見事な流れ 「暗闇仕留人」第15話

第15話、「過去ありて候」。


鼻歌など歌いながら石を彫っていた大吉の元に、老婆が墓石の注文を届けに来た。
注文書きを一緒に持って来て、「これが届けばわかるから、代金はできた後の後払いで、必ずこの通りに彫ってくれ」とのことだった。
老婆が帰ると大吉は、注文を見る。
するとそこには、「村雨の大吉 享年34歳 嘉永6年10月5日没」とあった。

「これは俺の名前じゃねえか!俺がてめえの墓を?悪戯にしちゃ、ちょっと手が込みすぎてるぜ、どこのどいつだ!こんなことやりやがって…」。
大吉が外に出ようとすると、手裏剣が飛んで来る。
思わず大吉が頭を下げると、手裏剣は大吉のすぐ脇の戸口に刺さった。

大吉の家の外に男がいたが、すぐに走り去る。
続いて大吉が、外に走り出てくる。
逃げていく男を追って、大吉は妙心尼のいる寺へ走った。
だが男の姿はなく、大吉は墓地まで出てきた。

すると、背後から「あんた!」という声がする。
「やっぱり。大吉さんじゃありませんか。お前さん、この近くへ?本当にずいぶん、お久しぶりだこと」。
声をかけてきたのはお浜という、呉服屋「森田屋」の女将だった。

だが大吉は顔をこわばらせ、無言で家に戻る。
その様子を、妙心尼が見ていた。
家に戻った大吉は、投げられた手裏剣で作業場に、自分の名前が書かれた注文書きを縫い付ける。

主水のいる奉行所に、妙心尼が来た。
主水はここは目立っていけないので詳しいことは家で聞くと言って、中村家に連れ帰った。
せんとりつを前に、妙心尼が座り、主水は庭いじりをしていた。

「大吉の野郎に」と言いかけた主水は、「大吉殿」と言い直し、大吉に森田屋の女将が大吉に声をかけたからといって、何かあるとは限らないと能天気に言う。
しかし、妙心尼はお浜に会った時に大吉は顔色を変え、まるで逃げるように去った後からずっと、作業場に閉じこもってしまっているのだと言った。
妙心尼が訪ねて行っても、雨戸を開けない。

主水は「男にはいくら惚れた女でも、毎日顔をつき合わせていると嫌になることがあるので、大吉もそれだろう」と言う。
黙って主水の言うことを厳しい表情で聞いていたせんとりつの咎めるような視線に気づいた主水は、「ま、おかしくはありますわな」と取り繕った。
りつは主水に「様子を見に行っておあげになったら?」と言った。
まんざら関わりがない人ではないし、主水には義理の弟のようなもんじゃありませんかと、りつは言う。

いつもの祠に、貢が来た。
しかし、本当に大吉はどうしたのだろう。
主水が行ってみたが、雨戸を締め切り、何を言っても「なんでもねえから、心配するな」しか言わない。

半次はやっぱり、森田屋の女将が訳ありなんじゃないかと言う。
だから、半次が行ってみると言う。
おきんは主水が行っても無理なのに、出てくるわけがないと言ったが、半次は熊だって腹が減れば山を下りると言った。

大吉は老婆が持って来た紙を見ながら、石を彫っていた。
ふと手を休め、傍らにある徳利を手にして酒を注ぐが、酒はもうなかった。
しかたがないので再び、石を彫り始めた時、戸が叩かれた。
途端に大吉ははじかれたように立ち上がり、灯りを消した。

「何の用だ」と言う大吉に、半次は「酒を持って来た」と言う。
最初は拒絶した大吉だが、帰ろうとする半次に「ようく辺りを見るんだ。誰かいねえか?」と声をかけた。
「一体、どうしたんだよ」。

大吉は「誰もいないのがわかったら、飛び込んで来い」と言う。
もたもたすれば半次も巻き添えを食う。
大吉は半次を入れると、持って来てくれた酒を飲む。
「生き返ったようだぜ」と言う。

半次が見た大吉は、だいぶやつれて見えた。
「そうか。どうやら俺も年貢の納め時が近づいたようだぜ。あと3日の命だ。俺の命日は、この月の5日だ」と言った。
灯りがついて、半次は注文書きを見た。
「どういうことだよ?何だ、これは?」

大吉は前もって、大吉の墓を頼んだ者がいると話した。
半次は「どういうことかわからねえが。お前、少し水臭いんじゃねえのか?もしほんとに命に関わるようなことだったら、何で真っ先に俺たちに」と言う。
だが、大吉は「俺だってそうはしてえさ。だがそうすることは、ある人をを売ることになる。その人は俺の前のお頭でよ。へっ、嫌な野郎だったが、一度は頭と仰いだ人だ。どんなことがあったって、売るわけにはいかねえんだよ」と言った。

しかし、こうしてあと3日となると、妙に昔のことばかり思い出す。
大吉は半次に「おめえ、在所はどこだ。江戸じゃねえだろ」と聞く。
「調布の先の、府中ってとこだよ。もっとも、親父もおふくろもとっくの昔にしんじまったがな」。
半次がそう言うと、大吉は自分の生い立ちを語り始めた。

「俺のほうも同じようなものよ。ガキの頃に、2人ともおっ死んじまった。ガキなんてものは、おめえ、親父とおふくろにしなれてしまうと、親戚中の持て余し者よ」。
大吉はあちこち、たらいまわしされた揚句、手に職をつけろと奉公に出された。
そこが、墓石彫りの石屋だった。
「へっ、つらかったぜ、あの頃は」。

来る日も来る日も親方に怒鳴られ、墓石を磨いた。
雪の中、子供の大吉が墓石を磨いている。
手が凍えてかじかみ、息を吹きかけて磨く。
そこに寺の和尚が来て、大吉の頭を撫ぜた。

大吉は墓石彫りなんて好きになれなかったが、近くの寺の和尚さんだけは別だった。
ところが大吉がやっとまともに石が彫れるようになった頃、突然、その和尚に嫁が来た。
それが、あのお浜だった。
若く、まだ髷を結っていた大吉は、同じく若く可憐な様子のお浜が寺に来るのを見物人に混じって見ていた。

宗旨によって違うが、大抵の坊主は表向きには女房は持てない。
だが、あの和尚は裏で金貸しをやっていた。
その借金のかたに、お浜は押さえられたのだ。

やがて、大吉はお浜と2人きりで密会するようになった。
大吉に、お浜が「もういや。あたしを連れて逃げて。お願い」と言った。
若い2人は、お互い身寄りのない寂しさから、知らず知らず惹かれあった。
少なくとも大吉はそう思った。

だが、ある日、お浜と一緒のところに和尚が踏み込んだ。
大吉は「一生の頼みだから、お浜と添わせてくれ」と頭を下げたが、和尚は「子供の頃からあれほど面倒を見てやったというのに」と逆上した。
そして、大吉は鎌を持って襲い掛かってきた和尚を逆に刺してしまっていた。
大吉は何が何だかわからないまま、鎌を持って走っていた。

そして、村はずれの地蔵堂で、お浜を待っていた。
だがお浜は、やて来なかった。
大吉は村に帰って、捕まってしまった。

村に帰ったわけは、どうしてもお浜に会いたかったからだ。
大吉は代官所に連れて行かれ、裁かれて島送りになった。
しかし、それでも大吉は自分のことより、お浜のことばかり考えていた。

お浜は、どうなってしまったのか。
どこへ行ってしまったのか。
だが、誰に聞いても、お浜の行方はわからなかった。

半次は、お浜は逃げてしまったんだろうと言う。
だが、大吉はそれはしかたがないと思った。
お浜だって捕まれば晒し者になった上、島送りになっただろうから。
それからの大吉は御赦免になって帰ったものの、まともな職にはつけず、お定まりの酒、女、博打の道を辿った。

そして、ひょんなことから、さっき言ったある頭に拾われた。
頭は、金で殺しを請け負う元締め男だった。
ひどい暑い夜のことだった。
「あの夜のことは忘れねえよ」と、大吉は言う。

大吉は頭の命令で、ある大店の主人を殺める為に、忍び込んだ。
「だけど半次、人間なんて不思議なもんだぜ。どこで誰に会うかわかりゃしねえ」。
あの夜、大吉はその店に忍び込み、眠っている男に向かって、右手を振り上げた。
その時、隣で眠っていた女が寝返りを打ってこちらを向いた。

女を見て、大吉が凍りついたように固まった。
お浜だった。
驚いて見つめていると、お浜がうっすらと目を覚ました。
お浜が「あっ」と声をあげる前に、大吉がお浜の口を押さえた。

「大吉さん、あんた」。
お浜はうれしそうに大吉に笑いかけ、次に眠っている男を振り返った。
そして笑って、顔を男に向けた。
まるで「あの男を早く殺せ」と、指示しているようだった。

「…俺は、あんな怖ろしい女は見たことがねえ」。
その後、大吉は元締めの元を離れた。
話し終わった大吉はつまらないことを話したと詫び、巻き添えを食うから2度と来ないように言った。

自分を狙っている奴は、今までの奴とは違う。
半次に、このことは主水たちにも黙っているように言った。
もっとも、主水たちは、お浜も知らなければ元締めも知らないが。

半次はこの話を、貢に知らせた。
貢は三味線を弾きながら聞き、主水に知らせた方がいいと言った。
大吉は妙心尼を通して、自分たちにお浜の身元が割れているのを知らない。

「お浜、洗ってみるよ。ぐずぐずしていると、大吉の奴、ほんとに仏様になっちまうぞ」と貢は言う。
貢と半次を、お茶を運んでいるおみつが見る。
そして心配そうに目を伏せる。

主水が、森田屋の前にいる。
戻ってきたお浜に、さりげなく挨拶をして去った。
森田屋には主人の惣兵衛がいて接客をしていたが、お浜はそれに加わると、さりげなく惣兵衛に合図を送った。
奥の部屋に2人して行き、先ほど主水と話していた奉公人の清三を呼ぶ。

清三に一体、あの役人は何を聞いていたのかと尋ねると、清三は惣兵衛とお浜のことを聞かれたのだと言う。
「今頃になってなぜ」と清三が言うと、主水は「たいした意味はない」と答えたらしい。
お浜はどこから輿入れに来たのか、先代の主人が亡くなった時の様子などを聞かれた。

清造は言いにくそうに、お浜は深川で芸者をしていた時に先代が引いたが、先代が突然亡くなった。
だから跡取りの惣兵衛がそのまま妻にした…と、今までの経緯をありのまま、言った。
惣兵衛は笑って清三に、「そんなに言いにくそうにすることはない」と言った。
確かに惣兵衛は長く極道をして、店を離れていたが、結局はこうして店を継いだ。

先代の後添いと夫婦になったのは世間から見たら変わっているだろうが、若いお浜を母親にしておくわけにも行かなかったからだ。
親戚中もこの話に、納得した。
お浜も笑って清三に、「気にしなくていい」と言う。
他には惣兵衛の付き合いで、どんな人間が出入りするかも聞かれたが、清三は「わからないので、直接聞いてくれ」と言ったらしい。

その夜、屋形船で大吉を狙っていた男・亥之吉を交えて、惣兵衛とお浜は話をしていた。
亥之吉は「死に物狂いになった大吉が、後先考えずに奉行所にたれこんだのではないか」と言うが、惣兵衛は「そんなことをすれば自分で自分の首を絞める。それはない」と言った。

だがお浜は、「でもやっぱり、大吉は早く始末した方が良い」と言う。
それを聞いた惣兵衛は「ほお?一寸刻みに追い込んで、猫がねずみをなぶるように殺してくれと言ったのは、どこの誰だった?」と笑った。
亥之吉は「そうです。だからあっしもわざと、初手のこれを外したんです」と手裏剣を見せた。

妙心のところに大吉を誘いだし、バッタリ、お浜に出会わせる。
誰が命を狙っているか。
大吉に、全てを悟らせる。
だが逃げ出すと思った大吉が、家に閉じ困ったのは、さすがだった。

あんな狭い家では亥之吉も忍び込むわけにも行かず、あまり接近すれば、こちらの心臓が捕まれる。
何とかして表に誘い出すか、雨戸を開けさせなければならない。
すると亥之吉は「妙心尼がいる」と言う。
「あの色っぽい、野郎の新規のイロがね」。

その頃、妙心尼は大吉のところへ来ていた。
「わたくしです。こち風の人。開けてくださいませ。お願いでございます」。
「いけねえよ。ここへ来ちゃいけねえって言ったじゃねえか」。

「せめて一目だけでも、お顔を見せて」。
「そりゃあ俺だって…。だけどな、開けると何が飛び込んでくるか、わからねえんだ。例え俺はどうなっても、おめえを巻き添えにするわけにはいかねえんだ」。
「何をおっしゃるのでございます。わたくしには、お前様だけが全てなのに」。

そう言って、妙心尼は大吉の好物を入れた重箱を持って来たと言う。
「開けてください。お願いですから…」。
涙ぐむ妙心尼の背後に、亥之吉が現れる。
だがその時、亥之吉がハッとして隠れる。

「大吉さーん」と、機嫌よく酔っ払った風のおみつがやって来たのだ。
おみつは妙心尼を見て「何さ。あんた誰なのさ」と言うと、妙心尼は「あなたこそ、どなたです」と言う。
するとおみつは「あたいかい?あたいは大吉さんのイイ人さ」と言った。

その声を聞いて、家の中から大吉の「おみつ?!」と言う声が聞こえた。
するとおみつは笑って、「ほらあっ、あたいのこと、呼んでるだろう?大吉さーん」と戸を叩き始めた。
「おみつ、てめえ!」

妙心尼は悲しみのあまり、持って来た重箱の包みをたたきつけると、走っていく。
亥之吉は、それを見ていた。
捨てられた重箱の包みを見ておみつは「あら、もったいない。あの人、案外短気なのね」と言って重箱を拾った。
その時、亥之吉が「動くな!」と、おみつの喉元に手裏剣を突きつけた。

外の妙な気配に大吉が「おみつ、どうしたんだ」と聞く。
「大吉、久しぶりだなあ」。
大吉が亥之吉の声に、「亥之吉、やっぱりおめえだったのか」と言う。

亥之吉は、おみつには自分の商売道具が光っている、戸を開けないとおみつが死ぬことになると言った。
大吉は「おみつには関係がないと言って、戸を開けるからおみつを離せ」と言った。
その通りに戸が開いたが、家の中に大吉の姿はない。
開いた戸の影にいる大吉は、「おみつを離せ」と言うが、亥之吉は「助けたかったら表に出ろ」と言う。

出ないのなら、おみつから殺す。
亥之吉が、手裏剣を構える。
大吉が右手を上げて、構える。

次の瞬間、大吉が表に出て、桶を積んだ陰に隠れる。
亥之吉がおみつを突き飛ばし、手裏剣を投げる。
だが手裏剣は突き飛ばされて桶にぶつかった、おみつに刺さった。
驚いた亥之吉が、2つ目を投げようとした時だった。

「誰だ、てめえは!」と主水の声がする。
主水の姿を見て、亥之吉は逃げた。
「おみつ、おみつ!」と主水が声をかけ、大吉が駆け寄る。

大吉の家で、おみつが寝かされていた。
主水と大吉と、半次が、おみつの傍らには、おきんと貢がいた。
おみつが目を開いた。
「おみっちゃん。わかるかい、あたいだよ」。

「おきんさん」。
おみつは、大吉を見た。
「大吉さん。ごめんね。あたい、ほんとはあんたが心配で来たたんだ。そしたら…、あの女の人がいたもんだから。つい、からかったりしてしまって。ごめんね。あたいが悪ふざけしたもんだから、バチが当たっちゃった。だけど…、だけどあたい、治るよね。糸井さんが、いるんだもんね」。

おみつが貢を見て、微笑んだ。
しかし、貢は暗い表情をして、黙っていた。
おみつが視線を落とす。
主水も、悲壮な顔をして見ていた。

半次も、大吉も、何も言わなかった。
「どうしたの。みんな、変な顔をして…。どこ行くの。遠くなってく。捕まえて、あたいを。捕まえて」。
おみつは手を伸ばしたが、その手はがくりと下がった。

貢が手を取り、脈を見て哀しそうに首を振り、視線を泳がせる。
半次がうつむく。
「どうするんだよ!おめえ、一体どうするつもりなんだよ!おみつをやったのは誰なんだよ!おみつはおめえの代わりに死んだんだぞ!前に言ってた頭なんだろう!」と半次が怒鳴った。

主水も「その頭ってのは、一体、誰なんでえ。おめえがその頭を売ることになったとしてもだ。もう、おめえ1人の胸の中に仕舞っておけることじゃねえだぞ。え、どうするんだよ!」と言う。
大吉は立ち上がり、戸を開けた。
外は朝になっていた。

「聞いてくれ!俺を狙っている元締めはな、浅草の呉服問屋、森田屋の惣兵衛だ!」
主水も、貢も大吉を見つめる。
刀を持ち、主水が立ち上がる。

大吉が1人、家の中で墓石を作りながら、お浜のことを語っている。
お浜は、先代の森田屋に引かされて後添えに入り込んだが、元々年寄りで満足できるような女じゃなかった。
若い時からそうだった。

今考えてみれば、故郷にいた頃の大吉も、体よくあしらわれていたのかもしれない。
あの坊主と手を切りたかったから、大吉を道具に使ったに違いない。
運良く森田屋の後添えに入り込んだものの、すぐに嫌気がさして男を作った。

そしてその男に、先代を殺してくれと吹き込んだ。
この男が極道者でならした、先代の跡取り息子・惣兵衛だった。
元々、惣兵衛が影で人を殺す商売の元締めをやっていたことは、お浜も最初は知らなかったのだろう。

だが惣兵衛はこれ幸いと、縁切り同然になっていた森田屋へ返り咲く為に、大吉に先代を殺させた。
後で大吉はそれを知って、嫌な気分になった。
だから大吉は、元締めのところを抜けたのだ。

しかし殺し屋は、元締めのところは抜けられないものだ。
だから大吉は、その裁きがいつかは来ると待っていた。
それでも、あんなやり口の男のところにはもう、いるわけにはいかなかった。

「だから俺は…」。
そこまで言って、大吉は部屋の奥に向かって「暑いだろう。水でも飲むかい」と声をかける。
外は雨が降っていた。

「なあに、来るさ。亥之吉の奴は必ず来る。奴のやり口は、わかってるんだ。こういう、雨の晩がやりやすいんだ。へっ、奴は必ず来るぜ」。
大吉の声が笑い混じりになる。
墓石を彫る手が止まる。

灯りを吹き消す。
雨の音が激しくなる。
「来たな。亥之吉。そこにいるのはわかってるんだ。入って来い、亥之吉!」と大吉が表に向かって怒鳴る。
「そうかい、待ってたのかい。いい度胸だ。黙って抜けた仕事師が掟の裁きを待ってたのか」と言って、亥之吉が現れた。

大吉を掟で殺すのももちろんだが、惣兵衛は金ができて、用心深くなった。
惣兵衛は掟のこともあるが、裏の仕事のことを大吉に話されるのも、怖いのだった。
亥之吉は表から手裏剣を投げると、手裏剣は大吉の横の障子を破って家の中に入ってくる。
もう1発、大吉のすぐ横に刺さる。

「一寸刻みに始末しろとご注文なんだ。どこがいい?喉笛か。胸板か。目ん玉か!」
家の中に入ってきた亥之吉は、手裏剣を投げた。
大吉は避けた。
「大吉。悪あがきはよしな。俺が狙った獲物をはずしたことがあるか。え?」

家の中を背にした亥之吉は向かい合った大吉に笑みを浮かべ、「とどめだぜ」と言って手裏剣を構えた。
手裏剣が投げられ、大吉の肩すれすれに刺さった。
鈍い音がする。

手裏剣を投げたままの格好で、亥之吉が静止する。
妙な具合に首をかしげる。
「あああ」とうめいた亥之吉の体の真ん中から、刀が突き出ていた。

亥之吉が貫かれ、背にした扉の後ろには主水がいた。
主水がため息をつく。
亥之吉が絶命する。
冷たいような、ホッとしたような目で主水が亥之吉を見下ろし、大吉を見る。

半次が雨の中、森田屋に忍び込む。
庭に立ち、懐から手裏剣を出すと、部屋に向かって投げた。
手裏剣は障子を破り、部屋の中へ投げ込まれた。

お浜といた惣兵衛の目が、投げ込まれた亥之吉の手裏剣に釘付けになる。
急いで戸を開けて庭を見る。
だがもう、半次はいない。
激しく雨が降っているだけだ。

「あんた…」と、お浜が不安そうな声を出す。
「野郎」と惣兵衛が言って、匕首を取り出す。
「しゃらくせえ!俺が大吉を始末してやる!」

そう言うと、惣兵衛は出て行く。
「あの野郎、生かしておいちゃ」。
「お前さん、待って!」と、お浜が止めようとする。

惣兵衛が大吉の家に行くと、作業部屋の真ん中にムシロがかかっているものがある。
匕首を手に部屋に入った惣兵衛に、ムシロがひっかかって取れた。
それは森田屋惣兵衛之墓と彫られた、墓石だった。

惣兵衛がギョッとする。
胡桃の鳴る音がした。
「元締め。間に合いましたぜ。あんたの墓の注文が」。
障子の外の表から、大吉が声をかける。

「何い」。
「そこにちゃんと彫ってある。あんたの命日は今夜だ」。
そう言いながら大吉は、惣兵衛に狙いを定めさせないよう、前後に動く。

部屋の中にいる惣兵衛の影が見える。
影は前後に動く大吉を、必死に追い、狙いを定めようとする。
大吉は止まると、胡桃を投げた。
墓石に胡桃が当たり、惣兵衛がそれに気を取られた。

大吉が入ってきて、惣兵衛の匕首を持った手を押さえる。
井戸に追い詰め、釣瓶を巻きつけ、心臓をつかむ。
惣兵衛が倒れる。

右手を上げたままの大吉の元に、お浜がやってくる。
「大吉さん…」。
お浜を見た大吉は、思わず背を向けて座敷に戻って座る。

後ろ手に、お浜が戸を閉める。
首を振り、「あたし、何にも知らなかったんだ。ほんとだよ」と言う。
「あたしはずっと、あれからあんたのことを忘れたことはなかった。ずっとずっと、今まで」と言うと大吉の肩をゆすった。
お浜は大吉の後ろから「あたしは今だって、あんたの…」と言って、大吉の肩に手を這わせる。

さっき、お浜が閉めた戸口が少し開いている。
笠からしずくを滴らせ、夜の闇の中に貢が見える。
お浜が大吉を、冷たい鋭い目で見つめる。

大吉の肩を這っていたお浜の手が止まり、かんざしに手が伸びる。
かんざしを抜き、お浜が大吉を刺そうとする。
戸口から見ていた貢が、ハッとする。

鋭い、空を切る音がした。
お浜のかんざしが床に刺さる。
かんざしの向こうに、お浜が顔をこちらに向けて横たわった。

お浜の首には、貢のバチが刺さっていた。
大吉がハッとする。
倒れているお浜を見る。

バチで破れた障子の穴から、貢の笠を目深にかぶった目が見える。
大吉が貢を見る。
貢はわずかにうなづいて、前を向くと歩き出す。



妙心尼が大吉とのことに、心を痛めて、ついに奉行所にまでやってくる。
同心たちは見るからに色っぽい尼僧の妙心尼を、見て見ない振りをしながら、ひそひそと集まり出す。
見て見ない振り。
しかし、関心は明らかに妙心尼に向いている。

主水は気まずそうに妙心尼を外に連れ出すと、「そんな格好でこういうところへ来られては困りますな」と渋い顔をする。
しかし、「こんな格好」と言われても、妙心尼には「こんな格好と申されても、これがわたくしには、ごく普通の姿でございます」としか言いようがない。
この時にはもう、声が泣いてる。

寺の揉め事なら寺社奉行だし、ここは人殺しとか物取り、男女の揉め事を扱うところ。
そう言う主水に妙心尼は「それでございます。男との女の揉め事でございます」と言う。
「大吉殿に、他に女性(にょしょう)が…、お義兄さまぁあ」と言うと、妙心尼は目を押さえて泣き出しちゃう。

主水と妙心尼の近くを、同心が歩いてくる。
尼僧が泣いているので、2人の同心が不審な顔つきで立ち止まる。
だから主水は2人に近づき、お辞儀。

すると2人は納得したように歩いて行き、主水は後ろで手を組んで、空を見上げる。
2人の姿が見えなくなったので、主水は妙心尼に駆け寄り、ここじゃ目立つから中村家へ!と妙心尼を連れ帰る。
もう、おかしい。

中村家では妙心尼の話を聞いたせんが、主水に呆れながらも満足そうに、「婿殿には女道楽がないのがとりえといえばとりえ」と言い、りつも「そりゃあもう」と言って2人は笑う。
ところが妙心尼は「いいえ。お兄さまとて、わかりません。あのようにまるで人畜無害のように、のほほんとしておられる方こそ、怪しいのです。だって大吉様だって…」と、とんでもないことを言って泣き出すんです。

途端にりつが「あなた…!本当ですか!まさか、あなた、わたくしに隠れて…!」と鋭い視線。
主水は「そんな甲斐性があるんならな、いつまでも同心風情でウロウロしておらんよ」と言う。
すると今度はせんが鋭い声で「婿殿!そんなことは、わたくしが許しません」と言う。

「その時はりつともども、私も自害して相果てます。その時はそなたも…」と、妙心尼に向かって言う。
「はい、母上様」。
中村家の3人を背に主水は「あの母あって、この子あり、か。けっ」とあきれ果て。

そして祠に貢がやってきた時。
先に来ていた主水は貢に「おめえんとこも行ったろ、あの比丘尼!」と言う。
すると、貢も「うん、来た。参ったなあ」と言う。
おきんが笑って、「おめえさんも痛くもない腹、探られたんだねえ?」と言う。

うーん、妙心さんが尼僧姿で泣きつきに来るって、異様ですもんねえ。
あのあやさんも、貢を疑惑の目で見たのか。
中村家のやり取りもおかしかったけど、こっちも見たかった。
亥之吉が言うように、妙心さん、尼僧にしては色っぽ過ぎるんです。

今回は大吉の過去話。
しかし、半次に「おめえ、在所はどこだ。江戸じゃねえだろ」と聞いて半次が暗い顔をして、「調布の先の、府中ってとこだよ。もっとも、親父もおふくろもとっくの昔にしんじまったけどな」と言うのが本当に違和感。
逆だと、見事に次回への伏線になっている。
だからやっぱり、こちらと放送順序が入れ替わったんでしょうね。

これだけの目に遭いながら、あんな頭に使われながら、亥之吉のように外道に身を落とさずに基本、善人になった大吉。
女をどこかで恨むこともなく。
大吉が殺しに入った時、気づいたお浜の笑顔が怖ろしい。
逆に大吉に、「わたくしにはお前様だけが全て」と言う、妙心尼がいじらしい。

その妙心尼はもちろん、誰も巻き添えにするまいと1人、覚悟を決めてこもる大吉。
一方、大吉を助けようと奔走する仕留人たち。
「自分で蒔いた種は自分で刈るんだな」「それはあんたの覚悟だろう」なんて、確実に距離を取っていた貢も真剣。

そして、今回でおみつが退場。
貢と半次を見ていたおみつは、大吉を心配していた。
きっと、酔っ払って勢いをつけてやってきたんですよね。
そうしたら妙心尼がいたんで、ちょっとショックだった。

だから、からかってしまった。
結果、妙心尼ではなくて、おみつが犠牲に。
3話であやさんが、妙心さんは昔から、妙に運が良かった…と言うけど、本当にそうかもしれない。

亥之吉にやられたおみつが「糸井さんがいるものね」と言う。
医学の心得がある貢が、いかに頼りにされているか。
しかし、その後の、絶望的な貢の表情が、おみつの状態を物語る。

主水の、死に行く者をどうしようもできず、じっと見つめる目も哀しい。
おみつの最期は、とてもリアルでかわいそう。
妙心尼には、後でおみつのことは知らせたのかな。
知ったとしたら、妙心尼は手厚く葬ってくれそうですが…。

この辺りの作品は、いつ、誰が死んじゃうかわからなくて、見終わるまで緊張感があります。
亥之吉は、石橋蓮司さん。
悪役だけど、カッコイイ。

亥之吉を一瞬で仕留める主水もまた、鮮やかでカッコイイ。
大吉はずっと、1人でなぜ話しているんだろう?と思う。
亥之吉が刺されて、仕留人の殺しのテーマが流れる。
実は主水が部屋の奥にいて、主水に話していたことがわかる。

仕留めシーンまで主水の姿を出さない演出だから、あっという間の逆転劇になる。
見事!
亥之吉を刺した主水の背後に布団らしきものが見えているから、主水は押入れに隠れていたんでしょうか。

しかし、お浜は大吉をとことん、いたぶって殺したかったらしい。
なぜ、そこまでしたいんだろう?
過去の、自分が一番惨めな時を知っているから?
自分は大吉にひどいことをして、大吉はお浜には何もしていないのに、ほとんど、大吉を憎んでいる風。

大吉の言うとおり、おそらく大吉は利用されたんだと思う。
お浜もそうやって、和尚から逃れるしかなかったのかもしれない。
それとも、その後にやっていることを思うと、大吉の思うとおり、最初から悪女だったのか。

亥之吉の手裏剣が、半次によって惣兵衛の家に投げ込まれる。
仕留めのテーマが止まる。
亥之吉がやられたのを、惣兵衛が知り、自ら大吉の家に向かう。
惣兵衛が自分の墓ができているのを見ると、再び仕留めのテーマが流れる。

大吉は惣兵衛を仕留めても、まだ純粋な頃、好きだったお浜には何もしない。
それどころか、背中を無防備に向けて座る。
だけど、お浜は大吉が思う以上に怖ろしい女だった。
もしかしたら、惣兵衛より悪としては上だったのかも。

かんざしに手をやる手つきが、慣れているように見える。
激しかった雨が、すっかり上がっている。
その中、笠から水を滴らせた貢が通りかかる。
戸口が開いていて貢が見えると、今度は口笛の「旅愁」が流れる。

かんざしを手にしたお浜→貢がハッとする→鋭い音→かんざしが床に刺さり、その向こうにお浜が倒れる→お浜の首に貢のバチ→大吉がハッとする→バチで破れた障子の穴から貢が見える→激しかった雨があがっている→雨上がりの夜の空気の中、貢、歩き出す。
ここの流れが、実に見事。

バチを投げた為、破れた障子の穴から、貢が見える。
貢からも、破れた障子の穴を通して、こちらを見た大吉が見える。
何も言わず、かすかにうなづいた貢が歩き出す。
今回、貢は戸惑いません。

まるで、雨上がりのヒンヤリした空気まで伝わってくるよう。
殺しのテーマではなく口笛の音楽なのも、効果倍増。
音楽と共に、横顔を見せて去っていく貢。
このアッサリ感が、かえって切なく、大吉の過去話に余韻を残す。


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