「木枯しの音に消えた」。


野州から上州へ入った紋次郎はかつて、自分を助けてくれた浪人・花田源左衛門を訪ねる。
だが、花田は10年以上も前に悪い風邪が元でなくなっており、その頃、6歳だった娘も行方が知れなかった。
まだ駆け出しの渡世人だった紋次郎が、頬に傷を負った時に転がり込んだ小屋。
そこにいたのが花田だった。

花田は、殺気に満ちた若い紋次郎を手当てしてくれた。
娘の志乃が、長い楊枝を鳴らしていた。
そこで養生する間、紋次郎は志乃に誘われ、長楊枝を鳴らすようになる。
志乃が鳴らす音は笛の音に似て美しく、紋次郎が鳴らす音は木枯しが鳴くようだった。

紋次郎は、稲荷山の仙太と半次に絡まれる。
2人は絶妙のコンビネーション技を見せる、渡世人兄弟だった。
紋次郎は娘の志乃が売られ、たの字のつく女郎屋にいることを知る。
玉村宿へ志乃を探しに来る紋次郎だが、志乃はもう店に出ないと言う。

器量も気立ても良い志乃は地元の親分・巳之吉に身請けされ、幸せそうだった。
紋次郎が訪ねて来た夜、見習い祝言をあげることになっており、宿場の女郎にとっては夢見てもかなわぬことが多かった。
幸せそうな志乃を見て紋次郎は、幼い頃の志乃の面影を重ねる。
だが志乃には紋次郎がわからないようだった。

ところが、志乃を身請けした巳之吉は、宿場の渡世人同士の抗争に巻き込まれた。
相手の親分・六兵衛は稲荷山の兄弟を雇ったらしい。
稲荷山の兄弟にとっては、巳之吉の女郎屋でこき使われて死んだ妹・つねの意趣返しということだった。
志乃の身請けどころか、勝負の行方次第では宿場町自体が変わってしまうかもしれない。

それを聞いても去っていく紋次郎に、表で1人の宿場女郎が声をかける。
女はおとよといって、志乃と仲が良かったという。
紋次郎が志乃の消息を聞いたのを知っていて、「志乃」違いだと教える。
こちらの女郎屋にいるのが、花田浪人の娘だ。

志乃はもうこの世にはいない。
去年の秋、首をくくって自殺した。
志乃は、紋次郎のような長楊枝を持っていたと言う。
そして志乃を身請けする巳之吉だが、女郎にとっては鬼のような親分だったとも話す。

おとよは志乃の形見といって、長楊枝を見せた。
そしておとよは紋次郎に長楊枝を吹いてくれ、とせがむ。
志乃は子供の頃に吹き方を教えた為、この世には2人、長楊枝を鳴らす人間がいると言っていたらしい。
だが志乃が鳴らすと笛のように鳴り、その人が鳴らすと木枯らしが泣いているような悲しい音がすると言っていた。

志乃はその楊枝にしか思い出がないと言って、大事にしていたらしい。
浪人の父について知らない土地に流れ着き、7歳で売られ、下働きの揚句14歳から客をとらされた。
幼馴染もいない、唯一の楽しい子供時代の思い出が、一緒に遊んだ渡世人だった。
おとよはそう語り、酒を飲んで歌っていた。

稲荷山の兄弟は宿場に来て、田丸屋の番頭を始め、使用人たちは襲われる。
見ていたおとよは、六兵衛のやりそうなことだと言う。
自分の手は汚さずに稲荷山兄弟に支配させる。
このままでは、この宿場は危ない。

おとよは紋次郎に力を貸してくれるように頼むが、紋次郎は断る。
這い上がってきた一人の女郎を地獄に突き落とさない為、憎い巳之吉だが助けてくれとおとよは言う。
おとよが、志乃と同じ名前なのも何かの因縁。
志乃の供養にもなるのだと懇願するのを、背中で聞いて去っていこうとする紋次郎。

道中を行く紋次郎だが、街道をそれて走り出す。
巳之吉たちが抗争に巻き込まれているのだ。
駆けつけた時、巳之吉は稲荷山の兄弟に刺し殺された。

「おめえさんたちをあの世に送らなきゃ、いけねえ」。
つかみかけた幸せを逃し、再び地獄に堕ちる志乃の為に。
志乃はおめえさんの何なんだ?
答えず、紋次郎は戦い始める。

走りながら斬りあう紋次郎は、六兵衛の手下を次々斬る。
だが、稲荷山の兄弟は自信満々に紋次郎に挑んできた。
2人で1人に襲い掛かる兄弟。
打つ手は一つ、同時に襲い掛かったと見てタイミングをずらすことだった。

極めて成功率は低い。
だが紋次郎は長ドスの鞘を弟に投げつけた。
怯んだところに走ってきた兄を斬り、返す刀で弟を斬る。
勝負は一瞬で決まった。

倒れる兄弟。
紋次郎は赤い長ドスの鞘を拾っていた。
志乃が倒れた身の助の横に立ち尽くす。
おとよがかなしそうに、座っている。

紋次郎が楊枝を鳴らす。
おとよが長楊枝を拾って口にする。
それは美しい笛のような音を奏でた。
おとよの頬に涙が流れる。

紋次郎が立ち止まる。
「お志乃さん」。
背中を向けたおとよ、いや、志乃が言う。

「お志乃は死んだよ。紋次郎さん、あんたの知ってるお志乃の、きれいな思い出だけを持ってっとくれよ」。
紋次郎は振り返らない。
「おめえさんのことは、思い出しもしねえが、忘れもしやせん」。

志乃が涙を目に、視線を落とす。
紋次郎を見送る。
枯れた野を越え、1人、紋次郎は去っていく。



名作ばかりで、見るのに困ります。
稲荷山の兄弟、兄が戸浦六郎さん、弟は荒木一郎さんです。
戸浦さんはさすがの悪役っぷりなんですが、荒木さんもなかなか。

この2人、両側から斬りつけ、4つのサイコロを真っ二つにしてみせる。
そして妹のつねの位牌を抱き、巳之吉への恨みを持ってやってくる。
結局、女郎に対する残虐さが自分に帰ってきて、巳之吉は殺されてしまった。

志乃は幸せを前に、再び、地獄へ堕ちてしまった。
ふらふらと巳之吉に近づく、志乃。
でも、稲荷山の兄弟はつねが女郎に売られて、女郎屋を突き止めた時には遅かったと嘆いていた。
ということは、稲荷山の兄弟にだってつらい事情があったわけで。

その稲荷山の兄弟を上手く利用したのが、六兵衛。
六兵衛は大滝秀治さん。
まったく手を汚さず、結局は宿場町は彼のものになった。
あの宿場町は、どうなったのかな?

さてここでは、若き日の紋次郎が見られます。
まだ駆け出しの渡世人であった、戦闘的な紋次郎。
倒れこみ、それでも花田に向かって威嚇する、野良犬のような紋次郎。

そんなに強くない犬が威嚇する為に牙剥くでしょう、あんな感じ。
再び訪ねるまでに時間が経ってしまったけど、紋次郎には珍しく忘れられない楽しい思い出。
志乃は、十朱幸代さんです。

野暮を承知で言うと、あんな美しい女性が宿場女郎に収まっているわけがない。
誰か、大店の主人か、どこかの大身が身請けするか、花魁になっちゃうでしょう。
人生捨ててしまったような、投げやりな口調。
全てに希望を失ってしまった態度。

そりゃそうだ、あれからおそらく、楽しいことなどなかったのだろうから。
志乃にとっても、紋次郎との日々は大事な思い出。
今の荒んだ自分を見て欲しくなかった。
もしかしたら、紋次郎は志乃の初恋の人になったのかもしれない。


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2011.07.01 / Top↑
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