第5話、「母を呼んで寺の鐘は泣いた」

松葉屋という女郎屋で働くおそでは、夜中、「かあちゃん」と呼ぶ声で目が覚めた。
娘のおちよの呼ぶ声だとわかったおそでは、おちよの名を呼んで探したがおちよの姿はどこにもなかった。
折鶴を見ているうち、不吉な思いにとらわれたおそでは川岸に出る。
川を挟んだおそでの向こうには、大八車に鐘が乗せられて移動していた。

女郎屋の動きがにわかにあわただしくなった。
「どこへ行きやがった、あのアマ!」
おそでは女郎屋を抜け出してしまったのだ。

鐘が運ばれる後ろを、おばさんが歩いていた。
そのおばさんの前で、おそでが転ぶ。
「どうした?足くじいたか?」

札を売り歩いていたおねむが座り込んでいる寺の境内に、たくさんの人がやってくる。
寺に鐘が収められたのだ。
鐘はさっそく、美しい音を響かせた。
が、誰も鐘をたたいてはいない。

独りでに鐘が鳴っている。
おそでの足を手当てしてやっているおばさんと、おそでの元にもその音は響いた。
途端におそでが、「おちよが、おちよが呼んでいる」と這いずり出した。

寺では人々がうろたえていた。
「綺麗な鐘の音」とおねむは、はっきりと口にしていた。
道を歩いていた先生は、鐘の音を聞いて振り返り、怪訝そうな顔をする。
見物していた正十も驚き、鐘が鳴っている、金になる!と言って、おねむの横を走っていく。

やがて鐘は鳴り終わり、和尚は村人に帰って悪い噂を流さないように釘を刺した。
しかし正十はこれはタタリだ、悪いタタリは元から絶たなきゃダメ!と説得する。
そこに先生がやってくる。
先生が鐘に手をかざした途端に鐘は鋭い音で鳴り始めた。

「タタリじゃ、タタリじゃ」と叫びながらおねむも走ってくる。
正十は「ほらっ、巫女さんもタタリだって言ってる!」と叫ぶ。
先生は走って去ってしまったが、正十は先生もタタリだと言ってると伝え、おねむは札を売り込み始めた。

茶店で休んでいた若の元に、おそでを連れたおばさんが現れた。
今夜のねぐらを探した若とおばさんは、眠り込んでいるおそでを見て、どこからか逃げてきたのだろうと言った。
先生はおそでに草を煎じたものを飲ませてやれと言い、峠で聞いた鐘は一人で鳴っていたのだと教えた。
娘を探しているというおそでに、おばさんはご飯を振る舞う。

翌朝、鐘は寺から撤去された。
3両出したら悪霊を払うと言っていた正十はあわてた。
その頃、おそではおちよが呼んでいると言って、外に飛び出した。
先生は鐘の後をついて行く。
当てもなく歩き出したおそでの後を、おばさんも心配してついていく。

宿場町に着いたおそでは、人目を避ける。
おそでが逃げてきたことを察したおばさんは、人を呼んでくると言っておそでを置いていく。
鐘は鐘匠の梵匠屋に返された。
商売にしようと必死な正十は、タタリを訴えるが鐘匠は聞き入れなかった。

鐘匠は鋳物問屋の河内屋喜兵エに怪異を訴える。
そこに金をくれと言って、息子の卯之助がやってきた。
おばさんがおそでの身の上を聞くと、おそでは主人の借金の為に身売りしたという。
もう2年になるが、娘のおちよは14歳、12の時からこの宿場町で1人で暮らしていたらしい。

ずっと会えなかったが、ここ半年ぐらい、おそでに食べ物の差し入れや洗濯物をとりに行くようになっていたという。
それも河内屋の使い走りをさせてもらうようになってからだ。
おそでに届け物をした際、おそでは離れたところでこちらを見ていた河内屋の若旦那・卯之助を見たことがある。

とってもいい人で、今度河内屋で働けるようになったから、自分へのお金の心配はしなくていいとおちよは言っていた。
どうやら卯之助は、おちよを迎えに来ていたようだった。
「ひょっとして、娘さん、若旦那を好きだったんじゃ」。

おばさんはそう言って、必ずおちよは探してやると言ったが、次の瞬間、地回りがやってきて、おそでを見つけ、連れて行ってしまった。
やってきた若におばさんは、おそでが心配なので女郎屋に行ってくれと頼む。
頼まれた若は困惑していた。

店の裏に置かれた鐘に手をかざし、先生は霊視していた。
寺からずっとつけてきたという先生を見て、鐘匠も喜兵エも胡散臭そうに先生を見る。
先生は鐘には何かがとりついていると言ったが、鐘匠は清姫の例を出して、鐘には昔から不思議なことがあると言った。
念の為、仕事場を見たいと言う先生を、鐘の配合には店それぞれの秘密があると言って先生を追い払った。

店に戻されたおそでは、出てきた卯之助を見て、「おちよはどこにいるんです」と問い詰めた。
だが卯之助は「知らないよ」と言う。
でもおちよは確かに卯之助の店で働くことになっていた。
卯之助は「女郎の娘のことなんか、知るわけないだろう!」と冷たくあしらって去っていく。

若が店に潜入した時、おそでは折檻を受けていた。
そこに鐘の音が鳴り響く。
やはり、鐘は勝手に鳴っていた。
倒れているおそでが、立ち上がる。
鐘はたくさんの布団で覆われ、音が響かないようにされた。

眠そうに札を売り歩くおねむに、卯之助が振り向いた。
卯之助は全部買うと言うが、おねむは札は一枚もないと言う。
何か食べさせてやると卯之助はおねむを連れて行こうとするが、そこに正十が走ってくる。
正十は卯之助にたかり、おねむは勝手にうどんを食べに店に入ってしまう。

おねむを引っ掛けそこなった卯之助を、今度はおばさんが誘う。
「若い子相手にするより、おもしろいよ。ついておいで」と言われ、卯之助は興味半分でついていく。
だが卯之助はおばさんが入った廃墟を前に、引き返そうとする。
おばさんは無理やり卯之助を引き込み、卯之助は居心地悪そうにしていたが部屋の隅にある着物に目を留める。

着物を見た卯之助に、おちよが逃げようとしている光景が蘇る。
必死に逃げるおちよを卯之助が組み伏せていた。
卯之助の顔を見て、「何を思い出したんだい?」とおばさんが言う。
やっぱり帰ると逃げ出そうとした卯之助に、「おちよさんのことだろう」と鋭い声でおばさんが言った。

「弄んだね!」
「おばさん、誰なんだ」。
「年端もいかない小娘をのぼせあがらせておいて、どうしたんだい!」
「知るもんか!」

「殺したんじゃないだろうね!」
「どいてくれ!」
卯之助はおばさんを振り切って外に逃げた。

鐘匠は喜兵エに、また鐘が鳴ったと報告した。
もう、気味が悪くてしかたがないので、潰してしまおうと鐘匠は言い、喜兵エはおそでの方も悪い噂が広まらないうちに片付けてしまわないと言った。
女郎屋にいる若は繕いものをしている女郎に、危なっかしい手つきだなあと言って代わりに縫い物をしてやっていた。
「お客さん、上手ねえ」と女郎が感心する。

おそではまた、ふらふらと裏口から雪の舞う外に出て、おちよの名を呼んでいた。
まるで応えるように鐘が鳴る。
放置されている鐘の元へたどり着いたおそでは、鐘を抱きしめて「おちよ!」と言った。

若がおばさんに、おそでが再び逃げ出したことを知らせに来た。
鐘にしがみついているおそでに、喜兵エの使用人の久六が近づく。
背後からおそでは襲われて、絶命した。

朝日が昇る。
先生の目に炎と、絶叫するおちよが映る。
つるされているおそでも、見える。

先生はおそでを探して走る。
おばさんと若に会うと、2人もおそでを探していると言う。
鐘にとりついているのが、おちよだと先生は言った。
おそらく、鐘を作る時に炉の中に放り込まれたんだろう。

炉の中…とおばさんは絶句する。
鐘が勝手に鳴るのは、おちよがおそでを呼んでいるのだろう。
かわいそうに…とおばさんが言った時、おねむが正十が探していたと告げに来る。
女の人が殺されていたのだとおねむは言った。

それを聞いたおばさんは、走る。
枯れ葉に隠されて、おそでが口から血を流して死んでいた。
「おそでさん」とおばさんは手を取って泣いた。
若は息を詰めて見ている。

おばさんが鐘のところに行くと、老人が鐘に手を合わせて拝んでいた。
老人が立ち去る時、おばさんが声をかける。
なぜ拝んでいたのかと聞くと、老人は今日限りで暇をもらったので、自分はもう鐘匠の人間ではないと言った。
「あそこで、お女郎さんが殺されたんでしょう」。

おばさんの指摘に、老人が驚く。
「教えて、お願いよ。私、あのお女郎さんの知り合いなの。かわいそうな人だからお弔いしてあげたいのよ。わかってくれるでしょう」。
おばさんの説得の声に老人はうつむく。
「おらぁ地獄を見ただ…」。

「やっぱり…。そのお女郎さんに、おちよさんって娘さんがいたでしょう」。
「怖ろしい話だ」。
「どういうこと、それ」。

河内屋がいつだったか、店を訪ねてきた。
卯之助は、おちよに手をつけた。
息子の方は完全に遊びで、許婚とまもなく祝言をあげることになっていた。
だが、卯之助からおちよは離れないので、喜兵エは鐘匠におちよの始末を頼んだのだ。

「そうかい、それでおちよさんは炉の中に入れられたんだね」。
おばさんはつぶやく。
「人間のすることじゃないよ」。
「こんな怖ろしいところには、いられたもんじゃねえ」。

老人は荷物を抱きしめて、言った。
30年も長い間いたばっかりに…、老人はおばさんに頭を下げて出て行く。
「ありがとう、おじいさん。達者でね」。

陽の光の中、先生は川岸で手を上げて太陽をあおぎ見ている。
炎が見える、おちよが「誰か助けて」と絶叫している。
おそでが血の中で、「この恨みを晴らしてください」と目を見開いたまま、絶命している。
先生が走り出す。

不安になった卯之助が鐘匠の前で、膝を抱えている。
鐘匠は「いくら疑ったって、鐘の中に小娘を溶かし込んでいるなんて、誰も気がつきゃしませんよ」と言っていた。
「それもそうだな」と思いなおした卯之助は、「でも早いとこ、あの鐘溶かしてしまおうじゃないの」と言った。
「おかしくなりそうだよ~」。

しょうがない息子だと笑った喜兵エ。
鐘匠は久六を呼び、今日は休みで職人もいないから久六が火を起こすように言った。
久六が火を入れに行き、卯之助が見に来る。
階段を、久六が上がっていくのと入れ違いに、おばさんの赤い足袋が降りてくるのが見える。

「おばさん」。
おばさんはにこにこしながら、「火を入れといたよ」と笑う。
「何だって?」
「ほら、ごらん」。

おばさんは顔の横にある、炉の覗き口の蓋を開ける。
丸い小さな穴から、赤い炎が見える。
「あんまり暑いんで汗びっしょりだわ…」。

おばさんに近寄った卯之助は「余計なことしないで…」と言いかけた。
その瞬間、卯之助が目をぱちくりさせ、下を見る。
卯之助に、おばさんの匕首が刺さっていた。

卯之助をおばさんは壁まで匕首を刺したまま、追い詰めていく。
「言われなくったって」。
おばさんは匕首の刃を横にして、えぐる。
卯之助が、断末魔うを上げる。
「出て行きますよ!」

匕首を抜くと、おばさんは「炉に入れられたんじゃ…」。
卯之助が壁を背にして、ぐったりする。
「かなわないよ!」。
おばさんはそう言うと、小屋を出て行く。

階段の上では久六が若に殴られていた。
若は久六を追い詰め、てっぺんまで担ぎ上げて階段を登る。
炎が上がっている。
「や、やめてくれ」と叫ぶ久六を若は炎の中に放り込む。
久六が絶叫する。

異変をかぎつけて、喜兵エと鐘匠が部屋から出てくる。
鐘のあったところに行くと、炉から炎が上がっている。
塀の向こうに、旗が上がっている。
旗は先生が掲げて、走っている。

先生はジャンプすると塀を飛び越え、旗を投げる。
旗は大きく飛んで、喜兵エに刺さった。
立ったまま、旗に貫かれた喜兵エが叫ぶ。

先生は喜兵エから旗を抜くと、旗を槍のようにして鐘匠を投げ飛ばした。
倒れた鐘匠の前に、先生は旗を振り回す。
鐘匠はひざまずいた格好で、先生に刺された。

先生は悲しそうに、空を見上げる。
青空の下、旗は光をあびて翻っていた。
旗がなくなり、光だけが煌めく。

おねむの手を引っ張った正十が、おばさんたちを追ってくる。
正十はおばさんと若に、金を渡す。
鐘匠に鐘の話、世間にあまり知られない方がいいんじゃないのと言ったら、くれたのだと言う。
おばさんはありがとうと言って、正十からお金を「預かっておくよ」と取り上げる。
道端に座り込んでしまったおねむに付き合って、正十も寝転がる。



ナレーションが言います。
「当時、ソ連が魂の呼び寄せ現象について実験をしている。
数匹の子うさぎを潜水艦の中に入れ、親うさぎを沿岸の研究室に置いた。
頭に電極をつけて、潜水艦の中の子うさぎを一匹ずつ殺していくとあきらかに母うさぎの脳波に反応があった」。
伝達があったのだ、と。

それよりもそれを聞いて、子うさぎ…、かわいそう。
やだー!
そんなことしているから、潜水艦火事になるのよ!と言いたくなりました。
いろいろとあるにしても、そんなことを調べる為に引き離して殺しちゃうなんて、あまりにかわいそうだ、と。

今回は炉で焼き殺された娘が、鐘になって母親を呼ぶ壮絶な話。
前回と言い、うらごろしは殺し方、残酷ですねー。
目を開けて、顔を出して枯れ葉に埋もれているおそでもかわいそうで、だけど怖い。

母親を呼ぶ音が、おねむも言うほど、とても綺麗。
人を呼んでいる音なのかもしれません。

何かを作る時、人を柱にする怖ろしい話はいくつか聞いたことがありますが、これは生理的に怖い。
おそでも殺していたし、実行犯はおそらく、久六。
若に炉に投げられて、因果応報でしょうか。

おばさんとの会話で、老人が怯えて真相を話すと、却って事の真相の恐ろしさを感じる。
怯えて退職もするだろうな、と…。
そんなこと人にして怖くないで平然と暮らしてるなんて、幽霊より怖い。

正十の「悪いタタリは元から絶たなきゃダメ!」は、当時のCMのパロディじゃなかったかな。
「嫌な臭いは元から絶たなきゃダメ!」とかいう。
おねむの「タタリじゃ、タタリじゃ」は、当時のヒット映画「八つ墓村」でしょう。
鐘を運んでいるシーンで、「獄門島」を連想してしまいましたけど。

それから、女郎屋に行かなきゃならない若の困惑。
女郎を買ったものの、縫い物してるのがおかしい。
しかも外見の男らしさとは真逆に、いや、だからこそ頑張ったのか、お女郎さんより縫い物がうまい。

登場からお金をせびって、すごいバカ息子ぽいのが卯之助。
おねむに目を留める、おねむ、怠惰だけど、とっても綺麗だから。
それでこういうバカ息子にたかるのが本領、という感じの正十。

このバカ息子・卯之助を誘うおばさんが、すごく色っぽいんです!
「若い子相手にするより、おもしろいよ」と言われると、「…何かわかんないけど、このおばさん、すごいんじゃないか(何が)」って思わせるんですよ。
市原さんの声がネットリとしてる。

それでやっぱり、おばさんの殺しがパワーアップしてすごい。
おばさんの赤い足袋が降りてくるのが、死神に見える。
明るく、「火を入れといたよ♪」。

これ、語尾に「♪」つきます。
そんな調子です。
「ほら、ごらん」。
「あんまり暑いんで汗びっしょりだわ」もまた、妙に色っぽい。
完全におばさんを侮った卯之助は邪険に「余計なことしないで…」と言いかけて刺される。

もう、何が起きてるか例によってわからない。
それで「言われなくったって」と言って、おばさんが卯之助を引っ張って行く。
「出て行きますよ!」で、ぐりぐりえぐる。
外見と全く違う、プロの殺し屋ぶりに戦慄ですよ。

決めの言葉は「炉に入れられたんじゃ、かなわないよ!」。
これが殺し屋の言葉じゃないんですね。
部屋散らかされて、「こんなに散らかされたんじゃ、かなわないよ!」って言ってる調子です。
日常会話みたいな感じでやられるから、ほんとに怖い。

仕置きが終わった先生の、悲しそうな顔。
空を見上げると、光を浴びて旗が翻ってる。
旗がなくなると、太陽の光が煌めいている。
これが日常で、悲しくて、綺麗です。

うらごろしは旅の一行の話なのですが、流れる川、舞い散る雪。
上ってくる太陽。
こんな自然の風景がとても綺麗でした。


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2016.11.05 / Top↑
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