第3話、「突然肌に母の顔が浮かび出た」。

針の行商に行くというおばさんに、先生は売れないよと言った。
何か妙なことが起きそうだ、とも言った。
探している子供に会えるのかとおばさんは言ったが、そうではないらしい。

空腹のあまり、正十と若は畑で野菜を盗んで食っていた。
「芋泥棒!」という声がして、百姓に若い侍が追われていた。
「ただ、休んでいただけだ」と侍は言う。

正十と若が飛び出してきた。
早速、正十は百姓に「捕まえてやるからいくら出す」と聞いたが、その途端、正十の懐から盗んだ芋が落ちる。
かわって今度は正十が追われた。

芋泥棒と間違えられて追われた若い侍は、真之助といった。
「頼りない歩き方…」。
真之助がフラフラ歩いているのを、おばさんが見る。

疲労のあまり、倒れた真之助は子供の頃を思い出す。
「そなたは私を殺す目をしている」。
そんなことを言っては、幼い息子の真之助を遠ざけていた母親。

その病を治してくれると言って、旅の修験者・弁覚とその一行・千手坊と自光坊は真之介の家に入り込んだ。
結果、美しかった妻は弁覚に陵辱され、連れ出された。
弁覚を追ってきた父は斬られてしまった。

うなされている真之助の胸に、母の顔が光とともに浮かび上がる。
やがて、真之助は目覚めた。
おばさんが介抱してくれていたのだ。
「母親を探しているのか」とおばさんは聞き、「親と子は会えるほうがいい」とおばさんは言った。

真之助は母親を探し、父親の仇を追っているのだ。
身の上を知ったおばさんは、真之助に食事を食べさせた。
何年かけても会えるかはわからないし、返り討ちに遭うかもしれない。
真之助は、例え生涯をかけても母親と玄覚を探し出すと言う。

返り討ちにされた、その時は死んでいくだけだと言う。
同じく息子を探しているおばさんは仇を探してやりたいと言うが、正十は「金にならない、真之助の探す者を探せない先生は修業不足だ」と茶化す。
おばさんは正十をたしなめるが、先生は正十の言う通りだと言う。
先生は真之助の母の心の叫びを聞こうとしたが、途中で切れてしまうのだと言う。

息子が母親を思う気持ちより、母親が真之助を思う気持ちのほうが弱いのかもしれない。
それを聞いたおばさんは、「そんな母親なんか、日本中に1人もいやしないよ!」と怒る。
「1人もいやしないよ…」。
先生はおばさんを見つめる。

真之助は翌朝、外で剣術の練習をしている。
若が真之助の刀に向けて、棒切れを投げる。
棒切れをはじいた真之助に若は笑って「やるじゃねえか」と言う。

若は「敵討ちと言うが、本当は母親に甘えたいだけではないのか」と言った。
「男と逃げた母親が、いつまでも亭主やガキのことを思っているはずはない」と乱暴なことも言う。
「母はそんな人じゃない!」
若の言葉にカッとなり真之助は、刀を抜く。

だが、すぐに刀を収めてしまった。
「ケンカはせん。女相手に」。
「何だとぉ?!おいら、女じゃねえや!」
真之助の言葉に、若はカッとなる。

「お前も地獄を見て来た、かわいそうな女だ」。
真之助の言葉に若は、激高する。
「うるせえ!」

若は棒切れを手に、真之助に殴りかかる。
「お前の母はお前を裏切ったのか!だから母を慕う俺が憎いのか!」
真之助の言葉に「お袋がなんだってんだ!」と若が叫ぶ。

若は真之助を追い掛け回す。
棒が真之助の背中に当たる。
だが「これで気が済んだか?」と静かに言う真之助を見て、若は「…男だな、お前」と呆然とする。

その頃、おねむは御札を売り歩いては「いらない」と言われていた。
若がおねむを見つけて、「どこに行ってたんだ」と聞くと、「あたしはずーっと食べて寝て、のんびりしてた」と答える。
「この世の中を極楽のように思ってやがる。うらやましいよ!」
寝転がったおねむの赤い帯に、顔が影になって見えない母の姿が映るのを真之助は見る。

「母上、ここにおられたのか」。
お堂で寝ているおねむの手を真之助は取る。
それを見た先生とおばさんは、おねむを起こす。
「良く見ろ、これはお前の母ではない」。

先生は真之助の前に手をかざし、しっかりと母の面影を浮かべろと言った。
白い闇の中、母親の笑顔が浮かんでくる。
先生は目を開けと言って、そのまま母親の顔を思い浮かべるように言う。
そして眠いと言うおねむの肌をあらわにし、背中を見るように言った。

おねむの肌に真之助の母の顔が、ぼんやりと浮かぶ。
想念が人の肌に映る、肌絵、フィルモグラフィーという現象。
それを基に先生は母親の似顔絵を描き、若と正十に渡した。
これで母親が見つかるかもしれない。

正十と若は、博打に行く。
嘘のように当たった正十と若の前に、弁覚が現れた。
弁覚ににらまれて、気持ちが動揺した正十は勝負を切り上げ、若と飲みに行くことにした。
若と正十が去った後、賭場では弁覚たちが暴れ、全員斬り殺して掛け金を奪って逃げた。

御札を売り歩いていたおねむは料理屋の前で、志乃という女に呼び止められる。
おねむから御札を買い求めようとした志乃だが、弁覚が現れ、余計な金を使うなと札をおねむに放り返す。
料理屋に入った弁覚は志乃を借りると言って、2階に連れて行く。
「気味の悪い男だよ」と料理屋の女将は、弁覚を見送る。

志乃はいつか必ず弁覚の寝首をかき、夫の仇を討つと言うが、弁覚は志乃をとりこにしている自信に溢れている。
弁覚は「そろそろ息子が敵討ちに現れる頃だが、外道に落ちた母親も一緒に討つだろう」と言う。
「安心しろ、その時は返り討ちにしてやる」。

正十と若は、料理屋で酌婦としてやってきた志乃を見て、似顔絵の女性、すなわち真之助の母と気づく。
「会ってやんなよ」と2人は志乃に言うが、志乃は「母親はもうないものを思ってくれ」と言う。
今の自分は母親として名乗れない。

「やっぱり弁覚と一緒なんだろう、離れられないのか」と若は言い、「親の心子知らずと言うが、広い世間には逆もあるんだ」と皮肉を言って去っていこうとする。
その時、志乃は去って行こうとしていた正十を呼びとめ、真之助に渡してくれと言って、小判を渡す。
料理屋を出た正十は「おい、あの人泣いてたぞ」と若に言う。

先生は真之助に仇討ちの訓練をしていた。
相手は妖術を使う、目の光に誤魔化されるなと言って、先生は真之助を鍛える。
そこに正十と若が、志乃が見つかったと飛び込んでくる。

小判を前に、志乃の「もはや母は亡き者と心得よ」という言葉を聞く真之助。
しかし、真之助は母に会うと言う。
「見たくもないものを見るかもしれない」と先生は忠告し、若も同意する。
「だが、目をそらすわけにはいかない」と真之助は出て行こうとする。

おばさんは「そうだよ」とつぶやく。
正十は小判を「これ」と指差すが、真之助は「預かっておいてくれ」と言う。
「お前、帰って来いよ」と正十が言う。
「帰ってこねえとこれ、使っちゃうぞ」。

真之助は振り向き、おばさんは微笑んで見送る。
外に出た真之助を若も追ってくる。
「気をつけて」。
真之助も若を見て、微笑み「ありがとう」と答える。

表でずっと座っている若に正十は、「何考えてる」と聞く。
「別に」と答える若に正十は「真之助に惚れた?」と聞くが、若は答えない。
真之助は志乃に会いに走る。

おばさんは先生に「どうしても気になる」、と言った。
幼い頃、真之助は母に「自分を殺す目をしている」と言われていたのだ。
先生は「それぞれの人の命、何があっても不思議ではない」と言った。
不安そうにおばさんは先生を見る。

真之助は志乃のいる料理屋へ走った。
だが料理屋では、志乃は勝手にやめたと怒っていた。
どこに行ったかわからないと言う。

その頃、志乃はどこに行ったらいいか途方にくれながら、夜道を歩いていた。
男から逃げ、息子から逃げ、志乃はもうどこへ行っていいかわからない。
道をはずれ、懐剣を手にした志乃の耳に、「母上」と叫ぶ真之助の声が聞こえる。

鐘の音がした。
振り向いた志乃の前に真之助がいた。
真之助が駆け寄ろうとした時、「命を捨てに来たのか」と弁覚が現れる。
父が斬られた時の光景が蘇る。

「討てるかな」。
弁覚の眼力に負けそうになる真之助だが、先生との練習が生きた。
真之助は弁覚を追い詰める。
弁覚を討とうとした瞬間、母親が真之助の名を叫ぶ。

一瞬、気を取られた真之助。
真剣勝負にあってはならない一瞬の隙を、弁覚は見逃さなかった。
弁覚の刃が真之助を斬り、真之助が倒れる。

「鬼!」と弁覚に懐剣を向ける志乃。
だが、弁覚は懐剣を取り、志乃を連れて行ってしまう。
真之助は最期の力を振り絞って、刀を投げた。
しかし、刀は弁覚の前にいた志乃に当たってしまう。

母親が倒れる。
もがきながら母の元へ手を伸ばした真之助に、戻ってきた弁覚がトドメをさした。
2人の手は、ついに結ばれることがなかった。

時間が経った。
おばさんの赤い足袋が2人の手の前に現れる。
「子を思わない母親なんて、日本中に1人もいやしないよ」。
おばさんはつぶやいて、2人の手を取り、しっかりと握らせてやる。

2人をじっと見詰めるおばさん。
縁側に座っている先生のところに正十が飛んで来る。
先生は目を閉じている。

弁覚一行が朝もやの中、道を歩いているのが見える。
若が走って後を追う。
おばさんは既にその先の道端で、焚き火をしている。
うつむいているおばさんは焚き火の中から芋を取り出し、焼き加減を確かめる。

太陽が昇り、先生を照らす。
先生が目を開ける。
志乃の、真之助を呼ぶ声がする。
真之助の「誰か、この恨みを晴らしてください」という声が響く。

太陽が昇った。
先生が気合を入れて、叫ぶ。
夜明けの道、先生が走る。
正十が後を追う。

弁覚一行は、小川を越えた。
越えたところで千手坊が、草鞋を結びなおす。
その先におばさんがいた。

「お坊さん、お坊さん」とおばさんの声に千手坊が顔をあげる。
「芋、よく焼けてるよ」。
おばさんが陽気に、串にさした芋をかざす。
「おっ、芋か」。

おばさんが笑顔で芋を差し出し、千手坊が笑いながら近寄る。
「こりゃあ、うまそうだな」。
千手坊はおばさんから芋を受け取り、頬張る。

「物知りのお坊さん、いろは数え歌を教えとくれ。いろはの『い』の字は何てえの?」
千手坊は芋を頬張りながら、「犬も歩けば棒に当たる、だ」と答える。
「違うよぉ、お坊さん」とおばさんは笑って言う。
「いろはの『い』の字は」。

おばさんが上着を脱ぐ。
目に留まらないようなすばやい動きで、おばさんは匕首を懐から抜く。
千手坊の背中に、すごい速さでおばさんが飛びつく。
おばさんは千手坊が振り向いた時、既に背中に匕首を刺していた。

「命いただきます、の」。
動かない千手坊を見上げて、おばさんが笑い声を含んだ声で言う。
「『い~』ですよぅ」。

おばさんが匕首を抜く。
無言のまま、千手坊は倒れた。
倒れた千手坊には目もくれず、おばさんは真剣に匕首の血をぬぐう。

やがて、追いついてこない千手坊を弁覚と自光坊が探しに戻ってくる。
千手坊の紐が水辺に落ちているのを拾っているのを、竹やぶからおばさんが見ている。
2人は千手坊を探すが、焚き火の跡があるだけで、千手坊の姿は見えない。

その時、走ってくる若と先生に、弁覚と自光坊が気がつく。
自光坊は若を、弁覚は先生を迎え撃つ。
若は自光坊を投げ飛ばし、殴り倒す。

うつぶせに倒れた自光坊の上に、若がジャンプして乗る。
骨が折れる音がして、自光坊がえびぞる。
弁覚は先生と向き合った。

先生は旗を手に、弁覚は槍を手にしている。
お互い、構えて走ってくる。
先生と弁覚が交差した。

次の瞬間、先生は指から血を流しながら、弁覚の槍を手にしていた。
先生の背後にいる弁覚には、先生の旗の柄が刺さっている。
竹やぶで見ていたおばさんが、息を呑んで、そして立ち去る。
見守っていた正十も、先生の勝利を確認して去る。

弁覚が断末魔をあげる。
先生は振り返り、弁覚の最期を見る。
そして、弁覚の槍を地面に叩きつけるように刺して捨てた。

おねむが志乃と真之助の墓を作ってやっている。
花を供え、墓を見つめる。
「仇はとったし、金は分けたし…」と正十が言う。
「先生どっち行くんだろう」と若が言う。

先生は道の険しい方へ進む。
おばさんは振り返りながら、先生についていく。
「また~…」と言いながら、正十もついていく。



今回の軸は、離れ離れになった母親と息子。
真之助に「あなたは?」と尋ねられて、おばさん、「私はただのおばさん」と答える。
このうらごろしメンバーには、名前がない。
DVDボックスの解説にもありましたが、だから第三者が呼ぶのにちょっと困る。

ちょっと笑っちゃうんですが、でもこれで良いんですね。
彼らは、どこにも属してない。
定住していない。
だから表の稼業を持たない。

若を見て思ったんですけど、どこかで心がひどく傷ついているんですね。
最初はつっかかるというか、そこが若の心の傷を思わせました。

だけど、何か揉め事が起きて、それを越えるとものすごく認める。
信頼する。
逆にそういうのがないと、心を開かない。

若は正十に「惚れた?」って聞かれましたけど、そうじゃない。
真之助には、友情を感じてたんだと思いました。
「帰って来いよ」と言う正十。
彼なりの「死ぬなよ」の伝え方。

この前回の話でも思ったんですが、若は女性が嫌いですね。
女性の弱さが嫌い。
母親に関して、何かあったのかなあと思います。

志乃は弓恵子さん。
憎みつつ、妖術を使う邪悪な男のトリコになっている。
同時に母親としての情も捨てきれない。
業の深い女性を演じます。

何で息子が自分を殺すと言っていたのかはわかりません。
予感が的中してしまうのが悲しい。
この不安が、弁覚から離れられない理由だったのかもしれません。

弁覚は藤岡重慶さん。
妖術使いのやり方を知っているから、真之助を鍛えます。
そのかいあって、弁覚に勝てそうだったのに。

ラストの先生との祈祷師対決の殺陣も、見応えあります。
剣豪ならぬ、術使い同士の対決。
向き合って走ってきて、あっという間に先生が弁覚の槍を手にしている。
おばさんも先生も、すごく動きが速いんですよね。

さて、おばさん。
子供を捜す母親の立場から、真之助に肩入れする。
そして、最後の殺し。

コ、コワ~イ…!
焚き火焚いてる肩の辺りから、無言の怒りと悲しみ、殺意がにじみでている…。
そして、まさしく通り魔。

あんなニコニコして、誰が疑うものか。
芋差し出されたら、近寄って行っちゃいますよ。
一気に殺人者の顔になり、上着を脱いで匕首を出し、相手に近寄って刺す。
すばやい。

のんびりしたおばさんの、欠片もない。
相手は「?」「??」ですよ。
声も立てずに倒れる。

それでいつまで経っても来ない仲間を探しに来ると、焚き火の跡だけがあって、探す仲間はいないんです。
仲間どころか、誰もいない。
空恐ろしい。

おばさんがずるずると、千手坊を引きずって竹やぶに持って行ったんだろうと想像すると、とっても怖い。
殺し屋の本領を発揮してきました。
「命いただきますの」で、楽しそうで、声に笑いが含まれてる。

「『い~』ですよ~」なんて口調は、もう、「まんが日本昔ばなし」の妖怪みたい。
これ、もうどんなに文章にしても伝えられない。
頭の中で、市原悦子さんの声と調子を再現しながら想像してもらうしかありません。

志乃と真之助の仇を討ち、先生たちはまた旅に出る。
人と関わるのも、旅の中の一時だけ。
このグループの寄る辺なさは、名前を持たないこと、定住していないところから漂ってくるんでしょうか。

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2016.09.19 / Top↑
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