第17話、「仕上げて候」。


絹問屋「名張屋」の番頭である清二郎は、店の主人となりたかったが、肝心の主人の籐兵衛に良く思われていなかった。
この望みは無理なこと…と思われたが、相談に行った吉岡宗達は、「間違いなく清二郎は名張屋の主人になれる」と約束した。
全ては5百両と、毎月10両の仕上げ料で宗達が請け負った。

高い頼み料だが、名張屋の身代はまず、5万両。
それを思いのままにするのだから…。
宗達は表向きは将棋指南なのだが、実は裏で仕上げ屋を営んでいる。
仕上屋とは、依頼人の上司や主人を殺し、依頼人をその代わりに後釜に据える裏稼業だった。

宗達はまず、名張屋の使っている紙、そして墨まで買い求め、名張屋の主人の日記を捏造する。
すぐに名張屋の主人と女中のおときの、無理心中の遺体が見つかった。
だがおときの妹で、名張屋で同じく女中をしているおすえは、これは何かの間違えだと言い張り、奉行所に日参する。
そして、後日、おさよは清二郎との外出の際、仕上屋の雇った男たちに襲われる。

おさよが襲われている間、清二郎が宗達の雇った男たちに向かって、「うまくやってくれよ、色男が台無しだ」と言う。
男は「5万両の身代が転がり込むんだから安いものだ」と言い、、清二郎を殴って傷を作る。
殴られた清二郎が駆けつけると、おさよは男たちに陵辱された後だった。

清二郎がこのことは自分が黙っていれば済むことと言ったが、おさよはその夜、川に身投げしてしまう。
そこを通りかかった貢が助け、家に連れて行くが、おさよはどうして死なせてくれなかったのだと泣くばかりだった。
困ったように顔を見合わせる貢と妻のあやだが、おさよが駆け出して行こうとするのをあやが止めた。

「例えどんなことがあっても、自分で自分の命を絶つなんて、そんなこと、私がさせません!おさよさん、命は大切なもの。どんなことがあっても生きなくちゃ」。
あやの言葉に、おさよは激しく泣く。
すると、名張屋から清二郎と、おすえが駆けつける。

貢はおさよを助けた礼を言われるが、清二郎はおさよにもしものことがあれば、死ぬつもりだったと言う。
その言葉を聞いたおさよは、清二郎に泣きつく。
しかし、おすえだけはそれを疑惑の目で見ていた。
その後すぐ、名張屋に婿に入った礼と報酬の金を持って、清二郎が宗達を訪ねていた。

何も知らないおさよは清二郎と共に、うれしそうに貢とあやの家を訪ね、来月には清二郎と祝言を挙げる報告をしていた。
「おめでとう」を言う貢とあやに、おさよは「あの時、助けていただかなかったら…、こうなりましたのも、みんな、お2人の」と感謝の言葉を述べた。
あやは自分たちは貧乏だから何もできないが、子供が生まれたなら産着を自分が作ると言った。

産着の約束をして、おさよと清二郎は貢の家を後にする。
入れ違いに主水が飛んで来る。
「できたんだ!」と主水は、りつが懐妊したと言う。

おめでとうを言う貢とあやに、主水は倅の名前を考えてほしいと言った。
まだ男の子とは限らないと貢は言うが、せんはりつに「必ず男の子を産むように。そうすればあのような頼りない養子で、頭を痛めなくて済む」と言っているのだ。
せんの男の子の名前の要求に貢は困惑するが、あやは黙って微笑む。
そして、姉のりつの懐妊を知った妙心尼までが、子供がほしいと言い出した。

おさよたちが一緒になって、ふた月になっていた。
ある日、仕事から貢が帰って来ると、あやはもう、おさよたちの産着を作り始めていた。
あやは、今日、買い物に行った時、おさよに会ったのだと言った。
しかし、あやには、幸せなはずのおさよが、どうもやつれたような気がしてならない。

「やつれた?」と貢がいぶかしげに尋ねた時、おすえが「ごめんください!名張屋の者でございますが!」と飛び込んできた。
「若奥様が…、若奥様が!」
「どうしたんだね」。
「2階から落ちて、お亡くなりに…」。

驚く貢とあや。
名張屋では、顔に白い布を乗せたおさよを前に、清二郎が座っていた。
おすえは貢を、おさよが落ちた階段へ連れて行く。

2階はおさよと清二郎の部屋になっていたが、おさよはちょうど、清二郎がでかけた後で事故にあった。
おすえは貢に「若奥様は本当は殺されたんです。旦那様の清二郎に殺されたんです」と話す。
貢は驚くが、おすえは話し出した。

婿養子に収まった途端、清二郎は我が物顔に振る舞い出した。
10日もすると、御茶屋遊びを始め、夜更けに芸者を連れて帰ってきて、おさよに対し、愛想が悪い、返事が悪いと言っては、殴る蹴るのひどい仕打ちをした。
ある夜などは芸者を連れて帰ってきた清二郎が、待っていたおさよを見て、「何だ、その仏頂面は!傷物のお前と一緒になってやっただけでもありがたく思え!何だその顔は!」と言っておさよを張り飛ばした。

「そして飲みなおしだ、酒を持って来い」と命じた。
だが、おさよは一生懸命尽くしていた。
そんな日が続いた末の今日、おさよが2階から落ちたのだ。

ちょうどその時、おすえだけが家にいた。
駆け寄ったおすえに、おさよは「階段の上に、油が」と言った。
「さっき、旦那様が!」
おすえは清二郎が階段を拭いていたのを、見ていた。

「やっぱり」と、おさよは言った。
おさよはおすえの手を握り、父親とおすえの姉のおときの心中の真実を、おすえは本当は知っているのだろうと尋ねた。
今だから言うが、死んだおときのお腹の子は、名張屋の主人の子ではない。
本当は清二郎の子供だったと、おすえは言う。

おさよも一緒に暮らしているうちに、だんだん清二郎と言う男がわかってきた。
清二郎は怖ろしい人だ。
名張屋の身代を、自分のものにしたかったのだ。
おさよはおすえに、「この恨みを晴らして」と言い残して死んでしまった。

この言葉に、話をを聞いていた貢の顔色が、わずかに変わる。
おすえは奉行所に何度も行ったが、取り上げられなかった。
「お願いです。どう過去の恨みを晴らす為に、お手をお貸しくださいまし」とおすえは頭を下げ、店に奉公して以来、旦那様とおさよに貰った小遣いを貯めた小銭を出した。

おすえにはこれが精一杯だが、何とかして恨みを晴らしたい。
聞けば、この江戸に力のない者ではどうにもならない恨みつらみを晴らしてくれる、仕留人という稼業があると聞く。
その仕留人の人たちをさがすことはできないものか、とおすえは言う。
貢の顔が、哀れそうに歪む。

祠で、貢は主水と大吉と、おきんに話をした。
妙心尼と盛り上がっている大吉は、「清二郎は悪い奴だ」とは言ったが、3人がやることはなく、貢が仕留めればいいだけだと言ってアッサリ出て行く。
だが、主水は「清二郎1人の仕事にしてはぬかりがなさ過ぎる」と言う。

仕上屋という稼業がある。
それは町奉行や勘定方というお偉方を、何年がかりでも闇から闇に始末し、次の席にいるものをその地位に仕上げ、何ひとつ証拠を残さないという稼業だ。
今度もその、仕上屋ではないか。
だとしたら、一通りの相手ではない。

しかし金を貰ってしまった以上、やるしかない。
小銭を集めたものといっても、5両はある。
それに今、主水は金がない。
なのにりつのお腹は大きくなってくる、と、何かと物入りなのだ。

そこで主水は女房殺しの罪で、清二郎をしょっ引いた。
町の者は「婿養子の女房殺しだ」と噂した。
しかし、宗達はその話を聞くとて、「奉行の山城守に将棋の手ほどきをすると言え」と、配下の勘助に告げた。

すると、すぐに清二郎は解き放しになった。
主水は奉行に呼ばれ、名張屋と尾張屋を間違えて叱られたと、同心たちの間で噂になった。
だが、「清二郎の解き放しは上からのお達しだった」と、主水は貢に言う。

仕上屋の仕業に、違いない。
奉行所を動かすどころか、その上を動かしている。
主水は動けないし、アッサリ出て行った大吉を呼ぶのもシャクだということで、ここは貢が動くことになる。
貢は、名張屋から出かける清二郎の後をつける。

芸者遊びで派手にやっていた清二郎が廊下に出ると、貢が向かいに座っている。
それを見た清二郎は「お前、何で俺をつけまわすんだ」と不快な表情をした。
家に戻る貢は、背後に何かの気配を感じて立ち止まる。
背後にはただ、人気のない道と、暗闇が広がっているだけだったが、貢はバチを手にする。

道の向こうから、男が近づいてくる。
男が貢に向かって、何かを投げた。
貢はそれをバチで払うと、胡桃が二つに割れて落ちた。

ハッとした貢が「石屋…。つまらん冗談はよせ!」と言う。
すると頬かむりを取った大吉が、ニヤリと笑う。
「俺はおまえの殺しを頼まれたのよ。頼んだ野郎は六兵衛だなに住む、久七という野郎だ」。

久七というこの男が、まことしやかに貢の悪事を並べ立てるので、大吉は乗ってみたのだ。
これは仕上屋が仕組んだことだと、貢は見抜いた。
だとすると、こうして大吉と貢が繋がっていることが、仕上屋にわかってしまったのではないか。
「誰かが見張っている」と貢が言った途端、何者かが闇の中、走って行った。

大吉は大声で、「自分の頼みに来た男の顔は忘れない」と叫んだ。
勘助はこのことをすぐに宗達に報告したが、宗達は、貢が清二郎を追い回しているのは、仕上屋に探りを入れるためだと見抜いた。
大吉に頼んだのは配下の1人・久蔵だったが、顔が割れてしまったので、早めに始末することにする。
「そして、仕留人2人も無論、殺す」と宗達は言う。

だが問題は、この仕留人たちが何人いるかだ。
貢と大吉の2人を始末するのは簡単だが、1人でも残ればまずいことになる。
人数を調べて、1人残らず始末するのだ。
「所詮はこの詰め将棋と同じだ。まあ、仕留人たちの始末は、じっくりとな」と言って、宗達は将棋を打つ。

翌日、大吉は久七を長屋に訪ねたが、この男は頼み人とは住まいも名前も同じだが、大吉に頼みに来た男とはまるで別人だった。
大吉は騙されたのだ。
だが貢は「思ったとおりだ」と言う。

2人が大吉の家に戻ると、仕事場で誰かが首をくくられて吊るされている。
この男が、頼み人の久七、実は宗達の配下の久蔵だ。
「こいつだ!こいつが俺におめえを始末しろと」。

大吉に顔がわかってしまったので、始末したのだろう。
仕上屋は、身内だろうと情け容赦なく、ひどいことをする。
大吉の家におきんがやってきて、吊るされた死体を見て悲鳴をあげそうになるのを貢が抑える。
おきんがここに来たとすると、自分たち3人のことはわかってしまったのか。

貢は「しかし八丁堀だけはまだ、割れてない」と言う。
もし、主水が自分たちと繋がっているとわかれば、奉行所から主水は放り出されているはずだ。
だから主水がまだ無事であるこということは、主水の正体はまだわかっていない。
貢は「なんとしても、主水と自分たちが繋がっているということは、隠しとおさねばならない」と言う。

そうして、貢が家に戻ってきた時だった。
あやが迎え、今日は体の具合が良かったので、水天宮まで行って安産のお守りを貰ってきたと言った。
安産のお守りと言う言葉にきょとんとした顔をする貢にあやは、「中村の姉さんのよ」と笑った。
「あなたも一緒に行ってくださるでしょ?」

貢が口ごもった返事をしていると、外から「ちょっとお伺いしたいのですが」という声がする。
戸口に宗達がいて、長屋にある家のことを尋ねた。
貢が教えようとして近寄ると宗達は小声で、「糸井貢さん。あちらで少し、お話しましょうか」と言う。
驚く貢だが、あやに向かって「すぐに帰って来るからな」と声をかけると外に出かける。

宗達は茶店で茶を飲みながら、貢に「私が誰か、おそらくあなたはもう」と言った。
「仕上屋」と貢は言う。
「その通りです」と宗達が答える。

宗達は「あなたと私はお互い、道が違うかもしれないが、闇の稼業に変わりはありません」と言い、「あなた方の仕事はいくらです?」と聞いた。
「まず5両。そんなところでしょう。私が30両出しましょう。一人頭30両。いかがです?これで名張屋の件から手をひいていただけませんか?」
貢は黙っていた。

「糸井さん。今わかっている仕留人は4人。他には?全部の方々に、それぞれ30両出しますよ」。
貢が黙っていると宗達は笑い、「人数は言えんというわけですか」と言う。
だが次の瞬間、宗達の笑いは消えた。
「あなた方を始末することは、造作もないことなんですがねえ」。

貢は宗達を見て言う。
「仕上屋さん。お互い闇の稼業なら変わりはないと思うが、我々はいったん金を受け取ったら、例えこの命がどうなろうとも、最後まで仕留めるのが努めです」。
「それがあなたのお返事ですな。いやあ、なかなか立派ですよ、あなたは。では、この話はご破算と言うことに」。
宗達は立ち上がったが、貢を振り返って「糸井さん。私の後をつけることはない」と言って、自分の居場所と名を名乗った。

その頃、あやが家の外に出た。
するとあやに突然、屋台が突進してきた。
あやは逃げたが、行き止まりに追い詰められた。
屋台は容赦なく、あやに向かって来た。

悲鳴が響いた。
長屋から人が出てくる。
屋台を引いていた2人の男が、逃げていく。
人々が駆け寄ってくる。

あやが口から血を流し、倒れる。
帰ってきた貢に長屋の住人の、「糸井さん!あやさんが大変だよ!」という声が飛ぶ。
「あや!」と助け起こした貢だが、あやはぐったりしている。

男たちが、屋台を引いて逃げる。
貢があやを抱えて、家の中に運んでくる。
長屋の住人が、「番所だ!」と言っている。

布団に横たわらせた、あやの息が荒い。
貢は黙っている。
大吉とおきんが来て、座る。
その時、そっと奥の窓が開いて、2人の男が顔を覗かせ、中の様子を見る。

戸口には、長屋の住人が集まっている。
あやが口を開いた。
「私は」と言うと、貢を見つめる。

貢があやに顔を近づける。
「とても、幸せでした。あなたのような人と、一緒になれて」。
それだけ言うと、あやは目を閉じた。
「あや」。

貢の目が見開かれた。
「あや!」
名前を呼ぶと、あやの体をゆする。
あやを抱きしめ、突っ伏する。

顔を上げた貢は、あやのしていたかんざしと櫛を見る。
貢の震える手が、かんざしを取る。
かんざしを見つめると、きつく握り締める。

長屋の住人が集まっている後ろから、主水がやってくる。
渋い顔をしながら住人をどけ、主水が入ってくる。
ふと、奥からのぞいている男に主水が気づく。

一瞬、主水は下を向いて考えると、「どけどけ!」と邪険な声を出す。
十手を振りかざしながら、貢とあや、そして座っている大吉とおきんに向かって「今、ここでな、屋台が人を轢いたという届出があったんだ」と言いながら、大吉を押しのける。
「いろいろ事情を聞きてえ。番所まで来てもらおうか」と言うと、大吉とおきんにも「おめえらも来い!」と言う。

番所で4人は話した。
「やっぱり仕上屋か」。
「ちくしょう、あやさんを」。
貢は黙っていた。

「やるしかねえな」と、主水が言った。
だが、まともから行ってもダメだろう。
しかし、幸い、まだ主水は仕留人だということはバレてはいない。

「うん、ひとつ先生と、お手合わせと行くかな」。
「八丁堀よう、将棋知ってんのかい?」
「おお、知ってるぜ。主水流だがな」。
「主水流?」

その夜、町を主水と、大吉と貢が歩いてくる。
主水と大吉が角を曲がり、貢は1人、まっすぐに歩いていく。
宗達の将棋どころに、主水が歩いていく。
大吉が表で見送る。

主水の元に、宗達がやってくる。
勘助が控える中、主水は宗達と将棋盤を前にする。
主水が「夜分遅くに、ご無理を申してすみません」と言う。

宗達は愛想良く、「いやいや、八丁堀の旦那とあれば、お断りもできませんでな」と言った。
勘助が鋭い目で主水を見ている。
並べられた将棋を前に宗達が「どうぞ。お手前から」と言った。

その頃、清二郎は馴染みの芸者と遊んでいた。
女は「ちょっと待って」と言うと、清二郎の耳に何か囁いた。
「早くしろよ」と、清二郎が口を尖らせて言う。
女がうなづき、外に出て行く。

清二郎が、キセルを吸おうとした。
その時、衝立が清二郎に向かって倒れてくる。
灯りが消える。

「誰だ」。
清二郎が起き上がる。
部屋の隅に、貢が立っている。
バチを前にして、上のバチを取り去ると、刃を見せる。

刃が光る。
清二郎は怯えて、部屋の隅まで逃げる。
バチを構えた貢に向かって、着物を投げつける。
だが貢は清二郎を捕まえると、下から上に一気に首を切り裂く。

血を流した清二郎が、布団の上に倒れる。
貢は無言でバチを仕舞い、出て行く。
左右を見て人がいないのを確かめ、廊下に出る。
先ほどの女が清二郎の元に戻ってきて、悲鳴をあげる。

宗達の屋敷では、将棋盤を前に、主水は動かない。
後ろに主水の刀が置いてある。
勘助が黙って、席を立つ。
別部屋にいる5人の用心棒に向かって礼をすると、用心棒たちは刀を手に立ち上がる。

勘助はそのまま、厠に立つ。
その背後で、胡桃の鳴る音がする。
勘助の前の障子に、大吉の影が映り、ゆっくりと左から右へ移動していく。
何事かと思った勘助が目の前の障子を開けて、外を見る。

誰もいないのを確かめて、勘助は首をかしげた。
戸を閉めると、やはり胡桃の音がする。
大吉が胡桃を鳴らしながら、厠の外を移動していく。
勘助が振り向く。

大吉が右手に胡桃を持ったまま、厠の戸を開ける。
勘助の顔が、こわばる。
大吉が胡桃を砕くと、勘助は匕首を抜く。
匕首を突き出した勘助の手を大吉が押さえると、グキリという骨の折れる音がした。

大吉は勘助を押さえ、心臓をつかむ。
心臓から手を抜くと、勘助は倒れそうになる。
大吉は勘助を立たせて、出て行く。
勘助は大吉が出て行くと、崩れ落ちる。

宗達を前にした主水は、「どうやらこの手しかねえようだな」とつぶやく。
そして、「いやあ、実を言うと、将棋はまったくのど素人でしてな。何百何千の手があるかは知りませんが、私にはこの一手しかねえんで」と王手を出した。
宗達は笑うと「あなたが仕留人だということは、もう…。これで顔ぶれが揃ったわけですな」と言った。
「おっしゃるとおり、顔ぶれは揃ったが、あんたはもう、死んでるぜ」。

主水が笑う。
5人の用心棒が、刀を手に入って来る。
主水は十手を持つと、ぽんと刀をはじいて手に持ち、十手をギュッと腰に収める。

刀を抜くと、構えていた1人の用心棒を斬る。
襲い掛かってきた1人の刀を受け止めると、胴を斬る。
宗達がそれを見ている。

斬りかかって来た1人の肩口を斬り、もう1人の首筋を斬る。
最後の1人も押さえると、胸元を刺す。
5人全てが斬られたのを見て、宗達が後ずさりしていく。

廊下に出た宗達の前に、貢がいる。
貢が宗達をにらんでいる。
思わず、宗達は貢とは逆方向に逃げる。

貢は、あやのかんざしを手にしていた。
逃げる宗達を貢は追う。
廊下で宗達を捕えると、後ろから首筋を刺す。

宗達がもんどりうって、倒れる。
仰向けに倒れた宗達の上に貢が乗り、かんざしを喉元に刺していく。
宗達の手がピクピクと震えて、絶命する。

主水が刀を収めながら、廊下に出てくる。
貢が主水を見る。
手には血のついたかんざしを持っている。
そして、放心の表情を浮かべている。

翌日、あやの墓参りに来ながら、主水が大吉に「貢はどこにいるか、わからねえか」と聞く。
「まるっきり、会わねえな」。
「ほんとにま、どこ行っちゃったんだろうねえ」とおきんが言う。

おきんは最後に一緒にいた主水に、「だいたい、お前がボヤボヤしてるからいけないんだよ」と言う。
主水が「まあなあ」と、言う。
花を持ってきた3人だが、あやの墓には既に線香も花も供えてあった。

おきんが辺りを見回す。
大吉も探す。
主水も振り返る。
3人が辺りを探すが、貢の姿は見えない。



物語の最初の方で、自殺を図ったおさよに対して言う、あやの言葉。
「例えどんなことがあっても、自分で自分の命を絶つなんて、そんなこと」。
「命は大切なもの。どんなことがあっても生きなくちゃ」。
そのあやが命を落とした後でこの言葉を思い出すと、何と哀しく響くことか。

主水に、子供ができた。
それを知った妙心尼も心穏やかではなく、大吉は妙心尼の相手の方に気を取られて仕事を抜ける。
これが元で大吉が相手に利用され、貢との関係を知られるという皮肉な繋がり。

せんが露骨に貢を頼りにしていて、主水を無視している。
それがわかる貢もあやも、複雑な表情。
さらに主水は、奉行所で名張屋と尾張屋を間違えて、それで怒られて謝って済むのは昼行灯ならではと笑われている。

強大な仕上屋の宗達を前に、貢が自分の信念を語る。
「我々はいったん金を受け取ったら、例えこの命がどうなろうとも、最後まで仕留めるのが努めです」。
貢じゃなかったら、こんな受け答えしないだろうという、「まじめな」殺し屋の答え。

そして、あやが仕上屋の手にかかって殺される。
この時のあやさんの、普段のたおやかさとは違う絶叫が怖い。
屋台で轢くというのも、妙にリアルで残酷。

自分の為に三味線弾きをしてくれている夫へ、あやが言葉を振り絞る。
「とても、幸せでした。あなたのような人と、一緒になれて」。
これを最期に貢に伝える為、渾身の力を振り絞るあや。

確かにそうだろうと思う。
貢はいい旦那さんだから。
だからこそ、逃亡生活にもあやは文句ひとつ言わなかった。
それどころか、世の中が貢の言う通りになると誇らしげだった。

貢は、そんなあやの為、三味線弾きもできた。
さらには強盗、そして仕留人という稼業もできた。
本来、貢はこういった稼業に向いているとは思えないが、悪に対しての人助け、正義という意義を見出してやってきた。
この思いを打ち砕かれるようなことも、何度かあった。

それでも、仕留め仕事に積極的に動くようになった。
仲間とも絆が生まれて来ていた。
しかし、貢には病弱なあやを守るという、裏稼業を続ける強力な意味があったのは大きかった。
というよりも、全てはあやという存在があって、やれたことだった。

どこか甘かった貢に、最悪の形で裏稼業の現実が突きつけられた。
あやを失い、本来なら抜け殻のようになるはずの貢。
しかし、哀しみに浸っている余裕はなかった。
以後、貢は一言も言葉を発しない。

まず、妻を失う原因を作った、妻殺しの清二郎を手にかける。
今まであったためらい、被害者への同情といった悲壮な表情は一切ない。
無言のうちに、凄みが伝わってくる。

そして次に、勘助を仕留める大吉。
相手の屋敷に乗り込んでいく主水。
用心棒が5人もいるので、宗達は余裕だった。
顔の割れていない主水は、いつも最後の切り札になる。

宗達の予想した以上に、主水が強い。
主水の斬り込みが、一気に状況を逆転する。
「新・仕置人」の時も、そうだった。
これは主水斬り込みの原型?

武装を解かれた形になった宗達が、逃げる。
そこに待っている貢。
怒りの、恨みのこもった目。

宗達を倒し、仰向けになったところに貢は深く、ゆっくりとかんざしを刺していく。
ピクピクと宗達の手が震える。
なかなか、痛そうな、えぐい殺し。
今までの貢にはなかった、苦しんで殺すやり方。

しかし、終わった後の貢は達成感どころか、手にあやのかんざしを持ったまま、ぼんやりと立っている。
主水が出て来て、貢を見る。
貢は何も見ていない。
壮絶な斬り合いをした主水を見ても、何の感情も持っていない。

血のついたかんざしを持って立ち尽くす貢は、殺しを請け負う仕留人、復讐どころか、何もなかった。
もう、何もないというのが、貢の表情でわかる。
あやさんが殺されてからの、貢の無言。

なのに伝わってくる慟哭、喪失、憎悪、恨み、放心。
石坂さんの演技。
すばらしい演技。

1時間でこれだけの話を描いたためか、主水のりつ懐妊の話はその後、出てこない。
家に呼ぶ貢夫婦の悲劇が、中村家、せんとりつにどう伝わったのかも描写できなかったのかもしれない。
せんもりつもさぞかし、この不遇のあやという娘、妹を嘆き、妙心尼も心を痛めたはず。
前回のラストの、楽しそうな紅葉狩りが目に浮かぶ。

あやは妙心尼が手厚く葬ったのではないか。
3人が墓参りに来たら、もう貢が来ていた。
だが貢は、姿を見せない。
しかしその前の貢の目と表情が焼きついて、姿は見えなくとも、貢の姿が浮かんでくるよう。

口笛のBGMが響く。
もしかして、貢はこのまま消えてしまうのではないだろうか。
明るい日差しの中、墓参りをする主水、大吉、おきん。
空しさでいっぱいのラスト。


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2015.07.07 / Top↑
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