例の警察での現場検証」となったと言っています。

臆病で、弱虫で、腕っぷしは弱い。
自分より小さいものにしか、強く出られないと言われるが、最後に事件を起こした時もそうだった。
ベビーカーの赤ちゃん、母親、子供。

襲われたのは、お年寄り、女性、子供。
誰でも良かったんじゃない、ちゃんと選んでいる。
弱い人。

その弱さが、不快であり、腹立たしい。
「太陽にほえろ」のボスが、自分が知っている一番怖ろしい事件は気弱な男が起こした…というセリフも思い出します。
この人が間違わずに行けたのは、刺青の先輩がいた時だけでしょう。

小林稔侍さんが演じています。
まるで、任侠映画そのもののかっこ良さ。
昔、何かがあったんだろうけど、今はそれを人への優しさにできる男。

川村は初めて、尊敬できる人に会ったんだと思います。
でもその尊敬が彼の強さだけに行って、人間的な強さ、優しさには行かなかった。
彼の真似をするのが、刺青入れることとは…。

しかも腕だけしか、色が入ってない。
弟がそれを見て、でも父親の入れ墨には色が入っていると言う。
彼の父親にも昔、何かがあったんだなと思います。

ドラマの中に当時のヒット曲、ニュースが挟まれ、時代を感じさせます。
この男が時代に取り残されていくというのも、わかります。
いやいや、「シャイニング」のジャック・ニコルソンを思い出させる大地康雄さんの演技はすごい。
後に、鬼貫刑事や黒豆刑事だったり、「お父さんは心配性」のパパだったりするんですから。

ギャップが激しくて、おもしろいです。
最近、お見掛けしないけど、好きな俳優さんだなあ。
でもおそらく、このドラマ、今は再放送もされないでしょうね…。
大地さんの名演が見られるので、見られるなら、気分が悪くない時に見てほしいと思います。


豪の豪は実は業 「世界の終わりと始まりに」

さて、永井先生は「デビルマン」で人類を滅亡させたことがずっと、心に引っかかっていたそうです。
それで世界が再び復興する話を描かなければいけない、と思った。
こうして描かれたのが、「バイオレンスジャック」。

無秩序な世界で力による戦いが起き、やがて秩序ができていく。
描きながら、これは人類の歴史だな、と思ったそうです。
考えたら「デビルマン」は戦争だな、と思った。
明は何にもそんな気はないのに戦いに巻き込まれ、最前線に立ってしまう。

「バイオレンスジャック」は結局、「デビルマン」世界とつながった。
この「バイオレンスジャック」の最後に永井先生は、「ジャックは何者だろう」と考えた。
「誰なんだろう」。
「ジャックが誰だったら、納得できるだろう」。

そして本当に最後に、「デビルマンだ!」と「気付い」た。
自分でも、興奮したそうです。
「バイオレンスジャック」には、暴力のシーンがたくさん出て来る。

永井先生自身は一番やってはいけないことは、人を力で抑え込むことだと思っているそうです。
正義の基準はわからないけど、自分の中の悪の基準はハッキリしている。
人を絶対的に、支配すること。

これは一番やってはいけないことだと、永井先生は思っている。
また、自分が一番やられたくないことだとも、思っている。
だから「バイオレンスジャック」では、自分が思う悪を徹底して描いた。
スティーブンキングがすごい怖がりで、自分が怖いと思ったことを描いているのと似ています。

編集さんには「何で登場人物をここまで虐げるんですか?」って、言われたそうですけど。
人間と言うのは暴力的な側面や、衝動を持っているが、それを他人に向けてはならない。
そうでなければ相手に痛い思いをさせ、相手も自分も傷つく。
こういうことを子供の時に学べれば、被害者も加害者も減っていくのではと思っているそうです。

でも永井先生は暴力のシーンは描いていて、すごく疲れる。
ギャグマンガは疲れないし、善の存在を描いている時は疲れない。
「デビルマン」や「手天童子」を描いていると、体が痛くなるそうです。

「手天童子」に至っては、悪夢を見た。
スタッフもみんな、同じような悪夢を見たそうです。
クリエイターですから、そういう気持ちが周りに伝染するのかもしれませんね。

そういえば面白い話も書いてあって、永井先生が前世がわかるという人と会った時のこと。
この時、この方が永井先生のことを宗教家だったと告げたんですね。
何度か転生しているけど、転生するたびに宗教家だったと。

中世オーストリアで、神父だったこともあると告げた。
でもこのことは、あんまり知らなくて良いと言う。
その時、永井先生の頭にポーンと、大きな木が浮かんだ。

するとその方が「あなたは神父なのに、自殺した」と言う。
だから「あの木で自殺したんだな」と思った。
「どうして自殺したんですか」と聞くと、「つらい時代でしたから」。

それで、もしかしたら自分は魔女狩りをしていたんじゃないかと思った。
「デビルマン」のシーンが、頭に浮かんだ。
牧村夫妻を殺した人たちは、宗教家のような恰好をしていた。。

意図して描いたわけじゃなかった。
でもこれは…、自分の経験を描いたのか…?と思ったそうです。
おもしろい話ですね。

話は「キューティーハニー」に、及びます。
あれは男の子向けに描いたが、女の子に人気が出た。
この理由は何だろう?

やっぱり、女の子の変身願望を満たしたんじゃないか。
それから「女の子はおとなしくしてなさい」と言う、当時まだあった風潮に反発したんじゃないか。
永井先生はこんな風に、分析しています。

80年代に、マドンナが出てきた。
それまではセクシーと言うと、プレイボーイのグラビアみたいに男性からの一方的な視点だった。
でもマドンナのセクシーさは、女性が主導する女性が魅力的であろうとするものだった。
永井先生としたら、キューティーハニーで考えていたものが、ついに出たと言う感じでしょうか。

ずいぶん怒られたけど、ヌードは永井先生としては絵的に綺麗であれば良いと思っていた。
だから「デビルマン」のシレーヌは怪物でも美しさがあり、美を見いだせるようにしたかった。
人間とは全く違う形でも。

シレーヌ、私はすごい好きなデザインです。
美しいけど、とても怖く危険な存在。
すばらしいデザインです。

永井先生は自分のエロティシズムは、健全なエロティシズムだと思っています。
エロティシズムが発散されない社会は、まずいと思う。
ヌードやエロティシズムを過度に取り締まっている社会は、犯罪が少ないか?
否、陰惨な犯罪が多いと思うと永井先生は考えています。

永井豪の豪は、実は業なんじゃないかってインタビュアーに指摘されています。
自分の作品では、まず破滅がある。
そこから再生されると、自らの作品を分析しています。
おもしろい分析だと思います。


話が長いのよ

「デビルマン」の作者の永井先生が、朝礼の訓示が嫌いだったと言う話を読んで、思い出しました。
中学の時です。
すごく寒い、雪が降りそうな月曜日の朝に、朝礼がありました。

その時、校長先生が訓示を述べた。
いじめについての訓示でした。
「こんな残酷なことがあってはいけない!」

今でも覚えてるほど、この言葉を校長先生は繰り返しました。
すごく長い訓示でした。
校長先生は何かすごく、思うことがあったんでしょうね。
でも自分は「寒いなあ」「長いなあ」としか、もう思っていなかった。

周りのみんなも、凍えていた。
コートも着ない、秋の時にちょうど良かった制服姿のまま。
雪がちらつきそうな底冷えのする朝。
あまりの長さに先生方も「こんな寒い日に校長先生の方が残酷だよ」って話していたそうです。

いくら伝えたいことがあっても、その時に相手がどういう状況か。
じっとしてるしかない相手が、どういう状況か。
それを考えない大人になるのはやめよう、と思った記憶があります。

大人になったらなったで、朝礼で毎回、1時間も訓示をする人がいました。
その時は、ある作家さんの話を思い出していました。
良く、結婚式のスピーチを頼まれるけど、できるだけ短くまとめる。

その方が難しいけど、絶対、好感度が高いし、印象にも残る!って書いていました。
だいたい長いと誰も聞いてない!って。
1時間も続く話を聞きながら、ダメな私はこの話を思い出していましたとさ。


みんな悩んでいる

「世界の終わりと始まりに」に、永井先生のインタビューが出ています。
漫画家さん、いや、作家さんって何かに取り憑かれたみたいにして作品を描くようです。
永井豪さんもまたそうですが、この方は特にこれが顕著のようです。

作品も悪が跋扈するものが多いせいか、本人や周りの精神状態にすごい影響を及ぼしたようです。
永井先生だけじゃなく、アシスタントも全員、鬼の夢を見たり。
同じものを作っていると、感応するんでしょうか。

さてあの、「デビルマン」のラストシーン。
あれはページが足りなくて、ああいう終わり方になったそうです。
そうしたら、作者の意図とは違う解釈をする人が出て来た。

だから、あのラストで良かったんだなと思ったとか。
作者が結論を出さない終わり方もありなんだな、と思ったそうです。
ページ足りてたら、何を描いていたんでしょうね?

インタビュアーは、「サタンとデビルマンには友情以上のものがあるように思います」と、言いました。
永井先生も読者から「デビルマンはサタンとデビルマンの恋愛ものだったんじゃないか」と言われたそうです。
だからインタビュアーにも「その通りです」と、答えてしまった。

「恋愛が人類を滅亡させちゃうんだから、迷惑な話ですよね」。
美樹ちゃんを死なせる時は描いていて、「ああ、困ったな、死んじゃうよ」って思った。
結局、美樹ちゃんはサタンとデビルマンの愛の犠牲者だったと永井先生は考えています。

永井先生は基本的にその時、面白いと思ったように話を転がしていくとか。
だから描いている時の気分が違ったら、「デビルマン」はギャグマンガになった可能性もあるそうです。
自分でもどう進むかわからないから、編集さんは相当困った。

当時は、どう進むのかと聞く編集さんに、読んでみたらわかりますと答えていたそうです。
そう言うしかなかった。
予定と違う方向と言えば、飛鳥了は、最初は地下室で殺す予定だった。

でも殺しちゃうと、どうも話がうまく進まない。
だから生かしておいたら、最後はああいうことになった。
不思議と辻褄があった。
こういう時、何かに描かされているような気分になりますね。

「デビルマン」は不動明の高校生活、日常から話が始まる。
それはいきなり突飛な世界を描いても共感されないというのが、あったから。
それ以外の理由として、永井先生は子ども~学生の時、何が嫌だったかと言うと朝礼が嫌だった。
みんな並ばされて立たされて、先生が訓示を述べる。

あれが嫌で、何か起きないかなって思っていた。
UFOでも何でもいいから、この状態を壊してくれないかなって。
この思いが、明の日常にデーモンが入って来る展開になった。

自分も嫌いでした、朝礼の長い訓示。
社会人になっても、朝礼でやたら訓示が長い人とは相性が良くなかった。
毎回、1時間も話す人がいましたけど、相性、良くなかったですね。
永井先生が朝礼の訓示が嫌いという話を聞いて、やっぱりこの方はサラリーマンには向いてなかったなと思いました。

営業とか、絶対に向いてない。
漫画家とか、自由業に向いている人なんだなと思いました。
そうやって考えると自分も、そういう傾向あるんだろうか…。
いや、あんなに毎回長い訓示は、誰だって好きじゃないはずだ!

「デビルマン」でデビルマンが戦う理由は、実はエゴだと永井先生は言います。
でもそのエゴの中で見つけた戦う理由が、美樹だった。
美樹を愛している。
彼女を守るため、自分は戦う。

だから美樹を失った時、明は戦う理由を失った。
戦う理由があるとしたらひとつ、復讐だけだった。
それもまた、エゴ。

サタンはサタンで、神のエゴに反抗して戦っていた。
しかしやはり、最後に人類を滅ぼそうとした自分もエゴであったと気付く。
その時は、デーモンにしてまで守りたい、愛する明を失っていた。
サタンは、激しく後悔し、涙する。

永井先生は、「デビルマン」のマンガって、みんな悩んでいるんですと言う。
「自分って、これでいいのか?」
「これで正しいんだろうか?」
連載時は戦争から立ち直り、高度成長期に入り、豊かになって余裕が出てきた時代。

だから、そういう疑問がみんなにあった。
自分にもあった。
こんな自分と時代に関係して、登場人物がみんな悩んでいるそうです。
名作と言われるものは製作者の心情の表れであることはもちろんですが、やはりその時代の空気をまとっているものなのだと改めて思います。


驚いちゃった驚いちゃった

相変わらず情報が遅い私ですが、金曜夜24時12分からテレビ東京で放送されている「孤独のグルメ」。
LINEの公式スタンプが登場していたのですね!
いや~…。
感慨無量。

本当に本当に、メジャーで愛される存在になったんですね。
ヤクザ、そのヤクザと対抗できる強面の刑事、殺人鬼、ストーカー、そうでなければ宇宙人。
主人公に刺されたり、逮捕されたり、途中で殺されたり、追い払われたり。

NHKには目をかけられていて、時代劇や大河で結構、良い役をやってましたけど。
こういうところ、NHKは良いなあと思うんです。
松重さんはずっと好きで見ていましたが、その頃を知っていると、ほんとに驚きです。
そして、うれしいです。

今やLINEのスタンプに登場するようになったなんて!
長生きはするもんだって、ほんとに思いますね。
カレンダーは出ていたけれど、LINEスタンプ出してくれるとは。
テレビ東京というセンスの局があったのも、良かったと思います。

「バイプレイヤーズ」の時も監督さんが、すごく演技が細かいって感動していました。
みんなが揉めている時、松重さんは前のシーンで出たプリンをずっと大切に持っていたそうです。
後で画面をチェックしていて、気がついた。
画面はもう、プリン関係ない揉め事がメインになっているのに。

「バイプレイヤーズ」の出演者はみんな、そういう細かい演技ができる人たちでしたね。
若い監督やスタッフは見ていて、感心してしまったそうですが。
こういう良い俳優さんは、これからはずっと息の長い活動をしていくんでしょうね。

LINEスタンプ、購入してしまいましたよ。
スルーできるわけがない。
思った以上に、表情が絶妙。

「よっしゃ」。
「シアワセ」。
「ウヒョヒョ~」って、笑ってしまう。
いや、本当にうまい俳優さんです。

松重さんと同じ事務所に所属し、「うちは怪優事務所」と言われる理由の一人、田中要次さん。
この方も、ローカル路線バス乗り継ぎの旅のレギュラーになりましたね。
去年のお正月にBSジャパンで放送された「猫とコワモテ」の続きが見たいです。
ぜひ、お願いしますよ、テレビ東京さん。


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Author:ちゃーすけ
癖の強い俳優さんや悪役さん大好き。
俳優さん、ドラマ、映画、CMその他、懐かしいもの、気になるものについて、長々と語っております。

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