第12話、「頼み人は津軽のあやつり人形」。


ある夜、加代が上野の森を通りかかると、突然三味線の音がする。
同時に暗闇に白い顔をした人形が浮かび上がり、加代は悲鳴をあげて逃げた。
上野の森に幽霊が出るという噂が広まり、主水のところにも何件も苦情が寄せられた。
田中さまの命令で、主水は噂の真相を確かめに行く。

上野には大勢の野次馬が集まっていた。
三味線の音が響き、主水が確認に行く。
すると、1人の男が三味線を弾き、もう1人の男が人形を操っていた。
幽霊と思ったのは、見事な美しい人形だった。

主水が質問すると、三味線を弾いている男は何も答えない。
2人は兄弟で、兄は人形使いの喜太郎。
弟は三味線引きの小吉で、目が見えず、耳も聞こえない為、口も利けないという。
小吉の目には刀傷があった。

その頃、陸奥藩の殿の田野倉は、若い娘を屋敷に連れてきていた。
娘を老中に献上するのだった。
闇の会が開かれ、陸奥藩の田野倉、家老の小松と用人の稲村と片山が仕事に掛けられる。

頼み人に面通しがされる。
すると、そこにいたのは喜太郎と、あの人形だった。
加代は思わず、仕事を請けてしまう。

壱を探すのに、加代は5両と書いた凧を上げる。
その壱は女郎屋で、女郎を相手に目隠し鬼遊びの最中だった。
「いつも客迎える時、こんなことすんのか」と、壱は目隠しをしているこゆきという女郎に聞く。

「よし、じゃあ目隠し取って、顔見せてくれ」と言う壱にこゆきは「また来てくれたら、そん時にね」と言う。
「しっかりしてるな」と壱が言った時、外から津軽三味線が聞こえた。
津軽三味線の音に、こゆきが反応する。

上野に出たお化け、つまり喜太郎たち兄弟の人形劇が大評判になる。
その劇は津軽藩の殿に献上品となったお嬢さんと、仲を引き裂かれる恋人・音松との話だった。
切なさに観客は、涙する。

壱はまた、「俺だよ」と、こゆきのいる女郎屋に行く。
相変わらず目隠しをしたこゆきが、「また来てくれたのね!」と壱の声を聞いて喜ぶ。
「今日はそれ取って、顔見せてくれんだろうな」と壱が言うと、こゆきが手探りで這って来る。
こゆきの目は見えないのだった。

「これっきりで遊びに来てくれなくてもいいの。だから目隠しだけは」。
こゆきがそう言うと、壱は「そうか、そうだったのか。わかった、わかったよ」と、こゆきの肩をたたく。
「ごめんなさい」。
「いいんだよ」。

「おめえ、津軽の生まれか?」と壱が聞く。
「だってこないだよ、角付けの津軽三味線、懐かしそうに聴いてたじゃねえかよ」。
こゆきがうなづく。

「そうか。いつ江戸に出てきたんだ」。
こゆきが「2年前…」と言った。
「それじゃ、津軽に帰りてえだろうなあ」と、壱が優しく言う。

上野で喜太郎たちの人形劇は、大盛況だった。
クライマックス、壱がこゆきを連れて身にやってくる。
ヒロインおしのが江戸に連れて行かれる場面で、こゆきは思わず壱の手を握り締める。
壱が気がつく。

音松とお嬢さんの、手に手を取っての駆け落ち。
逃避行の途中、2人は陸奥藩の侍に見つかった。
音松は斬られ、目の見えぬように、と用人に目を斬られる。
おしのは音松の名を絶叫しながら、侍たちに連れて行かれる。

人形劇を影で見ている、陸奥藩の侍たち。
侍たちが去る。
その後ろでは、政が不安げに侍たちを見ていた。

こゆきは壱に、あの芝居のお嬢さん・おしのは自分のことだと打ち明ける。
壱はおしのはどうなったんだ、と聞いた。
江戸に連れて行かれたおしのは、御老中のおもちゃとなり、来る日も来る日も音松を想って泣き明かした。
そしてやがて目を病み、屋敷を追い出される。

こゆきがそう言うと、目隠しを取る。
その美しい目。
面差しは、あの人形にそっくりだった。
壱は「そうだったのか、ひょっとするとあの三味線弾き…」とつぶやく。

こゆきに「会いてえか、会ってみるか」と聞く。
「会えるような暮らし、してないもの」とこゆきが首を振る。
だが壱は「あの芝居やったのは、おめえに会いてえ一念かもしれねえぞ。会ってやれ」と言う。
壱の力強い言葉に、こゆきがうなづく。

陸奥藩の江戸屋敷に戻った用人たちは、人形劇の報告をする。
これはまずい。
ご公儀の耳にでも入れば、お咎めは必至。
田野倉たちは喜太郎兄弟を始末することにする。

その夜、仕事を終えた喜太郎と小吉は小屋にいた。
劇が評判になれば、きっとこゆきの耳にも話が届く。
きっと会えるよ、と喜太郎は言う。
すると、道の向こうから陸奥藩の用人の稲村と片山がやってくる。

2人は喜太郎に斬りかかると、小屋の中へ押し入った。
部屋の奥に置いた人形が、おののいたように見える。
小吉を斬り、引き上げる稲村と片山。
人形が悲しげな仕草をして、床に落ちる。

壱がこゆきを背負って小屋にやってくる。
中に入ると、喜太郎と小吉の遺体が転がっている。
小屋の奥に、政がいた。
政を見た壱。

目隠しをしたままのこゆきが、「何かあったんですか?」と壱に聞く。
遺体を見つめながら壱は「ついてねえな、留守だよー」と、明るい声を出す。
「出直すか、なあ?」。

そう言って、壱は小屋を出る。
「ほれ、おぶるぞお。しっかりつかまれよ、よいしょお」と、こゆきを背負う。
そして「おい、今日はよ、いっぱい飲みながら、おめえの歌でも聞かせてもらうか」と言いながら、小屋を後にする。

仕事人が集まる。
「そうか、ありゃ、ただの芝居じゃなかったわけか」。
主水がそう言い、仕事料が配られる。
その夜、人形が陸奥藩の江戸屋敷の表に浮かび上がる。

「まずはこれで安泰」と、笑う家老の小松と稲村、片山。
田野倉が風邪気味なので、片山が座敷に具合を見に行くと、庭の暗闇に人形が浮かび上がる。
片山が刀を構えて近寄ると、上空から政が舞い降りる。

政は片山の首の後ろを刺すと、正面に回って片山の顔を見つめる。
そして、怒りの表情で刃を深く刺し込む。
人形を持っていたのは、黒子に扮した加代だった。

壱が静かに、廊下を後ずさりする。
竜が障子の反対側に座る。
「久しぶりに良く飲んだ」と、上機嫌の小松が座敷で横になる。
それを壱が見つめる。

竜が障子の向こうから、紐を投げる。
それはろうそくの燭台に当たり、紐が止められる。
稲村が紐に首を巻かれ、廊下のある障子まで引っ張られていく。

小松が目を覚ますと、燭台が倒れ、暗闇になる。
稲村が座り込んで、絶命している。
小松はあわてて畳みに置いておいた刀を取るが、刀は壱に抑えられて持ち上げられない。

壱が小松の首をつかみ、上に持ち上げていく。
小松の体が、壱の体より上に上がっていく。
次の瞬間、壱の目が見開かれ、吊られた小松が喉の骨を砕かれる。

眠っている田野倉の寝所に人形が現れ、ふすまが音もなく開く。
その向こうに、鬼の面をつけている主水がいる。
気がついた田野倉は跳ね起き、斬りかかってくる。
だが主水が刀をはじく。

追い詰められた田野倉は、「助けて」と叫び、布団をかぶる。
主水は布団の上から田野倉を刺す。
「どうやら、芝居の幕は下りたぜ」。
仕事を終え、家に帰った主水を迎えるのは、せんとりつの相変わらずの騒動だった。



劇中の人形と、人形劇が見事!
人形の顔といい、動きといい、生身の美しい女性みたい。
どこか悲しげに見えたり、感情が見えるのが素晴らしい。
あれじゃあ、幽霊に間違えられても無理はない。

いや、私、あんまりにも人間に見える人形って怖いと思う口ですが、これは美しい、素晴らしい。
製作者は、辻村ジュザブローさん。
兄の人形遣い、喜太郎を演じます。
人形遣いの役だからか、違和感ありません。

そして、これは2度と会えなくなった恋人に、もう一度だけ、ひと目だけでも会えるかもしれないという、わずかな、必死な望みをかけたお芝居だったんですね。
陸奥藩を訴える芝居じゃないんです。
だけど、自分たちの悪事が露見するのを恐れた侍たちは、兄弟を惨殺。
悲劇だ。

兄弟が襲われている時、誰も触れていない人形がまるで、兄弟の殺害を目撃したようにおののく。
さらに用人たちが去って行く時、人形が泣くような仕草をして、床に落ちる。
精魂込めて作った人形に、まるで魂が宿っているかのように。
ここ、人形が怖いというより、かわいそう。

でもこの人形が庭にあったら、そりゃ殺害した人間はビビるでしょう。
要するに人形が怖いんじゃなくて、人間が怖いんだと改めて認識。
しかし小吉の目を斬って、こゆきをさらって、さらに兄弟を殺して。
祟られない方が怖いです。

そして、依頼人と被害者に関わるのは壱と政。
竜がまた、ほとんど、用がないんです。
この時の京本さんは顔は小さいわ、輪郭は綺麗だわ、お人形さんみたいなんですけどね。

所在不明の壱を呼ぶ為、加代が「5両」と書いた凧を揚げるのがおかしい。
その壱は女郎屋で、こゆきと遊んでいる。
三味線の音に反応するこゆきに、壱が気づいているところが後から効いてくる。

次に壱がこゆきに会いに来て、こゆきが本当に見えないとわかった時の「いいよ」と言う様子が優しい。
きっと、三味線と人形が見事な人形劇をやっているって聞いて、壱が連れ出してくれたんでしょうね。
劇を聞いているこゆきが、壱の手をぎゅっと握る。
それだけで壱は尋常じゃないものを、感じる。

壱はこゆきが現在、女郎に身を落としているのを知っているわけだから、大体、劇中のお嬢さんにひどいことが起きたのがわかるでしょう。
事情を聞いて、会えないと言うこゆきに、「会ってやれ」と言って背中を押してくれる。
とことん優しい。

しかし、兄弟とは永遠に会えなくなってしまったのだった…。
会わせてあげたかったよー。
それで、これは老中も悪い。
今回、仕事のターゲットからは外れているけど、老中も悪い。

たぶん、こゆきは毎日、泣いてばかりで老中をイライラさせたんでしょう。
でも吉宗が一生懸命やっても、こういう老中って減らないですね。
将軍様、どうにかしてくださいって、劇が違うんだ。

そして兄弟の惨殺死体を見た壱が、こゆきに惨劇を知らせないようにする場面。
屈指の名場面というか、私はこれで壱が大好きになりました。
暗い顔をしながらも、出す声は明るい。
来た時のように、飄々と去っていく。

声と表情が裏腹なのが、また、壱の思いやりが感じられて切ない。
加代以上に金勘定に厳しくて、プロとして割り切った冷酷さを持つ壱・弐・参。
でも今回、壱って人一倍、優しい男なんだとわかりました。
あの優しさが、仕事の時の怒りに繋がるんだな。

鉄同様、女遊びが派手で女好き。
女性を仕置きすることもある。
どこかで女性を信頼しておらず、憎んでいる節さえある。
しかし、そうではない人には、普通の人が及ばないほどの優しさを見せる。

仕事人とか、仕置人とか、そうなんですよね。
屈折してしまって素直に出せないけど、弱者への思いやりとか優しさとか、虐げる者への怒りとか、本当は人一倍強い。
だから仕事人なんかできるんだろう、と。

特に今回は壱の遊び人ぶりと、粋さ、優しさが光る回でした。
…仕事は無表情で、凄みがある。
無表情だから、余計、怒りを感じる。
辻村ジュザブローさんの人形と壱、良い回だったと思います。


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2011.09.15 / Top↑
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