何だかんだ言って、「剣客商売」の大治郎は恵まれている。
これを見ると、そう思う。
本当に何もない実直な男が生きていくには、どうしたらよかったのだろう。
愚直なまでに忠義を尽くしたのに、裏切られたら彼はどうすればよかったのだろう。


本田博太郎さんというと、キレた演技は右に出るものがいない。
それで私をしばしば、楽しませてくれる。
ですが、「剣客商売」の「その日の三冬」は違った。
本田さんの役は、岩田勘助。

身分が低く、容姿がとても醜い為、三冬の井関道場では三冬しか稽古をつける者がいない。
みなの憧れ、三冬が稽古をつける為、勘助はそこで嫉妬もかった。
だが勘助の剣は鋭く、まるでこの世への恨みをぶつけるかのような邪剣だった。

昼間、あまりに覇気がない勘助を三冬は叱咤した。
だが道場の帰り、三冬は勘助を待っており、茶店に誘ったのだ。
その時に勘助は「この世の名残り」のように、三冬の手を取り、思わずその手に口づけをした。
三冬は驚いたが、振り払わずにいた。

ありがとうございますと言い残し、勘助は走り去った。
その夜、勘助は自分を散々に辱めていた上役の男を斬って、出奔した。
勘助は追われる身となり、無宿者たちの中に身を沈めて過ごした。
しかし、足軽ごときに斬られる者は主家にはおらぬと言うことで、勘助は咎められなかった。

聞こえは良いが、誰も勘助を人間として認めていない。
そして勘助はある武家の娘をヤクザ者から助けた、ということでその家に雇われることになる。
卑屈なまでに忠義を尽くす勘助。
娘が密かに逢引をしている間、まるで犬が主人を待つかのように地べたに這いつくばり、娘を待つ。

そうして尽くし、娘の縁談に逆上した男が娘を連れ去ろうとした時、勘助は飛んで来た。
足蹴にされながらも、娘を守った。
そして相手を傷つけてしまった。

娘を守った勘助を、主家は罪人として相手に差し出した。
卑屈なまでに尽くした勘助は、書状を持って相手の家にいた。
書状に自分をどうにでもしていい、と書かれていたことを知った勘助は、絶望と怒りで咆哮する。
自分を取り囲んで斬ろうとした相手の刀を奪い、片端から斬る。

怨念こもる邪剣が爆発する。
切っ先を地面に這わせ、相手に向ける。
一文字に上から斬り降ろす。

そしてついに追い詰められた勘助は町を走り、人質を取って立てこもる。
大治郎たちに事の次第を聞いた三冬が説得に向かう。
三冬を見た勘助は哀しそうに笑い、目に涙を溜める。
「三冬様に今一度、お目にかかれて勘助は幸せ者でございます。もはや思い残すこととて、ございません…」。

三冬は1人、空き家から出てくる。
役人たちが、空き家に踏み込む。
「死んでいるぞお!」と、叫ぶ…。



悲しいですよー。
腹立ちますよー。
「私がこのような目に遭うのは、醜いから…」
「バカな!人はみな、同じじゃ!」

この会話が実に空しい。
結局、勘助は助けられない。
勘助の言うことが、哀しい真実。
人はみな同じ…、なんかじゃなかった。

だから勘助は追い詰められた時、まるで野良犬が怯えて牙をむくようだった。
それに対し、上役たちに足軽風情に斬られる者はいないと言われ、犬に投げて寄越すように小判を放り投げられる。
金でいくらでもあしらえる男。
勘助のプライドをかけた怒りなど、知る良しもない。

誰も勘助を人間扱いしていなかった。
三冬以外は。
いつもいつも、自分がそこにいることが申し訳ないかのような態度の勘助。

小鳥を相手にする勘助は、どこまでも優しい微笑を浮かべる。
対して、剣を振るう時は世の中への怨念が爆発したように禍々しい剣を振るう。
そして卑屈に尽くした勘助は裏切られ、絶望する。

世の中を一気に憎む。
敵に回す。
手負いの獣のような勘助を、三冬が説得に行く。

三冬を見て、うれしそうな勘助。
もう思い残すことはない。
悲しい目、うれしそうな目、憎悪があふれた目。
寡黙な勘助は、表情で語る。

本田博太郎さんが見事に、岩田勘助を演じてます。
キレた本田さんしか知らない人は、機会があればぜひ見て欲しい。
製作者の方、こういう役も、もっと演じさせてください。
深いもの、感じさせてくれますから。

何もかも上手く行かなかった勘助。
勘助は、どうすればよかったのだろう。
三冬以外、誰一人として人間として扱ってくれなかった勘助に、どんな方法があったのだろう。


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2011.06.23 / Top↑
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