「深海展」は、国立科学博物館で開催中ですが、常設館も見どころがたくさん。
「はやぶさ」が持ち帰った、「イトカワ」の微粒子も見ることができます。
そしてこれは、フタバスズキリュウ。
ネッシー!

フタバスズキリュウ

ちゃんと全体が見えてませんね。
首のところもわかりにくいし。
大きいんですよ、これでも目いっぱい、壁のところまで下がって撮りました…って、言い訳。

ネッシーは、プレシオサウルス。
これはプレシオサウルス上科エラスモサウルス科だそうです。
1968年の発見から新種と認められるまで、38年かかったとか。
宇宙ではない地球上にはまだまだ、人類が把握していないことはたくさんあるんですねー。


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2017.09.25 / Top↑
土曜日の夜は、明日もお休みということで、心に余裕があります。
その土曜日のこの時間につけているテレビ番組が、スマステーション。
特集がアニメだったり、洋楽だったり、文房具だったり。
良い情報番組です。

これが土曜日のこの、まった~りと送る時間に見るのにピッタリなんですよ。
すごく、熱心に見ていたわけじゃない。
毎週、待ちに待っている…というわけじゃない。

でも、チャンネルを合わせる。
もしくは、そのままにしていると始まる。
気が付くと、これが習慣になっていたんです。
この番組が始まると、ああ、土曜日の夜だなー!って実感する。

夜にお茶なんか飲んじゃいけないけど、金曜日や土曜日の夜ならオッケー。
本当は夜に食べちゃいけないんだけど、金曜日や土曜日の夜ならオッケー(?)
ポットを温め、お湯をさらに沸かし、茶葉を計ってポットに入れる。

時間が経ったら、今度は用意しておいた別のポットにお茶を入れる。
思い切って買ったカップにお茶を淹れる。
コジーでポットを覆って、お茶が冷めないようにして、用意した焼き菓子をいただく。

飲める人ならこれ、おつまみを用意して、ビールとかワインとかお酒なんでしょうね。
この時間。
ああ、今週もこんな時間が持てて本当に良かった。
そう思える時間です。

この時間のお供だった、スマステーション。
終わってしまった。
今回で最終回だった。
最終回も特別なことはなく、いつもの通りに進行して行きました。

違ったのは、冒頭、いつもバッグにしている東京タワー。
東京タワーが、スマステカラーになってました!
これ、完全に東京タワーの気遣いでしょうね。
粋だなあ、東京タワー!

香取慎吾君の目が、うるんでいたように見えました。
私も「だから東京タワー、好きよ!」って言ってしまいました。
スカイツリーができても、やっぱり東京タワーよ!
ギャオスが巣を作るのは、やっぱり東京タワーでなくては!

放送終了するまで、東京タワーはスマステカラーでした。
イイね、東京タワー!
そして、最後の最後に香取さんが大下さんと話す時間ができました。
小林克也さんも参加して、このメンバー好きだなあ。

それでこの最終回が、699回だったんですね。
700回で、いったん終わるのが良かったのに!
9月の土曜日だって、あと1回あるんだし。

見てきた視聴者として、すごく残念。
視聴者の気持ち、置いてきぼりにされた気分です。
地上波じゃなくても、どこかでスマステやったら私は見ると思うなあ。

番組の中で香取さんが言ってましたが、草なぎさんと稲垣吾郎さんからメールが来ていたそうです(稲垣さんからはなかったですね、ごめんなさい)。
出てましたもんね。
応援してますよー。

そうそう、ブラタモリ見ながら夕飯食べたり、夕飯後のお茶飲んだりしてました。
これもブラブラするタモリさんの邪魔にならないナレーションが、良いと思います。
金曜日の夜は、ぷっすま見て、「あー、今週も終わったぞー!」「明日から休みだー!」ってノビノビ。

香取さん、最終回に見せた顔は、男っぽい、大人の男の顔してました。
いろんなことを経験して、人ができていくとしたら、香取さんはまさに今、ひとつ、顔を作ったところじゃないかな。
最後に香取さんの言葉が聞けて、すごく良かった。

人生、不本意なことが時には起きる。
そういう経験をした人で今、彼らを応援したいと思う人も多いのでは。
草なぎさんはドラマでこれまで培った演技を全開にして、すごみを見せてくれましたね。

稲垣さんもすごく、良い顔してる。
「ゴロウデラックス」も、おもしろいのね。
そうか、番組が木曜日、金曜日、土曜日、週末とリンクしていくんだ。

みんな、自分の意思を持っている表情をしています。
今日の香取さんもだけど、自分の言葉で語っている。
みんな、これからですね。
そして正式に、ファンサイトが立ち上がったんですね。

これからの彼らを応援していきたいと、本当に思いました。
スマステ、土曜の夜ののんびりのお供、ありがとうございました。
でもやっぱり寂しいよー!
それでもって、ああ、ほら、夜にお茶飲むから寝ないし…。


2017.09.24 / Top↑
上野の国立博物館で開催中の「深海展」。

   くまなまこ

深海展、夏休みシーズンには、ものすごく混んでいるという評判でした。
チケットを買うのに長蛇の列。
入場制限だったとか。

自分が行った時は平日だったので、それほどではなかったんですが、それでもやっぱり混んでました。
フラッシュを焚かなければ、写真撮影OKでした。
ただ、新種と思われる、新発見された深海生物は撮影NGでした。

深海生物は、幻想的に発光するものが多いですね。
展示されている生物は発光することはありませんが、泳いでいる様子はスクリーンで確認できます。
光る遺伝子を利用して光る花も、展示されていました。
ホタルイカを見た時は、おいしそうって思ってしまいました…。
「へんな生き物」という本に出ている生物も、いくつか見ることができました。

「ダイオウグソクムシ」はイギリスで5年間、餌をやらなくても生存していたそうです。
何のために絶食させたのか。
おそらく研究のためでしょうが、ご飯あげてください。
深海展は、10月6日まで!

2017.09.23 / Top↑
第26話、「拐かされて候」。


露天でおきんが怪しげな「ギヤマン」とガラスを売っている横で、浪人の筧弾正がガマの油を売っている。
そこに雨が降ってくる。
人はすぐに引き上げて行く。
おきんが店をたたみ、弾正にそっと傘をさしかける。

「ついてないね、お互いに」。
「こりゃどうも」。
「今夜は雪になっちゃうよ」。
「これはかたじけない」。

おきんと弾正は連れ添って帰ると、雨は雪に変わっていく。
弾正の家では娘のおさきが、食事の支度をして待っていた。
その時、屑伝と言われる目明しがやってきて、弾正に借金の返済を迫った。
屑伝は火消しでありながら金貸しをしている松五郎の手先になって、おさきを妾に差し出させようとしていた。

その松五郎が、おさきに執心なのだ。
弾正は屑伝を追い返そうとして刀を抜き、もみ合いになる。
屑伝は今日のところはおさきの顔を立てて帰るが、明日は駕籠で迎えに来ると言って帰った。
だが翌朝、おさきは何者かに誘拐された。

迎えに来た屑伝は、弾正の元に投げ込まれたという誘拐文を読んだが、信用しない。
番所まで弾正を屑伝が連れて行き、主水が応対に出る。
誘拐には身代金が付き物だが、弾正に金があるはずはない。
屑伝は主水を番屋の外に呼び出し、これは弾正の芝居だと言う。

弾正の妻は長患いの末、去年の秋なくなったが、薬代を松五郎に借りていた。
それが利子が重なって、百両にもなった。
主水は貸す方も貸す方だと言うが、松五郎はおさきを妾に差し出せば百両は棒引きにしてやると言っているのだ。
だからこれはおさきを差し出したくない弾正の狂言誘拐だと、屑伝は言う。

その頃、おさきはおきんの家で、役者に変装させられていた。
おきんは男伊達が売りのはずの火消しなのに、高利貸しをしている松五郎が、そもそも気に入らない。
だから、松五郎におさきを渡したくない。
御上を騙すことになるのだから、おさきは父も自分もお咎めがあるのではないかと怖がるが、その時、おきんの家の戸の方で気配がした。

おきんがあわてて「ユキさま」と言って、後姿のおさきに抱きつく。
訪ねて来たのは、大吉だった。
うっとりとしたおきんを、息を詰めて戸の陰から大吉が見ている。
だが大吉に気づいたおきんが「何だ、お前かぁ!」と声を出す。

おきんと大吉は貢と主水に、事の次第を話していた。
大吉はおきんが役者とねんごろになっているのかと驚いたと言い、おきんは笑う。
だが主水は、おさきの面倒をいつまで見るのかと聞いた。

おきんはほとぼりの冷めた頃、江戸から逃がしてやるつもりだと言うが、主水は「ばかやろう!世の中そんなに甘かねえぞ」と叱咤する。
主水が言うには、おきんはおさきを拐かした、れっきとしたお尋ね者だと言う。
「危ない橋渡りやがって」と主水は怒り、大吉も人助けなんか柄じゃないと言った。

貢も、余計なおせっかいだったと言った。
だが、おきんは人が良い弾正が好きだと言う。
おきんは自分ひとりでもやると言って、走っていく。

夜、おきんの家でおさきが寝ようとしていた時、表の戸が激しく叩かれる。
「誰だい」とおきんが出て行くと、弾正が飛び込んでくる。
屑伝に後をつけられたと言う。
「早く!」

おきんが弾正とおさきを匿う。
家に近づいてくる屑伝を、おきんが息を詰めて見ていた時、「屑伝の」と主水が声をかけた。
「中村様」。
なぜ主水が見回りからはずれている、この辺にいるのか。

主水は見回りの途中で気になる奴を見つけて、ここに来たと言う。
それを聞いた屑伝が、それはどちらに行ったか聞くと、主水は適当に答える。
すると屑伝は、言われた方へ走っていく。

屑伝がいなくなると主水がおきんに「おきん。早く寝るんだ」と、戸越しに声をかける。
「八丁堀…」と、おきんが微笑む。
「おやすみ」。

松五郎の家で、屑伝は、「おさきはすぐにあぶりだせる」と言っていた。
しかし、気になることがひとつ。
おさきがかどわかされた一件は中村と言う同心が担当なのだが、とそこまで屑伝は言うと、松五郎に耳打ちする。
それを聞いた松五郎は、今さらその昼行灯が弾正に手を貸しているとは思えないが、それがあんな場所にあの時間にいたことが気になる。

とりあえず、主水が邪魔にならないように手を打つと、松五郎は屑伝に約束した。
弾正を引っ張って吐かせるという手があるが、それは最後の手段だ。
松五郎は親思いの優しい、身も心も無垢なままのおさきがほしいのだ。
おさきの純粋さを失わせるような真似は、極力避けたい。

翌日、奉行所でさっそく、主水は与力の名島に呼ばれた。
名島は主水に、おさき誘拐の解決の目処が立っていないことを理由に反省しろと言って、10日間のお役御免を言い渡す。
それを聞いた主水は薄笑いを浮かべ、首を振る。

おさきの誘拐は公開捜査となり、おさきの人相書きが町中に貼られることとなった。
それに対し、弾正が百両の借金を返済していないことから、弾正も尾行と見張りをつけられる。
その頃、おきんの家では妙心尼が経を上げていた。
貢と大吉が、棺おけをかついで外に出る。

外には屑伝たちがいるが、妙心尼は「なりませぬ!御仏のお通りです。お下がりなさい」と一喝する。
屑伝たちが道を空けると、貢と大吉が棺おけを車に載せる。
大吉が車を引き、おきんと貢と妙心尼が長屋を離れていく。
屑伝の手下が1人、車の後をずっとつけてくる。

池のほとりを歩き、おきんが立ち止まって、最後尾にいる貢に何か言うと、貢は列を離れていく。
おきんが振り返り、振り返り、道を行く。
するとついていく屑伝の手下を、背後から貢が手ぬぐいで締めた。

大吉の家についた妙心尼たちは、おさきを棺おけから出してやる。
おさきが深く頭を下げると、大吉は何か暖かいものを作ってやった方がと、提案し、おさきが着替える。
それを大吉が見ている。
おきんが気づいて大吉を引っ込ませると、妙心尼はおさきを連れて寺に入る。

主水と貢も来て、大吉とおきんと話をする。
暗い家の中で大吉が貢に「やったのか」と聞く。
「ああ、顔を見られたからな。だから」。
主水が「こうなったら、おめえ、やってもやらなくても同じことだ。そのうち、屑伝は俺たち4人のことをしつこく追い込んでくるぞ」と言う。

屑伝の後ろには松五郎がおり、その松五郎は北多町の鬼与力・名島帯刀と繋がっている。
主水をお役御免にしたということで、「足元に火がついたな」と主水が言うと、おきんが「あたいが悪いんだよ」と言う。
「ようし、こうなったら!」と、おきんが立ち上がった。
大吉が「おきん、どうするんだ?」と聞くとおきんは「決まってるよ!自分でまいた種だ。自分で刈るよ!」と言う。

出て行こうとするおきんを大吉が呼び止めようとした時、主水が引き戻す。
「何すんだよう!ほっといておくれよ!」
「おきん!」
おきんは主水に引っぱたかれ、悲鳴をあげる。

もはやおきん1人、ガタガタしたって始まらないと言われ、おきんは頬を押さえて座る。
貢に、「俺たちは初めから一蓮托生なんだ」と言われ、思わずおきんは泣き始めた。
「泣くな!」
主水はおきんの顔を上げて怒鳴る。

松五郎のところに、屑伝が報告に行く。
名島も来ていた。
その頃、弾正は古物商に、刀を売りに来ていた。

弾正の刀は無名だが名刀で、祖先が伊達政宗より拝領した刀だと言う。
こえrは、どんなことがあっても手放すまいと思っていた宝だ。
しかしそれを手放す決意をした弾正に、古物商の男も「ほかならぬ筧様の刀だから」と小判を4枚出した。

古物商の前に、屑伝と手下が来ていた。
小判を取り上げられそうになった弾正は逃げ、蕎麦屋の店先でおきんに出会うと「もういい。ここまでで精一杯。あんたに会えたのは地獄に仏だ」と言う。
そしておさきに先ほどの4両を渡して、「自分に構わず秋田へ落ち延びろと行ってくれ」と言うと、「わしはもう、疲れました!」と表に来ている屑伝たちを睨んだ。

弾正の、亡くなった妻の父が、秋田の横手で居酒屋を営んでいるのだ。
「奉行所に連れて行ってもらおうか!」と言った弾正を、屑伝たちは連行して行った。
何事かと見ていた蕎麦屋の客たちも、屑伝に睨みを利かされると、こそこそと見ない振りをした。

おさきは夕方、寺で落ち葉を集めて燃やしていた。
大吉がそれを見ていると、おきんがやってくる。
おきんはおさきを探すと、弾正から預かってきた財布を渡す。

屑伝がつきまとっているので、弾正はここまで来られないと言うと、おさきは大金を不思議がる。
その夜、弾正は松五郎の屋敷で、叩きの拷問を受けていた。
だが元は槍一筋の武家だっただけに、弾正は屑伝も汗をかくほど責めても一口も口を利かない。

同じ夜、おきんはおさきと一緒に秋田まで行こうかと言った。
だがおさきは、父と一緒でなければ行かないと言う。
松五郎から借りた薬代は、5両だった。

人の良い弾正は利子の仕組みも知らず、借金はたちまち膨れ上がった。
近頃では弾正は、自分の命で支払うと言っていたのだ。
一体、父に何があったのかと、おさきは不安がり、外に行こうとするが、おきんは「お願いだからここにいておくれ」とすがる。

翌朝、江戸のゴミ捨て場にゴミを捨てに来た男たちが、弾正の死体を見つけた。
弾正が死んだのを知って、名島は松五郎と屑伝を怒った。
責めが過ぎたのではないと言い訳する松五郎に、名島は言う。

弾正が惜しかったのではない。
中村主水への手がかりを失ったのが、惜しいのだ。
屑伝はそれに関しては必ずつかむと、約束した。

大吉の家に、妙心尼が駆け込んできた。
弾正を心配し、また自分が行けば誰も不幸な目にあうことはないと思ったのだろう。
おさきは書き置きを置いて、松五郎の元へ行ってしまったのだ。
小判はもう、自分には必要のないものだから置いて行くとあった。

主水が仕留人たちに、今朝、弾正の死体がゴミ捨て場に捨ててあったことを話す。
おきんが松五郎の家から駕籠が出て、根岸の御殿に着いたのを突き止めてきた。
町火消しの親方が、あんな御殿を持っていること自体が驚きだ。

おきんが話している最中、主水が弾正の財布に「4両、入ってるな」と言う。
「決まった!」とおきんが叫んで行こうとするところを、主水が押さえつけて、部屋に引きずり込む。
早くおさきを助けたいと焦るおきんに主水は「おめえに命がけで頼みてえことがあるんだ」と言った。

名島が歩いていく先に、粋な遊び女風に装ったおきんが「お殿様」と声をかける。
耳打ちすると、名島は「何?松五郎が?」と聞く。
「そうなんですよ。あたしはね、聞いちゃったんですよ。旦那は知りすぎた人物だから、御老中に話して、甲府の山猿たちの仲間入りをさせたほうがいいだろう、って」。
「わしを甲府勤番に?おのれ、下郎め!」

おきんはホホホと笑って「下郎に気を許したお殿様がいけないのさ」と言う。
松五郎は急ぐ。
夕闇に照らされて、松五郎の屋敷から駕籠が出て行く。

門の前で主水が財布を出し、貢と大吉が1両ずつ取っていく。
それぞれに散っていく。
名島が歩いてくる。
主水が待っている。

「名島様、何か事件ですか」。
「何でもない!」と、名島は憤然とした様子で答える。
主水は密かに刀を抜いて、背後に隠す。

「事件ならば、わたくしめにもお言いつけください」。
「しつこい奴だな!帰れ!」
名島がそう言った途端、主水が名島を刺す。

刺された名島が倒れる際に、門の戸が開く。
名島がそのまま、門の向こうに倒れる。
主水が門から離れ、あくびをする。

そっと庭に通じる松五郎の屋敷の戸が開き、大吉が庭に入ってくる。
座敷に忍び寄ると、黒ずくめの貢も現れる。
松五郎が屑伝に「ご苦労様」と、小判を渡している。

部屋の戸が開き、おさきが弾正に会わせてくれと言って、座っている。
屑伝がおさきを松五郎の元に、「親分さんとよぅく相談するんだよ」と言って連れて、自分は出て行く。
まず、杯をと、松五郎がおさきの手を取る。

「あっ、いや!」
おさきが逃げようとするのを、松五郎が抑える。
隣の部屋で屑伝と用心棒が「へっ」と言って、酒を飲みながら笑っている。
その時、胡桃がすり合わされる音がする。

「何だ?」
屑伝と用心棒が立ち上がり、廊下に出る。
暗い廊下の先に、名島が座っている。

「名島様あ」。
名島が倒れると、背後に大吉の胡桃をすり合わせる手が見える。
大吉の影が、ゆっくりと現れる。
灯りに照らされて、大吉の顔が見える。

「貴様、何者だ」と用心棒が刀を構える。
屑伝が逃げる。
大吉が砕いた胡桃を、用心棒に投げつける。
用心棒が思わず、顔を覆う。

大吉が用心棒に飛び掛ると、刀を受け止める。
もう一度切りかかろうとした用心棒の心臓を、つかむ。
用心棒が倒れると、屑伝が十手を手に廊下を逃げていく。
大吉が胡桃を投げる。

屑伝が胡桃を踏んで、転んだ。
大吉は屑伝の足を引きずっていき、押さえつけると十手を持つ手を左手で押さえる。
右手を構え、屑伝の心臓をつかむ。
屑伝が動かなくなると、大吉は懐から下駄を出し、庭からそっと出て行く。

座敷では、おさきが松五郎に追い詰められようとしていた。
松五郎がおさきを捕まえた時、ふと気配がした。
「誰だ!」と言って、松五郎が振り向く。
廊下に面した障子を見て、松五郎は灯りを吹き消す。

暗闇の中、障子に黒い影が映り、歩いていく。
ピンという音がして、矢立から針が出る。
ザザザと音がして、障子が破けていく。

戸が開くと、松五郎が針を見てハッとする。
貢は矢立を持ったまま、近づいていく。
松五郎が逃げようとするが、黒ずくめの貢が押さえつける。
組み伏せると、こめかみを一気に刺し貫く。

松五郎が悶絶する。
おさきが逃げる。
貢が無表情に針を抜き、おさきを見て、消えていく。

廊下に出たおさきに、屑伝の死体の前におきんが張ってくる。
「おさきちゃん」と手招きをし、おさきを連れて夜道を走っていく。
必死に走っていく2人を見た主水が、反対方向に歩いていく。
木枯しが吹いていた。



まず、おきんと弾正のお仕事シーンが映り、おきんが弾正を良く思っていることがわかる。
弾正に好感を持てなくては、この話、おきんが弾正とおさきに肩入れする意味がない。
そしておきんがおさきを匿ったことで、主水が怒る。
「危ない橋渡りやがって」。

それに対しておきんは声を低くして、「八丁堀よう。じゃあ、あんた、危ない橋渡ってないとでも言うのかい?」と言う。
「てやんでえ。散々、泥水飲んできたくせに、奇麗事言うんじゃねえや」。
なかなか、ドスがきいてます。

しかし、主水だって言う。
「おきん。俺たちはな、絶対に足は残さねえ。お尋ね者になったり、目明しに付け狙われたりしたら、その時から俺たちの仕事は成り立たなくなるんだ」。
確かにその通り。
「仕置人」の最初の頃は、全然平気な感じでやってましたけどね。

大吉も言う。
「それは八丁堀の言う通りだぜ。けちな人助けなんざ、俺たちの柄じゃねえよ」。
これはいつも言っていること。

「じゃあ、あたいのやったことが間違ってるって言うの?貢。あんたどうなんだい?」
やっぱり、貢が最後にものを言う。
すると貢も「まあ、余計なおせっかいだったんじゃないのかい?おきんさん」と言う。

「そう!貢までそんな風に?」
この時のおきんの声は、主水や大吉に対する声と、ちょっと違う。
ちょっとだけ、女性らしく優しい。
貢がフェミニストだから、おきんも貢に対しては態度が柔らかいのかな。

だけど、貢にまで賛成してもらえなくて、おきんはショック。
でも貢は言ってくれる。
「しかし、やっちまったことはしょうがないじゃないか。まさか、そのおさきさんという娘。今さらキバをむいている狼どもの前に放り出すわけに行くまい」。

貢にそう言われて、おきんは「ね?ね!ね!」と元気になる。
そこで貢はさらに「八丁堀だって石屋だって、そう思ってるんじゃないのかい?」と言う。
本当は、主水だって、大吉だって、助けてやりたいと思っているのが、貢にはわかっている。
そこを言えちゃうのが、貢。

大吉は「それは俺だって」と、口ごもる。
だが主水は「あの屑伝って奴はヒルみてえな奴だ。奴に一度、しっぽをつかまれたら、ずるずるっと俺たちは芋づる式にな」と警戒している。
ここでおきんが、「あたい…、あの弾正さんが好きなんだよ」と言う。

主水がちらりと貢を見る。
それは恋愛感情なのか…と一瞬思うが、そうじゃない。
「虫一匹殺せないような弱虫なんだ、あの人。周りの人に気遣って、優しくて、優しくて損ばっかりしていて。その為に百石取りの家禄までなくしちまったんだよ」。

人として、好きで放置できないということ。
主水たちを背に、おきんは言う。
「もういいよ。いいよ!あんたたちがやらないんだったら、あたし1人だってやってやる!」
おきんの暴走に、気持ちだけはわかる仕留人3兄弟は顔を見合わせる。

屑伝が、現れた主水を不審に思い、松五郎に報告。
すると松五郎は「あの昼行灯の無駄飯食らいのと言われている、馬面さんかい?」と言う。
名島がいるから同心には詳しいんだけど、この主水の知られ方がおかしい。
結構、有名なのかも。

しかしこれで主水は、10日間、お役御免になってしまう。
それを聞いて、同心たちがちょっと笑いながら噂している。
主水は、「あっ、そう…」と納得した様子。

お役御免になった主水が、自宅で障子の張替えをやっている。
もちろん、主水はせんとりつに、何の失態をやったのか責められる。
でも今回は本当に身に覚えはなく、理不尽極まることだと言った。

すると、せんが役所では主水を無駄飯食らいとバカにしていると話すんですね。
しかし、主水は笑って「まだ他にもありますよ。昼行灯ね。無駄飯食らいの昼行灯。うちへ帰れば種無しかぼちゃか。あーあ、今年もいよいよ押し迫ってまいりましたな」とせんべいをかじる。
笑っちゃう。
もう、達観してる、しちゃうよね。

今回は妙心尼まで協力しての、おさきを長屋から脱出させる。
ここで今回は「なりませぬ!」が出る。
なかなか、尼僧としてはビシッと言う時は言う。
しかし、庭掃除するおさきを見つめる大吉に向かって、「こちの人~ん」と言う声は甘くなまめかしいんです。

そして、主水がお役御免になり、おさきを寺に預けた後、仕留人たちは大吉の家に集まって話す。
主水をお役御免にしたということは、喉笛に匕首をつきたてられているようなものと言う。
「足元に火がついたな」と主水が言うと、おきんがさすがに「あたいが悪いんだよ」と言う。
「あたいがおっちょこちょいだから、こんなことになったんだ…」と。

大吉も貢も、まずそうな顔はしている。
するとおきんが立ち上がる。
大吉が「おきん、どうするんだ?」と聞くとおきん、「決まってるよ!自分でまいた種だ。自分で刈るよ!」と言う。
「おめえまさか」。

出て行こうとするおきんを大吉が呼び止めようとした時、今度は主水がおきんを乱暴に引き戻す。
「何すんだよう!ほっといておくれよ!」と叫ぶおきんに、主水は「おきん」と言って引っぱたく。
おきんは、悲鳴をあげる。

「てめえ1人、ガタガタしたって始まらねえんだ」。
主水の迫力、凄み。
そして主水は、貢と大吉を見る。
言葉は厳しいけど、みんながそのつもりなのがわかる。

「そうだよ。八丁堀の言うとおりだ」と、貢が言う。
こういう時は、物腰の柔らかい貢だな。
「俺たちはな、初めから一蓮托生なんだ。降りかかった火の粉は、みんなで消さなきゃならないはずだぜ」。
そう言って、貢は頬を押さえているおきんの横に座る。

3話で大吉が「俺たちはな、一蓮托生なんだ」と協力を求めるのに対して、「俺は断るよ。自分でまいた種は自分で刈り取るんだな」と冷た~く断った貢が嘘のよう。
さらに「それに相手が屑伝だろうが、松五郎だろうが、鬼の帯刀だろうが!やるときゃ、みんなでやるんだ。それまではじっと息を殺して待つんだ。相手の出方をな」と言う。
貢の優しい言葉に、思わずおきんは泣いちゃう。

「泣くな!」
今度は主水が、おきんの顔を上げて怒鳴る。
怒鳴るけど、それは一蓮托生を覚悟しているから泣くな!と言う意味。

この他にも主水は、おきんの家に迫って行く屑伝をさりげなくかわしてやってる。
口ではいろいろ言うけど、主水は優しい。
仲間は絶対、助けてやる主水の魅力的なシーン。
わかったおきんが「おやすみ」と笑う。

しかし、貢も変わりましたね。
貢の口から「一蓮托生」という言葉が出るほど、すっかり、裏稼業の人になりましたね。
今回は仕留めの前に1人、絞め殺している。
「顔を見られたからな」とアッサリ言うところが、殺し屋。

おさきが松五郎の所に向かったのを知ったおきんがわめいている最中、大吉が持って来た財布を囲んで、主水も貢も輪になってる。
「何やってんだよ!早く行かないとおさきちゃん、間に合わないじゃないか!」と、おきんはわめいてる。
でも3人は全然、気にしないで、財布を見る。

すると主水が「4両、入ってるな」と言う。
貢が「ほお」と言う。
3人はおきんがわめいているのに、別世界にいる。

今回は大吉が用心棒と屑伝、2人を始末。
名島は主水。
家の廊下まで連れてこられて、座らされていたらしい。
頭に来ているから、屋敷近くに主水がいる不審さにも気づかないらしい。

貢は黒ずくめで現れる。
おさきとは、顔見知りですからこうしたんでしょうが、このスタイル、良かった。
もっと見たかった。

障子を矢立の針で破っていく。
すると、その穴から、怯えた松五郎が見える。
松五郎のこめかみを刺して行く、見ていてこれは痛い、痛い仕置き。

おきんがおさきと走っていくのを、主水が黙って見て、反対方向に歩いていく。
秋田まで、おさきは行くのだろう。
しかし、最愛の父はもう、いない。

そして最終回を前に、前回同様、仕留人たちの仲の良さが楽しい。
全てを知っていて女性たちを見送る主水に、木枯しが吹く。
音楽と共に、どこか物悲しいラストシーン。


2017.09.16 / Top↑
第7話、赤川次郎原作「見果てぬ夢」。


夜の商店街。
ちりんちりん。
風鈴の音が響く。
サラリーマンの佐伯が、家に向かういつもの帰り道。

佐伯は、角を曲がる。
水たまりがあり、それを踏む。
角を曲がると、階段があった。
人の家の階段だった。

階段の横の表札には、「佐伯」とあった。
びしょ濡れの女子高校生が、階段に座っていた。
着ているセーラー服は、びしょぬれ。
髪からも、水がしたたり落ちる。

濡れた革靴のつま先が、上下している。
少女は恨みがましい目で、佐伯を目上げた。
「久しぶりだね」と佐伯が言う。

「寒かったわ」。
「ずっと、ぬれたままだもの」。
少女の言葉に佐伯は、「そうか。僕はもう忘れてしまった」と答えた。

「あなたは…、乾いたものね」。
「絵里。ぼくは」。
佐伯は少女を、絵里と呼んだ。
「いいの。会いに来てくれるのが、少し遅かったわね」。

「抱きしめて」。
少女が佐伯の背中に、手をまわした。
2人は抱き合う。
手が背中に回される。

口づけ。
だが少女の口からは、水があふれ出る。
佐伯の口に、水が注ぎこまれる。

苦しさのあまり男がむせる。
逃れようとする。
だが逃げられない。

「あなた、しっかりして」。
佐伯は妻の声で、目を覚ました。
「大丈夫?」

「夢…、見たんだ」。
「夢?」
「夢の中で、溺れかけた」。

朝、佐伯はうがいをする。
鏡に映った、自分の顔。
「年取ったなあ」。
「絵里。忘れていたよ」。

会社。
佐伯は入ったばかりの女性社員、永井かね子に声をかけた。
「どう仕事?楽しい?」

「また同じ質問。先週もここでそう言ったでしょう」。
かね子が笑った。
「忘れたんですか?私、声かけてもらってうれしかったんだから」。
佐伯は「年取ると忘れっぽくなるんだ」と言った。

「寂しいこと言わないでください」。
「でも…」。
かね子が佐伯を見る。
「今度忘れたら食事おごってください」。

佐伯とかね子が、食事をしている。
かね子が言った。
「昨夜、変な夢見たんです」。

「もしかして僕の夢?」
佐伯がいたずらっぽく聞いた。
「残念でした」。

「いつもの道を歩いていると角を曲がった瞬間、全然知らない街になるの」。
「全然知らないんだけど、妙に懐かしい感じのところで…。見たこともない女の子が、セーラー服で座ってるんですよ」。
「どこかの家の前の、階段のところでこう、立膝して」。

ちりんちりん。
風鈴の音が響く。
角を曲がると水たまりがあった。

水たまりには、少女が映っている。
かね子が、水たまりを踏む。
セーラー服の少女、それは絵里だった。

「じいっと私の方を見てるんです。哀しそうな眼をして」。
絵里が、かね子に抱き着いて来る。
「私もその子に抱きしめられて、寒くて寒くて。それで目が覚めたんですけど」。

佐伯は、呆然とその話を聞いていた。
「灰」と、かね子が佐伯の持っているタバコの灰が落ちそうなことを指摘する。
「灰、落ちますよ」。
『どういうことだ。この子も俺と同じ夢見たなんて』。

ちりんちりん。
風鈴の音が響く。
角を曲がると、水たまりがある。
水たまりには、女の子が映っている。

佐伯は水たまりを、踏む。
「今日もまた…、なのか、絵里」と、佐伯が声をかける。
少女が、顔をあげる。

ぴちょんぴちょん。
水の滴る音がする。
だが少女は、絵里ではない。

「君…、永井くんじゃないか」。
少女は、永井かね子だった。
「風邪…、引くなよ」。
佐伯はそう声をかけて、すれ違った。

「美樹、早くしなさいよ」。
朝、妻が一人娘の美樹に声をかけていた。
その様子を背後に、佐伯は思っていた。

『昼間あんな話を聞いたから、こっちの夢と永井君の夢がごっちゃになってしまったんだろう』。
美樹が妻に、制服のりぼんを結びなおしてもらっていた。
「やっぱり、セーラー服の学校にすれば良かったかな」。

「どうして?」
「ううん。ただ昨日の夢、セーラー服着た女の子が出てきたの」。
妻と美樹の会話に、出勤しようとしている佐伯の足が、止まった。

会社に行くと、永井かね子は風邪を引いて休んでいた。
佐伯は、永井の家まで行ってみた。
アパートの扉には、「永井」という表札があった。

そこまで来たが、佐伯は帰ろうとした時だった。
「佐伯さん」。
かね子が外出から戻るところだった。

「風邪だって聞いたもんだから」。
「上がってってください」。
「元気になったんならもう」。

そう言ったが、かね子はドアを開けた。
キッチンで、かね子がケトルに水を入れている。
ちりんちりん。
どこからか、風鈴の男が響いた。

かね子が、ぼうっとする。
ケトルから、水があふれた。
ハッとしてかね子は、水を止めた。

「すぐ沸きますから」。
かね子は、昨日会社から戻ってから熱が出たと言う。
「医者には診てもらったの?」
「いいえ」。

「誰か来てくれなかったの?彼氏とか」。
「来てくれました」。
かね子が笑った。

「佐伯さんが」。
「心配だったんだよ、変な夢の話を聞いたあとだったから」。
「あ、そうですよね。あの夢のせいかな」。

かね子が、笑った。
お湯が沸いた。
紅茶を入れ、メロンを食べた。

「おいしい、このメロン」。
「佐伯さん、どうしてお昼誘ってくれたり、お見舞いに来てくれたりするんですか」。
「迷惑?」

「そうじゃなくて、どうしてなのかなあって」。
「そうか、理由がいるよなあ。家にまで上がり込んで」
「私、うれしいんです。別にどんな理由って、本当はかまわないんです」。

2人の視線が、重なる。
「ある人を思い出すんだよ、君を見ていると」。
「え?」
「顔が似ているわけじゃないんだけど、目とか。表情とか。雰囲気が似ているのかな」。

そこまで言うと佐伯は、「ごめん、失礼だよな。こんな言い方」と謝った。
「いろんな人にそんなこと言ってるんでしょ」。
「そんなことないよ。こんなこと誰にも言ったことない」。
佐伯がまじめに言う。

「その人は佐伯さんの、昔の恋人?」
「うん。でも21年前に死んだ」。
「そうですか」。

かね子は少し、驚いた。
立膝にして、つま先を動かすしぐさ。
絵里に似ている。

「じゃあそろそろ」。
佐伯は立ち上がった。
「もう帰るんですか。じゃあ、駅まで送ります」。

「だめだ。風邪がぶり返したらどうするんだ」。
佐伯はかね子に向き合うと、「大人の言うことは聞くもんだ」と言った。
「はい」と、かね子は引き下がった。

だが、真顔になると「佐伯さん、アタシも大人ですよ」と言った。
「おやすみなさい」。
「おやすみ」。

翌日から、佐伯とかね子は会社で視線を交わしては微笑み合うようになった。
会社に、五十嵐と言う客がきた。
「五十嵐さん?」
「五十嵐ねえ」と、佐伯は首を傾げた。

1階のロビーに行くと、初老の男が待っていた。
佐伯は近寄ると、ハッとした。
絵里の父親だった。

「2度と会うつもりはなかった」と、絵里の父親は言った。
「私は今でも、絵里の命を奪ったのは君だと思っている」。
「娘に心中された親の気持ちは、決して和らぐことはないんだよ」。

佐伯は21年前、絵里と心中を図ったのだった。
「ましてや、相手がこうして生きているとなれば…、なおさらだ」。
「…すみません」。
佐伯は頭をあげられない。

「用件だけを言おう。もし絵里の写真を持っていたらゆずってほしい」。
「写真を?」
「そうだ、絵里の写真が盗まれた。一枚残らず」。
「ええ?!」

「いや、消えてしまったと言った方が適切かもしれない」。
「どうして」。
「いやあ、わからない」。
2人を、喫茶店の外から、かね子が見ていた。

佐伯が会社に戻ってきた。
エレベーターの前で待っていると、かね子が来た。
「課長がお探しでしたよ」。
「そう」。

2人が乗り込む。
ドアが閉まる。
かね子の顔が変わる。

振り向く。
佐伯に抱き着く。
仰天した佐伯は、「な、永井君!だめだよ、まずいよ!永井君!」とかね子をふりほどこうとする。

かね子は、「今日の帰り。家に寄ってください」。
そう言うと、すっと離れてエレベータを下りた。
『かね子…、君は一体誰なんだ』。

心の中で、そうつぶやきながらも佐伯はかね子の部屋で関係を持ってしまった。
佐伯が、くすっと笑った。
「何がおかしいの」。
「いや、君を笑ったんじゃない。自分を笑ったんだ」。

「なぜ」。
「妙なことを考えたもんだと思ってさ」。
「どういうこと?」
「君が絵里…、21年前に死んだ、生まれ変わりじゃないかって。でも君は君だ」。

「その人、そんなに私に似てるの」。
「さあ。もう忘れた」。
その言葉に、かね子がちらりと佐伯を見る。

佐伯にかね子が、寄りかかる。
「私、悪いこと…」。
ネクタイを結びながら、佐伯は「死んでしまった人間のことは、いつかは忘れる」。
「当たり前のことだ。実際、僕もつい最近までずっと、忘れていた…」。

「私、あなたを愛してもいいの?」
かね子が佐伯に、頬を寄せる。
「それが事実なら、否定しても仕方ない」。

2人は口づけをする。
水音が響く。
「でも…、私もいつか忘れられる」。
「どうして」。

「私も絵里さんのように、忘れられるのね」。
「そんなことないよ!」
天井から、水が垂れてきた。
壁にも水がシミを作る。

佐伯と口を合わせているかね子の口から、水があふれる。
ゴボゴボゴボ。
天井から、大量の水が落ちて来る。

注ぎ込まれる水に、溺れそうになった佐伯が必死にかね子を突き飛ばす。
むせこむ佐伯が顔をあげると、部屋の真ん中にセーラー服の絵里がいる。
「絵里!」
「一緒に死のうって、言ったのに…!」

絵里が恨みの形相で、爪を噛みながら、睨む。
前身、びしょ濡れだった。
手足は、紫色の傷がいっぱいだった。

その傷口が張れ上げっている。
顔にも、紫色の裂け目があった。
その裂け目の傷も、盛り上がっている。
傷口には、たくさんの虫がうごめいていた。

佐伯は思わず、目をそらした。
「裏切ったわね」。
「そうじゃない」。

だが絵里は、飛びかかってきた。
佐伯の首に手をかけ、思い切り締める。
逃れようとした佐伯は、傍らにある花瓶を手に殴りかかる。

絵里が頭から血を流し、倒れる。
佐伯は絵里の上に馬乗りになり、首を絞めた。
血まみれで絵里が、睨んでくる。
しかし、絵里は息絶えた。

天井から、水が落ちるのが止まった。
水浸しの部屋の中が、急に乾いた。
そして、目の前にはかねこの死体。

佐伯は、フラフラと家に戻った。
「あなたなの?」と妻の声がした。
呆然と玄関に座り込む佐伯に妻が「美樹がすごい熱で。どうしよう、あなた」と言った。

我に返った佐伯は、美樹を病院に連れていく。
熱に浮かされ、意識がもうろうとしている美樹。
額には汗が浮かんでいる。

「先生どんな具合でしょうか」。
「ちょっと待ってください」。
病室で、佐伯が倒れた。
「少しロビーで休んでくる」。

『まさか、あの夢と関係があるのか』。
『かね子もあの夢を見ている。だとしたら美樹はどうなるんだ。美樹は』。
考えている佐伯は、睡魔に襲われた。

『こんな時に眠くなるなんて!』
『眠ってはいけない』。
『起きていなくては』。

ちりんちりん。
風鈴の音が響いた。
佐伯はもう、夢の中だった。

角を曲がる。
水たまりがある。
その水たまりに、顔が映っている。

ぴちゃん。
水の音が響く。
角を曲がった階段に、座っているのは美樹だった。

「美樹。こんなところで何してるんだ」。
美樹は、びしょ濡れだった。
「待ってるの」。

「誰かが。私の夢を見てくれる誰かを」。
「ダメだ。こんなところに居ちゃダメだ!」
「え?どうして」。

「ここで待っていれば、きっといつか」。
「ダメだ!」
佐伯は美樹の手を取り、行こうとする。

「でも私は帰れない」。
「そうよ」。
声がした。

美樹のもう片方の手を、誰かがつかんでいる。
「美樹はずっと、ここにいるの」。
うつむいたセーラー服の女性が、美樹の手をつかんでいた。
「絵里」。

「行って、お父さん。ここにいても、しかたないもの」。
美樹は言った。
「行って!」

「わかったら、とっととおかえりなさい」。
絵里は、美樹の肩に両手をまわした。
「美樹戻るんだ。戻ってくれ」。

美樹の顔の後ろから、絵里の顔がのぞく。
「もう遅いわ」。
佐伯が言った。
「俺がここに残る」。

「ずっと一緒にいる」。
「だから、美樹は返してくれ」。
「頼む!」
「遅かったのよ!」

絵里の声は、怒りに満ちている。
美樹を押さえつけるようにして、佐伯をにらんでくる。
「ここに来るのが!」
「頼む!」

佐伯は絵里の手を、美樹から外す。
「美樹。行くんだ母さんの所へ」。
美樹が、佐伯を振り返る。

「美樹、行くんだ!早く!」
佐伯は、美樹を突き飛ばす。
美樹がためらいながらも、走って行く。
佐伯はそれを、見送っている。

絵里が背後から佐伯を、抱きしめる。
顔を見る。
佐伯が、目を閉じる。
水音が響く。

「あなた」。
病院のロビーで、目を閉じている佐伯に妻が声をかけた。
「美樹が落ち着いたわ、あなた!」

佐伯は返事をしない。
目を閉じたままだ。
「あなた」。
妻が、佐伯を揺り起こそうとする。

その手が、水に濡れる。
佐伯が倒れる、。
床に横倒しになった佐伯の体から、大量の水がにじみ出て来る。
水はロビーの床を這って、濡らして行く。

「あなた!」
妻が医者を呼びに走る。
水音が響く。


夜の商店街。
ちりんちりん。
風鈴の音が響く。
サラリーマンの佐伯が、家に向かういつもの帰り道。

佐伯は、角を曲がる。
水たまりがあり、それを踏む。
角を曲がると、階段があった。
人の家の階段だった。

階段の横の表札には、「佐伯」とあった。
びしょ濡れの女子高校生が、階段に座っていた。
着ているセーラー服は、びしょぬれ。
髪からも、水がしたたり落ちる。

濡れた革靴のつま先が、上下している。
少女は恨みがましい目で、佐伯を目上げた。
「久しぶりだね」と佐伯が言う。

「寒かったわ」。
「ずっと、ぬれたままだもの」。
少女の言葉に佐伯は、「そうか。僕はもう忘れてしまった」と答えた。

「あなたは…、乾いたものね」。
「絵里。ぼくは」。
佐伯は少女を、絵里と呼んだ。

「いいの。会いに来てくれるのが、少し遅かったわね」。
「抱きしめて」。
少女が佐伯の背中に、手をまわした。
2人は抱き合う。
手が背中に回される。

口づけ。
だが少女の口からは、水があふれ出る。
佐伯の口に、水が注ぎこまれる。

苦しさのあまり男がむせる。
逃れようとする。
だが逃げられない。

「あなた、しっかりして」。
佐伯は妻の声で、目を覚ました。
「大丈夫?」

「夢…、見たんだ」。
「夢?」
「夢の中で、溺れかけた」。

朝、佐伯はうがいをする。
鏡に映った、自分の顔。
「年取ったなあ」。
「絵里。忘れていたよ」。

会社。
佐伯は入ったばかりの女性社員、永井かね子に声をかけた。
「どう仕事?楽しい?」

「また同じ質問。先週もここでそう言ったでしょう」。
かね子が笑った。
「忘れたんですか?私、声かけてもらってうれしかったんだから」。
佐伯は「年取ると忘れっぽくなるんだ」と言った。

「寂しいこと言わないでください」。
「でも…」。
かね子が佐伯を見る。
「今度忘れたら食事おごってください」。

佐伯とかね子が、食事をしている。
かね子が言った。
「昨夜、変な夢見たんです」。

「もしかして僕の夢?」
佐伯がいたずらっぽく聞いた。
「残念でした」。

「いつもの道を歩いていると角を曲がった瞬間、全然知らない街になるの」。
「全然知らないんだけど、妙に懐かしい感じのところで…。見たこともない女の子が、セーラー服で座ってるんですよ」。
「どこかの家の前の、階段のところでこう、立膝して」。

ちりんちりん。
風鈴の音が響く。
角を曲がると水たまりがあった。

水たまりには、少女が映っている。
かね子が、水たまりを踏む。
セーラー服の少女、それは絵里だった。

「じいっと私の方を見てるんです。哀しそうな眼をして」。
絵里が、かね子に抱き着いて来る。
「私もその子に抱きしめられて、寒くて寒くて。それで目が覚めたんですけど」。

佐伯は、呆然とその話を聞いていた。
「灰」と、かね子が佐伯の持っているタバコの灰が落ちそうなことを指摘する。
「灰、落ちますよ」。
『どういうことだ。この子も俺と同じ夢見たなんて』。

ちりんちりん。
風鈴の音が響く。
角を曲がると、水たまりがある。
水たまりには、女の子が映っている。

佐伯は水たまりを、踏む。
「今日もまた…、なのか、絵里」と、佐伯が声をかける。
少女が、顔をあげる。

ぴちょんぴちょん。
水の滴る音がする。
だが少女は、絵里ではない。

「君…、永井くんじゃないか」。
少女は、永井かね子だった。
「風邪…、引くなよ」。
佐伯はそう声をかけて、すれ違った。

「美樹、早くしなさいよ」。
朝、妻が一人娘の美樹に声をかけていた。
その様子を背後に、佐伯は思っていた。

『昼間あんな話を聞いたから、こっちの夢と永井君の夢がごっちゃになってしまったんだろう』。
美樹が妻に、制服のりぼんを結びなおしてもらっていた。
「やっぱり、セーラー服の学校にすれば良かったかな」。

「どうして?」
「ううん。ただ昨日の夢、セーラー服着た女の子が出てきたの」。
妻と美樹の会話に、出勤しようとしている佐伯の足が、止まった。

会社に行くと、永井かね子は風邪を引いて休んでいた。
佐伯は、永井の家まで行ってみた。
アパートの扉には、「永井」という表札があった。

そこまで来たが、佐伯は帰ろうとした時だった。
「佐伯さん」。
かね子が外出から戻るところだった。

「風邪だって聞いたもんだから」。
「上がってってください」。
「元気になったんならもう」。

そう言ったが、かね子はドアを開けた。
キッチンで、かね子がケトルに水を入れている。
ちりんちりん。
どこからか、風鈴の男が響いた。

かね子が、ぼうっとする。
ケトルから、水があふれた。
ハッとしてかね子は、水を止めた。

「すぐ沸きますから」。
かね子は、昨日会社から戻ってから熱が出たと言う。
「医者には診てもらったの?」
「いいえ」。

「誰か来てくれなかったの?彼氏とか」。
「来てくれました」。
かね子が笑った。

「佐伯さんが」。
「心配だったんだよ、変な夢の話を聞いたあとだったから」。
「あ、そうですよね。あの夢のせいかな」。

かね子が、笑った。
お湯が沸いた。
紅茶を入れ、メロンを食べた。

「おいしい、このメロン」。
「佐伯さん、どうしてお昼誘ってくれたり、お見舞いに来てくれたりするんですか」。
「迷惑?」

「そうじゃなくて、どうしてなのかなあって」。
「そうか、理由がいるよなあ。家にまで上がり込んで」
「私、うれしいんです。別にどんな理由って、本当はかまわないんです」。

2人の視線が、重なる。
「ある人を思い出すんだよ、君を見ていると」。
「え?」
「顔が似ているわけじゃないんだけど、目とか。表情とか。雰囲気が似ているのかな」。

そこまで言うと佐伯は、「ごめん、失礼だよな。こんな言い方」と謝った。
「いろんな人にそんなこと言ってるんでしょ」。
「そんなことないよ。こんなこと誰にも言ったことない」。
佐伯がまじめに言う。

「その人は佐伯さんの、昔の恋人?」
「うん。でも21年前に死んだ」。
「そうですか」。

かね子は少し、驚いた。
立膝にして、つま先を動かすしぐさ。
絵里に似ている。

「じゃあそろそろ」。
佐伯は立ち上がった。
「もう帰るんですか。じゃあ、駅まで送ります」。

「だめだ。風邪がぶり返したらどうするんだ」。
佐伯はかね子に向き合うと、「大人の言うことは聞くもんだ」と言った。
「はい」と、かね子は引き下がった。

だが、真顔になると「佐伯さん、アタシも大人ですよ」と言った。
「おやすみなさい」。
「おやすみ」。

翌日から、佐伯とかね子は会社で視線を交わしては微笑み合うようになった。
会社に、五十嵐と言う客がきた。
「五十嵐さん?」
「五十嵐ねえ」と、佐伯は首を傾げた。

1階のロビーに行くと、初老の男が待っていた。
佐伯は近寄ると、ハッとした。
絵里の父親だった。

「2度と会うつもりはなかった」と、絵里の父親は言った。
「私は今でも、絵里の命を奪ったのは君だと思っている」。
「娘に心中された親の気持ちは、決して和らぐことはないんだよ」。

佐伯は21年前、絵里と心中を図ったのだった。
「ましてや、相手がこうして生きているとなれば…、なおさらだ」。
「…すみません」。
佐伯は頭をあげられない。

「用件だけを言おう。もし絵里の写真を持っていたらゆずってほしい」。
「写真を?」
「そうだ、絵里の写真が盗まれた。一枚残らず」。
「ええ?!」

「いや、消えてしまったと言った方が適切かもしれない」。
「どうして」。
「いやあ、わからない」。
2人を、喫茶店の外から、かね子が見ていた。

佐伯が会社に戻ってきた。
エレベーターの前で待っていると、かね子が来た。
「課長がお探しでしたよ」。
「そう」。

2人が乗り込む。
ドアが閉まる。
かね子の顔が変わる。

振り向く。
佐伯に抱き着く。
仰天した佐伯は、「な、永井君!だめだよ、まずいよ!永井君!」とかね子をふりほどこうとする。

かね子は、「今日の帰り。家に寄ってください」。
そう言うと、すっと離れてエレベータを下りた。
『かね子…、君は一体誰なんだ』。

心の中で、そうつぶやきながらも佐伯はかね子の部屋で関係を持ってしまった。
佐伯が、くすっと笑った。
「何がおかしいの」。
「いや、君を笑ったんじゃない。自分を笑ったんだ」。

「なぜ」。
「妙なことを考えたもんだと思ってさ」。
「どういうこと?」
「君が絵里…、21年前に死んだ、生まれ変わりじゃないかって。でも君は君だ」。

「その人、そんなに私に似てるの」。
「さあ。もう忘れた」。
その言葉に、かね子がちらりと佐伯を見る。

佐伯にかね子が、寄りかかる。
「私、悪いこと…」。
ネクタイを結びながら、佐伯は「死んでしまった人間のことは、いつかは忘れる」。
「当たり前のことだ。実際、僕もつい最近までずっと、忘れていた…」。

「私、あなたを愛してもいいの?」
かね子が佐伯に、頬を寄せる。
「それが事実なら、否定しても仕方ない」。

2人は口づけをする。
水音が響く。
「でも…、私もいつか忘れられる」。
「どうして」。

「私も絵里さんのように、忘れられるのね」。
「そんなことないよ!」
天井から、水が垂れてきた。
壁にも水がシミを作る。

佐伯と口を合わせているかね子の口から、水があふれる。
ゴボゴボゴボ。
天井から、大量の水が落ちて来る。

注ぎ込まれる水に、溺れそうになった佐伯が必死にかね子を突き飛ばす。
むせこむ佐伯が顔をあげると、部屋の真ん中にセーラー服の絵里がいる。
「絵里!」
「一緒に死のうって、言ったのに…!」

絵里が恨みの形相で、爪を噛みながら、睨む。
前身、びしょ濡れだった。
手足は、紫色の傷がいっぱいだった。

その傷口が張れ上げっている。
顔にも、紫色の裂け目があった。
その裂け目の傷も、盛り上がっている。
傷口には、たくさんの虫がうごめいていた。

佐伯は思わず、目をそらした。
「裏切ったわね」。
「そうじゃない」。

だが絵里は、飛びかかってきた。
佐伯の首に手をかけ、思い切り締める。
逃れようとした佐伯は、傍らにある花瓶を手に殴りかかる。

絵里が頭から血を流し、倒れる。
佐伯は絵里の上に馬乗りになり、首を絞めた。
血まみれで絵里が、睨んでくる。
しかし、絵里は息絶えた。

天井から、水が落ちるのが止まった。
水浸しの部屋の中が、急に乾いた。
そして、目の前にはかねこの死体。

佐伯は、フラフラと家に戻った。
「あなたなの?」と妻の声がした。
呆然と玄関に座り込む佐伯に妻が「美樹がすごい熱で。どうしよう、あなた」と言った。

我に返った佐伯は、美樹を病院に連れていく。
熱に浮かされ、意識がもうろうとしている美樹。
額には汗が浮かんでいる。

「先生どんな具合でしょうか」。
「ちょっと待ってください」。
病室で、佐伯が倒れた。
「少しロビーで休んでくる」。

『まさか、あの夢と関係があるのか』。
『かね子もあの夢を見ている。だとしたら美樹はどうなるんだ。美樹は』。
考えている佐伯は、睡魔に襲われた。

『こんな時に眠くなるなんて!』
『眠ってはいけない』。
『起きていなくては』。

ちりんちりん。
風鈴の音が響いた。
佐伯はもう、夢の中だった。

角を曲がる。
水たまりがある。
その水たまりに、顔が映っている。

ぴちゃん。
水の音が響く。
角を曲がった階段に、座っているのは美樹だった。

「美樹。こんなところで何してるんだ」。
美樹は、びしょ濡れだった。
「待ってるの」。

「誰かが。私の夢を見てくれる誰かを」。
「ダメだ。こんなところに居ちゃダメだ!」
「え?どうして」。

「ここで待っていれば、きっといつか」。
「ダメだ!」
佐伯は美樹の手を取り、行こうとする。

「でも私は帰れない」。
「そうよ」。
声がした。

美樹のもう片方の手を、誰かがつかんでいる。
「美樹はずっと、ここにいるの」。
うつむいたセーラー服の女性が、美樹の手をつかんでいた。
「絵里」。

「行って、お父さん。ここにいても、しかたないもの」。
美樹は言った。
「行って!」

「わかったら、とっととおかえりなさい」。
絵里は、美樹の肩に両手をまわした。
「美樹戻るんだ。戻ってくれ」。

美樹の顔の後ろから、絵里の顔がのぞく。
「もう遅いわ」。
佐伯が言った。
「俺がここに残る」。

「ずっと一緒にいる」。
「だから、美樹は返してくれ」。
「頼む!」
「遅かったのよ!」

絵里の声は、怒りに満ちている。
美樹を押さえつけるようにして、佐伯をにらんでくる。
「ここに来るのが!」
「頼む!」

佐伯は絵里の手を、美樹から外す。
「美樹。行くんだ母さんの所へ」。
美樹が、佐伯を振り返る。

「美樹、行くんだ!早く!」
佐伯は、美樹を突き飛ばす。
美樹がためらいながらも、走って行く。
佐伯はそれを、見送っている。

絵里が背後から佐伯を、抱きしめる。
顔を見る。
佐伯が、目を閉じる。
水音が響く。

「あなた」。
病院のロビーで、目を閉じている佐伯に妻が声をかけた。
「美樹が落ち着いたわ、あなた!」

佐伯は返事をしない。
目を閉じたままだ。
「あなた」。
妻が、佐伯を揺り起こそうとする。

その手が、水に濡れる。
佐伯が倒れる、。
床に横倒しになった佐伯の体から、大量の水がにじみ出て来る。
水はロビーの床を這って、濡らして行く。

「あなた!」
妻が医者を呼びに走る。
水音が響く。



佐伯は、筧利夫さん。
かね子は、馬渕絵里香さんです。
怖い夢を見たら、どうしよう。

その夢が、現実に影響してきたらどうしよう。
人と同じ夢を見る。
夢を見た人が、苦境に陥る。

こんな不安を描いたお話です。
夜の商店街だと思ったら、角を曲がるとセピア色の風景になる。
ちりんちりんと、風鈴の音が響く。
するともう、そこは悪夢の世界。

水たまりがあって、今、こんな水たまりは道では珍しいなという水たまり。
そこに少女の顔が映っている。
水たまりを踏んで進むと、階段がある。
そこに、セーラー服の絵里が座っている。

この風景が、何度も出てきます。
それが絵里ではなくて、かね子になったり、美樹だったりしますが。
みんな、びしょ濡れ。
夏でも、あんなにびしょ濡れだったら寒いですよね。

昔の思い人で、夢に出てきたんだろう。
それで、連れていこうとしているんだろう。
ここまでは、予想がつきました。
しかし、心中していたとは!

それで、21年前とはいえ、それを忘れているとは!
だって、相手は死んじゃってるんだから。
忘れるって、そりゃないような…。

絵里の父親の苗字を聞いても、首傾げてました。
本当に忘れていた。
これじゃ、絵里が出て来るのも、無理はないような気がします。
もっとも、忘れようと努力していたのかもしれません。

佐伯はどこか、虚ろな感じがしましたから。
「僕はもう、忘れてしまった」。
これは絵里のことだけじゃない。
人を愛する気持ちも、前向きな気持ちも、もう持っていないという意味だったかもしれません。

かね子は、絵里だったのでしょうか。
それとも、絵里に取り憑かれていたのでしょうか。
佐伯が部屋を訪ねてきた時、かね子の頭の中で風鈴が鳴ります。
あの時、かね子には絵里が宿っていた。

ちらりと佐伯を見た時の目。
絵里と同じ、足を動かす癖。
自分には、そんな感じがします。

この後、かね子の遺体が発見されるのでしょうか。
そして、佐伯の犯行だと判明するのでしょうか。
だとしたら、残された妻と美樹は、犯罪者の家族ということになってしまう。
判明しなくても、佐伯がかね子と関係を持ち、殺したという事実は残る。

考えて見ると、佐伯は利己的な人です。
絵里のことも、かね子のことも二の次。
自分がどうしようとか、美樹を助けたいとかしか明確な意思は感じられない。
かね子にだって、家族やいろんな人がいるでしょう。

でも、さすがに美樹には必死になりました。
絵里は、痛いところを狙ってきたわけです。
美樹が「誰かが私の夢を見てくれるまで」と言う。

そうすると、誰かが美樹の夢を見る日がやって来る。
美樹は解放される。
今度はその人が、美樹の代わりにあそこで待つ。
誰かが夢を見てくれるまで…。

これは怖い。
夢は怖い時もある。
理由がわからないし、コントロールできないから。

怖い夢を見た時の、正夢になりませんように!と祈る気持ちを思い出します。
今まで絵里が出て来なかったのは、順番を待っていたのかもしれません。
すると、かね子の順番も来るのでしょうか。

夢については怖い。
けれど、佐伯についてはあんまり同情する気持ちにはなれなかったです。
とはいえ、幻想の恐怖を味合わせてくれる一遍です。
夢の感じも、水の演出もうまいと思います。


2017.09.10 / Top↑
第25話、「晒されて候」。
とんでもなく、間が空いていて、申し訳ありません。
今、石坂浩二さんを昼間のドラマ「やすらぎの郷」で見ますが、ふと、糸井貢を思い出したりしています。
当たり前なんですが、「仕留人」を見ると、本当にみなさん若いです。


ある夜、あやが亡くなってから陰気くさい貢を何とかしようと、大吉が貢を博打に誘う。
気が乗らないと言っていた貢だが、博打場に連れられて行った。
博打が始まると、大吉のアドバイスは通用せず、逆に自分の判断で賭けをすると貢はどんどん当たり始めた。

その時、「お仲間に入れてもらいます」とどこかの女将のような身なりの女性がやってきた。
大吉が目をつけると、初めて見た顔だと言う。
貢が今、50両ほどになっていると聞いた大吉は貢の側に来て、この辺で引き上げようと言う。
しかし貢は先ほどの女性と勝負になり、女性が全てを持っていく。

この女性に興味を持った大吉は、1人、女性の後をつけるが、女性は茶屋に入っていく。
大吉が首を振りながら去っていこうとした時、1人の男とぶつかる。
男は茶屋の中に消えて行った。

その翌朝、心中した男女があがった。
野次馬が走っていく。
主水がやってきて、女性を見て「お陽じゃねえか。ドジなことしやがったな」と驚く。
すると、お陽と呼ばれた女性が目を開く。

「ええっ!」と、今度は主水が驚く。
同僚の同心がお陽に、男は死んだと声をかけると、お陽は「男?」と言って隣の男を見る。
悲鳴をあげたお陽に、同心は心中者の生き残りは3日の間、死体と共に晒された後、無宿者となって江戸ところ払いとなると言う。
主水に気づいたおようは「主水さん?あなた、主水さんでしょう」と声をかける。

「あたし、心中なんてしてないんです」と、お陽は主水にすがる。
だが、お陽は引き立てて行かれ、晒し者にされてしまった。
見物人によると、お陽は越後屋の後家で、亭主と2人、越後屋の屋台骨を作り、亭主の死後も懸命に店を守ってきたのだと言う。

主水がやってきて、見物人を追い払う。
奉行所に戻った主水は、お陽の再吟味を願い出るが、アッサリ却下される。
お陽が心中する理由が見当たらないと食い下がるが、逆に心中者に悪さをされないよう、3日間寝ずの番を申し付けられる。

その頃、大吉は貢にいくら持っているかと聞くが、貢は「何言ってるんだ、一文もないよ!」と答える。
大吉は「だからあの時、やめていれば良かったんだよなぁ~」とブツブツ言いだす。
「あの50両さえありゃあ、今頃はあんこう鍋かなんかで…、いや、それどころじゃねえなあ。芸者総揚げだな」。

「ははは」と、貢は笑う。
あの女の顔を思い出すたびに腹が立つと言った大吉に、「どうだい、この顔か」と貢が絵を見せる。
「おお、そうそう、この女だよ。なかなか良い女だったよな」。
貢が笑う。

「よお!」と主水が入ってくる。
貢が描いている絵を見て「おめえら、高札場、行きやがったな」と言った。
「高札場?」
「心中の晒し者だと聞きゃあ、目の色変えて飛んでいきやがる」。

「なぁんだい、その心中ってのは」と、貢が笑う。
主水はこの、お陽は自分のちょっとした知り合いで、今朝方、心中で打ち上げられたが、お陽だけが生き返ったと話す。
貢が「おかしいな。じゃあ、似た女かな」と言い、「この女はな、夕べ、博打場で会った女なんだよ」と教える。

「ちょいとした大店の女将さん風だったよな。紫小紋の着物かなんかこう、しゃっと着ちゃってよ」と大吉も言う。
大吉の言葉に主水が「紫小紋?で、この女は博打にひどく負けたのか?」と聞く。
「とんでもねえ。百両がとこ、かっさらってニッコリ笑って消えちゃった」。

大吉の言葉を聞いて、主水は飛び出して行った。
「おい!」
「何だ、あの野郎」。

町を行く主水は、せんとりつに出会った。
りつに当分戻れないと言うと、りつはガッカリするが、せんは手柄は近いかもしれないと笑う。
主水が高札場に来ると、お陽は相変わらず、心中などしていないと訴える。

だが、お陽がどう訴えようと、この状態は心中者にしか見えなかった。
したがって、再吟味も取り上げられなかった。
このままでは、無宿者として追放だろう。

主水からそれを聞いたお陽は、まだやることがあると言って、逃がしてくれともがいて頼む。
しかし、そんなことをして見つかれば、お陽は打ち首だ。
それよりも主水は、夕べ、島津の中間部屋でお陽が博打で百両勝った話を聞く。

お陽が夕べ、大戸を下ろし、その日の勘定を済ませ、帳尻を合わせていた時だった。
先妻の娘のお道が出かけていくのを見て、お陽はどこに行くのかと訊ねたが、お道は「自分の勝手だ」と言い放つ。
嫁入り前のお道に何かあれば、死んだ亭主に申し訳が立たない。
そう言ってお陽は心配するが、お道はお陽とは「何よ母親ぶって。あたしとあなたは血の繋がりも何もないんですからね」と言う。

番頭の荘助が「嫁入り前の娘の夜歩きは、悪い噂の元」とたしなめるが、お道は「あたしはね、女郎上がりの誰かさんとは違うんですからね。一緒にしないでちょうだい」と言うと出て行く。
荘助は、お陽が後添えに入ってからもう5年余りになるのに、困ったものだと言う。
だがお陽は、「この5年間、母親らしいことをしてやれなかったんだから」と言った。

しかし、米の仲買人の株を手に入れたのは、お陽の尽力によるものだった。
そうやって懸命に働いてきたのだから、しかたがない。
荘助は、お道にもそのうち、お陽のことがわかると言う。

その時、お陽を神田神保町の大島屋の義平次という男が訪ねて来て、いきなり、お道に百両貸した期限が今日だと言った。
義平次は、返してもらえないなら、米の仲買人の株の権利書を貰うと言う。
そこには店の判が押してある。

だがお陽は2千両もの株が、百両の担保で取られるのはあんまりだと抗議する。
しかも、この借金はお陽も知らないことだ。
すると、義平次はそれならこれから奉行所に行って、お道を語りで訴えると言った。

そうすればお道は、軽くても遠島になってしまう。
お陽は支払おうとして、店にあるはずの150両を探すが、それはもう来年の米の買い付けに為替で届けてしまっていた。
米の仲買の権利を買うのに2千両かかったから、その時にあちこちに借金をしていた為、急に金を貸してくれる知り合いなど思い当たらなかった。

しかたなく、お陽は残っている50両を渡し、後は翌日と話すが、義平次は払うまでは権利書を渡してくれと言った。
そして義平次は権利書を貰うと、お金ができたら妾にやらせている池之端の「ひさご」という出会い茶屋に持って来てくれと言う。
お陽は義平次に、「預かり書を書いてくれ」と言った。
「これはこれは御念のいったことで」と、義平次は返事をした。

だからお陽は、博打に賭けたのだ。
そして、貢と大吉が見ていた通り、勝った。
お陽はホッとして言われた出会い茶屋の「ひさご」に払いに行くと、奥の部屋に通された。
一刻ほどそこで待ったが、義平次は来なかった。

やがて、義平次の使いという船頭が来て、義平次は本家に急な用事で帰ってしまったので、舟で案内するように仰せつかったと言う。
裏に舟がつけてあると言われ、お陽は躊躇しながらも舟に乗った。
すると数人の男たちがなだれ込み、気絶させられた。
気づいた時は、あんな状況だった。

では仕組んだのは、義平次だろう。
お陽は「主水さん。助けて。あたしこのままじゃ、死んでも死に切れない」と泣いた。
主水がその船頭を覚えているかと聞くと、お陽は会ったらわかると思うと言う。

「お陽、しばらく辛抱してろ」と言うと、主水は走り出す。
夕暮れの中、作業をしている大吉に「仕事だ。すぐ高札場へ来てくれ」と言って、また出て行く。
そしてその足でおきんを呼びに行き、「おめえ、襦袢の色何色だ!」と聞く。
突然のぶしつけな質問に「何色だっていいじゃないか」と言いながらも、主水のしつこさに「赤だよ、赤!」と答えた。

「赤?間違いねえな」と言うと、おきんをお陽のところに連れて行く。
「あれ?何だよここは、心中者の晒し者じゃないか!」と言ったおきんは、お陽を見ると「ああ、かわいそうに、寒いだろうな、冷えるよこんな、下へベターッと」と肩をすくめる。
「かわいそうだと思ったらな、おきん。この女の代わりに、二晩、晒し者になってくれ」。

主水の申し出に「何言ってんだ、バカバカしい」と言っておきんが去ろうとした時、主水は夜だけ、顔さえ下を向いてればわからないと頼む。
「こりゃおきん、仕事なんだ、仕事!」
「仕事?」

主水はわらじから1両出すと、「これで請け負ってくれ。2晩だけだ、2晩!それに俺が寝ずの番で側についていてやるから心配ねえ」。
「ほんとに2晩だけ?」
「嫌ならやめとけ」と小判を取り上げられそうになると「やらせていただきます」と言って、小判を懐に入れる。

お陽の縄をおきんが「解いて」と言って、主水はお陽の縄を解く。
やがて、おきんがうつむいているところに、大吉が走ってくる。
「おい、おきんじゃねえか!」
「仕事だよ仕事!」と、おきんに「八丁堀、あっちだよ!早く行け、ほら!」と言われて、大吉が柳の下にいる主水のところに行くと、お陽がいる。

「あれ?おめえ」。
「ちょいと訳ありでな。おめえの力借りてえんだ。すまねえが、この女と一緒に町歩いて船頭1人探してもらいてえんだ。顔はこの女が知ってる。今夜を入れて2晩。その間にぜひ頼みてえんだ。晒しもの3日と言ってもな、夜は2回しかねえからな。ここはおきんと俺とで、うまくごまかしておく」。
「お願いします」と、お陽も頭を下げる。

大吉はお陽と一緒に出会い茶屋「ひさご」へ行き、中に入っていく。
だが、出会い茶屋の女将によると、この店は義平次は来たことがあるものの、義平次が妾にやらせている店ではなかった。
義平次とは、全く関係がない店だった。

大吉が義平次と待ち合わせていた女性のことを聞いたが、「ひさご」の女将は客のことはあまり話せないと言う。
だから大吉はつけた舟の船頭のことを聞いたが、女将は知らなかった。
やがて、夜が明けて青空が見えてきた。

「八丁堀よ、夜が明けてきた!バレちゃうよ、バレちゃうよ、寒い~」とおきんが焦る。
「あと一晩だ、あと一晩!」と主水に言われるが、寒いし、「やだよ、もう!こんな仕事、1両じゃ合わないよ」と言うと横の仏を見て、「ああ、気味の悪い」と肩をすくめる。
大吉とお陽が戻って来るが、成果はなかった。

その足で大吉は妙心尼のところに行くと、ぐっすり眠ってしまい、妙心尼を苛立たせる。
主水も奉行所で、おきんも自宅で、グッタリ眠っている。
相変わらず、お陽は晒し者だ。

いたたまれないお陽が、ふと見物人の後ろを見る。
お陽に冷たく、鋭い視線を送るのは、お道だった。
恋人の菊次が一緒で、お道に「お嬢さん。こんなもの、娘さんが見るもんじゃありません」と言う。
「さあ、戻りましょう」と菊次にうながされ、お道は菊次と歩いて行ってしまう。

そして、お陽が見ているのを知るとこれ見よがしに菊次に寄り添って見せる。
お陽が見送る前で、お道は菊次に肩を抱かれて店まで戻る。
荘助が店に帰ってきたお道を迎え、義平次が待っていると伝えるが、お道は「今日は会いたくない」と言った。
「わがままを言っては困る、百両を待ってもらっているのだから」と言われても、「だから後から払うからって言ってるじゃないの!」と菊次を連れて奥に行こうとする。

だが、店から義平次が出てくると、菊次は顔を背ける。
義平次は言う。
百両はいつでもいいが、それよりもこの商売は娘のお道には無理だから、婿を取るまで自分が後見人になるというはどうだろう。
するとお道は「いいようにしてください」と言うと「行きましょ」と、菊次の手を取って奥に入ってしまう。

その夜も、おきんはお陽と入れ替わった。
酔っ払いがやってきて、おきんを「あれ?おめえ、昼間の女と違うんじゃ…」と、おきんの隣のムシロを取り払った。
遺体が露わになり、おきんが悲鳴をあげる。

主水がやってきて、酔っ払いを追い払い、おきんに蕎麦を差し入れた。
主水に、おきんはお陽との関係を聞く。
「昔の女かい?」
「ま、そんなとこだな」。

「どこで知り合ったんだよお?」
「うん。根津権現裏の岡場所でな。あの女が田舎から、売られてきたばっかりの頃だった。とにかく俺が養子に行く前の話だから、ずいぶん昔の話だぜ。道場仲間に誘われて、初めて足踏み入れた岡場所で知り合った女でな。それからしばらく通い詰めてな」。

主水が、岡場所で手招きしているお陽を思い出す。
相思相愛だと思っていた。
しかし半年ばかりたつと、お陽がいなくなった。
米屋の手代と一緒になった、と聞いた。

今考えると、相思相愛と思ったのは、女郎の手管だったかもしれない。
だが、主水は良い思い出なのだと言う。
もう10年前にもなる。

今夜はお陽は、貢と一緒に、自分の店の前にいた。
貢に詫びを言うお陽だが、貢はお陽を労わる。
しかし、こんなところにじっとしていて大丈夫なのかと貢が心配した時、お陽は、今日、お道を連れ出した男は只者ではないと思っていた。
お陽は江戸中歩くより、ここにいれば、手がかりがつかめると思ったのだ。

菊次が出て行った後、眠っているように見えたお道の目から涙がこぼれる。
晒し者になっているお陽の姿。
自分を見つめる目。
いつもいつも、自分を心配するお陽。

そのお陽に自分がした仕打ちが、鮮やかに思い出される。
廊下を歩く菊次に、お陽が探している船頭の籐太が声をかけて、お道の様子を聞く。
ぐっすり眠っていると答えた菊次に籐太は、菊次はいつも、こうやって娘を引っ掛けて貢がせているらしい。

荘助が義平次に「いつもながら、シロアリの親方の仕事は鮮やかなもんだ」と言う。
その様子はいつものまじめな番頭の時とは、まるで違った。
「しかしおめえの番頭もどうにいったもんだぜ。店に住み込んでから主人に信用されるまでの早さ。助かるぜ」。
だが、荘助によると、今度はお陽がしっかりしているので大変だったらしい。

うまくお陽をさらって、大川に沈めたのだが、今度は浮かび上がって生き返ってしまった。
しかし、お陽は今夜一晩で、江戸ところ払いになる。
この店は自分たちの思うまま、食い荒らせる。

シロアリがつけば、家の形は残っても中は、がらんどう。
この家は食い尽くすだけ、食い尽くすと連中が笑った時だった。
表でお道が聞いているのに、気づく。

戸を開けて菊次と籐太を見たお道は「悪党!」と言った。
「お嬢さん、つまんねえこと聞いちまいましたね」。
逃げようとしたお道だが、部屋に引き込まれると刺されてしまった。

しかし、ここで死なせるとまずい。
また心中に見せかけるかと言われ、籐太は心中相手を探さなければいけないと言った。
店の表で貢と一緒に見張っていたお陽の前に、籐太が現れる。

お陽があの時の船頭だと気づいて、「あの男!」と声を出す。
「船頭ですか」。
歩いていく籐太を見た貢は「つけましょう」と言った。

向こうから提灯の灯りが近づいてくる。
辺りを見回した籐太に、2人が身を潜める。
籐太が路地に隠れ、男が歩いてくると突然、路地に引き込む。

路地には菊次が車に乗せて、お道を連れてきていた。
籐太が男を絞め殺し、車に乗せられたお道の上に遺体を重ねる。
見ていた貢が走ってくると、籐太が匕首を手に斬りかかる。

貢が籐太を押さえると、菊次が匕首を投げた。
匕首は、貢が羽交い絞めにしている籐太に刺さった。
菊次がハッとして、逃げていく。

貢は籐太を突き飛ばし、お道に駆け寄る。
車が下に降りたはずみで、お道が目を開ける。
お陽が走ってくる。

「おみっちゃん、しっかりして!」
「お母さん」。
「おみっちゃん」。
「義平次も、番頭の荘助も、それに菊次も、みんなグル」。

「ええっ。しっかりして」。
「あたしが悪かったわ。長い間、ごめんなさい。お母さん」。
お道は苦しい息の中、それだけ言うと、息絶えた。

「おみっちゃん!」
お道の手を取り、お陽は泣き伏した。
横で、貢が見つめる。

翌朝、お陽は江戸から追放された。
主水はそれを聞いていた。
そして、仕留人たちに小判を持って来た。
お陽が、品川に身を沈めて作った金だった。

「受け取ってくれ」。
全員が黙っていた。
貢が動いて、金を取る。
続いて、大吉、主水、おきんも取る。

小雪が舞っている道を、主水が歩いてくる。
後ろから貢と大吉が続く。
主水が2人を見ると、別れる。
貢と大吉も左右に別れる。

義平次と荘助、菊次はお道を殺したことがばれる前に今夜、江戸から逃げようと、金をありったけ持とうとしていた。
その時、表の戸を叩く音がする。
義平次にうながされ、荘助が応対に行く。

「どなたさんでございますかな」。
貢の声が「品川から参りました」と答える。
荘助が匕首を懐から出し、「ちょっとお待ちを」と言って戸を開ける。

雪が舞い込んできて、笠をかぶった貢が入ってくる。
戸を閉めると荘助に向かって、「品川の越後屋のお陽さんのお使いでうかがったんですが。今夜、期限でございます」と言う。
「お命、頂戴に参りました」。
近づいてくる貢の顔が、灯りに照らされる。

「何い?」
荘助は匕首を振り上げるが、貢に腕を持たれ、殴り飛ばされる。
店の奥によろけると、義平次も菊次もいる。
3人は横に歩きながら、菊次が思い切り、貢に向かって荘助を放り出す。

貢が荘助を捕えると、義平次と菊次は店の外に走り出る。
荘助は米俵を崩しながら、貢に押さえつけられる。
貢は荘助の背後から、首筋を刺す。

外に逃げた義平次に、胡桃が当たる。
大吉が半鐘のある階段から下りてくる。
驚いた2人が固まっている。

大吉の手の中で胡桃が砕かれ、菊次が捕まる。
逃げようとする菊次を捕まえた大吉が、菊次の心臓をつかむ。
菊次が倒れる。

1人、義平次が逃げるが、行く手に大吉がいるのを見て、反対方向に逃げていく。
やがて、義平次は高札場にたどり着く。
女が座っている。
顔を上げたその顔が、お陽に見える。

恨みの形相のお陽が、自分を怒りに燃えた目で見据える。
だがお陽に見えた女はおきんで、おきんは笑っていた。
義平次はおきんの前をうろうろし、顔を確認しようとした。

その後ろに、主水が立っている。
振り向いた義平次に、主水が近づいていく。
「くそう」と義平次が、匕首を抜いて飛びかかって来る。
主水が手を押さえ、小刀で義平次を刺す。

突き飛ばすと義平次は、仏のいたムシロに横たわる。
主水がムシロをかけ、おきんが手を合わせる。
じっと主水が見下ろしている。

品川。
女郎屋で、女郎たちがお客を手招きをしている後ろで、お陽がため息をつく。
1人、真っ暗な奉行所で、主水はまんじゅうを食べている。
ただ、口を動かし、宙を見つめている。



冒頭、貢と大吉が歩いてます。
最近、貢は大吉の家にいることが多くなりましたが、ずいぶん、打ち解けてます。
最初の頃の「自分でまいた種は自分で刈り取るんだな」と突き放していたのを思うと、仲良くなったとちょっと感動します。

「糸さんよう、元手はどれぐらい持ってるんだ」。
「2両もあれば足りるか」。
大吉が博打に誘っているようです。

「おお。それだけありゃ十分だ。だけど博打ってやつは、素人にはどうしても勝てねえような仕組みになってんだよな」。
それを聞いた貢、まじめな人らしく「やめて帰ろうよ」と言い出す。
「早まっちゃいけねえよ。だからよ、俺の言う通りに張ってりゃ、間違えねえってんだ」。
「石屋だけやりゃ、いいじゃないか」。

もうすっかり、貢は気持ちが失せている。
しかし、大吉は言う。
「だから言ってるだろう。あやさんが亡くなってから、おめえ、どうも陰気くさくていけねえよ。だから一度、博打でもやってカッとなりゃ、気分も変わるだろう」。

大吉は自分が博打やりたいのもあるけど、貢を元気にさせたい。
何とか、楽しくさせたいと思ってるんですね。
だけど貢は「どうも俺はあんまり、気が乗らないな」と言ってる。

何とか博打場に連れてくると貢、「よし、丁!」と言って札を出す。
すると大吉、「ああ~、いけねえ、いけねえ、こりゃあな、半なんだ。半!ちょいと変えさせてもらうな」と口を出す。
壷振りが「お客さん、困りますよ、変えてもらっちゃあ」と言うと、「すまねえな、だけどなこの男は今日、初めてなんだ。半だ!」と決めちゃう。
しかし、結果は丁。

大吉が言う通りに張ると、まったく当たらない。
貢が隣の大吉を、ジーッと見つめる。
外れて貢にじっと見つめられた大吉は「今晩、ちょっとついてねえなあ」と言い訳をする。
この辺りの間がおかしい。

次に貢は「半」と言うが、大吉は「今度は丁だよ」とまた口を出す。
「お客さん、ハッキリしてくださいよ」と壷振りが言う。
今度は貢が「半だよ!」と言い張る。
その通り、半だった。

貢のところに札が集まり、貢はうれしそうに札をカチカチと合わせる。
おお、かわいい。
この後、貢は当てまくり、大吉はというと、離れたところで蕎麦を食べている。
「素人のバカつきってのは、かなわねえなあ、もう」。

そこに、お陽が来るんですね。
最初は貢とお陽が勝つ。
「あの女、ちょくちょく来るのか」と大吉が聞くと、初めて見る顔だと言う。
しかし、貢がついていて、あれはもう50両になっていると言われると、大吉が「50両!」と驚く。

それで、やってきて貢に「この辺で切り上げた方がいいんじゃねえか、50両もあれば当分…」と言うが、貢は全然聞かない。
まあ、大吉は外してましたから、信用できない。
貢は「半!」と賭けてしまい、お陽が勝つ。

「ああ」と大吉が倒れちゃう。
だけど、貢は淡々としたもの。
それで博打場を出た貢と大吉だけど、大吉は女性の後姿を見て、「糸さんよう。あの女一体、何者だろうな。ちょいと、いい女だな」と興味を持つ。

貢は興味がなく「さあな」。
「よう、つけてみねえか」。
貢は番頭と別れた女性を見て、「番頭をうまくまいて、これから役者でも買いに行くんだろう。大店の女将の博打狂い、色狂いってやつじゃないのか」とクール。
だが大吉は、どこの女将か、素性ぐらい知りたいと言う。

「石屋も好きだな、俺は帰るぜえ」。
「いや、ちょっと付き合え」。
「今日はもう、くたびれたよ。ま、博打はおもしろかったけどな」と言って、貢は帰って行く。

「淡白ねえ」と、次の仕事屋なら言われちゃうところ。
お陽が出会い茶屋に入っていくと、大吉がつまらなそうに「やっぱり、貢の言う通りだったな」と言う。
しかし、これで後にお陽の言ってることが本当だとわかるわけですが。

今回は主水、表の仕事で走る、走る。
音楽は仕置人の時の、かんのん長屋でかかっていた軽快な音楽。
そこにせんとりつに出会って、主水は今夜からしばらく帰れないと言うと、りつが「あなたぁ…」とすねる。
すると、せんが「りつ!何です!男は仕事が第一!」と叱る。

あの様子なら手柄は近いと、ほくほくするせんに対して、りつは不満顔。
どうもせんは、主水とりつが仲良いと機嫌が良くない。
今回、結局、手柄にならなかった主水は後でまた、せんに嫌味を言われるのかな。
主水がおきんの襦袢を確かめて、おきんを連れてくるときも仕置人の軽快な音楽。

「おい、おきんじゃねえか!」とお陽の代わりに座っているおきんを見て、大吉が言うとおきんが「寒いです」と言う。
何かアドリブみたい。
おきんを身代わりにして大吉が来て、お陽を連れて船頭を探しに行くと音楽が仕留人の音楽に変わる。
これが良いタイミング。

そしてみんな、一晩中がんばって起きてたから、翌日眠い。
主水も、おきんも、大吉も眠ってる。
妙心尼が放置されて、すねている。

夜、入れ替わったおきんの前に酔っ払いが寄ってきて、札を読む。
そして、おきんを見て「あれ、おめえ…、昼間の女とちがうんじゃねえのかい?」と言って覗き込む。
隣の仏のムシロがめくられ、おきんが悲鳴をあげて「何すんだ、何すんだ、このバカ!」と叫ぶ。

そう、ムシロの下には心中した男の遺体があるわけですからね。
これ、冬はまだしも、夏だったらどうなっちゃうんだろう…とあまりしたくない想像が。
主水が飛んで来て追い払うと、おきん、「向こう行け、向こう行け!ワンワンワンワン」と吠える。
犬ですか!

すると主水、「おめえがギャアギャア言うことねえんだよ」と言って、蕎麦を差し入れる。
でも、ワンワン言いたくなる気持ちはわかる!
おきん、気丈夫に見えるけど、隣の仏を見て、箸で指差して「八丁堀よぉ…、気味悪いよ」と訴える。
本当に嫌そう。

主水は笑って「おめえもやっぱり、女だったんだな」と言って、ムシロを元に戻す。
「当たり前だよお」と言って、おきんが蕎麦をすする。
でも、蕎麦食べられるんだから、やっぱりおきんは気丈夫。
いや、それほど寒いのかも。

おきんに馴れ初めを語る主水。
遠くを見る、道場時代を思い出すような目。
一方、貢と一緒のお陽は貢に丁寧に「すみません、無理なお願いをして」と言う。

すると貢は「いやいや、あなたこそ疲れませんか」。
何てフェミニスト。
貢を頼りにする女性が多いのも、無理はない。

お陽は、中村玉緒さん。
「仕置屋稼業」では、今度は主水に裏の仕事を斡旋する髪結い・おこうで登場。
この時も最終回で、主水に冷たい家庭を捨てさせ、自分が食わせて行くほどの覚悟を持って、好きになっていたことがわかる。

しかし、結ばれることはなかった。
今回もそう。
主水と玉緒さんは、「必殺」世界では一緒になることがなかった。
だから「さらば浪人」の夫婦役に、ホッとしてしまう。

義平次は川合伸旺さん。
お道は、桜井浩子さん。
「ウルトラQ」「ウルトラマン」を見ていた子供には、桜井さんは紅一点の正義の味方の印象が強い。
「必殺」では、何度か悪女を演じてるんですね。

でもここでは、女郎上がりのお陽をバカにしている、わがままお嬢さんが似合ってる。
人を見る目もないし、考える力も弱い。
だからお陽に反発したって、お陽のようにはお店を切り盛りはできないし、妙な男に引っかかって夢中になってる。

なのに、店を女手ひとつで繁盛させているお陽に対し、禁句とも言える言葉を投げつける。
その上、晒し者になっているお陽に、菊次を見せ付ける。
どうしようもないお嬢さんだけど、本当は、お陽に対して慕う気持ちはあったみたい。

眠っているように見えて、お陽を思いだし、涙がこぼれてくる。
先妻である母親の苦労を知っているお道は、後妻として入ったお陽に素直になれなかっただけかもしれない…。
最後の最後に心が通じたのが、せめてもの救い。

石坂さん演じる貢と桜井さんのシーンは最期の瞬間だけで、短くて、会話もなかった。
だけど、これは「ウルトラQ」のナレーションと女性記者・由利ちゃんじゃありませんか。
「ここはすべてのバランスが崩れた、恐るべき世界なのです。これから30分、あなたの目はあなたの身体を離れて、この不思議な時間の中に入っていくのです」と貢の声が言うんですから。

主水、大吉、貢はうまく行っているようでした。
おきんも加えて、仲良さそうだった。
楽しそうだった。
今回はそういうところも見ていて、楽しかった。

主水の思い出も、お陽も、今は遠いもの。
養子に行って、奉行所で昼行灯にならざるを得ない主水にとって、お陽は楽しかった思い出、純粋だった自分の象徴のひとつだったかもしれません。
そのお陽が再び、苦界に落ちたのを止めることもできなかった主水。

ラスト、主水は、1人、暗い奉行所でまんじゅうを頬張っている。
もう少し経てば、酒を飲んでいるのかもしれないけど、ここではまんじゅう。
仕留人たちは、お陽の恨みは晴らしてやれた。
だがほんのりとした思い出が苦いものに変わってしまった主水に、まんじゅうの味は甘かっただろうか。


2017.09.02 / Top↑