第3話、「兄いもうと」。


六之助を奪還された安部式部は、火盗に内通者がいるのではないかと思い出した。
火の出た時刻に所在が知れなかったのは、与力の岡田甚之助のみ。
六之助の人相書きが描かれたが、岡田は「何と言う特徴もない人相書きで、張り出したところで意味がない」と言う。

岡っ引きの政蔵が、外出する岡田の後をつけた。
だが岡田はそれに気がつき、逆に政蔵を咎めた。
政蔵は誰に頼まれたわけではないが、岡田の金回りの良さが気になると言った。

すると疑惑に答える為、岡田は熊五郎の古道具屋に向かう。
岡田は政蔵に売買の駆け引きを見せ、「こうやって売り買いで金を稼いでいる」と言った。
その後、用心深く後ろを振り返りながら、八重を囲っている役宅に向かう。

すると八重はおらず、座敷には吉五郎が待っていた。
「当分、慎重にするよう」。
吉五郎は仁左衛門からの伝言を言い渡すと、小判を数枚投げ、八重は「当分預かる」と言って出て行く。

翌日、安部式部自らが相手をする火盗の武芸稽古があった。
それを見た岡田は、「甘えている」と言った。
憤った若い火盗たち相手に岡田は「自分が稽古をつける」と言って、あっという間に2人を叩き伏せた。
残った高瀬に、「日頃自分の悪口を言っている張本人」と言って、岡田が構えた時だった。

「与力同心密偵の間で、誹謗中傷は許されない」と、式部が言った。
競い合うのは良いが、反目しあうのはいけない。
それを聞いた岡田は「自分もまた、思い違いをしていた」と言う。
「山田だけではなく、自分にも命令を下してください」と岡田は言った。

町に、六之助の人相書きが貼られた。
極悪非道の雲霧一味につき、捕えた者には50両。
所在を知らせた者には20両という、懸賞金までかかった。

看板を見ていた町民たちに、看板を読んでくれるよう言われた仁左衛門が、その通りに読む。
すると、みんな口々に「極悪非道ってことはねえよな」「阿漕な金持ちしか盗らねえしな」「人を殺めねえし」と雲霧を擁護する。
仁左衛門がその場を離れると、後から吉五郎が歩いていく。

2人は既に、名古屋の豪商・薬種問屋の松屋善兵衛に目をつけていた。
吉五郎は桔梗屋という商人として、松屋と何回か接触していた。
そろそろ、お千代の出番ではないのか。
仁左衛門は、2年前から目をつけていたのだ。

その松屋は2人も妾がいるにも関わらず、ピタリとくるものがないと言う。
すると吉五郎は、「京都に生糸の仲買に行った時、公家の一条実光の若後家に出会った」と話す。
彼女は若くして夫と死別し、誰か心の広い者がいるなら、世話になっても良いと話している。
名前は「千代」姫。

絵姿があると言って見せると、松屋は思わず息を呑む。
お千代には、幼い頃から茶も花も仕込んであった。
臆することはないと、仁左衛門は言う。

その頃、火盗には人相書きの件で話があると言って、1人の男が来ていた。
「自分のことは一切詮索せず、20両もらいたい」と男は言った。
「5両なら出すが、嘘偽りがあれば即刻首をはねる」と山田は言った。

男は人相書きの男のことを「因果小僧・六之助」と言った。
だが、火盗はそのことは知っていた。
男はギョッとする。
人相書きには名前は書いていなかったので、火盗はまだ六之助の名前はつかんでいないと思ったのだ。

その頃、お千代はお松もおみつも感心するほど、公家の若後家に化けていた。
だがお千代は今度ばかりは自信がないと、仁左衛門に弱音を吐く。
仁左衛門は「どんなことがあっても、いつもこの仁左衛門がついておる」と言い切った。

道を急ぐ六之助は、六之助の母親の墓で手を合わせている娘を見かける。
訳を尋ねた途端、数人のヤクザ者と思しき男が走ってくる。
六之助は思わず顔をそむけたが、男たちは娘を捕え、数発、頬を張り飛ばした。

連行されようとしていた娘を、六之助は助けて逃げてしまう。
小船に乗ると、六之助は娘に目隠しをする。
ヤクザ者が2人を追えなくなった時、高瀬が現れた。

去っていく船を見て、男たちは「引っかかった」と言う。
あの男が言うことは、嘘ではなかった。
このまま、山田が描いた筋書き通りに行けば…!

夜、熊五郎は道具屋を閉め、奉公人を装っていたおみつに「帰って良い」と言っていた。
「小頭からのつなぎは?」と聞くおみつに、熊五郎は「ない」と答える。
おみつが帰ろうとした時だった。

物音がした。
裏口から六之助が目隠しをした娘を連れて、上がりこんでいたむ。
「すまねえ、部屋を借りるぜ」と上がりこんだ六之助を見て、熊五郎は「あのバカ。また面倒しょってきやがって」と言う。
娘の目隠しを取ると、六之助は追われている訳を聞いた。

娘は「おしの」と名乗った。
六之助は、「新吉」と名乗る。
母親の墓参りをしていたと言う娘に、六之助は驚く。
名前がおしので、あの墓がおっかさの墓というと、六之助の妹のおしのだ。

だが、おしのは死んだはずだった。
あの墓は15年前、深川の大火でなくなった長屋で、身寄りのない者を葬った墓だ。
すると、おしのの母親も、その長屋にいたのか。
おしのは、「母親の名は、おみね」という。

部屋の外で密かに聞いていた熊五郎は、おみつに今日のことを説明した。
今日は六之助は「母親の命日だから、どうしても墓参りに行かせてくれ」と言った。
となると、命日の今日、六之助は母親の墓の前で、行方知れずの妹を見つけた…というわけだ。

その頃、お千代は桔梗屋の吉五郎に「千代姫」と紹介され、松屋善兵衛に引き合わされていた。
千代姫の美しさ、優雅さ、気品に松屋は目を見張る。
これまで知っている女とは、まったく違う。
松屋の視線が千代姫に釘付けになったのを見て、吉五郎は席を外す。

同じ頃、六之助がおしのと話しているのを、熊五郎は古道具の影に隠れて聞いている。
おしのは火事になったときはまだ3つだったのに、どうやって自分の母親のことを知ったのか。
聞かれるとおしのは、「火事の後、物心ついた時は既に入江町の甘酒屋の卯助ところにいて、ずっとその人を親だと思っていた」と言った。
だが卯助もならず者に乱暴されたのが元で、病気になった。

その時、卯助は「自分はもうダメだ」と言って、おしのに本当のことを話してくれたのだ。
15年前の今日、おしのの本当の親は火事にあって死んでしまった。
卯助は「借金が返せないなら娘を貰っていく」と言われたのだが、おしのを守って傷を負った。
おしのは「こうやって1日でも半日でも逃げられたのは、母親の導きだ」と言った。

六之助は憤り、高利貸しの名を聞いた。
本所の五郎蔵。
子分が30人もいる。
おしのは「新吉もあの墓に参ったなら、新吉の親もあそこにいるんですか」と聞いた。

六之助は「自分はあの墓の隣に参ったのだ」と言った。
おしのは書付を懐から出すと、そこには「父・寅蔵、母・おみね」と書いてあった。
「おめえ…」。
その様子を熊五郎は半ば、悲痛な面持ちで聞いていた。

山田は式部に、「今度は上手く行くように思えてならない」と報告していた。
仁左衛門はともかく、主だった者を10名も捕えられれば大成功だ。
褒美をもらえると、六之助のことを密告してきた男がやってきた。

だが自分の名前を言わないのでは、褒美はやれない。
言えないと言うことは、お前もおそらく盗人であろう。
「昨日までのことは、不問にするので立ち去れ」と式部は言い渡す。
すると、それを聞いた男は「伊助」と名乗り、「暁の星右衛門一味にいたが、このところ、具合が悪く仕事はしていない」と白状した。

「いろはの伊助」といい、本所の横網長屋に暮らしている。
山田は5両を持って来て、「約束だから受け取れ」と言うと、伊助は5両を見て感激した。
後は、さらに自分たちに協力するかどうかだ。

古道具屋で、熊五郎が吉五郎に、おしのの出した書付を見せていた。
吉五郎はまず、それが入っていた守り袋の香りをかぎ、次に書付を光にかざす。
「どうだ?」と聞く吉五郎に熊五郎が「私も調べましたが、こしらえものではありません」と答えた。

「女は?」
「疲れたと見えて、ぐっすり眠っていやす」。
2人の背後から、六之助が顔を出す。

「小頭、おしのは妹に違いねえんだ」と言って、おしのを楽にしてやりたいと言う。
一党の女性たちはさっそく、長屋におしののことを調べに行く。
おしのの話はどうやら、本当らしかった。

「同じ焼け出された身の上、おしのを助けてやってほしい」とお千代は仁左衛門に頼む。
仁左衛門は吉五郎に、忌憚のない意見を求めた。
聞かれた吉五郎は、「何となく話ができすぎているように思う」と言った。

お松は「墓地で出会っても何の不思議もない」と言ったが、「命日、お守り袋、甘酒屋の卯助、何もかも整いすぎている」と吉五郎は言う。
仁左衛門はキセルを吹かしながら、「このことは吉五郎にまかせる」と言った。
一方、お千代に「松屋とは会ったのか」と聞いた。

熊五郎の道具屋で、小頭はどう言ってるのかと、六之助はイライラしていた。
「もう少し待て。小頭には小頭の考えがあるんだよ、落ち着け」と熊五郎は言う。
「待てねえよ」。
「おめえ1人じゃどうにもならねえだろ。小頭の言うこと聞いて、待つんだよ!」

言われた六之助は「小頭には、人の情けがわからねえんだよ」と言って立ち上がる。
座敷のふすまを開けると、おしのがこんこんと眠っていた。
その寝顔を見て、六之助は「逃げ回って疲れたんだろうな」と声をかける。
「五郎蔵の奴…」。

岡田は、火盗の動きをじっと見つめていた。
「何か特別のことでもあるのか」と聞いた岡田に山田は「何もない」と答えた。
岡田は「ならば一杯やらないか?」と聞いたが、山田は「まだやることが残っている」と断った。

高利貸しの五郎蔵の家の中では、高瀬をはじめとした火盗が捕り方姿で待ち受けていた。
鐘が鳴る。
頭巾をつけた岡田が、辺りをうかがいながら、熊五郎の古道具屋の戸を叩く。
熊五郎が「岡田様」と応対に出ると、岡田は六之助の行方を聞いた。

「何?」
「すぐ呼んでくれ」。
熊五郎は、店の奥にいる六之助を呼びに行く。

岡田は「暁の星右衛門のところにいる伊助を知っているか?」と尋ねる。
「盗賊改めに、お前を売りに来た」と言う。
その後の火盗の動きが妙だ。

式部の指示で、山田が直々に褒美を渡した。
よほど、良いネタを喋ったのだろう。
「本所、横網長屋の伊助だ。いいな」と言って、岡田は出て行く。

熊五郎は伊助のことを「そいつはもしかしたらおめえのガキ時分に、同じ甚助長屋にいた…」と言って、六之助の胸倉をつかむ。
「どうだ!」
六之助がハッとして、奥の座敷に駆け込む。
眠っていたはずのおしのは、いなかった。

「どこだ!」と、六之助が叫ぶ。
「あいつは妹なんかじゃねえや!」
そう叫んで熊五郎が、六之助の頬を張る。

熊五郎と六之助は、道具屋を飛び出した。
おしのは小船に向かって走っていた。
「このアマ!俺をなめやがって!」
おしのが、匕首を抜く。

六之助がそれを押さえたかと思うと、返す刃でおしのを刺した。
「殺す!」
熊五郎が目を見張り、「…!」と息をもらす。
刺されたおしのは、「殿様」と小さく声をあげた。

ハッとした熊五郎が、かけていく。
「伊助の野郎!」
六之助はさらに、闇に向かって走っていく。
「六、ろくーっ!」

熊五郎は六之助に向かって叫ぶが、倒れたおしのに駆け寄った。
「安部式部。安部式部、か…」。
六之助は叫びながら匕首を持って走る。
長屋に飛び込むと、「六!」と驚いた伊助を刺す。

高瀬たちは、五郎蔵のところで、雲霧一味を待っていた。
五郎蔵の店の表にいた仁左衛門は吉五郎に「静か過ぎる」と言った。
「静か過ぎる」。

大勢の人間が息を潜めて忍んでいるのが、手に取るようにわかる。
「お前の言う通りだ。式部は俺たちをはめるつもりだったんだ」。
「でもこのままじゃ戻れません。六の向こう見ずが、このままじゃ何をしでかすかわかりません」。

その時、店の前に黒い布を羽織った影が走ってくる。
影は布をどかして顔を見せ、あたりを伺う。
熊五郎だった。

2人の前に来て熊五郎は「おかしら」と声をかけたう。
伊助を刺した血のついた匕首を持って、六之助は立ち尽くしていた。
そして、匕首を伊助の前に投げる。

夜が明けた。
雲霧は来なかった。
引き上げる高瀬たち。

火盗の屋敷の門前に、立派な布がかかった棺桶が2つ並んでいた。
棺桶の上には「手厚く葬られたし 雲」と書いた書付があった。
筆跡が違うものが、もう片方の棺桶の上にもある。

棺桶の中には、おしのと伊助の遺体があった。
書付を式部は丸めて、火鉢で燃やす。
煙があがる。

吉五郎は仁左衛門に、おしのという女は安部式部の屋敷で奉公していて、特別世話になっていたらしいと話していた。
幼く見えたが、あれで24だった。
吉五郎は「やむをえなかったとはいえ、六之助は人を殺めすぎる」と言った。

そこにお千代がやってきて、「いよいよ」と言った。
松屋がどうしても、自分を名古屋に連れて行くと言った。
月が替われば、久々の大仕事だ。
諸国に散っている一党につなぎをつけるよう、仁左衛門は言い渡す。

旅姿の仁左衛門の前を、葬列が行く。
道を避けた仁左衛門は、頭を下げる。
1人、名古屋に向かう仁左衛門。
他の一党は、いずこ…。



棺桶が式部の役宅前に置かれていて、「手厚く葬られたし 雲」って書いてある。
「し」の字が長く伸びて、「雲」って書いてある。
達筆。
単なる盗賊ではない、仁左衛門の教養が感じられる。

伊助が所属していた「暁の星右衛門」の一味って、首領の留守中に勘造が勝手に仕事をした為、第1話でかなり捕縛されてましたね。
血を見るのが好きな凶賊。
たくさん、獄門になってたはずだけど、伊助は体が悪いと言っていたから、あの時は仕事してなかったのか。

さて、雲霧は名古屋の豪商・松屋に目をつけている。
入り込むのは、公家の若後家に化けた七化けお千代の「千代」姫。
変身。

しかし今度ばかりは、お千代も弱気。
そこに「この雲霧がついておる」と、おかしらの心強い一言。
力と勇気を与えられ、奮い立つ。
仁左衛門の力。

そして片方、「仲間同士で誹謗中傷はいかん!」と言う式部もすごく良いおかしら。
どっちも「この人の為に働きたい」と思わせる。
人望があるのも、納得。

おしのは、小林綾子さん。
幼く見えて、でもしっかりしていて。
さぞかし、阿部の殿様を慕っていたことだろう。
もう少し早く、わかっていたら岡田も雲霧に落ちないで済んだか?

この岡田甚之助、高瀬たちに武芸の稽古をつけるのを見ると、かなりの使い手。
前回、それをアッサリと押さえたんですから、熊五郎が相当できるのがわかる。
でも岡田がいるメリットは、今回わかったけど、すごく大きい。
密偵の存在が盗賊捕縛に大きく役立つ以上に、火盗に協力者がいることは雲霧にとって大きい。

熊五郎はちゃんと、「岡田様」と呼んでいる。
相手のプライドを、変に刺激しない。
一定の敬意をちゃんと払うのが、大事なところ。
ここが小悪党とは違う。

しかし紳士的に振る舞っていても、八重がいなくて座敷に吉五郎がいるところが怖い。
岡田はもう、小頭とも顔見知りなんですね。
きっと、雲霧は暴力的にではなくて、温泉旅行とか何とか言って預かってるんじゃないかと。
でもその用意周到さ、紳士的なところが逆に怖い。

雲霧一味の評判を、江戸市民が噂している。
看板を字を知らないとは言え、肝心の仁左衛門が読まされる。
「極悪非道じゃないよね」と結構みんな、雲霧の仕事に胸がすいているのがわかる。
火盗・お上の側にすれば、忌々しい。

雲霧が憎まれないのは、「犯さず、殺さず、貧しきものからは盗らず」だから。
「殺さず」で、ちょっとやっぱり、激情にかられがちの六之助が危うい。
その六之助は妹・おしのと対面。

直接、兄妹の対面を見ている熊五郎は疑惑を持ちながらも、天涯孤独な六之助に対して、どこか哀れも感じている。
だが何となく違和感が残るのは、吉五郎も同じ。
五郎蔵の家がおかしいと感じる仁左衛門など、この勘が生死を分ける。

おしののお守り袋の匂いを嗅ぎ、中身の書付をすかして見ている。
匂いまで嗅ぐ。
小頭には人の情けがわからないと口走る六之助に真相がわかった熊五郎は、「あいつは妹じゃねえ!」と頬を張る。

情に流されて、目を曇らせた。
それは岡田も同じ。
雲霧も、火盗も、弱いところを見つけ、そこを突いてくる。

熊五郎は、闇と同化する。
おしのにも、はっきりと姿は見せない。
あれでは特徴を聞かれても、わからないだろう。

姿を見せないということは、正体をくらますだけじゃなくて、余計な殺生をしなくて済むことでもある。
妹を名乗ったおしのに六之助が激して、さっさと殺してしまう。
殺生をしてしまう「六之助には困ったものだ」と、小頭が話している。

式部が、おしのを殺され、呆然としている。
おそらく恩を返すために囮を買って出たであろう、おしのの死は式部の心に大きな傷を残した。
同時に雲霧捕縛への情熱も、ますます燃えた。

男がカッコイイ時代劇って、やっぱり良いですねえ。
旅の途中、葬列に頭を下げる仁左衛門。
命の重さを知っている。
いよいよ、雲霧が旅姿になり、それぞれもいろんな姿で、散って行ったらしい。


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2012.07.30 / Top↑
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