最終回直前にふさわしい、緊迫感とどんでん返し連発の回。
第35話、「危機大依頼」。

文十郎と平内は「ざくろの猪助」という男と、その用心棒で示現流の使い手の男を狙った。
平内が猪助を刺し、文十郎が奇声を上げて襲い掛かってくる用心棒を兜割りで刺した。
だが、一瞬、油断があった。

倒れるはずの用心棒は、文十郎に斬りかかってきた。
文十郎は手傷を負いながら、用心棒にトドメを刺した。
「大丈夫だよ」という文十郎を平内は、「ついてねえなあ」と言いながら支えて、その場を去った。

7日間、江戸は雨の降り続けだった。
雨の中、利吉が留守を守る清兵衛の家に、女性が訪ねてきた。
お願いしようかどうしようか…。
ずっと迷って雨の中、立っていたと言う女性は、利吉の顔を見て決心したという。

「お願いです。あの男を殺してください」。
「ちょっと待ってください、人殺しなんて…」。
戸惑う利吉に女性は、筋が通っていれば助け人は人も殺してくれると聞いたと言う。

日本橋の呉服商の女房の「おきぬ」だと、女性は名乗った。
利吉はおきぬを追い出したが、気になって戸を開けて外を見たところ、おきぬが雨の中、しょんぼりと帰って行くのが見えた。
そして、そんな利吉を見て、おきぬの後を追っていく男がいた。

文十郎は熱を出し、しのに介抱されていた。
兄を介抱しながら、しのは血だらけで帰って来た兄を見てもうダメだと思った。
「もう助け人はやめてくれ、兄を食べさせるぐらい、自分が稼ぐから」と、しのは言った。
文十郎の家で、雨漏りがする。

その頃、平内は女郎のところに入り浸っていた。
もう5日も居続けたと言われて、平内はふと、文十郎は大丈夫かと思った。
その時、女郎部屋もが雨漏りする。

利吉が1人、家で本を読んでいると激しく戸を叩く音がする。
先ほどのおきぬが追われているので、助けてくれと叫ぶ。
驚きながらも利吉は、おきぬを家に入れた。

おきぬは笠をかぶった中間に追われている、と言ったので、利吉は表を見る。
確かに、表を男がうろうろしている。
「行っちまいましたよ」。
「また帰って来るかもしれません。しばらくここにおいてください。あの軍平に見つかったら…、あの男はどこにでも踏み込んでくるんです」。

おきぬに「利吉さん」と呼ばれて、利吉は「どうして私の名前を?」と驚いた。
すると、おきぬは清兵衛が留守のときは、利吉に言うように聞いてきたと言った。
だが、利吉は何度言われても、助け人は人殺しなんてことはしないと言う。
ではせめて、身の上話だけでも聞いてくれと言われ、利吉はおきぬを座敷に連れて行った。

おきぬは子供はなかったが、亭主と仲むつまじく暮らしていた。
身寄りのないおきぬにとって、優しい亭主は心の支えだった。
去年の今頃までは。

今日のような雨の日、おきぬは旗本の正木三五郎の家に、代金がもう3月になっても支払ってもらっていないので集金に行った。
亭主が行っても一向に払ってくれなかったので、いっそのこと女性が行ったほうが良いのではないかということだった。
おきぬが代金を受け取り、領収書を書いていた時だった。
三五郎はおきぬに襲い掛かってきた。

しばらくして、おきぬは目が覚めた。
「ざくろの花の赤さが、目に飛び込んできた」。
そう、おきぬは言った。

屋敷にはさきほど、おきぬをつけていた男・中間の軍平がいて、三五郎はそのうち、軍平におきぬをまわすとまで言った。
さらに三五郎は、おきぬが受け取るはずの代金はこの次、店に行った時だと言い、軍平におきぬを店まで送らせた。
その時から三五郎はおきぬを脅迫し始め、その度におきぬは手文庫から何両か渡した。
使いに来るのは、いつも軍平だった。

もう用立てられないとおきぬが言うと、軍平はおきぬの体を要求してきた。
勝手口でもみ合う2人を見たじいやの市造が止めに入ると、軍平は市造を殴り飛ばした。
おきぬは、店に来た時から面倒を見てくれている市造に相談した。
すると、市造が、助け人の話をしたらしい。

その時、表の戸が叩かれた。
緊張が走ったが、戸を叩いたのは、お吉だった。
文十郎は治療中だし、平内は岡場所だし、つまらないので利吉と飲もうと思ってきたのだと言う。

「お客さん?」と目を留めたお吉に、利吉は「みんなを集めてきてくれないか」と言った。
「今度は文さんは、いいからね」。
「わかってるよ」と言うとお吉は威勢良く、飛び出して行った。
利吉がお吉を送り出すと、表に軍平の姿があった。

「では、引き受けてくださるんですね」。
「そういうわけじゃないですが、友達がいますので」。
その時、また表の戸が叩かれた。

「日本橋の相模屋から参りました。おかみさんはお見えでございましょうか」。
それはおきぬが話した、じいやの市造だった。
嫁入りの時に持って来た着物をあちこち、質屋に入れて10両集めた来たと言う。
「女将さんがおかわいそうでなりません。私からもお願いします」と、市造も言う。

しのは買い物に行ってくると言って、文十郎を置いて外に出ようとした。
その時、障子に人影が映ったので、「どなたですか」としのは聞いたが、八丁堀の羽織を見て押し黙る。
文十郎は1人、家に残った。

雨の中、平内が岡場所から出てくる。
同じく雨の中、お吉が龍にかさを差し掛けながら歩く。
町行く男が、「よっ、ご両人!」と冷やかす。

「どうしたの、もっとちょっとこっちよらないとぬれちゃうよ」とお吉がぬれる龍を気遣うと、龍は傘から飛び出した。
「俺はね、傘なんていらねえよ」と龍は下駄を脱いで雨の中、走っていく。
それを見たお吉は笑い出した。

利吉の下に、文十郎以外の助け人が集まった。
「お吉さん、遅いね。お前、どこで別れたの?」
利吉が聞いた時、お吉の「開けてください」と声がした。
お吉には、刃が突きつけられていた。

利吉が戸を開けると、お吉に続いて正木三五郎や軍平、三五郎の中間の勘中が飛び込んできた。
「何だ、おめえたちゃ!」
「相模屋のおきぬを渡してもらおう」。

そう言っておきぬを渡すよう、三五郎が命令した時だった。
利吉が突然、軍平に飛びかかり、平内と龍が3人を押さえつけた。
すると、「動くな!」と市造が匕首をおきぬの首を背後から締め付けた。

「市造、おまえ!」
「女将さん、申し訳ねえが裏切らせてもらいますぜ」。
市造は金目当てで、三五郎たちに寝返っていたのだった。

三五郎は笑い、軍平と勘中に平内と龍を縛るように言う。
大雨の中、店の表を見張っていた同心と岡っ引きが通っていく。
「騒いで同心たちに踏み込まれても良いのか」と三五郎は言う。

おきぬを残して、全員が店の奥に連れて行かれた。
だが、平内は密かに縄を切る努力をしていた。
軍平と勘中が、お吉に目をつけてちょっかいをかけ始めた。
怒ったお吉は2人に唾を吐きかけ、殴り倒される。

起き上がろうとしたお吉の目に、龍と平内の様子が目に入った。
龍が平内を見ると、平内はお吉に首を横に振った。
それを見たお吉は急に甘い声を出して、「痛い、縄がどんどん食い込んで痛い」と訴える。

「観念した」と言ってお吉は、軍平と勘中を誘い出す。
その様子を見た市造が「見張りは引き受けた」と言うので、2人はお吉を連れ出した。
するとその時、利吉が平内の縄が解けたのを見て暴れ始めた。
見張りの市造目を自分に引きつける為だった。

市造は利吉を殴る。
利吉が殴られている時、三五郎がやってきた。
三五郎はこれから助け人たちを痛めつけるが、平内から先にやらせてもらおうか、と言って、平内を殴りつけた。
その時、平内が立ち上がり、三五郎ともみ合いになる。

勘中を押さえつけようとした市造が、匕首を構える。
悲鳴が上がる。
刺されたのは、勘中だった。
おきぬがかみそりを手にする。

「この縄、ほどいてくれ」と利吉がおきぬに言う。
「ありがてえ。この縄、切ってくれ」。
おきぬが、平内たちのもみ合いを見ている。

三五郎が平内に押さえつけられ、龍が市造と軍平を押さえつける。
「女将さん、これでお前さんの不幸もおしまいってわけだ。引導渡す前に、そのかみそりで恨みを晴らしちゃあ…」。
そう言って平内が三五郎を、おきぬの前に差し出した時だった。

お吉が息を呑む。
「みんな、静かに押し」。
おきぬのかみそりは、利吉の喉元にあった。

「清兵衛一家の助け人さんたち、ちょっとでも動いてごらん。この利吉の喉から血が噴出すよ」。
おきぬの豹変振りに、全員が凍る。
「ほおう。じゃあ、この野郎の首でもへし折ろうか」と龍が軍平を強く押さえつける。

だが、おきぬは動じない。
「どうぞ。じゃあ、やりっこしようか」。
そう言うと利吉に押し当てていたかみそりに力が入り、利吉の喉から血が滲み出る。

「龍!やめて!」とお吉が悲鳴をあげる。
「離すんだよ」。
おきぬが凄む。
再び、平内と龍が抑えられた。

平内が、「おめえいってえ、何者なんだ」と言う。
おきぬが嘲笑う。
「まだわかんないの。頭の回りが悪いんだね。お前がこの前殺した、ざくろの猪助の女房、おきぬだよ!」
そう言うとおきぬは、「三五郎さん、その坊主が腰に刺しているキセル、とっておくれよ。亭主の首筋をグッサリやった、物騒なものなんだ」と言って平内のキセルをとりあげさせた。

「平内さん、龍さん、利吉さんにお吉さん。仲良く冥土へ行ってもらうよ」。
おきぬはそう言うと、「もう1人、中山文十郎とかっての、いたっけね。ふふふ…、今頃は三途の川を渡っているところだろうね」と言った。
「ちくしょう」と言うお吉に、「動くんじゃないよ」と脅す。

土砂降りの雨の中、男がやってきて、文十郎の家の障子を開けた。
男は、青い傘をさしていた。
熱を出して寝込んでいる文十郎が、少しうなされている。

侵入者の刀が抜かれ、そっと近づいてくる。
刀を抜いて振りかざした男は、「兄の仇!」と叫んだ。
振り下ろした瞬間、文十郎が身をかわして兜割りで受け止めた。

兜割りを手に、文十郎が部屋の隅に転がる。
「チェストー!」と叫んだ男は、部屋の隅に転がった文十郎を刺そうとした。
その直後、人を刺した手応えがあり、部屋は静まり返る。

おきぬが平内のキセルでタバコを吸う。
「親分の仇だ。応えねえのか!」
平内が軍平に殴られているのを、お吉が「やめて、やめて」と叫ぶ。

おきぬは、「うるさいねえ、この女。やかましく言うと、ブスリ、だよ。軍平、親分の仇だ。もっともっと痛めつけて、冥土へ送ってやんな」と煙を吐きながら言う。
「へへへ…、へい!」
三五郎は龍を痛めつけていた。

平内は頭をかきながら、「この5日間、良い目を見ていたからそのお返しかも知れねな。あー、いてえ。人生はあざなえる縄の如し、良いこともあらあ、悪いこともあらあ。晴れた後には雨も振る。しかし良く降りやがるなあ。ねえ?」と言った。
「ふざけるな、この野郎!」と軍平が殴る。
「痛あ…」。

おきぬが言う。
「だからあたしが言ったじゃないか。こいつら、一筋縄じゃ行かないって」。
三五郎が言った。
「姐さんの知恵はいつもながら見事だ」。

「でもさ、最後まであたしが相模屋の女房だと思ってたんだからね。こいつらも甘いもんさ」。
利吉が歯軋りする。
「ちくしょう、手の込んだ芝居しやがって。『ざくろの花の赤さだけが、わたくしの目にボンヤリと映っていた』、ぬけぬけと芝居しやがって」。

「その芝居にひっかかったのが、お前さんじゃないか」とおきぬが嘲笑う。
「闇の稼業の助け人が、人情をかけたのが命取り。あたしたちゃね、『ざくろ』組だよ。せっかく謎かけてやってんのに、お前の頭じゃ、解けないわね」。
おきぬは平内の側に寄って来た。

「平内さん、ね、ね、ね、ね、あんたさ、さっきあたしが下からチラッと見て、ちらちらっとやったら、すぐまいっちゃったわね。ねえ、地獄に行っても女の亡者にゃ気をつけてねえ」。
平内は「へっ、地獄へ行ったたって、てめえみてえな女はいねえだろうよ」と言う。
「うるさいよ!」と、おきぬが平内をひっぱたく。
「こいつは親分の仇だ、最後まで傷め抜いてから殺してやるからね!」

軍平が笑って、「へへへ、この!」と平内を殴る。
次におきぬは、龍の前にやってきた。
「ちょいとお前さん、良い男だね。ざくろ組入んないか?」

「姐さん」と三五郎が言う。
するとおきぬが、「お前、ヤキモチ妬いてんの?」と笑う。
「お前さんにはさっき、二代目猪助の名前と、あたしの体をやったじゃないか」。

「でも姐さん、こいつはさっき勘中を!」
「心配するこたあないよ。こんなの組に入れて、首の骨を折られちゃたまんないからね」。
おきぬは三五郎に、「こいつは勘中の仇だ!十分、かわいがってやんな」と龍を痛めつけるよう命じる。
「助け人さんたち。裏の稼業をするんだったらね、二段構え、三段構えに網を張っておくもんだよ」とおきぬは言った。

その頃、買い物を終えたしのが、土砂降りの中、戻ってきた。
「ただいま。兄さん、いいカツオがあったから、買ってきたわよ」。
しのがそう言って、て家にあがる。

だが、返事がない。
「兄さん?」
しのは、奥の座敷のふすまを開けて、悲鳴をあげた。

龍が、天井を向いてきょろきょろしている。
平内が「いててて…」と言う。
三五郎が「これだけ痛めつければ、十分だ。姐さん、そろそろ引導渡そうじゃねえか」と言う。

「棟梁が帰って来ると面倒になる」という三五郎たちだが、おきぬは、棟梁はそうそう帰ってこないことも調べていた。
「さあ、どいつから片付けようかねえ」。
おきぬの声に、既に縄を解かれていた平内は「ちょいと待ってくれ。殺るんなら、俺を一番最初にやってくれ。仲間が殺されるのを見るのは、かなわねえや」と言った。

「うるせえや!」と軍平が言う。
「人情が厚い助け人さんたちだねえ。その人情が命取りになったってことにまだ気がつかないのかい」。
すると、お吉が「おだまり!何だい、賢こぶりやがって!お前みたいな奴が女の中にいるなんて、あたしゃくやしいよ」と怒った。
そして、「殺せーっ!殺せ、殺せ!」と叫んだ。

だが、おきぬは笑って、「お前さんは殺さないよ。みんなで慰んだ後に、宿場女郎に叩き売るんだ。そうなんだろう、軍平?」と言う。
軍平は笑いながら、「姐さん、ありがとうございやす」と言った。
お吉の顔が真っ青になる。

笑う軍平の背後の龍の動きに目を留めたおきぬは、「軍平!油断するんじゃないよ。この男、まだあたしたち狙ってんだから」と鋭い声を発した。
そして、「じゃあ、まずこの若いのから行くか。三五郎、連れておいで」と龍を連れてこさせた。
「助け人の龍。お前が冥土の一番乗りだね」と、龍の髪をつかんでのけぞらせる。

三五郎の刀が、龍の首に押し付けられた。
龍が目を閉じる。
その時、表の戸が激しく叩かれた。

「お待ち!」とおきぬが言い、「軍平!」と軍平を応対に出させた。
「どちらさんですか、こちら今日、店を休んでおりますんで」。
すると、隙間から青い傘が見える。

「先生だ。姐さん。先生が帰ってきましたぜ」と、軍平が振り返る。
「上手く行ったようだね」と言うと、おきぬはお吉に向かって、「お前の恋しい文十郎さんは、もうあの世へ行っちまったよ」と笑った。
「ちきしょう…!」と、お吉が唇を噛み締める。

軍平が戸を開けると、青い傘が中に入ってくる。
「先生、こっちもね、なかなか首尾よく行ってまっせ」と軍平が笑った。
傘がふらつく。
「先生、大丈夫ですか」と、軍平が助け起こした時だった。

「あっ」。
傘から、兜割りが突き出される。
「誰だ…、てめえ」。

軍平が逃げる間もなく、刺される。
三五郎が斬りかかるのをかわし、血のついた兜割りを持った文十郎が姿を表す。
「文さん!」

龍が立ち上がり、お吉に押し付けていたおきぬの匕首をはじきとばす。
そして後ろの廊下に下がり、刀を振り下ろした三五郎をよける。
平内も縄を解かれていた為、立ち上がり、市造を押さえつける。

文十郎は傷が痛むのか、胸を押さえている。
市造を引きずった平内がおきぬの前に来ると、「ざくろ組のおきぬさん。上手の手から水が洩れたね」と言う。
文十郎が、痛みに前かがみになる。
平内は、キセルを持っていた。

「おめえさんが二段構えか、三段構えか知らないが、キセルも2本あるんだ」。
「野郎」と言う市造を、がっちり押さえつける。
店先では、龍が三五郎を戸を背に追い詰めていた。
三五郎の振り回した刀が、龍の縄を切った。

自由になった龍は三五郎を戸を背に、殴り、そして蹴る。
腹を押さえて立ち止まった三五郎を、持ち上げる。
三五郎の頭が、鴨居に当たる。
そして「あっ」と言う三五郎をかかえあげると、脳天から地面に叩きつけた。

おきぬと市造は逃げ出そうと走った。
だがおきぬの背後にいた市造の動きが、止まる
「市造!」とおきぬが早く、と、うながした時だった。

市造の背後に、紫煙が立ち昇っていた。
平内の姿が現れ、市造が倒れる。
紫煙を上げながら、平内はキセルの先を吐き捨てるように飛ばし、針を出す。

目を見開いたおきぬが、しりもちをつきながら後ずさりする。
「おきぬさん。俺は女を殺すのは、嫌なんだけどね」。
平内の声は、優しかった。

逃げるおきぬを背後から捕まえ、平内は針をおきぬの首に刺す。
平内がおきぬを離すと、おきぬは口からわずかに血を流しながら倒れた。
「別嬪だが…、まあ、いいや」と平内がつぶやく。
「地獄へ行って、閻魔様でもたぶらかすんだな」。

雨が上がった通りを、しのがかけていく。
「開けてください!」
しのが清兵衛の店の戸を叩くと、戸が開く。

龍が見える。
「兄さんは?」
龍が、しのを奥に入れる。
文十郎は、店の入り口のたたきで、胸を押さえて前かがみになっていた。

「兄さん、兄さん、しっかりして」。
しのが駆け寄る。
「俺は大丈夫でい」と文十郎が言う。

縛られている利吉が、転がり出てくる。
「利吉さん!」
「おしのちゃん、俺の縄を解いてくれ」。

縄を解かれながら、利吉は言った。
「俺たちゃ、甘かった。甘かったよ」。
座り込んでいる文十郎の横に、お吉が来る。

「文さん…」。
「お吉」。
お吉が泣き出し、文十郎にしがみつく。
「あいた!」と、胸を押さえている文十郎が言う。

平内と龍が、店の中を見回す。
土間に、青い傘が転がっている。
そして、軍平と三五郎も転がっている。



清兵衛の店で行われる密室劇。
降りしきる雨。
「仕置人」の「夜がキバむく一つ宿」を、ちょっと思わせました。

雨の為、ひどい降りの為、見張りの同心たちも引き上げていく。
BGMがどこか、不吉さ、不安さを感じさせている。
画面からは湿度と汗が伝わってくる。
梅雨のじめじめが感じられる。

ドラマの中で、何度も戸が叩かれる。
訪問者が現れる。
そして、その度に状況が変わる。

最初は平内たちがピンチに、次に逆転、次には市造の裏切りでまたピンチに、しかし平内たちがまた逆転。
しかし、肝心の依頼人が黒幕だった為に、またまた逆転。
今度こそ、大ピンチ。

文十郎が冒頭、傷を負って寝込むのも、襲われた結果どうなったかもわからない。
それが最後、手負いの文十郎の逆襲という展開に生きてくる。
文十郎の逆襲によって、一気に逆転。

戸を叩く音と、雨と音楽がともに、効果的な演出になっています。
しのが叩いた戸が物語の最後。
全てが終わったラストでは、雨が止んでいる。
この小道具というか、情景の使い方も見事。

文十郎の冒頭の殺しで、まさかの油断により手傷を負う。
だから今回、動きこそ少ないものの、文十郎が作ったきっかけによる、大逆転というかなり良い場面があります。
平内さんは、痛めつけられながらも、どこか飄々としている。

「殺るんなら、俺を一番最初にやってくれ」の言葉は、平内さんの優しさ。
「仲間が殺されるのを見るのは、かなわねえや」では、為吉を思い出しました。
あそこにいた助け人は、口には出さなかったけれど、全員思い出していたかも。

「俺は女を殺すのは、嫌なんだけどね」と言った平内の声は、とても優しかった。
だから怖い。
「生活大破滅」で緑魔子さん演じた悪女を、ためらいなくグッサリやったようにやってるんですが。
「悲痛大解散」以後の平内さんは、どこか達観したような、哀しそうな仕置きをします。

龍はお吉と相合傘になり、結局、傘から飛び出していく場面で、お吉が思わず笑い出す純情さが良かった。
だけど殺されそうになっても、形勢が不利でも、目の鋭さは残っている。
まるで、捕えられても噛み付く気力を失わない野生動物のよう。

ここで改めてわかったのですが、助け人たちは全員、情に厚い。
擬似家族のようだということ。
それが、弱点でもあること。

解説によると、放映当時の朝日放送の宣伝資料には「おきぬの正体を明かさないでください」と、注意書きがされていたとか。
それほど、衝撃のどんでん返しだったんですね。
「ざくろ」というのが、ヒントだった。

解説どおり、書かれている通り、これを成立させたのは、南野(以後訂正:南田)さんの演技力と個性。
「仕留人」では、1人で武家を守って子供の成長を見守っている気丈でけなげな女性を演じる南田さんの個性ですね。
利吉にかみそりを突きつけるまで、助け人も視聴者も、おきぬが黒幕とは気づかない。

哀しい女性が、一転して大胆不敵な悪女に変貌。
ふてぶてしい表情、声の調子。
この変身ぶり、お見事!

南田さんの悪女、お見事です!
ほんと、「必殺史上に残る」すばらしい悪女を見せていただきました。
素敵な女優さんでしたね。
この姿はいつまでも色褪せません。

手下の軍平はいかにも残酷で、小者。
調子に乗っているのがわかる、腹立たしさ。
堺左千夫さんが、この小悪党を実に上手く演じています。

そして、三五郎役の宮口二郎さん。
あのー、この方、「仮面ライダー」のショッカーの日本支部の司令官、ゾル大佐じゃないでしょうか。
どうも、どこかで見た感じがしたんですよね。
すごく懐かしいような、良く知っている人を見たような感覚がありました。

スタントマンなしで、アクションができる俳優さんだったそうですね。
それで、奥様が弓恵子さん!
まー、カッコイイご夫婦。

残念なことに宮口さんは、55歳でなくなられました。
平内さんも、文十郎さんも、宮口二郎さんも既に他界されています。
…そう考えると、この見事なドラマの出演者の方がいらっしゃらないのがものすごく寂しくなります。
でも、みなさん、こうして、良い作品でこんな輝いている姿が残ってる。

良かった。
みなさん、いい俳優さん、いい女優さんだと、改めて認識しました。
良い作品が残っていて、素敵な姿が今も見られて、本当に良かったと思いました。
展開といい、演出といい、俳優さん女優さんといい、見事なラスト前の回です。


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2012.08.18 / Top↑
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