第20話、「邪恋大迷惑」。


こちら、またしても以前に書いていまして、ストーリー部分が重複しております。

激しく雪の降る夜。
おさよという按摩の手を引いて、幼い娘のおみつが歩いていく。
平内は、うなぎを料理しようとしていた。

その耳に、按摩の笛の音と「按摩ー、16文」とおみつの売り込みの声が入る。
平内は外に出て、「ちょいと、按摩さん」とおさよ親子を呼び止めた。
その声に「はい」と振り向いたおさよの美しさに、平内が立ち尽くす。

平内は「あんた、ほんとに按摩さんかい?」と、うれしそうな笑顔になった。
「ありがとうございます。お家はお近くでしょうか」と言うおさよに、「近くも近く。目の前だよ」と言うと、平内はおさよの肩に降ってきた雪を振り払ってやりながら、家の中におさよ親子を入れた。
「お邪魔いたします」と言うおさよとおみつを火に当たらせると、平内は茶を淹れてやろうとする。

すぐに按摩にかかると言うおさよに、おみつが「私が淹れます」と言う。
「そうかい」と言って平内が横になると、おさよは「つかまらせていただきます」と按摩を始める。
この辺ではあまり見かけないおさよは、最近、按摩の商売を始めたばかりらしい。

平内は、あまりに美しいおさよに按摩をしてもらうとなれば客も多いだろうが、妙な気を起こす客も多いのではないかと言う。
その時、桶からうなぎが飛び出したのを見て、茶を淹れていたおみつが「あーっ!」叫ぶ。
平内があわてて捕えようとしたが、うなぎは滑ってうまく捕まえることができない。

「お客様」と、笑顔のおさよが声をかけ、懐から針を出した。
おさよは見えない目なのにうなぎを探り当て、うなぎの目に針を刺し、動きを止めた。
平内がごくり、と息を飲む。
おさよは笑顔だった。

「そいつはまた、すごそうな女だなあ」。
翌朝、文十郎に平内からおさよのことを、聞いていた。
「すごいも何も、あんな女見たことねえなあ。しかも、奮いつきたくなるような別嬪でなあ」。
「もう奮いついたんじゃねえのかあ?」

だが、おさよの腕を見ていた平内は「冗談じゃねえ」と言う。
しかし、女性の按摩とは珍しい。
針の使い方といい、わけありなのではないか。
文十郎と平内が歩きながら話していると、為吉が走ってきた。

何だか妙な客が来て、清兵衛に会わせろと言っているので、来てくれと言う。
文十郎と平内が来ると、若い男がいた。
2人を見た若い男は、為吉にここで働いてもらっている2人だと言うと、、若い男は「年だな」と言った。

その男は「助け人だ」と名乗った。
だが依頼料を掠め取られたり、仕事を押し付けられたりするのが嫌なので、1人で仕事をしていると言う。
江戸じゃ清兵衛が助け人の元締めらしいので、挨拶だけはしておこうと思ったらしい。
だが、清兵衛が留守ではしかたがない。

そう言って立ち去ろうとする男に、「名前ぐらいは聞いておこうか」と平内が言う。
若い男は「おめえさんは?」と聞き返す。
「後家殺しの平内」。
「中山文十郎だい」。

文十郎が試すように刀の柄をわずかに抜いて、音を立てた。
すると、その男が空中を飛ぶ。
そのまま男は庭に降りると、「島帰りの龍だ」と言って、去って行く。

帰り道、平内は文十郎に気分直しにと、飲みに誘った。
文十郎は、「俺は何だか、あのやろうとは、いずれぶつかる気がするんだ」と言った。
「それに、裏の稼業を知られてしまったからには…」。

そこまで言った時、文十郎と平内は材木の並ぶ道の陰に隠れた。
向こうから同心の磯矢と、岡っ引きの勘吉がやって来る。
「この前、ずいぶん儲けたのではないか」と磯矢が言うと、勘吉は「結局女房を差し出した」と話していた。

2人は島帰りの人間が、それを知られたくないことをネタにゆすって、金を出させる。
金がない者には、女房を差し出させているのだった。
「ところで萬蔵はどうした?」と磯矢が言う。
勘吉は、「何でも昔追いかけていた女が、今では按摩になっているのを見つけたとかで、何だか張り切っていましたよ」と話す。

おさよはその頃、ある客に呼ばれていた。
「お呼びくださいましたのは、こちらでございましょうか?」
「そうだよ、あがんな」。
「ありがとうございます」。

男をもみほぐしながら、おさよは「旦那様は昔、昔、剣術か何かおやりでしたか?」と聞く。
「わかるかい?」
男が口を手で抑え、声をくぐもらせながらおさよを見る。
「腕やお御足が鋼のように若々しくて」と、おさよは言う。

すると男は、低い声で笑い出す。
「どうかなさいましたか?」
「さよ、久しぶりだねえ。俺だよ、音羽の萬蔵だよ」。
おさよが目を見開き、硬直する。

その男が先ほど、磯矢と勘蔵が話していた元・岡っ引きの萬蔵だった。
「5年ぶりだったな、おい。一体どこへ行っていたんだ、ずいぶん探したぜ、おめえのことを」と萬蔵が言っておさよの手をつかむ。
おさよが、萬蔵に手をつかまれたのを見たおみつが駆け寄る。

萬蔵は「仙八のガキかい、ええ?大きくなりやがったな」と言い、おみつを突き飛ばす。
「離して下さい、離さないと、人を呼びます」。
「呼べよ、呼んでみな、ここは誰も通らねえ」。
「おっかさん」!と、おみつが叫び、駆け寄る。

萬蔵は、「うるせえな、ほんとにこのガキは」と振り返り、おみつを突き飛ばした。
「おみつ!」
萬蔵は、おさよを押し倒す。
「呼んでみろって言うんだよ。おめえ、よくも俺に恥かかせてくれたね。あれほど、おめえの面倒見てえって言ったんじゃねえか。それを俺に面あてして、それをよりもよって島帰りの仙八と」。

抵抗するおさよに萬蔵は「俺はな、一度狙った女は逃がしたこたあ、ねんだよ」と言う。
その時、おさよが針をかざす。
萬蔵が怯むと、「おみつ!」とおさよはおみつを呼び寄せ、急いで萬蔵の家を飛び出す。

文十郎と平内が飲んでいると、店の外をおさよとおみつが端って通る。
平内が気づいて声をかけると、おみつは「うなぎのおじちゃん!」と言った。
そして「後ろに、怖いおじちゃんが…」と角を指さす。

その角から、萬蔵がのぞいていた。
異常を察した文十郎と平内が、おさよの両脇について歩いていく。
平内が背中におみつを背負う。

萬蔵は、ずっとおさよたちの後をつけていく。
文十郎が「なんだい、あの野郎は」と近づこうとする。
だがおさよは、「いけません、関わりあいになっては。あの人は元、御用聞きですから」と言う。
萬蔵はじっと、4人を見ている。

平内はおみつをおぶっていると、おみつはいつしか眠ってしまった。
「かわいいもんだね」と言うが、文十郎は「しかし、かわいくないのがまだ後ろに」と言う。
「申し訳ありません、私にこのおみつさえ、いなければ」と言った。
「おさよさん、おめえさん一体どうして、あんな男と」と平内が言うと、おさよは「私がこんな体になりましたのは、みんなあの、音羽の萬蔵のせいなんです」と言った。

おさよは、萬蔵とのことを語り始めた。
以前、おさよは深川の芸者だった。
ある夜、おさよがお座敷が終わり、駆け足で家に戻る時、萬蔵が十手を振りかざして夜道に立っていた。
萬蔵を見たおさよは踵を返して逃げるが、萬蔵は「もう帰りか。一時も早く、仙八に会いてえって面だな」と言って追ってきた。

「てめえ、そんな面、俺にできんのかよ!」
おさよが立ち止まる。
萬蔵は、おさよの夫の仙八が新しい店の井筒屋に勤めたことを知っていた。

そして、「俺がちょいと、その井筒屋に顔出したら、どうなると思う?」と言う。
萬蔵は「どこに行ったって無駄だよ。仙八は島帰りなんだからね。俺が井筒屋の女将さんに耳打ちさえすれば、また野郎はお払い箱になっちまうんだよ」と言う。
おさよは「そうですか、そんなら、好きにしたらいいじゃないですか」と答えた。

仙八は確かに罪を犯した。
だが、お上の裁きを受け、罪を償ってカタギとして真っ当な道を歩んでいる。
井筒屋の女将さんも、それは承知だ。
おさよの言葉に萬蔵は「そうかよぉ。わかってくれてりゃあ、いいんだよな。わかってくれてさえ、すりゃあ、な」と、不気味に言い放った。

戻ってきたおさよの家には、灯りがついている。
仙八が戻っているのだ。
おさよは喜んで、家に入った。

だが仙八は寝転がって、酒を飲んでいた。
おさよが、自分も飲もうとした時だった。
井筒屋が、仙八を雇うのを断ってきたのだ。
萬蔵が井筒屋に通い、得意先にまで「井筒屋は島帰りを雇っている」と触れ回ったせいだ。

それは執拗だった。
女将はたまらなくなって、ついに仙八を首にしたのだ。
おさよは「ヤケを起こさないでね。くやしいだろうけど、もう少し辛抱して」と言った。

またいいところを紹介してもらうし、仙八が働けないなら自分が働くとおさよは言った。
「お腹の子の為にも、もう少し辛抱して」。
「勘弁してくれ。俺がヤクザ者とケンカさえしなければ」。

それから仙八は、何度も店を代わった。
だが萬蔵はその度、つきまとい、仙八の勤めを妨害し続けた。
おさよはついに萬蔵の元に行き、「後生一生のお願いでございます。もううちの人付回すのは勘弁してください。お願いいたします」と頼んだ。
最初はおさよが自分の元に来る決心をしたと思った萬蔵だが、おさよの言葉を聞いて「そうかい。そりゃいいんだよ。おめえが俺のところに来る決心さえ、してくれりゃあね」と言った。

萬蔵が芸者のおさよの所に通う為に使った金なら、おさよが月々いくらかずつでも返す。
「私が身を粉にしても」。
金のことを言われた萬蔵は、「金?ふざけんじゃねえよ、誰がおめえから金なんかほしいって言ったんだよ。」と聞き返す。

「ただね、俺は全財産、おめえんとこに通う為に使っちまったんだよ」。
そう言うと萬蔵は、「おさよ、今日こそ俺の言うこと聞くか聞かねえか、この場で聞かせてもらうよ」と言った。
おさよは迫る萬蔵に、「仙八という夫がある身です」と言って逃げだ。

「おめえ、それほどまでに仙八を…」と萬蔵は、おさよを殴りつける。
逃げるおさよは、やかんが乗った網をひっくり返してしまった。
炭火と焼け切った灰が、おさよの目に飛んだ。
おさよが目を押さえて叫ぶ。

そして、おさよの目は次第に見えなくなっていった。
しかし、それでも萬蔵は仙八をほっておこうとはしなかった。
ねちねちと仙八が板前をしている店に通い続けては「ここは何かい?ここは島帰りの連中が寄り合う店かい?」と言った。

主人は「そんなあ」と言うが、萬蔵は魚を仙八に放ると「おめえみてえな刺青もんが大きな面しやがって、人様の食いもんなんぞ作ってたんじゃ、大事なお客さまがご迷惑なんじゃねえのかよ、え?どうなんだよ、親父さんよお」と責める。
店の主人は萬蔵に金を渡したが、萬蔵はなおも「届けはちゃんとしてくれねえと、困るからねえ」と言った。

萬蔵は今度は「島帰りの無宿人が働くなら、町内の5人組から届けがあるはずだぜ。ちょいとそこの名主のところまで、この野郎と一緒に来てもらうぜ」と言う。
仙八はついに、萬蔵に怒った。
自分は確かに島帰りだが、ちゃんと務めを果たしてきた。

萬蔵はそうやって痛めつけ、仙八がおさよを差し出すのを待っているんだ、と言った。
だが萬蔵は仙八を突き飛ばし、「俺を誰だと思ってんだ」と凄む。
「お前のような島帰りは、自分ひとりの采配でいかにでもなる」。

耐え切れず、ついに仙八は持っていた包丁を萬蔵に向け、斬り付けた。
店の主人夫婦が怯える。
萬蔵の腕から、血が流れる。

かぁっと声を出して、萬蔵は、縄を取り出す。
先には分銅がついていて、萬蔵はそれを自分の前で振り回す。
縄は飛んで行き、仙八の包丁を持つ手を捕えた。

捕えられた仙八は倒れた。
すると同心の磯矢が飛んできて、仙八をお縄にする。
「ちくしょう、ちくしょう」と仙八が顔をゆがめる。

磯矢と勘吉が、おさよの家に来て仙八が捕えられたことを知らせる。
だが磯矢は、「お上にも慈悲がある」と言った。
萬蔵は、自分の手下である。
お上から十手を預かった男を傷つけたわけだし、仙八は再犯なので、島送りになれば生きて江戸の地を踏むことはない。

おさよは赤ん坊を抱いて、黙って前を向いていた。
もう、おみつの目はだいぶ見えなくなっていた。
磯矢は「萬蔵ももう年だから、また罪人を島送りにするなど、寝覚めが悪いと言っている」と告げた。

「悪いことは言わねえ。一度で良いから、萬蔵のところに行ってやれ。そうすりゃ事は八方丸く収まるし。正直言ってな、この俺も萬蔵からくれぐれも頼まれてきたんだ」。
磯矢はおさよをまじまじと見ると、「なるほどな」と言った。
「落ちぶれたからとはいえ、さすがだ。あの萬蔵が血道をあげるのも無理はねえ」。

磯矢は、萬蔵が待っている上野の出会い茶屋の名を告げ、「亭主のこれからにも関わることだ。きっと行ってやれ」と言う。
「行ってやるんだぞ」。
そう言うと、磯矢と勘吉は出て行った。
赤ん坊のおみつが泣き叫ぶ。

おさよは呆然としていた。
だが泣き叫ぶおみつを布団に寝かせると、立ち上がる。
鏡を見ながら、紅を取り出す。

動かない視線で、紅を唇に塗って行く。
紅を塗るおさよの手が止まる。
仙八が牢に繋がれている様子が、おさよの頭に浮かぶ。

おさよの目から涙がこぼれ、頬をつたっていく。
泣き叫ぶおみつを、おさよは振り返って見た。
鏡の中の自分を見つめ、再びおさよは紅を塗り始める。

夜の町を、おさよは駕籠に揺られて、萬蔵が待つ出会い茶屋へ行く。
「ここですよ」と駕籠が止まる。
籠から下り、おさよが手探りで出会い茶屋の中に入ろうとする。

その時、おさよの耳に赤ん坊の泣き声が聞こえて来る。
「おみつ…」と、おさよは赤ん坊の名を口にする。
「おみつ、おみつ」。
おさよは地面に手をつき、這いながら「おみつ!」と叫ぶ。

文十郎の家でこの身の上話を聞いていたしのが、袖で思わず涙をぬぐう。
「私は、萬蔵に会いませんでした」。
たとえどうなろうと、萬蔵にだけは身をまかせたくなかったのだ。

間もなく、仙八は八丈島で亡くなったたという報せが来た。
やはり、自分は、萬蔵の下に行った方が良かったのか。
今でもそれを考えると、おさよは気が狂うほどつらい。
おさよの目は、完全に見えなくなっていた。

だが平内も文十郎も、「そうしないでよかった」と言う。
おさよのせいで、仙八が島送りになったのではない。
萬蔵は、最初からそうするつもりだったのだ。

「そう思いたいと思っています。私がそうしたことを、主人も喜んでくれたと思いたい。でもそれから間もなくして、八丈島で主人が死んだという知らせが届いた時には、私の目はもう、何にも見えなくなっていました」。
おさよは、何度も仙八の後を追おうと思った。
しかし、仙八の悔しさを思うと死ねなかった。

それからおさよはツテを頼って、身を隠した。
おみつを抱えて生きていく為にも、仙八の恨みを晴らす為にも、按摩の針を習った。
「でもどうしても、それができない。おみつの行く末のことを思うと、この子を遺していくことを思うと、どうしてもそれが…」。
おさよは寝ているおみつの頬を撫ぜた。

文十郎と平内は、ため息をついた。
その時、物音がして、萬蔵が外からのぞいているのがわかった。
「あのじじい!」
文十郎は怒り、外に飛び出して、萬蔵の胸倉をつかむ。

「てめえって野郎は!」
「やるのか、おい?俺を誰だか知ってのことだろうな!」と萬蔵が言う。
十手はお上に返上した。
だが、「こいつの腕はまだ衰えちゃいねえ」と、分銅が先についた縄を振り回し始める。

文十郎は怯まない。
萬蔵が言うには、文十郎だって、一皮向けば裏のありそうな面構えをしている。
「黙っておさよをけえすんだよ」と言うと、萬蔵は縄を投げた。
文十郎は縄を手で受け止め、萬蔵に叩き返す。

萬蔵が驚く。
だがすぐに「そうかい。そいじゃ、しかたねえな。いずれ改めて挨拶はさせてもらうぜ。いいんだな、おい」と言うと帰って行く。
しのが心配そうに出てくる。
平内は、「どうやらこれは、まともにお上とぶつかることになりそうだぜ」と言った。

翌日、磯矢と勘吉が文十郎の家にやってきた。
磯矢はおさよとの関係をを聞くと、おさよを連れて行こうとした。
文十郎が、磯矢の前に立ちはだかる。
十手を振り回す磯矢に、文十郎はおさよを連れて行く理由を言えと言った。

磯矢は「おさよは客の財布を取る枕探しだ」と言う。
「嘘です!」と、おさよが叫ぶ。
「だったら、その客を連れて来い」。

平内はそう言い、勘吉をねじりあげてしまった。
「貴様」と、磯矢が十手を振りかざす。
文十郎の刀の柄が、磯矢の十手を阻止する。

「そうかい。おめえたち、お上に盾突こうってのか。後でほえ面かくなよ」。
磯矢はそう言うと舌打ちをして、勘吉を連れて出て行く。
「おっかさん!」とおみつがおさよに抱きつく。

その時、文十郎の家の入り口に龍がやってきた。
龍は目配せで、外に来るように示す。
外に出た文十郎と平内に、「ドジだな。何故あの場でやっちまわないんだい?奴らに目をつけられたら身動き取れねえぜ」と言う。
「俺にまかせねえか?いや、俺もな、あの白金の勘吉、同心の磯矢をやってくれと頼まれてるんだ」。

「何?」
「奴ら、島帰りの前持ちを見つけてはいたぶってる。それも今はまともに生きている連中ばかりだ。生かしちゃおけねえよ」。
龍もまた、磯矢たちに恨みを晴らす仕事を請け負っていたのだ。

そして文十郎と平内の方を向くと、「金出せ。助け人が助け人を助ける。お前さんたちの面は、割れちまってるんだからな」と言った。
しかし平内は、「そうはいかねえ。腕もわからねえ若造に任せるわけにはいかねえよ」と、突っぱねた。
その時、しのがおさよが出て行ってしまったと知らせに来た。
「おみつのことをよろしく」と、置手紙があった。

あの時のように籠に乗り、おさよは萬蔵の家に向かっていた。
おみつは「おっかさん」と叫び、おさよの後を追おうとして転んだ。
しのが抱き上げる。

駕篭かきは、目の見えないおさよを丁寧に送ってやっていた。
「ここですよ」と言われ、おさよはうなづく。
駕籠かきに手を惹かれ、おさよは萬蔵の家の前に立ち「ごめんください」と言った。

「おさよ。どうしたんだよぅ」。
「親分さん。お願いがございます、どうしてもお願いしたいことが」。
萬蔵はおさよを見て大喜びする。

別に文十郎が何をしたわけでもないが、ちょいと盾突いたからしょっぴいた思い知らせてやろうと言ってなさるだけだと言う。
「おめえ、また針持ってるんじゃねえだろうな」。
「こないだすまなかったねえ」と言うと、萬蔵はおさよの肩に手を置いた。

「俺はね、一日だっておめえのことを忘れたこたぁ、ねんだよ」。
萬蔵は黙って前を向いているおさよを見つめると、「お、俺な、俺…」と口ごもり始める。
「今、隠居の身で、誰にも気兼ねがねえ身の上なんだよ。だから、このままここにいとくれよ、ね。おめえの子供、引き取ったっていいんだよ、ね。だから、さ」。
萬蔵はおさよを押し倒した。

おさよは、そっとかんざしに手を伸ばし、萬蔵を刺そうとした。
「はっ!」
おさよのかんざしは、萬蔵の頬にかすった。

目を見開き、萬蔵が飛びのいた。
おさよはかんざしを振り上げ、萬蔵に向かって振り下ろす。
見えない目で必死にかんざしを持ち、壁を背にする。

萬蔵は火箸を取り、おさよに近づき、おさよを押さえつけにかかる。
おさよは、かんざしを振り回すが、萬蔵はおさよを抑えると、かんざしを落とした。
「おさよ、てめえ…」。

萬蔵の手が、おさよの細い首にかかる。
血走った目で、萬蔵はおさよを絞める。
おさよの手が宙に向かって伸び、やがて視界が混濁していく。

翌朝、おさよの遺体が河原にあがる。
勘吉が磯矢に「身投げですかね」と言うと、磯矢が「うん」とうなづく。
文十郎と平内は、野次馬の後ろでそれを見ていた。

「おさよさん、成仏しなよ」。
「おみつちゃんは確かに、清兵衛さんが預かってくれたよ」。
2人は、そっとおさよに話しかける。

その夜、文十郎と平内は雪の降る夜の町を走っていく。
磯矢と勘吉は、萬蔵の家にいた。
「しかしもったいねえことをしたな。あの良い女、殺すことはなかったんじゃねえのか?」と磯矢が酒を萬蔵についでもらいながら言う。
勘吉は「良く言うじゃありませんか。かわいさ余って憎さ百倍でしょう」と言う。

「どうだった」と笑う勘吉に、萬蔵は笑い声をもらすが、据わった目は笑っていなかった。
そして、彼らはまた、島帰りで小間物屋をしている男を脅す相談をする。
勘吉は今度脅そうとしている男は小金を貯めているし、妹がいると言った。
「隠居仕事にちょうどいいかもしれねえな」と、酒を熱燗にしながら萬蔵が言う。

その時、龍の影が障子に映る。
「誰だ!」
勘吉が戸を開けた目の前に、龍が立っていた。

龍は頭の上に勘吉を持ち上げると、雪が降っている庭に落とした。
勘吉を持ち上げると、後ろ向きに落とす。
庭に激突して、勘吉の首がグキリと音を立てる。

風の音が吹く。
雪が降り続ける。
磯矢が刀を抜き、龍に向ける。
龍が構える。

磯矢が龍に向かって、突進してくる。
龍は避け、障子を背にすると、磯矢、そして座敷にいる萬蔵の2人を見る。
慎重に、龍がまず磯矢に向かおうとした時だった。

兜割りが飛んで来て、龍の顔の横の柱に刺さる。
龍が驚きに目を見開き、正面を見る。
影になった文十郎の姿が、現れる。

文十郎は龍に下がっていろと、合図した。
龍は、屋根に上る。
文十郎が一瞬、龍を目で追う。

しかし、すぐに磯矢をにらみつける。
文十郎と磯矢がにらみ合うが、磯矢は目をむいて文十郎に斬りかかって来た。
磯矢の刀を交わし、2人はまた向かい合う。

龍は屋根の上に座り、じっと見ている。
磯矢が体の位置をずらしていき、刀を光に反射させる。
文十郎が光で照らされ、目を細める。

「ふふふ、貴様」と磯矢が笑う。
だが文十郎もまた、刀を光に反射させる。
光は磯矢の目に入る。

まぶしさに磯矢が、再び体の位置を変える。
文十郎と磯矢は向かい合い、磯矢が斬りかかってくる。
だが、文十郎は身をかがめると磯矢の刀は宙を斬った。

そのまま、磯矢の体を斬り払う。
磯矢の顔が歪み、座り込む。
雪の降る庭で、磯矢が動かなくなる。

萬蔵は、部屋の奥に逃げ込む。
部屋にある衝立の向こうから、紫煙が立ち上り、平内が現れる。
萬蔵は怯え、口を開きながらも、分銅つきの縄を小さく振り回し始めた。
縄が飛び、平内のキセルに巻きつく。

だが平内はキセルの先を投げ、針を出す。
萬蔵がはずみで後ろに倒れ掛かりながらも、再び縄を投げる。
縄は平内の顔に巻きつく。

萬蔵が縄を、自分のほうに手繰り寄せはじめる。
平内が針を飛ばすと、萬蔵の右手のひらに刺った。
萬蔵の手は柱に縫い付けられ、顔を歪めながら萬蔵は懸命に縄を引き寄せる。
平内が針を取ろうとするが、萬蔵も必死に取らせまいと縄を締め付け、平内を押しのける。

だが平内は萬蔵の右手に刺さった針を抜くと、萬蔵の眉尻を刺す。
萬蔵が目を歪ませる。
針が刺さっていく。
平内は針を抜くと、萬蔵が倒れる。

文十郎は座敷で酒を飲みながら、平内を待っていた。
「文さん、行こうか」と平内が声をかける。
「あいよ!」と文十郎が応える。

文十郎が立ち上がり、2人で雪の中を出る。
振り返ると、門の上には龍がいる。
龍がかすかに笑う。

文十郎と平内は顔を見合わせ、かすかに笑う。
そして雪が降りしきる中、走っていく。
見ていた龍も飛び降ると、去っていく。
雪がどんどん、降ってくる中、文十郎と平内は角を曲がるとなおも走っていく。



「悪役列伝」の伊藤雄之助さんの回でも、放送されたこの回。
怖い。
怖すぎる。

よだれがたれそうに半開きになった口で、妙に間延びした喋り方をする。
口調はあくまで、親しげ。
何度目かに見て気づいたんですが、「おい」というのが「萬蔵の」口癖でしょうか。
しかしその目は、笑っていない。

おみつの「あそこに怖いおじちゃんが!」というセリフには、まったくそうだとしか言いようがない。
いるだけで怖い。
さらに、家をのぞいているとか、もう妖怪クラスの怖さ。
こんなの、表に立っていたらどうしよう!

おみつを引き取っても良いと言いますが、絶対懐かないと思います。
「うるせえな、このガキ」って、本当にどうでもいい感じが出てる。
殺すんじゃないかと、ヒヤヒヤします。

話の感じから、芸者のおさよにご執心で、通いつめたようです。
しかしおさよは振り向きもせず、仙八と一緒になった。
板前だった仙八は、ヤクザ者とケンカして相手を傷つけ、島送りになったものの、おさよは仙八の帰りを待って一緒になった…というところでしょうか。
仙八の島送りは、これは萬蔵とは関係がないみたいですが。

磯矢はおさよをどうにかしたんだろうみたいに言ってるんですが、萬蔵の目が笑っていない。
最期まで自分を拒否し続けたおさよへの、晴れない憎悪に満ちている。
その憎悪を、次の標的に向けようとしているのがわかる。
大迷惑。

磯矢役は、今井健二さん!
何と、伊藤さんと今井さんの2人のそれぞれ得意な悪役が見られる!
ぬめぬめとした伊藤さんの気持ち悪さに対して、磯矢はいわば正統派の悪役です。

おさよは、吉田日出子さん。
お綺麗です。
災難を呼ぶ美しさですね。

仙八のため、萬蔵のところに行くしかないと紅を塗り始める。
視線が動かない。
紅を塗っているんだけど、心がここにない。
涙が、頬につたって落ちる。

視線が動かないのは、単に見えないから?
それとも、哀しいから?
いや、萬蔵が憎いから?
もしかしたら、萬蔵を殺す気でいたのかもしれない。

しかし赤ん坊の声が、おさよを我に返す。
おみつの名を呼びながら、地面を這って逃げる。
針を持ち、うなぎを仕留めるおさよの笑顔が凄まじい。

何を刺したと思っているのか。
平内さんが、背筋を寒くするのもわかる。
怨念を感じさせる。

今回、龍の宮内洋さんも登場。
「島帰りの龍」だから、同じ島帰りの仲間の苦難を知ってやってきたというところでしょうか。
その前に、清兵衛さんにご挨拶。

今回、清兵衛さんは姿を見せません。
文十郎と平内の会話で、おみつは清兵衛がちゃんと預かったというだけ。
龍は若くって、生意気で自信満々。
しかし、同心の磯矢と元・十手持ちの萬蔵の2人を相手にするには、さすがに大変そう。

そこに文さんの兜割りが飛んで来て、ちょっとビックリしている。
文さんも、龍がひらりと屋根の上に乗るので、「おっ?」って感じで見ている。
利吉や為吉でそういうのは見ているんでしょうが、こいつもやるのかって感じ?

影になった文十郎が、灯りに照らされて現れ、また磯矢が文十郎を照らす、光と影の演出。
磯矢は、雪の闇が青く照らす。
策を弄した磯矢ですが、あっという間に斬られる。

平内の萬蔵への仕置きは、痛そうです。
萬蔵も思い切り震えて、痛そうにしてます。
龍の技は、あれ、プロレス技ですよね?

解説にもありますが、平さんの仕事を酒飲んで待っている文さんは、平さんの仕事に絶大なる信頼と余裕を持っている。
若い龍に対して、円熟した大人の文さんと平さん。
いい対比でした。

龍がかすかに微笑み、文十郎と平内も微笑み、何となく怒りの感じる先が同じだとわかる。
助け人の仕事を知っているとはいえ、これなら龍を始末しなくても良さそう。
この龍が後に、身を張って助け人たちを逃がすんですから、そのあたりの変遷も見もの。


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2012.03.31 / Top↑
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