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改めてみると 「雲霧仁左衛門」

「雲霧仁左衛門」を見直しました。
やはり、90年代最高の時代劇、いや、ドラマといっていいんじゃないでしょうか。
人間の弱さ、同時に強さも描いている。
雲霧も火盗も人間の弱いところを突いてくるし、そんな自分たちに罪深さも感じている。

またそういう部分、弱い部分もを、実は大事にもしている。
それは人として忘れてはいけない感情だから。
鉄の掟で結ばれた盗賊側も、普段は押し殺している人間らしさが、時にどうしようもなくあふれてくる。
主人公以外の登場人物、それぞれの人間模様がしっかり、描かれているから、素晴らしい。

愛する女性の為、雲霧に魂を売ってしまう火盗の与力。
同じく、愛する女性との夢を見てしまった松屋に入り込んだ雲霧の配下。
それを始末しなければならない、熊五郎。
「へーい」と無機質な返事に、こもった心情が伝わってくる。

按摩を装って標的の屋敷に入り込む、配下の冨の市。
強欲な主人に幼い妾の子が育つまで生きていたいと打ち明けられ、検校にするから私の健康をずっと診てほしいと言われる。
標的の人間らしさに触れ、検校として平穏な毎日を妻と生きていける誘惑に心が揺れる。

捕えられ、自らは拷問に遭っても舌を出して見せるが、妻の拷問される姿には耐えられない。
だからだ、だから、仁左衛門の配下は連れ合いを持たなかったのか、と思う。
仁左衛門の采配で、所帯を持った2人だったのに。

お頭とその配下の女性との2つの関係の描き方もすばらしい。
雲霧とお千代。
火盗の頭の式部と密偵のお京。
この間の、決して表に出ない思いがある。

お盗め(おつとめ)の為なら、どんな女にも化けて、騙すお千代。
その雲霧への思い。
描きようによってはとんでもない悪女。
なのに、そこにいるのはお頭へのけなげで一途な女にしか見えない。

密偵・お京。
彼女が雲霧に囚われた時、「殿様があたしのような女の為に来るわけがない!」と笑う。
盗賊からは「イヌ」と呼ばれ蔑まれるべき存在。
使う火盗改としては、使い捨てる存在。

だが雲霧は答える。
「いや、来る!」
そのキッパリとした答え。

雲霧だから言える。
使っている女性が自分に向ける思いを、知っている。
そして、式部という男を知っている。

式部が来ることを信じている、信じられる。
同じ、お頭として。
使う女性への誠実さがある雲霧だから、言える。

そして描かれる一人一人との絆。
雲霧一味の小頭・吉五郎は、お侍だったらしい。
その言葉は、最後に証明されてしまう。
吉五郎は火盗を前に、切腹して果てる。

最後のお盗め。
仁左衛門が盗賊になった理由と、目指していた目的が明らかになる。
これは私怨だ。
一党には関係がない。

累が及ばないよう、一党を解き放つ。
武士としての無念がわかる小頭だけは、ついていくつもりだった。
その吉五郎がいない今、熊五郎はお頭から離れない。
盗賊とはいえ、そこにはお頭との深い信頼関係がある。

宿敵・式部もまた、最後に仁左衛門に理解を示す。
火盗にも仁左衛門を突付くな、というお達しが来る。
確かに仁左衛門は盗賊だ。
盗賊に正義などない。

しかし、善良だった仁左衛門一族を陥れ、ヌクヌクと法をかいくぐって肥え太る輩は巨悪だ。
そちらは、安泰なのだ。
この輩に一矢報いる為に、仁左衛門は盗賊になった。
悪を憎み、どうにかしたいと思う気持ちは同じだったのだ。

ここに至って、式部にとって仁左衛門は許されない敵ではなくなってしまった。
だから式部は、最後に仁左衛門を追わない。
被害届けが出ないのだから追えないのではであるが、式部の性格で本当に悪であれば追わないはずはない。

最後の最後に、式部の前に姿を現す仁左衛門。
キセルを見て、自分と同じキセルだと気づく式部。
あのキセルは式部にとって、戦利品ではない。
能力の限りを使って戦った2人は、いつしかお互いを理解しあったのだ。

これは式部が誰よりも認める好敵手。
同じお頭としての矜持を持つ者との、大切な記念の品なのだろう。
だが理解しあったとしても、犠牲になった部下たちを思えば、再び会えば友人にはなれるわけはない。
キセルが象徴する、奇妙な2人のお頭の関係。

過去に決別するように、仁左衛門は式部、そしてかつての部下の前に姿を現しては消えていく。
最後は、あの大仕事まで一緒だった熊五郎。
仁左衛門が引き金も託した男。
吉五郎亡き後、最大の信頼を置く男。

それが人ごみで、お頭を見つけて追いかけてくる。
「人違いでは?」と、答えるお頭。
死線を越えた熊五郎が、愛しくないわけがない。

しかし仁左衛門は、振り返らない。
一瞬にして理解し、見送り、その意図を正確にくみとって熊五郎は微笑む。
別れて行く人々。

それぞれの心の揺れと人間模様が見事に描かれる、雲霧仁左衛門。
ドラマを山崎努さんはもちろん、石橋蓮司さん、本田博太郎さん、池上季実子さん、中村敦夫さんが完璧な演技で支える。
目まで、背中までがセリフを言う。

物語の冒頭でみかんを手にする、仁左衛門。
熊五郎を背に、去っていくご隠居風の男の手にも、みかんがある。
全てが収まる、最高のラストシーンでこの物語は終わる。
やっぱり最高でした。


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