こたつねこカフェ

癖のある俳優さん、悪役さんが大好きです。時代劇、ドラマ、映画、俳優さんのことを好きに書いています。
2017年07月 ≪  12345678910111213141516171819202122232425262728293031 ≫ 2017年09月
TOP映画・人間ドラマ ≫ どんな恋でもないよりはマシか? 「パーマネント野ばら」

どんな恋でもないよりはマシか? 「パーマネント野ばら」

西原理恵子原作の映画、「パーマネント野ばら」を見ました。
原作は読まない方がいい、理由はわかると言われていたので、原作を読まずに見ました。
ああ、納得!

この映画、どのキャスティングも演技もいいんですが、少ししか出ないのに、すごいのはみっちゃんの父親の本田博太郎。
技ありです。
技あり一本です。

まだ幼い頃、主人公なおこの幼馴染のみっちゃんとともちゃんが、なおこの自転車に乗りたいともめる。
自転車がその間に、坂道を独りでに下りてってしまう。
そこを角から、みっちゃんのお父ちゃんが運転するトラックが出て来て、自転車をひいてしまう。
自転車は海岸の道路から、海に落ちる。

おとうちゃんは、「だれぞ乗っちゃせんかったかー!」と狼狽し、硬直して降りてくる。
自転車を見て、心臓に手を当てて、「心臓止まるかと思うたわ!」。
ゾンビのように手を上げて、「ちーび、ひいたと思たら、なんじゃ、自転車だけかいっ!」
盆踊りでも踊るように地面を蹴って、手を払って、「あほらしっ!」

何ちゅうテンション、パワフルさ。
最近、何に対してもやる気がまったく起きないってお友達が「すごい禁じ手だ。こりゃ下手するとこの人が一番印象に残っちゃうわ」と、見ろ見ろ、一見の価値はありって勧めたんですけどね。
やる気が起きないお友達がそこまで勧めるなら、って思ったんですけど、勧めるわけだ、こりゃ。

ともちゃんが「ごめん、なおちゃん」と泣き出す。
すると、「泣いとんのか!泣いたらお金が」と手でお金のマークを作って、「逃げたるでえ!」
素晴らしい言葉なんだけど、心に響かない!
そんな父親にみっちゃんは「謝れ!なおこに謝れ!」とつかみかかっていく。

「ぐわははは」と高笑いする父親は、「やめい、光恵」と言う。
海に落ちた自転車を見るなおこ。
みっちゃんを小脇に抱えて豪快に笑うおとうちゃんの声が、いつまでも響く。

ぐわははは、ぐわははは。
海を前に、豪快なシルエット。
…下手なコントより、おかしいぞ、これは。

そして、このおとうちゃんは現在、痴呆症。
みっちゃんと兄弟がまだ子供で、家が本当に貧乏だった時。
本当に食べるものがなくなった時、おとうちゃんはチェーンソーを持って出て行った。

咆哮とともに電柱を切り倒し、電線と薪に分け、闇で売りさばいてきた。
その金で、肉の塊や米を何キロも買って来た。
歓声をあげる子供たちと母親の前にそれを置いて、おとうちゃんは誇らしげだった。
「いっぱい食って、大きくなれやー!」と、おとうちゃんは言って踊った。

今、頭のてっぺんが完璧にはげて、全体が薄くなったおとうちゃんはステテコ姿でチェーンソーを持ち出し、電柱を切り倒し町中を停電させる。
おとうちゃんはあの時に戻っていると、みっちゃんは言う。
止めていたみっちゃんだが、呆れて、「もーええ!焼肉食べに行こ!」と背を向ける。

焼肉、と聞いて、おとうちゃんの手も止まる。
お店でみっちゃんは、おとうちゃんに肉を焼いてやる。
「焼けたで」。
肉を渡してもらって、おとうちゃんはうれしそうに頬張る。

なおこが食べようとすると、威嚇するようにうなる。
ガウッ。
なおこが思わず、手を引っ込めちゃう。

「これ、焼けたし」と言ってみっちゃんがまた、新しい肉を渡してやると、おとうちゃんはうれしそうに咀嚼している。
うれしそうなの、ほんと。
ステテコで、立膝で。

みっちゃんは「祝!離婚記念」の時、「泣いたら金が逃げて行きます」と言いますが、おとうちゃんの言葉だったんですね。
おかあちゃんは、いつもおとうちゃんは全力で自分たち家族を守ってくれたと言う。
だから、みっちゃんは何だかんだで、おとうちゃんを怒れない。

みっちゃんの母親は、いつも笑っていた。
あんな人になりたい、となおこは思っていた。
それはこの、おとうちゃんの力だった。

でも、なろうと思ってなれるもんじゃないね、とみっちゃんは言う。
粗野だろうと何だろうと、夫に向く男と、そういう人を選べない女性はいるのかもしれない。
それでこのおとうちゃんは、おとうちゃんとしては立派に家族を守れる、サバイバル能力溢れる男だったんでしょう。

みっちゃんが、どんな恋でもないよりはマシ、とポジティブに捉えられるのは、基本、このおとうちゃんに育てられた娘だからじゃないかな。
この町中を停電にする、おとうちゃんの立てる火花が綺麗。
暗い中、火花をあげて、おとうちゃんの切る電柱が倒れる。
妙に美しいシーン。

感動的に見えるし、実際、感動的な父の愛!なんだけど、おかしい…。
えらいテンション高い…。
冒頭、自転車乗ってどこかに行ったのは、このおとうちゃんだったのか。

この役に本田博太郎って、確かにそりゃ一本取られて当たり前!
ずるいわ、ずるい!


話は、なおこ(菅野美穂)は、1人、小学生の娘・ももを連れて田舎の港町に一軒だけある美容院、母のまさ子(夏木マリ)が経営している「パーマネント野ばら」に戻ってきたところから始まっている。
「離婚か」。
「ええなあ。すっきいりしたやろ」。

「パーマネント野ばら」には、いつも常連客がいる。
過去に関係した男と、現在の男と、男と下半身の話でおばちゃんたちがいつも盛り上がっている。
要するに、下ネタ連発。

まさ子の夫・カズオ(宇崎竜童)はナス農家の女性の家に入り込んで、家には戻らない。
なおこはカズオに戻るよう言うが、カズオは妙な理由をつけては拒否する。
まさ子も離婚は覚悟しているが、もうちょっとてこずらせてやろうと言う。

なおこの幼馴染のみっちゃん(小池栄子)は、港町でフィリピンパブをしている。
夫(加藤虎ノ介)は店の女の子に手を出し、みっちゃんは夫をひき殺そうとして、夫ともども大怪我をした。
入院したみっちゃんは見舞いに来たなおこと、夫の病室を訪ねる。

夫は「そんなに愛されるなんて、俺は幸せや…、なんて言うと思ったか!」と言い、大ゲンカになる。
車椅子で屋上に連れてきてもらったみっちゃんは、「どんな恋でもないよりはマシやき」とつぶやく。
みっちゃんは退院し、夫はまた別の女と出て行った。

なおこのもう1人の幼馴染、ともちゃん(池脇千鶴)の歴代の彼氏は全員、働かずにともちゃんを殴った。
ともちゃんはいつも大ゲンカをし、ぶっ飛ばされた。
そして、ラーメン屋でぶっ飛ばされた時、「大丈夫?」と声をかけてくれた男(山本浩司)と結婚した。
やっと殴らない男とめぐり合ったと思ったが、夫はギャンブルに狂っていた。

夫は失踪した揚句、現実逃避の為、薬物に手を出した。
なおこは山中のゴミ屋敷におかあちゃんの手伝いで行った時、山に潜んでいるともちゃんの夫と出合った。
夫はなおこにスロットのコインを渡し、少しはお金になるからともちゃんに、と言って預けた。

そんな町の人間に囲まれて毎日を送っているなおこだったが、密かに高校教師のカシマ(江口洋介)と付き合っていた。
夫の電話を待ちわびる、もも。
まさ子は温泉一泊旅行に、そして迎えに来た夫にももを一晩渡し、なおこはカシマと温泉に旅行に行く。
カシマとときめくひと時を過ごしたなおこだが、うたた寝から覚めると、カシマはいなくなっていた。

乗ってきた車もない。
突然、黙って帰るなんて。
カシマの気持ちが、わからない。
なおこは1人、家に戻り、カシマに連絡を取る。

公衆電話のボックスの中、なおこは泣き崩れる。
あんたがもう、わからない。
なぜ、自分はいつもこんなに寂しいのだろう。
「何で?」と泣きながら、なおこは訴える。

やがて、ともちゃんの夫が山中で野垂れ死にしているのが見つかった。
喪服を着て、町の女性たちが集まる。
彼氏に逃げられたおばちゃんが、海に入っていくのをみんなが止める。

なおこはともちゃんと、いつも何かを埋めに行く野原にコインを埋めに行く。
ゴミ屋敷のおばあちゃんが、何かを埋めている。
いつも何年か経つと変わる、同居人のじいさんは、どこに行ったのだろう。

ともちゃんが言う。
「人は2回、死ぬんだって。1度はいわゆる死ぬってこと。もう1度は、誰も思い出してくれなくなった時。この時、今度こそ人は本当に死ぬんだって」と。


さて、以下、ネタバレですので、見てない方はご遠慮を。




ともちゃんの言葉を聞いていたなおこは、打ち明ける。
カシマと付き合ってるんだ、と。
すると、ともちゃんが一瞬、戸惑う。
ともちゃんの顔に悲しそうな、暖かい微笑みが浮かぶ。

「聞いたよ」と微笑む。
「あたし、いつ話した?」
「何度も聞いたよ」。

いつ話したのだろう。
なおこは思い出せない。
何度も話したって?

それでもなおこは海岸で、カシマとデートする。
カシマが言う。
「一緒に暮らそうか?ほっとくと、あんたどっか行っちゃいそうだからな」。

なおこはうれしい。
涙が出るほど、うれしい。
その時みっちゃんが、おいしい焼酎があるからとやってくる。

なおこの様子を見て「デートか」と海を見て、去っていこうとする。
海岸には、なおことみっちゃんしかいなかった。
なおこが奇妙な表情を浮かべる。

ある思いが、持ち上がってくる。
みっちゃんを見て、なおこが言う。
「みっちゃん。あたし、…狂ってる?」

みっちゃんは一瞬、戸惑い、そして微笑む。
「それならこの町の女はみんな狂ってるよ。あたしたち、世間好みの女をずっとやってきたんだもの。これからは好きにさせてもらおうよ」。

なおこは思い出す。
高校生だったなおこの、カシマとのほのかな恋。
そして、なおこはカシマの葬式に参列した。

みっちゃんが焼酎を持って「パーマネント野ばら」に行く。
まさ子に「なおこは?」と聞かれ、「海岸でデートしてる」と答える。
凍りついた表情でまさ子も客も絶句し、みっちゃんを振り返る。

「大丈夫だって」。
みっちゃんが笑う。
まさ子にも客にも笑いが戻り、みんなで焼酎を飲む。

なおこはまた、カシマと会っていた。
カシマが微笑む。
まるで誰かの手を握り締めているかのように、なおこの手が砂を握り締めている。

「野ばら」でお絵かきをしていた娘のももが、外に出て行く。
道を歩いて海岸まで行き、なおこを迎えに来る。
「おかあさん」。
ももの声に振り返ったなおこが、微笑む。


なおこがみっちゃんのおとうさんと同じ、過去の世界で生きていた。
カシマがこの世にいないってわかった時、何もかも納得。
温泉から忽然と消えたことも、ビールの瓶が開いてなかったことも。

車もなかったこと。
最初から、誰もいなかったんだ、と。
学校でカシマと階段を降りていた時、すれ違った女子高生が怪訝な顔で見ていたのもわかる。

なおこは1人だったんだ。
トンネルでのデートの後、なおこが不安にかられ、別れて去っていくカシマの姿を振り返る。
すると、一瞬、カシマが見えなくなる。

なおこがじっと見つめる。
カシマの白いシャツが見える。
…いなかったんですね。

「別れた旦那がふと戻ってくるような気がしない?」となおこがみっちゃんに聞く。
「ないよ」と、みっちゃん。
あれも別の意味があったのかもしれない。

ともちゃんが「人は2回、死ぬ。誰も思い出してくれなくなった時。この時、今度こそ人は本当に死ぬ」と言う言葉が沁みてくる。
ともちゃんの、悲しそうな、暖かい微笑み。
なおこが故郷に戻ってきた理由は、この狂気にあったのかもしれない。

でも、カシマは何故死んだのかわからないけど、なおこには死んではいない。
自分の狂気を自覚する時の菅野美穂さんの曖昧なものを探るような、おそろしいものを知ったような表情。
対して「違うよ」と言わずに、狂っていていいじゃないとでも言うようなみっちゃんこと小池栄子。
この港町は誰もが狂っているといえば、狂っているんだから、そんなのいいんだよ、という優しさ。

そしてみんな、なおこが狂っているのを知っていたんだとわかる。
それでいて、包み込むようにしていたのだとわかる。
「新しい男は?」なんて聞いて。

一見、とんでもない住民ばかりのようでいて、みんなとても優しい。
世間的にはダメ人間なのかもしれないけど、なおこや、人間に向ける目は限りなく優しい。
いや、この映画自体が優しい。

そして美しい旋律の中で迎える、ラスト。
まるでカシマの手を握っているように、砂浜の砂を握っているなおこ。
なおこは小学生の頃、再婚する母に向かって「あたしがいるからええやん」と言った。

その時の自分のように、ももがいる。
「あたしがいるから、ええやん。どうしてそっちの世界に行っちゃうの?」と言いたいみたいに見えてくる。
なおこが微笑み、画面が暗転する。
優しさが切ない、悲しいラスト。



スポンサーサイト

Comment













非公開コメントにする
Trackback

Trackback URL