山田五十鈴さんが、9日、お亡くなりになりました。
日本映画の無声時代から、ご活躍。
まさに、日本映画・近代演劇史を生きた方。
なんと世界の映画監督が敬愛する黒沢監督、小津監督、成瀬監督、ゴダールも尊敬する溝口監督のすべての映画に出演。

黒澤監督の「蜘蛛巣城」、「用心棒」。
戦国時代、難攻不落の蜘蛛巣城。
夫の鷲津武時(三船敏郎)に「主君を殺せ、蜘蛛巣城の城主になれ」とそそのかす妻の浅茅。
ついに夫は、主君を討った。

すると次は夫と一緒に死線を越えてきた友を殺せと、そそのかす。
そうして手に入れた城主の座。
だが、浅茅はその手を何度も何度も洗う。
その手には血がついているように見えますか、いつまで洗ってもとれませんか…。

凄まじい。
小津監督の「東京暮色」はなぜか、私はJALの飛行機の中で見たんですが、引き込まれました。
演技力もですが、存在感がすごい。
2000年に、女優で初めて文化勲章を受賞された「全身女優」の大女優さん。

名だたる監督の映画からテレビに活躍の場を移し、さらに舞台でまで。
全てでここまで活躍した方って、そうそうはいないんじゃないでしょうか。
杉村春子さんや田中絹代さんがいらっしゃらなくなる中で、現役で活躍されていた。
最高クラスの大物女優さん。

先日、中村玉緒さんがテレビに出演されていて、若い頃の勝さんとのシーンが放送されていましたが、この玉緒さんのお嫁さんをいびる姑役もすごかった。
勝さんと同じ大映のスター・市川雷蔵さんの「ぼんち」ですね。
60代からは「必殺」シリーズで活躍。

「必殺」では「仕事人」のおりくさんが代表でしょうが、「からくり人」の仇吉がすばらしい。
「私たちは涙としか手を組みません。涙のこぼれるような依頼しか引き受けない」。
女性ながら、からくり人一家を背負って弱者の涙をすくい上げて、曇り一味と全面抗争に突入する。
あの最後の対決は、忘れられません。

その前の「仕置屋稼業」の「一筆啓上欺瞞が見えた」の、たかの艶っぽかったこと。
たかを騙す弟子の綿引さんも、緊張されたでしょうね。
殺すなら自分の目の前で。
言われて三味線の音をバックに仕留める市松も、その三味に聞き惚れているように見えました。

そして、途切れる三味線の音、したたる血。
たかの目で、何が起きたのか、一瞬にしてわかる。
市松が息を呑み、去っていく。

山田さんに「必殺」の出演を勧めたのが、草笛光子さんだったとか。
「絶対に綺麗に撮ってくれる」と聞かされたけど、歴代の出演者の人が言うように「4cmぐらい動いて」「左目だけ出して」のような、メチャクチャ難しい注文が来る。
「これでちゃんと撮れてなかったら」と思っていたところ、出来上がりはすばらしかった。
それで、山田五十鈴さんは「必殺」のスタッフに全面的な信頼を置いて、その後も出演したとどこかで聞きました。

まだほとんど新人だった村上弘明さんが来た時、既に山田さんがスタンバイされていたという話を聞きました。
その時は、藤田まことさんが村上さんを叱った。
撮影が終わってから村上さんは藤田さんに声をかけられて、また怒られるのかなと思っていたら藤田さんが「ごめんな。でも山田先生がいらっしゃる前で遅れてくるのはまずい」とおっしゃったとか。

山田さんが言ったら、村上さんの立場はなくなる。
黒沢映画の山田さん見たら、それはわかる。
だから山田さんが言う前に言って下さった藤田さんの思いやりと、山田さんの大物さが印象に残りました。
村上さんも、「叱られて良かった」と言っていましたが、この時に俳優としての下地ができたんじゃないでしょうか。

実際、撮影では緊張感があったのではないでしょうか。
だからか、山田さんが出ると、画面に緊張感があると思いました。
緊張感だけではなく、今の自分の実力以上のものを出す気持ちでやらなければ、山田五十鈴の前にはかすんでしまう。
若い俳優さんや女優さんは、そんな気持ちを持たれたのではないでしょうか。

娘役だったジュディ・オングさんは、三味線のお稽古もつけていただいたそうです。
そして、あるシーンでジュディさんが、「おっかさん」と言ったら山田さんがジュディさんの手を取った。
台本になかったその動きで、「おっかさん」という言葉がしみじみ出てきた。
この時、裏稼業に生きる母親と娘の心情を、人生を、本当に生きた気がしたそうです。

山田さんの弾く三味線は、本当にすごい情念が漂っていました。
裏稼業の怖さ、厳しさ、哀しさ、凄み。
あれが「仕事人」の世界を、表していたのではないでしょうか。
「かっこいいとは、こういうことさ」というのが、ピッタリです。

まあ、暖簾を手でよけながらくぐってくる姿の綺麗なこと!
仕草が、姿がとても美しい。
この時、既に60代だったとは!

現代劇でもその存在感は、群を抜いてました。
「悪女について」もですが、萩原健一さんことショーケンの「誘拐報道」と一緒に見に行った岩下志麻さんと桃井かおりさんの「疑惑」。
ここで球磨子がいた、バーのママ。
裁判で、悪女・球磨子相手に一歩も引かないどころか一喝。

年齢を聞かれると、「ホホホ」と笑ってかわす。
只者じゃないぞ、ものすごいツワモノだと思わせる。
確か、園遊会で昭和天皇にも「女優に年は関係ございません」と嫣然と答えたんですよね。
この貫禄、迫力に、さすがの球磨子がこれ以上は何も言えないというのも納得。

妖艶さが衰えない。
山田五十鈴さんのご冥福を、お祈りします。
作品の数々は今はDVDで見ることができるので、機会があればいろんな作品を見たいです。
リアルタイムで見られて良かった、すばらしい女優さんでした。


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2012.07.10 / Top↑
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