第7話、「松屋襲撃」。


火盗は茶店の藤屋の見張りを続けていたが、雲霧が松屋を狙っていることは知らなかった。
仁左衛門は三次からのつなぎが途絶えていることに、不審を抱く。
同じく、治平もお千代も、三次の動きに不審を抱いていた。
治平は三次は夜中にこっそり帰って来るし、おまけに小判を隠している…と言い、お千代はこれからのつなぎは治平に頼むと言う。

一方、火盗が見張っている藤屋だが、動きはなかった。
実はもう、雲霧の方でも、藤屋が見張られていることを気づいていた。
そんな時、藤屋でささいなことがきっかけで、男たちのケンカが始まった。
藤屋の中を荒らしながらの殴り合いの大ゲンカになったが、茶を飲んでいた高瀬は固唾を呑んで見守る。

誰かが奥から出て来て、ケンカを止めるのではないか。
しかし、表の騒ぎを聞いても、奥にいる仁左衛門は動かない。
ついにお松が包丁を床に突きたて、啖呵を切って男たちの騒ぎを収めた。
旅の客を装った仁左衛門が、藤屋から出て桑名に向かう。

治平は夜中に出かける三次の後をつけ、三次が福右衛門に松屋の絵図を渡すのを確認した。
それを知ったお千代は、松屋善右衛門に今までの知り合いへの挨拶に文を書きたいと言って仁左衛門に手紙を書き、治平に届けさせる。
松屋を発った治平が藤屋に寄ると、お松から桑名に行くよう、伝えられる。
治平はお千代の手紙を持って京都へ向かったと見せかけ、桑名へ向かった。

桑名で熊五郎が表向き営むはまぐり屋には、六之助が潜んでいた。
治平は娘のおもんとも再会し、治平からの手紙を持ったおもんが仁左衛門につなぎを取る。
お松も三次が鍵の蝋型を取ってこないこと、松屋に潜入したお千代のことを心配していた。

三次の裏切りを知った六之助は、憤った。
仁左衛門に会った治平は、三次をどうするか聞くが、仁左衛門は「河辰と三次にはさわるな」と言う。
そしてもう、茶店の藤屋とは関わるなと言う。

松屋を襲うのを早める。
年内にやる。
仁左衛門の言葉に、治平は驚く。

人手が足りない火盗は藤屋の張り込みを諦め、今度は福右衛門の潜むうどん屋「河辰」の裏口に回る。
山田や高瀬は、河辰に出入りしている三次に目をつける。
後をつけられた三次は、松屋に入るところを突き止められる。

福右衛門と雲霧、両方がいる。
つまり、暁一味は松屋を狙っている。
さらにそれを、雲霧が狙っているのだ。
確かに松屋は、狙われるだけの財産を持っている。

だが江戸以外の地で、火盗の探索はこれ以上は限界だ。
まず藤屋は諦め、小間物屋から河辰を見張ることにした。
松屋は、松屋の裏手にある墓地から見張ることにする。

治平が松屋に戻った。
お千代は治平の手紙を受け取り、世話になった歌の師匠が病だと言うことを松屋善右衛門に告げた。
だから文を書いて足の速い三次に至急、届けてもらいたいとお千代は言う。
善右衛門は承知した。

文を書きながら、お千代は三次に「松屋のお盗めは1月21日」と教えた。
お千代は、お頭が急ぐので、三次を寄越して欲しいと言ったと言う。
それを聞いた三次は、松屋を出る。

仁左衛門は桑名の海を前に浜辺に腰掛け、静かに話す。
「こざかしいのは、三次の後ろにいる男だ。
人の心の隙間に忍び込んで、操ろうとする。
金、女…」。

仁左衛門は、ふっと自嘲気味に笑う。
「おかしいな。同じことをしているわしが、人の心を憐れむとは…」。
仁左衛門の座る影に、熊五郎がいた。

熊五郎は無言で、握り飯を頬張る。
仁左衛門が口を開いた。
「掟通り殺せ」。

握り飯を口に運ぶ熊五郎の動きが、一瞬止まる。
「へーい」とは言わなかった。
黙って、うなづく。
そして再び、無言で握り飯を頬張る。

三次は河辰にやってきて、松屋襲撃は年が明けて1月21日だと福右衛門に教える。
そして三次は、つなぎの手紙を福右衛門に見せた。
これで、三次の仕事は終わりだ。
「金をやるから、女を連れてどこかへ逃げるがいい」と福右衛門は言った。

三次は福右衛門のところで出会った女・おきねに会い、一緒に逃げる約束を取り付ける。
おきねは何がほしいか聞かれるが、海を見たことがないと言う。
ならば、海の見える土地で、所帯を持とう。
三次はそう言って、先に行っているよう、おきねに金を渡した。

その後すぐに、三次は桑名に向かう。
火盗の密偵・豊冶郎が、その後をつけていく。
さらにそれを見たお松が、吉五郎に伝える。
吉五郎は、「三次の野郎、よほどいい目を見たんだろう」とつぶやく。

桑名の熊五郎の店に着いた三次は、おもんに「奥」と言われ、店の奥に行く。
すると六之助がいた。
何事もなかったように喋る三次だが六之助は、「おめえこれを櫓の福右衛門に見せたろう?」と言って、つなぎの手紙のことを追求する。
三次と六之助は、もみ合いになる。

やがて三次は店の奥から飛び出し、表に出る。
走って逃げる三次の後を、六之助がつける。
2人の後を、密偵の豊冶郎が走って追っていく。

冬枯れの草の中、三次が走っていく。
だが、その先にすっと、熊五郎が現れる。
「州走り…!」
「三次い!おかしらのお指図だ」。

熊五郎は腰から、匕首を抜く。
三次が熊五郎と向かい合ったまま、走る。
熊五郎は走る三次を、正面から刺した。

匕首を抜くと、三次が口をパクパクさせて、何か言おうとして絶命する。
遅れて走ってきた六之助がそれを見る。
背後で豊冶郎が見ていた。

熊五郎は六之助に、「表にいた笠の男は、名古屋から三次をつけてきたに違いない」と言った。
「江戸の岡っ引きじゃないのか」。
その言葉に、六之助は思い出した。

火盗に捕えられる前、道を尋ねた。
その時に、道を教えた男は今いるあの男、豊冶郎だ。
豊冶郎は後ずさりして行くが、既に熊五郎が目の前にいた。
「野郎!御用だ!」

匕首を手にした豊冶郎を熊五郎はアッサリ取り押さえ、その匕首で首筋を斬る。
豊冶郎は倒れた。
六之助がやってくる。

夜の川を見つめながら、仁左衛門は吉五郎に配下がどこに何人いて、どのぐらい動けるか聞いた。
「決行する。今夜、亥の刻」。
仁左衛門は夜の水面を見ながら、吉五郎に告げた。

河辰を見張っていたお京は山田に、福右衛門はどんどん松屋から遠ざかっていくと行った。
江戸に向かうのではないか。
それを聞いた山田は、ハッとした。
「雲霧は松屋を狙っている!」と叫び、走っていく。

亥の刻。
高瀬たちは、墓場から松屋を見張っていた。
1人の岡っ引きが高瀬に言いつけられて、そこから離れると、吉五郎がそれを襲い、あっという間に気絶させる。
不穏な気配に気づいた火盗だが、またしても吉五郎に当身を食らわされる。

そして、また1人がた吉五郎に気絶させられ、政蔵と高瀬が走ってくる。
政蔵は吉五郎に当身を食らわされ、高瀬は刀を振り上げたが、仁左衛門に交わされてしまう。
高瀬も政蔵も気絶させられた。

寝静まった松屋の表に、熊五郎が潜む。
吉五郎が塀を乗り越え、待っていた治平が戸を開ける。
音もなく、次々と黒装束の男たちが侵入してくる。

熊五郎が座敷の表に走っていく。
仁左衛門が立ち、その前に吉五郎が立つ。
眠っている松屋善右衛門に、お千代がしがみつく。

お千代にしがみつかれて起きた善右衛門の背後に、仁左衛門がいた。
吉五郎と熊五郎が、善右衛門の着物の裾を両側から畳みに刀で縫い付ける。
壁のからくりの戸が、あらわになる。

ふっと灯りを吹き消した仁左衛門が、声を出す。
「鍵を出されい」と、蔵の鍵を出すよう、仁左衛門が告げる。
「ここにはない」と善右衛門が返事をする。
「出されい」。

ないと言い張る善右衛門の前で、仁左衛門はお千代のアゴに手をかけ、顔を上げさせる。
お千代の首を、肩を、仁左衛門の手が張っていく。
白い顔をして、お千代は硬直している。

仁左衛門はお千代をじっと見つめ、首筋に唇を這わせる。
背後で身動きできない善右衛門が、見ていられないとばかりに目を閉じる。
「ひいっ」。
仁左衛門に抱きすくめられたお千代、小さく悲鳴をあげる。

山田籐兵衛が、夜の町を走っていく。
お千代は障子を背に、仁左衛門に釘付けにされている。
善右衛門が、恐る恐る目を開く。

黒装束に身を固めた熊五郎と治平が、声もなく部屋の隅に立っている。
みな、微動だにしない。
お千代の震える手が耐え切れないように伸び、障子をつかもうとする。

「鍵を出します!天袋に仕掛けが!」
善右衛門が口を開いた。
天袋から鍵を取り出した雲霧一党は、仕掛けを動かし、地下に侵入する。
解放されたお千代は密かに心の中で「お頭は、なんという思いきったことを…!」とつぶやく。

地下の蔵が開き、千両箱が現れる。
次々、小判が運び出される。
金を積んだ荷車に、「桑名藩御用金」という看板が掲げられる。

熊五郎が走ってくる。
おかしらに一礼すると、闇の中、走って消える。
一党は金を積み、仁左衛門を先頭に悠々と夜の闇に消えていく。

やがて、仁左衛門は側にいるお千代に声をかける。
「お千代、長い間、苦労をかけた」。
「おかしら、その一言で私は…」。
「うむ」。

墓地に駆けつけた山田は、目の前の光景に「ああっ」と声をもらす。
高瀬たち5人は、いずれも首まで土に埋められていた。
首だけを表に出した高瀬は「無念です…」と言った。

山田が松屋に走りこむと、善右衛門は呆然と布団の上に座り込んでいた。
「江戸の火盗改めだ!何があった!」と叫ぶと善右衛門は「金は…働けば、またたまります」とふるえて力のない声でつぶやいた。
「あいつらは…、女房をさらっていってしまいました」。

山田が見えているのか、いないのか。
善右衛門の声は力なく、妙な抑揚だった。
「あれだけの女…、お千代を」。
「お千代…!目を覚ませ、おそらくその女は七化けのお千代という、一味の女だ」。

山田は善右衛門の肩を叩く。
「盗られた金は!」
善右衛門は泣き崩れる。
「たった1万両」。

「い、1万。1万両がたったか!」
山田はいまいましげに言う。
だが善右衛門は、何も聞いていない。
何も目に入らない様子で、魂が抜けたように「お千代お~」と泣いていた。

茶店にいた福右衛門は、やってきた手下から松屋が雲霧にやられたと聞いた。
その途端、福右衛門は手下を殴り飛ばした。
「雲霧!」
茶店の者も驚き、引く中、出し抜かれて怒りが収まらない福右衛門は手下を蹴り続けた。

江戸に向かう仁左衛門は、花嫁行列に出くわした。
仁左衛門は道を空け、笑顔で見送る。
雲霧は松屋襲撃に成功した。
だが仁左衛門は一党の解散の為、次なる標的を求めて策を練っていた。



前半のクライマックス、松屋襲撃。
今回は濃かった。
まず、三次の裏切り発覚。
三次と、三次を通じて、福右衛門に松屋襲撃は1月21日だと思い込ませる。

年明けだから、余裕で福右衛門は名古屋を離れていく。
三次は福右衛門のあてがった女・おきねと、本気で所帯を持つ気になっていた。
おきねも意外なことに、三次と本気のようだった。
もしかしたら、おきねはずっと、福右衛門のところから逃げ出したかったのかもしれない。

ぽつりと、浜辺に座って話す仁左衛門。
三次だけが悪いんじゃない。
悪いのは、福右衛門だろう。

人の心の隙間に忍び込んで、弱みを見つけて、または弱らせて、そこにつけ込んで操ろうとする。
それは金で、もしくは女で。
そう、火盗で自分たちが密偵にした男、岡田甚之助に雲霧がやったことと同じだ。
福右衛門みたいな凶賊とは違うが、仕掛ける方法は同じだ。

人間とは哀しいものだ。
弱さもあれば、業の深さもある。
そしてそれを利用する、自分たち盗賊。
人のそういうところにつけ込む自分たちの悪辣さを、自分で自覚して自嘲する。

独り言のように聞こえた仁左衛門の言葉を黙って聞いていたのは、久々登場、州走りの熊五郎だった。
熊五郎が握り飯を頬張るのが、迫力あった。
黙って、食べているのに凄みがあった。

仁左衛門も自分たちの罪深さを思ったが、それでも三次を放置できない。
掟通り、殺せと鋭い声で命じる仁左衛門。
一瞬、握り飯を口に運ぶ熊五郎の動きが止まる。

ずっと潜入させてきた仲間を、お盗め直前で殺さなければならない。
三次はそれだけのことをしているとしても。
熊五郎のいつもの返事、「へい」が聞こえない。
黙ってうなづくしかない。

心の痛み、自分たちの怖ろしさを熊五郎も思い知っている。
それでも命じられたことは、鮮やかに手際よくやってのける。
心の痛みも、迷いも感じさせない。
さらにはあっという間に、つけてきた密偵も始末してしまう男・熊五郎。

そして、おきねは三次を待っている。
だけど、三次はもう来ない。
これから彼女は、どうするのか。

そして突然、お盗めは今夜、と言うおかしら。
松屋襲撃。
その前に、墓場で見張りの火盗を襲って、全員を気絶させる。
この圧倒的な強さに、高瀬も正面から押さえ込まれ、火盗が為すすべもない。

そしてお盗め。
熊五郎がいる。
吉五郎が、治平がいる。
みなが黒装束に身を固める中、仁左衛門は善右衛門の背後に立ち、顔を見せない。

お千代に迫り、松屋に鍵を出させる。
その時、顔が見えないよう、フッと灯りを吹き消す。
この時のお千代と仁左衛門が見つめあい、お千代が蹂躙されると思わせるシーン。

本当はずっと、お千代は仁左衛門だけを見ている。
そのお千代の心のうちを知っているこちらには、おののくお千代が内心、恍惚としているように見えて、緊張感が走る。
この光景を、冷徹とも言える表情で見下ろしている、熊五郎、そして治平。
微動だにしないその姿勢。

本当はみんな、知っている。
お千代の心のうちを…。
その上で、微動だにしない。
雲霧一党の、鉄の結束と意思をうかがわせる。

お千代はただ、松屋の心をつかんでいれば良い。
この言葉通りの善右衛門はこの光景に耐え切れず、鍵を投げ出す。
仕掛けに引っかかることもなく、雲霧一党は1万両を運び出す。

表には熊五郎が既に待っている。
仁左衛門は「藩御用金」という看板を掲げて、悠々と夜の町を引き上げていく。
そしてお千代を労う。
お千代にはお頭の役に立った喜びがあるだけ。

善右衛門は、金よりもお千代をさらわれたことがショックでしょうがない。
金はまた、たまる…。
でもあんな女はもう手に入らない…。

仁左衛門は、標的にお千代を恨ませない。
標的に残るのは、理想の女・お千代だけ。
良い夢を見させたのかもしれない。

傷心の松屋には、山田の声も耳に入らない。
善右衛門はこの先、お千代以外の女性には心を動かされることはないに違いない。
陳腐な言い方だが、お千代が盗んだのは善右衛門の心。

山田が駆けつけた時、土に埋められている高瀬たち。
まるで、さらし首のような不気味さだけど、思わず笑いがもれてしまう。
だからこそ、屈辱的だと思う。
逆さに吊るしたり、雲霧はユーモラスに人にダメージを与えるのが上手い。

一杯食わされた福右衛門は、激怒。
突然、怒りを爆発させ、何の罪もない手下を殴る、蹴る。
福右衛門は小野武彦さん、「踊る大捜査線」の課長ですが、ここでは凶暴です。

江戸への道中、花嫁行列を見送る仁左衛門。
仁左衛門は、花嫁を前にして、お千代の平凡な幸せ、花嫁姿を重ねたかもしれない。
こんな幸せを味あわせてやれない自分の罪深さを、思ったかもしれない。
仁左衛門の心には一党を解散させ、普通の生活に戻すための資金を求める、次のお盗めがあるよう。


一区切りつきましたが、物語はここらからまた、すごく良いんですよ。
「雲霧仁左衛門」はスポーツ中継や事件の特番の為、当時は放送が延期になることが何度もあって、ついに最後の3話が放送されずに終わりました。
この3話を見ると、「そんなばかなっ!」なんですよ。

後に何気なく見始めた人が見て、「お、おもしれー!」と。
「ああ、今見てるものが物足りない、つまらない」って言ってる人までいました。
人はそれぞれなので、そうだとも言えないんですが、そう言いたくなる気持ちもわかるんです。

最後まで見ると時代劇、いや、ドラマや映画に求めるものが、全て見られると言ってもいいかもしれない。
むしろ、時代劇だからこそできることをやっている。
肉親の情、肉親ではなくても魂で結ばれあった者との絆、そしてそれぞれとの別れが胸を締め付ける。

全てがラストに収束し、見事に収まる快感。
つくづく、放送に関しては残念です。
連続で見るのが、一番だったと思いますし。

それなのにこうしてDVDになり、何度もCSで放送されるのも納得。
いや、それで良かった。
俳優、ストーリー、演出の見事さに、心が揺さぶられます。
不遇を越えた、90年代最高の時代劇です。


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2012.09.11 / Top↑
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