第34話、「必死大逃走」。


ある夜、芸者が買い占められてしまって、お吉が呼ばれた。
自前芸者はお吉しかいないのだ。
お吉が呼ばれたのは、座敷は塩問屋・讃岐屋と差配役の諸口剛造の座敷だった。
諸口は養子だったが、先代の後を継いで差配役になった。

だが諸口は、先代をたたえる讃岐屋の態度が気に入らない。
持って来た菓子折りを持ち上げ、軽さに顔をゆがめる。
外に出た讃岐屋も、想像以上に難しい方だと言って、ため息をついた。

座敷に呼ばれたお吉は、諸口から菓子をやると言われ、先ほど讃岐屋に貰った菓子折りを与えられる。
廊下を帰って行く諸口は、待っていた塩問屋・坂出重助の座敷に引き入れられた。
坂出屋は、日本橋に塩問屋を出したいと言う。

だが、一地域に問屋はそれぞれ、ひとつ。
坂出屋は番頭の三平に、芸者を大勢呼ばせ、諸口をもてなし、諸口は上機嫌になる。
廊下に出た坂出屋は、用心棒の陣内に「手はずどおり、ことを運べ」と告げる。
間もなく、讃岐屋は御禁制の品を扱っていたと捕えられ、処刑された。

諸口の家には、商人からの付届けが山のように届いた。
妻のみねは、父親の代にはこのようなことはなかったと心配する。
だが諸口は妻が自分を養子だから見下していると言い、仕事に口出しは無用と突っぱねる。

諸口が町を歩くと、讃岐屋の後釜を狙って、次々、商人たちが声をかけてくる。
そんな中、坂出屋が今夜も諸口を座敷に呼んだ。
同じ頃、助け人のところにお吉が、讃岐屋の番頭の佐助をつれてきた。

讃岐屋の主人は、法を犯すような真似はしない。
主人にこの恨みきっと晴らすと約束した佐助は、黒幕は諸口と坂出屋と見当をつけて依頼をしてきたのだ。
利助はこの話には、嘘がないか確認し、助け人が動き出す。

坂出屋の番頭の三平は、諸口の接待に呼ばれていることから、仲間から「良いご身分だな」と嫌味を言われる。
だが三平は仕事に励みながら、「いつでも代わってやるぜ」と言うのだった。
その夜も三平は諸口の座敷に呼ばれ、腹に絵を描いて踊り、諸口の歓心を買う。
しかしその座敷に佐助が飛び込んできて、讃岐屋をはめたのは坂出屋と諸口だと言った。

諸口が刀を手にするが、坂出屋が止める。
その頃、矢場では坂出屋の用心棒の陣内が、矢にいちゃもんをつけてきた男を的にして追い払う。
このすぐ後に三平と諸口が、その矢場に遊びに来る。

諸口が遊んでいる影で、坂出屋は陣内に佐助の始末を頼む。
するとまたしても、矢場に佐助がやってきて、讃岐屋がはめられたことを訴える。
陣内に追い出された佐助の後を案じて、平内と利吉が後を追ってくる。
その夜、諸口は坂出屋に妾と妾宅の世話までしてもらった。

1人になって酒を飲む三平は、使用人たちはただ酒を飲んでいるいい仕事だと嫌味を言われたことを愚痴る。
三平は、「酒は自分の金で飲むのが一番うまい」と言う。
そこに通りかかったお吉も同意する。

「自分の金で飲む酒が一番おいしいよね。仕事の内容は違っても、人様のご機嫌を取ることは同じだもんね」。
三平はみんな、自分のことをバカ話したり、裸踊りをするしかない能無しだと思っていると愚痴る。
その言葉を、お吉は否定する。

三平のやっていることは、お店の為になっている。
そこでお吉は、讃岐屋を死罪に追い込んだのは坂出屋という噂があると教える。
しかし、三平は、それは頭がおかしくなった佐助が言っていることだと取りあわない。
だがもしその話が本当なら、坂出屋には勤めていられないと言った。

佐助はそれほど、讃岐屋で良い仕事をしていたんでしょうと三平は言う。
そして、うらやましい。
私は今の店では、そんな気になれないと言った。

その翌朝後、佐助は讃岐屋で、首吊り死体で見つかった。
龍が、矢場と坂出屋が繋がっていることを突き止めてきた。
間違いない、坂出屋の仕業だろう。

連日の接待に疲れた三平はたまの休みを取り、子供と魚釣りにでかけた。
しのの茶屋に立ち寄った三平を、諸口と一緒にいたお吉が気づき、挨拶をする。
諸口は三平を見ると、残酷な笑みを浮かべ、芸者たち綺麗どころに好かれてうらやましい、と絡む。

そして、三平がいないので寂しくてつまらない、あの座敷でやっている踊りをやってくれと言った。
あの腹踊りは座敷でやるもの、こんな白昼の大道、しかも妻や子供の目の前で「あんなはしたないものは、勘弁してください」と三平は言う。
お吉も「そうですよ」と口ぞえしてくれたが、諸口は、「人に見せられないはしたないものを見せていたのか!」と迫った。
「今が一番店にとって大切な時」と言う坂出屋の頼みもあって、三平はついに腹を出して踊り始める。

往来の人間が笑い、いたたまれなくなった三平の妻は子供の健太に見えないようにして連れ帰る。
そこに至って三平はついに、坂出屋に配置換えか、退職を願い出た。
坂出屋はもうすぐ日本橋に進出するので、その際は三平にも相応の役職を用意していると約束する。
何と言っても、三平の手柄でもあるのだから。

そう言われて、三平は家に戻った。
だが、三平が「恥をかかせたな。すまん」と家に入ると、妻は「いいえ、私の方こそごめんなさい。あなたの立場もわからないで、逃げ出したりして…」と微笑む。
三平は出世の話をする。

坂出屋が用意した別宅に諸口が行くと、そこには諸口の妻がいた。
それを見た坂出屋が、息を飲む。
諸口はここは坂出屋の別宅だと言うが、みねは妾から一部始終を聞いたと言う。
坂出屋はごまかそうとするが、みねは坂出屋と付き合うようになってから、諸口の品行は一層悪くなったと言う。

みねは引き下がらず、諸口に父の墓前で何か言えるのかと穏やかながら厳しく責めた。
「夫に向かって!」と諸口は逆上、みねを刀で叩きのめした上、斬り殺してしまった。
我に帰った諸口は「ダメだ…、俺はもう、ダメだ」と呆然とした。

坂出屋もこれには、真っ青になる。
しかし、坂出屋には、ある考えが浮かんだ。
「ここでお待ちくださいまし」と言うと、坂出屋は出て行く。

三平に坂出屋が呼んでいるという、呼び出しが来る。
坂出屋の別宅に三平が行くと、諸口の妻のみねが死んでいる。
驚く三平に坂出屋は、諸口は妻の不義密通を見て、妻の密通相手もろとも斬ったのだ、と言う。

そして、その密通相手は…、「お前だ」と坂出屋は三平に言った。
何故だ、何故自分が…!
三平はそう叫ぶと、逃げ出した。

別宅を飛び出した三平は、悲鳴をあげて逃げる。
そして、表を見張っていた龍と平内に保護された。
三平は、「あなた方は私の命の恩人です」と言って、全ての事情を話す。

だが、妻と子供が危ない。
文十郎と平内が、三平の妻と子供を廃屋に匿う為、迎えに行く。
廃屋の前に、龍が待っていた。
三平を見た健太と妻は走り出す。

その時、矢場で遊んでいた坂出屋の用心棒・陣内たちが矢を射って来た。
中の1つが、子供に当たる。
文十郎たちは急いで、廃屋に入り、立てこもった。

「1人、2人、3人…、しめて10人か」。
「どうなるんです」と三平が言うが、文十郎と平内にもわからない。
近づいてくるならともかく、手の打ちようがない。
夜になるともっと、まずいことになる。

しかも、健太が熱を出してきた。
龍は、早く子供を医者に診せないといけないと言う。
「助けてください」と、懇願する三平。

三平は「出て行きます。このまま健太をここで死なせるわけにいかない」と言うが、文十郎は止める。
もはや、ここにいる全員を生かして帰すつもりはないだろう。
文十郎は、ボヤ騒ぎを起こすことを考えた。
煙をたくさん出して、「火事だ」と、大騒ぎをする。

すると百姓たちが騒ぎ出し、相手は襲ってはこられないだろう。
文十郎は、三平一家に戸板の裏の隅に隠れているように言った。
何があっても、出て来てはいけない。

廃屋から煙が上がる。
それを見た百姓が「火事だ」と走って仲間を呼びに行く。
百姓たちは、火を消しに集まってきた。

文十郎も、平内も、龍も構えて待つ。
集まってきた百姓を追い払い、用心棒たちが乱入してくる。
すると、縄目を作っていた龍が、縄に飛びつき、宙を飛んで来る。

龍が1人を飛ばし、1人を倒し、斬りかかって来た1人を倒して胸の上に大石を落とす。
平内もキセルの針で、1人、2人、3人と倒していく。
飛び込んできた1人を、文十郎は兜割りで刺す。

陣内が飛び込んできて、陣内の長い刀と、文十郎の兜割りが合わさる。
刀と兜割りが離れた一瞬、文十郎は足を陣内が横に振るった刀でかすめられる。
だが次の瞬間、斬りかかって来た陣内は兜割りで刺された。

隅では、三平親子が怯えている。
文十郎は、三平親子に「早く医者へ!」と言い、「は、はい!」と三平はお辞儀をして妻と子を伴って走っていく。
「どうだい文さん?」と言って平内と龍がやってきた。
文十郎は「俺は大丈夫だ。後の奴らを頼むぜ」と言って、2人を送り出す。

坂出屋と諸口は、三平を上手く始末したかと、報告を待っていた。
闇に紛れて、龍と平内が諸口の家の門をくぐる。
諸口が、ふと、気配に顔を上げる。
つられて坂出屋が、部屋の隅を見た。

そこには紫煙が立ち昇っていた。
諸口が刀を手にし、「何者だ!」と斬りかかる。
龍は諸口を投げ飛ばし、庭に放り出す。
諸口は刀を振り回すが、龍は諸口のの刀を弾き飛ばした。

刀が庭の植え込みに、刃を上にして刺さる。
そして龍は諸口を捉えると、空中高く放り投げた。
諸口は頭から落ちていく。
刀がその下に待っていた…。

恐怖に駆られた坂出屋は部屋の奥に逃げ込もうとするが、平内が捕えた。
平内がキセルの先を取り、針を見せる。
追い詰められた坂出屋の額に、平内は針を叩き込む。
龍、そして平内は急いで屋敷の縁側から庭に下り、走ってその場を立ち去る。



菅貫太郎さんが差配役人・諸口剛造。
三平親子のプライベートを目撃した時、底意地が悪そうに光る目。
先代と妻に対する卑屈さ。

妻のみねに、狂気を爆発させる目。
斬り捨てた後、「俺はもう終わりだ…」と絶望する目。
狂気にも、無体にも、卑屈さが見える。

さすが、菅貫太郎さん。
何から何まで、完璧!
みねを殺してしまって、坂出屋もびっくり。

その前にやったことは、家族で遊びに来ている下請けのサラリーマンに、夕べの接待の席でやったことをやれ、って言ってるようなもんでしょう。
これはひどいわ。
常識がない以前に、人としてどうかと思うわ。

お吉も「声かけなきゃ良かった…」と思ったはず。
何とかとりなして、それでもダメでつらそうなお吉。
こんなの相手にしているんだから、お吉も大変。
「自分の金で飲む酒が一番おいしいよね。仕事の内容は違っても、人様のご機嫌を取ることは同じだもんね」と言った、調子よく相手に合わせて遊んでいるように見える芸者・お吉の本音が効いて来る。

坂出屋は、城所英夫さん。
「必殺仕掛人」の、放送禁止回とも言われている「地獄へ送れ狂った血」の殿様です。
こっちも異常性格の殿様でしたね。

三平役は、嵐堪忍さん。
後の鶴田忍さんです。
鶴田さんは「必殺」には悪役でも出ますが、何と言っても「仕業人」で「牢屋は天国、がんばりまーす」と微罪を重ねては主水が牢番をしている牢に戻ってくる銀次ですね。
暗い話が続く中で、一服の清涼剤だったり、たまには主水に協力したり。

ここでは、使用人のつらさ、接待を受け持つつらさを見せてくれます。
現代にも通じる叫びが聞こえてくるようです。
いやー、こんなお店に明日はない!と言ってやりたかったら、やっぱりなかった。
それと、佐助さん、助け人が動いてるんだから、大人しくしてくれないと。

逃亡から篭城、そして反撃と展開もテンポ良い。
物語の途中、坂出屋の用心棒・陣内が矢場で矢を命中させる、矢の名人という描写があります。
この用心棒は「世情大不安」の犬塚さんが追っていた仇役の木村元さん。
やっぱり、「必殺」では良く見ました。

殺陣は廃屋での文十郎たちの用心棒との斬り合いと、そして文さん抜きだけど坂出屋と諸口の仕置きシーンと2つ。
龍が弾き飛ばした刀に、頭からグッサリ刺さるのはちょっとビックリ。
上手い展開ですが、これはすごいです。
見せ場が一杯で、時間が短く感じる回です。


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2012.07.24 / Top↑
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