時代劇専門チャンネルの「木枯し紋次郎」。
「童歌を雨に流せ」。


通りかかった貧しい農村で、家の中から子守唄と子供の泣き声が聞こえる。
ハッと察した紋次郎が家に駆け込み、間引き寸前の若い母親を止める。
度重なる飢饉で、もうどうしようもないと言う母親・おちか。
だが殺される子供は親とは言え、うらむものだ。

それは間引きされるところを姉に助けられた紋次郎ならではの、語り。
しみじみとした紋次郎ならではの言葉に、おちかは言葉を詰まらせる。
紋次郎は自分のような裏街道を歩く人間でも、時には何かいいことがあるのではないかと思うことがあると言う。
それもこれも生きていればこそでござんすよ、と。

いつも何かを諦めているかのような紋次郎の、希望が語られた場面。
そして、子供の頃に、間引きされそうになっていた紋次郎の言葉、おちかを思い止まらせる程に重かった。
紋次郎は2両には足らないが、何か口にするものが買えると博打で稼いだ金を投げ出す。

そしておちかは後家には見えないと言って、おちかから5両の為に韮崎に向かった夫の名・金蔵を聞き出す。
自分は今から韮崎へ向かうので、必ず探し出してやると言う。
途中、若い渡世人が緊張しながら紋次郎に仁義を切ると、初めて仁義切ると見て、普通に話してよござんすよ、と言ってやる。

わずかな笑みが、紋次郎の口に浮かんでいる。
緊張している若い渡世人に見せる、優しさ。
親分さんの手下にしてほしいという青年の申し出を断る紋次郎に、せめて道中一緒に旅してくれと青年は懇願。

一人前の渡世人になって名を売りたい、もう百姓は嫌だと言う青年を紋次郎は殴り飛ばす。
ヤクザって言うのは世間のハンパ物、道を歩くにもカタギの邪魔にならないよう避けて歩く。
少々名を売ったとはいえ、そんなものは誰も羨ましいとも思わないし、えらいとも思わない。

そう言った紋次郎は、青年の故郷を尋ねる。
親はいるのか。
50を過ぎた母親と、妹が2人と青年は答える。

紋次郎は、自分が死んでも誰も悲しまない。
だが、お前には死んだら泣いてくれる家族がいる。
今なら間に合う。
まだカタギに戻れる。

間違った了見を起こすな、と言って紋次郎は去っていく。
うなだれている青年。
そして紋次郎は道中、いろんな人間に狙われる。
100両の賞金目当てに自分を狙ってきた渡世人崩れに紋次郎は、初めてドスを手にした人間には人は斬れねえと言い放つ。

自分はもっと切羽詰った人間との約束がある。
紋次郎の話に、渡世人崩れは「おめえさん、おちかに会ったのかい」と口走る。
その渡世人崩れこそ、金蔵だった。
金蔵はあまりの貧しさに韮崎のおちかの父親を頼って行ったのだった。

おちかの父親はつやつやと太っており、それでもすがる金蔵を追い出したらしい。
子供の為なら何でもする、と金蔵は思った。
紋次郎を斬ったら100両くれると言うので、金蔵は紋次郎を狙った。
金の為に人殺しでも何でもするなら、父親と同じではないか。

紋次郎が連れ帰った金蔵の話を聞いて、おちかは泣いた。
おちかの赤ん坊はあれからすぐ、死んでしまっていた。
金蔵は紋次郎のような渡世人が羨ましいと言ったが、紋次郎はヤクザなんて邪魔者。
役人は最初から胡散臭い目で見るし、何もいいことはないと言う。

金蔵とおちか、もう離れないでいてやってくれと言った紋次郎はやってきた刺客と雨の中、斬り合いになる。
華麗な殺陣とは言いがたい、雨の中、泥まみれになっての斬り合い。
これぞ、リアル。
狙ってきたのは源之助、頼んだのは人足支配の備前屋だと言う。

備前屋は、おちかの父親。
金の方が家族より大切な男だ。
おちかは金蔵と駆け落ちしたのだが、飢饉で切羽詰った金蔵は備前屋を頼ったが、備前屋には金が第一。
孫が死のうが、関係なかった。

そんな父親から逃げて、駆け落ちしてでも金蔵と一緒になった、おちか。
どんなつらいことでも、耐えていけるだろう。
もうこの土地に未練もないだろうと言って、紋次郎は去っていく。

紋次郎は自分には、もう一仕事あると言った。
雨は上がっていた。
この演出の見事さ。

備前屋を訪ねた紋次郎だが、カタギの家に上がりこむわけにいかないと言い、庭にまわった。
紋次郎は徹底して、渡世人とカタギの区別をつけている。
100両いただきましょうか、と言って、おちかとの住まいとはまったく違うと備前屋を見渡す。

金には未練がないと紋次郎。
明日がわからない紋次郎には、大金は意味がない。
しかし、紋次郎は自分に掛かった懸賞金を受け取りに来た。

備前屋は紋次郎を殺してくれと言えば、源之助達ヤクザは返り討ちに遭うかも知れないと見ていた。
案の定、源之助達は殺されてしまった。
町のダニとも言えるヤクザを始末をしてくれてありがとう、危ない目に遭わせてすまなかったと笑い、金を渡す備前屋。
一度引っ込んだ紋次郎は、瀕死の源之助を連れてきた。

備前屋の策略を知った源之助は立ち上がり、備前屋を斬る。
怒りの源之助を前に、金ならいくらでも出すと言った備前屋。
しかし備前屋は、仏の掛け軸の前で斬られた。

この回では、紋次郎が渡世人の裏街道振りを語る。
それも、かつての自分のような困窮極まったお百姓相手に。
紋次郎が、ヤクザに落ちた自分を語る。
これしかなかった。

でも、なってみて、普通の暮らしができないことを思い知った。
源之助だって、所詮、いなくなってほしいヤクザ、町のダニ。
ああやって消えていくしかなかった。
だから紋次郎は、貧しくとも自分のようになるな、と語る。

紋次郎はいわば、自分は逆境に負けた形で世間からはみだしたと思っているようだった。
だから、必死に生きるものについ、手を差し伸べてしまう。
命を張るのだから、生半可な気持ちでは助けられないのに。
間引き寸前のおちか、若い渡世人に見せる紋次郎の優しさ。


江口洋介さんの紋次郎の、一部、基になっている一編。
時代とはいえ、人を惑わすに十分なほどの貧しさが画面を通じて伝わってくる。
だからこそ、そんな中でも必死に生きる家族を、必死に生きる者を踏みにじる者への紋次郎の怒りがわかる。

地獄に仏は無用だ。
紋次郎は長楊枝で、備前屋の遺体に掛け軸を落とす。
もらった50両は、灯りのともる金蔵とおちかの窓辺に置かれた。

2度と、会わない。
自分のような人間には、ささやかに暮らす家族に会う資格はもうない。
明かりに背を向け、暗い街道を行く紋次郎。
その姿に、何ともいえない悲しみと孤独が漂う。

若い中村敦夫さんの、紋次郎の魅力。
詳しく知りたい方は、お夕さんのブログ「紋次郎気質」をどうぞ!
(お夕さん、勝手にごめんなさい)


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2011.06.15 / Top↑
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