こたつねこカフェ

癖のある俳優さん、悪役さんが大好きです。時代劇、ドラマ、映画、俳優さんのことを好きに書いています。
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虫虫大行進

先々週の火曜日、帰宅すると、キッチンにアリがいました。
今、一番ホットな話題の一つ、アリ。
いや、家にいたのはただの良くいるアリでしたけど。

数年前に、羽蟻が窓にびっしりいたことはありました。
何でも「結婚飛行」というものらしくて、たまにあることらしいんですね。
ロマンチックな名前だけど、ロマンチックなのは名前だけ。
2日ほどでアリの移動は終わったらしく、いなくなりましたがすご~く、嫌ですよ。

家にいたアリは何で、来たんだろう?
前日に食べたマカロンの包装に、たかっていたのだろうか?
良くわからないけど、嫌なのでアリ退治して、アルコール消毒。
ずいぶん、時間を取ってしまいました。

翌朝も、やっぱりアリがいる。
結構な時間をかけて退治して、急いで出勤。
どうしたらいいかな。
やっぱり、アリの巣コロリだろうか。

すると、「アリにはアリメツ!」と教えてくれた人がいました。
アリメツ?!
ホームセンターや園芸店で売っているもので、液体状のシロップのようなものだそうです。

これをセットすると、アリがたくさんやってくる。
そこをガマンして、アリにシロップを食べさせる。
アリはアリ同士、連絡を取り合う。

おいしいものがあると連絡を取り合って、どんどん、アリがやってくる。
やってきたアリはシロップを食べ、持ち帰るらしい。
すると、10時間後ぐらいに中毒を起こして死んでしまうそうです。

アリの巣、全滅。
だからアリメツ!
…何やら、非人道的な兵器を使用しているような気がしないでもないです…。

でもやっぱり、アリは嫌。
そう思っていたら、木曜日にはアリが出なくなりました。
アリメツ、使わなくて済みました!

しかし、先週の木曜日。
帰宅すると、前よりもたくさん、アリがいました。
ダメだ。
使うよ、アリメツ。

金曜日、セットしたアリメツにはたくさん、アリが集まっていました。
ぐっと、我慢。
やっぱり嫌だな、アリ。

そして土曜日。
アリがいない。
一匹もいない!

おおおお。
アリメツ、効いた!?
すごーい!

しかし、これで終わりではないのです。
巣には卵があり、それは孵化してしまうのでまたアリは発生するんだとか。
だから何回か、これを繰り返す必要がある。

私だってこんなこと、もうしたくないけど、やっぱり嫌。
もう、来ないで、アリよ。
そしてみなさん、アリにはアリメツですよ。


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平尾昌晃さん

思わず、「えっ?」と声に出してしまいました。
作曲家の平尾昌晃さんが亡くなりました。
「必殺」シリーズ好きには、欠かせない作曲家さんです。

この方の曲は良かった。
とにかく、引き込まれました。
あの曲が流れると、ドラマがものすごく盛り上がるんです。

お元気だと思ってました。
自分の周りに当たり前のように存在していた方が、どんどんいなくなります。
寂しいです。

とてもとても楽しませていただきました。
ありがとうございます。
平尾昌晃さんのご冥福をお祈りいたします。

中年女性だってハードボイルドできる 「グロリア」

ジョン・カサベティス監督「グロリア」。
主演ジーナ・ローランズ。
1980年の作品。


グロリアと言う、みるからにあばずれの中年女がアパートに住んでいる。
彼女は、隣の部屋にコーヒーを借りに行く。
隣にいるのは、グロリアの友人の一家。
会計士のジャックと言う男の一家だ。

グロリアは元・マフィアのボスの情婦だった。
ジャックは末息子・フィルに、聖書だと言って手帳を託した。
さらにグロリアの友人は、フィルをグロリアに預ける。

子供は嫌いと言うグロリア。
あんたの子供は、中でもとりわけ嫌いと言う。
だがジャック一家の部屋は爆発し、皆殺しにされてしまう。

たった一人の生存者であるフィルを連れたグロリアは、騒然とするアパートを脱出する。
フィルを狙うマフィア、警察。
四方から追われる身となったグロリアはフィルの手を引いて、実家に帰る。

全くグロリアになつかず、可愛げのないフィル。
平凡な家庭にも結婚にも子供にも縁のないグロリアは、子供だって大嫌い。
ましてや生意気なフィルなんか、もっと嫌いだ。

グロリアはフィルを見離したくなる。
しかし見離せない。
生意気な口を利くとはいえ、フィルはまだ子供。
そして家族全員を殺されているのだ。

フィルは、グロリアの家から出て行ってしまう。
しかしフィルは新聞記事で、自分の家族が殺されたことを知った。
どこにも行けないと悟ったフィルは、グロリアの元へ戻ってくる。

やがて、マフィアはグロリアの存在に気付いた。
フィルを寄こせと言う、昔の仲間に向かってグロリアは拳銃をぶっ放す。
地下鉄、バス、タクシーを駆使し、グロリアはフィルの手を引いて逃げる。
そして、グロリアとフィルに心の交流が生まれ始める。

フィルを連れてホテルを出たグロリアは、ピッツバーグに行くと言う。
その途中、墓地に寄ったグロリアは、死んだ人の魂は同じところに集うとフィルに教える。
ピッツバーグ行きの電車を待つ間、グロリアとフィルが入ったレストランにマフィアがやって来た。

グロリアはマフィアたちと渡り合い、フィルを連れて逃げる。
しかしグロリアは自分が元マフィアのボスの情婦で、前科持ちであることから警察にも頼れない。
フィルのことを考えたら、自分と一緒にはいない方が良いのではないかと思い始める。
だがもう、フィルはグロリアから離れなくなっていた。

ところがグロリアとフィルは、ケンカになってしまう。
グロリアがバーにいる間に行方不明になったフィルを探し、グロリアはタクシーを使う。
そしてフィルがマフィアに捕らえられたことを知る。
グロリアはマフィアのアジトから、フィルを奪還する。

その夜、グロリアはフィルと語る。
グロリアはフィルに託された「聖書」が手帳であり、マフィアはそれを狙っていることを知った。
翌日、グロリアはボスのタンジーニに連絡を取る。

フィルには3時間経って、自分が戻らない時はピッツバーグに行くように言ってお金を渡した。
グロリアは、タンジーニのアジトに向かう。
手帳は会計士であったジャックが、マフィアの金の流れを記してあったものだった。

ジャックはその情報を、警察に流していた。
だから家族全員、殺したのだとタンジーニは言った。
グロリアは手帳を渡すから、フィルは助けてほしいと言う。

元々フィルは何も知らないし、マフィアの殺しの現場も見ていない。
そう言ってグロリアは、手帳を置いて出て行く。
帰りのエレベーター。
上からグロリアめがけて、銃弾が降って来る。

フィルはグロリアを待っていた。
だが3時間経っても、グロリアは来なかった。
仕方なくフィルは、ピッツバーグに向かう。

途中、墓地に寄ったフィルは見知らぬ墓に向かって、グロリアのことを祈る。
そこにタクシーが到着する。
中から降りてきたのは、老婦人だった。
老婦人が近づいて来る。

フィルは気づいた。
グロリアだ!
フィルが駆け寄る。
グロリアが両手を広げ、フィルを抱きしめる。



グロリアは、ジーナ・ローランズ。
これがだらしなさそうな、しかも、中年。
スタイリッシュな女ギャングじゃないですよ。

かつては凄みのある美人だったんでしょう。
でも今は、生活が、体にも顔にも出ている。
「鬼龍院花子の生涯」で、侠客の鬼政の女房を演じる岩下志麻さんが、鬼政の仲代さんに聞いたそうです。
この鬼政の女房って、どういう女だったんでしょうね?

仲代さんは映画「用心棒」で、ヤクザの女房を演じた山田五十鈴さんのことを思い出した。
あの女房は、女郎屋の女将だった。
元は女郎だろう。
そう言うと、岩下さんは納得した。

グロリアはおそらく、元は娼婦。
そして、マフィアのボスの情婦となっていた。
タバコの吸い方が、いかにもあばずれ。

料理はまるっきり、できない。
焦がしちゃって、フライパンごと捨ててる。
しかし、これが衝撃的にカッコいい!

中村主水は、風采の上がらない中年男。
しかし、裏の仕事をする中村主水はものすごくカッコいい。
だが、だらしなさそうな中年女性がカッコいいと言う映画は、かつて見たことがなかった!
グロリアがカッコいいと言うのは、衝撃でした。

マフィアのボスの情婦であったグロリアは、どちらかというとマフィア側に立っているはず。
さらにグロリアは子供が嫌い、フィルみたいな子供はもっと嫌い。
マフィアの怖さも知っているグロリアが、子どもを連れて逃げる理由はないはず。
では、なぜ。

無残に家族を殺され、たった一人で放り出された子供。
それを寄ってたかって、マフィアの大の男たちが追って来る。
この状況がただ、グロリアの奥底にある庇護欲、正義感が許せないと言う。

正義感だなんて、グロリアは否定するだろうけど。
放置するなんて。
この子の家族を殺したマフィアに、一枚嚙むなんてできないわよ。

ショルダーバッグを肩にかけ、タイトスカートの足を広げて拳銃を構える。
昔の仲間に向けて、撃って来る。
そのまなざし、睨み。
子連れの虎が一番怖いというが、それはまさにグロリア。

グロリアにフィルを預けたいと言う、グロリアの友人の女性もおそらく元は娼婦。
しかし、生き方は全く違ったんだと思います。
マフィアのボスの情婦であったけれど、グロリアは自分の力で生きてきた女。
自分の身は自分で守ってきたと、構える拳銃、睨む目力が言っている。

「レオン」を見た時、「ああ、これは『グロリア』だ」と思いました。
フィルが女の子に、グロリアが男になった。
だけど、中年女性のハードボイルド映画ってすごい衝撃的だった。

カッコよかった。
当時の日本では、考えられないものでした。
女性、しかも中年がハードボイルドしちゃう。

ハリウッドってやっぱり、懐が深いんだなあと思いました。
本当に多種多様なんだな。
個性豊かなんだ、と感心しました。

ラスト、グロリアは生還する。
そしてフィルに微笑む。
優しい、優しい笑顔。
おそらく、グロリアの人生で初めて見せる母性の笑顔。

監督はジョン・カサヴェデス。
グロリア役のジーナ・ローランズの旦那さん。
いや~、ここまで中年女性さらけ出させてカッコよく作るって、監督、惚れぬいてるでしょ!

「グロリア」は、シャロン・ストーン主演でリメイクされています。
「氷の微笑」の悪女キャサリンが非常に魅力的だったので、期待できる映画だったんですけどね。
ジーナとは違った、カッコいいグロリアにできたと思うのに、…な映画で残念でした。

ちょっと前に放送された市原悦子さんが刑事・乙女を演じたシリーズの最終作が、グロリア風味でした。
悪くはなかったけど、グロリアが生きるような話になってなかったと思いました。
日本でグロリアをやるなら、私はぜひ、余貴美子さんにやってほしいです。


許せないわ~

豪雨の災害に遭われた地域の方、お見舞い申し上げます。
一日も早い復興と、生活の再建を願っております。


一昨年までの執務室は、エアコンにえらい偏りがある部屋でした。
エアコンの風が直撃する席があって、その席の人は頭からストールかぶってる。
風で机の上に置いたティッシュの箱のティッシュが、そよそよ動いてる。
1日で風邪ひいた人もいる。

その人たちの苦情で、エアコンの吹き出し口に紙が貼られたんです。
すると、他の人が暑い。
元々、風が来る席にいる人と、暑い席にいる人には溝があるな、と思っていました。

するとある日、風の来る席の人が、おトイレの個室に入っている時、外で話す声がしたそうです。
「何で、あの人たちの言うことばっかりが優先されるの?」と言っている。
「寒い人は着られるけど、暑いこっちはこれ以上、脱げないのに」。
風の来る席の人は、正直、喉もやられる感じがしたけど、これを聞いてもうこれ以上は言わないことにしたそうです。

そして事務所移転が決まって、エアコンの吹き出し口の紙が取られた日。
ほとんどの人が「こんなに涼しかったの!」と言ってました。
吹き出し口を塞いでいた人も、今度の執務室はもう自動で調節されているからこちらがどうこうできませんと言ってました。

この人たちも、暑いの寒いの言われて大変だったんだろうな。
それから解放されて、せいせいしたことだろう。
私は暑い席でした。

ほんとに暑くて、つらくて、仕事に集中できない時がありました。
ずっとずっと、仰いでるから仕事にも支障が出る。
でもしかたないんだろうな、と思ってました。
暑い席にいた人は、我慢しているうちに、ムカムカしてきたと言ってました。

何でこっちばっかり我慢してるんだと思ったら、ムカつかなかった人に対してまでムカムカしてきたと。
寒い席の人の言うことを聞く人にまで、ムカついて来た。
許せないわ~、って思い始めたそうです。
あの執務室にいた人たちが、あんまり仲が良くなかったのはこのせいもあったかもしれない。

連日の猛暑。
先週、部屋の模様替えを余儀なくされて、10年以上使っていたチェストを部屋から出しました。
廃品回収で持って行ってもらったのですが、その時に作業した人に暑い中、ありがとうございますと声をかけました。
すると、その方、暑いの大好きなんだそうです。

もう、4月ごろからこの季節が来ると思うと、楽しくてしかたがないとか。
汗の流れるこの季節、いよいよ来たなって思って毎日楽しいそうです。
ほー。
もともと、暑い地域の出身だそうです。

私も夏は好きですけどね。
昼が長いのも好きですし。
でも、つらくないかと聞かれたら、そりゃつらい。
好きなら暑い中、いると言われたら、そりゃ勘弁してと言う。

執務室は風の当たり方の問題でしたが、この方を見てて思ったこと。
暑いと思う人と寒いと思う人が一緒にいるのは、揉め事の元だ。
そのうち、許せることまで許せなくなることがあるのだと。


大事な…。 「深夜食堂」第11話

第11話、「再び赤いウインナー」。

深夜食堂で、竜ちゃんが頼むのはいつも、赤いウインナーの炒めたもの。
店では常連の忠さんと、カメラマンの大道が高校野球の話題で盛り上がっている。
竜ちゃんは食べ終わると、帰って行く。

それと入れ違いに、小寿々さんが現れる。
あいにく、たった今、竜ちゃんが帰ったと聞いて小寿々はガッカリ。
連れてきたゲイバーの従業員に、あんたたちがちんたら歩いているからだと怒る。

従業員の一人が、「竜ちゃんって小寿々姐さんの良い人よね」と言う。
でも、「あの人どっかで見たことあるんだよね」。
小寿々姐さんは、「竜ちゃんはこの辺で一番の顔なんだから、出くわしても不思議じゃないわよ」と言う。

大道がストリップ劇場で写真を撮っていたら、客の一人が抑えられた。
その時の写真も、大道は撮った。
すると、その話をしていたら深夜食堂の戸が開いた。

大道が身を隠す。
「俺たち捕まえに?」
すると、その野口と言う刑事は「風営課じゃないもの」と笑った。

「誰か探しに?」
マスターの問いに野口は「いやどうも。お邪魔さん」と言って帰って行く。
バッティングセンターで竜がバットをふるう。

「まだやるんすか」と、ゲンが泣き言を言った。
「誰も付き合えなんて言ってねえだろう」。
「それよりお前、俺に話があるんじゃねえのか」。

ゲンがギクリとする。
「高校野球は売ってねえのかって、客から持ち掛けられたんだろう。何でそれ、断らねえんだよ」。
竜の声にはすごみがあった。

「で、でかく張ってくれるし、金払いの良い客だったんで」。
うろたえながら言い訳をするゲンを、竜は張り飛ばした。
蹴りを入れているところ、「はいはい、そこまで~」という声がした。
「今時、鉄拳制裁なんて流行んねえよ」。

野口刑事だった。
竜と野口が背中合わせに話す。
「博打がしのぎのくせに。相変わらず高校野球賭博はご法度か。律儀だねえお前も」。
「何の用すか、刑事さん」。

「…久美が入院してる。見舞いに行ってやってほしいんだ」。
「俺は今更顔出せる立場じゃないんで」。
竜はそれだけ言うと、立ち上がって出て行く。
ゲンも続く。

大道が個展を開いた。
「竜ちゃん素敵!何やっても絵になる男なのよねえ」。
小寿々が竜を撮った写真の前で、うっとりしている。

そこに来たゲイバーの従業員が、じっと見ている。
「止めてよお~、いやらしい目つきで。竜ちゃんアタシのものなんだから」。
「そうじゃないのよ。小寿々姐さん、この人はねえ」。

深夜食堂で、お茶漬けシスターズと呼ばれる3人組のOLが食べている。
「えええっ?」と一人が、素っ頓狂な声をあげた。
「あの人、元高校球児だったのお?!」

「福岡城崎高校って、野球の名門校出身で」。
竜のことだった。
プロのスカウトも、竜を見に来ていたらしい。

「福岡でナンバーワンの強打者!」
「福岡じゃなくて、九州一」と小寿々が訂正する。
「でもそのあとがやっぱりって感じ」。

「甲子園決まったのに地元のチンピラとケンカして、出場を辞退させられたんだって」。
「チームメイトも許せないだろうね~!今でも」
「かあっとなったら、後がきかずにやったのよ」。
「だからやくざに向いてるんだろうけど」。

「周りは、たまんないわよねえ」。
「マスターご馳走様。お勘定ここに置くわね」。
小寿々が立ち上がった。
「もう帰っちゃうの」と聞かれると、小寿々はキッとした。

「ケンカの理由もわかんないくせに」。
「竜ちゃん肴にして喜んでるあんたたちとは一刻も!一緒にいたくないの!」
そして「マスター、ご馳走様」とマスターには柔らかく声をかけて出て行った。
「おやすみ」。

『一日が終わり、家路へと急ぐ人々』。
『ただ、何かやり残した気がして寄り道したい日もある』。
また野口刑事が、深夜食堂にやってきた。
竜はいない。

「竜ちゃんならいないよ」。
「今日は客で来たんだ」。
マスターは、竜がいつも食べる赤いウインナーを炒める。

「は、なつかしいなあ~。これマネージャーが良くこれ作ってくれたんですよ」。
「やっぱりタコの足は6本で」。
「…俺と竜、高校の同級生なんです」。

「ひょっとして野球部?」
「あは」と笑って、野口はうなづく
「甲子園、あいつのせいでパーです」。

「あの日、マネージャーとデートしてたんです、あいつ。マネージャー、ウインナーの弁当作って」。
「そん時、運悪くチンピラに絡まれてね」。
「まあ、久美を。そのマネージャー守るために、しかたなかったんすけどね」。

「竜ちゃんのこと、恨んでないの?」とマスターが聞く。
「もう、昔のことだしね」。
「赦せなかったのは、あいつのせいで甲子園行けなかったことより、久美とデートしてたことです」。

「俺たちみんな、久美に惚れてたんだ」。
「…もうすぐ死ぬんですけどね」。
マスターが、ギョッとする。

バッティングセンター。
「両替」と竜がフロントで金を出す。
野口が来る。

「この前、言いそびれてたことがあるんだ」。
「あいつもう長くないんだ。乳がんが再発してな、手の施しようがないらしい」。
「だから今日こそは必ず、お前を見舞いにつれていく」。

夏木刑事がやってくる。
「それでもお前が拒否するんだったら」。
夏木刑事が手をあげる。

その手とゲンの手錠が、つながっていた。
「さっきこいつを公務執行妨害で、しょっ引いた。叩けば埃の出る体。当分、ぶち込まれることになるぞ」。
竜は黙っていた。

「どうぞ」。
それだけ言うと、出て行く。
唖然としたのはゲンだった。
竜が、タクシーに乗っている。

店の向かいにあるお稲荷さんに、マスターが油揚げをお供えし、手をたたく。
「意外と信心深いんだな」。
竜だった。
「お稲荷さんだからね。寄って行くかい?」

マスターが、竜にビールを注ぐ。
「知りたいか」。
「何が」。

「俺がなぜ、赤いウインナーを頼むのか」。
「関心ないね」。
「それより、同級生の見舞いに行ってやりなよ」。

「刑事さんがやってきてね、こぼしてたよ」。
「今更どの面して行けるんだよ。相手は死ぬんだぞ」。
「死んでく人間に何言ってやれる」。

「何も言えないよ。けどな竜ちゃん、あんたが会う会わないを決めるんじゃない」。
「あんたに会いたがってる相手が決めるんだよ」。
「おせっかいな野郎だな」。

病室で、堅気のスーツを着た竜がいた。
野口が「彼、新宿の区役所に勤めてるんですよ。僕と同じ公務員。地方公務員」と竜を紹介した。
「突然お邪魔して申し訳ありません」。
竜は頭を下げた。

だがそれは、どう見ても公務員のあいさつではなかった。
しかし、挨拶された男性は気にする風もなかった。
「こちらこそ。わざわざ来ていただいて。こいつも」。

病室の奥の方を指して、「剣崎さんに会えるのを楽しみにしていたんですよ」。
男性は、久美の夫だった。
「じゃあ、俺、仕事に戻るから」。
「行ってらっしゃい」。

奥から、女性の声がした。
夫は出て行った。
「大丈夫?」
そう言って、野口刑事が入って行く。

久美が、ベッドから身を起こしている。
こちらを見て、ニコッと笑った。
「竜ちゃん。立派になったとね」。

「こいつが新宿ばし切っとる、大物じゃけえ」と野口が言う。
「新宿で夜中から朝までやる食堂があるったい。そこでこいつ、タコの形した赤いウインナーばっかり食いようよ。女々しか男やろう!」
野口の言葉に久美が言う。
「…うれしか」。

「わああ~」と、野口が言う。
胸元のポケットに手を入れ「電話入っておる」と言った。
「あいたたたあ、本庁から電話入っとる」と言って腰を浮かし出て行く。

ふっと、竜が笑った。
「やっと笑ってくれたね」と久美が言った。
「まだ、昔のこと気にしとった?つまらないこと、引きずって」。
「なんも、気にしとらんばい」。

だが久美は、気にしてるから見舞いも断ったんだろうと言った。
「ばかやねえ。もう少し大人になっとると思っとった」。
「…変わらんね、竜ちゃん。よくそんな子供っぽい性格で、やくざの世界でやってこれたね」。

竜は黙っていた。
「竜ちゃんが学校辞めて、おらんなってから他のクラスの子とか、先生たちから時々、嫌がらせされた」。
「しかたなかよねえ…」。

「でも、私は全然、竜ちゃんも私も悪いと思っていない。今でもその気持ちは変わらんとよ」。
久美が遠い目をした。
「あの時、野口君だけは私をかばってくれたとよ」。

「野口君ね、自分のことを、竜ちゃんだと思って付き合ってくれって、鳴きながら私に告白してくれたの」。
「でも私、断ったんだ」。
「その頃、私、竜ちゃんと結婚したいくらい、好きやったけん…」。

久美の顔が、ほんの少し、泣き顔になる。
竜は黙っていた。
野口が、病室のドアの外で立っている。
「こんちは」。

向こうから、野球のユニフォームを着た少年がやってきて、野口に挨拶した。
久美の息子だった。
「おお、今お母さんの大事な友達が来ているからもう少し待ってな」。
「ああ、野球部の人?」

「そう!でも野球の才能はからっきしで、スター選手だった俺の周りをうろちょろしてた奴!」
そう言うと、野口は「あのさ、暇だったら少し付き合ってよ」と言った。
「野口さん、仕事しなくて大丈夫?」
「世の中には、仕事より大事なことがあるんだよ。行こう」。

病室では久美が竜に話しかけていた。
「結婚してこっちに住む前に一度だけ、竜ちゃん探しに東京に出てきたことがあったと」。
「原宿のホコ天行ったり、渋谷のセンター街行ったり、いろんなとこ行ったけど、見つからんかった」。

「当たり前よね。自分でも見つからん思うちょったし」。
「それでお腹すいて、生まれて初めて牛丼食べたら、めちゃくちゃおいしくて、そのまま最終の新幹線乗って帰ったと」。
「じゃけん、またこうやって会えるなんて全然思ってなかった」。

「…」。
久美がまた、遠い目をした。
そして悲しそうに言った。
「あの日、私が竜ちゃんデートに誘わなかったら、どうなってたんだろ?」

「つまらんこと言うな。食らわすぞ」。
視線を落とす久美。
「今度、私もウインナー食べにそのお店連れてってよ」。
「いつでも、よかばい」。

「来てくれてありがとうね」。
「また来るけん」。
竜の言葉に久美が笑顔になる。

「うん」。
久美がふとんの上に、手を伸ばす。
竜がそっと、その手に触れる。

青い空。
久美の息子と、キャッチボールする野口。
ボールを受けそこない、取りに行く。
しかし、戻ってこない。

野口がうつむいた。
そのまま、フェンスの前に座り込む。
電車が線路を走っていく。

フェンスをつかみ、野口が崩れ落ちるように座り込む。
うつむいたまま。
久美の息子が、それを見ている。

タクシーに乗って、久美が来る。
車いすを引くのは竜。
付き添う野口。

ゲンが、深夜食堂の前にいる。
車いすが通れるよう、段差をなくすためにゲンはスロープを用意する。
野口が、久美の前に来て引っ張り、竜が押す。
久美が店に、入って行く。

ゲンは外で待つ。
ちらりと、店をのぞく。
そして、外に座る。

赤いウインナーが、置かれる。
隣には、おきよめ塩がある…。
黒いネクタイの野口と竜。
マスターが2人に、ビールを注ぐ。

そして、奥に引っ込む。
竜も野口も語らない。
竜が先に、野口が遅れてビールのコップを持つ。
目の高さに掲げ、黙って飲む。




1話で印象的だった、竜ちゃんとギャップがありすぎる赤いウインナーの関係。
刺された竜ちゃんを、小寿々さんが見舞いに行く。
小寿々さんに赤いウインナーの思い出を聞かれて、ハッとした表情になる。

そしてサングラスをかける。
表情を知られまいとしたんでしょうね。
誰にでも知られたくない、大切な思い出ってあるものねと小寿々さんが察する。

竜ちゃんは、九州一の強打者でスカウトも見に来ていた高校球児だった。
しかし、街のチンピラとケンカして、その結果、学校は、出場辞退させられてしまったのだった。
スキャンダラスな過去に、いかにもと納得するお茶漬けシスターズ。

小寿々さんはさすが。
「理由もわからないくせに!」
「竜ちゃん肴にしてる」とキッパリ言う。

そして、今でも竜ちゃんは高校野球にこだわりを持っている。
やっぱり、小寿々さんは竜ちゃんが本当に好きなんですね。
いろんなことをわかってる。

野口も、竜ちゃんが高校野球に思いを残してるのを知っている。
だから久美に会わせたい。
あっさり、「どうぞ」と言われて唖然とするゲンがおかしい。
唖然とする野口もおかしい。

でも竜ちゃん、その後で、深夜食堂に行く。
深夜食堂は、竜ちゃんにとってただの食堂じゃないから。
マスター相手に話して、決心が付いた。

竜ちゃん、野口に連れられて久美のお見舞いに来たけど、野口の紹介も、よりによって公務員っておかしい。
普通のスーツが浮いている。
体になじんでない感じが、すごくうまい。

お辞儀も明らかに、堅気じゃない。
この明らかに「違う」感が、うまい。
野口がちょっと、うろたえるのがおかしい。

竜ちゃんの松重豊さんと、野口の光石研さん。
2人とも、福岡出身なんですね。
故郷の言葉で話す2人が、素のよう。
それでいて、ちゃんと世界作っている。

久美は、安田成美さん。
野口のスター選手だった俺の周りでうろちょろしていた、という言葉で、真相は逆だったことがわかる。
マネージャーにみんな惚れていて、でもマネージャーは竜ちゃんが好きで。
その情景も目に浮かぶ。

デートに誘ったのは、久美の方だった。
そして事件は起きた。
久美もつらかったと思う。
竜ちゃんも、つらかったと思う。

他のクラスの子、先生方。
嫌がらせされたって、ちょっとの嫌がらせじゃなかったはず。
野口は竜と久美を2人きりにさせるために、部屋を出て行ってくれた。

そして、息子とキャッチボールして、久美が母親に戻るのを先に延ばしてくれた。
きっと、事件の後も野口だけが味方だったんだろうと思う。
それでも久美は、竜ちゃんだけしか見ていなかったんだと思う。

キャッチボールで、泣き崩れる野口。
その後ろ姿が哀しい。
光石さん、うまい。

高校を辞めた後、竜ちゃんがどうやって生きていったのか。
チンピラとケンカした竜が、なぜ、やくざになったのか。
どうして野口は刑事になったのか。
2人の性格が、経緯が見える気がする。

でも、久美と話してる時の竜の顔は、やくざの顔じゃない。
野口の顔も、刑事の顔じゃない。
あの頃、高校生に戻っているように見える。
松重さんと光石の演技が哀しく、切ない。

竜と久美の会話以降、穏やかな女性ヴォーカルの曲だけが流れている。
久美を連れて来る竜と野口。
まるで、高校生の時のように。
泣けます。

赤いウインナーが置かれる。
久美が食べるのかと思ったら、隣にあるのは「おきよめ塩」だった。
黒いネクタイの竜と野口。
無言。

うまい俳優さんは、その人物が実在してるように感じさせる。
その人物の描かれてない部分まで、想像させる。
見ているこちらに、「夢を見せる」。

竜ちゃんも野口も小寿々さんも、まさにこちらに夢を見せている。
こういう人いるな。
きっとこんな行動するんだろう。
こういうことを経験して来てるんだろうな。

その人物に興味を持たせる。
ドラマ「深夜食堂」は、夢を見せる。
うまい俳優さんが揃って、夢を見せるドラマ。


暖かくて、でもどうしても付きまとう寂しさ。
まっすぐ帰りたくない時、行きたくなる場所。
深夜食堂があって、良かった…。


男やめろよ 「深夜食堂」第12話

またまた「深夜食堂」。
第12話、唐揚げとハイボール。
唐揚げ食べながら見たくなる。


常連客が見守る。
サヤという女の子のお客が、カウンターで眠っている。
忠さんは微笑み、小寿々はちょっとあきれ顔。

初めてやって来た時、サヤは唐揚げを頼んだ。
サヤは唐揚げができるまでの間、目を閉じた。
そしてカウンターに座ったまま、寝ていた。
「寝かせてやんなよ、よっぽど疲れてんだな。きつい仕事してんだよ」と忠さんは言った。

そばでそれを見ていたゲンが、お札を置いて立ち上がる。
「釣りは?」
マスターが聞くとゲンは、眠っているサヤを顎で示して、「唐揚げだよ」と言って去って行く。

サヤは目を覚まし、お酒の注文に対してはビールが飲めないのでと言う。
するとマスターは、ハイボールを作って持ってきた。
それからサヤはちょくちょくやってきては、唐揚げを頼み、出て来るまでの間、カウンターで眠るようになった。

常連の男の客の五郎は、サヤちゃんの寝顔を見ていると、酒が進むと言う。
小寿々は、「簡単ね男って」と言う。
サヤが目を覚ます。
マスターが「いい夢だったかい?」と聞く。

サヤは「せっかく作った唐揚げ、また食べられちゃった。だから唐揚げください」と言った。
常連客がサヤのハイボールを見て、自分もハイボールと頼むと、マスターはサヤの分だけだと言う。
常連のを見てハイボールを頼むと、マスターはあれだけと言う。
「マスター、えこひいき~!」

すると、戸が開いた。
サヤの彼氏の章介だった。
章ちゃんと言うと、サヤは出て行った。
すぐに戻ってきて、ごちそうさまと言って出て行こうとする。

「唐揚げは?」
するとサヤは「良かったらみんなで食べて」と言って出て行った。
見ていた常連の客の女性が「あの男、見たことある、たぶん、お笑い芸人」と言った。
「深夜番組で一度見たことがある」。

小寿々が「売れてる人?」と聞く。
「全然だと思う。それでしか見たことないもの」。
深夜食堂の外で章はサヤに「ごめんな、サヤ」と言いながら、後輩に食べさせると言ってお金を取って行く。
サヤが「一緒に行っちゃだめ?」と聞くと、後輩に弱いところ見せられないと言って章は断った。

章はサヤに、「見ていてくれ、俺変わるから」と今までかけた苦労の分、サヤに還すと言っていた。
しかし、章のステージに、客は本当に数えることもないほどにしかいなかった。
サヤはパチンコ屋で、懸命に働いていた。

ある夜、ゲンが深夜食堂を出ると、その前にある小さな社でサヤが座って祈っていた。
ゲンに気が付いたサヤは「彼が売れますように、って」と教えた。
「芸人なんです」。

「へえ、おもしろいの」。
「たぶん」。
「なんだよ、たぶんって」。

サヤの答えに、ゲンが笑う。
「この頃よくわかんないの。売れてほしいのは本当なんだけど。あたし、何のために東京来たんだろう」。
ゲンは黙っていた。

相変わらず、深夜食堂でサヤは眠っている。
五郎がそれを見て「最近、やつれたなあサヤちゃん」と言う。
すると、ガラッと戸が開いて章が姿を現した。

「おっさん、ビール!」
横柄に言うと、サヤの横に座った。
「また唐揚げかよ」。
そう言って、一つ取って食べる。

目を覚ましたサヤが「どうだった?」と聞いた。
「何が」。
章の答えは、つっけんどんで冷淡だった。

「お笑いルーキーズ」。
「誰だよそれ」。
章の答えは、いら立っていた。

思わずサヤが「…ごめん」と謝る。
「ごめん?ごめんってなんだよ」。
章が絡む。
「…」。

サヤが押し黙る。
「なんだよ!」
「ごめん」。

「お前に何がわかるんだよ!」
章が怒鳴る。
「俺の気持ち、わかんのかよ!」
「正ちゃんごめん」。

サヤは明らかに、うろたえ、怯えていた。
「何で謝んだよ!」
章は唐揚げを、サヤに投げつけた。
サヤが思わず、顔をかばう。

マスターが厨房からビール瓶を手に、飛び出そうとする。
ガラッと戸が開いた。
マスターが見る。
ゲンだった。

入ってきた時、店にはサヤの「ごめん」という言葉が響いていた。
「俺のこと下に見てんだろお前!」
章が怒鳴り、唐揚げを投げつける。

それはゲンの顎に当たった。
ゲンが顎を撫でる。
振り向くと、にやりと笑って「痛ってえ」と言った。

刑事の野口と部下の夏木が、話をしている。
すると、声が聞こえて来る。
ゲンと章のケンカだった。

それを懸命に、サヤが止めようとしている。
章がゲンを罵倒していた。
夏木刑事が動きを止めた。

「早苗」と言う。
サヤも夏木を見て、固まった。
「ボケ!ボーケ!」と章は罵倒している。

夏木刑事を見て、動かないサヤを章がひっぱたく。
「てんめえ!何やってんだよ!」
怒鳴りつけ、章を殴り飛ばしたのは夏木刑事だった。
「俺の妹に何やってんだよ!」

章が驚きのあまり、夏木刑事を見る。
「もう、ほっといてよ!」
サヤが叫び、章の手を引いて行く。
野口に抑えられ、ゲンも帰って行った。

深夜食堂で野口刑事と夏木刑事が、話をする。
夏木刑事には父親がいなくて、母親が仕事が大変だった。
兄である夏木刑事が、妹のサヤの面倒を見ていた。
年が離れていたせいか、サヤには厳しくなってしまった。

夏木の言葉に野口は、「まあ、刑事やってるとな。そうなる時もあるよ」と言う。
サヤは高校出るとすぐ、章と付き合って家を飛び出していった。
夏木は止めたがその時、サヤに「私が選んだことに一度も賛成してくれたことがない」と言われた。
店の隅に、唐揚げが落ちていた。

夏木刑事が拾って言う。
「あいつ…、好きなもの変わってないな」。
マスターが「夢の中でいつもお兄さんに食べられちゃうんだって」と言った。
「だからつい、いつも唐揚げ頼んじゃうんだって、子供みたいな話、俺に教えてくれたよ」。

「すごいねえ、楽屋入ったの、あたしが初めて?」
ロングヘアの女の子が章の楽屋で、はしゃいでいた。
章は女の子に「カワイイ」と言った。
「何しても、かわいいな」。

女の子が笑い、「後で飲みに行くでしょ」と聞いた。
相方がやってきて章に「出番」とうながした。
章が女の子に笑いかけて、ステージに出て行く。

ステージに出て行った、相方が沈黙した。
続いて出て行った章が、客席を見て目を見張る。
小さな客席は、やくざで埋まっていた。

さっきの女の子が客席にやってくる。
周りを見ると、一目散に逃げていく。
章は言葉が出ない。

最前列にいたのは、ゲンだった。
ゲンは章を凝視していた。
必死に章はギャグを言おうとするが、相方は微動だにできない。

章も黙ってしまった。
ゲンが立ち上がった。
ステージに上って来る。

章の前に立つと「女に貢がせて、この程度かよ」と言う。
「お前、男やめろよ」。
章は声も出ない。

サヤが、深夜食堂に向かって歩いて来る。
足を止める。
階段の方に、兄の夏木刑事がいた。

深夜食堂に、唐揚げをあげる音がする。
「母さんには連絡してんのか」。
兄の問いにサヤは無言だった。

「そうか。どんな生き方してくれてもいい。俺はずっとサヤの味方だから」。
唐揚げが2人の前に置かれる。
夏木が箸をとって、サヤに渡す。
唐揚げを、サヤの皿に載せる。

サヤが箸を持つ。
食べる。
サヤの顔が、ゆがむ。
涙をこらえる。

泣きそうになりながら、サヤは食べる。
やがて、泣き始める。
兄が箸を置く。
サヤの頭をそっと撫ぜた。

ガラッと戸が開く。
ゲンが入って来る。
のれんをめくる。

章がいた。
動かない章は、ゲンに肩を押される。
章が店に入って来る。

「いろいろなことがあったみたいだけど、結局サヤちゃん、この男とは別れたみたいだよ」とマスターの声がする。
「サヤちゃんは母親の家に戻ったが、こうやってたまに遊びに来る」。
深夜食堂にサヤが入ってきた。

忠さんが「サヤちゃん、このごろ眠らなくなったね」と言った。
「うん、だって良く寝られるんだもの」とサヤは笑った。
「サヤちゃんの寝顔が見られなくて残念がってるお客が、けっこういるんだけどな」とマスターは言う。
深夜食堂の壁に貼られたメニューに、ハイボールが加わっていた。

「マスター、結局男ね~!」
客に笑われて、マスターがメニューをはがす。
それを止めようとする客。
深夜食堂に笑いがあった。



サヤは、平田薫さん。
「猫侍」で北村一輝さんのお隣さんでした。
かわいい。
でもなんか、不幸そうと思ったら、あんな男に貢いでたのですね。

こんなところで、夏木刑事とつながるとは思いませんでしたが。
夏木刑事の先輩刑事の野口が、竜ちゃんと個人的な関係があった。
今度は竜ちゃんの舎弟のゲンちゃんと、夏木刑事が個人的に関わった。
深夜食堂は、それぞれの肩書を取ったつながりができる場所ですね。

売れない芸人の章は、サヤに良いかっこしてお金を引き出している。
後輩に良いところ見せるのに、サヤからお金もらってるんだからそれだけでダメだなってわかる。
なのにサヤをバカにしきっていて、横柄な態度を隠さない。
サヤに暴力も振るってたんでしょう。

この時のマスターの殺気が、すごい。
とっさに醸し出す殺気。
あ、追い出す。
この人、やっぱりただもんじゃないんだと思いました。

しかしその時、ゲンちゃん登場。
「痛ってえ」と言って、笑うところが怖い。
調子に乗っている章は、ゲンちゃんを罵倒。
夏木刑事にぶっ飛ばされて唖然。

その時のサヤの態度と、夏木刑事の話から、サヤは兄に反発していたんだとわかる。
サヤは自分を肯定してほしくて、いつも章を甘やかしていたのではないでしょうか。
自分の選んだ人がダメで、いや、ダメにしたのは甘やかした自分かもしれない。

でもいつも兄に反対されていたサヤが、兄に反発して選んだ道だから、修正できなかった。
章に貢ぎ、報われなくても兄に対する意地で別れられなかった。
だけど兄の自分への愛情を確認して、兄に「何があっても俺は味方」と言われて意地を張る必要がなくなった。

今回、マスターも迫力ありましたけど、かっこよかったのはゲンちゃんです。
アニキの竜ちゃんも、小寿々さんが惚れ込む男だけど、舎弟のゲンちゃんもなかなか。
ゲンちゃんの怖さも知らず、罵倒した章は怖ろしい目に遭う。

さすが、竜ちゃんの舎弟。
ゲンちゃん、かなりな顔なんですね。
あれぐらいの人間を連れてくるぐらいの、顔ではある。

章はサヤをなめきっていて、浮気もしていた。
その女の子は、さっさと逃げてしまった。
まあ、あれで逃げない娘はいないと思いますけど。
章はサヤをなめきっていて、そのために人を見る目ももう、鈍っていたんでしょう。

サヤから別れを切り出したのか、章が切り出したのかはわかりません。
でもおそらく、章は自信喪失しているでしょう。
サヤは吹っ切って、よく眠れるようになった。
けど、章に安らかな眠りは訪れていないように思います。

これ見ていたら、唐揚げが食べたくなってしかたない。
マスター、ハイボールは結局、メニューに加えなかったんでしょうか。
最後の唐揚げの作り方を説明するサヤ。
後ろで夏木刑事が食べているのが、楽しい。


人生を変えるきんぴらごぼう 「深夜食堂」第28話

深夜食堂で、ゲンが食べている。
ゲンは剣崎竜、常連客の竜ちゃんの子分だ。
竜ちゃんはこの辺りでは、マスター曰く「イイ顔の兄さんだ」。
大きな組織の、幹部である。

ゲンが食べていると、1人の女性が入ってきた。
女性は、きんぴらごぼうを注文した。
その女性を見て、ゲンは固まる。

「きんぴらはささがけにしたんじゃ、良さが出ない」と言うその女性に、ゲンは恐る恐る言う。
「やっぱり、きんぴらは千切り…ですよね」。
それを聞いた女性は「お兄さんも好きなんだ、きんぴら」と笑った。

突然、ゲンは立ち上がって最敬礼した。
「ご無沙汰してます、市川先生!」
「林ゲンです!」

「ケンカばっかりしてた、あのゲンちゃん?」
「見違えたわね~!良い男になったわね、何年ぶり?!」
「10年ぶりに帰ってきて、まさか君に最初に再会するとはね、何か縁があるのかしら」。

女性は市川千鶴。
ゲンの中学時代の部活の顧問で、英語の教師だった。
ニューヨークで暮らしていて、10年ぶりに帰国したのだと言う。

「向こうで一緒に暮らしている人って、旦那さんですか」。
「同じ職場のルームメイトよ」。
この年齢で結婚していないなんて、みじめ?と千鶴が聞くと、ゲンは慌てて否定する。
「先生はあの頃と、全然変わってないです」。

ゲンは、千鶴と飲みに行く。
下戸なのに飲んで酔っぱらったゲンは、小寿々のゲイバーで「先生、愛してる!」と叫ぶ。
千鶴は、ニューヨークへのみやげを買う。

ゲンは、それに付き合った。
千鶴が、手ぬぐいを手にする。
花火の模様の手ぬぐい。

深夜食堂で、忠さんがその手ぬぐいを広げて「良いねえ」と言う。
小寿々もそれを見て、「どれどれ、アタシにも見せてよ」と言って近づく。
隅で食べているゲンが「汚すんじゃねーぞ」と注意する。

「あら、カワイイじゃない」と小寿々が言う。
「ゲンちゃんに似合ってるかどうかは、別として」。
小寿々が手ぬぐいを折って、自分の肩にかける。
「アタシには似合うでしょ」。

ゲンが猛然と立ち上がり、奪い取っていく。
小寿々が「先生、ゲンちゃんの仕事知ってんの」と聞く。
「自由業だって伝えてあるよ」。

忠さんが「まあ、やくざも自由業だから嘘じゃねえけど」と言う。
「なあ」。
小寿々は「女が一番嫌いなのは、隠し事する男よ」と言った。

「わかってるよ!」
「今、その、頃合いを見計らってるんだよ」。
マスターが小寿々に酒を運んできて「先生、いつ帰るんだい」とゲンに聞いた。

「2週間こっちにいるって言ってたから、あと…、4,5日会えると思う」。
「今から寄れば?」と小寿々が言う。
「忙しんだよ。毎晩、昔の仲間や、世話になった人と飲み明かしてっから」。
それを聞いた忠さんが、ポツリと言った。

「なんだか…、お別れ言いに来たみてえだなあ」。
マスターも、ゲンも一瞬、沈黙する。
「どういう意味だよ」。
「どっちみち、自分の番が来るまで待つしかないってわけね」と小寿々が言う。

その3日後、ついにゲンちゃんの番がやってきた。
ゲンは深夜食堂に、千鶴と来た。
この前の小寿々の店で酔っぱらったことをゲンは、詫びる。

携帯電話の振動の音がする。
千鶴が、自分の携帯をひっくり返す。
しかし、近くの席の男が自分の携帯を取り、話し始めた。
千鶴の携帯は、鳴っていなかった。

「俺なら、良いっすよ、さっと食って帰りますから」とゲンは言う。
「違うの。明日から熱海に行く予定だったんだけど、全然連絡なくって。やんなっちゃう」。
「彼氏…、さん、ですか」。
ゲンが視線を落としながら、聞いた。

「昔の男」と、千鶴が言った。
「女房が怖いんでしょ」。
「あー、どうしようかな」。
千鶴は、きんぴらごぼうを食べていた。

「あの…」。
思いつめたように、ゲンが言う。
「俺じゃダメかな」。
「あ、熱海」。

「え?」
千鶴がビックリする。
「ゲン、くんと?」

うつむくゲン。
黙って、うなづく。
「良いの?こんなおばあちゃんで」。
「いいっす、いいっす!」

ゲンは立ち上がる。
「おばあちゃんなんて、とんでもないっす!」
「そんなこと言うやつ、俺、ぶっ殺してやりますから!」

ゲンはそう言って、ドスを構えるポーズをする。
「大変ね、マスターも」。
微笑む千鶴。

千鶴が滞在しているホテルまで、ゲンは送って行った。
「明日、遅刻しちゃダメよ」。
「俺、もうガキじゃないっすから」と、ゲンが笑う。

「ごめん」。
ホテルのガラスドアーが開いて、男性が近づいて来る。
「ちょっと職場でごたごたあって」。

千鶴が約束していた男性だった。
「でも大丈夫。明日一緒に行けるから」。
そう言ってゲンをちらりと見て、「知り合い?」と聞く。

「昔の教え子」。
「そう。部屋まで送ってくよ」。
そう言うと、男性は千鶴の荷物を持とうとする。

千鶴は身をよじって、拒否した。
「怒ってんの」。
「そりゃ怒りますって、先輩」。

ゲンが口を出した。
「先輩からの電話、先生がどれだけ、待ちわびてたか。だからもっと、大事にしてあげてください」。
腰を落として、両足を開き、ゲンは首を垂れる。
「お願いします」。

「ゲンくん…」。
「先生も意地はんないでさあ、気持ち良く2人で行って来なよ!」
「みやげは、干物で良いっすから!」

そう言うとゲンは、「お先に失礼します」と言って去って行こうとした。
「行かないで!」
千鶴が叫んだ。

ゲンの手を引いてホテルに入っていく。
フロントを通り過ぎる。
「何!」
驚いたゲンが言う。

「イイの!」
ゲンの手を引きながら、千鶴は言った。
「お互い、とっくに賞味期限切れてんのに…。バカよね」。

ゲンはためらいながら「俺、先生に隠してたんすけど、実は…」と言った。
「やくざなんでしょ?」
千鶴は、ゲンがやくざであることに気付いていた。

「どう見たって、堅気には見えないもん」。
「ほんとに、俺なんかで良いんすか」。
「その代わり、ちゃんと抱いてね」。

「え?」
ゲンは驚く。
「明日まで取っとくつもりだったけど、残ってる時間は少ないんだから!」

「目いっぱい楽しもう?」
千鶴は笑顔だった。
「はい」とゲンは言う。

深夜食堂で、ゲンは千鶴を待っている。
ゲンが高校止めて上京する時だった。
「先生は『良い男になって戻っておいで』と言って餞別をくれた」。

そして、自分のお弁当をくれた。
「汽車の中で食べなさい、って」。
マスターは「良い先生じゃないか」と言った。

ゲンの前には、きんぴらごぼうが置いてあった。
「他にも、具は入っていたんだけど…」。
ゲンは遠い目をする。
「そんな中で、こいつの甘じょっぱさが体に沁みてよ」。

「…」。
ゲンが沈黙する。
「俺、…足を洗って、先生幸せにしたいと思ってる」。

「アニキにそのこと打ち明けたら、逆だって殴られた」。
アニキとは剣崎、常連の竜ちゃんのことだった。
「女がお前を幸せにしてくれるんだよって」。

マスターが「先生、明日帰るんだろう」と聞いた。
「伝えたのか?」
「また思い出にしちまいたくねえから」。

その時、深夜食堂の戸が開いて、千鶴がやって来た。
2人の様子に「何なに、何の話?」と聞く。
「それより先生、具合どうだったんですか」。

ケンの質問に千鶴が「え?」と言う。
「今日、入院してる友達の見舞い行くって言ってたじゃないですか。元気だったんすか」。
「うん。ビックリするぐらい元気だった。来月退院できるって」。

「良かったじゃないすか!」
ケンはビールを頼んだ。
めでたい時は、乾杯だと言って頼んだが、下戸のゲンはビール一杯で眠ってしまった。

隣でカウンターに顔を押し付けて、ゲンは眠っていた。
マスターが千鶴に「次はいつ帰って来るんだい」と聞く。
「わかんない」。

「ゲンちゃん、さびしがんだろうな」。
マスターがタバコをふかす。
それを見ていた千鶴が「一本もらっていい?」と聞いた。

マスターがタバコの箱を千鶴に向け、千鶴が一本、抜き取る。
千鶴のタバコに、マスターが火をつける。
「向こうじゃ愛煙家は肩身が狭いって聞くけど」。
「行ってから止めてたけど、もういいの」。

ふーっと、千鶴は大きく煙を吐いた。
マスターが灰皿を、千鶴の前に置く。
「あたしはもう、思い出さない」。

千鶴はなぜか、キッパリ言った。
「ここで会った時も、ゲン君に言われなきゃ思い出さなかったしね」。
千鶴が煙を吐く。

「ずっとアメリカに、いるつもりかい」。
「ううん」。
「今度はもっと、遠くに行くの」。
「だからゲンくんも、あたしのこと、忘れてほしい」。

ボーン、ボーン。
時計が鳴る。
カチコチと、時計の音がする。

「こらっ、ゲンくん、行くよ!」
千鶴は帰ろうとするが、ゲンは朦朧としている。
ゲンは、ホテルのベッドの上でも寝ていた。

すーすーと、寝息が聞こえる。
千鶴は、ゲンの傍らに腰を下ろす。
そっと、ゲンの顔に自分の顔を寄せる。

「せんせい…」と、ゲンが寝言を言う。
「バイバイ」。
そう言うと、千鶴はスーツケースを転がし、バッグを肩にかけて出て行った。

深夜食堂。
常連客のカメラマンが「今日ものぞいたらちゃんと働いてましたよ」と言う。
忠さんが言う。
「ほんとに。足を洗って堅気になるとはな」。

「そろそろ、ひと月になるんじゃないか」。
「あたしも、人生変えるような恋がしたいなあ」。
常連のサヤが言う。

「これ食べないと!」
そう言うと、忠さんが自分の前にあった皿を置く。
「ご利益あると良いけど」。
その深夜食堂には、エアメールが置かれている。

ゲンはパチンコ屋で、働いていた。
頭には、千鶴にもらった手ぬぐいをバンダナにして巻いている。
一人の客が、ゲンを呼び止める。

帰るので、いっぱいになったパチンコの玉を持ってくるように言ったのだ。
パチンコ玉でいっぱいになったいくつもの箱を、ゲンは引きずっていく。
目の前に、兄貴分だった竜ちゃんが立っていた。
黒ずくめにサングラス。

ゲンが気づいて、立ち上がる。
竜ちゃんがスーツの内ポケットから、エアメールを出す。
ゲンに渡す。
きょとんとして、ゲンはエアメールをながめる。

中を開ける。
手紙を出す。
字面を追う。

もう一枚、折りたたまれた手紙を開ける。
ゲンが、呆然自失といった表情で固まる。
目が泳ぐ。
竜を見て、何か言う。

そのまま、固まっている。
突然、ゲンはいっぱいにパチンコ玉が詰まった箱を蹴る。
蹴り飛ばす。

力いっぱい、箱を踏み潰す。
パチンコ玉が床に飛び散る。
さらに箱を蹴り飛ばす。
ひっくり返った箱を手に、今度は床にたたきつける。

座っている客が、何事かとゲンを見る。
ゲンは床に膝を着く。
号泣していた。

向こう側、ゲンがパチンコ玉を持っていくはずの方向に向かって、剣崎が何か言う。
丁寧に頭を下げる。
ゲンが床に座り込み、前のめりになっていく。
落ちているパチンコ玉を握りしめる。

肩を震わせ、ゲンは泣く。
頭に巻いていた、バンダナにしていた手ぬぐいをはぎ取り、ゲンは泣く。
ひたすら、泣いている。

セピア色の風景。
ベンチに座る千鶴と、ゲン。
ゲンの横には、千鶴が買ったいくつものショッピングバッグがある。

上着が、千鶴の膝にかかっている。
千鶴が、コーヒーの紙コップを持っている。
ゲンが同じ紙コップを持ち、飲む。

そよそよと、風が吹く。
緑のイチョウの葉が、揺れている。
千鶴は静かに満足そうな顔をしている。

視線が、上の方に向いている。
ゲンもまた、静かに満足そうな顔をして上を向く。
千鶴は、前を向いている。

ゲンが千鶴をちらりと見て、幸福そうに視線を前に向ける。
静かな時間。
幸せそうな2人。
…。



いきなり、深夜食堂です。
しかも28話。
すみません。

深夜食堂、第2シーズンになって存在感が増してきたゲン。
山中崇さんが演じてます。
千鶴は、つみきみほさん。
美少女アクションでデビューしたつみきさんですが、しっとりとした大人の女性役が似合っていました。

千鶴が滞在しているニューヨークのことをゲンが、「アメリカの首都だよ!」と言う。
こんなところでくすぶってる自分なんかとは、世界が違うとはしゃぐ。
常連客が「アメリカの首都はワシントン…」と言いかける。
ゲンの睨みで「ニューヨークです」と言う。

そう、常連客とは親しくなったけど、ゲンちゃんはやくざ。
兄貴分の竜ちゃんも、深夜食堂の常連だけど、大組織の幹部。
竜ちゃんは、松重豊さん。
こういう役やると、シャレにならないほどハマる。

最初の時、ゲンがやってきて、マスターに絡む。
その時、食べていたホストはまず、ゲンを見てひるむ。
ゲンの後に入って来た竜ちゃんを見て、「お、俺、もう行かなくちゃ」って逃げていく。

「ビッグマネー!」というドラマで、松重さんは総会屋の小日向さんの用心棒というか、右腕を演じていました。
そこでも主演の長瀬さんが、松重さんの演じるマッキーを見ると、飛びのいてましたもん。
最初にやって来るのを見た時は、「うわああ…」って言ってましたし。

その松重さんの竜ちゃんの子分が、ゲンちゃん。
最初こそ、感じ悪かったゲンちゃんだけど、この後、竜ちゃんが刺客に襲われます。
その時、最初に手を切られたのはゲンちゃん。
ゲンちゃんが転げまわって悲鳴を上げていて、竜ちゃんはゲンちゃんをいたわりつつ、刺客を蹴散らした。

その後、ゲンちゃんに「大丈夫か」と声をかけていた時、道の端にいたホームレスが突然、竜ちゃんを刺した。
最初にゲンちゃんを襲って、竜ちゃんに隙が出るのを待っていたんですね。
この後、ゲンちゃんは竜ちゃんを襲った相手の組の幹部を刺して、追われる身になりました。

小寿々さんの店にいたゲンちゃんにマスターが「兄貴分に迷惑かけて」って怒りました。
出頭していくゲンちゃんを待っていたのは、竜ちゃんでした。
「逃げませんから…」と頭を下げるゲンちゃんに竜ちゃんが「付き合わせろよ」と言う。
そして、付き添って行く。

この話はまた、別の機会に書きたいと思います。
12話ではゲンちゃんは、女の子に貢がせて、乱暴な扱いをしている男に腹を立てて、思い知らせてました。
ゲンちゃんって、結構なドラマがある登場人物なんです。

そして竜ちゃんが、すごく良い兄貴分なんです。
ゲンちゃんは、竜ちゃんを「アニキ!」と慕っていた。
そのゲンちゃんが、足を洗うと言うんだから、大変なこと。

足を洗う自体、大変なこと。
おそらく、竜ちゃんがかなり、動いてくれたんでしょう。
ゲンちゃんは五体満足で、ちゃんと働いていました。

山中崇さんが、実にうまくゲンちゃんを演じています。
やくざのゲンちゃんの、純情が切ないぐらいに伝わってきます。
高校を辞めて上京して、やくざになったゲンちゃんのおそらく初恋だったのでしょう。

千鶴のために頭を下げるゲンちゃん、まんま「お控えなすって」の世界なんです。
あの時、ホテルの前で千鶴が昔の彼氏を選ばなくて、本当に良かった。
そして千鶴は、全部わかっていた。

最後、エアメールが深夜食堂でアップになってからは、無音です。
テーマソングが流れるだけ。
だから最後、竜ちゃんがゲンちゃんに何を言ったのかはわかりません。

ゲンちゃんが何を言われたのか、何の手紙だったのか、はっきりと描写はされていません。
すごく悲しく、良い演出です。
そして、セリフがなくても伝わって来る山中さん、松重さんの演技が素晴らしいです。
竜ちゃんのお詫びの言葉、きっちりとしたお辞儀なので、聞きたかった。

忠さんの「お別れみたい」という言葉。
やめていたタバコを、吸っていること。
入院していた友達の見舞いに行っていたと言いながら、それを聞かれると「えっ?」と戸惑っていたこと。

マスターに「あたしはもう、思い出さない」と言った時の口調、
「今度はもっと遠くに行くの」。
「ゲンくんもあたしのこと、忘れてほしい」と言う言葉。

そこからの想像されること。
千鶴が日本に帰って来た理由は…。
不治の病だったから。
千鶴は、自分の余命を知って、日本にいる人たちにお別れを言いに帰って来た。

入院している友達の見舞いというのは、自分の診察だった。
もうすぐ退院というのは、余命いくばくもないということだった。
今度はもっと遠くに行く、というのはこの世を去るという意味。
最後のエアメールは、千鶴のニューヨークのルームメイトから。

ゲンちゃんに伝えてほしいと言われたルームメイトが、深夜食堂に送って来た。
そしてマスターは、誰にも言わずに竜ちゃんにだけは話して、エアメールを託した。
でなければ、堅気になったゲンちゃんに竜ちゃんが会いに来るわけがない。

そして最後の、ゲンちゃんのあの嘆き。
あの手紙は、千鶴の死の知らせだったのでしょう。
何もはっきり、言われていないけど、この想像は切なく、胸を打つ。

幸せそうな2人の、最後のシーン。
ゲンちゃんの幸福そうな顔と、その心の中。
隣で幸せそうに、それでも宙を仰ぐ千鶴。
その心中を思うと、とても哀しく切ない…。

手紙を持ってきた竜ちゃんが、赤いウインナーを食べる理由を描いた第11話があります。
まだ純情だった竜ちゃんの、少年時代。
その想い出の人。
竜もその思い出の大事な人を、病で亡くしている。

たまに登場する野口刑事と竜ちゃんには、個人的な関係があったことがもわかる。
この話もまた、書きたいと思いますが、かなり切ないお話でした。
あれを思い出すと、この時の竜ちゃんもかなり切ない。

あの丁寧なお辞儀は、「筋を通す人」という性格だけじゃない。
ゲンちゃんへの寄り添う気持ちの表れだと思いました。
竜ちゃんは自分のつらい経験を、ゲンへの思いやりにしているのでしょう。

知る人ぞ知る、深夜ドラマなんでしょうが、「深夜食堂」。
俳優も演出もとても、良い。
ドラマに一番あってほしい、人間を描いているドラマ。
心に響く、良作だと思います。